説明

ポリプロピレン系樹脂組成物およびその製造方法

【課題】剛性、耐衝撃性に優れ、ウェルドライン、フローマークが少なく外観に優れた射出成形品が得られる自動車材用に好適なポリプロピレン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂組成物は、n−デカン可溶部(Dsol)が5〜15重量%、Mw/Mnが3.5以上、[η]Aが5.0〜11.0dl/g、エチレン含量が20〜60mol%、n−デカン不溶部(Dinsol)のMw/Mnが3.5以上である結晶性プロピレンブロック共重合体(A)11〜50重量%と、Dsolが15〜65重量%、Mw/Mnが3.5未満、[η]Bが1.0〜4.0dl/g、エチレン含量が20〜60mol%、DinsolのMw/Mnが3.5未満である結晶性プロピレンブロック共重合体(B)25〜65重量%と、エラストマー(C)0〜20重量%と、無機フィラー(D)10〜30重量%とからなり、DinsolのMw/Mnが2.5〜3.1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のポリプロピレン系樹脂組成物からなる自動車材用ポリプロピレン系樹脂組成物およびその製造方法に関する。詳しくは、剛性、耐衝撃性に優れ、ウェルドライン及びフローマークの発生が少なく外観に優れた射出成形品が得られる、自動車材用の射出成形体に好適なポリプロピレン系樹脂組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂組成物は、剛性、耐衝撃性に優れた材料として広い用途を有しており、バンパー、インストルメンタルパネル(ダッシュボード)、ドアトリム、ピラーなどの自動車材用部品の素材としても広く用いられている。ポリプロピレン系樹脂組成物を自動車材用部品として用いる場合には、剛性、耐衝撃性などの特性に加え、得られた成形体の外観に優れる必要性がある。
【0003】
ここで、ポリプロピレン系樹脂組成物の耐衝撃性を向上させるために、組成物の構成中に、プロピレン単独重合部とエチレン・プロピレンランダム共重合体部とからなるブロック共重合体を含有せたり、エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを添加したりすることが行なわれている。
【0004】
一方、成形体の外観に関しては、自動車材用部品に利用される大型で形状が複雑な成形体を射出成形により得る場合、ゲート数が少ないとゲートから末端までの流動長が長くなり、流動末端付近ではフローマークと呼ばれる縞模様の外観不良が発生しやすくなる。また、多点ゲートを有する金型を用いて射出成形する場合は、一つのゲートからの流動長は短くなるため、フローマークの発生は軽減されるが、溶融樹脂流動の合流箇所で発生するウェルドラインと呼ばれる樹脂流動の境界線が多数発生し、これもまた成形体の外観不良となる。
【0005】
このような成形体外観不良を解消する方策として、特開平9−87482号公報には高分子量のプロピレン−エチレン共重合体を含んだプロピレン系ブロック共重合体からなるプロピレン系樹脂組成物を用いることが開示されている。上記発明では、フローマークが少ない射出成形体を得ることができるが、当該プロピレン系樹脂組成物では、ウェルドラインが発生することが想定される。ここで、ウェルドラインを改良させる方法として、特開平11−279369号公報にはプロピレン系ブロック共重合体、ゴムと無機フィラーからなる樹脂組成物を有機過酸化物処理したプロピレン系樹脂組成物が開示されている。しかし、当該発明では有機過酸化物処理を行うため、剛性等の機械強度が低下することがある問題点があった。
【0006】
ウェルドラインやフローマークなどの成形体外観不良は、成形体の大きさや形状あるいはゲート数だけでなく、成形体の原料であるポリプロピレン系樹脂組成物の特性とも深い関係がある。国際公開2009/060738号パンフレットには、チタン触媒を用いたプロピレン系ブロック共重合体を構成成分とするポリプロピレン系樹脂組成物が、剛性、耐衝撃性に優れると共に、ウェルドラインやフローマークの外観バランスを向上させたことが開示されている。しかし、当該発明におけるポリプロピレン系樹脂組成物は分子量分布が広いため、ウェルドラインの改善効果が十分でないものが見られる。さらに、特開2009−114249号公報には、メタロセン化合物含有触媒下で重合されたプロピレン系樹脂と、チーグラー・ナッタ触媒下で重合されたプロピレン系樹脂と、エラストマーと、無機充填剤とを含有してなるプロピレン系樹脂組成物からなる自動車部品が開示されている。当該発明では、剛性、耐衝撃性に優れると共に、ウェルドラインやフローマークの外観バランスが向上しているが、これらの効果を発現させるために、エラストマー成分を大量に加えなければならず、製造コストが高くなるという問題点がある。また、該報請求項規定の範囲の樹脂組成物では、チーグラー・ナッタ触媒下のみで得られたポリプロピレン系樹脂組成物と比較し流動性が大きく低下し、成形性悪化しているという問題点もある。また、このような成分構成のプロピレン系樹脂組成物を均一に得るためには、ゴム成分混練工程の時間を多く取らなければならないため製造工程が複雑化するという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−87482号公報
【特許文献2】特開平11−279369号公報
【特許文献3】国際公報2009/060738号パンフレット
【特許文献4】特開2009−114249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、剛性と耐衝撃性に優れ、フローマークやウェルドラインに代表される外観不良が少ない成形体を得ることができるポリプロピレン系樹脂組成物、および、当該組成物を低コストかつ簡易な工程で製造できる製造方法を提供することを課題としている。
【0009】
また、本発明は、前記ポリプロピレン系樹脂組成物からなる自動車材用部品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を検討した結果、特定のポリプロピレン樹脂組成物が、剛性、耐衝撃性に優れ、特に射出成形品のウェルドライン及びフローマークの発生が少なく外観に優れ、射出成形時の流動性も保持した、特に自動車材用の射出成形品として要求される機械物性、外観特性を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂組成物は、
下記(1)〜(5)を満足する結晶性プロピレンブロック共重合体(A)11〜50重量%と、
下記(6)〜(10)を満足する結晶性プロピレンブロック共重合体(B)25〜65重量%と、
エラストマー(C)0〜20重量%と、
無機充填剤(D)10〜30重量%と、
からなり(ただし、(A)〜(D)の合計は100重量%)、下記(11)を満たすポリプロピレン系樹脂組成物である。
【0012】
・プロピレンブロック共重合体(A)
(1)結晶性プロピレンブロック共重合体(A)中のエチレン・プロピレンランダム共重合体部を主成分とする室温n−デカン可溶部(以下、Dsolと記載)の割合が5〜15重量%
(2)結晶性プロピレンブロック共重合体(A)中のDsolの分子量分布である重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(以下、Mw/Mnと記載)が3.5以上
(3)結晶性プロピレンブロック共重合体(A)中のDsolの135℃デカリン溶液中で測定した極限粘度[η]が5.0〜11.0dl/g
(4)結晶性プロピレンブロック共重合体(A)中のDsolのエチレン由来の構造単位の含有率が20〜60mol%
(5)結晶性プロピレンブロック共重合体(A)中のプロピレン単独重合体部を主成分とする室温n−デカン不溶部(以下、Dinsolと記載)のMw/Mnが3.5以上
【0013】
・プロピレンブロック共重合体(B)
(6)結晶性プロピレンブロック共重合体(B)中のDsolが15〜65重量%
(7)結晶性プロピレンブロック共重合体(B)中のDsolのMw/Mnが3.5未満
(8)結晶性プロピレンブロック共重合体(B)中のDsolの135℃デカリン溶液中で測定した極限粘度[η]が1.0〜4.0dl/g
(9)結晶性プロピレンブロック共重合体(B)中のDsolのエチレン由来の構造単位の含有率が20〜60mol%
(10)結晶性プロピレンブロック共重合体(B)中のDinsolのMw/Mnが3.5未満
・ポリプロピレン系樹脂組成物
(11)ポリプロピレン系樹脂組成物のDinsolのMw/Mnが、2.5以上3.1以下である。
【0014】
前記結晶性プロピレンブロック共重合体(A)は、チーグラー・ナッタ触媒存在下で製造され、前記結晶性プロピレンブロック共重合体(B)がメタロセン触媒存在下で製造されることが好ましい。
【0015】
また、本発明の射出成形体は、前記のポリプロピレン系樹脂組成物を射出成形することにより得られ、自動車用部品として好ましく使用できる。
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法は、前記結晶性プロピレンブロック共重合体(A)、前記結晶性プロピレンブロック共重合体(B)、無機フィラー(D)、および、必要に応じてエラストマー(C)を溶融混練することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂組成物は、剛性、衝撃性に優れ、特に射出成形品のウェルドライン及びフローマークの発生が少なく外観に優れ、射出成形時の流動性も保持しており、特に自動車材用の射出成形品として良好である。
【0017】
また、本発明に係るポリプロピレン系樹脂組成物は、従来のポリプロピレン系樹脂組成物と同等の剛性、耐衝撃性、および、射出成形品のウェルドライン及びフローマークの発生が少なく外観に優れた成形品を得ようとした場合、エチレン・α−オレフィン系共重合体または、スチレン・エチレン/ブチレン・スチレンブロック共重合体に代表されるエラストマーの後添加量を、削除もしくは、大幅に削減することが可能となるため、樹脂組成物の製造プロセスを簡便にでき、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ウェルドライン外観評価法で用いた射出成形金型の概略図
【図2】フローマーク外観評価法で用いた射出成形金型の概略図
【図3】実施例1の成形体のフローマーク外観
【図4】比較例3の成形体のフローマーク外観
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るポリプロピレン系樹脂組成物を構成する各成分について詳説する。
<結晶性プロピレンブロック共重合体(A)>
本発明に係る結晶性プロピレンブロック共重合体(A)は、プロピレン単独重合体部とエチレン・プロピレンランダム共重合体部とからなり、結晶性プロピレンブロック共重合体(A)の含有量はポリプロピレン系樹脂組成物の11〜50重量%、好ましくは15〜35重量%、さらに好ましくは17〜30重量%、より好ましくは20〜28重量%である。
【0020】
本発明に係る結晶性プロピレンブロック共重合体(A)のメルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)が1〜200g/10分、好ましくは20〜150g/10分、より好ましくは50〜140g/10分、さらに好ましくは70〜120g/10分である。
【0021】
本発明に係る結晶性プロピレンブロック共重合体(A)を、プロピレン単独重合体部を主成分とする室温n−デカン不溶部(以下、Dinsolと記載)と、エチレン・プロピレンランダム共重合体部を主成分とする室温n−デカン可溶部(以下、Dsolと記載)とに分別したとき、前記Dinsolの割合は85〜95重量%、好ましくは87〜93重量%であり、前記Dsolの割合は5〜15重量%、好ましくは7〜13重量%である。
【0022】
前記Dinsolは、Mw/Mnが3.5以上、好ましくは4.0以上である。
前記Dinsolは、13C−NMRで測定したときのアイソタクチックペンタッド分率(mmmm)が97%以上である。
【0023】
アイソタクチックペンタッド分率(mmmm)とは、13C−NMRを使用して測定されるプロピレン単独重合体分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖の割合を示す。具体的には、プロピレンモノマー単位で5個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるプロピレンモノマー単位のメチル基の13C−NMRスペクトル吸収強度の、メチル炭素領域の全吸収強度に対する割合として求められる。
【0024】
また、前記Dinsolは、メルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)が、好ましくは2〜1000g/10分であり、より好ましくは20〜500g/10分、更に好ましくは50〜400g/10分、特に好ましくは80〜300g/10分である。
【0025】
前記Dsolは、Mw/Mnが3.5以上、好ましくは4.0以上である。
前記Dsolは、135℃デカリン溶液中で測定したときの極限粘度[η]が5.0〜11.0dl/g、好ましくは5.0〜10.0dl/gである。
【0026】
また、13C−NMR測定から求められる前記Dsol中の、エチレン由来の構造単位の含有率は、通常20〜60mol%、好ましくは30〜50mol%、さらに好ましくは35〜45mol%である。
【0027】
本発明の前記Dsolには、本発明の目的を損なわない範囲でブテン、ヘキセンなどの公知のオレフィンや1,7−オクタジエンなどのジエン、スチレンなどのビニル化合物由来の構造単位が含まれていてもよい。これらの中でもブテンが好ましい例として挙げられる。上記の必要に応じて用いられる、オレフィンなどの化合物由来の構造単位の含有率は、0〜5mol%、好ましくは0〜2mol%である。また、前記Dinsolにもエチレンの他、上記化合物由来の構造単位が含まれることがある。これらの構造単位の含有率は、好ましくは0〜2mol%、より好ましくは0〜1mol%である。
【0028】
MFRや極限粘度が前記範囲より大きいブロック共重合体を使用すると、当該樹脂組成物から得られる成形品表面にウェルドラインが発生し易くなる。一方、MFRや極限粘度が前記範囲より小さいブロック共重合体を使用すると、当該樹脂組成物から得られる成形品表面にフローマークが発生し易くなり、衝撃特性が著しく低下する。また、前記Dsol中の、エチレン由来の構造単位の含有率が前記範囲より大きいブロック共重合体を使用すると、得られる樹脂組成物の伸び特性が著しく低下する。また、Dsol量が前記範囲より少ないブロック共重合体を使用すると、得られる樹脂組成物の衝撃特性が著しく低下し、物性バランスを保持するためには、後添加ゴム等の添加が必要となる。一方、Dsol量が前記範囲より多いブロック共重合体を使用すると、得られる樹脂組成物の弾性率が著しく低下する。Mw/Mnが前記範囲より小さくなると射出成形に代表される流動性が著しく低下する。
【0029】
本発明に係る結晶性プロピレンブロック共重合体(A)は、公知のチーグラー・ナッタ型のチタン触媒を用いて製造することができる。チタン触媒の好ましい例としては、チタン、マグネシウム、ハロゲンの各原子を含む固体状チタン触媒成分およびアルミニウム化合物を主たる成分とする重合用固体触媒が挙げられる。
【0030】
本発明で用いる結晶性プロピレンブロック共重合体(A)の製造方法として、例えば、特開平11−107975号公報や特開2004−262993号公報に記載されている方法に準じて、高立体規則性ポリプロピレン製造用触媒の存在下に、多段重合により製造する方法が挙げられる。すなわち、プロピレン系ブロック共重合体は、(i)マグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与体を含有する固体状チタン触媒成分と、(ii)有機金属化合物触媒成分と、(iii)ドナー成分とから形成される高立体規則性ポリプロピレン製造用の重合用触媒の存在下に、第1段で実質的に水素の存在下もしくは非存在下でプロピレンを重合させるプロピレン単独重合体部を、最終的に得られるプロピレン系ブロック共重合体全体の75〜95重量%製造する段と、エチレンおよびプロピレンを共重合させてエチレン・プロピレンランダム共重合体部を、最終的に得られるプロピレン系ブロック共重合体全体の5〜25重量%製造する段と、を含む2段以上の多段重合により製造することができる。
【0031】
結晶性プロピレンブロック共重合体(A)のMFRおよび極限粘度[η]は、重合条件などを調節することで適宜調整することができ、特に制限されないが、分子量調整剤として水素を使用する方法が好ましい。
【0032】
各段の重合は、連続的に行うこともできるし、バッチ式あるいは半連続式に行うこともできるが、連続的に行うのが好ましい。また重合は、気相重合法、あるいは溶液重合、スラリー重合、バルク重合などの液相重合法など、公知の方法で行うことができる。第2段目以降の重合は、前段の重合に引き続いて、連続的に行うのが好ましい。バッチ式で行う場合、1器の重合器を用いて多段重合することもできる。
【0033】
重合媒体として、不活性炭化水素類を用いてもよく、また液状のプロピレンを重合媒体としてもよい。また、各段の重合条件は、重合温度が約−50〜+200℃、好ましくは約20〜100℃の範囲で、また重合圧力は、常圧〜9.8MPa(ゲージ圧)、好ましくは約0.2〜4.9MPa(ゲージ圧)の範囲内で適宜選択される。
【0034】
<結晶性プロピレンブロック共重合体(B)>
本発明に係る結晶性プロピレンブロック共重合体(B)は、プロピレン単独重合体部とエチレン・プロピレンランダム共重合体部とからなり、結晶性プロピレンブロック共重合体(B)の含有量はポリプロピレン系樹脂組成物の25〜65重量%、好ましくは30〜60重量%、さらに好ましくは35〜55重量%である。
【0035】
本発明に係る結晶性プロピレンブロック共重合体(B)のメルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)が1〜200g/10分、好ましくは10〜100g/10分、より好ましくは20〜70g/10分である。
【0036】
本発明に係る結晶性プロピレンブロック共重合体(B)を、プロピレン単独重合体部を主成分とするDinsolと、エチレン・プロピレンランダム共重合体部を主成分とするDsolとに分別したとき、前記Dinsolの割合は35〜85重量%、好ましくは40〜80重量%、さらに好ましくは45〜75重量%であり、前記Dsolの割合は15〜65重量%、好ましくは20〜60重量%、さらに好ましくは25〜55重量%である。
【0037】
前記Dinsolは、Mw/Mnが3.5未満、好ましくは3.0以下である。
また、前記Dinsolは、メルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)が、好ましくは1〜600g/10分であり、より好ましくは30〜400g/10分、さらに好ましくは50〜350g/10分、特に好ましくは70〜300g/10分である。
【0038】
前記Dinsolは、13C−NMRで測定したときのアイソタクチックペンタッド分率(mmmm)が95%以上である。
前記Dsolは、Mw/Mnが3.5未満、好ましくは3.0以下である。
【0039】
前記Dsolは、135℃デカリン溶液中で測定したときの極限粘度[η]が1.0〜4.0dl/g、好ましくは1.5〜3.5dl/gである。
また、13C−NMR測定から求められる前記Dsol中のエチレン由来の構造単位の含有率は、通常20〜60mol%、好ましくは25〜55mol%である。
【0040】
本発明の前記Dsolには、本発明の目的を損なわない範囲でブテン、ヘキセンなどの公知のオレフィンや1,7−オクタジエンなどのジエン、スチレンなどのビニル化合物由来の構造単位が含まれていてもよい。これらの中でもブテンが好ましい例として挙げられる。上記の必要に応じて用いられる、オレフィンなどの化合物由来の構造単位の含有率は、0〜5mol%、好ましくは0〜2mol%である。また、前記Dinsolにもエチレンの他、上記化合物由来の構造単位が含まれることがある。これらの構造単位の含有率は、好ましくは0〜2mol%、より好ましくは0〜1mol%である。
【0041】
MFRや極限粘度が前記範囲より小さいブロック共重合体を使用すると、得られる樹脂組成物からの成形品表面にフローマークが発生し易くなり、機械物性も著しく低下する。また前記Dsol中の、エチレン由来の構造単位の含有率が前期範囲より大きいブロック共重合体を使用すると、得られる樹脂組成物の機械物性が著しく低下する。また、Dsol量が前記範囲より少ないブロック共重合体を使用すると、得られる樹脂組成物の衝撃特性が著しく低下し、物性バランスを保持するためには、後添加ゴム等の添加が必要となる。逆にDsol量が前記範囲より多いブロック共重合体を使用すると、得られる樹脂組成物の弾性率が著しく低下する。Mw/Mnが前記範囲より大きくなると衝撃特性が著しく低下する。
【0042】
本発明に係る結晶性プロピレンブロック共重合体(B)は公知のメタロセン化合物含有触媒を用いて製造することができる。
本発明において使用するメタロセン化合物含有触媒としては、メタロセン化合物、並びに、有機金属化合物、有機アルミニウムオキシ化合物およびメタロセン化合物と反応してイオン対を形成することのできる化合物から選ばれる少なくとも1種以上の化合物、さらに必要に応じて粒子状担体とからなるメタロセン触媒で、好ましくはアイソタクチックまたはシンジオタクチック構造等の立体規則性重合をすることのできるメタロセン触媒を挙げることができる。前記メタロセン化合物の中では、本願出願人による国際公開01/27124号パンフレットに例示されている架橋型メタロセン化合物(下記一般式[I])が好適に用いられる。
【0043】
【化1】

上記一般式[I]において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14は水素、炭化水素基、ケイ素含有基から選ばれ、それぞれ同一でも異なっていてもよい。このような炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、アリル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デカニル基などの直鎖状炭化水素基;イソプロピル基、tert−ブチル基、アミル基、3−メチルペンチル基、1,1−ジエチルプロピル基、1,1−ジメチルブチル基、1−メチル−1−プロピルブチル基、1,1−プロピルブチル基、1,1−ジメチル−2−メチルプロピル基、1−メチル−1−イソプロピル−2−メチルプロピル基などの分岐状炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの環状飽和炭化水素基;フェニル基、トリル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントラセニル基などの環状不飽和炭化水素基;ベンジル基、クミル基、1,1−ジフェニルエチル基、トリフェニルメチル基などの環状不飽和炭化水素基の置換した飽和炭化水素基;メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、フリル基、N−メチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N−フェニルアミノ基、ピリル基、チエニル基などのヘテロ原子含有炭化水素基等を挙げることができる。ケイ素含有基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、トリフェニルシリル基などを挙げることができる。また、R5からR12の隣接した置換基は互いに結合して環を形成してもよい。このような置換フルオレニル基としては、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、オクタヒドロジベンゾフルオレニル基、オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル基、オクタメチルテトラヒドロジシクロペンタフルオレニル基などを挙げることができる。
【0044】
前記一般式[I]において、シクロペンタジエニル環に置換するR1、R2、R3、R4は水素、または炭素数1〜20の炭化水素基であることが好ましい。炭素数1〜20の炭化水素基としては、前述の炭化水素基を例示することができる。さらに好ましくはR1、R3が炭素数1〜20の炭化水素基(他は水素)である。
【0045】
前記一般式[I]において、フルオレン環に置換するR5からR12は炭素数1〜20の炭化水素基であることが好ましい。炭素数1〜20の炭化水素基としては、前述の炭化水素基を例示することができる。R5からR12の隣接した置換基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0046】
前記一般式[I]において、シクロペンタジエニル環とフルオレニル環を架橋するYは周期表第14族元素であることが好ましく、より好ましくは炭素、ケイ素、ゲルマニウムでありさらに好ましくは炭素原子である。このYに置換するR13、R14は炭素数1〜20の炭化水素基が好ましい。これらは相互に同一でも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。炭素数1〜20の炭化水素基としては、前述の炭化水素基を例示することができる。さらに好ましくはR13、R14は炭素数6〜20のアリール(aryl)基である。アリール基としては、前述の環状不飽和炭化水素基、環状不飽和炭化水素基の置換した飽和炭化水素基、ヘテロ原子含有環状不飽和炭化水素基を挙げることができる。また、R13、R14はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。このような置換基としては、フルオレニリデン基、10−ヒドロアントラセニリデン基、ジベンゾシクロヘプタジエニリデン基などが好ましい。
【0047】
前記一般式[I]において、Mは好ましくは周期表第4族遷移金属であり、さらに好ましくはTi、Zr、Hfである。また、Qはハロゲン、炭化水素基、アニオン配位子または孤立電子対で配位可能な中性配位子から同一または異なる組合せで選ばれる。jは1〜4の整数であり、jが2以上の時は、Qは互いに同一でも異なっていてもよい。ハロゲンの具体例としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素であり、炭化水素基の具体例としては前述と同様のものなどが挙げられる。アニオン配位子の具体例としては、メトキシ、tert−ブトキシ、フェノキシなどのアルコキシ基、アセテート、ベンゾエートなどのカルボキシレート基、メシレート、トシレートなどのスルホネート基等が挙げられる。孤立電子対で配位可能な中性配位子の具体例としては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィンなどの有機リン化合物、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類等が挙げられる。Qは少なくとも1つがハロゲンまたはアルキル基であることが好ましい。
【0048】
このような架橋メタロセン化合物としては、ジフェニルメチレン(3−tert−ブチル−5−メチル−シクロペンタジエニル)(フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(3−tert−ブチル−5−メチル−シクロペンタジエニル)(2,7−ジtert−ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(3−tert−ブチル−5−メチル−シクロペンタジエニル)(3,6−ジtert−ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、(メチル)(フェニル)メチレン(3−tert−ブチル−5−メチル−シクロペンタジエニル)(オクタメチルオクタヒドロベンゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、[3−(1',1',4',4',7',7',10',10'−オクタメチルオクタヒドロジベンゾ[b,h]フルオレニル)(1,1,3−トリメチル−5−tert−ブチル−1,2,3,3a−テトラヒドロペンタレン)]ジルコニウムジクロライド(下記式[II]で表される化合物)、下記式[III]で表される化合物などが好ましく挙げられる。
【0049】
【化2】

【0050】
【化3】

なお、結晶性プロピレンブロック共重合体(B)の製造に用いられるメタロセン触媒において、前記一般式[I]で表わされる第4族遷移金属化合物とともに用いられる、有機金属化合物、有機アルミニウムオキシ化合物、および遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物、さらには必要に応じて用いられる粒子状担体については、本出願人による前記公報(国際公開01/27124号パンフレット)や特開平11−315109号公報に開示された化合物を制限無く使用することができる。
【0051】
結晶性プロピレンブロック共重合体(B)中のプロピレン単独重合体は、一つの反応器または一つ以上の反応器を直列に連結した重合装置を用い、重合温度0〜100℃、重合圧力常圧〜5MPaゲージ圧で、プロピレンを重合させることにより製造することができる。
【0052】
具体的な結晶性プロピレンブロック共重合体(B)を製造する方法としては、二つ以上の反応器を直列に連結した重合装置を用い、次の二つの工程([工程1]および[工程2])を連続的に実施することによって得られる。
【0053】
<工程1>:重合温度0〜100℃、重合圧力常圧〜5MPaゲージ圧で、プロピレン並びに必要に応じて他のオレフィン(好ましくはエチレン)を(共)重合させる。
<工程2>:重合温度0〜100℃、重合圧力常圧〜5MPaゲージ圧で、プロピレンとエチレン、必要に応じて他のオレフィンを共重合させる。
なお、[工程1]および[工程2]はいずれの順番で行ってもよいが、好ましくは、[工程1]、[工程2]の順番で重合反応を進める方がよい。
【0054】
ここで、[工程1]ではプロピレンに対して他のオレフィンのフィード量を少量とすることによって、[工程1]で製造されるプロピレン単独重合体がDinsolの主成分となるようにする。また、[工程2]では、プロピレンに対するエチレンのフィード量を[工程1]よりも多くすることによって、[工程2]で製造されるエチレン・プロピレンランダム共重合体がDsolの主成分となるようにする。
【0055】
このように工程を分割することにより、Dinsolに係る要件は、[工程1]における重合条件の調整によって、Dsolに係る要件は、[工程2]における重合条件の調整によって、調製することが可能となる。
上記工程による重合反応終了後、必要に応じて公知の触媒失活処理工程、触媒残渣除去工程、乾燥工程等の後処理工程を行うことにより、結晶性プロピレンブロック共重合体(B)が得られる。
【0056】
<結晶性プロピレンブロック共重合体(A)と結晶性プロピレンブロック共重合体(B)の関係>
一般的に結晶性プロピレンブロック共重合体は、Dsol量、Dsol中のエチレン由来の構造単位の含有率および極限粘度[η]によりその性能が異なる。
【0057】
すなわち、Dsol量が多いほど耐衝撃性は改良されるが、剛性は低下する。また、Dsol量が同一の場合においては、Dsol中のエチレン由来の構造単位の含有率が低いほど得られる樹脂組成物は高強度でフローマークが少なく、エチレン由来の構造単位の含有率が高いほど得られる樹脂組成物は耐衝撃性に優れる。さらに、同一のエチレン由来の構造単位の含有率においては、Dsolの極限粘度が大きいほど成形体にフローマークの発生がなく、外観が良好である。この極限粘度とフローマークの関係は、Dsol中のエチレン由来の構造単位の含有率が低いほど顕著に現れるが、これには、エチレン由来の構造単位の含有率が低いDsolほどポリプロピレン成分への溶解性が高いことが起因している。
【0058】
これより、本発明の結晶性プロピレンブロック共重合体(A)は、Dsolの極限粘度が高いことが特徴であるため、フローマークを改良する成分であり、結晶性プロピレンブロック共重合体(B)は、Dsol量を多く含むことが特徴であるため、耐衝撃性を改良する成分である。また、結晶性プロピレンブロック共重合体(B)はメタロセン化合物含有触媒を用いて製造されているため、Mw/Mnが小さいことが特徴であり、ウェルドラインを改良する成分である。
【0059】
結晶性プロピレンブロック共重合体(A)のDsol中のエチレン由来の構造単位の含有率が30mol%未満では得られる樹脂組成物の耐衝撃性の低下が著しく、50mol%を越えると得られる成形製品に対するフローマークの改良効果が乏しい。また、Dsolの固有粘度が5dl/g未満の場合にも得られる成形製品に対するフローマークの改良効果が低くなる。
【0060】
結晶性プロピレンブロック共重合体(B)のDsol中のエチレン由来の構造単位の含有率が20mol%未満では樹脂組成物の耐衝撃性が充分でなく、60mol%を越えても耐衝撃性改良効果が不十分になる。さらに、Dsolの固有粘度が4.0dl/gを越えるとポリマーゲルの発生により耐衝撃性が低下する。
【0061】
結晶性プロピレンブロック共重合体(A)および(B)の合計含有率は36〜90重量%、好ましくは50〜90重量%である。結晶性プロピレンブロック共重合体(A)および(B)の合計含有率が36重量%未満では、成形加工性が悪化し、フローマークが発生するため外観が劣り、またそれが、90重量%を超えると、以下に説明する無機充填剤(D)の含有量が十分でないため剛性および耐衝撃性の改良効果が不十分になるという不都合を生ずる。
【0062】
これら結晶性プロピレンブロック共重合体(A)および(B)は、前記の触媒、工程で、それぞれ別個に重合し、ブレンドして用いるが、多段の重合槽を設け、各段で結晶性プロピレンブロック共重合体(A)および(B)を連続的に所定量重合して用いてもかまわない。
【0063】
<エラストマー(C)>
エラストマー(C)としては、エチレン・α−オレフィンランダム共重合体、エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体、水素添加ブロック共重合体、その他弾性重合体およびこれらの混合物を挙げることができる。
【0064】
エラストマー(C)の含有量は、剛性、耐衝撃性の観点からポリプロピレン系樹脂組成物の0〜20重量%である。なお、ポリプロピレン系樹脂組成物の剛性、耐衝撃性の観点から、当該エラストマー(C)の含有量は、結晶性プロピレンブロック共重合体(A)および(B)のDsolの含有量が多い場合には少なくすることが可能であり、エラストマー(C)を含有させないことも可能である。
【0065】
前記エチレン・α−オレフィンランダム共重合体は、エチレンと、炭素数3〜10のα−オレフィンとのランダム共重合ゴムが挙げられる。上記炭素数3〜10のα−オレフィンとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。これらのα−オレフィンは、単独でまたは組み合わせて用いることができる。これらの中では、特に1−ブテン、1−オクテンが好ましく用いられる。
【0066】
エチレン・α−オレフィンランダム共重合体は、エチレンとα−オレフィンとのモル比(エチレン/α−オレフィン)が95/5〜70/30、好ましくは90/10〜75/25であるのが望ましい。エチレン・α−オレフィンランダム共重合体は、230℃、荷重2.16kgにおけるMFRが0.1g/10min以上、好ましくは0.5〜5g/10minであるのが望ましい。
【0067】
前記エチレン・α−オレフィンランダム共重合体は、従来公知の方法で製造することもできるが、種々の市販品を用いることもできる。市販品としては、三井化学製タフマーAシリーズ・Hシリーズ、デュポン・ダウ製Engageシリーズ、ExxonMobil製Exactシリーズなどを好ましく使用することができる。
【0068】
前記エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体は、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンと非共役ポリエンとのランダム共重合体ゴムが挙げられる。上記炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、具体的にはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−エイコセンなどが挙げられる。これらのα−オレフィンは、単独でまたは組み合せて用いることができる。これらの中では、特にプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンが好ましく用いられる。上記非共役ポリエンとしては、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−プロピリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの環状非共役ジエン;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4ヘキサジエン、5−メチル−1,5−ヘプタジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、6−メチル−1,7−オクタジエン、7−メチル−1,6オクタジエンなどの鎖状の非共役ジエンなどが挙げられる。これらの中では、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネンが好ましく用いられる。
【0069】
エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体は、エチレンとα−オレフィンと非共役ポリエンとのモル比(エチレン/α−オレフィン/非共役ポリエン)が90/5/5〜30/45/25、好ましくは80/10/10〜40/40/20であるのが望ましい。
【0070】
エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体は、230℃、荷重2.16kgにおけるMFRが0.05g/10min以上、好ましくは0.1〜10g/10minであるものが望ましい。エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体の具体的なものとしては、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体(EPDM)などが挙げられる。
【0071】
前記水素添加ブロック共重合体は、ブロックの形態が以下式(a)または(b)で表されるブロック共重合体の水素添加物であり、水素添加率が90mol%以上、好ましくは95mol%以上の水素添加ブロック共重合体である。
X(YX)n ・・・(a)
(XY)n ・・・(b)
【0072】
前記式(a)または(b)のXで示される重合ブロックを構成するモノビニル置換芳香族炭化水素としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、クロロスチレン、低級アルキル置換スチレン、ビニルナフタレン等のスチレンまたはその誘導体などがあげられる。これらは1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0073】
前記式(a)または(b)のYで示される重合ブロックを構成する共役ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどがあげられる。これらは1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。nは1〜5の整数、好ましくは1または2である。
【0074】
水素添加ブロック共重合体の具体的なものとしては、スチレン・エチレン・ブテン・スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)およびスチレン・エチレン・プロピレンブロック共重合体(SEP)等のスチレン系ブロック共重合体などが挙げられる。
【0075】
水素添加前のブロック共重合体は、例えば不活性溶媒中で、リチウム触媒またはチーグラー・ナッタ触媒の存在下に、ブロック共重合を行わせる方法により製造することができる。詳細な製造方法は、例えば特公昭40−23798号などに記載されている。水素添加処理は、不活性溶媒中で公知の水素添加触媒の存在下に行うことができる。詳細な方法は、例えば特公昭42−8704号、同43−6636号、同46−20814号などに記載されている。
【0076】
共役ジエンモノマーとしてブタジエンが用いられる場合、ポリブタジエンブロックにおける1,2−結合量の割合は20〜80重量%、好ましくは30〜60重量%であることが望ましい。
【0077】
水素添加ブロック共重合体としては市販品を使用することもできる。具体的なものとしては、クレイトンG1657(商標、シェル化学(株)製)、セプトン2004(商標、クラレ(株)製)、タフテックH1052(商標、旭化成(株)製)などが挙げられる。
エラストマー(C)は1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0078】
<無機フィラー(D)>
無機フィラー(D)としては、タルク、クレー、炭酸カルシウム、マイカ、けい酸塩類、炭酸塩類、ガラス繊維、炭素繊維などが挙げられる。これらの中では、タルク、炭酸カルシウムが好ましく、特にタルクが好ましい。タルクの平均粒径は、1〜5μm、好ましくは1〜3μmの範囲内にあることが望ましい。無機フィラー(D)は、1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
無機フィラー(D)の含有量はポリプロピレン系樹脂組成物の10〜30重量%、好ましくは15〜27重量%、さらに好ましく17〜25重量%である。
【0079】
<各種添加剤>
本発明に係るポリプロピレン系樹脂組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、造核剤、滑剤、難燃剤、アンチブロッキング剤、着色剤、有機質の充填剤、前記(C)以外の種々の合成樹脂等の各種添加剤を配合することができる。
【0080】
<ポリプロピレン系樹脂組成物>
本発明に係るポリプロピレン系樹脂組成物は、結晶性プロピレンブロック共重合体(A)、結晶性プロピレンブロック共重合体(B)、無機フィラー(D)と必要に応じてエラストマー(C)および各種添加剤から得られる。
【0081】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂組成物を構成する各成分の割合としては、結晶性プロピレンブロック共重合体(A)11〜50重量%、好ましくは15〜35重量%、さらに好ましくは17〜30重量%、より好ましくは20〜28重量%、結晶性プロピレンブロック共重合体(B)25〜65重量%、好ましくは30〜60重量%、より好ましくは35〜55重量%、エラストマー(C)0〜20重量%、好ましくは5〜15重量%、より好ましくは7〜13重量%、無機充填剤(D)10〜30重量%、好ましくは15〜27重量%、さらに好ましく17〜25重量%からなる(ただし、(A)〜(D)の合計は100重量%)。
【0082】
(A)〜(D)以外の各種添加剤を配合する場合には、ポリプロピレン系樹脂組成物100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部配合される。
結晶性プロピレンブロック共重合体(A)が、上記配合範囲外であると、流動性の著しい低下、フローマークとウェルドラインバランスに代表される外観の悪化、及び耐衝撃性の著しい低下の懸念がある。また、結晶性プロピレンブロック共重合体(B)が、上記範囲外であると、流動性の著しい低下、フローマークとウェルドラインバランスに代表される外観の悪化、及び耐衝撃性の著しい低下の懸念がある。
【0083】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂組成物は、従来用いられているポリプロピレン系樹脂組成物と比べ、エラストマー(C)を含有しないか、もしくは含有量が著しく少ない組成物となっているにも関わらず、本発明に係るポリプロピレン系樹脂組成物から得られる成形体の剛性、耐衝撃性などの機械物性やフローマークやウェルドラインなどの外観特性は従来のポリプロピレン系樹脂組成物から得られる成形体の各特性と同等もしくはそれ以上の効果を有することが見出されている。
【0084】
この理由として、本発明に係るポリプロピレン系樹脂組成物に含まれる結晶性プロピレンブロック共重合体(B)中のDsol量が、15〜65重量%と比較的多い量となっていることから、ポリプロピレン系樹脂組成物として、既にエラストマー成分が含有された状態となっていることにある。なお、結晶性プロピレンブロック共重合体(B)中のDsol量を増やすことができたのは、上記一般式[I]に示す架橋型メタロセン化合物を重合用触媒として用いたことに起因する。さらに、上記一般式[I]に示す架橋型メタロセン化合物を重合用触媒として用いることにより、結晶性プロピレン共重合体の分子量分布が狭くなり、低分子量成分が複製しないことによる衝撃特性の向上、及び高分子量成分が複製しないことによるウェルド外観の向上も併せて達成することが可能となる。特に、ポリプロピレン系樹脂組成物のDinsolのMw/Mnが、2.5以上3.1以下であると流動性を損なうことなく、ウェルド長さ・フローマーク外観良好な樹脂組成物を得ることができる。
【0085】
さらに、前記結晶性プロピレンブロック共重合体は、プロピレン単独重合体とエチレン・プロピレンランダム共重合を重合する工程を連続して製造しているので、エチレン・プロピレンランダム共重合成分はプロピレン単独重合体中に微分散した形状となっている。このため、当該結晶性プロピレンブロック共重合体を含むポリプロピレン系樹脂組成物中のエラストマー成分は、組成物中に均一に混合された状態となっており、これが、成形体の剛性、耐衝撃性などの機械物性やフローマークやウェルドラインなどの外観特性の向上の一因となっていると想定される。なお、このような組成物の構成は、従来のエラストマー成分を後添加する方法により得られるポリプロピレン系樹脂組成物とはそのエラストマー成分の分散度において大きな差があることが明確である。
【0086】
<ポリプロピレン系樹脂組成物の成形加工法>
結晶性プロピレンブロック共重合体(A)、結晶性プロピレンブロック共重合体(B)、無機フィラー(D)と必要に応じてエラストマー(C)および各種添加剤は、溶融混練し、さらにペレタイズしてペレットとして製造用に供される。
【0087】
ポリプロピレン系樹脂組成物を調製するには、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、バンバリーミキサーなどの通常の混練装置を用いることができる。溶融混練およびペレタイズは、通常の単軸押出機あるいは2軸押出機、ブラベンダー又はロールを使用して、170〜300℃、好ましくは190〜250℃で溶融混練し、ペレタイズする。
【0088】
得られたプロピレン系樹脂組成物は、射出成形法により、目的とする自動車材用部品、たとえばバンパー、インパネ、ドアトリム、サイドシールガーニッシュ、フェンダー等に成形加工することができる。本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂組成物は機械的強度を保持しながら、成形外観が良好であり、かつ射出成形時の流動性が良好であることから、特にバンパー、インパネに好適に使用することができる。これら大型部品では形状の複雑化や成形サイクルの短縮を目的として、多点ゲートを有する金型で射出成形することがあるが、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物から得られる自動車材用部品はウェルドライン外観が非常に良好であるので、多点ゲート射出成形にも好適に使用することができる。
【0089】
[実施例]
次に本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明は係る実施例に限定されるものではない。本発明において採用した分析方法は以下の通りである。
【0090】
(1)n−デカン分別
結晶性プロピレンブロック共重合体(A)または結晶性プロピレンブロック共重合体(B)のサンプル5gにn−デカン200mlを加え、145℃、30分間加熱溶解した。約3時間かけて、20℃まで冷却させ、30分間放置した。その後、析出物(α)をろ別した。ろ液を約3倍量のアセトン中入れ、n−デカン中に溶解していた成分を析出させた。析出物(β)(以下、n−デカン可溶部:Dsol)とn−デカン、アセトンをろ別し、析出物を乾燥した。なお、ろ液側を濃縮乾固しても残渣は認められなかった。
【0091】
析出物(α)を再度n−デカン200ml中に加え、145℃、30分間加熱し、溶液をろ過し、無機フィラーをろ別した。ろ液を約3時間かけて20℃まで冷却させ、30分間放置し、その後析出物(γ)(以下、プロピレン系樹脂組成物のn−デカン不溶部:Dinsol)をろ別した。
【0092】
結晶性プロピレンブロック共重合体(A)、(B)のn−デカン分別では、析出物(γ)がプロピレン系ブロック共重合体のn−デカン不溶部(Dinsol)に相当するため、n−デカン可溶部量は以下のようにして算出した。
n−デカン可溶部量(wt%)= [析出物(β)量/(析出物(γ)量+析出物(β))]×100
(2)分子量分布(Mw/Mn)測定〔重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)〕
ウォーターズ社製GPC−150C Plusを用い以下の様にして測定した。
【0093】
分離カラムは、TSKgel GMH6−HT及びTSK gel GMH6−HTLであり、カラムサイズはそれぞれ内径7.5mm、長さ600mmであり、カラム温度は140℃とし、移動相にはo−ジクロロベンゼン(和光純薬工業)および酸化防止剤としてBHT(和光純薬工業)0.025重量%を用い、1.0 ml/分で移動させ、試料濃度は0.1重量%とし、試料注入量は500マイクロリットルとし、検出器として示差屈折計を用いた。標準ポリスチレンは、分子量がMw<1000およびMw>4×106については東ソー社製を用い、1000≦Mw≦4×106についてはプレッシャーケミカル社製を用い、汎用較正法を用いてPPに換算した。なお、PS、PPのMark−Houwink係数はそれぞれ、文献(J. Polym. Sci., Part A-2, 8, 1803 (1970)、Makromol. Chem., 177, 213 (1976))に記載の値を用いた。
【0094】
(3)極限粘度[η]
デカリン溶媒を用いて、135℃で測定した。
サンプル約20mgをデカリン15mlに溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5ml追加して希釈後、同様にして比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿した時のηsp/Cの値を極限粘度として求めた。
[η]= lim(ηsp/C) (C→0)
【0095】
(4)エチレンに由来する骨格の含量
insol、Dsol中のエチレンに由来する骨格濃度を測定するために、サンプル20〜30mgを1,2,4−トリクロロベンゼン/重ベンゼン(2:1)溶液0.6mlに溶解後、炭素核磁気共鳴分析(13C−NMR)を行った。プロピレン、エチレン、α−オレフィンの定量はダイアッド連鎖分布より求めた。
【0096】
例えば、プロピレン−エチレン共重合体の場合、PP=Sαα、EP=Sαγ+Sαβ、EE=1/2(Sβδ+Sδδ)+1/4Sγδを用い、以下の計算式(Eq−1)および(Eq−2)により求めた。
【0097】
プロピレン(mol%)=(PP+1/2EP)×100/[(PP+1/2EP)+(1/2EP+EE) ・・・(Eq−1)
エチレン(mol%)=(1/2EP+EE)×100/[(PP+1/2EP)+(1/2EP+EE) ・・・(Eq−2)
なお、本実施例における、Dinsolのエチレン量およびα−オレフィン量の単位は、mol%に換算して標記した。
【0098】
(5)MFR(メルトフローレート)
MFRは、ASTM D1238(230℃、荷重2.16kg)に従って測定した。
(6)射出成形体の曲げ弾性率
曲げ弾性率(FM)は、ASTM D790に従って、下記の条件で測定した。
【0099】
<測定条件>
試験片:12.7mm(幅)×6.4mm(厚さ)×127mm(長さ)
曲げ速度:2.8mm/分
曲げスパン:100mm
(7)射出成形体のアイゾット衝撃強度(IZ)
アイゾット衝撃強度(IZ)は、ASTM D256に準拠して下記の条件で測定した。
【0100】
<試験条件>
温度:23℃
試験片:12.7mm(幅)×6.4mm(厚さ)×64mm(長さ)
ノッチは機械加工
(8)ウェルドライン外観評価法
図1に示す、長さ350mm、幅100mm、厚み2mmの平板が成形可能で幅100mmの中央部に2点ゲート(中央部からから各35mmにゲート配置)を持つ射出成形金型を用いた。
ウェルドライン長さは上記金型を用いて射出成形をしたときに発生するウェルドラインを目視により、ウェルドラインが判別できなくなるまでの長さを測定し求めた。
【0101】
<試験片射出成形条件>
射出成形機:品番 SE220、住友重機株式会社製
シリンダー温度:220℃
金型温度:40℃
射出圧力:100MPa
射出速度:25mm/s
(9)フローマーク外観評価法
図2に示す、長さ350mm、幅100mm、厚み2mmの平板が成形可能で幅100mmの中央部(50mm)にゲートを持つ射出成形金型を用いた。
フローマークは上記金型を用いて射出成形をしたときに発生するフローマークを目視により、ゲートからフローマークが発生した距離を目視で評価した。
【0102】
<試験片射出成形条件>
射出成形機:品番 SE220、住友重機械工業株式会社製
シリンダー温度:220℃
金型温度:40℃
射出圧力:100MPa
射出速度:25mm/s
(10)射出成形流動長
厚み3mm、幅10mmのスパイラルフロー金型を用いて射出成形時の流動長を測定した。
【0103】
<スパイラル射出成形条件>
射出成形機:品番 NEX110、日精樹脂工業株式会社製
シリンダー温度:230℃
金型温度:40℃
射出圧力:76.5MPa
射出速度:30mm/s
計量:射出充填時のクッションが5〜10mmになるよう設定
(11)アイソタクチックペンタッド分率(mmmm)
重合体の立体規則性の指標の1つであり、そのミクロタクティシティーを調べたペンタド分率(mmmm,%)は、プロピレン重合体においてMacromolecules 8,687(1975)に基づいて帰属した13C−NMRスペクトルのピーク強度比より算出した。13C−NMRスペクトルは、日本電子製EX−400の装置を用い、TMSを基準とし、温度130℃、o−ジクロロベンゼン溶媒を用いて測定した。
【0104】
<各成分の組成および物性値>
実施例に用いた結晶性プロピレンブロック共重合体の各成分は、以下に示すものである。
【0105】
なお、下記結晶性プロピレンブロック共重合体(A)は、特開平11−107975号公報および特開2004−262993号公報に記載の方法に準じて、下記結晶性プロピレンブロック共重合体(B)は、特開2009−114294号公報に記載の方法に準じて調製したものである。表1に結晶性プロピレンブロック共重合体の各物性値を記載する。
【0106】
<プロピレンブロック共重合体(A)>
以下の(1)〜(3)に記載するプロピレンブロック共重合体(A−1)〜(A−3)を調製した。
(1)プロピレンブロック共重合体(A−1)
・Dsol量:9重量%
・DsolのMw/Mn:5.7
・Dsolの極限粘度[η]:8.5dl/g
・Dsolのエチレン含量:38mol%
・Dinsol量:91重量%
・Dinsolのアイソタクチックペンタッド分率(mmmm):98.5%
・DinsolのMw/Mn:4.5
・ブロック共重合体のMFR:95g/10分
(2)プロピレンブロック共重合体(A−2)
・Dsol量:23重量%
・DsolのMw/Mn:3.6
・Dsolの極限粘度[η]:2.5dl/g
・Dsolのエチレン含量:39mol%
・Dinsol量:77重量%
・Dinsolのアイソタクチックペンタッド分率(mmmm):98.2%
・DinsolのMw/Mn:4.9
・ブロック共重合体のMFR:32g/10分
(3)プロピレンブロック共重合体(A−3)
・Dsol量:12重量%
・DsolのMw/Mn:4.0
・Dsolの極限粘度[η]:3.6dl/g
・Dsolのエチレン含量:52mol%
・Dinsol量:88重量%
・Dinsolのアイソタクチックペンタッド分率(mmmm):97.2%
・DinsolのMw/Mn:4.7
・ブロック共重合体のMFR:35g/10分
【0107】
<プロピレンブロック共重合体(B)>
以下の(4)〜(11)に記載するプロピレンブロック共重合体(B−1−1)〜(B−3−2)を調製した。
(4)プロピレン系ブロック共重合体(B−1−1)
・Dsol量:49重量%
・DsolのMw/Mn:2.2
・Dsolの極限粘度[η]:2.1dl/g
・Dsolのエチレン含量:30mol%
・Dinsol量:51重量%
・Dinsolのアイソタクチックペンタッド分率(mmmm):96.2%
・DinsolのMw/Mn:2.4
・ブロック共重合体のMFR:27g/10分
(5)プロピレン系ブロック共重合体(B−1−2)
・Dsol量:51重量%
・DsolのMw/Mn:2.0
・Dsolの極限粘度[η]:2.1dl/g
・Dsolのエチレン含量:45mol%
・Dinsol量:49重量%
・Dinsolのアイソタクチックペンタッド分率(mmmm):96.2%
・DinsolのMw/Mn:2.4
・ブロック共重合体のMFR:32g/10分
(6)プロピレンブロック共重合体(B−1−3)
・Dsol量:29重量%
・DsolのMw/Mn:2.2
・Dsolの極限粘度[η]:2.2dl/g
・Dsolのエチレン含量:31mol%
・Dinsol量:71重量%
・Dinsolのアイソタクチックペンタッド分率(mmmm):96.1%
・DinsolのMw/Mn:2.4
・ブロック共重合体のMFR:47g/10分
(7)プロピレンブロック共重合体(B−1−4)
・Dsol量:30重量%
・DsolのMw/Mn:2.1
・Dsolの極限粘度[η]:2.2dl/g
・Dsolのエチレン含量:44mol%
・Dinsol量:70重量%
・Dinsolのアイソタクチックペンタッド分率(mmmm):96.2%
・DinsolのMw/Mn:2.4
・ブロック共重合体のMFR:49g/10分
(8)プロピレン系ブロック共重合体(B−2−1)
・Dsol量:47重量%
・DsolのMw/Mn:2.2
・Dsolの極限粘度[η]:1.7dl/g
・Dsolのエチレン含量:72mol%
・Dinsol量:53重量%
・Dinsolのアイソタクチックペンタッド分率(mmmm):96.2%
・DinsolのMw/Mn:2.4
・ブロック共重合体のMFR:35g/10分
(9)プロピレンブロック共重合体(B−2−2)
・Dsol量:28重量%
・DsolのMw/Mn:2.2
・Dsolの極限粘度[η]:1.8dl/g
・Dsolのエチレン含量:70mol%
・Dinsol量:72重量%
・Dinsol量のアイソタクチックペンタッド分率(mmmm):96.1%
・DinsolのMw/Mn:2.4
・ブロック共重合体のMFR:55g/10分
(10)プロピレン系ブロック共重合体(B−3−1)
・Dsol量:30重量%
・DsolのMw/Mn:2.0
・Dsolの極限粘度[η]:2.1dl/g
・Dsolのエチレン含量:45mol%
・Dinsol量:70重量%
・Dinsolのアイソタクチックペンタッド分率(mmmm):96.2%
・DinsolのMw/Mn:2.4
・ブロック共重合体のMFR:49g/10分
(11)プロピレンブロック共重合体(B−3−2)
・Dsol量:20重量%
・DsolのMw/Mn:2.1
・Dsolの極限粘度[η]:2.1dl/g
・Dsolのエチレン含量:44mol%
・Dinsol量:70重量%
・Dinsol量のアイソタクチックペンタッド分率(mmmm):96.2%
・DinsolのMw/Mn:2.3
・ブロック共重合体のMFR:71g/10分
【0108】
<エラストマー(C)>
以下の(12)、(13)に記載するエラストマーを準備した。
(12)エチレン−1−オクテン共重合体エラストマー(C−1)
ダウ社製エチレン−1−オクテン共重合体エラストマー(銘柄名:EG8100)であり、以下の特性を有する。
・MFR:1g/10分(190℃、荷重2.16kg)
・1−オクテン含有量:15mol%
・密度:0.870g/cm3
(13)エチレン−1−ブテン共重合体エラストマー(C−2)
三井化学社製エチレン−1−ブテン共重合体エラストマー(銘柄名:A−1050S)であり、以下の特性を有する。
・MFR:1g/10分(190℃、荷重2.16kg)
・1−ブテン含有量:20mol%
・密度:0.860g/cm3
【0109】
<無機フィラー(D))>
以下の(14)に記載する微粉末タルクを準備した。
(14)微粉末タルク(D)
浅田製粉社製(銘柄名:JM−209)であり、以下の特性を有する。
・平均粒径:4.2μm
【0110】
[実施例1〜4および比較例1〜17]
表2〜4に示した配合割合で結晶性プロピレンブロック共重合体(A)と、結晶性プロピレンブロック共重合体(B)とエラストマー(C)と無機フィラー(D)に該当する各成分を、タンブラー(SKD−10:株式会社プラテック製)で10分ドライブレンドし、二軸混練機(Tex−30α:日本製鋼所製)を用いて設定温度:200℃、スクリュー回転数:1100rpm、吐出量:100kg/hrで溶融混合後、ペレタイザー(H73023:いすず化工機株式会社製)で巻き取り出力60%にて造粒し各組成物のペレットを得た。これらの組成物ペレットを用いて、所定の試験片および角板を成形した。一般機械物性(曲げ弾性率、引張り破断伸び、Izod衝撃強度)については通常成形でのテストピースにて評価を行った。
【0111】
得られた組成物ペレットを用いて行った各種試験における物性測定結果およびウェルド長さ、フローマーク消失長さを表2〜4に記載する。
本発明に係るポリプロピレン系樹脂組成物(I)は、自動車材用途を満足する機械物性及び、優れた成形性を得ることが可能となった。特に、上記実施例に記載のポリプロピレン系樹脂組成物(I)は以下の(i)〜(iv)のような特徴を有する。
(i)230℃でのMFRが20〜80g/10min、曲げ弾性率が1800MPa以上、かつアイゾッド衝撃強度(23℃)が300J/m以上であること
(ii)上述した分析方法(8)で測定される、成形品表面に発生するウェルド発生長さが170mm以下
(iii)上述した分析方法(9)で測定される、成形品表面に発生するフローマーク未発生長さが130mm以上
(iv)上述した分析方法(10)で測定される、射出成形時の流動長(スパイラルフロー)が125cm以上
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】

【0114】
【表3】

【0115】
【表4】

本発明に係る実施例1〜4の成形体に対し、比較例15の成形体は、結晶性プロピレンブロック共重合体として、チーグラー・ナッタ触媒で製造した結晶性プロピレンブロック共重合体(A−1、(A−2)のみを用いているため、機械物性・フローマークは改良できるがウェルドラインが悪化する。
【0116】
また、比較例3,10,11の成形体は、結晶性プロピレンブロック共重合体として極限粘度[η]の高い成分を含まない共重合体(A−2)のみを用いているため、機械物性もフロ−マークも悪化する。
【0117】
さらに、比較例4,12,13の成形体は、結晶性プロピレンブロック共重合体として、メタロセン化合物含有触媒で製造したプロピレン系ブロック共重合体(B−3−1)または(B−3−2)のみを用いているため、機械物性、フローマークが悪化する。
【0118】
比較例1,2,5,6,7,8,9,14,16,17の成形体は、チーグラー・ナッタ触媒で製造した結晶性プロピレンブロック共重合体、メタロセン化合物含有触媒で製造した結晶性プロピレンブロック共重合体のいずれかの物性が、本願請求項に規定した範囲外となる共重合体を併用したもの、または結晶性プロピレンブロック共重合体(A)および(B)の配合量が本願発明で規定する範囲外となるものであり、機械物性、フローマーク、ウェルドラインに関して悪化する。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明における特定のポリプロピレン系樹脂組成物から得られる成形体は、機械物性を保持しながら、ウェルドライン外観、フローマーク外観に優れ、かつ射出成形時の流動性に優れることから、バンパー、インパネ等の大型自動車材用部品に好適に使用することができる。
【0120】
本発明におけるポリプロピレン系樹脂組成物は、エラストマー成分の含有量を既存のポリプロピレン系樹脂組成物に比べて減らしても同等の機械物性を得ることができるため、ポリプロピレン系樹脂組成物製造プロセスを簡便にでき、製造コストを低減することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(5)を満足する結晶性プロピレンブロック共重合体(A)11〜50重量%と、
下記(6)〜(10)を満足する結晶性プロピレンブロック共重合体(B)25〜65重量%と、
エラストマー(C)0〜20重量%と、
無機フィラー(D)10〜30重量%、
とからなり(ただし、(A)〜(D)の合計は100重量%)、下記(11),(12)を満たすポリプロピレン系樹脂組成物。
・プロピレンブロック共重合体(A)
(1)結晶性プロピレンブロック共重合体(A)中のエチレン・プロピレンランダム共重合体部を主成分とする室温n−デカン可溶部(以下、Dsolと記載)が5〜15重量%
(2)結晶性プロピレンブロック共重合体(A)中のDsolの分子量分布である重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(以下、Mw/Mnと記載)が3.5以上
(3)結晶性プロピレンブロック共重合体(A)中のDsolの135℃デカリン溶液中で測定した極限粘度[η]が5.0〜11.0dl/g
(4)結晶性プロピレンブロック共重合体(A)中のDsolのエチレンの量が20〜60mol%
(5)結晶性プロピレンブロック共重合体(A)中のプロピレン単独重合体部を主成分とする室温n−デカン不溶部(以下、Dinsolと記載)のMw/Mnが3.5以上
・プロピレンブロック共重合体(B)
(6)結晶性プロピレンブロック共重合体(B)中のDsolが15〜65重量%
(7)結晶性プロピレンブロック共重合体(B)中のDsolのMw/Mnが3.5未満
(8)結晶性プロピレンブロック共重合体(B)中のDsolの135℃デカリン溶液中で測定した極限粘度[η]が1.0〜4.0dl/g
(9)結晶性プロピレンブロック共重合体(B)中のDsolのエチレンの量が20〜60mol%
(10)結晶性プロピレンブロック共重合体(A)中のDinsolのMw/Mnが3.5未満
・ポリプロピレン樹脂組成物
(11)ポリプロピレン系樹脂組成物のDinsolのMw/Mnが、2.5以上3.1以下である。
【請求項2】
前記結晶性プロピレンブロック共重合体(A)がチーグラー・ナッタ触媒存在下で製造され、前記結晶性プロピレンブロック共重合体(B)がメタロセン触媒存在下で製造されたことを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂組成物を射出成形することにより得られる射出成形体。
【請求項4】
自動車用部品である、請求項2に記載の射出成形体。
【請求項5】
請求項1または2に記載の結晶性プロピレンブロック共重合体(A)、請求項1または2に記載の結晶性プロピレンブロック共重合体(B)、無機フィラー(D)、および、必要に応じてエラストマー(C)を溶融混練して請求項1または2に記載の樹脂組成物を得るポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−57789(P2011−57789A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207009(P2009−207009)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【Fターム(参考)】