説明

ポリプロピレン樹脂組成物及びその製造方法

【課題】環境に安全であり、優れた難燃性を有し、かつポリプロピレンの機械的性質を保持するポリプロピレン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
(A)ポリプロピレン、(B)ポリフェニレンスルフィド、(C)エポキシ基含有エチレン共重合体、及び(D)金属水酸化物を含む、(A)ポリプロピレンが連続相であることを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン樹脂組成物に関する。特に、本発明は、ハロゲン化合物やアンチモン化合物の環境汚染物質を含有しない、難燃性及び成形性に優れるポリプロピレン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にポリプロピレンは強靭性、成形性、耐久性などの機械的性質に優れ、耐熱性、耐薬品性などの点でも優れた特性を有しており、しかも安価であるため、電気・電子部品、自動車用部品、精密機械部品等の一般産業用分野に広く使用されている。しかしながら、ポリプロピレンは比較的燃焼しやすいという欠点を有しており、難燃性が要求されるテレビ、などの電子、電機部品及び自動車のエンジンルーム内部品などの用途には適用が制限されるという問題があった。従って、ポリプロピレンに対して優れた難燃性を付与する技術が要求されていた。
ポリプロピレンに対して難燃性を付与する方法としては、ハロゲン化合物やアンチモン化合物などを添加する方法が知られている。しかしながら、ハロゲン化合物やアンチモン化合物は、燃焼廃棄時、埋め立て廃棄時に環境汚染を引き起こすという問題がある。
このような背景において、近年、ポリプロピレンに、水酸化マグネシウムや水酸化カルシウムのような金属水酸化物を用いて難燃性を付与する方法が開発されている。例えば、特許文献1には、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン、不飽和カルボン酸で変性されたスチレン系エラストマー、及び水酸化マグネシウムを含む難燃性樹脂組成物が記載されている。また、特許文献2には、ポリプロピレン系樹脂、エチレン系共重合体、変性スチレン系熱可塑性エラストマー、水酸化マグネシウム及び粘土鉱物を含む難燃性樹脂組成物が記載されている。
しかしながら、このような方法によりポリプロピレンに難燃性を付与するためには、大量の難燃剤を使用しなければならなかったため、ポリプロピレンの機械的性質が損なわれるという問題があった。
【0003】
一方、ポリフェニレンスルフィドは、耐熱性、難燃性などを有することが知られている。また、ポリフェニレンスルフィドの物性を改良することを目的として、ポリプロピレンなどのポリオレフィンを配合することも知られている。例えば、特許文献3には、ポリフェニレンスルフィド及びポリプロピレンを含むポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が記載されている。また、特許文献4には、ポリフェニレンスルフィド、ポリプロピレン、エチレン及びメタクリル酸グリシジル又はアクリル酸グリシジルの共重合した共重合ポリオレフィンを含むポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が記載されている。
【0004】
しかしながら、環境に安全な難燃剤を用いて、ポリプロピレンの機械的性質を保持しながらに、ポリプロピレン樹脂組成物に難燃性を付与する技術は知られていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2007−186622号公報
【特許文献2】特開2007−277530号公報
【特許文献3】特開2001−302917号公報
【特許文献4】特開2005−248170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、環境に安全であり、優れた難燃性を有し、かつポリプロピレンの機械的性質を保持するポリプロピレン樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリプロピレン樹脂組成物の組成と難燃性の関係について研究を重ねた。その結果、特定の組成のポリプロピレン樹脂組成物は、優れた難燃性を有し、かつポリプロピレンの機械的性質を保持することを知見し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0008】
〔1〕(A)ポリプロピレン、(B)ポリフェニレンスルフィド、(C)エポキシ基含有エチレン共重合体、及び(D)金属水酸化物を含み、(A)ポリプロピレンが連続相であることを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物(以下、「本発明のポリプロピレン樹脂組成物」という)。
〔2〕(D)金属水酸化物が水酸化マグネシウムであることを特徴とする〔1〕に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
〔3〕(D)金属水酸化物の平均一次粒子径が5μm未満であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
〔4〕(D)金属水酸化物の表面が表面処理剤で被覆処理されていることを特徴とする〔1〕〜〔3〕の何れかに記載のポリプロピレン樹脂組成物。
〔5〕表面処理剤がステアリン酸、ラウリン酸、ドデシルリン酸、ドデカン二酸、リン酸2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ナトリウムのいずれかを含むことを特徴とする〔4〕に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
〔6〕(A)ポリプロピレンと(B)ポリフェニレンスルフィドの質量比が60:40〜90:10であり、(A)ポリプロピレンと(B)ポリフェニレンスルフィドの質量和100質量部に対し、(C)エポキシ基含有エチレン共重合体が2〜30質量部、(D)金属水酸化物が5〜100質量部であることを特徴とする〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のポリプロピレン樹脂組成物。
〔7〕(A)ポリプロピレン、(B)ポリフェニレンスルフィド、(C)エポキシ基含有エチレン共重合体、及び(D)金属水酸化物を溶融混練することを含む、(A)ポリプロピレンが連続相であるポリプロピレン樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、環境に安全であり、優れた難燃性を有し、かつポリプロピレンの機械的性質を保持する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、(A)ポリプロピレンを含む。ポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体であっても、プロピレンとその他のα−オレフィンとの共重合体であってもよい。プロピレンとその他のα−オレフィンとの共重合体において、その他のα−オレフィンの含有量は、10モル%以下である。プロピレンとその他のα−オレフィンとの共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
【0011】
その他のα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−ヘキサドデセン、4−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、ジエチル−1−ブテン、トリメチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、エチル−1−ペンテン、プロピル−1−ペンテン、ジメチル−1−ペンテン、メチルエチル−1−ペンテン、ジエチル−1−ヘキセン、トリメチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ヘキセン、3,5,5−トリメチル−1−ヘキセン、メチルエチル−1−ヘプテン、トリメチル−1−ヘプテン、ジメチルオクテン、エチル−1−オクテン、メチル−1−ノネン、ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルナンなどが挙げられる。
ポリプロピレンの数平均分子量は、好ましくは5000〜150000、さらに好ましくは10000〜100000である。ポリプロピレンの重量平均分子量は、好ましくは50000〜800000、さらに好ましくは100000〜600000である。
ポリプロピレンは、常法により合成することもできるし、市販されているものを用いることもできる。
【0012】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、(B)ポリフェニレンスルフィドを含む。ポリフェニレンスルフィドは、化学式(1)で示される単位を有する重合体である。ポリフェニレンスルフィドは、良好な剛性を得る観点からは、化学式(1)で示される単位を、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上含む。
ポリフェニレンスルフィドとしては、ASTM D648に基づく、熱変形温度(1.82MPa荷重)が90〜130℃の範囲であることが好ましい。また、比重が1.2〜1.4の範囲であることが好ましい。
【0013】
【化1】

【0014】
また、ポリフェニレンスルフィドは、下記の化学式で示される単位を30モル%未満含んでいてもよい。
【0015】
【化2】

【0016】
ポリフェニレンスルフィドは、常法により合成することもできるし、市販されているものを用いることもできる。
【0017】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、(C)エポキシ基含有エチレン共重合体を含む。エポキシ基含有エチレン共重合体とは、(a)エチレン単位を40〜94質量%、(b)下記一般式(2)で表されるエチレン系不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位又は下記一般式(3)で表されるエチレン系不飽和炭化水素基グリシジルエーテル単位を1〜20質量%含む共重合体である。エポキシ基含有エチレン共重合体は、好ましくは(a)エチレン単位を50〜90質量%、(b)前記エチレン系不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位又は前記エチレン系不飽和炭化水素基グリシジルエーテル単位を2〜15質量%含む。
エポキシ基含有エチレン共重合体は、(c)エチレン系不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位以外のエチレン系不飽和カルボン酸エステル単位を含有していても良く、その含有量は5〜40質量%、好ましくは8〜35質量%である。
【0018】
【化3】

【0019】
一般式(2)において、Rは、一つのエチレン結合を有する炭素数2〜13の炭化水素基である。Rの炭素数は、好ましくは2〜10である。
一般式(2)で表されるエチレン系不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位としては、例えばアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸ジグリシジル等のα,β−不飽和カルボン酸グリシジルが挙げられる。
【0020】
【化4】

【0021】
一般式(3)において、Rは、一つのエチレン結合を有する炭素数2〜13の炭化水素基である。また、Xは、−CH2 −O−または下記化学式(4)で表される基である。Rの炭素数は、好ましくは2〜10である。
一般式(3)で表されるエチレン系不飽和炭化水素基グリシジルエーテル単位としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル等のα−不飽和炭化水素基グリシジルエーテルが例示される。
【0022】
【化5】

【0023】
(c)エチレン系不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位以外のエチレン系不飽和カルボン酸エステル単位としては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステル等が挙げられる。これらの中では、特に酢酸ビニル、アクリル酸メチル、ア
クリル酸エチルが好ましい。
【0024】
エポキシ基含有エチレン共重合体としては、例えば、エチレン単位及びメタクリル酸グリシジル単位からなる共重合体、エチレン単位、メタクリル酸グリシジル単位及びアクリル酸メチル単位からなる共重合体、エチレン単位、メタクリル酸グリシジル単位及びアクリル酸エチル単位からなる共重合体、エチレン単位、メタクリル酸グリシジル単位及び酢酸ビニル単位からなる共重合体等が挙げられる。
また、エポキシ基含有エチレン共重合体のMFR(ISO1133に準拠、190℃、2.16kg荷重)は、好ましくは2〜15、さらに好ましくは3〜9である。
【0025】
エポキシ基含有エチレン共重合体は、前記(a)エチレンと、(b)エチレン系不飽和カルボン酸グリシジルエステル、又はエチレン系不飽和基グリシジルエーテル、若しくは、これらと(c)エチレン系不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位以外のエチレン系不飽和カルボン酸エステルをラジカル発生剤の存在下、500〜4000気圧、100〜300℃で適当な溶媒や連鎖移動剤の存在下、又は非存在下共重合させる方法により製造することができる。また、ポリエチレンと、(b)エチレン系不飽和カルボン酸グリシジルエステル、又はエチレン系不飽和基グリシジルエーテル、若しくは(c)エチレン系不飽和カルボン酸グリシジルエステル単位以外のエチレン系不飽和カルボン酸エステルをラジカル発生剤の存在下、押出機の中で溶融グラフト共重合させる方法によっても製造することができる。また、エポキシ基含有エチレン共重合体は、市販品を用いることもできる。
本発明のポリプロピレン樹脂組成物において、エポキシ基含有エチレン共重合体は、ポリプロピレンの連続相に分散しているポリフェニレンスルフィドのドメインを微細化し、後述する金属水酸化物のポリプロピレン樹脂組成物への分散性を向上させる。
【0026】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、(D)金属水酸化物を含む。金属水酸化物としては、例えば水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、ハイドロタルサイト類、カルシウム・アルミネート水和物、又は複合水酸化マグネシウム、若しくはこれらの2種以上を含む金属水酸化物混合物が挙げられる。ハイドロタルサイト類とは、一般式(5)で表される層状複水酸化物をいう。また、複合水酸化マグネシウムとは、一般式(6)で表される水酸化マグネシウムとマグネシウム以外の2価金属元素の水酸化物との固溶体をいう。
【0027】
【化6】

【0028】
一般式(5)において、M2+は2価金属イオン、M3+は3価金属イオンを指す。An-はn価の陰イオンを指す。xは0より大きく0.33以下の値である。mは0以上の値である。
2+としては、Mg2+、Fe2+、Zn2+、Ca2+、Li2+、Ni2+、Cu2+等が挙げられ、中でも、Mg2+が好ましい。
3+としては、Al3+、Fe3+、Mn3+等が挙げられ、中でも、Al3+が好ましい。
n-としては、CO32-が好ましい。
【0029】
【化7】

【0030】
一般式(6)において、MはMn、Fe、Co、Ni、Cu又はZnであり、xは0よ
り大きく0.1以下の値である。中でも、MはMn、Feが好ましい。
【0031】
金属水酸化物の平均一次粒子径は、好ましくは5μm未満、さらに好ましくは2μm未満である。また、金属水酸化物は、難燃性及び金属水酸化物の分解温度の観点から、水酸化マグネシウムが好ましい。
【0032】
金属水酸化物は、その表面が表面処理剤により被覆処理されているもの、若しくはされていないもののいずれも用いることができる。中でも、表面が表面処理剤により被覆処理されているものを用いることが好ましい。
【0033】
表面被覆処理剤の例としては、リン酸エステル(例えば、オルトリン酸と高級アルコールのエステル類等)、ステアリン酸、ラウリン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸、及びそのアルカリ金属塩、アニオン系界面活性剤(例えば、高級アルコールの硫酸エステル等)、シラン系カップリング剤(例えば、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等)、チタネート系カップリング剤(例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート等)、アルミニウム系カップリング剤(アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等)、多価アルコールと脂肪酸のエステル類(グリセリンモノステアレート等)等が挙げられる。中でも、ステアリン酸、ラウリン酸、ドデシルリン酸、ドデカン二酸、リン酸2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ナトリウムが好ましく用いられる。
【0034】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、前記の(A)ポリプロピレン、(B)ポリフェニレンスルフィド、(C)エポキシ基含有エチレン共重合体、及び(D)金属水酸化物を含み、(A)ポリプロピレンが連続相である。(A)ポリプロピレン及び(B)ポリフェニレンスルフィドの質量比は、好ましくは52:48〜90:10、さらに好ましくは60:40〜85:15である。
また、(C)エポキシ基含有エチレン共重合体は、(A)ポリプロピレン及び(B)ポリフェニレンスルフィドの質量和100質量部に対し、好ましくは2〜30質量部、さらに好ましくは10〜20質量部である。
また、(D)金属酸化物は、(A)ポリプロピレン及び(B)ポリフェニレンスルフィドの質量和100質量部に対し、好ましくは5〜100質量部、さらに好ましくは20〜100質量部、さらに好ましくは20〜60質量部、さらに好ましくは30〜50質量部である。
【0035】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、更に用途、目的に応じて他の配合剤、例えばタルク、マイカ、ワラスナイトのような無機充填剤、カップリング剤あるいはガラス繊維、カーボン繊維等のような補強剤、制電剤、安定剤、顔料、離型剤、エラストマー等の耐衝撃改良剤等を含有していてもよい。本発明のポリプロピレン樹脂組成物は通常の熱可塑性樹脂成形品に用いられている加工方法、例えば射出成形や押出成形等により、容易に成形品に加工される。
【0036】
本発明のポリプロピレン樹脂組成物は、上記成分を一軸押し出し機、あるいは二軸押し出し機などを用いて溶融混練して得ることができる。なかでも強混練が可能な二軸押し出し機が好ましく使用される。溶融混練においては、(A)、(B)、(C)及び(D)の各成分を押し出し機に一括投入して溶融混練する方法、あるいは(A)、(B)、(C)の各成分をまず溶融混練したのち、(D)を添加して溶融混練する方法など、各種の溶融混練方法を選択できる。
【実施例】
【0037】
以下実施例により、本発明を説明するが、これは単なる例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
以下、下記原料を使用して、ポリプロピレン樹脂を製造した。
(A)ポリプロピレン
A−1:日本ポリケム(株)製 NOVATEC-PURE GRADE Mw: 410000, Mn: 59000
(B)ポリフェニレンスルフィド
B−1:東レ(株)製 トレリナ A800 (熱変形温度(ASTM D648に基づく。1.82kg荷重)105℃、比重1.34)
(C)エポキシ基含有エチレン共重合体
C−1:住友化学(株)製 ボンドファースト7L (MFR(ISO1133に準拠、190℃、2.16kg荷重) = 7g/10min)
組成:エチレン/メタクリル酸グリシジル/アクリル酸メチル=70/3/27(質量比)
(D)金属水酸化物
D−1:協和化学(株)製 水酸化マグネシウム キスマ5A (平均一次粒子径0.8μm、真比重2.36, 比表面積5m2/g)
D−2:キスマ5A 12gと水100ccを使用してスラリーを作製、該スラリーを撹拌しながら、水酸化マグネシウムに対して9wt%のステアリン酸を滴下して50℃で8時間撹拌を行い、その後、濾過して水で洗浄し、80℃で一晩真空乾燥してステアリン酸被覆処理水酸化マグネシウムD−2を得た(平均一次粒子径は、D-1とほぼ同一)。
D−3:キスマ5A 12gと水100ccを使用してスラリーを作製、該スラリーを撹拌しながら、水酸化マグネシウムに対して9wt%のドデカン二酸を滴下して50℃で8時間撹拌を行い、その後、濾過して水で洗浄し、80℃で一晩真空乾燥してドデカン二酸被覆処理水酸化マグネシウムD−3を得た(平均一次粒子径は、D-1とほぼ同一)。
D−4:協和化学(株)製 層状複水酸化物 DHT−6 (Mg/Al, 層間物質:CO3-
【0038】
<ポリプロピレン樹脂組成物の構造の観察>
[比較例1]
A−1、B−1、及びD−1を60:40:5の質量比で配合し、(株)井本製作所製コニカルタイプ二軸スクリュー押し出し機、IMC-117C型を使用して、温度280℃、スクリュー回転数100rpmで8分間溶融混練を行い、ポリプロピレン樹脂組成物を得た。得られた組成物の透過型電子顕微鏡写真を図1に示す。なお、透過型電子顕微鏡観察にあたっては、試験片を酸化ルテニウムで染色後、ミクロトームで超薄切片を作製した。
図1に示されるように、(A)ポリプロピレンの連続相中に、径が5〜8μm程度の(B)ポリフェニレンスルフィドの大きなドメインが分散し、さらに該ドメインに(D)金属水酸化物が分散していた。
【0039】
[実施例1]
次に、A−1、B−1、C−1、及びD−1を60:40:10:5の質量比で配合し、上記と同様にして溶融混練を行って、本発明のポリプロピレン樹脂組成物を得た。得られた組成物の透過型電子顕微鏡写真を図2に示す。
図2に示されるように、(A)ポリプロピレンの連続相中に、径が2〜3μm程度の(B)ポリフェニレンスルフィドのドメインが分散していた。さらに(C)エポキシ基含有エチレン共重合体は、(B)とかなり相溶しており、(D)金属水酸化物は、(A)の連続相及び(B)のドメインの両方に分散していた。
これらの観察結果から、エポキシ基含有エチレン共重合体がポリフェニレンスルフィドと反応し、ポリフェニレンスルフィドのドメインを微細化し、これにより、金属水酸化物のポリプロピレンの連続相への分散性が向上したと考えられる。
【0040】
<ポリプロピレン樹脂組成物の難燃性試験>
[難燃性試験の方法]
(燃焼に伴う発熱量測定)
幅50mm、長さ50mm、厚さ0.5mmサイズのポリプロピレン樹脂組成物のプレスシートに関して、東洋精機製作所(株)製 コーンカロリメーター CONEIII型を使用し、ISO 5660に準拠して、輻射熱35kW/m2で発熱量及び発火時間を測定した。
(簡易燃焼試験)
幅10mm、長さ50mm、厚さ0.5mmのポリプロピレン樹脂組成物の試験片に関して、ライターを使用し、ライターの炎の長さ3cmとし、垂直に吊るした該試験片の下から炎を3秒間試験片に当てたのち、炎を試験片から外し、以下の基準で試験片の難燃性を評価した。
○:試験片から炎がすぐ消えた。△:数秒経過してから試験片から炎が消えた。×:試験片から炎が消えなかった。
【0041】
[実施例2〜5、比較例5]
表1(実施例2〜5)又は表2(比較例5)に示す組成で、原料を80℃で24時間真空乾燥させた後、(株)井本製作所製コニカルタイプ二軸スクリュー押し出し機、IMC-117C型を使用して、温度280℃スクリュー回転数100rpmで8分間溶融混練を行った。溶融混練後、得られた組物を室温で24時間真空乾燥したのち、プレス成形機を用いて、温度300℃、圧10MPaで5分加圧して厚さ0.5mmとし、上記方法で難燃性試験を行った。
[比較例2〜4]
表2に示す組成で実施例2〜5、及び比較例5と同様にして難燃性試験を行った。なお、比較例2〜4は金属水酸化物を含まないために、プレス成形の温度は実施例1より低い280℃とし、上記と同じ圧力及び加圧時間で厚さ0.5mmとした。
結果を、表1及び表2に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
実施例2〜5の何れのポリプロピレン樹脂組成物も、比較例2〜5のポリプロピレン樹脂組成物に比して、発熱量は小さく、発火時間は長かった。特に、金属水酸化物として、ステアリン酸で被覆処理した水酸化マグネシウムを含む実施例3のポリプロピレン樹脂組成物は、発火時間が長く、優れた難燃性を有していた。実施例2及び3のポリプロピレン樹脂組成物は、ライターの炎を外すとすぐに試験片から炎が消え、実施例4及び5のポリプロピレン樹脂組成物は、ライターの炎を外すと数秒後に試験片から炎が消えた。一方、比較例2〜5のポリプロピレン樹脂組成物は、ライターの炎を外しても、試験片から炎が消えなかった。
実施例2のポリプロピレン樹脂組成物とエポキシ基含有エチレン共重合体を含有しない点で異なる比較例5のポリプロピレン樹脂組成物は、難燃性を示さなかった。これより、エポキシ基含有エチレン共重合体が、ポリプロピレン樹脂組成物への難燃性の付与に影響することが判った。
また、従来よりも少ない金属水酸化物の含有量で、ポリプロピレン樹脂組成物に十分な難燃性が付与されることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】比較例1のポリプロピレン樹脂組成物の透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例1のポリプロピレン樹脂組成物の透過型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0046】
(A)ポリプロピレン
(B)ポリフェニレンスルフィド
(C)エポキシ基含有エチレン共重合体
(D)金属水酸化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリプロピレン、(B)ポリフェニレンスルフィド、(C)エポキシ基含有エチレン共重合体、及び(D)金属水酸化物を含み、(A)ポリプロピレンが連続相であることを特徴とするポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項2】
(D)金属水酸化物が水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項3】
(D)金属水酸化物の平均一次粒子径が5μm未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項4】
(D)金属水酸化物の表面が表面処理剤で被覆処理されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項5】
表面処理剤がステアリン酸、ラウリン酸、ドデシルリン酸、ドデカン二酸、リン酸2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ナトリウムのいずれかを含むことを特徴とする請求項4に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項6】
(A)ポリプロピレンと(B)ポリフェニレンスルフィドの質量比が60:40〜90:10であり、(A)ポリプロピレンと(B)ポリフェニレンスルフィドの質量和100質量部に対し、(C)エポキシ基含有エチレン共重合体が2〜30質量部、(D)金属水酸化物が5〜100質量部であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリプロピレン樹脂組成物。
【請求項7】
(A)ポリプロピレン、(B)ポリフェニレンスルフィド、(C)エポキシ基含有エチレン共重合体、及び(D)金属水酸化物を溶融混練することを含む、(A)ポリプロピレンが連続相であるポリプロピレン樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−149792(P2009−149792A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329748(P2007−329748)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】