説明

マイクロスライサ

【課題】試料内部に温度勾配を生じさせず、低温を保ちながらスライスできるマイクロスライサを提供する。
【解決手段】包埋材と共に試料及びダミー用試料を収容した固体容器28を凍結させる冷却容器11及びダミー用冷却容器21と、冷却容器11の底部を押して該固体容器28をマイクロスライサ本体上壁29から押し出す押し出し部材13と、マイクロスライサ本体上壁29に設けられたガイド12、22と、ガイド12、22に添って押し出される凍結した試料と包埋材とを微小厚さでスライスするカッタ14と、冷却容器11とダミー用冷却容器21の内部とダミー用試料の温度を測定する温度センサと、温度センサからの信号で冷媒の流れを制御する制御手段27とを備え、試料の温度を一定に保ちながらスライスできるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体等の試料を冷凍して例えば1μm程度の微小厚さでスライスするマイクロスライサに係り、特に、例えば−160℃という低温を保ちながら試料を微小厚さでスライスできるマイクロスライサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体試料等を顕微鏡観察用として例えば1μm程度に薄くスライスする装置は、従来、ミクロトームと称して回転するカッターを有し、パラフィンなどで固めた試料をスライスする装置が知られている。また、パラフィンなどで固めることが困難な試料は、凍結可能な流体と共に凍結させてスライスすることも行われている。
【0003】
そしてこのように試料を凍結してスライスする場合、凍結とスライスを別な場所で行うと、凍結した流体や試料が融けたり、流体と共に凍結した試料の保持を的確に行うことが困難という問題が生じる。また、研究者が用いる試料の中には、例えば−160℃という低温を保ちながらスライスと観察まで実施でき、かつ、試料内部の凍結部の結晶軸が1方向であるようにしたい、というような要求もある。
【0004】
そのため例えば特許文献1には、流体に浸した状態で入れた試料を一体的に凍結させることのできる、上端が開放されて、冷却部と、試料のスライスに際して試料を容易に押し出すことができるよう、凍結した試料の周囲を解凍するための面状ヒータとを備えた筒状の容器を冷凍ユニットとして設け、さらに、先端がこの筒状の容器の底部を貫通して内部に伸びる送り軸を設けて、流体と共に凍結した試料を少しずつ送り出してカッターでスライスするようにした装置が提案されている。
【0005】
また、このように試料をスライスする装置を構成しても、冷却されていない空間に試料が押し出されると試料温度は当然上昇し、かつ、スライスすることによるカッターとの摩擦で更に温度が上昇する可能性がある。そのため特許文献2には、試料を凍結させたままスライスできるようにするため、クライオチャンバ内にミクロトームを収容し、温度変化に関して高いダイナミクスを実現できるよう、互いの温度に無関係に調整自在とした冷却可能な標本(試料)ホルダと冷却可能なカッタホルダとを設け、それぞれ温度制御してきわめて高品質のスライスが得られるようにしたクライオスタットミクロトームが示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−118679号公報
【特許文献2】特開平10−111219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示された装置は、前記したように凍結した試料の周囲を面状ヒータで解凍しているためその解凍時に試料に温度勾配が生じ、かつ、冷却されていない空間に試料が押し出された場合、試料温度は当然上昇する。また、スライスすることによるカッターとの摩擦で更に温度が上昇する可能性があり、さらに、試料を側面から冷却しているため、試料内部の凍結部の結晶軸がランダムとなる。また特許文献2に示されたクライオスタットミクロトームは、標本(試料)ホルダとカッタホルダの両者が冷却可能な大きさであることが必要で、大きな試料の場合はそれだけ装置が大がかりになり、コストも上昇してしまう。
【0008】
そのため本発明においては、凍結した際に内部の結晶軸が1方向となるようにし、かつ、試料内部に温度勾配を生じさせずに例えば−160℃という低温を保ちながらスライスできる、簡単な構成のマイクロスライサを提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明におけるマイクロスライサは、
本体内部に冷媒用配管が設けられて包埋材と共に切断される試料を凍結させる冷却容器と、前記凍結した試料と包埋材とからなる凍結体を前記本体上面から押し出す押し出し部材と、上面に押し出された前記凍結体を微小厚さでスライスするカッタとを有するマイクロスライサにおいて、
前記冷却容器とは別個に設けられて冷媒用配管が配されたダミー用冷却容器で、包埋材と共にダミー用試料を凍結させてダミー凍結体を形成し、該ダミー凍結体の検知温度に基づいて、少なくとも前記冷却容器に導入される冷媒の流量もしくは圧力を制御して前記凍結体の温度を一定に保ちながらスライスできるようにしたことを特徴とする。
【0010】
このように、スライスする試料と略同じ条件でダミー用試料を凍結させるダミーの冷却容器を用意すると共に、ダミー用試料の温度を検知して少なくとも冷却容器に導入される冷媒の流量もしくは圧力を制御し、スライスする試料を常に一定の温度に保ちながらスライスできるようにしたことで、非常に簡単な構成で試料を常に一定の温度に保ちながらスライスすることが可能となり、研究者の望むような顕微鏡観察用試料を容易に提供することができる。
【0011】
また、前記試料及びダミー用試料と包埋材とを、切削可能な常温で固体の試料容器に収容して前記冷却容器及びダミー用冷却容器で冷却することで、試料を研究者の望む姿勢で凍結させることができるマイクロスライサとすることができる。
【0012】
そして、前記固体の試料容器とダミー用試料容器とは金属製の前記冷却容器とダミー用冷却容器のそれぞれ上面に載置され、前記本体上面には、前記試料容器とダミー用試料容器とをガイドするガイド穴が設けられて、前記押し出し部材は前記金属製の冷却容器と共に固体の試料容器を前記ガイド穴から本体上面に押し出してスライスできるようにしたことで、固体の試料容器とダミー用試料容器とは、それぞれ金属製の冷却容器とダミー用冷却容器によってその底面から冷却されるから、凍結体は結晶軸が1方向となる。
【0013】
そして、前記ダミー凍結体と前記それぞれの冷却用容器内の温度を検知し、その温度偏差に基づいて少なくとも前記冷却容器に導入される冷媒の流量もしくは圧力を制御し、前記凍結体の温度を一定に保ちながらスライスできるようにしたことで、さらに正確な温度制御が可能となる。
【0014】
また、前記冷却用配管の冷却容器とダミー用冷却容器のそれぞれにおける少なくとも後流側に、対応した圧力で開閉する圧力弁を設けたことで、冷却容器とダミー用冷却容器それぞれの温度制御が容易になり、さらに、前記冷媒が、液体窒素、低温用ブラインを含む極低温液体冷媒とすることが本発明の好適な実施形態である。
【発明の効果】
【0015】
以上記載のごとく本発明になるマイクロスライサは、非常に簡単な構成で例えば−160℃という低温に冷却したまま試料内部に温度勾配を生じさせずに、かつ、凍結した際に内部の結晶軸が1方向となるようにして試料を微小厚さにスライスすることが可能であり、研究者の望むような顕微鏡観察用試料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【実施例1】
【0017】
図1は本発明になる実施例1のマイクロスライサの概略ブロック図、図2は図1に示したマイクロスライサにおける冷却容器内部の概略説明図、図3は本発明になる実施例2のマイクロスライサの概略ブロック図である。
【0018】
図1に示した本発明の実施例1のマイクロスライサ10は、生体等の試料と、凍結したときにこの試料を一定の姿勢でスライスできるよう液体の包埋材とを収容し、例えばパラフィンなどの切削可能な材料で形成した固体容器28を載置して、液体窒素タンク17からの配管18が接続された冷却用金属製容器11と、この冷却用金属製容器11の底部を押して、凍結した試料と包埋材とを収容した固体容器28をマイクロスライサ本体上壁29上に押し出す押し出し部材13と、押し出された固体容器28内の凍結された試料が、カッター駆動装置15によって回転するカッター14で固体容器28ごと、正確にスライスされるようガイドする、マイクロスライサ本体上壁29に設けられた第1のガイド12を有している。
【0019】
また、本発明の実施例1のマイクロスライサ10は、冷却用金属製容器11と同様液体窒素タンク17からの配管18が接続され、冷却用金属製容器11に設けられた第1のガイド12と同様、マイクロスライサ本体上壁29に設けられた第2のガイド22が取り付けられて、ダミー用試料と包埋材とを収容したダミー固体容器28を凍結させるダミーの冷却用金属製容器21が用意されている。
【0020】
この冷却用金属製容器11とダミーの冷却用金属製容器21の内部の概略を示したのが図2である。なお、説明を簡略化するため、この図2では冷却用金属製容器11の内部のみを示したが、ダミーの冷却用金属製容器21内部も全く同様に構成されている。
【0021】
図2において破線で示した11は冷却用金属製容器であり、その内部には、液体窒素タンク17から送られる液体窒素171を気化させて冷却用金属製容器11を冷却する円柱型容器111が設けられ、ここで気化した液体窒素171は気体窒素172として図1における第1圧力バルブ19へ送られる。
【0022】
そして固体容器28はこの冷却用金属製容器11の上に載置され、円柱型容器111が冷却されることで冷却された冷却用金属製容器11によって下面から冷却される。そのため、固体容器28内に収容された試料と包埋材とが凍結した凍結体は、結晶軸が1方向となり、かつ、ヒータを用いないから凍結体に温度勾配が生じる心配がない。
【0023】
そして液体窒素タンク17から送り出される液体窒素の流量を調整できるよう、冷却用金属製容器11、ダミー冷却用金属製容器21の後流に、第1圧力バルブ19、第1圧力センサ20、第2圧力バルブ25、第2圧力センサ26が用意され、また、温度制御のため冷却用金属製容器11には、例えば熱電対などの第1温度センサをその内部の16で示した部位に設置し、ダミーの冷却用金属製容器21にはその内部の23で示した部位に第2温度センサが、スライスされる試料の代わりに温度履歴を調べるため、包埋材と共に凍結してダミー凍結体となるダミー用試料に24で示した第3温度センサが設置されている。
【0024】
そして、スライスされる包埋材と共に凍結して凍結体となった試料を収容した固体容器28が、押し出し部材13によって冷却用金属製容器11と共に押し上げられ、固体容器28がマイクロスライサ本体上壁29から押し出され、さらにカッター14でスライスされることで温度が変化することを防止するため、これら16で示した第1温度センサ設置部位、23で示した第2温度センサ設置部位、24で示した第3温度センサを設置されたダミー凍結体などからの温度情報と、第1圧力センサ20、第2圧力センサ26からの液体窒素の圧力情報を元に、温度履歴による偏差を見ながら、例えば、第3温度センサと第2温度センサからの温度差を見て第1温度センサからの温度で凍結体の温度を、PID動作などを用いて予測制御し、少なくとも第1圧力バルブ19を調節して、ダミー凍結体とは異なった温度となる、スライスする試料を含む凍結体の温度が常時一定となるよう、液体窒素タンク17から送られる液体窒素の流量を制御し、試料の温度を一定に保つ制御装置27が設けられている。
【0025】
このように構成した本発明のマイクロスライサ10は、前記したように生体等の試料と液体の包埋材とを収容し、凍結したときにこの試料を一定の姿勢でスライスできるよう、例えばパラフィンなどの切削可能な材料で形成した固体容器28を冷却用金属製容器11上に載置する。そして、スライスされる試料の代わりとして温度を測定するためのダミーの試料と包埋材とを収容した、ダミーの固体容器28をダミーの冷却用金属製容器21上に載置して試料と同一条件で凍結させ、制御手段27により、16で示した第1温度センサ設置部位、23で示した第2温度センサ設置部位、24で示した第3温度センサを設置されたダミー用試料などからの温度情報と、第1圧力センサ20、第2圧力センサ26の値を観察しながら、第1圧力バルブ19、第2圧力バルブ25の開度を調節して液体窒素タンク17から液体窒素を冷却用金属製容器11、ダミー冷却用金属製容器21に導入し、それぞれに収容した試料とダミー用試料を包埋材と共に冷却する。
【0026】
そして、試料とダミー用試料とが包埋材と共に凍結したら制御装置27は、押し出し部材13の図示していない駆動装置に指示し、凍結した試料を収容した固体容器28を冷却用金属製容器11と共に押し上げ、固体容器28をマイクロスライサ本体上壁29から所定量ずつ押し出されるよう指示し、そのため、固体容器28は第1のガイド12にガイドされて上昇してゆく。また制御装置27は、同時にカッター駆動装置15によりカッター14を回転させ、スライス位置に到達した凍結した試料が、所定厚さでスライスされるよう押し出し部材13の図示していない駆動装置により押し出し量を調節する。
【0027】
また制御装置27は、この間も前記したように、16で示した第1温度センサ設置部位、23で示した第2温度センサ設置部位、24で示した第3温度センサを設置されたダミー凍結体などからの温度情報と、第1圧力センサ20、第2圧力センサ26の値を観察しながら、スライスによって上昇してゆく試料を含む凍結体側温度を、少なくとも第1圧力バルブ19を調節することで、液体窒素タンク17から冷却用金属製容器11、ダミー冷却用金属製容器21に送られる液体窒素の量を調節して、試料(凍結体)の温度が一定に保たれるようにする。なおこのとき、ダミー凍結体の温度が変化した場合は、当然のことながら、第2圧力バルブ25も調節してダミー冷却用金属製容器21側の温度も調節する。
【0028】
そのため、スライスする試料を含む凍結体は、このスライスする試料と略同じ条件で凍結されたダミー用試料を含むダミー凍結体とダミー冷却用金属製容器21の内部、及び冷却用金属製容器11の内部のそれぞれに設けられた温度センサで、スライスされる直前の試料と対応するダミー凍結体の温度を監視しながらスライスされるから、例え凍結した試料がマイクロスライサ本体29外部に押し出されても常に一定の温度に保つことができ、研究者の望むような顕微鏡観察用試料を提供することができる。
【実施例2】
【0029】
以上が本発明になる実施例1のマイクロスライサ10であるが、この実施例1では、冷媒として液体窒素を用いる場合を例に説明してきた。しかし、冷却用冷媒としては液体窒素だけでなく、前記したように例えば−160℃程度に冷却できるものであればこれらに限定されないことは自明であり、次に本発明になる実施例2として、低温用ブラインを用いて構成したマイクロスライサ30について、図2に基づいて説明する。
【0030】
この図2に示した本発明になる実施例2のマイクロスライサ30は、図1に示した実施例1のマイクロスライサ10と同様、生体等の試料と、凍結したときにこの試料を一定の姿勢でスライスできるよう液体の包埋材とを収容し、例えばパラフィンなどの切削可能な材料で形成した固体容器48を載置して、低温用ブラインタンク37からの配管38が接続された冷却用金属製容器31と、この冷却用金属製容器31の底部を押して、凍結した試料と包埋材とを収容した固体容器48をマイクロスライサ本体上壁29上に押し出す押し出し部材33と、押し出された固体容器48内の凍結された試料が、カッター駆動装置35によって回転するカッター34で固体容器ごと、正確にスライスされるようガイドする、マイクロスライサ本体上壁29に設けられた第1のガイド32を有している。
【0031】
また、本発明の実施例1のマイクロスライサ10と同様、低温用ブラインタンク37からの配管38が接続され、冷却用金属製容器31に設けられた第1のガイド32と同様、マイクロスライサ本体上壁29に設けられた第2のガイド42が取り付けられて、ダミー用試料と包埋材とを収容したダミー固体容器48を凍結させるダミーの冷却用金属製容器41が用意されている。
【0032】
なお、冷却用金属製容器31とダミーの冷却用金属製容器41の内部には、前記図2で説明した円柱型容器111と同様な、低温用ブラインでこれら冷却用金属製容器11やダミーの冷却用金属製容器21を冷却する部材が含まれるが、これは一般的な低温用ブラインによる冷却機構なので説明は省略する。
【0033】
そして低温用ブラインタンク37から低温用ブラインを送り出すため、ブライン用ポンプ40が設けられ、さらにこの低温用ブラインの流量を調整できるよう、冷却用金属製容器31、ダミー冷却用金属製容器41の後流に、第1圧力バルブ39、第2圧力バルブ45が用意され、また、温度制御のため冷却用金属製容器31には、例えば熱電対などの第1温度センサをその内部の36で示した部位に設置し、ダミーの冷却用金属製容器41にはその内部の43で示した部位に第2温度センサが、スライスされる試料の代わりに温度履歴を調べるため、包埋材と共に凍結してダミー凍結体となるダミー用試料に44で示した第3温度センサが設置されている。
【0034】
そして、スライスされる包埋材と共に凍結して凍結体となった試料を収容した固体容器48が、押し出し部材33によって冷却用金属製容器31と共に押し上げられ、固体容器48がマイクロスライサ本体上壁29から押し出され、さらにカッター34でスライスされることで温度が変化することを防止するため、これら36で示した第1温度センサ設置部位、43で示した第2温度センサ設置部位、44で示した第3温度センサを設置されたダミー凍結体などからの温度情報を元に、前記したように温度履歴による偏差を見ながら例えばPID動作を用いて予測制御制御し、ブライン用ポンプ40、少なくとも第1圧力バルブ39を調節して、ダミー凍結体とは異なった温度となる、スライスする試料を含む凍結体の温度が常時一定となるよう、低温用ブラインタンク37から送られる低温用ブラインの流量を制御し、試料の温度を一定に保つ制御装置46が設けられている。
【0035】
このように構成した本発明のマイクロスライサ30は、前記したように生体等の試料と、凍結したときにこの試料を一定の姿勢でスライスできるよう液体の包埋材とを収容し、例えばパラフィンなどの切削可能な材料で形成した固体容器48を冷却用金属製容器31上に載置する。そして、スライスされる試料の代わりに温度を測定するためのダミーの試料と包埋材とを収容した、ダミーの固体容器48をダミーの冷却用金属製容器41上に載置し、制御手段46により、36で示した第1温度センサ設置部位、43で示した第2温度センサ設置部位、44で示した第3温度センサを設置されたダミー用試料などからの温度情報を観察しながら、ブライン用ポンプ40、第1圧力バルブ39、第2圧力バルブ45を調節して低温用ブラインタンク37から低温用ブラインを冷却用金属製容器31、ダミー冷却用金属製容器41に導入し、それぞれに収容した試料とダミー用試料を包埋材と共に冷却する。
【0036】
そして、試料とダミー用試料とが包埋材と共に凍結したら制御装置46は、押し出し部材33の図示していない駆動装置に指示し、凍結した試料を収容した固体容器48を冷却用金属製容器31と共に押し上げ、固体容器48をマイクロスライサ本体上壁29から所定量ずつ押し出されるよう指示し、そのため、固体容器48は第1のガイド32にガイドされて上昇してゆく。また制御装置46は、同時にカッター駆動装置35によりカッター34を回転させ、スライス位置に到達した凍結した試料が、所定厚さでスライスされるよう押し出し部材33の図示していない駆動装置により押し出し量を調節する。
【0037】
また制御装置27は、この間も前記したように、36で示した第1温度センサ設置部位、43で示した第2温度センサ設置部位、44で示した第3温度センサを設置されたダミー凍結体などからの温度情報を観察しながら、スライスによって上昇してゆく試料を含む凍結体側温度を、ブライン用ポンプ40、少なくとも第1圧力バルブ39を調節し、低温用ブラインタンク37から冷却用金属製容器31に送られる低温用ブラインの量を調節して、試料(凍結体)の温度が一定に保たれるようにする。なおこのとき、ダミー凍結体の温度が変化した場合は、第2圧力バルブ45も調節して、ダミー冷却用金属製容器41側の温度も調節する。
【0038】
そのため、スライスする試料を含む凍結体は、このスライスする試料と略同じ条件で凍結されたダミー用試料を含むダミー凍結体とダミー冷却用金属製容器41の内部、及び冷却用金属製容器41の内部のそれぞれに設けられた温度センサで、スライスされる直前の試料と対応するダミー凍結体で温度を監視しながらスライスされるから、例え凍結した試料がマイクロスライサ本体29外部に押し出されても常に一定の温度に保つことができ、研究者の望むような顕微鏡観察用試料を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、例えば−160℃という低温を保ちながら、試料内部に温度勾配を生じさせずに、かつ、凍結した際に内部の結晶軸が1方向となるようにして例えば顕微鏡観察用試料を研究者の望むように冷却しながらスライスして製作できる、簡単な構成のマイクロスライサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明になる実施例1のマイクロスライサの概略ブロック図である。
【図2】本発明のマイクロスライサにおける冷却容器内部の概略説明図である。
【図3】本発明になる実施例2のマイクロスライサの概略ブロック図である。
【符号の説明】
【0041】
10 マイクロスライサ
11 冷却用金属製容器
111 円柱型容器
12 第1のガイド
13 押し出し部材
14 カッター
15 カッター駆動装置
16 第1温度センサ設置部位
17 液体窒素タンク
171 液体窒素
18 配管
19 第1圧力バルブ
20 第1圧力センサ
21 ダミー冷却用金属製容器
22 第2のガイド
23 第2温度センサ設置部位
24 第3温度センサ設置部位
25 第2圧力バルブ
26 第2圧力センサ
27 制御装置
28 固体容器
28 ダミー用固体容器
29 マイクロスライサ本体上壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体内部に冷媒用配管が設けられて包埋材と共に切断される試料を凍結させる冷却容器と、前記凍結した試料と包埋材とからなる凍結体を前記本体上面から押し出す押し出し部材と、上面に押し出された前記凍結体を微小厚さでスライスするカッタとを有するマイクロスライサにおいて、
前記冷却容器とは別個に設けられて冷媒用配管が配されたダミー用冷却容器で、包埋材と共にダミー用試料を凍結させてダミー凍結体を形成し、該ダミー凍結体の検知温度に基づいて、少なくとも前記冷却容器に導入される冷媒の流量もしくは圧力を制御して前記凍結体の温度を一定に保ちながらスライスできるようにしたことを特徴とするマイクロスライサ。
【請求項2】
前記試料及びダミー用試料と包埋材とを、切削可能な常温で固体の試料容器に収容して前記冷却容器及びダミー用冷却容器で冷却することを特徴とする請求項1に記載したマイクロスライサ。
【請求項3】
前記固体の試料容器とダミー用試料容器とは金属製の前記冷却容器とダミー用冷却容器のそれぞれ上面に載置され、前記本体上面には、前記試料容器とダミー用試料容器とをガイドするガイド穴が設けられて、前記押し出し部材は前記金属製の冷却容器と共に固体の試料容器を前記ガイド穴から本体上面に押し出してスライスできるようにしたことを特徴とする請求項2に記載したマイクロスライサ。
【請求項4】
前記ダミー凍結体と前記それぞれの冷却用容器内の温度を検知し、その温度偏差に基づいて少なくとも前記冷却容器に導入される冷媒の流量もしくは圧力を制御し、前記凍結体の温度を一定に保ちながらスライスできるようにしたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載したマイクロスライサ。
【請求項5】
前記冷却用配管の冷却容器とダミー用冷却容器のそれぞれにおける少なくとも後流側に、対応した圧力で開閉する圧力弁を設けたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載したマイクロスライサ。
【請求項6】
前記冷媒が、液体窒素、低温用ブラインを含む極低温液体冷媒であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載したマイクロスライサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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