説明

ポリマー電解質、電気化学的測定用の半電池、およびこれらの使用

電気化学半電池用の、特に基準半電池用のポリマー電解質は、N-アクリロイル-アミノ-エトキシ-エタノールの重合によって、あるいはN-アクリロイル-アミノ-エトキシ-エタノールと少なくとも1種のさらなるモノマー成分との共重合によって得られるポリマーを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の一般的な部分にしたがったポリマー電解質、請求項9の一般的な部分にしたがった半電池、および前記の半電池とポリマー電解質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
最新の技術によれば、電気化学的測定用の(たとえば、電位差測定や電流測定用の)多くのタイプの半電池が知られている。こうした半電池は、特に、電位差センサーや電流センサーと組み合わせて使用される基準電極として作り上げることができる。できるだけ一定の基準電位を示すというのが、このような基準電極の本質的な特性である。
【0003】
基準電極の1つの種類においては、液体基準電解質(たとえば、塩化カリウムの水溶液)がハウジングの内部に収容され、この液体基準電解質を、液体コネクション(a liquid connection)〔“液体ジャンクション(liquid junction)”とも呼ばれる〕によって液状測定媒体と接触させることができる。測定媒体と基準電解質との間に望ましくない物質交換が起こるのを防止するか又は少なくするために、一般は液体コネクションが、程度の差はあるが多孔質のダイヤフラムとして作り上げられる。しかしながら、この種の液体コネクションは、細孔が汚染されたり、さらにはふさがれたりするという欠点を有し、このため電位に相当な誤差をきたし、場合によっては測定の中断を余儀なくされることがある。
【0004】
他のタイプの基準電極は、ダイヤフラムの代わりに単一の開口または複数の開口を有しており、これによって前記の汚染という問題の大部分を避けることができる。しかしながら、基準電解質が流出するのを防止するためには、この構成物は、一般には基準電解質を形成する液体もしくはゲルを使用する代わりに、液体流れを起こすことのできない基準電解質を使用する必要がある。この目的に対して特に適しているのは、たとえば塩化カリウムの飽和水溶液を含んだヒドロゲルの形態で存在するポリマー電解質(追加の塩化カリウムを懸濁状態にて含有するのが好ましい)である。
【0005】
N-置換アクリルアミドおよび/またはメタクリレートから選択されるモノマーをベースとしたポリマーを含有するポリマー電解質を含んだ、同じ一般的なタイプによる基準電極がEP1124132A1に記載されている。N-置換アクリルアミドは、たとえば、N,N-ジメチル-アクリルアミド、N-トリス(ヒドロキシルメチル)-N-メチル-アクリルアミド、N-ヒドロキシル-メチル-アクリルアミド、N-ヒドロキシル-エチル-アクリルアミド、N-グリセリン-アクリルアミド、およびこれらの組み合わせ物から選択される。先行技術によるこの電極において使用されるモノマーは、これらのモノマーから製造されるポリマー電解質では、酸や塩基に対する安定性が満足できないレベルである、加水分解に対する安定性が低い、および極性が低い、という欠点を有する。
【発明の開示】
【0006】
本発明の目的は、特に電気化学半電池(とりわけ基準半電池)に適したさらなるポリマー電解質を提供することにある。先行技術の電解質と比較すると、本発明による電解質は特に、より高い極性および加水分解に対する改良された安定性を有する。本発明の他の目的は、改良された半電池を提供すること、およびこうした半電池とポリマー電解質に対する使用法を示すことにある。
【0007】
前述の問題点は、請求項1に記載のポリマー電解質、請求項9に記載の半電池、および請求項11と12に記載の使用法によって解消される。
本発明のポリマー電解質は、N-アクリロイル-アミノ-エトキシ-エタノールの重合によって、あるいはN-アクリロイル-アミノ-エトキシ-エタノールと少なくとも1種のさらなるモノマー成分との共重合によって得られるポリマーを含有する。本発明のポリマー電解質は、酸と塩基に対する抵抗性と安定性のレベルが良好であることを特徴とする。本発明のポリマー電解質はさらに、水および有機溶媒に対して高いレベルの安定性を有する。
【0008】
本発明の半電池(電位差センサーまたは電流センサーにおける構成部品として使用することができる)は、本発明によるポリマー電解質の1種を含有する。本発明のポリマー電解質はさらに、バッテリー半電池(a battery half-cell)における固体電解質として使用することもできる。
【0009】
本発明の好ましい実施態様は従属クレームにおいて規定されている。
請求項2によれば、本発明のポリマーはヒドロキシル-アルキル-メタクリレートを含有してよく、ヒドロキシル-アルキル-メタクリレートは、2-ヒドロキシル-エチル-メタクリレートおよび/または3-ヒドロキシル-プロピル-メタクリレートであるのが好ましい。このさらなるモノマー成分を加えることで、ポリマー電解質の極性に対して有利な態様で影響を及ぼすことができ、このときさらなるモノマー成分の個々の量と最初のモノマー成分の量との比を選択することによって、極性を広範囲にわたって調節することができる。
【0010】
請求項3の実施態様は、ガラスハウジングを含んだ半電池と組み合わせると特に有利である。ポリマーがシリル化アルキル-メタクリレート〔好ましくは3-(トリ-メトキシ-シリル)-プロピル-メタクリレート〕を含有すると、ガラスハウジングに対するポリマー電解質のある程度の接着が達成され、これによって、より長寿命の半電池、および特により良好な耐圧性と耐ウォッシュアウト性(wash-out resistance)が得られる。
【0011】
請求項4〜8は、ポリマー電解質のさらなる実施態様を規定している。したがって請求項4によれば、ポリマー電解質は、塩または塩混合物の高濃度水溶液(極性測定媒体において使用するのが好ましい)をさらに含有することができる。これとは対照的に、請求項5のポリマー電解質は、有機溶媒と塩の高濃度水溶液との混合物を含有しており、これにより、この電解質は、主として、極性の低い測定媒体での使用に適したものとなっている。請求項6によれば、有機溶媒は、グリセリン、エチレングリコール、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、アセトン、およびこれらの混合物からなる群から選択される。請求項7に明記されているように、追加量の塩が懸濁状態で存在する場合は特に有利である。塩の含量を増やすと、測定媒体との接触によって塩がウォッシュアウトされるまでに、より長い実用寿命が達成される。他方、ウォッシュアウトによる塩の不足の進行は、ウォッシュアウトの目視観察によって、および塩の懸濁液によって濁っているポリマー電解質の区域と塩の懸濁液が存在しないことから比較的透明である区域との間に境界を形成する不足フロント(deficiency front)の目視観察によって直接的に調べることができる。請求項8に明記されているように、この文脈において述べている塩は、たとえば、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、硝酸カリウム、過塩素酸カリウム、ギ酸ナトリウム、酢酸リチウム、硫酸リチウム、塩化アンモニウム、塩化メチルアンモニウム、塩化ジメチルアンモニウム、塩化トリメチルアンモニウム、およびこれらの混合物からなる群から選択される。しかしながら塩は、たとえばさらに他のイオン性有機ハロゲン化物であってもよい。塩はさらに、酸化還元系を形成してよい。
【0012】
請求項10において規定されている半電池は、ポリマー電解質と周囲の媒体(通常は、測定媒体もしくは液体サンプル)との間に開放状態の液体コネクションを含む。こうした配置構成は、ポリマー電解質が実質的に固体形態にて存在し、したがって開放状態の液体コネクションを介して漏れ出ることがないので可能である。ダイヤフラムを除くことにより、液体コネクションの区域における望ましくない妨害可能性をほとんど避けることができる。
【0013】
本発明を実施する方法
図面に示されている基準電極は、ガラスもしくはポリマー材料で造られた管状ハウジング2を有し、ハウジング2の下端4が測定媒体6中に浸漬されている。ハウジング2の内部スペースにはポリマー電解質8が充填され、この電解質中に導体エレメント10が浸漬されている。導体エレメント10は、たとえば塩素化された銀線(a chlorinated silver wire)で作製されており、この銀線が、ハウジング2の上部エンクロージャ部分12を介して外部に配線されている。下端4の近くの開口14は、ポリマー電解質8と測定媒体6との液体コネクションとして作用する。
【0014】
ポリマー電解質8は、先ず、必要とされる反応物(具体的には適切なモノマー成分)を内部スペースに導入し、引き続き重合を行うことによって作製するのが有利である。重合反応において固化が起こり、したがって得られるポリマー電解質8が開口14から漏れ出ることはない。
【0015】
図面に示されている基準電極のほかに、さらなる実施態様が可能である。特に、基準電極を、それ自体公知の方法にて測定用電極(たとえばpH電極)と組み合わせて、単一ロッドの測定チェイン(a single rod measuring chain)を形成させることができる。しかしながら他のタイプの電気化学半電池にも、たとえば電流を測定するためにポリマー電解質を装備することができる。本発明のポリマー電解質はさらに、バッテリー半電池における固体電解質として使用することもできる。
【0016】
N-アクリロイル-アミノ-エトキシ-エタノール〔N-(2-ヒドロキシ-エトキシ)-エチル-アクリルアミドとしても知られている〕を製造する方法は、たとえばEP0615525B1に記載されている。
【実施例】
【0017】
下記の実施例にしたがって製造されるポリマー基準半電池システム(polymer reference systems)は、従来の液状Ag/AgCl基準半電池と比較して極めて安定した電位を示す。電位のごくわずかな差は、塩化物イオンの活動度のわずかな違いによるものである。これらの有利な特性によって、ここに記載の本発明のシステムは、たとえば、電位差測定チェイン(potentiometric measuring chains)における基準半電池として極めて適している。
【0018】
本発明による好ましい種類のポリマー電解質を得るために、モノマー溶液と下記の表にしたがった組成物とを混合し、冷却しながら15〜20℃で均一にした。このようにして得られた混合物を、管状のガラスハウジングを有する電極中に充填した。充填した電極を引き続き熱処理することで重合を起こさせ、これによってポリマー電解質を形成させた。
【0019】
従来のスリーブジャンクション基準半電池(sleeve junction references)にて測定した電気化学的電圧(electrochemical voltages)は、いずれの場合においても4mVより小さく、このことは、本発明のポリマー電解質の適合性が優れていることを示している。本発明のポリマー電解質のさらなる特性が下記に要約されている。
【0020】
【表1】

【0021】
実施例1によるポリマー電解質は、水中において膨張する傾向のある、かなり堅めの濁ったゲルである。
【0022】
実施例2によるポリマー電解質は、実施例1と比較してより脆く、同様に水中において膨潤する傾向を有する透明なゲルである。
実施例3によるポリマー電解質は、実施例1および2と比較してより低い極性を有し、したがって水中において膨潤する傾向がより小さい、かなり堅めの濁ったゲルである。
【0023】
実施例4によるポリマー電解質は、同様により低い極性を有する。
参照番号のリスト
2 ハウジング
4 2の下端
6 測定媒体
8 ポリマー電解質
10 導体エレメント
12 2の上部クロージャ部分
14 2の開口
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】電気化学的測定用の基準電極を長さ方向の断面図にて概略的に示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学半電池用の、特に基準半電池用の、ポリマーを含有するポリマー電解質であって、N-アクリロイルアミノエトキシエタノールの重合によって、またはN-アクリロイルアミノエトキシエタノールと少なくとも1種のさらなるモノマー成分との共重合によってポリマーが得られることを特徴とする前記ポリマー電解質。
【請求項2】
ポリマーがヒドロキシル-アルキル-メタクリレートをさらなるモノマー成分として含有することを特徴とし、好ましくは2-ヒドロキシル-エチル-メタクリレートおよび/または3-ヒドロキシル-プロピル-メタクリレートである、請求項1に記載のポリマー電解質。
【請求項3】
ポリマーがシリル化アルキル-メタクリレートをさらなるモノマー成分として含有することを特徴とし、好ましくは3-(トリ-メトキシ-シリル)-プロピル-メタクリレートである、請求項1または2に記載のポリマー電解質。
【請求項4】
ポリマー電解質が塩または塩混合物の高濃度水溶液をさらに含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項5】
ポリマー電解質が有機溶媒と塩の水溶液との混合物をさらに含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項6】
有機溶媒が、グリセリン、エチレングリコール、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、アセトン、およびこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載のポリマー電解質。
【請求項7】
さらに、塩が懸濁状態にて存在することを特徴とする、請求項4〜6のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項8】
塩が、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、硝酸カリウム、過塩素酸カリウム、ギ酸ナトリウム、酢酸リチウム、硫酸リチウム、塩化アンモニウム、塩化メチルアンモニウム、塩化ジメチルアンモニウム、塩化トリメチルアンモニウム、およびこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項4〜7のいずれか一項に記載のポリマー電解質。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のポリマー電解質を含有することを特徴とする、電気化学的測定用の半電池。
【請求項10】
ポリマー電解質と周囲の媒体との間に開放状態の液体コネクションが設けられることを特徴とする、請求項9に記載の半電池。
【請求項11】
請求項9または10に記載の半電池の、電位差センサーまたは電流センサーにおける構成部品としての使用。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のポリマー電解質の、バッテリー半電池における固体電解質としての使用。

【図1】
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【公表番号】特表2007−524090(P2007−524090A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−550179(P2006−550179)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【国際出願番号】PCT/EP2005/050293
【国際公開番号】WO2005/073704
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(599082218)メトラー−トレド アクチェンゲゼルシャフト (130)
【住所又は居所原語表記】Im Langacher, 8606 Greifensee, Switzerland
【Fターム(参考)】