説明

ポリマー複合セメント板の製造方法

【課題】軽量かつ高品質なポリマー複合セメント板を安定的に製造することができるポリマー複合セメント板の製造方法を提供する。
【解決手段】スチレンモノマー、水、乳化剤を混合して調製した逆エマルジョンにセメント、補強繊維を加えてこれらを混合して成形材料を調製し、次いでこの成形材料を成形した後に養生硬化させることによってポリマー複合セメント板を製造する方法に関する。逆エマルジョンを調製するにあたって、耐スチレン性を有する有機発泡体と水とをプレミックスした後、これにスチレンモノマーと乳化剤を加えて混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の外装材等として用いられるポリマー複合セメント板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
逆エマルジョン(W/Oエマルジョン)にセメント、補強繊維を加えてこれらを混合して成形材料を調製し、次いでこの成形材料を成形した後に養生硬化させることによって、ポリマー複合セメント板が製造されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このようなポリマー複合セメント板は外装材等として用いられるため、軽量化が要請されているが、このような要請に応えるために、フライアッシュバルーンやパーライト等の無機系軽量骨材が成形材料に添加されて使用されている。
【0004】
ところが、無機系軽量骨材は真比重が0.9〜1.3程度と高いため、軽量化の効果は小さい。そのため十分な軽量化を図るためには、より多くの無機系軽量骨材の添加が必要とされる。また、図2(a)に示すように、無機系軽量骨材6には、球状のものも含まれてはいるが、歪な形状のものが多く含まれているので、成形材料5の流動性が悪くなり、逆エマルジョンが破壊されてしまうという問題がある。なお、図2において、1はスチレンモノマー、2は水、3は乳化剤、4はセメントを示す。
【0005】
上記のように、無機系軽量骨材6にはいくつかの問題があるので、有機系軽量骨材7の使用が考えられる。有機系軽量骨材7は無機系軽量骨材6に比べて真比重が小さいので、軽量化の効果が大きい。また、図2(b)に示すように、有機系軽量骨材7には、球状のものが多く含まれているので、成形材料5の流動性が良くなり、逆エマルジョンの破壊が防止されるものである。
【特許文献1】特開2006−124231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、有機系軽量骨材は凝集しやすいので、単に有機系軽量骨材を他の成分と共に混合しただけでは、成形材料中において水の粗密が生じるなどして、成形材料の乳化安定性が悪化し、その結果、ポリマー複合セメント板の品質の低下を招くという問題が生じる。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、高品質なポリマー複合セメント板を安定的に製造することができるポリマー複合セメント板の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係るポリマー複合セメント板の製造方法は、スチレンモノマー、水、乳化剤を混合して調製した逆エマルジョンにセメント、補強繊維を加えてこれらを混合して成形材料を調製し、次いでこの成形材料を成形した後に養生硬化させることによってポリマー複合セメント板を製造する方法であって、逆エマルジョンを調製するにあたって、耐スチレン性を有する有機発泡体と水とをプレミックスした後、これにスチレンモノマーと乳化剤を加えて混合することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1において、耐スチレン性を有する有機発泡体としてアクリロニトリルを用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1に係るポリマー複合セメント板の製造方法によれば、耐スチレン性を有する有機発泡体と水とをあらかじめ混合しておくことによって、成形材料の乳化安定性を高めることができ、軽量かつ高品質なポリマー複合セメント板を安定的に製造することができるものである。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、他の有機発泡体を用いる場合に比べて、成形材料の乳化安定性をさらに高めることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
本発明においてポリマー複合セメント板は次のような工程を経て製造される。
【0014】
まず、スチレンモノマー、水、乳化剤を混合することによって逆エマルジョンを調製するものであるが、本発明においては、この逆エマルジョンを調製するにあたって、耐スチレン性を有する有機発泡体と水とをプレミックスした後、これにスチレンモノマーと乳化剤を加えて混合し、逆乳化させている。
【0015】
ここで、乳化剤としては、例えば、ヤシ油系乳化剤、オレイン酸系乳化剤、ソルビタンセスキオレート、グリセロールモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ジエチレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセロールモノオレート等の非イオン性界面活性剤、各種アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等を用いることができる。
【0016】
また、耐スチレン性を有する有機発泡体としては、例えば、塩化ビニリデンとアクリロニトリルの共重合体等を用いることができるが、特にアクリロニトリルを用いるのが好ましい。アクリロニトリルを用いると、他の有機発泡体を用いる場合に比べて、成形材料の乳化安定性をさらに高めることができるものである。
【0017】
また、成形材料の固形分全量に対して、耐スチレン性を有する有機発泡体の含有量は0.1〜2.0重量%、スチレンモノマーの含有量は4.0〜6.0重量%、水の含有量は30.0〜60.0重量%、乳化剤の含有量は1.0〜3.0重量%に設定することができる。
【0018】
本発明においては、耐スチレン性を有する有機発泡体、スチレンモノマー、水、乳化剤を同時に混合するのではなく、耐スチレン性を有する有機発泡体と水とをあらかじめ混合することによって、この有機発泡体を水中において凝集させることなく、均一に分散させることができるものである。そしてこのように有機発泡体が均一に分散した水中にスチレンモノマーと乳化剤を加えて混合すると、乳化安定性を向上させることができるものである。なお、耐スチレン性を有する有機発泡体と水とをプレミックスした後、これらの攪拌を停止すると、有機発泡体が浮いてしまって水と分離するおそれがあるので、攪拌を続けた状態で、スチレンモノマーと乳化剤を加えるのが好ましい。
【0019】
次に、上記のようにして調製した逆エマルジョンにセメント、補強繊維を加えてこれらをアイリッヒミキサー等で混合することによって成形材料を調製する。
【0020】
ここで、セメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメント、ハイアルミナセメント、スラグセメント、早強セメント、シリカヒューム等を用いることができる。
【0021】
また、補強繊維としては、例えば、ポリプロピレン繊維(PP繊維)、アクリル繊維、ビニロン繊維等を用いることができる。
【0022】
また、成形材料には添加剤として、重合開始剤(t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)、架橋剤(トリメチロールプロパントリメタクリレート)、フライアッシュ、シリカヒューム、製品粉砕粉等を添加することができる。
【0023】
また、成形材料の固形分全量に対して、補強繊維の含有量は0.5〜3.0重量%に設定することができる。
【0024】
そして、上記のようにして調製した成形材料を押出成形機等で成形した後に、蒸気養生等で養生硬化させることによって、ポリマー複合セメント板を製造することができる。このように、本発明においては、逆エマルジョンを調製するにあたって、耐スチレン性を有する有機発泡体と水とをあらかじめ混合しておくことによって、成形材料の乳化安定性を高めることができ、その結果、軽量かつ高品質なポリマー複合セメント板を安定的に製造することができるものである。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0026】
(実施例1)
まず、下記[表1]に示す配合量で、軽量骨材と水とをプレミックスした後、これらの攪拌を続けた状態で、これにスチレンモノマーと乳化剤を加えて混合することによって逆エマルジョンを調製した。軽量骨材としては、耐スチレン性を有する有機発泡体であるアクリロニトリルを用い、乳化剤としては、オレイン酸系乳化剤を用いた。
【0027】
次に、上記のようにして調製した逆エマルジョンに、下記[表1]に示す配合量で、セメント、補強繊維、添加剤を加えてこれらを10Lのアイリッヒミキサーで2分間混合することによって成形材料を調製した。セメントとしては、普通ポルトランドセメントを用い、補強繊維としては、ポリプロピレン繊維(PP繊維)を用い、添加剤としては、重合開始剤(t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)、架橋剤(トリメチロールプロパントリメタクリレート)を用いた。成形材料の固形分重量は5kgであった。
【0028】
ここで、図1に示すようなプランジャー試験機を用いてこの成形材料のプランジャー値を測定した。その結果を下記[表2]に示す。なお、プランジャー値とは、成形材料5の流動性の指標となるものであり、図1に示すように、内径16mmのシリンダー8と、シリンダー8内を摺動するプランジャー9と、シリンダー8の先端に設けられる内径3mmのノズル10とを備えて形成される容量2.6×10mmのプランジャー試験機を用いる場合において、シリンダー8内に充填された成形材料5がノズル10から出始めるときにプランジャー9に加えられている圧力をいう。
【0029】
また、成形材料を手で10回握って離水し始める時間を測定することによって、成形材料の乳化安定性を評価した。その結果を下記[表2]に示す。
【0030】
次いで、上記のようにして調製した成形材料を押出成形機で成形した後に、蒸気養生で養生硬化させ、乾燥させて水分を飛ばすことによってポリマー複合セメント板を製造した。
【0031】
そして、このようにして製造したポリマー複合セメント板の比重(水中重量法、105℃乾燥ベース)及び曲げ強度(スパン100mm、試験速度2mm/min)を測定した。その結果を下記[表2]に示す。
【0032】
(比較例1)
まず、下記[表1]に示す配合量で、スチレンモノマー、水、乳化剤を混合することによって逆エマルジョンを調製した。乳化剤としては、オレイン酸系乳化剤を用いた。
【0033】
次に、上記のようにして調製した逆エマルジョンに、下記[表1]に示す配合量で、セメント、補強繊維、軽量骨材、添加剤を加えてこれらを10Lのアイリッヒミキサーで2分間混合することによって成形材料を調製した。セメントとしては、普通ポルトランドセメントを用い、補強繊維としては、ポリプロピレン繊維(PP繊維)を用い、軽量骨材としては、無機系軽量骨材であるフライアッシュバルーンを用い、添加剤としては、重合開始剤(t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)、架橋剤(トリメチロールプロパントリメタクリレート)を用いた。成形材料の固形分重量は5kgであった。
【0034】
ここで、図1に示すようなプランジャー試験機を用いてこの成形材料のプランジャー値を測定した。その結果を下記[表2]に示す。
【0035】
また、成形材料を手で10回握って離水し始める時間を測定することによって、成形材料の乳化安定性を評価した。その結果を下記[表2]に示す。
【0036】
次いで、上記のようにして調製した成形材料を押出成形機で成形した後に、蒸気養生で養生硬化させ、乾燥させて水分を飛ばすことによってポリマー複合セメント板を製造した。
【0037】
そして、このようにして製造したポリマー複合セメント板の比重(水中重量法、105℃乾燥ベース)及び曲げ強度(スパン100mm、試験速度2mm/min)を測定した。その結果を下記[表2]に示す。
【0038】
(比較例2)
まず、下記[表1]に示す配合量で、スチレンモノマー、水、乳化剤を混合することによって逆エマルジョンを調製した。乳化剤としては、オレイン酸系乳化剤を用いた。
【0039】
次に、上記のようにして調製した逆エマルジョンに、下記[表1]に示す配合量で、セメント、補強繊維、軽量骨材、添加剤を加えてこれらを10Lのアイリッヒミキサーで2分間混合することによって成形材料を調製した。セメントとしては、普通ポルトランドセメントを用い、補強繊維としては、ポリプロピレン繊維(PP繊維)を用い、軽量骨材としては、耐スチレン性を有する有機発泡体であるアクリロニトリルを用い、添加剤としては、重合開始剤(t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)、架橋剤(トリメチロールプロパントリメタクリレート)を用いた。成形材料の固形分重量は5kgであった。
【0040】
ここで、図1に示すようなプランジャー試験機を用いてこの成形材料のプランジャー値を測定した。その結果を下記[表2]に示す。
【0041】
また、成形材料を手で10回握って離水し始める時間を測定することによって、成形材料の乳化安定性を評価した。その結果を下記[表2]に示す。
【0042】
次いで、上記のようにして調製した成形材料を押出成形機で成形した後に、蒸気養生で養生硬化させ、乾燥させて水分を飛ばすことによってポリマー複合セメント板を製造した。
【0043】
そして、このようにして製造したポリマー複合セメント板の比重(水中重量法、105℃乾燥ベース)及び曲げ強度(スパン100mm、試験速度2mm/min)を測定した。その結果を下記[表2]に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
上記[表2]にみられるように、耐スチレン性を有する有機発泡体を用いた実施例1については、無機系軽量骨材を用いた比較例1に比べて重量比2.5%(1/40)の添加量で同等の比重が得られることが確認される。
【0047】
成形材料の流動性については、有機発泡体と水とをプレミックスした後に逆乳化させた実施例1のプランジャー値が最も低く、比較例1に比べて約2割程度低い。また、逆乳化させた後に有機発泡体を加えるようにした比較例2のプランジャー値は比較例1に比べてわずかに低いが、ほとんど変わらない。このように、実施例1の成形材料は比較例1、2に比べて流動性に優れていることが確認される。
【0048】
成形材料の乳化安定性については、実施例1が最も優れていることが確認され、比較例1に比べて時間的に約1.5倍である。また、比較例2は最も悪く、比較例1に比べて時間的に約2割低下している。これは、比較例2の成形材料の流動性が比較例1と変わらない上に、逆乳化の後に加えた有機発泡体が逆エマルジョンの安定化を阻害しているためであると考えられる。
【0049】
実施例1と比較例1の曲げ強度はほぼ同じであるが、これに比べて比較例2の曲げ強度は0.6MPa程度低くなっている。これは、逆乳化の後に加えた有機発泡体が凝集して部分的に欠陥が生じているためであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】プランジャー試験機の一例を示す断面図である。
【図2】従来の技術の一例を示すものであり、(a)は無機系軽量骨材を添加した成形材料の様子を模式的に示す説明図、(b)は有機系軽量骨材を添加した成形材料の様子を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0051】
1 スチレンモノマー
2 水
3 乳化剤
4 セメント
5 成形材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンモノマー、水、乳化剤を混合して調製した逆エマルジョンにセメント、補強繊維を加えてこれらを混合して成形材料を調製し、次いでこの成形材料を成形した後に養生硬化させることによってポリマー複合セメント板を製造する方法であって、逆エマルジョンを調製するにあたって、耐スチレン性を有する有機発泡体と水とをプレミックスした後、これにスチレンモノマーと乳化剤を加えて混合することを特徴とするポリマー複合セメント板の製造方法。
【請求項2】
耐スチレン性を有する有機発泡体としてアクリロニトリルを用いることを特徴とする請求項1に記載のポリマー複合セメント板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−137840(P2008−137840A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324967(P2006−324967)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(503367376)クボタ松下電工外装株式会社 (467)
【Fターム(参考)】