説明

ポリ乳酸系樹脂成形品

【課題】耐熱性及び柔軟性がともに高いポリ乳酸系樹脂成形品を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸系樹脂成形品は、ポリ乳酸系樹脂(A)と、結晶化度20重量%以下のポリプロピレン(B)と、変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)又は変性ポリオレフィン(C2)とを含むポリ乳酸系樹脂組成物で成形された成形品であり、ポリ乳酸系樹脂(A)の結晶化を促進する処理が施されている。ポリ乳酸系樹脂組成物では、ポリ乳酸系樹脂(A)90〜10重量部に対し結晶化度20重量%以下のポリプロピレン(B)が10〜90重量部配合されている。さらに、ポリ乳酸系樹脂(A)及び結晶化度20重量%以下のポリプロピレン(B)の合計100重量部に対し変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)又は変性ポリオレフィン(C2)が1〜20重量部配合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂であるポリ乳酸を含有するポリ乳酸系樹脂成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油を原料とする合成樹脂は、軽く、腐食せず、成形が容易である等の優れた性能を有し、また低コストであること等から広く使われている。しかし、自然環境下での分解性が低く、また焼却時の発熱が大きいために、上記合成樹脂の使用については環境保護の見地から見直しが必要である。こうした状況のもと、使用後には自然界の微生物の働きにより生分解、すなわち、一旦微生物に取り込まれた分子が、その微生物の行う代謝の結果として水や二酸化炭素となって排出される生分解性樹脂が近年脚光を浴びている。
【0003】
生分解性樹脂には種々の種類があるが、化学合成系の生分解性樹脂としての脂肪族ポリエステル、なかでもトウモロコシ、サトウキビ等を醗酵させて得た乳酸を原料とする非石油系の循環型植物性樹脂であるポリ乳酸(PLA:Poly Lactic Acid )が、性能やコスト面に優れ、特に期待されている。しかし、ポリ乳酸は耐熱性が低く、熱の影響を受けて変形しやすいことから、耐熱性が要求されるような用途には不向きである。
【0004】
一方、樹脂の物性を改良する方法の1つに、ポリマーブレンドあるいはポリマーアロイといわれる技術が従来から知られている。この技術では、物性改良の対象となる樹脂に対し、異種樹脂が混合、混練される。この技術を用いてポリ乳酸の耐熱性を向上させる試みもなされている。例えば、特許文献1には、ポリ乳酸に対し、変性ポリプロピレン樹脂を含有する結晶性ポリプロピレン系樹脂組成物と無機フィラーとを混合したポリ乳酸系樹脂組成物が記載されている。変性ポリプロピレン樹脂は、結晶性ポリプロピレン系樹脂をエチレン性不飽和結合含有カルボン酸、その無水物又は誘導体によってグラフト変性させたものである。
【特許文献1】特開2005−307128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、ポリ乳酸に結晶性ポリプロピレン系樹脂組成物及び無機フィラーを混合する上記特許文献1に記載のポリ乳酸系樹脂組成物では、ポリ乳酸の耐熱性を高めることができる反面、硬質化して曲げ弾性率が高くなる。そのため、このポリ乳酸系樹脂組成物は、耐熱性に加え柔軟性も要求されるような樹脂成形品には適用できないという問題がある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、耐熱性及び柔軟性がともに高いポリ乳酸系樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ポリ乳酸系樹脂(A)と、結晶化度20重量%以下のポリプロピレン(B)と、変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)又は変性ポリオレフィン(C2)とを含むポリ乳酸系樹脂組成物で成形された成形品であって、該成形品は前記ポリ乳酸系樹脂(A)の結晶化を促進する処理が施されていることを要旨とする。
【0008】
上記の構成によれば、ポリ乳酸系樹脂組成物中のポリプロピレン(B)は、結晶化度が20重量%以下と低く柔軟性を有する。また、変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)又は変性ポリオレフィン(C2)は、ポリ乳酸系樹脂(A)及び結晶化度20重量%以下のポリプロピレン(B)の両者に対して相溶性又は分散性を示す。なお、結晶化度20重量%以下のポリプロピレン(B)については、以降、単にポリプロピレン(B)と記載する。
【0009】
そのため、ポリ乳酸系樹脂(A)と、ポリプロピレン(B)と、変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)又は変性ポリオレフィン(C2)とを含むポリ乳酸系樹脂組成物が溶融状態で混合されると、ポリプロピレン(B)が粒径の小さな粒子となり、変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)又は変性ポリオレフィン(C2)によって被覆され、ポリ乳酸系樹脂(A)中に一様に分布した状態で分散される。そして、上記の溶融混合されたポリ乳酸系樹脂組成物が所定の形状に成形されて、冷却固化される。
【0010】
得られたポリ乳酸系樹脂成形品では、ポリプロピレン(B)の粒子がポリ乳酸系樹脂成形品の軟質化に寄与する。そのため、このポリ乳酸系樹脂成形品の柔軟性は、ポリ乳酸系樹脂(A)のみからなるポリ乳酸系樹脂成形品の柔軟性よりも高くなる。また、上記ポリプロピレン(B)の粒子を被覆する変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)又は変性ポリオレフィン(C2)の被膜がポリプロピレン(B)の低い耐熱性を補い、ポリ乳酸系樹脂成形品の耐熱性を向上させる。
【0011】
ところで、上記のようにして得られるポリ乳酸系樹脂成形品の耐熱性は十分高められているとは言い難い。ポリ乳酸系樹脂成形品中、ポリ乳酸系樹脂(A)による部分の耐熱性が依然として低いためである。この点、請求項1に記載の発明では、樹脂成形に際し結晶化を促進する処理が行われることで、ポリ乳酸系樹脂(A)自体の結晶化度が高められて耐熱性が向上する。その結果、上述した変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)又は変性ポリオレフィン(C2)の被膜による耐熱性向上効果と相俟って、ポリ乳酸系樹脂(A)のみからなる場合よりもポリ乳酸系樹脂成形品の耐熱性が高くなる。
【0012】
ここで、上記ポリ乳酸系樹脂組成物においては、請求項2に記載の発明によるように、ポリ乳酸系樹脂(A)の90〜10重量部に対し、ポリプロピレン(B)が10〜90重量部配合されることが好ましい。ポリ乳酸系樹脂(A)及びポリプロピレン(B)の合計を100重量部とした場合、ポリ乳酸系樹脂(A)が10重量部よりも少ないと耐熱性が低下し、90重量部よりも多いと柔軟性の確保が困難になる。
【0013】
また、ポリ乳酸系樹脂(A)及びポリプロピレン(B)の合計100重量部に対し、変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)又は変性ポリオレフィン(C2)が、1〜20重量部配合されることが好ましい。1重量部よりも少ないと、被膜によるモルフォロジーの安定化が図れず、外観及び耐熱性の向上効果が得られにくい。20重量部よりも多いと、被膜が過度に厚くなって、ポリプロピレン(B)による柔軟性向上効果が損なわれ、ポリ乳酸系樹脂成形品が硬くなる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記ポリ乳酸系樹脂組成物に結晶核剤を添加したことを要旨とする。
上記の構成によれば、結晶核剤の添加により、ポリ乳酸系樹脂成形品の成形時における結晶化が促進される。結晶核剤が用いられない場合に比べ、ポリ乳酸系樹脂成形品の耐熱性が向上する。
【0015】
なお、上記変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)としては、請求項4に記載の発明によるように、無水マレイン酸により変性されたエチレン−プロピレン共重合体(EPR)を用いることができる。
【0016】
また、上記変性ポリオレフィン(C2)としては、請求項5に記載の発明によるように、無水マレイン酸により変性されたポリプロピレンや、請求項6に記載の発明によるように、エポキシ変性剤により変性されたポリエチレンを用いることができる。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1つに記載の発明において、前記結晶化を促進する処理はアニール処理であることを要旨とする。このアニール処理としては、例えば請求項8に記載の発明によるように、樹脂成形に際し、樹脂成形金型の表面温度が前記ポリ乳酸系樹脂(A)の結晶化温度に保持されてもよい。
【0018】
表面温度が上記ポリ乳酸系樹脂(A)の結晶化温度に保持された樹脂成形金型を用いて樹脂成形が行われることにより、ポリ乳酸系樹脂(A)の結晶化が進行して結晶化度が高くなり、ポリ乳酸系樹脂成形品の耐熱性が向上する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐熱性及び柔軟性がともに高いポリ乳酸系樹脂成形品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明をより詳細に説明する。上述のように、本発明のポリ乳酸系樹脂成形品の成形に用いられるポリ乳酸系樹脂組成物は、基本的には、ポリ乳酸系樹脂(A)と、結晶化度20重量%以下のポリプロピレン(B)と、変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)又は変性ポリオレフィン(C2)とを含有してなる。次に、これらの各成分について説明する。
【0021】
<ポリ乳酸系樹脂(A)>
ポリ乳酸系樹脂(A)とは乳酸を主成分とするポリエステルであって、ポリ乳酸系樹脂組成物を用いて製造されるポリ乳酸系樹脂成形品に生分解性を付与するために用いられる。ポリ乳酸系樹脂(A)は乳酸を好ましくは50%以上、特に好ましくは75%以上含有する。ポリ乳酸系樹脂(A)の原料に用いられる乳酸類としては、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸、又はそれらの混合物、又は乳酸の環状2量体であるラクチドが挙げられる。
【0022】
ポリ乳酸系樹脂(A)は、本発明の目的を損なわない範囲において、その他の成分として、乳酸以外の炭素数2〜10の脂肪族ヒドロキシカルボン酸、又は脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオール等からなるもの、また、テレフタル酸等の芳香族化合物を含有するものであってもよい。これらを主成分とするホモポリマー、コポリマー又はこれらの混合物を含むものであってもよい。また、ポリ乳酸系樹脂(A)は、ポリ乳酸に対し、ポリ乳酸を脂肪族及び芳香族ポリエステルにより変性した変性ポリ乳酸が加えられたものであってもよい。
【0023】
ポリ乳酸系樹脂(A)は、上記原料を直接脱水重縮合する方法、又は上記乳酸類やヒドロキシカルボン酸類の環状2量体、例えばラクチドやグリコライド、あるいはε−カプロラクトンのような環状エステル中間体を開環重合させる方法により得られる。ポリ乳酸系樹脂(A)の重量平均分子量は、7万≦重量平均分子量<300万が好ましく、10万≦重量平均分子量≦150万がより好ましい。
【0024】
<ポリプロピレン(B)>
一般に高分子では、同じ化学構造であっても、立体異性(規則性)により結晶化のしやすさが異なる。ポリプロピレンの場合、立体異性(規則性)には、主鎖に対し側鎖(メチル基)が全て同じ側で結合しているアイソタクティック構造、交互に結合しているシンジオタクティック構造、全く規則性なく結合しているアタクティック構造がある。そして、アイソタクティック構造、シンジオタクティック構造、アタクティック構造の順に結晶化しにくくなる。
【0025】
ポリプロピレン(B)としては、結晶化度が20重量%以下のものが用いられる。より好ましい結晶化度は15重量%以下である。結晶化度は全体組織の中に占める結晶構造の重量比率である。結晶化度の大きな樹脂ほど結晶性の性質がより強く発現する傾向にある。
【0026】
結晶化度について上記の条件を満たすポリプロピレン(B)には、立体異性としてアタクティック構造を有し、結晶化度が0重量%である非結晶性ポリプロピレンが含まれる。また、ポリプロピレン(B)には、非結晶性ポリプロピレンに結晶性ポリプロピレンがブレンドされたものも含まれる。
【0027】
ポリプロピレン(B)は、ポリ乳酸系樹脂(A)90〜10重量部に対し10〜90重量部配合されることが好ましい。ポリ乳酸系樹脂(A)及びポリプロピレン(B)を合計で100重量部とした場合、ポリ乳酸系樹脂(A)が10重量部よりも少ないと耐熱性が低下するという不具合があり、90重量部よりも多いと柔軟性の確保が困難であるという不具合がある。
【0028】
<変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)>
エチレン−α−オレフィン共重合体は、エチレンとα−オレフィン、すなわち、末端部分に2重結合を有するオレフィンとの共重合により得られる重合体であり、例えばエチレン−プロピレン共重合体(EPR)が挙げられる。そして、変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)としては、エチレン−プロピレン共重合体(EPR)が、エチレン性不飽和結合含有カルボン酸の無水物、好ましくは不飽和カルボン酸の無水物である無水マレイン酸によってグラフト変性されたものが用いられる。なお、エチレン性不飽和結合含有カルボン酸、又はその無水物は、1分子内に、エチレン性不飽和結合とカルボキシル基を合わせ持つ化合物であり、その1つに上記無水マレイン酸が含まれている。
【0029】
<変性ポリオレフィン(C2)>
変性ポリオレフィン(C2)としては、変性ポリプロピレン(PP)又は変性ポリエチレン(PE)が挙げられる。
【0030】
変性ポリプロピレンとしては、結晶性ポリプロピレンが、エチレン性不飽和結合含有カルボン酸の無水物、好ましくは不飽和カルボン酸の無水物である無水マレイン酸によってグラフト変性されたものが用いられる。ここでは、変性ポリプロピレンとして、結晶性ポリプロピレンの主鎖又は側鎖に無水マレイン酸を構成単位として含むものが挙げられる。
【0031】
変性ポリエチレンとしては、エポキシ変性剤によって変性されたポリエチレン、例えば不飽和エポキシ化合物とエチレンとの共重合体が用いられる。この共重合体には、ランダム、ブロック、グラフトいずれの共重合体も含まれる。不飽和エポキシ化合物とは、不飽和結合及びエポキシ基をともに含有する化合物を意味する。このような不飽和エポキシ化合物としては、例えばグリシジルメタクリレート(GMA)、グリシジルアクリレート(GA)、アリルグリシジルエーテル、グリシジル化合物等が挙げられる。不飽和エポキシ化合物とエチレンとの共重合体は単独で使用してもよく、また2種以上を併用することもできる。
【0032】
不飽和エポキシ化合物とエチレンとの共重合体は、特に、ポリエチレンに不飽和エポキシ化合物(エポキシ変性剤)がグラフトしてなるグラフト共重合体が好ましい。ベースのポリエチレンとしては、例えば高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)及び超低密度ポリエチレン(VLDPE)のいずれをも使用でき、またこれらを併用してもよい。さらに、ブテン−1、ヘキセン等の他成分が共重合していてもよい。
【0033】
ポリエチレンとエポキシ変性剤との反応は、溶液法又は溶融混練法のいずれでも行うことができ、好ましくは溶融混練法で行う。また触媒として通常のラジカル重合用触媒(例えば過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物等)を用いることができる。この反応において、エポキシ変性剤はポリエチレンにグラフト重合する。
【0034】
上記変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)又は変性ポリオレフィン(C2)は、上記ポリ乳酸系樹脂(A)及び上記ポリプロピレン(B)の合計100重量部に対し、1〜20重量部配合されることが好ましい。1重量部よりも少ないと、被膜によるモルフォロジーの安定化が図れず、外観、耐熱性の向上効果が得られにくいという不具合があり、20重量部よりも多いと、被膜が過度に厚くなって、ポリプロピレン(B)による柔軟性向上効果が損なわれ、ポリ乳酸系樹脂成形品が硬くなるという不具合がある。
【0035】
なお、本実施形態のポリ乳酸系樹脂組成物には、その他の成分として、必要に応じて各種添加剤が同ポリ乳酸系樹脂組成物の物性を損なわない範囲で添加されてもよい。各種添加剤としては、例えば、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収(防止)剤、顔料、着色剤、静電気(帯電)防止剤、離型剤、香料、抗菌剤、防カビ剤、難燃剤、発泡剤、可塑剤、加水分解防止剤、防曇剤、滑剤等が挙げられる。
【0036】
本実施形態のポリ乳酸系樹脂組成物は、例えば、所定量の上記各成分を高速攪拌機に投入して攪拌することにより均一に混合される。そして、得られたポリ乳酸系樹脂組成物から所望の形状を有するポリ乳酸系樹脂成形品を製造するには、まず、ポリ乳酸系樹脂組成物が例えば1軸又は2軸押出機により所定温度で均一に溶融混練され造粒される。分散をよくする点では、1軸押出機よりも2軸押出機が適している。造粒されたペレットが射出成形機内で溶融され、型締めされた金型内のキャビティに射出される。
【0037】
ここで、上記溶融樹脂中のポリプロピレン(B)は、結晶性ポリプロピレンに比べて結晶化度が低く柔軟性を有する。また、変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)又は変性ポリオレフィン(C2)は、ポリ乳酸系樹脂(A)及びポリプロピレン(B)の両者に対して相溶性又は分散性を示す。相溶性又は分散性を示すとは、ポリ乳酸系樹脂(A)及びポリプロピレン(B)の両成分に対し混和性を有し、両成分と溶融混合した後においても相分離等を生じない特性を示すことを意味する。
【0038】
そのため、上記溶融樹脂においては、ポリ乳酸系樹脂組成物のモルフォロジーが次のような海島構造となる。すなわち、ポリプロピレン(B)が粒径の小さな粒子となり、各々の粒子が、変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)又は変性ポリオレフィン(C2)によって被覆されて島状となり、海状のポリ乳酸系樹脂(A)中に一様に分布した状態で分散される。この際、変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)又は変性ポリオレフィン(C2)は、ポリ乳酸系樹脂(A)中におけるポリプロピレン(B)の分散状態を良好なものとする。この点、汎用の結晶性ポリプロピレンが使用されると混合分散状態が不良となるのと大きく異なる。
【0039】
そして、上記溶融樹脂がキャビティに充填された後に樹脂成形金型が冷却されると、溶融樹脂が冷却固化されて所望の形状を有するポリ乳酸系樹脂成形品が得られる。その後、樹脂成形金型が型開きされて、ポリ乳酸系樹脂成形品が取り出される。
【0040】
なお、ポリ乳酸系樹脂組成物の調製方法、及びポリ乳酸系樹脂成形品の成形方法に関しては、上記の方法に限定されるものではない。すなわち、ポリ乳酸系樹脂組成物を調製する方法としては、例えば、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等を用いる方法が挙げられる。また、ポリ乳酸系樹脂成形品の成形方法としては、例えば、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形、異形押出成形、真空圧空成形等が挙げられる。
【0041】
上記のようにして得られたポリ乳酸系樹脂成形品では、ポリプロピレン(B)自体、結晶化度が低く柔軟性を有しており、これがポリ乳酸系樹脂成形品の軟質化に寄与している。そのため、同ポリ乳酸系樹脂成形品はポリ乳酸系樹脂(A)のみからなるポリ乳酸系樹脂成形品の場合よりも柔軟性が高くなる。
【0042】
また、ポリプロピレン(B)の粒子が小さく、かつ一様に分布した状態で分散されていることからポリ乳酸系樹脂成形品の表面が平滑となって、外観が向上する。
上記ポリプロピレン(B)の粒子を被覆する変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)又は変性ポリオレフィン(C2)の被膜が、ポリプロピレン(B)の低い耐熱性を補い、ポリ乳酸系樹脂成形品の耐熱性を向上させる。
【0043】
ところで、上記のようにして得られるポリ乳酸系樹脂成形品の耐熱性は全体としては十分高められているとは言い難い。ポリ乳酸系樹脂成形品中ポリ乳酸系樹脂(A)による部分、すなわち海島構造における海部分の耐熱性が依然として低いためである。これは、ポリ乳酸系樹脂(A)は結晶性樹脂であるものの、結晶化速度が遅く、ポリ乳酸系樹脂成形品の成形過程で結晶化が進んでいないためである。
【0044】
そこで、上記樹脂成形に際し、ポリ乳酸系樹脂(A)の結晶化を促進する処理が行われる。この処理として、本実施形態ではアニール処理が行われる。より具体的には、樹脂成形金型の表面温度がポリ乳酸系樹脂(A)の結晶化温度である110℃に保持されて樹脂成形が行われる。このアニール処理により、ポリ乳酸系樹脂(A)の結晶化が進行して結晶化度が高くなり、耐熱性が向上する。
【0045】
上述したアニール処理は、樹脂成形金型の表面温度を調整することにより同樹脂成形金型内で樹脂成形と一緒に行われる、いわゆる型内アニールとも言えるものであるが、これに代えて、アニール処理が射出成形の後に行われてもよい。例えば、アニール処理が射出成形後に真空乾燥機等の乾燥機を用いて行われてもよい。
【0046】
さらに、前記アニール処理は、前記ポリ乳酸系樹脂(A)に結晶核剤が配合された状態で行われることが好ましい。結晶核剤は、成形時におけるポリ乳酸系樹脂組成物の結晶性(結晶化速度)を高めるために添加される。結晶核剤としては、結晶とよく似た物質が用いられる。溶融された材料に結晶核剤を入れ、冷却していくと、結晶核剤付近に分子が規則正しく並び、これが出発点となって結晶化が進む。
【0047】
この種の結晶核剤は、無機系のものと有機系のものとに区分される。無機系の結晶核剤としては、例えば、タルク、カオリン、カオリナイト、カオリンクレー、硫酸バリウム、シリカ、乳酸カルシウム、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。有機系の結晶核剤としては、例えば、芳香族カルボン酸金属塩、芳香族リン酸エステル類、芳香族アミド・エステル類、脂肪酸アミド、有機スルホン酸塩、ロジン酸誘導体、ベンジリデンソルビトール化合物、植物系ワックス、(メタ)アクリル酸系コポリマーの金属塩等が挙げられる。また、有機系の結晶核剤としては、例えば、陽イオン交換能を有する層状粘土鉱物が有機アンモニウム塩化合物により有機化されている有機化粘土が用いられてもよい。これらの結晶核剤は、単独で用いられてもよく、二種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0048】
結晶核剤は、ポリ乳酸系樹脂(A)の100重量部に対し、0.1〜10重量部添加されることが好ましい。0.1重量部よりも少ないと、ポリ乳酸系樹脂組成物の結晶性が十分に高められず、10重量部よりも多いと、結晶核剤の分散が不十分となり、外観向上効果が得られにくくなる。
【0049】
上記結晶核剤の添加により、ポリ乳酸系樹脂成形品の成形時における結晶化が促進される。結晶核剤が用いられずにアニール処理が行われる場合に比べ、ポリ乳酸系樹脂成形品の耐熱性が一層向上する。その結果、上述した変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)又は変性ポリオレフィン(C2)の被膜による耐熱性向上効果と相俟って、ポリ乳酸系樹脂(A)のみからなる場合よりもポリ乳酸系樹脂成形品の耐熱性が高くなる。
【0050】
上記ポリ乳酸系樹脂成形品は、電気・電子部品、建築土木部材、自動車部品、農業資材、包装材料、衣料、日用品等々、各種用途に利用することができる。例えば、自動車部品としては、インストルメントパネル、センターコンソール、コンソールボックス、リヤパッケージトレイ、カップホルダー、アシストグリップ等の内装部品、ホイールキャップ、バンパーモール、バックパネル等の外装部品等が挙げられる。
【実施例】
【0051】
次に、前記実施形態について、実施例及び比較例を挙げてさらに具体的に説明する。
まず、実施例1〜8及び比較例1〜5の各々について、表1の上欄に示す各成分を配合し、その後、2軸押出機にて200℃にて混練した。成形温度を200℃に設定するとともに、樹脂成形金型の表面温度を110℃に保持して射出成形することにより、予め定められた形状及び大きさを有する試験片を成形した。そして、得られた試験片の各々に関し、下記に示す測定及び評価を行った。その結果を表1の下欄に示す。なお、表1中、配合内容における各数値は重量部を意味する。また、配合内容における各成分としては、表1の下部に記載した材料を使用した。また、上記処理中、樹脂成形金型の表面温度を110℃に保持しながら射出成形する処理はアニール処理に相当する。
【0052】
また、配合内容中、ポリ乳酸及び変性ポリ乳酸(表1では「変性PLA」と記載)については、ポリ乳酸系樹脂(A)として使用した。非結晶性ポリプロピレン単独、非結晶性ポリプロピレンに結晶性ポリプロピレンがブレンドされたものについては、ポリプロピレン(B)として使用した。無水マレイン酸変性ポリプロピレン及びエポキシ変性ポリエチレンについては、変性ポリオレフィン(C2)として使用した。無水マレイン酸変性EPRについては、変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)として使用した。
【0053】
<柔軟性の評価>
柔軟性の評価として、曲げ弾性率をISO178に準拠して測定した。曲げ弾性率の数値が大きいと硬く、数値が小さくなるほど柔軟性に優れていることを意味する。
【0054】
<耐熱性の評価>
耐熱性の評価として、耐熱歪量をISO75−2に準拠して測定した。測定に際しては、一定速度(120℃/時間)で昇温するオイルバス中に試験片を配置し、これに一定の荷重を加えたときの同試験片の110℃での歪み量を耐熱歪量とした。耐熱歪量の数値が小さいほど歪量が少なく耐熱性に優れていることを意味する。
【0055】
<表面外観の評価>
表面外観の評価として、試験片表面の平滑性を目視により官能評価した。試験片の表面に凹凸が見られず平滑である場合に「○」と判定し、それ以外の場合、すなわち試験片の表面にわずかでも凹凸が見られる場合に「×」と判定した。
【0056】
【表1】

表1中、ポリ乳酸系樹脂組成物がポリ乳酸及び結晶核剤からなる比較例1は、各例での評価の基準となる。比較例1では曲げ弾性率が大きく柔軟性に欠けるものの、耐熱歪量が少なく耐熱性がよいことがわかる。このことから、結晶核剤の添加及びアニール処理により結晶化が促進されて結晶化度が大きくなり、耐熱性が向上しているものと考えられる。
【0057】
また、ポリ乳酸に、非結晶性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン及び結晶核剤を配合した実施例2では曲げ弾性率及び耐熱歪量がともに小さかった。これに対し、非結晶性ポリプロピレンに代えて、結晶性ポリプロピレンが配合された比較例2では曲げ弾性率が大きかった。これらのことから、非結晶性ポリプロピレンが柔軟性の向上に寄与していることがわかる。また、無水マレイン酸変性ポリプロピレンが非結晶性ポリプロピレンを被覆することにより、耐熱性の向上効果が得られることがわかる。
【0058】
比較例3,4及び実施例1〜4からは、ポリ乳酸に対する非結晶性ポリプロピレンの配合割合に適切な範囲があることがわかる。ポリ乳酸95重量部に対し非結晶性ポリプロピレンを5重量部配合した比較例3では、曲げ弾性率が比較例1並に大きかった。これは、非結晶性ポリプロピレンが適正量よりも少なく、軟質化効果が十分得られていないためと考えられる。ポリ乳酸5重量部に対し非結晶性ポリプロピレンを95重量部配合した比較例4では、曲げ弾性率が小さくなるものの、耐熱歪量が増大し、耐熱性が大きく悪化した。非結晶性ポリプロピレン自体が柔軟性を有する反面耐熱性に劣る特性を有するところ、この特性が試験片の物性に大きく反映されていることがわかる。
【0059】
ポリ乳酸に、非結晶性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン及び結晶核剤を配合した実施例2、同無水マレイン酸変性ポリプロピレンに代えて無水マレイン酸変性EPRを配合した実施例4、同無水マレイン酸変性ポリプロピレンに代えてエポキシ変性ポリエチレンを配合した実施例7では、曲げ弾性率が小さく、かつ耐熱歪量が少なかった。これに対し、ポリ乳酸に非結晶性ポリプロピレンを配合するが、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、エポキシ変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性EPRのいずれをも配合していない比較例5では曲げ弾性率が小さくなっているものの、耐熱歪量が大きく、耐熱性がよくなかった。これらのことから、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、エポキシ変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性EPRが耐熱性向上に寄与していることがわかる。
【0060】
さらに、実施例5では、ポリ乳酸系樹脂(A)として、ポリ乳酸及び変性ポリ乳酸を用い、これに非結晶性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン及び結晶核剤を配合している。この場合にも、ポリ乳酸系樹脂(A)としてポリ乳酸のみを用い、これに非結晶性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン及び結晶核剤を配合した実施例2と同様に、曲げ弾性率及び耐熱歪量としてともに小さな値が得られた。
【0061】
また、実施例6は、非結晶性ポリプロピレン(結晶化度0重量%)40重量部に結晶性ポリプロピレン(結晶化度60重量%)10重量部をブレンドしている。これは、結晶化度が15重量%のポリプロピレンに相当する。そして、これらにポリ乳酸、無水マレイン酸変性ポリプロピレン及び結晶核剤を配合している。この場合にも、結晶性ポリプロピレンをブレンドしていない実施例1〜3と同様に、曲げ弾性率及び耐熱歪量としてともに小さい値が得られた。
【0062】
結晶核剤を用いていない点において実施例3と異なる実施例8では、耐熱歪量として実施例3に近い値が得られた。このことから、無水マレイン酸変性ポリプロピレンが非結晶性ポリプロピレンを被覆して低い耐熱性を補い、さらにアニール処理を行うことで、結晶核剤なしでも実施例3には及ばないが十分な耐熱性を実現できることがわかる。
【0063】
表面外観として、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、エポキシ変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性EPRのいずれをも配合していない比較例5では、試験片の表面に微小な凹凸が見られ、同表面が平滑でなかった。無水マレイン酸変性ポリプロピレンが配合されているものの、ポリ乳酸の配合量が少ない比較例4でも同様に凹凸のある表面外観が見られた。これに対し、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、エポキシ変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性EPRのいずれか1種が配合され、かつポリ乳酸系樹脂(A)90〜10重量部に対しポリプロピレン(B)が10〜90重量部配合されている実施例1〜8では、いずれも試験片の表面に凹凸が見られず、同表面が平滑であった。これらのことから、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等の配合により、ポリプロピレンの粒子が小さく、かつ一様に分布した状態で分散されていて、その結果として、試験片の表面が平滑となって、外観が向上しているものと考えられる。また、こうした効果は、ポリ乳酸系樹脂(A)がある程度の量配合されていることを前提として得られるとも考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂(A)と、結晶化度20重量%以下のポリプロピレン(B)と、変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)又は変性ポリオレフィン(C2)とを含むポリ乳酸系樹脂組成物で成形された成形品であって、該成形品は前記ポリ乳酸系樹脂(A)の結晶化を促進する処理が施されていることを特徴とするポリ乳酸系樹脂成形品。
【請求項2】
前記ポリ乳酸系樹脂(A)90〜10重量部に対し前記結晶化度20重量%以下のポリプロピレン(B)が10〜90重量部配合され、さらに、前記ポリ乳酸系樹脂(A)及び前記結晶化度20重量%以下のポリプロピレン(B)の合計100重量部に対し前記変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)又は前記変性ポリオレフィン(C2)が1〜20重量部配合されている請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂成形品。
【請求項3】
前記ポリ乳酸系樹脂組成物に結晶核剤を添加した請求項1又は2に記載のポリ乳酸系樹脂成形品。
【請求項4】
前記変性エチレン−α−オレフィン共重合体(C1)は、無水マレイン酸により変性されたエチレン−プロピレン共重合体である請求項1〜3のいずれか1つに記載のポリ乳酸系樹脂成形品。
【請求項5】
前記変性ポリオレフィン(C2)は、無水マレイン酸により変性されたポリプロピレンである請求項1〜4のいずれか1つに記載のポリ乳酸系樹脂成形品。
【請求項6】
前記変性ポリオレフィン(C2)は、エポキシ変性剤により変性されたポリエチレンである請求項1〜4のいずれか1つに記載のポリ乳酸系樹脂成形品。
【請求項7】
前記結晶化を促進する処理はアニール処理である請求項1〜6のいずれか1つに記載のポリ乳酸系樹脂成形品。
【請求項8】
前記アニール処理として、樹脂成形に際し、樹脂成形金型の表面温度が前記ポリ乳酸系樹脂(A)の結晶化温度に保持される請求項7に記載のポリ乳酸系樹脂成形品。

【公開番号】特開2008−81585(P2008−81585A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262389(P2006−262389)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】