説明

マイクロスケール管理機能を備えた荷電粒子線装置

【課題】マイクロスケールの照射位置あるいは使用回数といった使用状態を簡便に管理できる機能を備えた走査電子顕微鏡あるいは荷電粒子線装置を実現する。
【解決手段】マイクロスケール上のセルの配置に対応したマップを作成し、当該マップ上に各セルの使用状態を表示する。装置ユーザは、実際に使用するマイクロスケール上のセルをマップ上に示されるセルから選択する。表示の際には、単純に使用回数を文字表示するのではなく、マップ上のセルを使用状態に応じて色分けして表示する。また、マイクロスケールの使用状態を適当なカテゴリに分類し、分類したカテゴリ毎に色分け表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電粒子線装置と寸法校正用標準試料(以下、マイクロスケールと呼ぶ)に関し、このようなマイクロスケールを校正用試料として用いる荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体ウェーハ上のパターン寸法は、100nm以下の加工精度が要求され、ラインパターンの寸法管理が重要である。ラインパターンの寸法測長としては走査電子顕微鏡(SEM)といった荷電粒子線装置を応用した装置が利用されており、特に半導体のラインパターンの寸法計測あるいはコンタクトホールのホール径の計測といった用途に特化した走査電子顕微鏡であるCD−SEMは広く使用されている。装置の性能面でのニーズは様々であるが、主に分解能(高倍率観察)・繰り返し測長精度(再現性)および寸法校正精度の向上が上げられる。寸法校正精度に対する要求は、1nm以下となっており、寸法校正用試料としてマイクロスケールが使用されている。マイクロスケールは、通常、シリコン基板上に回折格子状の凹凸パターンを形成して作製された試料であり、近年では、凹凸パターンのピッチサイズが100nm程度のものも登場している。
【0003】
このような寸法校正用試料に関する先行文献としては、例えば特許文献1に記載される発明がある。当該文献には、寸法校正用に使用されるラインアンドスペースの格子パターンが形成された矩形領域(セルと呼ばれる)の周囲に、十字マーク状のアライメント用パターンを配置した構造のマイクロスケールが開示されている。ピッチサイズが100nm程度のマイクロスケールの場合、一つのマイクロスケール上に形成されるセルの数は、縦横に数百個×数百個、つまり10,000個以上という膨大な数に達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−10522号公報(米国特許7361898号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、マイクロスケールはシリコン基板上に回折格子状の凹凸パターンを形成して作製されており、電子線照射に対するそれなりの耐性は有している。しかしながら、シリコンといえども電子線を照射しすぎるとパターンの焼けや凹凸の潰れなどが発生し、正しい寸法校正ができなくなる。従って、マイクロスケール上の凹凸パターンの使用管理を適切に行う必要がある。
【0006】
従来、マイクロスケールの使用回数管理は、単純な回数管理に基づき行っている。すなわち、マイクロスケール上のあるセルの使用回数を決めておき、使用回数が設定値を超えたら隣接セルに移動して使用を開始するという方法である。本方法においては、ステージ移動制御の座標系における各セルの位置情報(典型的には中心位置)を予め計測しておき、各セル位置での電子線照射回数をカウントし、カウント値が設定値を超えたら使用セルの位置座標を測長レシピ上で変更するという手法である。
【0007】
しかしながら、半導体の回路パターンは益々微細化しており、従って、今後、寸法校正用標準試料のラインパターンピッチもさらに微細化が進むと予想される。従来の手法ではマイクロスケールの次使用セルの位置情報を人手で入力しており、ヒューマンエラーによる位置情報の誤入力の可能性がある。
【0008】
また、ラインパターンの測長というニーズは、CD−SEMに限らず汎用の走査電子顕微鏡(汎用SEM)でも存在するが、測長レシピの設定といった専用機特有の機能は汎用SEMには備わっていない。
【0009】
そこで本発明は、マイクロスケールの照射位置あるいは使用回数といった使用状態を簡便に管理できる機能を備えた走査電子顕微鏡あるいは荷電粒子線装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、上記目的を達成するために、マイクロスケール上のセルの配置に対応したマップを作成し、当該マップ上に各セルの使用状態を表示する。装置ユーザは、実際に使用するマイクロスケール上のセルをマップ上に示されるセルから選択する。表示の際には、単純に使用回数を文字表示するのではなく、マップ上のセルを使用状態に応じて色分けして表示する。また、マイクロスケールの使用状態を適当なカテゴリに分類し、分類したカテゴリ毎に色分け表示する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、膨大な数のセル構成を持つマイクロスケールのセルの使用状態が目視確認できるようになるため、寸法校正作業の際のセルの誤選択を低減することが可能となる。これにより、マイクロスケールの使用管理に関して、人為的な管理からシステム的な管理を提供することが可能となり、測長精度(再現性)および寸法校正精度の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】走査電子顕微鏡の全体構成の説明図。
【図2】マイクロスケールの構成の説明図。
【図3】マイクロスケール管理用のマップの構成例。
【図4】マイクロスケール管理画面を表示するGUIの例。
【図5(a)】撮像されるSEM画像と測長プロファイルの例。
【図5(b)】標準プロファイルと損傷セルのプロファイルの例。
【図5(c)】累計時間管理テーブルの例。
【図5(d)】観察条件テーブルの例。
【図6(a)】倍率とFOVサイズの関係を示す模式図。
【図6(b)】照射領域の管理用テーブルの構成例。
【図6(c)】GUI上に表示されるセルの使用状態の一例。
【図7】倍率ごとの測長領域と複数回使用による管理方法を説明した図。
【図8】SEM画像(使用済みセル)による測長領域のカラー化を説明した図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、荷電粒子線装置の一例として走査電子顕微鏡(以下SEMと略す)を例にとって説明するが、本発明はSEM以外にも、電子線を用いた外観検査装置,集束イオンビーム装置あるいはイオン顕微鏡といった、計測,検査,加工に使用できる荷電粒子線装置一般に対して適用することができる。
【実施例1】
【0014】
図1は、本実施例の走査電子顕微鏡(以下、SEM)の全体構成を説明した図である。本実施例のSEMは、大まかには電子光学鏡筒24と試料室44およびその他の制御系とにより構成される。
【0015】
初めに電子光学鏡筒24について説明する。電子銃1より放出された一次電子線4は、アノード2により制御・加速され、コンデンサレンズ3および対物レンズ6によって試料ステージ9上に保持された半導体ウェーハ等の測長すべきパターンが形成された試料8に収束・照射される。一次電子線4の経路には偏向器5が設けてあり、所定の設定倍率にしたがって偏向制御部19から所定の偏向電流が供給される。これにより一次電子線4が偏向され、試料の表面を二次元的に走査する。試料に電子線を照射することで発生した二次電子7は、二次電子検出器11によって検出され、増幅器12によって増幅され、画像記憶部13に記憶される。そして、記憶された画像を使用し、測長処理部14により測長が行われる。測長処理部は、得られた画像信号のプロファイルに所定の演算処理を施しパターンの寸法を求めるプロセッサを備えており、画像記憶部13に格納された画像信号のデータを読み出して測長演算を行う。また、この時の画像信号は、表示部17に表示される。
【0016】
試料8は試料室44内に格納された試料台上に載置されており、試料台は試料ステージ9によってXY平面内で自由に移動できる。同時に、試料台上にはマイクロスケール18も載置されており、試料ステージ9測長点の画像から求められる測長値は、同じくマイクロスケールの画像から求められる標準スケールの値により校正される。測長点へのSEMの視野移動は、ステージ制御部10が試料ステージ9をコントロールすることで、任意の位置への位置決めが可能な構成となっている。
【0017】
電子光学鏡筒24の各種の動作条件は、制御部15により制御される。また、制御部15にはSEMの管理コンソールの役割を果たすコンピュータ16が接続されている。表示部17には電子光学鏡筒24の動作条件を設定するためのGUI画面が表示され、装置ユーザは、コンピュータ16に接続されたマウス20もしくはキーボード21などの入力デバイスを操作して、GUI画面でのSEMの動作条件設定を行う。SEMの動作条件設定は専用操作パネル23を用いて、GUI画面を介さずに実行することもできる。データベース(DB)22は不揮発メモリやハードディスクなどの二次記憶装置が備えられており、マイクロスケール18に関する情報が記憶・管理される。
【0018】
SEM画像から得られた測長値の寸法校正を行うときは、マイクロスケール18を電子光学鏡筒24の視野内に移動させ、マイクロスケール上の任意のセルの画像を取得する。測長値の寸法校正は、偏向電流の制御および測長処理部14の倍率係数を制御することにより行われる。なお、測長処理部14はコンピュータ16が代用して測長処理を行う場合もある。
【0019】
次に、マイクロスケール18の構成例を図2に示す。図2(a)は本実施例のマイクロスケールの外観を示す。本実施例のマイクロスケールは、図2(a)に示すように、シリコン基板上に2つの格子パターン形成領域が形成されている。図2(b)には、図2(a)に示されるマイクロスケールの上面図を示す。上記2つの格子パターン形成領域に形成されているラインアンドスペースの向きは互いに直交するように形成されており、いずれかの格子パターン形成領域を使い分けることによりX方向とY方向の校正が可能である。以降、参照番号25で示される格子パターン形成領域を縦方向ラインパターン領域、参照番号26で示される格子パターン形成領域を横方向ラインパターン領域と称する。
【0020】
図2(c)には、縦方向ラインパターン領域25の拡大図を示す。寸法校正に使用されるラインアンドスペースのパターンは、上述の通りセルと呼ばれる領域にまとめて形成されており、複数のセルが更に規則的に配置されることにより縦方向ラインパターン領域25が形成されている。セル内部の拡大図が参照番号27であり、縦方向ラインパターン領域25内のセルは全て図2(c)に示されるようにY方向の向きに形成されている。横方向ラインパターン領域26の場合は、逆に全てのセルはX方向の向きに形成されている。本実施例の場合、縦方向ラインパターン領域25内には、225行×225列(50625個)のセルが配置されている。各セルの上部には、格子パターン形成領域内の左上セルを基点として付されるセル番号が表示されており、縦方向ラインパターン領域25あるいは横方向ラインパターン領域26内でセルを管理する際のアドレスとして使用される。
【0021】
図3(a)には、本実施例のSEMのGUI画面上に表示されるマイクロスケール管理用のマップの構成例を示す。図3(a)に示されるマップは、図中の点線で示されるセル表示領域300を備えており、格子パターン形成領域内に形成された一部のセルが表示される。図3(a)に示す例では、図2(c)に示した縦方向ラインパターン領域25内のセルのうち、アドレス(001,001)から(015,015)までのセルが表示されている。セル表示領域300内に示される矩形は個々のセルに対応しており、例えばセル301は、図2(b)に示されるセルのうちアドレス(001,002)で示されるセルに対応する。
【0022】
マップ上に表示される各セルをクリックすることにより、SEMの視野をクリックしたセル上に移動することができる。この機能は、マイクロスケールの縦・横等間隔に配列されたセル構成を利用してステージの移動量をコンピュータ16が計算し、制御部15を介してステージ制御部10に指示することにより実現できる。また、ステージ移動中は偏向器5あるいは図示しないブランキング偏向器により、マイクロスケールへの電子線照射を避け、マイクロスケールの損傷を避ける機能も備えている。
【0023】
セル表示領域300に表示されるセルは、Xスクロールバー302あるいはYスクロールバー303を操作することにより、順次表示領域を切替えることができる。また、ALL Viewerボタン304をクリックすることにより、図3(b)に示されるように、格子パターン形成領域の全てのセルをセル表示領域300に表示させることもできる。
参照ボタン305は、セルの管理ファイルを読み込むボタンを示す。
【0024】
本実施例では、マップ上に表示されるセル数は15行×15列であるが、任意に設定することが可能である。マップ上での表示セル数は、視認性や操作性を考慮して検討する。
【0025】
本実施例のマイクロスケール管理用GUIは、未使用セル,使用済みセル,損傷セルの状態を、マップ上に視覚的に確認可能な状態で表示する機能を有する。「視覚的に確認可能」とは、例えば、カラー表示等の表示方法である。このため、各セル毎の使用状態をコンピュータ16あるいはデータベース(DB)22に格納しておく必要がある。使用状態は、装置ユーザの目視確認による手法と、コンピュータにより自動判別する手法の2通りがある。
【0026】
初めに、装置ユーザの目視確認による手法について説明する。
【0027】
装置ユーザが、測長あるいはSEM観察に際して、セルの状態を記録する必要が生じた場合、まず図4に示されるマイクロスケール管理用GUI画面400を呼び出す。具体的には、GUI上でタブ401をクリックすると、マイクロスケール管理用GUI画面400がアクティベートされる。
【0028】
装置ユーザは、マップ402上のセルをダブルクリックするか、「Stage Position」ボタンをクリックして目的のセルにステージ移動し、使用するセルを決定したら、マップ402上でそれに該当するアドレスのセルをマップ上で選択する。マップ402上で「Set」ボタンをクリックすると、そのセルに対し、ラインパターンの測長を開始する(測長カーソルを表示し、ラインパターンにカーソルを合わせて計測を行う)。計測が完了したら、そのセルには、測長を行った履歴を残す意味で「Used(Blue)」のカテゴリ分けを行う。例えば、セルのカテゴリが「Used(Yellow)」となっていれば、その位置ではすでに3回セルを使用したことを表す。
【0029】
また、このカテゴリ分類は、マップ402上の「Set」ボタンの他に、ウィンドウ407上のカテゴリ分類設定から、手動で損傷セルをカテゴリ分類することができる。
【0030】
目視確認したSEM画像に対応するカテゴリのボタン(本実施例では「Used(Blue)」から「Used(Orange)」および「Damaged(Red)」までの5通り)をクリックする。カッコ内の色は各損傷カテゴリに割振られた色情報であり、マップ上で表示されるセルの色に対応する。
【0031】
クリックにより設定された損傷カテゴリの情報は、コンピュータ16を介して管理テーブルに記録される。例えば、SEM画像408で示されるセルは、明らかに損傷セルであり、「Damaged(Red)」のカテゴリに分類される。この場合は、その位置に該当するセルを「Damaged(Red)」とする。また、SEM画像409で示されるセルは、一部使用可能な領域も存在しているが電子線照射による焼けが発生しており、「Damaged(Red)」に近いので、「Used(Orange)」のカテゴリに分類される。その他、「Used」のカテゴリは、最も損傷度合いの少ない「Used(Blue)」から、「Used(Green)」→「Used(Yellow)」→「Used(Orange)」と、セルの使用状態に応じて分類される。未使用セルは白色であり、初期状態としては全てのセルが白色である。
【0032】
マップ402上の「Color」ボタンは、カテゴリ分類を3種類か6種類かの切り分けを行うものである。3種類のカテゴリとは、「Used(Blue)」,「Damaged(Red)」,白色の3種類である。これはシンプルに、そのセルを使用したか否かを分類するもので、使用したならば、「Used(Blue)」に、損傷セルと判断できれば、「Damaged(Red)」に、未使用セルは白色としている。6種類のカテゴリは、上述したように「Used(Blue)」から「Damaged(Red)」までの5通りと未使用セルの白色を含めた6種類を意味する。
【0033】
例えば、1度使用し、そのセルをもう使わないユーザにとっては、6種類の分類が必要ないはずなので、3種類のカテゴリ分けでよい。1つのセルを複数回使用したいユーザにとっては、何回使用したのか、またはそのセルが損傷しているのかが知りたい情報の1つとなるので、6種類のカテゴリ分けを推奨する。
【0034】
また、マップ402上の「CSV」および「Save」ボタンは、マップ上の管理データを保存するものである。CSV形式のデータを保存したい場合は「CSV」ボタンをクリックする。保存データは、測長アドレス,使用回数,測長値などの測長関連と、加速電圧,倍率,検出器などの測長条件(電子光学系条件)である。
【0035】
管理データ(マップデータのこと。mev拡張子)のみ保存したい場合は、「Save」ボタンをクリックする。
【0036】
このように、損傷状態に応じてセルの使用状態を複数のカテゴリに分類することにより、設定回数を越えたセルの使用を中止するという従来の単純な運用とは異なり、各セル毎の使用回数管理を従来よりもきめ細かく行うことが可能となる。また、セル毎の使用状態が視覚的に把握できるようになるため、操作性も向上する。
【0037】
次に、自動判別方法について説明する。自動判別方法は、所定の判断基準に基づき、セルのSEM画像からコンピュータ16が損傷内容を判断する方法である。自動判別方法としては、例えば以下の手法がある。
(1)マイクロスケールの測長結果と格子パターンピッチの仕様値とを比較して損傷状態を判別する方法。
【0038】
本方法では、マイクロスケールのSEM画像を撮像し、得られたSEM画像からマイクロスケールのパターンピッチを求め、求めたピッチの値を仕様値と比較し、比較結果が仕様値から逸脱する場合には、使用済みセルまたは損傷セルと判断する。本実施例のマイクロスケールのピッチ仕様は100±1.2nmであり、得られたパターンのピッチが100±1.2nmの範囲に収まらなかった場合には、コンピュータ16は、該当セルを使用済みセルまたは損傷セルと判断し、管理マップ上に色を変えて表示する。図5(a)には、撮像されたSEM画像と、ラインプロファイルを重ねて示したGUI表示の一例を示す。
(2)SEM画像を構成するラインプロファイルを比較して損傷状態を判別する方法。
【0039】
マイクロスケール上のパターンは、ラインアンドスペースパターンであり、二次電子ないし反射電子を検出して得られる画像信号は、基本的には標準プロファイル31を備えている。そこで、損傷の無いマイクロスケールを撮像して得られるラインプロファイルを標準プロファイル31としてコンピュータ16内のメモリに格納しておき、損傷状態を調べたいセルを撮像して得られるラインプロファイルと比較する。比較の結果、プロファイルが標準プロファイルの形状から著しくずれている場合(例えば、マイクロスケールのピッチ仕様:100±1.2nm外)は、ゴミや異物の付着あるいはラインピッチの損傷と判断して損傷セルと判断する。図5(b)には、標準プロファイルと損傷セルのプロファイルの例を模式的に示す。
(3)1セルへの電子線照射積算時間を管理する方法。
【0040】
本方法では、マイクロスケール上の各セルへの電子線照射時間の上限値(例えば10分/セルなど)を決めておき、上限値以上に電子線を照射した場合は、損傷セルと判断する。このため、コンピュータ16は、各セルへの電子線照射の累計時間をセルのアドレス情報と関連付けて記憶しておき、あるセルを使用するたびに格納情報を更新する。例えば、セルのアドレス情報と電子線照射の累計時間が格納されたテーブルとして記憶することもできる。
【0041】
また、マイクロスケールの損傷の程度はSEMの観察条件により異なる。例えば、加速電圧が高い場合は短時間のビーム照射で損傷し、加速電圧が低い場合は長時間のビーム照射でもさほど損傷しない。あるいは、低い真空度で観察した場合は短時間のビーム照射で損傷し、高真空時はその逆である。そこで、損傷状態を判断するためのしきい値を観察条件によって変える、あるいは電子線照射の累計時間の計算時に、観察条件により重み付けをして積算する。
【0042】
図5(c)と図5(d)には、観察条件により重み付けを行って累計時間を計算するための管理テーブルの構成例を示した。図5(c)は、累計時間と観察条件とを対比して管理するための累計時間管理テーブルであり、セルアドレスが格納されるアドレスフィールド501、今回撮像時の電子線照射時間が格納される電子線照射時間フィールド502、加速電圧値や真空度などの観察条件が格納される観察条件フィールド503、前回の撮像時までの重み付けした電子線照射累計時間が格納される累計時間フィールド1、電子線照射時間フィールド502に格納された照射時間に各種の重み値を掛けて算出される現在の重み付け電子線照射累計時間が格納される累計時間フィールド2などにより構成される。図5(d)は、観察条件と重み値との対応関係を格納した観察条件テーブルであり、本実施例では、加速電圧フィールド506,加速電圧に対する重み値フィールド507,真空度フィールド508,真空度に対する重み値フィールド509などにより構成される。図5(c)(d)に示した各テーブルは、データベース(DB)22あるいはコンピュータ16内のメモリに格納される。
【0043】
マイクロスケールの撮像時、コンピュータ16は、制御部15から設定された一次電子線の走査回数と走査偏向周波数の情報を受取り、撮像したセルへの電子線照射時間を計算する。同時に、加速電圧や設定された真空度の情報も制御部15から受取り、図5(c)に示す管理テーブルの各フィールドを書き換える。更に、観察条件に対応する重み値を図5(d)に示す観察条件テーブルを読出し、電子線照射時間フィールド502への格納値に各重み値を係数として掛算し、累計時間フィールド1の格納値に加算して、累計時間フィールド2に格納する。
【0044】
例えば、セルアドレス(0,0)に対する重み付け子線照射累計時間は、電子線照射時間フィールド502の格納値3min00secに、加速電圧1.0kVおよび真空度Hに対する重み値1.0、1.0を掛算し、累計時間フィールド1の格納値1min00secに加算することにより、
3min00sec×1.0×1.0+1min00sec=4min00sec として得られる。
同様に、セルアドレス(0,2)に対する重み付け電子線照射累計時間は、
3min00sec×1.5×1.2+1min00sec=6.4min=6min24sec として得られる。
【0045】
なお、観察条件の刻み幅も任意に設定してよい。例えば、本実施例では真空度のレベルをH(High)とL(Low)の2段階に設定したが、もっと細かく設定してもよい。また、観察条件としては、加速電圧や真空度以外に、ビーム電流値など他の条件を加えてもよく、観察条件の上限値・下限値、刻み幅および観察条件の各段階に対する重み値は任意に設定可能である。更に、本実施例では、累計時間管理テーブルと観察条件テーブルの2つに分けて電子線照射時間を管理しているが、2つのテーブルを1つにまとめて管理してもよい。
【0046】
本手法は、照射時間に対してセルの損傷状態を示す色を割振るため、他の手法に比べて、より細かに損傷カテゴリを設定できる利点がある。マップ上でのセルの色分け表示の手法などは、図4で説明したGUI上でマニュアル設定する。
【0047】
以上説明した自動判別を行った場合、セルの色別表示に加えて、使用者へメッセージ等の通知も行う。各種条件はデータベースによって管理する。また、本実施例のコンピュータ16は、セルの状態表示として、未使用セル,使用済みセル,損傷セルの使用状況の数値管理機能も備えている。本機能は使用可能個数(セル使用可能残数)または使用可能率を使用者へ数値で知らしめると共に使用可能セル数の残数が少なくなった場合に、メッセージ等(新しいマイクロスケールへの変更・要求等)で警告を出す。
【0048】
以上、本実施例により、マイクロスケールのセルの使用状態を目視確認可能な走査電子顕微鏡が実現される。
【実施例2】
【0049】
本実施例では、同一セル内でのセルの使用状態を管理可能な走査電子顕微鏡の構成例について説明する。装置の全体構成は実施例1とほぼ同様なので、共通部分についての説明は省略する。また、説明に際しては適宜図1を引用する。
【0050】
SEMの場合、倍率により、電子線の照射領域が変わる。例えば、高倍率になればFOV(Field Of View)サイズは減少するので同一セル内で使用可能な領域は増え、逆に低倍率になるほどFOVサイズが増大するため同一セル内の使用領域は狭くなる。図6(a)において、縦横2.5μmは、マイクロスケールのセルの寸法を示し、倍率100k,200k,500k,800kと増大するに連れて、セル内での電子線照射領域の大きさは減少することを示している。
【0051】
FOVサイズは、基準倍率での一次電子線照射領域のサイズが決まれば、あとは倍率のみによって変わる。例として、SEMの基準倍率を1倍とし、この倍率でのFOVサイズをポラロイドカメラ用(横縦の大きさが127mm×96.3mm)に設定した場合について説明する。基準倍率×1倍の場合のFOVサイズが127mm×96.3mmであるので、倍率×1000k倍の時は、127mm/1000k×96.3mm/1000kで127nm×96.3nmである。同様に、500kの場合は、254nm×192.6nmとなる。従って、基準倍率でのFOVサイズと倍率が分かれば、一次電子線照射領域の大きさは計算できる。
【0052】
一方、セル内での照射位置を特定するためには、FOV内の適当な基準位置の座標情報が必要となる。この基準位置は、FOVの中心か電子線の走査開始位置であるFOVの左上隅に設定されることが多く、基準位置の座標情報は、通常ステージ制御部10が持っている。
【0053】
そこで、本実施例では、マイクロスケール上のセルの撮像回数と、その際の撮像倍率とFOV内の基準位置の位置情報を管理する管理テーブルを設け、特定セル内の一次電子線照射領域の履歴情報を視覚的に表示できるようにした。
【0054】
図6(b)には、セル内の照射領域の管理用テーブルの構成例を示す。本管理テーブルは、セルアドレスを格納するセルアドレスフィールド601,照射回数を示す数値が格納される照射回数IDフィールド602,倍率とFOV内の基準位置座標が格納される観察条件フィールド603などを含んで構成される。
【0055】
図6(c)には、GUI上に表示されるセルの使用状態の一例を示す。装置ユーザは、図4に示されるマイクロスケール管理用GUIを呼び出し、セル内使用状態ボタン411をクリックし、更にマップ402上の任意のセルをクリックすると、そのセル内でどの部分を使用したかを知ることができる。コンピュータ16は、図6(b)の管理テーブルを参照し、クリックしたセル内での倍率と設定された基準倍率でのFOVサイズおよびFOV内の基準位置の座標情報を用いて各照射回数ID毎の電子線照射領域を計算する。計算された領域は当該領域の外形を示す枠線とともにセルの模式図上に重ねて表示される。
【0056】
図6(c)は、上述した内容の模式図を示す。同一セル内で5箇所使用した例を示しており、セルマップ上では、各セルの使用回数に応じて色分け表示されている。初期状態は白(未使用)35であり、青(1回目使用)36,緑(2回目使用)37,黄(3回目使用)38,橙(4回目使用)39,赤(5回目使用)40の6色表示とした例である。また、5回測長した時点で、そのセルは使用不可(これ以上の測長は測長領域が重なる危険性があると想定)とし、ダメージ色(赤色)としても良い。
【0057】
以上の構成により、1セルの使用可能領域を管理し、更に同一セルの複数回使用が可能となる。
【0058】
一方、マイクロスケールのSEM画像を取得する際に、次に同一セルを複数回使用した場合、前回使用した領域(ラインパターン)を再使用させないために、使用済み領域(ステージ座標および観察倍率等)を記憶し、CRT上に使用済み領域のSEM像が表示された場合、使用済み領域枠をそのSEM像表示エリアへ重ね合わせることもできる。使用済み領域は、単純な枠でも良いし、カラー化された枠を重ねても良い。
【0059】
図7を用いて使用済み領域枠の表示方法に関して説明する。使用済み領域を表示する方法として、ステージ座標(X軸・Y軸・R軸・場合によってはT軸(傾斜軸)・Z軸(高さ方向)を加えても良い)および観察倍率から使用済み領域枠を算出して表示する方法と予めマイクロスケール使用時に使用エリアのテンプレートを作成する方法がある。
【0060】
図8は後者のテンプレート化を示している。本機能は、マイクロスケール使用時に画像合成用テンプレート41を作成すると共にステージ座標をDBへ記憶する。その後、使用済みエリア42がCRT上に表示された場合(表示の有無はステージ座標と倍率で判断する)、セル画像の上へテンプレートを合成して、CRT上に過去に測長した領域をカラー表示43させる。
【0061】
なお、画像合成用テンプレート41は、測長時と異なった倍率が表示されても、倍率リンクに対応して拡大・縮小表示を可能とする。
【0062】
以上より、使用済み領域が表示された場合、使用済み領域をカラー表示または枠表示等を行い、前回測長領域を視覚化することで同一箇所での測長を回避することが可能となる。
【0063】
図8は、テンプレート作成手順を示すフローチャートを示す。
【実施例3】
【0064】
複数のマイクロスケールを使用する場合、複数の管理DBが存在する。該当管理DBを手動で選択することも可能であるが、下記の手段を用いて自動で該当する管理DBを抽出する機能を備える。
【0065】
自動抽出方法は、全てのセルの状態を(電子線の走査により)検出して使用状態(未使用セル,使用済みセル,損傷セル)をDBの内容とマッチングする方法もあるが、全セルの検出は処理に時間を要してしまい、かつセルの損傷防止の観点からも好ましくない。よって、あるポイント(エリアでも可能)を検出して使用状態をDB内容とマッチングを行い、数点が同一内容であれば該当DBと判断を行い、DB内容を操作者へ知らしめる。本機能は複数のマイクロスケールを使用する場合に有効な機能であると共に、複数の装置がある場合も予めDBを各装置へコピーしておくことで有効な機能となる。
【符号の説明】
【0066】
1 電子銃
2 アノード
3 コンデンサレンズ
4 一次電子線
5 偏向器
6 対物レンズ
7 二次電子
8 試料
9 試料ステージ
10 ステージ制御部
11 二次電子検出器
12 増幅器
13 画像記憶部
14 測長処理部
15 制御部
16 コンピュータ
17 表示部
18 マイクロスケール
19 偏向制御部
20 マウス
21 キーボード
22 データベース(DB)
23 専用操作パネル
24 電子光学鏡筒
25 縦方向ラインパターン領域
26 横方向ラインパターン領域
27 ラインパターン
28 損傷セル画像
29 測長後のコンタミネーション画像
30 ライン波形および測長値
31 標準プロファイル
32 規則性のないライン波形
33 セル使用状態ALL表示メニュー
34 損傷セル数値管理
35 白(未使用)
36 青(1回目使用)
37 緑(2回目使用)
38 黄(3回目使用)
39 橙(4回目使用)
40 赤(5回目使用)
41 画像合成用テンプレート
42 使用済みエリア
43 カラー表示

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ステージ上に載置された試料に対して一次電子線を走査することにより、当該試料の電子顕微鏡画像を撮像する走査電子顕微鏡と、
前記試料ステージ上に載置された、寸法校正用の凹凸パターンが形成されたセル部を複数備える寸法校正用部材と、
前記電子顕微鏡画像が表示されるディスプレイと、
前記セル部への前記一次電子線の走査回数を管理する情報処理手段とを備え、
前記ディスプレイ上に、
前記寸法校正用部材上における前記複数のセルの配置を示すセルマップと、当該複数のセル各々への前記一次電子線の走査回数を視覚的に示す情報とを含むGUI画面が表示されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記セルマップ上のセルが、前記一次電子線の走査回数に応じた異なる色で表示されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2に記載の荷電粒子線装置において、
前記セルマップ上のセルが、前記一次電子線の走査回数に応じて、未走査セル,走査回数が既定値未満のセル,走査回数が既定値以上のセルの3種に区分されて、色分け表示されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記GUI画面上に、前記一次電子線の走査回数が既定値以上のセルの数、あるいは前記寸法校正用部材上に形成されたセルの総数に対する前記走査回数が規定値以上のセル数との比が表示されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記GUI画面上に、
前記寸法校正用部材上における複数のセルのうちの1のセルの走査電子顕微鏡画像と、
当該1のセル上での一次電子線の走査回数が既定値を越える領域を示す視覚情報とが表示されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記走査電子顕微鏡は、前記ディスプレイ上に表示されるGUI画面上で指定されたセルの走査電子顕微鏡画像を取得し、
前記情報処理手段は、前記セルの走査電子顕微鏡画像に基づき当該セル内の凹凸パターンの寸法を計算し、当該計算した値が仕様値から外れる場合には、仕様値から外れていることを示す情報を前記ディスプレイ上に表示することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記情報処理手段は、
前記各セルに対する前記一次電子線の累計照射時間を記憶し、当該累計照射時間が規定値から外れる場合には、既定値から外れていることを示す情報を前記ディスプレイ上に表示することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記走査電子顕微鏡は、前記セルマップ上で指定されたセルが視野領域内に入るように視野移動を実行することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記走査電子顕微鏡は、前記寸法校正用部材の撮像時に視野移動を行う場合、前記一次電子線をブランキングすることを特徴とする荷電粒子線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図5(c)】
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【図5(d)】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【図6(c)】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−138316(P2012−138316A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291541(P2010−291541)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】