説明

ポリ塩化ビニル系防滑床材

【目的】それ自体高価で且つ付帯装置を必要とするエンボスロールを使用せずに、表面に凹凸模様を有する防滑床材の提供。
【解決手段】ポリエステル基布2の表面に、所定の配合のポリ塩化ビニル配合物で、凸部の高さを凹凸部が形成された表面から測定して0.4mmのポリ塩化ビニル凹凸模様層1を形成し、所定の配合のポリ塩化ビニル配合物でポリ塩化ビニル層3を形成し、所定の配合のポリ塩化ビニル配合物でポリ塩化ビニル中間層4を形成絵し、全層を基材5を接合一体化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニル系防滑床材に関し、更に詳しくは、表面にポリ塩化ビニルのコーティングで凹凸模様を形成したポリエステル基布と一体化した塩化ビニル系防滑床材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル系床材(以下、「ポリ塩化ビニル」を、単に「塩ビ」という)は、タイルとシートに二大別される。塩ビタイルは約30cm角や45cm角などの正方形で、タイルのように貼り詰めて床を保護、装飾するタイプで、塩ビシートは一般には幅1.82mの長尺の製品で、床全体に敷き詰めて使用する。発泡塩ビ層の上にグラビア印刷した塩ビ層を重ねたクッションフロアといったファッション性に富んだ床材が誕生した。
【0003】
最近は合成樹脂系の床材としてポリオレフィン系の製品も開発されてきてはいるが、.加工性が良い、強度があり傷つきにくい、意匠性・デザイン性に優れ鮮やかな彩色が可能、.燃えにくい、価格が安い、さらには環境に良い水系の接着剤にも適合するといった特性も有し、また、農ビのリサイクルなどに大きく貢献している点も塩ビ床材の長所である。
【0004】
従来の代表的な塩ビ床材を構成材料から分類すると、天然繊維、合成繊維などの織布を裏打ち材とし、充填材を多く含んだ塩化ビニル中間層と、比較的純度の高い塩化ビニル表層を積層した発泡層のない長尺塩ビシート、紙、フェルト、ガラス繊維などの不織布またはビニル層を裏打ち材とし、着色した塩化ビニルチップを塩化ビニルで積層したインレイドシート、織布、不織布、塩化ビニルなどの裏打ち材または塩化ビニルの中間層の上に着色した塩化ビニルチップを積層し、さらに透明な塩化ビニル表層を設けたソフトインレイドシート、裏打ち材の上に発泡塩化ビニル層または着色したビニルチップを積層して表層を設けた発泡層のある複合塩ビシート、或いは裏打ち材の上にパターンを印刷した発泡塩化ビニル層を中間層として設け、透明な塩化ビニル表層を設けた発泡層のあるクッションフロアシート等に大別される。
【0005】
このような床材の基本的性能として、耐摩耗性、寸法安定性、装飾性、軽量、クッション性、ソフトな歩行感、吸音性、耐傷性等の他に、防滑性、即ち、歩行時に滑るのを防止する性質が極めて重要である。
【0006】
床材に防滑性を付与する方法としては、従来から、型押しなどの方法によりクッションフロアーなどの床材の表面に凹凸模様、いわゆるエンボス加工を施すことが主流である。この場合、エンボス加工は、エンボスロールと呼ばれる型付け用ローラーを使用し、加熱しながら行われる。
【0007】
エンボスロールは、鉄芯ロールまたは銅メッキを施したロールの表面に、各種の形状のミル、工具を使用して所望の彫刻をし、さらにクロムメッキ、或いはニッケルクロムメッキを施して、耐久性を向上させるという手順で製造され、高価なものである。
【0008】
極めて複雑な模様、幾何模様、或いは格子、亀甲等充填模様のような場合は、エンボスルロールを必要とするが、線、筋、点、或いはこれらを組合せたような単純なエンボスの場合、或いは製造ロットによっては、わざわざエンボスロールを製造することは、割高になる場合がある。
【0009】
さらに、エンボスロールを使用する場合は、エンボスロールと加圧ロール(バックアップロール)の最低2個のロールを必要とする。従って、樹脂製の床材、壁材、天井材、外壁材等シートを加工しながら、その表面にエンボス加工を施そうとすると、装置全体が大きくなる。この場合、極めて複雑な模様、幾何模様、或いは格子、亀甲等充填模様のような場合や、大量に生産する場合には、コストも吸収できるが、単純なエンボスの場合、或いは小ロットの場合には、割高になる場合がある。
【0010】
エンボスロールを利用する方法を開示した特許文献は無数にあるが、たとえば特許文献1は、「エンボス模様表面を有するビニル樹脂シート材の成型法」を開示している。この従来法は、焼結層を利用し、カーペットパイルに長い突起をエンボス法で形成する方法を開示している。
【0011】
特許文献2は、透明熱可塑性樹脂を押し出して直ちにエンボスロールに圧着し、エンボス形状の再現性がよいエンボス化粧シートの製造方法を開示している。
【0012】
さらに、特殊な模様付与方法としてエンボスロールを使用しないインレイド チップ・ペレットを利用する方法がある。
【0013】
たとえば、特許文献3は、概略、比較的熟成度が低いリノリウム組成物粒子をステンシル法で裏打材上に載置しテッセラ模様を形成し、熟成リノリウム組成物粒子で目地をステンシル法で埋め、加工プレス板で押圧し、最初の厚さの1/3に圧縮し、所定時間経過後、プレスから取り出すと、圧縮された組成物がわずかに膨張し、目地部はテッセラ模様部よりも顕著に膨張したモザイク模様を形成する方法を開示している。
【0014】
特許文献3、4、5等も同じように、エンボスロールを使用しないインレイドチップ・ペレットを利用した床材を製造する方法を開示している。
【0015】
しかしながら、インレイド チップ・ペレットを利用した床材を製造する方法は、エンボスロールを使用しない方法ではあるが、形成される模様は非常に装飾性に富んでいて、単に、ノンスリップ(ノンスキッド)を目的としたものでない。
【特許文献】
【特許文献1】米国特許第3,192,294号
【特許文献2】特開平5−278137号
【特許文献3】米国特許第1,728,398号
【特許文献4】米国特許第1,754,253号
【特許文献5】米国特許第1,872,998号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、高価なエンボスロールを使用せずに、ポリ塩化ビニル系防滑床材を製造する方法およびポリ塩化ビニル系防滑床材を提供することである。
【0017】
本発明が解決しようとするさらに別の課題は、エンボスロールを使用せずに、ポリエステル基布にポリ塩化ビニル樹脂で凹凸模様をコーティングし、それを表面層として使用して、所定の構造の下地と一体化して床材とする方法および床材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
従来、エンボスロールを使用して樹脂シートにエンボス加工する場合は、所定模様を彫刻したエンボスロールを樹脂シートの表面に押圧し、加熱して型付けし、樹脂で固定して形成する。いうなれば、焼きごてを押して母材樹脂シートに凹凸模様を形成しているようなものであり、同一融点を有している母材樹脂と、エンボスを形成する樹脂で、母材樹脂シートの地に凹凸模様を形成していることになる。
【0019】
そこで、本発明者は、あらかじめ、ポリエステル基布の表面に、ポリ塩化ビニル樹脂で凹凸模様をコーティングし、それとポリ塩化ビニル樹脂層、ポリ塩化ビニル樹脂中間層、および基布を、この順序で一体化して床材とすることにより、前記ポリエステル基布の表面に形成されたポリ塩化ビニル樹脂の凹凸模様により防滑効果を奏功させることを目的とするものである。
【0020】
従って、本発明の床材は、(1)ポリ塩化ビニル樹脂の凹凸模様層、(2)ポリエステル繊維織布、(3)ポリ塩化ビニル樹脂層、(4)ポリ塩化ビニル樹脂中間層および(5)基布の5層構造である。
【0021】
本発明の床材のポリ塩化ビニル樹脂の凹凸模様層に関して説明する。凹凸部の構造は、凸部の高さは、凹凸部が形成された表面から測定して0.1〜0.4mmの範囲で任意に設定することができる。従って、凹部の深さも0.1〜0.4mmの範囲となる。凸部の高さが0.1mm以下の場合、防滑効果が低くなるので好ましくない、逆に0.4mm以上になると、防滑効果が大きくなりすぎて、幼児、老人、病者、身体弱者等の歩行、あるいは台車等の走行に支障をきたすので好ましくない。
【0022】
本発明の床材は、従来床材の裏打ち材として単品で使用していた各種材料を基布として使用し、その表面にポリ塩化ビニル樹脂の凹凸模様をコーティングするものである。
【0023】
従って、この基布は、ポリ塩化ビニル樹脂の凹凸模様をコーティングする支持材としてではなく、床材全体の寸法安定性及び層間剥離防止効果を奏功させるものである。
【0024】
本発明で使用する基布としては、天然繊維、合成繊維などの織布、紙、フェルト、ガラス繊維などの不織布等従来から使用していたものから任意に選択できる。しかしながら、寸法安定性等各種物性の点から、ポリエステル繊維の平織り、即ち寒冷紗が最も好ましい。
【0025】
ポリエステル繊維の平織り、即ち寒冷紗としては、たとえば、下記の諸元のものが好ましい。
タテ ヨコ
使用原糸 250 250
密度(本/in) 25 24
厚み(mm) 0.15
重さ(g/m2) 54
引張強度(kg/3cm) 54 50
引張伸度(%) 15 15
引裂強度(kg) SLIP SLIP
【0026】
凹凸模様を形成するためのポリ塩化ビニル樹脂としては、例えば、下記の配合のペーストレジンが好ましい。
配合成分質量部
ペーストレジン(P−1300) 100
可塑剤(DOP) 50
充填剤(炭酸カルシウム) 50
安定剤(Ba−Ca−Zn系) 3
エポキシ化大豆油 2
顔料 5
【0027】
本発明の床材の中間層は、本発明の床材の主要構成要素で、ポリ塩化ビニルのソリッド層である。この厚さは、2.0〜2.5mmの範囲が好ましい。この層は、未使用(バージン)塩ビだけではなく、農ビ100%、または農ビと未使用(バージン)塩ビの混合物を使用して製造される。農ビを使用すれば、農ビ、即ち、使用済み塩ビのリサイクルに大きく貢献することができる。
【0028】
従って、上記課題は下記の各項に記載した手段により解決することができる。
1.ポリエステル基布の表面にコ−ティングされたポリ塩化ビニル樹脂から成る凹凸模様層、ポリエステル基布、ポリ塩化ビニル樹脂層、ポリ塩化ビニルを主材とする中間層、および基材層の5層から構成されたポリ塩化ビニル系防滑床材。
【0029】
2.前記1項において、凸部の高さが、凹凸部が形成された表面から測定して0.1〜0.4mmの範囲で任意に設定すること。
【0030】
3.前記1〜2項のいずれか1項において、基布が、ポリエステル製織布である。
【発明の効果】
【0031】
請求項1の発明により、高価で且つ付帯装置を必要とするエンボスロールを使用せずに、床材として本来要求される寸法安定性を保持した上で、防滑性能がある床材を提供することができる。
【0032】
請求項2の発明により、凸部の高さを凹凸部が形成された表面から測定して0.1〜0.4mmの範囲で任意に設定することにより、幼児、老人、病者、身体弱者等の歩行、あるいは台車等の走行に支障を来さない程度で防滑性能を付与することができる。
【0033】
請求項3の発明により、基布をポリエステル製織布とすることにより、基布をポリ塩化ビニル樹脂の凹凸模様をコーティングする支持材としてではなく、床材全体の寸法安定性及び層間剥離防止効果を奏功させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、発明を実施するための最良の形態を図面を参照して実施例により説明する。
【実施例】
図1は、本発明の1実施例による床材の断面図である。1は表面凹凸層、2はポリエステル基布、3はポリ塩化ビニル層、4はポリ塩化ビニル中間層、5は基材層である。
【0035】
表面凹凸層1として、ポリエステル基布2の表面に、下記の配合で凸部の高さを凹凸部が形成された表面から測定して0.4mmのポリ塩化ビニル凹凸模様層を形成した。
配合成分質量部
ペーストレジン(P−1300) 100
可塑剤(DOP) 50
充填剤(炭酸カルシウム) 50
安定剤(Ba−Ca−Zn系) 3
エポキシ化大豆油 2
顔料 5
【0036】
下記の配合で厚さ2.0mmの中間層4を形成した。
配合成分質量部
使用済み農ビ 100
可塑剤(DINP) 23
安定剤(AP628 Ba−Zn系、粉体) 4.3
着色剤 0.2
【0037】
基布2としては、下記のポリエステル平織りを使用した。
タテ ヨコ
使用原糸 250 250
密度(本/in) 25 24
厚み(mm) 0.15
重さ(g/m2) 54
引張強度(kg/3cm) 54 50
引張伸度(%) 15 15
引裂強度(kg) SLIP SLIP
【0038】
基材層5は、基布と同じポリエステル製寒冷紗を使用した。
【0039】
寸法安定性テスト
実施例1で製造した床材の寸法安定性をJIS A5705に従って測定した。測定の結果、縦1.0%、横1.0%であった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の塩ビ系防滑床材は、高価で付帯装置を必要とするエンボスロールを使用せずに、寸法安定性を保持した上で、幼児、老人、病者、身体弱者等の歩行、あるいは台車等の走行に支障を来さない程度で防滑性能を付与することができるので、防滑性能ということに特化して床材を安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の1実施例による床材の断面図である。
【符号の説明】
1:ポリ塩化ビニル表面凹凸層
2:ポリエステル基布
3:ポリ塩化ビニル層
4:ポリ塩化ビニル中間層
5:基材層
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル基布2表面にコ−ティングされたポリ塩化ビニル樹脂から成る凹凸模様層1、ポリエステル基布2、ポリ塩化ビニル樹脂層3、ポリ塩化ビニルを主材とする中間層4、および基材層5の5層から構成されたポリ塩化ビニル系防滑床材。
【請求項2】
凸部の高さが、凹凸部が形成された表面から測定して0.1〜0.4mmの範囲で任意に設定されたものである請求項1に記載の床材。
【請求項3】
基布が、ポリエステル製織布である請求項1または2に記載の床材。

【公開番号】特開2007−84984(P2007−84984A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306343(P2005−306343)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000167820)広島化成株式会社 (65)
【Fターム(参考)】