説明

ポリマー材料からなるホイール

本発明のホイールは、車両のシャフトの端部に取り付けられる中央の穴(11)および固定ボルトを通すための複数の偏心した穴(12)が設けられた中央のディスク(10)と、車両のタイヤを保持するように構成された外周のリング(20)とによって形成される本体(C)を備えており、前記ホイールの本体(C)は、40%〜70%の熱可塑性ポリマーマトリクスと、30%〜60%の合成繊維と、0.01%〜10%の添加剤とを均質混合にて含むポリマー複合材料で、単一部品にて射出成型される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、小型および大型多目的車両、オートバイ、三輪車、四輪車、荷物および人々の域内移動のための車両、農業用車両、ならびに他の用途のための車両など、種々の車両に装着される熱可塑性複合材料で作られたタイヤホイールの新規な構造に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術から知られているとおり、ポリマー複合材料は、2つ以上の材料が特性の相乗効果および性能の最適化を達成するように組み合わせられ、すなわち単一の材料の特性よりも優れた特性を得るように組み合わせられた材料である。複合材料は、通常は、ポリマーベースを1つ以上の補強材料と組み合わせることによってもたらされる。
【0003】
産業において、重量の削減を特性の改善、性能の最適化、および設計の自由度によってもたらされる差別化された視覚的外観とともにもたらす製品について、顕著な需要が存在する。これらの特徴の他に、生産性の向上、品質の改善、リサイクル性ゆえの環境保護上の魅力、快適性、安全性、自律性の改善、汚染物質の排出削減、などが期待される。
【0004】
軽量合金ホイールは、鋳造による単一の部品にて製造され、鋼製ホイールは、プレスによるリムおよびディスクから製作され、溶接スポットを必要とし、溶接スポットにおいて酸化点が生じ、製品の耐久性および安全性が損なわれる可能性がある。他に考慮すべき側面は、金属材料がポリマー材料よりも高い比重を有するという事実であり、そのような材料で製造されるホイールの質量は、必然的に大きくなり、したがって車両が重くなり、エネルギーおよび/または燃料の消費が多くなる。
【0005】
上述の不都合の他に、これらの知られているホイールは、衝撃の場合に恒久的な変形(塑性変形)を有し、製品および製品に組み合わせられたシステムに深刻な損傷や、あるいは恒久的な損傷さえ引き起こす可能性がある。具体的には、軽量合金ホイールの鋳造プロセスにおいて、抑制が困難であって製造プロセスに本質的につきまとう材料中の気孔の存在に起因して、不具合の可能性が高くなる。その後の機械加工の工程が、大量の油残留物および金属くずを生じさせる高コストかつ時間のかかるプロセスである。さらに、ホイールの製造サイクルの全体を分析すると、電気エネルギー、水、および鋳造プロセスにつきものの他の投入物が、大量に消費されている。
【0006】
ホイールを、いくつかのプロセスにて、多くの場合に熱硬化性材料(リサイクルできない)を使用して、ガラス繊維で補強されたポリマーで製造することが試みられているが、それらの試みは検証試験において不合格となり、あるいは商業的に実現不可能であると考えられている。
【0007】
放熱の目的のためにディスクを固定ボルトとブレーキシステムとの間に挿入して使用している先行技術の例が、米国特許第4,900,097号明細書に記載されている。この構造においては、ディスクがプラスチック製のリムから分離する可能性がある。
【0008】
米国特許第3,811,737号明細書が、ボルトが耐圧縮性に乏しい樹脂へと過度に締め込まれることがないようにするために、金属板を使用することを提案している。
【0009】
米国特許第3,917,352号明細書が、プラスチック構造を補強するためのいくつかの連続的なガラス繊維フィラメントを提示しているが、製造プロセスが高価かつ複雑であり、最終的な製品が経済的に実現不可能または競争力に乏しいものになっている。
【0010】
米国特許第4,072,358号明細書においては、ホイールが、ポリアミド(PI)シートを切断ガラス繊維と一緒に圧縮するプロセスにて成型されている。
【0011】
米国特許第5,826,948号明細書が、互いに貼り合わせられる2つの部品にて製造されたホイールを提示しているが、2つの射出成型金型が必要であり、製造コストが高くなる。
【0012】
米国特許第5,268,139号明細書が、より弱い領域において異なるポリマー流動線からなるニットライン(knit line)を回避する設計を開示しているが、これはホイールの設計の自由度ならびにホイールのプラスチックフォームの各々の設計要件への適合にとって、大きな制約である。
【0013】
プラスチック材料にて形成される知られている車両用ホイールは、一般にポリマー材料から得られるが、その組成が、構造的な耐力、耐候性、経年劣化、ならびにホイールの取り付けられるシャフト端部における大きな締め付け力および保持力への耐性に関し、さらには製造ならびに各々の用途における美的および機能的要件への構造設計の適合に関して、欠点を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第4,900,097号明細書
【特許文献2】米国特許第3,811,737号明細書
【特許文献3】米国特許第3,917,352号明細書
【特許文献4】米国特許第4,072,358号明細書
【特許文献5】米国特許第5,826,948号明細書
【特許文献6】米国特許第5,268,139号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
これまでに知られている車両の空気入りタイヤのホイールが抱える欠点に鑑み、本発明の目的は、ポリマー材料によるホイールであって、比較的簡単に製造でき、高い設計の柔軟性を有し、さらには引張、圧縮、曲げ、および衝撃に対して高い耐性を有し、たとえ車両における使用時に気候条件および化学的攻撃に曝されても長い寿命を約束するホイールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
これらの肯定的な特性が、車両のシャフトの端部に取り付けられる中央の穴および固定ボルトを通すための複数の偏心した穴が設けられた中央のディスクと、車両のタイヤを保持するように構成された外周のリングとによって形成される本体を備える形式の本明細書において提案されるホイールにおいて得られる。本明細書において考慮されるホイールは、40%〜70%の熱可塑性ポリマーマトリクス(好ましくは、ポリアミド(PA))と、30%〜60%の合成繊維と、0.01%〜10%の添加剤とを均質混合にて含む新規なポリマー複合材料から、単一部品にて射出成型される。
【0017】
この新規なホイールの構造的および機能的な特徴に加えて、射出成型によるホイール本体の製造が、製造サイクルの短縮を可能にし、コストを削減し、製品を経済的に実現可能にすることを、理解すべきである。
【0018】
製品の開発は、美学(意匠)および機能の両方の点において、製品の性能の分析を加速して試行錯誤を回避する有限要素解析(FEA)のためのソフトウェアを使用することによる構造解析、疲労、および組織などのコンピュータシミュレーション、設計/製品/材料/プロセスおよびツーリングの間の相互作用分析、ならびに物理的なベンチテストのシミュレーションと連携する。
【0019】
そのようなシミュレーションは、製品の構想、開発、および検証の工程に要する時間およびコストを減らす。最後に、試験室および疲労試験が、耐久性および実地試験との組み合わせにおいて、個々の用途の要件を満たす製品の承認を可能にする。しかしながら、ポリマー複合材料によるこの種の製品については、特定の国内および国際規則および規制が存在しないため、性能の評価を、金属材料およびそれらの合金で一般的に製造される現在の製品に適用されるSAE、ISO、およびNBR(ブラジル規則)の仕様および規制にもとづいて行った。
【0020】
他の重要な点は、本発明のホイールを受け入れるために、車両を変更する必要がない点にある。
【0021】
本発明を、本発明のホイールについて考えられる実施形態の例示として提示される添付の図面を参照して後述する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】インサートを持たないホイール構造の部分断面の斜視図を示している。
【図2】金属合金のインサートを、中央のディスクの中央の穴の内部に、前記中央の穴をこの中央の穴の軸方向の延在の全体にわたって覆うように取り付けて備えているホイール構造の部分断面の斜視図を示している。
【図3】図2の斜視図と同様の斜視図を示しているが、中央のディスクの偏心した穴が、その軸方向の延在の全体にわたって、金属合金のインサートによって内側から覆われているのを示している。
【図4】図3の斜視図と同様の斜視図を示しているが、中央のディスクの偏心した穴が、その軸方向の延在の一部分においてのみ、インサートによって内側から覆われているのを示している。
【図5】図2および図4の斜視図と同様の斜視図を示しているが、金属合金のそれぞれのインサートによって、中央の穴がその軸方向の延在の全体にわたって内側から覆われ、偏心した穴がその軸方向の全延在の一部分においてのみ内側から覆われている。
【図6】図5の斜視図と同様の斜視図を示しているが、中央の穴のインサートおよび偏心した穴のインサートが単一の部品を形成しており、この部品へとホイール本体を形成するポリマー材料が射出成型される構成を示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
すでに述べ、さらには添付の図面にも示されているとおり、本発明のホイールは、車両のシャフトの端部に取り付けられる中央の穴11および固定ボルトを通すための複数の偏心した穴12が設けられた中央のディスク10と、車両のタイヤを保持するように構成された外周のリング20とによって形成される本体Cを備える形式である。図示の構造的形状においては、中央の穴11が、おおむね円柱形かつ軸方向の最も内側に位置する取り付け部11aを有しており、この取り付け部11aが、車両のそれぞれのシャフトの端部の周囲に取り付けられる。他方で、偏心した穴12は、ホイールを車両へと取り付けるボルトの本体のためのガイドとして機能する軸方向の最も内側の円柱形部分12aと、車両の固定ボルトまたはナットに作用可能に組み合わせられる六角ボルトまたはナットの円錐形の領域を内部に収容する軸方向の最も外側の円錐台形状の部分12bとを有している。
【0024】
本発明によれば、本体Cが、40%〜70%の熱可塑性ポリマーマトリクスと、30%〜60%の合成繊維と、0.01%〜10%の添加剤とを均質混合にて含むポリマー複合材料で、単一部品にて射出成型される。
【0025】
好ましくは、ポリマーマトリクスがポリアミド(PA)にて得られ、合成繊維が、引張、曲げ、および衝撃に対して高い耐性を有する長いガラス繊維の細くて柔軟なフィラメントによって定められている。
【0026】
さらに、ホイールの本体Cを形成するための好ましい添加剤は、相溶化剤、経年劣化抑制剤、熱安定剤、UV添加剤/吸収剤、難燃剤、加工助剤、一次および二次酸化抑制剤、ならびに顔料によって定められる。
【0027】
車両における耐用年数においてホイールへと加わる力に応じ、車両のシャフトの端部またはホイールを車両へと固定するためのボルトに直接接触する本体Cの部位に、より高い構造的耐性を付与するために、金属合金で作られ、中央の穴11または偏心した穴12のみあるいは中央の穴11および偏心した穴12の両方の内部に配置されるインサート30、40の形状をとる補強要素を設けることが、好都合であるかもしれず、さらには必要であるかもしれない。
【0028】
図1に示した構造においては、本体Cからインサート30、40が除かれている。
【0029】
図2に示した構造においては、中央の穴11の取り付け部11aだけが、該当のインサート30によって内側から覆われている。このインサート30が、中央の穴11の前記取り付け部11aの軸方向の延在の全体にわたって延びても、あるいは前記延在のうちの一部だけを延びてもよいことを、理解すべきである。
【0030】
図3の構造においては、偏心した穴12だけが、それぞれの筒状のインサート40によって内側から覆われている。この図においては、偏心した穴12の各々の円柱形部分12aおよび円錐台形状の部分12bの両方が、前記偏心した穴の各部分の形状に従った形を有する該当のインサート40によって内側から完全に覆われている。
【0031】
図4は、図3の構造上の変形例を示しており、この変形例においては、金属インサート40が、偏心した穴12のそれぞれの円錐台形状の部分12bの全体を内側から覆っているが、前記偏心した穴の円柱形部分12aの隣接する領域だけを覆っている。
【0032】
図5は、中央の穴11がその取り付け部11aの軸方向の延在の全体がインサート30によって覆われている一方で、偏心した穴12については、図4に示されるように軸方向の延在のうちの一部分だけがそれぞれのインサート40によって覆われている構造を示している。
【0033】
図6は、図5の解決策に定められる態様を包含するが、偏心した穴12のすべてのインサート40が中央の穴11の取り付け部11aを覆うインサート30に結合して単一部品となっている構造を示している。図5および図6の構造が、それぞれの偏心した穴12の軸方向の延在の全体を占める筒状のインサート40の使用も想定できることを、理解すべきである。
【0034】
金属インサート30、40は、適用される場合には、これらの部材を巻き込んでこれらの部材の位置決めおよび機械的な固定を保証する複合材料の注入に先立って金型内に配置して射出成型されるか、あるいは射出成型プロセスの後で、挿入の力および変位が監視される適切な装置による干渉によって取り付けられる。機械的な固定は、穴の部位11a、12a、12bの直径と金属インサートの外径との間の差によって定められる干渉(偏心した穴12のインサート40の場合には、インサートおよび製品の先細りの効果が組み合わさる)、ならびにこれらのインサートの外壁に適用されるローレットの構成によって促進される。各々の種類のインサートについて、どのプロセスが最も推奨されるかは、各々の製品の要件および構成によって決まる。
【0035】
上述の構造は、ホイールを(事後に結合させられるモジュールにてではなく)単一の要素として製造することを可能にし、必要な場合またはプロジェクトによって要求される場合には、最終的に固定ボルト/ナットのトルクの喪失につながりかねない締め付けの緩和の作用を防止するために、車両への取り付け領域に金属合金のインサートを備えることを可能にする。
【0036】
前記ホイールの形成は、より高い精度、再現性、ならびにより高い生産性を可能にし、高い設計の自由度で単一の部品を得ることを可能にする熱可塑性材料の射出成型によって、リサイクル可能な材料を使用することによって実行される。
【0037】
SAE、ISO、およびNBRの規則による仮想の分析(仮想シミュレーション)および試験室での物理的な試験において、場合によっては金属合金で製造されたホイールにおいて伝統的に見られる結果よりも優れる確実な結果がもたらされている。そのような結果の成功は、本体Cの設計および構造と、一般的に使用される合金よりも優れた機械的特性(例えば、降伏/破断に関する引張耐性)を有し、製品にくぼみ(塑性変形)を生じることなく大きなエネルギー吸収(弾性変形)をもたらすポリマー複合材料の正しい選択との組み合わせによるものである。さらに、軽量合金ホイールおよび鋼製ホイールと比べ、それぞれ約20%〜40%および30%〜50%の重量削減が認められている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシャフトの端部に取り付けられる中央の穴(11)および固定ボルトを通すための複数の偏心した穴(12)が設けられた中央のディスク(10)と、車両のタイヤを保持するように構成された外周のリング(20)とによって形成される本体(C)を備える形式のポリマー材料からなるホイールであって、
本体(C)が、40%〜70%の熱可塑性ポリマーマトリクスと、30%〜60%の合成繊維と、0.01%〜10%の添加剤とを均質混合にて含むポリマー複合材料で、単一部品にて射出成型されることを特徴とするホイール。
【請求項2】
熱可塑性ポリマーマトリクスが、ポリアミド(PA)であることを特徴とする、請求項1に記載のホイール。
【請求項3】
合成繊維が、引張、曲げ、および衝撃に対して高い耐性を有する長いガラス繊維の細くて柔軟なフィラメントによって定められることを特徴とする、請求項2に記載のホイール。
【請求項4】
添加剤が、相溶化剤、経年劣化抑制剤、熱安定剤、UV吸収剤、難燃剤、加工助剤、一次および二次酸化抑制剤、ならびに顔料によって定められる成分のうちの少なくとも1つによって定められることを特徴とする、請求項2に記載のホイール。
【請求項5】
中央の穴(11)が、軸方向の最も内側に位置する取り付け部(11a)を有しており、偏心した穴(12)が、軸方向の最も内側に位置する円柱形部分(12a)と、軸方向の最も外側に位置する円錐台形状の部分(12b)とを有しており、中央の穴(11)の取り付け部(11a)によって定められる部位および偏心した穴(12)によって定められる部位のうちの少なくとも1つが、その軸方向の延在の少なくとも一部分について、ホイールの本体(C)の中央のディスク(10)に軸方向および半径方向に固定される金属合金によるそれぞれのインサート(30、40)によって内側から覆われていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のホイール。
【請求項6】
ホイールの本体(C)を形成するポリマー複合材料が、少なくとも1つのインサート(30、40)の周囲に成型されることを特徴とする、請求項5に記載のホイール。
【請求項7】
本体(C)の中央のディスク(10)の中央の穴(11)または偏心した穴(12)のそれぞれに少なくとも1つのインサート(30、40)を有することを特徴とする、請求項5に記載のホイール。
【請求項8】
偏心した穴(12)の円錐台形状の部位(12b)および円柱形部位(12a)の隣接する領域だけが、各々のインサート(40)によって内側から覆われていることを特徴とする、請求項5から7のいずれか一項に記載のホイール。
【請求項9】
偏心した穴(12)のすべてのインサート(40)が中央の穴(11)の取り付け部(11a)を覆う筒状のインサート(30)に結合して単一部品となっていることを特徴とする、請求項5から8のいずれか一項に記載のホイール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−531359(P2012−531359A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518699(P2012−518699)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【国際出願番号】PCT/BR2010/000220
【国際公開番号】WO2011/000070
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(512003892)プラスカル・インダストリア・デ・コンポネンテス・プラステイコス・リミタダ (1)
【Fターム(参考)】