説明

ポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法

【課題】低コストで製造でき、かつステレオコンプレックス結晶の含有率が増大しうるポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】末端にアントラセニル基を有するポリ−L−乳酸と末端にマレイミド基を有するポリ−D−乳酸とを、ディールス・アルダー反応させる工程を含む、ポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法、および末端にアントラセニル基を有するポリ−D−乳酸と末端にマレイミド基を有するポリ−L−乳酸とを、ディールス・アルダー反応させる工程を含む、ポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油由来のプラスチックの多くは軽く強靭であり耐久性に優れ、容易かつ任意に成形することが可能であるので、量産されて我々の生活を多岐にわたって支えてきた。しかし、これらのプラスチックは、環境中に廃棄された場合、容易に分解されずに蓄積する。また、焼却の際には大量の二酸化炭素を放出し、地球温暖化に拍車を掛けている。
【0003】
かかる現状に鑑み、脱石油原料からなる樹脂、または微生物によって分解される生分解性プラスチックが盛んに研究されるようになってきた。現在検討されているほとんどの生分解性プラスチックは、脂肪族カルボン酸エステル単位を有し、微生物により分解され易い。その反面、熱安定性に乏しく、溶融紡糸、射出成形、溶融製膜などの高温に晒される成形工程における分子量低下や色相悪化が深刻である。
【0004】
その中でもポリ乳酸は、耐熱性に優れ、色相、機械強度のバランスが取れたプラスチックである。ポリ−L−乳酸(以下、単にPLLAとも称する)またはポリ−D−乳酸(以下、単にPDLAとも称する)のホモポリマー(以下、単にhomoPLAまたはホモPLAとも称する)の製造方法としては、ラクチドを原料とした開環重合法や乳酸の脱水縮合による直接重合法が知られている。一般的に、前記ポリ−L−乳酸および前記ポリ−D−乳酸の融点は、170℃付近とされている。そのため、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに代表される石油化学系ポリエステルと比較すると耐熱性が低く、例えば、製造したポリ−L−乳酸を繊維等として使用する場合、製品にアイロンが掛けられないといった課題を抱えている。そのため、より高い耐熱性が必要とされているのが現状である。
【0005】
このような現状を打開すべく、ポリ乳酸の耐熱性向上について検討がなされてきた。そのひとつに、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを混合して形成してなるステレオコンプレックスポリ乳酸(以下、単にscPLAとも称する)が挙げられる。
【0006】
しかしながら、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを1:1の質量比で混合する場合、ステレオコンプレックス結晶のみが常に現れるわけではなく、特に、高分子量領域では同時にホモPLA結晶が現れることも多い。また、加熱溶融処理によって、安定的にステレオコンプレックス結晶の含有率が100%であるscPLAを形成することは困難であり、このようにホモPLAが存在することで、高融点を有するscPLAの特徴が十分にいかされない問題があった。そこで、ホモPLAが混在せず、安定してscPLAの含有率が100%である製品を作ることが強く求められている。
【0007】
そこで、前記ポリ−L−乳酸と前記ポリ−D−乳酸との混合によるscPLAの製造方法とは別に、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを等量混合し、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを反応させ共有結合させる、ポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。これにより、ポリ乳酸ブロック共重合体の分子間の、L−乳酸単位の連鎖とD−乳酸単位の連鎖との間で、優先的にscPLAが生成し、示差走査熱量測定(DSC)のチャート上にホモPLAのピークは確認されないというものである。すなわち、ホモPLAが混在せず、安定してscPLAの含有率が100%である製品を作ることができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−356543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、現在、D成分の原料であるD−ラクチドまたはD−乳酸は、供給源が限られているうえに流通量が少なく、L成分の原料であるL−ラクチドまたはL−乳酸と比較して市場価格が高い。よって、従来の技術に従って、D成分とL成分とを等量混合した場合、D成分とL成分との質量比が1:1であるステレオコンプレックスポリ乳酸の製造コストも必然的に高くなる。
【0010】
また、上記の特許文献1には、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸からなるマルチブロックコポリマーの製造方法が開示されており、前記マルチブロックコポリマーはステレオコンプレックス結晶のみを含むステレオコンプレックスポリ乳酸であるとされている。しかしながら、前記マルチブロックコポリマーのブロック数を増やす度に再沈殿を実施しなくてはならず、工業生産には不向きであるという問題がある。
【0011】
さらに、上記の特許文献1に記載の技術では、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とのブレンド比率が、30/70〜70/30(質量比)の範囲を外れると、立体特異的な結合であるステレオコンプレックスの形成を阻害し、得られるポリ乳酸系重合体の結晶融解開始温度を180℃以上とすることが困難であり、幅広い成形温度の範囲に対応できないという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、低コストで製造でき、かつステレオコンプレックス結晶の含有率が増大しうるポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の従来技術に鑑み、鋭意検討を積み重ねた。その結果、末端にアントラセニル基を有するポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸と、末端にマレイミド基を有するポリ−D−乳酸とまたはポリ−L−乳酸とを、それぞれディールス・アルダー反応させる工程を含むポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法により上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、末端にアントラセニル基を有するポリ−L−乳酸と末端にマレイミド基を有するポリ−D−乳酸とを、ディールス・アルダー反応させる工程を含む、ポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法である。
【0015】
また、本発明は、末端にアントラセニル基を有するポリ−D−乳酸と末端にマレイミド基を有するポリ−L−乳酸とを、ディールス・アルダー反応させる工程を含む、ポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、ポリ−L−乳酸ブロックとポリ−D−乳酸ブロックとの組成(質量比)が偏っていても、ステレオコンプレックス結晶の含有率が高いポリ乳酸ブロック共重合体が得られうる。そのため、製造段階でポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸との製造コストの差および/または価格差がある場合に、安価なほうをより多く用いることにより、従来のステレオコンプレックスポリ乳酸と同等の特性を有し、低コストで、かつ高機能および高付加価値を有する製品を製造し提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】製造例1で得られたA−PLLAのH−NMRチャートである。
【図2】製造例2で得られたM−PDLAのH−NMRチャートである。
【図3】実施例1で得られたPLLA−b−PDLAのH−NMRチャートである。
【図4】実施例1で得られたPLLA−b−PDLAのDSCチャートであり、aは、下記表3に示す第1の加熱を受けた後のDSCチャートであり、bは、下記表3に示す第2の加熱を受けた後のDSCチャートである。
【図5】(a)製造例1で得られたA−PLLA、(b)製造例2で得られたM−PDLA、および(c)実施例1で得られたPLLA−b−PDLAのX線広角散乱チャートである。
【図6】(a)A−PLLAとM−PDLAとの粉末混合物、(b)A−PDLAとM−PLLAとの粉末混合物、(c)末端変性されていないPDLA、および(d)末端変性されていないPLLAについて、下記表3に示すDSCの第2の加熱を行った際に得られたDSCチャートである。
【図7】(a)実施例1で得られたPLLA−b−PDLAと、(b)実施例2で得られたPDLA−b−PLLAとについて、下記表3に示すDSCの第2の加熱を行った際に得られたDSCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、末端にアントラセニル基を有するポリ−L−乳酸と末端にマレイミド基を有するポリ−D−乳酸とを、ディールス・アルダー反応させる工程を含む、ポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法である。また、本発明は、末端にアントラセニル基を有するポリ−D−乳酸と末端にマレイミド基を有するポリ−L−乳酸とを、ディールス・アルダー反応させる工程を含む、ポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法である。
【0019】
以下、本発明のポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法を詳細に説明する。
【0020】
(末端にアントラセニル基を有するポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸)
ディールス・アルダー反応の原料となる、末端にアントラセニル基を有するポリ−L−乳酸(本明細書では、単にA−PLLAとも称する)、または末端にアントラセニル基を有するポリ−D−乳酸(本明細書では、単にA−PDLAとも称する)は、以下のような構成を有する。
【0021】
A−PLLAまたはA−PDLAは、下記化学式(1)で表されるL−乳酸単位またはD−乳酸単位から実質的に構成される。
【0022】
【化1】

【0023】
A−PLLAは、アントラセニル基を除いたA−PLLA中のすべての構成単位を100モル%として、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは92〜100モル%、さらに好ましくは95〜100モル%のL−乳酸単位から構成される。前記アントラセニル基を除いたA−PLLA中のL−乳酸単位が90モル%未満であると、最終的に得られるポリ乳酸ブロック共重合体の融点が高くなりにくい場合がある。
【0024】
前記A−PLLAは、L−乳酸単位以外の構成単位を含んでいてもよい。L−乳酸単位以外の構成単位の含有量は、アントラセニル基を除いたA−PLLA中のすべての構成単位を100モル%として、好ましくは10〜0モル%、より好ましくは8〜0モル%、さらに好ましくは5〜0モル%である。アントラセニル基を除いたA−PLLA中に含まれうるL−乳酸単位以外の構成単位の例としては、D−乳酸単位、乳酸以外の化合物由来の構成単位などが挙げられる。
【0025】
A−PDLAは、アントラセニル基を除いたA−PDLA中のすべての構成単位を100モル%として、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは92〜100モル%、さらに好ましくは95〜100モル%のD−乳酸単位から構成される。前記アントラセニル基を除いたA−PDLA中のD−乳酸単位が90モル%未満であると、最終的に得られるポリ乳酸ブロック共重合体の融点が高くなりにくい場合がある。
【0026】
前記A−PDLAは、D−乳酸単位以外の構成単位を含んでいてもよい。D−乳酸単位以外の構成単位の含有量は、アントラセニル基を除いたA−PDLA中のすべての構成単位を100モル%として、好ましくは10〜0モル%、より好ましくは8〜0モル%、さらに好ましくは5〜0モル%である。アントラセニル基を除いたA−PDLA中に含まれうるD−乳酸単位以外の構成単位の例としては、L−乳酸単位、乳酸以外の化合物由来の構成単位などが挙げられる。
【0027】
アントラセニル基を除いたA−PLLA中またはアントラセニル基を除いたA−PDLA中に含まれうる乳酸以外の化合物由来の構成単位の例としては、例えば、ジカルボン酸由来の単位、多価アルコール由来の単位、ヒドロキシカルボン酸由来の単位、もしくはラクトン由来の単位、またはこれらの構成単位から得られるポリエステル由来の単位、ポリエーテル由来の単位、もしくはポリカーボネート由来の単位などが好ましく挙げられる。ただし、これらに制限されるものではない。
【0028】
前記ジカルボン酸の例としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、またはイソフタル酸などが好ましく挙げられる。前記多価アルコールの例としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、もしくはポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール、またはビスフェノールにエチレンオキシドを付加させた芳香族多価アルコールなどが好ましく挙げられる。前記ヒドロキシカルボン酸の例として、例えば、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸などが好ましく挙げられる。前記ラクトンの例としては、例えば、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、またはδ−バレロラクトンなどが好ましく挙げられる。
【0029】
より高い融点を有する重合体を得るという観点から、前記A−PLLA中のL−乳酸単位とD−乳酸単位との質量比は、L−乳酸単位/D−乳酸単位=95/5〜100/0の範囲であることが好ましい。また、前記A−PDLA中のD−乳酸単位とL−乳酸単位との質量比は、D−乳酸単位/L−乳酸単位=95/5〜100/0の範囲であることが好ましい。
【0030】
A−PLLAまたはA−PDLAを製造する方法は特に制限されないが、例えば、重合開始剤としてアントラセン化合物を用いてL−乳酸またはD−乳酸を脱水縮合する方法、重合開始剤としてアントラセン化合物を用いてL−ラクチドまたはD−ラクチドを開環重合する方法などが挙げられる。重合開始剤としてアントラセン化合物を用い、L−ラクチドを開環重合するか、またはL−乳酸を脱水縮合すればA−PLLAが得られる。重合開始剤としてアントラセン化合物を用い、D−ラクチドを開環重合するか、またはD−乳酸を脱水縮合すればA−PDLAが得られる。
【0031】
なかでも、高分子量体を得やすく、分子量の制御も容易であることから、重合開始剤としてアントラセン化合物を用いてL−ラクチドまたはD−ラクチドを開環重合する方法が好ましい。以下、重合開始剤としてアントラセン化合物を用いてL−ラクチドまたはD−ラクチドを開環重合する方法について、さらに詳細に述べる。
【0032】
該開環重合は、例えば、下記反応式(1)で表される。下記反応式(1)は、アントラセン化合物として2−(ヒドロキシメチル)アントラセンを用いたL−ラクチドの開環重合により、A−PLLAが合成される例である。重合触媒は、オクチル酸スズ(Sn(Oct))を使用している。
【0033】
【化2】

【0034】
前記反応式(1)中、nは、繰り返し単位の数を表す。
【0035】
前記アントラセン化合物の例としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アントラセン、2−(ヒドロキシエチル)アントラセン等の2−(ヒドロキシアルキル)アントラセン類が好ましく挙げられる。なかでも、Diels−Alder反応の反応性の観点から、2−(ヒドロキシメチル)アントラセン、2−(ヒドロキシエチル)アントラセン等がより好ましい。
【0036】
前記アントラセン化合物の使用量は、得られるA−PLLAまたはA−PDLAの分子量により適宜選択しうるが、L−ラクチドまたはD−ラクチドに対して、好ましくは0.008〜0.05mol%、より好ましくは0.01〜0.025mol%である。
【0037】
用いられるL−ラクチドまたはD−ラクチドの純度は、特に制限されないが、高い分子量を有するポリマーを得るという観点から、前記L−ラクチド中または前記D−ラクチド中に含まれる遊離酸が、前記L−ラクチドまたは前記D−ラクチド100質量%に対して、10質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.15質量%以下であることがさらに好ましく、0.05質量%以下であることが特に好ましい。前記L−ラクチド中または前記D−ラクチド中の遊離酸が、10質量%を超えると、開環重合反応が進行しない場合がある。前記L−ラクチドまたは前記D−ラクチドを精製する方法は特に制限されず、例えば、晶析もしくは蒸留など従来公知の方法、特開2004−149418号公報に記載の方法、または特開2004−149419号公報に記載の方法などを、適宜選択して採用することができる。
【0038】
前記開環重合は、有機溶媒と重合触媒との存在下で行われうる。前記重合触媒は、重合反応を進行させるものであれば、特に制限されず、例えば、第2族元素、希土類金属、第4周期の遷移金属、アルミニウム、ゲルマニウム、スズおよびアンチモンからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含む化合物などが好ましく挙げられる。前記第2族元素の例としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなどが挙げられる。前記希土類元素の例としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウムなどが挙げられる。前記第4周期の遷移金属の例としては、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、チタンなどが挙げられる。
【0039】
上記のような金属元素を含む重合触媒の例としては、上記で例示した金属のカルボン酸塩、上記で例示した金属のアルコキシド、上記で例示した金属のアリールオキシド、または上記で例示した金属のβ−ジケトンのエノラートなどが好ましく挙げられ、これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。重合活性や色相を考慮した場合、前記金属元素を含む重合触媒は、オクチル酸スズ(2−エチルへキサン酸スズ)、チタンテトライソプロポキシド、およびアルミニウムトリイソプロポキシドからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、オクチル酸スズ(2−エチルへキサン酸スズ)がさらに好ましい。
【0040】
前記金属元素を含む重合触媒の使用量は、前記L−ラクチドまたは前記D−ラクチド100質量部に対して、好ましくは0.001〜0.5質量部、より好ましくは0.001〜0.1質量部、さらに好ましくは0.003〜0.01質量部である。前記金属元素を含む重合触媒の使用量が、前記L−ラクチドまたは前記D−ラクチド100質量部に対して0.001質量部未満の場合には、反応の進行が遅く、ポリ−L−乳酸ブロックとポリ−D−乳酸ブロックとの組成比(質量比)が偏って製造される場合のポリ乳酸ブロック共重合体の製造コストを低減する効果が得られない場合がある。一方、前記金属元素を含む重合触媒の使用量が、前記L−ラクチドまたは前記D−ラクチド100質量部に対して0.5質量部を超える場合には、反応の制御が困難になり、ラセミ化や分散度の増加が起こる場合があり、得られる重合体の着色が顕著になる虞があり、得られる重合体の用途が制限される虞がある。
【0041】
前記金属元素を含む重合触媒の存在下での前記L−ラクチドまたは前記D−ラクチドの開環重合の雰囲気は、特に制限されるものではないが、生成物の着色を抑制する等の理由から、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0042】
前記金属元素を含む重合触媒の存在下での前記L−ラクチドまたは前記D−ラクチドの開環重合の反応時間は、好ましくは15分〜7時間、より好ましくは30分〜5時間である。前記反応時間が15分未満の場合には、反応が不十分で目的とするポリマーを得ることができない場合がある。一方、7時間を超える場合には得られるポリマーの着色または分散度の増加などが起こる場合がある。
【0043】
前記金属元素を含む重合触媒の存在下での前記L−ラクチドまたは前記D−ラクチドの開環重合の反応温度は、好ましくは80〜210℃、より好ましくは85〜200℃である。反応温度が80℃未満の場合には、反応の進行が遅く、得られるポリマー中のポリ−L−乳酸ブロックとポリ−D−乳酸ブロックの組成比(質量比)が偏って製造される場合のポリ乳酸ブロック共重合体の製造コストを低減する効果が得られない場合がある。反応温度が210℃を超える場合には、反応の制御が困難になり、ラセミ化や分散度の増加が起こる虞があり、また、得られるポリマーの着色が顕著になる虞があり、得られるポリマーの用途が制限される虞がある。
【0044】
前記金属元素を含む重合触媒の存在下での前記L−ラクチドまたは前記D−ラクチドの開環重合の反応圧力は、溶液中で開環重合を進行させることができる範囲内であれば、特に制限されるものではなく、大気圧下、減圧下、および加圧下のいずれで行ってもよい。耐圧性の製造装置が不要であり製造コストの低減に寄与できるなどの観点から、大気圧下で行うことが好ましい。
【0045】
前記金属元素を含む重合触媒の存在下での前記L−ラクチドまたは前記D−ラクチドの開環重合は、従来公知の製造装置、例えば、ヘリカルリボン翼などの高粘度用撹拌翼を備えた縦型反応容器などを用いて行うことができる。
【0046】
前記A−PLLAは、アントラセン化合物の存在下でL−ラクチドを開環重合した後、余剰のラクチドを除去したものであることが好ましい。同様に前記A−PDLAは、アントラセン化合物の存在下でD−ラクチドを開環重合した後、余剰のラクチドを除去したものであることが好ましい。前記A−PLLAまたは前記A−PDLAから余剰のラクチドを除去することによって、最終的に得られるポリ乳酸ブロック共重合体の融点を高くすることができるため好ましい。
【0047】
余剰のラクチドの除去方法は、特に制限されず、例えば、反応系内の減圧、有機溶剤による洗浄(精製)などの操作により行うことができるが、操作の簡易性から、反応系内を減圧することにより行うことが好ましい。
【0048】
かかる減圧条件としては、特に制限されるものではないが、重合反応終了後の系内の温度を、好ましくは130〜250℃、より好ましくは150〜230℃の範囲とし、系内の圧力は好ましくは70kPa以下、より好ましくは15kPa以下とする。温度が130℃未満の場合には、系内の粘度の増加または系内が固化することにより、装置の運転が困難になる場合がある。一方、250℃を超える場合には、ラクチドの解重合反応が進行し、得られるA−PLLAまたはA−PDLAの分散度が増加する場合がある。また、系内圧力が70kPaを超える場合には、ラクチドの除去が不十分となる場合がある。
【0049】
減圧時の雰囲気は、特に制限されるものではないが、残留ラクチドの分解やポリマーの着色を抑制するという観点から、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0050】
また、前記A−PLLA中または前記A−PDLA中のラクチドの残留量が多いと、最終的に得られるポリ乳酸ブロック共重合体の融点が低下する場合があることから、前記のような余剰のラクチドの除去処理の有無にかかわらず、前記A−PLLAまたは前記A−PDLAは、L−ラクチドまたはD−ラクチドの含有量が少ない方が好ましい。すなわち、前記A−PLLA中のL−ラクチドの含有量は、前記A−PLLAの質量に対して0〜5質量%であることが好ましく、0〜1質量%であることがより好ましく、0〜0.5%質量であることがさらに好ましく、0〜0.1質量%であることが特に好ましい。また、前記A−PDLA中のD−ラクチドの含有量は、前記A−PDLAの質量に対して0〜5質量%であることが好ましく、0〜1質量%であることがより好ましく、0〜0.5%質量であることがさらに好ましく、0〜0.1質量%であることが特に好ましい。前記A−PLLA中のL−ラクチドの含有量または前記A−PDLA中のD−ラクチドの含有量が5質量%を超えると、得られるポリ乳酸ブロック共重合体の融点が低下する場合がある。
【0051】
前記A−PLLAまたは前記A−PDLAの重量平均分子量は、好ましくは5,000〜200,000、より好ましくは7,000〜150,000、さらに好ましくは8,000〜100,000である。前記A−PLLAまたは前記A−PDLAの重量平均分子量が前記範囲から外れると、ポリ乳酸ブロック共重合体中のステレオコンプレックス結晶の含有率が、高くなり難い場合がある。なお、本発明において、重量平均分子量は、GPC(Gel Permeation Chromatography:ゲル浸透クロマトグラフィ)法により測定したポリスチレン換算の値を採用するものとする。さらに具体的には、後述の実施例に記載の測定方法により測定した値を採用するものとする。
【0052】
A−PLLAまたはA−PDLAの重合反応が終了した後、あるいは上記の余剰のラクチドの除去が終了した後は、得られた生成物を、例えば、ジクロロメタンなどの溶媒に溶解し、メタノールなどの貧溶媒中に投入して再沈殿させ、沈殿物を濾過・分離し乾燥するなど公知の方法によって、A−PLLAまたはA−PDLAを分離・精製することができる。
【0053】
(末端にマレイミド基を有するポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸)
ディールス・アルダー反応のもう一方の原料となる、末端にマレイミド基を有するポリ−L−乳酸(本明細書では、単にM−PLLAとも称する)、または末端にマレイミド基を有するポリ−D−乳酸(本明細書では、単にM−PDLAとも称する)の構成については、末端がアントラセニル基からマレイミド基に代わること以外、上記の「(末端にアントラセニル基を有するポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸)」の項で説明した通りであるので、ここでは説明を省略する。また、M−PLLAおよびM−PDLAの製造方法についても、アントラセン化合物の代わりにマレイミド化合物を重合開始剤として用いること以外は、上記の「(末端にアントラセニル基を有するポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸)」の項で説明した製造方法と同様の製造方法を採用することができる。すなわち、重合開始剤としてマレイミド化合物を用い、L−ラクチドを開環重合するか、またはL−乳酸を脱水縮合すればM−PLLAが得られる。重合開始剤としてマレイミド化合物を用い、D−ラクチドを開環重合するか、またはD−乳酸を脱水縮合すればM−PDLAが得られる。
【0054】
なかでも、高分子量体を得やすく、分子量の制御も容易であることから、重合開始剤としてマレイミド化合物を用いてL−ラクチドまたはD−ラクチドを開環重合する方法が好ましい。
【0055】
該開環重合は、例えば、下記反応式(2)で表される。下記反応式(2)は、マレイミド化合物としてN−(2−ヒドロキシエチル)マレイミドを用いたD−ラクチドの開環重合により、M−PDLAが合成される例である。重合触媒は、オクチル酸スズ(Sn(Oct)2)を使用している。
【0056】
【化3】

【0057】
前記反応式(2)中、mは、繰り返し単位の数を表す。
【0058】
マレイミド化合物を用いてL−ラクチドまたはD−ラクチドを開環重合させる際の原料ラクチドの種類や純度、重合触媒などの各種添加剤の種類や使用量、反応条件(温度、時間、圧力、雰囲気など)、反応装置、重合後の余剰のラクチドの除去、重合後の分離・精製などは、前述の「(末端にアントラセニル基を有するポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸)」の項で説明した内容と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0059】
M−PLLAまたはM−PDLAの製造に用いられるマレイミド化合物の例としては、例えば、N−(2−ヒドロキシエチル)マレイミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)マレイミド、N−(2−ヒドロキシブチル)マレイミドなどのN−(2−ヒドロキシアルキル)マレイミドが好ましく挙げられる。なかでも、Diels−Alder反応の反応性の観点から、N−(2−ヒドロキシエチル)マレイミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)マレイミドがより好ましい。
【0060】
前記M−PLLAまたは前記M−PDLAの重量平均分子量は、好ましくは5,000〜200,000、より好ましくは7,000〜150,000、さらに好ましくは8,000〜100,000である。前記M−PLLAまたは前記M−PDLAの重量平均分子量が前記範囲から外れると、ポリ乳酸ブロック共重合体中のステレオコンプレックス結晶の含有率が、高くなり難い場合がある。
【0061】
(ディールス・アルダー反応)
本発明のポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法は、上記A−PLLAと上記M−PDLAとをディールス・アルダー反応させる工程か、または上記A−PDLAと上記M−PLLAとをディールス・アルダー反応させる工程を含むことを特徴とする。
【0062】
前記ディールス・アルダー反応は特に限定されず、公知の方法を利用できる。具体的には、A−PLLAとM−PDLAとを反応させる場合は、前記A−PLLA1モルに対して通常0.8〜1.2モル程度となる前記M−PDLAを、好ましくは80〜210℃の温度で、好ましくは1〜5時間程度反応させる方法が挙げられる。反応温度は85〜200℃であることがより好ましく、反応時間は1.5〜4時間であることがより好ましい。
【0063】
同様に、A−PDLAとM−PLLAとを反応させる場合は、前記A−PDLA1モルに対して通常0.8〜1.2モル程度となる前記M−PLLAを、好ましくは80〜210℃の温度で、好ましくは1〜5時間程度反応させる方法が挙げられる。反応温度は85〜200℃であることがより好ましく、反応時間は1.5〜4時間であることがより好ましい。
【0064】
なお、該ディールス・アルダー反応で得られるポリ乳酸ブロック共重合体の着色を考慮して、反応容器は密閉構造とするのが好ましく、さらに、反応雰囲気は窒素ガス等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0065】
また、該ディールス・アルダー反応の際には、必要に応じて各種溶媒を特に制限なく用いることができる。具体的には、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ペプタン等の脂肪族系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤;ジクロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、トリフルオロエタン等のハロアルカン系溶剤などが挙げられる。これらは単独でも、または2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0066】
本発明の製造方法においては、該ディールス・アルダー反応を行う前に、あらかじめ、A−PDLAまたはA−PLLAと、M−PDLAまたはM−PLLAとを攪拌・混合しておくことが好ましい。このような操作を行うことにより、効率的にディールス・アルダー反応を進行させることができる。混合は、溶媒の存在下で行ってもよいし、無溶媒で行ってもよい。この攪拌・混合の際の溶媒としては、上記で例示したディールス・アルダー反応の際に用いられうる溶媒が用いられうる。混合時間は、1〜5時間が好ましく、また、混合温度は、15〜40℃が好ましい。混合方法は、例えば、メカニカルスターラーなどで激しく攪拌する方法などが挙げられる。
【0067】
該ディールス・アルダー反応は、例えば、下記反応式(3)で表される。なお、下記反応式(3)は、前記反応式(1)で表される反応により得られるA−PLLAと、前記反応式(2)で表される反応により得られるM−PDLAとのディールス・アルダー反応によりポリ乳酸ブロック共重合体が合成される例である。また、ディールス・アルダー反応の前に、A−PLLAとM−PDLAとを、それぞれジクロロメタンに溶かし、あらかじめ攪拌・混合させている。
【0068】
【化4】

【0069】
前記反応式(3)中、mおよびnは、それぞれ独立して、繰り返し単位の数を表す。
【0070】
本発明の製造方法によって得られるポリ乳酸ブロック共重合体は、重量平均分子量が、好ましくは10,000〜400,000、より好ましくは14,000〜300,000、さらに好ましくは16,000〜200,000である。重量平均分子量が上記範囲内であれば、本発明の製造方法により得られるポリ乳酸ブロック共重合体は、機械強度、成形加工性に優れる。
【0071】
また、本発明の製造方法によって得られるポリ乳酸ブロック共重合体の分子量分布(MwD)は、好ましくは1〜3、より好ましくは1.1〜1.9である。分子量分布が上記範囲から外れると、得られたポリ乳酸ブロック共重合体中のステレオコンプレックス結晶の含有率が、高くなり難い場合がある。なお、本発明において、分子量分布(MwD)は、後述の実施例に記載の測定方法により得られたポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との値を用いて、下記数式1により計算した値を採用するものとする。
【0072】
【数1】

【0073】
本発明の製造方法により得られるポリ乳酸ブロック共重合体が優れた耐熱性を示すためには、前記ステレオコンプレックス結晶の含有率、結晶融点、および融解エンタルピーが上記の数値範囲にあることが好ましい。
【0074】
本発明の製造方法により得られるポリ乳酸ブロック共重合体中のポリ−L−乳酸ブロックとポリ−D−乳酸ブロックとの質量比は、好ましくはポリ−L−乳酸ブロック:ポリ−D−乳酸ブロック=9:91〜91:9であり、より好ましくはポリ−L−乳酸ブロック:ポリ−D−乳酸ブロック=20:80〜80:20、さらに好ましくはポリ−L−乳酸ブロック:ポリ−D−乳酸ブロック=25:75〜75:25の範囲である。前記ポリ−L−乳酸ブロックまたは前記ポリ−D−乳酸ブロックのいずれか一方の質量比が9未満の場合には、得られるポリ乳酸ブロック共重合体のステレオコンプレックス結晶の含有率が低下する場合がある。また、L体(L−ラクチドまたはL−乳酸)とD体(D−ラクチドまたはD−乳酸)との価格差が大きくなる場合に、低コストで高付加価値を有する製品を安定的に製造することが困難となる場合がある。
【0075】
本発明の製造方法により得られるポリ乳酸ブロック共重合体には、本発明の目的を損なわない範囲内で、通常の添加剤、例えば、可塑剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、滑剤、離形剤、各種フィラー、帯電防止剤、難燃剤、発泡剤、充填剤、抗菌・抗カビ剤、核形成剤、染料、顔料を含む着色剤等を所望に応じて含有することができる。
【0076】
本発明の製造方法により得られるポリ乳酸ブロック共重合体は、射出成形、押出成形、ブロー成形、発泡成形、圧空成形、または真空成形など、従来公知の方法により成形されうる。前記のような成形方法で得られる成形品の例としては、例えば、フィルム、シート、繊維、布、不織布、農業用資材、園芸用資材、漁業用資材、土木・建築用資材、文具、医療用品、または電気・電子用部品などが挙げられる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。なお、各薬品は、下記表1に示すものを使用した。
【0078】
【表1】

【0079】
また、核磁気共鳴スペクトル(NMR)、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(MwD)、熱的特性、およびX線広角散乱は、下記の方法により測定した。
【0080】
(1)NMR
500MHz H−NMRは、Bruker社製、ARX500を用い、内部標準としてテトラメチルシラン(TMS)を0.3体積%含む重クロロホルムを溶媒として用いた。
【0081】
(2)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および分子量分布(MwD)
GPC法により、ポリスチレン換算の値を測定した。使用した測定機器等の測定条件は下記表2の通りであった。分子量分布(MwD)は、測定された重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)とから、前記数式1によって算出した。
【0082】
【表2】

【0083】
(3)熱的特性
示差走査熱量測定計(株式会社島津製作所製DSC−50)を用いた。試料3mgをアルミニウムパンに入れ、下記表3に示す(a)〜(c)の条件で、20ml/分の流速で窒素ガスを流して測定を行った。
【0084】
【表3】

【0085】
(4)X線広角散乱
株式会社リガク製の粉末X線回折装置RINT−2500を用い、Cu−Kα線、40kV、50mA、5〜40°、スキャン速度4°/分の条件で測定した。
【0086】
(製造例1)
<A−PLLAの合成>
試験管に、L−ラクチド 1g(7mmol)、および2−(ヒドロキシメチル)アントラセン 20.8mg(0.1mmol)を入れ、室温(20℃)で3時間、真空乾燥した。オクチル酸スズ 0.05mmolを含む0.1mLの触媒溶液(溶媒:トルエン)を、窒素雰囲気下で試験管に加えた。混合物全体を、トルエンを蒸発させるために室温(20℃)で5時間真空乾燥し、120℃に加熱して3時間攪拌した。加熱後1時間以内に、溶融状態の混合物が固化し、結晶の色が黄色くなった。よって、その後は攪拌せずに、固体状態で反応を続けた。得られた重合物を、ジクロロメタンに溶かし、過剰のメタノール中に再沈殿させて、濾過分離し乾燥し、A−PLLAを得た。A−PLLAの収率は91%(収量:0.91g)であった。H−NMRのスペクトルデータを、下記表4に示す。
【0087】
【表4】

【0088】
(製造例2)
<M−PDLAの合成>
試験管に、D−ラクチド 1g(7mmol)、および2−(ヒドロキシメチル)マレイミド 14mg(0.1mmol)を入れ、室温(20℃)で3時間、真空乾燥した。オクチル酸スズ 0.05mmolを含む0.1mLの触媒溶液(溶媒:トルエン)を、窒素雰囲気下で試験管に加えた。混合物全体を、トルエンを蒸発させるために室温(20℃)で5時間真空乾燥し、120℃に加熱して3時間攪拌した。加熱後1時間以内に、溶融状態の混合物が固化し、結晶の色が黄色くなった。よって、その後、攪拌せずに、固体状態で反応を続けた。得られた重合物を、ジクロロメタンに溶かして、過剰のメタノール中に再沈殿させて、濾過分離し乾燥し、M−PDLAを得た。M−PDLAの収率は92%(収量:0.92g)であった。重合体の数平均分子量は、H−NMRスペクトルにより決定した。H−NMRのスペクトルデータを、下記表5に示す。
【0089】
【表5】

【0090】
(製造例3)
<A−PDLAの合成>
L−ラクチドの代わりに、D−ラクチドを用いたこと以外は、製造例1と同様にしてA−PDLAを得た。収率は91%(収量:0.91g)であった。H−NMRのスペクトルデータを、下記表6に示す。
【0091】
【表6】

【0092】
(製造例4)
<M−PLLAの合成>
D−ラクチドの代わりに、L−ラクチドを用いたこと以外は、製造例2と同様にしてM−PLLAを得た。収率は90%(収量:0.90g)であった。H−NMRのスペクトルデータを、下記表7に示す。
【0093】
【表7】

【0094】
(実施例1)
製造例1で得られたA−PLLAおよび製造例2で得られたM−PDLAを、それぞれジクロロメタンに溶解し、濃度が5mM(0.5g/L)である溶液を調製した。最初に、両方の溶液を、A−PLLAとM−PDLAのモル比が1:1となるように混合し、室温(20℃)で120分間激しく攪拌・混合した。得られた溶液を、過剰のメタノール中に再沈殿させた。沈殿物を、濾過分離し乾燥した。次に、乾燥後の沈殿物を窒素雰囲気下の試験管に入れ、室温(20℃)で3時間真空乾燥した後、135℃で12時間攪拌した。その後、冷却し、生成物であるポリ乳酸ブロック共重合体(本明細書では、単に「PLLA−b−PDLA」とも称する)を得た。得られたPLLA−b−PDLAのH−NMRのスペクトルデータを、下記表8に示す。
【0095】
【表8】

【0096】
(実施例2)
A−PLLAの代わりに製造例3で得られたA−PDLAを用い、M−PDLAの代わりに製造例4で得られたM−PLLAを用いたこと以外、実施例1と同様の方法で、ポリ乳酸ブロック共重合体(本明細書では、単に「PDLA−b−PLLA」とも称する)を得た。得られたPDLA−b−PLLAのH−NMRのスペクトルデータを、下記表9に示す。
【0097】
【表9】

【0098】
製造例1〜4および実施例1〜2で得られた重合体の、分子量の測定結果を下記表10に示す。
【0099】
【表10】

【0100】
表10から明らかなように、実施例1のPLLA−b−PDLAのMnは、A−PLLAとM−PDLAとの合計のMnとほぼ等しかった。また、同様に実施例2のPDLA−b−PLLAのMnは、A−PDLAとM−PLLAとの合計のMnとほぼ等しかった。これらの結果から、末端にアントラセニル基を有するポリ乳酸と末端にマレイミド基を有するポリ乳酸とのディールス・アルダー反応は、ほとんど定量的にポリ乳酸ブロック共重合体を形成しうることが分かる。
【0101】
図1は、製造例1で合成したA−PLLAのH−NMRスペクトルであり、図2は、製造例2で合成したM−PDLAのH−NMRスペクトルである。図1の(h)で示されるシグナル、および図2の(f)で示されるシグナルは、A−PLLAおよびM−PDLAのヒドロキシ末端が結合しているメチン基を示している。また、アントラセニル基およびマレイミド基に基づくシグナルも、より明確に示されている。図1の(e)で示されているシグナルは、PLLA連鎖が結合したアントラセニルメチル基のメチレン基のプロトンである。また、図2の(b)および(c)で示されているシグナルは、マレイミド残基とPDLA連鎖との間のエチレン基のプロトンである。これらのデータから、A−PLLAおよびM−PDLAがほぼ定量的に形成されていることがわかる。
【0102】
図3は、実施例1で得られたPLLA−b−PDLAのNMRチャートである。原料であるA−PLLAのアントラセン部分のシグナルである8.0〜8.45ppmのシグナル、およびM−PDLAのマレイミド部分のシグナルである6.75ppmのシグナルが小さくなり、代わって3.1〜3.3ppmおよび3.4〜3.6ppmに、ディールス・アルダー反応生成物の新しいシグナルが出現していることが確認できた。さらに、A−PLLAのアントラセニルメチル基中のメチレン基のシグナルである5.38ppmのシグナルが、PLLA−b−PDLAのスペクトルでは4.78ppmに移動し、アントラセニルメチル基の芳香族環のシグナルである7.41ppm、7.5〜7.6ppm、7.97ppm、8.03ppm、および8.45ppmのシグナルは、PLLA−b−PDLAのスペクトルでは7.1〜7.4ppmに移動した。M−PDLAのPDLA鎖とマレイミド基との間のエチレン基のシグナルである3.8〜3.9ppmおよび4.3〜4.4ppmのシグナルは、PLLA−b−PDLAのスペクトルでは、それぞれ3.3〜3.4ppm付近と3.6〜3.8ppm付近に移動した。これらのデータは、A−PLLAとM−PDLAとの間のディールス・アルダー反応により、ステレオジブロック共重合体であるPLLA−b−PDLAが形成されていることを支持している。
【0103】
図4は、上記表3の第1の加熱を受けた後の実施例1のPLLA−b−PDLAのDSCチャート(図4中のa)、および上記表3の第2の加熱を受けた後に得られた実施例1のPLLA−b−PDLAのDSCチャートである(図4中のb)。実施例1のPLLA−b−PDLAは、220℃付近に吸熱ピークを示したが、これは、ステレオコンプレックス結晶(sc結晶)の溶融を示すピークである。また、ホモ結晶(hc結晶)の溶融ピークは確認されなかった。
【0104】
図5は、(a)製造例1で得られたA−PLLA、(b)製造例2で得られたM−PDLA、および(c)実施例1で得られたPLLA−b−PDLAのX線広角散乱チャートである。(a)A−PLLAおよび(b)M−PDLAは、2θ角度で16.5°および19°に、hc結晶に起因する回折ピークを示した。一方、(c)PLLA−b−PDLAは、12°、21°、および24°に、sc結晶に起因する回折ピークを示し、hc結晶に起因する回折ピークは観測されなかった。これらのデータはDSCデータと整合し、A−PLLAとM−PDLAとの反応から形成されたPLLA−b−PDLAが、sc結晶を形成することを支持している。
【0105】
図6は、(a)A−PLLAとM−PDLAとの粉末混合物、(b)A−PDLAとM−PLLAとの粉末混合物、(c)末端変性されていないPDLA、および(d)末端変性されていないPLLAについて、上記表3に示すDSCの第2の加熱を行った際に得られたDSCチャートである。(a)A−PLLAとM−PDLAとの粉末混合物、および(b)A−PDLAとM−PLLAとの粉末混合物は、110℃付近に発熱のピークが見られた。一方、(c)末端変性されていないPDLA、および(d)末端変性されていないPLLAは、110℃付近にピークは見られなかった。したがって、発熱のピークは、PLLAまたはPDLAの結晶ピークではなく、ディールス・アルダー反応に関連すると考えるのが妥当である。このデータから、末端にアントラセニル基を有するポリ乳酸と末端にマレイミド基を有するポリ乳酸とのディールス・アルダー反応は、110℃付近で開始すると推測される。
【0106】
図7は、(a)実施例1で得られたPLLA−b−PDLAと、(b)実施例2で得られたPDLA−b−PLLAとについて、上記表3に示すDSCの第2の加熱を行った際に得られたDSCチャートである。このチャートから、レトロディールス・アルダー反応は、240℃付近まで起きていないことが確認できた。したがって、本発明の製造方法により得られる、ディールス・アルダー反応付加物であるポリ乳酸ブロック共重合体の安定性は非常に高いと言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端にアントラセニル基を有するポリ−L−乳酸と末端にマレイミド基を有するポリ−D−乳酸とを、ディールス・アルダー反応させる工程を含む、ポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法。
【請求項2】
末端にアントラセニル基を有するポリ−D−乳酸と末端にマレイミド基を有するポリ−L−乳酸とを、ディールス・アルダー反応させる工程を含む、ポリ乳酸ブロック共重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−185049(P2010−185049A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31667(P2009−31667)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(507049290)有限会社NKリサーチ (2)
【Fターム(参考)】