説明

マイクロストリップアンテナ及びその衣類

略平板状の放射導体と、放射導体よりも面積が広い略平板状の接地導体と、その放射導体と接地導体との間に配設された誘電体基板とを備え、給電ケーブルの一端子が放射導体に接続され、他端子が接地導体に接続されたマイクロストリップアンテナにおいて、放射導体と接地導体とを、柔軟性と導電性を有する略布状体で構成すると共に、誘電体基板を、柔軟性と絶縁性とを有する略布状体で構成し、給電ケーブル端子の放射導体または接地導体への接続を、導電性媒体を介してのはんだ付けで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、衣類等に設置可能な柔軟性を有するマイクロストリップアンテナと、そのアンテナの付設された衣類に関する。
従来背景
マイクロストリップアンテナは、自動車等の移動体局用アンテナや、携帯電話用アンテナ、衛星通信用アンテナなどに使用される。
従来のマイクロストリップアンテナの誘電体基板や給電回路用基板は、硬く重量のあるものであった。また、放射導体や接地導体も強固であり、全体は、硬く重量のあるものであった。
これに対し、本出願人は、特願2002−60010号で、誘電体基板や、放射導体、接地導体を柔軟性のある素材で構成して、マイクロストリップアンテナを服や帽子等に取り付ける技術を開示している。
通常のマイクロストリップアンテナで、同軸コネクタなどを用いたピン給電をする場合、同軸コネクタの内導体を、銅等の金属箔で形成されている接地導体に接触させないようにしつつ、同じく銅等の金属箔で形成されている放射導体へ直接はんだ付けし、同軸コネクタの外導体を接地導体へ直接はんだ付けするだけでよかった。
しかし、マイクロストリップアンテナに柔軟性をもたせる場合は、放射導体と接地導体には、導電性の布類を使用する。導電性布として、銅被覆の上に表面ニッケル層を施したポリエステル等を用いる場合、表面のニッケルへのはんだ付けが十分できなかったり、ポリエステルの耐熱温度が120℃のため、はんだ付けに適さないなどの問題があった。
そこで、本発明は、軽量かつ柔軟で皺も生じさせないことで衣類に使用でき、製造の際にははんだ付けが円滑に行えるマイクロストリップアンテナと、それを設置した衣類を提供することを課題とする。
【発明の開示】
上記課題を解決するために、本発明のマイクロストリップアンテナ及びその衣類は、次の構成を備える。
すなわち、略平板状の放射導体と、放射導体よりも面積が広い略平板状の接地導体と、その放射導体と接地導体との間に配設された誘電体基板とを備え、給電ケーブルの一端子が放射導体に接続され、他端子が接地導体に接続されたマイクロストリップアンテナにおいて、放射導体と接地導体とを、柔軟性と導電性を有する略布状体で構成すると共に、誘電体基板を、柔軟性と絶縁性とを有する略布状体で構成し、給電ケーブル端子の放射導体または接地導体への接続を、導電性媒体を介してのはんだ付けで構成したことを特徴とする。
ここで、導電性媒体を、放射導体または接地導体に対向する面に導電性接着剤を備えた金属製板状体で構成してもよい。
特に、金属製板状体が銅を主成分とするもので構成すると、はんだ付けが好適に機能する。
導電性媒体は、耐熱性を有する放射導体または接地導体に施された金属被膜で構成してもよい。
この場合も、金属被膜を銅を主成分とするもので構成すると、はんだ付けが好適に機能する。
放射導体に接続される給電ケーブルの端子を、給電コネクタの内導体である芯線で構成すると共に、接地導体に接続される給電ケーブルの端子を、給電コネクタの外導体で構成し、その芯線を、接地導体に設けられた孔部に挿通して、接地導体には接触することなく放射導体に接続してもよい。
放射導体または接地導体を、銅被覆の上に表面ニッケル層を施したポリエステル繊維やアラミド繊維等から成る合成樹脂製布とし、誘電体基板を、フェルトや生地類製としてもよい。
このようなマイクロストリップアンテナを、衣類の外表面に付設して、マイクロストリップアンテナ付きの衣類を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
第1図は、マイクロストリップアンテナの正面断面図であり、第2図は、使用形態におけるマイクロストリップアンテナの平面図である。
符号はそれぞれ次のものを指標する。11:放射導体、12:接地導体、12a:孔部、13:誘電体基板、21:芯線、22:外導体、23:導電性媒体、23a:導電性接着剤、23b:金属製板状体、24:はんだ。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、図面を基に本発明の実施形態を説明する。
なお、ここでは、一実施例として、放射導体の形状を薄い円板状とし、接地導体と誘電体基板の形状を薄い正方形板状として示した。しかし、それらの形状は、略平板状であれば任意であり、多様な多角形や閉曲面が適宜利用できる。
また、この実施例は、ピン給電方式によるものであるが、マイクロストリップラインを用いた給電方式や、電磁結合による給電方式なども適宜利用できる。
このような設計事項の変更に関しては、例えば、「衛星通信」(飯田尚志、オーム社、平成9年)などに開示されている。本発明は、そのような従来文献の開示事項を適宜利用できる。
マイクロストリップアンテナの正面断面視と平面視を、第1図及び第2図に示す。
マイクロストリップアンテナは、略平板状の放射導体(11)と、放射導体(11)よりも面積が広い略平板状の接地導体(12)と、その放射導体(11)と接地導体(12)との間に配設された誘電体基板(13)とを備え、給電ケーブルの一端子(21)が放射導体(11)に接続され、他端子(22)が接地導体(12)に接続されることを基本構成とする。
本発明では、後に詳述するように、放射導体(11)と接地導体(12)に、柔軟性と導電性を有する略布状体を用いると共に、誘電体基板(13)に、柔軟性と絶縁性とを有する略布状体を用いることによって、軽量かつ柔軟で皺も生じさせないことで衣類(30)に使用できるようにした。
第2図では、接地導体(12)の下面が、衣類(30)の外表面(31)に貼着されている。
放射導体(11)と接地導体(12)には、比較的安価で電気抵抗が小さい銅が通常は用いられるが、本発明では、導電性を有する布状体を用いる。
導電性布としては、銅被覆の上に表面ニッケル層を施したポリエステル繊維やアラミト繊維等から成る合成樹脂製布が利用できる。
また、導電性を有する繊維類で形成した布状体も利用できる。
導電性繊維としては、例えば、カーボンブラックや金属化合物などの導電性微粒子を高濃度に配合した導電層と、それを保護する通常のポリマー層の2成分を溶融複合紡糸したものなどが挙げられる。
誘電体基板(13)には、フェルトや、布や毛布等の生地類など、柔軟性と絶縁性とを有する布状体を用いる。
誘電体基板(13)の比誘電率は、大きいほど誘電体内部での電波の波長が短縮されるので、アンテナの小型化に寄与する。
他方、マイクロストリップアンテナの広帯域化のためには、比誘電率を小さくし、また、誘電体基板(13)の厚みを大きくすることが好ましい。
ここで、本発明では、給電ケーブル端子(21)(22)を放射導体(11)や接地導体(12)へ接続するに当たり、導電性媒体(23)を介して、はんだ付け(24)で行う。
図示の実施例では、放射導体(11)に接続される給電ケーブルの端子は、給電コネクタの内導体である芯線(21)であり、接地導体(12)に接続される給電ケーブルの端子は、給電コネクタの外導体(22)である。芯線(21)は、接地導体(12)に芯線(21)より若干大径に設けられた孔部(12a)を挿通して、接地導体(12)には接触することなく放射導体(11)に接続されている。
なお、芯線(21)は、誘電体基板(13)に接しても離隔してもよい。離隔させるために、孔部(12a)と同様の孔を誘電体基板(13)に設け、筒等を適宜設置してもよい。
マイクロストリップアンテナに柔軟性をもたせるために、放射導体(11)や接地導体(12)に、銅被覆の上に表面ニッケル層を施したポリエステル等の導電性布を用いる場合、従来ははんだ付けが困難であった。
そこで、本発明では、放射導体(11)や接地導体(12)に対向する面に導電性接着剤(23a)を備えた金属製板状体(23b)で構成される導電性媒体(23)を介して、はんだ付け(24)を行う。金属製板状体(23b)の素材としては銅が好ましく、その形態としては、厚みと強度のある薄板の他、薄膜やテープなどシート状のものが適宜利用できる。
導電性媒体(23)を用いることによって、はんだ付けが容易にしかも短時間で行えるようになった。また、ポリエステル等の導電性布が高温のはんだごてやはんだ(24)に直接触れることがないことから、熱で劣化することを抑えられる。
導電性媒体(23)としては、アクリル系導電性粘着剤などの導電性接着剤(23a)と、銅箔などの金属製板状体(23b)とが一体化した形態の導電性テープ等でもよい。
導電性媒体(23)は、放射導体(11)や接地導体(12)に施された銅等の金属被膜で構成してもよい。
すると、耐熱性のアラミド繊維などによる布に、銅被膜処理をしたものを、導電性媒体(23)の付帯した放射導体(11)または接地導体(12)として利用できる。
実験例:
本発明のマイクロストリップアンテナが動作することを確認するため、第1図の構造のアンテナを作って実験を行った。
放射導体(11)には、直径60mmの円形、厚さ0.15mm、面密度80g/m2、2.5GHzにおける反射損失及び透過損失がそれぞれ0.03dB、74dBの導電性布を用いた。
接地導体(12)には、一辺150mmの正方形、厚さ0.15mm、面密度80g/m2、2.5GHzにおける反射損失及び透過損失がそれぞれ0.03dB、74dBの導電性布を用いた。
誘電体基板(13)には、一辺150mmの正方形、厚さ1mm、比誘電率1.43の安価なフェルトを用いた。
給電コネクタには、接地導体(12)との接地面の大きさが一辺12.5mmの略正方形のSMAコネクタを用いた。
導電性媒体(23)には、銅箔テープ(住友スリーエム製、No.1181)を用いた。
このアンテナのリターンロスは、曲げていない状態で約−20dB近く、共振周波数は2.505GHzであり、曲げるにしたがって、共振周波数が少しずつ減少していく結果が得られた。
利得は、6.5dBあり、U字状に曲げても、4.1dBあり、実用的な値が得られた。
なお、放射パターンから、アンテナを曲げるほど、ビーム幅が広がることが分かった。曲げたときの利得低下は、共振周波数の変化以外にビーム幅が広がったことも影響している。
【産業上の利用可能性】
本発明のマイクロストリップアンテナ及びその衣類は、上述の構成を備えることによって、次の効果を奏する。
すなわち、安価な材料を用いて、軽量かつ柔軟で皺も生じない布状に構成でき、服や帽子等に容易に縫い付けたり埋め込んで使用でき、製造の際にははんだ付けが円滑に行える。そのため、マイクロストリップアンテナを設置した衣類として提供し、宇宙服や、チップ化したGPS受信機及び位置情報送信機と組み合わされた位置探知機などに利用できる。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平板状の放射導体と、放射導体よりも面積が広い略平板状の接地導体と、その放射導体と接地導体との間に配設された誘電体基板とを備え、
給電ケーブルの一端子が放射導体に接続され、他端子が接地導体に接続されたマイクロストリップアンテナにおいて、
放射導体と接地導体とが、柔軟性と導電性を有する略布状体であると共に、誘電体基板が、柔軟性と絶縁性とを有する略布状体であり、
給電ケーブル端子の放射導体または接地導体への接続が、導電性媒体を介してのはんだ付けである
ことを特徴とするマイクロストリップアンテナ。
【請求項2】
導電性媒体が、
放射導体または接地導体に対向する面に導電性接着剤を備えた金属製板状体である
請求の範囲第1項に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項3】
金属製板状体が、銅を主成分とする
請求の範囲第2項に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項4】
導電性媒体が、
耐熱性を有する放射導体または接地導体に施された金属被膜である
請求の範囲第1項に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項5】
金属被膜が、銅を主成分とする
請求の範囲第4項に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項6】
放射導体に接続される給電ケーブルの端子が、給電コネクタの内導体である芯線であると共に、接地導体に接続される給電ケーブルの端子が、給電コネクタの外導体であり、
その芯線が、接地導体に設けられた孔部を挿通して、接地導体には接触することなく放射導体に接続される
請求の範囲第1ないし5項に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項7】
放射導体または接地導体が、合成樹脂製布である
請求の範囲第1ないし6項に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項8】
合成樹脂製布が、銅被覆の上に表面ニッケル層を施したポリエステル繊維から成る合成樹脂製布である
請求の範囲第7項に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項9】
合成樹脂製布が、銅被覆の上に表面ニッケル層を施したアラミド繊維から成る合成樹脂製布である
請求の範囲第7項に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項10】
誘電体基板が、フェルト製である
請求の範囲第1ないし9項に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項11】
誘電体基板が、生地類製である
請求の範囲第1ないし9項に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項12】
請求の範囲第1ないし11項に記載のマイクロストリップアンテナが、衣類の外表面に付設された
ことを特徴とするマイクロストリップアンテナ付きの衣類。

【国際公開番号】WO2005/041356
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−509862(P2005−509862)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013763
【国際出願日】平成15年10月27日(2003.10.27)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】