マイクロカプセルの製造方法
【課題】皮膜が緻密なマイクロカプセルを、水溶液中の反応のみで容易に製造する方法を提供する。
【解決手段】カルボキシル基を有する水溶性多糖類を含む第1の水溶液と、アミノ基を有するシラン化合物を含む第2の水溶液とを準備する工程、及び、第1の水溶液と第2の水溶液とを接触させてマイクロカプセルを生成する工程、を有するマイクロカプセルの製造方法。なお、前記の接触は、第2の水溶液に第1の水溶液を加えて行ってもよいし、第1の水溶液に第2の水溶液を加えて行ってもよい。
【解決手段】カルボキシル基を有する水溶性多糖類を含む第1の水溶液と、アミノ基を有するシラン化合物を含む第2の水溶液とを準備する工程、及び、第1の水溶液と第2の水溶液とを接触させてマイクロカプセルを生成する工程、を有するマイクロカプセルの製造方法。なお、前記の接触は、第2の水溶液に第1の水溶液を加えて行ってもよいし、第1の水溶液に第2の水溶液を加えて行ってもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロカプセルは、直径が数μmから数千μmの微小なカプセルであり、芯液とそれを覆う皮膜とで構成される。マイクロカプセルを構成する皮膜は、芯液を外部環境から保護することができるとともに、その皮膜を構成する物質(以下、「皮膜材物質」ともいう。)の種類や膜厚を調製することによって、芯液に含まれる物質の外部への放出時期をコントロールすることもできる。そのため、マイクロカプセルは様々な用途に用いられている。
【0003】
例えば、マイクロカプセルは、酵素、細胞又は微生物等の生体触媒の固定化担体として用いられている。生体触媒は、通常、触媒反応後の溶液中から回収して再び用いることが難しいが、生体触媒をマイクロカプセルの内部に固定化することで、その生体触媒を触媒反応後の溶液中から回収して再び用いることができる。ここで、「固定化する」とは、マイクロカプセルの内部に生体触媒を封じ込めることをいう。
【0004】
生体触媒が固定化されたマイクロカプセルの製造方法として、非特許文献1等では、生体触媒を添加した多糖類水溶液を架橋剤水溶液に滴下する方法が用いられている。この方法によれば、滴下された液滴の表面に含まれる多糖類が、架橋剤に接してゲル化されて皮膜(以下、「多糖類ゲル皮膜」という。)を形成し、その内部に生体触媒が固定化されたマイクロカプセルを容易に得ることができる。この方法では、塩化カルシウム等の二価金属イオンを含む化合物が架橋剤として用いられている。
【0005】
しかしながら、二価金属イオンによって架橋された多糖類ゲル皮膜は、酵素等のサイズが小さい生体触媒は皮膜の細孔から漏出して固定化できない場合がある。
【0006】
特許文献1には、多糖類であるアルギン酸をゲル化するときに微生物や酵素等の一部が固化用液に漏出するという問題を解決できるとする固定化技術が提案されている。この技術は、自重の数十倍から数百倍の水を速やかに吸水してヒドロゲルとなる性質を有する高吸水性材を、微生物や酵素等の生体触媒の懸濁液に添加した後、さらにアルギン酸のゲルの内部に固定化するというものである。この技術によれば、微生物や酵素等の生体触媒を高収率及び高密度で固定化できるとされている。
【0007】
また、マイクロカプセルの皮膜の表面にコーティングを施して、その皮膜の強度や生体触媒の固定化収率を高める試みがなされている。
【0008】
非特許文献1には、マイクロカプセルの表面にシリカ皮膜をコーティングする技術が提案されている。この技術は、シリコンアルコキシドの気流下で、アルギン酸溶液を塩化カルシウム溶液に滴下することで、マイクロカプセルの表面にシリカ皮膜をコーティングするというものである。この技術によれば、機械的強度や化学的耐久性が優れているマイクロカプセルができるとされている。非特許文献2には、アルギン酸ゲルを皮膜とするマイクロカプセルの表面にコーティングしたポリリジンを介して、その表面にケイ酸ナトリウムを析出させるという技術が提案されている。この技術によれば、機械抵抗及び酵素の固定化率を改良できるとされている。
【0009】
また、非特許文献3には、人工膵臓細胞を固定化するマイクロカプセルの製造方法が提案されている。この技術は、アルギン酸ゲルの皮膜を有するマイクロカプセルを、シラン化合物を含む有機溶剤中に入れて攪拌して、そのマイクロカプセルの皮膜表面にシラン化合物を含む薄膜層を形成し、そのマイクロカプセルをさらにアルギン酸ナトリウム水溶液中に入れて攪拌して、皮膜表面にアルギン酸ゲルをさらにコーティングするというものである。この技術によれば、化学的及び機械的強度が高く、良好な孔隙率を有するマイクロカプセルとすることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−098689号公報(第0003、0004段落)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Boninsega, R.D.Toso and R.D.Monte, J.Sol-Gel Sci.Technol., 26, p.1151-1157(2003).
【非特許文献2】T.Coradin, E.Mercey, L.Lisnard and J.Livage,Chem.Commun., p.2496-2497(2001).
【非特許文献3】S.Sakai, T.Ono, H.Iijima and K.Kawakami, J.Sol-Gel Sci.Technol., 28, p.267-272(2003).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
シラン化合物は、通常、大量の水に接触すると加水分解及び重縮合が進行して固形物として析出してしまう。そのため、マイクロカプセルの皮膜にシラン化合物を含む層を形成する場合は、通常、非特許文献3に記載されているように、予め水溶液中でマイクロカプセルを製造しておき、その後、有機溶剤を用いてその皮膜表面にシラン化合物の層を形成する。この場合、最初のマイクロカプセルは、皮膜が二価金属イオンで架橋されたアルギン酸ゲルからなるので、酵素の固定化担体として用いると、従来のマイクロカプセルと同様、そのマイクロカプセルを製造する段階で酵素等が漏れ出してしまうおそれがある。また、この方法では、水系と有機溶剤系との反応を別個に行わなければならず、作業工程が煩雑になる。
【0013】
また、特許文献1に記載されている生体触媒の固定化方法では、生体触媒を高吸収性材に吸収させてヒドロゲル状にした状態で、さらにアルギン酸ゲルによってマイクロカプセルを製造している。そのため、作業工程が煩雑になるおそれがある。非特許文献1に記載されている方法も、シリコンアルコキシドの気流下でアルギン酸溶液を塩化カルシウム溶液に滴下するため、装置が大型化してしまい、作業工程が煩雑になってしまう。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、皮膜が緻密なマイクロカプセルを、水溶液中の反応のみで容易に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
シラン化合物は、上述のように、通常、大量の水に接触すると加水分解及び重縮合が進行して固形物として析出してしまうが、アミノ基を有するシラン化合物は、水に溶けて安定に存在する。そこで、本発明者は、アミノ基を有するシラン化合物を用いてマイクロカプセルを製造することができれば、緻密な皮膜を有したマイクロカプセルを水溶液中の反応のみで製造することができると考え、鋭意研究を重ねた。その過程で、アミノ基を有するシラン化合物自体が、水溶性多糖類を架橋してゲル化することができることを見出し、シラン化合物を架橋剤として用いてマイクロカプセルを生成できることを見出した。
【0016】
本発明者はさらに研究を進め、水溶性多糖類を含む水溶液と、アミノ基を有するシラン化合物を含む水溶液とを接触させるという1工程だけで、皮膜が緻密なマイクロカプセルを容易に製造することができることを見出した。
【0017】
上記課題を解決するための本発明に係るマイクロカプセルの製造方法は、カルボキシル基を有する水溶性多糖類を含む第1の水溶液と、アミノ基を有するシラン化合物を含む第2の水溶液とを準備する工程、及び、前記第1の水溶液と前記第2の水溶液とを接触させてマイクロカプセルを生成する工程、を有することを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、アミノ基を有するシラン化合物が架橋剤として作用して、カルボキシル基を含む水溶性多糖類をゲル化して皮膜を形成するので、マイクロカプセルを水溶液中の反応のみで容易に製造することができる。シラン化合物が架橋剤として作用するメカニズムは現段階では明らかではないが、おそらく、図2に示すように、シラン化合物のアミノ基と水溶性多糖類のカルボキシル基とが静電相互作用で結合するとともに、シラン化合物同士が重縮合してシロキサンポリマーを形成していると考えられる。その結果、得られるマイクロカプセルの皮膜は、多糖類ゲルとシロキサンポリマーとの複合膜となって、多糖類ゲルの細孔をシロキサンポリマーが埋めるようにして、緻密な皮膜を形成すると推定される。
【0019】
皮膜が緻密であるか否かは、例えば、マイクロカプセルの内部に酵素を固定化した場合に、酵素が漏出する割合が大きいか否かで評価することができる。また、酵素が漏出する割合が大きいか否かは、酵素の固定化収率によって評価することができる。酵素の固定化収率が高い場合は、酵素の漏れが少なく、マイクロカプセルの皮膜が緻密であることが分かる。酵素の固定化収率が低い場合は、酵素の漏れが多く、マイクロカプセルの皮膜が緻密でないことが分かる。このマイクロカプセルの内部に酵素を固定化すると、高い固定化収率で酵素を固定化できるので、酵素の漏れが少なく、皮膜が緻密なマイクロカプセルであることがわかる。
【0020】
本発明に係るマイクロカプセルの製造方法において、前記接触を、前記第2の水溶液に前記第1の水溶液を加えて行う。
【0021】
この発明によれば、第2の水溶液に第1の水溶液を加えるので、第1の水溶液の液滴の表面に含まれるカルボキシル基を有する水溶性多糖類が、第2の水溶液に含まれるアミノ基を有するシラン化合物によって架橋されてゲル化し、皮膜を形成する。その結果、水溶液中の反応のみでマイクロカプセルを容易に製造することができる。このマイクロカプセルを酵素の固定化担体として用いると、高い固定化収率で酵素を固定化できるので、酵素の漏れが少なく、皮膜が緻密なマイクロカプセルであることがわかる。
【0022】
本発明に係るマイクロカプセルの製造方法において、前記接触を、前記第1の水溶液に前記第2の水溶液を加えて行う。
【0023】
この発明によれば、第1の水溶液に第2の水溶液を加えるので、第2の水溶液の液滴の表面に含まれるアミノ基を有するシラン化合物が、第2の水溶液に含まれるカルボキシル基を有する水溶性多糖類を架橋してゲル化し、皮膜を形成する。その結果、水溶液中の反応のみでマイクロカプセルを容易に製造することができる。このマイクロカプセルを酵素の固定化担体として用いると、高い固定化収率で酵素を固定化できるので、酵素の漏れが少なく、皮膜が緻密なマイクロカプセルであることがわかる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るマイクロカプセルの製造方法によれば、皮膜が緻密なマイクロカプセルを、水溶液中の反応のみで容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るマイクロカプセルの製造方法を示すフローチャートである。
【図2】アミノ基を有するシラン化合物とカルボキシル基を有する水溶性多糖類との推定される反応を示す模式図である。
【図3】マイクロカプセルの製造装置の一例を示す模式的概念図である。
【図4】第1形態で得られたマイクロカプセルを示す写真である。
【図5】図4におけるマイクロカプセルの皮膜部分を拡大した写真である。
【図6】実施例I−2におけるシラン化合物の濃度とマイクロカプセルの酵素の固定化収率との関係を示すグラフである。
【図7】実施例I−2における二価金属イオンの濃度とマイクロカプセルの酵素の固定化収率との関係を示すグラフである。
【図8】実施例I−3におけるシラン化合物の濃度とマイクロカプセルの酵素の固定化収率との関係を示すグラフである。
【図9】実施例I−3における二価金属イオンの濃度とマイクロカプセルの酵素の固定化収率との関係を示すグラフである。
【図10】比較例Iにおける塩化カルシウムの濃度とマイクロカプセルの酵素の固定化収率との関係を示すグラフである。
【図11】実施例II−2及び比較例IIにおけるシラン化合物の濃度とマイクロカプセルの酵素の固定化収率との関係を示すグラフである。
【図12】実施例II−2における二価金属イオンの濃度とマイクロカプセルの酵素の固定化収率との関係を示すグラフである。
【図13】第2形態で得られたマイクロカプセルを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係るマイクロカプセル及びその製造方法について詳細に説明する。なお、以下の説明および図面の形態により本発明の技術的範囲が限定されるものではない。
【0027】
本発明に係るマイクロカプセルの製造方法は、図1に示すように、第1の水溶液と第2の水溶液とを準備する工程(水溶液準備工程)と、マイクロカプセルを生成する工程(マイクロカプセル生成工程)とを有する。マイクロカプセル生成工程において、第2の水溶液に第1の水溶液を加える第1形態と、第1の水溶液に第2の水溶液を加える第2形態とに分けることができる。いずれの形態を用いるかは、例えば、加える液滴が破壊するか否かによって選択することが好ましい。液滴の破壊は、加える側の水溶液の粘度が、加えられる側の水溶液の粘度よりも小さい場合にしばしば起こる。そのため、加える側の水溶液は、加えられる側の水溶液よりも粘度が大きいことが望ましい。したがって、第1の水溶液の粘度が第2の水溶液の粘度よりも大きい場合は、第1形態を選択し、小さい場合は第2形態を選択することが望ましい。
【0028】
[第1形態]
本発明に係るマイクロカプセルの製造方法の第1形態は、カルボキシル基を有する水溶性多糖類を含む第1の水溶液と、アミノ基を有するシラン化合物を含む第2の水溶液とを準備する工程、及び、前記第1の水溶液と前記第2の水溶液とを接触させてマイクロカプセルを生成する工程、を有し、第1の水溶液と第2の水溶液との接触を、第2の水溶液に第1の水溶液を加えて行う。
【0029】
<水溶液準備工程>
水溶液準備工程は、第1の水溶液と第2の水溶液とを準備する工程である。
(第1の水溶液)
第1の水溶液は、水溶性多糖類を含む水溶液である。「含む」とは、第1の水溶液が他の添加物を含んでいてもよいことを意味する。例えば、マイクロカプセルを酵素の固定化担体として用いる場合は、第1の水溶液に酵素を含ませることができる。
【0030】
第1の水溶液は、例えば、精製水の入った容器に水溶性多糖類を適量加えて攪拌することにより調製することができる。また、第1の水溶液が酵素を含む場合は、例えば、酵素を含む水溶液と、水溶性多糖類を含む水溶液とを混ぜ合わせることにより、第1の水溶液を調製することができる。
【0031】
第1の水溶液の調製は、マイクロカプセル生成工程の直前に行ってもよいし、予め調製しておいてもよい。予め調製しておく場合は、調製済みの水溶液を購入してもよい。
【0032】
第1の水溶液の温度及びpHは、第2の水溶液に含まれているシラン化合物が、第1の水溶液に含まれている水溶性多糖類を容易にゲル化することができる温度及びpHであればよい。例えば、第1の水溶液の温度が5℃〜50℃の範囲であり、pH3〜pH12の範囲であれば、シラン化合物が水溶性多糖類を容易にゲル化することができる。
【0033】
また、第1の水溶液が酵素を含む場合は、第1の水溶液の温度及びpHを、酵素の活性を安定に維持できる温度及びpHとなるように適宜選択することが望ましい。
【0034】
(水溶性多糖類)
水溶性多糖類は、後述の第2の水溶液に含まれるシラン化合物で架橋されてゲル化し、マイクロカプセルの皮膜を形成する化合物である。水溶性多糖類としては、カルボキシル基を有する水溶性多糖類を用いることができる。そうした水溶性多糖類は、水溶性多糖類の構造中に少なくとも1つのカルボキシル基を有していてもよいし、2つ以上のカルボキシル基を有していてもよいし、他の官能基や結合を有していてもよい。水溶性多糖類が2つ以上のカルボキシル基を有している場合は、その一部が他の置換基に置き換わっていてもよい。
【0035】
水溶性多糖類としては、例えば、アルギン酸類、ペクチン類、カラギーナン類、カルボキシメチルセルロース、寒天等を挙げることができる。アルギン酸類としては、例えば、アルギン酸、アルギン酸塩類を挙げることができる。アルギン酸塩類としては、例えば、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸ナトリウム等を挙げることができる。ペクチン類としては、例えば、D−ガラクツロン酸の直鎖状重合体からなる多糖類を挙げることができる。また、D−ガラクツロン酸のカルボキシル基の一部がメチルエステルとなっている多糖類でも、カルボキシル基を1つ又は2つ以上有していれば用いることができる。カラギーナン類としては、例えば、κ(カッパ)−カラギーナン、ι(イオタ)−カラギーナンを挙げることができる。
【0036】
これらのうち、第2の水溶液に含まれるシラン化合物によってゲル化しやすいという観点から、アルギン酸塩類、カラギーナン類又はペクチン類を含むことが好ましい。より具体的には、アルギン酸ナトリウム、κ(カッパ)−カラギーナン又はペクチンを含むことがより好ましい。これらを含むことによって、アミノ基を有するシラン化合物によってより架橋されてゲル化しやすくなる。
【0037】
第1の水溶液中の水溶性多糖類の含有量は、特に限定されないが、1質量%〜10質量%とすることが好ましく、1質量%〜5質量%とすることがより好ましい。この範囲とすることにより、第1の水溶液が液滴を形成しやすくなる。
【0038】
(酵素)
酵素は、必要に応じて第1の水溶液に含ませてもよい。酵素を第1の水溶液に含ませることによって、酵素を固定化したマイクロカプセルを得ることができる。酵素は、高い固定化収率でマイクロカプセルの内部に固定化される。
【0039】
酵素の種類は、特に限定されず、酵素によって化学反応を触媒される物質(以下、「基質」という。)や反応条件等によって、適宜選択して用いることができる。酵素としては、例えば、酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、リアーゼ、異性化酵素及びリガーゼ等から選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。また、第1の水溶液中の酵素の含有量は、特に限定されない。
【0040】
ここでの「固定化収率」とは、酵素の活性を維持した状態で、マイクロカプセルに固定化できる酵素の割合のことをいう。例えば、固定化された酵素が活性を失っている場合は、漏れ出す酵素が少なくても、固定化収率は低くなる。固定化収率が高い場合は、酵素の活性を維持しつつ、酵素が漏れ出すことを防ぐことができることを意味している。固定化収率が高い場合は、酵素の漏れが少なく、マイクロカプセルの皮膜が緻密であることが分かる。固定化収率が低い場合は、酵素の漏れが多く、マイクロカプセルの皮膜が緻密でないことが分かる。
【0041】
酵素の固定化収率は、式(1)により求めることができる。すなわち、マイクロカプセルに固定化する前の第1の水溶液中の酵素の活性を100%とした場合の、固定化後のマイクロカプセルを潰して得られた液体中の酵素の活性の割合(%)によって固定化収率を求めることができる。式(1)によれば、固定化時に失活した酵素は固定化収率の評価から除かれ、活性状態の酵素をどの程度の割合で固定化できたかを評価することができる。これによって、そのマイクロカプセルの皮膜がどの程度緻密であるかを評価することができる。
【0042】
【数1】
【0043】
なお、本発明に係るマイクロカプセルの製造方法は、酵素に代えて、微生物や細胞等の生体触媒を第1の水溶液に含ませてもよい。本発明に係るマイクロカプセルの製造方法によれば、微生物や細胞等も高い固定化収率で固定化することができる。
【0044】
(第2の水溶液)
第2の水溶液は、シラン化合物を含む水溶液である。「含む」とは、第2の水溶液が、他の添加物を含んでいてもよいことを意味する。例えば、第2の水溶液が後述の二価金属イオンを必要に応じて含んでいてもよい。
【0045】
第2の水溶液は、例えば、精製水の入った容器にアミノ基を有するシラン化合物を加えて攪拌することにより調製することができる。第2の水溶液の調製は、マイクロカプセルを生成する工程の直前に行ってもよいし、予め調製しておいてもよい。予め調製する場合は、調製済みの水溶液を購入してもよい。
【0046】
第2の水溶液の温度及びpHは、シラン化合物が第1の水溶液に含まれる水溶性多糖類を容易にゲル化することができる温度及びpHであればよい。例えば、第2の水溶液の温度が5℃〜50℃の範囲であり、pH3〜pH12の範囲であれば、シラン化合物が水溶性多糖類を容易にゲル化することができる。
【0047】
第1の水溶液が酵素を含む場合は、第2の水溶液を調製するときの条件を、酵素の活性を安定に維持できる温度及びpHとなるように適宜選択することが望ましい。
【0048】
(シラン化合物)
シラン化合物は、第1の水溶液に含まれる水溶性多糖類をゲル化する架橋剤としての機能を有する。シラン化合物が架橋剤として作用するメカニズムは、現段階では明らかではないが、おそらく、図2に示すように、シラン化合物が有するアミノ基と水溶性多糖類が有するカルボキシル基とが静電相互作用により結合するとともに、シラン化合物同士が重縮合してシロキサンポリマーを形成していると推定される。そのため、得られるマイクロカプセルの皮膜は、多糖類ゲルとシロキサンポリマーとの複合膜となって、多糖類ゲルの細孔をシロキサンポリマーが埋めるようにして、緻密な皮膜を形成すると推定される。
【0049】
シラン化合物は、アミノ基を有するシラン化合物を用いることができる。そうしたシラン化合物は、シラン化合物の構造中に少なくとも1つのアミノ基を有していてもよいし、2つ以上のアミノ基を有していてもよいし、他の官能基や結合を有していてもよい。
【0050】
シラン化合物としては、シランカップリング剤として広く知られているシラン化合物を用いることができる。例えば、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を2つ以上有するシラン化合物や、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を1つ有するシラン化合物等を挙げることができる。これらの化合物から選ばれる1種又は2種以上をシラン化合物として用いることができる。
【0051】
これらのシラン化合物のうち、アミノ基を2つ以上有するシラン化合物から選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。具体的には、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン及びN−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランから選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。これらのシラン化合物を含む第2の水溶液を用いることによって、皮膜がより緻密なマイクロカプセルを得ることができる。
【0052】
シラン化合物の入手しやすさの観点からは、3−アミノプロピルトリメトキシシラン及びN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランから選ばれる1種又は2種を用いることが好ましい。
【0053】
第2の水溶液中のシラン化合物の含有量は、合計0.01mol/L〜0.4mol/Lとすることが好ましい。シラン化合物の含有量を合計0.01mol/L〜0.4mol/Lとすることで、得られるマイクロカプセルの皮膜を緻密にすることができる。
【0054】
シラン化合物として、アミノ基を2つ以上有するシラン化合物から選ばれる1種又は2種以上を用いる場合は、第2の水溶液中のシラン化合物の含有量は、合計0.01mol/L〜0.05mol/Lとすることが好ましく、合計0.02mol/L〜0.05mol/Lとすることがより好ましく、合計0.03mol/L〜0.05mol/Lとすることが特に好ましい。アミノ基を2つ以上有するシラン化合物の含有量を合計0.01mol/L〜0.05mol/Lとすることにより、得られるマイクロカプセルの皮膜を緻密にすることができる。
【0055】
一方、シラン化合物として、アミノ基を1つ有するシラン化合物から選ばれる1種又は2種以上を用いる場合は、第2の水溶液中のシラン化合物の含有量は、合計0.2mol/L〜0.4mol/Lとすることが好ましく、合計0.25mol/L〜0.4mol/Lとすることがより好ましく、合計0.3mol/L〜0.4mol/Lとすることが特に好ましい。アミノ基を1つ有するシラン化合物の含有量を合計0.2mol/L〜0.4mol/Lとすることにより、得られるマイクロカプセルの皮膜を緻密にすることができる。
【0056】
(二価金属イオン)
二価金属イオンは、必要に応じて第2の水溶液に含ませてもよい。二価金属イオンを第2の水溶液に含ませることで、得られるマイクロカプセルが凝集することを防ぐことができ、マイクロカプセルの取り扱いを容易にすることができる。
【0057】
なお、二価金属イオンを含まない第2の水溶液を用いてマイクロカプセルを製造した場合には、得られるマイクロカプセルは、マイクロカプセルを生成した後、第2の水溶液の攪拌を止め静置状態とすると、凝集して数珠状に連なってしまうことがある。凝集が起こるメカニズムは、現段階では明らかではないが、おそらく、得られるマイクロカプセルの皮膜の表面に含まれる、シラン化合物によって架橋されていない水溶性多糖類由来の遊離したカルボキシル基が、何かと反応して引き起こしていると推定される。
【0058】
二価金属イオンは、マイクロカプセルの皮膜の表面に含まれる水溶性多糖類(すなわち、シラン化合物によって架橋されていない水溶性多糖類)を架橋する。その結果、マイクロカプセルの皮膜の表面に含まれる遊離したカルボキシル基が少なくなり、遊離したカルボキシル基が引き起こすマイクロカプセルの凝集を阻止することができると考えられる。なお、二価金属イオンは、マイクロカプセルの皮膜の表面を架橋するので、その皮膜の強度を高める作用も有している。
【0059】
二価金属イオンを第2の水溶液に配合する方法としては、二価金属イオンを第2の水溶液に加えて攪拌する方法や、二価金属イオンを含む水溶液と第2の水溶液とを混ぜ合わせる方法等を挙げることができる。
【0060】
二価金属イオンを第2の水溶液に配合するタイミングは、水溶液準備工程であってもよいし、マイクロカプセル生成工程であってもよい。マイクロカプセル生成工程で配合する場合は、第2の水溶液に第1の水溶液を加えるのと同時又はその直後であることが好ましい。このように、マイクロカプセルを生成した後速やかに二価金属イオンを第2の水溶液に配合することで、得られたマイクロカプセル同士が接触して数珠状に繋がってしまうことを容易に防ぐことができる。
【0061】
なお、二価金属イオンは、水溶性多糖類を架橋するので、水溶性多糖類が含まれる第1の水溶液には配合しない。二価金属イオンを第1の水溶液に配合すると、二価金属イオンがシラン化合物に先立って水溶性多糖類を架橋してしまい、シラン化合物の架橋剤作用を阻害してしまう。その結果、マイクロカプセルの皮膜を緻密にすることが困難となってしまう。
【0062】
二価金属イオンとしては、例えば、Ca2+、Pb2+、Cu2+、Cd2+、Ba2+、Sr2+、Co2+、Ni2+、Zn2+及びMn2+から選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。二価金属イオンを含む化合物としては、例えば、二価金属イオンを含む塩化物、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩等を挙げることができる。具体的には、CaCl2、CaSO4、Ca(OH)2、Ca(NO3)2、PbCl2、PbSO4、Pb(OH)2、Pb(NO3)2、CuCl2、CuSO4、Cu(OH)2、Cu(NO3)2、CdCl2、CdSO4、Cd(OH)2、Cd(NO3)2、BaCl2、BaSO4、Ba(OH)2、Ba(NO3)2、SrCl2、SrSO4、Sr(OH)2、Sr(NO3)2、CoCl2、CoSO4、Co(OH)2、Co(NO3)2、NiCl2、NiSO4、Ni(OH)2、Ni(NO3)2、ZnCl2、ZnSO4、Zn(OH)2、Zn(NO3)2、MnCl2、MnSO4、Mn(OH)2、Mn(NO3)2等を挙げることができる。
【0063】
なお、二価金属イオンに代えて、マイクロカプセルが数珠状に凝集することを防ぐことができる他の物質を用いることもできる。
【0064】
第2の水溶液中の二価金属イオンを含む化合物の含有量は、0.001mol/L〜0.15mol/Lとすることが好ましい。この範囲とすることで、シラン化合物の架橋作用に悪影響を与えずに、マイクロカプセルが凝集するのを容易に防ぐことができる。二価金属イオンを含む化合物の含有量が、0.15mol/Lを超えると、得られるマイクロカプセルの皮膜の緻密性がやや劣ってしまうことがある。一方、二価金属イオンの含有量が、0.001mol/L未満では、凝集阻止作用を十分に発揮できないことがある。
【0065】
二価金属イオンを含む化合物の含有量は、第2の水溶液中に0.001mol/L〜0.1mol/Lとすることがより好ましく、0.001mol/L〜0.05mol/Lとすることが特に好ましい。この範囲とすることで、シラン化合物の架橋作用に悪影響を与えずに、マイクロカプセルが凝集することをより容易に防ぐことができる。
【0066】
<マイクロカプセル生成工程>
マイクロカプセル生成工程は、第2の水溶液に第1の水溶液を加えて両水溶液を接触させることによって、マイクロカプセルを生成する工程である。第2の水溶液に第1の水溶液を加えるので、第1の水溶液の液滴の表面に含まれる水溶性多糖類が、第2の水溶液に含まれるシラン化合物によって架橋されてゲル化し、皮膜を形成する。その結果、水溶液中の反応のみでマイクロカプセルを容易に製造することができる。
【0067】
「接触させる」とは、両水溶液を混合して、両溶液に含まれる物質同士が反応を行い得る状態にさせることをいう。「加える」方法としては、例えば、第2の水溶液に、第1の水溶液を滴下又は注入する方法を挙げることができる。
【0068】
滴下によって加える方法としては、例えば、シリンジの先端から第1の水溶液を第2の水溶液に滴下する方法、遠心力を利用して第1の水溶液を粒状に飛散させて第2の水溶液に滴下する方法、スプレーノズルの先端から第1の水溶液を霧化して粒状として第2の水溶液に滴下する方法を挙げることができる。また、芯液に含ませる物質(例えば、酵素等)を含む水溶液と水溶性多糖類水溶液とを、二重管を用いて第2の水溶液に滴下する方法(二重管ノズル法)を用いることもできる。注入によって加える方法としては、例えば、第1の水溶液が入ったシリンジの先端を、容器に入った第2の水溶液中に入れた状態で、シリンジの先端から第1の水溶液を第2の水溶液中に押し出す方法を挙げることができる。
【0069】
第2の水溶液に加える第1の水溶液の量は、得ようとするマイクロカプセルの大きさに合わせて適宜変更することができる。例えば、1μL〜100μLの範囲で第2の水溶液に第1の水溶液を加えることができる。なお、後述の実施例では、第2の水溶液に第1の水溶液を10μLずつ加えている。
【0070】
(製造装置)
第1の水溶液を第2の水溶液に滴下する方法を用いたマイクロカプセルの製造装置としては、例えば、図3に示す装置を挙げることができる。図3に示すマイクロカプセル製造装置10は、第1の水溶液1が充填されたシリンジポンプ11と、第2の水溶液2が入っている容器12と、容器12の底部に配置された攪拌子13と、攪拌装置(マグネチックスターラー)14とで構成されている。攪拌装置14によって攪拌子13が回転して第2の水溶液を攪拌できるようになっている。
【0071】
シリンジポンプ11からは、第1の水溶液1が一定量で押し出されて液滴15となる。この液滴15には、カルボキシル基を有する水溶性多糖類が含まれている。この液滴15を、第2の水溶液2に滴下することによって、第1の水溶液1と第2の水溶液2とが接触し、水溶性多糖類がゲル化する。それによって、多糖類ゲルからなる皮膜22と、シラン化合物によって架橋されていない水溶性多糖類を含む芯液21とを有するマイクロカプセル16を製造できる。
【0072】
得られるマイクロカプセルを酵素の固定化担体として用いる場合は、第1の水溶液1が、水溶性多糖類と酵素とを含み、得られるマイクロカプセル16の芯液21が、シラン化合物によって架橋されていない水溶性多糖類と、酵素とを含む。
【0073】
このマイクロカプセル製造装置10によれば、簡便な装置構成によって本発明に係るマイクロカプセル16の製造方法を実現することができる。
【0074】
なお、必要に応じて含まれる二価金属イオンを、第2の水溶液に配合する製造装置としては、図3に示すマイクロカプセル製造装置10に、二価金属イオン水溶液が入ったシリンジポンプ(図示しない)を加えて構成してなる装置を挙げることができる。
【0075】
次に、第1の水溶液を第2の水溶液に注入する方法を用いたマイクロカプセルの製造装置としては、図3に示すように、第1の水溶液1が充填されたシリンジポンプ11と、第2の水溶液2が入っている容器12と、容器12の底部に配置された攪拌子13と、攪拌装置(マグネチックスターラー)14と、一端がシリンジポンプ11の先端に接続し、他端が第2の水溶液2中に配置されたチューブ状の管(図示しない)とで構成された装置を挙げることができる。このマイクロカプセル製造装置では、第1の水溶液1がシリンジポンプ11から一定量押し出され、チューブ状の管(図示しない)を経由して第2の水溶液2中に直接注入される。第1の水溶液1は、第2の水溶液2に注入された瞬間に第2の水溶液2と接触してゲル化し、マイクロカプセルが形成される。このマイクロカプセル製造装置によれば、第1の水溶液1が空気に触れずに第2の水溶液2に接触するので、マイクロカプセル製造過程で空気中の浮遊物が混入することがない。
【0076】
<表面処理工程>
本発明に係るマイクロカプセル製造方法の第1形態においては、得られたマイクロカプセルの皮膜の強度を高めるための表面処理工程を、必要に応じて有していてもよい。表面処理工程を有することで、例えば、マイクロカプセルを酵素の固定化担体として用いた場合に、そのマイクロカプセルを繰り返し触媒反応に用いたとしても、皮膜が壊れて酵素を含む芯液が漏出してしまうことを防ぐことができる。
【0077】
マイクロカプセルの皮膜の強度を高めるために、表面処理剤が用いられる。表面処理剤としては、例えば、得られたマイクロカプセルの皮膜表面に含まれる遊離したアミノ基又は遊離したカルボキシル基と静電的に結合する化合物や、遊離したアミノ基又は遊離したカルボキシル基を架橋する化合物を挙げることができる。例えば、水溶性多糖類、ジクロリド化合物、カルボジイミド化合物及びアルデヒド化合物から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0078】
水溶性多糖類としては、例えば、アルギン酸類、ペクチン類、カラギーナン類、カルボキシメチルセルロース、寒天類等を挙げることができる。アルギン酸類としては、例えば、アルギン酸、アルギン酸塩類を挙げることができる。アルギン酸塩類としては、例えば、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸ナトリウム等を挙げることができる。ペクチン類としては、例えば、D−ガラクツロン酸の直鎖状重合体からなる多糖類を挙げることができる。
【0079】
ジクロリド化合物としては、例えば、セバコイルクロリド、セバシン酸ジクロリド、アジピン酸ジクロリド、テレフタロイルジクロリド等を挙げることができる。
【0080】
カルボジイミド化合物としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、1−エチル−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩等を挙げることができる。
【0081】
アルデヒド化合物としては、例えば、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド等を挙げることができる。
【0082】
なお、表面処理剤としては、これらの物質に代えて、マイクロカプセルの皮膜の強度を高めることができる他の物質を用いることもできる。
【0083】
表面処理工程は、表面処理剤を含む溶剤中に、得られたマイクロカプセルを浸漬する等によって行うことができる。
【0084】
溶剤としては、表面処理剤として水溶性多糖類を用いる場合は、水を用いることができる。表面処理剤としてジクロリド化合物、カルボジイミド化合物又はアルデヒド化合物を用いる場合は、水又は有機溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の炭化水素系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノール等のアルコール系溶剤;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の芳香族アルキルアルコール溶剤;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール系溶剤;上記した各種有機溶剤から選ばれる1種又は2種以上の混合物;等を挙げることができる。
【0085】
溶剤中における表面処理剤の含有量は、特に限定されない。例えば、表面処理剤の含有量が、0.01mol/L〜0.2mol/Lの範囲であれば、容易にマイクロカプセルの皮膜表面を架橋することができる。
【0086】
<マイクロカプセル>
第1形態によって得られるマイクロカプセル16は、図3に示すように、皮膜22とその内部に閉じ込められた芯液21とで構成される。このマイクロカプセル16を、酵素の固定化担体として用いる場合、酵素を高い固定化収率で固定化することができるので、皮膜22は緻密であることが分かる。
【0087】
皮膜22が緻密になっている理由は、現時点では明らかではないが、おそらく、シラン化合物で架橋された多糖類ゲルと、シラン化合物が水で加水分解及び重縮合して形成されるシロキサンポリマーとが、静電相互作用で結合して、膜全体が複合膜となっていると推測される。複合膜となることで、多糖類ゲルの細孔をシロキサンポリマーが埋めるようにして、緻密な皮膜を形成していると考えられる。
【0088】
この皮膜をX線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ社製、ESCA5600)によって分析すると、エネルギー105eV及び400eVにスペクトルが得られ、ケイ素及び窒素を確認することができる。また、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光株式会社製、FT/IR−4200)によって分析すると、Si−O−Si結合等を確認することができる。
【0089】
芯液は、液体又はゲル状体であり、シラン化合物によって架橋されていない水溶性多糖類を含む水溶液を含んでいる。第1の水溶液が酵素を含んでいる場合は、芯液は酵素も含んでいる。
【0090】
[第2形態]
本発明に係るマイクロカプセルの製造方法の第2形態は、カルボキシル基を有する水溶性多糖類を含む第1の水溶液と、アミノ基を有するシラン化合物を含む第2の水溶液とを準備する工程、及び、前記第1の水溶液と前記第2の水溶液とを接触させてマイクロカプセルを生成する工程、を有し、第1の水溶液と第2の水溶液との接触を、第1の水溶液に第2の水溶液を加えて行う。
【0091】
第2形態は、シラン化合物が架橋剤として作用し、水溶性多糖類を架橋してマイクロカプセルの皮膜を形成する点で、第1形態と共通する。
【0092】
一方、第2形態は、マイクロカプセル生成工程において、第1の水溶液に第2の水溶液を加える点で、第1形態と異なる。また、マイクロカプセルを酵素の固定化担体として用いる場合、酵素を含ませる水溶液は、第1の水溶液ではなく第2の水溶液である点でも、第1形態と異なる。
【0093】
<水溶液準備工程>
水溶液準備工程は、第1の水溶液と第2の水溶液とを準備する工程である。
(第1の水溶液)
第1の水溶液は、第1形態と同様、水溶性多糖類を含む水溶液である。第1の水溶液の調整方法、温度及びpHについては、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。後述の第2の水溶液が酵素を含む場合は、第1の水溶液の温度及びpHを、酵素の活性を安定に維持できる温度及びpHとなるように適宜選択することが望ましい。
【0094】
(水溶性多糖類)
水溶性多糖類は、第1形態と同様、第2の水溶液に含まれるシラン化合物で架橋されてゲル化し、マイクロカプセルの皮膜を形成する。水溶性多糖類の特徴及び種類については、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。
【0095】
第1の水溶液中の水溶性多糖類の含有量は、特に限定されないが、0.5質量%〜5質量%とすることが好ましく、0.5質量%〜1質量%とすることがより好ましい。この範囲にすることにより、第2の水溶液の液滴が第1の水溶液中に混ざりやすくなる。
【0096】
(第2の水溶液)
第2の水溶液は、第1形態と同様、シラン化合物を含む水溶液である。マイクロカプセルを酵素の固定化担体として用いる場合は、第2の水溶液が酵素を含む。第2の水溶液の調製方法、温度及びpHについては、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。
【0097】
第2の水溶液が酵素を含む場合は、酵素の活性を安定に維持できる温度及びpHとなるように適宜選択することが望ましい。
【0098】
(シラン化合物)
シラン化合物は、第1形態と同様、第1の水溶液に含まれる水溶性多糖類をゲル化する架橋剤としての機能を有する。シラン化合物が架橋剤として作用するメカニズム、シラン化合物の特徴及び種類については、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。
【0099】
シラン化合物の含有量は、第2の水溶液中に合計0.01mol/L〜0.4mol/Lの範囲とすることが好ましい。シラン化合物の含有量を合計0.01mol/L〜0.4mol/Lとすることで、得られるマイクロカプセルの皮膜を緻密にすることができる。
【0100】
シラン化合物として、アミノ基を2つ以上有するシラン化合物から選ばれる1種又は2種以上を用いる場合は、第2の水溶液中のシラン化合物の含有量は、合計0.01mol/L〜0.1mol/Lの範囲とすることが好ましく、合計0.05mol/L〜0.1mol/Lの範囲とすることがより好ましい。アミノ基を2つ以上有するシラン化合物の含有量を、合計0.01mol/L〜0.1mol/Lの範囲とすることで、得られるマイクロカプセルの皮膜を緻密にすることができる。
【0101】
一方、シラン化合物として、アミノ基を1つ有するシラン化合物から選ばれる1種又は2種以上を用いる場合は、第2の水溶液中のシラン化合物の含有量は、合計0.2mol/L〜0.4mol/Lとすることが好ましく、合計0.25mol/L〜0.4mol/Lとすることがより好ましい。アミノ基を1つ有するシラン化合物の含有量を合計0.2mol/L〜0.4mol/Lとすることにより、得られるマイクロカプセルの皮膜を緻密にすることができる。
【0102】
(酵素)
酵素は、必要に応じて第2の水溶液に含ませてもよい。酵素を第2の水溶液に含ませることによって、酵素を固定化したマイクロカプセルを得ることができる。酵素は、第1形態では第1の水溶液に含ませているのに対して、第2形態では第2の水溶液に含ませている。このように、第1形態と第2形態とでは、酵素を含ませる場合の水溶液が異なるものの、いずれも、生成工程で「加える側」の水溶液に含ませる点で共通している。「加える側」の水溶液とは、第1形態では第1の水溶液であり、第2形態では第2の水溶液である。
【0103】
酵素の種類及び含有量については、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。「固定化収率」の定義及び性質についても、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。
【0104】
固定化収率は、式(2)によって求めることができる。すなわち、マイクロカプセルに固定化する前の第2の水溶液中の酵素の活性を100%とした場合の、固定化後のマイクロカプセルを潰して得られた液体中の酵素の活性の割合(%)によって固定化収率を求めることができる。式(2)によれば、固定化時に失活した酵素は固定化収率の評価から除かれ、活性状態の酵素をどの程度の割合で固定化できたかを評価することができる。これによって、そのマイクロカプセルの皮膜がどの程度緻密であるかを評価することができる。
【0105】
【数2】
【0106】
(二価金属イオン)
二価金属イオンは、第1形態と同様、必要に応じて第2の水溶液に含ませてもよい。二価金属イオンを第2の水溶液に含ませることで、得られるマイクロカプセルが凝集することを防ぐことができるとともに、マイクロカプセルの皮膜の強度を高めることができる。二価金属イオンがマイクロカプセルの皮膜表面に作用するメカニズム、配合方法、種類及び含有量については、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。
【0107】
(その他)
第2の水溶液を第1の水溶液に加えるときに、第2の水溶液の液滴の破壊が生じる場合は、必要に応じて第2の水溶液に増粘剤を含ませて、第2の水溶液の粘度を調製してもよい。
【0108】
増粘剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、デキストラン、でんぷん及びキトサンから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0109】
増粘剤の第2の水溶液中の含有量は、特に限定されず、第2の水溶液を第1の水溶液に加えるときに第2の水溶液の液滴の破壊が生じない程度に適宜選択することができる。
【0110】
また、第2の水溶液を第1の水溶液に加えたときに、第2の水溶液のpHが変化する場合は、必要に応じて第2の水溶液に緩衝液を含ませて、第2の水溶液のpHが変化することを防いでもよい。この場合の緩衝液の種類及び濃度は、特に限定されない。
【0111】
<マイクロカプセル生成工程>
マイクロカプセル生成工程は、第1の水溶液に第2の水溶液を加えて両水溶液を接触させることによって、マイクロカプセルを生成する工程である。第1の水溶液に第2の水溶液を加えるので、第2の水溶液の液滴の表面に含まれるシラン化合物が、第2の水溶液に含まれる水溶性多糖類を架橋してゲル化し、皮膜を形成する。その結果、水溶液中の反応のみでマイクロカプセルを容易に製造することができる。各用語の定義については、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。また、第1の水溶液に加える第2の水溶液の量についても、第1形態における、第2の水溶液に加える第1の水溶液の量と同様であるので、ここではその記載を省略する。
【0112】
「加える」方法としては、例えば、第1の水溶液に第2の水溶液を滴下する方法を挙げることができる。具体的な方法及びその方法を用いた装置の例は、第1形態で第2の水溶液に第1の水溶液を滴下する場合と同様であるので、ここではその記載を省略する。なお、第2形態では、図3に示すシリンジポンプ11には、第2の水溶液2を充填し、容器12には、第1の水溶液1を入れる。また、第1の水溶液に第2の水溶液を加えるときに、第2の水溶液の液滴が第1の水溶液中に混ざりにくい場合は、第1の水溶液1を攪拌子13で強攪拌しながら第2の水溶液を加えることが好ましい。
【0113】
<表面処理工程>
本発明に係るマイクロカプセル製造方法の第2形態においては、第1形態と同様、得られたマイクロカプセルの皮膜の強度を高めるための表面処理工程を、必要に応じて有していてもよい。表面処理剤の種類、表面処理方法、表面処理工程で用いる溶剤の種類及びその溶剤中の表面処理剤の含有量については、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。
【0114】
<マイクロカプセル>
第2形態によって得られるマイクロカプセル16は、第1形態によって得られるマイクロカプセルと同様、図3に示すように、皮膜22とその内部に閉じ込められた芯液21とで構成される。皮膜の構造及び分析方法については、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。
【0115】
芯液は、液体又はゲル状体であり、水溶性多糖類を架橋していないシラン化合物を含む水溶液を含んでいる。第2の水溶液が酵素を含んでいる場合は、芯液は酵素も含んでいる。
【0116】
以上説明したように、本発明に係るマイクロカプセルの製造方法の第1形態及び第2形態によれば、皮膜が緻密なマイクロカプセルを、水溶液中の反応のみで容易に製造することができる。
【実施例】
【0117】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下において、「質量%」は「重量%」と同義である。
【0118】
[実施例I]
実施例Iでは、第1形態の製造方法によってマイクロカプセルを製造した。実施例I−1は、第1形態の基本的な構成によってマイクロカプセルを製造した例であり、実施例I−2及び実施例I−3は、基本的な構成に加えて、酵素及び二価金属イオンを用いてマイクロカプセルを製造した例であり、実施例I−4は、二価金属イオンの種類を変えてマイクロカプセルを製造した例である。
【0119】
(実施例I−1)
カルボキシル基を有する水溶性多糖類としてアルギン酸ナトリウム(関東化学株式会社製、型番:37094−01)を2質量%含む水溶液0.5mLを、第1の水溶液として準備した。また、精製水4mLに、アミノ基を有するシラン化合物として3−アミノプロピルトリエトキシシラン(東京化成工業株式会社製、型番:A0439)を、0.1mol/Lになるように加えて攪拌して、第2の水溶液を準備した。
【0120】
シリンジに第1の水溶液を充填し、このシリンジから第1の水溶液を第2の水溶液が入ったビーカーに10μLずつ滴下して、マイクロカプセルを生成した。なお、マイクロカプセル生成工程における第2の水溶液は、温度が25℃であり、pH8.6となるように調整した。得られたマイクロカプセルを網で回収し、脱イオン水で洗浄し、実施例I−1のマイクロカプセルを得た。
【0121】
(実施例I−2)
(実施例I−2−1)
カルボキシル基を有する水溶性多糖類としてアルギン酸ナトリウム(関東化学株式会社製、型番:37094−01)を2質量%含む水溶液0.5mLと、酵素としてギ酸脱水素酵素(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製、型番:837016)を4U/mL含む水溶液0.5mLとを混合して、第1の水溶液を準備した。なお、「U(ユニット)」は触媒活性の単位であり、1Uは酵素の活性が最大となる至適条件下で、毎分1マイクロモルの基質を変化させることができる酵素の数量を表す。また、精製水4mLに、アミノ基を有するシラン化合物として3−アミノプロピルトリエトキシシラン(東京化成工業株式会社製、型番:A0439)を0.1mol/Lになるように加えて攪拌し、さらに二価金属イオンを含む化合物として塩化カルシウム(関東化学株式会社製)を0.01mol/Lになるように加えて攪拌して、第2の水溶液を準備した。その後、実施例I−1と同様に、実施例I−2−1のマイクロカプセルを得た。
【0122】
(実施例I−2−2)
第2の水溶液が含む3−アミノプロピルトリエトキシシランの濃度を0.2mol/Lとした以外は、実施例I−2−1と同様に、実施例I−2−2のマイクロカプセルを得た。
【0123】
(実施例I−2−3)
第2の水溶液が含む3−アミノプロピルトリエトキシシランの濃度を0.25mol/Lとした以外は、実施例I−2−1と同様に、実施例I−2−3のマイクロカプセルを得た。
【0124】
(実施例I−2−4)
第2の水溶液が含む3−アミノプロピルトリエトキシシランの濃度を0.3mol/Lとした以外は、実施例I−2−1と同様に、実施例I−2−4のマイクロカプセルを得た。
【0125】
(実施例I−2−5)
第2の水溶液が含む3−アミノプロピルトリエトキシシランの濃度を0.35mol/Lとした以外は、実施例I−2−1と同様に、実施例I−2−5のマイクロカプセルを得た。
【0126】
(実施例I−2−6)
第2の水溶液が含む3−アミノプロピルトリエトキシシランの濃度を0.4mol/Lとした以外は、実施例I−2−1と同様に、実施例I−2−6のマイクロカプセルを得た。
【0127】
(実施例I−2−7)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.02mol/Lとした以外は、実施例I−2−4と同様に、実施例I−2−7のマイクロカプセルを製造した。
【0128】
(実施例I−2−8)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.04mol/Lとした以外は、実施例I−2−4と同様に、実施例I−2−8のマイクロカプセルを製造した。
【0129】
(実施例I−2−9)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.07mol/Lとした以外は、実施例I−2−4と同様に、実施例I−2−9のマイクロカプセルを製造した。
【0130】
(実施例I−2−10)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.1mol/Lとした以外は、実施例I−2−4と同様に、実施例I−2−10のマイクロカプセルを製造した。
【0131】
[実施例I−3]
(実施例I−3−1)
実施例I−2−1と同様に、第1の水溶液を準備した。また、精製水4mLに、アミノ基を有するシラン化合物としてN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製、型番:A0774)を0.001mol/Lになるように加えて混合し、さらに二価金属イオンを含む化合物として塩化カルシウム(関東化学株式会社製)を0.01mol/Lになるように加えて攪拌して、第2の水溶液を準備した。その後、実施例I−1と同様に、実施例I−3−1のマイクロカプセルを得た。
【0132】
(実施例I−3−2)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.005mol/Lとした以外は、実施例I−3−1と同様に、実施例I−3−2のマイクロカプセルを得た。
【0133】
(実施例I−3−3)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.01mol/Lとした以外は、実施例I−3−1と同様に、実施例I−3−3のマイクロカプセルを得た。
【0134】
(実施例I−3−4)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.02mol/Lとした以外は、実施例I−3−1と同様に、実施例I−3−4のマイクロカプセルを得た。
【0135】
(実施例I−3−5)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.03mol/Lとした以外は、実施例I−3−1と同様に、実施例I−3−5のマイクロカプセルを得た。
【0136】
(実施例I−3−6)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.05mol/Lとした以外は、実施例I−3−1と同様に、実施例I−3−6のマイクロカプセルを得た。
【0137】
(実施例I−3−7)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.02mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−7のマイクロカプセルを得た。
【0138】
(実施例I−3−8)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.04mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−8のマイクロカプセルを得た。
【0139】
(実施例I−3−9)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.06mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−9のマイクロカプセルを得た。
【0140】
(実施例I−3−10)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.075mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−10のマイクロカプセルを得た。
【0141】
(実施例I−3−11)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.08mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−11のマイクロカプセルを得た。
【0142】
(実施例I−3−12)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.085mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−12のマイクロカプセルを得た。
【0143】
(実施例I−3−13)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.09mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−13のマイクロカプセルを得た。
【0144】
(実施例I−3−14)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.095mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−14のマイクロカプセルを得た。
【0145】
(実施例I−3−15)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.11mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−15のマイクロカプセルを得た。
【0146】
(実施例I−3−16)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.12mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−16のマイクロカプセルを得た。
【0147】
(実施例I−3−17)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.14mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−17のマイクロカプセルを得た。
【0148】
[実施例I−4]
(実施例I−4−1)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.005mol/Lとし、二価金属イオンを含む化合物として、塩化亜鉛(関東化学株式会社製)0.002mol/Lを用いた以外は、実施例I−3−1と同様に、実施例I−4−1のマイクロカプセルを製造した。得られたマイクロカプセルは、30分静置した後でも数珠状に連なることはなく、その後の取り扱いが容易であった。なお、塩化亜鉛の濃度が0.002mol/L〜0.02mol/Lの範囲で同様の効果が得られることを確認した。
【0149】
(実施例I−4−2)
第2の水溶液中のN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.005mol/Lとし、二価金属イオンを含む化合物として、塩化銅(関東化学株式会社製)0.002mol/Lを用いた以外は、実施例I−3−1と同様に、実施例I−4−2のマイクロカプセルを製造した。得られたマイクロカプセルは、30分静置した後でも数珠状に連なることはなく、その後の取り扱いが容易であった。なお、塩化銅の濃度が0.002mol/L〜0.02mol/Lの範囲で同様の効果が得られることを確認した。
【0150】
(実施例I−4−3)
第2の水溶液中のN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.05mol/Lとし、二価金属イオンを含む化合物として、塩化バリウム(関東化学株式会社製)0.02mol/Lを用いた以外は、実施例I−3−1と同様に、実施例I−4−3のマイクロカプセルを製造した。得られたマイクロカプセルは、30分静置した後でも数珠状に連なることはなく、その後の取り扱いが容易であった。
【0151】
[実施例II]
実施例IIでは、第2形態の製造方法によってマイクロカプセルを製造した。実施例II−1は、第2形態の基本的な構成によってマイクロカプセルを製造した例であり、実施例II−2は、基本的な構成に加えて、酵素、二価金属イオン及び増粘剤を用いてマイクロカプセルを製造した例である。
【0152】
(実施例II−1)
カルボキシル基を有する水溶性多糖類としてアルギン酸ナトリウム(関東化学株式会社製、型番:37094−01)0.5質量%を含む水溶液8mLを第1の水溶液として準備した。また、マイクロチューブに精製水100μLを入れ、アミノ基を有するシラン化合物としてN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製、型番:A0774)を0.1mol/Lになるように加えて十分攪拌し、第2の水溶液を準備した。
【0153】
ビーカーに入れた第1の水溶液を、攪拌子の回転速度を700rpmとして強攪拌した状態で、そのビーカーにマイクロチューブから第2の水溶液を10μLずつ滴下して、実施例II−1のマイクロカプセルを生成した。なお、マイクロカプセル生成工程における第1の水溶液の温度は26℃であった。
【0154】
(実施例II−2)
(実施例II−2−1)
カルボキシル基を有する水溶性多糖類としてアルギン酸ナトリウム(関東化学株式会社製、型番:37094−01)1質量%を含む水溶液8mLを第1の水溶液として準備した。また、精製水100μLと、アミノ基を有するシラン化合物として0.35mol/LのN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製、型番:A0774)水溶液172μL、二価金属イオンを含む化合物として0.4mol/Lの塩化カルシウム(関東化学株式会社製)水溶液150μL、増粘剤として15質量%のポリビニルピロリドン(Alfa Aesar社製、製造元コード:043728、分子量:1300000)水溶液606μL、をマイクロチューブに入れ、十分攪拌し、さらに酵素としてギ酸脱水素酵素(ロシュ・ダイアグノスティック株式会社製、型番:837016)を2U/mLとなるように加えて攪拌した。さらに、緩衝液として0.35mo/Lの2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸(東京化成工業株式会社製、型番:H0396)緩衝液を344μL加えて攪拌し、第2の水溶液を準備した。第2の水溶液中の塩化カルシウムの濃度は、0.05mol/Lであり、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度は、0.1mol/Lである。なお、このときの第2の水溶液は、温度が26℃であり、pH8.0となるように調整した。
【0155】
ビーカーに入れた第1の水溶液を、攪拌子の回転速度を700rpmとして強攪拌した状態で、そのビーカーにマイクロチューブから第2の水溶液を10μLずつ滴下して、マイクロカプセルを生成した。マイクロカプセル生成工程における第1の水溶液の温度は26℃であった。得られたマイクロカプセルを網で回収し、脱イオン水で洗浄し、実施例II−2−1のマイクロカプセルを得た。
【0156】
(実施例II−2−2)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.08mol/Lとした以外は、実施例II−2−1と同様に、実施例II−2−2のマイクロカプセルを得た。
【0157】
(実施例II−2−3)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.05mol/Lとした以外は、実施例II−2−1と同様に、実施例II−2−3のマイクロカプセルを得た。
【0158】
(実施例II−2−4)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.03mol/Lとした以外は、実施例II−2−1と同様に、実施例II−2−4のマイクロカプセルを得た。
【0159】
(実施例II−2−5)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.01mol/Lとした以外は、実施例II−2−1と同様に、実施例II−2−5のマイクロカプセルを得た。
【0160】
(実施例II−2−6)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.02mol/Lとした以外は、実施例II−2−1と同様に、実施例II−2−6のマイクロカプセルを得た。
【0161】
(実施例II−2−7)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.08mol/Lとした以外は、実施例II−2−1と同様に、実施例II−2−7のマイクロカプセルを得た。
【0162】
(実施例II−2−8)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.1mol/Lとした以外は、実施例II−2−1と同様に、実施例II−2−8のマイクロカプセルを得た。
【0163】
(実施例II−2−9)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.15mol/Lとした以外は、実施例II−2−1と同様に、実施例II−2−9のマイクロカプセルを得た。
【0164】
[比較例I]
(比較例I−1)
第1形態の比較例として、第2の水溶液にシラン化合物を含まないこととした以外は、実施例I−2−1と同様に、比較例I−1のマイクロカプセルの製造を試みた。この比較例I−1では、アルギン酸ナトリウムがゲル化せず、マイクロカプセルは製造できなかった。
【0165】
(比較例I−2)
塩化カルシウムの濃度を0.02mol/Lとした以外は、比較例I−1と同様に、比較例I−2のマイクロカプセルを製造した。得られたマイクロカプセルを網で回収し、脱イオン水で洗浄し、比較例I−2のマイクロカプセルを得た。
【0166】
(比較例I−3)
塩化カルシウムの濃度を0.04mol/Lとした以外は、比較例I−2と同様に、比較例I−3のマイクロカプセルを得た。
【0167】
(比較例I−4)
塩化カルシウムの濃度を0.07mol/Lとした以外は、比較例I−2と同様に、比較例I−4のマイクロカプセルを得た。
【0168】
(比較例I−5)
塩化カルシウムの濃度を0.1mol/Lとした以外は、比較例I−2と同様に、比較例I−5のマイクロカプセルを得た。
【0169】
[比較例II]
第2形態の比較例として、第2の水溶液にシラン化合物を含まないこととした以外は、実施例II−2−1と同様に、比較例IIのマイクロカプセルを得た。
【0170】
[測定と評価]
(マイクロカプセル)
第1形態によって得られたマイクロカプセルの表面を顕微鏡装置によって拡大して撮影した写真を図4及び図5に示す。図4及び図5に示す写真は、マイクロカプセルを生物顕微鏡装置(ケニス株式会社製、ケニスデジタル顕微鏡、型式:1−167−057)で観察し、デジタルカメラ(キャノン株式会社製、Power Shot A570 IS)で撮影した。
【0171】
第2形態によって得られたマイクロカプセルの表面を顕微鏡装置によって拡大し撮影した写真を図13に示す。図13に示す写真は、マイクロカプセルを生物顕微鏡装置(ケニス株式会社製、ケニスデジタル顕微鏡、型式:1−167−057)で観察し、デジタルカメラ(キャノン株式会社製、Power Shot A570 IS)で撮影した。
【0172】
(皮膜成分)
実施例I−1(第1形態)及び実施例II−1(第2形態)で得られたマイクロカプセルの皮膜の成分を次のようにして測定した。得られたマイクロカプセルを、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光株式会社製、FT/IR−4200)によって分析すると、1130cm−1〜1100cm−1付近にSi−O−Si結合を示す吸収ピークを確認することができた。
【0173】
(固定化収率I)
第1形態で得られたマイクロカプセルの皮膜の緻密さを評価するため、実施例I−2及び実施例I−3で得られたマイクロカプセルの固定化収率Iを求めた。同様に、比較例Iで得られたマイクロカプセルの酵素の固定化収率Iを求めた。固定化収率Iが高いほど、マイクロカプセルの皮膜の細孔から漏れ出す酵素が少なく、その皮膜が緻密であることが分かる。固定化収率Iが低い場合は、マイクロカプセルの皮膜の細孔から漏れ出す酵素が多く、その皮膜が緻密でないことが分かる。固定化収率Iは、上記した式(1)によって求めた。なお、触媒反応の初速度を活性とした。
【0174】
なお、ギ酸脱水素酵素は、下記化学式の反応を触媒する。下記化学式において、「NAD+」は、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを示し、「HCOO−」は、ギ酸を示し、「NADH」は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを示し、「FDH」は、ギ酸脱水素酵素を示す。
【0175】
【化1】
【0176】
式(1)における「第1の水溶液中の酵素の活性」は、次のようにして測定した。実施例I−2、実施例I−3及び比較例Iで準備した第1の水溶液を、それぞれシリンジを用いて20μL採取し、pH7.5、0.1mol/Lのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(和光純薬工業株式会社製、型番:202−07881)緩衝液2,880μLが入った別個のセルにそれぞれ加えた。各セルに酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(オリエンタル酵母工業株式会社製、型番:44056000)水溶液を、シリンジを用いて50μLずつ加え、攪拌した後、30℃に設定した恒温槽中に10分間静置した。
【0177】
その後、各セルにギ酸水溶液をシリンジで50μL加えた。これによって、第1の水溶液に含まれているギ酸脱水素酵素と、セル中のギ酸とが反応を開始した。反応時の初期濃度は、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド1mmol/L、ギ酸30mmol/Lとなった。
【0178】
このセルを恒温槽から取り出し、吸光度測定装置(日本分光株式会社製、型式:V−630)にセットして、波長340nmの吸光度を測定し、溶液中の還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の生成濃度を求めて、初速度を「第1の水溶液中に含まれる酵素の活性」とした。なお、測定した後はセルを恒温槽に戻した。
【0179】
式(1)における「マイクロカプセルを潰して得た液体中の酵素の活性」は、次のようにして測定した。実施例I−2、I−3及び比較例Iで得られたマイクロカプセルをそれぞれすり鉢ですり潰し、マイクロカプセル内部の液体を得た。これらをシリンジで20μLずつ採取し、第1の水溶液中の酵素の活性を測定した場合と同じ条件で酵素反応を行った。反応後の溶液について同様に吸光度を測定し、溶液中の還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の生成濃度を求めて、初速度を「マイクロカプセルを潰して得た液体中の酵素の活性」とした。
【0180】
実施例I−2−1〜実施例I−2−6で得られたマイクロカプセルの固定化収率Iは、図6に示すように、シラン化合物の濃度が0.1mol/Lの場合は20%であり、0.2mol/Lの場合は38%であり、0.25mol/Lの場合は58%であり、0.3mol/Lの場合は72%であり、0.35mol/Lでは75%であり、0.4mol/Lの場合は75%であった。
【0181】
実施例I−2−4、実施例I−2−7〜実施例I−2−10で得られたマイクロカプセルの固定化収率Iは、図7に示すように、塩化カルシウムの濃度が0.01mol/Lの場合は72%であり、0.02mol/Lの場合は53%であり、0.04mol/Lの場合は35%であり、0.07mol/Lの場合は33%であり、0.1mol/Lの場合は31%であった。
【0182】
実施例I−3−1〜実施例I−3−6で得られたマイクロカプセルの固定化収率Iは、図8に示すように、アミノ基を有するシラン化合物の濃度が0.001mol/Lの場合は40%であり、0.005mol/Lの場合は55%であり、0.01mol/Lの場合は70%であり、0.02mol/Lの場合は77%であり、0.03mol/Lでは99%であり、0.05mol/Lでは100%であった。
【0183】
実施例I−3−5、実施例I−3−7〜実施例I−3−17で得られたマイクロカプセルの固定化収率Iは、図9に示すように、塩化カルシウムの濃度が0.01mol/Lの場合は99%であり、0.02mol/Lの場合は99%であり、0.04mol/Lの場合は97%であり、0.06mol/Lの場合は95%であり、0.075mol/Lの場合は90%であり、0.08mol/Lの場合は82%であり、0.085mol/Lの場合は73%であり、0.09mol/Lの場合は68%であり、0.095mol/Lの場合は65%であり、0.11mol/Lの場合は55%であり、0.12mol/Lの場合は53%であり、0.14mol/Lの場合は52%であった。
【0184】
比較例I−2〜比較例I−5で得られたマイクロカプセルの固定化収率Iは、図10に示すように、塩化カルシウムの濃度が0.02mol/Lの場合は21%であり、0.04mol/Lの場合は25%であり、0.07mol/Lの場合は20%であり、0.1mol/Lの場合は16%であった。
【0185】
(固定化収率II)
第2形態で得られたマイクロカプセルの皮膜の緻密さを評価するため、実施例II−2で得られたマイクロカプセルの固定化収率IIを求めた。同様に、比較例IIで得られたマイクロカプセルの酵素の固定化収率IIを求めた。固定化収率IIが高いほど、マイクロカプセルの皮膜の細孔から漏れ出す酵素が少なく、その皮膜が緻密であることが分かる。固定化収率IIが低い場合は、マイクロカプセルの皮膜の細孔から漏れ出す酵素が多く、その皮膜が緻密でないことが分かる。固定化収率IIは、上記した式(2)によって求めた。なお、触媒反応の初速度を活性とした。
【0186】
なお、ギ酸脱水素酵素の触媒反応については、上記した固定化収率Iの場合と同様であるので、その記載を省略する。
【0187】
式(2)における「第2の水溶液中の酵素の活性」は、次のようにして測定した。実施例II−2及び比較例IIで準備した第2の水溶液を、それぞれシリンジを用いて20μL採取し、0.1mol/Lのトリス塩酸緩衝液2.88mLが入った別個のセルにそれぞれ加えた。各セルに酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)水溶液を、シリンジを用いて50μLずつ加え、攪拌した後、30℃に設定した恒温槽中に10分間静置した。
【0188】
その後、各セルにギ酸水溶液をシリンジで50μL加えた。これによって、第2の水溶液に含まれているギ酸脱水素酵素と、セル中のギ酸とが反応を開始した。反応時の初期濃度は、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド1mmol/L、ギ酸30mmol/Lとなった。
【0189】
このセルを恒温槽から取り出し、吸光度測定装置(日本分光株式会社製、型式:V−630)にセットして、波長340nmの吸光度を測定し、溶液中の還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の生成濃度を求めて、初速度を「第2の水溶液中に含まれる酵素の活性」とした。なお、測定した後はセルを恒温槽に戻した。
【0190】
式(2)における「マイクロカプセルを潰して得た液体中の酵素の活性」は、次のようにして測定した。実施例II及び比較例IIで得られたマイクロカプセルをそれぞれすり鉢ですり潰し、マイクロカプセル内部の液体を得た。これらをシリンジで20μLずつ採取し、第2の水溶液中の酵素の活性を測定した場合と同じ条件で酵素反応を行った。反応後の溶液について同様に吸光度を測定し、溶液中の還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の生成濃度を求めて、初速度を「マイクロカプセルを潰して得た液体中の酵素の活性」とした。
【0191】
実施例II−2−1〜実施例II−2−5で得られたマイクロカプセルの酵素の固定化収率IIは、図11に(○)で示すように、アミノ基を有するシラン化合物の濃度が0.01mol/Lの場合は73%であり、0.03mol/Lの場合は74%であり、0.05mol/Lの場合は82%であり、0.08mol/Lの場合は89%であり、0.1mol/Lでは90%であった。また、比較例II(すなわち、シラン化合物の含有量が0mol/Lの場合)で得られたマイクロカプセルの酵素の固定化収率IIは、図11に(■)で示すように、61%であった。
【0192】
実施例II−2−1、実施例II−2−6〜実施例II−2−9で得られたマイクロカプセルの固定化収率IIは、図12に示すように、塩化カルシウムの濃度が0.02mol/Lの場合は90%であり、0.05mol/Lの場合は90%であり、0.08mol/Lの場合は73%であり、0.1mol/Lの場合は58%であり、0.15mol/Lの場合は37%であった。
【0193】
(結果)
本発明に係るマイクロカプセルの製造方法の第1形態及び第2形態で得られたマイクロカプセルは、酵素の固定化収率が優れ、皮膜が緻密であることが明らかになった。
【符号の説明】
【0194】
1 第1の水溶液
2 第2の水溶液
10 マイクロカプセル製造装置
11 シリンジポンプ
12 容器
13 攪拌子
14 攪拌装置
15 液滴
16 マイクロカプセル
21 芯液
22 皮膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロカプセルは、直径が数μmから数千μmの微小なカプセルであり、芯液とそれを覆う皮膜とで構成される。マイクロカプセルを構成する皮膜は、芯液を外部環境から保護することができるとともに、その皮膜を構成する物質(以下、「皮膜材物質」ともいう。)の種類や膜厚を調製することによって、芯液に含まれる物質の外部への放出時期をコントロールすることもできる。そのため、マイクロカプセルは様々な用途に用いられている。
【0003】
例えば、マイクロカプセルは、酵素、細胞又は微生物等の生体触媒の固定化担体として用いられている。生体触媒は、通常、触媒反応後の溶液中から回収して再び用いることが難しいが、生体触媒をマイクロカプセルの内部に固定化することで、その生体触媒を触媒反応後の溶液中から回収して再び用いることができる。ここで、「固定化する」とは、マイクロカプセルの内部に生体触媒を封じ込めることをいう。
【0004】
生体触媒が固定化されたマイクロカプセルの製造方法として、非特許文献1等では、生体触媒を添加した多糖類水溶液を架橋剤水溶液に滴下する方法が用いられている。この方法によれば、滴下された液滴の表面に含まれる多糖類が、架橋剤に接してゲル化されて皮膜(以下、「多糖類ゲル皮膜」という。)を形成し、その内部に生体触媒が固定化されたマイクロカプセルを容易に得ることができる。この方法では、塩化カルシウム等の二価金属イオンを含む化合物が架橋剤として用いられている。
【0005】
しかしながら、二価金属イオンによって架橋された多糖類ゲル皮膜は、酵素等のサイズが小さい生体触媒は皮膜の細孔から漏出して固定化できない場合がある。
【0006】
特許文献1には、多糖類であるアルギン酸をゲル化するときに微生物や酵素等の一部が固化用液に漏出するという問題を解決できるとする固定化技術が提案されている。この技術は、自重の数十倍から数百倍の水を速やかに吸水してヒドロゲルとなる性質を有する高吸水性材を、微生物や酵素等の生体触媒の懸濁液に添加した後、さらにアルギン酸のゲルの内部に固定化するというものである。この技術によれば、微生物や酵素等の生体触媒を高収率及び高密度で固定化できるとされている。
【0007】
また、マイクロカプセルの皮膜の表面にコーティングを施して、その皮膜の強度や生体触媒の固定化収率を高める試みがなされている。
【0008】
非特許文献1には、マイクロカプセルの表面にシリカ皮膜をコーティングする技術が提案されている。この技術は、シリコンアルコキシドの気流下で、アルギン酸溶液を塩化カルシウム溶液に滴下することで、マイクロカプセルの表面にシリカ皮膜をコーティングするというものである。この技術によれば、機械的強度や化学的耐久性が優れているマイクロカプセルができるとされている。非特許文献2には、アルギン酸ゲルを皮膜とするマイクロカプセルの表面にコーティングしたポリリジンを介して、その表面にケイ酸ナトリウムを析出させるという技術が提案されている。この技術によれば、機械抵抗及び酵素の固定化率を改良できるとされている。
【0009】
また、非特許文献3には、人工膵臓細胞を固定化するマイクロカプセルの製造方法が提案されている。この技術は、アルギン酸ゲルの皮膜を有するマイクロカプセルを、シラン化合物を含む有機溶剤中に入れて攪拌して、そのマイクロカプセルの皮膜表面にシラン化合物を含む薄膜層を形成し、そのマイクロカプセルをさらにアルギン酸ナトリウム水溶液中に入れて攪拌して、皮膜表面にアルギン酸ゲルをさらにコーティングするというものである。この技術によれば、化学的及び機械的強度が高く、良好な孔隙率を有するマイクロカプセルとすることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−098689号公報(第0003、0004段落)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Boninsega, R.D.Toso and R.D.Monte, J.Sol-Gel Sci.Technol., 26, p.1151-1157(2003).
【非特許文献2】T.Coradin, E.Mercey, L.Lisnard and J.Livage,Chem.Commun., p.2496-2497(2001).
【非特許文献3】S.Sakai, T.Ono, H.Iijima and K.Kawakami, J.Sol-Gel Sci.Technol., 28, p.267-272(2003).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
シラン化合物は、通常、大量の水に接触すると加水分解及び重縮合が進行して固形物として析出してしまう。そのため、マイクロカプセルの皮膜にシラン化合物を含む層を形成する場合は、通常、非特許文献3に記載されているように、予め水溶液中でマイクロカプセルを製造しておき、その後、有機溶剤を用いてその皮膜表面にシラン化合物の層を形成する。この場合、最初のマイクロカプセルは、皮膜が二価金属イオンで架橋されたアルギン酸ゲルからなるので、酵素の固定化担体として用いると、従来のマイクロカプセルと同様、そのマイクロカプセルを製造する段階で酵素等が漏れ出してしまうおそれがある。また、この方法では、水系と有機溶剤系との反応を別個に行わなければならず、作業工程が煩雑になる。
【0013】
また、特許文献1に記載されている生体触媒の固定化方法では、生体触媒を高吸収性材に吸収させてヒドロゲル状にした状態で、さらにアルギン酸ゲルによってマイクロカプセルを製造している。そのため、作業工程が煩雑になるおそれがある。非特許文献1に記載されている方法も、シリコンアルコキシドの気流下でアルギン酸溶液を塩化カルシウム溶液に滴下するため、装置が大型化してしまい、作業工程が煩雑になってしまう。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、皮膜が緻密なマイクロカプセルを、水溶液中の反応のみで容易に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
シラン化合物は、上述のように、通常、大量の水に接触すると加水分解及び重縮合が進行して固形物として析出してしまうが、アミノ基を有するシラン化合物は、水に溶けて安定に存在する。そこで、本発明者は、アミノ基を有するシラン化合物を用いてマイクロカプセルを製造することができれば、緻密な皮膜を有したマイクロカプセルを水溶液中の反応のみで製造することができると考え、鋭意研究を重ねた。その過程で、アミノ基を有するシラン化合物自体が、水溶性多糖類を架橋してゲル化することができることを見出し、シラン化合物を架橋剤として用いてマイクロカプセルを生成できることを見出した。
【0016】
本発明者はさらに研究を進め、水溶性多糖類を含む水溶液と、アミノ基を有するシラン化合物を含む水溶液とを接触させるという1工程だけで、皮膜が緻密なマイクロカプセルを容易に製造することができることを見出した。
【0017】
上記課題を解決するための本発明に係るマイクロカプセルの製造方法は、カルボキシル基を有する水溶性多糖類を含む第1の水溶液と、アミノ基を有するシラン化合物を含む第2の水溶液とを準備する工程、及び、前記第1の水溶液と前記第2の水溶液とを接触させてマイクロカプセルを生成する工程、を有することを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、アミノ基を有するシラン化合物が架橋剤として作用して、カルボキシル基を含む水溶性多糖類をゲル化して皮膜を形成するので、マイクロカプセルを水溶液中の反応のみで容易に製造することができる。シラン化合物が架橋剤として作用するメカニズムは現段階では明らかではないが、おそらく、図2に示すように、シラン化合物のアミノ基と水溶性多糖類のカルボキシル基とが静電相互作用で結合するとともに、シラン化合物同士が重縮合してシロキサンポリマーを形成していると考えられる。その結果、得られるマイクロカプセルの皮膜は、多糖類ゲルとシロキサンポリマーとの複合膜となって、多糖類ゲルの細孔をシロキサンポリマーが埋めるようにして、緻密な皮膜を形成すると推定される。
【0019】
皮膜が緻密であるか否かは、例えば、マイクロカプセルの内部に酵素を固定化した場合に、酵素が漏出する割合が大きいか否かで評価することができる。また、酵素が漏出する割合が大きいか否かは、酵素の固定化収率によって評価することができる。酵素の固定化収率が高い場合は、酵素の漏れが少なく、マイクロカプセルの皮膜が緻密であることが分かる。酵素の固定化収率が低い場合は、酵素の漏れが多く、マイクロカプセルの皮膜が緻密でないことが分かる。このマイクロカプセルの内部に酵素を固定化すると、高い固定化収率で酵素を固定化できるので、酵素の漏れが少なく、皮膜が緻密なマイクロカプセルであることがわかる。
【0020】
本発明に係るマイクロカプセルの製造方法において、前記接触を、前記第2の水溶液に前記第1の水溶液を加えて行う。
【0021】
この発明によれば、第2の水溶液に第1の水溶液を加えるので、第1の水溶液の液滴の表面に含まれるカルボキシル基を有する水溶性多糖類が、第2の水溶液に含まれるアミノ基を有するシラン化合物によって架橋されてゲル化し、皮膜を形成する。その結果、水溶液中の反応のみでマイクロカプセルを容易に製造することができる。このマイクロカプセルを酵素の固定化担体として用いると、高い固定化収率で酵素を固定化できるので、酵素の漏れが少なく、皮膜が緻密なマイクロカプセルであることがわかる。
【0022】
本発明に係るマイクロカプセルの製造方法において、前記接触を、前記第1の水溶液に前記第2の水溶液を加えて行う。
【0023】
この発明によれば、第1の水溶液に第2の水溶液を加えるので、第2の水溶液の液滴の表面に含まれるアミノ基を有するシラン化合物が、第2の水溶液に含まれるカルボキシル基を有する水溶性多糖類を架橋してゲル化し、皮膜を形成する。その結果、水溶液中の反応のみでマイクロカプセルを容易に製造することができる。このマイクロカプセルを酵素の固定化担体として用いると、高い固定化収率で酵素を固定化できるので、酵素の漏れが少なく、皮膜が緻密なマイクロカプセルであることがわかる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るマイクロカプセルの製造方法によれば、皮膜が緻密なマイクロカプセルを、水溶液中の反応のみで容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るマイクロカプセルの製造方法を示すフローチャートである。
【図2】アミノ基を有するシラン化合物とカルボキシル基を有する水溶性多糖類との推定される反応を示す模式図である。
【図3】マイクロカプセルの製造装置の一例を示す模式的概念図である。
【図4】第1形態で得られたマイクロカプセルを示す写真である。
【図5】図4におけるマイクロカプセルの皮膜部分を拡大した写真である。
【図6】実施例I−2におけるシラン化合物の濃度とマイクロカプセルの酵素の固定化収率との関係を示すグラフである。
【図7】実施例I−2における二価金属イオンの濃度とマイクロカプセルの酵素の固定化収率との関係を示すグラフである。
【図8】実施例I−3におけるシラン化合物の濃度とマイクロカプセルの酵素の固定化収率との関係を示すグラフである。
【図9】実施例I−3における二価金属イオンの濃度とマイクロカプセルの酵素の固定化収率との関係を示すグラフである。
【図10】比較例Iにおける塩化カルシウムの濃度とマイクロカプセルの酵素の固定化収率との関係を示すグラフである。
【図11】実施例II−2及び比較例IIにおけるシラン化合物の濃度とマイクロカプセルの酵素の固定化収率との関係を示すグラフである。
【図12】実施例II−2における二価金属イオンの濃度とマイクロカプセルの酵素の固定化収率との関係を示すグラフである。
【図13】第2形態で得られたマイクロカプセルを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係るマイクロカプセル及びその製造方法について詳細に説明する。なお、以下の説明および図面の形態により本発明の技術的範囲が限定されるものではない。
【0027】
本発明に係るマイクロカプセルの製造方法は、図1に示すように、第1の水溶液と第2の水溶液とを準備する工程(水溶液準備工程)と、マイクロカプセルを生成する工程(マイクロカプセル生成工程)とを有する。マイクロカプセル生成工程において、第2の水溶液に第1の水溶液を加える第1形態と、第1の水溶液に第2の水溶液を加える第2形態とに分けることができる。いずれの形態を用いるかは、例えば、加える液滴が破壊するか否かによって選択することが好ましい。液滴の破壊は、加える側の水溶液の粘度が、加えられる側の水溶液の粘度よりも小さい場合にしばしば起こる。そのため、加える側の水溶液は、加えられる側の水溶液よりも粘度が大きいことが望ましい。したがって、第1の水溶液の粘度が第2の水溶液の粘度よりも大きい場合は、第1形態を選択し、小さい場合は第2形態を選択することが望ましい。
【0028】
[第1形態]
本発明に係るマイクロカプセルの製造方法の第1形態は、カルボキシル基を有する水溶性多糖類を含む第1の水溶液と、アミノ基を有するシラン化合物を含む第2の水溶液とを準備する工程、及び、前記第1の水溶液と前記第2の水溶液とを接触させてマイクロカプセルを生成する工程、を有し、第1の水溶液と第2の水溶液との接触を、第2の水溶液に第1の水溶液を加えて行う。
【0029】
<水溶液準備工程>
水溶液準備工程は、第1の水溶液と第2の水溶液とを準備する工程である。
(第1の水溶液)
第1の水溶液は、水溶性多糖類を含む水溶液である。「含む」とは、第1の水溶液が他の添加物を含んでいてもよいことを意味する。例えば、マイクロカプセルを酵素の固定化担体として用いる場合は、第1の水溶液に酵素を含ませることができる。
【0030】
第1の水溶液は、例えば、精製水の入った容器に水溶性多糖類を適量加えて攪拌することにより調製することができる。また、第1の水溶液が酵素を含む場合は、例えば、酵素を含む水溶液と、水溶性多糖類を含む水溶液とを混ぜ合わせることにより、第1の水溶液を調製することができる。
【0031】
第1の水溶液の調製は、マイクロカプセル生成工程の直前に行ってもよいし、予め調製しておいてもよい。予め調製しておく場合は、調製済みの水溶液を購入してもよい。
【0032】
第1の水溶液の温度及びpHは、第2の水溶液に含まれているシラン化合物が、第1の水溶液に含まれている水溶性多糖類を容易にゲル化することができる温度及びpHであればよい。例えば、第1の水溶液の温度が5℃〜50℃の範囲であり、pH3〜pH12の範囲であれば、シラン化合物が水溶性多糖類を容易にゲル化することができる。
【0033】
また、第1の水溶液が酵素を含む場合は、第1の水溶液の温度及びpHを、酵素の活性を安定に維持できる温度及びpHとなるように適宜選択することが望ましい。
【0034】
(水溶性多糖類)
水溶性多糖類は、後述の第2の水溶液に含まれるシラン化合物で架橋されてゲル化し、マイクロカプセルの皮膜を形成する化合物である。水溶性多糖類としては、カルボキシル基を有する水溶性多糖類を用いることができる。そうした水溶性多糖類は、水溶性多糖類の構造中に少なくとも1つのカルボキシル基を有していてもよいし、2つ以上のカルボキシル基を有していてもよいし、他の官能基や結合を有していてもよい。水溶性多糖類が2つ以上のカルボキシル基を有している場合は、その一部が他の置換基に置き換わっていてもよい。
【0035】
水溶性多糖類としては、例えば、アルギン酸類、ペクチン類、カラギーナン類、カルボキシメチルセルロース、寒天等を挙げることができる。アルギン酸類としては、例えば、アルギン酸、アルギン酸塩類を挙げることができる。アルギン酸塩類としては、例えば、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸ナトリウム等を挙げることができる。ペクチン類としては、例えば、D−ガラクツロン酸の直鎖状重合体からなる多糖類を挙げることができる。また、D−ガラクツロン酸のカルボキシル基の一部がメチルエステルとなっている多糖類でも、カルボキシル基を1つ又は2つ以上有していれば用いることができる。カラギーナン類としては、例えば、κ(カッパ)−カラギーナン、ι(イオタ)−カラギーナンを挙げることができる。
【0036】
これらのうち、第2の水溶液に含まれるシラン化合物によってゲル化しやすいという観点から、アルギン酸塩類、カラギーナン類又はペクチン類を含むことが好ましい。より具体的には、アルギン酸ナトリウム、κ(カッパ)−カラギーナン又はペクチンを含むことがより好ましい。これらを含むことによって、アミノ基を有するシラン化合物によってより架橋されてゲル化しやすくなる。
【0037】
第1の水溶液中の水溶性多糖類の含有量は、特に限定されないが、1質量%〜10質量%とすることが好ましく、1質量%〜5質量%とすることがより好ましい。この範囲とすることにより、第1の水溶液が液滴を形成しやすくなる。
【0038】
(酵素)
酵素は、必要に応じて第1の水溶液に含ませてもよい。酵素を第1の水溶液に含ませることによって、酵素を固定化したマイクロカプセルを得ることができる。酵素は、高い固定化収率でマイクロカプセルの内部に固定化される。
【0039】
酵素の種類は、特に限定されず、酵素によって化学反応を触媒される物質(以下、「基質」という。)や反応条件等によって、適宜選択して用いることができる。酵素としては、例えば、酸化還元酵素、転移酵素、加水分解酵素、リアーゼ、異性化酵素及びリガーゼ等から選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。また、第1の水溶液中の酵素の含有量は、特に限定されない。
【0040】
ここでの「固定化収率」とは、酵素の活性を維持した状態で、マイクロカプセルに固定化できる酵素の割合のことをいう。例えば、固定化された酵素が活性を失っている場合は、漏れ出す酵素が少なくても、固定化収率は低くなる。固定化収率が高い場合は、酵素の活性を維持しつつ、酵素が漏れ出すことを防ぐことができることを意味している。固定化収率が高い場合は、酵素の漏れが少なく、マイクロカプセルの皮膜が緻密であることが分かる。固定化収率が低い場合は、酵素の漏れが多く、マイクロカプセルの皮膜が緻密でないことが分かる。
【0041】
酵素の固定化収率は、式(1)により求めることができる。すなわち、マイクロカプセルに固定化する前の第1の水溶液中の酵素の活性を100%とした場合の、固定化後のマイクロカプセルを潰して得られた液体中の酵素の活性の割合(%)によって固定化収率を求めることができる。式(1)によれば、固定化時に失活した酵素は固定化収率の評価から除かれ、活性状態の酵素をどの程度の割合で固定化できたかを評価することができる。これによって、そのマイクロカプセルの皮膜がどの程度緻密であるかを評価することができる。
【0042】
【数1】
【0043】
なお、本発明に係るマイクロカプセルの製造方法は、酵素に代えて、微生物や細胞等の生体触媒を第1の水溶液に含ませてもよい。本発明に係るマイクロカプセルの製造方法によれば、微生物や細胞等も高い固定化収率で固定化することができる。
【0044】
(第2の水溶液)
第2の水溶液は、シラン化合物を含む水溶液である。「含む」とは、第2の水溶液が、他の添加物を含んでいてもよいことを意味する。例えば、第2の水溶液が後述の二価金属イオンを必要に応じて含んでいてもよい。
【0045】
第2の水溶液は、例えば、精製水の入った容器にアミノ基を有するシラン化合物を加えて攪拌することにより調製することができる。第2の水溶液の調製は、マイクロカプセルを生成する工程の直前に行ってもよいし、予め調製しておいてもよい。予め調製する場合は、調製済みの水溶液を購入してもよい。
【0046】
第2の水溶液の温度及びpHは、シラン化合物が第1の水溶液に含まれる水溶性多糖類を容易にゲル化することができる温度及びpHであればよい。例えば、第2の水溶液の温度が5℃〜50℃の範囲であり、pH3〜pH12の範囲であれば、シラン化合物が水溶性多糖類を容易にゲル化することができる。
【0047】
第1の水溶液が酵素を含む場合は、第2の水溶液を調製するときの条件を、酵素の活性を安定に維持できる温度及びpHとなるように適宜選択することが望ましい。
【0048】
(シラン化合物)
シラン化合物は、第1の水溶液に含まれる水溶性多糖類をゲル化する架橋剤としての機能を有する。シラン化合物が架橋剤として作用するメカニズムは、現段階では明らかではないが、おそらく、図2に示すように、シラン化合物が有するアミノ基と水溶性多糖類が有するカルボキシル基とが静電相互作用により結合するとともに、シラン化合物同士が重縮合してシロキサンポリマーを形成していると推定される。そのため、得られるマイクロカプセルの皮膜は、多糖類ゲルとシロキサンポリマーとの複合膜となって、多糖類ゲルの細孔をシロキサンポリマーが埋めるようにして、緻密な皮膜を形成すると推定される。
【0049】
シラン化合物は、アミノ基を有するシラン化合物を用いることができる。そうしたシラン化合物は、シラン化合物の構造中に少なくとも1つのアミノ基を有していてもよいし、2つ以上のアミノ基を有していてもよいし、他の官能基や結合を有していてもよい。
【0050】
シラン化合物としては、シランカップリング剤として広く知られているシラン化合物を用いることができる。例えば、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を2つ以上有するシラン化合物や、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基を1つ有するシラン化合物等を挙げることができる。これらの化合物から選ばれる1種又は2種以上をシラン化合物として用いることができる。
【0051】
これらのシラン化合物のうち、アミノ基を2つ以上有するシラン化合物から選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。具体的には、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン及びN−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランから選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。これらのシラン化合物を含む第2の水溶液を用いることによって、皮膜がより緻密なマイクロカプセルを得ることができる。
【0052】
シラン化合物の入手しやすさの観点からは、3−アミノプロピルトリメトキシシラン及びN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランから選ばれる1種又は2種を用いることが好ましい。
【0053】
第2の水溶液中のシラン化合物の含有量は、合計0.01mol/L〜0.4mol/Lとすることが好ましい。シラン化合物の含有量を合計0.01mol/L〜0.4mol/Lとすることで、得られるマイクロカプセルの皮膜を緻密にすることができる。
【0054】
シラン化合物として、アミノ基を2つ以上有するシラン化合物から選ばれる1種又は2種以上を用いる場合は、第2の水溶液中のシラン化合物の含有量は、合計0.01mol/L〜0.05mol/Lとすることが好ましく、合計0.02mol/L〜0.05mol/Lとすることがより好ましく、合計0.03mol/L〜0.05mol/Lとすることが特に好ましい。アミノ基を2つ以上有するシラン化合物の含有量を合計0.01mol/L〜0.05mol/Lとすることにより、得られるマイクロカプセルの皮膜を緻密にすることができる。
【0055】
一方、シラン化合物として、アミノ基を1つ有するシラン化合物から選ばれる1種又は2種以上を用いる場合は、第2の水溶液中のシラン化合物の含有量は、合計0.2mol/L〜0.4mol/Lとすることが好ましく、合計0.25mol/L〜0.4mol/Lとすることがより好ましく、合計0.3mol/L〜0.4mol/Lとすることが特に好ましい。アミノ基を1つ有するシラン化合物の含有量を合計0.2mol/L〜0.4mol/Lとすることにより、得られるマイクロカプセルの皮膜を緻密にすることができる。
【0056】
(二価金属イオン)
二価金属イオンは、必要に応じて第2の水溶液に含ませてもよい。二価金属イオンを第2の水溶液に含ませることで、得られるマイクロカプセルが凝集することを防ぐことができ、マイクロカプセルの取り扱いを容易にすることができる。
【0057】
なお、二価金属イオンを含まない第2の水溶液を用いてマイクロカプセルを製造した場合には、得られるマイクロカプセルは、マイクロカプセルを生成した後、第2の水溶液の攪拌を止め静置状態とすると、凝集して数珠状に連なってしまうことがある。凝集が起こるメカニズムは、現段階では明らかではないが、おそらく、得られるマイクロカプセルの皮膜の表面に含まれる、シラン化合物によって架橋されていない水溶性多糖類由来の遊離したカルボキシル基が、何かと反応して引き起こしていると推定される。
【0058】
二価金属イオンは、マイクロカプセルの皮膜の表面に含まれる水溶性多糖類(すなわち、シラン化合物によって架橋されていない水溶性多糖類)を架橋する。その結果、マイクロカプセルの皮膜の表面に含まれる遊離したカルボキシル基が少なくなり、遊離したカルボキシル基が引き起こすマイクロカプセルの凝集を阻止することができると考えられる。なお、二価金属イオンは、マイクロカプセルの皮膜の表面を架橋するので、その皮膜の強度を高める作用も有している。
【0059】
二価金属イオンを第2の水溶液に配合する方法としては、二価金属イオンを第2の水溶液に加えて攪拌する方法や、二価金属イオンを含む水溶液と第2の水溶液とを混ぜ合わせる方法等を挙げることができる。
【0060】
二価金属イオンを第2の水溶液に配合するタイミングは、水溶液準備工程であってもよいし、マイクロカプセル生成工程であってもよい。マイクロカプセル生成工程で配合する場合は、第2の水溶液に第1の水溶液を加えるのと同時又はその直後であることが好ましい。このように、マイクロカプセルを生成した後速やかに二価金属イオンを第2の水溶液に配合することで、得られたマイクロカプセル同士が接触して数珠状に繋がってしまうことを容易に防ぐことができる。
【0061】
なお、二価金属イオンは、水溶性多糖類を架橋するので、水溶性多糖類が含まれる第1の水溶液には配合しない。二価金属イオンを第1の水溶液に配合すると、二価金属イオンがシラン化合物に先立って水溶性多糖類を架橋してしまい、シラン化合物の架橋剤作用を阻害してしまう。その結果、マイクロカプセルの皮膜を緻密にすることが困難となってしまう。
【0062】
二価金属イオンとしては、例えば、Ca2+、Pb2+、Cu2+、Cd2+、Ba2+、Sr2+、Co2+、Ni2+、Zn2+及びMn2+から選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。二価金属イオンを含む化合物としては、例えば、二価金属イオンを含む塩化物、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩等を挙げることができる。具体的には、CaCl2、CaSO4、Ca(OH)2、Ca(NO3)2、PbCl2、PbSO4、Pb(OH)2、Pb(NO3)2、CuCl2、CuSO4、Cu(OH)2、Cu(NO3)2、CdCl2、CdSO4、Cd(OH)2、Cd(NO3)2、BaCl2、BaSO4、Ba(OH)2、Ba(NO3)2、SrCl2、SrSO4、Sr(OH)2、Sr(NO3)2、CoCl2、CoSO4、Co(OH)2、Co(NO3)2、NiCl2、NiSO4、Ni(OH)2、Ni(NO3)2、ZnCl2、ZnSO4、Zn(OH)2、Zn(NO3)2、MnCl2、MnSO4、Mn(OH)2、Mn(NO3)2等を挙げることができる。
【0063】
なお、二価金属イオンに代えて、マイクロカプセルが数珠状に凝集することを防ぐことができる他の物質を用いることもできる。
【0064】
第2の水溶液中の二価金属イオンを含む化合物の含有量は、0.001mol/L〜0.15mol/Lとすることが好ましい。この範囲とすることで、シラン化合物の架橋作用に悪影響を与えずに、マイクロカプセルが凝集するのを容易に防ぐことができる。二価金属イオンを含む化合物の含有量が、0.15mol/Lを超えると、得られるマイクロカプセルの皮膜の緻密性がやや劣ってしまうことがある。一方、二価金属イオンの含有量が、0.001mol/L未満では、凝集阻止作用を十分に発揮できないことがある。
【0065】
二価金属イオンを含む化合物の含有量は、第2の水溶液中に0.001mol/L〜0.1mol/Lとすることがより好ましく、0.001mol/L〜0.05mol/Lとすることが特に好ましい。この範囲とすることで、シラン化合物の架橋作用に悪影響を与えずに、マイクロカプセルが凝集することをより容易に防ぐことができる。
【0066】
<マイクロカプセル生成工程>
マイクロカプセル生成工程は、第2の水溶液に第1の水溶液を加えて両水溶液を接触させることによって、マイクロカプセルを生成する工程である。第2の水溶液に第1の水溶液を加えるので、第1の水溶液の液滴の表面に含まれる水溶性多糖類が、第2の水溶液に含まれるシラン化合物によって架橋されてゲル化し、皮膜を形成する。その結果、水溶液中の反応のみでマイクロカプセルを容易に製造することができる。
【0067】
「接触させる」とは、両水溶液を混合して、両溶液に含まれる物質同士が反応を行い得る状態にさせることをいう。「加える」方法としては、例えば、第2の水溶液に、第1の水溶液を滴下又は注入する方法を挙げることができる。
【0068】
滴下によって加える方法としては、例えば、シリンジの先端から第1の水溶液を第2の水溶液に滴下する方法、遠心力を利用して第1の水溶液を粒状に飛散させて第2の水溶液に滴下する方法、スプレーノズルの先端から第1の水溶液を霧化して粒状として第2の水溶液に滴下する方法を挙げることができる。また、芯液に含ませる物質(例えば、酵素等)を含む水溶液と水溶性多糖類水溶液とを、二重管を用いて第2の水溶液に滴下する方法(二重管ノズル法)を用いることもできる。注入によって加える方法としては、例えば、第1の水溶液が入ったシリンジの先端を、容器に入った第2の水溶液中に入れた状態で、シリンジの先端から第1の水溶液を第2の水溶液中に押し出す方法を挙げることができる。
【0069】
第2の水溶液に加える第1の水溶液の量は、得ようとするマイクロカプセルの大きさに合わせて適宜変更することができる。例えば、1μL〜100μLの範囲で第2の水溶液に第1の水溶液を加えることができる。なお、後述の実施例では、第2の水溶液に第1の水溶液を10μLずつ加えている。
【0070】
(製造装置)
第1の水溶液を第2の水溶液に滴下する方法を用いたマイクロカプセルの製造装置としては、例えば、図3に示す装置を挙げることができる。図3に示すマイクロカプセル製造装置10は、第1の水溶液1が充填されたシリンジポンプ11と、第2の水溶液2が入っている容器12と、容器12の底部に配置された攪拌子13と、攪拌装置(マグネチックスターラー)14とで構成されている。攪拌装置14によって攪拌子13が回転して第2の水溶液を攪拌できるようになっている。
【0071】
シリンジポンプ11からは、第1の水溶液1が一定量で押し出されて液滴15となる。この液滴15には、カルボキシル基を有する水溶性多糖類が含まれている。この液滴15を、第2の水溶液2に滴下することによって、第1の水溶液1と第2の水溶液2とが接触し、水溶性多糖類がゲル化する。それによって、多糖類ゲルからなる皮膜22と、シラン化合物によって架橋されていない水溶性多糖類を含む芯液21とを有するマイクロカプセル16を製造できる。
【0072】
得られるマイクロカプセルを酵素の固定化担体として用いる場合は、第1の水溶液1が、水溶性多糖類と酵素とを含み、得られるマイクロカプセル16の芯液21が、シラン化合物によって架橋されていない水溶性多糖類と、酵素とを含む。
【0073】
このマイクロカプセル製造装置10によれば、簡便な装置構成によって本発明に係るマイクロカプセル16の製造方法を実現することができる。
【0074】
なお、必要に応じて含まれる二価金属イオンを、第2の水溶液に配合する製造装置としては、図3に示すマイクロカプセル製造装置10に、二価金属イオン水溶液が入ったシリンジポンプ(図示しない)を加えて構成してなる装置を挙げることができる。
【0075】
次に、第1の水溶液を第2の水溶液に注入する方法を用いたマイクロカプセルの製造装置としては、図3に示すように、第1の水溶液1が充填されたシリンジポンプ11と、第2の水溶液2が入っている容器12と、容器12の底部に配置された攪拌子13と、攪拌装置(マグネチックスターラー)14と、一端がシリンジポンプ11の先端に接続し、他端が第2の水溶液2中に配置されたチューブ状の管(図示しない)とで構成された装置を挙げることができる。このマイクロカプセル製造装置では、第1の水溶液1がシリンジポンプ11から一定量押し出され、チューブ状の管(図示しない)を経由して第2の水溶液2中に直接注入される。第1の水溶液1は、第2の水溶液2に注入された瞬間に第2の水溶液2と接触してゲル化し、マイクロカプセルが形成される。このマイクロカプセル製造装置によれば、第1の水溶液1が空気に触れずに第2の水溶液2に接触するので、マイクロカプセル製造過程で空気中の浮遊物が混入することがない。
【0076】
<表面処理工程>
本発明に係るマイクロカプセル製造方法の第1形態においては、得られたマイクロカプセルの皮膜の強度を高めるための表面処理工程を、必要に応じて有していてもよい。表面処理工程を有することで、例えば、マイクロカプセルを酵素の固定化担体として用いた場合に、そのマイクロカプセルを繰り返し触媒反応に用いたとしても、皮膜が壊れて酵素を含む芯液が漏出してしまうことを防ぐことができる。
【0077】
マイクロカプセルの皮膜の強度を高めるために、表面処理剤が用いられる。表面処理剤としては、例えば、得られたマイクロカプセルの皮膜表面に含まれる遊離したアミノ基又は遊離したカルボキシル基と静電的に結合する化合物や、遊離したアミノ基又は遊離したカルボキシル基を架橋する化合物を挙げることができる。例えば、水溶性多糖類、ジクロリド化合物、カルボジイミド化合物及びアルデヒド化合物から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0078】
水溶性多糖類としては、例えば、アルギン酸類、ペクチン類、カラギーナン類、カルボキシメチルセルロース、寒天類等を挙げることができる。アルギン酸類としては、例えば、アルギン酸、アルギン酸塩類を挙げることができる。アルギン酸塩類としては、例えば、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸ナトリウム等を挙げることができる。ペクチン類としては、例えば、D−ガラクツロン酸の直鎖状重合体からなる多糖類を挙げることができる。
【0079】
ジクロリド化合物としては、例えば、セバコイルクロリド、セバシン酸ジクロリド、アジピン酸ジクロリド、テレフタロイルジクロリド等を挙げることができる。
【0080】
カルボジイミド化合物としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、1−エチル−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩等を挙げることができる。
【0081】
アルデヒド化合物としては、例えば、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド等を挙げることができる。
【0082】
なお、表面処理剤としては、これらの物質に代えて、マイクロカプセルの皮膜の強度を高めることができる他の物質を用いることもできる。
【0083】
表面処理工程は、表面処理剤を含む溶剤中に、得られたマイクロカプセルを浸漬する等によって行うことができる。
【0084】
溶剤としては、表面処理剤として水溶性多糖類を用いる場合は、水を用いることができる。表面処理剤としてジクロリド化合物、カルボジイミド化合物又はアルデヒド化合物を用いる場合は、水又は有機溶剤を用いることができる。有機溶剤としては、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の炭化水素系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン系溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノール等のアルコール系溶剤;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の芳香族アルキルアルコール溶剤;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール系溶剤;上記した各種有機溶剤から選ばれる1種又は2種以上の混合物;等を挙げることができる。
【0085】
溶剤中における表面処理剤の含有量は、特に限定されない。例えば、表面処理剤の含有量が、0.01mol/L〜0.2mol/Lの範囲であれば、容易にマイクロカプセルの皮膜表面を架橋することができる。
【0086】
<マイクロカプセル>
第1形態によって得られるマイクロカプセル16は、図3に示すように、皮膜22とその内部に閉じ込められた芯液21とで構成される。このマイクロカプセル16を、酵素の固定化担体として用いる場合、酵素を高い固定化収率で固定化することができるので、皮膜22は緻密であることが分かる。
【0087】
皮膜22が緻密になっている理由は、現時点では明らかではないが、おそらく、シラン化合物で架橋された多糖類ゲルと、シラン化合物が水で加水分解及び重縮合して形成されるシロキサンポリマーとが、静電相互作用で結合して、膜全体が複合膜となっていると推測される。複合膜となることで、多糖類ゲルの細孔をシロキサンポリマーが埋めるようにして、緻密な皮膜を形成していると考えられる。
【0088】
この皮膜をX線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ社製、ESCA5600)によって分析すると、エネルギー105eV及び400eVにスペクトルが得られ、ケイ素及び窒素を確認することができる。また、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光株式会社製、FT/IR−4200)によって分析すると、Si−O−Si結合等を確認することができる。
【0089】
芯液は、液体又はゲル状体であり、シラン化合物によって架橋されていない水溶性多糖類を含む水溶液を含んでいる。第1の水溶液が酵素を含んでいる場合は、芯液は酵素も含んでいる。
【0090】
[第2形態]
本発明に係るマイクロカプセルの製造方法の第2形態は、カルボキシル基を有する水溶性多糖類を含む第1の水溶液と、アミノ基を有するシラン化合物を含む第2の水溶液とを準備する工程、及び、前記第1の水溶液と前記第2の水溶液とを接触させてマイクロカプセルを生成する工程、を有し、第1の水溶液と第2の水溶液との接触を、第1の水溶液に第2の水溶液を加えて行う。
【0091】
第2形態は、シラン化合物が架橋剤として作用し、水溶性多糖類を架橋してマイクロカプセルの皮膜を形成する点で、第1形態と共通する。
【0092】
一方、第2形態は、マイクロカプセル生成工程において、第1の水溶液に第2の水溶液を加える点で、第1形態と異なる。また、マイクロカプセルを酵素の固定化担体として用いる場合、酵素を含ませる水溶液は、第1の水溶液ではなく第2の水溶液である点でも、第1形態と異なる。
【0093】
<水溶液準備工程>
水溶液準備工程は、第1の水溶液と第2の水溶液とを準備する工程である。
(第1の水溶液)
第1の水溶液は、第1形態と同様、水溶性多糖類を含む水溶液である。第1の水溶液の調整方法、温度及びpHについては、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。後述の第2の水溶液が酵素を含む場合は、第1の水溶液の温度及びpHを、酵素の活性を安定に維持できる温度及びpHとなるように適宜選択することが望ましい。
【0094】
(水溶性多糖類)
水溶性多糖類は、第1形態と同様、第2の水溶液に含まれるシラン化合物で架橋されてゲル化し、マイクロカプセルの皮膜を形成する。水溶性多糖類の特徴及び種類については、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。
【0095】
第1の水溶液中の水溶性多糖類の含有量は、特に限定されないが、0.5質量%〜5質量%とすることが好ましく、0.5質量%〜1質量%とすることがより好ましい。この範囲にすることにより、第2の水溶液の液滴が第1の水溶液中に混ざりやすくなる。
【0096】
(第2の水溶液)
第2の水溶液は、第1形態と同様、シラン化合物を含む水溶液である。マイクロカプセルを酵素の固定化担体として用いる場合は、第2の水溶液が酵素を含む。第2の水溶液の調製方法、温度及びpHについては、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。
【0097】
第2の水溶液が酵素を含む場合は、酵素の活性を安定に維持できる温度及びpHとなるように適宜選択することが望ましい。
【0098】
(シラン化合物)
シラン化合物は、第1形態と同様、第1の水溶液に含まれる水溶性多糖類をゲル化する架橋剤としての機能を有する。シラン化合物が架橋剤として作用するメカニズム、シラン化合物の特徴及び種類については、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。
【0099】
シラン化合物の含有量は、第2の水溶液中に合計0.01mol/L〜0.4mol/Lの範囲とすることが好ましい。シラン化合物の含有量を合計0.01mol/L〜0.4mol/Lとすることで、得られるマイクロカプセルの皮膜を緻密にすることができる。
【0100】
シラン化合物として、アミノ基を2つ以上有するシラン化合物から選ばれる1種又は2種以上を用いる場合は、第2の水溶液中のシラン化合物の含有量は、合計0.01mol/L〜0.1mol/Lの範囲とすることが好ましく、合計0.05mol/L〜0.1mol/Lの範囲とすることがより好ましい。アミノ基を2つ以上有するシラン化合物の含有量を、合計0.01mol/L〜0.1mol/Lの範囲とすることで、得られるマイクロカプセルの皮膜を緻密にすることができる。
【0101】
一方、シラン化合物として、アミノ基を1つ有するシラン化合物から選ばれる1種又は2種以上を用いる場合は、第2の水溶液中のシラン化合物の含有量は、合計0.2mol/L〜0.4mol/Lとすることが好ましく、合計0.25mol/L〜0.4mol/Lとすることがより好ましい。アミノ基を1つ有するシラン化合物の含有量を合計0.2mol/L〜0.4mol/Lとすることにより、得られるマイクロカプセルの皮膜を緻密にすることができる。
【0102】
(酵素)
酵素は、必要に応じて第2の水溶液に含ませてもよい。酵素を第2の水溶液に含ませることによって、酵素を固定化したマイクロカプセルを得ることができる。酵素は、第1形態では第1の水溶液に含ませているのに対して、第2形態では第2の水溶液に含ませている。このように、第1形態と第2形態とでは、酵素を含ませる場合の水溶液が異なるものの、いずれも、生成工程で「加える側」の水溶液に含ませる点で共通している。「加える側」の水溶液とは、第1形態では第1の水溶液であり、第2形態では第2の水溶液である。
【0103】
酵素の種類及び含有量については、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。「固定化収率」の定義及び性質についても、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。
【0104】
固定化収率は、式(2)によって求めることができる。すなわち、マイクロカプセルに固定化する前の第2の水溶液中の酵素の活性を100%とした場合の、固定化後のマイクロカプセルを潰して得られた液体中の酵素の活性の割合(%)によって固定化収率を求めることができる。式(2)によれば、固定化時に失活した酵素は固定化収率の評価から除かれ、活性状態の酵素をどの程度の割合で固定化できたかを評価することができる。これによって、そのマイクロカプセルの皮膜がどの程度緻密であるかを評価することができる。
【0105】
【数2】
【0106】
(二価金属イオン)
二価金属イオンは、第1形態と同様、必要に応じて第2の水溶液に含ませてもよい。二価金属イオンを第2の水溶液に含ませることで、得られるマイクロカプセルが凝集することを防ぐことができるとともに、マイクロカプセルの皮膜の強度を高めることができる。二価金属イオンがマイクロカプセルの皮膜表面に作用するメカニズム、配合方法、種類及び含有量については、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。
【0107】
(その他)
第2の水溶液を第1の水溶液に加えるときに、第2の水溶液の液滴の破壊が生じる場合は、必要に応じて第2の水溶液に増粘剤を含ませて、第2の水溶液の粘度を調製してもよい。
【0108】
増粘剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、デキストラン、でんぷん及びキトサンから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0109】
増粘剤の第2の水溶液中の含有量は、特に限定されず、第2の水溶液を第1の水溶液に加えるときに第2の水溶液の液滴の破壊が生じない程度に適宜選択することができる。
【0110】
また、第2の水溶液を第1の水溶液に加えたときに、第2の水溶液のpHが変化する場合は、必要に応じて第2の水溶液に緩衝液を含ませて、第2の水溶液のpHが変化することを防いでもよい。この場合の緩衝液の種類及び濃度は、特に限定されない。
【0111】
<マイクロカプセル生成工程>
マイクロカプセル生成工程は、第1の水溶液に第2の水溶液を加えて両水溶液を接触させることによって、マイクロカプセルを生成する工程である。第1の水溶液に第2の水溶液を加えるので、第2の水溶液の液滴の表面に含まれるシラン化合物が、第2の水溶液に含まれる水溶性多糖類を架橋してゲル化し、皮膜を形成する。その結果、水溶液中の反応のみでマイクロカプセルを容易に製造することができる。各用語の定義については、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。また、第1の水溶液に加える第2の水溶液の量についても、第1形態における、第2の水溶液に加える第1の水溶液の量と同様であるので、ここではその記載を省略する。
【0112】
「加える」方法としては、例えば、第1の水溶液に第2の水溶液を滴下する方法を挙げることができる。具体的な方法及びその方法を用いた装置の例は、第1形態で第2の水溶液に第1の水溶液を滴下する場合と同様であるので、ここではその記載を省略する。なお、第2形態では、図3に示すシリンジポンプ11には、第2の水溶液2を充填し、容器12には、第1の水溶液1を入れる。また、第1の水溶液に第2の水溶液を加えるときに、第2の水溶液の液滴が第1の水溶液中に混ざりにくい場合は、第1の水溶液1を攪拌子13で強攪拌しながら第2の水溶液を加えることが好ましい。
【0113】
<表面処理工程>
本発明に係るマイクロカプセル製造方法の第2形態においては、第1形態と同様、得られたマイクロカプセルの皮膜の強度を高めるための表面処理工程を、必要に応じて有していてもよい。表面処理剤の種類、表面処理方法、表面処理工程で用いる溶剤の種類及びその溶剤中の表面処理剤の含有量については、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。
【0114】
<マイクロカプセル>
第2形態によって得られるマイクロカプセル16は、第1形態によって得られるマイクロカプセルと同様、図3に示すように、皮膜22とその内部に閉じ込められた芯液21とで構成される。皮膜の構造及び分析方法については、第1形態と同様であるので、ここではその記載を省略する。
【0115】
芯液は、液体又はゲル状体であり、水溶性多糖類を架橋していないシラン化合物を含む水溶液を含んでいる。第2の水溶液が酵素を含んでいる場合は、芯液は酵素も含んでいる。
【0116】
以上説明したように、本発明に係るマイクロカプセルの製造方法の第1形態及び第2形態によれば、皮膜が緻密なマイクロカプセルを、水溶液中の反応のみで容易に製造することができる。
【実施例】
【0117】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下において、「質量%」は「重量%」と同義である。
【0118】
[実施例I]
実施例Iでは、第1形態の製造方法によってマイクロカプセルを製造した。実施例I−1は、第1形態の基本的な構成によってマイクロカプセルを製造した例であり、実施例I−2及び実施例I−3は、基本的な構成に加えて、酵素及び二価金属イオンを用いてマイクロカプセルを製造した例であり、実施例I−4は、二価金属イオンの種類を変えてマイクロカプセルを製造した例である。
【0119】
(実施例I−1)
カルボキシル基を有する水溶性多糖類としてアルギン酸ナトリウム(関東化学株式会社製、型番:37094−01)を2質量%含む水溶液0.5mLを、第1の水溶液として準備した。また、精製水4mLに、アミノ基を有するシラン化合物として3−アミノプロピルトリエトキシシラン(東京化成工業株式会社製、型番:A0439)を、0.1mol/Lになるように加えて攪拌して、第2の水溶液を準備した。
【0120】
シリンジに第1の水溶液を充填し、このシリンジから第1の水溶液を第2の水溶液が入ったビーカーに10μLずつ滴下して、マイクロカプセルを生成した。なお、マイクロカプセル生成工程における第2の水溶液は、温度が25℃であり、pH8.6となるように調整した。得られたマイクロカプセルを網で回収し、脱イオン水で洗浄し、実施例I−1のマイクロカプセルを得た。
【0121】
(実施例I−2)
(実施例I−2−1)
カルボキシル基を有する水溶性多糖類としてアルギン酸ナトリウム(関東化学株式会社製、型番:37094−01)を2質量%含む水溶液0.5mLと、酵素としてギ酸脱水素酵素(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製、型番:837016)を4U/mL含む水溶液0.5mLとを混合して、第1の水溶液を準備した。なお、「U(ユニット)」は触媒活性の単位であり、1Uは酵素の活性が最大となる至適条件下で、毎分1マイクロモルの基質を変化させることができる酵素の数量を表す。また、精製水4mLに、アミノ基を有するシラン化合物として3−アミノプロピルトリエトキシシラン(東京化成工業株式会社製、型番:A0439)を0.1mol/Lになるように加えて攪拌し、さらに二価金属イオンを含む化合物として塩化カルシウム(関東化学株式会社製)を0.01mol/Lになるように加えて攪拌して、第2の水溶液を準備した。その後、実施例I−1と同様に、実施例I−2−1のマイクロカプセルを得た。
【0122】
(実施例I−2−2)
第2の水溶液が含む3−アミノプロピルトリエトキシシランの濃度を0.2mol/Lとした以外は、実施例I−2−1と同様に、実施例I−2−2のマイクロカプセルを得た。
【0123】
(実施例I−2−3)
第2の水溶液が含む3−アミノプロピルトリエトキシシランの濃度を0.25mol/Lとした以外は、実施例I−2−1と同様に、実施例I−2−3のマイクロカプセルを得た。
【0124】
(実施例I−2−4)
第2の水溶液が含む3−アミノプロピルトリエトキシシランの濃度を0.3mol/Lとした以外は、実施例I−2−1と同様に、実施例I−2−4のマイクロカプセルを得た。
【0125】
(実施例I−2−5)
第2の水溶液が含む3−アミノプロピルトリエトキシシランの濃度を0.35mol/Lとした以外は、実施例I−2−1と同様に、実施例I−2−5のマイクロカプセルを得た。
【0126】
(実施例I−2−6)
第2の水溶液が含む3−アミノプロピルトリエトキシシランの濃度を0.4mol/Lとした以外は、実施例I−2−1と同様に、実施例I−2−6のマイクロカプセルを得た。
【0127】
(実施例I−2−7)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.02mol/Lとした以外は、実施例I−2−4と同様に、実施例I−2−7のマイクロカプセルを製造した。
【0128】
(実施例I−2−8)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.04mol/Lとした以外は、実施例I−2−4と同様に、実施例I−2−8のマイクロカプセルを製造した。
【0129】
(実施例I−2−9)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.07mol/Lとした以外は、実施例I−2−4と同様に、実施例I−2−9のマイクロカプセルを製造した。
【0130】
(実施例I−2−10)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.1mol/Lとした以外は、実施例I−2−4と同様に、実施例I−2−10のマイクロカプセルを製造した。
【0131】
[実施例I−3]
(実施例I−3−1)
実施例I−2−1と同様に、第1の水溶液を準備した。また、精製水4mLに、アミノ基を有するシラン化合物としてN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製、型番:A0774)を0.001mol/Lになるように加えて混合し、さらに二価金属イオンを含む化合物として塩化カルシウム(関東化学株式会社製)を0.01mol/Lになるように加えて攪拌して、第2の水溶液を準備した。その後、実施例I−1と同様に、実施例I−3−1のマイクロカプセルを得た。
【0132】
(実施例I−3−2)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.005mol/Lとした以外は、実施例I−3−1と同様に、実施例I−3−2のマイクロカプセルを得た。
【0133】
(実施例I−3−3)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.01mol/Lとした以外は、実施例I−3−1と同様に、実施例I−3−3のマイクロカプセルを得た。
【0134】
(実施例I−3−4)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.02mol/Lとした以外は、実施例I−3−1と同様に、実施例I−3−4のマイクロカプセルを得た。
【0135】
(実施例I−3−5)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.03mol/Lとした以外は、実施例I−3−1と同様に、実施例I−3−5のマイクロカプセルを得た。
【0136】
(実施例I−3−6)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.05mol/Lとした以外は、実施例I−3−1と同様に、実施例I−3−6のマイクロカプセルを得た。
【0137】
(実施例I−3−7)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.02mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−7のマイクロカプセルを得た。
【0138】
(実施例I−3−8)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.04mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−8のマイクロカプセルを得た。
【0139】
(実施例I−3−9)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.06mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−9のマイクロカプセルを得た。
【0140】
(実施例I−3−10)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.075mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−10のマイクロカプセルを得た。
【0141】
(実施例I−3−11)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.08mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−11のマイクロカプセルを得た。
【0142】
(実施例I−3−12)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.085mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−12のマイクロカプセルを得た。
【0143】
(実施例I−3−13)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.09mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−13のマイクロカプセルを得た。
【0144】
(実施例I−3−14)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.095mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−14のマイクロカプセルを得た。
【0145】
(実施例I−3−15)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.11mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−15のマイクロカプセルを得た。
【0146】
(実施例I−3−16)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.12mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−16のマイクロカプセルを得た。
【0147】
(実施例I−3−17)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.14mol/Lとした以外は、実施例I−3−5と同様に、実施例I−3−17のマイクロカプセルを得た。
【0148】
[実施例I−4]
(実施例I−4−1)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.005mol/Lとし、二価金属イオンを含む化合物として、塩化亜鉛(関東化学株式会社製)0.002mol/Lを用いた以外は、実施例I−3−1と同様に、実施例I−4−1のマイクロカプセルを製造した。得られたマイクロカプセルは、30分静置した後でも数珠状に連なることはなく、その後の取り扱いが容易であった。なお、塩化亜鉛の濃度が0.002mol/L〜0.02mol/Lの範囲で同様の効果が得られることを確認した。
【0149】
(実施例I−4−2)
第2の水溶液中のN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.005mol/Lとし、二価金属イオンを含む化合物として、塩化銅(関東化学株式会社製)0.002mol/Lを用いた以外は、実施例I−3−1と同様に、実施例I−4−2のマイクロカプセルを製造した。得られたマイクロカプセルは、30分静置した後でも数珠状に連なることはなく、その後の取り扱いが容易であった。なお、塩化銅の濃度が0.002mol/L〜0.02mol/Lの範囲で同様の効果が得られることを確認した。
【0150】
(実施例I−4−3)
第2の水溶液中のN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.05mol/Lとし、二価金属イオンを含む化合物として、塩化バリウム(関東化学株式会社製)0.02mol/Lを用いた以外は、実施例I−3−1と同様に、実施例I−4−3のマイクロカプセルを製造した。得られたマイクロカプセルは、30分静置した後でも数珠状に連なることはなく、その後の取り扱いが容易であった。
【0151】
[実施例II]
実施例IIでは、第2形態の製造方法によってマイクロカプセルを製造した。実施例II−1は、第2形態の基本的な構成によってマイクロカプセルを製造した例であり、実施例II−2は、基本的な構成に加えて、酵素、二価金属イオン及び増粘剤を用いてマイクロカプセルを製造した例である。
【0152】
(実施例II−1)
カルボキシル基を有する水溶性多糖類としてアルギン酸ナトリウム(関東化学株式会社製、型番:37094−01)0.5質量%を含む水溶液8mLを第1の水溶液として準備した。また、マイクロチューブに精製水100μLを入れ、アミノ基を有するシラン化合物としてN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製、型番:A0774)を0.1mol/Lになるように加えて十分攪拌し、第2の水溶液を準備した。
【0153】
ビーカーに入れた第1の水溶液を、攪拌子の回転速度を700rpmとして強攪拌した状態で、そのビーカーにマイクロチューブから第2の水溶液を10μLずつ滴下して、実施例II−1のマイクロカプセルを生成した。なお、マイクロカプセル生成工程における第1の水溶液の温度は26℃であった。
【0154】
(実施例II−2)
(実施例II−2−1)
カルボキシル基を有する水溶性多糖類としてアルギン酸ナトリウム(関東化学株式会社製、型番:37094−01)1質量%を含む水溶液8mLを第1の水溶液として準備した。また、精製水100μLと、アミノ基を有するシラン化合物として0.35mol/LのN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業株式会社製、型番:A0774)水溶液172μL、二価金属イオンを含む化合物として0.4mol/Lの塩化カルシウム(関東化学株式会社製)水溶液150μL、増粘剤として15質量%のポリビニルピロリドン(Alfa Aesar社製、製造元コード:043728、分子量:1300000)水溶液606μL、をマイクロチューブに入れ、十分攪拌し、さらに酵素としてギ酸脱水素酵素(ロシュ・ダイアグノスティック株式会社製、型番:837016)を2U/mLとなるように加えて攪拌した。さらに、緩衝液として0.35mo/Lの2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸(東京化成工業株式会社製、型番:H0396)緩衝液を344μL加えて攪拌し、第2の水溶液を準備した。第2の水溶液中の塩化カルシウムの濃度は、0.05mol/Lであり、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度は、0.1mol/Lである。なお、このときの第2の水溶液は、温度が26℃であり、pH8.0となるように調整した。
【0155】
ビーカーに入れた第1の水溶液を、攪拌子の回転速度を700rpmとして強攪拌した状態で、そのビーカーにマイクロチューブから第2の水溶液を10μLずつ滴下して、マイクロカプセルを生成した。マイクロカプセル生成工程における第1の水溶液の温度は26℃であった。得られたマイクロカプセルを網で回収し、脱イオン水で洗浄し、実施例II−2−1のマイクロカプセルを得た。
【0156】
(実施例II−2−2)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.08mol/Lとした以外は、実施例II−2−1と同様に、実施例II−2−2のマイクロカプセルを得た。
【0157】
(実施例II−2−3)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.05mol/Lとした以外は、実施例II−2−1と同様に、実施例II−2−3のマイクロカプセルを得た。
【0158】
(実施例II−2−4)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.03mol/Lとした以外は、実施例II−2−1と同様に、実施例II−2−4のマイクロカプセルを得た。
【0159】
(実施例II−2−5)
第2の水溶液が含むN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランの濃度を0.01mol/Lとした以外は、実施例II−2−1と同様に、実施例II−2−5のマイクロカプセルを得た。
【0160】
(実施例II−2−6)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.02mol/Lとした以外は、実施例II−2−1と同様に、実施例II−2−6のマイクロカプセルを得た。
【0161】
(実施例II−2−7)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.08mol/Lとした以外は、実施例II−2−1と同様に、実施例II−2−7のマイクロカプセルを得た。
【0162】
(実施例II−2−8)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.1mol/Lとした以外は、実施例II−2−1と同様に、実施例II−2−8のマイクロカプセルを得た。
【0163】
(実施例II−2−9)
第2の水溶液が含む塩化カルシウムの濃度を0.15mol/Lとした以外は、実施例II−2−1と同様に、実施例II−2−9のマイクロカプセルを得た。
【0164】
[比較例I]
(比較例I−1)
第1形態の比較例として、第2の水溶液にシラン化合物を含まないこととした以外は、実施例I−2−1と同様に、比較例I−1のマイクロカプセルの製造を試みた。この比較例I−1では、アルギン酸ナトリウムがゲル化せず、マイクロカプセルは製造できなかった。
【0165】
(比較例I−2)
塩化カルシウムの濃度を0.02mol/Lとした以外は、比較例I−1と同様に、比較例I−2のマイクロカプセルを製造した。得られたマイクロカプセルを網で回収し、脱イオン水で洗浄し、比較例I−2のマイクロカプセルを得た。
【0166】
(比較例I−3)
塩化カルシウムの濃度を0.04mol/Lとした以外は、比較例I−2と同様に、比較例I−3のマイクロカプセルを得た。
【0167】
(比較例I−4)
塩化カルシウムの濃度を0.07mol/Lとした以外は、比較例I−2と同様に、比較例I−4のマイクロカプセルを得た。
【0168】
(比較例I−5)
塩化カルシウムの濃度を0.1mol/Lとした以外は、比較例I−2と同様に、比較例I−5のマイクロカプセルを得た。
【0169】
[比較例II]
第2形態の比較例として、第2の水溶液にシラン化合物を含まないこととした以外は、実施例II−2−1と同様に、比較例IIのマイクロカプセルを得た。
【0170】
[測定と評価]
(マイクロカプセル)
第1形態によって得られたマイクロカプセルの表面を顕微鏡装置によって拡大して撮影した写真を図4及び図5に示す。図4及び図5に示す写真は、マイクロカプセルを生物顕微鏡装置(ケニス株式会社製、ケニスデジタル顕微鏡、型式:1−167−057)で観察し、デジタルカメラ(キャノン株式会社製、Power Shot A570 IS)で撮影した。
【0171】
第2形態によって得られたマイクロカプセルの表面を顕微鏡装置によって拡大し撮影した写真を図13に示す。図13に示す写真は、マイクロカプセルを生物顕微鏡装置(ケニス株式会社製、ケニスデジタル顕微鏡、型式:1−167−057)で観察し、デジタルカメラ(キャノン株式会社製、Power Shot A570 IS)で撮影した。
【0172】
(皮膜成分)
実施例I−1(第1形態)及び実施例II−1(第2形態)で得られたマイクロカプセルの皮膜の成分を次のようにして測定した。得られたマイクロカプセルを、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光株式会社製、FT/IR−4200)によって分析すると、1130cm−1〜1100cm−1付近にSi−O−Si結合を示す吸収ピークを確認することができた。
【0173】
(固定化収率I)
第1形態で得られたマイクロカプセルの皮膜の緻密さを評価するため、実施例I−2及び実施例I−3で得られたマイクロカプセルの固定化収率Iを求めた。同様に、比較例Iで得られたマイクロカプセルの酵素の固定化収率Iを求めた。固定化収率Iが高いほど、マイクロカプセルの皮膜の細孔から漏れ出す酵素が少なく、その皮膜が緻密であることが分かる。固定化収率Iが低い場合は、マイクロカプセルの皮膜の細孔から漏れ出す酵素が多く、その皮膜が緻密でないことが分かる。固定化収率Iは、上記した式(1)によって求めた。なお、触媒反応の初速度を活性とした。
【0174】
なお、ギ酸脱水素酵素は、下記化学式の反応を触媒する。下記化学式において、「NAD+」は、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを示し、「HCOO−」は、ギ酸を示し、「NADH」は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを示し、「FDH」は、ギ酸脱水素酵素を示す。
【0175】
【化1】
【0176】
式(1)における「第1の水溶液中の酵素の活性」は、次のようにして測定した。実施例I−2、実施例I−3及び比較例Iで準備した第1の水溶液を、それぞれシリンジを用いて20μL採取し、pH7.5、0.1mol/Lのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(和光純薬工業株式会社製、型番:202−07881)緩衝液2,880μLが入った別個のセルにそれぞれ加えた。各セルに酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(オリエンタル酵母工業株式会社製、型番:44056000)水溶液を、シリンジを用いて50μLずつ加え、攪拌した後、30℃に設定した恒温槽中に10分間静置した。
【0177】
その後、各セルにギ酸水溶液をシリンジで50μL加えた。これによって、第1の水溶液に含まれているギ酸脱水素酵素と、セル中のギ酸とが反応を開始した。反応時の初期濃度は、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド1mmol/L、ギ酸30mmol/Lとなった。
【0178】
このセルを恒温槽から取り出し、吸光度測定装置(日本分光株式会社製、型式:V−630)にセットして、波長340nmの吸光度を測定し、溶液中の還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の生成濃度を求めて、初速度を「第1の水溶液中に含まれる酵素の活性」とした。なお、測定した後はセルを恒温槽に戻した。
【0179】
式(1)における「マイクロカプセルを潰して得た液体中の酵素の活性」は、次のようにして測定した。実施例I−2、I−3及び比較例Iで得られたマイクロカプセルをそれぞれすり鉢ですり潰し、マイクロカプセル内部の液体を得た。これらをシリンジで20μLずつ採取し、第1の水溶液中の酵素の活性を測定した場合と同じ条件で酵素反応を行った。反応後の溶液について同様に吸光度を測定し、溶液中の還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の生成濃度を求めて、初速度を「マイクロカプセルを潰して得た液体中の酵素の活性」とした。
【0180】
実施例I−2−1〜実施例I−2−6で得られたマイクロカプセルの固定化収率Iは、図6に示すように、シラン化合物の濃度が0.1mol/Lの場合は20%であり、0.2mol/Lの場合は38%であり、0.25mol/Lの場合は58%であり、0.3mol/Lの場合は72%であり、0.35mol/Lでは75%であり、0.4mol/Lの場合は75%であった。
【0181】
実施例I−2−4、実施例I−2−7〜実施例I−2−10で得られたマイクロカプセルの固定化収率Iは、図7に示すように、塩化カルシウムの濃度が0.01mol/Lの場合は72%であり、0.02mol/Lの場合は53%であり、0.04mol/Lの場合は35%であり、0.07mol/Lの場合は33%であり、0.1mol/Lの場合は31%であった。
【0182】
実施例I−3−1〜実施例I−3−6で得られたマイクロカプセルの固定化収率Iは、図8に示すように、アミノ基を有するシラン化合物の濃度が0.001mol/Lの場合は40%であり、0.005mol/Lの場合は55%であり、0.01mol/Lの場合は70%であり、0.02mol/Lの場合は77%であり、0.03mol/Lでは99%であり、0.05mol/Lでは100%であった。
【0183】
実施例I−3−5、実施例I−3−7〜実施例I−3−17で得られたマイクロカプセルの固定化収率Iは、図9に示すように、塩化カルシウムの濃度が0.01mol/Lの場合は99%であり、0.02mol/Lの場合は99%であり、0.04mol/Lの場合は97%であり、0.06mol/Lの場合は95%であり、0.075mol/Lの場合は90%であり、0.08mol/Lの場合は82%であり、0.085mol/Lの場合は73%であり、0.09mol/Lの場合は68%であり、0.095mol/Lの場合は65%であり、0.11mol/Lの場合は55%であり、0.12mol/Lの場合は53%であり、0.14mol/Lの場合は52%であった。
【0184】
比較例I−2〜比較例I−5で得られたマイクロカプセルの固定化収率Iは、図10に示すように、塩化カルシウムの濃度が0.02mol/Lの場合は21%であり、0.04mol/Lの場合は25%であり、0.07mol/Lの場合は20%であり、0.1mol/Lの場合は16%であった。
【0185】
(固定化収率II)
第2形態で得られたマイクロカプセルの皮膜の緻密さを評価するため、実施例II−2で得られたマイクロカプセルの固定化収率IIを求めた。同様に、比較例IIで得られたマイクロカプセルの酵素の固定化収率IIを求めた。固定化収率IIが高いほど、マイクロカプセルの皮膜の細孔から漏れ出す酵素が少なく、その皮膜が緻密であることが分かる。固定化収率IIが低い場合は、マイクロカプセルの皮膜の細孔から漏れ出す酵素が多く、その皮膜が緻密でないことが分かる。固定化収率IIは、上記した式(2)によって求めた。なお、触媒反応の初速度を活性とした。
【0186】
なお、ギ酸脱水素酵素の触媒反応については、上記した固定化収率Iの場合と同様であるので、その記載を省略する。
【0187】
式(2)における「第2の水溶液中の酵素の活性」は、次のようにして測定した。実施例II−2及び比較例IIで準備した第2の水溶液を、それぞれシリンジを用いて20μL採取し、0.1mol/Lのトリス塩酸緩衝液2.88mLが入った別個のセルにそれぞれ加えた。各セルに酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)水溶液を、シリンジを用いて50μLずつ加え、攪拌した後、30℃に設定した恒温槽中に10分間静置した。
【0188】
その後、各セルにギ酸水溶液をシリンジで50μL加えた。これによって、第2の水溶液に含まれているギ酸脱水素酵素と、セル中のギ酸とが反応を開始した。反応時の初期濃度は、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド1mmol/L、ギ酸30mmol/Lとなった。
【0189】
このセルを恒温槽から取り出し、吸光度測定装置(日本分光株式会社製、型式:V−630)にセットして、波長340nmの吸光度を測定し、溶液中の還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の生成濃度を求めて、初速度を「第2の水溶液中に含まれる酵素の活性」とした。なお、測定した後はセルを恒温槽に戻した。
【0190】
式(2)における「マイクロカプセルを潰して得た液体中の酵素の活性」は、次のようにして測定した。実施例II及び比較例IIで得られたマイクロカプセルをそれぞれすり鉢ですり潰し、マイクロカプセル内部の液体を得た。これらをシリンジで20μLずつ採取し、第2の水溶液中の酵素の活性を測定した場合と同じ条件で酵素反応を行った。反応後の溶液について同様に吸光度を測定し、溶液中の還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)の生成濃度を求めて、初速度を「マイクロカプセルを潰して得た液体中の酵素の活性」とした。
【0191】
実施例II−2−1〜実施例II−2−5で得られたマイクロカプセルの酵素の固定化収率IIは、図11に(○)で示すように、アミノ基を有するシラン化合物の濃度が0.01mol/Lの場合は73%であり、0.03mol/Lの場合は74%であり、0.05mol/Lの場合は82%であり、0.08mol/Lの場合は89%であり、0.1mol/Lでは90%であった。また、比較例II(すなわち、シラン化合物の含有量が0mol/Lの場合)で得られたマイクロカプセルの酵素の固定化収率IIは、図11に(■)で示すように、61%であった。
【0192】
実施例II−2−1、実施例II−2−6〜実施例II−2−9で得られたマイクロカプセルの固定化収率IIは、図12に示すように、塩化カルシウムの濃度が0.02mol/Lの場合は90%であり、0.05mol/Lの場合は90%であり、0.08mol/Lの場合は73%であり、0.1mol/Lの場合は58%であり、0.15mol/Lの場合は37%であった。
【0193】
(結果)
本発明に係るマイクロカプセルの製造方法の第1形態及び第2形態で得られたマイクロカプセルは、酵素の固定化収率が優れ、皮膜が緻密であることが明らかになった。
【符号の説明】
【0194】
1 第1の水溶液
2 第2の水溶液
10 マイクロカプセル製造装置
11 シリンジポンプ
12 容器
13 攪拌子
14 攪拌装置
15 液滴
16 マイクロカプセル
21 芯液
22 皮膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する水溶性多糖類を含む第1の水溶液と、アミノ基を有するシラン化合物を含む第2の水溶液とを準備する工程、及び、
前記第1の水溶液と前記第2の水溶液とを接触させてマイクロカプセルを生成する工程、を有することを特徴とするマイクロカプセルの製造方法。
【請求項2】
前記接触を、前記第2の水溶液に前記第1の水溶液を加えて行う、請求項1に記載のマイクロカプセルの製造方法。
【請求項3】
前記接触を、前記第1の水溶液に前記第2の水溶液を加えて行う、請求項1に記載のマイクロカプセルの製造方法。
【請求項1】
カルボキシル基を有する水溶性多糖類を含む第1の水溶液と、アミノ基を有するシラン化合物を含む第2の水溶液とを準備する工程、及び、
前記第1の水溶液と前記第2の水溶液とを接触させてマイクロカプセルを生成する工程、を有することを特徴とするマイクロカプセルの製造方法。
【請求項2】
前記接触を、前記第2の水溶液に前記第1の水溶液を加えて行う、請求項1に記載のマイクロカプセルの製造方法。
【請求項3】
前記接触を、前記第1の水溶液に前記第2の水溶液を加えて行う、請求項1に記載のマイクロカプセルの製造方法。
【図1】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図4】
【図5】
【図13】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図4】
【図5】
【図13】
【公開番号】特開2013−27322(P2013−27322A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163733(P2011−163733)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【Fターム(参考)】
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