説明

ポリマーアロイとその製造方法

【課題】増粘が抑制され、機械的強度に優れ、良好な形態を保持するポリマーアロイとその製造方法を提供することである。
【解決手段】熱可塑性ポリエステル樹脂95〜5重量部と、第1のポリアミド樹脂5〜95重量部と、多価アルコールを用いて分解して生成された芳香族ポリエステル樹脂及び第2のポリアミド樹脂の少なくともいずれか1種類の樹脂からなる相溶化剤と、からなるポリマーアロイであって、前記熱可塑性ポリエステル樹脂と前記第1のポリアミド樹脂の合計100重量部に対して前記相溶化剤が0.3〜15重量部の範囲であるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリエステルおよびポリアミドからなるポリマーアロイとその製造方法に関し、特に、相溶性が改良され、低価格で、更に耐熱性、剛性、耐薬品性、寸法安定性、及び成形性の全ての面でバランスが良いポリマーアロイとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどに代表される熱可塑性ポリエステルおよびナイロン6やナイロン66などに代表されるポリアミド樹脂は、それぞれエンジニアリングプラスチックとして各種工業分野に使用されている。熱可塑性ポリエステル樹脂は耐熱性、耐薬品性および電気的性質に優れ、また、ポリアミド樹脂は強靱で、潤滑性、耐摩耗性、耐薬品性および耐油性などに優れた樹脂である。しかしながら熱可塑性ポリエステル樹脂は靱性が低い、ポリアミド樹脂は寸法安定性、電気的性質に劣るという欠点を有している。
【0003】
近年、熱可塑性ポリエステルおよびポリアミドの両樹脂の欠点を解消するため、さらに新用途への展開を図るために両樹脂からなるポリマーアロイの研究開発が行われている。しかしながら両樹脂は相溶性に乏しく、機械的強度の大幅な低下、成形品の外観の悪化などの問題点が生じ、単純なポリマーアロイでは実用化は望めないという課題があった。
【0004】
そこで、これまで熱可塑性ポリエステル樹脂およびポリアミド樹脂からポリマーアロイを生成するための相溶化剤の研究・検討がなされてきた。
たとえば、特許文献1には、「ポリマーアロイ」という発明の名称で、(A)熱可塑性ポリエステル95〜5重量部及び(B)ポリアミド5〜95重量部に加え、(C)として(A)と(B)の合計100重量部に対して特定のビスフェノールエーテル化合物が0.3〜10重量部となるものから構成されるポリマーアロイが開示されている。
次に、特許文献2は、「熱可塑性樹脂組成物及び成形品」という発明の名称で、(A)熱可塑性ポリエステル系樹脂、(B)ポリアミド樹脂、(C)エポキシ化ジエン系ブロック共重合体を配合してなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物、及び、その熱可塑性樹脂組成物を用いた成形品に関する技術が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、「ポリエステル系樹脂組成物の製造方法とポリエステル系樹脂組成物とそのポリエステル系樹脂組成物を用いたバインダー」という発明の名称で、ポリエステル系樹脂と多価アルコールを250℃以上320℃以下の範囲の温度で混練する工程と、ポリエステル系樹脂と多価アルコールにポリスチレン系樹脂を加えて250℃以上320℃以下の範囲の温度で混練する工程とを有するポリエステル系樹脂組成物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−188535号公報
【特許文献2】特開2000−219800号公報
【特許文献3】特開2009−29878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載された従来技術の相溶化剤は熱可塑性ポリエステルまたはポリアミドの末端基と反応することにより相溶性が発揮されており、このため、著しい増粘の恐れがあり、その適用範囲に制限があるという課題があった。
また、特許文献3においてはポリエステル系樹脂と多価アルコールとの混練についての記述はあるが、ポリエステル樹脂ならびに特にポリアミド樹脂との相溶性について関する記述やポリエステル系樹脂と多価アルコールを加熱混練して生成される樹脂組成物を相溶剤として用いる技術ではなく、ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂の双方の特徴を活かしたポリマーアロイを製造することができないという課題があった。
【0008】
従って、依然として熱可塑性ポリエステル樹脂およびポリアミド樹脂からポリマーアロイを生成するための低粘度の相溶化剤に関する技術は開発されないままとなっていた。
【0009】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどの熱可塑性ポリエステル樹脂とナイロン6やナイロン66などのポリアミド樹脂に対してアルコールで分解された低粘度の芳香族ポリエステル樹脂またはポリアミド樹脂を相溶化剤として使用することにより、増粘が抑制され、機械的強度に優れ、良好な形態を保持するポリマーアロイとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明であるポリマーアロイは、熱可塑性ポリエステル樹脂95〜5重量部と、第1のポリアミド樹脂5〜95重量部と、多価アルコールを用いて分解して生成された芳香族ポリエステル樹脂及び第2のポリアミド樹脂の少なくともいずれか1種類の樹脂からなる相溶化剤と、からなるポリマーアロイであって、前記熱可塑性ポリエステル樹脂と前記第1のポリアミド樹脂の合計100重量部に対して前記相溶化剤が0.3〜15重量部の範囲であることを特徴とするものである。
上記構成のポリマーアロイでは、多価アルコールを用いて分解して生成された芳香族ポリエステル樹脂及び第2のポリアミド樹脂の少なくともいずれか1種類の樹脂からなる相溶化剤が、熱可塑性ポリエステル樹脂または第1のポリアミド樹脂の末端基と脱水反応を起こし増粘をすると同時に多価アルコールによる分解により粘度の低下をおこすように作用し、その結果、増粘の抑えられたポリマーアロイを生成するように作用する。
【0011】
また、本発明の請求項2に記載のポリマーアロイは、請求項1に記載のポリマーアロイにおいて、前記第1のポリアミド樹脂が、脂肪族ポリアミド樹脂であることを特徴とするものである。
上記構成のポリマーアロイでは、脂肪族ポリアミド樹脂が良好な靱性と高い耐熱性を具備させるように作用する。
【0012】
本発明の請求項3に記載のポリマーアロイの製造方法は、芳香族ポリエステル樹脂及び第2のポリアミド樹脂の少なくとも1種類の樹脂を,多価アルコールを用いて分解して相溶化剤を生成する工程と、この工程で生成された相溶化剤と,熱可塑性ポリエステル樹脂95〜5重量部と,第1のポリアミド樹脂5〜95重量部と,を加熱混練してポリマーアロイを生成する工程とを有するポリマーアロイ製造方法であって、前記相溶化剤は、前記熱可塑性ポリエステル樹脂と前記第2のポリアミド樹脂の合計100重量部に対して0.3〜15重量部の範囲であることを特徴とするものである。
上記構成のポリマーアロイの製造方法は、請求項1に記載されたポリマーアロイを方法の発明として捉えた発明であり、請求項1に記載の発明と同様に、多価アルコールを用いて分解して生成された芳香族ポリエステル樹脂及び第2のポリアミド樹脂の少なくともいずれか1種類の樹脂からなる相溶化剤が、熱可塑性ポリエステル樹脂または第1のポリアミド樹脂の末端基と脱水反応を起こし増粘をすると同時に多価アルコールによる分解により粘度の低下をおこすように作用し、その結果、増粘の抑えられたポリマーアロイを生成するように作用する。
【0013】
本発明の請求項4に記載のポリマーアロイの製造方法は、請求項3に記載されるポリマーアロイの製造方法において、前記相溶化剤を生成する工程においては、前記芳香族ポリエステル樹脂及び第2のポリアミド樹脂の両方の樹脂を用いつつ、しかも両方の樹脂を一括同時に,前記多価アルコールを用いて分解することを特徴とするものである。
相溶化剤の生成において、芳香族ポリエステル樹脂及び第2のポリアミド樹脂の両方の樹脂を用いることで、熱可塑性ポリエステル樹脂と第1のポリアミド樹脂の両方との接着性が向上するように作用する。
その理由について説明する。ポリエステル系相溶化剤とポリアミド系相溶化剤では、樹脂に対して相溶性がやや異なっている。特にポリアミド系相溶化剤では、ポリエステル系樹脂に対してあまり良好でないことが知られている。このため、2種類の樹脂(芳香族ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂)に、別々に多価アルコール処理したポリエステル系相溶化剤とポリアミド系相溶化剤の2種類を混練すると、特にポリアミド系樹脂の方に偏析してしまい、実質的にポリエステル系相溶化剤のみが作用しているのと同じ状態になる。しかしポリエステル系相溶化剤は特性上強度的に低いので、ポリマーアロイとしても強度の向上が不十分となる。
一方、本願発明のようにポリエステル系樹脂とポリアミド系樹脂を同時に多価アルコール処理すると、両者に反応が進行するので、ポリエステル系樹脂とポリアミド系樹脂の両方に反応性のある相溶化剤が生成されるのである。また、ポリエステル系相溶化剤の弱点の低強度がポリアミド成分によって改善され、強度的にも良好で,両樹脂に反応性を有する相溶化剤となるのである。
【0014】
本発明の請求項5に記載のポリマーアロイの製造方法は、多価アルコールを用いて分解して生成された芳香族ポリエステル樹脂及び第2のポリアミド樹脂の少なくともいずれか1種類の樹脂からなる相溶化剤を、熱可塑性ポリエステル樹脂又は第1のポリアミド樹脂に25重量%〜75重量%の範囲で配合してマスターバッチを生成する工程と、この工程で生成されたマスターバッチと,熱可塑性ポリエステル樹脂と,第2のポリアミド樹脂と,を加熱混練してポリマーアロイを生成する工程とを有するポリマーアロイ製造方法であって、前記相溶化剤は、前記熱可塑性ポリエステル樹脂と前記第1のポリアミド樹脂の合計100重量部に対して0.3〜15重量部の範囲であることを特徴とするものである。
本発明に使用される相溶化剤は、熱可塑性ポリエステル樹脂や第1のポリアミド樹脂に比べ低粘度であるため、これらの成分に対して少量配合する時には、相溶化剤の十分な分散を達成するためには、高混練の押出機にて混練を行う必要があるが、高混練により発生する樹脂温度の著しい上昇のため熱可塑性ポリエステル樹脂、第1のポリアミド樹脂自身の特性が低下する。この問題を避けるため、相溶化剤が熱可塑性ポリエステル樹脂、第1のポリアミド樹脂に対して優れた溶解性を示す点を利用し、相溶化剤と熱可塑性ポリエステル樹脂及び第1のポリアミド樹脂を予め混合して配合されるべき相溶化剤よりも多い量として加えられる高濃度のマスターバッチを製造しておき、このマスターバッチを製造に際して用いることで、少量配合時には必要であった高混練の押出機は不要となり、通常の混練機で容易に優れた特性のポリマーアロイを製造することが可能である。従って、高混練の装置を用いる際の発熱もなく、熱可塑性ポリエステル樹脂、第1のポリアミド樹脂の特性が低下することがない。なお、マスターバッチの製造は容易であることから、予めマスターバッチを製造しておいて、それを用いてポリマーアロイを製造することに困難な点はない。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1に記載のポリマーアロイは、芳香族ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂の極めて広い範囲の混合比率において生成されることが可能である。また、ポリマーアロイは優れた相溶性を備えることが可能であり、機械的特性及び流動性にも優れている。芳香族ポリエステル樹脂と第2のポリアミド樹脂の少なくともいずれか1種類の樹脂を多価アルコールを用いて分解して生成された相溶化剤を用いることで、増粘を抑制した相溶性を発揮することが可能であり、機械的強度も向上させることが可能である。
【0016】
また、本発明の請求項2に記載のポリマーアロイは、請求項1に記載の発明の効果に加えて、特に、良好な靱性と高い耐熱性を備えることが可能である。
【0017】
本発明の請求項3に記載のポリマーアロイの製造方法は、請求項1に記載されたポリマーアロイを方法の発明として捉えた発明であり、請求項1に記載の発明と同様の効果を発揮することができる。
【0018】
本発明の請求項4に記載のポリマーアロイの製造方法は、請求項4に記載の発明の効果に加えて、相溶化剤の生成において、芳香族ポリエステル樹脂及び第2のポリアミド樹脂の両方の樹脂を用いることで、熱可塑性ポリエステル樹脂と第1のポリアミド樹脂の両方との接着性を向上させることが可能である。
【0019】
本発明の請求項5に記載のポリマーアロイの製造方法は、マスターバッチを予め製造しておいて、これをポリマーアロイを製造する際に用いることで、高混練によって発生する樹脂温度の上昇を抑制しながら容易に優れた特性のポリマーアロイを製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係るポリマーアロイの製造方法を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明に係るポリマーアロイとその製造方法に関する実施の形態を図1を参照しながら説明する。
図1は本実施の形態に係るポリマーアロイの製造方法を示す概念図である。
本実施の形態に係るポリマーアロイは、多価アルコールで分解された,低粘度の芳香族ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂のうち少なくともいずれか1種類の樹脂である相溶化剤(以下、これを成分Cという場合がある)と、熱可塑性ポリエステル樹脂(以下、これを成分Aという場合がある)と、第1のポリアミド樹脂としてのポリアミド樹脂(以下、これを成分Bという場合がある)と、を加熱混合して生成されるものである。
ステップS1では、低粘度である芳香族ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂のうち少なくとも1種類の樹脂をラボプラストミル、2軸押出機、バンバリーミキサー及びベッセルなどの混練装置に投入する工程である。また、その後に多価アルコールを添加するのがステップS2である。そして、加熱混合すること(ステップS3)でステップS1で投入された芳香族ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂のうち少なくとも1種類を分解することで、相溶化剤を生成することができる。これらのステップS1からステップS3までが相溶化剤生成工程となる。
なお、ステップS1乃至S3において、芳香族ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂の両方の樹脂を投入しつつ、しかも両方の樹脂を一括同時に,多価アルコールを用いて分解してもよい。両方の樹脂を用いることで、熱可塑性ポリエステル樹脂(成分A)とポリアミド樹脂(成分B)の両方との接着性が向上するように作用するからである。
ステップS4は、相溶化剤ができた後に、相溶化剤に対して、熱可塑性ポリエステル樹脂と、ポリアミド樹脂を投入する工程である。これらの配合については後述する。
ステップS5では、相溶化剤、熱可塑性ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂を加熱混合する工程である。なお、図1においては、相溶化剤を生成した後に、熱可塑性ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂を投入するように記載されているが、これは相溶化剤が生成された後にそこへ熱可塑性ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂を投入する意味の他、相溶化剤を別に生成しておき、熱可塑性ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂を投入した後に、相溶化剤を投入したり、熱可塑性ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂と相溶化剤を同時に投入して加熱混合することも含む概念である。
加熱混合した後に、冷却してポリマーアロイを得る。これらのステップS4乃至S6が、ポリマーアロイ生成工程である。
【0022】
なお、溶融した成分Cの相溶化剤は、熱可塑性ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂の両者に高い相溶性を有しているので、熱可塑性ポリエステルとポリアミドが配合比率に応じて相互に微細分散した構造を有し、靭性、耐熱性及び流動性などが優れたポリマーアロイが形成される。
また、本願特許請求の範囲及び明細書においては、相溶化剤に含まれるポリアミド樹脂を第2のポリアミド樹脂(成分Cの一部)とし、相溶化剤と混合してポリマーアロイを製造するために加えられるポリアミド樹脂を第2のポリアミド樹脂と区別して第1のポリアミド樹脂(成分B)ということにする。
実際の詳細な製造方法の配合材料、温度条件及び配合条件については、以下の実施の形態あるいは実施例で説明する。
【0023】
以下、本実施の形態についてさらに詳しく説明する。
本発明の実施の形態における熱可塑性ポリエステル樹脂(成分A)とは、エステル結合を主たる結合単位として有する重合体であって、具体的にはテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、α,β−ビス(4−カルボキシフェノキシ)エタン、アジピン酸セバチン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、シスロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などのジカルボン酸類またはそのエステル形成性誘導体と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA、2,2−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、キシリレングリコール、ポリエチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、両末端が水酸基である脂肪族ポリエステルオリゴマーなどのグリコール類またはそのエステル形成性誘導体とを構成成分とする熱可塑性ポリエステル樹脂である。
【0024】
またコモノマー成分としてグリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフェニル酢酸、ナフチルグリコール酸のようなヒドロキシカルボン酸、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトンのようなラクトン化合物あるいは熱可塑性を保持しうる範囲内でトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸のような多官能性エステル形成性成分を含んでいてもよい。また、ジブロモテレフタル酸、テトラブロモテレフタル酸、テトラブロモフタル酸、テトラクロロテレフタル酸、1,4−ジメチロールテトラブロモベンゼン、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような芳香族核に塩素や臭素の如きハロゲン化合物を置換基として有し、且つエステル形成性基を有するハロゲン化合物を共重合した熱可塑性ポリエステル樹脂も含まれる。さらに、溶融時に光学的異方性を示す液晶性ポリエステル、具体的には(全)芳香族ポリエステルも含まれる。
【0025】
好ましい熱可塑性ポリエステル樹脂として、より具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリ(エチレン・ブチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレン・テトラメチレンテレフタレート)などが挙げられ、これらは単独もしくは混合物として使用することができる。特に好ましい熱可塑性ポリエステル樹脂は、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートであり、さらにはポリブチレンテレフタレートである。ここで好ましいポリブチレンテレフタレートとは、酸成分にテレフタル酸、グリコール成分に1,4−ブタンジオールを主たる基本成分とし、必要に応じ適宜に共重合可能な酸成分またはグリコール成分を共重合させたものである。共重合可能な酸成分、グリコール成分は前記したものから選択することができる。
【0026】
これら熱可塑性ポリエステル樹脂の固有粘度は、重量比で5対5となるフェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの混合溶媒中、濃度1重量%において30℃で測定した溶液粘度であるが、0.5〜2.0dl/gの範囲であり、より好ましくは0.5〜1.20dl/gの範囲のものである。固有粘度が0.5dl/gより低いと、機械的強度が発揮されない。また固有粘度が2.0dl/gより大きいと、微分散が困難になり機械的強度も十分発揮されない。
【0027】
本実施の形態に用いられるポリアミド樹脂(B成分)は、酸アミド結合(−CONH−)を繰返単位として有する高分子である。なお、後述するように、相溶化剤に含まれるポリアミド樹脂も以下に示すポリアミドを用いることができるが、その種類については同一種類を用いてもよいし、異なる種類のポリアミドを用いてもよい。
本実施の形態に用いることができるポリアミドは、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとカルボン酸をモノマーとして重合されたものである。モノマーの具体例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3、5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどのジアミンと、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンニ酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ジグリコール酸などのジカルボン酸との組み合わせたものがある。
【0028】
これらのモノマーより得られるポリアミドとしては、例えば、ナイロン3、ナイロン4、ナイロン4−6、ナイロン6、ナイロン6T、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ポリアミド6−12、ナイロン7、ナイロン8、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ポリアミドMXD6、およびこれらの共重合ポリアミドなどがある。これらは単独もしくは混合物として使用することができる。
【0029】
本実施の形態により好ましくは、芳香族基を含有したモノマー(たとえばテレフタル酸、イソフタル酸、メタキシリレンジアミンなど)の含有率が10重量%以下のポリアミド樹脂(以下、脂肪族ポリアミド樹脂と言う)であり、ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂、共重合ポリアミド6/66樹脂、ポリアミド6/10、ポリアミド12などが挙げられる。これらの脂肪族ポリアミド樹脂は、高い耐熱性、高い靱性を有し、同時に入手のしやすい点で好ましい。これらポリアミドの粘度数は、JIS K6933に準拠して96%硫酸中濃度1%、温度23℃で測定した値で、80〜350ml/gの範囲、より好ましくは100〜200ml/gであり、さらに好ましくは110〜150ml/gである。粘度数が80ml/gより低いと分子量が小さいため、機械的強度が低下する。また粘度数が350ml/gより高いと均一溶解が困難になり、得られるポリマーアロイの流動性が低下し、機械的強度が低下する。
【0030】
次に、多価アルコールで分解された、低粘度の芳香族ポリエステル樹脂(以下、成分C−1ということがある)およびポリアミド樹脂(以下、成分C−2ということがある)である相溶化剤(成分C)の詳細について説明する。
まず、成分C−1について説明する。本願明細書内における多価アルコールでの分解前芳香族ポリエステル樹脂(以下、分解前芳香族ポリエステル樹脂ということがある)は、芳香環を重合体の連鎖単位に有するポリエステル樹脂で、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と、ジオール又はそのエステル形成性誘導体とを主成分として、これらの縮合反応により得られる重合体又は共重合体である。したがって前記熱可塑性ポリエステル樹脂のうちで芳香環を重合体の連鎖単位に有したものであれば、成分Aと同一であっても、異なっていてもよい。
【0031】
つまり、分解前芳香族ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリへキシレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレートなどや、共重合体であるポリエチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレ−ト/ポリテトラメチレングリコールなどの共重合ポリエステルが挙げられる。また、これらの分解前芳香族ポリエステル樹脂が酸無水物のグラフト共重合などで変性されていてもよい。
特に、分解前芳香族ポリエステル樹脂には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのいわゆるホモポリエステル樹脂、ならびに酸成分にテレフタル酸とイソフタル酸を用いた共重合ポリエステル樹脂が好ましい。共重合樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレートなどである。これらの共重合ポリエステル樹脂は、低い温度でアルコールによる分解が進行するので着色などが少なく好ましい。
【0032】
分解前芳香族ポリエステル樹脂と多価アルコールの反応は、220〜350℃の温度範囲の加熱下で混練することによって起こり、芳香族ポリエステル樹脂のエステル基に多価アルコールの水酸基が反応して芳香族ポリエステル樹脂の主鎖が切断して分子量が低下するとともに、芳香族ポリエステル樹脂の主鎖に多価アルコールが反応することにより、芳香族ポリエステル樹脂に分岐構造を与える。
このような多価アルコールを用いて分解された芳香族ポリエステル樹脂は分岐構造によって結晶化しにくい構造となる。ポリエチレンテレフタレートの場合、示差走査熱量計測定(昇温速度5℃/分)を行うと、40〜70℃の温度範囲に大きなガラス転移温度ピーク、120〜160℃の温度範囲に結晶化ピーク及び180〜210℃の温度範囲に融点ピークが認められ、結晶化度が低く、非晶領域を多く含む低結晶性構造になっていることがわかる。
したがって、接着剤として用いる場合には、急速加熱することにより融点まで加熱しなくても接着することが可能であり、接着操作時の温度や酸化による変色や劣化を抑えることができる。
【0033】
なお、芳香族ポリエステル樹脂は、固有粘度を0.08〜0.25dl/gの範囲、さらに好ましくは0.10〜0.20dl/gの範囲であればよいが、低結晶性を得るためには分岐構造を有していることが好ましい。固有粘度が0.08dl/g未満であると、ポリエステルやポリアミドとの反応性が大きく、得られるポリマーアロイの粘度維持が困難になり、相溶化剤としては好ましくない。固有粘度が0.25dl/gより大きいと粘度を高過ぎて、相溶化剤としての機能が発揮されなくなる。
多価アルコールによるアルコール分解を行わない場合は、芳香族ポリエステル樹脂を、テレフタル酸などのジカルボン酸とエチレングリコールなどのジオールと少量のグリセリンなどの多価アルコールとの共重合により調整し、3価以上の多価アルコールを含有させるとよい。しかし、アルコール分解法により製造する方が、コスト面で有利であり、さらにはリサイクル材料を有効に活用できる点からも推奨される。
【0034】
次に、成分C−2のポリアミド樹脂タイプの相溶化剤について説明する。本願明細書内におけるアルコールでの分解前ポリアミド樹脂(以下、分解前ポリアミド樹脂ということがある)としては、前述のとおり、成分Bと同一であっても、異なっていてもよい。好ましくは、ε−カプロラクタムまたはε−アミノカプロン酸を主原料とするポリアミド6樹脂、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の等モル塩を主原料とするポリアミド66樹脂、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の等モル塩とε−カプロラクタムまたはε−アミノカプロン酸とを主原料とした共重合ポリアミド6/66樹脂、メタキシリレンジアミンとアジピン酸とを主原料とするポリアミドMXD6が挙げられ、これらのポリアミド樹脂をブレンドして用いてもよい。
より好ましくは、芳香族基を含有したモノマー(たとえばテレフタル酸、イソフタル酸、メタキシリレンジアミンなど)の含有率が10重量%以下のポリアミド樹脂(以下、脂肪族ポリアミド樹脂と言う)であり、ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂、共重合ポリアミド6/66樹脂、ポリアミド6/10、ポリアミド12などが挙げられる。これらの脂肪族ポリアミド樹脂は、高い耐熱性、高い靱性を有し、同時に入手のしやすい点で好ましい。
【0035】
これらの脂肪族ポリアミド樹脂のなかでも、アミド基比率(主鎖の結合(−CH2−)に対する結合(−CONH−)の比率、すなわち、結合(−CONH−)/結合(−CH2−))が1/3〜1/12の範囲にあるものが好ましく、1/4.5〜1/7が更に好ましい。
その代表的なものとしては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド610が挙げられる。その中でも、好ましい脂肪族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド6/66共重合体が挙げられ、これらを複数種併用してもよい。アミド基比率は1/3に近いほど耐熱性が高くなり好ましいが、同時に樹脂のコストも高くなるため、1/3以下であることが好ましい。また、アミド基比率を1/12以上とすることにより、接着性を維持することができる。
また、本実施の形態に好適な分解前ポリアミド樹脂はある範囲内の重合度、すなわち粘度数は、汎用に入手可能なポリアミド樹脂の粘度数であるものが好ましい。好ましい粘度数は、JIS K6933に準拠して96%硫酸中濃度1%、温度23℃でポリアミド樹脂ペレットに対して測定した値で80〜300ml/gの範囲、より好ましくは100〜200ml/gである。粘度数が80ml/gより低いと得られた製品の分子量が小さいため、機械的強度が低下する。また粘度数が300ml/gより高いと分解に時間を要し、流動性が低下した製品しか得ることができず、好ましくない。
【0036】
本実施の形態の分解後ポリアミド樹脂の粘度数は、40〜150ml/gの範囲が好ましい。より好ましくは60〜120ml/gの範囲である。粘度数が40ml/gより低いと分子量が小さいため、機械的強度が低下する。また粘度数が150ml/gより高いと流動性が低下し、接着剤や樹脂バインダーとして好ましくない。
また、多価アルコールには、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどのグリコール類や、トリメチロールプロパン、グリセリンなどのトリオール類や、ペンタエリスリトールなどの四官能アルコール類や、ソルビトール、シュークロースなどの多糖類や、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式アルコールや、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどの高分子量アルコールを用いることができる。中でも、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの3ないし4価のアルコールが好ましく、特に、グリセリンは沸点が高いのでハンドリングが容易であり好ましい。また、配合する割合は、芳香族ポリエステル樹脂100重量部に対して、多価アルコールを2〜15重量部添加するとよく、さらには5〜10重量部が好適である。またポリアミド樹脂の場合は、ポリアミド樹脂100重量部に対して、多価アルコールを2〜30重量部添加するとよく、さらには5〜25重量部が好適である。なお、多価アルコールの添加量が少ないと、反応性が低下する。逆に、添加量が多すぎると、反応性が過激になり、増粘する。
なお、芳香族ポリエステル樹脂またはポリアミド樹脂の多価アルコールによる分解後の固有粘度または粘度数は、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂の種類及びアルコールでの分解前の固有粘度、粘度数と、多価アルコールの種類及び添加量、分解時の温度によって変化する。
【0037】
また、分解前芳香族ポリエステル樹脂あるいはポリアミド樹脂は、重合直後のバージンの芳香族ポリエステル樹脂でよいし、重合工程内や射出又は押出成形工程内などから排出されたペレットやパージ塊などの回収品でもよい。さらには市場にて消費された後の廃棄物でも良く、例えば、ペットボトル、食品トレーあるいはファイバーなどのリサイクル材料を用いることもできる。リサイクル材料を用いる場合には、樹脂劣化の黒点物や砂などの異物を含有していることが多いが、得られる熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度が極めて低いので、製造工程においてフィルターを設置することにより、これらの異物は容易に除去することができる。
相溶化剤としては、成分C−1の芳香族ポリエステル樹脂タイプが、成分Aおよび成分Bの両者に対し相溶性があり好ましいが、成分C−1の芳香族ポリエステル樹脂タイプと成分C−2ポリアミド樹脂タイプの併用がさらに相溶性が向上する。特に分解前芳香族ポリエステル樹脂と分解前ポリアミド樹脂を一括同時に多価アルコールにより分解し、生成された一括処理タイプがさらに好ましい。
【0038】
熱可塑性ポリエステル樹脂(成分A)とポリアミド樹脂(成分B)は、両者の合計量100重量部当り、熱可塑性ポリエステル樹脂95〜5重量部およびポリアミド樹脂5〜95重量部の割合で配合する。また、成分Cの添加量は熱可塑性ポリエステル樹脂およびポリアミドの合計100重量部に対して0.3〜15重量部である。かかる量が0.3重量部未満ではその効果が少なく、また15重量部を越えてもその効果はさほど変わらず、それだけ経済的に不利となる。
本実施の形態の組成物には以上の各成分の他に、本実施の形態の効果を損なうことがない範囲内において下記の如き充填剤、補強剤、添加剤などを添加することができる。かかる充填剤としては、ガラス繊維,炭素繊維,チタン酸カリウム,アスベスト,炭化ケイ素、セラミック繊維,金属繊維,窒化ケイ素などの無機系繊維状充填剤、硫酸バリウム,硫酸カルシウム,ベントナイト,セリサイト,ゼオライト,マイカ,雲母,タルク,フェライト,硅酸カルシウム,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,ドロマイト,三酸化アンチモン,酸化亜鉛,酸化チタン,酸化マグネシウム,酸化鉄,二硫化モリブテン,黒鉛,石膏,ガラスパウダー,ガラスバルーン,石英,石英ガラスなどの無機系粉粒体または板状もしくはフレーク状充填剤、アラミド繊維などの有機系充填剤などを挙げることができる。さらに、少量の離型剤、カップリング剤、着色剤、滑剤、耐熱安定剤、耐候性安定剤、発泡剤、難燃剤、三酸化アンチモンなどの難燃助剤などを適宜添加してもよい。
【0039】
本実施の形態のポリマーアロイの製造方法のうち、どのようなポリマーアロイの生成工程を用いるかは特に制限なく、従来公知の方法により行うことができる。通常は、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、相溶化剤および必要に応じ前述の充填剤、添加剤などを、同時にあるいは各々2ないし3成分を予備混合して、または予備混合せずに単軸あるいは多軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーなどの通常の溶融混練加工装置に供給し溶融混練する方法を採用することができる。
また、そのほか、本実施の形態の配合成分のうち相溶化剤の高濃度マスターバッチを作成しておいて、成分Cの配合に利用する方法も好ましい。成分Cは低粘度であるので、成分Aや成分Bなどと同時に押出機に投入混練すると安定した混練に支障が発生する恐れがあるが、この点の解消に効果的である。成分Cは、ポリエステルやポリアミドと高濃度に溶解するので、高濃度マスターバッチの製造法として、相溶化剤、ポリエステルまたはポリアミドの融点まで、成分Cの相溶化剤をベッセル内で撹拌加熱し熔解し、そこにポリエステルやポリアミドを投入し、温度を保持して、溶解させることにより均一融液になった後、ベッセルから取り出し冷却することにより得ることができる。マスターバッチを利用した方法は、成分Cの相溶化剤としての安定した溶解能力を受け、良好な混合・分散状態をとり、さらにその分散構造が安定化・固定化することがある。
【0040】
本実施の形態に係るポリマーアロイは、各々の樹脂が持っている特性、つまり熱可塑性ポリエステル樹脂の耐熱性、耐薬品性および電気的性質、ポリアミドの強靱性、潤滑性、耐摩耗性、耐薬品性および耐油性といった優れた諸特性を損なうことなく、相溶性が著しく改良されたものであり、高流動性で、機械的強度などの諸特性が改善される。
したがって、本実施の形態に係るポリマーアロイは、射出成形、押出成形、吹込成形、圧縮成形など通常の熱可塑性樹脂に対して用いられる成形に供することにより優れた物性の成形品を得ることができ、各種自動車部品、機械部品、電気・電子部品、一般雑貨などとして有用である。
例えば、各種建築物や航空機・自動車の内装用部品、スイッチ、コネクター、プリント基板、コイルボビン、ハウジングケースなどの電気・電子部品、ベアリング、ギヤー、軸受けリベット、ナットなどの一般機械部品、OA機器部品・カメラ部品・時計部品などの精密部品、またテニスラケット、スキー、ゴルフクラブ、釣竿などのレジャー・スポーツ用具、日用雑貨、塗料、絶縁剤などに使用することができる。
続いて、本実施の形態に係るポリマーアロイとその製造方法に関する実施例について説明する。
【実施例】
【0041】
以下に、本実施の形態を実施例により具体的に説明する。
まず、使用した各成分について説明する。
熱可塑性ポリエステル樹脂(成分A):ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)であり、三菱エンジニアリングプラスチックス社製 ノバデュラン5008 固有粘度0.85dl/g。
ポリアミド樹脂(成分B):ナイロン6樹脂(PA6)であり、宇部興産社製 UBEナイロン 1011FB 粘度数130ml/g。
【0042】
原料である分解前芳香族ポリエステル樹脂の種類を変更して、2種類の芳香族ポリエステル樹脂タイプ(成分C−1)の相溶化剤を作製した。
第1の原料として、シート成型工場から排出された共重合ポリエステル樹脂のパージ塊を用いた。この共重合ポリエステル樹脂は、固有粘度が0.61dl/gの、テレフタル酸とイソフタル酸のモル比率が93/7である共重合ポリエステル樹脂(PET/Iと略記することがある)であり、また、樹脂劣化黒点が散見された。
そして、粉砕した共重合ポリエステル樹脂18.8kgに、多価アルコールとしてのグリセリン1.2kgを2軸押出機に投入した。
2軸押出機において、ホッパー下以外のシリンダー温度を320℃、回転数を250rpmとして、共重合ポリエステル樹脂とグリセリンを混練した。なお、共重合ポリエステル樹脂及びグリセリンは連続的に供給され、2軸押出機内部での平均の混練時間は5分である。
混練が終了すると、2軸押出機の出口ノズルから、低粘度の溶融樹脂が排出された。この溶融樹脂を水に浮かべたアルミパンに取り出して冷却すると脆い無色透明の固体が得られた。得られた固体を室温で粉砕して粉体とし、(C−1)芳香族ポリエステル樹脂タイプの相溶化剤となる試料1とした。試料1の固有粘度は0.14dl/gであり、また、2軸押出機の先端に350メッシュのフィルターを設置したので樹脂劣化黒点は目視観察されなかった。この試料1をフライパン上で加熱すると、約100℃で流動性の高い液体となり、再度冷却すると80℃で固体となった。
第2の原料として、ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバデュラン5010 固有粘度1.1dl/g)を用いた。
そして、グリセリン2.0kgをリービッヒ冷却管付きセパラブルフラスコにて240℃に昇温した。そこにポリブチレンテレフタレート樹脂ペレット18.0kgを投入し、無色の透明融液になるまで撹拌溶解した。 この溶融樹脂を水に浮かべたアルミパンに取り出して冷却すると脆い白褐色の固体が得られた。得られた固体を室温で粉砕して粉体とし、芳香族ポリエステル樹脂タイプ(成分C−1)の相溶化剤となる試料2とした。試料2の固有粘度は0.12dl/gであった。
【0043】
次に、前記ポリアミド6樹脂を原料として、ポリアミド樹脂タイプ(成分C−2)の相溶化剤を次のように作成した。
多価アルコールとしてのグリセリン2.0kgをリービッヒ冷却管付きセパラブルフラスコにて240℃に昇温した。そこにペレット状ポリアミド6樹脂(宇部興産(株)製、商品名UBEナイロン 1011FB)18.0kgを、グリセリン温度が低下しないように分割投入した。褐色の透明融液になるまで撹拌溶解した。均一な液体となったので、攪拌を中止して、水に浮かべたアルミパンに取り出して冷却するとキャラメル色の固体が得られた。得られた固体を100℃で真空乾燥後、室温で粉砕して粉体とし、本発明の(C−2)ポリアミド樹脂タイプの相溶化剤となる試料3とした。試料3の粘度数は73ml/g、融点205℃であった。
【0044】
分解前芳香族ポリエステル樹脂としてPBT樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名ノバデュラン5010)と分解前ポリアミド樹脂としてポリアミド共重合樹脂((宇部興産(株)製、商品名UBEナイロン 5013B、粘度数135ml/g)のそれぞれ525gを、2.5リッターのセパラブルフラスコ中の240℃に加熱されたグリセリン150gに一括同時に投入し、加熱下で攪拌した。240℃で均一な低粘度の液体となったので、攪拌を中止して、水に浮かべたアルミパンに取り出して冷却すると黄褐色の固体が得られた。この固体はハンマーで強く叩かないと破断しないほどに強固なものであった。得られた固体を室温で粉砕して粉体とし、一括処理タイプの相溶化剤となる試料4とした
【0045】
試料1をセパラブルフラスコ中で240℃で加熱溶融し、前記(B)のポリアミド6(UBEナイロン 1011FB)を等量溶融混合し、50重量%相溶化剤が含有したマスターバッチ(MB1)を製造した。
また試料1を試料2に変更して同様にマスターバッチ(MB2)を製造した。次に試料1を試料3に、さらにポリアミド樹脂をPBT(ノバデュラン5010)に変更した以外同様にマスターバッチ(MB3)を製造した。
【0046】
表1に記載の組成になるように成分A、成分Bおよび成分Cをヘンシェルミキサーで混合し、2軸押出機で250℃(ホッパ下は200℃)にて混練し各組成物を得た。次に、それらを射出成形機により樹脂温度260℃、金型温度70℃で試験片を作成した。実験No10〜12の試験片は成分がよく混合してないことをうかがわせるように成形品表面が荒れていた。それ以外は光沢のある良好な外観をしていた。これらの試験片を常温にて20日間水中で吸水処理を行ったものと処理なしについて、機械的特性を測定した。結果を表1に示した。
【0047】
測定した物性の試験方法、評価基準などは次に示す。
1)ノッチ付きシャルピー衝撃強度:ISO179に準じて測定した。
表1に吸水処理前/吸水処理後で示した。(単位 kJ/m
2)曲げ弾性率:ISO178に準じて測定した。
次式にて曲げ弾性率の変化率を計算し、表1に示した。(単位 %)
(Y0−Y20)/Y0×100
ここでY20は、吸水後の曲げ弾性率、Y0は吸水前の曲げ弾性率である
3)組成物の流動性
射出成形による機械的特性測定用試験片の作成時の最小充填圧の測定により評価した。最小充填圧が低ければ、流動性が優れていることを示す。
【0048】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
以上説明したように、本実施の形態に係るポリマーアロイは、従来の欠点、すなわち相溶性、機械的強度の大幅な低下、成形品の外観の悪化などが改良されたものである。つまり本実施の形態によれば熱可塑性ポリエステル樹脂およびポリアミドが持つ優れた特性を保持したまま、特に吸水時の弾性率低下が抑制されるのに、衝撃強度が改善され、さらに流動性の悪化が抑制されるなどの諸特性が著しく向上した、バランスのとれたポリマーアロイを提供することができるので、各種自動車部品、機械部品、電気・電子部品、一般雑貨などとして有用である。
例えば、各種建築物や航空機・自動車の内装用部品、スイッチ、コネクター、プリント基板、コイルボビン、ハウジングケースなどの電気・電子部品、ベアリング、ギヤー、軸受けリベット、ナットなどの一般機械部品、OA機器部品・カメラ部品・時計部品などの精密部品、またテニスラケット、スキー、ゴルフクラブ、釣竿などのレジャー・スポーツ用具、日用雑貨、塗料、絶縁剤などに利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステル樹脂95〜5重量部と、第1のポリアミド樹脂5〜95重量部と、多価アルコールを用いて分解して生成された芳香族ポリエステル樹脂及び第2のポリアミド樹脂の少なくともいずれか1種類の樹脂からなる相溶化剤と、からなるポリマーアロイであって、前記熱可塑性ポリエステル樹脂と前記第1のポリアミド樹脂の合計100重量部に対して前記相溶化剤が0.3〜15重量部の範囲であることを特徴とするポリマーアロイ。
【請求項2】
前記第1のポリアミド樹脂が、脂肪族ポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のポリマーアロイ。
【請求項3】
芳香族ポリエステル樹脂及び第2のポリアミド樹脂の少なくとも1種類の樹脂を,多価アルコールを用いて分解して相溶化剤を生成する工程と、この工程で生成された相溶化剤と,熱可塑性ポリエステル樹脂95〜5重量部と,第1のポリアミド樹脂5〜95重量部と,を加熱混練してポリマーアロイを生成する工程とを有するポリマーアロイ製造方法であって、前記相溶化剤は、前記熱可塑性ポリエステル樹脂と前記第2のポリアミド樹脂の合計100重量部に対して0.3〜15重量部の範囲であることを特徴とするポリマーアロイの製造方法。
【請求項4】
前記相溶化剤を生成する工程においては、前記芳香族ポリエステル樹脂及び第2のポリアミド樹脂の両方の樹脂を用いつつ、しかも両方の樹脂を一括同時に,前記多価アルコールを用いて分解することを特徴とする請求項3記載のポリマーアロイの製造方法。
【請求項5】
多価アルコールを用いて分解して生成された芳香族ポリエステル樹脂及び第2のポリアミド樹脂の少なくともいずれか1種類の樹脂からなる相溶化剤を、熱可塑性ポリエステル樹脂又は第1のポリアミド樹脂に25重量%〜75重量%の範囲で配合してマスターバッチを生成する工程と、この工程で生成されたマスターバッチと,熱可塑性ポリエステル樹脂と,第2のポリアミド樹脂と,を加熱混練してポリマーアロイを生成する工程とを有するポリマーアロイ製造方法であって、前記相溶化剤は、前記熱可塑性ポリエステル樹脂と前記第2のポリアミド樹脂の合計100重量部に対して0.3〜15重量部の範囲であることを特徴とするポリマーアロイの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−12447(P2012−12447A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148457(P2010−148457)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(304022632)株式会社 イチキン (7)
【Fターム(参考)】