説明

マイクロチップを用いた検査装置および検査システム

【課題】反応が正常か否かを含め、検出が容易で、高精度な検出結果が得られるマイクロチップを用いた検査装置および検査システムを提供すること。
【解決手段】第1の流体が流れる第1の流路と、第2の流体が流れる第2の流路と、前記第1の流路と前記第2の流路とが合流する合流流路と、合流後の流路に設けられた被検出部と、が設けられたマイクロチップが収容されるマイクロチップ収容部と、前記マイクロチップ収容部に収容されたマイクロチップの前記被検出部に対応して設けられた検出部と、前記検出部により前記被検出部を検出する際、検出値Dの単位時間あたりの変化量|ΔD|が所定値|ΔDp|以下になった時点の検出値D1を検出結果として出力する制御部と、を有すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップを用いた検査装置および検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細流路が集積加工されたマイクロチップ上において、複数の溶液を混合して反応させ、当該反応の状態を検出して分析を行うマイクロ総合分析システム(Micro Total Analysis System;μTAS)が注目されている。
【0003】
μTASでは、試料の量が少ない、反応時間が短い、廃棄物が少ない等のメリットがある。医療分野に使用した場合、検体(血液、尿、拭い液等)の量を少なくすることで患者への負担を軽減でき、試薬の量を少なくすることで検査のコストを下げることができる。また、検体、試薬の量が少ないことから、反応時間が大幅に短縮され、検査の効率化が図れる。さらに、装置が小型であるため小さな医療機関にも設置することができ、場所を選ばず迅速に検査を行うことができる。
【0004】
また、検査方法としては、例えば、マイクロチップ上の流路に設けられた検出位置において、検体と試薬が反応したときの濃度を高精度で検出して、検出された濃度と予め設定された濃度とを比較することにより、感染症などへの罹患の陰性または陽性等の判定を正確に、かつ短時間に行うことができるようにしている。
【0005】
特許文献1には、マイクロチップ上の反応検出流路に光を照射し、流路からの光を受光することにより反応状態の検出を行う検査装置が記載されている。
【特許文献1】特開2003−4752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、マイクロチップのような微小流路内で検査をする場合、検体量が少ないため検出光が足りなく、検出感度が低下してしまうことがある。また、検出すべき光以外の光(例えば、反射光や迷光)のノイズの影響を受け、高感度な検出ができないことに着目して、検出結果に基づき、反応検出部でのノイズ成分を除去する補正をしたり、検体の特性に応じて試薬との混合を制御する等して、検査の精度を向上することができるようにしたものであるが、検体と試薬がどのような状態になったときに検出すれば高精度な検出結果が得られるかという問題に関しては特に着目されていない。
【0007】
つまり、検体と試薬との反応状態は、環境条件や検体と試薬との混合状態等、様々な要因で変化することが考えられ、反応時間や反応結果が変わったり、正常な反応ばかりではなく、異常な反応も起こりうる。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑み、反応が正常か否かを含め、検出が容易で、高精度な検出結果が得られるマイクロチップを用いた検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記構成を採ることで上記目的を達成できる。
1.
第1の流体が流れる第1の流路と、第2の流体が流れる第2の流路と、前記第1の流路と前記第2の流路とが合流する合流流路と、合流後の流路に設けられた被検出部と、が設けられたマイクロチップが収容されるマイクロチップ収容部と、
前記マイクロチップ収容部に収容されたマイクロチップの前記被検出部に対応して設けられた検出部と、
前記検出部により前記被検出部を検出する際、検出値Dの単位時間あたりの変化量|ΔD|が所定値|ΔDp|以下になった時点の検出値D1を検出結果として出力する制御部と、を有すること
を特徴とするマイクロチップを用いた検査装置。
2.
前記制御部は、前記変化量|ΔD|が検出開始から経過時間Δt1時点において前記所定値|ΔDp|以下にならない場合でも、前記経過時間Δt1時点の前記変化量|ΔD|が所定範囲|ΔD2|に含まれていれば、前記経過時間Δt1時点の検出値D1を検出結果として出力すること
を特徴とする1に記載のマイクロチップを用いた検査装置。
3.
前記制御部は、検出開始から経過時間Δt1時点の前記変化量|ΔD|が所定範囲|ΔD2|に含まれておらず、もしくは、検出開始からの経過時間Δt0を超え前記経過時間Δt1までの期間内の|ΔD|が全て所定範囲|ΔD3|以下の場合は、検出値D1とは異なる情報を検出結果として出力すること
を特徴とする1または2に記載のマイクロチップを用いた検査装置。
4.
1乃至3のいずれか1つに記載の検査装置を用いたことを特徴とするマイクロチップを用いた検査システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、マイクロチップ内での検体と試薬の反応結果として、単位時間あたりの変化量|ΔD|が所定値|ΔDp|以下になった時点の検出値D1を検出結果として出力することにより、検体と試薬の反応がほぼ定常状態や平衡状態に到達した状態で検出できるので検出精度の高い検査結果が得られるマイクロチップを用いた検査装置を提供できる。
【0011】
また、変化量|ΔD|が所定値|ΔDp|以下にならない場合でも、Δt1時間に許容範囲|ΔD2|内になった場合は、Δt1時間における検出値D1を検出結果として出力することにより、反応状態や反応時間のバラツキを考慮して、しかも、ほぼ定常状態や平衡状態での測定結果にほぼ近似できる値、もしくは予測できる値を検出できるので、迅速に検出精度の高い検査結果が得られるマイクロチップを用いた検査装置を提供できる。
【0012】
また、検出開始から経過時間Δt1時点の前記変化量|ΔD|が所定範囲|ΔD2|に含まれておらず、もしくは、検出開始からの経過時間Δt0を超え前記経過時間Δt1までの期間内の|ΔD|が全て所定範囲|ΔD3|以下の場合は、検出値D1とは異なる情報を検出結果として出力することにより、適切な検査時間で、検出精度の高い検査結果が得られるマイクロチップを用いた検査装置を提供できる。また、マイクロチップを用いた検査装置を用いた検査システムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、各図面において、同一符号のものは同一の物を示すものとし、適宜、関連する他の図面を参照して、詳細に説明するものとする。
【0014】
本実施形態では、一例として、検体と試薬とをマイクロチップ上で反応させる場合について示すが、これに限られず、少なくとも2種類の流体をマイクロチップ上で混合させる場合に適用することができる。
【0015】
図1は、本実施形態に係るマイクロチップを用いる検査装置80の外観図である。検査装置80は、マイクロチップ1に予め注入された検体と試薬とを自動的に反応させ、反応結果を自動的に出力する装置である。
【0016】
検査装置80の筐体82には、マイクロチップ1を装置内部に挿入するための挿入口83、表示部84、メモリカードスロット85、プリント出力口86、操作パネル87、外部入出力端子88が設けられている。
【0017】
検査担当者は、図1の矢印方向にマイクロチップ1を挿入し、操作パネル87を操作して検査を開始させる。検査装置80の内部では、マイクロチップ1内の反応の検査が自動的に行われ、検査が終了すると表示部84に結果が表示される。検査結果は操作パネル87の操作により、プリント出力口86よりプリントを出力したり、メモリカードスロット85に挿入されたメモリカードに記憶することができる。また、外部入出力端子88から例えばLANケーブルを使って、パソコンなどにデータを保存することができる。検査終了後、検査担当者はマイクロチップ1を挿入口83から取り出す。
【0018】
図2は、本実施形態に係るマイクロチップを用いる検査装置80の構成図である。図2においては、マイクロチップが図1に示す挿入口83から挿入され、セットが完了している状態を示している。
【0019】
検査装置80は、マイクロチップ1に予め注入された検体及び試薬を送液するための駆動液11を貯留する駆動液タンク10、マイクロチップ1に駆動液11を供給するためのポンプ5、ポンプ5とマイクロチップ1とを漏れなく接続するパッキン6、マイクロチップ1の必要部分を温調する温度調節ユニット3、マイクロチップ1をずれないようにパッキン6に密着させるためのチップ押圧板2、チップ押圧板2を昇降させるための押圧板駆動部32、マイクロチップ1をポンプ5に対して精度良く位置決めする規制部材31、マイクロチップ1内の検体と試薬との反応状態等を検出する光検出部4(発光部4a、受光部4b)等を備えている。受光部4bはチップ押圧板2の内部に設けられ、一体構造となっている。
【0020】
初期状態においては、チップ押圧板2は、押圧板駆動部32により図2の状態から上方に退避している。これにより、マイクロチップ1は矢印X方向に挿抜可能であり、検査担当者は挿入口83(図1参照)から規制部材31に当接するまでマイクロチップ1を挿入する。その後、チップ押圧板2は、押圧板駆動部32により下方に移動されてマイクロチップ1に当接し、マイクロチップ1の下面が温度調節ユニット3及びパッキン6に密着されることになる。
【0021】
温度調節ユニット3は、マイクロチップ1の必要部分を温調するもので、例えば、試薬が収容されている部分を冷却して試薬が変性しないようにしたり、検体と試薬とが反応する部分を加熱して反応を促進させたりする機能を有する。
【0022】
ポンプ5は、ポンプ室52、ポンプ室52の容積を変化させる圧電素子51、ポンプ室52のマイクロチップ1側に位置する第1絞り流路53、ポンプ室の駆動液タンク10側に位置する第2絞り流路54、等から構成されている。第1絞り流路53及び第2絞り流路54は絞られた狭い流路となっており、また、第1絞り流路53は第2絞り流路54よりも長い流路となっている。
【0023】
駆動液11を順方向(マイクロチップ1に向かう方向)に送液する場合には、まず、ポンプ室52の容積を急激に減少させるように圧電素子51を駆動する。そうすると、短い絞り流路である第2絞り流路54において乱流が発生し、第2絞り流路54における流路抵抗が長い絞り流路である第1絞り流路53に比べて相対的に大きくなる。これにより、ポンプ室52内の駆動液11は、第1絞り流路53の方に支配的に押し出され送液される。次に、ポンプ室52の容積を緩やかに増加させるように圧電素子51を駆動する。そうすると、ポンプ室52内の容積増加に伴って駆動液11が第1絞り流路53及び第2絞り流路54から流れ込む。このとき、第2絞り流路54の方が第1絞り流路53と比べて長さが短いので、第2絞り流路54の方が第1絞り流路53と比べて流路抵抗が小さくなり、ポンプ室52内には第2絞り流路54の方から支配的に駆動液11が流入する。以上の動作を圧電素子51が繰り返すことにより、駆動液11が順方向に送液されることになる。
【0024】
一方、駆動液11を逆方向(駆動液タンク10に向かう方向)に送液する場合には、まず、ポンプ室52の容積を緩やかに減少させるように圧電素子51を駆動する。そうすると、第2絞り流路54の方が第1絞り流路53と比べて長さが短いので、第2絞り流路54の方が第1絞り流路53と比べて流路抵抗が小さくなる。これにより、ポンプ室52内の駆動液11は、第2絞り流路54の方に支配的に押し出され送液される。次に、ポンプ室52の容積を急激に増加させるように圧電素子51を駆動する。そうすると、ポンプ室52内の容積増加に伴って駆動液11が第1絞り流路53及び第2絞り流路54から流れ込む。このとき、短い絞り流路である第2絞り流路54において乱流が発生し、第2絞り流路54における流路抵抗が長い絞り流路である第1絞り流路53に比べて相対的に大きくなる。これにより、ポンプ室52内には第1絞り流路53の方から支配的に駆動液11が流入する。以上の動作を圧電素子51が繰り返すことにより、駆動液11が逆方向に送液されることになる。
【0025】
図3は、本実施形態に係るマイクロチップ1の構成図である。一例の構成を示すものであり、これに限定されない。
【0026】
図3(a)において矢印は、後述する検査装置80にマイクロチップ1を挿入する挿入方向であり、図3(a)は挿入時にマイクロチップ1の下面となる面を図示している。図3(b)はマイクロチップ1の側面図である。
【0027】
図3(b)に示すように、マイクロチップ1は溝形成基板108と、溝形成基板108を覆う被覆基板109から構成されている。
【0028】
本実施形態に係るマイクロチップ1には、化学分析、各種検査、試料の処理・分離、化学合成などを行うための、微小な溝状の流路(微細流路)および機能部品(流路エレメント)が、用途に応じた適当な態様で配設されている。これらの微細流路および流路エレメントによってマイクロチップ1内で行われる処理の一例を図3(c)を用いて説明する。図3(c)は、図3(a)において被覆基板109が取り外された状態で流路エレメントとその接合状態を模式的に示している。
【0029】
微細流路には、検体液を収容する検体収容部121、試薬を収容する試薬収容部120、ポジティブコントロール用の試薬を収容するポジティブコントロール収容部122、ネガティブコントロール用の試薬を収容するネガティブコントロール収容部123等が設けられている。試薬、ポジティブコントロール及びネガティブコントロールは、予め各収容部に収容されている。ポジティブコントロールは試薬と反応して陽性を示すもので、ネガティブコントロールは試薬と反応して陰性を示すものであり、正確な検査が実施されたか否かを確認するためのものである。
【0030】
なお、図3(c)は、説明を簡単にするため模式的に示しており、実際は、複数の試薬や希釈用溶液などをチップに収容し、チップ内での試薬の調合などを行わせても良い。
【0031】
検体注入部113はマイクロチップ1に検体を注入するための注入部であり、駆動液注入部110a〜110dはマイクロチップ1に駆動液11を注入するための注入部である。
【0032】
まず、マイクロチップ1による検査を行うに先立って、検査担当者は検体を検体注入部113から注射器等を用いて注入する。図3(c)に示すように、検体注入部113から注入された検体は、連通する微細流路を通って検体収容部121に収容される。
【0033】
次に、検体の注入されたマイクロチップ1は、検査担当者により図1に示す検査装置80の挿入口83に挿入され、図2に示すようにセットされる。
【0034】
次に、図2に示すポンプ5が後述するCPUに指令される所定の手順に従い順次順方向に駆動され駆動液注入部110a〜110dから駆動液11が注入される。駆動液注入部110aから注入された駆動液11は、連通する微細流路を通って検体収容部121に収容されている検体を押し出し、合流部124に検体を送り込む。駆動液注入部110bから注入された駆動液11は、連通する微細流路を通ってポジティブコントロール収容部122に収容されているポジティブコントロール用の試薬を押し出し、合流部125にポジティブコントロールを送り込む。駆動液注入部110cから注入された駆動液11は、連通する微細流路を通ってネガティブコントロール収容部123に収容されているネガティブコントロール用の試薬を押し出し、合流部126にネガティブコントロールを送り込む。駆動液注入部110dから注入された駆動液11は、連通する微細流路を通って試薬収容部120に収容されている試薬を押し出し、上記の合流部124〜126に試薬を送り込む。
【0035】
このようにして、合流部124では検体と試薬とが合流し、合流部125ではポジティブコントロールと試薬とが合流し、合流部126ではネガティブコントロールと試薬とが合流する。
【0036】
その後、合流部124で合流した検体と試薬との混合液の一部は、被検出部111aに送液される。合流部124で合流した検体と試薬との混合液の一部並びに合流部125で合流したポジティブコントロールと試薬との混合液の一部は、被検出部111bに送液される。合流部125で合流したポジティブコントロールと試薬との混合液の一部は、被検出部111cに送液される。合流部126で合流したネガティブコントロールと試薬との混合液は、被検出部111dに送液される。
【0037】
被検出部の窓111e及び被検出部111a〜111dは各混合液の反応を光学的に検出するために設けられており、ガラスや樹脂等の透明な部材で構成されている。
【0038】
図4は本実施形態に係る検査装置の回路構成を示すブロック図である。
【0039】
図4において、100は本実施形態に係るマイクロチップ1を用いる検査装置80に設けられた電気回路構成の全体を示している。110は予めマイクロチップ1を用いた検査に係る全ての制御を行う制御手段としてのCPU(中央演算処理ユニット)である。CPU110には情報制御回路120、データ処理回路140、駆動制御回路150及び電源回路400が接続されている。
【0040】
情報制御回路120は、I/F(インタフェース)130を介して、例えば、パーソナルコンピュータ等の外部情報機器500と接続できるようになっており、CPU110の指示により、記憶手段160に記憶された検査データや検査装置80等に関するデータ等を外部情報機器500に出力したり、外部情報機器500から出力された検査データや検査装置80の制御等に係る様々な情報等をCPU110に伝達したり、記憶手段160に記憶するようになっている。
【0041】
また、情報制御回路120は、データ処理回路140や記憶手段160、表示手段300、及び操作入力手段200と接続され、各手段の機能や性能等に応じて相互の情報交換やデータ変換等を適切に行い、検査装置80が円滑な検査作動が行えるようにしている。
【0042】
データ処理回路140は、例えば、検出手段としてのマイクロチップ1内の検体と試薬との反応状態等を検出する光検出部4で検出した、例えば、濃度データとしての検査データを、取り扱う手段に適応した所定の形式のデータに変換することができ、変換された検査データは、情報制御回路120を介して、検査データとして記憶手段160に記憶したり、表示手段300の表示部84に表示することができるようにしている。
【0043】
また、本実施形態においては、図示はしないがプリンタ部を有し、検査データや後述する検査結果をプリント出力口86からプリント出力できるようになっている。
【0044】
また、メモリーカードスロット85にメモリカードが挿入されている場合は、挿入されたメモリカードに検査データや検査結果を記録することができるようになっている。
【0045】
操作入力手段200は、操作パネル87等により構成され、検査を行うために必要な操作条件等を設定することがでる。設定された操作条件等は、情報制御回路120を介してCPU110に伝達され、CPU110は設定された操作条件等に基づき予め設定された検査プログラムにより駆動制御回路150やデータ処理回路140を作動させる。
【0046】
また、設定された操作条件等は表示手段300の表示部84に表示したり、記憶手段160に記憶することができるようになっている。
【0047】
駆動制御回路150は、CPU110の指示により、情報制御回路120やデータ処理回路140と協働して作動し、例えば、検査装置80にマイクロチップ1を固定する固定手段としての押圧板駆動部32、温度調節手段としてのマイクロチップ1の必要部分を温調する温度調節ユニット3、マイクロチップ1に駆動液11を供給するためのポンプ手段としてのポンプ5、及び、検出手段としての光検出部4等の検査に係る各手段を駆動制御するようになっている。
【0048】
電源回路400は、図示せぬ電源スイッチを操作して電源を投入すると、CPU110の指示により、適切な電力が、各電気回路や各手段に適切に供給されるようになっている。また、電源スイッチ等を操作して電源を遮断した場合は、例えば、内部電源により、CPU110が適切な処理を施して、検査装置80を適切な状態、例えば、初期状態にして終了できるようになっている。
【0049】
図5は本実施形態に係る検査装置の検査方法を説明するための模式図である。
【0050】
本実施形態においては、マイクロチップ1内の検体と試薬との反応状態等を検出する光検出部4で検出した検出値(検査データ)Dの単位時間当たりの変化量|ΔD|が予め設定された所定値|ΔDp|以下になった時点の検出値D1を検出結果としている。
【0051】
図5の縦軸は、検出部の検出値をDとしたときの単位時間当たりの変化量ΔDを示し、横軸には経過時間をΔtとして示したものである。なお、|ΔD2|は所定値ΔDpを基準に予め設定された許容範囲を示している。
【0052】
なお、|ΔD|、|ΔDp|、|ΔD2|、|ΔD3|に関しては、以下、絶対値を取り無極性にした値を示すものとする。
【0053】
検体と試薬との反応状態は、環境条件や検体と試薬との混合状態等、様々な要因で変化することが考えられる。一例として、例えば、曲線Zは平均的な反応を示す曲線で、曲線Yは不活性となり平均よりも遅延した反応を示す曲線であり、曲線Xは極端に活性度が低下した異常な反応を示している曲線を示したものである。
【0054】
曲線Zは、検体と試薬との反応がほぼ定常状態や平衡状態に到達した状態となると想定した時間Δt1より若干前に、単位時間当たりの変化量ΔDが所定値ΔDp以下になっているので、反応が順調に行われたことを示しており、ZD0時点の検出値D1を求めるべき値として、精度の高い検査結果が得られることが解る。
【0055】
なお、出力する検出値D1の測定時間を一致させる必要がある場合は、曲線Zにおいて、例えば、Δt1時間における検出値ZD1での検出値D1として検出するようにしても、反応がほぼ平衡状態に到達しているので、検出結果に影響を与えることはない。
【0056】
曲線Yは、検体と試薬との反応が曲線Zより遅いが、ほぼ順調に行われ、時間Δt1においては単位時間当たりの変化量ΔDが所定値ΔDp以下になっていないが、許容範囲ΔD2内に入っており、やがて所定値ΔDp以下になると想定される。この場合は、時間Δt1における検出値YD1での検出値D1として検出することができる。
【0057】
つまり、この場合は、単位時間当たりの変化量ΔDが所定値ΔDpに対して許容範囲ΔD2内に入っていることにより、反応がほぼ定常状態や平衡状態に到達するまでの反応状態や反応時間のバラツキの範囲内のほぼ正常な反応状態と認められるので、無用に長時間掛けて所定値ΔDp以下になるまで待つ必要はなく、検出精度の高い検出結果が得られることになる。
【0058】
曲線Xは、時間Δt1においても単位時間当たりの変化量ΔDが所定値ΔDp以下にならず、許容範囲ΔD2内に入らない。また、更に時間が経過した時間Δt2においても単位時間当たりの変化量ΔDが所定値ΔDp以下にならず、許容範囲ΔD2内に入らないので、検体と試薬との反応が何らかの要因で、正常な反応が行われていないことを示している。よって、検出値XD1やXD2を正常な状態における検出値D1として検出することができず、検出不能と判断させることで検出作動を中止するようにしている。
【0059】
つまり、本実施形態においては、予め設定した時間Δt1までに単位時間当たりの変化量ΔDが所定値ΔDp以下になるか、または、許容範囲ΔD2内に入らない場合は、念のため、更に時間が経過した時間Δt2において、許容範囲ΔD2内に入るか否かを確認するようにしているが、いずれにも該当しない場合は、その結果を出力し、例えば検出不能と判断して検出作動を中止するようにしている。
【0060】
したがって、正常な反応が行われていない反応に対して、無用に長時間掛けて検出作動を行うことがなく、迅速に検出結果を判断することができる。
【0061】
また、図5の曲線Wは、検査開始からΔDが小さい値(殆ど0)となる場合で、これは、Dの変化が殆ど発生していないことを示している。すなわち、反応がほぼ進行しないケースである。
【0062】
このようなケースとしては、例えば、検査目的のDNA(デオキシリボ核酸:Doexyribo Nucleic Acid)が検体の中に存在するか否かを調べる検査などでは、目標となるDNAが存在しない場合があり、このような場合は検体と試薬の反応が進行しない。従って、曲線Wは、このようなケースで起こりうる現象である。
【0063】
そこで、検査開始後の検体と試薬が十分混合された状態となると想定した時間Δt0を経過した後、Δt1までの期間のΔDが設定値ΔD3を全て下回っているかを判定することで、反応が進行しなかった状態と判断し、検査結果として、例えば、検出値D1とは異なる情報として「未反応」と出力したり表示することができる。
【0064】
なお所定値ΔDpや許容範囲ΔD2、ΔD3及びΔt0、Δt1やΔt2等の時間等は、実施する検査における検体と試薬との反応を予め実験等により十分に確認した上で、適切な数値等を設定することが望ましい。
【0065】
また、本実施形態においてはΔt0、Δt1やΔt2等を時間として設定したが、制御プログラムのステップとして制御シーケンスに組み込むことで、チップ上の反応もしくは、反応を制御するための時間軸としてのタイミングを設定しても良い。
【0066】
図6は本実施形態に係る検査方法の検査手順を示すフローチャートである。
【0067】
前提条件として、検査装置80は、検査可能な状態に起動され、検査に必要な条件等がすでに設定されているものとする。また、必要に応じて図1〜図5を参照して説明する。
【0068】
(ST1)
チップ(マイクロチップ)を挿入するステップである。検査担当者が該当する検査用のマイクロチップ1を検査装置80の挿入口83に挿入と、図示はしないが、マイクロチップ1が挿入されたことを、図示せぬセンサー等により制御手段が検出し駆動制御回路150を作動させ、例えば、固定手段としての押圧板駆動部32、温度調節手段としての温度調節ユニット3、ポンプ手段としてのポンプ5等の検査装置80の各手段が予め設定されたプログラムに基づき作動して、検査できる状態に設定してST2に進む。
【0069】
(ST2)
検査が開始されるステップである。検査できる状態になると、制御手段は駆動制御回路150やデータ処理回路140を作動させ、検出手段としての光検出部4の発光部4aからマイクロチップ1の被検出部の窓111eに光を照射し、被検出部の窓111eにおける検体と試薬との反応結果を透して受光部4bに入力した光を、例えば、光電変換とA/D(アナログ/デジタル)変換等の所定のデータ処理を行うことにより、反応結果としての検査データが得られるようになっている。制御手段は単位時間毎に検出を繰り返し、検出値Dを記憶手段160に記憶してST3に進む。
【0070】
(ST3)
単位時間当たりの変化量ΔDが所定値ΔDp以下になったか否かを判断するステップである。制御手段は検出値Dに基づき単位時間当たりの変化量ΔDを演算し、ΔDが予め設定され記憶手段に記憶されている所定値ΔDp以下か否かを判断し、所定値ΔDp以下の場合はST4に進み、以下でない場合はST7に進む。
【0071】
(ST4)
検査結果を出力するステップである。本実施形態においては、詳細は割愛するが、制御手段は、単位時間当たりの変化量ΔDが所定値ΔDp以下の場合は、検出値Dを検出結果である検出値D1として記憶手段160に記憶する。そして、検出値D1を検査結果として、検査装置80の表示部84に表示したり、検査装置80のプリント出力口86からプリント出力することができるようにしている。
【0072】
また、本実施形態においては、例えば、検出結果の検出値D1に基づき所定のデータ解析等を実行して得られた、陽性、陰性等の判断の結果を検査結果として検出値D1と共にプリント出力することができるようにしている。
【0073】
また、メモリカードスロット85にメモリカードが挿入されている場合は、挿入されたメモリカードに検査結果を記憶することができるようになっている。
【0074】
(ST5)
チップ(マイクロチップ)を取り出すステップである。操作入力手段200としての操作パネル87を操作して、マイクロチップ1やメモリカードを取り出すと、ST6に進む。
【0075】
(ST6)
検査を完了するか否かを判断するステップである。他のマイクロチップを挿入して検査を継続する場合は、操作パネル87を操作して、例えば、継続を選択設定するとST1に戻る。
【0076】
全ての検査を完了する場合は、操作パネル87を操作して、例えば、完了を選択設定すると、例えば、制御手段は検査装置80を初期状態にして、全ての作動を終了するようになっている。
【0077】
(ST7)
時間ΔtがΔt1時間になったか否かを判断するステップである。制御手段は時間を計測する計測手段を有しており、反応を開始してからΔt1時間になっていた場合はST8に進み、Δt1時間になっていない場合はST3に戻る。
【0078】
(ST8)
単位時間当たりの変化量ΔDが許容範囲ΔD2内にあるか否かを判断するステップである。制御手段は変化量ΔD許容範囲ΔD2内にあると判断した場合はST4に進み、許容範囲ΔD2内にないと判断した場合はST9に進む。
【0079】
つまり、単位時間当たりの変化量ΔDが許容範囲ΔD2内にある場合は、Δt1時間における検出値D1としての検査データを含む検査結果を出力し、許容範囲ΔD2内にない場合は、念のために時間を延長してΔt2時間で、再度、上記判断を行うようにしている。
【0080】
(ST9)
時間ΔtがΔt2時間になったか否かを判断するステップである。制御手段はΔt2時間にならない場合はST8に戻り、Δt2時間になった場合はST10に進む。
【0081】
(ST10)
反応未達情報を出力するステップである。つまり、Δt2時間になっても、単位時間当たりの変化量ΔDが許容範囲ΔD2内にないので、制御手段は反応未達情報を出力する。そして、制御手段は、反応未達情報を出力すると、例えば、検査装置80の表示手段200である表示部84に、反応未達を示す表示を行うようになっている。
【0082】
なお、反応未達を示す表示は、例えば、「反応未達」といった文字や記号表示、光の点灯点滅、あるいは警告音等の音による表示であっても良い。
【0083】
なお、図5に示す曲線Wを検出するための手順は、図6のフローチャートの手順を手順1としたとき、ST2の検査開始以降に、図示はしないが、手順2として、検査開始後のΔt0を経過した後、Δt1までの期間のΔDが、設定値ΔD3を全て下回っているかを並行して判定し、例えば、反応が進行しなかった状態である「未反応」と判断した場合は、割り込み処理などで、その検査結果として、検出値D1とは異なる情報である未反応という結果を出力するようにすればよい。このように構成することで、試薬の反応結果を精度良くまた効率良く識別し、判断できる検査装置を提供できる。
【0084】
以上のように、本実施形態においては、予め設定したΔt1やΔt2の時間内に単位時間当たりの変化量ΔDが所定値ΔDp以下になったか否か、あるいは許容範囲ΔD2内に入っているか否かを判断たり、Δt0からΔt1までのΔDが全てΔD3以下の値を示しているかを判断し、これらの条件を満足した時の検出値Dを検査結果の検出値D1として出力し、これらの条件を満足しなかった場合は反応未達や未反応と判断するようにしたことにより、反応が正常か否かや反応自体が発生しなかったかを含め、検出が容易で、高精度な検出結果が得られるマイクロチップを用いた検査装置を提供することができるようになった。
【0085】
なお、マイクロチップ1における反応が正常な場合のみ検査結果を検査装置80からプリント出力するように説明したが、反応未達や未反応の場合も、検査結果出力として、それらの情報を示す文字や記号等の表示をプリント出力するようにしても良いことは言うまでもない。
【0086】
また、微量な反応結果を測定する際に検出値DのS/N(シグナル/ノイズ)比が問題になる場合は、変化量ΔDや検査結果D1を算出する演算の前置処理として、検出値Dに所定の移動平均やスムーシングなどのノイズ除去の処理を加えた方が良いことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本実施形態に係るマイクロチップを用いる検査装置の外観図。
【図2】本実施形態に係るマイクロチップを用いる検査装置の構成図。
【図3】本実施形態に係るマイクロチップの構成図。
【図4】本実施形態に係る検査装置の回路構成を示すブロック図。
【図5】本実施形態に係る検査装置の検査方法を説明するための模式図。
【図6】本実施形態に係る検査方法の検査手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0088】
1 マイクロチップ
2 チップ押圧板
3 温度調整ユニット
4 光検出部
5 ポンプ
6 パッキン
10 駆動液タンク
11 駆動液
80 検査装置
82 筐体
83 挿入口
84 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の流体が流れる第1の流路と、第2の流体が流れる第2の流路と、前記第1の流路と前記第2の流路とが合流する合流流路と、合流後の流路に設けられた被検出部と、が設けられたマイクロチップが収容されるマイクロチップ収容部と、
前記マイクロチップ収容部に収容されたマイクロチップの前記被検出部に対応して設けられた検出部と、
前記検出部により前記被検出部を検出する際、検出値Dの単位時間あたりの変化量|ΔD|が所定値|ΔDp|以下になった時点の検出値D1を検出結果として出力する制御部と、を有すること
を特徴とするマイクロチップを用いた検査装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記変化量|ΔD|が検出開始から経過時間Δt1時点において前記所定値|ΔDp|以下にならない場合でも、前記経過時間Δt1時点の前記変化量|ΔD|が所定範囲|ΔD2|に含まれていれば、前記経過時間Δt1時点の検出値D1を検出結果として出力すること
を特徴とする請求項1に記載のマイクロチップを用いた検査装置。
【請求項3】
前記制御部は、検出開始から経過時間Δt1時点の前記変化量|ΔD|が所定範囲|ΔD2|に含まれておらず、もしくは、検出開始からの経過時間Δt0を超え前記経過時間Δt1までの期間内の|ΔD|が全て所定範囲|ΔD3|以下の場合は、検出値D1とは異なる情報を検出結果として出力すること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載のマイクロチップを用いた検査装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の検査装置を用いたことを特徴とするマイクロチップを用いた検査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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