説明

マイクロアレイ読み取りのための再利用可能な電気装置

本発明は、マイクロアレイを電気的に読み取るための、クリーニングをして2回以上使用可能な装置に関する。このマイクロアレイ(6)の読み取り装置(1、1’、1”)は、マイクロアレイ(6)の試験面(7)を、基板(2、2’、2”)の読み取り面(4)に対して平行に設置するためのサポート手段(3、3’、3”)を有する基板(2、2’、2”)と、電気的な値または化学的な値の変化を電気的な値の変化に変換する、基板(2、2’、2”)の読み取り面(4)にマトリクス状に配置されたトランスデューサー(5、5’、5”)と、トランスデューサー(5、5’、5”)に接続されて、トランスデューサー(5、5’、5”)の電気信号を解釈する読み取り手段(10)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔発明の目的〕
本発明の主な目的は、マイクロアレイを電気的に読み取るための、クリーニングされ得て、2回以上再利用可能な装置を提供することである。
【背景技術】
【0002】
バイオチップ、つまりマイクロアレイは、1980年代末の出現以来、多数の重要な生物現象の定量的な解釈を可能にしてきた。マイクロアレイとは、平面上に小さなスポット、つまりテストポイント(数nmから数mm)を集めたものであって、多数の試験を同時に行うことを可能にし、シリアル分析システムに関する分析速度および分析能力を大幅に増加させる。
【0003】
これらの素子は、複雑な生物試料の、タンパク質の含有量、タンパク質間相互作用、タンパク質とDNAとの相互作用、タンパク質と配位子との相互作用、DNAの変異の存在、遺伝子の発現パターンなどを分析できるように設計される。
【0004】
抗体を認識素子として利用するマイクロアレイには、サンドイッチ式試験、競合式試験、および逆相式試験という異なるタイプの試験に基づくものがある。サンドイッチ式試験では、分析物が支持体に固定された抗体によって捕獲され、標識した別の抗体を用いて定量化される。競合式試験では、分析物の複製物が支持体の表面のスポットに固定され、この分析物の定量化が、分析対象となる試料の存在下で該スポットに結合する、標識した抗体に基づいて間接的に実施される。逆相式試験では、試料が支持体の表面に直接吸着され、分析物が標識した抗体によって認識される。
【0005】
これらすべての試験において、定量化は、抗体に結合する標識の検出を通じて実施される。DNAチップの場合、標識は、分析されるDNA断片またはRNA断片に結合している。標識は、光学性の標識(蛍光性分子、量子点、生成物を形成すると沈殿する酵素)であってもよく、放射性の標識(放射性同位元素)、または電気化学性の標識(生成物を形成すると、電気活性を有するまたは電気活性を有するナノ粒子となる酵素)であってもよい。
【0006】
この最後のタイプの標識が、広く使用されている蛍光性の標識に比べて、純粋に電気的なことから、より小型で、高性能で、しかも安価な読み取器具の使用ができるという点で優れている。
【0007】
このタイプの読み取り方法を使用する製品は、例えばCOMBIMATRIX社のElectrasense読み取り装置(国際特許出願公開第2008051196号明細書)などが市販されている。Nanoident Technologies社も、試験が実施される同一支持体上に印刷された、マトリクス状に配置された有機光ダイオードに基づいて、電気的にマイクロアレイを読み取る小型システムを販売している(国際特許出願公開第2006026796号明細書)。
【0008】
ただし、マイクロアレイ使用を、必要とされている場所(病院やプライマリケアセンターの患者のベッドの隣り)にまで拡大するためには、読み取り器具は、コスト、性能、簡便性、およびサイズの点について改善されなければならない。このような分析器具は、基本的に、試験を実施するマイクロアレイと、試験結果を読み取る装置との、2つの別々の部分からなる。
【0009】
上記システムでは、ロボットアームといった他の補完的な装置を設ける場合もある。上記ロボットアームは、試験を自動的に実施するために、認識部材または試料を、スポット上またはマイクロアレイの測定点上(スポッター)に載置、または液状かつ反応性を有する成分を含む素子を載置するためのものである。
【0010】
電気式読み取り装置は、他の方式の装置に比べて高性能、簡素、かつ小型である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記装置は、マトリクス状に配置された素子(電極または光ダイオード)を支持体自身の上に形成する必要があり、試験を実施するたびに、新しい支持体を使用し、使用済みの支持体を破棄しなければならないという短所がある。その上、上記支持体は、電気式トランスデューサーなどを備えていなければならないので、光学システムにおいて通常使用する、機能性を持たせたガラスまたはプラスチックからなる単純な支持体に比べて、複雑で高価な素子である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、酵素標識によって標識化された表面と化学的基質とが接触したときに起こる酵素反応の生成物の蓄積を、電気化学的に測定(電流測定、電位差測定、またはインピーダンス測定)した結果に基づく、再利用可能で電気式の、マイクロアレイの読み取り装置について記載する。
【0013】
上記読み取り装置の新規性は、読み取り装置を再利用して所望に応じて何度でも分析が実施できるように、測定を実施する役割を負うトランスデューサーが、マイクロアレイの支持体とは異なる基板上に配置されている点にある。
【0014】
また、上記読み取り装置は、公知の光学システムによって使用される低コストの支持体を用いて作動する。この読み取り装置を使用するための唯一の要件は、使用する酵素標識が、酵素標識に対応する化学的基質と反応するときに、トランスデューサーによって検出可能な生成物、つまり、反応が起こる培地の電気的な性質または化学的な性質を変化させる生成物を形成しなければならないことである。それゆえ、本発明のトランスデューサーは、培地の電気的な特性の大きさまたは化学的な特性の大きさを電気的な特性の大きさに変換するものである。
【0015】
インピーダンス測定用トランスデューサーの場合、化学的基質は、酵素反応が起こると帯電種の濃度が変化し、したがって、培地の導電率が変化するように、生成物の総電荷量とは異なる総電荷量を有する化学種でなければならない。この一例としては、ウレアーゼ酵素があげられる。ウレアーゼ酵素は、尿素(非帯電)と反応すると、アンモニアおよび二酸化炭素を生成する。このアンモニアはすぐにプロトン化されて、(プラスに帯電した)アンモニウムイオンを発生させる。一方、二酸化炭素は、部分的に(マイナスに帯電した)炭酸水素塩に変換される。
【0016】
電流測定用トランスデューサーの場合、酵素反応は、電気活性を有する種を生成しなければならない。この一例としては、アルカリホスファターゼ酵素があげられる。アルカリホスファターゼ酵素は、p−アミノフェニルリン酸の存在下でp−アミノフェノールを生成する。P−アミノフェノールは、200mV未満の電圧で酸化され、p−キノンイミンを発生させる。上記酵素/基質システムは、レドックスサイクルの利用を可能にするこの上記p−キノンイミンは、次に、−200mV未満の電圧にて還元され得、再び、p−アミノフェノールを発生させる。
【0017】
電位差測定用トランスデューサーの場合、酵素反応は、このトランスデューサーによって検出可能なイオンを生成しなければならない。もっとも単純な場合としては、pH値を変化させる酵素が考えられる。
【0018】
本明細書では、マイクロアレイは、平坦な支持体によって形成されることに言及する。上記平坦な支持体では、複数存在する各表面(「試験面」と呼ぶ)のうちの一つの表面において、酵素標識を有するスポットをマトリクス状に備えている。この平坦な支持体は、通常他のタイプの読み取り器具(例えば光学式読み取り器具)と共に使用される、何れの支持体であってもよく、例えば、ガラスやプラスチックなどの材料で作製可能なものである。
【0019】
したがって、本発明の第1の態様では、下記の各素子を備えた、電気式の、再利用可能なマイクロアレイ読み取り装置について記載する。
【0020】
1)マイクロアレイの試験面を、基板の読み取り面に平行に設置するためのサポート手段を有する基板。
【0021】
この基板のサポート手段は、マイクロアレイの試験面が、基板の読み取り面に平行に設置されるようなものでなければならない。また、2つの面と面との間の距離は、水性培地の液滴を同時に両方の面に触れさせ、こうすることによって水性培地中に存在する化学的基質とマイクロアレイのスポットの酵素標識とを接触させ、こうすることによって化学反応を起こさせて水性培地の電気的な性質または化学的な性質に影響を与える生成物を形成することができるような距離でなければならない。
【0022】
2)電気的な特性の大きさまたは化学的な特性の大きさの変化を電気的な特性の大きさの変化に変換する、基板の読み取り面にマトリクス状に配置されたトランスデューサー。
【0023】
上記トランスデューサーは基板の読み取り面に固定されて、マトリクスを形成している。このマトリクスは、マイクロアレイがサポート手段に設置されると各トランスデューサーがスポットに対向するように形成される。
【0024】
読み取りを実施するためには、対応する化学的基質を含有する水性培地の液滴を、各トランスデューサーと、トランスデューサーに対向して配置された対応するスポットとの間に導入しなければならない。この水性培地の液滴は、同じサイズを有し、かつ、互いに触れない限り、任意の様式で形成されてもかまわない。例えば、マイクロピペット型またはスポッター型の器具を使用すればよい。ただし、本発明の好適な実施形態では、本発明のマイクロアレイ読み取り装置は、水性培地の液滴を導入するための手段を備えている。
【0025】
好ましくは、上記水性培地の液滴を導入するための手段は、マイクロアレイ読み取り装置自身に組み入れられ、読み取り面とは逆の基板の面に結合された水性培地のタンクと、装置自身の基板中にマトリクス状に配置されたマイクロチャネルとを有している。各マイクロチャネルは、水性培地のタンクを各トランスデューサーが配置されている点に接続する。この接続により、タンクにかかる圧力を調整することによって水性培地の制御注入を実現し、こうすることによって各トランスデューサー上に一様な容積の液滴を形成できる。また、水性培地のタンクは、水性培地の入口および出口を有しており、異なる液体が、この出入口を使って注入可能である。
【0026】
別の好適な実施形態では、水性培地の液滴を導入するための手段は、水性培地のタンクと、このタンクの複数ある壁のうちの一つの壁の中にマトリクス状に配置されたマイクロチャネルとを有するアプリケーターである。直前の段落において記載した水性培地の液滴を導入するための手段の場合と同様に、アプリケーターを基板の読み取り面に正確に設置し、タンクにかかる圧力を調整することによって、液体が、所望の容積の液滴が形成されるまで、各トランスデューサー上に注入される。
【0027】
これは、単一の液滴を直接形成することによって、または、インクジェットプリンタ(ink injection printer)と同様のメカニズムを使って多数の小液滴をマイクロチャネルのノズルから排出して積み重ねて、トランスデューサー上で結合する際に液滴を形成することによって可能である。基板に組み込まれていないアプリケーターであるので、該手段は、各マイクロチャネルがトランスデューサーに対向するように配置されなければならない。この目的を達成するために、マイクロアレイを設置するために使用されるのと同じサポート手段が使用可能である。
【0028】
3)トランスデューサーに接続されて、トランスデューサーの電気信号を解釈する読み取り手段。
【0029】
酵素によって標識されたマイクロアレイのスポットに上記液滴が一旦接触すると、上記酵素反応が起こる。酵素標識の濃度が比較的高いスポットでは、トランスデューサーは、比較的大きな生成物の濃度変化を測定する。液滴は互いに分離されているので、マトリクスの異なる点同士で干渉を起こさずに、上記容積内において各生成物が蓄積する。
【0030】
したがって、トランスデューサーが形成するマトリクスは、各トランスデューサーによって生成される信号を取得および処理できる電子測定回路に接続される。この測定は、液滴がスポットに接触した後、または接触している間に実施されてもよい。接触している間に実施する場合、酵素反応のダイナミックスを測定することができ、より多くの分析情報が提供できる。例えば、この場合、生成物の濃度の変遷が飽和値に到する前に検出可能であるので、ダイナミックレンジが広くなる。
【0031】
本発明の第2の態様では、上記読み取り装置を使ってマイクロアレイを読み取る、下記のステップを含む電気的なプロセスについて記載する。
【0032】
a)マイクロアレイのスポットを水性培地の液滴に接触させて、液滴を形成する水性培地の電気的な性質または化学的な性質を変化させる化学反応を各液滴において起こさせるステップ。
【0033】
このステップは、異なる2つの様式で実施可能である。ある特定の実施形態では、まず、水性培地の液滴がトランスデューサー上に形成され、つづいて、サポート手段を利用して、マイクロアレイが、基板の読み取り面に平行に、かつ、各スポットがトランスデューサーに対向し、水性培地の液滴がスポットとトランスデューサーとの両方に触れるような距離に、設置される。
【0034】
別の特定の実施形態では、まず、サポート手段にマイクロアレイを設置した後、水性培地を、十分に大きなサイズの液滴が形成されて、各液滴が同時にトランスデューサーとトランスデューサーに対向するスポットとに接触するまで、トランスデューサー上に注入することができる。
【0035】
b)該液滴を形成する水性培地の電気的な性質または化学的な性質の変化に応じて各トランスデューサーのそれぞれによって生成される電気信号を、読み取り手段を使って読み取るステップ。
【0036】
酵素によって標識されたスポットに水性培地の液滴が一旦接触すると、上記水性培地を含有する化学的基質とスポットの酵素標識との間で化学反応が始まる。この反応の結果、該液滴を形成する水性培地の電気的な性質または化学的な性質を変化させる生成物が形成される。つづいて実施される読み取りステップは、マトリクス状に配置されたすべてのトランスデューサー上で同時に実施しても、または、列単位にて、行単位にて、または一つずつ順にて実施可能である。
【0037】
c)装置の読み取り面をクリーニングし、この読み取り面を、新しい試験を実施するために再利用するステップ。
【0038】
読み取りが実施された後、新しい読み取りが実施されるまでに、トランスデューサーと、装置の基板の読み取り面とをクリーニングし、酵素反応の生成物またはマイクロアレイから分離した酵素を、たとえわずかであってもすべて除去することは重要である。この点において、クリーニング溶液は、酵素反応の生成物を溶解し、酵素を変性させて活性を完全に喪失させることができなければならない。クリーニングは、脱イオン水中で洗浄することによって、完了させることができる。
【0039】
クリーニングは、従来技術または本発明の特定の実施形態にしたがって、生成される水性培地の液滴を吸引し、つづいて水性培地の液滴を導入するための手段を使ってクリーニング溶液を注入することによって実施可能である。上記プロセスのこのステップを実施するために、水性培地の液滴を導入するための手段は、マイクロチャネルが接続されるタンクに負の圧力をかけ、十分なクリーニング溶液をタンクの水性培地で置換することができなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
本記載を補完するために、また、本発明の特徴のより良い理解の一助とすることを目的として、本発明の実施形態の好適な例にしたがって、1組の図面が本記載の重要な一部として含められる。以下の記載は、具体的な例示として提示されるものであり、いかなる限定も加えるものではない。
【図1】平坦な支持体を有するマイクロアレイの概略斜視図であり、互いに異なる各種構成部材を図示している。
【図2】本発明に係るマイクロアレイを読み取るための電気装置の概略斜視図である。
【図3】水性培地の液滴を導入するための手段の特定の1つの実施形態を示す断面図である。
【図4】水性培地の液滴を導入するための手段の特定の他の1つの実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明の特定の実施形態にしたがってマイクロアレイを電気的に読み取るプロセスの第1の動作ステップの一部を示す断面図である。
【図6】本発明の特定の実施形態にしたがってマイクロアレイを電気的に読み取るプロセスの第1の動作ステップの他の部分を示す断面図である。
【図7】本発明に係る読み取り手段の特定の実施形態を示す回路ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、酵素標識によって標識された複数の測定点またはスポット(8)のマトリクスが、試験面(7)上に配置されて有する平坦な支持体(9)によって形成されたマイクロアレイ(6)を示している。
【0042】
図2は、本発明に係るマイクロアレイ読み取り装置(1)の概略図を示している。図2から、この読み取り装置(1)は、水性培地の電気的な性質または化学的な性質の変化に反応するトランスデューサー(5)がマトリクス状に配置された読み取り面(4)を有する基板(2)によって形成されていることが分かる。
【0043】
上記例示の再利用可能な電気式のマイクロアレイ読み取り装置(1)は、基板(2)の両端部上に、マイクロアレイ(6)を支持するように機能するサポート手段(3)をさらに備えている。このサポート手段(3)は、該マトリクスの各スポット(8)がトランスデューサー(5)に対向するように、マイクロアレイ(6)を支持する。この例示では、サポート手段(3)は、読み取りプロセス中にマイクロアレイ(6)に対して支持部として機能する縁部を基本的に備えている。図示はしないが、図7の読み取り手段(10)は、読み取り面(4)とは反対面に設置されている。
【0044】
基板(2)およびマトリクス状に配置されたトランスデューサー(5)とは、直径100mmのパイレックス(登録商標)タイプのガラス製ウエハから製造される。プロセスは、チタン、ニッケル、および金の金属三重層を積層させることから開始される(パイレックスの上にチタンが20nmの層厚で積層され、このチタンの上にニッケルが50nmの層厚で積層され、このニッケルの上に金が50nmの層厚で積層される)。これら3種類の金属は、陰極噴霧法(cathode spraying)によって積層される。
【0045】
つぎに、標準的なフォトリソグラフィー処理が、マトリクス状に配置され、互いに相対して向き合うクシ状の電極対を規定するためのパターンを有するテンプレートを用いて実施される。互いに相対して向き合うクシ状の各電極の各対は、幅が20μmの各クシ状歯部を14個(各電極について7個ずつ)有している。クシ状歯とクシ状歯との間は20μmの間隔が設けられており、互いに相対して向き合う領域の長さは500μmである。
【0046】
同じテンプレートを使用して、各電極をプリント回路にワイヤーボンディングによって接続するための領域を規定する、各電極からチップのエッジまで延びる接続トラックを規定する。トランスデューサーは4個×9個が6mm間隔で並び、矩形のマトリクスを形成している。ここに記載したようなトランスデューサー(5)のマトリクスは、2つが100mmのウエハにちょうど収まる。
【0047】
フォトリソグラフィーに続いて、異なるアタック溶液(attack solution)を使って、金属アタック(attack)が実施される。金の場合であれば、5,700mlのH2Oと、435gのKIと、250gのI2との混合物が使用される。ニッケルの場合であれば、1:4のHNO3:H2Oの混合物が70%で使用される。チタンの場合であれば、1:10:33の49%HF:H2O:1.2−プロパンジオールの混合物が使用される。
【0048】
ウエハ上に電極が規定されると、ウエハは、パワーこぎりに通されて、トランスデューサー(5)からなる2つのマトリクスを切り離す。このマトリクスは、ワイヤーボンディングによる接続に必要な領域が規定された、電極を各種機器に電気的に接続するためのコネクタが設けられているプリント回路に接合される。電極にワイヤーボンディングを施した後、ワイヤーは、熱硬化性重合体(Epotek H77)を用いて保護される。サポート手段(3)は、成型済みポリジメチルシロキサン(polydimethylsyloxane)を材料として製造され、酸素プラズマ活性化を用いてトランスデューサーのマトリクスに溶接される。
【0049】
図3および図4は、水性培地を導入するための手段の2つの好適な実施形態をそれぞれ示している。図3では、該手段は、基板(2’)に組み込まれている。この組み込みの結果、読み取り面(4)とは逆の面に形成された水性培地(11’)のタンクは、基板(2’)を貫通するマトリクス状に配置されたマイクロチャネル(12’)を介して、水性培地を、各トランスデューサー(5’)が配置されている場所まで注入する。この例では、トランスデューサー(5’)は、上記各マイクロチャネルのノズルが設置される、中央の開口部を有している。
【0050】
図4では、水性培地を導入するための手段は、トランスデューサー(5’)上に注入される水性培地が通過するマイクロチャネル(12’)が設けられた、水性培地のタンク(11’)の複数ある各壁の内における一つの壁に形成されたアプリケーターからなる。各マイクロチャネルをトランスデューサー(5’)に対向する位置に設置するために、サポート手段(3”)は、水性培地のアプリケーターが設置される第2の縁をさらに備えている。
【0051】
図5および図6は、本発明のプロセスの好適な実施形態の複数のステップを示している。特に図5は、水性培地の液滴を各トランスデューサー(5)を覆うように注入するステップをすでに実施済みの、マイクロアレイ(6)および読み取り装置(1)を示している。マイクロアレイ(6)は、図6に示す時点において、サポート手段(3)上に設置する準備がすでにできている。この状態では、水性培地の液滴がそれぞれ、すでにスポット(8)接触しており、したがって、酵素標識と基質との間の化学反応が始まっている。
【0052】
最後に、図7は、酵素標識と化学的基質との間の化学反応の生成物が、液滴の水性培地のインピーダンスを変化させる場合の、測定装置を示している。この装置は、交流電圧の電源(15)および交流測定回路(16)を備えている。交流測定回路(16)を、組み合わせて使用すると、互いに相対して向き合う各電極(17)の端子において観察されるインピーダンスが測定できる。
【0053】
本図では、電源(15)および測定回路(16)が、電極(17)に接続されていることが分かる。また、同図から、インピーダンス測定用トランスデューサーを用いることによって、行と列からなるタイプの接続が可能なることが分かる。こうすることによって、多数の素子からなるマトリクスが製造しやすくなる。例えば、1,024個の素子からなるマトリクスの場合、必要とされるのは、励起用の32個の交流電源(15)および32個の電流測定回路(16)だけである。実際には、適切に多重化すれば、1つの励起用の電源(15)と1つの電流測定回路(16)で十分である。
【0054】
マトリクスをなす素子が非常に多い場合、多数のワイヤーボンディングも必要になる。この問題を解決するためには、図7に示すように、金属二重層に基づく製造技術を使用して、電極(17)をウエハレベルで行と列とに接続すればよい。こうすることによって、マトリクス状に配置されたトランスデューサー(n個×m個)を封入するために必要なワイヤーボンディングの個数は、(n個+m個)ですむ。
【0055】
ここに記載した例では、電源は、NI USB−6259型カード(National Instruments社製造)のアナログ式出力である。本例において、電流測定回路(16)は、100kΩの精密抵抗器を備えたAD8674型オペアンプを用いて実現されている。このオペアンプの出力電圧値は、上述のカードのアナログ入力によって記録される。プログラムLabViewを用いて、取得処理を制御し、取得した信号を処理し、読み取り時間中のトランスデューサー(5)のインピーダンス値を求める。
【0056】
この取得処理は、以下の順で実行される。まず、最初に、振幅が50mV、周波数が2kHzの交流電圧を25ms印加することによって、1列のトランスデューサー(5)を励起する。他の電源(15)は0Vのままである。この間に、各トランスデューサー(5)のカラムに接続されたアナログ入力を利用して、信号が取得される。つぎに、次列以下について同様に処理し、すべてのトランスデューサーの列を読み取る。
【0057】
以下においては、インピーダンス測定用トランスデューサー(5)に基づいて、再利用可能なマイクロアレイ(6)電気式読み取り装置(1)を用いて、ウレアーゼを酵素標識として使用するマイクロアレイ(6)において結果を測定する例を記載する。
【0058】
ウレアーゼは、尿素(非帯電)の存在下で、アンモニアおよび二酸化炭素を生成する。このアンモニアはすぐにプロトン化されて、(プラスに帯電した)アンモニウムイオンを発生させる。一方、二酸化炭素は、実際に(マイナスに帯電した)炭酸水素塩に変換される。したがって、この酵素反応は、もとのバッファの導電率を上昇させる。もとのバッファは、0.1Mの尿素および0.25Mのグリシンの水溶液によって形成されており、導電率は約16μS/cmである。
【0059】
この例では、体積1μlのバッファ液滴を、トランスデューサー(5)上に、マイクロピペットを使って手動で配置した。マイクロアレイを準備する際には、検出する標準分析物としてウサギの免疫グロブリンGを用い、また、逆相式試験を導入した。逆相式試験は、上記標準分析物の原液の連続的な希釈物を調製することからなる試験であった。
【0060】
調製した各希釈物の微小液滴(容積1μl)を、マイクロアレイ(6)(前もってシラン処理を施したガラス製スライド)の支持体(9)上に配置した。分析物を固定化した後、マイクロアレイ(6)を、ヤギの抗体およびウレアーゼで標識されたウサギの抗免疫グロブリンGの溶液で、1時間インキュベーションした。この1時間のインキュベーションの間に、特定の相互作用が上記分析物と標識された抗体との間で起きた。
【0061】
マイクロアレイ(6)を脱イオン水でクリーニングして、窒素流において乾燥させた後、マトリクス状に配置されたインピーダンス測定用トランスデューサー(5)を用いて、マイクロアレイ(6)を読み取った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素標識を有するスポット(8)がマトリクス状に配置された試験面(7)を有する平坦な支持体(9)を備えたマイクロアレイ(6)を読み取るための、電気式の、再利用可能な装置(1、1’、1”)であって、
マイクロアレイ(6)の試験面(7)を、基板(2、2’、2”)の読み取り面(4)に対して平行に設置するためのサポート手段(3、3’、3”)を有する基板(2、2’、2”)と、
電気的な特性の大きさまたは化学的な特性の大きさの変化を、電気的な特性の大きさの変化に変換する、基板(2、2’、2”)の読み取り面(4)にマトリクス状に配置されたトランスデューサー(5、5’、5”)と、
トランスデューサー(5、5’、5”)に接続されて、トランスデューサー(5、5’、5”)の電気信号を解釈する読み取り手段(10)とを備えていることを特徴とする、装置(1、1’、1”)。
【請求項2】
上記基板(2、2’、2”)およびマトリクス状に配置されたトランスデューサー(5、5’、5”)が、パイレックスタイプのガラス製ウエハから製造されていることを特徴とする、請求項1に記載のマイクロアレイ(6)を電気的に読み取るための装置(1、1’、1”)。
【請求項3】
上記トランスデューサー(5、5’、5”)が、インピーダンス測定用トランスデューサー、電流測定用トランスデューサー、および電位差測定用トランスデューサーから選択されることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか一項に記載のマイクロアレイ(6)を電気的に読み取るための装置(1、1’、1”)。
【請求項4】
上記読み取り手段(10)が、トランスデューサー(5、5’、5”)によって生成される電気信号を取得および処理するように構成された電子回路を有していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のマイクロアレイ(6)を電気的に読み取るための装置(1、1’、1”)。
【請求項5】
水性培地の液滴を導入し、水性培地の液滴を各トランスデューサー(5、5’、5”)上に形成するための導入手段をさらに備えていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のマイクロアレイ(6)を電気的に読み取るための装置(1、1’、1”)。
【請求項6】
上記導入手段が、水性培地(11”)のタンクと、このタンクの複数ある壁のうちの一つの壁の中にマトリクス状に配置されたマイクロチャネル(12”)とを有するアプリケーターとを含むことを特徴とする、請求項5に記載のマイクロアレイ(6)を電気的に読み取るための装置(1”)。
【請求項7】
上記導入手段が、読み取り面(4)とは半対面の基板(2’)の面に隣り合って設置された水性培地(11’)のタンクと、基板(2’)の中にマトリクス状に配置されたマイクロチャネル(12’)とを有していることを特徴とする、請求項5に記載のマイクロアレイ(6)を電気的に読み取るための装置(1”)。
【請求項8】
上記マイクロチャネル(12’)が、トランスデューサー(5’)の中央の開口部に配置されたノズルを有していることを特徴とする、請求項7に記載のマイクロアレイ(6)を電気的に読み取るための装置(1’)。
【請求項9】
酵素標識を有するスポット(8)がマトリクス状に配置された試験面(7)を有する平坦な支持体(9)を備えたマイクロアレイ(6)を読み取るプロセスであって、読み取り装置(1、1’、1”)が基板(2、2’、2”)を備え、基板(2、2’、2”)の読み取り面(4)の上には、電気的な性質または化学的な性質の変化を電気的な性質の変化に変換するトランスデューサー(5、5’、5”)がマトリクス状に配置されており、
上記プロセスは、
各スポット(8)がトランスデューサー(5、5’、5”)に対向して配置され、水性培地の液滴がスポット(8)とトランスデューサー(5、5’、5”)との両方に接触するように、基板(2、2’、2”)の読み取り面(4)を、マイクロアレイ(6)の試験面(8)に平行に設置するステップと、
該液滴を形成する水性培地の電気的な性質または化学的な性質の変化に応じて各トランスデューサー(5、5’、5”)によって生成される電気信号を、読み取り手段(10)を使って読み取るステップと、
上記装置(1)の上記読み取り面(4)を再利用して新たな読み取りに用いるために、上記読み取り面(4)をクリーニングするステップと、を含むことを特徴とするプロセス。
【請求項10】
上記水性培地の液滴が、マイクロアレイ(6)のスポット(8)をトランスデューサー(5、5’、5”)に結合させる前に添加されることを特徴とする、請求項9に記載のマイクロアレイ(6)を読み取るためのプロセス。
【請求項11】
上記水性培地の液滴が、マイクロアレイ(6)のスポット(8)をトランスデューサー(5、5’、5”)に結合させた後に添加されることを特徴とする、請求項9に記載の、マイクロアレイ(6)を読み取るためのプロセス。
【請求項12】
上記読み取りステップは、水性培地の各液滴がそれぞれスポット(8)およびトランスデューサー(5、5’、5”)に接触している間に実施されることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか一項に記載のマイクロアレイ(6)を読み取るためのプロセス。
【請求項13】
上記読み取りステップは、水性培地の液滴がスポットに接触してから所定の期間が経過した後に、1回だけ実施されることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか一項に記載のマイクロアレイ(6)を読み取るためのプロセス。
【請求項14】
上記読み取り装置(1、1’、1”)のクリーニングステップは、水性培地の液滴を導入するステップによってクリーニング溶液を注入して実施されることを特徴とする、請求項9〜13のいずれか一項に記載の、マイクロアレイ(6)を読み取るためのプロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−527427(P2011−527427A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517182(P2011−517182)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【国際出願番号】PCT/ES2009/070278
【国際公開番号】WO2010/004075
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(511000083)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS(CSIC)
【住所又は居所原語表記】C/Serrano,117,E−28006 Madrid,Spain
【Fターム(参考)】