説明

ポルフィラナーゼ、及び多糖の加水分解のためのその使用

本発明は、新規酵素活性、すなわち、ポルフィラナーゼ活性を有する2つのタンパク質の単離及び特性決定に関する。これらのタンパク質は、硫酸アガロコロイドを含む多糖の加水分解に、及び、オリゴポルフィラン、特に特定の構造及びサイズを有するオリゴポルフィランの生成に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規酵素活性、すなわち、ポルフィラナーゼ(porphyranase)活性を有する2つのタンパク質の単離及び特性決定に関する。これらのタンパク質は、硫酸アガロコロイド(agaro colloid)を含む多糖の加水分解に、及び、オリゴポルフィラン、特に特定の構造及びサイズのオリゴポルフィランの生成に有用である。
【背景技術】
【0002】
例えば寒天(アガロース, ポルフィラン等)及びカラゲナン等の多糖は、特に農産食品及び化粧品産業等の様々な産業分野で、ゲル化剤又は増粘剤として非常に広範に使用されている。従って、約6,000トンの寒天及び22,000トンのカラゲナンが毎年農産食品目的のために紅藻から抽出される。寒天は、テングサ属(Gelidium)及びオゴノリ属(Gracilaria)の紅藻類から工業生産される。中でも、紅藻類のアマノリ属(Porphyra)(慣用名ノリとして知られる)は、世界中で最も消費されている藻類である。毎年の生産量は推定90,000トン/年 (乾燥重量)であり、これは約15億米国ドルの市場に相当する。
【0003】
多糖及びその誘導体は治療分野でも注目されている。血栓塞栓性疾患の治療用に市販されるエノキサパリン(enoxaprin)(Lovenox(登録商標))は、可変長の硫酸化多糖類の鎖の混合物であり、二糖類単位の反復で形成される。さらに、藻類多糖類から生成される硫酸オリゴフカン等の特定の多糖類及び硫酸オリゴ糖は、ヒトにおける抗菌剤及び/又は抗ウイルス剤として有用である(Ghosh et al. 2009 Glycobiology. 19:2-15)。
【0004】
アガロコロイドは、複合多糖である。藻類は個々の種に応じて主要化合物たるアガロコロイドを含む。例えば藻類アマノリ属(Porphyra)は、ポルフィランと呼ばれるアガロコロイドを主要成分として含む。なお、紅藻類から抽出された多糖もポルフィランと呼ばれる場合があるが、この名称は誤りであり、実際はアガロースとポルフィランの混合物であって、ポルフィランは過半を占めるにすぎない。
【0005】
ポルフィランを形成している基本の二糖類単位は、O6位におけるO-硫酸化(sulfatation)によって修飾されたL-ガラクトース単位 (単位L6S, 図1を参照されたい)に、β-1,4において結合されたD-ガラクトース単位(単位G, 図1を参照されたい)から成る。続いて、二糖類単位は、α-1,3 結合を介して互いに結合される。この硫酸化多糖類は、一般にアガロースの前駆物質とみなされる。天然培地において、例えばメチル化等の他の化学修飾は、この基本構造のさらなる変化を生じる。これらの化学修飾は、結果として重合体のゲル化性質を調節する。
【0006】
今日までのところ、寒天を分解可能な酵素として知られ、主として用いられているのは、α−アガラーゼ及びβ−アガラーゼである。β-アガラーゼは、アガロース二糖類単位のβ-1,4 結合に作用し (Jam et al. Biochem J. 2005 385:703-13)、α-アガラーゼはアガロース二糖類単位のα-1,3 結合に作用し(Flament et al. Appl. Environ. Microbiol. 2007 73:4691-94)、これらの酵素は未置換又は未修飾単位に特異的である。実際、寒天を加水分解可能な酵素を生成する細菌(基本的には海洋細菌)は多数存在する(Michel et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 2006 71:23-33)。β-アガラーゼの一部の遺伝子は、既にこれらの微生物からクローン化され、対応するタンパク質が過剰発現及び精製されている。
【0007】
より詳細には、最初に完全に生化学的且つ構造的に特徴付けされたβ-アガラーゼは、紅藻類イギス目ヌメハノリ(Delesseria sanguinea)から単離される細菌株によって生成される (Jam et al. Biochem. J. 2005 385:703-13, Allouch et al. J. Biol. Chem. 2003 278:47171-80)。この細菌株は、DSMZ (Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH) コレクションに1998年の5月8日に番号DSM 12170で寄託された。この株の分類学的同定により、それはゾベリア・ガラクタニボラン(Zobellia galactanivorans)の名称でフラボバクテリウム(Flavobacteria )綱における新たな属に定義され、その特性決定が得られた(Barbeyron et al. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 2001 51:985-97)。この海洋細菌のκ-カラギナーゼもまたクローン化され、特徴付けされた(Barbeyron et al. Mol. Biol. Evol. 1998 15:528-37)。
【0008】
一方、例えばポルフィラン等の硫酸化多糖類の特異的酵素は、今日まで報告されていない。
【0009】
ポルフィランを含む紅藻類から抽出された多糖を分解することができる特定の酵素を、誤ってポルフィラナーゼと呼んだ科学文献があるが、この名称は誤りである。これらの酵素は実際はアガラーゼ活性を有し、紅藻類から抽出された多糖中に存在する寒天を分解する。
【0010】
すなわち、Lee等は、酵素ビブリオ・ペラギアス(Vibrio pelagius)をポルフィラナーゼと称し、そのクローン化及び配列決定を報告している(2006 Annual Meeting and International Symposium of the Korean Society for Microbiology and Biotechnology)。しかしながら、この酵素はD-ガラクトシドβ-1,4 結合を加水分解し、結果としてオリゴアガロース(例えばネオアガロテトラオース、ネオアガロヘキサオース及びネオアガロオクタオース等)を生じる。従って、それはアガラーゼ活性を有するが、ポルフィラナーゼ活性を有しない。
【0011】
同様に、Hatada等は、β-アガラーゼに言及し、これが「ポルフィラナーゼ」活性を有する可能性を示唆している(2006 J. Agric. Food Chem. 54:9895-9900)。しかしながら、これらの酵素は、D-ガラクトシドβ-1,4 結合の加水分解能を有し、結果としてアガロースオリゴマーを生じると記載されている。従って、これらの酵素は、実際はアガラーゼであって、ポルフィラナーゼでない。
【0012】
また、Aoki等 (2002 Mrine and Highland Bioscience Center Report, 14:33-41)は、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)ND 137のいわゆるポルフィラナーゼをコードする遺伝子のクローン化を記載する。しかしながら、対応するタンパク質がポルフィランを分解するという事実は全く示されておらず、むしろシュードモナス属(Pseudomonas sp.)CY24のアガラーゼと高い配列同一性 (40%)を有するという事実からは、その逆であることが示される。実際、Aoki等によってクローン化されたタンパク質の配列は、NCBI データベースにおいて、エントリー番号BAB79291.1として、ポルフィラナーゼではなくアガラーゼとして注釈されている。
【0013】
化学的加水分解によって得られたポルフィラン(オリゴポルフィラン) の分解生成物もある(Zhao et al. 2006 Int. J. Biol. Macromol. 38:45-50)。しかしながら、この方法では、極めて不均一なオリゴポルフィランの混合物が得られることになる。さらに、加水分解完了後に得られる混合物の平均分子量は高いままである。
【0014】
従って、農産食品、化粧品及び/又は医薬産業において使用することができる新規薬剤を得るために、ポルフィラン等の硫酸化多糖類の加水分解を触媒することができる酵素が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の説明
本発明者は、このたびが初の報告となる、2つのポルフィラナーゼを単離し特徴付けた。それらは糖質加水分解酵素のGH16のファミリーに属するが、ゾベリア・ガラクタニボラン(Z. galactanivorans)に存在するこのファミリーの他のメンバーとの配列同一性は26%未満である。
【0016】
PorA及びPorBと呼ばれるこれらのポルフィラナーゼは、ゾベリア・ガラクタニボラン(Z. galactanivorans)からクローン化された。PorA及びPorBは、配列番号2及び配列番号5によってそれぞれ表される。PorAの触媒ドメインは、PorBと26.9 %同一である。
【0017】
タンパク質PorA及びPorBは、β-ポルフィラナーゼ活性を有するが、アガラーゼ活性を全く有しないことが示された。これらの酵素活性を有する酵素は、これまで全く記載されていなかった。
【0018】
また、タンパク質PorA及びPorBは、ポルフィランの加水分解に使用可能であり、これにより特定の構造及びサイズのオリゴ糖を得ることができることも示された。より詳細には、PorA及びPorBによって、ネオポルフィロビオース、ネオポルフィロテトラオース及び/又はネオポルフィロヘキサオースの均一の混合物を得ることができる。
【0019】
本発明のポリペプチド
本発明者は、このたびが初の報告となるポルフィラナーゼを単離し特徴付けた。従って、本発明は、ポルフィラナーゼ活性を有することを特徴とする単離ポリペプチドに関する。
【0020】
本発明の範囲内で、「ポリペプチド」とは、ペプチド結合で互いに結合したアミノ酸の線状鎖を含む分子を意味する。
【0021】
「単離」ポリペプチド (又は核酸) とは本明細書において、当該ポリペプチド (又は核酸) が自然に存在する生物又は微生物から単離されたポリペプチド (又は核酸) を意味する。好適な実施形態において、核酸のポリペプチドは単離且つ精製された形態である。特に好適な実施形態において、単離ポリペプチドは組換えポリペプチドである。
【0022】
「ポルフィラン」とは本明細書において、O6位におけるO-硫酸化によって修飾されたL-ガラクトース単位がβ-1,4において結合されたD-ガラクトース単位から成る二糖類単位の連鎖から成る分子を意味する。
【0023】
「ポルフィラナーゼ活性」とは本明細書において、ポルフィランの加水分解を触媒する能力を意味する。より詳細には、本発明のポリペプチドのポルフィラナーゼ活性は、β-ポルフィラナーゼ活性、すなわち、ポルフィランの二糖類単位のD-ガラクトース(図1中の「単位G」)と6位において硫酸化されたL-ガラクトース単位(図1中の「単位L6S」)との間のβ-1,4結合の切断を触媒する能力である。
【0024】
ポルフィラナーゼ活性は、例えばポルフィランの消化動態を得ることによって測定することができる。これらの動態は、例えば実施例3に記載の通り得ることができる。より詳細には、β-アガラーゼによって予め消化させた1% (w/v) 多糖を含む溶液を使用することができる。50 mLの多糖溶液を、例えば6 μgの酵素で30℃でインキュベートしてよい。一定分量全てが完全に加水分解されるまで、加水分解を行ってよい。ポルフィラナーゼによるポルフィランの消化は、オリゴポルフィランを得ることにつながる。
【0025】
本発明のポリペプチドは、好適にはアガラーゼ活性を全く有しない。言い換えれば、これらのポリペプチドは特異的に硫酸化多糖類の加水分解を触媒する。アガラーゼ活性の欠如は、例えば1% アガロースを含むゲル上で容易に測定することができる(図2を参照されたい)。1 μgの酵素を、例えばこれらのゲル上に置くことができる。30℃での一晩のインキュベーション後、アガラーゼ活性をルゴールでの染色によって明らかにすることができる。
【0026】
好適な実施形態において、本発明のポリペプチドは:
−配列番号2の残基19-274 (触媒ドメイン、PorA_CMと呼ばれる断片を含むPorAの断片に相当する);
−配列番号2の残基19-510 (成熟タンパク質PorAに相当する);
−配列番号2の残基1-510(完全タンパク質PorAに相当する);
−配列番号5の残基22-293(成熟タンパク質PorBに相当する); 又は
−配列番号5の残基1-293(完全タンパク質PorBに相当する)、
から選択される配列を含み、又はこれらの中から選択される配列から成る。
【0027】
本発明のポリペプチドは、配列番号2又は5のタンパク質PorA及びPorB由来のポリペプチドであって、ポルフィラナーゼ活性を保持するポリペプチドも含むことを理解されたい。これらの由来ポリペプチドは:
a)残基:
−配列番号2の19-274;
−配列番号2の19-510;
−配列番号2の1-510;
−配列番号5の22-293; 又は
−配列番号5の1-293、
と少なくとも26、30、40、50、60、70、80、90、95、96、97、98又は99 %同一である配列
b)配列 (a)の少なくとも20、50、100、150、200、210、220、230、240又は250個の連続するアミノ酸の断片; 及び
c)残基:
−配列番号2の19-274;
−配列番号2の19-510;
−配列番号2の1-510;
−配列番号5の22-293; 又は
−配列番号5の1-293、
に存在する配列の少なくとも20、50、100、150、200、210、220、230、240又は250個の連続するアミノ酸の断片、
から選択される配列を含み、又はこれらの中から選択される配列から成る。
【0028】
「参照配列と少なくとも95% (例えば) 同一である配列」とは、この配列が、参照配列の100個のアミノ酸の各部分に関して最大で5つの点状変異 (置換, 欠失及び/又は挿入)を含み得ることを除いて、参照配列と一致する配列を意味する。従って、100個のアミノ酸を有する参照配列に関して5個の置換を含む95個のアミノ酸の断片とかかる100個のアミノ酸配列は、95%同一である配列の2つの例である。
【0029】
同一性の割合は、配列を分析するためのソフトウェアパッケージを使用することによって一般的に決定される。例えば、2つの配列の全長を通してそれらの最適な配列比較(ギャップを有する) を見出すために包括的整列アルゴリズム「ニードルマン−バンシュ(Needleman-Wunsch)」を用いるプログラム「ニードル(needle)」を使用することができる。このプログラムは特に、サイトebi.ac.ukで利用できる。
【0030】
由来ポリペプチドは、参照配列 (この場合、配列番号2又は4又はその断片の1つ)と、アミノ酸の欠失、挿入及び/又は置換型の変異の存在によって異なってよい。置換は、保存又は非保存置換であってよい。
【0031】
特定の実施形態において、由来ポリペプチドは、保存置換(conservative substitution)の存在のみ参照配列と異なる。保存置換は、同一のクラスのアミノ酸の置換、例えば非荷電側鎖におけるアミノ酸(例えば、アスパラギン、グルタミン、セリン、システイン、及びチロシン等) の置換、塩基性側鎖へのアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン及びヒスチジン等) の置換、酸性側鎖へのアミノ酸(例えば、アスパラギン酸及びグルタミン酸等) の置換、無極性側鎖へのアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン及びトリプトファン等)の置換である。
【0032】
由来ポリペプチドはまた、配列番号2又は4のタンパク質PorA又はPorBの、例えばゾベリア・ガラクタニボラン(Zobellia galactanivorans)等の他種におけるPorA及びPorBと相同であるタンパク質の対立遺伝子変異体、又はポルフィラナーゼ活性を保持するかかる対立遺伝子変異体の断片若しくは相同タンパク質に相当し得る。
【0033】
任意には、本発明のポリペプチドは、シグナルペプチドを含む。シグナルペプチドが存在する場合、それはタンパク質の天然のシグナルペプチド (すなわち、PorAに関する配列番号2の残基1−18、及びPorBに関する配列番号5の残基1−21)とすることができる。あるいは、シグナルペプチドは、PorA又はPorBと異種のシグナルペプチド、例えば特定の宿主細胞において成熟タンパク質PorA又はPorBを発現するのに適したシグナルペプチドとすることができる。配列番号2、3、5及び6は、天然のシグナルペプチドを含む本発明のポリペプチドの例(配列番号2及び5)、又は異種のシグナルペプチドを含む本発明のポリペプチドの例(配列番号3及び6)である。
【0034】
本発明のポリペプチドは、化学合成又は遺伝子操作によって、及び当業者に周知の技術を使用することによって、それらの元の生物又は微生物から精製によって調製することができる。好適な実施形態において、本発明のポリペプチドは、遺伝子操作によって得られる。
【0035】
本発明の核酸
本発明はまた、本発明のポリペプチドをコードする単離核酸に関する。本発明のこのポリペプチドは、上記段落で記載したいずれかのポルフィラナーゼに対応し得る。
【0036】
用語「核酸」とは、DNA分子及びRNA分子双方を指し、特にcDNA分子及びmRNA分子を含む。核酸は、二重鎖形態 (例えば、発現ベクター中に含まれる核酸の場合)であるか、又は一本鎖形態(例えば、プローブ又はプライマーの場合)であってよい。
【0037】
より詳細には、本発明の核酸は:
a)配列番号1のヌクレオチド1−1533又は55−1533;
b)配列番号4のヌクレオチド1−882又は64−882; 及び
c)配列(a) 又は (b)と相補的な配列、
から選択される配列を含み、又はこれらの中から選択される配列から成ってよい。
【0038】
本発明の核酸はまた、配列番号1又は4由来の配列を含み、又はこれらの中から選択される配列から成ってよい。当該由来核酸は、配列が:
a)ヌクレオチド:
−配列番号1の1−1533又は55−1533; 又は
−配列番号4の1−882又は64−882、
と少なくとも30、40、50、60、70、80、90、95、96、97、98又は99%同一である配列
b)配列(a)の少なくとも60、150、300、450、600又は750個の連続するヌクレオチドの断片;
c)ヌクレオチド:
−配列番号1の1−1533又は55−1533; 又は
−配列番号4の1−882又は64−882、
に存在する配列の少なくとも60、150、300、450、600又は750個の連続するヌクレオチドの断片
d)高ストリンジェントな条件下で配列番号1又は4とハイブリッド形成する核酸によってコードされる配列; 及び
e)配列 (a)−(d)の1つと相補的な配列、
から選択される配列を含み、又はこれらの中から選択される配列から成る核酸を含む。
【0039】
2つのヌクレオチド配列間の同一性の割合は、アミノ酸の2つの配列間の同一性の割合と同様に決定される。
【0040】
「高ストリンジェントな条件」とは、当業者に周知の条件であり、例えば5X クエン酸ナトリウム塩緩衝液(SSC)及び2%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、100μg/mLの一本鎖DNAの中での、フィルターに結合されたDNAの55-65℃での8時間のハイブリダイゼーション、及び0.2X SSC及び0.2% SDS中での60-65℃での30分間の洗浄のための条件に相当し得る。
【0041】
由来核酸の配列は、ヌクレオチドの変異、例えば置換、欠失及び/又は挿入を含んでよい。置換は、核酸によってコードされるタンパク質において無変化であるか、変異につながってよい。好ましくは、当該ヌクレオチド配列における置換、欠失及び/又は挿入は、読み取り段階における変化、又は終止コドンの導入につながらない。
【0042】
好適な実施形態において、当該由来核酸は、配列番号2の成熟又は完全タンパク質PorA、配列番号5の成熟又は完全タンパク質PorB、ポルフィラナーゼ活性を保持するそれらの断片をコードする核酸であるが、遺伝暗号の変性及び/又は対立遺伝子変化のためそのヌクレオチド配列は配列番号1又は4と異なる。
【0043】
他の特に好ましい実施形態は、ゾベリア・ガラクタニボラン(Zobellia galactanivorans)以外の種におけるPorA又はPorBの相同タンパク質をコードする核酸、又はポルフィラナーゼ活性を保持するその断片に関係する。
【0044】
本発明の他の側面は、配列番号1又は配列番号4の断片を含むか又はから成るヌクレオチドプローブ及びプライマーに関係する。これらのプローブ及びプライマーは、例えば配列番号1又は配列番号4の15−50個の連続するヌクレオチド、好適には18−35個の連続するヌクレオチドを含むか又はから成ってよい。これらのプローブ及びプライマーは、本発明のポリペプチドをコードしないが、本発明の核酸のクローン化、配列決定及び/又は検出に有用である。プローブは、任意には、例えば放射性マーカー又はフルオロフォアによって標識することができる。さらに、プローブ及びプライマーは、配列番号1又は配列番号4の断片に加えて、例えば制限酵素部位の配列又はマーカーに結合するための配列等の異種配列を含んでよい。
【0045】
本発明の核酸は、当業者に周知の、とりわけSambrook等に記載される技術(「Molecular Cloning: a Laboratory Manual」 Ed. Cold Spring Harbor Press, N.Y., 1989) を使用することによって、化学合成又は遺伝子操作によって調製することができる。本発明の核酸は、実施例1に記載の通り、PCR法 (ポリメラーゼ連鎖反応法) によって、例えばゾベリア・ガラクタニボラン(Zobellia galactanivorans)の遺伝子の増幅によって得られる。その結果増幅された核酸断片は、続いてManiatis (「Molecular Cloning. A Laboratory Manual」 New York, 1982) 及び/又は実施例1に記載される技術に従って発現ベクター中にクローン化することができる。
【0046】
本発明の発現ベクター及び宿主細胞
本発明はまた、本発明の核酸を含む発現ベクターに関する。例えばプラスミドとすることができるこれらの発現ベクターは、本発明の核酸配列に加えて、その発現に必要な手段を含む。これらの手段は、例えば転写ターミネーター又はプロモーターを含む。発現ベクターは、他の要素、例えば複製開始点、マルチクローニングサイト、転写促進因子、クローン化中にフェーズにおいて本発明のポリペプチドと融合され得るシグナルペプチド、及び1又は2以上の選択マーカー等もまた含んでよい。
【0047】
本発明の他の側面は、本発明の発現ベクター又は核酸によって形質転換された宿主細胞に関係する。
【0048】
宿主細胞は、原核細胞又は真核細胞とすることができる。組換え細胞を発現するために現在使用される宿主細胞は、例えば大腸菌(Escherichia coli)等の細菌細胞、例えばサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の母細胞、例えばアスペルギルス・ニゲル(Aspergillus niger)等の真菌細胞、昆虫細胞及び例えば細胞株CHO、HEK 293、PER-C6等の哺乳類細胞(特にヒト細胞)、等を特に含む。
【0049】
原核細胞及び真核細胞の形質転換は、当業者に周知の技術である。形質転換する細胞によって、当業者は選択した宿主細胞において、本発明の核酸を導入及び発現するのに必要な手段を容易に決定することができる。従って、発現ベクター及び宿主細胞内に発現ベクターを導入するための方法は、選択した宿主細胞に基づいて選択することができる。
【0050】
本発明の発現ベクター又は核酸によって形質転換された宿主細胞は、好適には本発明のポリペプチドを安定した方法で発現する。当業者は、宿主細胞が本発明のポリペプチドを安定した方法で発現することを、例えばウエスタンブロット技術を使用することによって、容易に確認することができる。
【0051】
本発明の宿主細胞は、本発明のポリペプチドの生成に特に有用である。従って、本発明は、本発明のポリペプチドの発現が可能な条件下で、本発明の宿主細胞を培養する工程を含む本発明のポリペプチドの生成方法に関する。この方法は、本発明のポリペプチドを精製する工程をさらに含んでよい。培養及び精製工程は、例えば実施例2に記載の通りに達成することができる。
【0052】
本発明の多糖の加水分解のための方法
本発明者は、酵素PorA及びPorBをポルフィランの加水分解に使用することができ、それらにより特定の構造及びサイズを有するオリゴ糖が得られることを見出した。より詳細には、PorA及びPorBによるポルフィランの加水分解によって、オリゴポルフィラン、特にネオポルフィロビオース、ネオポルフィロテトラオース及び/又はネオポルフィロヘキサオースを得ることが可能である。
【0053】
本発明の側面は、従って、多糖の加水分解及び/又はオリゴ糖の生成のための本発明のポリペプチドの使用に関係する。
【0054】
当該方法の範囲で使用される多糖は、当該多糖の主要化合物であるか又はそれではない、硫酸化多糖類を含んでよい多糖である。好適には、当該方法の範囲で使用される多糖は、ポルフィランを含むか又はから成ってよい。あるいは、当該方法の範囲で使用される多糖は、ポルフィランと異なるが、少なくとも部分的に、O6位におけるO-硫酸化によって修飾されたL-ガラクトース単位にβ-1,4において結合されたD-ガラクトース単位から成る二糖類単位から成る多糖を含むか又はから成ってよい。
【0055】
これらの多糖は、海洋植物中に存在する。それらは、例えばMorrice等が記載する技術(Eur. J. Biochem. 1983 133:673-84)等の当業者に周知の抽出法を使用することによって、例えば海洋植物、特に紅藻類から得ることができる。それらは、任意には、液体クロマトグラフィ方法によって他の候補成分から分離することができる。
【0056】
好適な実施形態において、本発明は、ポルフィランの加水分解及び/又はオリゴポルフィラン、特にネオポルフィロビオース、ネオポルフィロテトラオース及び/又はネオポルフィロヘキサオースの生成のための本発明のポリペプチドの使用に関係する。
【0057】
本発明はまた、多糖の加水分解及び/又はオリゴ糖の生成のための方法に関し、以下の:
a)本発明のポリペプチド又は本発明の宿主細胞を供する工程; 及び
b)加水分解された多糖を得ることにつながる条件下、例えば完全な加水分解につながる条件下で、ポリペプチド又は宿主細胞を多糖と接触させる工程、
を含む。
【0058】
本願を読むことから顕著に明らかであるように、好適な実施形態において、本発明の多糖の加水分解及び/又はオリゴ糖の生成方法は、ポルフィランの加水分解及び/又はオリゴポルフィラン、特にネオポルフィロビオース、ネオポルフィロテトラオース及び/又はネオポルフィロヘキサオースの生成方法にある。加水分解された多糖を得ることにつながる条件は、当業者によって容易に決定することができる。例えば、実施例3に記載される条件を使用することができる。ポリペプチド又は宿主細胞は、例えば温度30℃で多糖と接触させてよい。この接触中、例えば6 μgのポリペプチドを1% (w/v) 多糖を含む50 mLの溶液に添加することができる。インキュベーション時間は、所望の加水分解多糖に応じて調整することができる。インキュベーションは、例えば約又は少なくとも6、10又は14時間続けることができる。従って、ポルフィランを含む多糖溶液で開始して、インキュベーション時間次第で次のオリゴ糖: ネオポルフィロビオース、ネオポルフィロテトラオース及び/又はネオポルフィロヘキサオースを得ることが可能である。
【0059】
本発明の方法は、任意には、加水分解された多糖を精製するための工程(c)を含むことができる。加水分解された多糖を精製するための技術は、当業者に周知である。精製は、例えば、実施例4に記載の通り、排除クロマトグラフィによって達成することができる。オリゴ糖を含むサンプルを、例えば50mMの炭酸アンモニウムで、速度1.5 mL/分で650分間で溶出することができる。
【0060】
好適な実施形態において、本発明の方法によって得られた加水分解された多糖の平均分子量 (Mw)は、5800、5500、5000、4500、4000、3500又は3000 Da以下、さらに好適には5800 Da以下である。好適には、本発明の方法によって得られる加水分解された多糖は、より低い分子量として1,270、1,170、850、750又は425 Da、例えば約1,261.04、1,163.97、840.69、743.62又は420.344 Daの分子量を有する。
【0061】
他の好ましい実施形態において、本発明の方法によって得られる加水分解された多糖は、ネオポルフィロビオース、ネオポルフィロテトラオース及びネオポルフィロヘキサオースから選択される1又は2以上のオリゴポルフィランを少なくとも25%、50%、60%、70%、80%、90%、95% 又は99%含む。
【0062】
「ネオポルフィロビオース」とは、ポルフィランの二糖類単位 (図1で説明される) を意味する。「ネオポルフィロテトラオース」とは、ポルフィランの2個の二糖類単位の連鎖を意味する。「ネオポルフィロヘキサオース」とは、ポルフィランの3個の二糖類単位の連鎖を意味する。
【0063】
本発明に従って加水分解及び精製された多糖は、続いて農産食品、化粧品又は医薬組成物の調製に用いることができる。
【0064】
最終的に、本発明はまた、本発明の方法によって得ることができる加水分解された多糖、特にオリゴポルフィラン、特にネオポルフィロビオース、ネオポルフィロテトラオース及び/又はネオポルフィロヘキサオース、及びこれらの加水分解された多糖を含む農産食品、化粧品及び医薬組成物に関係する。
【0065】
本明細書中で引用する公報、論文、ハンドブック、特許及び特許出願の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0066】
本発明は、その範囲を限定することなく本発明を説明する後述の実験の検討によって詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、アガロース及びポルフィランの二糖類単位の模式図を表す。
【図2】図2は、ポルフィラナーゼA及びBの酵素活性を表す。A) アガロースゲル上の酵素活性。1 μgの異なるアガラーゼ及びポルフィラナーゼを1%アガロースゲルプレート上に置き、30℃で一晩インキュベートする。続いて活性を、ルゴールでの染色により、黒色の背景上でのハロゲン光の出現によって明らかにする。A: β−アガラーゼA、B: β−アガラーゼB、C: β−アガラーゼD、D: β−ポルフィラナーゼA、E: β−ポルフィラナーゼB。B) ポルフィランの消化の動態分析。ポルフィランを予めβ-アガラーゼで消化させ、ポルフィラン型二糖類単位のみ含ませた。線は、ゾベリア・ガラクタニボラン(Z. galactanivorans)のPorA_CM (1)、PorB (2) 、agaA (3) 及び agaB (4) の消化動態を示す。
【図3】図3は、酵素PorAで得られるポルフィランの分解生成物のHPLCによる分析を表す。DP2、DP4及びDP6は二糖、四糖及び六糖を指し、続いてNMRによって分析した。
【図4】図4は、酵素PorAで得られたネオポルフィロビオース、ネオポルフィロテトラオース及びネオポルフィロヘキサオースの1H-NMRスペクトルを表す。
【図5】図5は、PorA及びPorBとの配列比較を表す。矢印は、PorA_CMのC-末端を示す。
【図6】図6は、PorA及びPorBとの配列比較を表す。
【0068】
配列表由来の配列の説明
配列番号1は、ポルフィラナーゼAのヌクレオチド配列を表す。
配列番号2は、ポルフィラナーゼAのタンパク質配列を表す。
配列番号3は、実施例2において生成される組換えポルフィラナーゼAのタンパク質配列を表す。
配列番号4は、ポルフィラナーゼBのヌクレオチド配列を表す。
配列番号5は、ポルフィラナーゼBのタンパク質配列を表す。
配列番号6は、実施例2において生成される組換えポルフィラナーゼBのタンパク質配列を表す。
配列番号7−10は、ポルフィラナーゼA及びポルフィラナーゼBをコードする遺伝子のクローン化に適したプライマーを表す。
【実施例】
【0069】
実施例 1: ポルフィラナーゼA及びBの遺伝子のクローン化
酵素PorA及びPorBをコードする翻訳領域を、ゾベリア・ガラクタニボラン(Z. galactanivorans)のゲノム配列に基づいて構築した。PCRによって標的遺伝子を、ゾベリア・ガラクタニボラン(Z. galactanivorans)のゲノムDNA物質から、以下の表1に示すように5’及び3’プライマーで同時に増幅した。
【0070】
表1:~70℃のTmを得るために算出した、PorA_CM及びPorBのクローン化のためのプライマーの配列
【0071】
【表1】

【0072】
β-ポルフィラナーゼAの遺伝子全体(触媒ドメイン及び基質に結合するためのモジュールに似た2つのドメインを含む) を、触媒ドメイン (残基19-275) のみを含む組換えタンパク質を生成するために切断した(以降、PorA_CMと呼ぶ)。配列が完全にファミリーGH16に属する単一モジュールを示すPorBを、活性組換えタンパク質を得るために完全にクローン化した。
【0073】
続いて、PCR増幅の生成物をQiaquick PCRキットで精製し、50 μlのH2Oで溶出した。次に、精製PCR生成物をそれぞれの緩衝液 (NEB2 及びBioLabs)中で、制限酵素BglII/EcoRIの混合物で37℃で3時間消化した。消化後、生成物をQiaquick PCRキットで精製し、続いて、25 μlのH2Oで溶出した。PCR生成物を、ベクターPFO4 (ベクターpet15に由来) との連結に供し、予め脱リン酸化し、適切な制限酵素で消化した。この連結方法を4℃で一晩、T4 DNAリガーゼで行った。
【0074】
形質転換方法のために、化学的経路を介して形質転換受容性を保有させた大腸菌(E. coli)(株DH5α)細胞を使用した。この目的のために、細胞を氷、水及びNaCl の混合物上に30 分間置き、続いて上記連結から得られた混合物と30分間インキュベートした。熱衝撃を適用することによって形質転換を42℃で45秒間実施し、続いて、細胞を30分間氷、水及びNaClの混合物中に戻した。
【0075】
実施例2: PorA_CM及びPorBの発現及び精製:
PorA_CM及びPorBを、大腸菌(E. coli)細胞 (株BL21, DE3)中で過剰発現させた。100 μg mL-1のアンピシリンを含む1 LのZYP-5052培地中で、過剰発現を20 ℃で行った(Studier 2005 Protein Expr. Purif. 41(1):207-34)。培養の3日と半日後に、遠心分離 (4,000g、20 分、4℃) によって細胞を回収した (600 nmの最終OD: 約16)。続いて、緩衝液A (20 mM トリス pH 8、200 mM NaCl、20 mM イミダゾール、pH 7.5、リゾチーム、デオキシリボヌクレアーゼ)中で沈渣を懸濁した。それにより懸濁した細胞をリゾチームで氷上で30分間溶解し、続いて、超音波処理に供した。可溶化液を遠心分離 (50,000g, 30分, 4℃)、続いて、0.2 μmフィルター(Millipore) を使用した濾過によって分離させた。その濾過溶液を、NiSO4 溶液で充填された10 mLのIMAC HyperCell (Pall Corporation)カラム上に負荷した。カラムをリゾチーム及びデオキシリボヌクレアーゼの何れも含まない緩衝液Aで予め平衡化させた。緩衝液Aでの洗浄工程後(10カラム容積)に、緩衝液A及び60%の緩衝液B(20 mM トリス pH 8, 200 mM NaCl 及び500 mM イミダゾール) を添加した緩衝液A間の直線勾配の生成によって、60 mL中で1 mL分-1でタンパク質を溶出させた。最終体積約5mLを得るために、Amicon膜(ポリエーテルサルホン, 制限サイズ30 kDa) 上で超濾過によってタンパク質を濃縮させた。続いて、緩衝液C (PorA_CM 用の20 mM トリス pH 8, 4 % (v/v) グリセロール、及びPorB用の20 mM トリス)で事前に平衡化したセファクリル(Sephacryl)(登録商標)S-200 (GE Healthcare) カラム上で速度mL分-1で、第二の精製工程を行った。(SDS-PAGEで分析される) 純粋タンパク質を含む画分全てを添加し、濾過/遠心分離によって、PorA_CMに関して2.6 mg/mL及びPorBに関して約 8 mg/mLで濃縮した (Amicon, 制限サイズ10 kDa)。クロマトグラフィ法は全て、AKTA Explorer システム(GE-Healthcare) で室温で行った。
【0076】
実施例3: ポルフィランの酵素分解
1% (w/v)の多糖を含む溶液を、ポルフィラナーゼA及びBでの酵素加水分解のために使用した。総量50 mLの多糖溶液を、6 μgの酵素で30℃で一晩インキュベートした。完全な加水分解が達成されるまで (約14時間)、加水分解のために一定分量を取り出した。
【0077】
酵素による完全な消化後、酵素の生じ得るいずれの残効性も不活性化するために、溶液を30分間96℃まで加熱した。続いて、4℃、5,000gで溶液を20分間遠心分離し、0.2 μmのMilliporeシリンジフィルターで上清を濾過した。消化された多糖を-80℃で凍結させ、続いて、凍結乾燥した。
【0078】
10 μlのタンパク質一定分量を90 μlの水と混合 (10x 希釈) し、続いて、1mLのフェリシアン化物溶液 (300 mgのヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム、29g Na2CO3、1 mLの5 M NaOH、水で総量1 Lとした)と混合することによる、還元糖の検出方法によって、一定分量を分析した。混合物を100℃まで15分間加熱し、続いて、420 nmにおける吸光度測定のために室温まで冷却した。
【0079】
実施例 4: 調製用排除クロマトグラフィによるオリゴポルフィランの精製
GE HealthCareから購入した3つのSuperdex 30 (26/60) カラムで、順に調製用排除クロマトグラフィによってオリゴポルフィランの精製、インジェクターシステム/液体回収HPLCシステム(Gilson)上での統合を行った。オリゴ糖の屈折率 (Spectra System RI-50 検出器)、及びソフトウェアパッケージUnipoint (Gilson)によるデータの統合(Gilson 及び屈折検出器) によってオリゴ糖を検出した。
【0080】
凍結及び凍結乾燥した多糖消化生成物を、4% (w/v)溶液を得るために鉱質除去水中に溶解した。0.45 μmの多孔質膜上での濾過後、4mLのサンプルを注入し、続いて50mMの炭酸アンモニウム [(NH4)2CO3] で速度1.5mL/分で650分間溶出した。オリゴ糖画分を採取し、HPLCで直接分析した。
【0081】
当該方法に従って、もっぱら反復性ポルフィラン単位又はアガロース型単位に結合したポルフィラン単位を含むハイブリッドオリゴ糖から成るオリゴ糖を調製することが可能である。従って、二糖から六糖 (図3及び4)のオリゴポルフィランを単離及び精製し、これらはそれぞれ分子量420.344 Da (図4でジ−ポルフィランと呼ぶ、ネオポルフィロビオース)、840.69 及び/又は743.62 Da (図4でテトラ−ポルフィランと呼ぶ、ネオポルフィロテトラオース) 及び1261.04及び/又は1163.97 Da (図4でヘキサ−ポルフィランと呼ぶ、ネオポルフィロヘキサオース) に相当する。
【0082】
実施例5: 結果及び考察
細菌ゾベリア・ガラクタニボラン(Zobellia galactanivorans)(SDMZコレクションに1998年5月8日に番号DSM 12170で寄託) の完全なゲノムの配列決定を達成した。配列決定により、糖質加水分解酵素のGH16 ファミリーに属する16個の遺伝子の同定ができた。これらの16個の遺伝子間で、κ-カラギーナーゼ、CgkA及びβ-アガラーゼAgaA及びAgaBをコードする遺伝子は、既に周知であり特徴付けされている(Barbeyron et al. Mol. Biol. Evol. 1998 15:528-37 ; Jam et al. Biochem. J. 2005 385:703-13 ; Allouch et al. J. Biol. Chem. 2003 278:47171-80)。
【0083】
上記実施例1のように、糖質加水分解酵素のGH16ファミリーに属する2つの他の遺伝子をクローン化した。porA及びporBと呼ぶこれらの遺伝子は、PorA及びPorBとそれぞれ呼ばれるタンパク質をコードする。タンパク質PorAは510個のアミノ酸から成り、57.311 kDaの理論的分子量を有する。シグナルペプチドの除去後、このタンパク質は算出分子量55.193 kDaを有する。タンパク質PorBは、293個のアミノ酸から成る。シグナルペプチド除去後、このタンパク質は31.271 kDaの理論的分子量を有する。
【0084】
以下の表2に示すように、これらの遺伝子はいずれも、ゾベリア・ガラクタニボラン(Zobellia galactanivorans)のβ-アガラーゼ及びκ-カラギーナーゼとの同一性は25%未満である。
【0085】
表2: ゾベリア・ガラクタニボラン(Zobellia galactanivorans)のGH16ファミリーの特定の糖質加水分解酵素の触媒モジュール間の配列同一性マトリックス。
【0086】
【表2】

【0087】
上記実施例2のように、一旦クローン化が行われると、大腸菌(Escherichia coli)においてタンパク質PorA及びPorBが過剰発現された。
【0088】
紅藻類の一部のガラクタン上のタンパク質PorA及びPorBの活性を、続いて調べた(実施例3)。これらの酵素がカラゲナン又はアガロースに全く活性を有しないことが確認された(図2A)。一方、これらの酵素は、ポルフィランに強い活性を有する (図2B)。
【0089】
生成されたオリゴ糖の精製及び1H NMRによるその特性決定(実施例4)により、酵素PorA及びPorBが特異的にポルフィランを加水分解し、D-ガラクトース単位と6位において硫酸化されたL-ガラクトース単位との間のβ-1,4結合を切断することが示されている。β-アガラーゼによって事前に消化したポルフィランへのPorA及びPorBの活性によって示されるように(図2B)、硫酸化は当該酵素の活性に必要であり、これはβ-アガラーゼ活性に特徴的である。
【0090】
実施例4に示されるように、PorA及びPorBによるポルフィランの加水分解により、ネオポルフィロビオース、ネオポルフィロテトラオース及び/又はネオポルフィロヘキサオースの均一の混合物を得ることができる。
【0091】
従って、タンパク質PorA及びPorBは、このたび初のβ-ポルフィラナーゼの報告である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルフィラナーゼ活性を有する単離ポリペプチド。
【請求項2】
ポリペプチドが組換えポリペプチドである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
配列番号2の配列の残基19〜274又は前記配列の少なくとも20個の連続するアミノ酸断片と少なくとも26%同一である配列を含む、請求項1又は2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
a)配列番号2の配列の残基19〜274、又は、配列番号5の配列の残基22〜293と、少なくとも30%同一である配列
b)配列番号2又は配列番号5の配列の少なくとも20個の連続するアミノ酸の断片、
から選択される配列を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
配列番号2の配列の残基19〜274、又は、配列番号5の配列の残基22〜293と、少なくとも80%同一である配列を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする、単離核酸。
【請求項7】
請求項6に記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項8】
請求項7に記載の発現ベクターによって形質転換された、宿主細胞。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリペプチドの、多糖の加水分解のための使用。
【請求項10】
多糖を加水分解する方法であって、
a)請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリペプチド、又は、請求項8に記載の宿主細胞を供する工程、
b)加水分解された多糖が得られる条件下で、ポリペプチド又は宿主細胞を多糖と接触させる工程、
を含む方法。
【請求項11】
加水分解された多糖を精製する工程c)をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
加水分解及び精製された多糖を含む農産食品、化粧品又は医薬組成物を調製する工程d)をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
多糖がポルフィランを含む、請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法によって得られる加水分解された多糖であって、平均分子量(Mw)が5,800 Da以下である多糖。
【請求項15】
請求項14に記載の加水分解された多糖を含む、農産食品、化粧品又は医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−533315(P2012−533315A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521085(P2012−521085)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051530
【国際公開番号】WO2011/010062
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【Fターム(参考)】