説明

ポリマー多相システムを用いた分離方法

本発明は、1またはそれ以上の標的化合物を分離するプロセスに関し、ここで供給の清澄化を、合成ポリ(酸)である第1のポリマー、ポリ(エーテル)である第2の合成ポリマー、そして少なくとも1つの塩を含む多相システム中での分配を使用して行い、清澄化に続いて親和性クロマトグラフィーの少なくとも1つの工程を行う。ポリ(酸)の分子量は、1000〜100,000 Daの範囲であってもよい。標的化合物は好ましくは、モノクローナル抗体などの生体分子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体から少なくとも1つの標的化合物を単離するプロセスに関し、このプロセスは、特定のポリマーおよび付加塩の存在下にて自然発生的に形成される2つの液相のあいだで、そのような標的を別個に分配することにより行われる単離の、少なくとも1つの工程を含む。本発明はまた、特定のポリマーおよび付加塩の存在下にて自然発生的に形成される2つの液相のあいだでのそのような分配を使用して、モノクローナル抗体を単離する方法;およびそのような分配を行うためのキット、にも関する。
【背景技術】
【0002】
昨今のバイオ医薬の開発やヒトゲノムのマッピングを含むバイオテクノロジーの著しい進歩は、クロマトグラフィーおよび電気泳動などの分離方法の開発により、可能になった。そのような方法は、スモールスケール並びにラージスケールで使用することができ、そして柔軟性のある方法であることが知られており、生物学的物質を含む様々な物質のために有用である。しかしながら、技術的および設備的の両方で要求性が高い。さらに、電気泳動などのいくつかのプロセスのスケーリングの結果として、加熱および冷却の要求性の非線形スケーリングのために、より複雑な設備が必要になる。
【0003】
水性ポリマー相システムの相間の分配は、代替的な方法であり、1950年代以来研究されてきたものではあるが、その商業的な用途は、経済的に計量可能な相システムがないことにより、厳しく抑制されてきた。結晶化およびサイズ排除などの分離方法とともに、分配は、古典的な分離技術と考えられる。それは、2相のあいだで標的とその他の物質とを差別的に分配することに関連する。用語“分配”は、(a)古典的なクロマトグラフィーにおけるものなどの液体-固体分配,(b)2種またはそれ以上の液体相の間での分配(それぞれ2相システムおよび多相システム)、(c)可動性液体相と固体相支持体の表面に固定化された別の液体相との間での分配、そして(d)液体相と2相の間の相界面との間の粒子の分配、のことをいうことができる。本件特許出願の目的のためには、分配は、(b)、(c)または(d)などの状況のこと、すなわち液体相間での分配のことをいう。分配は、典型的には、ある相と別の相の比較における濃度に関連した係数(K)として表現され、そして溶質については、Kは一般にBronsted式に従う。このように、Kは、静電相互作用および/または疎水性相互作用などの相互作用の様々なタイプにより、指数的に変化すると予想され、そして溶質サイズ、すなわち液体相との相互作用の面積に対して感受性である。界面分配の場合、Kは、界面張力により指数的に変化すると予想され、粒子を相間(interphase)に位置づける傾向がある。
【0004】
古典的な2相システムは、有機相および水相2相システムであり、相間での顕著な極性差、並びに顕著な界面張力を通常は有する。そのようなシステムは、タンパク質または細胞などの生体物質が顕著に非極性な溶液により、そして相システムを顕著な界面張力と混合することに関連した剪断損傷により、変性されるという傾向があるため、生体物質のために非常に有用という訳ではない。低張力の水性ポリマー2相-システムが、生体物質のためにより有用である。後者は、何らかの添加される有機溶媒、例えば、エタノール、または標的溶解度を上昇させ、液体相極性を低下させ、発泡性を低下させ、抗バクテリア剤として作用させるなどのために添加されるその他の有機添加物を含有してもよいことが十分に理解される。
【0005】
ポリマー2相システムは、特定の親水性のポリマーと典型的には中性のポリマーを水溶液中で混合することにより形成することができる。これらには、デキストラン(ポリグルコース)およびポリ(エチレングリコール)(PEG);およびポリスクロース(例えばFicollTM)およびPEG;または直鎖ポリアクリルアミドおよびPEGが含まれる。各ポリマーの典型的な濃度は、5〜10%w/wである。そのような濃度では、エントロピーの力が、2相の形成を方向付ける傾向があり、それら両方とも、典型的には90%(w/w)より多い水であるが、しかし極性、水素結合特性、凝固点などにはわずかな変化しか示されなかった。これらの相は、典型的には、1つのポリマー中で濃縮され、そして非常に低い界面張力を有する。バイオテクノロジーの分野においては、PEGおよびデキストラン型の2相システムの利点の一つは、標的タンパク質をPEG-濃縮相に優先的に分配することができるが、一方細胞の破片や何らかの汚染物質を、界面または相補的な相へと分配することができる、という点である。
【0006】
WO 2004/020629(Tjerneld)は、プロピレンオキシド(PO)基に加えてエチレンオキシド(EO)基を含む、PEG-様ポリマー(EOPOポリマーとも省略される)を使用することに関する。そのようなポリマーは、逆熱溶解度(reverse thermal solubility)を示すが、“EOPO”ポリマーとして知られており、そしてそれらは、プラスミドの分離について、WO 2004/020629中で示唆されている。室温では、密度がより低いEOPO-濃縮上相がEOPOとデキストランポリマーの水性2相システムから単離され、そしてその後その温度を37℃にまで上昇させることにより、上相は、水-濃縮相と自己会合性EOPOポリマー-濃縮相中へのさらなる相分離を受ける。好都合には、水-濃縮相は、所望のプラスミドを含有するはずである。一般的に、この種のEOPOとデキストランのシステムは、相ポリマー構成成分のリサイクルと、効率的な2-段階分配分離プロセスの設計とに関して、利点を提供する。しかしながら、人工の合成ポリマーPEGとは関連せず、むしろ生物学的な由来のそしてずっと高価なデキストランが関連する、システムの構築に関連するコストが欠点である。
【0007】
デキストランを様々なスターチまたはその他の多糖ポリマーにより置換する努力の結果、限定的な成功が得られた。一つのポリマー、中間の界面張力の2相システムは、PEGと相対的に高い濃度での特定の水構築性塩(water structuring salts)、例えば、500 mM硫酸アンモニウム、とを組み合わせることにより、形成することができる。PEG-塩2相システムは、コストの制限を解消するための一つの可能性のあるアプローチであるが、しかしPEG濃度の増加および塩濃度の増加は、プロセスのコストにマイナスの影響を与える可能性を作り出す。これらには、粘性相、塩試薬コスト、塩の廃棄および設備腐食への可能性、ならびに能力と関連する標的溶解度の問題が含まれる。結果として、ポリマーは、しばしば、リサイクルすることが難しいか、またはさもなければ、さらなる下流の処理を介して標的から分離しなければならない。
【0008】
バイオテクノロジーの分野において、ポリマー2相システムは、顕著な塩を有する形態または有さない形態の両方とも、一般的に興味を持たれている。これは、より大容量にスケールアップする場合に、効率を失うことなく、そしてコストを大幅に変化させることなく、それらが、スモールスケールの分離ならびによりラージスケールの分離において、容易に利用されるためである。同様に、いずれかの標準的分離アプローチ、例えば荷電に基づく分離、疎水性に基づく分離、親和性に基づく分離、またはサイズに基づく分離、を、ポリマー2相システム中で行うことができる。一般的に、多数の望ましくない構成要素(例えば、細胞の破片、エンドトキシン、核酸)が、PEGとデキストランの2相システムまたはPEGと塩の2相システムにおける下相(それぞれデキストラン-富化相または塩富化相)に対して、はっきりと分配される傾向がある。このように、上相(PEG-富化相)への良好な標的分配をもたらすシステムを見出すことができたなら、効果的な最初の分離および標的濃度を得ることができる。
【0009】
さらに、標準的なクロマトグラフィーおよび/または濾過プロセッシングに関連する欠点を解消し、そして単位操作あたりの単一の理論的分配工程の制限を解消するための努力において、PEG-デキストランまたはPEG-塩などの液体-液体を分配する2相システムを、クロマトグラフィー固体支持体または好ましくはその相を湿らせることができるその他の固体支持体上に1つの相を固定することにより、クロマトグラフィー用途に対して適合させた。次いで、相補的な相をカラムを通してポンプで送り込み、移動相と静止相との間での平衡化のために繰り返し機会をもたらす。このことは、Merck DarmstadtのW. Mullerらにより1980年代に商業的に開発された。
【0010】
US 5,093,254(Giuliano et al)は、上相としてポリビニルピロリドン、そして下相としてマルトデキストリンを使用し、そしてタンパク質分配のための低コストシステムを提供する、水性2相のタンパク質分配システムに関する。このシステムは、クロロトリアジン色素のアミノ誘導体とともに使用することもでき、この誘導体は、非共有結合的にPVPに対して結合し、そして分離すべきタンパク質に対するリガンドとして機能する。従来技術のPEG/ヒドロキシプロピルスターチシステムにおいて共有結合を形成するために必要とされるクロマトグラフィー抽出や溶媒抽出を行う必要なしに、色素が、ポリマー相に対して容易に結合することができるため、このシステムの利点は、その費用効率であることが、述べられている。しかしながら、欠点は、そのような色素が発ガン作用をもつ可能性がある点である。
【0011】
Albertsson(P.-A. Albertsson, Partition of Cell Particles and Macromolecules, 2nd Edn., Wiley Interscience, N.Y., 1971. Chapter 10 Phase Diagrams, pp. 250-313)は、PEGおよびNaカルボキシメチル基で修飾したデキストラン(CMD)を含むシステムを開示する。記載されるこのシステムの欠点は、(a)ポリマーが高価な多糖を依然として含むこと;(b)このポリマーが、その後さらに化学的に修飾されること;(c)分子量が大きく(Mw 2 200 000)そして固有の相粘度が知られていること;そして(c)相対的に高い濃度のポリマーが相を形成するために必要とされ、このため水分子に対して結合することそしてシステムのタンパク質可溶性が低下することが予想されること;である。
【0012】
Gupta et al(Vandana Gupta, Sunil Nath, Subhash Chand in Polymer 43 (2002) 3387-3390: Role of water structure on phase separation in polyelectrolyte-polyethyleneglycol based aqueous two-phase system)は、相-反応を調節するメカニズムを解明するために行われた、ポリ電解質-ポリエチレングリコール(PEG)ベースの水性2相システム(ATPS)の相分離の反応についての研究に関する。塩-支援ポリマー-修飾水構造相互作用が、ATPSにおける相分離において中心的な役割を果たすことが、この研究から結論づけられた
Saravaanen(Settu Saravaanan, Johny A. Reena, Jonnalagadda R. Rao, Thanapalan Murugesan, and Balanchandran U. Nair in J. Chem. Eng. Data 2006, 51, 1246-1249: Phase Equilibrum Compositions, Densities, and Viscosities of Aqueous Two-phase Poly(ethylene glycol) + Poly(acrylic acid) Systems at Various Temperatures)は、様々な質量分率(0.05〜0.50)および液体-液体平衡、密度、そして平衡化の時点での水性2相PEG-6000 + PAA + 水システムの粘性といった、ポリ(アクリル酸)(PAA)水溶液の密度や粘性に対する、温度の作用についての研究に関する。
【0013】
このように、相対的に技術的に単純で容易に測定される、新規な分離方法に対する大きな要望が依然として存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO 2004/020629
【特許文献2】US 5,093,254
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】P.-A. Albertsson, Partition of Cell Particles and Macromolecules, 2nd Edn., Wiley Interscience, N.Y., 1971. Chapter 10 Phase Diagrams, pp. 250-313
【非特許文献2】Vandana Gupta, Sunil Nath, Subhash Chand in Polymer 43 (2002) 3387-3390
【非特許文献3】Settu Saravaanan, Johny A. Reena, Jonnalagadda R. Rao, Thanapalan Murugesan, and Balanchandran U. Nair in J. Chem. Eng. Data 2006, 51, 1246-1249
【発明の概要】
【0016】
本発明の一側面は、生体分子およびその他の化合物を分離する方法を提供することであり、これにより高い動的能力と迅速な物質移動とを提供する。添附の特許請求の範囲においても規定しているように、これは、生体分子および/または化合物を容量中に分配することにより、本発明に従って達成することができ、そして表面が調節された吸着を介して標的の捕捉をもたらす不溶性多孔性マトリクスによっては達成できない。
【0017】
このように、本発明の具体的な側面は、細胞、染色体などのコロイド粒子によっても機能する方法を提供することであり、この方法は、固体支持体が妨害され、詰まった状態になるようなクロマトグラフィーアプローチまたは濾過アプローチの影響を受けにくい。このことは、本発明による特定のポリマー2相システムを使用して達成することができる。
【0018】
本発明の追加的な側面は、生体分子およびその他の化合物の分離のためのそのようなポリマー2相システムの使用を提供するものであり、このシステムは、形成と相分離を同時におこない、そして好ましくはわずかに複雑な設備も必要とする。
【0019】
本発明の別の側面は、ポリマー2相システムそれ自体を提供することであり、このシステムは、生体分子の効率的な分離のための塩などの添加剤に関して最適化されたものである。
【0020】
本発明のさらなる側面は、そのような2相システムの使用ならびに本発明による最適化2相システムを含むキットを提供することである。
1またはそれ以上の本発明の側面は、添付する特許請求の範囲に規定する様に達成することができる。本発明のさらなる目的および利点は、以下の詳細な開示から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、PEG 4000およびNaポリアクリレート8000を使用して形成される、本発明の水性ポリマー2相システムについての相図である。
【図2】図2は、PEG 8000およびNa-ポリアクリレート8000を含む、本発明による2相システムの相図である。
【図3】図3は、200 mM硫酸Naを含有し、pH 7に調整されたシステムにおいて、室温でのPEG 8000富化相(上)およびNaPAA 15000富化相(下)の本発明による2相システムにおける分布を示す図である。
【図4A】図4は、本発明のプロセスと従来技術のプロセスとの間の差異を示す比較用のフローチャートであり、これは以下の実施例3において説明される。
【図4B】図4は、本発明のプロセスと従来技術のプロセスとの間の差異を示す比較用のフローチャートであり、これは以下の実施例3において説明される。
【図5】図5は、モノクローナル抗体および被検タンパク質の分配を示し、これは以下の実施例4において説明される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義
本件出願において使用される場合、用語“ポリ(酸)”は、側鎖基および/または末端基として多数の酸性基を含有する、直鎖または分岐鎖ポリ(酸)バックボーンを意味する。
【0023】
用語“標的化合物”は、本明細書中では、化合物ならびに分子および細胞(すなわち、液体から分離されることが望まれるいずれかの存在)を意味する。
発明の詳細な説明
本発明は、標的化合物の単離のための水性ポリマー2相システムの好都合な使用に関し、これは好都合には、モノクローナル抗体等の抗体または抗体のFabフラグメントである。
【0024】
このように、本発明は、水性液体から1またはそれ以上の標的化合物を単離するプロセスに関し、このプロセスは、多相システムを形成することができる液体混合物を発酵容器に添加する工程、多相システムを形成させる工程、そして付加ポリマーの一つが濃縮されている相のうちの一つから(1または複数の)標的化合物を単離する工程、を含む。
【0025】
一態様において、添加される液体混合物は、合成ポリ(酸)である第1のポリマー、親水性ポリ(エーテル)である第2の合成ポリマー、そして少なくとも1つの塩を含む。そのようなポリマーは、以下のさらに詳細に検討される。
【0026】
別の態様において、発酵および相間での分配を含む本発明のプロセスは、プラスチックバッグ中で、場合によっては、例えばシーソー式シェーカー(rocking platform)などのシェーカー(moving platform)に接続されているもの、の中で行われる。適切なプラスチックバッグは、例えば、Wave Biotech由来のものなど、市場で容易に入手可能である。代わりの態様において、発酵を別個の容器中で行い、そして次いで、発酵物を、介在する精製工程なしに、多相システム中で分配するためのプラスチックバッグに対して直接移動させる。
【0027】
好都合な態様において、標的化合物は、モノクローナル抗体またはFabフラグメントなどの抗体フラグメントなどの抗体である。代わりの態様において、標的化合物は、抗体またはそのフラグメントを含む融合タンパク質である。
【0028】
一側面において、本発明は、1またはそれ以上の標的化合物を単離するプロセスであり、ここで、合成ポリ(酸)である第1のポリマー、親水性ポリ(エーテル)である第2の合成ポリマー、そして少なくとも1つの塩を含む多相システム中で分配することを使用して、供給物の清澄化を行い、この清澄化に続いて、親和性クロマトグラフィーの少なくとも1つの工程を行う。
【0029】
供給物は、標的化合物が作成される、発酵ブロスまたは生体液などのいずれの液体であってもよい。必要とされる場合、このプロセスには、標的化合物を産生する細胞を溶解し、その後本発明に従う2相システム中で清澄化する工程が含まれる。
【0030】
一態様において、親和性クロマトグラフィーは、プロテインAリガンドへの結合を含む。プロテインAクロマトグラフィーは周知の方法であり、そしてこの文脈において組換えプロテインAまたは天然プロテインA;プロテインAの部分、または抗体に対するその選択性を維持しているプロテインAのいずれかその他の修飾型を含むいずれかの樹脂に対する吸着が関連することが理解される。商業的に入手可能なプロテインA樹脂は、例えば、MabSelect family(GE Healthcare)を含む。
【0031】
多相システムの相間で標的化合物を分配することの具体的な詳細は、以下において詳細に検討される。
親和性工程の後に、1またはそれ以上の追加のクロマトグラフィー工程および場合によってはウィルス除去のための工程を行ってもよい。一態様において、親和性クロマトグラフィーの後に、イオン交換クロマトグラフィーおよび/または疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を行う。アニオン交換樹脂、カチオン交換樹脂、そしてHIC樹脂が周知であり、そして商業的に入手可能である。好都合な態様において、少なくとも1つのそれに引き続く工程は、ポリ(酸)が荷電されるという事実を利用した、イオン交換である。
【0032】
別の態様において、親和性クロマトグラフィーの後に、多モードイオン交換クロマトグラフィーを行う。多モードイオン交換もまた周知であり、そして疎水性基に極接近したイオン交換性の基などの1つ以上の官能基を含むリガンドを使用する。例示的な例は、CaptoTM MMCおよびCaptoTMAdhere(GE Healthcare)である。
【0033】
本発明のプロセスにおいて単離される標的化合物は、例えば、タンパク質、ペプチド、核酸、細胞、ウィルス、または上述のいずれか1つのいずれかの部分、フラグメントまたは融合生成物などの生体分子であってもよい。このように、一態様において、標的化合物は、抗体またはそのフラグメントまたはその融合生成物である。例示的な抗体フラグメントは、例えば、Fabフラグメントである。別の態様において、標的化合物は、DNAまたはRNAなどの核酸であり、例えば、プラスミド、ゲノムDNA、アプタマー、またはオリゴヌクレオチドなどである。追加的な態様において、標的化合物は、真核細胞または原核細胞などの細胞であり、例えば、成体細胞または前駆細胞である。このように、本発明のプロセスの一態様において、標的化合物は、抗体、好ましくはモノクローナル抗体などの、生体分子である。別の態様において、標的化合物は、Fabフラグメントである。
【0034】
第2の側面において、本発明は、液体から少なくとも1つの抗体を単離する方法であり、この方法は、合成ポリ(酸)である第1のポリマー、親水性ポリ(エーテル)である第2の合成ポリマー、そして少なくとも1つの塩を含む多相システム中で、分配する工程を含む。好都合な態様において、ポリ(酸)の分子量は、1000〜100,000 Daの範囲である。
【0035】
本発明のこの側面において使用される多相システムは、本発明のプロセスおよび複数工程のプロセスの文脈において上述した通りのものであってもよく、そして言及されるように、以下にさらに詳細に検討される。
【0036】
本発明の方法の好都合な態様において、抗体は、システムの上部相から回収されるモノクローナル抗体である。このように、具体的な態様において、モノクローナル抗体などの抗体を単離するために使用される多相システムは、約4〜8%のポリエチレン(PEG)(例えば6%のPEG)、そして4〜8%のポリ(酸)(例えば約6%のポリ(酸))などを、20 mM塩の存在下で含む、水性ポリマー2相システムである。PEGは、PEG 8000であってもよく、そしてポリ(酸)はNaPAA 1500であってもよい。
【0037】
当業者は、本発明の単離のために、pHを容易に最適化することができる。抗体の単離のための好都合な態様において、pHはおよそ中性である。
本発明は、DNAおよびRNA等のいくつかの汚染物質を含む供給物から、モノクローナル抗体などの抗体を分離するための好都合な方法を提供する。一態様において、抗体は、いずれも下部相に分配されるDNAおよびRNAから精製される。
【0038】
本発明の第一の側面および第2の側面の両方において使用される標的化合物を分配する工程が、ここでは詳細に検討される。
本発明において使用される液体混合物および多相システムにおいて使用されるポリマーは、水と組み合わされた場合に水相を形成するという意味で、水性である。さらに、当業者により理解される様に、本発明の文脈において、用語液体“混合物”は、本明細書中において定義される構成要素の組合せを単に意味する。このような条件の下、1種、2種またはそれ以上の相が相図から推測できるように、そのような液体混合物が存在する。本発明の液体混合物の一つの利点は、それらが、多くの一般的に研究されている相システムと比較して、粘性が低く、光学的に透明であり、そしてより迅速に分離されると思われる相を生じる、という点である。
【0039】
一態様において、ポリ(酸)ポリマーの分子量は、900〜100,000 Daの範囲であり、例えば、1000〜20,000 Daの範囲である。一態様において、分子量は、400〜1,000,000 Daの広範囲である。一態様において、モノクローナル抗体を単離するために使用されるポリ(酸)は、ポリ(アクリル酸)およびポリ(メタクリル酸)からなる群から選択される。
【0040】
ポリ(酸)は、いずれの適切なポリ(酸)であってもよい。このように、バックボーンは、炭化水素鎖、ポリ(エーテル)、ポリエステル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリウレタンまたはポリスルホンであってもよい。一態様において、ポリ(酸)は、酸性基が結合した、炭化水素(ビニルポリマー)鎖またはポリ(エーテル)鎖である。当業者は、そのようなポリ(酸)を容易に調製することができる。
【0041】
このように、本発明の液体混合物の一態様において、ポリ(酸)は、酸-官能化モノマー、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、ビニル安息香酸、アクリルアミドグリコール酸、アクリルオキシエチルスクシネート、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、ビニルホスホン酸など、を使用して形成されるポリマーからなる群から選択される。好都合な態様において、ポリ(酸)は、ポリ(アクリル酸)(PAA)またはポリアクリレートである。ポリマー多相システム中で使用される場合、PAA富化相は、デキストラン-ベースのシステムと比較して、透明であり、迅速に分離し、そして粘性が低いものであろう。本発明によるPAA-ベースの多相システムを形成することができる液体混合物は、例えば、商業的に入手可能なNaPAAの40%溶液を、親水性ポリ(エーテル)および塩と混合することにより、容易に形成される。ポリ(酸)は、酸性型、無水型、または脱プロトン化体、すなわち、塩型であってもよい。
【0042】
一態様において、親水性ポリ(エーテル)の分子量は、900〜100,000 Daの範囲であり、例えば、1000〜20,000 Daの範囲である。一態様において、分子量は、400〜1,000,000 Daの広範囲である。
【0043】
好都合な態様において、ポリ(エーテル)は、ポリ(エチレン)グリコール(PEG);エチレンオキシドプロピレンオキシド(EOPO)のランダムコポリマー型(例えば、Breox(登録商標)ポリマー)かまたはブロックコポリマー型(例えば、Pluronic(登録商標)ポリマー)かのいずれかが含まれる、水溶性ポリ(エーテル)からなる群から選択され、そしてそれにはそのようなポリマーの様々な修飾型(例えば、PEGのモノメトキシ型)が含まれていてもよい。好都合な態様において、エチレンオキシドポリマーは、PEGである。生体分子の分離に際して、PEGは、生体適合性でかつ認可されたFDA賦形剤であるため、そしてタンパク質、細胞およびその他の標的から容易に分離することができるため、しばしば標的局在化により好まれる。代わりの態様において、ポリ(エーテル)はEOPOである。当業者が理解すると思われるが、EOPOは、加熱に際して2相に分離し、そして結果として熱分離性ポリマーとみなされる。このように、この態様において、このシステムは、3相システム形成することができる。
【0044】
当業者であれば理解すると思われるが、本発明の合成ポリ(酸)およびポリ(エーテル)は、塩の存在下で、水性2相システムを形成することができる様に選択される。当業者は、相図に基づいて、これらのポリマーが一つの相としてまたはそれ以上の相としてシステム中に存在しうる場合のpH値、塩濃度、分子量などを容易に推定することができる。このように、本発明のシステムの一態様において、ポリ(エーテル)は、ポリ(酸)および塩の存在下にて、2種の物理的に異なる相のシステムを形成することができ、ここで各相は、ポリマーの一つが濃縮されている。
【0045】
このように、当業者は、相図データおよび場合によっては非常に単純な日常的実験に基づいて、2相システムなどの多相システムが本発明の液体混合物から形成されるpHおよび温度等の適切な条件を容易に決定することができる。一態様において、本発明の液体混合物のpH値は、中性に近い。温度は、2相システムを形成するために、室温など、4〜30℃の範囲であってもよい。第3の相が、熱分離性ポリマー富化相から形成される場合、より高い温度が、その段階で使用される。
【0046】
ポリ(エーテル)および酸性基含有ポリマーを含む、本発明において使用される2相システムは、PEGおよびポリ(ビニルメチルエーテル-co-無水マレイン酸)を用いて、本発明者らにより形成される2相システムの場合と同様に、その他の荷電基および非荷電基を含有することができる。
【0047】
本発明のシステムの具体的な態様において、塩濃度は、1〜500 mMの範囲であり、例えば300 mM以下、または100〜300 mMの範囲である。当業者が理解する様に、2相システムを形成するために必要とされる塩の量は、ポリマーのMW、濃度および物理的状態により影響を受ける可能性がある。このように、ポリ(酸)のナトリウム塩またはその他の塩型とともに製剤化される場合、わずか100 mMのバッファー塩が、2相システムを形成するために必要とされる。
【0048】
好都合な態様において、塩は、NaCl、Na2PO4、KPO4、NaSO4、クエン酸カリウム、(NH42SO4、酢酸ナトリウム、およびこれらの組合せからなる群から選択される。当業者は、Hoffmeisterシリーズに基づいて、タンパク質の単離などの相分離に対する、それぞれの特定の塩の作用を容易に予想することができる。このことは、Hoffmeisterシリーズの下端の塩、例えばNaCl、が、正味の正荷電タンパク質を、エチレンオキシドポリマー富化相へと移動させる傾向があることが、周知であるためである;一方、代わりにHoffmeisterシリーズのより上端またはより右端に存在する塩は、このタンパク質を、ポリ(酸)富化相へと移動させる。一態様において、本発明の液体混合物は、10%またはそれ以下の(1つまたは複数の)塩を含む。
【0049】
本発明の液体混合物の全ポリマー濃度は、それぞれの予測される用途に対して、最適化することができる。例えば、タンパク質およびその他の高分子が、相対的に多量の水溶性ポリマーを添加することにより、溶液から沈殿させることができることが、よく知られている。従って、本発明によるシステムがタンパク質分離において使用される場合、全ポリマー濃度が高すぎると、コスト効率的な分離を達成するために、十分なタンパク質溶解度が得られない。このように、生体分子および/または粒子の単離のために好都合な本発明の液体混合物の一態様において、全ポリマー含量は、システムの約8〜20%(w/w)を構成する。一態様において、液体混合物は、10〜20%(w/w)を含む。別の態様において、液体混合物は、約70%の水を含む。
【0050】
このように、一態様において、本発明の液体混合物は、約5%、約4.5%または約4%の各ポリマーなど、約4〜6%の各ポリマーを含む。別の態様において、液体混合物は、約8%の各ポリマーなど、約10%までの各ポリマーを含む。
【0051】
具体的な態様において、多相システムは、1またはそれ以上のクロマトグラフィーリガンドを含む。そのようなクロマトグラフィーリガンドは、本発明の液体混合物を生体分子または粒子の単離のために適用する場合にツールとして使用することができ、そのような場合、リガンドは、標的化合物の特定の標的化合物区分を、リガンドにより好まれる相に対して結合することができる。一態様において、リガンドは、親和性リガンドであり、このリガンドは、受容体とリガンド、または抗体-抗原などの“鍵穴/鍵”型の非常に特異的な相互作用により、標的分子と結合することができる。例示的な親和性リガンドは、例えば、プロテインAまたはプロテインA-ベースのリガンドである。好都合な態様において、親和性リガンドは、特異的な相へのそれらの分配を促進するために、ポリマー-修飾されている。別の態様において、ポリマー-修飾された親和性リガンドを添加して、相互作用性標的をリガンドに対して結合するものと最も類似するポリマーが富化された相に分配する。
【0052】
本発明の第3の側面は、モノクローナル抗体などの少なくとも1つの抗体の単離のためのキットであり、このキットは、上述した液体混合物または多相システムを含有する。キットの一態様において、液体混合物または多相システムは、プラスチックバッグ中で提供される。
【0053】
好都合な態様において、本発明のキットは、水溶液中または乾燥状で、少なくとも合成ポリ(酸)であるポリマーを含む。
図面の詳細な説明
以下のパーセントは、重量/重量(w/w)である。
【0054】
図1は、PEG 4000およびポリアクリル酸ポリマーのナトリウム型であるNaポリアクリレート8000を使用して形成される、本発明の水性ポリマー2相システムについての相図である。より具体的には、このシステムは、200 mM NaClを用いて22℃で形成された。バイノーダル曲線を、○:2相システム;□:1-相システム;そして△:一見して二峰性領域であり指定することが困難なシステム;に関連する濃度点に対してシステムを滴定することにより、視覚的に推定した。ここでの相は、相対的に低い(全)ポリマー濃度で形成し、そしてそれらは透明で、相対的に低い粘性を有するものであり、そして単位重力で迅速に分離する。さらに、相バイノーダル曲線は、臨界点近くではより直線的であり、このことは、この領域近くで形成される2相システムが、有意な連絡線(tie-line)の長さを有し、そして従って、物理的性質に関して、そして分配の結果に関しても、より再現性が高いことを示唆する。二峰性曲線上の二峰性ポリマー濃度に対する最低の全ポリマー濃度は、約12%であるようであり、これは各ポリマーが6%であることに対応することに注目すべきである。
【0055】
図2は、PEG 8000およびポリアクリル酸ポリマーのナトリウム型であるNa-ポリアクリレート8000を含む、本発明による2相システムの相図である。この図は、約230 mMのNa2SO4(3%重量)を25℃で用いて形成されるシステムのことを意味する。測定された相組成物は;(○)2相システム、(□)1-相システム、(△)一見して二峰性領域であり指定することが困難なシステム;である。ここでの相は、相対的に低い(全)ポリマー濃度で形成し、そしてそれらは透明で、相対的に低い粘性を有するものであり、そして単位重力で迅速に分離する。さらに、相バイノーダル曲線は、臨界点近くではより直線的であり、このことは、この領域近くで形成される2相システムが、物理的性質に関して、そして分配の結果に関しても、より再現性が高いことを示唆する。二峰性曲線上の最低の全ポリマー濃度は、約10%であるようであり、これは各ポリマーが5%であることに対応することに注目すべきである。このことは、図1と比較して、硫酸ナトリウム塩のより高い水構造化作用と一致している。
【0056】
図3は、室温で、200 mM硫酸Naを含有しそしてpH 7に調整されたシステム中、PEG 8000富化相(上)およびNaPAA 15000富化相(下)の本発明による2相システムの分配を示す図である。システムは、(x-y)として示されており、ここでxはPEG wt%であり、そしてyはNaPAA wt%である。この場合、臨界濃度が4%〜4.5%の各ポリマーのどこかに存在し、このことは、より大きなMWのNaPAAポリマーのより高い相形成能およびより低い温度を考慮することを、図2と適切に比較する。ほぼ同等の相容量の相システムが達成された。同様の結果が、NaPAA 8000を含有するシステムについて見られた(示さず)。
【0057】
図4は、以下の実施例3に例示されるような、本発明のプロセスと先行技術のプロセスとの間の差異を示す比較用のフローチャートである。
図5は、以下の実施例4に例示される様な、モノクローナル抗体および被検タンパク質の分配を示す。
【実施例】
【0058】
本発明の実施例は、説明の目的のためにのみ提示され、そして添付の特許請求の範囲により規定される発明を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
実施例1-本発明の2相システムおよび相図の調製
材料
ポリマー:ポリ(エチレングリコール)4000(Merck)、PEG 8000(Sigma-Aldrich)、Na-ポリ(アクリレート)(Aldrich、CAS-番号:9003-04-7)、分子量30000(40 wt%水溶液中)、分子量8000(45 wt%水溶液中)。NaClおよびNa2SO4メタノール、Ba(NO32(Merck由来、そしてP.A.品質)。ミリポア水を、全ての溶液において使用した。
【0059】
相図の決定
ステムの相境界面(二峰性)を、周知の滴定方法により決定した[Methods in Enzymology, Vol. 228, Aqueous Two-Phase Systems, Harry Walter and G. Johansson eds. Academic Press, New York, 1994を参照]。この場合、2相領域中に存在することが疑われる組成物を有するシステムが作製される。このシステムが混合に際して不透明(混濁)に変化する場合、2相システムの存在が示唆される。研究されたシステムと同一の塩濃度を有する塩溶液を添加する際、このシステムは、ポリマーに関して希釈されることになる。ポリマー濃度が臨界値以下に含まれる場合、このシステムは1相システムに変化し、混合される場合に混濁しない。ポリマーを添加し、そしてこのシステムを連続的に希釈することにより、相図を、相境界面の両側にマッピングする。これはすなわち、バイノーダル曲線である。このシステムを、22℃(室温)および25℃(水槽)中で決定する。
【0060】
屈折率測定
溶液の屈折率は、既知濃度のPEG-水、Na-ポリ(アクリレート)-水、および塩-水溶液の別個の標準曲線を作成することによる、水富化溶液(>90%)中で、直線的な追加的な特性である。屈折率装置は、Carl Zeiss(Oberkochen, Wurttemberg, Germany)から入手した。
【0061】
PEGの決定
塩およびNa-ポリ(アクリレート)の溶解度は、メタノール中では非常に低く(<0.1 wt%)、一方でPEGは非常に高い溶解度を有するため、メタノール中にPEGを選択的に抽出することができ、そしてメタノールを蒸発させることにより、PEG重量測定法で測定ことができる。1.00 gの上部相または底部相を、少なくとも6 gのメタノールと混合する。Na-ポリアクリレートおよび塩の沈殿物が形成され、そして3000×gで10分間遠心される。PEGを含有する上清を回収し、そして高さが既知の15 mlのガラスチューブ中に入れる。沈殿物を2 gのメタノールを用いてさらに洗浄し、その後遠心を行った。この後の上清画分を最初のものと一緒に保存する。このチューブを、3日間、通気フード中で開放したままにする。メタノールのほとんどが蒸発し、そして残りはオーブン中で70℃で蒸発させる。このチューブを秤量し、そして乾燥させたPEGを重量測定法で測定する。
【0062】
Na2SO4の決定
硫酸ナトリウム塩を、Ba-サルフェートを用いた滴定により、測定することができる。しかしながら、Na-ポリアクリレートは、二価カチオンにより沈殿されるため、このポリマーは、解析の前に除去しなければならない。これを、以下の様にして行う:
1 gのサンプル(上部相または底部相)を、15 mlのガラスチューブ(A)に加えた。0.1 gのNa-ポリアクリレート8000(濃度:水中45 wt%)および0.3 gのPEG 8000(濃度:水中30 wt%)および0.2 gのHCL(37 wt%)を、サンプルに対して添加し、そしてボルテックスにかけ、そして最終的に3000×gで遠心した。PEGおよび高濃度のポリアクリル酸から構成される底部粘稠相を含有する2相システムを、形成した。上部相は、水富化相である。容量比は高い(>10)。この水富化相を注意深く回収し、そして既知重量の別の15 mlのガラスチューブ(B)中に入れる。1.5 gをガラスチューブ(A)中の粘稠相に添加し、ボルテックスにかけ、そして3000×gで遠心する。水富化相を再び注意深く回収し、そしてチューブ(B)中に入れる。この手順において、Na2SO4の全てを含有する水溶液とは別個に、PEGおよびポリアクリル酸を除去する。
【0063】
ここで、1.5 gの温13 wt%Ba(NO32水溶液を、硫酸塩を含有するチューブ(B)に対して添加し、そしてBaSO4の沈殿物を迅速に形成する。このチューブ(B)を3000×gで遠心し、そして上清を廃棄する。これを3回繰り返して、微量の可溶性物質を除去する。BaSO4沈殿物を含むこのチューブ(B)を、オーブン中で70℃にて3日間、乾燥させる。BaSO4の量を、重量測定法で測定で測定し、そして次いでNa2SO4の濃度を算出することができる。
【0064】
Na-ポリ(アクリレート)の決定
Na-ポリアクリレートの濃度を、以下の方法により、屈折率(RI)を通じて測定する。3回希釈される相のRIを測定する。この値には、PEGおよび塩からの寄与が含まれる。記載されたように測定された既知濃度のPEGおよび塩から、屈折率に対するそれらの寄与を測定する。この結果として得られる値は、以前に測定された標準曲線により決定されるNa-ポリアクリレートによるものである。
【0065】
相分離
水性ポリマー相システムは、そのようなシステムのための標準に従って調製される。乾燥ポリマーを完全に水和するために必要とされる時間(不攪拌溶液中では24時間かかる場合もある)を回避するため、典型的には30〜40重量%のポリマーのストック溶液を、作製する。NaPAAの場合、そのようなストック溶液を、商業的に購入することができる。PEGの場合、ストック溶液をオペレータにより作製した。NaCl(1 M)またはその他の塩のストック溶液、例えば、0.5 Mのリン酸Na pH 6.8、もまた同様に作製する。6%のPEG、6%のNaPAA、300 mMのNaCl、50 mMのリン酸Naからなる1000グラム(約1リットル)の相システムを作製するため、150 gのPEGストック、150 gのNaPAAストック、300 gのNaClストックおよび100 gのリン酸Naストックを単純に混合し、次いで水を添加して、所望の全量にする。一旦作製したら、そのようなシステムを数分間攪拌して、完全な混合を確実にし、そして次いで、自然に2相に分離させることができる。10 mlの同一のシステムを作製することは、100分の1の少ない量の各ストックのみが必要とされる。
【0066】
この2相システムは、12 mlの等級わけされたガラスチューブ中にて、PEG、Na-ポリ(アクリレート)および塩のストック溶液を混合することにより形成される。このシステムの総重量は、10 gである。このシステムを上下逆さまにして約15回混合し、そしてこのシステムを完全に攪拌させる。次いで、このシステムを、25℃の水浴中で分離させる。このシステムは、概して、30分以内に完全に分離される。しかしながら、このシステムを、1〜2時間静置させた。相ごとの屈折率は非常に類似しており、その結果、界面を見出すことが困難となる可能性がある。分離された相は透明であり、そして(視覚的に観察された場合)相対的に低い粘性を有する。
【0067】
以下の表1は、様々な、試験されたPEG 4000または8000およびNaPAA 8000または30000およびNaClまたは硫酸Naを含有する2相システムに関連する情報を提供する。PEG4000およびNaPAA 8000の22℃での2相システムは、それぞれ5.28および5.68%に近く、より低いPEGポリマーMWと一致している。比較により、PEG 4000およびNaPAA 30000の臨界濃度は、約4.7重量%の各ポリマーである。
【0068】
【表1】

【0069】
実施例2 - 本発明の2相システムに対する、塩およびpHの作用
2相システムを、上述したようにして調製した。EOPO 3900システムおよびNaPAA 15000システムに対するpHの作用を調べた。結果を、以下の表3に示し、これにより相容量比に対するpHの作用、および200 mM NaPバッファー中でのEOPOおよびNaPAA含有2相システムにおける相システム形成についての洞察が得られる。これらのポリマー分子量、濃度条件および塩条件にて、pH 6〜8では2相が形成されたが、pH 5では2相が形成されなかった。
【0070】
【表2】

【0071】
実施例3 - タンパク質精製プロセス
この実施例においては、図4に概説されるプロセスを使用して、タンパク質を精製することができる方法が説明される。より具体的には、2相ポリマーシステムが、親和性クロマトグラフィーを進行させる工程において、サンプルの清澄化のために使用される。
【0072】
実施例4 - ポリマー2相システム中でのモノクローナル抗体(MAb)の分配
2種の異なるモノクローナル抗体(MAb1およびMAb2)ならびにポリクローナルIgGを、本実施例において分配した。以下の表1は、様々なNaPAAベースのポリ(酸)2相システムを形成することができる方法を示しており、それは様々な抗体(Ab)およびモノクローナル抗体(Mab)の興味深い分配を示す。これらのシステムにおけるタンパク質溶解性が5 g/Lまでであってもよいことが注目されるべきである。
【0073】
【表3】

【0074】
注:
A. K = [上部相におけるタンパク質]/[下部相におけるタンパク質];
B. 10 mM NaP pH 7またはpH 6またはpH 8の20 mM NaPを用いて緩衝化されたシステム;
C. 4℃で2相を形成した13以外は、全てのシステムはRTでのもの;
D. EOPO-PAAシステムは、水-富化3相システム、EOPO-富化3相システムそしてPAA-富化3相システムを、37℃で形成した;
E. 99より大きなK値(上部相に99%のタンパク質)の差異は有意ではない;
F. Mab 1 pI>8、Mab 3 pI 6〜8は、Mab 1と比較して、相対的により疎水性の特性に変換される。同様の分配の結果は、ポリクローナルヒトIgGサンプル(Gammanorm, Octapharma)についてみられた;
G. 11以外の全てのシステムを0.2 mg IgG/mlシステムを用いて検討した(K = 70の場合、約0.4 mg/mlの上部相);
H. わずかで、純度の高い沈殿が、システム4、7、8、および9においてIgGとともに見られた。バッファー調整が排除されることを前提とする;
I. 2.5 mg IgG/mlシステムを用いたシステム11(76%の回収率で約6 mg/mlの上部相)は、いくらか純度の高い沈殿を示した。IgG負荷を倍増させると、上部相における回収率が66%まで低下した。塩およびpH調整がIgについての溶解度を上昇させる;
J. Andrews et al.(Bioseparation 6, 303-313, 1996)の上述のMabおよびシステムに基づく対照研究(PEG1450/リン酸K/NaCl:15/14/12%)は、Mab 2について90のKをもたらし、そして<1 mg/mlシステムの溶解度の制限が、刊行物に記載された結果と一致している。
【0075】
同様に、図5は、Mabおよび2種の試験汚染物質タンパク質の分配が、PEG4000 NaPAA 15000の2相システムにおけるpHおよび塩濃度により、本発明に従ってどのように変化されるかを示す。この2種の被検タンパク質〜クジラミオグロビンおよびウシ血清アルブミン(BSA)〜は、宿主細胞タンパク質汚染物質が、Mabのラージスケールの精製のためのプロセスにおいて、どのように分配するかについて模倣するための研究において、一般的に使用される。ミオグロビンタンパク質およびBSAタンパク質が、上部相への分配が低下すること(例えば、40〜60%)が示される条件を見出すことができることが、見て取れる。このように、最初の分配工程は、PEG-富化上部相へとMabまたはその他のタンパク質標的を分配しそして濃縮するだけでなく、タンパク質汚染物質を顕著に現象することを、予想することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性液体から1またはそれ以上の標的化合物を分離するプロセスであって、容器中で、ポリ(酸)である第1のポリマー、ポリ(エーテル)である第2のポリマー、および少なくとも1つの塩を含む液体を、発酵ブロスと組み合わせる工程、少なくとも2つの相を形成させる工程、そしてポリマーの一つが富化されている相の1つから(1または複数の)標的化合物を分離する工程、を含む、前記プロセス。
【請求項2】
発酵ブロスが少なくとも1つの標的を発現する細胞またはその細胞由来の細胞破片を含み、そして容器が発酵を行った容器である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
標的化合物が、モノクローナル抗体またはFabフラグメントなどの抗体フラグメントなどの抗体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項4】
第1のポリマーと第2のポリマーの少なくとも1つが、合成ポリマーである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
1またはそれ以上の標的化合物を分離する複数工程のプロセスであって、供給物の清澄化を、ポリ(酸)である第1のポリマー、親水性ポリ(エーテル)である第2のポリマー、および少なくとも1つの塩を含む多相システムの相間での分配を使用して行い、清澄化に続いて親和性クロマトグラフィーの少なくとも1つの工程を行う、前記プロセス。
【請求項6】
ポリ(酸)の分子量が、1000〜100,000 Daの範囲である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
第1のポリマーと第2のポリマーの少なくとも1つが、合成ポリマーである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
多相システムでの分配がプラスチックバッグ中で行われ、場合によりシーソー式シェーカー(rocking platform)などのシェーカー(moving platform)に連結されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
親和性クロマトグラフィーが、プロテインAリガンドに対して結合する工程を含む、請求項6〜8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
親和性クロマトグラフィーの後に、イオン交換クロマトグラフィーおよび/または疎水性相互作用クロマトグラフィーおよび/または多モードイオン交換クロマトグラフィーを含む1またはそれ以上の工程を行う、請求項6〜9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
標的化合物が、モノクローナル抗体またはFabフラグメントなどの抗体フラグメントなどの抗体である、請求項6〜10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
液体から少なくとも1つの抗体を分離する方法であって、合成ポリ(酸)である第1のポリマー、親水性ポリ(エーテル)である第2の合成ポリマー、および少なくとも1つの塩を含む多相システムの相間で分配する工程を含む、前記方法。
【請求項13】
ポリ(酸)の分子量が、1000〜100,000 Daの範囲である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
抗体が、上部相から回収されるモノクローナル抗体またはFabフラグメントである、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
多相システムが、6%PEGなどの約4〜8%ポリエチレン(PEG)、および約6%ポリ(酸)などの4〜8%ポリ(酸)を、20 mMの塩の存在とともに含む水性ポリマー2相システムである、請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
PEGがPEG 8000である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ポリ(酸)がNaPAA 1500である、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
pHがほぼ中性である、請求項12〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
抗体が、ともに下部相に分配されるDNAおよびRNAから精製される、請求項12〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
ポリ(酸)が、ポリ(アクリル酸)およびポリ(メタクリル酸)からなる群から選択される、請求項12〜19のいずれか1項に記載のプロセスまたは方法。
【請求項21】
その他のポリ(エーテル)の分子量が、900〜100,000 Daの範囲である、請求項12〜20のいずれか1項に記載のプロセスまたは方法。
【請求項22】
ポリ(エーテル)が、ポリ(エチレン)グリコール(PEG);エチレンオキシドプロピレンオキシド(EOPO);BreoxTM;PluronicTM;およびエトキシ-含有多糖からなる群から選択される、請求項12〜21のいずれか1項に記載のプロセスまたは方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−530414(P2010−530414A)
【公表日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513155(P2010−513155)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【国際出願番号】PCT/SE2008/000400
【国際公開番号】WO2008/156409
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(509088240)ジーイー・ヘルスケア・バイオ−サイエンシズ・アーベー (22)
【Fターム(参考)】