説明

ポリマーフイルムおよびその製造方法

【課題】送液路の内部にエアー溜まりが発生するのを防止する。
【解決手段】曲管部106と直管部107とエアー抜きバルブ103〜105とを有する第2送液路100bにドープ27を送り込む前に、流入防止バルブ102とエアー抜きバルブ103〜105とを閉じた状態で、溶媒送液パイプ109を介して第2送液路100bに溶媒110を送り込んだ後、ポンプによりドープ27を送り込む。エアー抜きバルブ103〜105を開けて溶媒110やドープ27を第2送液路100bから抜き出してから、流入防止バルブ102を開けて、流延ダイ43にドープ27を送り込む。第2送液路100bや溶媒送液パイプ109などのラインの切り替えは、四方バルブ101により行う。第2送液路100bの内部にエアー溜まりが発生するのを防止し、かつポンプの圧力が上昇するのを抑制してドープ27を流延ダイ43に送り込むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーフイルムおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフイルムは光学用途に広く用いられており、特にセルロースアシレートフイルムは、偏光板の保護膜に利用することができるなどの利点を有することから、安価で薄型の液晶表示装置を提供することができる光学フイルムのベースフイルムとして幅広く普及している。
【0003】
このようなセルロースアシレートフイルムは、主に溶液製膜方法で製造される。溶液製膜方法とは、セルロースアシレートなどのポリマーと溶媒とを含むポリマー溶液(ドープ)を調製後、送液路を介してこのドープを流延ダイに送り込む。そして、この流延ダイの先端(ダイリップ)から走行する支持体の上にドープを流延して流延膜を形成した後に、この流延膜を前記支持体より溶媒を含んだフイルム(湿潤フイルム)として剥ぎ取ってから、この湿潤フイルムを乾燥してフイルムとする方法である。
【0004】
ただし、フイルムを製造する場合、その作業の最初に、送液路にドープを送り込むときには、送液路の内部に存在していたエアーが送り込まれたドープに押されることで、エアー溜まりが発生する。また、このドープの先端はエアーを巻き込んでしまうので、その内部に気泡が形成されやすい。そして、このようなドープを流延ダイに送り込み、そしてダイリップから支持体の上に流延すると、気泡とともにドープが弾け飛んでダイリップに付着してしまので、製造したフイルムにスジが入ってしまうという問題が生じていた。
【0005】
そこで、気泡を含んでいないドープを流延ダイに送り込む方法として、流延ダイへの送液路のほかに、切り替え手段によって切り替え可能な別の送液路(ドープの抜き取り路)を流延ダイのダイリップ付近に設け、ドープを流延ダイに送り込むときには、この切り替え手段により送液路を切り替えることで、気泡を含んでいないドープを流延ダイに送り込む方法(例えば、特許文献1参照)が提案されている。
【特許文献1】特開2000−317961号公報
【0006】
しかし、特許文献1の方法では、送液路の内部のエアーを完全に抜くことは困難であった。これを受けて、本発明者は、特開2005−81830号公報に示すように、曲間部と直管部とを有し、かつこの曲管部または直管部のどちらか一方にエアー抜きバルブを設けて、曲管部の形状や長さ、あるいは直管部が設置される角度などを調整することで送液路の内部のエアーを抜くことができる装置を提案している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記の装置においてエアー抜きバルブからエアーを抜くと、送液路にドープを送り込むためのポンプの吐出圧が大幅に上昇してしまい、その結果、このポンプが壊れてしまうという現象が頻繁に起こるという問題が生じている。
【0008】
本発明は、送液路にドープを送り込むときに、その内部にエアー溜まりが発生するのを防止して、ポンプの吐出圧が上昇するのを抑制しながらドープを流延ダイに送り込むことができるポリマーフイルムおよびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らはこの原因を鋭意検討した結果、ポンプの吐出圧が上昇する原因として下記のことを見出した。すなわち、送液路の内部にドープが送り込まれるとエアー溜まりが発生するが、このエアーにドープが触れると、ドープの表面が酸化して皮膜(皮バリ)が生成する。このとき、エアー抜きバルブからエアーを抜くと、エアーだけでなくドープや皮バリも吸い取られる。しかし、エアー抜きバルブの大きさに対して皮バリが大きく、また、ドープの粘度が高いので、その隙間に皮バリやドープが引っかかるために、エアー抜きバルブ付近での圧力が上昇してしまう。そのため、ポンプの吐出圧が上昇してしまう。
【0010】
本発明のポリマーフイルムの製造方法は、送液路を介して流延ダイに送り込んだドープを前記流延ダイから走行する支持体の上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜を乾燥してポリマーフイルムとするポリマーフイルムの製造方法において、前記送液路に前記ドープを送り込む前に、前記送液路に溶媒を送って前記送液路の内部を前記溶媒で満たす第1送液工程と、第1送液工程が終了後、前記送液路に前記ドープを送り込んで前記溶媒と前記ドープとを置換する第2送液工程とを行うことを特徴とする。
【0011】
また、前記送液路は、曲管部と前記曲管部に接続される直管部と前記曲管部または直管部の少なくともいずれか一方に設けられたエアー抜きバルブとを有し、前記送液路に前記ドープを送り込んだ後、前記エアー抜きバルブにより前記送液路の内部の溶媒を含んだドープを抜き出すことでエアーを抜き出すことが好ましい。なお、本発明のポリマーフイルムは、上記いずれかの方法により製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、送液路にドープを送り込むときに、その内部にエアー溜まりが発生するのを防止することで、ポンプの吐出圧が上昇するのを抑制しながらドープを流延ダイに送り込むことができる。したがって、これによりドープに気泡が含まれるのを抑制することができるため、このドープを用いることで、スジなどを発生させずに平面性に優れたフイルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施態様について、図を引用しながら詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
【0014】
[原料]
本実施形態においては、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、AおよびBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90質量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
ただし、本発明に用いられるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
【0015】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0016】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)である。
【0017】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位および6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位および6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れた溶液(ドープ)を作製することができる。特に、非塩素系有機溶媒において、優れた溶解性を示すとともに、低粘度で濾過性の良いドープを作製することができる。
【0018】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター綿,パルプ綿のどちらから得られたものでもよいが、リンター綿から得られたものが好ましい。
【0019】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0020】
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)およびエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを溶媒に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液を意味している。
【0021】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フイルムの機械的強度および光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25質量%が好ましく、より好ましくは、5〜20質量%である。アルコールとしては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0022】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶媒組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステルおよびアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステルおよびアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
【0023】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒および可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0024】
[ドープ製造方法]
上記原料を用いて、まずドープを製造する。図1にドープ製造ライン10を示す。ドープ製造ライン10には、溶媒を貯留するための溶媒タンク11と、溶媒とTACなどを混合するための溶解タンク12と、TACを供給するためのホッパ13と、添加剤を貯留するための添加剤タンク14とが備えられている。さらに、後述する膨潤液を加熱するための加熱装置15と、調製されたドープ27の温度を調整する温調機16と、第1濾過装置17と、調製されたドープ27を濃縮するフラッシュ装置30と、第2濾過装置31なども備えられている。また、溶媒を回収するための回収装置32と、回収された溶媒を再生するための再生装置33とが備えられている。なお、このドープ製造ライン10は、ストックタンク41を介してフイルム製造ライン40と接続されている。
【0025】
ドープ製造ライン10を用いて、以下の手順でドープ27を製造する。まず、バルブ18を開き、溶媒タンク11から溶媒を溶解タンク12に送り込む。次に、ホッパ13からTACを適量溶解タンク12に送り込む。また、必要量の添加剤溶液を、バルブ19の開閉操作により、添加剤タンク14から溶解タンク12に送り込む。
【0026】
添加剤を送り込む方法は、上記のように溶液として送り込む方法に限定されない。例えば、添加剤が常温で液体の場合には、その液体の状態で溶解タンク12に送り込んでもよいし、添加剤が固体の場合には、ホッパなどを用いて溶解タンク12に送り込んでもよい。また、添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンク14の中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。さらには、多数の添加剤タンクを用いて、各添加剤タンクに添加剤が溶解している溶液を入れて、それぞれ独立した配管により溶解タンク12に送り込むこともできる。
【0027】
上記の説明では、ドープを構成する材料を溶解タンク12に入れる順番が、溶媒(混合溶媒の場合も含めた意味で用いる)、TAC、添加剤であったが、この順番に限定されるものではない。例えば、TACを計量しながら溶解タンク12に送り込んだ後に、好ましい量の溶媒を送液することもできる。また、添加剤は必ずしも溶解タンク12に予め入れる必要はなく、後の工程でTACと溶媒との混合物(以下、これらの混合物もドープと称する場合がある)に混合することもできる。
【0028】
溶解タンク12には、図1に示すようにその外面を包み込むジャケット20と、モータ21により回転する第1攪拌機22とが備えられている。ただし、図1に示すように、溶解タンク12には、モータ23により回転する第2攪拌機24が取り付けられていることが好ましい。なお、第1攪拌機22は、アンカー翼が備えられたものであることが好ましく、第2攪拌機24は、ディゾルバータイプの偏芯型撹拌機であることが好ましい。溶解タンク12は、ジャケット20の内部に伝熱媒体を流すことで温度調整されている。その温度範囲は−10〜55℃であることが好ましい。第1攪拌機22および第2攪拌機24を適宜選択して使用することにより、TACが溶媒中で膨潤した膨潤液25を得る。
【0029】
膨潤液25を、ポンプ26により加熱装置15に送り込む。加熱装置15は、ジャケット付き配管であることが好ましく、さらに、膨潤液25を加圧することができる構成のものが好ましい。このような加熱装置15を用いることにより、加熱条件下または加圧加熱条件下で膨潤液25中の固形分を溶解させてドープ27を得ることができる。以下、この方法を加熱溶解法と称する。膨潤液25の温度は、50〜120℃であることが好ましい。膨潤液25を−100〜−30℃の温度に冷却する冷却溶解法を行うこともできる。このような加熱溶解法および冷却溶解法を適宜選択して行うことで、TACを溶媒に充分溶解させることができる。ドープ27を温調機16により略室温とした後に、第1濾過装置17により濾過してドープ27中に含まれる不純物を取り除く。第1濾過装置17に使用される濾過フィルタは、その平均孔径が100μm以下であることが好ましい。また、濾過流量は、50L/hr以上であることが好ましい。濾過後のドープ27は、バルブ28を介してフイルム製造ライン40中のストックタンク41に送り、ここで貯留する。
【0030】
上記のように、膨潤液25を調製してからドープ27を作製する方法は、TACの濃度を上昇させるほど要する時間が長くなるので、製造コストの点で問題となるおそれがある。したがって、このような方法によりドープ27を製造する場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープ27を調製してから、濃縮工程を行うことで目的の濃度のドープ27を調整することが好ましい。この場合には、第1濾過装置17で濾過されたドープ27を、バルブ28を介してフラッシュ装置30に送り、このフラッシュ装置30内でドープ27中の溶媒の一部を揮発させるようにする。揮発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示しない)により凝縮されて液体となり回収装置32により回収される。回収された溶媒は、再生装置33によりドープ調製用の溶媒として再生されて再利用される。この再利用はコストの点で効果がある。
【0031】
また、濃縮されたドープ27は、ポンプ34によりフラッシュ装置30から抜き出される。このとき、ドープ27に発生した気泡を抜くために、泡抜き処理を行うことが好ましい。泡抜き処理の方法としては、公知の種々の方法を適用することができる。例えば、超音波照射法が挙げられる。続いて、ドープ27は、第2濾過装置31に送り込んで、濾過することで異物を除去する。濾過する際のドープ27の温度は、0〜200℃であることが好ましい。濾過したドープ27は、ストックタンク41に送られて貯蔵される。ストックタンク41には、モータ60により回転する攪拌機61が取り付けられており、攪拌機61を回転することで、ドープ27を常時攪拌している。
【0032】
以上の方法により、ドープ27を製造することができる。このとき、ドープ27中のTAC濃度は、5〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは、15〜30質量%であり、特に好ましくは、17〜25質量%の範囲とすることである。また、添加剤(主に可塑剤)の濃度は、ドープ27中の固形分全体を100質量%とした場合に、1〜20質量%の範囲とすることが好ましい。なお、TACフイルムを得る溶液製膜法における素材、原料、添加剤の溶解方法および添加方法、濾過方法、脱泡などのドープ27の製造方法については特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落に詳細に記載されているが、これらの記載も本発明に適用できる。
【0033】
[溶液製膜方法]
上述の方法により製造したドープ27を用いてフイルムを製造する方法について説明する。図2はフイルム製造ライン40を示す概略図である。ただし、本発明は、図2に示す形態に限定されるものではない。フイルム製造ライン40には、第3濾過装置42と流延ダイ43と、回転ローラ44,45に掛け渡された流延バンド46とテンタ式乾燥機47などが備えられている。さらに耳切装置50、乾燥室51、冷却室52および巻取室53などが配されている。
【0034】
ストックタンク41の下流には、ポンプ62および第3濾過装置42が設けられている。この第3濾過装置42は送液路を介して流延ダイ43に接続されている。なお、本発明では、第3濾過装置42から流延ダイ43までの間を送液部100と称する。
【0035】
図3に、送液部100の概略図を示す。送液部100は第3濾過装置42と接続する第1送液路100aと、流延ダイ43と接続する第2送液路100bと、四方バルブ101と、流入防止バルブ102と、エアー抜きバルブ103〜105とを有する。
【0036】
第2送液路100bは、所定の曲率半径Rとなるように形成された曲管部106と、水平面とのなす角度θが所定の値となるように備えられた直管部107とからなる。曲管部106は、曲率半径Rが50〜400mmであることが好ましく、より好ましくは、50〜200mmである。また、直管部107と水平面とのなす角度θは、0〜20°の範囲内で略一定の値であることが好ましい。このように曲管部106の曲率半径Rと直管部107の角度θとをそれぞれ上記の範囲を満たすようにすると、エアー抜きバルブ103〜105から効率よくエアーを抜くことができるので、送液路100bの内部にエアー溜まりが発生するのを抑制することができる。なお、直管部107の長さ(m)は特に限定されるものでなく、0.5〜3mの範囲内で任意に選定すればよい。
【0037】
四方バルブ101には、送液路100a、100bのほかに、パイプ108と溶媒送液パイプ109とが接続されている。この四方バルブ101により、各パイプを切り替える。パイプ108は、四方バルブ101とは別の一端がストックタンク41に接続されている。そして、流延ダイ43からのドープ27の流延を中断する場合には、四方バルブ101を切り替えることで、送液路100aから送られたドープ27を直管部107に送り込まずにストックタンク41に送り込む。溶媒送液パイプ109は、四方バルブ101とは別の一端が溶媒ストックタンク(図示しない)に接続されており、四方バルブ101を切り替えることで、溶媒ストックタンクから溶媒送液パイプ109を介して送液路100bに溶媒を送り込む。
【0038】
流延ダイ43の材質としては、析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下であることが好ましい。電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有するものや、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものも、この流延ダイ43の材質として用いることができる。なお、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して流延ダイ43を作製することが好ましい。これにより、流延ダイ43内をドープ27が一様に流れ、後述する流延膜69にスジなどが生じるのを防止することができる。
【0039】
流延ダイ43の接液面の仕上げ精度は、表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。流延ダイ43のスリットのクリアランスは、自動調整により0.5〜3.5mmの範囲で調整可能とされている。流延ダイ43のリップ先端の接液部の角部分について、そのRは全巾にわたり50μm以下とされている。また、流延ダイ43内部における剪断速度が1〜5000(1/秒)となるように調整されていることが好ましい。
【0040】
流延ダイ43の幅は、特に限定されるものではないが、最終製品となるフイルムの幅の1.1〜2.0倍であることが好ましい。また、製膜中の温度が所定温度に保持されるように、この流延ダイ43に温調機を取り付けることが好ましく、流延ダイ43にはコートハンガー型のものを用いることが好ましい。さらに、厚み調整ボルト(ヒートボルト)を流延ダイ43の幅方向に所定の間隔で設けて、ヒートボルトによる自動厚み調整機構が流延ダイ43に備えられていることがより好ましい。
【0041】
前記ヒートボルトは、予め設定されるプログラムにより、ポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)62の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。厚み計(図示しない)のプロファイルに基づく調整プログラムによって、フィードバック制御を行っても良い。前記厚み計としては、例えば、赤外線厚み計などが挙げられるが、特に限定されるものではない。流延エッジ部除く製品フイルムの幅方向の任意の2点の厚み差は、1μm以内に調整し、幅方向厚みの最小値と最大値との差が3μm以下となるように調整することが好ましく、2μm以下に調整することがより好ましい。なお、厚み精度は±1.5μm以下に調整されているものを用いることが好ましい。
【0042】
流延ダイ43のリップ先端には、硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削することができるとともに、低気孔率であり、脆くなく耐腐食性に優れ、かつ流延ダイ43と密着性がよい一方で、ドープとの密着性が悪いものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC),Al,TiN,Crなどが挙げられるが、なかでも、WCであることが好ましい。このWCコーティングは、溶射法で行うことができる。
【0043】
流延ダイ43のスリット端に流出するドープ27が局所的に乾燥固化することを防止するために、溶媒供給装置(図示しない)をスリット端に取り付けることが好ましい。この場合には、ドープ27を可溶化する溶媒(例えば、ジクロロメタン86.5質量部,メタノール13質量部,n−ブタノール0.5質量部の混合溶媒)を流延ビードの両端部、ダイスリット端部および外気が形成する三相接触線の周辺部付近に供給することが好ましい。端部の片側それぞれに0.1〜1.0mL/分で供給すると、流延膜中への異物混合を防止することができるので好ましい。なお、この液を供給するポンプとしては、脈動率が5%以下のものを用いることが好ましい。
【0044】
流延ダイ43の下方には、回転ローラ44,45に掛け渡された流延バンド46が設けられている。回転ローラ44,45は図示しない駆動装置により回転し、この回転に伴い流延バンド46は無端で走行する。流延バンド46は、その移動速度、すなわち流延速度が10〜200m/分で移動できるものであることが好ましい。また、流延バンド46の表面温度を所定の値にするために、回転ローラ44,45に伝熱媒体循環装置63が取り付けられていることが好ましい。流延バンド46は、その表面温度が−20〜40℃に調整可能なものであることが好ましい。本実施形態において用いられている回転ローラ44,45内には伝熱媒体流路(図示しない)が形成されており、その中を所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより、回転ローラ44,45の温度を所定の値に保持されるものとなっている。
【0045】
流延バンド46の幅は特に限定されるものではないが、ドープ27の流延幅の1.1〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましく、その長さは20〜200mであり、厚みは0.5〜2.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下となるように研磨されていることが好ましい。流延バンド46は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。また、流延バンド46の全体の厚みムラは、0.5%以下のものを用いることが好ましい。
【0046】
なお、回転ローラ44,45を直接支持体として用いることもできる。この場合には、回転ムラが0.2mm以下となるように高精度で回転できるものであることが好ましく、回転ローラ44,45の表面の平均粗さを0.01μm以下とすることが好ましい。そこで、回転ローラの表面にクロムメッキ処理などを行い、十分な硬度と耐久性を持たせるようにする。なお、支持体(流延バンド46や回転ローラ44,45)の表面欠陥は最小限に抑制する必要がある。具体的には、表面欠陥として30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールが1個/m以下であり、10μm未満のピンホールが2個/m以下であることが好ましい。
【0047】
流延ダイ43、流延バンド46などは流延室64に収められている。流延室64には、その内部温度を所定の値に保つための温調設備65と、揮発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)66とが設けられている。そして、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置67が流延室64の外部に設けられている。また、流延ダイ43から流延バンド46にかけて形成される流延ビードの背面部を圧力制御するための減圧チャンバ68が配されていることが好ましく、本実施形態においてもこれを使用している。
【0048】
流延バンド46の周面近くに送風ダクト70を設ける。これにより、流延バンド46の上に形成された流延膜69を乾燥する。また、流延室64の内部には、流延バンド46から剥ぎ取られた流延膜69、つまり湿潤フイルム74を支持するローラ75を備える。
【0049】
渡り部80には、送風機81が備えられ、テンタ式乾燥機47の下流の耳切装置50には、切り取られたフイルム82の側端部(耳と称される)の屑を細かく切断処理するためのクラッシャ90が接続されている。
【0050】
乾燥室51には、多数のローラ91が備えられており、揮発して発生した溶媒ガスを吸着回収するための吸着回収装置92が取り付けられている。図2においては、乾燥室51の下流に冷却室52が設けられているが、乾燥室51と冷却室52との間に調湿室(図示しない)を設けてもよい。また、冷却室52の下流には、フイルム82の帯電圧を所定の範囲(例えば、−3〜+3kV)となるように調整するための強制除電装置(除電バー)93が設けられている。図2においては、強制除電装置93は、冷却室52の下流側とされている例を図示しているが、この設置位置に限定されるものではない。
【0051】
さらに、本実施形態においては、フイルム82の両縁にエンボス加工でナーリングを付与するためのナーリング付与ローラ94が強制除電装置93の下流に適宜設けられる。巻取室53の内部には、フイルム82を巻き取るための巻取ローラ95と、その巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ96とが備えられている。
【0052】
次に、上述したフイルム製造ライン40を用いてフイルム82を製造する方法の一例を以下に説明する。ただし、本発明は、ここに示す形態に限定されるものではない。
【0053】
ストックタンク41に貯留されているドープ27は、攪拌機61の回転により常に均一化されている。このとき、ドープ27に、可塑剤や紫外線吸収剤などの添加剤を混合してもよい。攪拌したドープ27をポンプ62により第3濾過装置42に送り込んで、これを濾過する。そして、濾過した後のドープ27を第1送液路100aおよび第2送液路100bを順に介して流延ダイ43に送り込む。
【0054】
本発明では、第2送液路100bにドープ27を送り込む前に、所定の条件で第2送液路100bに溶媒を送り込んでから、さらにドープ27を送り込んで溶媒とドープ27とを置換する送液工程を行う。この送液工程とは、第1送液工程と第2送液工程とからなる。
【0055】
まず、第1送液工程として、第2送液路100bに溶媒110を送り込む。このとき、流入防止バルブ102およびエアー抜きバルブ103〜105を閉めておく。このように第2送液路100bを溶媒110で満たした後、次に、第2送液工程として、この第2送液路100bにドープ27を送り込む。そして、エアー抜きバルブ103〜105を開放して、溶媒110とドープ27との混合体やエアーなどを抜き出す。
【0056】
エアー抜きバルブ103〜105には気泡センサ(図示しない)が設けられており、この測定値に応じて、溶媒110やエアーの抜き出てくる量を確認し、エアーの低減量に応じてエアー抜きバルブ103〜105を閉める。そして、溶媒110やエアーが完全に出なくなったのを確認後、各バルブ103〜105を閉める。このようにして、第2送液路100bの内部において、溶媒110とドープ27とを置換させた後に、流入防止バルブ102を開けて第2送液路100bのドープ27を流延ダイ43に送り込む。
【0057】
第2送液路100bに溶媒110を送り込むときには、四方バルブ101の開閉を調整して、溶媒ストックタンクから溶媒送液パイプ109を介して第2送液路100bに溶媒を送り込めばよい。
【0058】
このように、第2送液路100bを溶媒110で満たしてからドープ27を送り込むと、エアー溜まりが発生することなくドープ27を第2送液路100bに送り込むことができるので、皮バリの形成を防止し、かつドープ27への気泡の混入を抑制することができる。したがって、このようなドープ27からは、平面性に優れたポリマーフイルムを製造することができる。また、皮バリの発生を防止することができることにくわえて、溶媒110によりドープ27が希釈されて、エアー抜きバルブ103〜105から抜き出されるドープ27の粘度を低減することができるので、各バルブ103〜105に皮バリやドープ27が引っかかることがない。そのため、ドープ27を送り出す際のポンプ62の吐出圧の上昇を防止することができる。
【0059】
送液路100bに送り込む溶媒110の量は、特に限定されるものではないが、少なくとも、最上流に位置するエアー抜きバルブ103の内部を満たす程度の量であることが好ましい。より好ましくは、第2送液路100bを完全に満たす程度の量にすることである。これにより、より第2送液路100bの内部にエアー溜まりが発生するのを防止することができる。
【0060】
第2送液路100bに溶媒110を送り込むタイミングとしては、第2送液路100bにドープ27を送り込む前であれば特に限定はされない。ただし、第3濾過装置42にドープ27を送り込む前に、第2送液路100bに溶媒110を送り込むと、第3濾過装置42以降のドープ27の流延を停止させることなく作業を連続して行うことができるので好ましい。なお、第1送液工程は、フイルム製造ライン40によりフイルムを製造するとき、少なくとも流延ダイ43から最初にドープ27を流延するときに行うことが好ましい。
【0061】
なお、第2送液路100bに送り込む溶媒は、ドープ27の原料として使用する溶媒を用いればよく、特に限定はされない。この溶媒としては、例えば、アセトン、エタノール、メタノール、ブタノール、酢酸メチル、ジクロロメタンなどが挙げられる。これらの溶媒を使用する際には、1種類でもよいし、これらを複数種類用いて、適宜混合し調製した混合溶媒でもよい。
【0062】
また、本実施形態では、流入防止バルブ102を流延ダイ43の外側に設けた形態を示したが、本形態に特に限定されるものではない。例えば、流延ダイ43の内部である第2送液路100bに接続する箇所に流入防止バルブ102を設けて、その開閉により流延ダイ43に溶媒110が流入するのを防止すればよい。
【0063】
流延ダイ43から走行する流延バンド46の上にドープ27を連続的に流延して流延膜69を形成する。このとき、流延バンド43は、流延バンド46に生じるテンションが10〜10N/mとなるように回転ローラ44,45を調整して駆動させる。流延バンド46と回転ローラ44,45との相対速度差は、0.01m/分以下となるようにする。また、流延バンド46の速度変動を0.5%以下とし、流延バンド46が一回転する際に生じる幅方向の蛇行は1.5mm以下とすることが好ましい。
【0064】
流延時のドープ27の温度は、−10〜57℃であることが好ましい。また、流延ビードを安定させるために、この流延ビードの背面が減圧チャンバ68により所望の圧力値に制御されることが好ましい。ビード背面は、前面よりも−2000〜−10Paの範囲で減圧することが好ましい。さらに、減圧チャンバ68にはジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つように温度制御されることが好ましい。減圧チャンバ68の温度は特に限定されるものではないが、用いられている有機溶媒の凝縮点以上にすることが好ましい。なお、流延ビードの形状を所望のものに保つために、流延ダイ43のエッジ部に吸引装置(図示しない)を取り付けることが好ましい。このエッジ吸引風量は、1〜100L/分の範囲であることが好ましい。
【0065】
上記のような蛇行を制御するために流延バンド46の両端の位置を検出する検出器(図示しない)を設け、その測定値に基づき、流延バンド46の位置制御機(図示しない)でフィードバック制御を行い、流延バンド46の位置調整を行うことがより好ましい。流延ダイ43直下の流延バンド46は、回転ローラ45の回転に伴う上下方向の位置変動が200μm以下となるように調整することが好ましい。また、流延室64の温度は、温調設備65により−10〜57℃とされていることが好ましい。なお、流延室64の内部で揮発した溶媒は回収装置67により回収された後に、再生させてドープ調製用溶媒として再利用される。
【0066】
流延バンド46の走行とともに移動する流延膜69に、送風ダクト70により乾燥風をあてて溶媒の揮発を促進させる。このとき、形成した直後の流延膜69に乾燥風を送り出すことが好ましい。また、送風ダクト70に整流部材を設けて、乾燥風を整流しながら送り出すことが好ましい。なお、この形成直後とは、流延膜69の残留溶媒量が300重量%以上のときを意味する。
【0067】
上記のように流延膜69の残留溶媒量が多い場合には、流延膜69の表面の乾燥はあまり進行していないので乾燥膜が形成されていない。そのため、整流しながら乾燥風を吹き付けると、より凹凸ムラの発生を抑制して流延膜69を乾燥することができる。ただし、流延膜69の残留溶媒量が300%未満のときには、すでに流延膜69の一部は乾燥して、その表面に凹凸ムラが生じているおそれがあるので、乾燥を進行させると、フイルム製品としたときに凹凸ムラが残存してしまう。なお、この残留溶媒量は、乾量基準でのものであり、サンプリング時におけるフイルム重量をx、そのサンプリングフイルムを乾燥した後の重量をyとするとき{(x−y)/y}×100で算出される値である。ただし、乾量基準とは、ドープを完全に乾燥して固化したときの重量を100%とした際の溶媒の含有量とする。
【0068】
流延膜69が自己支持性を有するものとなった後に、湿潤フイルム74として流延バンド46から剥ぎ取ってから、ローラ75で支持する。剥ぎ取り時の残留溶媒量は、固形分基準で20〜250質量%であることが好ましい。次に、多数のローラが設けられている渡り部80に送り込み、前記ローラで支持しながら搬送した後で、テンタ式乾燥機47に送り込む。渡り部80では、送風機81から所望の温度の乾燥風を送風することで湿潤フイルム74の乾燥を進行させる。このとき乾燥風の温度が、20〜250℃であることが好ましい。なお、渡り部80では、下流側のローラの回転速度を上流側のローラの回転速度より速くすることにより、湿潤フイルム74にドローテンションを付与させることもできる。
【0069】
湿潤フイルム74をテンタ式乾燥機47に送り込む。テンタ式乾燥機47内では、湿潤フイルム74の両端部をクリップで把持して、搬送する間に乾燥する。このとき、テンタ式乾燥機47の内部を温度ゾーンに区画分割して、その区画毎に乾燥条件を適宜調整することが好ましい。また、テンタ式乾燥機47を用いて湿潤フイルム74を幅方向に延伸させることもできる。このように、渡り部80および/またはテンタ式乾燥機47において、湿潤フイルム74の流延方向と幅方向との少なくとも1方向を0.5〜300%延伸することが好ましい。
【0070】
湿潤フイルム74をテンタ式乾燥機47で所定の残留溶媒量まで乾燥した後、フイルム82として下流側に送り出す。このとき、フイルム82の両側端部は、耳切装置50によりその両縁が切断される。切断された側端部は、カッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ90に送られて、粉砕されてチップとなる。このチップはドープ調製用に再利用することができるので、製造コストの点において有効である。なお、このフイルム82の両側端部の切断工程については省略することもできるが、前記流延工程からフイルム82を巻き取る工程までのいずれかで行うことが好ましい。
【0071】
両側端部を切断除去したフイルム82を、乾燥室51に送りこんで、さらに乾燥する。乾燥室51内の温度は、特に限定されるものではないが、50〜160℃の範囲であることが好ましい。乾燥室51においては、フイルム82は、ローラ91に巻き掛けながら搬送する。ここで揮発して発生した溶媒ガスは、吸着回収装置92により吸着回収される。このように溶媒成分が除去された空気は、乾燥室51の内部に乾燥風として再度送風される。なお、乾燥室51は、乾燥温度を変えるために複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置50と乾燥室51との間に予備乾燥室(図示しない)を設けてフイルム82を予備乾燥すると、乾燥室51においてフイルム82の温度が急激に上昇することを防止することができるので、フイルム82の形状変化の発生をより抑制することができる。
【0072】
フイルム82を、冷却室52で略室温まで冷却する。なお、乾燥室51と冷却室52との間に調湿室(図示しない)を設けてよく、この調湿室でフイルム82に対して、所望の湿度及び温度に調整された空気を吹き付けられることが好ましい。これにより、フイルム82のカールの発生や巻き取る際の巻き取り不良の発生を抑制することができる。
【0073】
また、強制除電装置(除電バー)93により、フイルム82が搬送されている間の帯電圧が所定の範囲(例えば、−3〜+3kV)とする。図2では冷却室52の下流側に設けられている例を図示しているがその位置に限定されるものではない。さらに、ナーリング付与ローラ94を設けて、フイルム82の両縁にエンボス加工でナーリングを付与することが好ましい。なお、ナーリングされた箇所の凹凸が、1μm〜200μmであることが好ましい。
【0074】
最後に、フイルム82を巻取室53内の巻取ローラ95で巻き取る。このとき、プレスローラ96で所望のテンションを付与しつつ巻き取ることが好ましい。なお、テンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましい。巻き取るフイルム82は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フイルム82の幅が600mm以上であることが好ましく、1400〜1800mmであることがより好ましい。また、本発明は、1800mmより大きい場合にも効果がある。フイルム82の厚みが15〜100μmの薄いフイルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0075】
本実施形態においては、1機の送風ダクト70を、流延ダイ43のすぐ下流側に配したが、配置場所および配置数などは、特に限定されるものではない。例えば、流延バンド46の走行路に沿って直列に複数並べられてもよい。このように複数の送風ダクト70を配すると、流延膜69の溶媒の揮発をより促進して乾燥することができる。
【0076】
また、本発明の溶液製膜方法において、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させることもできる。さらに両共流延を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフイルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フイルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。
【0077】
さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープ27を流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合には、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0078】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フイルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0079】
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
巻き取られたセルロースアシレートフイルムの性能及びそれらの測定法は、特開2005−104148号公報の[0112]段落から[0139]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0080】
[表面処理]
前記セルロースアシレートフイルムにおいては、少なくとも一方の面が表面処理されていることが好ましい。前記表面処理が真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
【0081】
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
前記セルロースアシレートフイルムの少なくとも一方の面が下塗りされていてもよい。

【0082】
さらに、前記セルロースアシレートフイルムをベースフイルムとして、他の機能性層を付与した機能性材料として用いることが好ましい。前記機能性層としては、帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層および光学補償層のうち、少なくとも1層を設けることが好ましい。
【0083】
前記機能性層が、少なくとも一種の界面活性剤を0.1〜1000mg/m含有することが好ましく、少なくとも一種の滑り剤を0.1〜1000mg/m含有することが好ましい。また、前記機能性層が、少なくとも一種のマット剤を0.1〜1000mg/m含有することが好ましく、少なくとも一種の帯電防止剤を1〜1000mg/m含有することが好ましい。セルロースアシレートフイルムに、種々様々な機能、特性を実現するための表面処理機能性層の付与方法は、上記以外にも、特開2005−104148号公報の[0890]段落から[1087]段落に詳細な条件、方法も含めて記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0084】
(用途)
前記セルロースアシレートフイルムは、特に偏光板保護フイルムとして有用である。セルロースアシレートフイルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を、通常は、液晶層に2枚貼って液晶表示装置を作製する。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、公知の各種配置とすることができる。特開2005−104148号公報には、液晶表示装置として、TN型,STN型,VA型,OCB型,反射型、その他の例が詳しく記載されており、この方法も本発明に適用することができる。また、同公報には光学的異方性層を付与した、セルロースアシレートフイルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフイルムについての記載や、適度な光学性能を付与し二軸性セルロースアシレートフイルムとして光学補償フイルムとしての用途も記載されている。これは、偏光板保護フイルムと兼用して使用することもできる。これらの記載は、本発明にも適用することができ、特開2005−104148号公報の[1088]段落から[1265]段落に詳細が記載されている。
【0085】
また、本発明により、光学特性に優れるセルローストリアセテートフイルム(TACフイルム)を得ることができる。前記TACフイルムは、偏光板保護フイルムや写真感光材料のベースフイルムとして用いることができるとともに、テレビ用途の液晶表示装置の視野角依存性を改良するための光学補償フイルムとしても使用することができる。特に、偏光板の保護膜を兼ねる用途に効果的である。そのため、従来のTNモードだけでなくIPSモード、OCBモード、VAモードなどに用いられる。なお、前記偏光板保護膜用フイルムを用いて偏光板を構成してもよい。
【0086】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、製造方法および製造条件などに関しては、実施例1においてのみ詳細に説明する。
【実施例1】
【0087】
次に、本発明の実施例を説明する。フイルムの製造に使用したドープの原料ならびに配合、調製方法を下記に示す。
【0088】
[組成]
セルローストリアセテート(置換度2.84、粘度平均重合度306、含水率0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度 315mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差0.5mmである粉体) 100質量部
ジクロロメタン(第1溶媒) 320質量部
メタノール(第2溶媒) 83質量部
1−ブタノール(第3溶媒) 3質量部
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.6質量部
可塑剤B(ジフェニルフォスフェート) 3.8質量部
UV剤a:2(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾ
トリアゾール 0.7質量部
UV剤b:2(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−アミルフェニル)−5−
クロルベンゾトリアゾール 0.3質量部
クエン酸エステル混合物(クエン酸、モノエチルエステル、ジエチルエステル、トリエチ
ルエステル混合物) 0.006質量部
微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05質量部
【0089】
[セルローストリアセテート]
ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1質量%以下であり、Ca含有率が58ppm、Mg含有率が42ppm、Fe含有率が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンを15ppm含むものであった。また、6位のアシル置換度は0.91であり、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基が置換されたアセチル基であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8質量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であり、Tg(ガラス転移温度;DSCにより測定)は160℃、結晶化発熱量は6.4J/gであった。なお、このTACは、綿から採取したセルロースを原料として合成されたものである。以下の説明において、これを綿原料TACと称する。
【0090】
図1に示すドープ製造ライン10を用いてドープ27を調製した。攪拌羽根を有する4000Lのステンレス製溶解タンク12により前記複数の溶媒を混合してよく攪拌し、混合溶媒とした。なお、溶媒の各原料としては、すべてその含水率が0.5質量%以下のものを使用した。次に、TACのフレーク状粉体をホッパ13から徐々に添加した。TAC粉末は、溶解タンク12に投入して、最初は5m/秒の周速で攪拌するディゾルバータイプの偏芯攪拌機24および中心軸にアンカー翼を有する攪拌機22を周速1m/秒で攪拌する条件下で30分間分散した。分散開始時の温度は25℃であり、最終到達温度は48℃となった。
【0091】
さらに、あらかじめ調製しておいた添加剤溶液を、添加剤タンク14からバルブ19で送液量を調整しながら、全体が2000kgとなるように溶解タンク12に送り込んだ。添加剤溶液の分散を終了した後に、高速攪拌は停止した。そして、攪拌機22のアンカー翼の周速を0.5m/秒としてさらに100分間攪拌し、TACフレークを膨潤させて膨潤液25を得た。膨潤終了までは窒素ガスにより溶解タンク12内を0.12MPaになるように加圧した。このとき、溶解タンク12の内部は、酸素濃度が2vol%未満であり、防爆上で問題のない状態を保った。また、膨潤液25中の水分量は0.3質量%であった。
【0092】
膨潤液25を溶解タンク12からポンプ26を用いてジャケット付配管15に送液した。加熱装置15としてジャケット付き配管を用いて、膨潤液25を50℃まで加熱してから、さらに、2MPaの加圧下で90℃まで加熱して完全に溶解させた。このとき、加熱時間は15分であった。次に、この溶解液を温調機16により36℃まで温度を下げてから、公称孔径8μmのフィルタを有する第1濾過装置17を通過させてドープ(以下、濃縮前ドープと称する)を得た。第1濾過装置17における1次側圧力を1.5MPa、2次側圧力を1.2MPaとした。高温にさらされるフィルタや配管などは、ハステロイ(商品名)合金製でのものを使用した。
【0093】
この濃縮前ドープを、80℃で常圧としたフラッシュ装置30の内部でフラッシュ蒸発させてドープ27とした。このとき、蒸発した溶媒を凝縮器で回収した。凝縮された溶媒は回収装置32で回収してから、再生装置33で再生した後に溶媒タンク11に送液してドープ調製用溶媒として再利用した。回収装置32および再生装置33では、蒸留や脱水を行った。フラッシュ装置30のフラッシュタンクには、攪拌軸にアンカー翼を備えた攪拌機(図示しない)を設け、その攪拌機により周速0.5m/秒でフラッシュされたドープを攪拌して脱泡を行った。このフラッシュタンクの内部のドープ27の温度は25℃であり、その内部でのドープの平均滞留時間は50分であった。なお、このドープ27を採取して25℃で測定した剪断粘度は、剪断速度10(秒−1)で450Pa・sであった。

【0094】
次に、ドープ27に弱い超音波を照射して泡抜きを行ってから、ポンプ34を用いて1.5MPaに加圧した状態で、第2濾過装置31を通過した。第2濾過装置31では、最初公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルタを通過させてから、公称孔径10μmの焼結繊維フィルタを通過させた。このとき、それぞれの1次側圧力は1.5MPa,1.2MPaであり、2次側圧力は1.0MPa,0.8MPaであった。濾過後、温度を36℃に調整したドープ27を、2000Lのステンレス製ストックタンク41の内部に送液して貯留し、中心軸にアンカー翼を備えた攪拌機61により、周速0.3m/秒で常時攪拌を行った。なお、調製したドープ27の固形分濃度(ドープ濃度)が22.8質量%となるように調製した。
【0095】
図2に示すフイルム製造ライン40を用いてフイルム82を製造した。まず、ドープ27を第3濾過装置42に送り込む前に、第1送液工程として流入防止バルブ102およびエアー抜きバルブ103〜105を閉めた後、四方バルブ101を切り替えて、溶媒ストックタンクから溶媒送液パイプ109を介して第2送液路100bに溶媒110を送り込んだ。このとき、溶媒110としてジクロロメタンを使用し、その送液量が0.5Lとなるようにした。
【0096】
ポンプ62によりドープ27を第3濾過装置42に送り込んで濾過した後、四方バルブ101を切り替えてから、第2送液工程として、第2送液路100bに濾過後のドープ27を送り込んだ。このとき、ドープ27を送り出すポンプ62の吐出圧を1.5MPaとし、ドープ流量が1L/分となるように調整した。
【0097】
エアー抜きバルブ103〜105を開けて、溶媒110、ドープ27およびエアーなどを抜き出した。そして、気泡センサによりエアーの量を確認しながら、その量が低減されるにしたがい、各バルブ103〜105を徐々に閉めた。溶媒110およびエアーが完全に抜け出たのを確認後、流入防止バルブ102を開けて、第2送液路100bを介してドープ27を流延ダイ43に送り込んだ。
【0098】
流延ダイ43の吐出口から、幅が1.8mであり、乾燥したフイルムの膜厚が80μmとなるように流量を調整しながら、かつドープ27の流延幅を1700mmとしてドープ27を流延した。また、流延ダイ43にジャケット(図示しない)を取り付けて、その内部に伝熱媒体を供給して、ドープ27の温度を36℃に調整した。製膜中、流延ダイ43とドープ27が通過する配管は、すべて36℃に保温した。
【0099】
なお、流延ダイ43は、コートハンガータイプのダイであり、厚み調整ボルトが20mmピッチに設けられており、ヒートボルトによる自動厚み調整機構を具備しているものを使用した。このヒートボルトは、あらかじめ設定したプログラムによりポンプ62の送液量に応じたプロファイルを設定することもでき、フイルム製造ライン40に設置した赤外線厚み計(図示しない)のプロファイルに基づいた調整プログラムによってフィードバック制御も可能な性能を有するものを用いた。端部20mmを除いたフイルムは、50mm離れた任意の2点の厚み差は1μm以内であり、幅方向における厚みのばらつきが3μm/m以下であり、全体厚みが±1.5%以下になるように調整した。
【0100】
流延ダイ43の1次側に、減圧チャンバ68を設置した。この減圧チャンバ68の減圧度は、流延速度に応じながら、流延ビードの前後で1〜5000Paの圧力差が生じるように調整した。また、流延ビードの長さが20〜50mmとなるように流延ビードの両面側の圧力差を設定した。減圧チャンバ68は、流延部周囲のガスの凝縮温度よりも高い温度に設定できる機構を具備したものを用いた。流延ダイ43吐出口におけるビードの前面部および背面部には、ラビリンスパッキン(図示しない)を設け、その吐出口の両端には開口部を設けた。さらに、流延ダイ43には、流延ビードの両縁の乱れを調整するためのエッジ吸引装置(図示しない)を取り付けた。
【0101】
流延ダイ43の材質は、熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下の析出硬化型のステンレス鋼を用いた。流延ダイ43の接液面の仕上げ精度は、表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であり、スリットのクリアランスは1.5mmに調整した。流延ダイ43のリップ先端には、溶射法によりWC(タングステンカーバイト)コーティングを行って硬化膜を設けた。また、接液面の角部分については、Rはスリット全巾に亘り50μm以下になるように加工されているものを用いた。
【0102】
流延ダイ43の吐出口には、流延するドープ27が局所的に乾燥固化することを防止するために、ドープ27を可溶化する溶媒として、ジクロロメタンが86.5質量部,メタノールが13質量部,1−ブタノールが0.5質量部を混合した混合溶媒Aを作製して、流延ビードの両側端部と吐出口との界面部に対し、それぞれ0.5ml/分ずつ供給した。このとき、混合溶媒Aを供給するポンプの脈動率を5%以下とした。また、減圧チャンバ68により、流延ビード背面側の圧力を前面部よりも150Pa低くした。減圧チャンバ68は、ジャケット(図示しない)が取り付けられたものを使用して、そのジャケット内に35℃に調整された伝熱媒体を供給して温度を調整した。なお、前記エッジ吸引装置は、1〜100L/分の範囲となるようにエッジ吸引風量を調整することができるものであり、本実施例では、これを30〜40L/分の範囲となるように調整した。
【0103】
風圧変動抑制手段(図示しない)を有した流延室64の内部に設置した流延バンド46の上に、流延ダイ43からドープ27を流延した。流延バンド46は、幅2.1mで長さが70mであり、厚みが1.5mm、表面粗さが0.05μm以下になるように研磨したSUS316製のエンドレスバンドを使用した。流延バンド46の全体の厚みムラは0.5%以下であった。2個の回転ローラ44,45により流延バンド46を駆動させた。このとき、流延バンド46の搬送方向における張力は1.5×10N/mとし、流延バンド46と回転ローラ44,45との相対速度差が0.01m/分以下であり、流延バンド46の速度変動を0.5%以下となるように調整した。また、流延バンド46の両端位置を検出して、1回転の幅方向の蛇行が1.5mm以下になるように制御した。流延ダイ43の直下におけるダイリップ先端と流延バンド46との上下方向の位置変動は200μm以下にした。
【0104】
回転ローラ44,45は、流延バンド46の温度調整を行うことができるように、内部に伝熱媒体を送液できるものを用いた。回転ローラ44には、乾燥のために40℃の伝熱媒体を流した。一方で、回転ローラ45には、5℃の伝熱媒体を流した。流延直前の流延バンド46中央部の表面温度は15℃であり、その両側端の温度差は6℃以下であった。なお、流延バンド46には、30μm以上のピンホールは皆無であり、10μm〜30μmのピンホールは1個/m以下、10μm未満のピンホールは2個/m以下である表面欠陥のないエンドレスバンドを使用した。また、流延室64の温度は、温調設備65により35℃に保った。流延バンド46上の流延膜69に対して、最初に、流延膜69に対して平行に流れる乾燥風を送って乾燥した。この乾燥風からの流延膜69への総括伝熱係数は24kcal/(m・時・℃)であった。
【0105】
流延バンド46上部の上流側に送風機として送風ダクト70を設けた(図3参照)なお、流延バンド46上での乾燥雰囲気における酸素濃度を、空気を窒素ガスで置換することで5vol%に保持した。流延室64内の溶媒は、凝縮器(コンデンサ)66の出口温度を−10℃に設定して、凝縮回収した。
【0106】
流延膜69中の残留溶媒量が、50重量%になった時点で、流延バンド46から湿潤フイルム74として剥ぎ取ってからローラ75で支持した。また、剥取張力を1×102 N/m2 とし、剥取不良を抑制するために流延バンド46の速度に対して、剥取速度(剥取ローラドロー)は100.1%〜110%の範囲で調整した。剥ぎ取った湿潤フイルム74の表面温度は15℃であった。乾燥により発生した溶媒ガスは、−10℃に調整した凝縮器66で凝縮液化してから回収装置67で回収して、水分量が0.5%以下となるよう溶媒を除去した。この溶媒を除去した乾燥風は、再度加熱して乾燥風として再利用した。湿潤フイルム74を渡り部80のローラを介して搬送し、テンタ式乾燥機47に送った。渡り部80では、湿潤フイルム74の長手方向に対して約30Nの張力を付与して搬送する間に、送風機81から40℃の乾燥風を湿潤フイルム74に送風して乾燥した。
【0107】
テンタ式乾燥機47では、湿潤フイルム74の両側端部をクリップで把持した状態で、幅方向に延伸しながら搬送した。このクリップの搬送はチェーンで行うとともに、20℃の伝熱媒体の供給により冷却した。テンタ式乾燥機47は、その内部を3ゾーンに分けて、各ゾーンの乾燥風温度を上流側から90℃,110℃,120℃とした。乾燥風のガス組成は、−10℃における飽和ガス濃度とした。テンタ式乾燥機47の出口では、フイルム82内の残留溶媒量が、7質量%となるように乾燥ゾーンの条件を調整して乾燥した。なお、延伸前の湿潤フイルム74の幅を100%としたとき、延伸後の幅が103%となるように延伸した。ローラ75からテンタ式乾燥機47の入口に至るまでの延伸率(テンタ駆動ドロー)は102%とした。
【0108】
テンタ式乾燥機47内での延伸率は、クリップによる噛み込み開始位置から10mm以上離れた位置の任意の2点における各実質延伸率の差異が10%以下であり、20mm離れた任意の2点の延伸率の差は5%以下であった。また、テンタ式乾燥機47の入口から出口までの長さに対する、クリップ挟持開始位置から挟持解除位置までの長さの割合は90%とした。テンタ式乾燥機47の内部で揮発した溶媒は、凝縮器(コンデンサ)を設け、その出口温度を−8℃に設定することで、−10℃の温度で凝縮液化して回収した。この凝縮溶媒は、含まれる水分量が0.5質量%以下になるように調整してから再使用した。そして、テンタ式乾燥機47からフイルム82として送り出した。
【0109】
テンタ式乾燥機47の出口から30秒以内に、耳切装置50としてNT型カッターを用いて、フイルム82の両側50mmの耳をカットした。このとき、カットした耳は、カッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ90に風送して平均80mm程度のチップに粉砕し、このチップを再度ドープ調製用原料として利用した。なお、テンタ式乾燥機47の空気を窒素ガスで置換して、乾燥雰囲気における酸素濃度を5vol%に保持した。また、後述する乾燥室51で高温乾燥させる前に、100℃の乾燥風が供給されている予備乾燥室(図示しない)でフイルム82を予備加熱した。
【0110】
フイルム82を乾燥室51で高温乾燥した。乾燥室51を4区画に分割して、上流側から120℃,130℃,130℃,130℃の乾燥風を送風機(図示しない)から送り出した。フイルム82のローラ91による搬送張力を100N/mとして、最終的に残留溶媒量が0.3質量%になるまで約10分間乾燥した。このとき、ローラ91のラップ角度(フイルムの巻き掛け中心角)は、90度および180度とした(図2では誇張して示している)。ローラ91の材質は、アルミ製もしくは炭素鋼製であり、表面にはハードクロム鍍金を施した。また、ローラ91の表面形状はフラットなものとブラストによりマット化加工したものとを用いた。ローラ91の回転によるフイルム位置の振れは、全て50μm以下であった。なお、テンション100N/mでのローラ撓みは、0.5mm以下となるように選定した。
【0111】
乾燥風に含まれる溶媒ガスは、吸着回収装置92を用いて吸着回収除去した。ここに使用した吸着剤は活性炭であり、脱着は乾燥窒素を用いて行った。回収した溶媒は、水分量を0.3質量%以下に調整して、ドープ調製用溶媒として再利用した。乾燥風には、溶媒ガスの他、可塑剤,UV吸収剤,その他の高沸点物が含まれるので冷却除去する冷却器およびプレアドソーバでこれらを除去して再生循環使用した。そして、最終的に屋外排出ガス中のVOC(揮発性有機化合物)は10ppm以下となるよう、吸脱着条件を設定した。また、全揮発溶媒のうち、凝縮法で回収する溶媒量は90質量%であり、残りのものの大部分は吸着回収により回収した。
【0112】
乾燥したフイルム82を第1調湿室(図示しない)に搬送した。乾燥室51と第1調湿室との間の渡り部には、110℃の乾燥風を送り出した。第1調湿室には、温度50℃、露点が20℃の空気を送り出した。さらに、フイルム82のカールの発生を抑制する第2調湿室(図示しない)にフイルム82を搬送した。第2調湿室では、フイルム82に直接90℃,湿度70%の空気を送り出した。
【0113】
調湿後のフイルム82は、冷却室52で30℃以下に冷却した後に、耳切装置(図示しない)で再度両端の耳切りを行った。また、強制除電装置(除電バー)93を設置して、搬送中のフイルム82の帯電圧を、常時−3〜+3kVの範囲となるようにした。さらに、フイルム82の両端にナーリング付与ローラ94でナーリングの付与を行った。ナーリングは、フイルム82の片側からエンボス加工を行うことで付与した。このとき、ナーリングを付与する幅は10mmであり、凹凸の高さがフイルム82の平均厚みよりも平均12μm高くなるようにナーリング付与ローラによる押し圧を設定した。
【0114】
最後に、フイルム82を巻取室53に搬送した。巻取室53は、室内温度28℃,湿度70%に保持した。巻取室53の内部には、イオン風除電装置(図示しない)を設置して、フイルム82の帯電圧が−1.5〜+1.5kVとなるようにした。このようにして得られたフイルム(厚さ80μm)82は、その幅が1475mmであり、巻取り全長は3940mであった。巻取ローラ95の径は169mmのものを用いた。巻き始めの張力は300N/mであり、巻き終わりの張力が200N/mとなるようにした。また、巻き取りの際の巻きズレの変動幅(オシレート幅と称することもある)を±5mmとして、巻取ローラ95に対する巻きズレ周期を400mとした。巻取ローラ95に対するプレスローラ96の押し圧は、50N/mに設定した。巻き取り時のフイルム82の温度は25℃、含水量は1.4質量%、残留溶媒量は0.3質量%であった。
【実施例2】
【0115】
実施例1と同じ原料および製造方法を用いてフイルム82を製造した。ただし、実施例1での送液工程時における送液条件(ドープ流量、ドープ濃度、溶媒種、溶媒の送液量、ポンプ吐出圧)の内、ドープ濃度のみを変更し、ドープ27のドープ濃度が23.5質量%となるように調整した。
【実施例3】
【0116】
実施例1と同じ原料および製造方法を用いてフイルム82を製造した。ただし、実施例1での送液工程時における送液条件の内、溶媒の送液量のみを変更し、その値が5Lとなるように調整した。
【実施例4】
【0117】
実施例1と同じ原料および製造方法を用いてフイルム82を製造した。ただし、実施例1での送液工程時における送液条件の内、ドープ濃度および溶媒の送液量を変更し、ドープ濃度を23.5質量%とし、溶媒の送液量が5Lとなるように調整した。
【0118】
〔比較例1〕
実施例1と同じ原料および製造方法を用いてフイルム82を製造した。ただし、実施例1での送液工程時における送液条件の内、ドープ流量のみを変更し、その値が3L/分となるように調整した。
【0119】
〔比較例2〕
実施例1と同じ原料および製造方法を用いてフイルム82を製造した。ただし、実施例1での送液工程時における送液条件の内、ドープ流量およびドープ濃度を変更し、ドープ流量を3L/分とし、ドープ濃度が23.5質量%となるように調整した。
【0120】
〔比較例3〕
実施例1と同じ原料および製造方法を用いてフイルム82を製造した。ただし、実施例1での送液工程時における送液条件の内、ドープ流量および溶媒の送液量を変更し、ドープ流量を3L/分とし、溶媒の送液量が5Lとなるように調整した。
【0121】
〔比較例4〕
実施例1と同じ原料および製造方法を用いてフイルム82を製造した。ただし、実施例1での送液工程時における送液条件の内、ドープ流量、ドープ濃度および溶媒の送液量を変更し、ドープ流量を3L/分とし、ドープ濃度が23.5質量%、溶媒の送液量が5Lとなるように調整した。
【0122】
〔比較例5〕
実施例1と同じ原料および製造方法を用いてフイルム82を製造した。ただし、実施例1とドープ流量、ドープ濃度およびポンプ吐出圧は同じながら、送液工程を行わずに第2送液路100bにドープ27を送り込んだ。
【0123】
〔比較例6〕
実施例1と同じ原料および製造方法を用いてフイルム82を製造した。ただし、送液工程を行わずに第2送液路100bにドープ27を送り込んだ。このとき、実施例1とドープ流量、ポンプ吐出圧は同じながら、ドープ濃度を23.5質量%と変更した。
【0124】
〔比較例7〕
実施例1と同じ原料および製造方法を用いてフイルム82を製造した。ただし、送液工程を行わずに第2送液路100bにドープ27を送り込んだ。このとき、実施例1とドープ濃度、ポンプ吐出圧は同じながら、ドープ流量を3L/分と変更した。
【0125】
〔比較例8〕
実施例1と同じ原料および製造方法を用いてフイルム82を製造した。ただし、送液工程を行わずに第2送液路100bにドープ27を送り込んだ。このとき、実施例1とポンプ吐出圧は同じながら、ドープ流量を3L/分とし、ドープ濃度を23.5質量%とした。
【0126】
〔評価〕
流延ダイ43にドープ27を送り込む際のポンプ62の平均吐出圧を算出して、ポンプ62生じる負荷の程度を評価した。
【0127】
各実施例および比較例での送液工程における各送液条件、およびポンプ62の吐出圧測定結果を表1に示す。
【0128】
【表1】

【0129】
表1からも明らかなように、ドープ27を流延ダイ43に送り込む前に送液工程を行った場合(実施例1〜実施例4)には、ドープ27をポンプ62により連続的に第2送液路100bを介して流延ダイ43に送り込んでも、ドープ濃度や溶媒の送液量の大小に関わらず、ポンプ62の吐出圧が上昇することなく作業を行うことができた。また、送液工程時におけるドープ流量を大きくした場合(比較例1〜比較例4)には、全体的にポンプ62の吐出圧は上昇したが、ポンプ62の耐圧以下であった。
【0130】
一方で、送液工程を行わずにドープ27を流延ダイ43に送り込んだ場合(比較例5〜比較例8)には、ドープ流量およびドープ濃度の大小に関わらず、ドープ27を連続的に第2送液路100bに送り込んでいる最中のポンプ62の吐出圧が上昇した。この原因としては、図4に示すように、第2送液路100bに溶媒110を送り込まずにドープ27を送り込むと、第2送液路100b中のエアーがドープ27に押されることでエアー溜まり120が発生する。このようにエアー溜まり120が発生すると、エアーに触れたドープ27の表面は酸化されて皮バリ130が形成されてしまう。したがって、エアー抜きバルブ103〜105からエアーなどを抜くときに、この皮バリや粘度の高いドープ27がエアーとともに前記バルブ103〜105に吸い寄せられるので、このバルブ付近での圧力が上昇し、結果としてポンプ62の吐出圧が上昇してしまったことが考えられる。
【0131】
以上より、本発明のように、ドープを流延ダイに送り込む前に送液工程として、まず、所定の量の溶媒を第2送液路に送り込んだ後に、ドープを送り込んで溶媒とドープとを置換し、この置換したドープを流延ダイに送り込むようにすると、第2送液路の内部にエアー溜まりが発生するのを防止することができ、かつ、ドープと溶媒とが混合することでドープの粘度を低下させることができる。そのため、エアー抜きバルブから、エアーや溶媒、ドープを抜き取る際に、皮バリや高粘度のドープが引っかかることがないので、ポンプの吐出圧を上昇させることなく作業を行うことができることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明でのドープ製造ラインの概略図である。
【図2】本発明でのフイルム製造ラインの概略図である。
【図3】本発明でのドープ送液時における送液路の概略図である。
【図4】従来でのドープ送液時における送液路の概略図である。
【符号の説明】
【0133】
10 ドープ製造ライン
27 ドープ
40 フイルム製造ライン
42 第3濾過装置
43 流延ダイ
62 ポンプ
100a 第1送液路
100b 第2送液路
102 流入防止バルブ
103〜105 エアー抜きバルブ
120 エアー溜まり
130 皮バリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送液路を介して流延ダイに送り込んだドープを前記流延ダイから走行する支持体の上に流延して流延膜を形成し、前記流延膜を乾燥してポリマーフイルムとするポリマーフイルムの製造方法において、
前記送液路に前記ドープを送り込む前に、
前記送液路に溶媒を送って前記送液路の内部を前記溶媒で満たす第1送液工程と、
第1送液工程が終了後、前記送液路に前記ドープを送り込んで前記溶媒と前記ドープとを置換する第2送液工程とを行うことを特徴とするポリマーフイルムの製造方法。
【請求項2】
前記送液路は、曲管部と前記曲管部に接続される直管部と前記曲管部または直管部の少なくともいずれか一方に設けられたエアー抜きバルブとを有し、前記送液路に前記ドープを送り込んだ後、前記エアー抜きバルブにより前記送液路の内部の溶媒を含んだドープを抜き出すことでエアーを抜き出すことを特徴とする請求項1記載のポリマーフイルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の方法により製造されることを特徴とするポリマーフイルム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−297921(P2006−297921A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80955(P2006−80955)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】