説明

ポリマー微粒子及びその製造方法

【課題】ナノメートルサイズで単分散性に優れたポリマー微粒子を安定的に製造する。また、処方条件(混合する反応溶液の流量比が相違する等)へのフレキシブルな対応を可能とし、更には高製造量処理を可能とする。
【解決手段】ポリマーをポリマー易溶性溶媒に溶解させたポリマー溶液Bと、ポリマー易溶性溶媒よりもポリマーの溶解度が小さいポリマー難溶性溶媒を含むポリマー難溶性溶液Aと、を少なくとも含む2種類以上の溶液を混合し、ポリマー溶液Bの溶解度を変化させることによりポリマー微粒子を析出させるポリマー微粒子の製造方法において、2種類以上の溶液の混合をマイクロ流路内で行うとともに、ポリマー易溶性溶媒は、ポリマー難溶性溶媒と相溶する有機溶媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、トナー、接着剤、コーティング材、電子ディスプレイのスペーサ等の化学工業製品、粒度分布計の粒径校正用標準粒子などの分析用途製品、医療分野における診断薬などの医療製品等に用いられるポリマー微粒子及びその製造方法に係り、特に、マイクロ流路内において、ポリマー微粒子をビルドアップ法により製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー微粒子は、塗料、トナー、接着剤、コーティング材、電子ディスプレイのスペーサ等の化学工業製品、粒度分布計の粒径校正用標準粒子などの分析用途製品、医療分野における診断薬などの医療製品等、様々な産業分野において幅広く用いられている。このようなポリマー微粒子には、種々の特性が要求されるが、中でも、粒子径が小さく、かつ単分散性が高いことが要求される。特に、近年の製品性能のファイン化に伴い、ナノメートルサイズで単分散性の高いポリマー微粒子に対するニーズが高まっている。
【0003】
一般的に、ポリマー微粒子の製造方法としては、非特許文献1、2に示されるようなポリマーの塊であるバルク物質を粉砕等することにより製造するブレイクダウン法と、気相中又は液相中からポリマー微粒子の核を形成し、成長させることにより製造するビルドアップ法と、に大別される。
【0004】
ブレイクダウン法は、簡便で実用性が高く、従来から多用されているポリマー微粒子の製造方法である。しかしながら、粒径の小さい微粒子を製造する場合、粒度分布が広くなる、即ち多分散な微粒子になる等の性能上の問題や、微粒子化に多大なエネルギーを要する等の生産上の問題がある。このため、近年、ビルドアップ法、中でも、液相を用いたビルドアップ法によるポリマー微粒子の製造方法が検討されている。
【0005】
ビルドアップ法を更に分類すると、モノマーを出発原料とし、該モノマーを重合させることによりポリマー微粒子を製造する方法と、ポリマー(ポリマー分子)を出発原料として、該ポリマーをポリマー易溶性溶媒に溶解させたポリマー溶液とポリマー難溶性溶媒を含む溶液とを接触させてポリマー微粒子を析出させる方法と、がある。
【0006】
モノマーを出発原料とする方法では、具体的には、乳化重合、分散重合、シード重合、懸濁重合等によりポリマー微粒子を製造する(例えば、特許文献1、3、4及び7)。この方法では、単分散な粒子を得ることはできるが、粒径が小さいポリマー微粒子を得るためには、強力攪拌下で長時間にわたって混合しながら重合させる必要がある。また、目的とする粒径及び粒度分布を有するポリマー微粒子を得るためには、重合条件、例えば、攪拌速度、反応温度、反応溶液の流量、混合比等の種々のパラメーターを厳密に調整する必要があった。
【0007】
ポリマーを出発原料とする方法では、モノマーの場合に比べて容易にポリマー微粒子を製造できるが、ポリマー微粒子の粒径及び粒度分布は、ポリマー溶液とポリマー難溶性溶液の混合状態に大きく依存する。このため、粒径が小さいポリマー微粒子を得るためには、前述したのと同様に、強力攪拌する必要がある(例えば、特許文献2、5、6、非特許文献3及び4)。また、攪拌混合では混合性能に限界があり、粒径を小さくしようとするほど多分散化することが問題であった。
【0008】
これらに対して、マイクロリアクターを用いることにより、攪拌・混合性能を改善する方法が提案されている。例えば、特許文献6では、ビルドアップ法でポリマー微粒子を製造する際、マイクロリアクターにてポリマー溶液および難溶性溶媒を混合し、ポリマー粒子を相分離させる。マイクロリアクターとは、マイクロ加工技術等により固体基板上に作製された幅数μm〜数百μmのマイクロ流路内で混合を伴う反応を行う装置であり、マイクロ流路内における流れの特徴から、迅速に混合と反応ができるというメリットがある。このように、マイクロリアクターを利用することにより混合と反応の性能が改善され、従来よりも小粒径で単分散なポリマー微粒子が得られるようになった。
【特許文献1】特開平11−140181号公報
【特許文献2】特開2004−143405号公報
【特許文献3】特開2004−339296号公報
【特許文献4】特開2005−146150号公報
【特許文献5】特開2005−264120号公報
【特許文献6】特開2005−054023号公報
【特許文献7】特開2006−183018号公報
【特許文献8】特開2005−288254号公報
【非特許文献1】室井宗一監修、“超微粒子ポリマーの応用技術”、株式会社シーエムシー、1991年
【非特許文献2】尾見信三、佐藤 、川瀬進 監修、“高分子微粒子の技術と応用”、株式会社シーエムシー、1997年
【非特許文献3】T.Maki et al.,“Production of Polymer Nanoparticles by Immersion Precipitation using Micromixer-Development of the Evaluation Methode of the Mixing Performance of Micromixers-”,Proceedings of the 10th Asia Pacific Confederation of Chemical Engineering Congress,Paper No.4B-02,Kitakyushu,Japan (2004)
【非特許文献4】H.Nagasawa et al., “Design of a New Micromixer for Instant Mixing Based on the Collision of Micro Segments”,WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, , Chem.Eng.Technol.2005, 28, No.3, p.324-330
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献6では、使用するポリマーの分子量や分布、及びポリマー溶液とポリマー難溶性溶媒との相溶性に関する詳細な検討がなされておらず、これらの因子とマイクロ化学プロセスにおける分子レベルでの混合との相互関係が不明確であった。このため、微小サイズのポリマー微粒子核を形成することが困難であった。
【0010】
一方、特許文献5では、乳化させてミセルを生成するプロセスにおいて、ポリマー溶液とポリマー難溶性溶液とに相溶性をもたせているが、溶解度変化によりポリマー微粒子を析出させる方法とは生成機構が異なるものであった。
【0011】
このように、単分散性の高いポリマー微粒子を製造しようとする場合、特にナノメートルサイズで単分散性なポリマー微粒子を安定的に製造するには、単にマイクロ化学プロセス技術を利用しても十分ではなく、更なる改良を必要とする。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、ナノメートルサイズで単分散性なポリマー微粒子を安定的に製造することができると共に、処方条件(混合する反応溶液の流量比が相違する等)へのフレキシブルな対応が可能であり、更には高製造量処理が可能なポリマー微粒子の製造方法及びその製造方法で製造されたポリマー微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、ポリマーをポリマー易溶性溶媒に溶解させたポリマー溶液と、前記ポリマー易溶性溶媒よりも前記ポリマーの溶解度が小さいポリマー難溶性溶媒を含むポリマー難溶性溶液と、を少なくとも含む2種類以上の溶液を混合し、前記ポリマー溶液の溶解度を変化させることによりポリマー微粒子を析出させるポリマー微粒子の製造方法において、前記2種類以上の溶液の混合をマイクロ流路内で行うとともに、前記ポリマー易溶性溶媒は、前記ポリマー難溶性溶媒と相溶する有機溶媒であることを特徴とするポリマー微粒子の製造方法を提供する。
【0014】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、ポリマー易溶性溶媒に出発原料としてのポリマーを溶解したポリマー溶液に、ポリマー易溶性溶媒よりも上記ポリマーの溶解度が小さいポリマー難溶性溶媒を含むポリマー難溶性溶液を接触させて、ポリマー溶液の溶解度を変化させることによりポリマー微粒子を析出させる方法(ビルドアップ再沈法)において、1)上記ポリマー溶液とポリマー難溶性溶液とをマイクロ流路内で混合し、かつ2)ポリマー易溶性溶媒として、ポリマー難溶性溶媒と相溶する有機溶媒を用いる、ことによりナノメートルサイズレベルで単分散なポリマー微粒子が得られることを見出した。
【0015】
本発明の請求項1によれば、ポリマー易溶性溶媒にポリマーを溶解したポリマー溶液と、ポリマー難溶性溶液と、をマイクロ流路内にて混合するようにしたので、溶液同士の単位時間あたりの接触面積の増大及び拡散混合距離の縮小を図ることができ、溶液同士の瞬時混合が可能となる。
【0016】
また、ポリマー易溶性溶媒として、ポリマー難溶性溶媒と相溶する有機溶媒を用いたので、ポリマー難溶性溶媒がポリマー溶液中へ拡散し易くなり、浮遊するポリマーに迅速に到達し、微小なポリマー微粒子核を形成することができる。なお、ポリマー易溶性溶媒のポリマー難溶性溶媒に対する溶解度は、析出を生じる範囲であれば高いほど好ましい。
【0017】
これにより、ポリマー溶液とポリマー難溶性溶液とを瞬時混合し、ポリマー溶液の溶解度を瞬時に変化させるとともに、微小なポリマー微粒子核を迅速に形成でき、ナノメートルサイズで単分散性なポリマー微粒子を安定的に製造することができる。
【0018】
なお、ポリマー難溶性溶媒とは、ポリマーの溶解度が低い又は溶解しない溶媒をいい、例えば、ポリマーを0.02質量%以下しか溶解しないものが含まれる。ポリマー易溶性溶媒とは、ポリマーの溶解度が高い溶媒をいい、例えば、ポリマーを0.2質量%以上溶解するものが含まれる。また、ポリマー難溶性溶液としては、ポリマー難溶性溶媒のみの場合も含まれる。また、本発明における溶解度とは、25℃におけるポリマー難溶性溶媒100gに溶解するポリマー易溶性溶媒の量(グラム数)をいう(参考文献 岩波理化学辞典 第5版、1406ページ、岩波書店)。以下においても、同様とする。
【0019】
本発明の請求項2は前記目的を達成するために、ポリマーをポリマー易溶性溶媒に溶解させたポリマー溶液と、前記ポリマー易溶性溶媒よりも前記ポリマーの溶解度が小さいポリマー難溶性溶媒を含むポリマー難溶性溶液と、を少なくとも含む2種類以上の溶液を混合し、前記ポリマー溶液の溶解度を変化させることによりポリマー微粒子を析出させるポリマー微粒子の製造方法において、前記2種類以上の溶液の混合をマイクロ流路内で行うとともに、前記ポリマーは分子量3000未満であることを特徴とするポリマー微粒子の製造方法を提供する。
【0020】
本発明者らは、上記したポリマー微粒子を析出させる方法(ビルドアップ再沈法)において、1)上記ポリマー溶液とポリマー難溶性溶液とをマイクロ流路内で混合し、かつ2)ポリマーの分子量が3000未満である、ことによりナノメートルサイズレベルで単分散なポリマー微粒子が得られることを見出した。
【0021】
本発明の請求項2によれば、ポリマー易溶性溶媒にポリマーを溶解したポリマー溶液と、ポリマー難溶性溶液と、をマイクロ流路内にて混合するようにしたので、溶液同士の単位時間あたりの接触面積の増大及び拡散混合距離の縮小を図ることができ、溶液同士の瞬時混合が可能となる。
【0022】
また、ポリマーの分子量が小さいほど(ポリマー分子のサイズが小さいほど)、ポリマー溶液中におけるポリマーの拡散速度が大きく、ポリマー難溶性溶媒がポリマーに到達したときにポリマー同士が凝集し易くなる。また、ポリマー分子のサイズが小さいほど凝集後のポリマー微粒子径も原理的に小さくなるため、粒径の小さいポリマー微粒子を迅速に形成することができる。なお、ポリマーの分子量が2500以下であることがより好ましい。
【0023】
本発明の請求項3は前記目的を達成するために、ポリマーをポリマー易溶性溶媒に溶解させたポリマー溶液と、前記ポリマー易溶性溶媒よりも前記ポリマーの溶解度が小さいポリマー難溶性溶媒を含むポリマー難溶性溶液と、を少なくとも含む2種類以上の溶液を混合し、前記ポリマー溶液の溶解度を変化させることによりポリマー微粒子を析出させるポリマー微粒子の製造方法において、前記2種類以上の溶液の混合をマイクロ流路内で行うとともに、前記ポリマー易溶性溶媒は、前記ポリマー難溶性溶媒と相溶する有機溶媒であり、前記ポリマーは分子量3000未満であることを特徴とするポリマー微粒子の製造方法を提供する。
【0024】
請求項3によれば、ポリマー易溶性溶媒は、ポリマー難溶性溶媒と相溶する有機溶媒であり、且つポリマーは分子量3000未満であるため、ポリマー難溶性溶媒をポリマー溶液中へ拡散させ易くし、且つポリマーの拡散速度を大きくすることができる。このため、微小なポリマー微粒子核を高効率で形成することができる。
【0025】
請求項4は請求項1又は3において、前記ポリマー易溶性溶媒は、前記ポリマー難溶性溶媒に対する溶解度Sが40%を超えることを特徴とする。
【0026】
請求項4によれば、ポリマー易溶性溶媒として、ポリマー難溶性溶媒に対する溶解度Sが40%を超える有機溶媒を用いたので、ポリマー難溶性溶媒がポリマー溶液中へより拡散し易くなり、浮遊するポリマーにより迅速に到達し、微小なポリマー微粒子核を高速で形成できる。なお、ポリマー易溶性溶媒のポリマー難溶性溶媒に対する溶解度Sは、50%以上がより好ましい。
【0027】
請求項5は請求項1〜4の何れか1項において、前記マイクロ流路の上流側に連通する調製用マイクロ流路内において、前記ポリマー溶液に含まれるポリマーをモノマーから重合させて生成する重合工程と、前記生成したポリマーを前記ポリマー易溶性溶媒に溶解させてポリマー溶液を調製する調製工程と、前記調製したポリマー溶液を前記2種類以上の溶液を混合するマイクロ流路内に供給する供給工程と、を行うことを特徴とする。
【0028】
これにより、2種類以上の溶液を混合するマイクロ流路内に、ポリマー溶液を連続的に供給することができる。
【0029】
請求項6は請求項1〜5の何れか1項において、前記ポリマー溶液中のポリマーの分子量分布(Mw/Mn)が2.0以下であることを特徴とする。これは、分子量分布が均一であるほど、ポリマー溶液中におけるポリマーの拡散挙動が均一となり、均一に凝集することにより粒子径が揃った(単分散性の高い)ポリマー微粒子を形成できるためである。
【0030】
請求項7は請求項1〜6の何れか1項において、前記製造方法は、前記ポリマー溶液と前記ポリマー難溶性溶液とを少なくとも含む2種類以上の溶液のうち少なくとも1つを複数の溶液に分割する分割工程と、前記分割された複数の分割溶液のうちの少なくとも1つの分割溶液の中心軸と前記2種類以上の溶液のうちの前記1つの分割溶液とは異なる他の溶液の中心軸とを合流領域において一点で交差するように合流させる合流工程と、前記合流した溶液同士を前記マイクロ流路内の流通過程において、前記ポリマー溶液の溶解度を前記ポリマー難溶性溶液で変化させることにより前記ポリマー微粒子を析出させる析出工程と、を備えたことを特徴とする。
【0031】
本発明者らは、上述したビルドアップ再沈法により、ナノメートルサイズレベルで単分散なポリマー微粒子を製造するためには、特に、ポリマー溶液とポリマー難溶性溶液を少なくとも含む2種類以上の溶液を瞬時かつ均一に混合し、ポリマー溶液の溶解度を迅速に変化させることが重要であることを見出した。
【0032】
本発明の請求項7によれば、ポリマーを易溶性溶媒に溶解したポリマー溶液と、該ポリマーを溶解しにくいポリマー難溶性溶媒を含むポリマー難溶性溶液と、のうちの少なくとも1つの溶液を複数の溶液に分割し、分割された複数の分割溶液のうちの少なくとも1つの分割溶液の中心軸と2種類以上の溶液のうちの前記1つの分割溶液とは異なる他の溶液の中心軸とを合流領域において1点で交差するように合流させる。
【0033】
ここで、溶液の中心軸とは、例えば流路を流れる溶液が円柱状の形を成している場合には、円柱の軸方向の中心線をいう。また、溶液が流路で中心軸を表す場合には、流路の長さ方向に垂直な断面の重心(幾何学的な重心)を通過して流路の長さ方向に沿った軸が中心軸に相当する。
【0034】
通常、マイクロ流路内における2種類以上の溶液の反応は基本的に分子拡散による混合によって生じることから、分子拡散による瞬時混合を達成するためには、2種類以上の溶液同士の単位時間当たりの接触面積が増大するような混合が必要である。また、2種類以上の溶液を反応させる場合、マイクロ流路内への供給流量が異なることが一般的であり、異なる供給流量の2種類以上の溶液をそのままマイクロ流路内に供給すると、マイクロ流路内において不安定な流れが発生し、反応が不安定になる。
【0035】
このため本発明では、2種類以上の溶液が合流する前に少なくとも1つの溶液を複数の溶液に分割した上で、その分割された複数の分割溶液を含む全ての溶液を合流工程で合流させると共に溶液同士の中心軸が合流領域の一点で所定の交差角度をもって交差するように合流させる。これら分割された流れの合流(合流時の流れが有する運動エネルギー)と合流時の各溶液の流れの方向転換に起因する縮流とによって、溶液同士の接触面積の増大と拡散混合距離の縮小が図られ、瞬時混合を達成することができる。
【0036】
したがって、この瞬時混合によりマイクロ流路内においてポリマー溶液の溶解度を瞬時に変化させることができるので、ナノメートルサイズで単分散性なポリマー微粒子を安定的に製造することができる。
【0037】
また、溶液を分割することで、比較的大きな代表寸法のマイクロ流路を使用しても瞬時混合が可能なので、ナノメートルサイズで単分散性に優れたポリマー微粒子を高製造量処理することができる。更には、比較的大きな代表寸法のマイクロ流路を使用することで低圧力損失での運転が可能となるので、省エネルギーで環境に優しい運転を行うことができる。
【0038】
請求項8は請求項1〜7の何れか1項において、前記2種類以上の溶液を、非層流状態で前記マイクロ流路内を流通させることを特徴とする。
【0039】
請求項8において特に合流時の各溶液の流速が速い場合、それらの流れは大きな運動エネルギーを有しているため、流れの方向転換に起因する縮流が顕著に現れると共に対流渦が発生する、即ち非層流状態が形成されるので、2種類以上の溶液の接触面積の増大と拡散混合距離の縮小が促進され、更なる瞬時混合が可能となる。
【0040】
なお、本発明において定義される非層流とは、規則的または不規則な変動を含む流れのことをいい、カルマン渦やテーラー渦等で代表される層流渦の領域から乱流領域までを含む流れを言い、詳細は後述する。
【0041】
請求項9は請求項1〜8の何れか1項において、前記マイクロ流路の代表長さが、等価直径で1μm以上1000μm以下であることを特徴とする。
【0042】
請求項9は本発明を実施するにあたって好ましいマイクロ流路の流路径を規定したものである。等価直径で1μm未満のマイクロ流路は製造が難しく、1000μmを超えると溶液の流れの厚みが厚くなり瞬時混合が生じにくくなるからである。より好ましいマイクロ流路の流路径は等価直径で5μm以上800μm以下であり、特に好ましいマイクロ流路の流路径は等価直径で10μm以上500μm以下である。
【0043】
請求項10は請求項1〜9の何れか1項において、前記マイクロ流路の等価直径をR(m)とし、該マイクロ流路を流れる溶液の平均流速をU(m/秒)としたときに、U/Rで表される剪断速度(1/秒)を変化させることを特徴とする。
【0044】
請求項10は非層流状態の流れを剪断速度(U/R)(1/秒)を指標として表したものであり、剪断速度(U/R)(1/秒)を変化させることにより混合性能を変えることができ、結果的にポリマー微粒子の析出速度にも依存するが、製造されるポリマー微粒子の粒子径を変えることができる。
【0045】
請求項11は請求項7〜10の何れか1項において、前記剪断速度(U/R)が100(1/秒)以上になるようにすることを特徴とする。これは、剪断速度(U/R)を100(1/秒)以上とすることで瞬時混合が可能だからである。
【0046】
請求項12は請求項7〜11の何れか1項において、前記合流工程では、前記合流された全ての溶液の厚み方向の断面積の総和をS1とし、前記マイクロ流路の径方向の断面積をS2としたときに、S1>S2を満足するように前記溶液同士が合流する際の前記中心軸の交差角度を設定することにより、前記合流領域において前記溶液の流れを縮流させることを特徴とする。
【0047】
溶液同士が合流する際の中心軸の交差角度を適切に設定することで、合流領域において溶液の流れを縮流させることにより、溶液同士の接触面積の一層の増大と拡散混合距離の一層の縮小を図ることができるので、より瞬時混合を行い易くなる。交差角度の設定は、合流領域に合流する各溶液の供給流路の中心軸同士が成す交差角度を変えることにより行うことができる。
【0048】
請求項13は請求項7〜12の何れか1項において、前記溶液同士を前記合流領域で合流させてから前記マイクロ流路から排出するまでの混合時間を1マイクロ秒以上1000ミリ秒以下にすることを特徴とする。
【0049】
請求項13は、ナノメートルサイズで単分散性なポリマー微粒子を安定的に製造するための瞬時混合の好ましい時間を規定したものであり、マイクロ流路から排出するまでの混合時間を1マイクロ秒以上1000ミリ秒以下にすることが好ましい。より好ましい混合時間は10マイクロ秒以上500ミリ秒以下である。
【0050】
請求項14は請求項1〜13の何れか1項において、前記ポリマー溶液が、分散剤を含有していることを特徴とする。
【0051】
分散剤は析出したポリマー微粒子に素早く吸着して、ポリマー微粒子同士が再び凝集することを防止するからである。分散剤としては、一般的に、アニオン性分散剤、カチオン性分散剤、両イオン分散剤等、の低分子分散剤及び高分子分散剤が挙げられる。
【0052】
請求項15は請求項14において、前記分散剤の少なくとも1つは、低分子分散剤であることを特徴とする。
【0053】
これは、低分子分散剤は、ポリマー微粒子同士の凝集をより効果的に防止するからである。
【0054】
請求項16は請求項1〜15の何れか1項において、前記ポリマー微粒子が、その分散液として得られることを特徴とする。
【0055】
本発明の請求項17は前記目的を達成するために、請求項1〜16の何れか1に記載の製造方法により製造されるポリマー微粒子であって、該モード径が50nm以下であることを特徴とするポリマー微粒子を提供する。
【0056】
本発明の製造方法により、モード径が50nm以下のポリマー微粒子を製造することができる。なお、ポリマー微粒子のモード径は、1nm〜40nmであることがより好ましく、1nm〜30nmであることが更に好ましい。
【発明の効果】
【0057】
本発明によれば、ナノメートルサイズで単分散性に優れたポリマー微粒子を安定的に製造することができる。また、処方条件(混合する反応溶液の流量比が相違する等)へのフレキシブルな対応が可能であり、更には高製造量処理が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下、添付図面に従って、本発明に係るポリマー微粒子及びその製造方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0059】
本発明のポリマー微粒子の製造方法は、ポリマー易溶性溶媒にポリマーを溶解したポリマー溶液と、ポリマー易溶性溶媒よりもポリマーの溶解度が小さいポリマー難溶性溶媒を含むポリマー難溶性溶液と、をマイクロ流路内にて非層流状態で流通(混合)させ、その流通過程でポリマー溶液の溶解度を変化させることによりポリマー微粒子を析出させる方法(ビルドアップ再沈法)に関するものである。また、この非層流の流れをマイクロ流路内に形成することで溶液同士の積極的な混合を促進することにより瞬時混合を可能とし、これによりナノメートルサイズで単分散性に優れたポリマー微粒子を安定的に製造するものである。
【0060】
本発明で定義される非層流とは、規則的または不規則な変動を含む流れのことをいう。通常、マイクロ流路中に第1の粘性流体(例えば水)を流し、その中心軸上にそのマイクロ流路よりも細い管を挿入して別の第2の粘性流体(例えば着色水)を注入すると、流速が十分に遅ければ、着色水は変動を含まない1本の線状の流れとなって流路軸に平行に安定的に流れる。そして、徐々に流速を上げていくと不安定で変動を含む流れと移行していき、その変動を起因とした乱れにより、第2の粘性流体は、第1の粘性流体と混合していく。その変動の形態としては、規則的である場合と不規則である場合があるが、本発明においてはこの両方の場合を含む。
【0061】
例えば、規則的な変動を含む流れとしては、流体中で適当な速さで柱状の物体を動かすと、ある流動条件においてその物体の後流に物体の左右両側から交互に反対向きの渦(カルマン渦)が発生して規則的に2列に並ぶ流れや、共軸二重円管の環状部内の流体がその内側の円筒を回転させることにより発生する二次的回転流(テーラー渦)が発生するような流れが挙げられる。一方、不規則な変動を含む流れとしては、無秩序に大小の様々な渦の発生と消滅が繰り返されるような、いわゆる乱流状態の流れが挙げられる。
【0062】
規則的または不規則な変動を発生させる要因としては様々なことが考えられるが、例えば、流路内の構造物、壁面の移動や振動、電磁力などの外部力や流体自体の脈動や運動エネルギーなどの内部力などが挙げられる。このような非層流状態の流れにすることは、2種類以上の流体を迅速に完全混合したい場合に有効である。一般的に完全混合とは、2種類以上の流体を構成する分子が均一に配合されている状態であり、その最終過程は分子拡散による混合(均一化)である。そのためには、分子拡散量の重要なパラメーターの一つであるそれら2種類以上の流体の接触面積を、より短時間で増加させることがポイントとなる。一般的にマイクロ流路内を粘性流体が流れる場合、その流体は慣性力に対して粘性力の影響を大きく受けるため、このような接触面積の増大が起こりにくい。しかし、前記に示した外部力や内部力を利用することにより、規則的変動または不規則的変動を含む流れ(対流)いわゆる非層流を発生させることにより、結果的に単位時間あたりの接触面積の増大を行うことができ迅速な完全混合が可能となる。
【0063】
参考文献; 1)化学工学便覧改訂六版、化学工学会編、丸善株式会社
2)理化学辞典第5版、岩波書店
3)M. Engler et al., “Effective Mixing by the Use of Convective Micro Mixers”, Conference Proceedings, 2005 Spring National Meeting, AIChE, 128d
次に、本発明のポリマー微粒子の製造方法を実施するためのマイクロリアクター装置の一例を説明するが、これらの装置に限定されるものではなく、要はマイクロ流路内に非層流状態を形成できる装置であればよい。また、ポリマー微粒子を製造するための溶液として、ポリマー溶液Bと該ポリマー溶液Bの溶解度を変えるポリマー難溶性溶液A(ポリマーを溶解しにくいポリマー難溶性溶媒を含む溶液)の例で、以下に説明する。
【0064】
図1は、本発明に係るポリマー微粒子の製造方法を適用する平面型のマイクロリアクター装置の一例である。
【0065】
図1に示すように、マイクロリアクター装置10は、ポリマー難溶性溶液Aを供給する1本の供給流路12の途中から分岐して溶液Aを2つに分割できるようにした2本の分割供給流路12A,12Bと、ポリマー溶液Bを供給する分割していない1本の供給流路14と、ポリマー難溶性溶液Aとポリマー溶液Bとの反応を行うマイクロ流路16とが、1つの合流領域18で連通するように形成される。また、これら分割供給流路12A,12B、供給流路14、及びマイクロ流路16は、実質的に同一の平面内で合流領域18の周りに90°の等間隔で配置される。即ち、各流路12A,12B,14、16の中心軸(一点鎖線)は合流領域18において十文字状(交差角度α=90°)に交差する。尚、図1ではポリマー溶液Bに比べて供給量の多いポリマー難溶性溶液Aの供給流路12のみを分割したが、ポリマー溶液Bの供給流路14も複数に分割してもよい。また、合流領域18の周りに配置する各流路12A,12B,14、16の交差角度αは、90°に限らず適宜設定できる。また、供給流路12、14の分割数は、特に限定されるものではないが、数が多すぎるとマイクロリアクター装置10の構造が複雑になるので、2〜10が好ましく、2〜5がより好ましい。
【0066】
図2は、図1の平面型のマイクロリアクター装置10の変形例であり、供給流路14の中心軸に対して分割供給流路12A,12Bの中心軸の成す交差角度βは図1の90°よりも小さく45°に形成される。また、分割供給流路12A,12Bの中心軸に対してマイクロ流路16の中心軸の成す交差角度αが135°になるように形成される。
【0067】
図3は、図1の平面型のマイクロリアクター装置の更に別の変形例であり、ポリマー溶液Bが流れる供給流路14の中心軸に対してポリマー難溶性溶液Aが流れる分割供給流路12A,12Bの中心軸の成す交差角度βは図1の90°よりも大きく135°に形成される。また、分割供給流路12A,12Bの中心軸に対してマイクロ流路16の中心軸の成す交差角度αが45°になるように形成される。供給流路14、分割供給流路12A,12B、及びマイクロ流路16の互いの交差角度α、βは適宜設定できるが、合流されたポリマー溶液Bとポリマー難溶性溶液Aの全ての溶液の厚み方向の断面積の総和をS1とし、マイクロ流路16の径方向の断面積をS2としたときに、S1>S2を満足するように交差角度α、βを設定することが好ましい。これにより、溶液A,B同士の接触面積の一層の増大と拡散混合距離の一層の縮小を図ることができるので、より瞬時混合が生じ易くなるからである。
【0068】
図4は、本発明のポリマー微粒子の製造方法を適用する立体型のマイクロリアクター装置30の一例であり、マイクロリアクター装置30を構成する3つのパーツを分解した状態を斜視図で示した分解斜視図である。尚、図1〜図3と同じ機能を有する部分には同符号を付して説明する。
【0069】
立体型のマイクロリアクター装置30は、主として、それぞれが円柱状の形状をした供給ブロック32、合流ブロック34、及び反応ブロック36により構成される。そして、マイクロリアクター装置30を組み立てるには、円柱状をしたこれらのブロック32、34、36を、この順番で互いの側面同士を合わせて円柱状になるようにし、この状態で各ブロック32、34、36をボルト・ナット等により一体的に締結する。
【0070】
供給ブロック32の合流ブロック34に対向する側面33には、2本の環状溝38、40が同芯状に穿設されており、マイクロリアクター装置30を組み立て状態において、2本の環状溝38、40はポリマー溶液Bとポリマー難溶性溶液Aとがそれぞれ流れるリング状流路を形成する。そして、供給ブロック32の合流ブロック34に対向しない反対側の側面35から外側環状溝38と内側環状溝40に達する貫通孔42、44がそれぞれ形成される。かかる2本の貫通孔42、44のうち、外側の環状溝38に連通する貫通孔42には、ポリマー難溶性溶液Aを供給する供給手段(ポンプ及び連結チューブ等)が連結され、内側環状溝40に連通する貫通孔44には、ポリマー溶液Bを供給する供給手段(ポンプ及び連結チューブ等)が連結される。図4では、外側環状溝38にポリマー難溶性溶液Aを流し、内側環状溝40にポリマー溶液Bを流すようにしたが、逆にしてもよい。
【0071】
合流ブロック34の反応ブロック36に対向する側面41の中心には円形状の合流穴46が形成され、この合流穴46から放射状に4本の長尺放射状溝48、48…と4本の短尺放射状溝50、50…が交互に穿設される。これら合流穴46や放射状溝48,50はマイクロリアクター装置30を組み立て状態において、合流領域18となる円形状空間と溶液A,Bが流れる放射状流路とを形成する。また、8本の放射状溝48,50のうち、長尺放射状溝48の先端から合流ブロック34の厚み方向にそれぞれ貫通孔52、52…が形成され、これらの貫通孔52は供給ブロック32に形成されている前述の外側環状溝38に連通される。同様に、短尺放射状溝50の先端から合流ブロック34の厚み方向にそれぞれ貫通孔54、54…が形成され、これらの貫通孔54は供給ブロック32に形成されている内側環状溝40に連通される。
【0072】
また、反応ブロック36の中心には、反応ブロック36の厚み方向に合流穴46に連通する1本の貫通孔58が形成され、この貫通孔58がマイクロ流路16となる。
【0073】
これにより、ポリマー難溶性溶液Aは供給ブロック32の貫通孔42→外側環状溝38→合流ブロック34の貫通孔52→長尺放射状溝48から構成される供給流路12を流れて4つの分割流に分割されて合流領域18(合流穴46)に至る。一方、ポリマー溶液Bは供給ブロック32の貫通孔44→内側環状溝40→合流ブロック34の貫通孔54→短尺放射状溝50から構成される供給流路14を流れて4つの分割流に分割されて合流領域18(合流穴46)に至る。合流領域18においてポリマー難溶性溶液Aの分割流とポリマー溶液Bの分割流とがそれぞれの運動エネルギーを有して合流した後、90°流れ方向を変えてマイクロ流路16に流入する。
【0074】
図5(A)は合流ブロック34の平面図、図5(B)は図5(A)のa−a線に沿った断面図である。図5において、Wは分割された供給流路12、14の幅、Hは分割された供給流路12、14の深さ、Dは合流領域18の直径、Rはマイクロ流路16の直径であり、通常、合流領域18の直径とマイクロ流路16の直径は同じになる。また、UAinは分割された各供給流路12を流れるポリマー難溶性溶液Aが合流領域18に流入する平均流速であり、UBinは分割された各供給流路14をポリマー溶液Bが合流領域18に流入する平均流速である。また、Uoutは合流した溶液A,Bが合流領域18からマイクロ流路16に流出する平均流速である。
【0075】
マイクロ流路16は、その流路16を流れる流体の流動特性を主に決定する長さ、つまり代表長さが等価直径において、1μm以上1000μm以下、好ましくは5μm以上800μm以下、さらに好ましくは10μm以上500μm以下の流路であることが好ましいが、流速が速い場合や分割数が多い場合には、溶液同士の接触面積の増大や拡散混合距離の縮小を図ることができるので、1000μm以上でもよい。ここで言う等価直径とは、相当(直)径とも呼ばれ、機械工学の分野で用いられる用語である。任意断面形状の配管(本発明では流路)に対し等価な円管を想定するとき、その等価円管の直径を等価直径という。
【0076】
等価直径(deq)は、A:配管の断面積、p:配管のぬれぶち長さ(周長)を用いて、deq=4A/pと定義される。円管に適用した場合、この等価直径は円管直径に一致する。等価直径は等価円管のデータを基に、その配管の流動あるいは熱伝達特性を推定するのに用いられ、現象の空間的スケール(代表的長さ)を表す。等価直径は、一辺aの正四角形管ではdeq=4a2/4a=a、−辺aの正三角形管では、deq=a/√3となる。また、流路高さhの平行平板間の流れではdeq=2hとなる(例えば、(社)日本機械学会編「機械工学事典」1997年、丸善(株)参照)。
【0077】
上記の如く構成された図1〜図4のマイクロリアクター装置10、30は、半導体加工技術、特にエッチング(例えばフォトリソエッチング)加工、超微細放電加工、光造形法、鏡面加工仕上げ技術、拡散接合技術等の精密機械加工技術を利用して製造することができる。また、汎用的な旋盤、ボール盤を用いる機械加工技術も利用できる。
【0078】
装置10、30の材料としては、特に限定されるものではなく、上述の加工技術を適用できるものであればよい。具体的には、金属材料(鉄、アルミニウム、ステンレススチール、チタン、各種の金属等)、樹脂材料(フッ素樹脂、アクリル樹脂等)、ガラス(シリコン、石英等)を用いることができる。
【0079】
また、マイクロリアクター装置10、30にポリマー溶液Bやポリマー難溶性溶液Aを供給する供給手段には、溶液の流れを制御する流体制御機能が必要である。特に、マイクロ流路16内における流体の挙動は、マクロスケールとは異なる性質を持つため、マイクロスケールに適した制御方式を考えなければならない。流体制御方式は形態分類すると連続流動方式と液滴(液体プラグ)方式があり、駆動力分類すると電気的駆動方式と圧力駆動方式がある。
【0080】
これらの方式のうち最も広く用いられるのが連続流動方式である。連続流動式の流体制御では、マイクロ流路16内は全て流体で満たされ外部に用意したシリンジポンプなどの圧力源によって、流体全体を駆動するのが一般的である。この方法は、デッドボリュームが大きいことなどが難点であるが比較的簡単なセットアップで制御システムを実現できることが大きな利点である。
【0081】
連続流動方式とは異なる方式として、液滴(液体プラグ)方式がある。この方式は、装置内部や装置に至る流路内で、空気で仕切られた液滴を動かすものであり、個々の液滴は空気圧によって駆動される。その際、液滴と流路壁あるいは液滴同士の間の空気を必要に応じて外部に逃がすようなベント構造、および分岐した流路内の圧力を他の部分と独立に保つためのバルブ構造などを、リアクターシステム内部に用意する必要がある。また、圧力差を制御して液滴の操作を行うために、外部に圧力源や切り替えバルブからなる圧力制御システムを構築する必要がある。このように液滴方式では、装置構成やリアクターの構造がやや複雑になるが、複数の液滴を個別に操作して、いくつかの反応を順次行うなどの多段階の操作が可能で、システム構成の自由度は大きくなる。
【0082】
流体制御を行うための駆動方式として、マイクロ流路16の両端に高電圧をかけて電気浸透流を発生させ、これによって流体移動させる電気的駆動方法と、外部に圧力源を用いて流体に圧力をかけて移動させる圧力駆動方法が一般に広く用いられている。両者の違いは、たとえば流体の挙動として、流路断面内で流速プロファイルが電気的駆動方式の場合にはフラットな分布となるのに対して、圧力駆動方式では双曲線状に、流路中心部が速くて、壁面部が遅い分布となることが知られており、サンプルプラグなどの形状を保ったまま移動させるといった目的には、電気的駆動方式の方が適している。電気的駆動方式を行う場合には、流路内が流体で満たされている必要があるため、連続流動方式の形態をとらざるを得ないが、電気的な制御によって流体の操作を行うことができるため、例えば連続的に2種類の溶液の混合比率を変化させることによって、時間的な濃度勾配をつくるといった比較的複雑な処理も実現されている。圧力駆動方式の場合には、流体の電気的な性質にかかわらず制御可能であること、発熱や電気分解などの副次的な効果を考慮しなくてよいことなどから、基質に対する影響がほとんどなく、その適用範囲は広い。その反面、外部に圧力源を用意しなければならないこと、圧力系のデッドボリュームの大小に応じて、操作の応答特性が変化することなど、複雑な処理を自動化する必要がある。本発明における流体制御方法として用いられる方法はその日的によって適宜選ばれるが、好ましくは連続流動方式の圧力駆動方式である。
【0083】
マイクロ流路16内の温度制御(反応温度制御)としては、装置全体を温度制御された容器中に入れることにより制御してもよいし、金属抵抗線やポリシリコンなどのヒーター構造を装置内に作り込み、加熱についてはこれを使用し、冷却については自然冷却でサーマルサイクルを行つてもよい。温度のセンシングは、金属抵抗線を使用する場合はヒーターと同じ抵抗線をもう一つ作り込んでおき、その抵抗値の変化に基づいて温度検出を行うのが好ましく、ポリシリコンを使用する場合は熱電対を用いて検出を行うのが好ましい。また、ペルチェ素子を流路に接触させることによって外部から加熱、冷却を行ってもよい。どの方法を用いるかは用途や流路本体の材料などに合わせて選択される。
【0084】
本発明に用いられるマイクロリアクター装置10、30の数は、勿論、一つでも構わないが、必要に応じて複数並列化し(ナンバリングアップ)、その処理量を増大させることができる。
【0085】
次に、上記の如く構成されたマイクロリアクター装置10、30を用いて本発明のポリマー微粒子の製造方法について説明する。
【0086】
上記の如く構成された図1〜図4のマイクロリアクター装置10、30によって、ポリマー微粒子を製造する場合には、いずれの装置10、30の場合にも、分割工程と合流工程と析出工程との3つの工程を経てポリマー微粒子が製造される。
【0087】
分割工程(供給ブロック)では、ポリマー溶液Bと該ポリマー溶液Bの溶解度を変化させるポリマー難溶性溶液Aとの2種類の溶液A,Bのうちの少なくとも一方の溶液を複数の溶液に分割する。
【0088】
合流工程(合流ブロック)では、分割された複数の分割溶液のうちの少なくとも1つの分割溶液の中心軸と2種類の溶液A,Bのうちの他方の溶液の中心軸とを合流領域18において一点で交差するように合流させる。
【0089】
また、析出工程(反応ブロック、場合により合流ブロックの合流穴を含む)では、合流した溶液A,B同士をマイクロ流路16内の流通過程においてポリマー溶液Bの溶解度をポリマー難溶性溶液Aで変化させることによりポリマー微粒子を析出させる。
【0090】
図1〜図3のマイクロリアクター装置10では、ポリマー難溶性溶液Aを2つに分割し、ポリマー溶液Bは分割しない場合である。また、図4のマイクロリアクター装置30では、ポリマー溶液Bとポリマー難溶性溶液Aをそれぞれ4分割した場合である。ポリマー微粒子の製造に使用されるポリマー溶液Bとポリマー難溶性溶液Aとでは、ポリマー難溶性溶液Aの供給量が多いため、ポリマー難溶性溶液Aを分割することが好ましい。
【0091】
本発明では、マイクロ流路16中を流通する過程で、ポリマー溶液Bの溶解度を変化させ、ポリマー微粒子を製造する方法であるが、その方法はポリマーの均一溶液の導入口とは異なる導入口を有する流路、例えば図1に示されるような少なくとも2つの導入口を有する流路を用いて行われる。詳しくは、図1の導入口にポリマーの均一溶液を導入し、図1のもう一つの導入口にポリマー溶液の溶解度を変化させるポリマー難溶性溶媒、またはそれらに分散剤を溶解した溶液を導入し、両液を合流領域18及びマイクロ流路16内で接触させることによりポリマーを含む溶液の溶解度を低下させる。ポリマーは、ポリマー難溶性溶媒には溶解しにくいため、ポリマー溶液の溶解度が低下するに従って、ポリマー微粒子として析出し、マイクロ流路16の排出口より取り出される。
【0092】
溶解度の変化の幅は、ポリマー溶液の溶解度によるが、ポリマー微粒子の析出を促すのに十分な範囲でよい。
【0093】
このように、ポリマー溶液Bとポリマー難溶性溶液Aとが合流する前に少なくとも一方の溶液を複数の溶液に分割した上で、その分割された複数の溶液を含む全ての溶液を合流領域18に合流させた後、合流した溶液A,Bの流れ方向を所定角度で方向転換してマイクロ流路16に流すことにより、合流した溶液A,Bの流れが有する運動エネルギーと流れの方向転換に起因する縮流とが発生する。これにより、溶液A,B同士の接触面積の増大と拡散混合距離の縮小によって瞬時混合を達成することができるので、マイクロ流路16内においてポリマー溶液Bの溶解度を瞬時に変化させることができる。この結果、ナノメートルサイズで単分散性なポリマー微粒子を安定的に製造することができる。
【0094】
ここで、一般的に混合とは、2成分以上の粉粒体、粉粒体と流体(液体、気体)、あるいは流体の均一化を図る操作である。特に2成分以上の流体に関しては、分子レベルで均一化されていることが望ましい。マイクロ流路16内の混合は分子拡散による混合が基本であることから、迅速に混合を達成するためには、2種類以上の流体同士の単位時間当たりの接触面積を増大させることがポイントである。瞬時混合の好ましい混合時間は、溶液同士が合流してからマイクロ流路16から排出するまでの時間を1マイクロ秒以上1000ミリ秒以下にすることが好ましい。より好ましい混合時間は10マイクロ秒以上500ミリ秒以下である。
【0095】
混和性液体同士の混合評価方法は、例えば非特許文献「S.Panic, et.al., “Experimental approaches to a better understanding of mixing performance of microfluidic devices”, Chem.Eng.J.101, 2004, p.409-p.419」に記載されており、混合時間は、前記の混合評価方法で完全に混合が完了したと考えられる条件において、混合が行われるマイクロ流路16の容積(mL)をその容積を流れる総流量(mL/秒)で割った値で計算することにより算出することができる。
【0096】
マイクロ流路16における混合の原理および方法に関しては、例えば非特許文献「V. Hessel, et. al., “Chemical Micro Process Engineering -Processing and Plant-”, WILEY-VCH, 2005, p.1-p.280」に詳細が記載されている。
【0097】
かかるポリマー微粒子の製造においてマイクロ流路16内に非層流状態を形成するには、マイクロ流路16の等価直径をR(m)とし、該マイクロ流路16を流れる溶液の平均流速をU(m/秒)としたときに、U/Rで表される剪断速度(1/秒)が100以上になるようにすることが好ましい。
【0098】
図6は、非特許文献4に記載されているマイクロ流路16内の剪断速度(U/R)と混合性能との関係を調べたもので、混合性能を溶液の濁りを吸光度で表すことにより評価したものである。即ち、吸光度が大きいほど混合性能が悪いことを示し、吸光度が小さいほど混合性能が良いことを示す。図6から分かるように、マイクロ流路16内の剪断速度(U/R)を大きくしていくと、吸光度が急激に低下し、剪断速度(U/R)が100以上で略同じ吸光度で推移する。このことは、剪断速度(U/R)が100以上の領域では、層流状態での分子拡散による混合状態とは別の混合状態、即ち非層流状態での分子拡散による混合が発生しているものと考えられる。従って、マイクロ流路16の等価直径R(m)と、該マイクロ流路16を流れる溶液の平均流速U(m/秒)との関係を適切に設計することにより、マイクロ流路16内の剪断速度(U/R)を100以上とすることができ、これにより瞬時混合を行うことができる。尚、図6のグラフでは、剪断速度(U/R)が100以上のときの混合性能の詳細な挙動がどうなるかが分からないが、後述する実施例3において、剪断速度が約2万(1/秒)から約10万(1/秒)の高レベル領域で製造されたポリマー微粒子の粒子径を調べたところ、この高レベル領域でも剪断速度を大きくすると次第に粒子径が小さくなった。このことから、剪断速度は100(1/秒)を超えても大きくするほど混合性能が向上するものと考察される。
【0099】
また、合流領域18で溶液A,Bが方向転換をすることで縮流を発生させるには、合流する際の各溶液A,Bの平均流速と溶液A,B同士が合流する際の中心軸の交差角度α、βとの関係を適切に設計することで達成できる。また、合流領域18で溶液A,Bを急激に方向転換することで、規則的又は不規則な変動を含む流れを形成し易い。従って、合流領域18へ流入する各溶液A,Bの平均流速と溶液A,B同士が合流する際の中心軸の交差角度α、βとの関係を適切に設計することでマイクロ流路16内に非層流状態の流れを形成し易くなることが考えられる。
【0100】
マイクロ流路16内を流れる溶液A,Bの温度は、溶媒が凝固又は気化しない範囲内であればよいが、−20°C〜90°Cが好ましく、0〜50°Cがより好ましく、5〜30°Cであることが更に好ましい。また、マイクロ流路16内を流れる溶液A,Bの流量(流速ともいう)は、0.1〜5000mL/分が好ましく、より好ましくは1〜1000mL/分であり、特に好ましくは5〜500mL/分である。また、マイクロ流路16内を流れる基質(ポリマーやその反応成分)の濃度範囲は、通常0.5〜20質量%であることが好ましく、1.0〜10質量%であることがより好ましい。
【0101】
ポリマー溶液Bの調製方法としては、出発原料としてのポリマーをポリマー易溶性溶媒に溶解させ、更に分散剤等を添加する。ポリマー溶液Bの供給方法としては、特に限定されないが、例えば、前述のように調製したポリマー溶液Bをマイクロ流路に連通する貯蔵容器に貯蔵しておき、ポリマー溶液Bを送液ポンプ等の送液手段によりマイクロ流路内に供給する。
【0102】
また、出発原料としてのポリマーの分子量が小さい場合、ポリマー溶液Bとポリマー難溶性溶液Aとをマイクロ流路内で合流させる合流工程の前に、ポリマー溶液Bを調製する工程を行ってもよい。すなわち、ポリマー溶液Bを調製する工程としては、モノマーを連続的に重合させてポリマーを生成する重合工程と、該ポリマーを精製する精製工程と、該精製したポリマーとポリマー易溶性溶媒とを連続的に混合してポリマー溶液を調製する調製工程と、該調製したポリマー溶液をマイクロ流路内に供給する供給工程と、を連続的に行うことにより、上記溶液A,Bを合流させるマイクロ流路内にポリマー溶液Bを連続的に供給することもできる。この場合、上記ポリマーの生成工程、精製工程、ポリマー溶液の調製工程、及び供給工程の全部又は一部を、上記溶液A,Bを合流させるマイクロ流路の上流側に連通する調製用マイクロ流路内で連続的に行うことが好ましい。
【0103】
マイクロ流路内におけるポリマー微粒子の析出工程の後は、分散液の余分な溶剤や分散剤を除去する精製工程と、分散液を目的とする濃度に調整する希釈・濃縮工程と、を行うことが好ましい。その方法としては、マイクロ流路を流通させた後、収納容器に収集した後、精製、希釈又は濃縮をしてもよいが、マイクロ流路の下流側に連通する後処理用マイクロ流路内において連続的に上記精製、希釈又は濃縮を行うこともできる。
【0104】
次に、本発明に使用される各種材料について説明する。
【0105】
本発明に用いられる出発原料としてのポリマーは、既に市販されているポリマーや重合により生成させたポリマー等が挙げられる。ポリマーとしては、溶解性が高いポリマー易溶性溶媒及び溶解性が低いポリマー難溶性溶媒の双方が存在するとともに、ポリマー微粒子として析出し得るポリマーであればいずれでもよく、特に限定されない。
【0106】
ポリマーは、モノマーを重合することにより生成することができ、分子量は重合度に依存するが、特に規定されるものではない。
【0107】
微小なポリマー微粒子を得るためには、分子量の小さいポリマーを出発原料として用いることが好ましい。具体的には、ポリマーの分子量が100000以下であることが好ましく、10000以下であることがより好ましく、3000以下であることが更に好ましい。
【0108】
また、単分散性の高いポリマー微粒子を得るためには、分子量分布の狭いポリマーを出発原料として使用することが好ましい。具体的には、分子量分布Mw/Mnが2.0以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.3以下であることが更に好ましい。
【0109】
ポリマーとしては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルニトリル、スチレンアクリル共重合体、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ナイロン6、ナイロン66、シリコンゴム、シリコンレジン等が挙げられる。これらのポリマー種を単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、上記の合成系ポリマー以外にも、天然系ポリマー、例えば、結晶セルロースやカゼイン等との組み合わせで使用することもできる。
【0110】
ポリマーを溶解するポリマー易溶性溶媒としては、目的とするポリマーを溶解でき、ポリマー微粒子を析出させるために用いるポリマー難溶性溶媒を溶解する溶媒が含まれていればいずれでもよく、特に限定されない。中でも、ポリマー難溶性溶媒との溶解性が高い溶媒が好ましく、ポリマー難溶性溶媒と完全に混和するような溶媒がより好ましい。
【0111】
ポリマー易溶性溶媒に対するポリマーの溶解度は、0.2質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。
【0112】
ポリマー易溶性溶媒は、ポリマー難溶性溶媒に対する溶解量(溶解度S)が40質量%を超えることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。ポリマー難溶性溶媒に対するポリマー易溶性溶媒の溶解量は、特に上限はないが、任意の割合で混ざり合う範囲であるのが実際的である。
【0113】
ポリマー易溶性溶媒としては、目的とするポリマーやポリマー難溶性溶媒の組み合わせによって、選定する必要がある。例えば、ポリマーがポリスチレンであり、ポリマー難溶性溶媒が水である場合、ポリマー易溶性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DMM)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等、が挙げられる。
【0114】
ポリマー難溶性溶媒としては、前述したポリマー易溶性溶媒に溶解し、かつポリマーを析出できるものであればいずれでもよく、特に限定されない。
【0115】
このようなポリマー難溶性溶媒は、ポリマーの溶解度が0.02質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましい。ポリマー難溶性溶媒に対するポリマーの溶解度は、特に下限はない。また、ポリマー易溶性溶媒とポリマー難溶性溶媒との相溶性もしくは均一混合性の好ましい範囲は前述の通りである。
【0116】
ポリマー難溶性溶媒としては、例えば、水性溶媒(例えば、水、又は塩酸、水酸化ナトリウム水溶液)、アルコール化合物溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール)、ケトン化合物溶媒、エーテル化合物溶媒、芳香族化合物溶媒、二硫化炭素溶媒、脂肪族化合物溶媒、ニトリル化合物溶媒、ハロゲン化合物溶媒、エステル化合物溶媒、イオン性液体、これらの混合溶媒などが挙げられ、水性溶媒、アルコール化合物溶媒、ケトン化合物溶媒、エーテル化合物溶媒、エステル化合物溶媒、またはこれらの混合物が好ましく、水性溶媒、アルコール化合物溶媒またはエステル化合物溶媒がより好ましい。
【0117】
本発明では、ポリマー溶液Bは、均一に溶解した溶液を流路に投入することが好ましい。懸濁液を投入すると粒子サイズが大きくなったり、粒子分布が広いポリマー微粒子になったりし、場合によっては容易に流路の閉塞を生じたりする。「均一に溶解」の意味は、可視光線下で観測した場合にほとんど濁りが観測されない溶液であり、本発明では0.45μm以下のミクロフィルターを通して得られる溶液、または0.45μmのフィルターを通した場合に濾過される物を含まない溶液を均一に溶解した溶液と定義する。
【0118】
本発明のポリマー微粒子を製造する方法では、ポリマーを含むポリマー溶液Bの中、又は/及び溶解度を変化させるためのポリマー難溶性溶液Aの中に分散剤を添加することができる。
【0119】
分散剤としては、ポリマー、ポリマー易溶性溶媒、ポリマー難溶性溶媒の種類や組み合わせによるが、アニオン性分散剤、カチオン性分散剤、両イオン性分散剤、ノニオン性分散剤等の低分子分散剤又は高分子分散剤を使用することができる。これにより、ポリマー微粒子の粒径や粒度分布を制御したり、ポリマー微粒子同士の凝集を阻止したりすることができる。
【0120】
アニオン性分散剤(アニオン性界面活性剤)としては、N−アシル−N−アルキルタウリン塩、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、スルホコハク酸ジイソオクチルナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等を挙げることができる。なかでも、N−アシル−N−アルキルタウリン塩が好ましい。N−アシル−N−アルキルタウリン塩としては、特開平3−273067号明細書に記載されているものが好ましい。これらアニオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0121】
カチオン性分散剤(カチオン性界面活性剤)には、四級アンモニウム塩、アルコキシル化ポリアミン、脂肪族アミンポリグリコールエーテル、脂肪族アミン、脂肪族アミンと脂肪族アルコールから誘導されるジアミンおよびポリアミン、脂肪酸から誘導されるイミダゾリンおよびこれらのカチオン性物質の塩が含まれる。これらカチオン性分散剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0122】
両イオン性分散剤は、前記アニオン性分散剤が分子内に有するアニオン基部分とカチオン性分散剤が分子内に有するカチオン基部分を共に分子内に有する分散剤である。
【0123】
ノニオン性分散剤(ノニオン性界面活性剤)としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。なかでも、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルが好ましい。これらノニオン性分散剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0124】
高分子分散剤としては、具体的には、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド、ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール一部分ホルマール化物、ポリビニルアルコール一部分ブチラール化物、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドブロック共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリビニル硫酸塩、ポリ(4−ビニルピリジン)塩、ポリアミド、ポリアリルアミン塩、縮合ナフタレンスルホン酸塩、スチレン−アクリル酸塩共重合物、スチレン−メタクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、アクリル酸エステル−メタクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル−アクリル酸塩共重合物、メタクリル酸エステル―メタクリル酸塩共重合物、スチレン−イタコン酸塩共重合物、イタコン酸エステル−イタコン酸塩共重合物、ビニルナフタレン−アクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン−メタクリル酸塩共重合物、ビニルナフタレン−イタコン酸塩共重合物、セルロース誘導体、澱粉誘導体などが挙げられる。その他、アルギン酸塩、ゼラチン、アルブミン、カゼイン、アラビアゴム、トンガントゴム、リグニンスルホン酸塩などの天然高分子類も使用できる。なかでも、ポリビニルピロリドンが好ましい。これらの高分子分散剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、アニオン性分散剤を水性媒体に含有させ、かつノニオン性分散剤および/または高分子分散剤を、ポリマーを溶解した溶液に含有させる態様を挙げることができる。
【0125】
分散剤の配合量は、出発原料としてのポリマーの均一分散性および保存安定性をより一層向上させるために、出発原料としてのポリマー100質量部に対して0.1〜1000質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜500質量部の範囲であり、更に好ましくは10〜250質量部の範囲である。0.1質量部未満であるとポリマー微粒子の分散安定性の向上が見られない場合がある。
【0126】
ポリマー微粒子の粒径サイズの計測法としては、数値化して集団の平均の大きさを表現する方法がある。中でも、よく使用されるものとして、分布の最大値を示すモード径、積分分布曲線の中央値に相当するメジアン径、および各種の平均径(長さ平均、面積平均、重量平均など)がある。本発明の方法で製造されるポリマー微粒子の粒径サイズは、マイクロ流路16を閉塞しない範囲で任意であるが、モード径で50nm以下が好ましい。さらに、ポリマー微粒子の粒径サイズは、1nm〜40nmが更に好ましく、1nm〜30nmが特に好ましい。
【0127】
ポリマー微粒子の粒子サイズが揃っていること、即ち、単分散微粒子系は、含まれる粒子の大きさが揃っているだけではなく、粒子内の化学組成や結晶構造にも粒子間の変動がないことを示すので粒子の性能を決める重要な要素である。特に、粒子サイズがナノメートルの超微粒子においては、その粒子の特性を支配する因子として重視される。本発明の方法は、粒子の大きさをコントロールできるだけでなく、そのサイズを揃える点でも優れた方法である。サイズが揃っていることを表す指標として算術標準偏差値が用いられるが、本発明により製造されるポリマー微粒子の算術標準偏差値は、好ましくは130nm以下であり、特に好ましくは80nm以下である。算術標準偏差値は、粒度分布を正規分布とみなして標準偏差を求める方法で、積算分布の84%粒子径から、16%粒子径を減じた値を2で除した値である。また、分散度を示すMv/Mnは、小さいほど単分散であることを示し、1.0に近いほど好ましい。本発明では、分子量分布Mv/Mnは、1.5以下であることが好ましく、1.3以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0128】
以下の実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0129】
[実施例1]
ポリマー溶液B及びポリマー難溶性溶液Aは以下のように調製した。
【0130】
(1)ポリマー溶液B
・ポリスチレン(TSK standard POLYSTYRENE A-2500、東ソー社製、分子量Mw=2500、分子量分布Mw/Mn=1.05、液状)(ポリマー)…0.495g
・ テトラヒドロフラン(THF、和光純薬社製)(ポリマー易溶性溶媒)…98.5g
(ポリマー難溶性溶媒に対する溶解度S 100%以上(完全に混和))
・スルホコハク酸ジイソオクチルナトリウム(AOT、和光純薬社製)(分散剤)…1.0g
以上の成分を室温にて十分に攪拌混合して完全に溶解した。
【0131】
(2)ポリマー難溶性溶液A
・蒸留水(ポリマー難溶性溶媒)
…100g
(3)マイクロリアクター装置としては、図7に示されるマイクロリアクターを使用した。図8は合流孔46’(合流領域18’)近傍の構成を説明する説明図である。このうち、図8(a)は、合流領域46’近傍の部分断面図であり、図8(b)は、合流領域46’近傍の部分上面図である。図7、8のマイクロリアクターは、合流領域46における供給流路の本数を3本とし、流路幅を変更した以外は図4と類似しているため、詳細な説明は省略する。
【0132】
i)供給流路本数(n)…ポリマー溶液Bについて3本に分割し、ポリマー難溶性溶液Aについて3本に分割した。
【0133】
ii)ポリマー溶液B導入流路48’…幅(W1)100μm×深さ(H)100μmの矩形断面流路
iii)ポリマー難溶性溶液A導入流路50’…幅(W2)400μm×深さ(H)100μmの矩形断面流路
iv)合流領域46’(合流領域18)の直径(D)…500μm
v)出口流路58’(マイクロ流路16)の直径(R)…500μm
vii)合流領域(合流領域18)において各供給流路48’、50’(供給流路14、12)と合流孔46’(マイクロ流路16)との中心軸同士の交差角度…120°
viii)装置の材質…ステンレス(SUS304)
ix)流路加工法…マイクロ放電加工で行い、供給ブロック32’、合流ブロック34’及び反応ブロック36’の3つのパーツの封止方法は鏡面研磨による金属面シールで行った。
【0134】
(4)反応条件
i)設定流量…シリンジポンプ(ハーバード社製)を用いて、ポリマー溶液Bを25.1mL/分、ポリマー難溶性溶液Aを100.4mL/分の一定流量で供給した。このときの流量比は、ポリマー溶液B:ポリマー難溶性溶液A=1:4であった。
【0135】
ii)反応温度…25°C
上記したマイクロリアクターを用いて、以下の各条件でポリマー溶液B、ポリマー難溶性溶液Aを混合させることによりポリマー微粒子を形成し、ポリマー微粒子分散液1を得た。このポリマー微粒子分散液1におけるポリマー微粒子の粒径及び単分散度(Mv/Mn)を、日機装株式会社のナノトラックUPA−EX150を用いて測定し、モード径及び分散度を測定した。そして、以下の基準で官能評価を行った。
【0136】
◎…極めて良好、○…良好、△…製品として許容できるレベル、×…製品として許容できないレベル
この結果を図9の表に示す。
【0137】
[実施例2]
ポリマー溶液Bに溶解させるポリマーをポリスチレン(TSK standard POLYSTYRENE A-1000、東ソー社製、Mw=1010、Mw/Mn=1.16、液状)に変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリマー微粒子分散液2を調製した。調製したポリマー微粒子分散液2のモード径及び分散度を実施例1と同様にして測定した。この結果を図9の表に示す。
【0138】
[実施例3]
ポリマー溶液Bに含まれるポリマー易溶性溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、和光純薬社製)に変更したこと以外は実施例2と同様にしてポリマー微粒子分散液3を調製した。なお、ポリマー易溶性溶媒のポリマー難溶性溶媒に対する溶解度Sは、100%以上であり完全に混和した。調製したポリマー微粒子分散液3のモード径及び分散度を実施例1と同様にして測定した。この結果を図9の表に示す。
【0139】
[実施例4]
ポリマー溶液Bに含まれるポリマー易溶性溶媒として、ポリマー易溶性溶媒のポリマー難溶性溶媒に対する溶解度が53%であるジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DMM、和光純薬社製)に変更したこと以外は、実施例2と同様にしてポリマー微粒子分散液4を調製した。調製したポリマー微粒子分散液4のモード径及び分散度を実施例1と同様にして測定した。この結果を図9の表に示す。
【0140】
[実施例5]
ポリマー難溶性溶液Aの設定流量を215.2mL/分、ポリマー溶液Bの設定流量を53.8mL/分に変更したこと以外は実施例2と同様にしてポリマー微粒子分散液5を調製した。調製したポリマー微粒子分散液5のモード径及び分散度を実施例1と同様にして測定した。この結果を図9の表に示す。
【0141】
[実施例6]
ポリマー溶液Bに溶解させるポリマーを、ポリスチレン(Mw=1.9×105、Mw/Mn=2.1)に変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリマー微粒子分散液6を調製した。調製したポリマー微粒子分散液6のモード径及び分散度を実施例1と同様にして測定した。この結果を図9の表に示す。
【0142】
[実施例7]
ポリマー溶液Bに溶解させるポリマーを、ポリスチレン(TSK standard POLYSTYRENE、東ソー社製、Mw=1.71×104、Mw/Mn=1.01、粉状)に変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリマー微粒子分散液7を調製した。調製したポリマー微粒子分散液7のモード径及び分散度を実施例1と同様にして測定した。この結果を図9の表に示す。
【0143】
[実施例8]
ポリマー溶液Bに溶解させるポリマーを、ポリスチレン(TSK standard POLYSTYRENE A-5000、東ソー社製、分子量Mw=5870、分子量分布Mw/Mn=1.02、液状)に変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリマー微粒子分散液8を調製した。調製したポリマー微粒子分散液8のモード径及び分散度を実施例1と同様にして測定した。この結果を図9の表に示す。
【0144】
[比較例1]
ポリマー溶液Bに含まれるポリマー易溶性溶媒として、メチルエチルケトン(MEK、和光純薬社製)に変更したこと以外は実施例3と同様にしてポリマー微粒子分散液11を調製した。なお、このときのポリマー易溶性溶媒のポリマー難溶性溶媒に対する溶解度Sは、34%であった。調製したポリマー微粒子分散液11のモード径及び分散度を実施例1と同様にして測定した。この結果を図9の表に示す。
【0145】
[比較例2]
実施例1と同じ溶液A、Bを使用すると共に、混合装置として、50mLの小型容器(サンプル瓶)に攪拌子(スターラ)を備えたものを使用した。
【0146】
25℃に温度を保った恒温水槽に、上記の小型容器を浸漬し、その中に25.1mLのポリマー難溶性溶液Aを入れて500rpmの回転数で攪拌した。その攪拌の最中に、シリンジポンプ(ハーバード社製)を用いて6.3mLのポリマー溶液Bを、110mL/分の添加速度で液面から添加した。調製したポリマー微粒子分散液12のモード径及び分散度を実施例1と同様にして測定した。この結果を図9の表に示す。
【0147】
(5)製造結果
図9の表に示すように、ポリマー易溶性溶媒とポリマー難溶性溶媒とが相溶し、かつマイクロ流路内で析出させた実施例1〜8のポリマー微粒子は、小サイズで単分散性に優れていた。特に、溶解度Sが40%を超える易溶性溶媒を用い、かつ出発原料であるポリマーの分子量Mwが3000未満の実施例1〜5の場合は、モード径D50が50nm以下と小さく、かつ分散度Mv/Mnも1.5以下と小さかった。
【0148】
これに対して、ポリマー易溶性溶媒とポリマー難溶性溶媒との相溶性が低い比較例1のポリマー微粒子、及びマイクロ流路内で上記溶液A,Bを混合しなかった比較例2のポリマー微粒子は、いずれもモード径、分散度が上記実施例1〜8で得られた値よりも大きかった。
【0149】
この結果から、本発明を適用した実施例1〜8では、ナノメートルサイズで単分散性に優れたポリマー微粒子を安定的に製造することができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】本発明のポリマー微粒子の製造方法を適用する平面型のマイクロリアクター装置の概念図である。
【図2】本発明のポリマー微粒子の製造方法を適用する平面型のマイクロリアクター装置の変形例を示す概念図である。
【図3】本発明のポリマー微粒子の製造方法を適用する平面型のマイクロリアクター装置の別の変形例を示す概念図である。
【図4】本発明のポリマー微粒子の製造方法を適用する立体型のマイクロリアクター装置の概念図である。
【図5】立体型のマイクロリアクター装置の平面及び断面から見た図である。
【図6】マイクロ流路内における剪断速度と混合性能の関係を説明する説明図である。
【図7】本実施例における立体型のマイクロリアクター装置の部分斜視図である。
【図8】本実施例における立体型のマイクロリアクター装置の平面及び断面から見た図である。
【図9】本実施例における結果を示す表図である。
【符号の説明】
【0151】
10、30…マイクロリアクター装置、12、14…溶液の供給流路、12A…分割供給流路、16…マイクロ流路、18、18’…合流領域、32、32’…供給ブロック、34、34’…合流ブロック、36、36’…反応ブロック、38…外側環状溝、40…内側環状溝、42、44…供給ブロックの貫通孔、46、46’…合流穴(合流領域18、18’)、48…長尺放射状溝、50…短尺放射状溝、52、54…合流ブロックの貫通孔、58…反応ブロックの貫通孔(マイクロ流路16)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーをポリマー易溶性溶媒に溶解させたポリマー溶液と、前記ポリマー易溶性溶媒よりも前記ポリマーの溶解度が小さいポリマー難溶性溶媒を含むポリマー難溶性溶液と、を少なくとも含む2種類以上の溶液を混合し、前記ポリマー溶液の溶解度を変化させることによりポリマー微粒子を析出させるポリマー微粒子の製造方法において、
前記2種類以上の溶液の混合をマイクロ流路内で行うとともに、前記ポリマー易溶性溶媒は、前記ポリマー難溶性溶媒と相溶する有機溶媒であることを特徴とするポリマー微粒子の製造方法。
【請求項2】
ポリマーをポリマー易溶性溶媒に溶解させたポリマー溶液と、前記ポリマー易溶性溶媒よりも前記ポリマーの溶解度が小さいポリマー難溶性溶媒を含むポリマー難溶性溶液と、を少なくとも含む2種類以上の溶液を混合し、前記ポリマー溶液の溶解度を変化させることによりポリマー微粒子を析出させるポリマー微粒子の製造方法において、
前記2種類以上の溶液の混合をマイクロ流路内で行うとともに、前記ポリマーは分子量3000未満であることを特徴とするポリマー微粒子の製造方法。
【請求項3】
ポリマーをポリマー易溶性溶媒に溶解させたポリマー溶液と、前記ポリマー易溶性溶媒よりも前記ポリマーの溶解度が小さいポリマー難溶性溶媒を含むポリマー難溶性溶液と、を少なくとも含む2種類以上の溶液を混合し、前記ポリマー溶液の溶解度を変化させることによりポリマー微粒子を析出させるポリマー微粒子の製造方法において、
前記2種類以上の溶液の混合をマイクロ流路内で行うとともに、前記ポリマー易溶性溶媒は、前記ポリマー難溶性溶媒と相溶する有機溶媒であり、前記ポリマーは分子量3000未満であることを特徴とするポリマー微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記ポリマー易溶性溶媒は、前記ポリマー難溶性溶媒に対する溶解度Sが40%を超えることを特徴とする請求項1又は3に記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記マイクロ流路の上流側に連通する調製用マイクロ流路内において、
前記ポリマー溶液に含まれるポリマーを、モノマーから重合させて生成する重合工程と、
前記生成したポリマーを前記ポリマー易溶性溶媒に溶解させてポリマー溶液を調製する調製工程と、
前記調製したポリマー溶液を前記2種類以上の溶液を混合するマイクロ流路内に供給する供給工程と、
を行うことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記ポリマー溶液中のポリマーの分子量分布(Mw/Mn)が2.0以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記製造方法は、
前記ポリマー溶液と前記ポリマー難溶性溶液とを少なくとも含む2種類以上の溶液のうち少なくとも1つを複数の溶液に分割する分割工程と、
前記分割された複数の分割溶液のうちの少なくとも1つの分割溶液の中心軸と前記2種類以上の溶液のうちの前記1つの分割溶液とは異なる他の溶液の中心軸とを合流領域において一点で交差するように合流させる合流工程と、
前記合流した溶液同士を前記マイクロ流路内の流通過程において、前記ポリマー溶液の溶解度を前記ポリマー難溶性溶液で変化させることにより前記ポリマー微粒子を析出させる析出工程と、
を備えたことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記2種類以上の溶液を、非層流状態で前記マイクロ流路内を流通させることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記マイクロ流路の代表長さが、等価直径で1μm以上1000μm以下であることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記マイクロ流路の等価直径をR(m)とし、該マイクロ流路を流れる溶液の平均流速をU(m/秒)としたときに、U/Rで表される剪断速度(1/秒)を変化させることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項11】
前記剪断速度(U/R)が100(1/秒)以上になるようにすることを特徴とする請求項7〜10の何れか1項に記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項12】
前記合流工程では、前記合流された全ての溶液の厚み方向の断面積の総和をS1とし、前記マイクロ流路の径方向の断面積をS2としたときに、S1>S2を満足するように前記溶液同士が合流する際の前記中心軸の交差角度を設定することにより、前記合流領域において前記溶液の流れを縮流させることを特徴とする請求項7〜11の何れか1に記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項13】
前記溶液同士を前記合流領域で合流させてから前記マイクロ流路から排出するまでの混合時間を1マイクロ秒以上1000ミリ秒以下にすることを特徴とする請求項7〜12の何れか1に記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項14】
前記ポリマー溶液が、分散剤を含有していることを特徴とする請求項1〜13の何れか1に記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項15】
前記分散剤の少なくとも1つは、低分子分散剤であることを特徴とする請求項14に記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項16】
前記ポリマー微粒子が、その分散液として得られることを特徴とする請求項1〜15の何れか1に記載のポリマー微粒子の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜16の何れか1に記載の製造方法により製造されるポリマー微粒子であって、該モード径が50nm以下であることを特徴とするポリマー微粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−239902(P2008−239902A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85825(P2007−85825)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】