ポルホビリノゲンデアミナーゼ遺伝子療法
本発明は、哺乳動物細胞内でのより高い発現を目指して最適化されたヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列に関する。本発明は、ポルホビリノゲンデアミナーゼが欠損することにより引き起こされる状態、例えば急性間欠性ポルフィリン症の遺伝子療法で使用するための、かかる最適化された合成コード配列を含むDNA構築物にも更に関する。従って、本発明は、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸、又は核酸構築物に関し、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち少なくとも320個が配列番号1のコドンと同一である、又はヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち少なくとも305個が配列番号3のコドンと同一である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列、及びかかる配列を内包する核酸構築物に関する。本発明は、新規遺伝子療法ベクター、並びにポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損により引き起こされる状態の処置及び予防でかかるベクターを使用する方法に更に関する。より具体的には、本発明の遺伝子療法ベクターは、急性間欠性ポルフィリン症を含むかかる状態の症状を軽減する方法で使用できる。
【背景技術】
【0002】
急性間欠性ポルフィリン症(AIP)は、ヘム合成経路の3番目の酵素であるポルホビリノゲンデアミナーゼ(PBGD)の欠損を特徴とする遺伝性代謝疾患である。遺伝形質を受け継いだ者では、酵素活性が正常値の約50%である。当該疾患は、常染色体優性形式で受け継がれ、急性ポルフィリン症で最も一般的である。この疾患は全ての人種に生ずるが、主としてスウェーデン、英国、及びアイルランド等の北部ヨーロッパで最も一般的である。米国及びその他の国々では、5/100,000であり、北部スウェーデンでは、推定有病率は60〜100/100,000と高い。今日まで、PBGD遺伝子では225個以上の突然変異が記載されている。主な臨床的特徴として、腹痛、並びに内臓神経障害及び循環障害を含む神経系の障害に起因する急性間欠性発作が挙げられる。腹痛は85〜95%の症例で報告されており、また最も一般的な特徴であり、神経学的変化がこれに続く、又は伴う。AIPに気付かず、また有害な薬物、例えば発作を促進するおそれのある、肝臓のチトクロームP450酵素により代謝される薬物を中止しなければ、呼吸麻痺及び球麻痺に進行し、死に至る場合がある。心不整脈の結果として突然死も生ずる可能性がある。時に、原発性肝癌及び腎機能障害も生ずる。
【0003】
PBGDの遺伝的欠損のみでは、症状の発現に十分でない。PBGD突然変異を受け継いだ対象のうち多くの割合は、ポルフィリン症の症状を発現せず、すなわち臨床的浸透度は非常に低い。AIPキャリアーの臨床症状は、急性発作を誘発する薬物又はその他の促進因子によりヘム合成の要求が高まり、その結果、ポルフィリン前駆体であるδ−アミノレブリン酸(ALA)、及びポルフィリノゲン(PBG)の生成及び分泌が増加することに関連している。かかる条件においては、PBGDの欠損はヘム合成を制限し、その結果、ALAシンテターゼ(ALAS1)のヘム媒介の抑制が損なわれる。肝臓が過剰なポルフィリン前駆体の主たる供給源であることを示唆する証拠がある。ポルフィリン症発症を繰り返しやすいそのような対象では、かかる化合物は、発作と発作との間で上昇したままであり、発症中に更に増加する。当該疾患が長期間不活性のままである場合には、かかる化合物は正常値まで減少し得る。
【0004】
急性発作は通常思春期後に発生し、また内分泌因子、及びステロイドホルモン、及び薬物、栄養因子、炭水化物やカロリー摂取の制限、喫煙、ステロイドホルモンや経口避妊薬、鉛中毒、併発感染、手術、及び精神的ストレスを含む様々な環境因子により保因者において誘発され得る。薬物は、急性発作を誘発する因子の中でも最も重要な因子であり、安全な薬物のリストは、www.drugs−porphyria.comより入手可能である。喫煙、CYP450により代謝されるエタノール及び薬物は、肝臓でのヘムの要求量を大きく増加させ、その結果ALAS1を誘発し、こうしてポルフィリン前駆体の生成が増し、急性発作を引き起こす。また、ALAS1はペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクティベーター1α(PGC1α)により正の調節を受けるが、これは絶食時に肝臓で誘発される。促進因子の中でも、ステロイドホルモンは重要な役割を演じていると考えられる。この概念は、当該疾患は思春期前にはほとんど発現しない、及びPBGDが欠損している一部の女性では、経口避妊薬が発作を悪化させる可能性がある、という事実により支持される。また、女性(80%)は男性(20%)よりも高頻度で罹患する。
【0005】
急性発作は、グルコース及びヘミン(hemin)(Normosang、Orphan Europe)の輸液で処置される。グルコースは、PGC−1αを媒介としたALAS1の誘導に拮抗するようである。ヘミンは調節性ヘムプールを回復させ、肝臓によるALAS1の誘導を抑制する。一部の女性は、月経前発作を発症するが、ゴナドトロピン遊離ホルモン(GnRH)類似体により予防可能である。一部の患者は急性発作の再発、及び顕著で障害性の神経学的機能不全を示す。進行した神経学的損傷、並びに亜急性及び慢性の症状は、一般的にヘム療法に対して無反応性である。これは、同種異系の肝臓移植によってのみ治癒可能な生命を脅かす状態であり、かかる移植は、今日までのところ3人の患者において、神経毒性のALA及びPBGの蓄積を阻止している。しかしながら、肝臓移植は適合ドナーからの入手可能性に制約があり、顕著な有病率及び死亡率を有する。
【0006】
従って、肝臓機能がPBGD欠損を除き全く正常である患者では、遺伝子置換療法が肝臓移植に代わる代替候補である。遺伝子療法とは、ベクターを利用して、疾患を制御するように細胞内に特定の遺伝子を導入することからなる手順である。肝臓酵素の欠損の是正を目指した遺伝子送達療法の実現可能性がAIPの実験モデル(AIPマウス)で調べられている。ポルフィリン症のマウスに、アデノウイルスベクターを媒介としたPBGD遺伝子導入を行うことにより、肝臓でPBGDが発現する結果としての短期治療効果が明らかとなった(Johansson、2004年、Mol.Ther.、第10巻(2):337〜43頁)。これらの結果は原理証明(proof−of−principle)の実現であり、ウイルス性ベクターを媒介としたPBGD遺伝子送達によって、AIPマウスにおけるフェノバルビタール誘発性ポルフィリン症発作の重い症状が一時的に改善し得ることを実証した。
【0007】
欧州特許第1 049 489号は、概念レベルに過ぎないヒトPBGD cDNAを含むrAAVベクター構築物を開示する。
【0008】
しかし、hPBGDを、これを必要とする対象にAAV媒介送達を行うための改良されたベクター及びプロトコールに対するニーズが、当技術分野においてなおも存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼ(PBGD)をコードするヌクレオチド配列であって、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち少なくとも約320個のコドンが配列番号1のコドンと同一である、又はヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち少なくとも約305個のコドンが配列番号3のコドンと同一である、上記ヌクレオチド配列、すなわち核酸又はポリヌクレオチドが提供される。好ましくは、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列は、Needleman及びWunschのグローバルアラインメントアルゴリズムにより決定したときに、配列番号1又は3の全長に対して少なくとも95%の同一性を有する。
【0010】
配列番号1及び3の「コドン」とは、配列番号1及び3のヌクレオチド2又は3で始まるフレームではなく、配列番号1及び3のヌクレオチド1で開始するフレームにおけるコドンを指す。つまり、配列番号1及び3の最初のコドンは、ヌクレオチド番号1から3で示される。
【0011】
別の態様では、本発明は、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸構築物であって、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち少なくとも約320個のコドンが配列番号1のコドンと同一である、又はヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち少なくとも約305個のコドンが配列番号3のコドンと同一である上記核酸構築物に関する。好ましくは、当該核酸構築物において、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列は、ヒト細胞内で発現させるためのプロモーター、好ましくは肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結している。
【0012】
本発明の更なる態様は、ヒト細胞内で発現させるためのプロモーターに作動可能に連結している、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を含むウイルス遺伝子療法ベクターに関する。好ましくは、当該ベクターはリコンビナントパルボウイルスベクター、又はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0013】
更なる態様では、本発明は、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を含む、リコンビナントパルボウイルスベクター、又はAAVベクターを含む、核酸、核酸構築物、又はパルボウイルスビリオンに関する。
【0014】
なおも更なる態様では、本発明は、かかる核酸、核酸構築物、又はパルボウイルスビリオン、及び薬学的に許容される担体等を含む医薬組成物に関する。
【0015】
本発明の更なる態様は、薬剤として使用するため、及びポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損によって引き起こされる状態の処置で使用するための、かかる核酸、核酸構築物、又はパルボウイルスビリオンに関し、好ましくは、当該状態は急性間欠性ポルフィリン症(AIP)である。
【0016】
また、本発明は、本発明の核酸、核酸構築物、又はパルボウイルスビリオンを、ポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損によって引き起こされる状態の処置で使用される薬剤の製造で使用するための使用にも関する。
【0017】
ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を哺乳動物に送達するための方法であって、
a.本発明の核酸、核酸構築物、又はパルボウイルスビリオンを提供するステップと、
b.哺乳動物において治療効果をもたらすレベルでタンパク質を発現させるような条件下で、前記核酸、核酸構築物、又はパルボウイルスビリオンを前記哺乳動物に投与するステップ
とを含む上記方法も提供する。
【0018】
また、本発明は、ポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損によって引き起こされる状態を処置する方法であって、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を有する核酸、核酸構築物、又はパルボウイルスビリオンを含む医薬組成物の有効量を、ポルホビリノゲンデアミナーゼが欠損している対象に投与するステップを含み、好ましくは当該状態が急性間欠性ポルフィリン症である上記方法にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
「核酸」として、単量体ヌクレオチドから構成される、又はこれを含む任意の分子が挙げられる。用語「ヌクレオチド配列」は、本明細書の「核酸」と交換可能に用いられる場合がある。核酸はオリゴヌクレオチド、又はポリヌクレオチドであり得る。核酸はDNA又はRNAであり得る。核酸は化学的に修飾され得る、又は人工的であり得る。人工的な核酸として、ペプチド核酸(PNA)モルホリノ(Morphorino)及びロックド核酸(LNA)の他、グリコール核酸(GNA)、及びトレオース核酸(TNA)が挙げられる。これらはそれぞれ、分子骨格に変更を加えることにより、天然に生じたDNA又はRNAと異なる。また、ホスホロチオエートヌクレオチドも利用可能である。本発明の核酸で利用可能なその他のデオキシヌクレオチド類似体として、メチルホスホネート、ホスホルアミデート、ホスホロジチオエート、N3’P5’−ホスホルアミデート、及びオリゴリボヌクレオチドホスホロチオエートとその2’−0−アリル類似体、及び2’−0−メチルリボヌクレオチドメチルホスホネートが挙げられる。
【0020】
「核酸構築物」とは、本明細書では、リコンビナントDNA技術の利用により生み出された人工の核酸分子を意味するものと理解される。核酸構築物は一本鎖又は二本鎖のいずれかの核酸分子であって、核酸のセグメントを含むように修飾されている、ある方法で組み合わされ併置されている、それ以外では自然には存在しないであろう核酸分子である。核酸構築物は、通常「ベクター」、すなわち外生的に生み出されたDNAを宿主細胞内に送達するために用いられる核酸分子である。
【0021】
核酸構築物の1つのタイプは、「発現カセット」、又は「発現ベクター」である。これらの用語は、かかる配列に適合性を有する宿主細胞又は宿主生物内で遺伝子の発現を引き起こす能力を有するヌクレオチド配列を意味する。発現カセット又は発現ベクターは通常、少なくとも適した転写制御配列、及び任意選択により3’転写終結シグナルを含む。発現を引き起こすのに必要な、又は役立つ、発現エンハンサーエレメント等の更なる因子も存在し得る。
【0022】
用語「ホモロガス」とは、所与の(リコンビナント)核酸又はポリペプチド分子と、所与の宿主生物又は宿主細胞との間の関係を表すのに用いられる場合には、当該核酸又はポリペプチド分子が、天然では同種の宿主細胞又は生物により産生されることを意味するものと理解される。用語「ヘテロロガス」とは、核酸又はポリペプチド分子が、天然では異種の宿主細胞又は生物により産生されることを表すために使用され得る。
【0023】
本明細書で用いる場合、用語「作動可能に連結した」とは、機能的な関係でポリヌクレオチド(又はポリペプチド)エレメントが連結していることを指す。核酸は、別の核酸配列と機能的な関係を有すように配置している場合に、「作動可能に連結した」状態にある。例えば、転写制御配列がコード配列の転写に影響を及ぼす場合には、当該転写制御配列はコード配列に作動可能に連結している。作動可能に連結したとは、通常、連結対象DNA配列が隣接していること、また2つのタンパク質をコードする領域を結び付ける必要がある場合には、隣接し、且つリーディングフレームがインフレームであることを意味する。
【0024】
「発現制御配列」とは、それが作動可能に連結しているヌクレオチド配列の発現を制御する核酸配列を指す。発現制御配列は、それがヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を制御及び調節する場合に、当該ヌクレオチド配列に「作動可能に連結して」いる。従って、発現制御配列は、プロモーター、エンハンサー、内部リボソーム侵入部位(IRES)、転写ターミネーター、タンパク質コード遺伝子の前に位置する開始コドン、イントロンに関するスプライシングシグナル、及び終始コドンを含み得る。用語「発現制御配列」は、少なくとも、その存在が発現に影響を与えるように設計された配列を含むことが意図されており、また追加の好都合な構成要素も含み得る。例えば、リーダー配列及び融合パートナー配列は発現制御配列である。当該用語は、フレーム内外にある望ましくない潜在的開始コドンが配列から取り除かれるような核酸配列の設計も含み得る。当該用語は、望ましくない潜在的スプライス部位が取り除かれるような核酸配列の設計も含み得る。この配列には、ポリA尾部、すなわち、mRNAの3’−末端にある、ポリA配列と呼ばれることもあるアデニン残基のストリングを付加するように指示する配列又はポリアデニレーション配列(pA)が含まれる。またこの配列は、mRNAの安定性を高めるようにも設計され得る。転写安定性及び翻訳安定性に影響を及ぼす発現制御配列、例えばプロモーター、並びに翻訳に影響を及ぼす配列、例えばKozak配列等の昆虫細胞で用いるのに適する配列は、当業者には周知である。発現制御配列は、これが作動可能に連結したヌクレオチド配列を、より低い発現レベル、又はより高い発現レベルを実現すべく調節する性質のものであり得る。
【0025】
本明細書で用いる場合、用語「プロモーター」又は「転写制御配列」とは、1つ又は複数のコード配列の転写を制御するように機能し、且つ当該コード配列の転写開始部位の転写方向に対して上流に位置し、且つDNA依存性RNAポリメラーゼ結合部位、転写開始部位、及び任意のその他のDNA配列、例えば非限定的に転写因子結合部位、リプレッサー及びアクティベータータンパク質結合部位、及び、例えばアテニュエーター又はエンハンサー、それからサイレンサーを含む、プロモーターからの転写量を直接的又は間接的に制御するように作用するような当業者にとって公知の任意のその他のヌクレオチド配列の存在により構造的に識別される。「構成的」プロモーターとは、ほとんどの生理的及び発生条件下で、ほとんどの組織内でアクティブなプロモーターである。「誘導性」プロモーターとは、例えば化学誘導物質の適用によって生理的又は発生的に調節されたプロモーターである。「組織特異的」プロモーターとは、特定の種類の組織又は細胞においてのみアクティブである。
【0026】
「3’UTR」又は「3’非翻訳配列」(3’非翻訳領域、又は3’末端と呼ばれることも多い)とは、遺伝子のコード配列の下流に見出される核酸配列を指し、例えば転写終結部位、及び(ほとんどの、但し全てではない真核生物mRNAにおいて)ポリアデニレーションシグナル(例えば、AAUAAA又はその変異体)を含む。転写終結後、mRNA転写物はポリアデニレーションシグナルの下流で切断され、ポリ(A)尾部が付加される場合があるが、これは細胞質(翻訳が行われる場所)へのmRNAの輸送に関連している。
【0027】
用語「実質的に同一の」、「実質的同一性」、又は「本質的に類似の」、又は「本質的類似性」は、2つのペプチド又は2つのヌクレオチド配列が、例えば、デフォルトパラメーターを用いてプログラムGAP又はBESTFITによって、最適に整列している場合に、これらが、本明細書の他の場所で定義するように、少なくともある割合の配列同一性を共有することを意味する。GAPは、Needleman及びWunschのグローバルアラインメントアルゴリズムを使用して、それらの全長にわたって2つの配列を整列させ、マッチ数を最大にし、ギャップ数を最小にする。一般に、GAPデフォルトパラメーターが用いられ、ギャップ生成ペナルティー=50(ヌクレオチド)/8(タンパク質)、及びギャップ伸長ペナルティー=3(ヌクレオチド)/2(タンパク質)である。ヌクレオチドの場合、使用するデフォルトスコアリングマトリックスは、nwsgapdnaであり、タンパク質の場合には、デフォルトスコアリングマトリックスは、Blosum62である(Henikoff&Henikoff、1992年、PNAS、第89巻、915〜919頁)。RNA配列が、DNA配列と実質的に類似している、又はある程度の配列同一性を有するといわれる場合には、DNA配列におけるチミン(T)は、RNA配列におけるウラシル(U)に等しいと考えられることは明らかである。配列アラインメント、及び配列同一性の割合(%)を表すスコアは、Accelrys Inc.、9685 Scranton Road、San Diego、CA 92121−3752、米国から入手可能なGCG Wisconsin Package、10.3版、又はオープンソースソフトウェアEmboss for Windows(登録商標)(最新版2.7.1−07)等のコンピュータプログラムを使用して決定可能である。或いは、類似性又は同一性の割合(%)を、FASTA、BLAST等のデータベースについて検索することによって決定可能である。
【0028】
本文書、及びその特許請求の範囲では、「含む」という動詞及びその活用形は、その言葉に続く事項が含まれるが、具体的に記載されていない事項も除外されないことを意味するように、非限定的な意味合いで使用される。更に、不定冠詞「a」又は「an」により要素を引用する場合、これは、文脈によって、要素が1つ、且つ1つしか存在しないことが明らかに求められない限り、要素が2つ以上存在する可能性を排除しない。従って、不定冠詞「a」又は「an」は、通常、「少なくとも1つ」を意味する。
【0029】
発明の詳細な説明
本発明はポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列に関する。ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列は、好ましくは合成ヌクレオチド配列である。用語「合成ヌクレオチド配列」とは、本明細書においては、当該ヌクレオチド配列は天然には生じることはなく、むしろヒトが介入することによって設計、工学操作、及び/又は構築されることを意味するものと理解される。従って、用語「合成」は、もっぱら及び/又は全てが化学合成を通じて得られる配列を必ずしも意味しない。むしろ、当該合成配列の一部は、1つの段階において化学合成を通じて得られたものであり得るが、本発明の合成配列を含む分子は、通常、(培養された、例えばリコンビナント)細胞等の生物学的起源から取得される。
【0030】
本発明のヌクレオチド配列は、赤血球又は非赤血球のポルホビリノゲンデアミナーゼをコードし得る。好ましくは、ヌクレオチド配列は、ヒト起源のポルホビリノゲンデアミナーゼをコードする。従って、当該ヌクレオチド配列は、対立形質のヒトポルホビリノゲンデアミナーゼに関する任意の天然のアミノ酸配列をコードし得る。但し、本発明に明確に含まれるものとして、例えば天然に生じているヒトアミノ酸配列と比較して、1つ又は複数のアミノ酸の置換、欠損、及び/又は挿入を有するポルホビリノゲンデアミナーゼの工学操作された突然変異タンパク質をコードするヌクレオチド配列が挙げられる。好ましくは、当該ヌクレオチド配列は、例えばWright及びLim(1983年、Biochem.J.、第213巻:85〜88頁)が記載するアッセイ法により決定され得るような、ポルホビリノゲンデアミナーゼ活性(EC2.5.1.61)を有するタンパク質をコードする。
【0031】
本発明の好ましい実施形態では、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列は、デアミナーゼをコードする天然に生じているヌクレオチド配列と比較して、ヒト細胞に対してコドンの利用において改善した偏りを有する。ヒト細胞のコドン利用に対するポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列の適応性は、コドン適応性インデックス(CAI)として表現され得る。コドン適応性インデックスは、本明細書においては、高度に発現しているヒト遺伝子のコドン利用に対する、ある遺伝子のコドン利用の相対的適応性の尺度として定義される。各コドンの相対的適応性(w)は、同一のアミノ酸について最も多く存在するコドンの利用に対する各コドンの利用の比である。CAIはそのような相対的適応性の値の幾何平均として定義される。非同義コドン及び終始コドン(遺伝子コードに依存する)は除外される。CAI値は0から1の範囲であり、高い値ほど、最も多く存在するコドンの割合が高いことを表す(Sharp及びLi、1987年、Nucleic Acids Research、第15巻:1281〜1295頁を参照;またKimら、Gene、1997年、第199巻:293〜301頁;zur Megedeら、Journal of Virology、2000年、第74巻:2628〜2635頁も参照)。好ましくは、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列は、少なくとも0.8、0.85、0.90、0.92、0.94、0.95、0.96、又は0.97のCAIを有する。
【0032】
本発明の好ましいヌクレオチド配列では、非赤血球ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードする全てのコドンのうち、少なくとも320、330、340、345、350、355、356、357、358、359、360、又は361個が、配列番号1のコドン(対応する位置にある)と同一である。より好ましくは、当該ヌクレオチド配列は配列番号2のアミノ酸配列をコードする。
【0033】
或いは、本発明の好ましいヌクレオチド配列では、赤血球ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち、少なくとも305、310、315、320、325、330、335、340、341、342、343、又は344個が、配列番号3のコドン(対応する位置にある)と同一である。より好ましくは、当該ヌクレオチド配列は配列番号4のアミノ酸配列をコードする。
【0034】
配列番号1及び3の「コドン」とは、配列番号1及び3のヌクレオチド1で始まるフレーム内のコドンを指し、すなわち、配列番号1及び3のヌクレオチド2又は3で始まるフレーム内のコドンではない。つまり、配列番号1及び3の最初のコドンはヌクレオチド番号1から3で表される。
【0035】
本発明の別の好ましいヌクレオチド配列は、ポルホビリノゲンデアミナーゼ活性を有するポリペプチドをコードし、これに基づき、当該ヌクレオチド配列は、Needleman及びWunschのグローバルアラインメントアルゴリズムにより求めたときに、その全長に対して配列番号1又は3と少なくとも95、96、97、98、又は99%のヌクレオチド配列同一性を有する。より好ましくは、ヌクレオチド配列は、配列番号2又は4のアミノ酸配列をコードする。
【0036】
本発明の特に好ましい実施形態では、ヌクレオチド配列は、配列番号1又は3のヌクレオチド配列を有する。
【0037】
更なる態様では、本発明は、本明細書においてこれまでに定義したような本発明のヌクレオチド配列を含む核酸構築物に関する。当該核酸構築物では、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列は、好ましくは哺乳動物細胞に適合性のある発現制御配列、例えばプロモーターに作動可能に連結している。多くのかかるプロモーターは、当技術分野で公知である(上記Sambrook及びRussell、2001年を参照)。多くの細胞型で幅広く発現している構成的プロモーター、例えばCMVプロモーターが利用可能である。しかし、誘導性、組織特異的、細胞型特異的、又は細胞サイクル特異的であるプロモーターが好ましい場合がある。好ましい実施形態では、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列は、肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結している。肝臓特異的プロモーターは、非赤血球デアミナーゼと共に用いるのに特に好ましい。好ましくは、本発明の構築物では、肝臓特異的発現に対する発現制御配列は、例えばα1−アンチ−トリプシン(AAT)プロモーター、甲状腺ホルモン結合グロブリンプロモーター、アルブミンプロモーター、チロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーター、肝制御領域(HCR)−アポCIIハイブリッドプロモーター、HCR−hAATハイブリッドプロモーター、マウスアルブミン遺伝子エンハンサー(Ealb)エレメントと結合したAATプロモーター、及びアポリポタンパク質Eプロモーターからなる群より選択される。その他の例として、腫瘍選択的、及び特に、神経細胞腫瘍選択的発現に関するE2Fプロモーター(Parrら、1997年、Nat.Med.第3巻:1145〜9頁)、又は単核血球で用いられるIL−2プロモーター(Hagenbaughら、1997年、J.Exp Med;第185巻:2101〜10頁)が挙げられる。本発明の特に好ましい実施形態では、プロモーターは配列番号5の配列を有する。
【0038】
本発明の核酸構築物の更に好ましい実施形態では、3’UTR(又は3’非翻訳配列)は、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列の下流に位置し得る。適する3’UTR配列は、当業者には入手可能である。これらの配列は、任意の哺乳動物、そして好ましくはヒト遺伝子に由来することができ、また通常、転写終結部位、及びポリアデニレーションシグナル(例えば、AAUAAA又はその変異体)を含む。特に好ましい実施形態では、核酸構築物は、例えば配列番号6等のヒトPBGD遺伝子に由来する3’UTRを含む。
【0039】
本発明の核酸構築物の別の好ましい実施形態では、発現制御配列はポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結し、上流転写ユニットと考えられるユニットからのランスルー転写を終結するように、ポリAインシュレーターがこの上流に位置する。上記のような、そして好ましくは少なくとも転写終結配列を含む3’UTRは、かかる目的で利用可能である。好ましいポリAインシュレーターは、配列番号7の配列を有する合成ポリAインシュレーターである。
【0040】
1つの好ましい実施形態では、本発明の核酸構築物は、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列の開始コドン周辺にKozak配列を含む。本明細書では、Kozak配列をGCCRCC(AUG)A(配列番号8)として定義するが、Rはプリン(すなわちA,アデノシン、又はG,グアノシン)であり、また(AUG)は、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードする配列の開始コドンを意味する。通常のKozak配列では、AUG開始コドンの直後のヌクレオチドはG(グアノシン)であるが、本発明においては、かかるヌクレオチドは、赤血球及び非赤血球ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードする配列のいずれにおいても好ましくはA(アデノシン)である。好ましい実施形態では、Kozak配列に対してもう1つ別のGCCトリプレットが先行し得る。
【0041】
更なる態様では、本発明は、本明細書でこれまでに定義した発現制御配列に作動可能に連結している、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸構築物に関連し、前記構築物は哺乳動物の遺伝子治療、好ましくはヒトの遺伝子治療に好適な発現ベクターである。本発明による好ましい核酸構築物は、ウイルス遺伝子治療ベクターである。ウイルス遺伝子治療ベクターは当技術分野で公知であり、例えばアデノウイルスに基づくベクター、及びアデノ随伴ウイルス(AAV)等のパルボウイルス科(Parvoviridae)のメンバー、又はヘルペスウイルス、ポックスウイルス、又はレトロウイルスが含まれる。好ましいウイルス遺伝子治療ベクターは、AAV、アデノウイルス、又はレンチウイルスのベクターである。
【0042】
本発明において特に好ましい遺伝子療法ベクターは、パルボウイルスベクターである。従って、かかる好ましい態様では、本発明は、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を哺乳動物細胞内に導入し、及び/又は発現させるためのベクターとしての利用を目的とした、動物パルボウイルス、特に感染性ヒト又は類人猿AAV等のディペンドウイルス(dependoviruses)及びその構成要素(例えば、動物パルボウイルスゲノム)の利用に関する。
【0043】
パルボウイルス科のウイルスは、小型のDNA動物ウイルスである。パルボウイルス科は2つの亜科に分割可能である:脊椎動物に感染するパルボウイルス亜科(Parvovirinae)、及び昆虫に感染するデンソウイルス亜科(Densovirinae)。パルボウイルス亜科のメンバーは、本明細書においてパルボウイルスと呼び、またディペンドウイルス属(Dependovirus)を含む。その属名から推定され得るように、ディペンドウイルスのメンバーは、これが細胞培養で増殖的に感染するために、通常アデノウイルス、又はヘルペスウイルス等のヘルパーウイルスと同時感染する必要があることから独特である。ディペンドウイルス属には、通常ヒト(例えば、血清型1、2、3A、3B、4、5、及び6)、又は霊長類(例えば、血清型1及び4)に感染するAAV、及び他の温血動物に感染する関連ウイルス(例えば、ウシ、イヌ、ウマ、及びヒツジのアデノ随伴ウイルス)が含まれる。パルボウイルス、及びパルボウイルス科のその他のメンバーに関する更なる情報は、Kenneth I.Berns、「パルボウイルス科:ウイルス及びその複製(Parvoviridae:The Viruses and Their Replication,)」Chapter 69 in Fields Virology(3d Ed.1996)に記載されている。便宜上、本発明は、本明細書では、以降、AAVと呼ぶことによって、例示され、記載される。但し、本発明は、AAVに限定されることなく、同様に他のパルボウイルスにも適用可能であることが理解される。
【0044】
全ての既知のAAV血清型のゲノム構造は非常に類似している。AAVのゲノムは、長さが約5,000ヌクレオチド(nt)未満である、直線状の一本鎖DNA分子である。逆方向末端反復(ITR)は、非構造的複製(Rep)タンパク質及び構造(VP)タンパク質に関する独特なコードヌクレオチド配列に隣接する。VPタンパク質(VP1、VP2及びVP3)は、キャプシドを形成する。末端側145ntは自己相補的であり、T型ヘアピンを形成するエネルギー的に安定な分子内二本鎖を形成し得るように組織化される。これらのヘアピン構造は、ウイルスDNA複製の開始点として機能し、細胞性DNAポリメラーゼ複合体のプライマーとしての役割を果たす。野生型(wt)AAVが哺乳動物細胞に感染し、これに続いてRep遺伝子(すなわち、Rep78、及びRep52)が、それぞれP5プロモーター及びP19プロモーターから発現し、両方のRepタンパク質は、ウイルスゲノムの複製においてある1つの機能を有する。Rep ORFにおけるスプライシング事象は、実際には4つのRepタンパク質(すなわち、Rep78、Rep68、Rep52及びRep40)を発現する。しかし、哺乳動物細胞においてRep78及びRep52タンパク質をコードするスプライスされていないmRNAは、AAVベクターを産生するのに十分であることが示された。また、昆虫細胞においても、Rep78及びRep52タンパク質は、AAVベクターを産生するのに十分である。
【0045】
「リコンビナントパルボウイルス又はAAVベクター」(又は「rAAVベクター」)は、本明細書において、1つ又は複数の対象とするポリヌクレオチド配列、対象とする遺伝子、又は少なくとも1つのパルボウイルス若しくはAAVの逆方向末端反復配列(ITR)が隣接する「導入遺伝子」を含むベクターを指す。AAV rep及びcap遺伝子産物(すなわち、AAV Rep、及びCapタンパク質)を発現している昆虫宿主細胞内に存在する場合には、かかるrAAVベクターは複製可能、及び感染性ウイルス粒子中にパッケージング可能である。rAAVベクターが、より大きい核酸構築物(例えば、染色体、又はクローニング若しくはトランスフェクションに使用するプラスミド若しくはバキュロウイルス等の別のベクター内にある)中に組み込まれた場合、rAAVベクターは、AAVパッケージング機能及び必要なヘルパー機能の存在下で複製及びキャプシド形成することによって「救出」可能な「プロベクター」と一般的に呼ばれる。従って、本発明の更なる態様は、本明細書でこれまでに定義したポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸構築物に関連し、当該核酸構築物はリコンビナントパルボウイルス、又はAAVのベクターであり、従って少なくとも1つのパルボウイルスITR又はAAV ITRを含む。好ましくは、当該核酸構築物では、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列は、いずれかの末端においてパルボウイルスITR又はAAV ITRと隣接する。AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV8、及び/又はAAV9に由来するITRを含め、任意のパルボウイルスITR又はAAV ITRを本発明の構築物で利用可能である。AAV2のITRが最も好ましい。本発明の好ましい核酸構築物で用いられる好ましいITR配列の例として、配列番号9(左側、又は上流のITR)、及び配列番号10(右側、又は下流のITR)が挙げられる。
【0046】
AAVはいくつかの哺乳動物細胞に感染することができる。例えばTratschinら(1985年、Mol.Cell Biol.、第5巻:3251〜3260頁)、及びGrimmら(1999年、Hum.Gene Ther.、第10巻:2445〜2450頁)。しかし、ヒト滑膜線維芽細胞にAAVを形質導入する場合、それは類似するマウス細胞より顕著に効果的であり、Jenningsら、Arthritis Res、3:1(2001年)、またAAVの細胞トロピシティー(tropicity)は、血清型間で異なる。例えば、哺乳動物CNS細胞向性、及び形質導入効率について、AAV2、AAV4、及びAAV5の間の相違を議論しているDavidsonら、(2000年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第97巻:3428〜3432頁)、及びAAV向性を改変するアプローチについて議論しているGoncalves、2005年、Virol J.、第2巻(1):43頁を参照。肝臓細胞に形質導入する場合には、AAV1、AAV8、及びAAV5キャプシドタンパク質を含むrAAVビリオンが好ましく(Nathwaniら、2007年、Blood、第109巻(4):1414〜1421頁;Kitajimaら、2006年、Atherosclerosis、第186巻(1):65〜73頁)、これらの中で、AAV5キャプシドタンパク質を含むrAAVビリオンが最も好ましい。
【0047】
昆虫細胞内でrAAVベクターを産生させるために、本発明で用いることができるAAV配列は、任意のAAV血清型のゲノムに由来することができる。一般的に、AAV血清型は、アミノ酸レベル及び核酸レベルでかなり相同性の高いゲノム配列を有する。これは、等しい一連の遺伝機能をもたらして、物理的にまた機能的に本質的に等しいビリオンを生成する。様々なAAV血清型のゲノム配列、及びゲノム類似性の概要については、例えば、GenBank受入番号U89790;GenBank受入番号J01901;GenBank受入番号AF043303;GenBank受入番号AF085716;Chloriniら(1997年、J.Vir.第71巻:6823〜33頁);Srivastavaら(1983年、J.Vir.第45巻:555〜64頁);Chloriniら(1999年、J.Vir.第73巻:1309〜1319頁);Rutledgeら(1998年、J.Vir.第72巻:309〜319頁);及びWuら(2000年、J.Vir.第74巻:8635〜47頁)を参照。rAAV血清型1、2、3、4、及び5は、本発明において用いられるAAVヌクレオチド配列の好ましい供給源である。好ましくは、本発明において用いられるAAV ITR配列は、AAV1、AAV2、及び/又はAAV4に由来する。同様に、Rep(Rep78/68、及びRep52/40)をコードする配列は、好ましくはAAV1、AAV2、及び/又はAAV4に由来する。しかし、本発明において用いられる、ウイルスタンパク質(VP)VP1、VP2、及びVP3キャプシドタンパク質をコードする配列は、公知の42種類の血清型のうちの任意の血清型から選択されるが、より好ましくはAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、若しくはAAV9、又は例えばキャプシドシャッフリング技術、及びAAVキャプシドライブラリーにより得られる、新規に開発されたAAV様粒子から選択される。
【0048】
AAV Rep配列及びITR配列は、ほとんどの血清型の中でも特別に保存されている。様々なAAV血清型のRep78タンパク質は、例えば89%を超えて一致しており、またAAV2、AAV3A、AAV3B、及びAAV6間のゲノムレベルにおける総合的なヌクレオチド配列の同一性は、約82%である(Bantel−Schaalら、1999年、J.Virol.、第73巻(2):939〜947頁)。更に、多くのAAV血清型のRep配列、及びITRは、哺乳動物細胞内でAAV粒子を産生する際に、その他の血清型由来の対応する配列と十分に相互相補的である(すなわち、機能的に置き換わる)ことが公知である。米国特許第2003148506号は、AAV Rep配列及びITR配列も、昆虫細胞内のその他のAAV Rep配列及びITR配列と、十分に相互に相補的であることを報告している。
【0049】
AAV VPタンパク質は、AAVビリオンの細胞トロピシティーを決定づけることが公知である。VPタンパク質をコードする配列は、異なるAAV血清型のRepタンパク質及び遺伝子よりも、有意に保存性が低い。Rep配列及びITR配列は、その他の血清型の対応する配列と相互に相補的となり得るので、これにより1つの血清型(例えば、AAV5)のキャプシドタンパク質、及び別のAAV血清型(例えば、AAV2)のRep及び/又はITR配列を含む、シュードタイピングしたrAAV粒子の産生が可能となる。かかるシュードタイピングしたrAAV粒子は、本発明の一部である。本明細書では、シュードタイピングしたrAAV粒子をタイプ「x/y」と呼ぶ場合があるが、その場合、xはITRの起源を表し、また「y」は、キャプシドの血清型を表し、例えば2/5rAAV粒子は、AAV2に由来するITR、及びAAV5に由来するキャプシドを有する。
【0050】
改変された「AAV」配列も、本発明において、例えばrAAVベクターを昆虫細胞内で産生するために利用可能である。かかる改変された配列は、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、又はAAV9 ITR、Repに対して少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、又はこれ以上のヌクレオチド及び/又はアミノ酸配列の同一性(例えば、約75%から約99%のヌクレオチド配列の同一性)を有する配列を含み、又はVPを野生型AAV ITR、Rep、又はVP配列の代わりに利用することができる。
【0051】
多くの点でその他のAAV血清型と類似するが、AAV5は、その他の公知のヒト及び類人猿の血清型よりも、その他のヒト及び類人猿のAAV血清型と異なる。こうしたことから、rAAV5を産生する場合、それは昆虫細胞内でその他の血清型を産生する場合と異なる可能性がある。rAAV5を産生するために本発明の方法を用いる場合において、AAV5 ITRを含むヌクレオチド配列を含む1つ又は複数の構築物は、2つ以上の構築物の場合には集合的に、ヌクレオチド配列がAAV5 Repをコードする配列を含む(すなわち、ヌクレオチド配列はAAV5 Rep78を含む)ことが好ましい。かかるITR配列及びRep配列は、rAAV5又はシュードタイピングしたrAAV5ベクターを昆虫細胞内で十分に産生できるように望み通りに改変可能である。例えば、Rep配列の開始コドンを改変することができ、VPスプライス部位を改変又は除去することができ、及び/又は昆虫細胞内でrAAV5ベクターの産生を改善するように、VP1開始コドン及び近傍のヌクレオチドを改変することができる。
【0052】
Russellがレビューするように(2000年、J.Gen.Virol.、第81巻:2573〜2604頁)、又はUS20080008690で、及びZaldumbide及びHoebenが記載するように(Gene Therapy、2008年:239〜246頁)、好ましいアデノウイルスベクターは、宿主反応を抑えるために改変される。
【0053】
従って、本発明は、本明細書においてこれまでに定義した核酸構築物、及び本明細書においてこれまでに定義したパルボウイルスキャプシドタンパク質を含むパルボウイルスビリオンにも関連する。
【0054】
更なる態様では、本発明は、昆虫細胞内でリコンビナントパルボウイルス(例えば、rAAV)ビリオン(これまでに定義したリコンビナントパルボウイルス(rAAV)ベクターを含む)を産生する方法に関する。好ましくは、当該方法は、(a)リコンビナントパルボウイルス(例えば、rAAV)ベクターが産生するような条件下で、本明細書で定義する昆虫細胞を培養するステップ;及び(b)当該リコンビナントパルボウイルス(例えば、rAAV)ベクターを回収するステップを含む。本方法で産生されるリコンビナントパルボウイルス(rAAV)ベクターは、好ましくはリコンビナントパルボウイルス(rAAV)ベクター核酸を含む、感染性パルボウイルスビリオン又はAAVビリオンであると本明細書では理解される。培養物中の昆虫細胞の増殖条件、及び培養物中の昆虫細胞内でヘテロロガス生成物を産生させるステップは当技術分野で公知であり、昆虫細胞の分子工学に関する上記参考資料に記載されている。本発明のrAAVビリオンを産生するための好ましい方法及び構築物は、例えば国際公開第2007/046703号及び同第2007/148971号に開示されている。
【0055】
好ましくは、リコンビナントパルボウイルスビリオンを産生する方法は、リコンビナントパルボウイルス(rAAV)ベクター(を含むビリオン)を、抗AAV抗体、好ましくは固定化抗体を用いてアフィニティー精製するステップを更に含む。当該抗AAV抗体は、好ましくはモノクロナール抗体である。特に適する抗体は、例えばラクダ又はラマから入手可能な一本鎖のラクダ科抗体又はその断片である(例えば、Muyldermans、2001年、Biotechnol.第74巻:277〜302頁を参照)。rAAVのアフィニティー精製用の抗体は、好ましくはAAVキャプシドタンパク質上のエピトープに特異的に結合する抗体であり、好ましくは当該エピトープは、2つ以上のAAV血清型のキャプシドタンパク質上に存在するエピトープである。例えば、抗体はAAV2キャプシドへの特異的結合に基づき産生又は選択可能であるが、同時にAAV1、AAV3、及びAAV5キャプシドとも特異的に結合し得る。
【0056】
また、本発明は、本明細書においてこれまでに定義したパルボウイルスビリオンの薬剤としての使用に関する。すなわち、本発明は、治療によりヒト又は動物の身体を処置する方法で使用するための本発明のパルボウイルスビリオンを提供する。
【0057】
本発明は、ポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損により引き起こされる状態の処置で使用するための、本明細書でこれまでに定義したパルボウイルスビリオンに更に関する。好ましくは、かかる状態は急性間欠性ポルフィリン症である。本発明の核酸又は核酸構築物は、かかる使用にも適する。
【0058】
従って、本発明は、ポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損により引き起こされる状態を処置する方法で使用するための薬剤の調製で使用するための、本発明の核酸、核酸構築物、又はパルボウイルスビリオンに関する。好ましくは、かかる状態は急性間欠性ポルフィリン症である。かかる処置は、1つ又は複数のAIPの重症度を緩和し、改善し、軽減し得るが、例えば発作の発生率又は重症度を低減する。例えば、本発明による処置は、神経系の障害、腹痛、又は内臓神経及び/又は循環系の障害の重症度を緩和し、改善し、軽減し得る。
【0059】
更に、本発明は、本明細書においてこれまでに定義したパルボウイルスビリオンを含む医薬組成物に関する。当該医薬組成物は、好ましくは更に、薬学的に許容される担体を含む。任意の適した薬学的に許容される担体又は添加剤が、本組成物で利用可能である(例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、Alfonso R.Gennaro(編集者)Mack Publishing Company、1997年4月を参照)。好ましい医薬品形態は、滅菌生理食塩水、デキストロース溶液、又は緩衝溶液、又はその他の薬学的に許容される滅菌液と併用される。或いは、固体担体、例えばマイクロキャリアビーズ等も利用可能である。
【0060】
医薬組成物は、製造及び貯蔵の条件下では、一般的に滅菌状態にありまた安定である。医薬組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、リポソーム、又は高い薬物濃度を実現するのに適したその他の秩序構造物として処方可能である。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセリン、プロピレングリコール、及び液状のポリエチレングリコール等)、及びこれらの適する混合物を含む溶媒又は分散媒体であり得る。例えば、レシチン等のコーティング物を用いることにより、分散物の場合には、必要な粒子サイズを維持することにより、及び界面活性剤を使用することにより、適当な流動性を維持することができる。多くの場合、事例として、砂糖、ポリアルコール、例えばマンニトール、ソルビトール等、又は塩化ナトリウム等の等張剤を組成物に含むのが好ましいであろう。組成物中に吸収を遅らせる薬剤、例えばモノステアリン酸塩及びゼラチンを含めることにより、注射組成物が持続的に吸収されるようにすることができる。パルボウイルスビリオンは、例えば、低速放出ポリマー、又は急速な放出から化合物を保護するその他の担体、例えばインプラント及びマイクロカプセル化された送達システム等を含む組成物として、ある時間内で、又は制御された放出処方で投与可能である。例えば、エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリ乳酸、及びポリ乳酸、ポリグリコール酸コポリマー(PLG)等の生分解性、生体適合性ポリマーを利用することができる。
【0061】
本発明は、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を哺乳動物に送達する方法であって、
a.本明細書において定義した核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物を提供するステップと、
b.哺乳動物において治療効果をもたらすレベルでタンパク質発現させるような条件下で、前記核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物を前記哺乳動物に投与するステップ
とを含む上記方法も提供する。
【0062】
また、本発明は、ポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損によって引き起こされる状態を処置する方法であって、本明細書において定義した核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物の有効量を、ポルホビリノゲンデアミナーゼを欠損した対象に投与するステップを含む。好ましくは、当該対象は急性間欠性ポルフィリン症の病気に罹患している。
【0063】
本発明による処置又は治療では、ポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損によって引き起こされる状態は、本明細書において定義した核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物の有効量を、対象に投与することにより処置される。
【0064】
かかる病気に罹患した患者の状態は、本発明の核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物を投与することにより改善可能である。本発明の核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物の治療上有効な量が、これを必要とする患者に投与され得る。
【0065】
核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物は通常、任意選択により医薬担体、賦形剤、及び/又はアジュバンドと併用して、医薬組成物内に含まれる。かかる組成物は、所望の治療効果又は予防効果を実現するのに十分な有効量の核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物、及び薬学的に許容される担体又は添加剤を含む。「有効量」には、治療上有効量、又は予防上有効量が含まれる。
【0066】
「治療上有効量」とは、所望の治療結果、例えばPBGD活性の上昇等を実現するのに必要な用量及び期間において有効な量を指す。核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物の治療上有効な量は、病状、年齢、性別、及び個体の体重等の諸要因、並びに核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物が、個体内で所望の反応を発現させる能力により変化し得る。投与計画は、最適な治療反応を実現するように調節可能である。治療上有効な量は、一般的に、核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物の毒性効果、又は有害効果よりも、治療上有益な効果が勝る量でもある。
【0067】
「予防上有効な量」とは、所望の予防結果、例えばPBGDレベルの低下に関連した状態を含む様々な状態の予防又は阻止を実現するのに必要な用量及び期間において有効な量を指す。予防量は、疾患に先立ち、又は疾患の初期段階で対象において利用可能であり、予防上有効な量は、場合によって治療上有効な量よりも多くも、少なくもあり得る。
【0068】
特定の実施形態では、核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物の治療上又は予防上有効な量の範囲は、1×1012から1×1013ゲノムコピー(gc)/kg、例えば1×1011から1×1012gc/kgであり得る。用量値は緩和すべき状態の重症度に応じて変化し得ることに留意されたい。任意の特定の対象について、個体のニーズ、及び当該組成物を投与し、又は投与を監督する者の専門的判断に基づき特別な投与計画を、時間をかけて調整し得る。本明細書に記載する用量範囲は例示目的に限られ、開業医により選択され得る用量範囲を限定するものではない。
【0069】
本発明のパルボウイルスビリオン等の遺伝子療法ベクターの場合、投与すべき用量は処置される対象の状態及びサイズの他、治療処方、処置頻度、及び投与経路に大きく依存し得る。用量、処方、及び頻度を含む、治療を継続するための投薬計画は、初期反応及び臨床判断に基づくことができる。組織の間質腔への注入による非経口経路が好適であり得るが、特別な投与では、その他の非経口経路、例えばエアゾール処方の吸入が必要な場合もある。いくつかのプロトコールでは、水性担体中に遺伝子及び遺伝子送達系を含む処方が、組織内に適当量注入される。
【0070】
組織標的、例えば肝臓組織は特異的であり得、又はこれはいくつかの組織の組合せ、例えば筋肉と肝臓組織であり得る。典型的な組織標的として、肝臓、骨格筋、心筋、脂肪沈着物、腎臓、肺、血管内皮、上皮、及び/又は造血性細胞を挙げることができる。
【0071】
1つの実施形態では、筋肉内注射後の小動物(マウス)の有効用量範囲は、1×1012及び1×1013ゲノムコピー(gc)/kgの間、またより大型の動物(ネコ)及びヒト対象の場合では、1×1011及び1×1012gc/kgの範囲であり得る。
【0072】
本発明の組成物内の核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物の活性な量は、病状、年齢、性別、及び個体の体重等の諸要因により変化し得る。投与計画は、最適な治療反応を実現するように調節可能である。例えば、単回ボーラスで投与可能、いくつかに分割した用量で時間をかけて投与可能、又は用量は治療状況の緊急性の指標に従い比例的に減少又は増加可能である。
【0073】
投与を容易にし、用量を一定化するために、単位投与剤形で非経口組成物を処方するのが有利な場合がある。本明細書で用いる場合、「単位投与剤形」とは、処置される対象に単位用量として適する、物理的に分離した単位を指し、各単位は、必要な医薬担体に関連して所望の治療効果を生み出すように計算された事前に決定された量の活性な化合物を含む。本発明の単位投与剤形に関する仕様は、活性な化合物の固有の特徴、及び実現すべき具体的な治療効果により、また個体の状態を処置するためにかかる活性な化合物を混合するステップに関する当技術分野に固有の制限事項により決定され得る。
【0074】
本明細書で用いる場合、「薬学的に許容される担体」、又は「添加剤」として、生理的に適合する、任意の全ての溶媒、分散媒体、コーティング物、抗菌剤及び抗真菌剤、等張化剤及び吸収遅延剤等が挙げられる。1つの実施形態では、担体は非経口投与に適し、かかる投与として静脈内、腹腔内、又は筋内投与が挙げられる。或いは、舌下又は経口投与用として適当であり得る。薬学的に許容される担体として、滅菌水溶液又は分散物、及び滅菌注射溶液又は分散物を即時調製するための滅菌粉末が挙げられる。薬学的に活性な物質のためのかかる媒体及び薬剤の使用については、当技術分野で周知である。従来型の媒体又は薬剤が活性化合物と適合性を有さない場合には、それら全てを排除するが、本発明の医薬組成物でそれらを使用することが意図されている。
【0075】
補助的な活性化合物も、本発明の医薬組成物中に組み込むことができる。更なる治療薬の同時投与に関する指針は、例えばカナダ薬剤師協会(Canadian Pharmacists Association)のCompendium of Pharmaceutical and Specialties(医薬品及び特殊品大要)(CPS)に見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】オスAIPマウスにおけるヘム前駆体排泄に対するAAV2/8−hPBGD注射の用量効果を示す図である。AIPマウスは、正常なPBGD活性の25〜30%を有するが、それはPBGDの一方の対立遺伝子が破壊し、またもう一方の対立遺伝子が部分的に破壊したことに起因する。LUCはルシフェラーゼレポーター構築物である。PBGDは様々な用量のrAAV−PBGDベクターである。1kg当たりのゲノムコピー数として表される。Pbはフェノバルビタールである。
【図2】治療ベクターssAAV2/8−hPBGD、又は対照ベクターssAAV2/8−Lucを5×1012vg/kgで投与した後に、フェノバルビタールで誘発された急性発作を生じたメスAIPマウスにおけるPBG及びALAの尿中排泄を示す図である。LUCはルシフェラーゼレポーター構築物である。PBGDは様々な用量のrAAV−PBGD構築物である。Pbはフェノバルビタールである。
【図3】ウェスタンブロット分析により測定した、オスAIPマウス肝臓におけるPBGD導入遺伝子の発現を示す図である。
【図4】ウェスタンブロット分析により測定した、メスAIPマウス肝臓におけるPBGD導入遺伝子の発現を示す図である。
【図5】注射後3カ月目の、異なる用量でssAAV2/8を形質導入されたオスAIPマウスにおける肝臓PBGD活性を示す図である。
【図6】注射後3カ月目の、ルシフェラーゼ又はPBGD遺伝子を担持するssAAV2/8ベクターを形質導入されたメスAIPマウスにおける肝臓PBGD活性を示す図である。
【図7】野生型PBGDコード配列(PBGD)、及び合成、すなわちコドンが最適化された配列番号1(coPBGD)のPBGDコード配列を含むプラスミドDNA構築物を流体力学注射したときの、野生型(WTマウス)及びAIPマウス(AIPマウス)におけるPBGDのin vivo酵素活性の比較を示す図である。肝臓中に存在するベクターDNAのレベルは、導入遺伝子にハイブリダイズするプライマーを用いて確認された。内因性ハウスキーピング遺伝子GADPHのDNAコピー数、及びPBGD導入遺伝子のDNAコピー数間のQ−PCRに基づく比を、PBGD酵素活性の上に示すが、有意な差は認められない。
【図8】AAV2/5−PBGDが、フェノバルビタールで誘発された急性ポルフィリン症発作に対してオスのマウス(図8)及びメスのマウス(図9)を保護していることを示す図である。AIPマウスにおけるALA及びPBGの基底レベル、並びに第1回目、第2回目、及び第3回目のフェノバルビタール誘発急性ポルフィリン症発作後のALA及びPBGレベルを、5e12gc/kgの対照ベクター(AAV2/5−EalbAAT−ルシフェラーゼ)で処置したマウス、並びに5e12gc/kgのAAV8−PBGDベクター及びAAV5−PBGDベクターで処置したマウスについて示す。
【図9】AAV2/5−PBGDが、フェノバルビタール誘発急性ポルフィリン症発作に対してオスのマウス(図8)及びメスのマウス(図9)を保護していることを示す図である。AIPマウスにおけるALA及びPBGの基底レベル、並びに第1回目、第2回目、及び第3回目のフェノバルビタール誘発急性ポルフィリン症発作後のALA及びPBGレベルを、5e12gc/kgの対照ベクター(AAV2/5−EalbAAT−ルシフェラーゼ)で処置したマウス、並びに5e12gc/kgのAAV8−PBGDベクター及びAAV5−PBGDベクターで処置したマウスについて示す。
【図10】AAV8−PBGD及びAAV5−LUC投与後の肝臓ホモジェネート中のPBGD酵素活性を示す図である(n=4〜6)。
【図11】A.ヒト(wtPBGD)由来のPBGDcDNA、又はコドンが最適化されたPBGD(coPBGD;配列番号1)を担持するssAAV2/5を1.25×1011gcで単回注射した後の1、2、又は3カ月経過したオスAIPマウスの肝臓ホモジェネート中のPBGD酵素活性を示す図である。B.注射後1、2、又は3カ月経過したときのベクターコピーレベルの半定量PCR分析結果を示す図である。C.wtPBGD又はcoPBGD導入遺伝子を担持するssAAV2/5ベクターを注射したオスの動物に由来する肝臓について、肝臓特異的プロモーターを制御して行われた代表的な免疫組織化学分析の結果を示す図である。D.動物の各コホートから得られたPBGD抗体で染色された細胞の割合を示す図である。
【図12】AIPマウスの末梢神経障害に関する神経学的評価結果を示す図である。3つの異なる用量のrAAV2/8−PBGDが投与されたオス、メス両方のAIPマウスにおいて、大型軸索(直径5μm)の割合(%)、及び軸索密度について実施した。未処置及び野生型(WT)を対照とする。
【図13】AIPマウスの運動神経のロータロッド(Rotarod)分析結果、及び筋肉能力を示す図である。オス及びメスのAIPマウスが回転棒(rotating dowel)上に留まることができた時間の長さを、本試験開始時、及びAAV2/8−PBGD投与後90日を経過してポルフィリン症の発作を誘発した時に測定した。ポルフィリン症の発作は、4日間にわたり、24時間毎に、フェノバルビタールの用量を増加させて腹腔内注射することにより誘発した。
【実施例】
【0077】
(例1)
ポルホビリノゲンデアミナーゼのAAV介在型肝臓特異的発現は、急性間欠性ポルフィリン症のマウスモデルにおいて、生化学的変化を回復させ、運動神経障害から保護する。
1.1 材料及び方法
1.1.1 動物モデル
急性間欠性ポルフィリン症(AIP)マウスは、Lindbergら(Nature genetics、1996年)が記載する遺伝子標的法により生み出された。T1及びT2トランスジェニック血統はバーゼル(Basel)大学のUrs Meyer教授より親切により提供され、またナバラ(Navarra)大学の動物設備は、上記動物のコロニーを確立した。T1トランスジェニック動物では、ネオマイシン遺伝子がPBGD遺伝子の最初のエクソンに挿入され、またホモ接合動物は、肝臓においてPBGD活性の45%を失っている。T2マウスでは、ネオマイシン遺伝子がPBGD遺伝子の最初のイントロンに挿入された。ホモ接合状態は致命的であり、またヘテロ接合動物は、肝臓においてPBGD活性の43%を失っている。いずれの血統も、フェノバルビタール(Pb)及び/又はエストラジオールで処置後、ポルフィリン症の兆候も、ヘム前駆体の尿中排泄増加も認められなかった(データは示さない)。PBGD活性を更に下げるために、当該2種類の血統を異種交配した。T1及びT2の両方についてノックアウト対立遺伝子を担持する複合ヘテロ接合体動物を、AIP疾患モデルとして用いた。かかるマウスはヒトポルフィリン症の典型的な生化学的特徴を示し、特にフェノバルビタール等の薬物で処置した後に、肝臓PBGD活性が低下し、またヘム前駆体の尿中排泄が顕著に増加した。ほとんどがウロポルフィリン及びコプロポルフィリンであるが、ポルフィリンもAIPで増加するが、尿中ポルフィリンの増加は、PBGレベル及びALAレベルの増加よりも特異性がかなり低い特徴である。ロータロッド試験等の行動試験により、Pb投与後の運動機能低下が明らかとなり、また組織病理学的知見には、軸索神経障害及び老化に伴う神経伝導低下が含まれる。
【0078】
1.1.2 AAVベクター
プラスミド及び配列
本試験で用いたAAVプラスミドは、AAV2に由来する2つのITRが隣接する発現カセット、及びAAVについて記載された最適なパッケージング容量にAAVゲノムのサイズを調節するように適当なスタッファー配列(stuffer sequence)を含む。導入遺伝子発現カセットは、次の要素を有する:AAV2に由来する5’ITR、アルブミンエンハンサーに由来する調節配列を含む肝臓特異的プロモーターEalbAATp(Kramerら、2003年、Mol Ther.、第7巻(3):375〜85頁)、ハウスキーピングPBGD cDNA(GenBank受入番号X04808)、又はルシフェラーゼレポーター遺伝子(GenBank受入番号M15077)。ウシ成長ホルモンポリアデニレーション配列[bGHポリ(A)](塩基2326〜2533、GenBank受入番号M57764)、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)(塩基1021〜1750、GenBank受入番号J04514)、及びAAV2由来の3’ITRを、転写を強化するために添加した(Donelloら、1998年、J Virol.第72巻(6):5085〜92)。上記2つのAAVプラスミドは、ssAAV−ポリA−EalbAAT−PBGD−WPRE(治療遺伝子を発現)、及びssAAV−ポリA−EalbAAT−ルシフェラーゼ−WPRE(レポーター遺伝子GFPを発現)と命名された。
AAVベクターの調製
【0079】
3つの異なるプラスミドpAdDeltaF6、p5E18−VD2/8、及び治療遺伝子(AAV−ポリA−EalbAAT−PBGD−WPRE)又はレポーター遺伝子(AAV−ポリA−EalbAAT−ルシフェラーゼ−WPRE)のリン酸カルシウム介在型同時トランスフェクションにより、293個の細胞においてAAV2/8ベクターが生成された(Hermensら、1999年、Hum Gene Ther.、第10巻(11):1885〜91頁;及びGaoら、2002年、Proc Natl Acad Sci USA、第99巻(18):11854〜9頁)。要するに、293個の細胞が、リン酸カルシウム法により、pAdDeltaF6、p5E18−VD2/8、及び標的ベクターで同時に核酸導入され、そしてウイルスは、トランスフェクション後48時間経過して細胞を凍結−解凍することにより捕集された。当該ウイルスは、イオン交換カラムクロマトグラフィー、及びイオジキサノールグラジエント遠心分離とこれに続くろ過、及びリン酸緩衝生理食塩水(PBS)−5%スクロースに対して更に濃縮することにより精製された。ゲノムコピー数/mlで表されるウイルス力価は、3重測定のQ−PCR、すなわちhAATプロモーター領域の95bp断片を増幅するプライマーpr300fw5’CCCTGTTTGCTCCTCCGATAA3’pr301rv5’GTCCGTATTTAAGCAGTGGATCCA3’を用いたTaqMan(AppliedBiochem)分析により決定された。タンパク質組成及び純度はドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により決定された。
【0080】
1.1.3 実験構成
予備試験
AAV2/8ベクターの感染能力を試験し、及びPBGD発現を評価するために、AAV2/8−PBGDを9×1012vgの用量で2匹のAIP動物に注射し、6日目に殺処分した。
【0081】
原理証明分析
AAV2/8−hBGD注射後AIPマウス肝臓中のPBGD発現レベルを比較することにより、AAV2/8を媒介とした肝臓形質導入を評価した。12〜25週齢に達したC57B1/6バックグラウンド内の複合ヘテロ接合体AIPマウス(1群当たり10マウス、オス5匹、メス5匹)に、AAV2/8−hPBGDベクター又はAAV2/8−ルシフェラーゼ対照ベクターとして5e12vg/kgに相当する総量100〜200μlを尾静脈経由で静脈内注射した。オスAIPマウス5匹からなる2つの追加の群(上記マウスと同じ週齢)には、AAV2/8−hPBGDを5e11vg/kg、又は5e10vg/kg注射した。野生型マウス及びAIPマウスからなる別の群も含まれる。投与スキームを表2に示す。
【表1】
【0082】
rAAVベクター注射後15日、28日、及び90日の時点で、フェノバルビタール注射により誘発された急性発作の前及び後のマウスについて運動障害、及びポルフィリン前駆体の蓄積を測定した。この場合、フェノバルビタール(Pb、生理食塩水で稀釈)を腹腔内に1日1回、4日連続して用量を増加させながら(75、80、85、90mg/kg体重)投与した。
【0083】
神経伝導測定
軸索変性、及び坐骨神経内にあるミエリンの喪失を実証するために、電気生理学試験を実施した。生後6カ月のオスAIPマウス2匹に、1e12gc/kgを注射した。運動障害を促進するようにPbを2週間毎に繰返し投与して処置した。生後11カ月及び14カ月の動物について、Pbにより誘発された急性発作の前後で神経伝導測定を実施した。
【0084】
1.2.結果
1.2.1 原理証明分析
試験全体を通じて、処置がヘム前駆体レベルに与える効果
ウイルス注射後、15日目、28日目、及び90日目に、AIPマウスをPbの用量を増加させながら4日間処置し、そしてヘム前駆体の尿中レベルを測定した。
【0085】
期待した通り、対照群のオスAIPマウス(AAV−Luc、図1)は、Pb注射後に前駆体の排泄が増加したが、AAV2/8−PBGDを高用量で注射されたマウスでは、前駆体の排泄に変化はなかった(図1)。オスのAIPマウスでは、5e11vg/kgから、フェノバルビタール誘発後のALA及びPBGの蓄積を完全に防ぐことができた(図1)。AAV−PBGDを5e10vg/kgで処置したオスAIPでは、部分的に保護されることが認められた。AAV投与後2週間及び試験終了時において、フェノバルビタールに誘発されたALA及びPBGの排泄プロファイルに変化はなかった(図1)。
【0086】
メスの動物に治療ベクターを投与しても(AAV2/8−PBGDを5e12vg/kgで)、尿中ポルフィリン前駆体の異常な蓄積がないことから明らかなように、やはりPbで誘発された急性発作は防止された(図2)。対照群(AAV−Lucを用いて注射)においては、オスのAIPマウスと比較した時に、メスでは律速酵素ALAS1の肝臓における活性が低いことから、メスのAIPマウス(図2)はオスのAIP動物(図1)よりも、ポルフィリン前駆体の蓄積は少なかった(データは示さない)。
【0087】
本試験全体を通じてAAV投与が運動障害に与える効果:ロータロッド試験
期待した通りに、AIPマウスは、野生型動物と比較した時に運動障害を示した。対照ベクター(AAV−Luc)で処置したAIPマウスの運動障害は、オス及びメスの両方において、フェノバルビタール投与後に悪化した(データは示さない)。オスAIPマウスのPbで誘発された運動障害は、本試験の開始時(AAV注射後15日目及び28日目、データは示さない)及び最後の両方の時点において、治療ベクターで処置された動物ではほぼ完全に消散した。ssAAV2/8−hPBGDで処置されたオス及びメスのAIP動物は、本試験の全期間を通じてPbで誘発された運動障害に対して完全に防御されることが示された(AAV注射後15日目及び28日目、及び本試験の最後の時点)(図13)。オスでは、ルシフェラーゼベクターの投与を受けたマウスが棒上に留まることができた平均時間は、約200秒であった。しかし、ポルフィリン症の発作が生ずると、この時間は約100秒まで半減した。PBGDベクターを異なる全3用量で投与されたオスでは、マウスは発作を経験しなかった時とほぼ同じ長さで棒上に留まることができたが、攻撃されていない野生型のレベルには達しなかった。やはり同じことがメスでも判明した。
【0088】
ssAAV−hPBGD投与が殺処分時の肝臓PBGDレベルに与える効果:ウェスタンブロット分析
期待した通り、対照ベクター(ssAAV−Luc)を投与すると、オスのマウス(図3)及びメスのマウス(図4)の両方でPBGD発現は増加しなかった。オスでは、ウェスタンブロット分析により、肝臓PBGD発現について用量依存性の増加が認められた(図3)。内因性PBGD及びヒトPBGD間での移動パターンの相違から、内因性PBGDの同定が可能となる(図3)。
【0089】
メスでは、PBGDの高度な発現が、5e12vg/kgのssAAV−hPBGDで処置されたマウスの肝臓に認められた(図4)。
【0090】
AAV−PBGD投与が殺処分時の肝臓PBGD活性に与える効果
酵素活性測定により、治療ベクターにより発現したPBGDタンパク質が機能的に活性であることを確認する(図5及び図6)。治療ベクター(AAV−PBGD)を高用量で注射されたオス(図5)及びメス(図6)の間で、PBGD活性に有意な相違は認められなかった(p=0.35)。オスでは、肝臓PBGD活性について用量依存性の増加が認められる(図5)。治療ベクターを低用量で投与されたマウス(5e10vg/kgのAAV−PBGD)では、野生型動物と同じPBGD活性が認められる。
【0091】
免疫組織化学分析:肝臓中でのPBGD発現の分布
個々の細胞内でのPBGDタンパク質レベルを求めるために免疫組織化学を用い、各処置群について2枚のスライドを用いてこれを実施した。PBGD免疫組織化学染色では、CIMAで抗PBGDポリクロナール抗体を開発した。抗PBGD抗体は、内因性のタンパク質、及びssAAV2/8−hPBGDを媒介としたことによる外因性のヒトタンパク質を認識する(データは示さない)。
【0092】
対照ウイルスを注射されたAIP動物の肝臓では、免疫組織化学分析により検出されるように、全肝細胞の細胞質内でPBGDの低い発現が認められる(データは示さない)。細胞質内のかかる弱いシグナルは、内因性PBGDに相当する。細胞核はヘマトキシリンにより対比染色されて、陽性反応を示す茶色とは対照的な青色のバックグラウンドを与える(データは示さない)。
【0093】
治療ベクターを注射されたオスAIPマウスでは、PBGD発現について用量依存性の増加が認められた。治療ウイルスを最高用量で注射されたオスのマウスでは、高いPBGD発現が認められた。PBGDが強く発現している領域は、治療ウイルスを中間用量で注射された動物では減少したが、治療ウイルスを低用量で注射された動物では、孤立細胞まで減少した。かかる結果は、同じ動物についてウェスタン(ブロット)及び酵素活性測定によりこれまでに得られた結果とよく相関している。
【0094】
同じ用量の治療ベクター(5e12vg/kgのAAV−PBGD)を注射されたオス及びメスの間では、PBGD免疫組織化学染色について有意な差は認められなかった。高用量の治療ベクターを投与されたオス及びメスは、実質及び血管周辺の両方においてPBGDの高い発現を示した(データは示さない)。
【0095】
PBGDは細胞の細胞質内に局在することが報告されたが、PBGDが様々な細胞系、及び一次細胞の核内に取り込まれることもこれまでに報告されている(Grunberg−Etkovitzら、2006年、Biochem Biophys Acta.、第1762巻(9):819〜27頁)。対照ウイルスを注射した本発明のマウスでは、核のほとんどが特徴的な青色染色(ヘマトキシリンによる)を示し、免疫染色された茶色(DABによる;データは示さない)を示した核はほとんど得られなかった。しかし、AAV−PBCDを注射された本発明のマウスでは、PBGDタンパク質が核内に多く分布することを反映して、高い割合で茶色が認められた。PBGDについて高い陽性を示す核の割合は、異なる群においても測定された。やはり、高濃度核内PBGDタンパク質を発現する肝細胞の用量依存性の増加が、オスで認められた。
【0096】
末梢神経障害の神経学的評価
別の態様では、坐骨神経の組織学的分析を含んだAIPマウスの末梢神経障害の神経学的評価(データは示さない)、及び坐骨神経の近傍を刺激することにより誘発される運動能力の機能試験を実施した(データは示さない)。正常な軸索密度がrAAV2/8−PBGDベクターを形質導入されたAIP動物に認められることから、肝臓でのhPBGDの過剰な発現が、AIPマウスの坐骨神経の軸索再生を促進することが示唆された(図12)。
【0097】
軸索の変性及び坐骨神経内のミエリンの喪失を実証するために電気生理学試験を実施した。これは、PBGD導入遺伝子が長期間発現すると、フェノバルビタール投与により誘発される機能的ブロックから保護されることを明らかにする。rAAV2/8−PBGDを形質導入された野生型、若年AIP、老齢AIP、及びAIPマウスにおいて坐骨神経近傍を刺激することにより誘発される運動能力では、フェノバルビタールにより誘発されたポルフィリン症の急性発作の前と7回経験した後では、レイテンシー、期間、及びアンプリチュードにおいて機能の回復が認められる(データは示さない)。
【0098】
(例2)
コドン最適化PBGD cDNAに由来するin vivo酵素活性の増加
2.1 流体力学注射で用いられるプラスミドの構築、及びwtPBGD及びcoPBGDによるAAV遺伝子送達
本試験で用いられるプラスミドは、5’から3’の順番で下記エレメントを有する発現カセットを含む:アルブミンエンハンサーに由来する調節配列を有する肝臓特異的プロモーターEalbAATp(Kramerら、2003年、Mol Ther.、第7巻(3):375〜85頁)、ハウスキーピング(すなわち、非赤血球)PBGD cDNA(GenBank受入番号X04808)。PBGD由来の3’UTR(塩基1463〜1487、GenBank受入番号NM_000190)、及びPBGDポリアデニレーション配列[ポリ(A)PBGD](塩基9586〜9626、GenBank受入番号M95623)。上記発現カセットを含む2つのプラスミドは、psl1180−pAAT−PBGD−ポリA PBGD、及びpsl1180−pAAT−coPBGD−ポリA PBGDと命名され、以下に説明するようにPBGDをコードする配列のみが異なる。
【0099】
コドン最適化PBGDを作製するために、ヒトPBGD非赤血球cDNAに相当する遺伝子バンク番号NM_000190を、ホモサピエンスの偏りにコドンの利用を適応させた(コドン適応性インデックス値0.97)。coPBGDをコードする配列における更なる改変として:1)翻訳の開始を増加させるためにKozak配列を導入した;2)効果的な終結を保証するために2つの終始コドンを追加した;及び3)CG含量を55%から65%に高めた。最適化した後の最終的なcoPBGD cDNAは、195bpの変更、及びオリジナルのcDNA配列番号NM_000190と82.1%の相同性を有する。かかる配列(配列番号1)が合成され、WT PBGD cDNAの配列と置換するプラスミドpsl1180−pAAT−PBGD−ポリA PBGD内にサブクローニングされた。新規精製プラスミドは、psl1180−pAAT−coPBGD−ポリA PBGDと命名された。
【0100】
プラスミドpsl1180−pAAT−PBGD−ポリA PBGD、及びpsl1180−pAAT−coPBGD−ポリA PBGDに由来する全発現カセット配列を、AAV2に由来する2つのITRを含むプラスミドであるプラスミドpVD155内にサブクローニングした。得られたプラスミドはpVD153及びpVD191と命名され、そこでは親バキュロウイルスゲノムと共に各プラスミドがSF9細胞内に同時導入されて、リコンビナントバキュロウイルスBac.VD153及びBac.VD191が生成した。かかるバキュロウイルスは、昆虫細胞内でAAV5ベクターを生み出すために用いられた。要するに、SF9+細胞を、3つの異なるリコンビナントバキュロウイルスで同時感染させた:Bac.VD92、Bac.VD88、及びBac.VD153(治療EalbAAT−PBGD−ポリAを含むバキュロウイルス)。発現カセットEalbAAT−coPBGD−ポリAを含むAAV5ベクターを産生する場合には、バキュロウイルスBac.VD191がBac.VD153の代わりに用いられた。
【0101】
感染後72時間経過して、細胞を凍結−解凍することによりAAV5ベクターを捕集した。アフィニティーカラムクロマトグラフィーとこれに続くろ過、及び更に濃縮することにより当該ベクターを精製した。ゲノムコピー数/mlとして表すウイルス力価を、プライマーhAATtaqリバース、5’CAGCGTCCTGTGTCCAAGGT3’、プライマーhAAT taqフォアワード5’AGGCCAACTTGTCTACGTTTAGTATG3’(両方ともMWG−Biotech AGより)、及びプローブhAAT 5’CTGTAGATCTGTACCCGCCACCCCC3’(MWG−Biotech AG)を用いてTaqMan Q−PCR、(AppliedBiosystems)分析により求めた。タンパク質組成及び純度をSDS−PAGEで求めた。
【0102】
2.2 PBGD酵素アッセイ
組織ホモジネート中のPBGD活性を、Anderson及びDensnickの方法に基づき、PBGのウロポルフィリンへの変換を測定することにより求めた(Anderson PM、及びDensnick RJ.、1982年、Enzyme、第28巻(2〜3):146〜57)。要するに、1gの組織を4℃、4倍容量の1.15%のKCl溶液中でホモジネーションした。ホモジネートを、12,000rpm、4℃で20分間遠心分離し、そして細胞残屑を全く含まない上清を、その日のうちにタンパク質測定(アルブミン標準品を用いたBradford法)、及びPBGD活性に用いた。
【0103】
上清サンプルをリン酸バッファー(pH7.6)、DTT、Cl2Mg、及びトリトンX−100で1:3に稀釈し、そしてかかる混合物のうちの100μlを0.1Mトリス−塩酸(pH8.1)、1.8mlを用いて37℃で3分間プレインキュベーションした。次に、当該混合物を1mMのPBG基質、0.5mlを用いて遮光、37℃で60分間インキュベーションした。冷40%TCA、350μlを用いて反応を停止し、そして露光後に生成したウロポルフィリノーゲンを酸化してウロポルフィリンにした。ウロポルフィリンを、405nmに励起ピーク(λext)を、また550〜660nmの放出ピークウィンドウ(λem)値を有する分光蛍光光度計を用いて測定した。適当な標準品を用いて、PBGD活性をpmol(ウロポルフィリン)/mg(タンパク質)/時として表した。
【0104】
2.3 PBGD及びcoPBGDプラスミドの流体力学注射
各プラスミド、psl1180−pAAT−PBGD−ポリA PBGD、又はpsl1180−pAAT−coPBGD−ポリA PBGD、50μlをPBS、2.5mlに溶解し、これをAIPマウス(n=4)の尾部側静脈に流体力学的に注射して、肝臓に当該プラスミドを送達した。注射後1週間経過してマウスを殺処分し、そして肝臓及び腎臓ホモジネート中のPBGD酵素活性を測定した。
【0105】
psl1180−pAAT−coPBGD−ポリA PBGDプラスミドを流体力学的に送達し、その後に肝細胞が発現したcoPBGD酵素は、野生型(wtPBGD)psl1180−pAAT−PBGD−ポリA PBGDプラスミドを投与されたマウスと比較して、肝臓ホモジネート中において30%活性の高いPBGDをもたらした。PBGD活性値をpmol(ウロポルフィリン)/mg(タンパク質)/時として表すと、その値は、wtPBGD及びcoPBGDについて、それぞれ5.54±1.64、及び7.30±0.913であった(p=0.0317、両側、Mann Whitney検定)。肝臓中に存在するベクターDNAのレベルは、導入遺伝子にハイブリダイズするプライマーを用いたQ−PCRにより確認された。各マウスにおいて、内因性ハウスキーピング遺伝子GADPHのDNAコピー数、及びPBGD導入遺伝子のDNAコピー数間の比を計算した。DNA比(PBGD及びcoPBGDについて、それぞれ2.950±2.25、及び1.760±0.6804)は、有意な差を示さず、そしてほぼ同数のコピー数からなる治療ベクターが、流体力学注射によって肝臓に送達されたことが実証された。データを図7に示す。
【0106】
2.4 AIPマウスにおいてPBGD−AAV2/5ベクターを用いたPBGD遺伝子療法の原理証明
AAV2/5−EalbAAT−PBGD−ポリAの治療効果を証明するために、セクション1.1.1ですでに記載したAIPマウスを用いた。
【0107】
AAV2/5−EalbAAT−PBGDを5e12gc/kgの用量で、AIPマウス(オス及びメス)に静脈注射した。対照動物には、同一のベクターであるがルシフェラーゼレポーター遺伝子を担持するベクターを投与した。AAV2/5−EalbAAT−PBGD投与後、2、4、及び13週間経過して、ポルフィリン症発作を誘発するために、Pbの用量を増加させながら4日間にわたり動物を処置した。Pbを最後に投与した後24時間経過して、ヘム前駆体のレベルを24時間−尿サンプルについて測定し、及び運動神経を、ロータロッド試験を用いて分析した。AAV投与後3カ月を経過したら、肝臓に生成したPBGDの量を定量するためにマウスを殺処分した。
【0108】
AIPマウスにおけるALA及びPBGの基底レベルは、オスではクレアチニン1mg当たり88±24及び16±5μg、メスではクレアチニン1mg当たり87±19及び14±8μgであった。5e12gc/kgの用量は、図8(オス)及び図9(メス)に示すように、オス(クレアチニン1mg当たり118±34及び11±4μg)、メス(クレアチニン1mg当たり52±5及び51±24μg)の両方において、前駆体ALA及びPBG中のPb効果を防止することができた。同一用量のAAV2/5−EalbAAT−ルシフェラーゼで処置された動物では、Pb注射後ALA及びPBG前駆体の高排泄が認められた(オスで、クレアチニン1mg当たり1418±659及び1184±585μg、及びメスで、クレアチニン1mg当たり295±91及び298±181μg)。
【0109】
AIPマウスにおいてPb処置により誘発された運動障害は、ロータロッド試験で測定されたように、治療ベクターで処置された動物ではほぼ完全に消散した(データは示さない)。
【0110】
AAV投与後3カ月目に、全ての動物を殺処分し、全ての動物の肝臓からPBGD酵素活性を測定した(図10)。AAV5−EalbAAT−PBGDを5e12gc/kgの用量で注射されたオスは、肝臓でPBGDを26.1±7.3pmol(URO)/mg(タンパク質)/時で発現した。かかる量は、レポーター遺伝子Lucの投与を受けたAIPマウス(2.4±0.4pmol(URO)/mg(タンパク質)/時)と比較した時には10倍、また野生型マウス(7.9±1.6pmol(URO)/mg(タンパク質)/時)のレベルについて3倍の過剰発現に相当する。5e12gc/kgの用量では、メスにおいて肝臓PBGD酵素活性に相違があることが明らかになった(18.5±6.3pmol(URO)/mg(タンパク質)/時)。
【0111】
2.5 AIPマウスにおけるAAV5を媒介としたPBGD及びcoPBGDの肝臓特異的発現
AAV2/5−PBGD又はAAV2/5−coPBGDの注射後に、AIPマウス肝臓中のPBGD発現レベルを比較することにより、AAV2/5を媒介とした肝臓形質導入を評価した。12〜25週齢に達したC57B1/6バックグラウンド内のオスAIPマウスに、AAV2/5−PBGD(n=20)、又はAAV2/5−coPBGD(n=24)として1.25e11vgに相当する総量200μlを静脈内注射した。ウイルス注射後1、2、3カ月目にマウスを殺処分し、そして肝臓ホモジネート中のPBGD酵素活性を求めるために肝臓を収集した。結果を、PBGDの平均値±SEMとして表し、Mann Whitney検定を用いて平均値間の比較を行った(図11A)。LindbergらのNature Genetics、第12巻:195〜199頁、1996年と一致して、AIPマウスは、WTマウスと比較した時に、肝臓中ではPBGD酵素活性の30%しか発現しなかった(それぞれ2.53±0.15に対して7.94±0.94pmol(URO)/mg(タンパク質)/時)。その上、AAV2/5−PBGD及びAAV2/5−coPBGD遺伝子導入後のPBGD発現レベルは、投与後の全ての時点で統計的に異なった。感染1カ月後では、AAV2/5−PBGD及びAAV2/5−coPBGDについて、それぞれ64.00±5.99に対して86.23±6.82(p=0.019)、及び感染2カ月後では、AAV2/5−PBGD及びAAV2/5−coPBGDについて、それぞれ78.98±9.69に対して111.50±10.20(p=0.038)。マウス肝臓内の酵素活性値を図11Aに示す。
【0112】
AAVベクターゲノムの半定量的PCR分析を実施した。注射後1、2、及び3カ月目にレベルを求め、図11Bに示すが、Q−PCRデータはウイルスプラスミドの量は両動物コホートで類似していたことを裏付けている。PBGD特異的抗体を用いた肝臓の免疫組織化学分析により、AAV2/5−PBGD及びAAV2/5−coPBGDに感染したマウスでは、PBGDを発現する細胞はそれぞれ17%及び21%であることが明らかとなり(図11C及びD)、実質的に類似した形質導入効率を表し、これは本試験が行われた3カ月間維持された。
【図11c】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列、及びかかる配列を内包する核酸構築物に関する。本発明は、新規遺伝子療法ベクター、並びにポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損により引き起こされる状態の処置及び予防でかかるベクターを使用する方法に更に関する。より具体的には、本発明の遺伝子療法ベクターは、急性間欠性ポルフィリン症を含むかかる状態の症状を軽減する方法で使用できる。
【背景技術】
【0002】
急性間欠性ポルフィリン症(AIP)は、ヘム合成経路の3番目の酵素であるポルホビリノゲンデアミナーゼ(PBGD)の欠損を特徴とする遺伝性代謝疾患である。遺伝形質を受け継いだ者では、酵素活性が正常値の約50%である。当該疾患は、常染色体優性形式で受け継がれ、急性ポルフィリン症で最も一般的である。この疾患は全ての人種に生ずるが、主としてスウェーデン、英国、及びアイルランド等の北部ヨーロッパで最も一般的である。米国及びその他の国々では、5/100,000であり、北部スウェーデンでは、推定有病率は60〜100/100,000と高い。今日まで、PBGD遺伝子では225個以上の突然変異が記載されている。主な臨床的特徴として、腹痛、並びに内臓神経障害及び循環障害を含む神経系の障害に起因する急性間欠性発作が挙げられる。腹痛は85〜95%の症例で報告されており、また最も一般的な特徴であり、神経学的変化がこれに続く、又は伴う。AIPに気付かず、また有害な薬物、例えば発作を促進するおそれのある、肝臓のチトクロームP450酵素により代謝される薬物を中止しなければ、呼吸麻痺及び球麻痺に進行し、死に至る場合がある。心不整脈の結果として突然死も生ずる可能性がある。時に、原発性肝癌及び腎機能障害も生ずる。
【0003】
PBGDの遺伝的欠損のみでは、症状の発現に十分でない。PBGD突然変異を受け継いだ対象のうち多くの割合は、ポルフィリン症の症状を発現せず、すなわち臨床的浸透度は非常に低い。AIPキャリアーの臨床症状は、急性発作を誘発する薬物又はその他の促進因子によりヘム合成の要求が高まり、その結果、ポルフィリン前駆体であるδ−アミノレブリン酸(ALA)、及びポルフィリノゲン(PBG)の生成及び分泌が増加することに関連している。かかる条件においては、PBGDの欠損はヘム合成を制限し、その結果、ALAシンテターゼ(ALAS1)のヘム媒介の抑制が損なわれる。肝臓が過剰なポルフィリン前駆体の主たる供給源であることを示唆する証拠がある。ポルフィリン症発症を繰り返しやすいそのような対象では、かかる化合物は、発作と発作との間で上昇したままであり、発症中に更に増加する。当該疾患が長期間不活性のままである場合には、かかる化合物は正常値まで減少し得る。
【0004】
急性発作は通常思春期後に発生し、また内分泌因子、及びステロイドホルモン、及び薬物、栄養因子、炭水化物やカロリー摂取の制限、喫煙、ステロイドホルモンや経口避妊薬、鉛中毒、併発感染、手術、及び精神的ストレスを含む様々な環境因子により保因者において誘発され得る。薬物は、急性発作を誘発する因子の中でも最も重要な因子であり、安全な薬物のリストは、www.drugs−porphyria.comより入手可能である。喫煙、CYP450により代謝されるエタノール及び薬物は、肝臓でのヘムの要求量を大きく増加させ、その結果ALAS1を誘発し、こうしてポルフィリン前駆体の生成が増し、急性発作を引き起こす。また、ALAS1はペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクティベーター1α(PGC1α)により正の調節を受けるが、これは絶食時に肝臓で誘発される。促進因子の中でも、ステロイドホルモンは重要な役割を演じていると考えられる。この概念は、当該疾患は思春期前にはほとんど発現しない、及びPBGDが欠損している一部の女性では、経口避妊薬が発作を悪化させる可能性がある、という事実により支持される。また、女性(80%)は男性(20%)よりも高頻度で罹患する。
【0005】
急性発作は、グルコース及びヘミン(hemin)(Normosang、Orphan Europe)の輸液で処置される。グルコースは、PGC−1αを媒介としたALAS1の誘導に拮抗するようである。ヘミンは調節性ヘムプールを回復させ、肝臓によるALAS1の誘導を抑制する。一部の女性は、月経前発作を発症するが、ゴナドトロピン遊離ホルモン(GnRH)類似体により予防可能である。一部の患者は急性発作の再発、及び顕著で障害性の神経学的機能不全を示す。進行した神経学的損傷、並びに亜急性及び慢性の症状は、一般的にヘム療法に対して無反応性である。これは、同種異系の肝臓移植によってのみ治癒可能な生命を脅かす状態であり、かかる移植は、今日までのところ3人の患者において、神経毒性のALA及びPBGの蓄積を阻止している。しかしながら、肝臓移植は適合ドナーからの入手可能性に制約があり、顕著な有病率及び死亡率を有する。
【0006】
従って、肝臓機能がPBGD欠損を除き全く正常である患者では、遺伝子置換療法が肝臓移植に代わる代替候補である。遺伝子療法とは、ベクターを利用して、疾患を制御するように細胞内に特定の遺伝子を導入することからなる手順である。肝臓酵素の欠損の是正を目指した遺伝子送達療法の実現可能性がAIPの実験モデル(AIPマウス)で調べられている。ポルフィリン症のマウスに、アデノウイルスベクターを媒介としたPBGD遺伝子導入を行うことにより、肝臓でPBGDが発現する結果としての短期治療効果が明らかとなった(Johansson、2004年、Mol.Ther.、第10巻(2):337〜43頁)。これらの結果は原理証明(proof−of−principle)の実現であり、ウイルス性ベクターを媒介としたPBGD遺伝子送達によって、AIPマウスにおけるフェノバルビタール誘発性ポルフィリン症発作の重い症状が一時的に改善し得ることを実証した。
【0007】
欧州特許第1 049 489号は、概念レベルに過ぎないヒトPBGD cDNAを含むrAAVベクター構築物を開示する。
【0008】
しかし、hPBGDを、これを必要とする対象にAAV媒介送達を行うための改良されたベクター及びプロトコールに対するニーズが、当技術分野においてなおも存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼ(PBGD)をコードするヌクレオチド配列であって、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち少なくとも約320個のコドンが配列番号1のコドンと同一である、又はヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち少なくとも約305個のコドンが配列番号3のコドンと同一である、上記ヌクレオチド配列、すなわち核酸又はポリヌクレオチドが提供される。好ましくは、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列は、Needleman及びWunschのグローバルアラインメントアルゴリズムにより決定したときに、配列番号1又は3の全長に対して少なくとも95%の同一性を有する。
【0010】
配列番号1及び3の「コドン」とは、配列番号1及び3のヌクレオチド2又は3で始まるフレームではなく、配列番号1及び3のヌクレオチド1で開始するフレームにおけるコドンを指す。つまり、配列番号1及び3の最初のコドンは、ヌクレオチド番号1から3で示される。
【0011】
別の態様では、本発明は、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸構築物であって、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち少なくとも約320個のコドンが配列番号1のコドンと同一である、又はヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち少なくとも約305個のコドンが配列番号3のコドンと同一である上記核酸構築物に関する。好ましくは、当該核酸構築物において、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列は、ヒト細胞内で発現させるためのプロモーター、好ましくは肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結している。
【0012】
本発明の更なる態様は、ヒト細胞内で発現させるためのプロモーターに作動可能に連結している、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を含むウイルス遺伝子療法ベクターに関する。好ましくは、当該ベクターはリコンビナントパルボウイルスベクター、又はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0013】
更なる態様では、本発明は、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を含む、リコンビナントパルボウイルスベクター、又はAAVベクターを含む、核酸、核酸構築物、又はパルボウイルスビリオンに関する。
【0014】
なおも更なる態様では、本発明は、かかる核酸、核酸構築物、又はパルボウイルスビリオン、及び薬学的に許容される担体等を含む医薬組成物に関する。
【0015】
本発明の更なる態様は、薬剤として使用するため、及びポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損によって引き起こされる状態の処置で使用するための、かかる核酸、核酸構築物、又はパルボウイルスビリオンに関し、好ましくは、当該状態は急性間欠性ポルフィリン症(AIP)である。
【0016】
また、本発明は、本発明の核酸、核酸構築物、又はパルボウイルスビリオンを、ポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損によって引き起こされる状態の処置で使用される薬剤の製造で使用するための使用にも関する。
【0017】
ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を哺乳動物に送達するための方法であって、
a.本発明の核酸、核酸構築物、又はパルボウイルスビリオンを提供するステップと、
b.哺乳動物において治療効果をもたらすレベルでタンパク質を発現させるような条件下で、前記核酸、核酸構築物、又はパルボウイルスビリオンを前記哺乳動物に投与するステップ
とを含む上記方法も提供する。
【0018】
また、本発明は、ポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損によって引き起こされる状態を処置する方法であって、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を有する核酸、核酸構築物、又はパルボウイルスビリオンを含む医薬組成物の有効量を、ポルホビリノゲンデアミナーゼが欠損している対象に投与するステップを含み、好ましくは当該状態が急性間欠性ポルフィリン症である上記方法にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
「核酸」として、単量体ヌクレオチドから構成される、又はこれを含む任意の分子が挙げられる。用語「ヌクレオチド配列」は、本明細書の「核酸」と交換可能に用いられる場合がある。核酸はオリゴヌクレオチド、又はポリヌクレオチドであり得る。核酸はDNA又はRNAであり得る。核酸は化学的に修飾され得る、又は人工的であり得る。人工的な核酸として、ペプチド核酸(PNA)モルホリノ(Morphorino)及びロックド核酸(LNA)の他、グリコール核酸(GNA)、及びトレオース核酸(TNA)が挙げられる。これらはそれぞれ、分子骨格に変更を加えることにより、天然に生じたDNA又はRNAと異なる。また、ホスホロチオエートヌクレオチドも利用可能である。本発明の核酸で利用可能なその他のデオキシヌクレオチド類似体として、メチルホスホネート、ホスホルアミデート、ホスホロジチオエート、N3’P5’−ホスホルアミデート、及びオリゴリボヌクレオチドホスホロチオエートとその2’−0−アリル類似体、及び2’−0−メチルリボヌクレオチドメチルホスホネートが挙げられる。
【0020】
「核酸構築物」とは、本明細書では、リコンビナントDNA技術の利用により生み出された人工の核酸分子を意味するものと理解される。核酸構築物は一本鎖又は二本鎖のいずれかの核酸分子であって、核酸のセグメントを含むように修飾されている、ある方法で組み合わされ併置されている、それ以外では自然には存在しないであろう核酸分子である。核酸構築物は、通常「ベクター」、すなわち外生的に生み出されたDNAを宿主細胞内に送達するために用いられる核酸分子である。
【0021】
核酸構築物の1つのタイプは、「発現カセット」、又は「発現ベクター」である。これらの用語は、かかる配列に適合性を有する宿主細胞又は宿主生物内で遺伝子の発現を引き起こす能力を有するヌクレオチド配列を意味する。発現カセット又は発現ベクターは通常、少なくとも適した転写制御配列、及び任意選択により3’転写終結シグナルを含む。発現を引き起こすのに必要な、又は役立つ、発現エンハンサーエレメント等の更なる因子も存在し得る。
【0022】
用語「ホモロガス」とは、所与の(リコンビナント)核酸又はポリペプチド分子と、所与の宿主生物又は宿主細胞との間の関係を表すのに用いられる場合には、当該核酸又はポリペプチド分子が、天然では同種の宿主細胞又は生物により産生されることを意味するものと理解される。用語「ヘテロロガス」とは、核酸又はポリペプチド分子が、天然では異種の宿主細胞又は生物により産生されることを表すために使用され得る。
【0023】
本明細書で用いる場合、用語「作動可能に連結した」とは、機能的な関係でポリヌクレオチド(又はポリペプチド)エレメントが連結していることを指す。核酸は、別の核酸配列と機能的な関係を有すように配置している場合に、「作動可能に連結した」状態にある。例えば、転写制御配列がコード配列の転写に影響を及ぼす場合には、当該転写制御配列はコード配列に作動可能に連結している。作動可能に連結したとは、通常、連結対象DNA配列が隣接していること、また2つのタンパク質をコードする領域を結び付ける必要がある場合には、隣接し、且つリーディングフレームがインフレームであることを意味する。
【0024】
「発現制御配列」とは、それが作動可能に連結しているヌクレオチド配列の発現を制御する核酸配列を指す。発現制御配列は、それがヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を制御及び調節する場合に、当該ヌクレオチド配列に「作動可能に連結して」いる。従って、発現制御配列は、プロモーター、エンハンサー、内部リボソーム侵入部位(IRES)、転写ターミネーター、タンパク質コード遺伝子の前に位置する開始コドン、イントロンに関するスプライシングシグナル、及び終始コドンを含み得る。用語「発現制御配列」は、少なくとも、その存在が発現に影響を与えるように設計された配列を含むことが意図されており、また追加の好都合な構成要素も含み得る。例えば、リーダー配列及び融合パートナー配列は発現制御配列である。当該用語は、フレーム内外にある望ましくない潜在的開始コドンが配列から取り除かれるような核酸配列の設計も含み得る。当該用語は、望ましくない潜在的スプライス部位が取り除かれるような核酸配列の設計も含み得る。この配列には、ポリA尾部、すなわち、mRNAの3’−末端にある、ポリA配列と呼ばれることもあるアデニン残基のストリングを付加するように指示する配列又はポリアデニレーション配列(pA)が含まれる。またこの配列は、mRNAの安定性を高めるようにも設計され得る。転写安定性及び翻訳安定性に影響を及ぼす発現制御配列、例えばプロモーター、並びに翻訳に影響を及ぼす配列、例えばKozak配列等の昆虫細胞で用いるのに適する配列は、当業者には周知である。発現制御配列は、これが作動可能に連結したヌクレオチド配列を、より低い発現レベル、又はより高い発現レベルを実現すべく調節する性質のものであり得る。
【0025】
本明細書で用いる場合、用語「プロモーター」又は「転写制御配列」とは、1つ又は複数のコード配列の転写を制御するように機能し、且つ当該コード配列の転写開始部位の転写方向に対して上流に位置し、且つDNA依存性RNAポリメラーゼ結合部位、転写開始部位、及び任意のその他のDNA配列、例えば非限定的に転写因子結合部位、リプレッサー及びアクティベータータンパク質結合部位、及び、例えばアテニュエーター又はエンハンサー、それからサイレンサーを含む、プロモーターからの転写量を直接的又は間接的に制御するように作用するような当業者にとって公知の任意のその他のヌクレオチド配列の存在により構造的に識別される。「構成的」プロモーターとは、ほとんどの生理的及び発生条件下で、ほとんどの組織内でアクティブなプロモーターである。「誘導性」プロモーターとは、例えば化学誘導物質の適用によって生理的又は発生的に調節されたプロモーターである。「組織特異的」プロモーターとは、特定の種類の組織又は細胞においてのみアクティブである。
【0026】
「3’UTR」又は「3’非翻訳配列」(3’非翻訳領域、又は3’末端と呼ばれることも多い)とは、遺伝子のコード配列の下流に見出される核酸配列を指し、例えば転写終結部位、及び(ほとんどの、但し全てではない真核生物mRNAにおいて)ポリアデニレーションシグナル(例えば、AAUAAA又はその変異体)を含む。転写終結後、mRNA転写物はポリアデニレーションシグナルの下流で切断され、ポリ(A)尾部が付加される場合があるが、これは細胞質(翻訳が行われる場所)へのmRNAの輸送に関連している。
【0027】
用語「実質的に同一の」、「実質的同一性」、又は「本質的に類似の」、又は「本質的類似性」は、2つのペプチド又は2つのヌクレオチド配列が、例えば、デフォルトパラメーターを用いてプログラムGAP又はBESTFITによって、最適に整列している場合に、これらが、本明細書の他の場所で定義するように、少なくともある割合の配列同一性を共有することを意味する。GAPは、Needleman及びWunschのグローバルアラインメントアルゴリズムを使用して、それらの全長にわたって2つの配列を整列させ、マッチ数を最大にし、ギャップ数を最小にする。一般に、GAPデフォルトパラメーターが用いられ、ギャップ生成ペナルティー=50(ヌクレオチド)/8(タンパク質)、及びギャップ伸長ペナルティー=3(ヌクレオチド)/2(タンパク質)である。ヌクレオチドの場合、使用するデフォルトスコアリングマトリックスは、nwsgapdnaであり、タンパク質の場合には、デフォルトスコアリングマトリックスは、Blosum62である(Henikoff&Henikoff、1992年、PNAS、第89巻、915〜919頁)。RNA配列が、DNA配列と実質的に類似している、又はある程度の配列同一性を有するといわれる場合には、DNA配列におけるチミン(T)は、RNA配列におけるウラシル(U)に等しいと考えられることは明らかである。配列アラインメント、及び配列同一性の割合(%)を表すスコアは、Accelrys Inc.、9685 Scranton Road、San Diego、CA 92121−3752、米国から入手可能なGCG Wisconsin Package、10.3版、又はオープンソースソフトウェアEmboss for Windows(登録商標)(最新版2.7.1−07)等のコンピュータプログラムを使用して決定可能である。或いは、類似性又は同一性の割合(%)を、FASTA、BLAST等のデータベースについて検索することによって決定可能である。
【0028】
本文書、及びその特許請求の範囲では、「含む」という動詞及びその活用形は、その言葉に続く事項が含まれるが、具体的に記載されていない事項も除外されないことを意味するように、非限定的な意味合いで使用される。更に、不定冠詞「a」又は「an」により要素を引用する場合、これは、文脈によって、要素が1つ、且つ1つしか存在しないことが明らかに求められない限り、要素が2つ以上存在する可能性を排除しない。従って、不定冠詞「a」又は「an」は、通常、「少なくとも1つ」を意味する。
【0029】
発明の詳細な説明
本発明はポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列に関する。ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列は、好ましくは合成ヌクレオチド配列である。用語「合成ヌクレオチド配列」とは、本明細書においては、当該ヌクレオチド配列は天然には生じることはなく、むしろヒトが介入することによって設計、工学操作、及び/又は構築されることを意味するものと理解される。従って、用語「合成」は、もっぱら及び/又は全てが化学合成を通じて得られる配列を必ずしも意味しない。むしろ、当該合成配列の一部は、1つの段階において化学合成を通じて得られたものであり得るが、本発明の合成配列を含む分子は、通常、(培養された、例えばリコンビナント)細胞等の生物学的起源から取得される。
【0030】
本発明のヌクレオチド配列は、赤血球又は非赤血球のポルホビリノゲンデアミナーゼをコードし得る。好ましくは、ヌクレオチド配列は、ヒト起源のポルホビリノゲンデアミナーゼをコードする。従って、当該ヌクレオチド配列は、対立形質のヒトポルホビリノゲンデアミナーゼに関する任意の天然のアミノ酸配列をコードし得る。但し、本発明に明確に含まれるものとして、例えば天然に生じているヒトアミノ酸配列と比較して、1つ又は複数のアミノ酸の置換、欠損、及び/又は挿入を有するポルホビリノゲンデアミナーゼの工学操作された突然変異タンパク質をコードするヌクレオチド配列が挙げられる。好ましくは、当該ヌクレオチド配列は、例えばWright及びLim(1983年、Biochem.J.、第213巻:85〜88頁)が記載するアッセイ法により決定され得るような、ポルホビリノゲンデアミナーゼ活性(EC2.5.1.61)を有するタンパク質をコードする。
【0031】
本発明の好ましい実施形態では、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列は、デアミナーゼをコードする天然に生じているヌクレオチド配列と比較して、ヒト細胞に対してコドンの利用において改善した偏りを有する。ヒト細胞のコドン利用に対するポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列の適応性は、コドン適応性インデックス(CAI)として表現され得る。コドン適応性インデックスは、本明細書においては、高度に発現しているヒト遺伝子のコドン利用に対する、ある遺伝子のコドン利用の相対的適応性の尺度として定義される。各コドンの相対的適応性(w)は、同一のアミノ酸について最も多く存在するコドンの利用に対する各コドンの利用の比である。CAIはそのような相対的適応性の値の幾何平均として定義される。非同義コドン及び終始コドン(遺伝子コードに依存する)は除外される。CAI値は0から1の範囲であり、高い値ほど、最も多く存在するコドンの割合が高いことを表す(Sharp及びLi、1987年、Nucleic Acids Research、第15巻:1281〜1295頁を参照;またKimら、Gene、1997年、第199巻:293〜301頁;zur Megedeら、Journal of Virology、2000年、第74巻:2628〜2635頁も参照)。好ましくは、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列は、少なくとも0.8、0.85、0.90、0.92、0.94、0.95、0.96、又は0.97のCAIを有する。
【0032】
本発明の好ましいヌクレオチド配列では、非赤血球ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードする全てのコドンのうち、少なくとも320、330、340、345、350、355、356、357、358、359、360、又は361個が、配列番号1のコドン(対応する位置にある)と同一である。より好ましくは、当該ヌクレオチド配列は配列番号2のアミノ酸配列をコードする。
【0033】
或いは、本発明の好ましいヌクレオチド配列では、赤血球ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち、少なくとも305、310、315、320、325、330、335、340、341、342、343、又は344個が、配列番号3のコドン(対応する位置にある)と同一である。より好ましくは、当該ヌクレオチド配列は配列番号4のアミノ酸配列をコードする。
【0034】
配列番号1及び3の「コドン」とは、配列番号1及び3のヌクレオチド1で始まるフレーム内のコドンを指し、すなわち、配列番号1及び3のヌクレオチド2又は3で始まるフレーム内のコドンではない。つまり、配列番号1及び3の最初のコドンはヌクレオチド番号1から3で表される。
【0035】
本発明の別の好ましいヌクレオチド配列は、ポルホビリノゲンデアミナーゼ活性を有するポリペプチドをコードし、これに基づき、当該ヌクレオチド配列は、Needleman及びWunschのグローバルアラインメントアルゴリズムにより求めたときに、その全長に対して配列番号1又は3と少なくとも95、96、97、98、又は99%のヌクレオチド配列同一性を有する。より好ましくは、ヌクレオチド配列は、配列番号2又は4のアミノ酸配列をコードする。
【0036】
本発明の特に好ましい実施形態では、ヌクレオチド配列は、配列番号1又は3のヌクレオチド配列を有する。
【0037】
更なる態様では、本発明は、本明細書においてこれまでに定義したような本発明のヌクレオチド配列を含む核酸構築物に関する。当該核酸構築物では、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列は、好ましくは哺乳動物細胞に適合性のある発現制御配列、例えばプロモーターに作動可能に連結している。多くのかかるプロモーターは、当技術分野で公知である(上記Sambrook及びRussell、2001年を参照)。多くの細胞型で幅広く発現している構成的プロモーター、例えばCMVプロモーターが利用可能である。しかし、誘導性、組織特異的、細胞型特異的、又は細胞サイクル特異的であるプロモーターが好ましい場合がある。好ましい実施形態では、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列は、肝臓特異的プロモーターに作動可能に連結している。肝臓特異的プロモーターは、非赤血球デアミナーゼと共に用いるのに特に好ましい。好ましくは、本発明の構築物では、肝臓特異的発現に対する発現制御配列は、例えばα1−アンチ−トリプシン(AAT)プロモーター、甲状腺ホルモン結合グロブリンプロモーター、アルブミンプロモーター、チロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーター、肝制御領域(HCR)−アポCIIハイブリッドプロモーター、HCR−hAATハイブリッドプロモーター、マウスアルブミン遺伝子エンハンサー(Ealb)エレメントと結合したAATプロモーター、及びアポリポタンパク質Eプロモーターからなる群より選択される。その他の例として、腫瘍選択的、及び特に、神経細胞腫瘍選択的発現に関するE2Fプロモーター(Parrら、1997年、Nat.Med.第3巻:1145〜9頁)、又は単核血球で用いられるIL−2プロモーター(Hagenbaughら、1997年、J.Exp Med;第185巻:2101〜10頁)が挙げられる。本発明の特に好ましい実施形態では、プロモーターは配列番号5の配列を有する。
【0038】
本発明の核酸構築物の更に好ましい実施形態では、3’UTR(又は3’非翻訳配列)は、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列の下流に位置し得る。適する3’UTR配列は、当業者には入手可能である。これらの配列は、任意の哺乳動物、そして好ましくはヒト遺伝子に由来することができ、また通常、転写終結部位、及びポリアデニレーションシグナル(例えば、AAUAAA又はその変異体)を含む。特に好ましい実施形態では、核酸構築物は、例えば配列番号6等のヒトPBGD遺伝子に由来する3’UTRを含む。
【0039】
本発明の核酸構築物の別の好ましい実施形態では、発現制御配列はポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結し、上流転写ユニットと考えられるユニットからのランスルー転写を終結するように、ポリAインシュレーターがこの上流に位置する。上記のような、そして好ましくは少なくとも転写終結配列を含む3’UTRは、かかる目的で利用可能である。好ましいポリAインシュレーターは、配列番号7の配列を有する合成ポリAインシュレーターである。
【0040】
1つの好ましい実施形態では、本発明の核酸構築物は、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列の開始コドン周辺にKozak配列を含む。本明細書では、Kozak配列をGCCRCC(AUG)A(配列番号8)として定義するが、Rはプリン(すなわちA,アデノシン、又はG,グアノシン)であり、また(AUG)は、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードする配列の開始コドンを意味する。通常のKozak配列では、AUG開始コドンの直後のヌクレオチドはG(グアノシン)であるが、本発明においては、かかるヌクレオチドは、赤血球及び非赤血球ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードする配列のいずれにおいても好ましくはA(アデノシン)である。好ましい実施形態では、Kozak配列に対してもう1つ別のGCCトリプレットが先行し得る。
【0041】
更なる態様では、本発明は、本明細書でこれまでに定義した発現制御配列に作動可能に連結している、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸構築物に関連し、前記構築物は哺乳動物の遺伝子治療、好ましくはヒトの遺伝子治療に好適な発現ベクターである。本発明による好ましい核酸構築物は、ウイルス遺伝子治療ベクターである。ウイルス遺伝子治療ベクターは当技術分野で公知であり、例えばアデノウイルスに基づくベクター、及びアデノ随伴ウイルス(AAV)等のパルボウイルス科(Parvoviridae)のメンバー、又はヘルペスウイルス、ポックスウイルス、又はレトロウイルスが含まれる。好ましいウイルス遺伝子治療ベクターは、AAV、アデノウイルス、又はレンチウイルスのベクターである。
【0042】
本発明において特に好ましい遺伝子療法ベクターは、パルボウイルスベクターである。従って、かかる好ましい態様では、本発明は、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を哺乳動物細胞内に導入し、及び/又は発現させるためのベクターとしての利用を目的とした、動物パルボウイルス、特に感染性ヒト又は類人猿AAV等のディペンドウイルス(dependoviruses)及びその構成要素(例えば、動物パルボウイルスゲノム)の利用に関する。
【0043】
パルボウイルス科のウイルスは、小型のDNA動物ウイルスである。パルボウイルス科は2つの亜科に分割可能である:脊椎動物に感染するパルボウイルス亜科(Parvovirinae)、及び昆虫に感染するデンソウイルス亜科(Densovirinae)。パルボウイルス亜科のメンバーは、本明細書においてパルボウイルスと呼び、またディペンドウイルス属(Dependovirus)を含む。その属名から推定され得るように、ディペンドウイルスのメンバーは、これが細胞培養で増殖的に感染するために、通常アデノウイルス、又はヘルペスウイルス等のヘルパーウイルスと同時感染する必要があることから独特である。ディペンドウイルス属には、通常ヒト(例えば、血清型1、2、3A、3B、4、5、及び6)、又は霊長類(例えば、血清型1及び4)に感染するAAV、及び他の温血動物に感染する関連ウイルス(例えば、ウシ、イヌ、ウマ、及びヒツジのアデノ随伴ウイルス)が含まれる。パルボウイルス、及びパルボウイルス科のその他のメンバーに関する更なる情報は、Kenneth I.Berns、「パルボウイルス科:ウイルス及びその複製(Parvoviridae:The Viruses and Their Replication,)」Chapter 69 in Fields Virology(3d Ed.1996)に記載されている。便宜上、本発明は、本明細書では、以降、AAVと呼ぶことによって、例示され、記載される。但し、本発明は、AAVに限定されることなく、同様に他のパルボウイルスにも適用可能であることが理解される。
【0044】
全ての既知のAAV血清型のゲノム構造は非常に類似している。AAVのゲノムは、長さが約5,000ヌクレオチド(nt)未満である、直線状の一本鎖DNA分子である。逆方向末端反復(ITR)は、非構造的複製(Rep)タンパク質及び構造(VP)タンパク質に関する独特なコードヌクレオチド配列に隣接する。VPタンパク質(VP1、VP2及びVP3)は、キャプシドを形成する。末端側145ntは自己相補的であり、T型ヘアピンを形成するエネルギー的に安定な分子内二本鎖を形成し得るように組織化される。これらのヘアピン構造は、ウイルスDNA複製の開始点として機能し、細胞性DNAポリメラーゼ複合体のプライマーとしての役割を果たす。野生型(wt)AAVが哺乳動物細胞に感染し、これに続いてRep遺伝子(すなわち、Rep78、及びRep52)が、それぞれP5プロモーター及びP19プロモーターから発現し、両方のRepタンパク質は、ウイルスゲノムの複製においてある1つの機能を有する。Rep ORFにおけるスプライシング事象は、実際には4つのRepタンパク質(すなわち、Rep78、Rep68、Rep52及びRep40)を発現する。しかし、哺乳動物細胞においてRep78及びRep52タンパク質をコードするスプライスされていないmRNAは、AAVベクターを産生するのに十分であることが示された。また、昆虫細胞においても、Rep78及びRep52タンパク質は、AAVベクターを産生するのに十分である。
【0045】
「リコンビナントパルボウイルス又はAAVベクター」(又は「rAAVベクター」)は、本明細書において、1つ又は複数の対象とするポリヌクレオチド配列、対象とする遺伝子、又は少なくとも1つのパルボウイルス若しくはAAVの逆方向末端反復配列(ITR)が隣接する「導入遺伝子」を含むベクターを指す。AAV rep及びcap遺伝子産物(すなわち、AAV Rep、及びCapタンパク質)を発現している昆虫宿主細胞内に存在する場合には、かかるrAAVベクターは複製可能、及び感染性ウイルス粒子中にパッケージング可能である。rAAVベクターが、より大きい核酸構築物(例えば、染色体、又はクローニング若しくはトランスフェクションに使用するプラスミド若しくはバキュロウイルス等の別のベクター内にある)中に組み込まれた場合、rAAVベクターは、AAVパッケージング機能及び必要なヘルパー機能の存在下で複製及びキャプシド形成することによって「救出」可能な「プロベクター」と一般的に呼ばれる。従って、本発明の更なる態様は、本明細書でこれまでに定義したポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸構築物に関連し、当該核酸構築物はリコンビナントパルボウイルス、又はAAVのベクターであり、従って少なくとも1つのパルボウイルスITR又はAAV ITRを含む。好ましくは、当該核酸構築物では、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列は、いずれかの末端においてパルボウイルスITR又はAAV ITRと隣接する。AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV8、及び/又はAAV9に由来するITRを含め、任意のパルボウイルスITR又はAAV ITRを本発明の構築物で利用可能である。AAV2のITRが最も好ましい。本発明の好ましい核酸構築物で用いられる好ましいITR配列の例として、配列番号9(左側、又は上流のITR)、及び配列番号10(右側、又は下流のITR)が挙げられる。
【0046】
AAVはいくつかの哺乳動物細胞に感染することができる。例えばTratschinら(1985年、Mol.Cell Biol.、第5巻:3251〜3260頁)、及びGrimmら(1999年、Hum.Gene Ther.、第10巻:2445〜2450頁)。しかし、ヒト滑膜線維芽細胞にAAVを形質導入する場合、それは類似するマウス細胞より顕著に効果的であり、Jenningsら、Arthritis Res、3:1(2001年)、またAAVの細胞トロピシティー(tropicity)は、血清型間で異なる。例えば、哺乳動物CNS細胞向性、及び形質導入効率について、AAV2、AAV4、及びAAV5の間の相違を議論しているDavidsonら、(2000年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第97巻:3428〜3432頁)、及びAAV向性を改変するアプローチについて議論しているGoncalves、2005年、Virol J.、第2巻(1):43頁を参照。肝臓細胞に形質導入する場合には、AAV1、AAV8、及びAAV5キャプシドタンパク質を含むrAAVビリオンが好ましく(Nathwaniら、2007年、Blood、第109巻(4):1414〜1421頁;Kitajimaら、2006年、Atherosclerosis、第186巻(1):65〜73頁)、これらの中で、AAV5キャプシドタンパク質を含むrAAVビリオンが最も好ましい。
【0047】
昆虫細胞内でrAAVベクターを産生させるために、本発明で用いることができるAAV配列は、任意のAAV血清型のゲノムに由来することができる。一般的に、AAV血清型は、アミノ酸レベル及び核酸レベルでかなり相同性の高いゲノム配列を有する。これは、等しい一連の遺伝機能をもたらして、物理的にまた機能的に本質的に等しいビリオンを生成する。様々なAAV血清型のゲノム配列、及びゲノム類似性の概要については、例えば、GenBank受入番号U89790;GenBank受入番号J01901;GenBank受入番号AF043303;GenBank受入番号AF085716;Chloriniら(1997年、J.Vir.第71巻:6823〜33頁);Srivastavaら(1983年、J.Vir.第45巻:555〜64頁);Chloriniら(1999年、J.Vir.第73巻:1309〜1319頁);Rutledgeら(1998年、J.Vir.第72巻:309〜319頁);及びWuら(2000年、J.Vir.第74巻:8635〜47頁)を参照。rAAV血清型1、2、3、4、及び5は、本発明において用いられるAAVヌクレオチド配列の好ましい供給源である。好ましくは、本発明において用いられるAAV ITR配列は、AAV1、AAV2、及び/又はAAV4に由来する。同様に、Rep(Rep78/68、及びRep52/40)をコードする配列は、好ましくはAAV1、AAV2、及び/又はAAV4に由来する。しかし、本発明において用いられる、ウイルスタンパク質(VP)VP1、VP2、及びVP3キャプシドタンパク質をコードする配列は、公知の42種類の血清型のうちの任意の血清型から選択されるが、より好ましくはAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、若しくはAAV9、又は例えばキャプシドシャッフリング技術、及びAAVキャプシドライブラリーにより得られる、新規に開発されたAAV様粒子から選択される。
【0048】
AAV Rep配列及びITR配列は、ほとんどの血清型の中でも特別に保存されている。様々なAAV血清型のRep78タンパク質は、例えば89%を超えて一致しており、またAAV2、AAV3A、AAV3B、及びAAV6間のゲノムレベルにおける総合的なヌクレオチド配列の同一性は、約82%である(Bantel−Schaalら、1999年、J.Virol.、第73巻(2):939〜947頁)。更に、多くのAAV血清型のRep配列、及びITRは、哺乳動物細胞内でAAV粒子を産生する際に、その他の血清型由来の対応する配列と十分に相互相補的である(すなわち、機能的に置き換わる)ことが公知である。米国特許第2003148506号は、AAV Rep配列及びITR配列も、昆虫細胞内のその他のAAV Rep配列及びITR配列と、十分に相互に相補的であることを報告している。
【0049】
AAV VPタンパク質は、AAVビリオンの細胞トロピシティーを決定づけることが公知である。VPタンパク質をコードする配列は、異なるAAV血清型のRepタンパク質及び遺伝子よりも、有意に保存性が低い。Rep配列及びITR配列は、その他の血清型の対応する配列と相互に相補的となり得るので、これにより1つの血清型(例えば、AAV5)のキャプシドタンパク質、及び別のAAV血清型(例えば、AAV2)のRep及び/又はITR配列を含む、シュードタイピングしたrAAV粒子の産生が可能となる。かかるシュードタイピングしたrAAV粒子は、本発明の一部である。本明細書では、シュードタイピングしたrAAV粒子をタイプ「x/y」と呼ぶ場合があるが、その場合、xはITRの起源を表し、また「y」は、キャプシドの血清型を表し、例えば2/5rAAV粒子は、AAV2に由来するITR、及びAAV5に由来するキャプシドを有する。
【0050】
改変された「AAV」配列も、本発明において、例えばrAAVベクターを昆虫細胞内で産生するために利用可能である。かかる改変された配列は、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、又はAAV9 ITR、Repに対して少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、又はこれ以上のヌクレオチド及び/又はアミノ酸配列の同一性(例えば、約75%から約99%のヌクレオチド配列の同一性)を有する配列を含み、又はVPを野生型AAV ITR、Rep、又はVP配列の代わりに利用することができる。
【0051】
多くの点でその他のAAV血清型と類似するが、AAV5は、その他の公知のヒト及び類人猿の血清型よりも、その他のヒト及び類人猿のAAV血清型と異なる。こうしたことから、rAAV5を産生する場合、それは昆虫細胞内でその他の血清型を産生する場合と異なる可能性がある。rAAV5を産生するために本発明の方法を用いる場合において、AAV5 ITRを含むヌクレオチド配列を含む1つ又は複数の構築物は、2つ以上の構築物の場合には集合的に、ヌクレオチド配列がAAV5 Repをコードする配列を含む(すなわち、ヌクレオチド配列はAAV5 Rep78を含む)ことが好ましい。かかるITR配列及びRep配列は、rAAV5又はシュードタイピングしたrAAV5ベクターを昆虫細胞内で十分に産生できるように望み通りに改変可能である。例えば、Rep配列の開始コドンを改変することができ、VPスプライス部位を改変又は除去することができ、及び/又は昆虫細胞内でrAAV5ベクターの産生を改善するように、VP1開始コドン及び近傍のヌクレオチドを改変することができる。
【0052】
Russellがレビューするように(2000年、J.Gen.Virol.、第81巻:2573〜2604頁)、又はUS20080008690で、及びZaldumbide及びHoebenが記載するように(Gene Therapy、2008年:239〜246頁)、好ましいアデノウイルスベクターは、宿主反応を抑えるために改変される。
【0053】
従って、本発明は、本明細書においてこれまでに定義した核酸構築物、及び本明細書においてこれまでに定義したパルボウイルスキャプシドタンパク質を含むパルボウイルスビリオンにも関連する。
【0054】
更なる態様では、本発明は、昆虫細胞内でリコンビナントパルボウイルス(例えば、rAAV)ビリオン(これまでに定義したリコンビナントパルボウイルス(rAAV)ベクターを含む)を産生する方法に関する。好ましくは、当該方法は、(a)リコンビナントパルボウイルス(例えば、rAAV)ベクターが産生するような条件下で、本明細書で定義する昆虫細胞を培養するステップ;及び(b)当該リコンビナントパルボウイルス(例えば、rAAV)ベクターを回収するステップを含む。本方法で産生されるリコンビナントパルボウイルス(rAAV)ベクターは、好ましくはリコンビナントパルボウイルス(rAAV)ベクター核酸を含む、感染性パルボウイルスビリオン又はAAVビリオンであると本明細書では理解される。培養物中の昆虫細胞の増殖条件、及び培養物中の昆虫細胞内でヘテロロガス生成物を産生させるステップは当技術分野で公知であり、昆虫細胞の分子工学に関する上記参考資料に記載されている。本発明のrAAVビリオンを産生するための好ましい方法及び構築物は、例えば国際公開第2007/046703号及び同第2007/148971号に開示されている。
【0055】
好ましくは、リコンビナントパルボウイルスビリオンを産生する方法は、リコンビナントパルボウイルス(rAAV)ベクター(を含むビリオン)を、抗AAV抗体、好ましくは固定化抗体を用いてアフィニティー精製するステップを更に含む。当該抗AAV抗体は、好ましくはモノクロナール抗体である。特に適する抗体は、例えばラクダ又はラマから入手可能な一本鎖のラクダ科抗体又はその断片である(例えば、Muyldermans、2001年、Biotechnol.第74巻:277〜302頁を参照)。rAAVのアフィニティー精製用の抗体は、好ましくはAAVキャプシドタンパク質上のエピトープに特異的に結合する抗体であり、好ましくは当該エピトープは、2つ以上のAAV血清型のキャプシドタンパク質上に存在するエピトープである。例えば、抗体はAAV2キャプシドへの特異的結合に基づき産生又は選択可能であるが、同時にAAV1、AAV3、及びAAV5キャプシドとも特異的に結合し得る。
【0056】
また、本発明は、本明細書においてこれまでに定義したパルボウイルスビリオンの薬剤としての使用に関する。すなわち、本発明は、治療によりヒト又は動物の身体を処置する方法で使用するための本発明のパルボウイルスビリオンを提供する。
【0057】
本発明は、ポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損により引き起こされる状態の処置で使用するための、本明細書でこれまでに定義したパルボウイルスビリオンに更に関する。好ましくは、かかる状態は急性間欠性ポルフィリン症である。本発明の核酸又は核酸構築物は、かかる使用にも適する。
【0058】
従って、本発明は、ポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損により引き起こされる状態を処置する方法で使用するための薬剤の調製で使用するための、本発明の核酸、核酸構築物、又はパルボウイルスビリオンに関する。好ましくは、かかる状態は急性間欠性ポルフィリン症である。かかる処置は、1つ又は複数のAIPの重症度を緩和し、改善し、軽減し得るが、例えば発作の発生率又は重症度を低減する。例えば、本発明による処置は、神経系の障害、腹痛、又は内臓神経及び/又は循環系の障害の重症度を緩和し、改善し、軽減し得る。
【0059】
更に、本発明は、本明細書においてこれまでに定義したパルボウイルスビリオンを含む医薬組成物に関する。当該医薬組成物は、好ましくは更に、薬学的に許容される担体を含む。任意の適した薬学的に許容される担体又は添加剤が、本組成物で利用可能である(例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、Alfonso R.Gennaro(編集者)Mack Publishing Company、1997年4月を参照)。好ましい医薬品形態は、滅菌生理食塩水、デキストロース溶液、又は緩衝溶液、又はその他の薬学的に許容される滅菌液と併用される。或いは、固体担体、例えばマイクロキャリアビーズ等も利用可能である。
【0060】
医薬組成物は、製造及び貯蔵の条件下では、一般的に滅菌状態にありまた安定である。医薬組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、リポソーム、又は高い薬物濃度を実現するのに適したその他の秩序構造物として処方可能である。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセリン、プロピレングリコール、及び液状のポリエチレングリコール等)、及びこれらの適する混合物を含む溶媒又は分散媒体であり得る。例えば、レシチン等のコーティング物を用いることにより、分散物の場合には、必要な粒子サイズを維持することにより、及び界面活性剤を使用することにより、適当な流動性を維持することができる。多くの場合、事例として、砂糖、ポリアルコール、例えばマンニトール、ソルビトール等、又は塩化ナトリウム等の等張剤を組成物に含むのが好ましいであろう。組成物中に吸収を遅らせる薬剤、例えばモノステアリン酸塩及びゼラチンを含めることにより、注射組成物が持続的に吸収されるようにすることができる。パルボウイルスビリオンは、例えば、低速放出ポリマー、又は急速な放出から化合物を保護するその他の担体、例えばインプラント及びマイクロカプセル化された送達システム等を含む組成物として、ある時間内で、又は制御された放出処方で投与可能である。例えば、エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリ乳酸、及びポリ乳酸、ポリグリコール酸コポリマー(PLG)等の生分解性、生体適合性ポリマーを利用することができる。
【0061】
本発明は、ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を哺乳動物に送達する方法であって、
a.本明細書において定義した核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物を提供するステップと、
b.哺乳動物において治療効果をもたらすレベルでタンパク質発現させるような条件下で、前記核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物を前記哺乳動物に投与するステップ
とを含む上記方法も提供する。
【0062】
また、本発明は、ポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損によって引き起こされる状態を処置する方法であって、本明細書において定義した核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物の有効量を、ポルホビリノゲンデアミナーゼを欠損した対象に投与するステップを含む。好ましくは、当該対象は急性間欠性ポルフィリン症の病気に罹患している。
【0063】
本発明による処置又は治療では、ポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損によって引き起こされる状態は、本明細書において定義した核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物の有効量を、対象に投与することにより処置される。
【0064】
かかる病気に罹患した患者の状態は、本発明の核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物を投与することにより改善可能である。本発明の核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物の治療上有効な量が、これを必要とする患者に投与され得る。
【0065】
核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物は通常、任意選択により医薬担体、賦形剤、及び/又はアジュバンドと併用して、医薬組成物内に含まれる。かかる組成物は、所望の治療効果又は予防効果を実現するのに十分な有効量の核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物、及び薬学的に許容される担体又は添加剤を含む。「有効量」には、治療上有効量、又は予防上有効量が含まれる。
【0066】
「治療上有効量」とは、所望の治療結果、例えばPBGD活性の上昇等を実現するのに必要な用量及び期間において有効な量を指す。核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物の治療上有効な量は、病状、年齢、性別、及び個体の体重等の諸要因、並びに核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物が、個体内で所望の反応を発現させる能力により変化し得る。投与計画は、最適な治療反応を実現するように調節可能である。治療上有効な量は、一般的に、核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物の毒性効果、又は有害効果よりも、治療上有益な効果が勝る量でもある。
【0067】
「予防上有効な量」とは、所望の予防結果、例えばPBGDレベルの低下に関連した状態を含む様々な状態の予防又は阻止を実現するのに必要な用量及び期間において有効な量を指す。予防量は、疾患に先立ち、又は疾患の初期段階で対象において利用可能であり、予防上有効な量は、場合によって治療上有効な量よりも多くも、少なくもあり得る。
【0068】
特定の実施形態では、核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物の治療上又は予防上有効な量の範囲は、1×1012から1×1013ゲノムコピー(gc)/kg、例えば1×1011から1×1012gc/kgであり得る。用量値は緩和すべき状態の重症度に応じて変化し得ることに留意されたい。任意の特定の対象について、個体のニーズ、及び当該組成物を投与し、又は投与を監督する者の専門的判断に基づき特別な投与計画を、時間をかけて調整し得る。本明細書に記載する用量範囲は例示目的に限られ、開業医により選択され得る用量範囲を限定するものではない。
【0069】
本発明のパルボウイルスビリオン等の遺伝子療法ベクターの場合、投与すべき用量は処置される対象の状態及びサイズの他、治療処方、処置頻度、及び投与経路に大きく依存し得る。用量、処方、及び頻度を含む、治療を継続するための投薬計画は、初期反応及び臨床判断に基づくことができる。組織の間質腔への注入による非経口経路が好適であり得るが、特別な投与では、その他の非経口経路、例えばエアゾール処方の吸入が必要な場合もある。いくつかのプロトコールでは、水性担体中に遺伝子及び遺伝子送達系を含む処方が、組織内に適当量注入される。
【0070】
組織標的、例えば肝臓組織は特異的であり得、又はこれはいくつかの組織の組合せ、例えば筋肉と肝臓組織であり得る。典型的な組織標的として、肝臓、骨格筋、心筋、脂肪沈着物、腎臓、肺、血管内皮、上皮、及び/又は造血性細胞を挙げることができる。
【0071】
1つの実施形態では、筋肉内注射後の小動物(マウス)の有効用量範囲は、1×1012及び1×1013ゲノムコピー(gc)/kgの間、またより大型の動物(ネコ)及びヒト対象の場合では、1×1011及び1×1012gc/kgの範囲であり得る。
【0072】
本発明の組成物内の核酸、核酸構築物、パルボウイルスビリオン、又は医薬組成物の活性な量は、病状、年齢、性別、及び個体の体重等の諸要因により変化し得る。投与計画は、最適な治療反応を実現するように調節可能である。例えば、単回ボーラスで投与可能、いくつかに分割した用量で時間をかけて投与可能、又は用量は治療状況の緊急性の指標に従い比例的に減少又は増加可能である。
【0073】
投与を容易にし、用量を一定化するために、単位投与剤形で非経口組成物を処方するのが有利な場合がある。本明細書で用いる場合、「単位投与剤形」とは、処置される対象に単位用量として適する、物理的に分離した単位を指し、各単位は、必要な医薬担体に関連して所望の治療効果を生み出すように計算された事前に決定された量の活性な化合物を含む。本発明の単位投与剤形に関する仕様は、活性な化合物の固有の特徴、及び実現すべき具体的な治療効果により、また個体の状態を処置するためにかかる活性な化合物を混合するステップに関する当技術分野に固有の制限事項により決定され得る。
【0074】
本明細書で用いる場合、「薬学的に許容される担体」、又は「添加剤」として、生理的に適合する、任意の全ての溶媒、分散媒体、コーティング物、抗菌剤及び抗真菌剤、等張化剤及び吸収遅延剤等が挙げられる。1つの実施形態では、担体は非経口投与に適し、かかる投与として静脈内、腹腔内、又は筋内投与が挙げられる。或いは、舌下又は経口投与用として適当であり得る。薬学的に許容される担体として、滅菌水溶液又は分散物、及び滅菌注射溶液又は分散物を即時調製するための滅菌粉末が挙げられる。薬学的に活性な物質のためのかかる媒体及び薬剤の使用については、当技術分野で周知である。従来型の媒体又は薬剤が活性化合物と適合性を有さない場合には、それら全てを排除するが、本発明の医薬組成物でそれらを使用することが意図されている。
【0075】
補助的な活性化合物も、本発明の医薬組成物中に組み込むことができる。更なる治療薬の同時投与に関する指針は、例えばカナダ薬剤師協会(Canadian Pharmacists Association)のCompendium of Pharmaceutical and Specialties(医薬品及び特殊品大要)(CPS)に見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】オスAIPマウスにおけるヘム前駆体排泄に対するAAV2/8−hPBGD注射の用量効果を示す図である。AIPマウスは、正常なPBGD活性の25〜30%を有するが、それはPBGDの一方の対立遺伝子が破壊し、またもう一方の対立遺伝子が部分的に破壊したことに起因する。LUCはルシフェラーゼレポーター構築物である。PBGDは様々な用量のrAAV−PBGDベクターである。1kg当たりのゲノムコピー数として表される。Pbはフェノバルビタールである。
【図2】治療ベクターssAAV2/8−hPBGD、又は対照ベクターssAAV2/8−Lucを5×1012vg/kgで投与した後に、フェノバルビタールで誘発された急性発作を生じたメスAIPマウスにおけるPBG及びALAの尿中排泄を示す図である。LUCはルシフェラーゼレポーター構築物である。PBGDは様々な用量のrAAV−PBGD構築物である。Pbはフェノバルビタールである。
【図3】ウェスタンブロット分析により測定した、オスAIPマウス肝臓におけるPBGD導入遺伝子の発現を示す図である。
【図4】ウェスタンブロット分析により測定した、メスAIPマウス肝臓におけるPBGD導入遺伝子の発現を示す図である。
【図5】注射後3カ月目の、異なる用量でssAAV2/8を形質導入されたオスAIPマウスにおける肝臓PBGD活性を示す図である。
【図6】注射後3カ月目の、ルシフェラーゼ又はPBGD遺伝子を担持するssAAV2/8ベクターを形質導入されたメスAIPマウスにおける肝臓PBGD活性を示す図である。
【図7】野生型PBGDコード配列(PBGD)、及び合成、すなわちコドンが最適化された配列番号1(coPBGD)のPBGDコード配列を含むプラスミドDNA構築物を流体力学注射したときの、野生型(WTマウス)及びAIPマウス(AIPマウス)におけるPBGDのin vivo酵素活性の比較を示す図である。肝臓中に存在するベクターDNAのレベルは、導入遺伝子にハイブリダイズするプライマーを用いて確認された。内因性ハウスキーピング遺伝子GADPHのDNAコピー数、及びPBGD導入遺伝子のDNAコピー数間のQ−PCRに基づく比を、PBGD酵素活性の上に示すが、有意な差は認められない。
【図8】AAV2/5−PBGDが、フェノバルビタールで誘発された急性ポルフィリン症発作に対してオスのマウス(図8)及びメスのマウス(図9)を保護していることを示す図である。AIPマウスにおけるALA及びPBGの基底レベル、並びに第1回目、第2回目、及び第3回目のフェノバルビタール誘発急性ポルフィリン症発作後のALA及びPBGレベルを、5e12gc/kgの対照ベクター(AAV2/5−EalbAAT−ルシフェラーゼ)で処置したマウス、並びに5e12gc/kgのAAV8−PBGDベクター及びAAV5−PBGDベクターで処置したマウスについて示す。
【図9】AAV2/5−PBGDが、フェノバルビタール誘発急性ポルフィリン症発作に対してオスのマウス(図8)及びメスのマウス(図9)を保護していることを示す図である。AIPマウスにおけるALA及びPBGの基底レベル、並びに第1回目、第2回目、及び第3回目のフェノバルビタール誘発急性ポルフィリン症発作後のALA及びPBGレベルを、5e12gc/kgの対照ベクター(AAV2/5−EalbAAT−ルシフェラーゼ)で処置したマウス、並びに5e12gc/kgのAAV8−PBGDベクター及びAAV5−PBGDベクターで処置したマウスについて示す。
【図10】AAV8−PBGD及びAAV5−LUC投与後の肝臓ホモジェネート中のPBGD酵素活性を示す図である(n=4〜6)。
【図11】A.ヒト(wtPBGD)由来のPBGDcDNA、又はコドンが最適化されたPBGD(coPBGD;配列番号1)を担持するssAAV2/5を1.25×1011gcで単回注射した後の1、2、又は3カ月経過したオスAIPマウスの肝臓ホモジェネート中のPBGD酵素活性を示す図である。B.注射後1、2、又は3カ月経過したときのベクターコピーレベルの半定量PCR分析結果を示す図である。C.wtPBGD又はcoPBGD導入遺伝子を担持するssAAV2/5ベクターを注射したオスの動物に由来する肝臓について、肝臓特異的プロモーターを制御して行われた代表的な免疫組織化学分析の結果を示す図である。D.動物の各コホートから得られたPBGD抗体で染色された細胞の割合を示す図である。
【図12】AIPマウスの末梢神経障害に関する神経学的評価結果を示す図である。3つの異なる用量のrAAV2/8−PBGDが投与されたオス、メス両方のAIPマウスにおいて、大型軸索(直径5μm)の割合(%)、及び軸索密度について実施した。未処置及び野生型(WT)を対照とする。
【図13】AIPマウスの運動神経のロータロッド(Rotarod)分析結果、及び筋肉能力を示す図である。オス及びメスのAIPマウスが回転棒(rotating dowel)上に留まることができた時間の長さを、本試験開始時、及びAAV2/8−PBGD投与後90日を経過してポルフィリン症の発作を誘発した時に測定した。ポルフィリン症の発作は、4日間にわたり、24時間毎に、フェノバルビタールの用量を増加させて腹腔内注射することにより誘発した。
【実施例】
【0077】
(例1)
ポルホビリノゲンデアミナーゼのAAV介在型肝臓特異的発現は、急性間欠性ポルフィリン症のマウスモデルにおいて、生化学的変化を回復させ、運動神経障害から保護する。
1.1 材料及び方法
1.1.1 動物モデル
急性間欠性ポルフィリン症(AIP)マウスは、Lindbergら(Nature genetics、1996年)が記載する遺伝子標的法により生み出された。T1及びT2トランスジェニック血統はバーゼル(Basel)大学のUrs Meyer教授より親切により提供され、またナバラ(Navarra)大学の動物設備は、上記動物のコロニーを確立した。T1トランスジェニック動物では、ネオマイシン遺伝子がPBGD遺伝子の最初のエクソンに挿入され、またホモ接合動物は、肝臓においてPBGD活性の45%を失っている。T2マウスでは、ネオマイシン遺伝子がPBGD遺伝子の最初のイントロンに挿入された。ホモ接合状態は致命的であり、またヘテロ接合動物は、肝臓においてPBGD活性の43%を失っている。いずれの血統も、フェノバルビタール(Pb)及び/又はエストラジオールで処置後、ポルフィリン症の兆候も、ヘム前駆体の尿中排泄増加も認められなかった(データは示さない)。PBGD活性を更に下げるために、当該2種類の血統を異種交配した。T1及びT2の両方についてノックアウト対立遺伝子を担持する複合ヘテロ接合体動物を、AIP疾患モデルとして用いた。かかるマウスはヒトポルフィリン症の典型的な生化学的特徴を示し、特にフェノバルビタール等の薬物で処置した後に、肝臓PBGD活性が低下し、またヘム前駆体の尿中排泄が顕著に増加した。ほとんどがウロポルフィリン及びコプロポルフィリンであるが、ポルフィリンもAIPで増加するが、尿中ポルフィリンの増加は、PBGレベル及びALAレベルの増加よりも特異性がかなり低い特徴である。ロータロッド試験等の行動試験により、Pb投与後の運動機能低下が明らかとなり、また組織病理学的知見には、軸索神経障害及び老化に伴う神経伝導低下が含まれる。
【0078】
1.1.2 AAVベクター
プラスミド及び配列
本試験で用いたAAVプラスミドは、AAV2に由来する2つのITRが隣接する発現カセット、及びAAVについて記載された最適なパッケージング容量にAAVゲノムのサイズを調節するように適当なスタッファー配列(stuffer sequence)を含む。導入遺伝子発現カセットは、次の要素を有する:AAV2に由来する5’ITR、アルブミンエンハンサーに由来する調節配列を含む肝臓特異的プロモーターEalbAATp(Kramerら、2003年、Mol Ther.、第7巻(3):375〜85頁)、ハウスキーピングPBGD cDNA(GenBank受入番号X04808)、又はルシフェラーゼレポーター遺伝子(GenBank受入番号M15077)。ウシ成長ホルモンポリアデニレーション配列[bGHポリ(A)](塩基2326〜2533、GenBank受入番号M57764)、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)(塩基1021〜1750、GenBank受入番号J04514)、及びAAV2由来の3’ITRを、転写を強化するために添加した(Donelloら、1998年、J Virol.第72巻(6):5085〜92)。上記2つのAAVプラスミドは、ssAAV−ポリA−EalbAAT−PBGD−WPRE(治療遺伝子を発現)、及びssAAV−ポリA−EalbAAT−ルシフェラーゼ−WPRE(レポーター遺伝子GFPを発現)と命名された。
AAVベクターの調製
【0079】
3つの異なるプラスミドpAdDeltaF6、p5E18−VD2/8、及び治療遺伝子(AAV−ポリA−EalbAAT−PBGD−WPRE)又はレポーター遺伝子(AAV−ポリA−EalbAAT−ルシフェラーゼ−WPRE)のリン酸カルシウム介在型同時トランスフェクションにより、293個の細胞においてAAV2/8ベクターが生成された(Hermensら、1999年、Hum Gene Ther.、第10巻(11):1885〜91頁;及びGaoら、2002年、Proc Natl Acad Sci USA、第99巻(18):11854〜9頁)。要するに、293個の細胞が、リン酸カルシウム法により、pAdDeltaF6、p5E18−VD2/8、及び標的ベクターで同時に核酸導入され、そしてウイルスは、トランスフェクション後48時間経過して細胞を凍結−解凍することにより捕集された。当該ウイルスは、イオン交換カラムクロマトグラフィー、及びイオジキサノールグラジエント遠心分離とこれに続くろ過、及びリン酸緩衝生理食塩水(PBS)−5%スクロースに対して更に濃縮することにより精製された。ゲノムコピー数/mlで表されるウイルス力価は、3重測定のQ−PCR、すなわちhAATプロモーター領域の95bp断片を増幅するプライマーpr300fw5’CCCTGTTTGCTCCTCCGATAA3’pr301rv5’GTCCGTATTTAAGCAGTGGATCCA3’を用いたTaqMan(AppliedBiochem)分析により決定された。タンパク質組成及び純度はドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により決定された。
【0080】
1.1.3 実験構成
予備試験
AAV2/8ベクターの感染能力を試験し、及びPBGD発現を評価するために、AAV2/8−PBGDを9×1012vgの用量で2匹のAIP動物に注射し、6日目に殺処分した。
【0081】
原理証明分析
AAV2/8−hBGD注射後AIPマウス肝臓中のPBGD発現レベルを比較することにより、AAV2/8を媒介とした肝臓形質導入を評価した。12〜25週齢に達したC57B1/6バックグラウンド内の複合ヘテロ接合体AIPマウス(1群当たり10マウス、オス5匹、メス5匹)に、AAV2/8−hPBGDベクター又はAAV2/8−ルシフェラーゼ対照ベクターとして5e12vg/kgに相当する総量100〜200μlを尾静脈経由で静脈内注射した。オスAIPマウス5匹からなる2つの追加の群(上記マウスと同じ週齢)には、AAV2/8−hPBGDを5e11vg/kg、又は5e10vg/kg注射した。野生型マウス及びAIPマウスからなる別の群も含まれる。投与スキームを表2に示す。
【表1】
【0082】
rAAVベクター注射後15日、28日、及び90日の時点で、フェノバルビタール注射により誘発された急性発作の前及び後のマウスについて運動障害、及びポルフィリン前駆体の蓄積を測定した。この場合、フェノバルビタール(Pb、生理食塩水で稀釈)を腹腔内に1日1回、4日連続して用量を増加させながら(75、80、85、90mg/kg体重)投与した。
【0083】
神経伝導測定
軸索変性、及び坐骨神経内にあるミエリンの喪失を実証するために、電気生理学試験を実施した。生後6カ月のオスAIPマウス2匹に、1e12gc/kgを注射した。運動障害を促進するようにPbを2週間毎に繰返し投与して処置した。生後11カ月及び14カ月の動物について、Pbにより誘発された急性発作の前後で神経伝導測定を実施した。
【0084】
1.2.結果
1.2.1 原理証明分析
試験全体を通じて、処置がヘム前駆体レベルに与える効果
ウイルス注射後、15日目、28日目、及び90日目に、AIPマウスをPbの用量を増加させながら4日間処置し、そしてヘム前駆体の尿中レベルを測定した。
【0085】
期待した通り、対照群のオスAIPマウス(AAV−Luc、図1)は、Pb注射後に前駆体の排泄が増加したが、AAV2/8−PBGDを高用量で注射されたマウスでは、前駆体の排泄に変化はなかった(図1)。オスのAIPマウスでは、5e11vg/kgから、フェノバルビタール誘発後のALA及びPBGの蓄積を完全に防ぐことができた(図1)。AAV−PBGDを5e10vg/kgで処置したオスAIPでは、部分的に保護されることが認められた。AAV投与後2週間及び試験終了時において、フェノバルビタールに誘発されたALA及びPBGの排泄プロファイルに変化はなかった(図1)。
【0086】
メスの動物に治療ベクターを投与しても(AAV2/8−PBGDを5e12vg/kgで)、尿中ポルフィリン前駆体の異常な蓄積がないことから明らかなように、やはりPbで誘発された急性発作は防止された(図2)。対照群(AAV−Lucを用いて注射)においては、オスのAIPマウスと比較した時に、メスでは律速酵素ALAS1の肝臓における活性が低いことから、メスのAIPマウス(図2)はオスのAIP動物(図1)よりも、ポルフィリン前駆体の蓄積は少なかった(データは示さない)。
【0087】
本試験全体を通じてAAV投与が運動障害に与える効果:ロータロッド試験
期待した通りに、AIPマウスは、野生型動物と比較した時に運動障害を示した。対照ベクター(AAV−Luc)で処置したAIPマウスの運動障害は、オス及びメスの両方において、フェノバルビタール投与後に悪化した(データは示さない)。オスAIPマウスのPbで誘発された運動障害は、本試験の開始時(AAV注射後15日目及び28日目、データは示さない)及び最後の両方の時点において、治療ベクターで処置された動物ではほぼ完全に消散した。ssAAV2/8−hPBGDで処置されたオス及びメスのAIP動物は、本試験の全期間を通じてPbで誘発された運動障害に対して完全に防御されることが示された(AAV注射後15日目及び28日目、及び本試験の最後の時点)(図13)。オスでは、ルシフェラーゼベクターの投与を受けたマウスが棒上に留まることができた平均時間は、約200秒であった。しかし、ポルフィリン症の発作が生ずると、この時間は約100秒まで半減した。PBGDベクターを異なる全3用量で投与されたオスでは、マウスは発作を経験しなかった時とほぼ同じ長さで棒上に留まることができたが、攻撃されていない野生型のレベルには達しなかった。やはり同じことがメスでも判明した。
【0088】
ssAAV−hPBGD投与が殺処分時の肝臓PBGDレベルに与える効果:ウェスタンブロット分析
期待した通り、対照ベクター(ssAAV−Luc)を投与すると、オスのマウス(図3)及びメスのマウス(図4)の両方でPBGD発現は増加しなかった。オスでは、ウェスタンブロット分析により、肝臓PBGD発現について用量依存性の増加が認められた(図3)。内因性PBGD及びヒトPBGD間での移動パターンの相違から、内因性PBGDの同定が可能となる(図3)。
【0089】
メスでは、PBGDの高度な発現が、5e12vg/kgのssAAV−hPBGDで処置されたマウスの肝臓に認められた(図4)。
【0090】
AAV−PBGD投与が殺処分時の肝臓PBGD活性に与える効果
酵素活性測定により、治療ベクターにより発現したPBGDタンパク質が機能的に活性であることを確認する(図5及び図6)。治療ベクター(AAV−PBGD)を高用量で注射されたオス(図5)及びメス(図6)の間で、PBGD活性に有意な相違は認められなかった(p=0.35)。オスでは、肝臓PBGD活性について用量依存性の増加が認められる(図5)。治療ベクターを低用量で投与されたマウス(5e10vg/kgのAAV−PBGD)では、野生型動物と同じPBGD活性が認められる。
【0091】
免疫組織化学分析:肝臓中でのPBGD発現の分布
個々の細胞内でのPBGDタンパク質レベルを求めるために免疫組織化学を用い、各処置群について2枚のスライドを用いてこれを実施した。PBGD免疫組織化学染色では、CIMAで抗PBGDポリクロナール抗体を開発した。抗PBGD抗体は、内因性のタンパク質、及びssAAV2/8−hPBGDを媒介としたことによる外因性のヒトタンパク質を認識する(データは示さない)。
【0092】
対照ウイルスを注射されたAIP動物の肝臓では、免疫組織化学分析により検出されるように、全肝細胞の細胞質内でPBGDの低い発現が認められる(データは示さない)。細胞質内のかかる弱いシグナルは、内因性PBGDに相当する。細胞核はヘマトキシリンにより対比染色されて、陽性反応を示す茶色とは対照的な青色のバックグラウンドを与える(データは示さない)。
【0093】
治療ベクターを注射されたオスAIPマウスでは、PBGD発現について用量依存性の増加が認められた。治療ウイルスを最高用量で注射されたオスのマウスでは、高いPBGD発現が認められた。PBGDが強く発現している領域は、治療ウイルスを中間用量で注射された動物では減少したが、治療ウイルスを低用量で注射された動物では、孤立細胞まで減少した。かかる結果は、同じ動物についてウェスタン(ブロット)及び酵素活性測定によりこれまでに得られた結果とよく相関している。
【0094】
同じ用量の治療ベクター(5e12vg/kgのAAV−PBGD)を注射されたオス及びメスの間では、PBGD免疫組織化学染色について有意な差は認められなかった。高用量の治療ベクターを投与されたオス及びメスは、実質及び血管周辺の両方においてPBGDの高い発現を示した(データは示さない)。
【0095】
PBGDは細胞の細胞質内に局在することが報告されたが、PBGDが様々な細胞系、及び一次細胞の核内に取り込まれることもこれまでに報告されている(Grunberg−Etkovitzら、2006年、Biochem Biophys Acta.、第1762巻(9):819〜27頁)。対照ウイルスを注射した本発明のマウスでは、核のほとんどが特徴的な青色染色(ヘマトキシリンによる)を示し、免疫染色された茶色(DABによる;データは示さない)を示した核はほとんど得られなかった。しかし、AAV−PBCDを注射された本発明のマウスでは、PBGDタンパク質が核内に多く分布することを反映して、高い割合で茶色が認められた。PBGDについて高い陽性を示す核の割合は、異なる群においても測定された。やはり、高濃度核内PBGDタンパク質を発現する肝細胞の用量依存性の増加が、オスで認められた。
【0096】
末梢神経障害の神経学的評価
別の態様では、坐骨神経の組織学的分析を含んだAIPマウスの末梢神経障害の神経学的評価(データは示さない)、及び坐骨神経の近傍を刺激することにより誘発される運動能力の機能試験を実施した(データは示さない)。正常な軸索密度がrAAV2/8−PBGDベクターを形質導入されたAIP動物に認められることから、肝臓でのhPBGDの過剰な発現が、AIPマウスの坐骨神経の軸索再生を促進することが示唆された(図12)。
【0097】
軸索の変性及び坐骨神経内のミエリンの喪失を実証するために電気生理学試験を実施した。これは、PBGD導入遺伝子が長期間発現すると、フェノバルビタール投与により誘発される機能的ブロックから保護されることを明らかにする。rAAV2/8−PBGDを形質導入された野生型、若年AIP、老齢AIP、及びAIPマウスにおいて坐骨神経近傍を刺激することにより誘発される運動能力では、フェノバルビタールにより誘発されたポルフィリン症の急性発作の前と7回経験した後では、レイテンシー、期間、及びアンプリチュードにおいて機能の回復が認められる(データは示さない)。
【0098】
(例2)
コドン最適化PBGD cDNAに由来するin vivo酵素活性の増加
2.1 流体力学注射で用いられるプラスミドの構築、及びwtPBGD及びcoPBGDによるAAV遺伝子送達
本試験で用いられるプラスミドは、5’から3’の順番で下記エレメントを有する発現カセットを含む:アルブミンエンハンサーに由来する調節配列を有する肝臓特異的プロモーターEalbAATp(Kramerら、2003年、Mol Ther.、第7巻(3):375〜85頁)、ハウスキーピング(すなわち、非赤血球)PBGD cDNA(GenBank受入番号X04808)。PBGD由来の3’UTR(塩基1463〜1487、GenBank受入番号NM_000190)、及びPBGDポリアデニレーション配列[ポリ(A)PBGD](塩基9586〜9626、GenBank受入番号M95623)。上記発現カセットを含む2つのプラスミドは、psl1180−pAAT−PBGD−ポリA PBGD、及びpsl1180−pAAT−coPBGD−ポリA PBGDと命名され、以下に説明するようにPBGDをコードする配列のみが異なる。
【0099】
コドン最適化PBGDを作製するために、ヒトPBGD非赤血球cDNAに相当する遺伝子バンク番号NM_000190を、ホモサピエンスの偏りにコドンの利用を適応させた(コドン適応性インデックス値0.97)。coPBGDをコードする配列における更なる改変として:1)翻訳の開始を増加させるためにKozak配列を導入した;2)効果的な終結を保証するために2つの終始コドンを追加した;及び3)CG含量を55%から65%に高めた。最適化した後の最終的なcoPBGD cDNAは、195bpの変更、及びオリジナルのcDNA配列番号NM_000190と82.1%の相同性を有する。かかる配列(配列番号1)が合成され、WT PBGD cDNAの配列と置換するプラスミドpsl1180−pAAT−PBGD−ポリA PBGD内にサブクローニングされた。新規精製プラスミドは、psl1180−pAAT−coPBGD−ポリA PBGDと命名された。
【0100】
プラスミドpsl1180−pAAT−PBGD−ポリA PBGD、及びpsl1180−pAAT−coPBGD−ポリA PBGDに由来する全発現カセット配列を、AAV2に由来する2つのITRを含むプラスミドであるプラスミドpVD155内にサブクローニングした。得られたプラスミドはpVD153及びpVD191と命名され、そこでは親バキュロウイルスゲノムと共に各プラスミドがSF9細胞内に同時導入されて、リコンビナントバキュロウイルスBac.VD153及びBac.VD191が生成した。かかるバキュロウイルスは、昆虫細胞内でAAV5ベクターを生み出すために用いられた。要するに、SF9+細胞を、3つの異なるリコンビナントバキュロウイルスで同時感染させた:Bac.VD92、Bac.VD88、及びBac.VD153(治療EalbAAT−PBGD−ポリAを含むバキュロウイルス)。発現カセットEalbAAT−coPBGD−ポリAを含むAAV5ベクターを産生する場合には、バキュロウイルスBac.VD191がBac.VD153の代わりに用いられた。
【0101】
感染後72時間経過して、細胞を凍結−解凍することによりAAV5ベクターを捕集した。アフィニティーカラムクロマトグラフィーとこれに続くろ過、及び更に濃縮することにより当該ベクターを精製した。ゲノムコピー数/mlとして表すウイルス力価を、プライマーhAATtaqリバース、5’CAGCGTCCTGTGTCCAAGGT3’、プライマーhAAT taqフォアワード5’AGGCCAACTTGTCTACGTTTAGTATG3’(両方ともMWG−Biotech AGより)、及びプローブhAAT 5’CTGTAGATCTGTACCCGCCACCCCC3’(MWG−Biotech AG)を用いてTaqMan Q−PCR、(AppliedBiosystems)分析により求めた。タンパク質組成及び純度をSDS−PAGEで求めた。
【0102】
2.2 PBGD酵素アッセイ
組織ホモジネート中のPBGD活性を、Anderson及びDensnickの方法に基づき、PBGのウロポルフィリンへの変換を測定することにより求めた(Anderson PM、及びDensnick RJ.、1982年、Enzyme、第28巻(2〜3):146〜57)。要するに、1gの組織を4℃、4倍容量の1.15%のKCl溶液中でホモジネーションした。ホモジネートを、12,000rpm、4℃で20分間遠心分離し、そして細胞残屑を全く含まない上清を、その日のうちにタンパク質測定(アルブミン標準品を用いたBradford法)、及びPBGD活性に用いた。
【0103】
上清サンプルをリン酸バッファー(pH7.6)、DTT、Cl2Mg、及びトリトンX−100で1:3に稀釈し、そしてかかる混合物のうちの100μlを0.1Mトリス−塩酸(pH8.1)、1.8mlを用いて37℃で3分間プレインキュベーションした。次に、当該混合物を1mMのPBG基質、0.5mlを用いて遮光、37℃で60分間インキュベーションした。冷40%TCA、350μlを用いて反応を停止し、そして露光後に生成したウロポルフィリノーゲンを酸化してウロポルフィリンにした。ウロポルフィリンを、405nmに励起ピーク(λext)を、また550〜660nmの放出ピークウィンドウ(λem)値を有する分光蛍光光度計を用いて測定した。適当な標準品を用いて、PBGD活性をpmol(ウロポルフィリン)/mg(タンパク質)/時として表した。
【0104】
2.3 PBGD及びcoPBGDプラスミドの流体力学注射
各プラスミド、psl1180−pAAT−PBGD−ポリA PBGD、又はpsl1180−pAAT−coPBGD−ポリA PBGD、50μlをPBS、2.5mlに溶解し、これをAIPマウス(n=4)の尾部側静脈に流体力学的に注射して、肝臓に当該プラスミドを送達した。注射後1週間経過してマウスを殺処分し、そして肝臓及び腎臓ホモジネート中のPBGD酵素活性を測定した。
【0105】
psl1180−pAAT−coPBGD−ポリA PBGDプラスミドを流体力学的に送達し、その後に肝細胞が発現したcoPBGD酵素は、野生型(wtPBGD)psl1180−pAAT−PBGD−ポリA PBGDプラスミドを投与されたマウスと比較して、肝臓ホモジネート中において30%活性の高いPBGDをもたらした。PBGD活性値をpmol(ウロポルフィリン)/mg(タンパク質)/時として表すと、その値は、wtPBGD及びcoPBGDについて、それぞれ5.54±1.64、及び7.30±0.913であった(p=0.0317、両側、Mann Whitney検定)。肝臓中に存在するベクターDNAのレベルは、導入遺伝子にハイブリダイズするプライマーを用いたQ−PCRにより確認された。各マウスにおいて、内因性ハウスキーピング遺伝子GADPHのDNAコピー数、及びPBGD導入遺伝子のDNAコピー数間の比を計算した。DNA比(PBGD及びcoPBGDについて、それぞれ2.950±2.25、及び1.760±0.6804)は、有意な差を示さず、そしてほぼ同数のコピー数からなる治療ベクターが、流体力学注射によって肝臓に送達されたことが実証された。データを図7に示す。
【0106】
2.4 AIPマウスにおいてPBGD−AAV2/5ベクターを用いたPBGD遺伝子療法の原理証明
AAV2/5−EalbAAT−PBGD−ポリAの治療効果を証明するために、セクション1.1.1ですでに記載したAIPマウスを用いた。
【0107】
AAV2/5−EalbAAT−PBGDを5e12gc/kgの用量で、AIPマウス(オス及びメス)に静脈注射した。対照動物には、同一のベクターであるがルシフェラーゼレポーター遺伝子を担持するベクターを投与した。AAV2/5−EalbAAT−PBGD投与後、2、4、及び13週間経過して、ポルフィリン症発作を誘発するために、Pbの用量を増加させながら4日間にわたり動物を処置した。Pbを最後に投与した後24時間経過して、ヘム前駆体のレベルを24時間−尿サンプルについて測定し、及び運動神経を、ロータロッド試験を用いて分析した。AAV投与後3カ月を経過したら、肝臓に生成したPBGDの量を定量するためにマウスを殺処分した。
【0108】
AIPマウスにおけるALA及びPBGの基底レベルは、オスではクレアチニン1mg当たり88±24及び16±5μg、メスではクレアチニン1mg当たり87±19及び14±8μgであった。5e12gc/kgの用量は、図8(オス)及び図9(メス)に示すように、オス(クレアチニン1mg当たり118±34及び11±4μg)、メス(クレアチニン1mg当たり52±5及び51±24μg)の両方において、前駆体ALA及びPBG中のPb効果を防止することができた。同一用量のAAV2/5−EalbAAT−ルシフェラーゼで処置された動物では、Pb注射後ALA及びPBG前駆体の高排泄が認められた(オスで、クレアチニン1mg当たり1418±659及び1184±585μg、及びメスで、クレアチニン1mg当たり295±91及び298±181μg)。
【0109】
AIPマウスにおいてPb処置により誘発された運動障害は、ロータロッド試験で測定されたように、治療ベクターで処置された動物ではほぼ完全に消散した(データは示さない)。
【0110】
AAV投与後3カ月目に、全ての動物を殺処分し、全ての動物の肝臓からPBGD酵素活性を測定した(図10)。AAV5−EalbAAT−PBGDを5e12gc/kgの用量で注射されたオスは、肝臓でPBGDを26.1±7.3pmol(URO)/mg(タンパク質)/時で発現した。かかる量は、レポーター遺伝子Lucの投与を受けたAIPマウス(2.4±0.4pmol(URO)/mg(タンパク質)/時)と比較した時には10倍、また野生型マウス(7.9±1.6pmol(URO)/mg(タンパク質)/時)のレベルについて3倍の過剰発現に相当する。5e12gc/kgの用量では、メスにおいて肝臓PBGD酵素活性に相違があることが明らかになった(18.5±6.3pmol(URO)/mg(タンパク質)/時)。
【0111】
2.5 AIPマウスにおけるAAV5を媒介としたPBGD及びcoPBGDの肝臓特異的発現
AAV2/5−PBGD又はAAV2/5−coPBGDの注射後に、AIPマウス肝臓中のPBGD発現レベルを比較することにより、AAV2/5を媒介とした肝臓形質導入を評価した。12〜25週齢に達したC57B1/6バックグラウンド内のオスAIPマウスに、AAV2/5−PBGD(n=20)、又はAAV2/5−coPBGD(n=24)として1.25e11vgに相当する総量200μlを静脈内注射した。ウイルス注射後1、2、3カ月目にマウスを殺処分し、そして肝臓ホモジネート中のPBGD酵素活性を求めるために肝臓を収集した。結果を、PBGDの平均値±SEMとして表し、Mann Whitney検定を用いて平均値間の比較を行った(図11A)。LindbergらのNature Genetics、第12巻:195〜199頁、1996年と一致して、AIPマウスは、WTマウスと比較した時に、肝臓中ではPBGD酵素活性の30%しか発現しなかった(それぞれ2.53±0.15に対して7.94±0.94pmol(URO)/mg(タンパク質)/時)。その上、AAV2/5−PBGD及びAAV2/5−coPBGD遺伝子導入後のPBGD発現レベルは、投与後の全ての時点で統計的に異なった。感染1カ月後では、AAV2/5−PBGD及びAAV2/5−coPBGDについて、それぞれ64.00±5.99に対して86.23±6.82(p=0.019)、及び感染2カ月後では、AAV2/5−PBGD及びAAV2/5−coPBGDについて、それぞれ78.98±9.69に対して111.50±10.20(p=0.038)。マウス肝臓内の酵素活性値を図11Aに示す。
【0112】
AAVベクターゲノムの半定量的PCR分析を実施した。注射後1、2、及び3カ月目にレベルを求め、図11Bに示すが、Q−PCRデータはウイルスプラスミドの量は両動物コホートで類似していたことを裏付けている。PBGD特異的抗体を用いた肝臓の免疫組織化学分析により、AAV2/5−PBGD及びAAV2/5−coPBGDに感染したマウスでは、PBGDを発現する細胞はそれぞれ17%及び21%であることが明らかとなり(図11C及びD)、実質的に類似した形質導入効率を表し、これは本試験が行われた3カ月間維持された。
【図11c】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸であって、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち少なくとも320個が配列番号1のコドンと同一である、又はヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち少なくとも305個が配列番号3のコドンと同一である、上記核酸。
【請求項2】
ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列が、Needleman及びWunschのグローバルアラインメントアルゴリズムにより決定したときに、配列番号1又は3の全長に対して少なくとも95%の同一性を有する、請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
前記ヌクレオチド配列が、配列番号2又は4のアミノ酸配列をコードする、請求項1又は2に記載の核酸。
【請求項4】
前記ヌクレオチド配列が、配列番号1又は3のヌクレオチド配列を有する、請求項3に記載の核酸。
【請求項5】
ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸構築物であって、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち少なくとも320個が配列番号1のコドンと同一である、又はヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち少なくとも305個が配列番号3のコドンと同一である、上記核酸構築物。
【請求項6】
ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列が、Needleman及びWunschのグローバルアラインメントアルゴリズムにより決定したときに、配列番号1又は3の全長に対して少なくとも95%の同一性を有する、請求項5に記載の核酸構築物。
【請求項7】
前記ヌクレオチド配列が、配列番号2又は4のアミノ酸配列をコードする、請求項5又は6に記載の核酸構築物。
【請求項8】
前記ヌクレオチド配列が、配列番号1又は3のヌクレオチド配列を有する、請求項7に記載の核酸構築物。
【請求項9】
ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列が、ヒト細胞内で発現させるためのプロモーターに作動可能に連結している、請求項5〜8のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項10】
前記プロモーターが肝臓特異的プロモーターである、請求項9に記載の核酸構築物。
【請求項11】
前記肝臓特異的プロモーターが、α1−アンチ−トリプシン(AAT)プロモーター、甲状腺ホルモン結合グロブリンプロモーター、アルブミンプロモーター、チロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーター、肝制御領域(HCR)−アポCIIハイブリッドプロモーター、HCR−hAATハイブリッドプロモーター、マウスアルブミン遺伝子エンハンサー(Ealb)エレメントと結合したAATプロモーター、及びアポリポタンパク質Eプロモーターからなる群より選択される、請求項10に記載の核酸構築物。
【請求項12】
前記プロモーターが配列番号5の配列を有する、請求項11に記載の核酸構築物。
【請求項13】
ウイルス遺伝子療法ベクター、好ましくはパルボウイルスベクターの形態である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項14】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の核酸、又は請求項5〜13のいずれか一項に記載の核酸構築物を含む、パルボウイルスビリオン。
【請求項15】
薬剤として使用するための、又は治療によるヒト又は動物の身体の処置で使用するための、請求項14に記載のパルボウイルスビリオン。
【請求項16】
ポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損によって引き起こされる状態の処置で使用するための、請求項14又は15に記載のパルボウイルスビリオン。
【請求項17】
前記状態が急性間欠性ポルフィリン症である、請求項16に記載のパルボウイルスビリオン。
【請求項18】
請求項14に記載のパルボウイルスビリオン、及び薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項19】
ポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損によって引き起こされる状態の処置で使用される薬剤の製造で使用するための、請求項14に記載のパルボウイルスビリオンの使用。
【請求項20】
ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を哺乳動物に送達するための方法であって、
a.請求項14に記載のパルボウイルスビリオン、又は請求項18に記載の医薬組成物を提供するステップと、
b.哺乳動物において治療効果をもたらすレベルでタンパク質発現させるような条件下で、前記パルボウイルスビリオンを前記哺乳動物に投与するステップとを含む、
上記方法。
【請求項21】
ポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損によって引き起こされる状態を処置する方法であって、請求項14に記載のパルボウイルスビリオン、又は請求項18に記載の医薬組成物の有効量を、ポルホビリノゲンデアミナーゼを欠損した対象に投与するステップを含み、好ましくは前記状態が急性間欠性ポルフィリン症である、上記方法。
【請求項1】
ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸であって、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち少なくとも320個が配列番号1のコドンと同一である、又はヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち少なくとも305個が配列番号3のコドンと同一である、上記核酸。
【請求項2】
ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列が、Needleman及びWunschのグローバルアラインメントアルゴリズムにより決定したときに、配列番号1又は3の全長に対して少なくとも95%の同一性を有する、請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
前記ヌクレオチド配列が、配列番号2又は4のアミノ酸配列をコードする、請求項1又は2に記載の核酸。
【請求項4】
前記ヌクレオチド配列が、配列番号1又は3のヌクレオチド配列を有する、請求項3に記載の核酸。
【請求項5】
ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を含む核酸構築物であって、ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち少なくとも320個が配列番号1のコドンと同一である、又はヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするコドンのうち少なくとも305個が配列番号3のコドンと同一である、上記核酸構築物。
【請求項6】
ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列が、Needleman及びWunschのグローバルアラインメントアルゴリズムにより決定したときに、配列番号1又は3の全長に対して少なくとも95%の同一性を有する、請求項5に記載の核酸構築物。
【請求項7】
前記ヌクレオチド配列が、配列番号2又は4のアミノ酸配列をコードする、請求項5又は6に記載の核酸構築物。
【請求項8】
前記ヌクレオチド配列が、配列番号1又は3のヌクレオチド配列を有する、請求項7に記載の核酸構築物。
【請求項9】
ヒトポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列が、ヒト細胞内で発現させるためのプロモーターに作動可能に連結している、請求項5〜8のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項10】
前記プロモーターが肝臓特異的プロモーターである、請求項9に記載の核酸構築物。
【請求項11】
前記肝臓特異的プロモーターが、α1−アンチ−トリプシン(AAT)プロモーター、甲状腺ホルモン結合グロブリンプロモーター、アルブミンプロモーター、チロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーター、肝制御領域(HCR)−アポCIIハイブリッドプロモーター、HCR−hAATハイブリッドプロモーター、マウスアルブミン遺伝子エンハンサー(Ealb)エレメントと結合したAATプロモーター、及びアポリポタンパク質Eプロモーターからなる群より選択される、請求項10に記載の核酸構築物。
【請求項12】
前記プロモーターが配列番号5の配列を有する、請求項11に記載の核酸構築物。
【請求項13】
ウイルス遺伝子療法ベクター、好ましくはパルボウイルスベクターの形態である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の核酸構築物。
【請求項14】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の核酸、又は請求項5〜13のいずれか一項に記載の核酸構築物を含む、パルボウイルスビリオン。
【請求項15】
薬剤として使用するための、又は治療によるヒト又は動物の身体の処置で使用するための、請求項14に記載のパルボウイルスビリオン。
【請求項16】
ポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損によって引き起こされる状態の処置で使用するための、請求項14又は15に記載のパルボウイルスビリオン。
【請求項17】
前記状態が急性間欠性ポルフィリン症である、請求項16に記載のパルボウイルスビリオン。
【請求項18】
請求項14に記載のパルボウイルスビリオン、及び薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項19】
ポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損によって引き起こされる状態の処置で使用される薬剤の製造で使用するための、請求項14に記載のパルボウイルスビリオンの使用。
【請求項20】
ポルホビリノゲンデアミナーゼをコードするヌクレオチド配列を哺乳動物に送達するための方法であって、
a.請求項14に記載のパルボウイルスビリオン、又は請求項18に記載の医薬組成物を提供するステップと、
b.哺乳動物において治療効果をもたらすレベルでタンパク質発現させるような条件下で、前記パルボウイルスビリオンを前記哺乳動物に投与するステップとを含む、
上記方法。
【請求項21】
ポルホビリノゲンデアミナーゼの欠損によって引き起こされる状態を処置する方法であって、請求項14に記載のパルボウイルスビリオン、又は請求項18に記載の医薬組成物の有効量を、ポルホビリノゲンデアミナーゼを欠損した対象に投与するステップを含み、好ましくは前記状態が急性間欠性ポルフィリン症である、上記方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2012−503980(P2012−503980A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−528967(P2011−528967)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【国際出願番号】PCT/NL2009/050584
【国際公開番号】WO2010/036118
【国際公開日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(511079388)アムステルダム モレキュラー セラピューティクス (エーエムティー) ビー.ブイ. (1)
【出願人】(511079414)プロイエクト デ ビオメディシーナ シーマ、エス.エル. (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【国際出願番号】PCT/NL2009/050584
【国際公開番号】WO2010/036118
【国際公開日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(511079388)アムステルダム モレキュラー セラピューティクス (エーエムティー) ビー.ブイ. (1)
【出願人】(511079414)プロイエクト デ ビオメディシーナ シーマ、エス.エル. (1)
【Fターム(参考)】
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