説明

ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物

【課題】回路基材やレドーム等の低誘電率、低誘電正接が求められる部品用の材料として好適な、誘電特性に優れるとともに、成形加工性に優れ、成形不良が生じ難いポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、ガラス転移温度が100℃以上の(B)環状オレフィン系樹脂とを組み合わせる。(B)環状オレフィン樹脂の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、20質量部以上80質量部以下であることが好ましい。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、さらに、(C)相溶化剤や(D)ガラス繊維を含んでもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂と環状オレフィン樹脂とから構成されるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性熱可塑性樹脂であるポリブチレンテレフタレート樹脂は、成形性、機械的強度、電気的性質、耐熱変形性、耐薬品性に優れるため、種々の成形品の材料として、自動車、電気・電子機器等の広範な用途に使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記の用途の中でも、自動車部品や電気・電子機器等の用途においては、近年小型軽量化、高性能化が求められており、電気機器の高周波化に対応した電気絶縁材料の低誘電率化が強く求められる場合がある。例えば、プリント基板やアンテナ・フィルタ基材等の回路を形成する部品、それらを収納するケースや筺体、ボックス、支持具といった回路基材の周辺に配置される部品においては、回路上の電気信号速度が、基材の実効誘電率の平方根の逆数及び誘電正接に比例するため、基材の誘電率と誘電正接を低くする必要がある。また、自動車部品であるレドーム材(衝突回避等を目的としたミリ波レーダー等のレーダーを保護するための部品)は、電波を透過させるために、誘電率と誘電正接が低い材料から構成されることが求められている。
【0004】
また、誘電特性に優れた材料の開発にあたっては、成形加工性等も併せて考慮しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−155367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、回路基材やレドーム等の低誘電率が求められる部品用の材料として好適な、誘電特性に優れるとともに、成形加工性に優れ、成形不良が生じ難いポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、ガラス転移温度が100℃以上の(B)環状オレフィン系樹脂とを組み合わせることで、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1) (A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、ガラス転移温度が100℃以上である(B)環状オレフィン樹脂とから構成されるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0009】
(2) 前記(B)環状オレフィン樹脂の含有量が、前記(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、20質量部以上80質量部以下である(1)記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0010】
(3) さらに、(C)相溶化剤を含む(1)又は(2)記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0011】
(4) 前記(C)相溶化剤が、同一分子内にエポキシ基含有成分とオレフィン成分を有する共重合体である(1)から(3)のいずれか記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0012】
(5) さらに、(D)ガラス繊維を含む(1)から(4)のいずれか記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0013】
(6) (1)から(5)のいずれか記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形して得られる電子回路基材及びその周辺部材。
【0014】
(7) (1)から(5)のいずれか記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形してなるミリ波用レドーム。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、誘電特性に優れるとともに、成形加工性に優れ、成形不良が生じ難い。このため、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、回路基材やレドーム等の低誘電率や低誘電正接が求められる部品用の材料として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0017】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物>
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、(B)環状オレフィン樹脂とを含む。また、用途等によっては、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(C)相溶化剤、(D)ガラス繊維を含むことが好ましい。
【0018】
[(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂]
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂とは、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成誘導体(低級アルコールエステル等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素数4のアルキレングリコール(1,4−ブタンジオール)又はそのエステル形成誘導体を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート樹脂である。
【0019】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、ホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75〜95モル%程度)含有する共重合体であってもよい。
【0020】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は30meq/kg以下が望ましい。これ以上末端カルボキシル基量が増えると湿熱環境下で加水分解による強度低下が大きくなる。
【0021】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂において、テレフタル酸及びそのエステル形成誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、芳香族ジカルボン酸成分(イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等のC6〜12アリールジカルボン酸等)、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4〜16アルキルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のC5〜10シクロアルキルジカルボン酸等)、又はそれらのエステル形成誘導体等が例示できる。これらジカルボン酸は、単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0022】
好ましいジカルボン酸成分(コモノマー成分)には、芳香族ジカルボン酸成分(特にイソフタル酸等のC6〜10アリールジカルボン酸)、脂肪族ジカルボン酸(特にアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6〜12アルキルジカルボン酸)が含まれる。
【0023】
1,4−ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、脂肪族ジオール成分[例えば、アルキレングリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−オクタンジオール等のC2〜10アルキレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシC2〜4アルキレングリコール等)、シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール等]、芳香族ジオール成分[ビスフェノールA、4,4−ジヒドロキシビフェニル等の芳香族アルコール、ビスフェノールAのC2〜4アルキレンオキサイド付加体(例えば、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等)等]、又はそれらのエステル形成誘導体等が例示できる。これらグリコール成分も単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0024】
好ましいグリコール成分(コモノマー成分)には、脂肪族ジオール成分(特にC2〜6アルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシC2〜3アルキレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール)が含まれる。
【0025】
上記化合物をモノマー成分とする重縮合により生成するポリブチレンテレフタレート樹脂は、いずれも本発明の(A)成分として使用できる。ホモポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリブチレンテレフタレート樹脂は、それぞれ単独で又は2種以上混合して使用でき、ホモポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリブチレンテレフタレート樹脂との併用も有用である。
【0026】
[(B)環状オレフィン樹脂]
(B)環状オレフィン樹脂を(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と組み合わせて使用することで、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、誘電特性に優れるとともに、成形加工性に優れ、成形不良が生じにくくなる。
【0027】
(B)環状オレフィン樹脂とは、主鎖が炭素−炭素結合からなり、主鎖の少なくとも一部に環状炭化水素構造を有する高分子化合物である。この環状炭化水素構造は、ノルボルネンやテトラシクロドデセンに代表されるような、環状炭化水素構造中に少なくとも一つのオレフィン性二重結合を有する化合物(環状オレフィン)を単量体として用いることで導入される。
【0028】
(B)環状オレフィン樹脂は、環状オレフィンの付加(共)重合体又はその水素添加物(1)、環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物(2)、環状オレフィンの開環(共)重合体又はその水素添加物(3)に分類される。
【0029】
環状オレフィンの具体例としては、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン;シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン等の1環の環状オレフィン;ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクタデシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−プロペニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン等の2環の環状オレフィン;トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン;トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3,7−ジエン若しくはトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3,8−ジエン又はこれらの部分水素添加物(又はシクロペンタジエンとシクロヘキセンの付加物)であるトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3−エン;5−シクロペンチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シクロヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シクロヘキセニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンといった3環の環状オレフィン;テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(単にテトラシクロドデセンともいう)、8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ビニルテトラシクロ[4,4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンといった4環の環状オレフィン;8−シクロペンチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキシル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキセニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−フェニル−シクロペンチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン;テトラシクロ[7.4.13,6.01,9.0,2,7]テトラデカ−4,9,11,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)、テトラシクロ[8.4.14,7.01,10.03,8]ペンタデカ−5,10,12,14−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−へキサヒドロアントラセンともいう);ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]−4−ヘキサデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]−4−ペンタデセン、ペンタシクロ[7.4.0.02,7.13,6.110,13]−4−ペンタデセン;ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]−5−エイコセン、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.03,8.14,7.012,17.113,l6]−14−エイコセン;シクロペンタジエンの4量体等の多環の環状オレフィンが挙げられる。これらの環状オレフィンは、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
環状オレフィンと共重合可能なα−オレフィンの具体例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−へキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−へキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等の炭素数2〜20、好ましくは炭素数2〜8のエチレン又はα−オレフィン等が挙げられる。これらのα−オレフィンは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
環状オレフィン又は環状オレフィンとα−オレフィンとの重合方法及び得られた重合体の水素添加方法に、格別な制限はなく、公知の方法に従って行うことができる。
【0032】
(B)環状オレフィン樹脂は、好ましくは、エチレンとノルボルネンの付加共重合体、又は、エチレンとテトラシクロドデセンの付加共重合体である。
【0033】
(B)環状オレフィン樹脂の構造には、特に制限はなく、鎖状でも、分岐状でも、架橋状でもよいが、好ましくは直鎖状である。
【0034】
本発明で使用する(B)環状オレフィン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、100℃以上である。(B)環状オレフィン樹脂のガラス転移温度(Tg)が100℃未満の場合には、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形加工時にバリが発生し後加工を必要としたり、金型のベントが樹脂で詰まり製品が焦げてしまう現象、所謂「焼け」が発生したりと、製品の品質を損なってしまう。なお、ガラス転移温度は、JIS K7121記載の方法によって昇温速度10℃/分の条件で測定した値として測定できる。
【0035】
(B)環状オレフィン樹脂のTgは、ポリマー構造中の環状オレフィンモノマーユニットの含有比率に依存する傾向があることが知られており、例えばノルボルネンとエチレンとのランダムコポリマーの場合にはMacromolecules, Vol. 31, 3421 (1998)に記載があるようにノルボルネン含有率が42モル%以上であればTgが100℃以上となる傾向にある。
【0036】
また、Journal of Applied Polymer Science, Vol. 91, 3421 (2004)には、テトラシクロドデセンとエチレンとのランダムコポリマーについて、テトラシクロドデセン30モル%コポリマーのTgが103℃と記載されている。
【0037】
ただし、上記ガラス転移温度は、コモノマーの種類やシーケンス構造で特定されるものではなく、あくまでDSCによるTg測定結果をもって規定されるべきである。
【0038】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の(B)環状オレフィン樹脂の含有量は、特に限定されないが、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、20質量部以上80質量部以下が好ましい。20質量部未満では誘電特性の効果が十分得られない。80質量部を超えると耐薬品性や成形加工性が低下し好ましくない。より好ましくは25質量部以上70質量部以下であり、さらに好ましくは30質量部以上70質量部以下である。
【0039】
[(C)相溶化剤]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(C)相溶化剤を含んでもよい。(C)相溶化剤は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)環状オレフィン樹脂とを混ざりやすくする。(C)相溶化剤を含むことで、本発明の樹脂組成物を成形してなる成形品の表面が剥離する等の問題が大幅に抑えられるため好ましい。
【0040】
なお、本発明は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)環状オレフィン樹脂とを、(C)相溶化剤を使用しなくても、得られる成形品に剥離が生じない程度に混合させることができることも特徴の一つである。
【0041】
(C)相溶化剤は、オレフィン系共重合体であり、室温で実質的に非晶の状態を示す高分子化合物である。また、(C)相溶化剤は、熱可塑性で未架橋のものであり、高温(150℃以上)において安定かつ急速に熱架橋しないものである。また、(C)相溶化剤は、反応可能な官能基としてエポキシ基と柔軟性を付与する酢酸ビニル成分を含有するものである。
【0042】
上記(C)相溶化剤の具体例としては、同一分子内にエポキシ含有(メタ)アクリレート成分と酢酸ビニル成分を有する3元共重合体及び4元共重合体が挙げられ、好ましくはエチレン/グリシジル(メタ)アクリレート/酢酸ビニル系3元共重合体、プロピレン/グリシジル(メタ)アクリレート/酢酸ビニル系3元共重合体、エチレン/プロピレン/グリシジル(メタ)アクリレート/酢酸ビニル系4元共重合体等である。
【0043】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の(C)相溶化剤の含有量は、特に限定されないが、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、10質量部以下が好ましい。10質量部を超えると組成物の粘度が増大し、成形時の流動性低下を招くおそれがある。より好ましくは1質量部以上10質量部以下である。
【0044】
[(D)ガラス繊維]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(D)ガラス繊維を含んでもよい。本発明の樹脂組成物が(D)ガラス繊維を含むことは機械的物性向上の目的のためには好ましい。
【0045】
(D)ガラス繊維とは、公知のガラス繊維がいずれも好ましく用いられる。ガラス繊維径や、円筒、繭形、長円断面の形状、あるいはチョップドストランドやロービング等の製造に用いる際の長さやガラスカットの方法は、特に限定されない。本発明では、ガラスの種類にも限定はないが、品質上、Eガラスや、組成中にジルコニウム元素を有する耐腐食ガラスが好ましく用いられる。
【0046】
また、(D)ガラス繊維と樹脂マトリックスとの界面特性を向上させる目的で、アミノシラン化合物やエポキシ化合物等の有機処理剤で表面処理されたガラス繊維が好ましく用いられ、加熱減量値で示される有機処理剤量が1重量%以上であるガラス繊維が特に好ましく用いられる。かかるガラス繊維に用いられるアミノシラン化合物、エポキシ化合物としては公知のものをいずれも好ましく用いることができ、本発明ではガラス繊維の表面処理に用いられるアミノシラン化合物、エポキシ化合物の種類は特に限定されない。
【0047】
(D)ガラス繊維は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して30質量部以上100質量部以下が用いられる。30質量部未満では機械的物性向上効果が不十分であり、100質量部を超えて配合されると、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の誘電率や誘電正接が高くなってしまい好ましくない。好ましい配合量は30質量部以上90質量部以下、特に好ましい配合量は40質量部以上80質量部以下である。
【0048】
ガラス繊維添加による機械的物性向上効果よりも、誘電特性を重視する場合は、ガラス繊維に起因する誘電特性の悪化のおそれから、ガラス繊維を用いないことが好ましい。
【0049】
[その他の成分]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、本発明の効果を害さない範囲で、上記(A)成分〜(D)成分以外のその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、その他の樹脂、各種配合剤を例示することができる。各種配合剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、離型剤、染料や顔料等の着色剤、近赤外線吸収剤、蛍光増白剤、難燃剤、充填剤等の配合剤が挙げられる。
【0050】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物の調製法の具体的態様は特に限定するものではなく、一般に樹脂組成物又はその成形品の調製法として公知の設備と方法により、樹脂組成物を調製することができる。即ち、必要な成分を混合し、1軸又は2軸の押出機又はその他の溶融混練装置を使用して混練し、成形用ペレットとして調製することができる。また、押出機又はその他の溶融混練装置は複数使用してもよい。また、全ての成分をホッパから同時に投入してもよいし、一部の成分はサイドフィード口から投入してもよい。
【0051】
また、本発明の樹脂組成物は、通常のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の溶融混練条件で混練が可能であり、樹脂組成物の混練温度(シリンダー温度)は240℃以上300℃以下が好ましい。混練温度が240℃未満ではポリブチレンテレフタレート樹脂の溶融が不十分で環状オレフィン樹脂との相溶が不十分となり、また、300℃を超えるとポリブチレンテレフタレート樹脂の熱分解が起こりやすくなり好ましくない。より好ましくは250℃以上280℃以下である。
【0052】
<成形品>
本発明の樹脂組成物を、従来公知の成形方法で成形することで、所望の成形品を製造することができる。従来公知の成形方法としては、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形、回転成形、ガスインジェクション成形等の方法を例示することができる。
【0053】
本発明の樹脂組成物を成形してなる成形品は、誘電特性に優れる。また、本発明の樹脂組成物は成形性に優れるため、成形加工時にバリが発生し難いため、バリの発生による後工程により成形品の生産性が低下することを抑制することができる。
【0054】
上記成形品は以上の性質を備えるため、上記成形品の好ましい用途の一例としては、回路基材やその周辺部材が挙げられる。回路基材はプリント基板、アンテナ・フィルタ基材等があり、周辺部材としては、回路基板を収納するボックスや筺体、あるいはプリント基板、回路基板を支持する支持体、回路基材を固定するための固定具等が挙げられる。回路基材以外の好ましい用途の一例としては、レドームが挙げられる。特に成形加工性に優れ、低誘電特性でレーダー波透過性に優れるという理由でミリ波用レドームとして好適に使用可能である。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0056】
<材料>
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂;ウィンテックポリマー社製 「300FP」
(B−1)環状オレフィン樹脂:Topas Advanced Polymers社製 「TOPAS 6013−S04」、Tgは138℃
(B−2)環状オレフィン樹脂:Topas Advanced Polymers社製 「TOPAS 8007−F04」、Tgは78℃
(C−1)相溶化剤:住友化学社製 「BONDFAST 7M(エチレン・メチルアクリレート・グリシジルメタクリレート共重合体)」
(C−2)相溶化剤:ダイセル化学工業社製 「エポフレンド AT501(エポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)」
(D)ガラス繊維:日本電気硝子社製 「ECS 03 T−187」
(E)アクリロニトリル・スチレン樹脂:UMG ABS社製 「AP−20」
(F)エチレン・プロビレンブロックコポリマー:プライムポリマー社製 「J707EG」
(G)ポリエチレン:プライムポリマー社製 「6203B」
(H)無水マレイン酸変性ポリオレフィン:三井化学社製 「MP0610」
【0057】
<実施例1〜4、比較例1〜7>
表1、2に示す各成分を秤量後ドライブレンドし、(株)日本製鋼所製30mmφの2軸押出機TEX−30を用いて溶融混練しペレットを作製した(混練条件は、シリンダー温度が260℃、吐出量が15kg/h、スクリュー回転数が130rpmである)。次いで、このペレットから、以下の評価に用いる各試験片を作製し、各種物性を測定した。評価結果を表1、2に併せて示す。
【0058】
<誘電特性の評価>
上記ペレットを用い、樹脂温度が260℃、金型温度が65℃、射出時間が10秒、冷却時間が5秒の条件で、試験片成形用金型(縦80mm、横1.8mm、厚み1.8mm)で射出成形し、試験片を製造した。得られた試験片について、(株)関東電子応用開発製の空洞共振器摂動法複素誘電率測定装置で5GHzの比誘電率及び誘電正接を測定した。
【0059】
<剥離、バリ特性の評価>
上記ペレットを用い、樹脂温度が260℃、金型温度が65℃、射出時間が10秒、冷却時間が5秒、射出速度が5m/minの条件で、試験片成形用金型(縦80mm、横80mm、厚み1.5mm)で射出成形し、試験片を作製した。得られた試験片の表面に剥離やバリが発生していないか目視で観察を行った。なお、評価基準は以下の通りである。
(剥離)
○:剥離無し
△:一部に剥離有り
×:成形品全体が層状に剥離
(バリ)
○:バリの発生無し
△:金型合わせ面の一部にバリが発生
×:金型合わせ面の全体にバリが発生
【0060】
【表1】

【表2】

*剥離により誘電特性の測定不可
【0061】
表1及び2に記載の、実施例及び比較例の結果から、ポリブチレンテレフタレート樹脂と環状オレフィン樹脂との組み合わせであれば、誘電特性が優れるとともに、成形品の表面が剥離したり、成形時にバリが発生したりし難いことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と、ガラス転移温度が100℃以上である(B)環状オレフィン樹脂とから構成されるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)環状オレフィン樹脂の含有量が、前記(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、20質量部以上80質量部以下である請求項1記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、(C)相溶化剤を含む請求項1又は2記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)相溶化剤が、同一分子内にエポキシ基含有成分とオレフィン成分を有する共重合体である請求項1から3のいずれか記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、(D)ガラス繊維を含む請求項1から4のいずれか記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形して得られる電子回路基材及びその周辺部材。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形してなるミリ波用レドーム。

【公開番号】特開2013−43942(P2013−43942A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182980(P2011−182980)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(501183161)ウィンテックポリマー株式会社 (54)
【Fターム(参考)】