説明

ポリ乳酸延伸材料の製造方法

【課題】ポリ乳酸を主成分とする成形材を延伸する際、成形材がロールに付着することがなく、良好な延伸製品を安定して製造できるようにすることにある。
【解決手段】ポリ乳酸を主成分とする成形材Bを延伸装置本体11に導入して延伸する。延伸装置本体11は、加熱炉12内に第1ロール13と第2ロール14を互いに平行にかつ離間して配置したもので、第2ロール14の周速を第1ロール13の周速よりも大きくし、これらロール13、14に成形材BをS字掛けまたはZ字掛けに架け渡して引き取り、一軸延伸を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポリ乳酸を素材とする梱包用延伸バンドなどのポリ乳酸延伸材料を製造するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、梱包用延伸バンドには、機械的強度、価格などの点からポリプロピレン製のものが専ら用いられている。ところが、最近ではエコロジーの観点から生分解性を有するポリ乳酸を主成分とする延伸バンドが検討されている。(特開平11−165338号公報参照)
ポリ乳酸からなる延伸バンドの製造に際しては、ポリ乳酸からなる成形材の延伸が必要になってくる。
【0003】
ポリ乳酸からなる成形材の延伸に関しては、特許第2990278号公報において、ポリ乳酸のガラス転移温度以上の温度条件下で、一対の加熱圧延ロールの間に、ポリ乳酸を主成分とする成形材を通し、この成形材を圧延ロールで加圧して圧延しつつ引っ張り、張力を掛け、一軸方向に3倍以上の延伸比で引張引抜延伸する方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、この圧延ロールを用いる方法では、ポリ乳酸からなる成形材が圧延温度において粘着性を発現し、圧延ロールに成形材が付着し、良好な延伸製品を安定して得られないことが、本出願人の検討によって明らかになった。
【特許文献1】特開平11−165338号公報
【特許文献2】特許第2990278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって、本発明における課題は、ポリ乳酸を主成分とする成形材を延伸する際、成形材がロールに付着することがなく、良好な延伸製品を安定して製造できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、加熱炉内に第1ロールと第2ロールとからなる一対の延伸ロールが配置され、第1ロールと第2ロールとが、互いに離間して平行に配置され、第1ロールの周速が第2ロールの周速よりも小さくなるように構成された延伸装置を用い、ポリ乳酸を主成分とする長尺の成形材を、ポリ乳酸のガラス転移温度以上の温度条件下で、この延伸装置の第1ロールと第2ロールに両ロール横断面でS字状をなすように架け渡し、引取ロール群によって引き取り、一軸延伸することを特徴とするポリ乳酸延伸材料の製造方法である。
【0007】
請求項2にかかる発明は、成形材として、粘着性指数が30%以上であるものを用いることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸延伸材料の製造方法である。
【0008】
請求項3にかかる発明は、第1のロールの周速を第2のロールのそれに比して1/7〜1/2とするとともに第1のロールと第2のロールの表面間距離を5〜20cmとし、この表面間領域において成形材のネッキングを生じさせつつ、延伸倍率で3〜8倍に一軸延伸することを特徴とする請求項1または2記載のポリ乳酸延伸材料の製造方法である。
【0009】
請求項4にかかる発明は、成形材が第1および第2のロールの各々の周長の1/3以上の周面に密着するようにこれらロールを配置することを特徴とする請求項1、2または3記載の ポリ乳酸延伸材料の製造方法である。
なお、本発明での粘着性指数の定義については、後で詳しく説明する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、延伸時に延伸ロールにポリ乳酸を主成分とする成形材が付着することがなく、均一な延伸が行われ、良好な延伸製品を安定して製造することができる。
これは、従来の圧延延伸のように、成形材を圧延ロールに挟んで強圧することがなく、単に成形材をその長手方向に引っ張るだけであるので、成形材自体が粘着性を有していても、延伸ロールに付着することがないためである。
【0011】
このため、ポリ乳酸を主成分とする成形材が、その粘着性指数30%以上の粘着性の高いものであっても、良好な延伸製品を安定して得ることができる。
またこのことは、成型時に高い粘着性を有するために通常の一軸延伸、いわゆる通常の圧延延伸が危ぶまれる場合、その粘着性の程度を、本発明が教示する粘着性指数によって判定することによって、通常の圧延延伸法の採用が不適当であると知ることができる。
【0012】
しかも、特にその粘着性指数が30%を越える場合には、通常の圧延延伸法に依らず本発明の特定の延伸方法を採用することの的確性を教示するとともに所望の一軸延伸が何らの困難なく実現可能とされることが意味されるので、当業者に極めて有益な知見を与えるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず、本発明における粘着性指数について説明する。
この粘着性指数の算出にあたっては、初めに図1に示す測定装置を用いて、ポリ乳酸を主成分とする成形材(以下、単に成形材と略称することがある。)の粘着力を計測する。
【0014】
なお、この発明でのポリ乳酸を主成分とする成形材とは、乳酸系ポリマーよりなる成形材であって、この乳酸系ポリマーとは、重合に供するモノマーの重量に換算して、乳酸成分を50wt%以上含むポリマーを含有する。具体的には例えば、a.ポリ乳酸、b.乳酸と他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸とのコポリマー、c.乳酸、脂肪族多価アルコールと脂肪族多塩基酸とのコポリマー、d.a〜cのいずれかの組み合わせによる混合物、等が挙げられる。ポリ乳酸の原料である乳酸の具体例としては、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸またはそれらの混合物、または、乳酸の環状2量体であるラクチドを挙げることができる。また、この成形材とは、前記乳酸系ポリマーに加工助剤その他の各種助剤を加えたものに対して押出成形などの成形を施した成形物を言う。また、ポリ乳酸の融点は、172〜175℃、ガラス転移温度は66〜70℃である。
【0015】
図1において、符号1は上側治具を、2は下側治具を示す。上側治具1は、四角形の鏡面板1aと、この鏡面板1aの一方の面に固着された固定板1bとからなっている。この鏡面板1aの他方の面は、試料シート3に接触する接触面となっており、クロームメッキが施され、表面粗さは、評価パラメータRaおよびRzがそれぞれ概ね10nm以下および60nm以下の平坦かつ平滑な鏡面となっている。
【0016】
下側治具2も、上側治具1と同様の構造となっており、鏡面板2aの他方の件は、試料シート3を載せる載置面となっている。
上側治具1は、その固定板1bによって、図示しない引張試験器(例えば、「オートグラフ」商品名 島津製作所製、「インストロン」、商品名 インストロン社製など)の上側チャックに取り付けられ、下側治具2は、同様に下側チャックに取り付けられている。
【0017】
上側治具1の鏡面板1aと下側治具2の鏡面板2aとの間にポリ乳酸を主成分とする試料シート3を挟み込む。試料シート3の寸法は、厚さ2mm、横50mm、縦50mmとされる。
上側治具1および下側治具2の全体を図示しない恒温槽内に収容し、槽内温度を80℃とし、試料シート3を加熱し、その温度を80℃とする。
【0018】
ついで、試料シート3を両方の鏡面板1a、2aに密着させるため、上側治具1に1kgの荷重を5分間印加する。
その後、上側治具1のみを速度10mm/分の引き上げ速度で上方に引き上げ、この時上側治具1にかかる荷重をロードセルで計測し、引き上げ距離−荷重の関係を示すチャートを記録する。
【0019】
図2は、このチャートの一例を模式的に示すもので、縦軸は荷重を、横軸は引き上げ距離を表す。
このチャートにおけるピークPは、試料シート3と両方の鏡面板1a,2aとの間に作用する粘着力によるものであり、平坦部Fは上側治具1の自重を示す。
ピークPの荷重をW1とし、平坦部Fの荷重をW2とすると、粘着性指数Sは、次式で表される。
S={(W1−W2)/W2}×100(%)
【0020】
本発明者らの知見によると、このようにして求められた粘着性指数が30%以上である成形体では、温度80℃以上で、粘着性の発現が著しく、従来の圧延ロールによる延伸では良好な延伸製品が得られないことが判明した。
【0021】
図3は、本発明の製造方法で用いられる延伸装置の一例を示すものである。
図3において、符号11は、延伸装置本体を示す。この延伸装置本体11は、大型の加熱炉12を有するもので、この加熱炉12内には、図示しないヒータが設けられ、その炉内の温度を200〜240℃に範囲の一定温度に保持するようになっている。
【0022】
この加熱炉12内には、第1ロール13と第2ロール14とからなる一対の延伸ロール15が配置されている。
第1ロール13は、直径が5〜10cm程度の鋼製のロールであって、図示しない回転駆動装置により、図中矢印方向に回転するようになっている。
この第1ロール13から、表面間距離で、5〜20cm程度離れた位置には、これと平行に第2ロール14が設けられている。この第2ロール14は、直径が5〜15cm程度の鋼製のロールであって、図示しない回転駆動装置により、図中矢印方向に回転するようになっている。両ロール13、14の直径は同等であっても良いが、ロール14の直径を他方より大としても良い。
【0023】
ここで、第1ロール13の周速R1は、第2ロール14の周速R2よりも小さくなるように決められており、目的とする延伸倍率によって左右されるが、通常R1:R2=1:1.1〜8、好ましくは1:2〜7となるように定められている。
【0024】
また、加熱炉12内には、ガイドロール16が延伸ロール15と平行に配置されており、このガイドロール16は、加熱炉12の入口部17を通って送り込まれる成形体Bを第1ロール13の上側に案内するためのものである。
さらに、加熱炉12には、出口部18が形成されており、第2ロール14から導き出された成形体Bをこの出口部18を介して、延伸装置本体11の後段に配された引取装置21に送り込むようになっている。
【0025】
この引取装置21は、複数のロールを有するもので、延伸された成形材Bを所定の速度で引き取ると同時に成形材Bに引張力を印加するものである。
また、延伸装置本体11の前段には、前加熱炉31が配置され、ここで成形材Bが加熱されて、延伸装置本体11に送り込まれるようになっているが、加熱炉12内の温度管理を適切に行うことにより、前加熱炉31を省くこともできる。
【0026】
さらに、前加熱炉31の前段には、送出装置41が配置されている。この送出装置41は、複数のロールを備えたもので、予め成形された成形体Bを引き出して前加熱炉31に送り込むものである。また、この送出装置41の前段に押出成形機を設けておき、押出成形した成形材Bを直接連続的に送出装置41に供給するようにしてもよい。
【0027】
次に、この延伸装置を用いて、ポリ乳酸延伸材料を製造する方法を説明する。
まず、送出装置41から長尺のテープ状あるいはシート状の成形材Bを送出速度5〜15m/分で前加熱炉31に送り込む。前加熱炉31内は、温度200〜240℃とポリ乳酸のガラス転移温度以上になっており、成形材Bは温度80〜120℃に加熱されて、延伸装置本体11の入口部17から導入される。前加熱炉31が省かれた場合には、成形材Bは入口部17から直接延伸装置本体11に導入される。
【0028】
延伸装置本体11内の温度も200〜240℃とポリ乳酸のガラス転移温度以上に加熱されており、入口部17から導入された成形材Bはガイドロール16を経て第1ロール13の上側に送られる。成形材Bは、第1ロール13の周面の少なくとも1/3以上に接しつつ移動し、ついで第2ロール14の上側に送られ、ここでも第2ロール14の周面の1/3以上に接しつつ移動し、出口部18に至るように、いわゆるS字掛けあるいはZ字掛けと呼ばれる形式で架け渡される。
【0029】
この時、第2ロール14の周速が第1ロール13の周速よりも大きくされ、かつ引取装置21によって成形材Bが引っ張られているため、成形材Bは第1ロール13と第2ロール14との間において急速にその長手方向に引っ張られて、ネッキングを生じつつ一軸方向に延伸倍率3〜8倍で延伸されることになる。
【0030】
第2ロール14を離れた成形材Bは、その移動速度が第1ロール13に接した時の移動速度よりも、延伸倍率に応じた早い速度で、出口部18から引取装置21に引き取られる。この際、引取装置21は、第2ロール14の周速よりも速い速度で成形材Bを引き取るようになっており、これにより第2ロール14の周面に位置する成形材Bに引張力が作用することになる。
引取装置21からの成形材Bは、ポリ乳酸延伸材料となって、図示しないリールに巻き取られるなどして製品とされる。
【0031】
このような製造方法にあっては、成形材Bの延伸にあたって、従来の圧延延伸のように成形材を圧延ロールに挟んで強圧することがなく、単に第1ロール13と第2ロール14との間でその長手方向に引っ張るだけであるので、成形材Bが粘着性を有していても、第1ロール13あるいは第2ロール14の周面に付着することがなく、均一で良好な延伸が行われることになる。
【0032】
このため、粘着性指数が30%以上の粘着性が高い成形材であっても、ロールへの付着現象が生じることがなく、良質の延伸材料を製造することができる。
【0033】
以下、具体例を示す。
ポリ乳酸として、カーギルダウLLC社製「Nature Works 4031D」を用いた。このポリ乳酸は、上述の測定によりその粘着性指数が52%のものである。このポリ乳酸を押出成形機により押出成形し、幅約30mm、厚さ約0.8mmのテープ状の成形材Bを得た。
この成形材Bを送出装置41に速度10m/分で送り込み、前加熱炉31にて80℃に加熱した。
【0034】
ついで、前加熱炉31からの成形材Bを延伸装置本体11に送り込んだ。延伸装置本体11内の温度を200℃とし、第1ロール13の周速を16m/分、第2ロール14の周速を40m/分とし、引取装置21の引取速度を60m/分として一軸延伸を行った。
【0035】
この結果、成形材Bは、延伸倍率6倍に延伸され、幅約14mm、厚さ約0.35mmとなった。また、成形材Bが第1ロール13あるいは第2ロール14の周面に付着することはなく、10時間以上連続して安定に延伸作業を行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明における粘着性指数を求めるために用いられる測定装置の要部を示す概略構成図である。
【図2】粘着性指数を求める際の粘着力測定チャートの例を示す図表である。
【図3】本発明の製造方法に用いられる製造装置の一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0037】
11・・延伸装置本体、12・・加熱炉、13・・第1ロール、14・・第2ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉内に第1ロールと第2ロールとからなる一対の延伸ロールが配置され、第1ロールと第2ロールとが、互いに離間して平行に配置され、第1ロールの周速が第2ロールの周速よりも小さくなるように構成された延伸装置を用い、
ポリ乳酸を主成分とする長尺の成形材を、ポリ乳酸のガラス転移温度以上の温度条件下で、この延伸装置の第1ロールと第2ロールに両ロール横断面でS字状をなすように架け渡し、引取ロール群によって引き取り、一軸延伸することを特徴とするポリ乳酸延伸材料の製造方法。
【請求項2】
成形材として、粘着性指数が30%以上であるものを用いることを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸延伸材料の製造方法。
【請求項3】
第1のロールの周速を第2のロールのそれに比して1/7〜1/2とするとともに第1のロールと第2のロールの表面間距離を5〜20cmとし、この表面間領域において成形材のネッキングを生じさせつつ、延伸倍率で3〜8倍に一軸延伸することを特徴とする請求項1または2記載のポリ乳酸延伸材料の製造方法。
【請求項4】
成形材が第1および第2のロールの各々の周長の1/3以上の周面に密着するようにこれらロールを配置することを特徴とする請求項1、2または3記載の ポリ乳酸延伸材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−245635(P2007−245635A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74858(P2006−74858)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000207540)大日製罐株式会社 (13)
【Fターム(参考)】