説明

ポリマー固定化ホスフィン化合物

【課題】ナノフィルターでの膜分離や水や有機溶媒への溶解性の制御、更には適用可能な触媒プロセスの拡張を可能とする、新規な配位子として有用なポリマー固定化ホスフィン化合物およびこれを含む新規な金属錯体を提供する。
【解決手段】一般式(I)
【化1】


(式中、Rは2価炭化水素基、R及びRは炭化水素基である)
で表されるアリルアミン誘導体の少なくとも一種を繰返単位として含有するポリマー固定化ホスフィン化合物。上記に記載のポリマー固定化ホスフィン化合物からなるホスフィン配位子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリマー固定化ホスフィン化合物およびこのものを配位子とする含金錯体化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機合成反応は液相反応が中心であるが、液相反応では、金属錯体触媒は反応溶液に溶解しているため、触媒の回収、リサイクルが容易ではなく、また錯体触媒は金属を含有し、これが反応処理液に混入してくるため、そのままでは排出できず、環境保全の面からも問題がある。そこで回収、リサイクルが容易で、環境にも優しい金属錯体触媒の開発が求められている(非特許文献1参照)。
【0003】
このような金属錯体触媒として、例えばポリスチレン等のポリマー樹脂(ビーズ)にホスフィン配位子を固定化したポリマー固定化ホスフィン配位子が市販されているが、不均一系ゆえ触媒活性は低下する(非特許文献2参照)
【0004】
近年水溶性のポリアクリル酸誘導体にホスフィン配位子を固定化したポリマー固定化ホスフィン配位子が開発された(非特許文献3、4参照)。この触媒は、反応終了後、液液二層分離や再沈澱等の後処理操作によりホスフィン錯体触媒の回収が可能となるが、一般に操作が煩雑となり、また確実な触媒の回収は困難等の問題点があった。
【0005】
一方、水溶性であるポリ(アリルアミン)への配位子や触媒の固定化は、ルイス酸として作用するスカンジウムトリフラートの固定化のみである(非特許文献5参照)。このポリ(アリルアミン)をポリマー支持体とする場合、側鎖のアミノ基への置換基導入において、ホスフィン配位子の導入率により、水や有機溶媒への溶解性の制御が可能となり、さらにこれにより適用可能な触媒プロセスも拡張される。
【0006】
また多くの場合平均分子量が数千以上の可溶性ポリマーはナノサイズゆえナノフィルターでの濾別回収が可能となり、ナノフィルターでの濾別に基づく錯体触媒のリサイクルや触媒プロセスの連続反応化が可能となる(非特許文献6参照)。前述したポリ(アリルアミン)を触媒の支持体とした場合においても、ナノフィルターでの濾別回収が期待され、それ故ポリ(アリルアミン)を支持体とした新規な配位子やこれを含む金属触媒の開発が強く要請されている。
【0007】
【非特許文献1】「グリーン・ケミストリー・アンド・キャタリシス(Green Chemistry and Catalysis)」、2007年、p.49(WILEY−VCH)
【非特許文献2】「ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(J.Org.Chem.)」、1976年、第41巻、p.3877
【非特許文献3】「ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサイアティー(J.Am.Chem.Soc.)」、1998年、第120巻、p.4250
【非特許文献4】「インディアン・ジャーナル・オブ・ケミストリー(Indian Journal of Chemistry)」、2007年、第46B巻、p.154
【非特許文献5】「ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサイアティー(J.Am.Chem.Soc.)」、1996年、第118巻、p.8977
【非特許文献6】「ユーロピアン・ジャーナル・オブ・インオーガニック・ケミストリー(Europian Journal of Inorganic Chemistry)」、2005年、p.4011
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情のもとでなされたものであり、ナノフィルターでの膜分離や水や有機溶媒への溶解性の制御、更には適用可能な触媒プロセスの拡張を可能とする、新規な配位子として有用なポリマー固定化ホスフィン化合物およびこれを含む新規な金属錯体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、可溶性ナノサイズホスフィン配位子について鋭意研究を重ねた結果、該化合物は、溶媒中において、アリルアミン単位を含有するポリマーとカルボキシル基を有するホスフィン化合物を反応させることにより容易に得られること、そしてこのポリ(アリルアミン)固定化ホスフィン化合物は配位子として利用でき、このものを配位子として調製されるポリ(アリルアミン)固定化金(I)ホスフィン錯体は、金(I)ホスフィン錯体触媒により活性化されるアルキン等の付加反応を効率的に促進させ、さらに膜分離により触媒の回収も可能なことから、リサイクル可能な新規ナノサイズ錯体触媒として有用であることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
〈1〉
一般式(I)
【化1】

(式中、Rは2価炭化水素基、R及びRは炭化水素基である)
で表されるアリルアミン誘導体の少なくとも一種を繰返単位とするポリマー固定化ホスフィン化合物。
〈2〉
一般式(II)
【化2】

で表されるアリルアミン単位を含有するポリマーと、
一般式(III)
【化3】

(式中、Rは2価炭化水素基、R及びRは炭化水素基である)
で表されるホスフィン化合物とを溶媒中で反応させることを特徴とする、一般式(I)
【化4】

(式中、Rは2価炭化水素基、R及びRは炭化水素基である)
で表されるアリルアミン誘導体の少なくとも一種を繰返単位として含有するポリマー固定化ホスフィン化合物の製造方法。
〈3〉
〈1〉に記載のポリマー固定化ホスフィン化合物からなるホスフィン配位子。
〈4〉
〈3〉に記載のホスフィン配位子を含む一般式(IV)
【化5】

(Rは2価炭化水素基、R及びRは炭化水素基、Lはハロゲン化物イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ヘキサフルオロアンチモネートイオン又はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミデートイオンである)
で表されるポリマー固定化金(I)ホスフィン錯体。
〈5〉
〈4〉に記載のポリマー固定化金(I)ホスフィン錯体を必須成分とする付加反応用触媒。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、可溶性ナノサイズホスフィン配位子として有用であり、ナノフィルターでの膜分離や水や有機溶媒への溶解性の制御を可能とする、新規なポリマー固定化ホスフィン化合物を得ることができる。
また、本化合物を配位子とする金(I)ホスフィン錯体は、付加反応用錯体触媒として有効であり、例えばアルキンの水和反応などの種々の付加反応を効率よく進行させる触媒として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の新規なポリマー固定化ホスフィン化合物は、下記一般式(I)で表されるアリルアミン誘導体の少なくとも一種を繰返単位(以下、単にアリルアミン類単位Aとも言う)とすることを特徴としている。
【化6】

(式中、Rは2価炭化水素基、R及びRは炭化水素基である)
【0013】
このポリ(アリルアミン)誘導体について、前記式中の置換基における各符号で示される内容を具体的に説明することにより、その構造をさらに明らかにする。
(1)Rは2価炭化水素基を示すが、この基には、2価脂肪族基や2価芳香族基が包含される。2価脂肪族基には鎖状及び環状のものが包含される。2価芳香族基にはアリーレン基及びアラルキレン基が包含される。
2価脂肪族基としては、炭素数1〜10、好ましくは1〜4のアルキレン基(例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基、イソブチレン基等)や、炭素数3〜8、好ましくは5〜6のシクロアルキレン基(例えばシクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等)が挙げられる。
2価芳香族基としては、炭素数6〜14、好ましくは6〜10のアリーレン基(例えば、フェニレン基、ナフチレン基等)や、炭素数7〜20、好ましくは7〜13のアラルキレン基、例えば下記一般式(V)で表される基等が挙げられる。
−(R−Ar−(R− (V)
(式中、Arはアリーレン基を示し、R及びRは炭素数1〜6、好ましくは1〜3の低級アルキレン基を示し、u及びvは1又は0で、これらのいずれか一方は1である)
(2)R及びRは炭化水素基を示すが、この基には、脂肪族基や芳香族基が包含される。脂肪族基には鎖状及び環状のものが包含される。芳香族基にはアリール基及びアラルキル基が包含される。
脂肪族基としては、炭素数1〜10、好ましくは1〜4のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等)や、炭素数3〜8、好ましくは5〜6のシクロアルキル基(例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基等)が挙げられる。
芳香族基としては、炭素数6〜14、好ましくは6〜10のアリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)や、炭素数7〜20、好ましくは7〜13のアラルキル基、例えば下記一般式(VI)で表される基等が挙げられる。
−(R−Ar’−(R−H (VI)
(式中、Ar’はアリーレン基を示し、Rは炭素数1〜6、好ましくは1〜3の低級アルキレン基、Rは炭素数1〜6、好ましくは1〜3の低級アルキレン基を示し、w及びxは1又は0で、これらのいずれか一方は1である)
【0014】
前記一般式(I)のアリルアミン類単位Aにおいて、側鎖置換基は下記一般式(VII)で表される。
【化7】

(式中、R、R及びRは、前記と同じ意味を示す)
このアリルアミン類単位Aとして好ましくは化7、及び化6で示した一般式(V)及び(VI)中の各符号について、Rがアリーレン基やu=1,v=0のアラルキレン基、R及びRがアリール基やw=0,x=1のアラルキル基が挙げられる。
【0015】
本発明のポリ(アリルアミン)固定化ホスフィン化合物において、アリルアミン類単位Aの含有率は、0.1〜100%で、好ましくは、5〜100%である。アリルアミン類単位Aとは異なるアミン誘導体部分は、無保護のアミノ基、あるいはアミド基(−NHCOR R:炭化水素基)やカルバメート基(−NHCOR R:炭化水素基)である。炭化水素基Rにはポリ(アリルアミン)固定化ホスフィン化合物を製造する反応において関与しないアルコキシ基などの置換基を有していてもよい。またホスフィンの導入時に、これらのアミド基やカルバメート基を有するポリ(アリルアミン)を用いてもよいし、ホスフィン導入後、未反応のアミノ基をアミド基やカルバメート基に変換してもよい。
また、ポリ(アリルアミン)固定化ホスフィン化合物の分子量は、数平均分子量で好ましくは1,000〜1,000,000、中でも5,000〜50,000である。
【0016】
本発明のポリ(アリルアミン)固定化ホスフィン化合物は、前記一般式(II)で表されるアリルアミン単位(以下、単にアリルアミン単位Bとも言う)を含有するポリマーと、前記一般式(III)で表されるカルボキシル基を有するホスフィン化合物とを、溶媒中で脱水縮合させることにより製造することができる。
この反応により、アリルアミン単位Bのアミノ基とホスフィン化合物中のカルボキシル基との脱水縮合反応により、アミド結合が形成され、対応するポリ(アリルアミン)固定化ホスフィン化合物が生成される。
カルボキシル基を有するホスフィン化合物として好ましくは、化3、及び化6で示した一般式(V)及び(VI)中の各符号について、Rがアリーレン基やu=1,v=0のアラルキレン基、R及びRがアリール基やw=0,x=1のアラルキル基が挙げられる。
【0017】
脱水縮合操作は、好ましくは1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)存在下、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド・塩酸塩(EDC・HCl)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、或いはN,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)を脱水縮合剤に用い、また反応条件については、反応温度は好ましくは室温ないし100℃の範囲であり、また、反応時間は、反応温度及び、使用する溶媒等のその他の条件により異なり、一概に定めることはできないが、好ましくは2〜24時間程度である。
この反応に用いられる溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素、トルエン、ベンゼン、キシレン、ケロシン、石油エーテル等の炭化水素、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどが挙げられ、中でもジクロロメタン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド等が好ましく挙げられる。
この溶媒を用いてアリルアミン単位Bを含有するポリマーとカルボキシル基を有するホスフィン化合物との反応を行うに際しては、好ましくは窒素雰囲気下、ポリマー、ホスフィン化合物、脱水縮合剤、及びHOBtを溶媒に溶解させ充分に攪拌する。
【0018】
加えるホスフィン化合物の量については、ポリマー中のアミノ基の一部にホスフィンを導入しアミド化する場合、導入する反応点と当量のホスフィン化合物を使用する。この場合ホスフィン導入後、未反応のアミノ基にアシル基(RCO)を導入することによりポリマーの溶解性の制御が可能となり、このアシル基の導入では未反応のアミノ基1モルあたり、1〜10モル、好ましくは1〜3モルの範囲のカルボン酸RCOHを使用する。
また全てのアミノ基にホスフィンを導入しアミド化する場合、必ずしも限定する必要はないが、一般的には、ポリマー中に含まれるアリルアミン単位B1モルあたり1〜10モル、好ましくは1〜3モルの範囲のホスフィン化合物が用いられる。
脱水縮合剤及びHOBtの使用量についても必ずしも限定する必要はないが、反応点1モルあたり1〜10モル、好ましくは1〜3モルの範囲で用いられる。
【0019】
反応終了後、DCC等を用いた場合は沈澱した尿素体を濾別し、濾液を減圧にて濃縮後メタノール等の可溶性溶媒に溶解させ、ナノ膜濾過器を用い共存する反応試薬等を膜透過させ、ポリマーを濾過濃縮した後、減圧乾燥することによりポリ(アリルアミン)固定化ホスフィン化合物が得られる。またメタノール等の可溶性溶媒に溶解させた後、アセトン等の貧溶媒を加えることにより固化する場合は再沈澱を繰り返すことにより精製することもできる。また濾液を減圧にて濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーでも精製することができる。成績体は31P NMR,IR,元素分析より目的物の生成が確認される。
【0020】
本発明の一般式(I)で表されるポリ(アリルアミン)固定化ホスフィン化合物は配位子としての利用が可能である。このポリ(アリルアミン)固定化ホスフィン化合物を配位子とした金属化合物との反応の1例について、以下に説明する。
【0021】
脱酸素雰囲気下、前記配位子としてのポリ(アリルアミン)固定化ホスフィン化合物と一般式(VIII)
AuL[S(CH] (VIII)
(式中Lはハロゲン化物イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ヘキサフルオロアンチモネートイオン又はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミデートイオンを示す)
の組成で表される金(I)化合物とを溶媒中で反応させ、一般式(IV)
【化8】

(式中、R、R及びRは前述したものと同じ、Lはハロゲン化物イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ヘキサフルオロアンチモネートイオン又はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミデートイオンを示す)
で表される配位構造を有する、ポリマー固定化金(I)ホスフィン錯体を製造することができる。
【0022】
この反応は溶媒に所定のポリ(アリルアミン)固定化ホスフィン化合物を溶解させ、金(I)化合物を添加して行われる。溶媒には水や有機溶媒、好ましくはジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素溶媒が用いられる。
また反応は、格別加熱することなく、室温程度で進行させることができるが、加熱により促進させるようにしてもよい。また、反応中、反応液は攪拌するのがよい。
反応終了後、溶媒の減圧留去により反応生成物が得られ、その31P NMR、及びICPによる金及びリンの定量より目的物の生成が確認される。
【0023】
このように、上記金(I)化合物は、配位子としての上記ポリマー固定化ホスフィン化合物で配位されることにより固定化される。このポリマー固定化金(I)ホスフィン錯体は、各種の金(I)ホスフィン錯体触媒により活性化される有機反応、例えばアルキンの水和反応等の付加反応に適用することにより反応を促進させることができることから、付加反応用の可溶性ナノサイズ金(I)ホスフィン錯体触媒として有用である。
【0024】
本発明の一般式(IV)で表されるポリマー固定化金(I)ホスフィン錯体をこのような付加反応用金(I)ホスフィン錯体触媒として用いた反応の1例について、以下に説明する。
【0025】
前記触媒としての金(I)ホスフィン錯体の存在下に、一般式(IX)
【化9】

(式中、R及びRは、水素原子又は炭化水素基を示す。炭化水素基の場合、これらの炭化水素基にはアルコキシ基、水酸基やカルボキシル基等の置換基を有していてもよい。またいずれも炭化水素基の場合、両者は互いに結合して環を形成してもよい)
で表されるアルキンを水中で反応させ、一般式(X)
【化10】

(式中、R及びRは前記と同じ意味を示す)
及び一般式(XI)
【化11】

(式中、R及びRは前記と同じ意味を示す)
で表されるカルボニル化合物を製造することができる。この場合、アルキンによっては片方のみ生成する場合もある。
上記炭化水素基は特に限定されず、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
【0026】
この反応は、触媒を溶媒である水に溶解させ、原料物質を添加させて行われる。溶媒としてアセトニトリルやアセトン等の有機溶媒と水との混合溶媒を用いてもよい。
また反応は室温程度で進行するが、加熱により反応を促進させることもできる。反応中、反応液は攪拌するのがよい。また助触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸等のプロトン酸を添加することにより、反応は加速される。
反応終了後反応液をナノフィルター(NF膜)で濾過することにより、触媒を濾別分離し、透過液を濃縮することにより目的物質を得ることができる。
【0027】
本発明のポリマー固定化金(I)ホスフィン錯体触媒はナノフィルターでの濾別分離が可能なため、触媒の濾別回収のみならず、触媒のリサイクルやさらには液相膜反応器(メンブレンリアクター)への適用により、触媒の膜分離による連続反応化が可能となり、省エネ型化学プロセスが達成される。それ故ポリマー固定化金(I)ホスフィン錯体触媒は触媒反応プロセスの省エネ化に資するものである。
【0028】
このように、前記一般式(IV)で表されるポリ(アリルアミン)固定化金(I)ホスフィン錯体は、可溶性ナノサイズ金(I)ホスフィン錯体触媒として有用であり、本触媒を用いることにより、金(I)ホスフィン錯体触媒により活性化される有機反応を効率的に促進させることができ、また触媒の回収やリサイクルも達成される。
【実施例】
【0029】
次に、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
【0030】
実施例1
アルゴン雰囲気下、ポリ(アリルアミン)(数平均分子量1800)211mg、4−(ジフェニルホスフィノ)安息香酸1.51g、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド・塩酸塩1.42g、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール1.00gを無水ジクロロメタン(40mL)に溶解させ、20時間室温で攪拌した。反応溶液の減圧留去により溶液総量を1/5程度にした後、メタノール(100mL)に滴下することにより再沈澱させた。濾別後、再度ジクロロメタン(5mL)に溶解させこのものをアセトン(100mL)に滴下し再沈澱させ、得られた固体を濾別しアセトンで洗浄後、50℃で12時間真空乾燥した(淡黄色粉体、収量1.02g)。
この生成物の分析結果は次の通りである。
IR(KBr):3050,2922,1633,1532,1300,845,742,694cm−1
31P NMR(202MHz,CDCl)δ/ppm −5.2
元素分析 C 76.51,H 5.84,N 4.06%
これらの分析結果より、この生成物は以下の化学式(XII)
【化12】

で表されるアリルアミン単位を含有するポリ(アリルアミン)誘導体と同定された。
【0031】
実施例2
アルゴン雰囲気下、ポリ(アリルアミン)(数平均分子量3100)536mg、4−(ジフェニルホスフィノ)安息香酸570mg、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド・塩酸塩3.50g、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール1.63gを無水N,N−ジメチルホルムアミド(25mL)に溶解させ2時間室温で攪拌した後、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸2.50gを加え20時間80℃で攪拌した。N,N−ジメチルホルムアミドを減圧留去した後、メタノールに溶解させ、ナノ膜濾過器(クロスフロー式セラミックフィルター、膜孔径5nm)を用いメタノール溶液の連続的濾過により生成物を濃縮した。メタノールを減圧留去後、50℃で12時間真空乾燥した(無色油状、収量987mg)。
この生成物の分析結果は次の通りである。
IR(neat):3084,2924,1655,1545,1450,1102,849cm−1
31P NMR(202MHz,CDCl)δ/ppm −5.7
元素分析 C 58.35,H 8.26,N 6.00%
P ICP:1.49%
これらの分析結果より、この生成物は以下の化学式(XII)
【化13】

で表されるアリルアミン単位と以下の化学式(XIII)
【化14】

で表されるアリルアミン単位を11:89で含有するポリ(アリルアミン)誘導体と同定された。
【0032】
実施例3
アルゴン雰囲気下、ポリ(アリルアミン)(数平均分子量4900)417mg、4−(ジフェニルホスフィノ)安息香酸253mg、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド・塩酸塩2.56g、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール1.38gを無水N,N−ジメチルホルムアミド(25mL)に溶解させ2時間室温で攪拌した後、酢酸689mgを加え20時間80℃で攪拌した。反応溶液を減圧留去した後、メタノール(5mL)に溶解させ、このものをアセトン(150mL)に滴下することにより再沈澱させた。濾別乾燥後、再度メタノール(5mL)に溶解させアセトン(150mL)に滴下し再沈澱させ、得られた固体を濾別しアセトンで洗浄後、50℃で12時間真空乾燥した(淡黄色粉体、収量761mg)。
この生成物の分析結果は次の通りである。
IR(KBr):3284,3092,2927,1636,1553,1437,1374,1296cm−1
31P NMR(202MHz,CDOD)δ/ppm −4.7
元素分析 C 62.96,H 8.66,N 12.62%
P ICP:1.34%
これらの分析結果より、この生成物は以下の化学式(XII)
【化15】

で表されるアリルアミン単位と以下の化学式(XIV)
【化16】

で表されるアリルアミン単位を5:95で含有するポリ(アリルアミン)誘導体と同定された。
【0033】
実施例4
アルゴン雰囲気下、実施例3で得られたポリ(アリルアミン)固定化ホスフィン化合物35.6mgのメタノール溶液(1mL)に、クロロ(ジメチルスルフィド)金(I)AuCl[S(CH]4.5mgを加え、室温で1時間攪拌し反応させた。
このようにして得られた反応液を減圧下で溶媒を留去しアセトンで濾別洗浄後、30℃で30分真空乾燥し、目的生成物36.0mgを得た。
このものの分析結果は次の通りである。
IR(KBr):3276,3092,2924,1654,1560,1437,1373,1292cm−1
31P NMR(202MHz,CDOD)δ/ppm 33.9
P ICP:1.32%
Au ICP:7.29%
これらの分析結果より、この生成物は式(XV)
【化17】

で表されるアリルアミン単位を含有する含金(I)化合物であることが確認された。
【0034】
実施例5
アルゴン雰囲気下、実施例3で得られたポリ(アリルアミン)固定化ホスフィン化合物36.5mgの水溶液(3mL)に、室温にてクロロ(ジメチルスルフィド)金(I)AuCl[S(CH]4.5mgを加え室温で1時間攪拌し、式(XV)で表されるアリルアミン単位を含有する金(I)ホスフィン錯体触媒溶液を調製した。
この水溶液に4−ペンチン−1−オール253mgと助触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸34mgを加え、室温にて12時間攪拌し反応させた。
反応終了後、ナノ膜濾過器(クロスフロー式ポリエーテルスルホン膜、分画分子量650Da)を用いた連続的濾過により触媒を濾別し、生成物の透過水溶液を得た。この水溶液に内部標準としてテトラメチルアンモニウムクロリドを添加し、さらに炭酸水素ナトリウム(20.3mg)を加え中和した後、減圧下で溶媒留去し、H NMRより以下の化学式(XVI)
【化18】

で表される水和生成物の生成を確認した(収率61%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

(式中、Rは2価炭化水素基、R及びRは炭化水素基である)
で表されるアリルアミン誘導体の少なくとも一種を繰返単位として含有するポリマー固定化ホスフィン化合物。
【請求項2】
一般式(II)
【化2】

で表されるアリルアミン単位を含有するポリマーと、
一般式(III)
【化3】

(式中、Rは2価炭化水素基、R及びRは炭化水素基である)
で表されるホスフィン化合物とを溶媒中で反応させることを特徴とする、一般式(I)
【化4】

(式中、Rは2価炭化水素基、R及びRは炭化水素基である)
で表されるアリルアミン誘導体の少なくとも一種を繰返単位として含有するポリマー固定化ホスフィン化合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のポリマー固定化ホスフィン化合物からなるホスフィン配位子。
【請求項4】
請求項3に記載のホスフィン配位子を含む一般式(IV)
【化5】

(Rは2価炭化水素基、R及びRは炭化水素基、Lはハロゲン化物イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ヘキサフルオロアンチモネートイオン又はビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミデートイオンである)
で表されるポリマー固定化金(I)ホスフィン錯体。
【請求項5】
請求項4に記載のポリマー固定化金(I)ホスフィン錯体を必須成分とする付加反応用触媒。

【公開番号】特開2009−7402(P2009−7402A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167578(P2007−167578)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】