説明

マイクロサテライトマーカーを用いるラッカセイ品種識別方法

【課題】ラッカセイの品種を識別する方法を提供する。
【解決手段】PM15、PM32、PM50、PM137、PM204、及びPM238からなる群、又は、PM204、PM3、PM137、PM238、pPGSseq-16F10、pPGSseq-11G07、pPGSseq-11G03、及び、AH2TC7C6からなる群より選ばれるいずれか一つ以上のマイクロサテライトマーカーを用いて日本国産落花生主要品種を識別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラッカセイの品種を識別するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラッカセイ(Arachis hypogaea L)は、一般的に様々な形質によってスパニッシュ、バレンシア、バージニア、サウスイーストランナーの4型に分類される。日本国内では大粒品種であるバージニア型に属する品種の栽培が最も多く、食味も良好なため、煎豆、バターピーナッツ等に利用されている。
【0003】
我が国で品種登録されているラッカセイは現在14品種(農林水産省農作物新品種登録番号:らっかせい農林1号〜14号)であるが、その他に、現在では品種登録されていない著名な国内栽培品種として「千葉半立」がある。また、「関東56号」のような形態的に千葉半立に似ていることで知られる系統も確立されている。現在国内で栽培されている主要品種は、ほぼ全てがバージニア型、もしくはバージニア型と他の型の交雑種であると言われている。
【0004】
これらの品種を確実に識別することは、生産者保護や遺伝資源の分類等の観点で非常に重要である。現在ラッカセイの品種は、分枝数、葉色、草姿、莢の大きさ、莢あたりの粒数、種皮色等の形態学的特徴により分類、識別されている。しかし、このような形態学的な判定には熟練を要するだけでなく、主に判定者の経験と主観に依存するため、いつどこで誰が実施しても同一の判定結果になるとは言い難い。また、特に日本国内のように同じ型に属する品種が多く栽培されている場合には、形態学的な識別は熟練者にも困難なものである。
【0005】
上記のような現状から、明確で客観的かつ再現性の高いラッカセイ品種識別方法が求められている。今後、食品の原産地表示の確認や、国産ラッカセイ品種の保護を目的とした品種識別、種子検定等において、その必要性はさらに高まると考えられている。
【0006】
一方、植物の分類や品種識別方法の一つとして、DNAの塩基配列情報を利用する方法が知られている。生物のゲノムDNAにはマイクロサテライトと呼ばれる繰返し配列が散在しており、特定の塩基配列の繰返し数の違いに依存する多型を比較的高頻度に有するため、DNAマーカー(マイクロサテライトマーカー)として様々な用途に用いられている。近年、このマイクロサテライトマーカーを植物の分類や品種識別に応用できることが見出され、例えば、イネ、ダイズ、モモ、ナシ、カンキツ等の農作物を含む各種植物の分類や品種識別方法が確立されつつある。原則として、同一個体であれば細胞の種類や発育段階に関わらずそのDNAの塩基配列は普遍的であるため、マイクロサテライトマーカーを利用したDNA解析は、明確で客観的な品種識別方法として有効である。
【0007】
ラッカセイについても、少数ながらマイクロサテライトの解析報告がある(非特許文献1〜5参照)。これらの報告では、南米産の複数のラッカセイ品種について遺伝子解析を行い、いくつかのマイクロサテライトを見出している。また、それらのうちの一部については、前記南米産品種の識別に用いられる可能性が示唆されている。
【非特許文献1】Guohao He, et al., BMC Plant Biology, 3, 3 (2003)
【非特許文献2】Marcio de Carvalho Moretzsohn, et al., BMC Plant Biology, 4, 11 (2004)
【非特許文献3】M. E. Ferguson, et al., Theor. Appl. Genet., 108, 1064-1070 (2004)
【非特許文献4】M. C. Moretzsohn, et al., Theor. Appl. Genet., 111, 1060-1071 (2005)
【非特許文献5】Guohao He, et al., Euphytica, 142, 131-136 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、一般に、ある植物にどのようなマイクロサテライトが存在するかを明らかにするためには、時間と労力を費やして網羅的な解析を行う必要がある。また、もし単にマイクロサテライトの存在が知られていたとしても、それが目的の品種識別に適切なマイクロサテライトマーカーとなり得るかどうかは全く不明であるので、各々のマイクロサテライトの多型と特定の品種との関係を詳細に解析し、特定の品種の識別や同定に用い得るか否かを判定するために、さらに多大な労力を要する。
【0009】
特にラッカセイについては、従来遺伝学的な解析や分類がほとんど行われておらず、報告されているマイクロサテライトが他の植物に比べて非常に少ないという問題があった。ラッカセイは異質4倍体であるため、ゲノムの部分的重複等を生じる可能性が高く、2倍体植物と比較してその解析が複雑になることもその理由の一つであると想定される。
【0010】
中でも国産ラッカセイ品種については、マイクロサテライトの解析、発見に関する報告は全く無かった。例えば、上記非特許文献1〜5でも、南米産品種のマイクロサテライト解析は行っているものの、日本国産品種については全く検討していない。日本では、互いに近縁でありながら多品種のラッカセイが栽培されているという特徴があり、これらの品種は互いにゲノムDNAそのものやマイクロサテライトの塩基配列も類似していると想定されるため、遺伝子解析による品種識別が非常に難しいことが予想される。さらに、前記文献において報告されているマイクロサテライトには2塩基の繰返しに基づく多型を有するものも多く、このような微差に基づく多数の類似した品種の識別は非常に困難になると考えられていた。
【0011】
このような複数の知見から、ラッカセイの品種識別、特に日本国産品種の品種識別について、マイクロサテライトをマーカーとした識別が可能であるか否かは不明であると考えられてきた。また、単にいくつかの候補となるマイクロサテライトが見出されたとしても、それを直ちに国産品種の識別に利用できる確率は低いと考えられていた。
【0012】
上記のように、ラッカセイ品種識別方法、特に、国産品種の品種識別方法の確立は大きな課題となっていた。本発明は、これらの課題に鑑みてなされたものである。
【0013】
すなわち、本発明は、明確、客観的で、かつ再現性の高いラッカセイ品種識別方法を提供するためになされたものである。さらに詳しくは、ほぼ全てが同一の型に属し、高度に類似したDNA配列を有する多数の日本国産品種について、簡便で確実な品種識別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記のような現状に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、前記非特許文献1に記載された海外品種において発見されたマイクロサテライトの中に、意外にも日本国産品種の識別にも有効なマイクロサテライトが含まれていることを見出した。そして、さらに検討を重ね、これらのマイクロサテライトのうち複数のものを特定の組み合わせでマーカーとして用いれば、国産ラッカセイ主要品種を簡便かつ確実に識別することができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0015】
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される。
(1) マイクロサテライトマーカーPM15、PM32、PM50、PM137、PM204、及びPM238からなる群より選ばれるいずれか一つ以上のマイクロサテライトマーカーを用いて以下の日本国産落花生主要品種を識別することを特徴とする、落花生品種識別方法;
アズマハンダチ
テコナ
ワセダイリュウ
サチホマレ
タチマサリ
アズマユタカ
ナカテユタカ
サヤカ
ユデラッカ
土の香
郷の香
ふくまさり
千葉半立
関東56号
【0016】
(2) マイクロサテライトマーカーPM50を用いることを特徴とする、アズマハンダチ又は千葉半立の識別方法。
(3) マイクロサテライトマーカーPM50又はPM204を用いることを特徴とする、テコナの識別方法。
(4) マイクロサテライトマーカーPM204を用いることを特徴とする、ワセダイリュウの識別方法。
(5) マイクロサテライトマーカーPM204、又は、PM50及びPM238の組み合わせを用いることを特徴とする、サチホマレの識別方法。
(6) マイクロサテライトマーカーPM15、PM137、及びPM204の組み合わせ、又は、PM204及びPM238の組み合わせを用いることを特徴とする、タチマサリの識別方法。
(7) マイクロサテライトマーカーPM50、PM137、及びPM204の組み合わせを用いることを特徴とする、アズマユタカの識別方法。
(8) マイクロサテライトマーカーPM15、PM50、PM137、及びPM238の組み合わせ、又は、PM15、PM32、PM50、及びPM238の組み合わせを用いることを特徴とする、ナカテユタカの識別方法。
(9) マイクロサテライトマーカーPM50及びPM137の組み合わせを用いることを特徴とする、サヤカの識別方法。
(10) マイクロサテライトマーカーPM15及びPM137の組み合わせ、PM15及びPM32の組み合わせ、又は、PM15及びPM238の組み合わせを用いることを特徴とする、ユデラッカの識別方法。
(11) マイクロサテライトマーカーPM238を用いることを特徴とする、土の香の識別方法。
(12) マイクロサテライトマーカーPM50及びPM238の組み合わせを用いることを特徴とする、郷の香の識別方法。
(13) マイクロサテライトマーカーPM15及びPM32の組み合わせ、PM32及びPM238の組み合わせ、又は、PM50、PM137、及びPM238の組み合わせを用いることを特徴とする、ふくまさりの識別方法。
(14) マイクロサテライトマーカーPM204及びPM238の組み合わせ、又は、PM50及びPM238の組み合わせを用いることを特徴とする、関東56号の識別方法。
【0017】
(15) マイクロサテライトマーカーPM204、PM3、PM137、PM238、pPGSseq-16F10、pPGSseq-11G07、pPGSseq-11G03、及び、AH2TC7C6からなる群より選ばれるいずれか一つ以
上のマイクロサテライトマーカーを用いて以下の日本国産落花生主要品種を識別することを特徴とする、落花生品種識別方法;
アズマハンダチ
テコナ
ワセダイリュウ
ベニハンダチ
サチホマレ
タチマサリ
アズマユタカ
ナカテユタカ
ダイチ
サヤカ
ユデラッカ
土の香
郷の香
ふくまさり
千葉半立
関東56号
【0018】
(16) マイクロサテライトマーカーPM3を用いることを特徴とする、アズマハンダチの識別方法。
(17) マイクロサテライトマーカーPM204を用いることを特徴とする、テコナの識別方法。
(18) マイクロサテライトマーカーPM204、又は、pPGSseq-11G07、又は、PM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、pPGSseq-16F10及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、pPGSseq-11G03及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM3、PM137及びpPGSseq-11G03の組み合わせを用いることを特徴とする、ワセダイリュウの識別方法。
(19) マイクロサテライトマーカーpPGSseq-16F10又はAH2TC7C6を用いることを特徴とする、ベニハンダチの識別方法。
(20) マイクロサテライトマーカーPM204、又は、PM238及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM137及びpPGSseq-16F10の組み合わせ、又は、PM238及びpPGSseq-16F10の組み合わせを用いることを特徴とする、サチホマレの識別方法。
(21) マイクロサテライトマーカーPM204及びPM238の組み合わせ、又は、PM3及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、PM3及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM204及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM3及びpPGSseq-16F10の組み合わせ、又は、AH2TC7C6及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、AH2TC7C6及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、PM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、pPGSseq-16F10及びpPGSseq-11G03の組み合わせを用いることを特徴とする、タチマサリの識別方法。
(22) マイクロサテライトマーカーpPGSseq-16F10、又は、PM238及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、PM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM238、AH2TC7C6及びPM137の組み合わせを用いることを特徴とする、アズマユタカの識別方法。
(23) マイクロサテライトマーカーPM3、PM137、PM238及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM3、PM137、PM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせを用いることを特徴とする、ナカテユタカの識別方法。
(24) マイクロサテライトマーカーpPGSseq-16F10及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、PM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM238及びpPGSseq-11G07の組み合わせを用いることを特徴とする、ダイチの識別方法。
(25) マイクロサテライトマーカーPM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM137及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM137及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM238、pPGSseq-11G07及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM238、pPGSseq-16F10及びAH2TC
7C6の組み合わせ、又は、pPGSseq-11G07、pPGSseq-11G03及びAH2TC7C6の組み合わせを用いることを特徴とする、サヤカの識別方法。
(26) マイクロサテライトマーカーPM3及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM3及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM3及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、PM3及びPM238の組み合わせ、又は、PM3及びPM137の組み合わせ、又は、PM204、PM3及びpPGSseq-16F10の組み合わせを用いることを特徴とする、ユデラッカの識別方法。
(27) マイクロサテライトマーカーPM238、又は、PM137及びpPGSseq-16F10の組み合わせ、又は、PM204及びpPGSseq-16F10の組み合わせを用いることを特徴とする、土の香の識別方法。
(28) マイクロサテライトマーカーPM137、PM238及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、PM137、PM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、pPGSseq-11G03及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM137、pPGSseq-16F10、AH2TC7C6及びpPGSseq-11G03の組み合わせを用いることを特徴とする、郷の香の識別方法。
(29) マイクロサテライトマーカーPM238及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、pPGSseq-11G07及びAH2TC7C6の組み合わせを用いることを特徴とする、ふくまさりの識別方法。
(30) マイクロサテライトマーカーPM204、PM3、PM238、pPGSseq-11G07及びAH2TC7C6の組み合わせを用いることを特徴とする、千葉半立の識別方法。
(31) マイクロサテライトマーカーPM204及びPM238の組み合わせ、又は、PM238及びpPGSseq-16F10の組み合わせ、又は、PM238及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、AH2TC7C6及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM137、pPGSseq-16F10及びpPGSseq-11G03の組み合わせを用いることを特徴とする、関東56号の識別方法。
【0019】
(32) 識別方法が以下の工程よりなることを特徴とする(1)〜(31)のいずれかに記載の方法。
a) 品種を識別すべき落花生から抽出されたDNAを鋳型とし、用いるマイクロサテライトマーカーに特異的な塩基配列を増幅するための2種類のプライマーを用いてPCRを行い、
b) 上記工程a)において増幅されたDNA断片の長さを測定し、
c) 上記工程b)において測定されたDNA断片の長さに基づいて落花生品種を識別する。
(33) 工程b)におけるDNA断片の長さの測定が、キャピラリー式電気泳動装置を用いて行われることを特徴とする(32)に記載の方法。
(34) 用いるマイクロサテライトマーカーに特異的な塩基配列を増幅するための2種類のプライマーを少なくとも含むことを特徴とする、(1)〜(33)のいずれかに記載の方法に用いられるための試薬キット。
【発明の効果】
【0020】
本発明のラッカセイ品種識別方法によれば、明確、客観的で、かつ再現性高く、簡便に品種識別を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を更に詳細に説明するが、以下の構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はこれらの内容のみに特定されるものではない。
【0022】
1.本発明のラッカセイ品種識別方法
本発明のラッカセイ品種識別方法は、特定のマイクロサテライトマーカーを用いて、日本国産ラッカセイ主要品種を識別することを特徴としている。
【0023】
本発明により識別される日本国産ラッカセイ主要品種とは、アズマハンダチ(農林水産省農作物新品種登録番号:らっかせい農林1号)、テコナ(らっかせい農林2号)、ワセダイリュウ(らっかせい農林3号)、サチホマレ(らっかせい農林5号)、タチマサリ(らっ
かせい農林6号)、アズマユタカ(らっかせい農林7号)、ナカテユタカ(らっかせい農林8号)、サヤカ(らっかせい農林10号)、ユデラッカ(らっかせい農林11号)、土の香(らっかせい農林12号)、郷の香(らっかせい農林13号)、ふくまさり(らっかせい農林14号)、千葉半立(未登録)、及び、主要な系統の一つである関東56号である。主要品種には、さらにベニハンダチ(らっかせい農林4号)及びダイチ(らっかせい農林9号)を含めることもある。以下便宜的に、これらの主要13品種又は15品種と1系統とをあわせて「国産ラッカセイ主要品種」と称することがある。これらの中で、千葉半立及びナカテユタカが最も主要な品種であり、これらの識別は日本国内において特に重要である。
【0024】
なお、ここで品種とは、重要な形質に係る特性の全部又は一部によって他の植物体の集合と区別することができ、かつ、その特性の全部を保持しつつ繁殖させることができる一の植物体の集合を意味する。また、系統とは、親を共有する個体群であって、かつ、形質や遺伝的特性が共通する集団を意味し、品種として確立される前の育成段階のものを含む。
【0025】
本明細書において「ラッカセイの品種を識別する」という場合には、品種が不特定である1種もしくは複数のラッカセイを解析して、品種を特定することを意味する。例えば、1種又は多数の品種不特定の日本国産ラッカセイについて、それらがそれぞれ前記主要品種のいずれであるかを特定することが挙げられる。また、あるラッカセイが特定の品種であるか否かを判定することが挙げられる。さらに、該ラッカセイが前記主要品種であるかそれ以外であるかを特定することを含む。
【0026】
本発明の品種識別方法は、マイクロサテライトマーカーを用いることを特徴としている。マイクロサテライトとは、前記のとおり生物のゲノムDNAに散在する繰返し配列のことであるが、それらのうち、特定の塩基配列の繰返し数の違い(すなわち、長さの違い)に依存する多型を有するものが選択される。さらに、各マイクロサテライトが有する多型と目的の品種との関係を対応付け、それぞれの品種の識別に適したマイクロサテライト、すなわちマイクロサテライトマーカーが特定される。マイクロサテライトは多型のタイプによって塩基配列の長さが変化することが特徴であるが、一つの品種においては原則不変であるので、適切なマーカーを選択すれば、その長さに基づいて品種を識別することができる。すなわち、一つもしくは複数の目的のマイクロサテライトの塩基配列の長さを解析して、それぞれのマイクロサテライトがどの多型のタイプに属しているかを判定することにより、品種識別を行うことができる。
【0027】
マイクロサテライトは、例えば、GA、CTといった2〜数bp程度の特定の塩基配列の繰返し配列であって、それ自体は、(GA)n、(CT)nのように表記される(Gはグアニン、Aはアデニン、Cはシトシン、Tはチミンを表す)。nは2以上の整数であって、このnで表される反復数が品種もしくは系統によって異なることにより多型を生じる。マイクロサテライトはこのような単純な繰返し配列であるが、通常、マイクロサテライトの近傍(主にマイクロサテライトの両側に隣接)に位置する各マイクロサテライトを特定可能な配列(以下、これを「マイクロサテライト特異的配列」と称することがある)を利用して特定することができる。遺伝子データベースGenBank等においても、各マイクロサテライトの配列はこれを特定可能なマイクロサテライト特異的配列とともにマイクロサテライトマーカーとして登録されている。本明細書において「マイクロサテライト」という場合には、特定の塩基配列の繰返し配列部分を意味し、「マイクロサテライトマーカー」という場合には、マイクロサテライト及びマイクロサテライト特異的配列を含み、DNAマーカーとして利用可能な(特定可能な)配列を意味する。例えばPCR法(Polymerase Chain Reaction法)によって目的のマイクロサテライトを増幅しようとする場合、マイクロサテライトの繰返し配列自体は特異性がなく、特定のもののみを増幅することができないが、前記マイクロサテライト特異的配列に基づいてプライマーを設定することによりマイクロサテライトの増幅を
行うことができる。すなわち、本明細書において「マイクロサテライトを増幅する」という場合には、前記のとおりマイクロサテライト特異的配列に基づいて設定されたプライマーを用いて増幅を行うことを意味するので、得られる増幅産物には一部マイクロサテライト以外の配列を含むことがある。
【0028】
本願発明において用いられるマイクロサテライトマーカーとして、PM15(GenBank accession number:AY237742)、PM32(AY237747)、PM50(AY237756)、PM137(AY237766)、PM204(AY237780)、及びPM238(AY237791)が挙げられる。これらのマイクロサテライトマーカーは、Guohao He, et al., BMC Plant Biology, 3, 3 (2003)において南米産ラッカセイ品種に存在するとして報告されたものであるが、これら南米産ラッカセイ品種のマイクロサテライトマーカーが、本発明者らによって意外にも前記国産ラッカセイ主要品種にも存在することが見出され、さらにそれらの品種識別方法に用い得ることが明らかになったものである。さらに、本願発明において用いられるマイクロサテライトマーカーとして、pPGSseq-16F10 (BZ999879) 、pPGSseq-11G07(BZ999490)、pPGSseq-11G03 (BZ999487) 、及び、AH2TC7C6 (DQ099141)が挙げられる。pPGSseq-16F10 (BZ999879)、pPGSseq-11G07(BZ999490)、及び、pPGSseq-11G03 (BZ999487) はM. E. Ferguson, et al., Theor Appl Genet (2004)108:1064-1070、AH2TC7C6 (DQ099141)はMoretzsohn, et al., Theor Appl Genet (2005)111:1060-1071において報告されたものである。本明細書におけるマイクロサテライトマーカーの表記には、前記文献に開示されたものと同一の表記を用いる。
【0029】
本願発明では、前記PM15、PM32、PM50、PM137、PM204及びPM238の6種類、又は、PM204、PM3、PM137、PM238、pPGSseq-16F10、pPGSseq-11G07、pPGSseq-11G03及びAH2TC7C6の8種類のマイクロサテライトマーカーの1つ以上を用いて、前記国産ラッカセイ主要品種の識別を行う。少なくともこれらのうち1つ以上を用いていれば、さらに別のマイクロサテライトマーカーを組み合わせて用いても良い。例えば、前記文献Guohao He, et al., BMC
Plant Biology, 3, 3 (2003)において南米産ラッカセイ品種の識別に用い得る可能性が示唆されているマイクロサテライトマーカー等、海外品種においてマーカーとして確立されたものと組合わせれば、国産ラッカセイ主要品種と海外産品種とをさらに明確に識別することができる。また、SNPs(一塩基多型)、RAPD(random amplified polymorphic DNA)等の品種特定に有用であることが明らかな他のDNAマーカーがあれば、それらを組合わせて用いることもできる。ただし、原則として、より少ないマーカーを用いて品種が特定できることが望ましい。
【0030】
本発明の品種識別方法をマイクロサテライトマーカーの解析に基づいて行うにあたっては、通常には、まず、品種を特定すべきラッカセイのDNAを抽出し、これを試料として用いる。DNAの抽出は、DNAが取得できる限り、植物体のいかなる部位も対象とすることができるが、種子、葉、根、茎、幼植物(シードリング)等から行うことができる。中でも、種子から抽出することが好ましい。また、種子としては、収穫された種子のほか、加工品等も対象とすることができる。加工品としては、例えば、煎豆、茹豆等や、バターピーナッツ、菓子等の調理品が挙げられる。
【0031】
DNAの抽出方法としては、それ自体公知の通常用いられる方法を適用することができる。例えば、種子等を粉砕し、界面活性剤による可溶化や、除タンパク剤による除タンパク等の操作を行って、DNAを取得する方法等が挙げられる。油分を多く含む種子の場合には、さらに有機溶媒による脱脂工程を含んでもよい。葉の場合には、CTAB法(Cetyl trimethyl ammonium bromide法:Murray, G.C. and Thompson, W.F., Nucl.Acid Res., 8, 4321-4325(1980))等が好ましく用いられる。さらに、市販のキット(例えば、「ISOPLANT」(日本ジーン社製)等)も任意に選択可能である。幼植物の場合には、組織が柔らかく阻害物質が少ないので、特殊な抽出法が不要であるという利点がある。加工品を用いる場合には、洗浄、脱脂等の工程を経て通常の抽出操作を行うことが好ましい。なお、種子から
抽出を行う場合には、粗精製のDNAも使用可能である。
【0032】
このように、後述するマイクロサテライトマーカーの解析が可能なものであればいかなる部位から抽出されたDNAであってもよいが、例えば、引き続いてPCR法による増幅を行う場合には、PCR反応の阻害物質を含まない状態に調製しておくことが好ましい。例えば、ポリサッカライド、ポリフェノール等の阻害物質は除去しておくことが好ましい。特に葉から抽出を行う場合には、多量のポリフェノールが含まれていることが知られている。ポリフェノールの除去は、それ自体公知の方法により行うことができるが、例えば、PVPP(ポリビニルポリピロリドン)を添加する方法等が挙げられる(特開2005-168308号公報等)。
【0033】
DNA抽出量としては、次に行うマイクロサテライトマーカーの解析が可能な量が抽出されていればよい。PCR法に供する場合には、例えば、1反応あたり1ng以上である。
【0034】
抽出されたDNAを用いて、マイクロサテライトマーカーの解析を行う。マイクロサテライトマーカーの解析は、まず、抽出されたDNAを鋳型として目的のマイクロサテライトマーカーをPCR法によって増幅し、増幅されたDNA断片の長さ(以下、これを「増幅断片長」と称することがある)を解析することにより行うことができる。また、例えば、各マイクロサテライト特異的配列をプローブとし、抽出したDNAと反応させ、ハイブリダイゼーションにより生じるシグナルの強弱を検出することにより行うこともできる。本発明においては、PCR法を用いる方法が特に好ましく用いられる。
【0035】
マイクロサテライトマーカーのPCR法による増幅は、それ自体公知の通常用いられる方法に従って行われる。反応条件は、目的の塩基配列が増幅されるものであればいかなるものでもよい。
【0036】
増幅には、目的のマイクロサテライトマーカーに特異的な塩基配列を増幅可能なプライマーのセットを適宜選択して用いる。プライマーは、目的のマイクロサテライトを増幅可能なものであればいかなるものでも用い得るが、前記マイクロサテライト特異的配列に基づいて設定されることが好ましい。プライマーの配列には、一部マイクロサテライトの繰返し配列が含まれていてもよい。プライマーの長さは、例えば、10bp以上、好ましくは、20〜30bp程度の長さで設定され得る。このようなプライマーの例として、マーカーPM15の増幅には配列番号:1及び2に記載の塩基配列を有するプライマー、マーカーPM32の増幅には配列番号:3及び4に記載の塩基配列を有するプライマー、マーカーPM50の増幅には配列番号:5及び6に記載の塩基配列を有するプライマー、マーカーPM137の増幅には配列番号:7及び8に記載の塩基配列を有するプライマー、マーカーPM204の増幅には配列番号:9及び10に記載の塩基配列を有するプライマー、マーカーPM238の増幅には配列番号:11及び12に記載の塩基配列を有するプライマー等が挙げられる。さらに、マーカーPM3の増幅には配列番号:22及び23に記載の塩基配列を有するプライマー、マーカーpPGSseq-16F10の増幅には配列番号:14及び15に記載の塩基配列を有するプライマー、マーカーpPGSseq-11G07の増幅には配列番号:18及び19に記載の塩基配列を有するプライマー、マーカーpPGSseq-11G03の増幅には配列番号:20及び21に記載の塩基配列を有するプライマー、マーカーAH2TC7C6の増幅には配列番号:16及び17に記載の塩基配列を有するプライマー等が挙げられる。
【0037】
次に、増幅されたDNA断片の長さの解析を行う。増幅断片長の解析の方法としては、例えば、電気泳動法、シークエンス法(得られた増幅断片の塩基配列を解読する方法)、質量分析法(マススペクトル法)等が挙げられるが、電気泳動法が好ましく用いられる。電気泳動法としては、例えば、アガロースゲル電気泳動法、変性又は非変性アクリルアミドゲル電気泳動法、キャピラリー式電気泳動法等が挙げられる。本発明で用いるラッカセイ
のマイクロサテライトマーカーには、2塩基繰返しの多型を有するものが多く含まれているため、2塩基というごく短い長さの相違に基づいた移動度の微差を確実に検出することが必要である。このことから、本発明においては高分解能のキャピラリー式電気泳動法が特に好ましく用いられるが、シークエンス用の高分解能ゲル(アクリルアミドゲル)等を利用すれば、ゲル板式電気泳動法等でも行うことができる。ただし、泳動には十分に時間をかけ、増幅産物を確実に分離させることが重要である。
【0038】
ゲル板式電気泳動法を用いた場合には、電気泳動後のゲルを用いて、各試料由来の増幅断片長を解析する。解析方法としては、例えば、予め標識されたプライマーを用いてPCR法を行う標識法、エチジウムブロマイド法、銀染色法等が挙げられる。中でも、標識法が好ましく用いられ、標識物質としては、蛍光色素、放射性物質等が用いられる。特に好ましくは蛍光色素を用いる標識法であって、蛍光色素は公知のものの中から任意に選択することができる。標識法では、PCR法において用いるいずれかのプライマーの5'末端を蛍光色素により予め標識してから反応を行うことにより、得られる増幅産物に蛍光色素が導入される。このようなプライマーの合成は、公知の化学合成法等によって行うことができる。該プライマーを用いることにより、電気泳動後、増幅断片長を蛍光に基づいて解析することができる。キャピラリー式電気泳動法を用いる場合は、用いる装置に適した手法を適宜選択すればよいが、例えば、蛍光を用いる標識法等が好ましく用いられる。
【0039】
具体的には、キャピラリー式電気泳動法の場合には、例えば、Applied Biosystems(ABI)社製キャピラリー式電気泳動装置「3730 DNA Analyzer」及び解析ソフト「Gene Mapper」を組み合わせて用いること等により、電気泳動と増幅断片長の解析とを行うことができる。また、ゲル板式電気泳動法の場合には、例えばFMBIO(日立ソフトエンジニアリング社製)等の蛍光イメージアナライザーに電気泳動後のゲル板を供し、増幅産物を検出することができる。蛍光を用いる手法は、分離された増幅断片を非常に感度良く検出できることから、本発明の品種識別方法には特に好適である。
【0040】
かくして品種を特定すべきラッカセイから取得したDNAを用いてマイクロサテライトマーカーの解析を行い、得られた結果に基づいて品種識別を行うことができる。品種を特定すべきラッカセイのDNAのマイクロサテライトマーカーを含む部分の配列情報が入手可能な場合には、その配列情報に基づいてマイクロサテライトマーカーの解析を行ってもよい。また、品種を特定すべきラッカセイについてマイクロサテライトマーカーの解析結果が入手可能な場合には、その結果に基づいて品種識別を行うことができる。
【0041】
以下に、用いるマイクロサテライトマーカーとそれによって識別可能な品種の関係を表1A及び1Bに示す。また、各マーカーの増幅断片長のクラス(多型のタイプ)を、表2A及び2Bに示す。
【0042】
【表1A】

【0043】
【表1B】

【0044】
【表2A】

【0045】
【表2B】

【0046】
表2Aからは、例えば、マーカーPM50が、103〜113bpの6種類の長さの多型を示すマイクロサテライトマーカーであることがわかる。ある品種不特定のラッカセイについてこのマーカーPM50の解析を行い、検出される増幅断片長が109bpであった場合には、そのラッカセイ品種のPM50における多型はクラスCであると決定することができる。
【0047】
次に、表1Aに従うと、マーカーPM50における多型がクラスCである品種はアズマハンダチのみであるので、このラッカセイがアズマハンダチであると特定することができる。
【0048】
なお、ここで、マイクロサテライトマーカーPM238については2つのアルファベットの組み合わせで多型のクラスを示している。これは、ゲノム内に異なる繰返し数を有する同一のマイクロサテライトが2個存在することによると推測される。
【0049】
このようにして、14品種の国産ラッカセイ主要品種内では、表1Aに示すとおり、品種を識別することができる。具体的には、マイクロサテライトマーカーPM50を用いることにより、アズマハンダチ又は千葉半立を識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM50又はPM204を用いることにより、テコナを識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM204を用いることにより、ワセダイリュウを識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM204、又は、PM50及びPM238の組み合わせを用いることにより、サチホマレを識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM15、PM137、及びPM204の組み合わせ、又は、PM204及びPM238の組み合わせを用いることにより、タチマサリを識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM50、PM137及びPM204の組み合わせを用いることにより、アズマユタカを識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM15、PM50、PM137、及びPM238の組み合わせ、又は、PM15、PM32、PM50、及びPM238の組み合わせを用いることにより、ナカテユタカを識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM50及びPM137の組み合わせを用いることにより、サヤカを識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM15及びPM137の組み合わせ、PM15及びPM32の組み合わせ、又は、PM15及びPM238の組み合わせを用いることにより、ユデラッカを識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM238を用いることにより、土の香を識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM50及びPM238の組み合わせを用いることにより、郷の香を識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM15及びPM32の組み合わせ、PM32及びPM238の組み合わせ、又は、PM50、PM137、及びPM238の組み合わせを用いることにより、ふくまさりを識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM204及びPM238の組み合わせ、又は、PM50及びPM238の組み合わせを用いることにより、関東56号を識別することができる。
【0050】
また、16品種の国産ラッカセイ主要品種内では、表1Bに示すとおり、品種を識別することができる。具体的には、マイクロサテライトマーカーPM3を用いることにより、アズマハンダチを識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM204を用いることにより、テコナを識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM204、又は、pPGSseq-11G07、又は、PM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、pPGSseq-16F10及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、pPGSseq-11G03及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM3 、PM137及びpPGSseq-11G03の組み合わせを用いることにより、ワセダイリュウを識別することができる。マイクロサテライトマーカーpPGSseq-16F10又はAH2TC7C6を用いることにより、ベニハンダチを識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM204、又は、PM238及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM137及びpPGSseq-16F10の組み合わせ、又は、PM238及びpPGSseq-16F10の組み合わせを用いることにより、サチホマレを識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM204及びPM238の組み合わせ、又は、PM3及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、PM3及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM204及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM3及びpPGSseq-16F10の組み合わせ、又は、AH2TC7C6及びpPGSseq
-11G03の組み合わせ、又は、AH2TC7C6及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、PM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、pPGSseq-16F10及びpPGSseq-11G03の組み合わせを用いることにより、タチマサリを識別することができる。マイクロサテライトマーカーpPGSseq-16F10、又は、PM238及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、PM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM238、AH2TC7C6及びPM137の組み合わせを用いることにより、アズマユタカを識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM3、PM137、PM238及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM3、PM137、PM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせを用いることにより、ナカテユタカを識別することができる。マイクロサテライトマーカーpPGSseq-16F10及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、PM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM238及びpPGSseq-11G07の組み合わせを用いることにより、ダイチを識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM137及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM137及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM238、pPGSseq-11G07及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM238、pPGSseq-16F10及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、pPGSseq-11G07、pPGSseq-11G03及びAH2TC7C6の組み合わせを用いることにより、サヤカを識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM3及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM3及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM3及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、PM3及びPM238の組み合わせ、又は、PM3及びPM137の組み合わせ、又は、PM204、PM3及びpPGSseq-16F10の組み合わせを用いることにより、ユデラッカを識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM238、又は、PM137及びpPGSseq-16F10の組み合わせ、又は、PM204及びpPGSseq-16F10の組み合わせを用いることにより、土の香を識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM137、PM238及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、PM137、PM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、pPGSseq-11G03及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM137、pPGSseq-16F10、AH2TC7C6及びpPGSseq-11G03の組み合わせを用いることにより、郷の香を識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM238及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、pPGSseq-11G07及びAH2TC7C6の組み合わせを用いることにより、ふくまさりを識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM204、PM3、PM238、pPGSseq-11G07及びAH2TC7C6の組み合わせを用いることにより、千葉半立を識別することができる。マイクロサテライトマーカーPM204及びPM238の組み合わせ、又は、PM238及びpPGSseq-16F10の組み合わせ、又は、PM238及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、AH2TC7C6及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM137、pPGSseq-16F10及びpPGSseq-11G03の組み合わせを用いることにより、関東56号を識別することができる。
【0051】
これらのマーカー又はその組み合わせを表3A及び3Bに示す。例えば、あるラッカセイが特定の品種であるか否かを判定するような場合には、この表に従って目的の品種に対応するマーカーの解析を行えばよい。
【0052】
一方、主要14種全てを識別する場合や、未特定品種が14種のどれであるかを決定する場合等には、前記6種類のマーカーを適宜組み合わせて用いればよい。6種類のマーカーの組み合わせ方について、好ましい組み合わせ例を表4Aに示す。表4Aは、品種によっては表3Aに示したとおり複数のマーカーの組み合わせによって特定され得るが、それらの中でもマーカーの数、安定性、繰返し塩基数等の種々の要因に鑑み、前記日本国産ラッカセイ品種を識別するのに特に好ましいと考えられる組み合わせに網掛けを付したものである。このような表に従って解析を行うと多数のラッカセイ品種の識別も簡便かつ確実に行うことができる。当然ながら、この表4Aにおいて、例えば、テコナの識別にPM204ではなくPM50を用いる等の改変は適宜可能である。また、主要16種全てを識別する場合や、未特定品種が16種のどれであるかを決定する場合等には、前記8種類のマーカーを適宜組み合わせて用いればよい。8種類のマーカーの組み合わせ方について、好ましい組み合わせ例を表4Bに示す。
【0053】
【表3A】

【0054】
【表3B】

【0055】
【表4A】

【0056】
【表4B】

【0057】
2.試薬キット
本発明の試薬キットは、上記1に詳述したラッカセイの品種識別方法に用いられるためのキットであって、目的のマイクロサテライトマーカーに特異的な塩基配列を増幅するための2種類のプライマーを少なくとも含むことを特徴とする。
【0058】
プライマーとしては、上記1に記載のもの等が用いられる。キットとしては、これらのプライマーの他に、さらに標準品DNA、PCR反応試薬等を含んでいてもよい。標準品DNAとしては、例えば、特定の品種から得られたゲノムDNA、特定のマイクロサテライトマーカーを増幅したDNA断片、該増幅配列をクローニングしたプラスミドベクター等が挙げられる。また、プライマーは、セットで用いられる2種類のプライマーのうちいずれかのものの5'末端を予め蛍光色素等で標識したものも好ましく用いられる。
【0059】
かくして構成される試薬キットは、これを用いることにより日本国産ラッカセイ主要品種を簡便に識別することができるという大きな効果を有する。
【0060】
3.本発明の利用
本発明は、日本国産ラッカセイ主要品種を識別する方法を提供するものである。本発明により、世界で初めて、日本国産ラッカセイ主要品種の識別に有効なマイクロサテライトマーカーの存在が明らかとなり、識別方法が確立された。
【0061】
本発明の品種識別方法は、品種間で認められるDNAの塩基配列の違いを利用しているため、従来の形態学的特徴で識別する方法とは異なり、極めて明確で客観的かつ再現性の高い方法であって、特殊な技術を習得することなく誰にでも簡易に行うことができる。
【0062】
加えて、検査対象として、根、葉、茎、種子など植物体のあらゆる部分を利用することができ、必要量も微量である。また、抽出されるDNAが激しく損傷していない限り分析は可能であるので、多くの加工品(バターピーナッツ、味付ピーナッツ等)にも適用することができる。
【0063】
また、ラッカセイやその加工品の流通段階における品種識別ばかりでなく、種子の純度検定、ある雑種種子の集団に対する雑種以外の種子の混入率の検査等にも利用できる。このことは、日本国産ラッカセイ品種の識別・同定において多大な貢献をし得るものである。
【0064】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0065】
なお、下記の実施例において、「TE」は一般的なTE buffer(10mM Tris-HCl(pH8.0), 1mM EDTA)を示す。
【0066】
また、DNA操作等に関する一般的な技術については、特に記載のない限り、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd ed.(Sambrook, J. et al., 1989)等に記載の公知の手法に従って行うことができる。
【実施例1】
【0067】
マイクロサテライトマーカーの探索
国産ラッカセイ主要品種を識別するためのマイクロサテライトマーカーの探索を行った。
【0068】
国産ラッカセイ主要品種として、アズマハンダチ(農林水産省農作物新品種登録番号:らっかせい農林1号)、テコナ(らっかせい農林2号)、ワセダイリュウ(らっかせい農林3号)、サチホマレ(らっかせい農林5号)、タチマサリ(らっかせい農林6号)、アズマユタカ(らっかせい農林7号)、ナカテユタカ(らっかせい農林8号)、サヤカ(らっかせい農林10号)、ユデラッカ(らっかせい農林11号)、土の香(らっかせい農林12号)、郷の香(らっかせい農林13号)、ふくまさり(らっかせい農林14号)、千葉半立(未登録)
、及び、千葉半立に似た系統である関東56号の、13品種、1系統を選択した。これらの種子を千葉県農業総合研究センター落花生試験地より入手し、基準品とした。
【0069】
(1)基準品のDNAの抽出
前記基準品の種子を各10粒用意し、各々70℃で3時間インキュベート後、室温に冷却して薄皮を除いた。薄皮を取り除いた種子は品種・系統ごとに粉砕し、15ml容量のチューブに入れ、抽出バッファー(10mM Tris-HCl、10mM EDTA-2Na、0.1% SDS、5M NaCl 30ml /L)を2700μl、5M塩酸グアニジン300μl、20mg/ml proteinase K 50μlを加えた。これをローテーターで撹拌しながら、55℃で3時間加温した後、3,000rpmで10分間遠心分離を行った。遠心分離後の上清各800μlを1.5ml容量のマイクロチューブに移し取り、再びマイクロチューブ遠心機を用いて15,000rpmで3分間遠心分離を行った。
【0070】
分離後、2ml容量のマイクロチューブに上清各500μlを移し取り、市販の核酸精製キット(Wizard DNA Cleanupsystem:プロメガ社製)を用いてDNAの精製を行った。精製は、全てキットに収載のプロトコールに従って行い、品種・系統ごとにDNA溶液を1.5mlマイクロチューブに得た。
【0071】
かくして得られた14種のDNA溶液について、市販のDNA定量キット(Quant-iT PicoGreen
dsDNA Assay Kit:Molecular Probes社製)を用いて濃度測定を行った。各品種のDNA溶液は、それぞれ2μlを分取してTE 98μlと混合し、計100μlを濃度測定用サンプルとして96穴マイクロプレートのウェルに分注した。サンプルのほかに、キットに添付のスタンダード溶液(2000, 200, 20, 2ng/ml)、及び、Blank(TE)も各100μlを測定に供した。各ウェルにキットに添付の試薬PicoGreen ReagentをTEで200倍希釈したものを100μlずつ加え、撹拌後、室温で2〜5分間インキュベーションを行った。このプレートを蛍光プレートリーダーに供して測定を行い(Excitation 485nm、Emission 530nm)、スタンダード溶液の測定結果から得られた検量線を用いて、前記14種の基準品から抽出した各DNA溶液の濃度を算出した。
【0072】
(2)PCR法による各マイクロサテライトに特異的な塩基配列の増幅
次に、上記(1)において得られた各品種のDNA溶液を用いて、国産ラッカセイ主要品種のゲノム中にどのようなマイクロサテライトが存在するかの解析を行った。
【0073】
マイクロサテライトとしては、Guohao He, et al., BMC Plant Biology, 3, 3 (2003) (以下「文献1」と表記)、及び、Marcio de Carvalho Moretzsohn, et al., BMC Plant Biology, 4, 11 (2004) (以下「文献2」と表記)の2文献において報告されている、南米産品種において見出されたマイクロサテライトを候補とした。これらの文献では、計123個のマイクロサテライトの存在が報告されているが、この中に日本国産品種にも存在するマイクロサテライトが含まれているか、また、もし含まれていたとして、それらが国産ラッカセイ主要品種の品種識別に有用なものであるかの知見は全く得られていなかった。そこで、まずこれらのマーカーについて網羅的な解析を行い、日本国産品種に適したマーカーとなり得るか否かを検討することとした。
【0074】
上記(1)において得られた14種のDNA溶液は、TE (pH8.0)で10ng/μlの濃度になるよう調整し、これを鋳型DNAとしてPCR反応に用いた。
【0075】
PCR反応に用いるプライマーとしては、前記2文献に開示されている、各マイクロサテライトに特異的な塩基配列を増幅することができるプライマーのセットを適宜選択して用いた。このとき、後述する解析のために、forwardプライマーは予め5'末端を蛍光標識して用いた。蛍光標識プライマーとしては、VIC、PETで標識されたものを外注した(ABI社製)。reverseプライマーは、未標識のものを用いた。
【0076】
PCR反応は、GeneAmp9600システム(Roche diagnostics社製)を使用し、20μlの反応液量で行った。反応液20μlは、1μlの鋳型DNA(10ng/μl)、0.75 unitsのAmpliTaq Gold(ABI社製)、4 nmoleのdNTP、forwardプライマーとreverseプライマーを各々0.625 pmoleを含むよう調製し、PCRバッファーにはAmpliTaq Gold に添付のものを用いた。PCR反応の条件は、95℃で10分の後、95℃で30秒、55℃で30秒、72℃で1分の反応を1サイクルとし、これを40サイクル繰返し、最後に72℃を30分とした。
PCR反応の結果得られた増幅産物を次工程に供して解析した。
【0077】
(3)キャピラリー式電気泳動法を用いた増幅断片長の解析
予め純水100μlを分注した96穴プレートに、上記(2)において得られたPCR増幅産物を2μlずつ加え、50倍希釈とした。Hi-di Formamid(ABI社製)に1/500量の分子量マーカー(500 LIZ Size Standard:ABI社製)を加えた。Hi-di Formamidを検出用96穴プレート(TCll Reaction Plate)に10μlずつ分注し、前記50倍希釈液を1μlずつ加え、蓋をした。混和後、遠心し、95℃で5分加温した後、直ちに氷中に置き10分間冷却した。前記プレートをキャピラリー式電気泳動装置「3730 DNA Analyzer」(ABI社製)にセットしてRun ボタンを押し、電気泳動を開始した。解析ソフト「GeneMapper」(ABI社製)を起動して、フラグメント解析機能を使って増幅断片のサイズ(長さ)を測定した。各マーカーごとに、14種それぞれにおいてどのような増幅断片が得られたかを検出し、長さに基づいてアルファベットのAから順にクラス分けした。
【0078】
(4)マーカーの決定
上記手法により前記2文献に開示された計123個のマイクロサテライトの解析を順次進め、これらのうちで前記国産ラッカセイ主要品種に存在し、かつ、品種間に多型の見られるマイクロサテライトを探索した。その結果、多型が見られたマイクロサテライトのうち6個のものを適切に組み合わせることによって、前記国産ラッカセイ主要品種の識別が行えることが明らかになった。すなわち、これら6個のマイクロサテライトにおける多型のタイプの組合せが、前記14種の間で全て異なる組合せとなることが見出されたものである。
【0079】
ここで見出された6個のマイクロサテライトマーカーは、PM15(GenBank accession number:AY237742)、PM32(AY237747)、PM50(AY237756)、PM137(AY237766)、PM204(AY237780)、及びPM238(AY237791)であった。これらのマイクロサテライトマーカーは、いずれも、文献1に配列及び該配列を増幅するためのプライマー配列が開示されていたマイクロサテライトであった。
【0080】
なお、ここで選択された6個以外のマイクロサテライトは、前記14種には存在しないと考えられたもの(PCR反応によって増幅産物が得られない)、存在していても前記14種間で多型が見られないもの(各品種において増幅される増幅産物に差がない)、14種間で多型は見られても品種識別には有用でないもの(14種のうちいずれかのものの間では増幅産物の差が見られたものの、組み合わせても14種すべてを特定できない)等であった。
【0081】
特に、文献2に開示されていたマイクロサテライトが一つも国産ラッカセイ主要品種の識別に有用でなかったことは、驚くべき結果であった。この文献に開示されたマイクロサテライトは3bpの繰返し配列を示すものであったため、2bpの繰返し配列を有するものに比べて増幅断片長の差が大きいことが想定されたことと、海外品種において多型が見られたことが明示されていたことから、当初、国産ラッカセイ品種についてもこれらのマーカーがより好適であると考えられた。しかし、結果としてこの文献で報告されたマーカー及びそれを増幅するためのプライマーの中には国産品種の多型解析に直ちに用い得るものが一つもなかったので、引き続いて文献1に開示されたマイクロサテライトマーカーの解析を行い、有用なマーカーを特定するに至った。このことは、海外品種において多型が見られ
、重要であるとされたマイクロサテライトマーカーであっても、国産品種にも用い得るとは一概にはいえないことを示していた。また、従来は繰返す配列の長いマイクロサテライトが有用と考えられてきたが、微小な差を示す2bpの繰返し配列を有するものでも十分な解析を行えばマーカーとなり得ることがわかった。
【0082】
ここで得られた結果を、前記14種における各マーカーの多型の一覧表(表1A)、及び、各マーカーにおける多型のクラス(表2A)にまとめた。また、品種ごとにそれを特定するのに用いられる特定のマーカー又はその組み合わせを一覧表にした(表3A)。さらに、品種によってはそれを特定可能なマーカー又はその組み合わせが複数あったが、その中から特に好ましいマーカー又はその組み合わせを決定し、表4Aを作成した(表4Aにおいて網掛けを付したものが、好ましいマーカー又はその組み合わせである)。これらの表を用いることにより、日本国産ラッカセイ主要品種の識別を簡便に行うことができる。
【実施例2】
【0083】
蛍光イメージアナライザーを用いた増幅断片の解析
上記実施例1においては、増幅断片の解析にキャピラリー式電気泳動装置と解析ソフトを用いた。そこで、得られた前記6個のマイクロサテライトマーカーについて、ゲル板式電気泳動法と蛍光イメージアナライザーによって電気泳動パターンを検出することにより増幅断片の解析を行い、いずれの方法によっても同じ結果が得られるかどうかを確認した。ゲル板式電気泳動法は、キャピラリー式電気泳動法に比較すると分解能や感度が低いことが知られているが、汎用性が高い点では有用である。
【0084】
前記6個のマイクロサテライトマーカーには、増幅断片長の差が小さく判定が難しいと考えられる2bp繰返しのマイクロサテライトが複数含まれていたので、ゲルとしては分解能が高いシークエンスゲルを用いた。
【0085】
上記実施例1の(1)で調製した14種のDNA溶液について、前記6個のマイクロサテライトマーカーに特異的な塩基配列を増幅するプライマーのセット(以下、forwardプライマーを(F)、reverseプライマーを(R)で示す)を用いて、前記と同様にしてPCR法による増幅を行った。プライマーとしては、マーカーPM15の増幅にはPM15(F)(配列番号:1)及びPM15(R)(配列番号:2)、マーカーPM32の増幅にはPM32(F)(配列番号:3)及びPM32(R)(配列番号:4)、マーカーPM50の増幅にはPM50(F)(配列番号:5)及びPM50(R)(配列番号:6)、マーカーPM137の増幅にはPM137(F)(配列番号:7)及びPM137(R)(配列番号:8)、マーカーPM204の増幅にはPM204(F)(配列番号:9)及びPM204(R)(配列番号:10)、マーカーPM238の増幅にはPM238(F)(配列番号:11)及びPM238(R)(配列番号:12)を用いた。各forwardプライマーは、上記実施例1と同様に5'末端がFITCで蛍光標識されたものを外注した。
【0086】
PCR反応終了後、変性液(40% ホルムアミド、5.6M Urea)と増幅産物(PCR反応終了液)とを4:1で混合し、95℃で10分間加熱処理後、各々5μl を電気泳動に供した。電気泳動は、十分な分離が達成されるように40cm長の変性ゲル(6%変性ポリアクリルアミドゲル:50% 尿素、アクリルアミド(モノマー:ビス=19:1))を用いて実施した。蛍光標識された市販の分子量マーカーについても同様の加熱・変性処理を行い、同時に泳動に供した。
【0087】
電気泳動終了後、蛍光イメージアナライザーFMBIO(日立ソフトウェアエンジニアリング社製)を用いて、反応産物の断片長を解析した。増幅断片長は分子量マーカーに基づいてバンドの位置の差として検出した。
【0088】
増幅断片長の差異によって作成した対応表は、実施例1で作成された表1A及び2Aの
内容と完全に一致し、上記実施例1において得られた結果が再確認された。また、このことにより、PCR法による増幅産物の断片長の差をゲル板式電気泳動法のバンドの位置の差として検出しても同様の識別が行えることが確認され、本法の有効性が示された。
【実施例3】
【0089】
本発明の方法による日本国産ラッカセイの品種識別
本発明の品種識別方法の有用性を確認するため、市販品のバターピーナッツを用いて品種識別を行った。
【0090】
この市販品のバターピーナッツには国産ラッカセイが使用されていると考えられたが、どのような品種のラッカセイが使用されているかは記載されていなかった。そこで、上記実施例1で得られた6個のマイクロサテライトマーカー全てについて解析を行うこととした。
【0091】
上記実施例1と同様にして、前記バターピーナッツ3粒からDNA抽出を行った。
次に、上記実施例1と同様に、PCR反応を行い、前記6個のマイクロサテライトマーカーの増幅断片長をキャピラリー式電気泳動法により解析した。その結果、このバターピーナッツに用いられているラッカセイは、PM50でクラスAの多型を示すことがわかった。また、PM204はクラスC、PM15はクラスB、PM137はクラスD、PM32はクラスB、PM238はクラスAEの多型を有していた。
【0092】
この結果は前記表1Aにおいて千葉半立であることを示す多型の組合せと一致し、該バターピーナッツに用いられているラッカセイが千葉半立であることが確認された。また、この結果は、本法を適用するラッカセイが加工品であっても問題なく品種識別が可能であることを示している。
【実施例4】
【0093】
マイクロサテライトマーカーの探索・2
前記実施例1〜3に記載の探索で対象となっていなかった「ベニハンダチ」及び「ダイチ」を加え、計16種を対象として、改めて国産ラッカセイ主要品種を識別するためのマイクロサテライトマーカーの探索を行った。これら計16種を対象とすることにより、日本で流通している国内品種のうちの約98%(平成14年作付面積より)を網羅することができ、実用上の有用性をさらに高めることができる。
【0094】
国産ラッカセイ主要品種16種は、アズマハンダチ(農林水産省農作物新品種登録番号:らっかせい農林1号)、テコナ(らっかせい農林2号)、ワセダイリュウ(らっかせい農林3号)、ベニハンダチ(らっかせい農林4号)、サチホマレ(らっかせい農林5号)、タチマサリ(らっかせい農林6号)、アズマユタカ(らっかせい農林7号)、ナカテユタカ(らっかせい農林8号)、ダイチ(らっかせい農林9号)、サヤカ(らっかせい農林10号)、ユデラッカ(らっかせい農林11号)、土の香(らっかせい農林12号)、郷の香(らっかせい農林13号)、ふくまさり(らっかせい農林14号)、千葉半立(未登録)、及び、千葉半立に似た系統である関東56号の、15品種、1系統である。これらの種子は千葉県農業総合研究センター落花生試験地より入手し、基準品とした。
【0095】
(1)基準品のDNAの抽出
前記基準品16種の種子を各10粒用意し、各々70℃で3時間インキュベート後、室温に冷却して薄皮を除いた。薄皮を取り除いた種子は品種・系統ごとに粉砕し、15ml容量のチューブに入れ、抽出バッファー(10mM Tris-HCl、10mM EDTA-2Na、0.1% SDS、5M NaCl 30ml
/L)を2700μl、5M塩酸グアニジン300μl、20mg/ml proteinase K 50μlを加えた。これをローテーターで撹拌しながら、55℃で3時間加温した後、3,000rpmで10分間遠心分離を
行った。遠心分離後の上清各800μlを1.5ml容量のマイクロチューブに移し取り、再びマイクロチューブ遠心機を用いて15,000rpmで3分間遠心分離を行った。
【0096】
分離後、2ml容量のマイクロチューブに上清各500μlを移し取り、市販の核酸精製キット(Wizard DNA Cleanupsystem:プロメガ社製)を用いてDNAの精製を行った。精製は、全てキットに収載のプロトコールに従って行い、品種・系統ごとにDNA溶液を1.5mlマイクロチューブに得た。
【0097】
かくして得られた16種のDNA溶液について、市販のDNA定量キット(Quant-iT PicoGreen
dsDNA Assay Kit:Molecular Probes社製)を用いて濃度測定を行った。各品種のDNA溶液は、それぞれ2μlを分取してTE 98μlと混合し、計100μlを濃度測定用サンプルとして96穴マイクロプレートのウェルに分注した。サンプルのほかに、キットに添付のスタンダード溶液(2000, 200, 20, 2ng/ml)、及び、Blank(TE)も各100μlを測定に供した。各ウェルにキットに添付の試薬PicoGreen ReagentをTEで200倍希釈したものを100μlずつ加え、撹拌後、室温で2〜5分間インキュベーションを行った。このプレートを蛍光プレートリーダーに供して測定を行い(Excitation 485nm、Emission 530nm)、スタンダード溶液の測定結果から得られた検量線を用いて、前記16種の基準品から抽出した各DNA溶液の濃度を算出した。
【0098】
(2)PCR法による各マイクロサテライトに特異的な塩基配列の増幅
次に、上記(1)において得られた全16種のDNA溶液を用いて、国産ラッカセイ主要品種のゲノム中にどのようなマイクロサテライトが存在するかの解析を行った。今回新たに対象に追加した「ベニハンダチ」及び「ダイチ」は、前記実施例1〜3において確立した国産ラッカセイ主要品種全14種を識別する方法を適用すると「千葉半立」と区別できなかったため、これら3種を区別できる新たなマイクロサテライトマーカーの探索を目指した。
【0099】
マイクロサテライトとしては、前記実施例1でも用いたGuohao He, et al., BMC Plant
Biology, 3, 3 (2003) (以下「文献1」と表記)のほか、M. E. Ferguson, et al., Theor Appl Genet (2004)108:1064-1070(以下「文献3」と表記)、M. C. Moretzsohn, et al., Theor Appl Genet (2005)111:1060-1071(以下「文献4」と表記)、及び、Guohao He, et al., Euphytica (2005)142:131-136(以下「文献5」と表記)の4文献において報告されている、外国品種において見出されたマイクロサテライトを候補とした。
【0100】
文献1からの56マーカーについては、前記実施例1において識別に有効なマーカーを解析済みである。文献3、4、及び5には、重複しているものを除くと計188個のマイクロサテライトの存在が報告されていた(文献3から110マーカー、文献4から59マーカー、文献5から19マーカー)。この中から、まず、まだ識別方法が確立できていない千葉半立、ダイチ、及びベニハンダチで多型を示すマイクロサテライトを選択するため、網羅的な解析(スクリーニング)を行うこととした。解析は各品種1個体のDNAについて実施した。
【0101】
前記実施例1では、非蛍光プライマーを用いたPCRで各マーカーを増幅し、ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動で多型の有無を調査する方法により網羅的スクリーニングを実施した。しかし、実施例1において行った方法ではPCR増幅断片の分離能が比較的低く、数塩基の長さの差を見落としてしまう可能性がある点で改良の余地があった。網羅的なスクリーニングを行う中で、文献に報告されたマーカーは多数あっても、遺伝的近縁の品種が多数存在する日本の国産落花生を対象とすると多型を示すマーカーがごく限られていることがわかってきたことから、スクリーニングにおいて多型を示すマーカーはもれなく選ぶことが望まれた。しかしそこで、全マーカーについて蛍光標識プライマーを作製し、分離能が高いキャピラリー式電気泳動による高感度な解析を行おうとすると、蛍光標識に莫大なコストがかかることから現実的ではない。この問題を解決する方法として、20bp
の任意配列(GCTACGGACTGACCTCGGAC(配列番号:13))を付加した各マイクロサテライトに対する特異的フォワードプライマーと特異的リバースプライマーを用いてPCRを行い、さらに、そのPCR産物を鋳型として、蛍光標識した前記任意配列をファワードプライマーと特異的リバースプライマーで2回目のPCRを行うことで、PCR増幅産物を蛍光標識する方法を採用した。この方法によれば、前記任意配列のみを蛍光標識することで、低コストにすべてのマーカーのPCR産物を蛍光標識することができる。さらに、PCR を2度実施すると通常のマーカー特異的蛍光標識プライマーを用いたPCRに比較して煩雑となるので、特異的フォワードプライマー、特異的リバースプライマー、及び、蛍光標識した前記任意配列プライマーを同じPCR反応液に入れ、一度のPCRで低コストかつ簡便に多種類のPCR産物を蛍光標識できるよう改良し、スクリーニング解析を行った。
【0102】
PCR反応に用いるプライマーとしては、前記の文献4に記載のマーカーについては文献中にプライマー配列が開示されていなかったため、DNA塩基配列データベースの情報を基にプライマー設計用フリーソフトウェアPrimer3(Rozen S, Skaletsky H (2000) Primer3 on the WWW for general users and for biologist programmers. In: Krawetz S, Misener S (eds) Bioinformatics Methods and Protocols: Methods in Molecular Biology. Humana Press, Totowa, NJ, pp 365-386)を用いて独自に作成した。その他のマーカーについては、文献に開示されている各マイクロサテライトに特異的な塩基配列を増幅することができる特異的プライマーのセットを適宜選択して用いた。
【0103】
PCRの反応液20μlの組成は、10×PCRバッファーを2μl、2mM d-NTPを2μl、25mM MgCl2
を0.4μl、蛍光標識された任意配列プライマー(25pmol/μl)を0.1μl、任意配列を付加した各マイクロサテライトマーカーに対する特異的フォワードプライマー(25pmol/μl)を0.1μl、 特異的リバースプライマー(25pmol/μl)を0.2μl、TaqDNAポリメラーゼ(5U/μl)を0.1μl、MQ水を14.1μl、DNA(10ng/μl)を1μlとした。温度条件は、95℃10分の後、95℃0.5分、55℃0.5分、72℃1分を40回繰返し、最後に72℃3分とした。PCR増幅断片長の検出は、後述のキャピラリー式電気泳動法の手順にしたがって実施した。
【0104】
スクリーニングの結果、千葉半立、ダイチ、及びベニハンダチで多型を示すマーカーが文献3から14個、文献4から13個、見つかった。文献5からのマーカーには、3品種を識別できるマーカーはひとつもなかった。各文献では複数の外国産ラッカセイ品種の解析が行われ、多数のマーカーが報告されていたが、国産ラッカセイ品種に適用できるマーカーはごく一部であり、傾向にも一貫性がなく、地道な探索が必要であることが改めて確認された。
【0105】
次に、上記の網羅的スクリーニングの結果選択された全27個のマーカーについて、順次、全16品種を用いた詳細な解析を実施した。
【0106】
上記(1)において得られた16種のDNA溶液は、TE (pH8.0)で10ng/μlの濃度になるよう調整し、これを鋳型DNAとしてPCR反応に用いた。解析は各品種10個体ずつ実施した。
【0107】
プライマーは、前記のスクリーニングでも用いた、各マイクロサテライトマーカーに対する特異的フォワードプライマー及び特異的リバースプライマーを用いた。このとき、後述する蛍光イメージアナライザーによる解析のために、フォワードプライマーは予め5'末端を蛍光標識して用いた。蛍光標識プライマーとしては、VIC、PET、NED、FAMで標識されたものを外注した(ABI社製)。pPGSseq-16F10、AH2TC7C6、pPGSseq-11G07、及び、PM3のリバースプライマーについてはABI社にtailed-reverseプライマーとして外注した。その他は、通常のリバースプライマーとした。
【0108】
PCR反応は、GeneAmp9600システム(Roche diagnostics社製)を使用し、20μlの反応液
量で行った。反応液20μlは、1μlの鋳型DNA(10ng/μl)、0.75 unitsのAmpliTaq Gold(ABI社製)、0.2μmoleのdNTP、フォワードプライマーとリバースプライマーを各々0.625 pmoleを含むよう調製し、PCRバッファーにはAmpliTaq Gold に添付のものを用いた。PCR反応の条件は、95℃で10分の後、95℃で30秒、55℃で30秒、72℃で1分の反応を1サイクルとし、これを40サイクル繰返し、最後に72℃を30分とした。
PCR反応の結果得られた増幅産物を次工程に供して解析した。
【0109】
(3)キャピラリー式電気泳動法を用いた増幅断片長の解析
予め純水100μlを分注した96穴プレートに、上記(2)において得られたPCR増幅産物を2μlずつ加え、50倍希釈とした。Hi-di Formamid(ABI社製)に1/200量の分子量マーカー(500 LIZ Size Standard:ABI社製)を加えた。Hi-di Formamidを検出用96穴プレート(TCll Reaction Plate)に10μlずつ分注し、前記50倍希釈液を1μlずつ加え、蓋をした。混和後、遠心し、95℃で5分加温した後、直ちに氷中に置き10分間冷却した。前記プレートをキャピラリー式電気泳動装置「3730 DNA Analyzer」(ABI社製)にセットしてRun ボタンを押し、電気泳動を開始した。解析ソフト「GeneMapper」(ABI社製)を起動して、フラグメント解析機能を使って増幅断片のサイズ(長さ)を測定した。各マーカーごとに、16種それぞれにおいてどのような増幅断片が得られたかを検出し、長さに基づいてアルファベットのAから順にクラス分けした。
【0110】
(4)マーカーの決定
上記手法によりスクリーニングで有効であったマーカーについて16種での解析を順次進めたところ、先に選択された27マーカーのうち、文献3からの3マーカー、文献4からの1マーカー、及び、すでに前記全14種を品種識別する方法において有効であることが判っている文献1からの4マーカーの合計8マーカーを適切に組合わせることによって、国産ラッカセイ主要品種16種の識別が行えることが明らかになった。すなわち、これら8個のマイクロサテライトにおける多型のタイプの組合わせが、前記16種の間で全て異なる組合せになることが見出されたものである。
【0111】
ここで見出された8個のマイクロサテライトマーカーは、文献1に記載のPM204(GenBank
accession number:AY237780)、PM3 (AY237738)、PM137 (AY237766)、PM238 (AY237791)、文献3に記載のpPGSseq-16F10 (BZ999879) 、pPGSseq-11G07(BZ999490)、pPGSseq-11G03 (BZ999487) 、及び、文献4に記載のAH2TC7C6 (DQ099141)であった。
【0112】
先に選択された27マーカーの全てを詳細解析していないが、順次マーカー解析を実施した結果、これらの8マーカーで識別が可能となった。
【0113】
ここで得られた結果を、前記16種における各マーカーの多型の一覧表(表1B)、及び、各マーカーにおける多型のクラス(表2B)にまとめた。また、品種ごとにそれを特定するのに用いられる特定のマーカー又はその組み合わせを一覧表にした(表3B)。さらに、品種によってはそれを特定可能なマーカー又はその組み合わせが複数あったが、その中から特に好ましいマーカー又はその組み合わせを決定し、表4Bを作成した(表4Bにおいて網掛けを付したものが、好ましいマーカー又はその組み合わせである)。これらの表を用いることにより、日本国産ラッカセイ主要品種の識別を簡便に行うことができる。
【実施例5】
【0114】
蛍光イメージアナライザーを用いた増幅断片の解析
上記実施例4においては、増幅断片の解析にキャピラリー式電気泳動装置と解析ソフトを用いた。そこで、得られた前記8個のマイクロサテライトマーカーについて、ゲル板式電気泳動法と蛍光イメージアナライザーによって電気泳動パターンを検出することにより増幅断片の解析を行い、いずれの方法によっても同じ結果が得られるかどうかを確認した
。ゲル板式電気泳動法は、キャピラリー式電気泳動法に比較すると分解能や感度が低いことが知られているが、装置の汎用性が高い点では有用である。
【0115】
前記8個のマイクロサテライトマーカーには、増幅断片長の差が小さく判定が難しいと考えられる2bp繰返しのマイクロサテライトが複数含まれていたので、ゲルとしては分解能が高いシークエンスゲルを用いた。
【0116】
上記実施例4の(1)で調製した16種のDNA溶液について、前記8個のマイクロサテライトマーカーに特異的な塩基配列を増幅するプライマーのセット(以下、forwardプライマーを(F)、reverseプライマーを(R)で示す)を用いて、前記と同様にしてPCR法による増幅を行った。プライマーとしては、マーカーPM204の増幅にはPM204(F)(配列番号:1)及びPM204(R)(配列番号:2)、マーカーPM3の増幅にはPM3 (F)(配列番号:22)及びPM3 (R)(配列番号:23)、マーカーPM137の増幅にはPM137(F)(配列番号:5)及びPM137(R)(配列番号:6)マーカーPM238の増幅にはPM238(F)(配列番号:7)及びPM238(RT)(配列番号:8)、マーカーpPGSseq-16F10の増幅にはpPGSseq-16F10 (F)(配列番号:14)及びpPGSseq-16F10 (RT)(配列番号:15)、マーカーpPGSseq-11G07の増幅にはpPGSseq-11G07 (F)(配列番号:18)及びpPGSseq-11G07 (RT)(配列番号:19)、マーカーAH2TC7C6の増幅にはAH2TC7C6 (F)(配列番号:16)及びAH2TC7C6 (RT)(配列番号:17)、マーカーpPGSseq-11G03の増幅にはpPGSseq-11G03 (F)(配列番号:20)及びpPGSseq-11G03 (RT)(配列番号:21)を用いた。各forwardプライマーは、上記実施例1と同様に5'末端が蛍光標識されたものを外注した。
【0117】
PCR反応終了後、変性液(40% ホルムアミド、5.6M Urea)と増幅産物(PCR反応終了液)とを4:1で混合し、95℃で10分間加熱処理後、各々5μl を電気泳動に供した。電気泳動は、十分な分離が達成されるように40cm長の変性ゲル(6%変性ポリアクリルアミドゲル:50% 尿素、アクリルアミド(モノマー:ビス=19:1))を用いて実施した。蛍光標識された市販の分子量マーカーについても同様の加熱・変性処理を行い、同時に泳動に供した。
【0118】
電気泳動終了後、蛍光イメージアナライザーFMBIO(日立ソフトウェアエンジニアリング社製)を用いて、反応産物の断片長を解析した。増幅断片長は分子量マーカーに基づいてバンドの位置の差として検出した。
【0119】
増幅断片長の差異によって作成した対応表は、実施例4で作成された表1B及び2Bの内容と完全に一致し、上記実施例4において得られた結果が再確認された。また、このことにより、PCR法による増幅産物の断片長の差をゲル板式電気泳動法のバンドの位置の差として検出しても同様の識別が行えることが確認され、本法の有効性が示された。
【実施例6】
【0120】
本発明の方法による日本国産ラッカセイの品種識別
本発明の品種識別方法の有用性を確認するため、市販品のバターピーナッツを用いて品種識別を行った。
【0121】
この市販品のバターピーナッツには国産ラッカセイが使用されていると考えられたが、どのような品種のラッカセイが使用されているかは記載されていなかった。そこで、上記実施例4で得られた8個のマイクロサテライトマーカー全てについて解析を行うこととした。
【0122】
上記実施例4と同様にして、前記バターピーナッツ3粒からDNA抽出を行った。
次に、上記実施例4と同様に、PCR反応を行い、前記8個のマイクロサテライトマーカー
の増幅断片長をキャピラリー式電気泳動法により解析した。その結果、このバターピーナッツに用いられているラッカセイは、PM204でクラスC、PM3でクラスAE、PM137でクラスD、PM238でクラスAE、pPGSseq-16F10でクラスE、pPGS seq-11G07でクラスD、AH2TC7C6でクラスB、pPGS seq-11G03でクラスBの多型を有していた。
【0123】
この結果は前記表1Bにおいて千葉半立であることを示す多型の組合せと一致し、該バターピーナッツに用いられているラッカセイが千葉半立であることが確認された。また、この結果は、本法を適用するラッカセイが加工品であっても問題なく品種識別が可能であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明によれば、日本国産ラッカセイ主要品種の識別を、明確、客観的に、かつ再現性高く行うことができる。また、従来の形態学的特徴に基づく方法に比べて非常に簡便な手法で行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロサテライトマーカーPM15、PM32、PM50、PM137、PM204、及びPM238からなる群より選ばれるいずれか一つ以上のマイクロサテライトマーカーを用いて以下の日本国産落花生主要品種を識別することを特徴とする、落花生品種識別方法;
アズマハンダチ
テコナ
ワセダイリュウ
サチホマレ
タチマサリ
アズマユタカ
ナカテユタカ
サヤカ
ユデラッカ
土の香
郷の香
ふくまさり
千葉半立
関東56号
【請求項2】
マイクロサテライトマーカーPM50を用いることを特徴とする、アズマハンダチ又は千葉半立の識別方法。
【請求項3】
マイクロサテライトマーカーPM50又はPM204を用いることを特徴とする、テコナの識別方法。
【請求項4】
マイクロサテライトマーカーPM204を用いることを特徴とする、ワセダイリュウの識別方法。
【請求項5】
マイクロサテライトマーカーPM204、又は、PM50及びPM238の組み合わせを用いることを特徴とする、サチホマレの識別方法。
【請求項6】
マイクロサテライトマーカーPM15、PM137、及びPM204の組み合わせ、又は、PM204及びPM238の組み合わせを用いることを特徴とする、タチマサリの識別方法。
【請求項7】
マイクロサテライトマーカーPM50、PM137及びPM204の組み合わせを用いることを特徴とする、アズマユタカの識別方法。
【請求項8】
マイクロサテライトマーカーPM15、PM50、PM137、及びPM238の組み合わせ、又は、PM15、PM32、PM50、及びPM238の組み合わせを用いることを特徴とする、ナカテユタカの識別方法。
【請求項9】
マイクロサテライトマーカーPM50及びPM137の組み合わせを用いることを特徴とする、サヤカの識別方法。
【請求項10】
マイクロサテライトマーカーPM15及びPM137の組み合わせ、PM15及びPM32の組み合わせ、又は、PM15及びPM238の組み合わせを用いることを特徴とする、ユデラッカの識別方法。
【請求項11】
マイクロサテライトマーカーPM238を用いることを特徴とする、土の香の識別方法。
【請求項12】
マイクロサテライトマーカーPM50及びPM238の組み合わせを用いることを特徴とする、郷の香の識別方法。
【請求項13】
マイクロサテライトマーカーPM15及びPM32の組み合わせ、PM32及びPM238の組み合わせ、又は、PM50、PM137、及びPM238の組み合わせを用いることを特徴とする、ふくまさりの識別方法。
【請求項14】
マイクロサテライトマーカーPM204及びPM238の組み合わせ、又は、PM50及びPM238の組み合わせを用いることを特徴とする、関東56号の識別方法。
【請求項15】
マイクロサテライトマーカーPM204、PM3、PM137、PM238、pPGSseq-16F10、pPGSseq-11G07、pPGSseq-11G03、及び、AH2TC7C6からなる群より選ばれるいずれか一つ以上のマイクロサテライトマーカーを用いて以下の日本国産落花生主要品種を識別す
ることを特徴とする、落花生品種識別方法;
アズマハンダチ
テコナ
ワセダイリュウ
ベニハンダチ
サチホマレ
タチマサリ
アズマユタカ
ナカテユタカ
ダイチ
サヤカ
ユデラッカ
土の香
郷の香
ふくまさり
千葉半立
関東56号
【請求項16】
マイクロサテライトマーカーPM3を用いることを特徴とする、アズマハンダチの識別方法。
【請求項17】
マイクロサテライトマーカーPM204を用いることを特徴とする、テコナの識別方法。
【請求項18】
マイクロサテライトマーカーPM204、又は、pPGSseq-11G07、又は、PM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、pPGSseq-16F10及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、pPGSseq-11G03及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM3、PM137及びpPGSseq-11G03の組み合わせを用いることを特徴とする、ワセダイリュウの識別方法。
【請求項19】
マイクロサテライトマーカーpPGSseq-16F10又はAH2TC7C6を用いることを特徴とする、ベニハンダチの識別方法。
【請求項20】
マイクロサテライトマーカーPM204、又は、PM238及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM137及びpPGSseq-16F10の組み合わせ、又は、PM238及びpPGSseq-16F10の組み合わせを用いることを特徴とする、サチホマレの識別方法。
【請求項21】
マイクロサテライトマーカーPM204及びPM238の組み合わせ、又は、PM3及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、PM3及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM204及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM3及びpPGSseq-16F10の組み合わせ、又は、AH2TC7C6及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、AH2TC7C6及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、PM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、pPGSseq-16F10及びpPGSseq-11G03の組み合わせを用いることを特徴とする、タチマサリの識別方法。
【請求項22】
マイクロサテライトマーカーpPGSseq-16F10、又は、PM238及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、PM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM238、AH2TC7C6及びPM137の組み合わせを用いることを特徴とする、アズマユタカの識別方法。
【請求項23】
マイクロサテライトマーカーPM3、PM137、PM238及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM3、PM137、PM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせを用いることを特徴とする、ナカテユタカの識別方法。
【請求項24】
マイクロサテライトマーカーpPGSseq-16F10及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、PM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM238及びpPGSseq-11G07の組み合わせを用いることを特徴とする、ダイチの識別方法。
【請求項25】
マイクロサテライトマーカーPM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM137及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM137及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM238、pPGSseq-11G07及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM238、pPGSseq-16F10及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、pPGSseq-11G07、pPGSseq-11G03及びAH2TC7C6の組み合わせを用いることを特徴とする、サヤカの識別方法。
【請求項26】
マイクロサテライトマーカーPM3及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM3及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM3及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、PM3及びPM238の組み合わせ、又は、PM3及びPM137の組み合わせ、又は、PM204、PM3及びpPGSseq-16F10の組み合わせを用いることを特徴とする、ユデラッカの識別方法。
【請求項27】
マイクロサテライトマーカーPM238、又は、PM137及びpPGSseq-16F10の組み合わせ、又は、PM204及びpPGSseq-16F10の組み合わせを用いることを特徴とする、土の香の識別方法。
【請求項28】
マイクロサテライトマーカーPM137、PM238及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、PM137、PM238及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、pPGSseq-11G03及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、PM137、pPGSseq-16F10、AH2TC7C6及びpPGSseq-11G03の組み合わせを用いることを特徴とする、郷の香の識別方法。
【請求項29】
マイクロサテライトマーカーPM238及びpPGSseq-11G07の組み合わせ、又は、pPGSseq-11G07及びAH2TC7C6の組み合わせを用いることを特徴とする、ふくまさりの識別方法。
【請求項30】
マイクロサテライトマーカーPM204、PM3、PM238、pPGSseq-11G07及びAH2TC7C6の組み合わせを用いることを特徴とする、千葉半立の識別方法。
【請求項31】
マイクロサテライトマーカーPM204及びPM238の組み合わせ、又は、PM238及びpPGSseq-16F10の組み合わせ、又は、PM238及びAH2TC7C6の組み合わせ、又は、AH2TC7C6及びpPGSseq-11G03の組み合わせ、又は、PM137、pPGSseq-16F10及びpPGSseq-11G03の組み合わせを用いることを特徴とする、関東56号の識別方法。
【請求項32】
識別方法が以下の工程よりなることを特徴とする請求項1〜31のいずれかに記載の方法。
a) 品種を識別すべき落花生から抽出されたDNAを鋳型とし、用いるマイクロサテライトマーカーに特異的な塩基配列を増幅するための2種類のプライマーを用いてPCRを行い、
b) 上記工程a)において増幅されたDNA断片の長さを測定し、
c) 上記工程b)において測定されたDNA断片の長さに基づいて落花生品種を識別する。
【請求項33】
工程b)におけるDNA断片の長さの測定が、キャピラリー式電気泳動装置を用いて行われることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項34】
用いるマイクロサテライトマーカーに特異的な塩基配列を増幅するための2種類のプライマーを少なくとも含むことを特徴とする、請求項1〜33のいずれかに記載の方法に用いられるための試薬キット。

【公開番号】特開2007−190016(P2007−190016A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345167(P2006−345167)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(591122956)三菱化学メディエンス株式会社 (45)
【出願人】(591014710)千葉県 (49)
【Fターム(参考)】