説明

ポリマーアロイ用相溶化剤、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物およびフィルム

【課題】ポリフェニレンエーテル系樹脂と液晶ポリエステルをブレンドしてポリマーアロイを調製するための相溶化剤、それを用いたポリフェニレン系樹脂組成物およびフィルムを提供する。
【解決手段】ポリフェニレンエーテル系樹脂と液晶ポリエステルをブレンドしてポリマーアロイを調製するための相溶化剤であって、ポリメタクリル酸グリシジルのみからなるセグメント(A)とポリスチレンのみからなるセグメント(B)を有し、下記(イ)〜(ハ)の特徴を有するブロックポリマーであるポリマーアロイ用相溶化剤
(イ)セグメント(A)とセグメント(B)の重量比(A)/(B)が、0.04〜1.0
(ロ)ブロックポリマーの数平均分子量が、10,000〜200,000
(ハ)分子量分布 1.0〜2.5。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーアロイ用相溶化剤、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物およびフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の異種ポリマーを混合する、ポリマーアロイの技術が高分子化合物の物性改善の手段として盛んに研究されている。ポリマーアロイの目的は、複数の異種ポリマーを混合することによって、各構成ポリマーの特徴を合わせ持ったポリマーを得ることにある。このようなポリマーアロイは既存のポリマーによって構成されるため、ポリマーブレンドによって得られる新規ポリマーの性質が予想できること、新規ポリマーの開発に比べ、開発リスクが小さいことなどの利点から、自動車部品、電気・電子部品などの用途に、ポリマーアロイの開発が注目されている。
【0003】
しかしながら、混合の対象となるポリマー同士が溶け合わない非相溶の関係にある場合が殆どであるため、単なる混合によっては分散に限界があり、改質の効果が得られない場合がある。そのような場合、相溶化剤を用いて両ポリマー相の分散を改善することが知られている。
【0004】
一方、ポリフェニレンエーテル樹脂は、機械的、電気的性質、耐熱性等に優れた性質を示す一方で、流動性が悪く溶融による成形加工が困難である。そこで、例えば特許文献1に開示されるように、ポリスチレン系樹脂とブレンドすることにより流動性が改良され、変性ポリフェニレンエーテルとして使用されることが一般的である。しかしながら、ポリスチレン系樹脂をブレンドしたポリフェニレンエーテル系樹脂では、ポリフェニレンエーテルが持つ本来の優れた機械的性質や耐熱性が低下してしまう問題がある。
【0005】
また、ポリフェニレンエーテルの有する優れた機械的性質、耐熱性に、液晶ポリエステルの有する優れた流動性、機械的性質を組み合わせる方法が提案されている。例えば、特許文献2〜3にポリフェニレンエーテルと液晶ポリエステルからなる樹脂組成物にスチレン系共重合体を配合したポリフェニレン系樹脂組成物が開示されているが、流動性と機械的性質のバランスにおいてまだ十分とはいえない。また、特許文献4にてポリフェニレンエーテルと液晶ポリエステルからなる樹脂組成物にイソシアネート基を含有する有機化合物を配合したポリフェニレン系樹脂組成物が提案されているが、液晶ポリエステルの量が多すぎるため、電気的性質、比重、寸法安定性、特に線膨張係数異方性において十分であるとはいえず、またコスト高になるのでその使用用途が限定される恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭43−17812公報
【特許文献2】特開平9−111112公報
【特許文献3】特開2002−121377公報
【特許文献4】特開2002−38003公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ポリフェニレンエーテル系樹脂と液晶ポリエステルをブレンドしてポリマーアロイを調製するための相溶化剤、それを用いたポリフェニレン系樹脂組成物およびフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、 本発明は以下の発明に係る。
1.ポリフェニレンエーテル系樹脂と液晶ポリエステルをブレンドしてポリマーアロイを調製するための相溶化剤であって、
ポリメタクリル酸グリシジルのみからなるセグメント(A)とポリスチレンのみからなるセグメント(B)を有し、下記(イ)〜(ハ)の特徴を有するブロックポリマーであるポリマーアロイ用相溶化剤
(イ)セグメント(A)とセグメント(B)の重量比(A)/(B)が、0.04〜1.0
(ロ)ブロックポリマーの数平均分子量が、10,000〜200,000
(ハ)分子量分布 1.0〜2.5。
【0009】
2.ブロックポリマーが、有機テルル化合物系重合開始剤を用い、重合して得られたポリマーである上記に記載のポリマーアロイ用相溶化剤。
3.有機テルル化合物系重合開始剤が、
(a)式(1)で表される有機テルル化合物、
(b)式(1)で表される有機テルル化合物とアゾ系重合開始剤の混合物、
(c)式(1)で表される有機テルル化合物と式(2)で表される有機ジテルル化合物の混合物、又は
(d)式(1)で表される有機テルル化合物、アゾ系重合開始剤及び式(2)で表される有機ジテルル化合物の混合物
のいずれかである上記に記載のポリマーアロイ用相溶化剤。
【0010】
【化1】

(式中、Rは、C〜Cのアルキル基、アリール基、置換アリール基又は芳香族ヘテロ環基を示す。R及びRは、水素原子又はC〜Cのアルキル基を示す。Rは、アリール基、置換アリール基、芳香族ヘテロ環基、アシル基、アミド基、オキシカルボニル基又はシアノ基を示す。)
(RTe) (2)
(式中、Rは、上記と同じ。)
【0011】
4.上記に記載のポリマーアロイ用相溶化剤を用い、ポリフェニレンエーテル系樹脂と液晶ポリエステルをポリフェニレンエーテル系樹脂の配合割合が液晶ポリエステルの配合割合より多くなるようにブレンドして得られるポリマーアロイであることを特徴とするポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
5.ポリフェニレンエーテル系樹脂60〜95重量部と液晶ポリエステル5〜40重量部とからなる樹脂成分100重量部に対し、該相容化剤が0.01〜10重量部の範囲内で配合されている上記に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
6.ポリフェニレンエーテル系樹脂が未変性ポリフェニレンエーテルである上記に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
7.液晶ポリエステルと上記に記載の相容化剤とを混練して得られることを特徴とするポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を調製するためのマスターバッチ。
8.ポリフェニレンエーテル系樹脂と上記のマスターバッチとをブレンドすることを特徴とするポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の製造方法。
9.上記のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物から得られるフィルム。
【0012】
本発明者は、鋭意研究の結果、相容化剤に特定のブロックポリマーを用いる場合に、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリフェニレンエーテル系樹脂と液晶ポリエステルをブレンドしてポリマーアロイを調製するための相溶化剤、それを用いたポリフェニレン系樹脂組成物およびフィルムであって、良好な電気的、機械的及び熱的特性を示し、特に優れた耐熱性を有し、流動性にも優れたポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリマーアロイ用相溶化剤は、メタクリル酸グリシジルとスチレンからなるブロックポリマーであり、好ましくはポリメタクリル酸グリシジルのみからなるセグメント(A)とポリスチレンのみからなるセグメント(B)を有し、下記(イ)〜(ハ)の特徴を有するブロックポリマーである。
(イ)セグメント(A)とセグメント(B)の重量比(A)/(B)が、0.04〜1.0
(ロ)ブロックポリマーの数平均分子量が、10,000〜200,000
(ハ)分子量分布 1.0〜2.5
【0015】
上記ブロックポリマーは、例えば、有機テルル化合物系重合開始剤を用いた重合により得ることができる。具体的には、
(a)式(1)で表される有機テルル化合物、
(b)式(1)で表される有機テルル化合物とアゾ系重合開始剤の混合物、
(c)式(1)で表される有機テルル化合物と式(2)で表される有機ジテルル化合物の混合物、又は
(d)式(1)で表される有機テルル化合物、アゾ系重合開始剤及び式(2)で表される有機ジテルル化合物の混合物
から選ばれる有機テルル化合物系重合開始剤を用いて重合する。
【0016】
本発明で使用する有機テルル化合物は、式(1)で表される。
【化2】

(式中、Rは、C〜Cのアルキル基、アリール基、置換アリール基又は芳香族ヘテロ環基を示す。R及びRは、水素原子又はC〜Cのアルキル基を示す。Rは、アリール基、置換アリール基、芳香族ヘテロ環基、アシル基、アミド基、オキシカルボニル基又はシアノ基を示す。)
【0017】
で示される基は、具体的には次の通りである。
〜Cのアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等の炭素数1〜8の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基を挙げることができる。好ましいアルキル基としては、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が良い。より好ましくは、メチル基、エチル基又はn−ブチル基が良い。
【0018】
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。好ましいアリール基としては、フェニル基が良い。置換アリールの置換基としては、例えばC〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、−CORaで示されるカルボニル含有基(Ra=C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基、アリール基、アリーロキシ基)、スルホニル基、トリフルオロメチル基等を挙げることができる。
好ましい置換アリール基としては、トリフルオロメチル置換フェニル基が良い。
また、これら置換基は、1個又は2個置換しているのが良く、パラ位若しくはオルト位が好ましい。
芳香族へテロ環基としては、ピリジル基、ピロール基、フリル基、チエニル基等を挙げることができる。
及びRで示される各基は、具体的には次の通りである。
〜Cのアルキル基としては、上記Rで示したアルキル基と同様のものを挙げることができる。
【0019】
で示される各基は、具体的には次の通りである。
アリール基、置換アリール基、芳香族へテロ環基としては上記Rで示した基と同様のものを挙げることができる。
アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等を挙げることができる。
アミド基としては、アセトアミド、マロンアミド、スクシンアミド、マレアミド、ベンズアミド、2−フルアミド等のカルボン酸アミド、チオアセトアミド、ヘキサンジチオアミド、チオベンズアミド、メタンチオスルホンアミド等のチオアミド、セレノアセトアミド、ヘキサンジセレノアミド、セレノベンズアミド、メタンセレノスルホンアミド等のセレノアミド、N−メチルアセトアミド、ベンズアニリド、シクロヘキサンカルボキサニリド、2,4'−ジクロロアセトアニリド等のN−置換アミド等を挙げることができる。
オキシカルボニル基としては、−COORb(Rb=H、C〜Cのアルキル基、アリール基)で示される基を挙げることができる。
【0020】
具体的には、カルボキシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−ペントキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等を挙げることができる。
好ましいオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基が良い。
好ましいRで示される各基としては、アリール基、置換アリール基、オキシカルボニル基又はシアノ基が良い。
好ましいアリール基としては、フェニル基が良い。
好ましい置換アリール基としては、ハロゲン原子置換フェニル基、トリフルオロメチル置換フェニル基が良い。
また、これらの置換基は、ハロゲン原子の場合は、1〜5個置換しているのが良い。
アルコキシ基やトリフルオロメチル基の場合は、1個又は2個置換しているのが良く、1個置換の場合は、パラ位若しくはオルト位が好ましく、2個置換の場合は、メタ位が好ましい。
好ましいオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基が良い。
【0021】
好ましい式(1)で示される有機テルル化合物としては、RがC〜Cのアルキル基またはフェニル基を示し、R及びRが水素原子又はC〜Cのアルキル基を示し、Rが、アリール基、置換アリール基、オキシカルボニル基で示される化合物が良い。
特に好ましくは、Rが、C〜Cのアルキル基またはフェニル基を示し、R及びRが、水素原子又はC〜Cのアルキル基を示し、Rが、フェニル基、置換フェニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基が良い。
【0022】
式(1)で示される有機テルル化合物は、具体的には次の通りである。
(メチルテラニルメチル)ベンゼン、(メチルテラニルメチル)ナフタレン、エチル−2−メチル−2−メチルテラニル−プロピオネート、エチル−2−メチル−2−n−ブチルテラニル−プロピオネートや、特許文献5及び6等に記載された有機テルル化合物の全てを例示することができる。
【0023】
式(1)で示される有機テルル化合物の製造方法は特に限定されず、特許文献5〜6等に記載された公知の方法等により製造することができる。
【特許文献5】WO 2004/14848
【特許文献6】WO 2004/14962
【0024】
例えば、式(1)の化合物は、式(3)の化合物、式(4)の化合物および金属テルルを反応させることにより製造することができる。
上記、式(3)の化合物としては、具体的には次の通りである。
【0025】
【化3】

〔式中、R、R及びRは、上記と同じ。Xは、ハロゲン原子を示す。〕
Xで示される基としては、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素等のハロゲン原子を挙げることができる。好ましくは、塩素、臭素が良い。
M(R)m (4)
〔Rは、上記と同じ。Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は銅原子を示す。Mがアルカリ金属の時、mは1、Mがアルカリ土類金属の時、mは2、Mが銅原子の時、mは1または2を示す。〕
【0026】
Mで示されるものとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属、銅を挙げることができる。好ましくは、リチウムが良い。
なお、Mがマグネシウムの時、化合物(4)はMg(Rでも、或いはRMgX(Xは、ハロゲン原子)で表される化合物(グリニャール試薬)でもよい。Xは、好ましくは、塩素、臭素が良い。
本発明で使用する有機ジテルル化合物は、式(2)で表される。
(RTe) (2)
(Rは、C〜Cのアルキル基、アリール基、置換アリール基又は芳香族ヘテロ環基を示す。)
【0027】
で示される基は、式(1)において示した通りである。
好ましい式(2)で示される化合物としては、RがC〜Cのアルキル基、フェニル基の化合物である。
【0028】
式(2)で示される化合物は、具体的には、ジメチルジテルリド、ジエチルジテルリド、ジ−n−プロピルジテルリド、ジイソプロピルジテルリド、ジシクロプロピルジテルリド、ジ−n−ブチルジテルリド、ジ−sec−ブチルジテルリド、ジ−tert−ブチルジテルリド、ジシクロブチルジテルリド、ジフェニルジテルリド、ビス−(p−メトキシフェニル)ジテルリド、ビス−(p−アミノフェニル)ジテルリド、ビス−(p−ニトロフェニル)ジテルリド、ビス−(p−シアノフェニル)ジテルリド、ビス−(p−スルホニルフェニル)ジテルリド、ジナフチルジテルリド、ジピリジルジテルリド等が挙げられる。好ましくは、ジメチルジテルリド、ジエチルジテルリド、ジ−n−プロピルジテルリド、ジ−n−ブチルジテルリド、ジフェニルジテルリドが良い。
また本発明では重合速度の促進を目的にアゾ系重合開始剤を使用してもよい。アゾ系重合開始剤は、通常のラジカル重合で使用するアゾ系重合開始剤であれば特に制限なく使用することができる。
【0029】
例えば2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1'−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4'−アゾビス(4−シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1'−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、2,2'−アゾビス(2−メチルブチルアミド)、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2−シアノ−2−プロピルアゾホルムアミド、2,2'−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2'−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)等が挙げられる。
【0030】
これらのアゾ開始剤は反応条件に応じて適宜選択するのが好ましい。例えば低温重合(40℃以下)の場合は2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、中温重合(40〜80℃)の場合は2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(AMBN)、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート(MAIB)、1,1'−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、4,4'−アゾビス(4−シアノバレリアン酸)(ACVA)、2,2'−アゾビス(2−メチルブチルアミド)、2,2'−アゾビス(2−メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、高温重合(80℃以上)の場合は1,1'−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、2−シアノ−2−プロピルアゾホルムアミド、2,2'−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2'−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]を用いるのがよい。
【0031】
本発明のブロックポリマーのセグメント(A)は、メタクリル酸グリシジルモノマーを重合することで得られる。また、本発明のブロックポリマーのセグメント(B)は、スチレンモノマーを重合することで得られる。
セグメント(A)にはメタクリル酸グリシジル以外に少量(0.05〜20モル%)のアクリル酸グリシジルを含んでいても良い。
セグメント(B)にはスチレン以外に少量(0.05〜20モル%)のα−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−t−ブチルスチレン等のビニル芳香族化合物を含んでいても良い。
【0032】
本発明のポリマーアロイ用相溶化剤は、セグメント(A)を重合し、次いでセグメント(B)を重合する。反応させる順番によりセグメント(B)−セグメント(A)のものも得ることができる。
上記で、セグメントを製造後、そのまま次のブロックの反応を開始しても良いし、一度反応を終了後、精製してから次のセグメントの反応を開始しても良い。
モノマーと式(1)の化合物の使用割合としては、得られる共重合体の分子量或いは分子量分布により適宜調節すればよいが、通常、式(1)の化合物1molに対して、モノマーを20〜4000mol、好ましくは70〜1600molとするのが良い。
【0033】
式(1)の化合物とアゾ系重合開始剤の使用割合は、通常、式(1)の化合物1molに対して、アゾ系重合開始剤0.01〜100mol、好ましくは0.1〜10mol、特に好ましくは0.1〜5molとするのが良い。
【0034】
式(1)の化合物と式(2)の化合物を併用する場合、その使用量としては、通常、式(1)の化合物1molに対して、式(2)の化合物0.01〜100mol、好ましくは0.05〜10mol、特に好ましくは0.1〜5molとするのが良い。
【0035】
式(1)の化合物、式(2)の化合物及びアゾ系重合開始剤を併用する場合、その使用量としては、通常、式(1)の化合物と式(2)の化合物の合計1molに対して、アゾ系重合開始剤0.01〜100mol、好ましくは0.1〜10mol、特に好ましくは0.1〜5molとするのが良い。
【0036】
反応は、通常、無溶媒で行うが、ラジカル重合で一般に使用される有機溶媒或いは水性溶媒を使用しても構わない。使用できる有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、アニソール、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、2−ブタノン(メチルエチルケトン)、ジオキサン、ヘキサフルオロイソプロパオール、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、トリフルオロメチルベンゼン等が挙げられる。また、水性溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。溶媒の使用量としては適宜調節すればよいが、例えば、ビニルモノマー1gに対して、溶媒を0.01〜50ml、好ましくは、0.05〜10mlが、特に好ましくは、0.1〜1mlが良い。
【0037】
次に、上記混合物を攪拌する。反応温度、反応時間は、得られるポリマーの分子量或いは分子量分布により適宜調節すればよいが、通常、0〜150℃で、1分〜100時間撹拌する。好ましくは、20〜100℃で、0.1〜30時間撹拌するのが良い。更に好ましくは、20〜80℃で、0.1〜15時間撹拌するのが良い。このように低い重合温度及び短い重合時間であっても高い収率と精密な分子量分布を得ることができるのが、本発明の特徴である。この時、圧力は、通常、常圧で行われるが、加圧或いは減圧しても構わない。
【0038】
反応終了後、常法により使用溶媒や残存モノマーを減圧下除去して目的ポリマーを取り出したり、目的ポリマー不溶溶媒を使用して再沈澱処理により目的物を単離する。反応処理については、目的物に支障がなければどのような処理方法でも行う事ができる。
【0039】
また本発明で開始剤として用いる有機テルル化合物は水に対して安定であるため、本発明のポリマーは特許文献7等に記載された水系での重合方法により合成できる。
即ち、エマルション重合法は界面活性剤を使用し、主にミセル中で重合する。必要に応じてポリビニルアルコール類等の水溶性高分子などの分散剤を用いても良い。これらの界面活性剤は1種類、又は2種類以上で組み合わせて使用することができる。かかる界面活性剤の使用量は、全モノマー100重量部に対して、0.3〜50重量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜50重量部である。又、水の使用量は、全モノマー100重量部に対して、50〜2000重量部であることが好ましく、より好ましくは70〜1500重量部である。重合温度は特に限定されないが、0〜100℃の範囲で行うことが好ましく、より好ましくは40〜90℃である。反応時間は、反応温度または用いるモノマー組成物の組成、界面活性剤や重合開始剤の種類等に応じ、重合反応が完結するように適宜設定すればよい。好ましくは24時間以内である。
【特許文献7】特開2006−225524公報
【0040】
懸濁重合法は分散剤を使用し、主にミセルを介さないで重合する。必要に応じてこれらの分散剤と共に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マンガン等の分散助剤を併用してもよい。かかる水分散安定剤の使用量は、全モノマー100重量部に対して、0.01〜30重量部であることが好ましく、より好ましくは0.05〜10重量部、特に好ましくは0.1〜5重量部である。又、水の使用量は、全モノマー100重量部に対して、50〜2000重量部であることが好ましく、より好ましくは70〜1500重量部である。重合温度は特に限定されないが、0〜100℃の範囲で行うことが好ましく、より好ましくは40〜90℃である。反応時間は、反応温度または用いるモノマー組成物の組成、水分散安定剤や重合開始剤の種類等に応じ、重合反応が完結するように適宜設定すればよい。好ましくは24時間以内である。
【0041】
ミニエマルション重合法は界面活性剤及び共界面活性剤を使用し、ホモジナイザーや超音波装置を用いてモノマーを強制分散した後、主にミセルを介さないで重合する。かかる界面活性剤や共界面活性剤の使用量は、全モノマーに対して、0.3〜50重量部、特に好ましくは0.5〜50部である。超音波照射時間は、0.1〜10分、特に好ましくは0.2〜5分である(特許文献7)。
【0042】
該ポリマーの分子量は、反応時間、式(1)の化合物の量および式(2)の化合物の量により調整可能であるが、数平均分子量10,000〜200,000のリビングラジカルポリマーを得ることができる。
本発明の相溶化剤用の樹脂組成物として使用する場合は、数平均分子量で10,000〜200,000のブロックポリマーを用いるのが好ましく、より好ましくは40,000〜200,000の重量平均分子量を有するブロックポリマーを用いるのがよい。重量平均分子量が10,000未満では相容化剤効果が出ない可能性がある。重量平均分子量が20,0000を超えると耐熱性を低下させてしまう恐れがある。
【0043】
該ポリマーの分子量分布(PD=Mw/Mn)は、1.0〜2.5の間で制御される。更に、分子量分布1.05〜2.0、更には1.05〜1.80のより狭い分子量分布を持ったポリマーアロイ用相溶化剤を得ることができる。分子量分布が2.5を超えると相容化剤効果の低下を招く恐れがある。
【0044】
セグメント(A)とセグメント(B)の比は、重量比(A)/(B)が、0.04〜1.0が好ましく、より好ましくは0.04〜0.7である。重量比が0.04未満では相容化効果の低下を招く恐れがある。重量比が1.0を超えると、溶融粘度が増加する可能性があり、流動性を損なう恐れがある。
【0045】
式(1)および式(2)で表される有機テルル化合物を開始剤として用いる場合、−TeRの形態でテルル原子がポリマー末端に残存する場合がある(Rは、上記と同じ)。
テルル原子が末端に残存したポリマーは着色しており、金属性の元素であるため、得られた相溶化剤を配合したポリマーアロイの着色や異物混入防止の観点から、この残存テルル原子を含めた金属含量は、樹脂全体に対して1000ppm以下であり、特に200ppm以下であることが好ましい。
【0046】
分子末端に残存するテルル原子は重合反応終了後、トリブチルスタナンやチオール化合物などの用いるラジカル還元方法や、さらに活性炭、シリカゲル、活性アルミナ、活性白土、モレキュラーシーブスおよび高分子吸着剤なで吸着する方法、イオン交換樹脂などで金属を吸着させる方法や、また、過酸化水素水や過酸化ベンゾイル等の過酸化物を添加したり、空気や酸素を系中に吹き込むことでポリマー末端のテルル原子を酸化分解させ、水洗や適切な溶媒を組み合わせることにより残留テルル化合物を除去する液−液抽出法や固−液抽出法、特定の分子量以下のもののみを抽出除去する限外ろ過等の溶液状態での精製方法や、また、これらの方法を組み合わせることもできる。
【0047】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物に使用するポリフェニレンエーテルとしては、式(5)で表されるものである。
【0048】
【化4】

(式中、R、Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基、Rは炭素数1〜3のアルキル基である。)
【0049】
このものは、フェノール化合物、具体例としては、2,6−ジメチルフェノール、2,6−ジエチルフェノール、2−メチル−6−エチルフェノール、2−メチル−6−アリルフェノ−ル、2−メチル−6−フェニルフェノ−ル、2,6−ジフェニルフェノ−ル、2,6−ジブチルフェノ−ル、2,3,6−トリメチルフェノ−ル、2,3,6−トリプロピルフェノール、2,6−ジメチル−3−エチルフェノ−ル、2,6−ジメチル−3−プロピルフェノール等を重合させることによって製造される。上記のフェノール化合物は、単独もしくは2種以上を用いることができる。中でも好ましいポリフェニレンエーテルとしては、2,6−ジメチルフェノールから得られるポリフェニレンエーテル、及び2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノ−ルあるいは2,6−ジフェニルフェノ−ルを共重合させてなるポリフェニレンエーテルを挙げることができる。また、本発明のポリフェニレンエーテルはその性能を損なわない程度にスチレン系モノマーを共重合させたものや、スチレン系重合体を混合させたものであってもよい。
【0050】
一方、本発明に用いられる液晶ポリエステルは、従来公知のものを広く使用でき、例えば全芳香族(コ)ポリエステル、全芳香族(コ)ポリエステルアミド、芳香族−脂肪族コポリエステル等が挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上混合して使用されうる。
【0051】
全芳香族(コ)ポリエステルおよび全芳香族(コ)ポリエステルアミドとは、ポリマー鎖を構成するいずれのモノマー成分にも少なくとも1個の芳香環を有することから、名付けられたもので、このようなモノマー成分としては、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,6−ジヒドロキシナフトイル等の芳香族ジオール、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ジアミン、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジカルボキシジフェニル、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、2,6−ジカルボキシナフトイル等の芳香族ジカルボン酸、p−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ桂皮酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、p−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸等の芳香族アミノカルボン酸等を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
全芳香族(コ)ポリエステルは、例えば特開昭56−104932号公報や特開昭57−44622号公報に開示されている方法により、また全芳香族(コ)ポリエステルアミドは、例えば米国特許第4182842号明細書に開示されている方法に従い、それぞれ製造される。
【0053】
芳香族−脂肪族(コ)ポリエステルの具体例としてはポリエチレンテレフタレートとp−ヒドロキシ安息香酸との共重合体を例示できる。本発明で用いられる液晶ポリエステル樹脂は、重量平均分子量で5000〜200000、特に10000〜50000であるのが好適である。重量平均分子量が小さ過ぎると、得られる樹脂組成物の機械物性が低下する傾向となり、逆に大きすぎると、かかるポリマーの製造が困難である上に、溶融粘度が高くなり、そのために得られる樹脂組成物の成形加工が困難になるため、いずれも好ましくない。
【0054】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、上記ポリマーアロイ用相溶化剤を用い、ポリフェニレンエーテル系樹脂と液晶ポリエステルをポリフェニレンエーテル系樹脂の配合割合が液晶ポリエステルの配合割合より多くなるようにブレンドして得られるポリマーアロイであることが好ましい。
【0055】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を製造する方法は特に限定されるものではないが、工業的見地からみて溶融混練する方法が有利である。溶融混練には一軸または二軸の押し出し機、各種のニーダー等が用いうる。混練に際して、各樹脂成分を予めヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー等を用いて均一に混合しても良いが、混練装置にそれぞれ別個に定量的に供給する方法も用いることができる。
【0056】
二軸押出機を用いる場合は、ポリフェニレンエーテルと液晶ポリエステルを予めブレンダー等で混合しておき、それを押出機の上流側のフィード口から供給し、該ポリマーアロイ用相溶化剤を下流側のフィード口から投入する方法や、配合されるすべてのポリマーと該ポリマーアロイ用相溶化剤をあらかじめブレンダー等で混合しておき、フィード口から供給するなどの方法が考えられるが、特に制限は無い。押出機のスクリューアレンジにも特に制限は無いが、ポリマー同士が十分に分散し、相溶性を向上させやすくするために、ニーディングゾーンを設けることが好ましい。
【0057】
また、本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、上記ポリマーアロイ用相溶化剤と、ポリフェニレンエーテル及び液晶ポリエステルから選ばれる少なくとも1種のポリマーとを溶融混練したポリマーアロイ調製マスターバッチを調製し、そのマスターバッチともう一方のポリマーとを溶融混練することによっても得ることができる。好ましくは上記ポリマーアロイ用相溶化剤と液晶ポリエステルとのマスターバッチが好ましい。
このようにして得られたポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル系樹脂と液晶ポリエステルとの相溶性が高められたものとなる。
【0058】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、用途、目的に応じて、各種添加剤を配合することができる。例えば、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、顔料等の着色剤、難燃剤、帯電防止剤、ケッチェンブラック等の導電性付与材、機械的・熱的強化材等を挙げることができる。強化材について更に詳しく述べると、ガラス繊維、カーボン繊維、アルミナ繊維、高弾性ポリアミド繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、チタン酸カリウム繊維、各種鉱物繊維等の繊維状充填材、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、マイカ、カオリン等の粒状・鱗片状の充填材を挙げることができる。そしてこれらの強化材は公知のごとく、シランカップリング剤などの表面処理剤で表面処理してもよい。
【0059】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物およびそれを用いて得られるフィルムは、良好な電気的、機械的および熱的特性を示し、特に優れた耐熱性を有する。この特徴を生かせる用途に適宜用いることが出来るが、例えば、電機・電子・電送関係部品、自動車関係部品、精密機械関連部品、音響関連部品、OA機器関係部品、化学装置関連部品等が挙げられる。また、従来よりポリフェニレンエーテル系樹脂や液晶ポリエステルが用いられている実質的に全ての用途に用いることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0061】
実施例および比較例において、各種物性測定は以下の機器により測定を行った。
H−NMR:ブルカー・バイオスピン AVANCE 500(500MHz)
分子量及び分子量分布:ゲルパーミエーションクロマトグラフ 日本ウォーターズ GPCV−2000(カラム:東ソー TSK−GEL GMHXL + TSK−GEL MultiporeHXL−M、ポリスチレンスタンダード:東ソーTSK
Standard)
ポリマー中のTe含量 : ICP/MS
【0062】
なお、使用したポリマーを下記に示す。
ポリフェニレンエーテル(以下PPE);三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製:PX100L
変性ポリフェニレンエーテル(以下mPPE);ダイセル・エボニック(株)製:ベストラン1900HE
5重量%のメタクリル酸グリシジル含有スチレン共重合体(以下SGMA5);日油(株)製:マープルーフG−1005S
10重量%のメタクリル酸グリシジル含有スチレン共重合体(以下SGMA10);日油(株)製:マープルーフG−1010S
【0063】
実施例1及び比較例1〜3
(ポリメタクリル酸グリシジルーポリスチレンジブロックポリマー、相溶化剤Aの合成)
3L四つ口フラスコにアニソール20g、メタクリル酸グリシジル〔和光純薬工業(株)試薬〕20g(141mmol)を加え、30分間アルゴンガスをバブリングし、エチル−2−メチル−2−n−ブチルテラニル−プロピオネート 0.962ml(4.0mmol)、および1,1'−アゾビスイソブチロニトリル0.8mg(2.28mmol)を加え、60℃で7時間反応させた。NMR分析により、重合率は98%であった。
次に、上記で得られたポリメタクリル酸グリシジル溶液をテトラヒドロフラン20mlで希釈した後に、一方で3L四つ口フラスコにトルエン280g、スチレン〔和光純薬工業(株)試薬〕400g(3.84mol)を加え、30分間アルゴンガスをバブリングした溶液と混合し、90℃で64時間反応させた。NMR分析により、重合率は91%であった。反応液をテトラヒドロフランで200gに希釈後、ターシャリーブチルヒドロペルオキシド69%水溶液〔和光純薬工業(株)試薬〕2.2g(17.1mmol)を加え、50℃にて4時間撹拌。得られたポリマー溶液をメタノール5L中に注いだ。沈殿したポリマーをろ過、乾燥することによりポリメタクリル酸グリシジルーポリスチレンジブロックポリマー386g(収率92%)を得た。GPC分析により、分子量100,400、PD=2.21であった。さらに、NMR分析により、ポリメタクリル酸グリシジル/ポリスチレン=5/95(重量比)であった。各種物性評価は以下の方法により行った。
【0064】
(ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の作製と評価)
PPE、LCP、上記の方法で得られた相溶化剤A(ブロックポリマー)、及び比較例として相溶化剤(SGMA5、SGMA10:共にブロックポリマーではない)を表1で示される配合量で混合し、二軸押出機(JSW日本製鋼所 TEX44)を用いシリンダ温度300℃、回転数120rpmにて溶融混練することにより目的の樹脂組成物ペレットを得た。
上記で得られた実施例1,及び比較例1〜4の樹脂組成物ペレットより、試験片作製用金型(金型温度100℃)を装着した85t射出成形機(日本製鋼所製 J85AD)に投入して射出成形することで試験片を製造し、各種試験を実施することで相容性を評価した。結果を表1に併記する。
なお、各種評価は、以下の方法によった。
(1)引張強度;JIS K7113
(2)引張破断伸び;JIS K7113
(3)曲げ強度;JIS K7171
(4)曲げ破断歪み;JIS K7171
(5)アイゾッド衝撃強度;JIS 7110、ノッチ付き
【0065】
【表1】

【0066】
表1からわかるように、実施例1の樹脂組成物は、ブロックポリマーを添加することにより、ポリフェニレンエーテルと液晶ポリエステルの相容性が大幅に改善され、機械的性質に優れていることがわかる。それに対して相容化剤が添加されていない比較例1では、機械強度、破断歪みが非常に低い。ブロックポリマーと同じグリシジル含有量を有するSGMA5を添加した比較例2でも、相容化効果が十分ではなく機械的性質、特に曲げ破断歪みに劣る。また実施例1は、SGMA10を添加した比較例3と同等の相容化効果であり、メタクリル酸グリシジルの含有量が1/2で良いことがわかる。すなわち、相容化剤としての効果が高いことを表している。
【0067】
実施例2及び比較例4
上記で得られた樹脂組成物ペレット、及び各種試験片を用いて、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の特性を評価した。表2に結果を併記する。
なお、各種評価は、以下のようにして行った。
(1)比重;JIS K7112にしたがって測定した。
(2)ガラス転移温度;ダンベル片より切り出した試験片をTMA(SIIナノテクノロジー製 SS6000)を用いて、30℃から毎分5℃で測定を行い、昇温過程で膨張率が著しく増大する温度を接点交線より求め、ガラス転移温度とした。
(3)耐熱性;JIS K7191にしたがって荷重18.6kg/cmにて測定した。
(4)流動性;キャピラリーレオメータ(東洋精機製作所製 1D)を用いて320℃における溶融粘度を確認した。低剪断は剪断速度12(1/s)、高剪断は剪断速度122(1/s)の値を用いた。
(5)線膨張係数;ダンベル片より切り出した試験片をTMAを用いて、30℃から毎分5℃で190℃まで昇温して長さの変位量から線膨張係数を測定した。異方性はTD方向の値をMD方向の値で除して算出した。
【0068】
【表2】

【0069】
表2からわかるように、実施例2で得られる樹脂組成物は、低比重かつ耐熱性、寸法安定性に優れていることがわかる。また、相容化効果が同等であるSGMA10を添加した比較例4では、溶融粘度の増大が見られ、本来の目的であるポリフェニレンエーテルの流動性改善効果に乏しい。
【0070】
実施例3及び比較例5〜7
上記で得られた樹脂組成物ペレットを用いて、膜厚100μmのフィルムを得た。フィルム加工はラボプラストミル(東洋精機製作所製;4C150に一軸押出機D2025型を取り付けた)を用いて溶融押出法にて行った。シリンダー温度310℃で溶融された樹脂はTダイより押し出されたのち、200℃に設定された冷却ロールを介して冷却、延伸されたのち、引取機により巻き取った。なお、各種評価は、以下のようにして行った。
(1)電気特性;空洞共振法にて周波数3GHzの誘電率、誘電正接を測定した。
(2)耐折性;MIT法(東洋精機製作所製;MIT−DA)にて荷重2.45N、折り曲げ面のR:0.8mm、折り曲げ角度:135°、折り曲げ速度:毎分175回の条件にて測定した。また、試験片は幅15mm×長さ110mm×厚さ100μmとし、それぞれ延伸方向とその垂直方向にフィルムを切り出し、測定を行った。
(3)延伸性;粘弾性測定装置(TAインスツルメント製;RSA3)を用いて、210℃、引張速度3mm/minにて引張試験を行った。
【0071】
【表3】

【0072】
表3からわかるように、実施例3は、電気特性、特に低誘電率、低誘電正接に優れ、耐折性や延伸性の観点からもバランスの取れたフィルムである。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の相溶化剤は、ポリフェニレンエーテル系樹脂と液晶ポリエステルをブレンドしてポリマーアロイを調製するのに好適に使用でき、得られたポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は例えば、自動車部品、電気・電子部品などの用途に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンエーテル系樹脂と液晶ポリエステルをブレンドしてポリマーアロイを調製するための相溶化剤であって、
ポリメタクリル酸グリシジルのみからなるセグメント(A)とポリスチレンのみからなるセグメント(B)を有し、下記(イ)〜(ハ)の特徴を有するブロックポリマーであるポリマーアロイ用相溶化剤
(イ)セグメント(A)とセグメント(B)の重量比(A)/(B)が、0.04〜1.0
(ロ)ブロックポリマーの数平均分子量が、10,000〜200,000
(ハ)分子量分布 1.0〜2.5。
【請求項2】
ブロックポリマーが、有機テルル化合物系重合開始剤を用い、重合して得られたポリマーである請求項1に記載のポリマーアロイ用相溶化剤。
【請求項3】
有機テルル化合物系重合開始剤が、
(a)式(1)で表される有機テルル化合物、
(b)式(1)で表される有機テルル化合物とアゾ系重合開始剤の混合物、
(c)式(1)で表される有機テルル化合物と式(2)で表される有機ジテルル化合物の混合物、又は
(d)式(1)で表される有機テルル化合物、アゾ系重合開始剤及び式(2)で表される有機ジテルル化合物の混合物
のいずれかである請求項2に記載のポリマーアロイ用相溶化剤。
【化1】

(式中、Rは、C〜Cのアルキル基、アリール基、置換アリール基又は芳香族ヘテロ環基を示す。R及びRは、水素原子又はC〜Cのアルキル基を示す。Rは、アリール基、置換アリール基、芳香族ヘテロ環基、アシル基、アミド基、オキシカルボニル基又はシアノ基を示す。)
(RTe) (2)
(式中、Rは、上記と同じ。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマーアロイ用相溶化剤を用い、ポリフェニレンエーテル系樹脂と液晶ポリエステルをポリフェニレンエーテル系樹脂の配合割合が液晶ポリエステルの配合割合より多くなるようにブレンドして得られるポリマーアロイであることを特徴とするポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項5】
ポリフェニレンエーテル系樹脂60〜95重量部と液晶ポリエステル5〜40重量部とからなる樹脂成分100重量部に対し、該相容化剤が0.01〜10重量部の範囲内で配合されている請求項4に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項6】
ポリフェニレンエーテル系樹脂が未変性ポリフェニレンエーテルである請求項4〜5に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項7】
液晶ポリエステルと請求項1〜3のいずれか1項に記載の相容化剤とを混練して得られることを特徴とするポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を調製するためのマスターバッチ。
【請求項8】
ポリフェニレンエーテル系樹脂と請求項7に記載のマスターバッチとをブレンドすることを特徴とするポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項4〜6のいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物から得られるフィルム。

【公開番号】特開2010−202690(P2010−202690A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46617(P2009−46617)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000206901)大塚化学株式会社 (55)
【Fターム(参考)】