説明

ポリマー特性の予測を改善する方法、および改善されたポリマー特性予測能を有するシステム

本発明のポリマー特性の予測を改善する方法は、(1)ポリマーを提供するステップと、(2)予測モデルを提供するステップと、(3)予測モデルを利用して平均ポリマー特性予測値を画定するステップと、(4)許容範囲を決定するステップと、(5)ポリマーの1つ又は複数の特性を測定するステップと、(6)1つ又は複数の測定したポリマー特性が許容範囲内であるかを決定するステップと、(7)1つ又は複数の測定したポリマー特性が許容範囲内に入る場合は、1つ又は複数の測定したポリマー特性を有効にし、あるいは1つ又は複数の測定したポリマー特性が許容範囲に入らない場合は、1つ又は複数の測定したポリマー特性を無効にするステップと、(8)任意選択的に予測モデルを更新するステップと、(9)先のステップを少なくとも1回又は複数回繰り返すステップと、(10)それによりポリマー特性の予測を改善するステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年8月7日出願の「METHOD FOR IMPROVING THE PREDICTION OF POLYMER PROPERTIES AND A SYSTEM HAVING IMPROVED POLYMER PROPERTY PREDICTION CAPABILITIES」と題された米国特許仮出願第60/954506号明細書の優先権を主張する非仮出願であり、その教示は以下に完全に再現されるかのように参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ポリマー特性の予測を改善する方法、および改善されたポリマー特性予測能を有するシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
ポリオレフィン反応器の系は通常、樹脂特性の定期的又は断続的な測定に依存している。測定は一般に樹脂サンプルから行われ、このサンプルはプロセスの系から抽出される。ポリオレフィン樹脂品質のリアルタイム測定は、種々の理由に起因する相当量の誤差に左右されることがある。これらの誤差は、サンプリングの問題、実験室手順の誤適用、器具の不調、又は他の原因に起因することがある。樹脂特性の測定が相当量の誤差を含み、次いで引き続き反応器制御に用いられる場合、これらの不適切な測定に基づく応答によって、重大なプロセスの混乱が引き起こされる恐れがある。しかし、サンプリングした測定結果に「誤りの可能性あり」とマークを付けることができれば、これに従って対応することができ、はるかに好ましい反応器制御を維持することができる。現在では、実験室の読み取り値が自動化システムに入るのに適切であるか、又は手動操作での使用に適切であるかをオペレータが決定している。この手法は多くの場合、読み取り値の成否の決定における複雑さのために有効ではない。既存の方法論における複雑さおよび不確実性は、十分に適時でない、一貫しない、又は正確でないオペレータの決定をもたらす。本明細書で求められる改善は、そのような測定が反応器の変数および条件を操作するのに用いられる前に、ポリマー特性の読み取り値に許容可能として又は許容不可能としてフラグを付けることである。
【0004】
米国特許第5260882号明細書は、化学反応速度論、統計熱力学、および分子力学によって決定される制約を用いた実験情報を利用して特性を評価する方法を記載している。この実験情報には、提案する巨大分子のポリマー物質又はコポリマー物質について、第1に物質の分子化学組成を画定し、第2に、3次元的に折りたたまれる場合の分子化学組成の特性を評価し、第3に組成をポリマークラスターの形とし、第4にポリマークラスターの物理特性を評価し、最後に評価されたような特性を有するポリマー物質を調製することによって、物質の物理特性を評価するための実験情報が含まれる。
【0005】
米国特許第5550630号明細書は、化学有機化合物、ポリマー、ポリヌクレオチド、およびペプチドの構造を分析する方法を記載している。この方法は、紫外および/又は可視スペクトルの広い又は狭い領域におけるスペクトル光吸収の積分強度を用い、これらのパラメータを分析される化合物の構造特性に付加的に関連づける。ポリマー、ヌクレオチド、および/又はペプチドの分析において、スペクトル吸収の積分強度を狭い紫外線領域で逐次的に用い、これにより分析される化合物の分子量および完全なアミノ酸組成を決定することが可能になる。これらのすべての手順は、自動分光光度構造分析計において相互に連結している。
【0006】
米国特許第6406632号明細書は迅速な特性評価を記載しており、平均分子量、分子量分布、および他の特性を決定するための、ポリマーサンプルのスクリーニングが開示されている。
【0007】
米国特許第6687621号明細書は、ポリマーの所望の特性および/又は性能を予測する、および/又は所望の特性および/又は性能をもたらすポリマーを特定および設計するコンピュータによる方法を記載しており、純粋な未希釈のポリマー、又は組成物中の希釈したポリマーによって所望の特性を得ることができる。この方法は、使用される記述子が、実験によって生成されるおよび/又は1つ若しくは複数の分析法から生じる構造記述子である、QSAR法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ポリマー特性予測モデルを開発する研究努力にもかかわらず、ポリマー特性の予測を改善する方法、および改善されたポリマー特性予測能を有するシステムが依然として必要とされている。さらに、(1)試料ポリマー特性測定の予期される標準偏差、および/又は(2)プロセスモデル、および測定不確実性の見積もりを用いて、実験室の測定の成否を自動的に決定する方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリマー特性の予測およびそれに続くポリマー特性の制御を改善する方法、並びに改善されたポリマー特性予測能を有するシステムである。本発明によるポリマー特性の予測を改善する方法は、以下のステップ、すなわち(1)ポリマーを提供するステップと、(2)予測モデルを提供するステップと、(3)前記予測モデルを利用して平均ポリマー特性予測値を画定するステップと、(4)許容範囲(feasible range)を決定するステップと、(5)前記ポリマーの1つ又は複数の特性を測定するステップと、(6)前記1つの又は測定したポリマー特性が前記許容範囲内であるかを決定するステップと、(7)前記1つ又は複数の測定したポリマー特性が許容範囲内に入る場合は、前記1つ又は複数の測定したポリマー特性を有効にし、あるいは前記1つ又は複数の測定したポリマー特性が許容範囲に入らない場合は、前記1つ又は複数の測定したポリマー特性を無効にするステップと、(8)前記予測モデルを更新するステップと、(9)前記先のステップを少なくとも1回又は複数回繰り返すステップと、(10)それによりポリマー特性の予測を改善するステップとを含む。本発明による改善されたポリマー特性予測能を有する重合システムは、少なくとも1つの重合反応器、自動予測モデル、1つ又は複数のポリマー特性を測定する手段、1つ又は複数の測定した誤りのポリマー特性を検出する手段、および前記自動予測モデルを更新する手段を含む。
【0010】
一実施形態において、本発明はポリマー特性の予測を改善する方法を提供し、この方法は以下のステップ、すなわち(1)ポリマーを提供するステップと、(2)予測モデルを提供するステップと、(3)前記予測モデルを利用して平均ポリマー特性予測値を画定するステップと、(4)許容範囲を決定するステップと、(5)前記ポリマーの1つ又は複数の特性を測定するステップと、(6)前記1つの又は測定したポリマー特性が前記許容範囲内であるかを決定するステップと、(7)前記1つ又は複数の測定したポリマー特性が許容範囲内に入る場合は、前記1つ又は複数の測定したポリマー特性を有効にし、あるいは前記1つ又は複数の測定したポリマー特性が許容範囲に入らない場合は、前記1つ又は複数の測定したポリマー特性を無効にするステップと、(8)前記予測モデルを更新するステップと、(9)前記先のステップを少なくとも1回又は複数回繰り返すステップと、(10)それによりポリマー特性の予測を改善するステップとを含む。
【0011】
別の実施形態において、本発明は、平均ポリマー特性予測値がxであること以外は、前記実施形態のいずれかに従ってポリマー特性の予測を改善する方法を提供する。
【0012】
別の実施形態において、本発明は、許容範囲が、
【数1】

(式中、ポリマー特性予測値は対数的である)によって決定されるか、又は許容範囲が、
【数2】

(式中、ポリマー特性予測値は非対数的である)によって決定されること以外は、前記実施形態のいずれかに従ってポリマー特性の予測を改善する方法を提供する。これらの式中、
Lowは実験室値(lab value)について予期される最低値であり、
Highは実験室値(lab value)について予期される最高値であり、
fはそのサンプルがサンプルの集団の一部である確率であり、
σはラボ測定法(lab measurement method)の標準偏差であり、
はモデル予測の床平均値(bed average value)であり、
は正確なサンプル時間における時間の不確実さの量であり、
dx/dtは時間に対するxの導関数である。
【0013】
別の実施形態において、本発明は、dx/dtが、
【数3】

によって決定されること以外は、前記実施形態に従ってポリマー特性の予測を改善する方法を提供する。
式中、
kは現在の時間を表し、
k−1は1つの計算区間分だけ前の時間を表す。
【0014】
別の実施形態において、本発明は、少なくとも1つの重合反応器、自動予測モデル、1つ又は複数のポリマー特性を測定する手段、1つ又は複数の測定した誤りのポリマー特性を検出する手段、および前記自動予測モデルを更新する手段を含む、改善されたポリマー特性予測能を有する重合システムをさらに提供する。
【0015】
別の実施形態において、本発明は、誤りのポリマー特性測定値を、これらの値が反応器条件の操作に用いられる前に検出する方法およびシステムをさらに提供する。
【0016】
別の実施形態において、本発明は、1つ又は複数のポリマー特性を測定する手段が自動装置であること以外は、前記実施形態に従って、改善されたポリマー特性予測能を有する重合システムを提供する。
【0017】
別の実施形態において、本発明は、1つ又は複数の測定した誤りのポリマー特性を検出する手段が自動装置であること以外は、前記実施形態のいずれかに従って、改善されたポリマー特性予測能を有する重合システムを提供する。
【0018】
別の実施形態において、本発明は、前記自動予想モデルを更新する手段が自動装置であること以外は、前記実施形態のいずれかに従って、改善されたポリマー特性予測能を有する重合システムを提供する。
【0019】
別の実施形態において、本発明は、自動予測モデルがコンピュータモデルであること以外は、前記実施形態のいずれかに従って、改善されたポリマー特性予測能を有する重合システムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明を説明する目的で、例となる形式を図中に示すが、しかしながら示された正確な配置および手段に本発明が限定されないことを理解されたい。
【図1】本発明がどのように機能するかを示すフローチャートである。
【図2】1つ又は複数の測定した誤りのポリマー特性をどのように検出するかを示すフローチャートである。
【図3】ポリマー特性の予測を改善するための、1つ又は複数の測定した誤りのポリマー特性の自動検出をグラフで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、ポリマー特性の予測を改善する方法、および改善されたポリマー特性予測能を有するシステムである。本発明によるポリマー特性の予測を改善する方法は以下のステップ、すなわち(1)ポリマーを提供するステップと、(2)予測モデルを提供するステップと、(3)前記予測モデルを利用して平均ポリマー特性予測値を画定するステップと、(4)許容範囲を決定するステップと、(5)前記ポリマーの1つ又は複数の特性を測定するステップと、(6)前記1つの又は測定したポリマー特性が前記許容範囲内であるかを決定するステップと、(7)前記1つ又は複数の測定したポリマー特性が許容範囲内に入る場合は、前記1つ又は複数の測定したポリマー特性を有効にし、あるいは前記1つ又は複数の測定したポリマー特性が許容範囲に入らない場合は、前記1つ又は複数の測定したポリマー特性を無効にするステップと、(8)任意選択的に前記予測モデルを更新するステップと、(9)前記先のステップを少なくとも1回又は複数回繰り返すステップと、(10)それによりポリマー特性の予測を改善するステップとを含む。本発明による改善されたポリマー特性予測能を有する重合システムは、少なくとも1つの重合反応器、自動予測モデル、1つ又は複数のポリマー特性を測定する手段、1つ又は複数の測定した誤りのポリマー特性を検出する手段、および前記自動予測モデルを更新する手段を含む。
【0022】
用語「ポリマー」は本明細書において、ホモポリマー、インターポリマー(又はコポリマー)、又はターポリマーを指すのに用いられる。本明細書で用いられる用語「ポリマー」は、インターポリマー、例えばエチレン又はプロピレンを1つ又は複数のαオレフィンと共重合させることにより作られるものなどを含む。
【0023】
本明細書で用いられる用語「インターポリマー」とは、少なくとも2つの異なる種類のモノマーを重合させることにより調製されるポリマーのことを言う。このように総称的な用語インターポリマーは、通常2つの異なる種類のモノマーから調製されるポリマーを指すのに用いられるコポリマー、並びに2つを超える異なる種類のモノマーから調製されるポリマーを含む。
【0024】
任意の従来のホモ重合反応又は共重合反応を、本発明のポリマー組成物を製造するのに使用してもよい。そのような従来のホモ重合反応又は共重合反応としては、従来の反応器(例えば気相反応器、ループ反応器、撹拌槽反応器、およびバッチ反応器)を用いた気相重合、スラリー相重合、液相重合、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。
【0025】
本発明におけるポリマーは任意のポリマーであってもよく、例えばポリマーは任意のポリオレフィンであってもよい。ポリオレフィンは1つ又は複数のオレフィンの、任意のホモポリマーおよび/又はコポリマーであってもよい。例えば、ポリオレフィンはエチレンのホモポリマー、又はエチレンと1つ若しくは複数のαオレフィン(プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、および4−メチル−1−ペンテンなど)とのコポリマーであってもよい。あるいは、ポリオレフィンはプロピレンのホモポリマー、又はプロピレンと1つ若しくは複数のαオレフィン(エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、および4−メチル−1−ペンテンなど)とのコポリマーであってもよい。
【0026】
図1を参照すると、ポリマーサンプルは重合反応器から採取される。ポリマーサンプルは、そのようなポリマーサンプルを採取することのできる任意の手段によって採取してもよい。例えば、ポリマーサンプルを採取する手段は、自動装置又は人であってもよい。
【0027】
次いで、特定のポリマー特性を決定するためにポリマーサンプルを分析する。これらのポリマー特性としては、密度、溶融指数、溶融流量(melt flow rate)、分子量、分子量分布、1つ又はすべての原子成分の重量パーセントおよび/又はモルパーセント、各分子グループの平均の重量パーセントおよび/又はモルパーセント、各分子グループの数、各モノマーの数、不飽和の度合い、分子および/又は分子の一部の中の枝分かれの度合い、枝分かれ基における各原子成分の重量パーセント、枝分かれ基における各分子グループの数、各種類の繰り返し単位、モノマー単位、若しくは他のサブユニットの数、および/又は繰り返し単位、モノマー単位、若しくは他のサブユニットの官能基の数および/又はそのパーセンテージ、粘度、ガラス転移温度、融点、溶解度、曇り点、熱容量、界面張力、界面接着、屈折率、応力緩和、剪断、伝導率、透過性、反磁性磁化率、熱伝導率、任意の他の定量化可能なポリマー特性、又はそれらの組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。ポリマー特性は、そのようなポリマー特性の数値を決定することのできる任意の手段によって決定してもよく、例えばそのようなポリマー特性を決定するための手段には、核磁気共鳴、赤外分光法、紫外/可視分光法、蛍光分光法、定量的加水分解、元素分析、クロマトグラフィー、質量分析法、光散乱、浸透圧法、電気泳動技術、定量的重量分析法などの任意の分析法が含まれるが、それらに限定されない。そのような分析法は、自動装置又は人によって行ってもよい。
【0028】
続いて、これらの1つ又は複数の測定したポリマー特性値を、実験室情報管理システム(laboratory information management system 「LIMS」)へ入力するが、このシステムは任意のコンピュータシステムであってもよい。1つ又は複数の測定したポリマー特性値は、自動装置又は人を介してLIMSへ入力してもよい。次いでコンピュータのアプリケーションは、1つ又は複数の測定したポリマー特性が自動承認されるように設定されているか、又はオペレータによって承認されるように設定されているかを確認する。システムはさらに、1つ又は複数の測定したポリマー特性の承認又は棄却に関してオペレータに勧告を提供する。オペレータは1つ又は複数の測定したポリマー特性を承認するか、又はオペレータは許容範囲に入らない1つ又は複数の測定したポリマー特性、すなわち外れ値のみを棄却することができる。循環的再帰法(cyclic recursive fashion)でポリマー特性を見積もるために、1つ又は複数の測定したポリマー特性を用いて特性モデルを計算する。
【0029】
図2を参照すると、次に下記のステップに従って、下記に定義されるような許容範囲の外にある値として画定される外れ値について、1つ又は複数のポリマー特性を分析する。特性値が自動的に承認されるべきか、又はオペレータが承認の決定を行うべきかを決めるために計算を行うことによって、実験室の欠陥検出を実現することができる。最初に、1つ又は複数のポリマー特性測定における不確実さバンド(uncertainty band)を、統計的手法又はポリマー特性モデルのインプットの変化量によって計算する。1つ又は複数のポリマー特性測定における不確実さバンドは例えば、サンプルの標準偏差により、又はポリマー特性モデルおよびインプット変化量の見積もりを用いて計算してもよい。本明細書で用いられる、1つ又は複数の測定したポリマー特性の不確実さバンドとは、許容可能なポリマー特性の範囲を規定する下限値および上限値のことを言う。ポリマー特性測定の標準偏差は、履歴データ又は他の前から存在するデータからオフラインで、並びに最近の履歴からオンラインで決定してもよい。不確実さの見積もりは、モデルおよびインプットの可変的不確実さ、並びに測定したポリマー特性値およびサンプル時間における不確実さを含む。例えば、インプット可変測定に基づき実験室測定を予測するのにモデルを用いてもよい。次いでこのモデルは、インプットパラメータの不確実さ、並びに実験室測定に向けた時間および値の不確実さの見積もりによって増補される。
【0030】
1つ又は複数のポリマー特性測定の変化率は、ポリマー特性モデルによって見積もられる。1つ又は複数のポリマー特性測定の不確実さは、1つ又は複数のポリマー特性測定が得られる時間について見積られる。ポリマー特性測定についての許容バンドは、例えば、増補されたモデルを用いて見積もられる。本明細書で用いられる、ポリマー特性測定についての許容バンドとは、予測モデルに基づき物理的に可能なポリマー特性を規定する下限値および上限値のことを言う。許容範囲を以下にさらに説明する。好ましくは、許容バンドの下限値および上限値は狭い範囲を規定する。サンプルが反応器から取り出された時間において、実際の測定したポリマー特性を、それらの上および下の許容バンド又は許容限度と比較する。測定したポリマー特性と、上および下の許容限界との比較に基づき、測定したポリマー特性を有効にするか、又は無効にする。有効にした、および無効にした、測定したポリマー特性サンプルに、その通りにマークを付け、それらは反応器条件を制御するために用いられることになる。このように信頼性のないポリマー特性測定に、それらの測定に従って対応する前にフラグを付け、適切な反応器制御の決定を行うことを容易にする。上記の実験室の欠陥検出ステップを、必要に応じて繰り返してもよい。1つ又は複数のポリマー特性と上および下の許容限界との比較は、コンピュータなどの自動装置又は人によって行ってもよい。
【0031】
許容範囲は、
【数1】

によって決定することができ、式中、ポリマー特性予測値は対数的である。またあるいは、許容範囲は、好ましくは
【数2】

によって決定され、式中、ポリマー特性予測値は非対数的である。これらの式中、
Lowは実験室値について予期される最低値であり、
Highは実験室値について予期される最高値であり、
fはそのサンプルがサンプルの集団の一部である確率であり、
σは実験室の測定法の標準偏差であり、
はモデル予測の床平均値であり、
は正確なサンプル時間における時間の不確実さの量であり、
dx/dtは時間に対するxの導関数である。
【0032】
dx/dtは、好ましくは、
【数3】

によって決定される。式中、
kは現在の時間を表し、
k−1は1つの計算区間分だけ前の時間を表す。
【0033】
あるいは、許容範囲はxLow=x(1−delta)、およびxHigh=x(1+delta)によって決定することができ、式中、xはモデル予測の床平均値である。
【実施例】
【0034】
下記の実施例は本発明を説明するものであるが、本発明の範囲を限定することを意図しない。本発明の実施例は、信頼性のないポリマー特性測定に、それらの測定が行われる前にフラグが付けられるため、適切な反応器制御の決定が行われることを実証する。さらにこれらの実施例は、誤りのポリマー特性測定値を、それらの値が反応器条件の操作に用いられる前に検出する手段を本発明が提供することを示す。
【実施例1】
【0035】
例1は、信頼性のないポリマー特性測定によって誤った処置がとられる恐れがあることを示す、比較例である。ポリプロピレンの気相重合において、信頼性のないポリマー特性測定にフラグを付けるために本発明を利用した。図3に示すように、記録されたデータは、オペレータが実験室の欠陥検出システムからの警告を無視し、そのため「時間A」におけるサンプルを承認したことを示す。これにより、ポリマー特性コントローラが「不良」の読み取りデータに応答して、水素のプロピレンに対するモル比の設定点を不適切に低下させることになった。この誤った決定の結果は、「時間B」で示される次の実験室サンプルにおいて見ることができ、ここではメルトフローの実験室読み取り値が明らかに低い。
【実施例2】
【0036】
例2は、信頼性のないポリマー特性測定に、それらの測定が行われる前にフラグが付けられるため、適切な反応器制御の決定が行われることを示す、本発明の例である。ポリプロピレンの気相重合において、信頼性のないポリマー特性測定にフラグを付けるために本発明を利用した。図3に示すように、記録されたデータは、オペレータが実験室の欠陥検出システムの勧告に従って「時間C」での実験室サンプルを承認しない正しい決定を行ったため、プロセスの混乱が避けられたことを示す。
【0037】
本発明は、その精神および本質的な性質から逸脱せずに他の形で実施してもよく、したがって前述の明細書よりもむしろ添付の特許請求の範囲を本発明の範囲を示すものとして参照するべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー特性の予測を改善する方法であって、
ポリマーを提供するステップと、
予測モデルを提供するステップと、
前記予測モデルを利用して平均ポリマー特性予測値を画定するステップと、
許容範囲を決定するステップと、
前記ポリマーの1つ又は複数の特性を測定するステップと、
前記1つ又は複数の測定したポリマー特性が前記許容範囲内であるかを決定するステップと、
前記1つ又は複数の測定したポリマー特性が前記許容範囲内に入る場合は、前記1つ又は複数の測定したポリマー特性を有効にし、あるいは前記1つ又は複数の測定したポリマー特性が前記許容範囲に入らない場合は、前記1つ又は複数の測定したポリマー特性を無効にするステップと、
任意選択的に前記予測モデルを更新するステップと、
前記先のステップを少なくとも1回又は複数回繰り返すステップと、
それによりポリマー特性の予測を改善するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記平均ポリマー特性予測値がxである、請求項1に記載のポリマー特性の予測を改善する方法。
【請求項3】
前記許容範囲が、
【数1】

によって決定され、式中、前記ポリマー特性予測値は対数的であり、また式中、
Lowは実験室値について予期される最低値であり、
Highは実験室値について予期される最高値であり、
fはそのサンプルがサンプルの集団の一部である確率であり、
σは実験室の測定法の標準偏差であり、
はモデル予測の床平均値であり、
は正確なサンプル時間における時間の不確実さの量であり、
dx/dtは時間に対するxの導関数である請求項2に記載のポリマー特性の予測を改善する方法。
【請求項4】
前記許容範囲が、
【数2】

によって決定され、式中、前記ポリマー特性予測値は非対数的であり、また式中、
Lowは実験室値について予期される最低値であり、
Highは実験室値について予期される最高値であり、
fはそのサンプルがサンプルの集団の一部である確率であり、
σは実験室の測定法の標準偏差であり、
はモデル予測の床平均値であり、
は正確なサンプル時間における時間の不確実さの量であり、
dx/dtは時間に対するxの導関数である請求項2に記載のポリマー特性の予測を改善する方法。
【請求項5】
前記dx/dtが、
【数3】

によって決定され、式中、
kは現在の時間を表し、
k−1は1つの計算区間分だけ前の時間を表す請求項3又は請求項4に記載のポリマー特性の予測を改善する方法。
【請求項6】
前記許容範囲が、xLow=x(1−delta)、およびxHigh=x(1+delta)によって決定され、式中、xはモデル予測の床平均値である、請求項2に記載のポリマー特性の予測を改善する方法。
【請求項7】
少なくとも1つの重合反応器と、
自動予測モデルと、
1つ又は複数のポリマー特性を測定する手段と、
1つ又は複数の測定した誤りのポリマー特性を検出する手段と、
前記自動予測モデルを更新する手段と
を含む、改善されたポリマー特性予測能を有する重合システム。
【請求項8】
1つ又は複数のポリマー特性を測定する前記手段が自動装置である、請求項7に記載の改善されたポリマー特性予測能を有する重合システム。
【請求項9】
1つ又は複数の測定した誤りのポリマー特性を検出する前記手段が自動装置である、請求項7に記載の改善されたポリマー特性予測能を有する重合システム。
【請求項10】
前記自動予測モデルを更新する前記手段が自動装置である、請求項7に記載の改善されたポリマー特性予測能を有する重合システム。
【請求項11】
前記自動予測モデルがコンピュータモデルである、請求項7に記載の改善されたポリマー特性予測能を有する重合システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−535894(P2010−535894A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−520077(P2010−520077)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際出願番号】PCT/US2008/071027
【国際公開番号】WO2009/020772
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】