説明

ポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物、フィルムおよび電子部品封止体製造用型枠

【課題】半結晶化時間が短く、フィルムに成形した際の表面結晶化度が高く、且つブロッキング係数が小さい樹脂組成物を提供すること。また該樹脂組成物を成形して得られるFPCの製造に適した、離型性が良好な離型フィルムを提供すること。また、耐熱性および離型性に優れ、LEDなどの電子部品封止体の製造において、繰り返し使用しても変形しにくい電子部品封止体製造用型枠、LEDモールドを提供すること。
【解決手段】4−メチル−1−ペンテン含有量が80質量%以上の重合体を含む樹脂組成物であって、該樹脂組成物の融点が170〜240℃、半結晶化時間が70〜220秒である、ポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物。及び該樹脂組成物を成形して成る、離型性が良好な離型フィルム、耐熱性、離型性に優れる電子部品封止体製造用型枠および、LEDモールドを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型性に優れるポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、半結晶化時間が短く、フィルムを成形した際の表面結晶化度が高く、従ってフィルムのブロッキング係数が小さく離型性に優れるポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物並びに、該樹脂組成物を成形して得られる、電子部品封止体製造用型枠、特に発光ダイオード(以下LEDと略す)封止用型枠、所謂LEDモールドおよびフレキシブルプリント基板の製造に好適な離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の急速な進歩に伴い、ICの集積度が増大するにつれ、より高密度、高信頼性化への要求に対応する目的でプリント配線板が多用されていることは良く知られている。
プリント配線板としては、片面プリント配線板、両面プリント配線板、多層プリント配線板、およびフレキシブルプリント配線板などがあるが、なかでも3層以上の導電体の中間に電気絶縁層をおいて一体化し、任意の導電体層相互およびプリント配線板に実装する電子部品のリードと任意の導電体層との接続ができる点で、多層フレキシブルプリント配線基板(以下FPCと略す)の応用分野は広がっている。このFPCは銅箔とポリイミドフィルムとを、接着剤を介して積層化して製造される。
【0003】
ところで、FPCの製造に先立って行われる銅貼積層板の製造は、銅箔上に載置したプリプレグを加熱加圧処理によって一体化するものであるが、銅貼積層板は一組ずつ作られるわけでなく、複数枚の銅貼積層板を同時にプレス成形することが行われており、その際それぞれの銅貼積層板の間に離型フィルムを挟んでプレス成形を行ない、プレス成形後に離型フィルムを剥離することで一組ずつ銅貼積層板を得る製造法が行われている。
離型フィルムとしては、耐熱性および加熱加圧処理後の離型性が優れていることから、ポリ4−メチル−1−ペンテンからなるフィルムを使用することが提案されている。ポリ4−メチル−1−ペンテンは、融点が約235℃と高いため、温度170〜180℃程度で行われる銅貼積層板の成形においても、優れた耐熱性および離型性を有している。
しかしながら、近年とみに配線速度の増大や信頼性向上のために高品質のFPCが要求される傾向があり、このようなプリント配線板の製造に用いられる銅貼積層板の製造時の加熱加圧処理条件も厳しくなり、使用される離型フィルムにも、さらに優れた離型性が要求されている。
【0004】
また、LED、トランジスタ、LSI素子、IC素子、CCD素子などの集積回路などのエレクトロニクス素子や、コンデンサー、抵抗体、コイル、マイクロスイッチ、ディップスイッチなどを封止した電子部品封止体の製造においては、従来金属製の型枠内に電子部品を配置し、該型枠に熱硬化性樹脂からなる封止材、例えばエポキシ樹脂等を注入し、硬化させて製造されている。しかしながら、金属製の型枠は高価であり、また大量生産し難い問題があり、また、ポリフェニレンスルファイド(PPS)等の樹脂製の型枠は、熱硬化性樹脂からなる封止材が硬化する際に型枠が変形しし易いという問題がある。
【0005】
特許文献1には、4−メチル−1−ペンテン系重合体を、α−オレフィン含有量を変えて2段階で重合することで、溶媒不溶性重合体収率が改善された透明性が良好な4−メチル−1−ペンテン共重合体の製造法が開示されている。しかしながら、該共重合体からなるフィルムの表面結晶化度は十分でなく、離型フィルムとして使用した場合の離型性に問題がある。
【0006】
また特許文献2には、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を封止材として使用するLED 、ダイオード、トランジスタ、LSI素子、IC素子、CCD素子等の集積回路の電子部品封止体の製造において、熱可塑性ノルボルネン樹脂を電子部品封止体製造用型枠として用いる技術が開示されている。しかしながら、繰り返し使用に際しての耐久性に問題がある。
【特許文献1】特開昭63−63707号公報
【特許文献2】特開平6−114846号公報
【特許文献3】特開昭57−70653号公報
【特許文献4】特開昭56−138981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するものであり、半結晶化時間が短く、フィルムに成形した際の表面結晶化度が高く、且つブロッキング係数が小さい樹脂組成物を提供すること。また該樹脂組成物を成形して得られるFPCの製造に適した、離型性が良好な離型フィルムを提供すること。さらに、耐熱性および離型性に優れ、LEDなどの電子部品封止体の製造において、熱硬化性樹脂からなる封止材が硬化する際に型枠が変形し難く、且つ繰り返し使用しても変形しにくい電子部品封止体製造用型枠および、LEDモールドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定量の4−メチル−1−ペンテンを含む重合体を特定量含む樹脂組成物の半結晶化時間が短く、該樹脂組成物を成形して得られるフィルム表面の結晶化度が高く、且つブロッキング係数が小さいことから、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、
[1]4−メチル−1−ペンテン含有量が80質量%以上の重合体(A)を含む樹脂組成物であって、該樹脂組成物の融点が170〜240℃、半結晶化時間が70〜220秒である、ポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物を提供すること。
[2] 4−メチル−1−ペンテンを95〜100質量%含む重合体(A)を5〜70質量%並びに、4−メチル−1−ペンテンおよび4−メチル−1−ペンテン以外の炭素原子数2〜20のオレフィンを含む重合体(B)を30〜95質量%含む、上記[1]に記載のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物を提供すること。
[3]重合体(A)が4−メチル−1−ペンテンの単独重合体である、前記[2]に記載のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物を提供すること。
[4]ブロッキング係数が4〜10gf/cmである、前記[1]〜[3]に記載のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物を成形して得られるフィルムを提供すること。
[5]表面結晶化度が15〜60%である、前記[1]〜[3]に記載のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物を成形して得られるフィルムを提供すること。
[6]前記[4]または[5]に記載のフィルムである、離型フィルムを提供すること。
[7]前記[1]〜[3]のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物を成形して得られる電子部品封止体製造用型枠を提供すること。
[8]前記[1]〜[3]のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物を成形して得られるLEDモールドを提供することである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物からなるフィルムは、半結晶化時間が短く、表面結晶化度が高く、またブロッキング係数が小さいことから離型性が良好であり、FPCなどの製造に際して離型フィルムとして好適に使用できる。さらに、耐熱性および離型性に優れるとともに、熱可塑性封止材が硬化する際に変形し難く、繰り返し使用しても変形しにくいことから、電子部品封止体製造用型枠、特にLEDモールドとして好適に使用でき、工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係るポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物並びに、該樹脂組成物を成形して得られるフィルムおよび電子部品封止体製造用型枠について説明する。
【0012】
[本発明の重合体(A)]
本発明の重合体(A)は、4−メチル−1−ペンテン含有量が80質量%以上の結晶性の重合体であり、4−メチル−1−ペンテンと4−メチル−1−ペンテン以外の炭素原子数2〜20のオレフィンとの重合体、または4−メチル−1−ペンテンの単独重合体である。
本発明の重合体(A)は、4−メチル−1−ペンテン含有量が80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95〜100質量%、さらに99〜100質量%である4−メチル−1−ペンテンを主体とした結晶性重合体であることが好ましく、最も好ましくは4−メチル−1−ペンテン単独重合体である。
【0013】
4−メチル−1−ペンテン単独重合体とは、実質的に4−メチル−1−ペンテンからなる繰り返し単位以外を有さないものであり、積極的に4−メチル−1−ペンテン以外の4−メチル−1−ペンテンと共重合可能な単量体を添加して共重合を行なわないものである。本発明の重合体(A)中の4−メチル−1−ペンテン単位の割合が多いと、半結晶化速度が速く、また該重合体(A)を含むポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物を成形して得られるフィルムの表面結晶化度が高く、ブロッキング係数が低いフィルムを得ることができ好ましい。
【0014】
また、4−メチル−1−ペンテンと共重合を行なう場合に使用できる4−メチル−1−ペンテン以外の炭素原子数2〜20のオレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−テトラデセン、1−オクタデセンなどであり、一種単独または二種以上組み合わせて用いることができるが、これらの中でも4−メチル−1−ペンテンとの共重合性が良く、良好な靭性が得られることから、1−デセン、1−テトラデセンおよび1−オクタデセンが好ましい。
【0015】
本発明の重合体(A)の製造方法としては、特に限定されるものではなく、チーグラ・ナッタ触媒、メタロセン系触媒等の周知の触媒を用いて製造することができ、その結晶構造はアイソタクチックでもシンジオタクチックでも良く、例えば特開2003−105022号公報に記載されているように触媒の存在下に4−メチル−1−ペンテンを単独重合または、4−メチル−1−ペンテンと前記オレフィンとを共重合することでパウダーとして得ることができる。
また、本発明の重合体(A)は、ASTM J1601に準じて測定した極限粘度[η]が2.5〜4dl/g、さらに3〜3.8dl/gであることが好ましい。
【0016】
[本発明の重合体(B)]
本発明の重合体(B)は、4−メチル−1−ペンテンを含む結晶性の重合体であって、4−メチル−1−ペンテンおよび4−メチル−1−ペンテン以外の炭素原子数2〜20のオレフィン、好ましくは炭素原子数7〜20、より好ましくは炭素原子数8〜20のα−オレフィンとの共重合体である。ここで炭素原子数2〜20のオレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどが挙げられ、好ましくは1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセンであり、一種単独または二種以上組み合わせて用いることができ、これらの中でも剛性および弾性率が良好であることから、1−デセン、1−ドデセン、または1−テトラデセンが好ましい。また、4−メチル−1−ペンテンから導かれる繰り返し単位を通常80質量%以上、好ましくは90〜98質量%、より好ましくは93〜98質量%の範囲で含有することが好ましく、4−メチル−1−ペンテン以外の炭素原子数2〜20のオレフィンから導かれる繰り返し単位は20質量%未満であることが好ましい。本発明の重合体(B)の組成が上記範囲内にあると、該重合体(B)を含むポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物を成形して得られるフィルムの成型性および剛性に優れる。
【0017】
また、本発明の重合体(B)は、チーグラ・ナッタ触媒、メタロセン系触媒等の周知の触媒を用いて製造することができ、その結晶構造はアイソタクチックでもシンジオタクチックでも良く、例えば特開2003−105022号公報に記載されているように触媒の存在下に、4−メチル−1−ペンテンと前記オレフィンとを共重合することでパウダーとして得ることができる。
またASTM J1601に準じて測定した極限粘度[η]は、2.5〜4dl/g、さらに3〜3.8dl/gの範囲であると好ましい。
【0018】
[ポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物]
本発明のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物は、本発明の重合体(A)を5〜70質量%、好ましくは5〜50質量%並びに、本発明の重合体(B)を30〜95質量%、好ましくは50〜95質量%含む樹脂組成物であることが好ましい。ここで、重合体(A)と重合体(B)の合計量は100質量部である。
【0019】
ポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物が上記ような組成の範囲内にあると、該樹脂組成物の半結晶化時間は70〜220秒、好ましくは70〜165秒、また該樹脂組成物を成形して得られるフィルムの表面結晶化度は15〜60%、好ましくは20〜50%、ブロッキング係数は4〜10gf/cm、好ましくは4〜7gf/cmであり、離型性が良好であり、且つフィルム成形性が良好な樹脂組成物を得ることができる。
【0020】
[ポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物の製造]
本発明のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物は、チーグラ・ナッタ触媒、メタロセン系触媒等の周知の触媒を用いて、本発明の重合体(A)を重合する前段重合を行ない、次いで、該前段重合を行った触媒の存在下に本発明の重合体(B)を重合する後段重合を行うことで、重合体パウダーとして得ることができる。
本発明の重合体(A)と重合体(B)との割合は、上記前段重合と後段重合で得られる重合体の量を、重合時の単量体の供給量、重合時間などで調節することで可能である。
また分子量は、重合温度や重合系へ水素添加を行うことにより調節することができ、ASTM J1601に準じて測定した極限粘度[η]は2.5〜4dl/g、さらに3〜3.8dl/gであることが好ましい。
【0021】
さらに得られた重合パウダーに、本発明の目的を損なわない範囲で、耐熱安定剤、耐候安定剤、発錆防止剤、耐銅害安定剤、帯電防止剤等ポリオレフィンに配合されるそれ自体公知の各種添加剤を添加して、単軸押出機、複軸押出機、ニーダーなどを用いたて溶融混練して造粒或いは粉砕してペレットまたは粉砕物として得ることができ、ASTM D1238に準じて測定されたメルトフローレート(MFR)が10〜40g/10分、さらに20〜30g/10分であるとフィルムの成形性が良好であり好ましい。
また、本発明のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物中の、4−メチル−1−ペンテン以外の炭素原子数2〜20のオレフィン、すなわち、エチレンまたは炭素原子数3〜20のα−オレフィンの含有量は、使用する単量体の種類にもよるが1〜10質量%、好ましくは2〜7質量%であることが好ましい。
【0022】
また本発明のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物は、チーグラ・ナッタ触媒、メタロセン系触媒等の周知の触媒を用いて、それぞれ別々に重合して得られた本発明の重合体(A)と重合体(B)とを、上記の本発明の量比で配合し、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー等のミキサーなどで混合、単軸押出機、複軸押出機、ニーダーなどを用いて溶融混練して造粒或いは粉砕して得ることもできる。
【0023】
[本発明の樹脂組成物を成形して得られるフィルム]
本発明のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物を成形して得られるフィルムは、上記のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物を、プレス成形法、押出成形法、インフレーション法、カレンダー法などの公知の方法でフィルム成形することができ、フィルム成形時または成形後に延伸してもよい。さらに樹脂の融点未満の温度でのアニーリング処理を行っても良い。
【0024】
また本発明のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物からなるフィルムの厚さは、その使用用途にもよるが、離型フィルムとして使用する場合、通常5〜1000μm、好ましくは50〜100μmであるとフィルムの生産性に優れ、フィルム成形時にピンホールが生じることがなく好ましい。また他の樹脂と多層フィルムを形成してもよく、共押出成形法、押出ラミネート法、熱ラミネート法、ドライラミネート法等で多層フィルムとすることもできる。
本発明のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物を成形して得られるフィルムは、離型フィルムの他に、食品用ラップフィルム、医療用バッグ保護フィルム、液晶ディスプレイ反射板用フィルム等に好適に使用することができる。
【0025】
[離型フィルム]
本発明のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物からなるフィルムである離型フィルムは、プリント基板用離型フィルム、熱硬化性樹脂用離型フィルムなどに好適に使用できる。本発明のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物からなるフィルムである離型フィルムは、表面結晶化度が高く、ブロッキング係数が小さいことから離型性が良好であり、特にFPC製造用の離型フィルムとして好適に使用することができる。
【0026】
[電子部品封止体製造用型枠]
LED、トランジスタ、LSI素子、IC素子、CCD素子などの集積回路などのエレクトロニクス素子や、コンデンサー、抵抗体、コイル、マイクロスイッチ、ディップスイッチなどを封止した電子部品封止体の製造においては、従来金属製の型枠内に電子部品を配置し、該型枠に熱硬化性封止材、例えばエポキシ樹脂等を注入し、硬化させて製造されている。しかしながら、金属製の型枠は高価であり大量生産し難い問題がある。
本発明のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物からなる電子部品封止体製造用型枠は、離型性に優れるとともに耐熱性および剛性が高く、電子部品封止体製造用型枠として好適に使用することができる。
【0027】
[LEDモールド]
LEDモールド、いわゆる発光ダイオード封止用型枠とは、上記電子部品封止体製造用型枠の中で、LEDの封止に用いる型枠である。本発明のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物からなるLEDモールドは、耐熱性および剛性が高く離型性に優れる。さらに熱硬化性樹脂からなる封止材が硬化する際に型枠が変形し難く、且つ繰り返し使用に際しての耐久性に優れることから、LEDモールドとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例をあげてさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例等によって何等制限されるものではない。実施例及び比較例で用いた試料調製方法、物性の測定方法を下記に示した。
【0029】
[メルトフローレート]
ASTM D1238に準じ、荷重5.0kg、温度260℃の条件で測定した。
[極限粘度[η]]
移動粘度計(離合社製、タイプVNR053U型)を用い、樹脂0.25〜0.27gを25mlのデカリンに溶解させたものを試料とし、ASTM J1601に準じ135℃にて比粘度ηSPを測定し、これと濃度との比を濃度0に外挿して極限粘度[η]を求めた。
【0030】
[半結晶化時間]
示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製、DSC−7型)を用い、ペレットをプレス成形したシートから切り出した10mgのサンプルを窒素雰囲気下280℃で10分間熱処理後、降温速度320℃/分で220℃まで冷却し、220℃で温度一定とした際に観察される結晶化曲線において、発熱ピークの積分値の半分に到達するまでの時間(t1/2(秒))を測定した。
【0031】
[表面結晶化度]
Tダイ付きキャストフィルム成形機でシリンダー温度310℃、チルロール温度20℃で成形した厚さ50μmのフィルムの表面を剃刀にて極薄く削りだした厚さ1μmのフィルムを試料とし、広角X線回折測定にて結晶化度を算出した。広角X線回折は、下記の方法で測定を行う。測定に供するX線は、(株)リガク製X線回折装置RINT2500を用いて発生させる。ターゲットとして銅対陰極を用い、出力50kV×300mAのポイントフォーカスで取り出したX線を試料に照射し、回折X線の強度をシンチレーションカウンタで計測する。2θ走査は5〜35°で行ない、試料の広角X線回折プロファイルを得る。また、同材料の非晶質試料を用意し、同様の測定を行って得た非晶質試料のX線回折プロファイル(非晶ハロー)を用いて、実試料のX線回折プロファイルを非晶ハローと結晶ピークとに分離する。実試料の結晶化度は次の通りに求める。はじめにベースラインを切り離し、全面積における結晶ピーク面積総和の比を百分率で求める。
【0032】
[ブロッキング係数]
ASTM D1893−67に準じて、Tダイ付きキャストフィルム成形機でシリンダー温度310℃、チルロール温度20℃で成形した厚さ50μmのフィルムから切り出した、6cm×12cmのフィルム2枚を重ね合わせ、表面を鏡面処理した2枚の金属板で挟んで、温度180℃、5MPaの荷重で30分間加熱加圧処理した後、室温まで冷却して、(株)インテスコ製2001型万能材料試験機にて試験速度200mm/分、荷重200g、180°剥離の条件で、剪断剥離するときの最大荷重を測定して、ブロッキン係数(gf/cm)を求めた。
【0033】
[銅箔との剥離性]
ASTM D1893−67に準じて、Tダイ付きキャストフィルム成形機でシリンダー温度310℃、チルロール温度20℃で成形した厚さ50μmのフィルムから切り出した、6cm×12cmフィルムと銅箔を重ね合わせ、鏡面処理した2枚の金属板で挟んで、5MPaの荷重下で180℃、30分加熱加圧処理した。次いで、室温まで冷却した後、フィルムの端を持って、フィルムを銅箔から剥離した際の剥離性を、○:容易に剥離可能、△:剥離に際して重いと感じる、×:剥離が困難として評価した。
【0034】
[エポキシ樹脂との剥離性]
ASTM D1893−67に準じて、Tダイ付きキャストフィルム成形機でシリンダー温度310℃、チルロール温度20℃で成形した厚さ50μmのフィルムから切り出した、6cm×12cmのフィルムとエポキシ樹脂からなるシートを重ね合わせ、鏡面処理した2枚の金属板で挟んで、5MPaの荷重下で180℃、30分加熱加圧処理した。次いで室温まで冷却した後、フィルムの端を持ってフィルムを銅箔から剥離した際の剥離性を、○:エポキシ樹脂への接着がなく容易に剥離可能、△:若干の接着があり剥離が重いと感じる、×:接着力が大きく手で剥離させることが不可能として評価した。
【0035】
[ポリイミドとの剥離性]
ASTM D1893−67に準じて、Tダイ付きキャストフィルム成形機でシリンダー温度310℃、チルロール温度20℃で成形した厚さ50μmのフィルムから切り出した、6cm×12cmのフィルムとポリイミド樹脂からなるシートを重ね合わせ、鏡面処理した2枚の金属板で挟んで、5MPaの荷重下で180℃、30分加熱加圧処理した。次いで室温まで冷却した後、フィルムの端を持ってフィルムを銅箔から剥離した際の剥離性を、○:ポリイミド樹脂への接着がなく容易に剥離可能、△:若干の接着があり剥離が重いと感じる、×:接着力が大きく手で剥離させることが不可能として評価した。
【0036】
[実施例1]
(固体触媒成分の調製)
無水塩化マグネシウム750g、デカン2800gおよび2−エチルヘキシルアルコ−ル3080gを130℃で3時間加熱反応を行って均一溶液とした後、この溶液中に2−イソブチル−2−イソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン220mlを添加し、さらに、100℃にて1時間攪拌混合を行なった。このようにして得られた均一溶液を室温まで冷却した後、この均一溶液3000mlを、−20℃に保持した四塩化チタン800ml中に、攪拌下45分間にわたって全量滴下挿入した。挿入終了後、この混合液の温度を4.5時間かけて110℃に昇温し、110℃に達したところで2−イソブチル−2−イソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン5.2mlを添加し、これにより2時間同温度にて攪拌下保持した。2時間の反応終了後、熱濾過にて固体部を採取し、この固体部を1000mlの四塩化チタンにて再懸濁させた後、再び110℃で2時間、加熱反応を行った。反応終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、90℃デカンおよびヘキサンで洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで充分洗浄した。以上の操作によって調製した固体状チタン触媒成分はデカンスラリ−として保存したが、この内の一部を触媒組成を調べる目的で乾燥した。このようにして得られた触媒成分の組成はチタン3.0質量%,マグネシウム17.0質量%,塩素57質量%,2−イソブチル−2−イソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン18.8質量%および2−エチルヘキシルアルコ−ル1.3質量%であった。
【0037】
(重合体(A)の製造)
内容積150リットルの攪拌機付きのSUS製重合槽に窒素雰囲気下、デカン100リットル、5.4kgの4−メチル−1−ペンテン、水素6.75リットル、トリエチルアルミニウム67.5ミリモルおよび上記固体チタン触媒成分をTi原子換算で0.27モルを加え、重合槽内を60℃に昇温し、その温度を保って前段重合を3時間行った。前段重合終了時に重合スラリーの一部を抜き出してスラリー濃度を測定して前段重合量を求めたところ、重合体の収量は5.2kgであり、極限粘度[η]は、3.5dl/gであった。
(重合体(B)の製造)
上記前段重合を行った重合スラリーに、21.6kgの4−メチル−1−ペンテン、710gのデセン−1を加え、重合槽内を60℃に保って、4−メチル−1−ペンテンとデセン−1による後段重合を5時間行った。重合槽からパウダーを取り出し、ろ過・洗浄した後、乾燥してパウダー状の重合体を得た。得られた重合体の収量は26kg、極限粘度[η]は3.5dl/g、前段重合量と後段重合量の質量比、すなわち重合体(A)と重合体(B)の質量比は、重合体(A)/重合体(B)=20/80であった。またNMRにより測定した該樹脂組成物のデセン−1含有量と前段重合量と後段重合量の質量比から求めた本発明の重合体(B)中のデセン−1含有量は3.3質量%であった。
【0038】
(フィルムの製造)
上記の前段および後段重合を行うことによって得られたパウダー状の重合体に、従来公知の中和剤、フェノール系酸化防止剤を添加してヘンシェルミキサーにて混合、押出機を用いて290℃にて溶融混練してポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットのメルトフローレートは、25g/10分であった。
次いで、Tダイ付きキャストフィルム成形機を用い、シリンダー温度310℃、チルロール温度20℃でフィルム成形することで、厚さ50μmのキャストフィルムを得た。得られたフィルムの物性評価結果を表1に示した。
【0039】
[実施例2]
重合体(A)と重合体(B)の質量比を、重合体(A)/重合体(B)=5/95となるように前段重合と後段重合の重合量を調節した以外は実施例1と同様にして重合を行ない、得られたパウダーを溶融混練してペレットを得た。得られたペレットのMFRは25g/10分であった。次いで製膜を行ない、フィルムの物性を評価した結果を表1に示した。
【0040】
[実施例3]
重合体(A)と重合体(B)の質量比を、重合体(A)/重合体(B)=50/50となるように前段重合と後段重合の重合量を調節した以外は実施例1と同様にして重合を行ない、得られたパウダーを溶融混練してペレットを得た。得られたペレットのMFRは25g/10分であった。次いで製膜を行ないフィルムの物性を評価した結果を表1に示した。
【0041】
[比較例1]
実施例1と同様にして得られた固体状チタン触媒成分を用いて、4−メチル−1−ペンテンとデセン−1との後段重合のみを行うことでパウダー状の重合体(B)を得た。
該重合体(B)を溶融混練して得られた4−メチル−1−ペンテンとデセン−1からなる重合体のペレット(MFR26g/10分、デセン−1含有量3.3質量%)を用いた以外は、実施例1と同様に製膜して物性を評価した。結果を表1に示した。
【0042】
[比較例2]
実施例1と同様にして得られた固体状チタン触媒成分を用いて、4−メチル−1−ペンテンの前段重合のみを行うことでパウダー状の重合体(A)を得た。
該重合体(A)を溶融混練して得られた4−メチル−1−ペンテン単独重合体のペレット(MFR24g/10分)を用いた以外は実施例1と同様に製膜して物性を評価した。結果を表1に示した。
【0043】
[実施例4]
(重合体(A)の製造)
実施例1と同様にして得られた固体状チタン触媒成分を用いて、4−メチル−1−ペンテンの前段重合のみを行なうことで、パウダー状の4−メチル−1−ペンテン単独重合体(A)(極限粘度[η]3.4dl/g)を得た。
(重合体(B)の製造)
実施例1と同様にして得られた固体状チタン触媒成分を用いて、4−メチル−1−ペンテンとデセン−1との後段重合のみを行うことで、パウダー状の4−メチル−1−ペンテンとデセン−1からなる重合体(B)(極限粘度[η]3.5dl/g、デセン−1含有量3.3質量%)を得た。
【0044】
(フィルムの製造)
別々に重合して得られた上記の、重合体(A)10質量%、重合体(B)90質量%および、従来公知の中和剤およびフェノール系酸化防止剤をヘンシェルミキサーにて混合、押出機を用いて290℃にて溶融混練して、ポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットのMFRは25g/10分であった。
次いで、Tダイ付きキャストフィルム成形機を用い、シリンダー温度310℃、チルロール温度20℃でフィルム成形することで、厚さ50μmのキャストフィルムを得た。得られたフィルムの物性評価結果を表2に示した。
【0045】
[実施例5]
重合体(A)を30質量%および重合体(B)を70質量%とした以外は、実施例4と同様にしてペレットを得た。得られたペレットのMFRは25g/10分であった。
次いで製膜を行ない、フィルム物性を評価した結果を表2に示した。
【0046】
[実施例6]
重合体(A)を50質量%および重合体(B)を50質量%とした以外は、実施例4と同様にしてペレットを得た。得られたペレットのMFRは25g/10分であった。
次いで製膜を行ない、フィルム物性を評価した結果を表2に示した。
【0047】
[実施例7]
重合体(A)を70質量%、重合体(B)を30質量%とした以外は、実施例4と同様にしてペレットを得た。得られたペレットのMFRは25g/10分であった。
次いで製膜を行ない、フィルム物性を評価した結果を表2に示した。
【0048】
[実施例8]
(重合体(A)の製造)
内容積150リットルの攪拌機付きのSUS製重合槽に窒素雰囲気下、デカン100リットル、26kgの4−メチル−1−ペンテン、230gのデセン−1、水素6.75リットル、トリエチルアルミニウム67.5ミリモルおよび実施例1で得られた固体チタン触媒成分をTi原子換算で0.27モルを加え、重合槽内を60℃に保って、4−メチル−1−ペンテンとデセン−1による重合を5時間行った。重合槽からパウダーを取り出し、ろ過・洗浄した後、乾燥して、パウダー状の重合体(A)を得た。得られた重合体パウダーの収量は26kg、極限粘度[η]は3.5dl/gであった。またNMRにより測定した該樹脂組成物のデセン−1含有量は1.0質量%であった。
(重合体(B)の製造)
実施例1と同様にして得られた固体状チタン触媒成分を用いて、4−メチル−1−ペンテンとデセン−1からなるパウダー状の重合体(B)(極限粘度[η]3.5dl/g、デセン−1含有量3.3質量%)を得た。
【0049】
(フィルムの製造)
上記重合によって得られた重合体(A)30質量%、重合体(B)70質量%および、従来公知の中和剤およびフェノール系酸化防止剤をヘンシェルミキサーにて混合、押出機を用いて290℃にて溶融混練してペレットを得た。得られたペレットのMFRは25g/10分であった。
次いで、Tダイ付きキャストフィルム成形機を用い、シリンダー温度310℃、チルロール温度20℃でフィルム成形することで、厚さ50μmのキャストフィルムを得た。
得られたフィルムの物性評価結果を表2に示した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物を成形して得られるフィルムは、表面結晶化度が高く、ブロッキング係数が小さいことから離型性が良好であり、プリント配線基板、特に多層フレキシブル配線基板の製造に際して好適に使用できる。
【0053】
また、本発明のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物を成形して得られる電子部品封止材体製造用型枠は、離型性に優れるとともに耐熱性および剛性が高く、さらに熱硬化性樹脂からなる封止材が硬化する際に型枠が変形し難く、且つ繰り返し使用に際して耐久性に優れ、特にLEDモールドとして好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−メチル−1−ペンテン含有量が80質量%以上の重合体(A)を含む樹脂組成物であって、該樹脂組成物の融点が170〜240℃、半結晶化時間が70〜220秒である、ポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物。
【請求項2】
4−メチル−1−ペンテンを95〜100質量%含む重合体(A)を5〜70質量%並びに、4−メチル−1−ペンテンおよび4−メチル−1−ペンテン以外の炭素原子数2〜20のオレフィンを含む重合体(B)を30〜95質量%含む、請求項1に記載のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物。
【請求項3】
重合体(A)が4−メチル−1−ペンテンの単独重合体である、請求項2に記載のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物。
【請求項4】
ブロッキング係数が4〜10gf/cmである、請求項1〜請求項3に記載のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物を成形して得られるフィルム。
【請求項5】
表面結晶化度が15〜60%である、請求項1〜請求項3に記載のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物を成形して得られるフィルム。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載のフィルムである、離型フィルム。
【請求項7】
請求項1〜請求項3のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物を成形して得られる電子部品封止体製造用型枠。
【請求項8】
請求項1〜請求項3のポリ4−メチル−1−ペンテン樹脂組成物を成形して得られるLEDモールド。

【公開番号】特開2006−70252(P2006−70252A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218644(P2005−218644)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】