マイクロチップ及びマイクロチップの使用方法
【課題】 本発明は、対象物質の濃度を正確に測定可能なマイクロチップを提供することを目的とする。
【解決手段】
試料中のターゲットを認識する第1認識物質または前記第1認識物質を認識する第2認識物質を担持する、液体が浸透可能な微粒子と、前記試料とを混合して反応させた混合試料を処理するマイクロチップ20を提供する。マイクロチップ20は、前記微粒子に担持された第1認識物質又は第2認識物質との未反応物を含む溶液(以下、単に未反応物を含む溶液という)を前記混合試料から遠心分離する際に、前記未反応物を含む溶液の一部と前記微粒子とを収容する収容部23bを有する混合分離槽23を含む。
【解決手段】
試料中のターゲットを認識する第1認識物質または前記第1認識物質を認識する第2認識物質を担持する、液体が浸透可能な微粒子と、前記試料とを混合して反応させた混合試料を処理するマイクロチップ20を提供する。マイクロチップ20は、前記微粒子に担持された第1認識物質又は第2認識物質との未反応物を含む溶液(以下、単に未反応物を含む溶液という)を前記混合試料から遠心分離する際に、前記未反応物を含む溶液の一部と前記微粒子とを収容する収容部23bを有する混合分離槽23を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップ及びマイクロチップの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療、食品、創薬等の分野で、DNA、酵素、タンパク質、ウィルス、細胞などの生体物質が種々の方法で分析されており、これらの分析を簡便に行う一手段として、Lab on Chipと呼ばれる技術が近年注目されている。
この技術は、分析する対象の種類によって、臨床分析チップ、環境分析チップ、遺伝子分析チップ(DNAチップ)、たんぱく質分析チップ(プロテオームチップ)、糖鎖チップ、クロマトグラフチップ、細胞解析チップ、製薬スクリーニングチップなどと称される数センチの大きさの基板(バイオチップ)上で混合、反応、分離、測定及び検出等を行うものである。
【0003】
例えば、特許文献1には、このマイクロチップ上で、各種の抗原−抗体反応による免疫分析を行う方法が提案されている。図12は、特許文献1のマイクロチップを示す平面図である。特許文献1のマイクロチップ8は、反応固相としての固体微粒子5が、この粒子の径よりも大きい縦断面積を有する反応槽6に充填されており、その反応槽6には、固体微粒子5の径よりも小さい縦断面積を有する分離部7a、さらに廃液部7が連結されている。また、反応槽6には、抗原、標識抗体、抗体、洗浄液等を反応槽6へ注入するための注入部1、2、3、4及び導入部1a、2a、3a、4aがそれぞれ連結されている。
【0004】
このようなマイクロチップ8では、反応槽6に、抗原注入部1、標識抗体注入部2から導入部1a、2aを通して抗原や標識抗体を順次導入し、固体微粒子5上で反応させる。反応物は、固体微粒子5に吸着されるため、洗浄液注入部4から洗浄液を導入して、未反応物を含む溶液を分離部7aを利用して分離する。ここで、分離部7aの縦断面積は固体微粒子5の径よりも小さいため、固体微粒子5は分離部7aに流入されることはなく、せき止められる。よって、未反応物を含む溶液が分離部7aに流入して分離され、最終的に、光熱変換分析により分析することができる。
【0005】
特許文献2には、別の免疫分析方法が提案されている。図13は、特許文献2のマイクロチップを示す平面図である。特許文献2のマイクロチップは、基板11上に導入流路部12、反応流路部13及び検出流路部14が順次に連結されている。反応流路部13には、抗体が固定化された微粒子15の導入される導入部13Aと、微粒子15の下流域への流れをせき止めるせき止め部13Bとが設けられている。導入流路部12に抗原や標識抗体を順次導入し、固体微粒子15上で反応させる。反応物は固体微粒子15に吸着され、固体微粒子15はせき止め部13Bによりせき止められる。よって、検出流路部14には未反応物を含む溶液が流入して分離され、最終的に分析が可能となる。
【特許文献1】特開2001−4628号公報
【特許文献2】国際公開番号WO03/062823号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1及び2のマイクロチップでは微粒子15と未反応物を含む溶液とを分離可能であるが、未反応物を含む溶液ととともに微粒子内に浸透した液体(以下、浸透液という)が流出する可能性がある。ここで、浸透液中には未反応物は含まれていない。つまり、特許文献1のマイクロチップにおいて、マイクロチップを回転して生じる遠心力により送液する場合には、反応槽6内の固体微粒子5及び未反応物を含む溶液を遠心分離すると、固体微粒子5は分離部7aの入口でせき止められるが、未反応物を含む溶液が分離部7aに分離されるとともに固体微粒子5内の浸透液までもが遠心力により流出してしまう。同様に、特許文献2のマイクロチップにおいて、反応流路部13内の微粒子15及び未反応物を含む溶液を遠心分離すると、微粒子15はせき止め部13Bによりせき止められるが、未反応物を含む溶液が検出流路部14に分離されるとともに微粒子15内の浸透液までもが遠心力により流出してしまう。
【0007】
浸透液は未反応物を含まないため、浸透液の流出により未反応物の濃度が変化してしまう。また、微粒子内から流出する浸透液の量は測定毎に一定ではないため、測定誤差の要因となる。さらに、微粒子内の浸透液は、微粒子内の表面張力や毛細管力等により微粒子内部にとどまろうとする。そのため、微粒子の浸透液は、未反応物を含む溶液が遠心分離により送出された後に、微粒子から流出されることとなる。よって、送出の最初と最後とで未反応物を含む溶液の濃度が異なるなど、送出の時間経過とともに未反応物を含む溶液の濃度が不均一となり測定結果のバラツキの原因となる。
【0008】
そこで、本発明は、対象物質の濃度を正確に測定可能なマイクロチップを提供することを目的とする。
また、本発明は、対象物質の濃度を正確に測定可能なマイクロチップの使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願第1発明は、上記の課題を解決するために、試料中のターゲットを認識する第1認識物質または前記第1認識物質を認識する第2認識物質を担持する、液体が浸透可能な微粒子と、前記試料とを混合して反応させた混合試料を処理するマイクロチップであって、前記微粒子に担持された第1認識物質又は第2認識物質との未反応物を含む溶液(以下、単に未反応物を含む溶液という)を前記混合試料から遠心分離する際に、前記未反応物を含む溶液の一部と前記微粒子とを収容する収容部を有する分離槽を含む、マイクロチップを提供する。
【0010】
第1又は第2認識物質の微粒子への固定化は、第1又は第2認識物質を含む溶液に微粒子を浸漬する等して、認識物質と微粒子とを接触させることで行う。この接触により、微粒子の内部又は表面に第1又は第2認識物質が固定化され、微粒子には溶液中の溶媒が浸透する。例えば、微粒子がキトパール等の多孔質ビーズである場合、微粒子の中央部にいくほど孔の大きさが小さくなり抗原や抗体などの認識物質は中央部には入り込めない。よって、認識物質は微粒子の表面近くに固定化され、微粒子の中央部には径の小さな溶媒のみが入り込み保持される。以下、微粒子に保持されている溶媒を浸透液という。このように調製された微粒子と、ターゲットを含む試料とを混合して反応させる。そして、微粒子に担持された第1又は第2認識物質と反応しなかった未反応物を含む溶液(以下、単に未反応物を含む溶液という)を、混合試料から遠心分離し、試料中のターゲット量を定量する。ここで、本発明に係るマイクロチップの分離槽は収容部を有しており、混合試料から未反応物を含む溶液を遠心分離する際に、未反応物を含む溶液の一部と微粒子とが収容部に収容される。このとき、収容部内の微粒子は未反応物を含む溶液の一部に浸漬されているため、微粒子に浸透した浸透液は微粒子から流出しない。よって、未反応物を含む溶液の濃度が浸透液により薄まらず、最終的にターゲットの濃度を正確に定量することができる。このとき収容部に収容される微粒子としては、微粒子に担持された第1又は第2認識物質と反応した反応生成物を担持する微粒子及び反応生成物を担持しない微粒子を含む全ての微粒子である。例えば第1認識物質と第2認識物質との反応物質を担持している微粒子、第1認識物質とターゲットとの反応物質を担持している微粒子、反応が行われなかった第1又は第2認識物質を担持している微粒子等が挙げられる。また、浸透液は、微粒子の調製に用いる第1又は第2認識物質を含む溶液の溶媒、及び/又は混合試料の溶媒などであり、例えば水などである。
【0011】
また、微粒子の浸透液は、微粒子の孔の表面張力や毛細管力等により微粒子内部にとどまろうとする。そのため、微粒子の浸透液は、微粒子の外表面近傍の未反応物を含む溶液が遠心分離により抽出された後に、分離槽から送出されることとなる。しかし、本発明の収容部により浸透液が微粒子に保持されるので、分離抽出の時間経過とともに、未反応物を含む溶液の濃度が浸透液の流出により不均一になるのを抑制することができる。これにより、全ての未反応物を含む溶液を抽出して均一になるまで待機することなく、最初に抽出された未反応物を含む溶液を用いて早期に濃度を測定可能である。
【0012】
また、収容部に微粒子が収容されるため、分離槽に接続される分離管に微粒子が流出しない。よって、分離管の管径よりも小さな径の微粒子を用いても、微粒子の流出の心配が無い。このように小さな径の微粒子を用いると微粒子の表面積が大きくなるため、少ない量の微粒子により効率よく反応を行わせ、分離効率を高めることができる。また、分離管の管径を微粒子径よりも小さく設計する必要が無いため、チップの設計の自由度が向上する。ただし、分離管の管径が粒子径よりも大きい場合は、分離管の入口に微粒子の流出を阻む流出止め柱を形成すると、微粒子を分離槽に確実にとどめることができるので好ましい。
【0013】
また、微粒子が収容部に収容されることで、分離管の入口に微粒子が位置して分離槽から分離管への未反応物を含む溶液の送出を阻むなどの妨害が無く、分離効率が向上する。
本願第2発明は、第1発明において、前記微粒子は多孔性の微粒子である、マイクロチップを提供する。
多孔性の微粒子としては、例えば多孔質ビーズなどが挙げられる。多孔性の微粒子は、その内部及び/又表面の孔により表面積が大きく、より多くの抗原や抗体などの認識物質を固定化することが可能である。よって、反応効率を高めることができる。なお、多孔性の微粒子は、微粒子の内部に行くほど孔が狭まっていくため、抗原や抗体など認識物質は狭まった孔の奥には入り込めず、浸透液のみが内部に浸透して保持される。
【0014】
本願第3発明は、第1発明において、前記収容部の容積は、前記微粒子を最密充填した体積よりも大きい、マイクロチップを提供する。
収容部の大きさが微粒子を最密充填した場合よりも大きいため、微粒子を未反応物を含む溶液に浸漬させて収容することができる。よって、混合試料の遠心分離の際に、微粒子内の浸透液が流出するのを防止することができる。
【0015】
本願第4発明は、第1発明において、前記収容部は、前記微粒子が導入される開口と、前記遠心分離の中心からの距離が前記開口よりも遠くなる方向に形成された底部とを有する、マイクロチップを提供する。
遠心分離による遠心力は、収容部の開口から底部に沿う方向に働く。よって、微粒子及び混合試料は収容部に導入される。
【0016】
本願第5発明は、第1発明において、分離槽に連結されており、前記未反応物を含む溶液を送出する分離管をさらに含み、前記分離管は、前記遠心分離による遠心力方向に概ね沿って形成されている、マイクロチップを提供する。
微粒子は未反応物を含む溶液の一部に浸漬されて収容部に収容されるが、未反応物を含む溶液の残りは収容部からあふれ出て分離管から送出される。ここで、分離管が遠心力方向に概ね沿って形成されているため、未反応物を含む溶液を効率よく送出することができる。なお、分離管の入口に流出止め柱が形成されていると、マイクロチップの運搬時等に微粒子が分離槽から送出されるのを防止することができ好ましい。
【0017】
本願第6発明は、第1発明において、前記分離槽と同一槽内に一体形成された混合部をさらに含む、マイクロチップを提供する。
混合及び分離を同一槽内で効率よく行うことができる。例えば、混合試料の混合及び反応は第1回転方向にマイクロチップを回転させることで行い、分離は第1回転方向とは異なる第2回転方向にマイクロチップを回転させることで行うなど、混合反応と分離とを異なる回転方向で行う。
【0018】
本願第7発明は、前記本願第1発明に記載のマイクロチップの使用方法であって、第2回転方向に前記マイクロチップを回転させ、前記未反応物を含む溶液の一部と前記微粒子とを前記収容部に収容し、前記未反応物を含む溶液を前記混合試料から遠心分離する遠心分離ステップを含む、マイクロチップの使用方法を提供する。
第2回転方向の遠心力により、未反応物を含む溶液の一部と微粒子とが収容部に収容される。このとき、収容部内の微粒子は反応物を含む溶液の一部に浸漬されているため、微粒子に浸透した浸透液は微粒子から流出しない。よって、未反応物を含む溶液の濃度が浸透液により薄まらず、最終的にターゲットの濃度を正確に定量することができる。
【0019】
本願第8発明は、前記本願第6発明に記載のマイクロチップの使用方法であって、第1回転方向に前記マイクロチップを回転させ、前記混合部で前記混合試料を混合し反応させる混合ステップと、前記第1回転方向とは異なる第2回転方向に前記マイクロチップを回転させ、前記未反応物を含む溶液の一部と微粒子とを前記収容部に収容し、前記未反応物を含む溶液を前記混合試料から遠心分離する遠心分離ステップと、を含むマイクロチップの使用方法を提供する。
【0020】
異なる回転方向の遠心力を用いて、混合試料の混合及び反応と、混合試料からの未反応物を含む溶液の分離とを同一槽内で効率よく行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のマイクロチップを用いれば、測定対象の溶液が微粒子内の浸透液により薄まらず、最終的にターゲットの濃度を正確に定量することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<第1実施形態>
(1)マイクロチップの全体構成
図1は、第1実施形態に係るマイクロチップの平面図である。本発明が対象とするマイクロチップは、ターゲットを含む試料と認識物質が固定化された粒状担体(以下、微粒子という)との混合試料から未反応物を含む溶液を分離する工程において、遠心力を用いることを前提としている。
【0023】
第1実施形態に係るマイクロチップ20では、中心1及び中心2を中心とする回転により試料等の混合を行い、中心3を中心とする回転により混合試料から測定対象の溶液を取り出す。このマイクロチップ20は、次の構成要素を含む。
(a)導入口、導入流路
導入口21は、測定対象であるターゲットを含む試料をマイクロチップ20内に導入するための導入口である。その他、標識ターゲットが導入口21から導入されても良い。標識ターゲットとは、標識ターゲットの定量結果に基づいてターゲット量を定量するための標識物質であり、例えば発色物質との反応により発色する。
【0024】
ここで、ターゲットとは測定対象であり、ターゲットを含む試料としては生物学的サンプルがあり、例えば、全血、赤血球、白血球、血小板、血清、プラスマ、尿、脳脊髄液、腹水、その他の生物学的試料等が挙げられる。
導入流路21aは、中心1を中心としてマイクロチップ20を回転することにより、導入口21から導入された試料等を混合分離槽23に送出する。よって、導入流路21aは、中心1を中心とする回転により試料を混合分離槽23に導入可能なように形成されており、例えば導入口21から混合分離槽23に向かう方向が中心1を中心とする遠心力方向に概ね沿って形成されている。また、導入口21は導入流路21aよりも中心1側に配置され、後述の混合分離槽23は導入流路21aよりも中心1から離れるように配置される。
【0025】
なお、「遠心力方向に概ね沿って」とは、遠心力方向に平行な方向を含み、また遠心力方向に対して+90°〜−90°までの方向を含むものとする。
(b)混合分離槽
混合分離槽23は、導入流路21aに連結されており、混合部23aと収容部23bとを含む。混合分離槽23は、微粒子を含む溶液を予め保持している。混合部23aは、少なくとも微粒子を含む溶液と試料との混合試料を混合するための空間を提供する。また、収容部23bは、混合試料から測定対象の溶液を分離するための空間を提供する。図1の混合分離槽23では、混合部23aと収容部23bとが同一槽内に一体に形成されている。
【0026】
ここで、試料中のターゲットの定量方法としては、例えば、次に示す第1の定量方法と第2の定量方法とが挙げられる。第1の定量方法では、試料中のターゲットと反応する認識物質Aと、試料とを混合して反応させて、この認識物質Aにより標識されたターゲットを取り出して定量する。具体的に、第1の定量方法の場合には、混合分離槽23は、認識物質Aを認識する認識物質Bが固定化された微粒子を含む溶液を保持している。そして、予めターゲットを含む試料に過剰の認識物質Aを投入し、ターゲットと認識物質Aとを混合反応させておく。混合分離槽23には、この試料と過剰の認識物質Aとを含む溶液が導入され、中心1及び中心2と中心としてマイクロチップ20を回転することにより微粒子と混合反応される。このとき、ターゲットと反応しなかった認識物質Aは微粒子に捕捉されるが、認識物質Aとターゲットとの反応物質αは微粒子に捕捉されずに混合試料中に存在している。そして、後述の収容部23bにより反応物質αを含む溶液と微粒子とを分離する。ここで、第1の定量方法における混合試料とは、ターゲットを含む試料と、認識物質Aと、認識物質Bが固定化された微粒子とを含む溶液とを混合溶液である。
【0027】
一方、第2の定量方法では、ターゲット及び標識ターゲットを認識する認識物質Cを微粒子に固定化しておく。そして、ターゲットを含む試料中と、標識ターゲットを混合した溶液と、認識物質Cを担持する微粒子とを混合反応させると、ターゲット及び標識ターゲットの一部が微粒子に捕捉される。捕捉されなかった標識ターゲットを検出し、標識ターゲットの減少量からターゲットを定量する。具体的に、第2の定量方法の場合には、混合分離槽23は、認識物質Cが固定化された微粒子を含む溶液を保持している。そして、混合分離槽23には、ターゲットを含む試料と標識ターゲットとが導入され、微粒子と混合反応される。ここで、第2の定量方法における混合試料とは、ターゲットを含む試料と、標識ターゲットと、認識物質Cが固定化された微粒子とを含む溶液とを混合溶液である。
【0028】
なお、特許請求の範囲の第1認識物質は、ターゲットと反応する認識物質Aに相当するとともに、ターゲット及び標識ターゲットと反応する認識物質Cに相当する。また、特許請求の範囲の第2認識物質は、第1認識物質である認識物質Aを認識する認識物質Bに相当する。
また、混合分離槽23、特に混合分離槽23の混合部23aは、混合試料が流動可能な程度の大きさであれば良く、その形状は特に限定されない。ただし、図1に示すマイクロチップ20では、中心1及び中心2を中心とする回転により混合試料を混合するため、これらの回転により混合試料を十分に混合可能な形状であると好ましい。例えば、中心1を中心とする回転方向に沿って湾曲する底部と、中心2を中心とする回転方向に沿って湾曲する底部とを有するように形成されていると、混合試料を十分に混合できる。
【0029】
また、混合分離槽23の収容部23bは、混合試料中から微粒子との未反応物を遠心分離する際に、微粒子との未反応物を含む溶液の一部と微粒子とを収容する。ここで、遠心分離の際に収容部23bに収容された微粒子は、微粒子との未反応物を含む溶液に浸漬されている。収容部23bの容積は、全ての微粒子が収容部に収容可能な大きさに形成されており、例えば微粒子を最密充填した体積よりも大きく形成される。これにより、微粒子は、収容部23b内に収容されつつ未反応物を含む溶液の一部に浸漬される。なお、微粒子は収容部23b内に収容されつつ未反応物を含む溶液の一部に浸漬され、かつ未反応物を含む溶液の残りは分離管25から送出されるため、未反応物を含む溶液の溶液量は収容部の容積よりも多くなるように調整する必要がある。
【0030】
ここで、微粒子との未反応物の遠心分離は、中心3を中心としてマイクロチップ20を回転することにより行われる。よって、収容部23bは、中心3を中心とした回転により、微粒子及び未反応物を含む溶液の一部を収容しつつ、未反応物を含む溶液の残りを後述の分離管25から送出する形状となっている。例えば、混合部23aから混合試料が導入される開口Aよりも、中心3を中心とする回転の遠心力方向の外側に底部Bが形成されている。つまり、収容部23bの底部Bから中心3までの距離は、開口Aから中心3までの距離よりも長い。
【0031】
なお、混合部23aと収容部23bとは明確に区別出来なくても良く、混合部23a及び収容部23bを両方用いて混合試料の混合を行っても良い。
また、混合分離槽23はさらに試薬を保持し、試薬と混合試料とを混合しても良い。
(c)分離管
分離管25は、混合分離槽23に連結されており、混合分離槽23から微粒子との未反応物を含む溶液を送出する。上述の通り、微粒子及び未反応物を含む溶液の一部は収容部23bに収容され、未反応物を含む溶液の残りが収容部23bからあふれ出て分離管25から送出される。ここで、微粒子との未反応物の遠心分離は、中心3を中心とした回転により行われるため、分離管25は、中心3を中心とした回転による遠心力方向に概ね沿って形成されている。よって、未反応物を含む溶液を効率よく送出することができる。
【0032】
なお、混合分離槽23に連結されている導入流路21a及び分離管25の流路径は、微粒子の径よりも小さい径であると、マイクロチップ20の運搬時等に混合分離槽23に保持された微粒子が導入流路21a及び分離管25から送出されるのを防止することができ好ましい。さらに、導入流路21a及び分離管25の入口に流出止め柱を形成し、微粒子が混合分離槽23から流出されるのを防止しても良い。なお、導入流路21a及び分離管25と流出止め柱との間隔は、微粒子の径よりも小さくなるように調整されている。このように流出止め柱を形成する場合には、導入流路21a及び分離管25の流路径を微粒子の径よりも小さくする必要はない。
【0033】
(d)検出部
検出部27は、分離管25から送出された未反応物を含む溶液を検出するための空間であり、分離管25に連結されている。検出部27への未反応物を含む溶液の導入は、中心3を中心とする回転による遠心分離とともに行われる。検出部27の大きさ及び形状は特に限定されず、検出方法、試料、認識物質及び/又は試薬等の種類及び量等に応じて適宜設定することができる。このように、微粒子との未反応物を含む溶液を分離管25から直接、検出部27に導入することで、他の物質に干渉されることなく、バックグラウンドを低減することができる。よって、より精度の高い分析を行うことが可能となる。また、マイクロチップ20内に検出部27を一体に形成することで、混合・分離・検出を一連に行うことができ操作性が向上する。
【0034】
検出部27での検出方法としては、色素の発色強度を測定する光学的方法(比色法、蛍光法、散乱光法等)、電子の授受による電流値又は電圧値用を測定する電気化学的方法、電気的方法、放射性同位元素の強度を測定するラジオイムノアッセイ法、磁気による方法(例えば、標識に磁気ビーズを用いた場合)等の当該分野で公知のいずれの方法によっても行うことができる。
【0035】
光学的方法を用いる場合は、検出部27において、導入された測定対象に光を照射し、その光の通過、反射及び散乱光等を検出し得るように、光の入出射が可能な所定長さの光路を確保することができる形状及び大きさであることが好ましい。検出部27は、例えば、長さ1〜50mm程度で、断面積が0.1〜100mm2程度の一定形状を有しているものが利用される。
【0036】
また、検出部27に一対の電極を形成することで、電流又は電圧等の検出という簡便な方法によって、被検物質の分析を行うこともできる。従って、分析にかかる費用を低減させることができるとともに、より小型のバイオチップ及びより小型で安価な分析装置の使用を実現することができる。
(e)排出口
排出口29は、検出部27から測定対象の溶液、又は検出部27に未反応物を含む溶液を送出する際の空気を排出する。
【0037】
(2)微粒子
微粒子は、認識物質B又は認識物質Cなどの認識物質を担持する固定手段である。また、固定手段は、その内部に液体が浸透可能な微粒子であっても良いし、液体が浸透不可能な微粒子であっても良い。ただし、内部に浸透した浸透液を保持している固定手段であっても、本願を適用すればターゲットを正確に定量できる。ここでは、固定手段として微粒子を例に挙げているが、固定手段は微粒子に限定されない。また、固定手段は、認識物質を固定可能であり、認識物質の反応に影響を与えないものであれば特に限定されるものではなく、その形状、材質、量等は、ターゲットや標識ターゲットの種類等によって適宜調整することができる。例えば、固定の方法は、認識物質の反応に影響を与えないものであれば、物理的吸着、共有結合、イオン結合、架橋、静電相互作用等公知の方法のいずれかを利用することができる。
【0038】
また、固定手段の形状は、フィルター状、微粒子状等の形状の、多孔質体等、表面積を増大させ得る種々のもの、一般にバイオリアクター及びクロマトグラフィー等用の担体として使用されているもの等が挙げられる。微粒子状のものとしては、ガラスビーズ、ポリスチレン等のポリマービーズ、アガロース、デキストラン、キトサン、タンパク等の高分子化合物(ゲル)の微粒子、シリカ、金属等のビーズ、磁性ビーズ、さらに市販されている微粒子状の固体担体等のいずれかを用いることができる。その直径は、1mm程度以下のもの、10〜1mm程度のもの、100〜800μm程度のもの、200〜600μm程度のもの、200〜1mm程度のもの等が挙げられる。このように、固定手段として多孔性の微粒子等を用いると、その内部及び/又表面の孔により表面積が大きくなるため、より多くの抗原や抗体などの認識物質を固定化することが可能である。よって、反応効率を高めることができる。なお、多孔性の微粒子は、微粒子の内部に行くほど孔が狭まっていくため、抗原や抗体など認識物質は狭まった孔の奥には入り込めず、浸透液のみが内部に浸透して保持される。
【0039】
固定手段に固定化される、認識物質B及び認識物質Cなどの認識物質としは、抗原や抗体が挙げられる。ここで、認識物質Bは、認識物質Aと反応するが、ターゲットと反応しない物質であり、またターゲットと認識物質Aとの反応物質αとも反応しない物質である。なお、認識物質Bと反応する認識物質Aは、ターゲットと反応するとともに認識物質Bとも反応する。また、認識物質Cは、ターゲット及び標識ターゲットと反応する物質である。なお、標識ターゲットとターゲットとは反応しない。
【0040】
以下では、固定手段として多孔質の微粒子を例に挙げて説明する。
図2(a)は微粒子への認識物質の固定方法の一例を示す模式図、図2(b)は認識物質を担持しつつ、内部に浸透液を保持している微粒子を示す模式図である。図2(a)に示すように、認識物質を含む溶液中に微粒子31を浸漬して認識物質と微粒子とを接触させ、微粒子31に認識物質を固定化する。ここで、キトパール(富士紡績株式会社製:登録商標)などの多孔質の微粒子は、図2(b)に示すように、微粒子の中央部にいくほど孔31aの大きさが小さくなり認識物質は中央部には入り込めない。よって、認識物質は微粒子の表面近くに固定化され、微粒子の中央部には径の小さな水などの溶媒のみ、つまり浸透液のみが入り込み保持される。
【0041】
なお、認識物質が固定化された微粒子を混合分離槽23に予め保持していても良いが、認識物質が固定化されていない微粒子を混合分離槽23に保持しておいても良い。認識物質が固定化されていない微粒子が保持されている場合は、認識物質を混合分離槽23内に導入して微粒子に認識物質を固定化する処理を行う。ただし、微粒子の固定化の調整が困難な場合には、予め認識物質が固定化された微粒子を混合分離槽23内に保持しているのが好ましい。
【0042】
(3)マイクロチップの使用方法及び反応プロセス
次に、マイクロチップの使用方法及び反応プロセスについて説明する。
(3−1)第1の定量方法
図3(a)〜(e)はマイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例であり、図4(a)〜(c)は第1の定量方法での反応プロセスを示す模式図である。以下に、第1の定量方法を例に挙げてマイクロチップの使用方法及び反応プロセスについて説明する。
【0043】
まず、図4(a)に示すように、ターゲットを含む試料と、過剰の認識物質Aとを混合して反応させた溶液を準備する。認識物質Aはターゲットと反応して反応物質αが生成されるが、過剰に投入されているため溶液中には未反応の認識物質Aが存在している。この溶液を導入口21に導入する。認識物質Aは、ターゲットと反応するとともに認識物質Bとも反応するため、試料と認識物質Aとは混合分離槽23に導入する前に予め混合して反応させておくのが好ましい。
【0044】
ここで、混合分離槽23には、認識物質Bが固定化された微粒子を含む溶液が保持されている。
次に、図3(a)に示すように、中心1と中心としてマイクロチップ20を回転し、導入口21から導入流路21aを介して、試料と認識物質Aとを混合して反応させた溶液を混合分離槽23に導入する。このとき、中心1とする回転によりg1方向の遠心力が溶液に印加されている。さらに、図3(b)に示すように、引き続き中心1を中心とする回転により、認識物質Bが固定化された微粒子と、試料及び認識物質Aを混合反応させた溶液と、の混合試料を混合して混合分離槽23内で反応させる。そして、図3(c)及び図3(d)に示すように、中心2及び中心1を中心としてマイクロチップ20に異なる方向の遠心力を働かせることで、混合試料をさらに混合して反応させる。中心2を中心とする回転では、g1方向とは異なるg2方向に遠心力が働く。混合分離槽23は中心2を中心とする回転方向に沿って湾曲した底部を有しており、この底部に混合試料が移動することで混合試料のさらなる混合反応が促進される。このような図3(a)〜図3(d)の操作により、図4(b)に示すように、ターゲットと反応しなかった未反応の認識物質Aと、微粒子に固定化された認識物質Bと、が反応する。つまり、認識物質Aは、認識物質Bとの反応により微粒子に捕捉される。よって、混合反応後の混合分離槽23内には、微粒子と、微粒子とは未反応の反応物質αと、を含む溶液が存在している。なお、混合反応後の微粒子は、認識物質Bとの反応により認識物質Aを捕捉しているか、及び/又は認識物質Aを捕捉せず認識物質Bのみを担持している。
【0045】
次に、図3(e)に示すように、中心3を中心とする回転により、未反応の反応物質αを含む溶液を混合試料から遠心分離する。中心3を中心とする回転により、g3方向に遠心力が働き、未反応物を含む溶液の一部と微粒子とが収容部23bに収容される。このとき、収容部23bには、認識物質Bとの反応により認識物質Aを捕捉している微粒子、認識物質Bのみを担持している微粒子を含む全ての微粒子が収容される。よって、図3(e)の遠心分離により、微粒子との未反応物質、つまりターゲットと認識物質Aとの反応物質αを含む溶液が分離管25を介して検出部27に導入される。
【0046】
最後に、図4(c)に示すように、例えば反応物質αを含む溶液と発色物質とを混合し、吸光度測定により得られた結果を換算することで、試料中のターゲットの定量を行う。
(3−2)第2の定量方法
次に、第2の定量方法を例に用いた反応プロセスについて、図5及び図3を用いて説明する。図5(a)〜(c)は第2の定量方法での反応プロセスを示す模式図である。
【0047】
まず、図5(a)に示すように、ターゲットを含む試料と、標識ターゲットとを混合した溶液を準備する。そして、図3(a)に示すように、この溶液を導入口21に導入する。ここで、標識ターゲットとは、標識ターゲットの定量結果に基づいてターゲット量を定量するための標識物質であり、ターゲットとは反応せず、認識物質Cと反応する。また、ここで、混合分離槽23には、認識物質Cが固定化された微粒子を含む溶液が保持されている。認識物質Cは、ターゲット及び標識ターゲットと反応する。
【0048】
そして、図3(a)〜図3(d)の工程により、ターゲットと、標識ターゲットと、微粒子とを含む混合試料を混合反応させる。その結果、図5(b)に示すように、認識物質Cにより、ターゲット及び標識ターゲットの一部が微粒子に捕捉される。このとき、混合試料中には、微粒子に捕捉されなかったターゲット及び標識ターゲットが存在している。
次に、図3(e)の工程により、微粒子との未反応物、つまりターゲット及び標識ターゲットを混合試料から遠心分離し、検出部27に導入する。
【0049】
最後に、図5(c)に示すように、例えばターゲット及び標識ターゲットを含む溶液と発色物質とを混合し、吸光度測定により溶液中の標識ターゲットの量を定量する。そして、標識ターゲットの減少量から、試料中のターゲットの定量を行う。
(4)浸透液の流出による影響
次に、微粒子内に保持されている浸透液が流出した場合の影響について、図4及び図6を用いて説明する。図6(a)は微粒子が浸透液を保持している場合の混合試料の量を示す説明図、図6(b)は微粒子が浸透液を保持していない場合の混合試料の量を示す説明図である。
【0050】
図4(a)及び図4(b)に示すように、認識物質Bが固定化され、浸透液を保持している微粒子を含む溶液の溶液量がXmlで、試料と認識物質Aとを含む溶液の溶液量がYmlであるので、これらの混合試料の溶液量は(X+Y)mlとなる。よって、図6(a)に示すように、微粒子が浸透液を保持したままであると、混合試料の溶液量は(X+Y)mlのままである。しかし、図6(b)に示すように、微粒子内から浸透液が流出すると、混合試料の溶液量は(X+Y)mlよりも多くなる。ここで、微粒子内の浸透液の液量をΔVmlとすると、混合試料の溶液量は{(X+Y)+ΔV}mlとなる。このように溶液量が増加すると、反応物質αを含む溶液の濃度が薄まり、結果として試料中のターゲットの定量を正確に行うことができなくなる。
【0051】
しかし、本発明の上記の構成を用いれば、微粒子及び反応物質αを含む溶液の一部は収容部23bに収容される。このとき、収容部23b内の微粒子は、反応物質αを含む溶液の一部、つまり微粒子との未反応物を含む溶液の一部に浸漬されているため、微粒子に浸透した浸透液は微粒子から流出しない。なお、微粒子内部から浸透液が流出することはあるが、未反応物を含む溶液から常に補充され、微粒子内の浸透液が無くなることはない。よって、未反応物を含む溶液の溶液量は見かけ上一定となる。そのため、未反応物を含む溶液の濃度が浸透液により薄まらず、最終的にターゲットの濃度を正確に定量することができる。
【0052】
ここで、浸透液は、微粒子の調製に用いる認識物質Aを含む溶液の溶媒及び/又は混合試料の溶媒などであり、例えば水などである。
(5)比較結果
次に、微粒子内部の浸透液が流出する場合と流出しない場合との比較を行う。図7(a)は微粒子が収容部23bに収まりきっていない場合を示す模式図、図7(b)は微粒子が収容部23bに収まりきっている場合を示す模式図である。
【0053】
図7(a)及び図7(b)のそれぞれの場合について、収容部23bを用いて遠心分離する前の溶液濃度と、収容部23bを用いて遠心分離した後の溶液濃度とを測定した。遠心分離前と遠心分離後との比較結果を表1に示す。なお、溶液濃度は、溶液の酵素反応速度で評価した。
【0054】
【表1】
図7(a)の場合、微粒子が収容部23bに収容しきれておらず、一部の微粒子は未反応物を含む溶液に浸漬していない。そのため、中心3を中心とする遠心分離により、未反応物を含む溶液に浸漬していない微粒子内部から浸透液が流出する。よって、図7(a)の場合には、表1に示すように遠心分離後の溶液の濃度は、遠心分離前の溶液の濃度よりも薄くなる。一方、図7(b)の場合、微粒子が収容部23bに収容され、未反応物を含む溶液に浸漬している。そのため、中心3を中心とする回転によっても浸透液は流出しない。よって、図7(b)の場合には、表1に示すように遠心分離後の溶液の濃度は、遠心分離前の溶液の濃度とほぼ同じとなる。
【0055】
(6)作用効果
本発明に係るマイクロチップの混合分離槽23は収容部23bを有しており、混合試料から未反応物を含む溶液を遠心分離する際に、未反応物を含む溶液の一部と微粒子とが収容部23bに収容される。このとき、収容部23b内の微粒子は未反応物を含む溶液の一部に浸漬されているため、微粒子に浸透した浸透液は微粒子から流出しない。よって、未反応物を含む溶液の濃度が浸透液により薄まらず、最終的にターゲットの濃度を正確に定量することができる。
【0056】
また、微粒子の浸透液は、微粒子の孔の表面張力や毛細管力等により微粒子内部にとどまろうとする。そのため、微粒子の浸透液は、微粒子の外表面近傍の未反応物を含む溶液が遠心分離により抽出された後に、混合分離槽23から送出されることとなる。しかし、本発明の収容部23bにより浸透液が微粒子に保持されるので、分離抽出の時間経過とともに、未反応物を含む溶液の濃度が浸透液の流出により不均一になるのを防止することができる。これにより、全ての未反応物を含む溶液を抽出して均一になるまで待機することなく、最初に抽出された未反応物を含む溶液を用いて早期に濃度を測定可能である。
【0057】
また、収容部23bに微粒子が収容されるため、混合分離槽23に接続される分離管25に微粒子が流出しない。よって、分離管25の管径よりも小さな径の微粒子を用いても、微粒子の流出の心配が無い。このように小さな径の微粒子を用いると微粒子の表面積が大きくなるため、少ない量の微粒子により効率よく反応を行わせ、分離効率を高めることができる。また、分離管25の管径を微粒子径よりも小さく設計する必要が無いため、チップの設計の自由度が向上する。
【0058】
また、微粒子が収容部23bに収容されることで、分離管25の入口に微粒子が位置して分離槽から分離管への未反応物を含む溶液の送出を阻むなどの妨害が無く、分離効率が向上する。
<第2実施形態>
図8は第2実施形態に係るマイクロチップの平面図、図9(a)〜(c)はマイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例である。第2実施形態に係るマイクロチップ40は、第1実施形態に係るマイクロチップ20に、遠心分離管及び試薬保持部をさらに設けている。
【0059】
第2実施形態に係るマイクロチップ40では、例えば、中心1によりターゲットを含む試料を遠心分離し、中心2及び中心3を中心とする回転により混合試料の混合を行い、中心1と中心とする回転により混合試料から測定対象の溶液を取り出す。このマイクロチップ40は、次の構成要素を含む。
(a)導入口、遠心分離管、溜部
導入口41は、測定対象であるターゲットを含む試料をマイクロチップ40内に導入するための導入口であり、遠心分離管43の一端に形成されている。その他、標識ターゲットが導入口21から導入されても良い。
【0060】
遠心分離管43及び溜部45は、導入口41から導入された試料から、測定を阻害するような不要な物質を取り除く。遠心分離管43はV字状に形成されており、V字の底部に溜部45が連結されている。ここで、遠心分離管43及び溜部45での遠心分離は、中心1を中心とする回転により行われる(図9(a)参照)。よって、V字状の遠心分離管43は中心1側に開きを有し、中心1から離れる側にV字の底部が位置するように配置される。
【0061】
例えば、図9(a)に示すように、導入口41から血液を導入し、中心1を中心とする回転により、血球成分を溜部45に導入させると、遠心分離管43には血漿成分が分離される。
(b)導入流路
導入流路47は、遠心分離管の他端に連結されている。中心1を中心とする回転により遠心分離管43内に遠心分離された試料は、中心2を中心とする回転により、導入流路47を介して混合分離槽53に導入される(図9(b)参照)。ここで、導入流路47は、中心2を中心とする回転の遠心力方向に概ね沿って形成されると、遠心分離管43内の試料を効率よく混合分離槽53に導入することができる。
【0062】
(c)試薬保持部、試薬導入路
試薬保持部49は混合分離槽53に導入される試薬を保持しており、試薬導入路49aは試薬保持部49と混合分離槽53とを連結しており、試薬を混合分離槽53に導入する。試薬保持部49内の試薬は、図9(a)の中心1を中心とする回転の場合には試薬保持部49内に保持される。そして、中心2を中心とする回転により、ターゲットを含む試料が導入流路47を介して混合分離槽53に導入されるのと同時に、試薬保持部49から混合分離槽53に導入される(図9(b)参照)。よって、中心1を中心とする回転により試薬が流出しないように、試薬導入路49aと試薬保持部49との連結部分は、混合分離槽53と試薬導入路49aとの連結部分よりも中心1側になるように形成されている。また、試薬保持部49は、中心1を中心とする回転により試薬が流出しないように、試薬導入路49aとの連結部分よりも中心1から離隔した部分で試薬を保持可能なように形成されている。さらに、試薬保持部49は、中心2を中心とする回転により試薬が流出可能なように、試薬導入路49aよりも中心2側に形成される。
【0063】
(d)混合分離槽、分離管、検出部、排出口
混合部53a及び収容部53bを有する混合分離槽53、分離管55、検出部57及び排出口59は、第1実施形態の混合分離槽23、分離管25、検出部27及び排出口29と以下の点を除いて同様の構成である。
中心2を中心とする回転により試薬及び試料が導入された後、さらに中心3と中心として回転することにより、混合分離槽53内の混合試料が混合反応される(図9(b)参照)。混合分離槽53は、中心2を中心とする回転方向に沿って湾曲する底部を有するように形成されていると、混合試料を十分に混合できる。
【0064】
また、微粒子との未反応物の混合試料からの遠心分離は、中心1を中心としてマイクロチップ40を回転することにより行われる(図9(c)参照)。よって、収容部53bは、中心1を中心とした回転により、微粒子及び未反応物を含む溶液の一部を収容しつつ、未反応物を含む溶液の残りを後述の分離管55から送出する形状となっている。収容部53bは、例えば、混合部53aから混合試料が導入される開口Cよりも、中心1を中心とする回転の遠心力方向の外側に底部Dが形成されている。つまり、収容部53bの底部Dから中心1までの距離は、開口Cから中心1までの距離よりも長い。
【0065】
分離管55から微粒子との未反応物を送出する工程は、中心1を中心とした回転により行われるため、分離管55は、中心1を中心とした回転による遠心力方向に概ね沿って形成されている。よって、未反応物を含む溶液を効率よく送出することができる。
検出部57への未反応物を含む溶液の導入は、中心1を中心とする回転により行われる。
【0066】
混合分離槽53、分離管55、検出部57及び排出口59のその他の構成は、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
この第2実施形態のマイクロチップ40は、第1実施形態のマイクロチップ20と同様の作用効果を奏する。
<第3実施形態>
図10は第3実施形態に係るマイクロチップの平面図、図11(a)〜(d)はマイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例である。第3実施形態に係るマイクロチップ40は、第1実施形態に係るマイクロチップ20に、計量部、試薬保持部及び混合槽をさらに設けている。
【0067】
第3実施形態に係るマイクロチップ60では、例えば、中心1を中心とする回転により混合試料の混合を行い、中心2と中心とする回転により混合試料から測定対象の溶液を分離して計量し、中心3と中心とする回転により試薬と測定対象の溶液との混合を行う。このマイクロチップ60は、次の構成要素を含む。
(a)導入口、混合分離槽
導入口61は、測定対象であるターゲットを含む試料をマイクロチップ60内に導入するための導入口である。混合部63a及び収容部63bを含む混合分離槽63は、第1実施形態の混合分離槽23と次の点を除いて同様の構成である。
【0068】
導入口61に導入された試料は、中心1を中心とする回転により混合分離槽63に導入される。そして、さらに中心1を中心とする回転により、予め混合分離槽63内に保持されている微粒子を含む溶液と、試料と、を含む混合試料が混合される(図11(a)参照)。混合分離槽63は、中心1を中心とする回転方向に沿って湾曲する底部を有するように形成されていると、混合試料を十分に混合できる。
【0069】
また、微粒子との未反応物の混合試料からの遠心分離は、中心2を中心としてマイクロチップ60を回転することにより行われる(図11(b)参照)。よって、収容部63bは、中心2を中心とした回転により、微粒子及び未反応物を含む溶液の一部を収容しつつ、未反応物を含む溶液の残りを後述の導入路65から送出する形状となっている。例えば、混合部63aから混合試料が導入される開口Eよりも、中心2を中心とする回転の遠心力方向の外側に底部Fが形成されている。つまり、収容部63bの底部Fから中心1までの距離は、開口Eから中心1までの距離よりも長い。
【0070】
混合分離槽63のその他の構成は、第1実施形態の混合分離槽23と同様であるので説明を省略する。
(b)導入路、計量部、廃液溜
導入路65は、中心2を中心とする回転により混合試料から分離された、微粒子との未反応物を含む溶液を計量部67に導入する(図11(b)参照)。導入路65から未反応物を含む溶液を送出する工程は、中心2を中心とした回転により行われるため、導入路65は、中心2を中心とした回転による遠心力方向に概ね沿って形成されている。よって、未反応物を含む溶液を効率よく送出することができる。
【0071】
計量部67は、導入路65と連結されており、中心2を中心とする回転により微粒子との未反応物を含む溶液が導入される。このとき、計量部67からあふれ出た溶液は、廃液溜69に導入され保持される。よって、計量部67により、所定量の溶液を計量することができる。ここで、計量部67の導入路65に連結された端部は、計量部67の底部Gよりも中心2側に位置する。同様に、計量部67の廃液溜69に連結される端部は、底部Gよりも中心2側に位置する。また、廃液溜69は、計量部67が連結される端部よりも中心2から離れた位置に配置される。なお、計量部67内の溶液が廃液溜69に流出されすぎないようにするために、空気孔67aを設けても良い。
【0072】
(c)導入路
導入路71は、計量部67と混合槽77とを連結している。そして、計量部67で計量された、微粒子との未反応物を含む溶液を、中心3を中心とする回転により計量部67から混合槽77に導入する(図11(c)参照)。導入路71は、中心3を中心とする回転の遠心力方向に概ね沿って形成されていると、効率よく計量部67から混合槽77に未反応物を含む溶液を導入できる。また、中心2を中心とする回転により、混合分離槽63から導入路71を介して混合槽77に未反応物を含む溶液が導入されないように、導入路71と混合槽77との連結部分は、導入路71と導入路65との連結部分よりも中心2側に形成されている。
【0073】
(d)試薬保持部、試薬導入路
試薬保持部73a、73bは試薬を保持しており、試薬導入路75は試薬保持部73bと混合槽77とを連結しており、試薬を混合槽77に導入する。試薬保持部73a内の試薬は、図11(a)の中心1を中心とする回転の場合には試薬保持部73a内に保持される。そして、図11(b)の中心2を中心とする回転により、試薬保持部73aから試薬保持部73bに導入される。そして、中心3を中心とする回転により、計量部67から未反応物を含む溶液が混合槽77に導入されるのと同時に、試薬保持部73bから混合分離槽63に導入される(図11(c)参照)。よって、試薬導入路75と試薬保持部73bとの連結部分は、試薬導入路75と混合槽77との連結部分よりも中心3側になるように形成されている。また、試薬保持部73bは、中心2を中心とする回転により試薬が流出しないように、試薬導入路75との連結部分よりも中心2から離隔した部分で試薬を保持可能なように形成されている。さらに、試薬保持部73bは、中心3を中心とする回転により試薬が流出可能なように、試薬導入路75よりも中心3側に形成される。
【0074】
(e)混合槽、導入路、検出部
混合槽77には、中心3を中心とする回転により、計量された未反応物を含む溶液及び試薬が導入される。そして、混合槽77は、中心3を中心とするさらなる回転により、未反応物を含む溶液及び試薬を混合する(図11(c)参照)。
導入路79は、混合槽77及び検出部81に連結されており、混合槽77で混合された溶液を、中心2を中心とする回転により検出部81に導入する(図11(d)参照)。
【0075】
検出部81及び排出口83のその他の構成は、第1実施形態例の検出部27及び排出口29と同様であるので説明を省略する。
この第3実施形態のマイクロチップ60は、第1実施形態のマイクロチップ20と同様の作用効果を奏する。
<その他の実施形態例>
(1)
上記実施形態では、混合分離槽内に収容部と混合部とが一体に形成されているが、微粒子を含む溶液とターゲットを含む試料との混合試料の混合を行う混合槽と、混合試料から未反応物を含む溶液を分離する分離槽とが別々に形成されていても良い。例えば、混合槽と分離槽とがマイクロ流路により連結されており、混合槽で混合された混合試料をマイクロ流路を介して分離槽に導入するようにしても良い。
【0076】
(2)
上記実施形態では、微粒子を含む溶液が予め混合分離槽に保持されており、この混合分離槽23内に試料等を導入する。しかし、分析・定量の際に混合分離槽内に微粒子を含む溶液を導入し、その後試料等を導入するようにしても良い。また、微粒子を含む溶液と試料との混合試料を混合分離槽に導入しても良い。また、第2の定量方法の場合には、試料と標識ターゲットとを別々に混合分離槽に導入しても良いし、混合した後に混合分離槽内に導入しても良い。
【0077】
(3)
上記の微粒子には、認識物質B又は認識物質Cを固定化することにより、第1又は第2の定量方法によりターゲットの定量を行っている。しかし、ターゲットの定量方法は、浸透液を保持させたまま微粒子を混合試料から取り除き、残りの溶液からターゲットを定量できる定量方法であれば良く、上記方法に限定されない。
【0078】
(4)
試薬保持部、混合分離槽、分離管、検出部及び排出口等の形状及び配置は、混合・分離等の工程が適切に行われれば上記実施形態に限定されない。また、その他の構成を本発明の混合分離槽に適用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のマイクロチップは、医療、食品、創薬などの分野で使用される臨床分析チップ、環境分析チップ、遺伝子分析チップ、タンパク質分析チップ、糖鎖チップ、クロマトグラフチップ、細胞解析チップ、製薬スクリーニングチップ、バイオセンサなどに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】第1実施形態に係るマイクロチップの平面図。
【図2】(a)微粒子への認識物質の固定方法の一例を示す模式図。 (b)認識物質を担持しつつ、内部に浸透液を保持している微粒子を示す模式図。
【図3】(a)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(1)。
【0081】
(b)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(2)。
(c)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(3)。
【図4】(a)第1の定量方法での反応プロセスを示す模式図(1)。 (b)第1の定量方法での反応プロセスを示す模式図(2)。
【0082】
(c)第1の定量方法での反応プロセスを示す模式図(3)。
【図5】(a)第1の定量方法での反応プロセスを示す模式図(1)。 (b)第1の定量方法での反応プロセスを示す模式図(2)。 (c)第1の定量方法での反応プロセスを示す模式図(3)。
【図6】(a)浸透液が保持されている場合の混合試料の量を示す説明図。
【0083】
(b)浸透液が保持されていない場合の混合試料の量を示す説明図で。
【図7】(a)微粒子が収容部23bに収まりきっていない場合を示す模式図。 (b)微粒子が収容部23bに収まりきっている場合を示す模式図。
【図8】第2実施形態に係るマイクロチップの平面図。
【図9】(a)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(1)。
【0084】
(b)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(2)。
(c)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(3)。
【図10】第3実施形態に係るマイクロチップの平面図。
【図11】(a)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(1)。
【0085】
(b)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(2)。
(c)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(3)。
(d)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(4)。
【図12】特許文献1のマイクロチップを示す平面図。
【図13】特許文献2のマイクロチップを示す平面図。
【符号の説明】
【0086】
20、40、60:マイクロチップ
21、41、61:導入口
21a:導入流路
23、53、63:混合分離槽
23a、53a、63a:混合部
23b、53b、63b:収容部
25:分離管
27、57:検出部
29、59:排出口
43:遠心分離管
45:溜部
47:導入流路
49、73a、73b:試薬保持部
67:計量部
69:廃液溜
77:混合槽
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップ及びマイクロチップの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療、食品、創薬等の分野で、DNA、酵素、タンパク質、ウィルス、細胞などの生体物質が種々の方法で分析されており、これらの分析を簡便に行う一手段として、Lab on Chipと呼ばれる技術が近年注目されている。
この技術は、分析する対象の種類によって、臨床分析チップ、環境分析チップ、遺伝子分析チップ(DNAチップ)、たんぱく質分析チップ(プロテオームチップ)、糖鎖チップ、クロマトグラフチップ、細胞解析チップ、製薬スクリーニングチップなどと称される数センチの大きさの基板(バイオチップ)上で混合、反応、分離、測定及び検出等を行うものである。
【0003】
例えば、特許文献1には、このマイクロチップ上で、各種の抗原−抗体反応による免疫分析を行う方法が提案されている。図12は、特許文献1のマイクロチップを示す平面図である。特許文献1のマイクロチップ8は、反応固相としての固体微粒子5が、この粒子の径よりも大きい縦断面積を有する反応槽6に充填されており、その反応槽6には、固体微粒子5の径よりも小さい縦断面積を有する分離部7a、さらに廃液部7が連結されている。また、反応槽6には、抗原、標識抗体、抗体、洗浄液等を反応槽6へ注入するための注入部1、2、3、4及び導入部1a、2a、3a、4aがそれぞれ連結されている。
【0004】
このようなマイクロチップ8では、反応槽6に、抗原注入部1、標識抗体注入部2から導入部1a、2aを通して抗原や標識抗体を順次導入し、固体微粒子5上で反応させる。反応物は、固体微粒子5に吸着されるため、洗浄液注入部4から洗浄液を導入して、未反応物を含む溶液を分離部7aを利用して分離する。ここで、分離部7aの縦断面積は固体微粒子5の径よりも小さいため、固体微粒子5は分離部7aに流入されることはなく、せき止められる。よって、未反応物を含む溶液が分離部7aに流入して分離され、最終的に、光熱変換分析により分析することができる。
【0005】
特許文献2には、別の免疫分析方法が提案されている。図13は、特許文献2のマイクロチップを示す平面図である。特許文献2のマイクロチップは、基板11上に導入流路部12、反応流路部13及び検出流路部14が順次に連結されている。反応流路部13には、抗体が固定化された微粒子15の導入される導入部13Aと、微粒子15の下流域への流れをせき止めるせき止め部13Bとが設けられている。導入流路部12に抗原や標識抗体を順次導入し、固体微粒子15上で反応させる。反応物は固体微粒子15に吸着され、固体微粒子15はせき止め部13Bによりせき止められる。よって、検出流路部14には未反応物を含む溶液が流入して分離され、最終的に分析が可能となる。
【特許文献1】特開2001−4628号公報
【特許文献2】国際公開番号WO03/062823号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1及び2のマイクロチップでは微粒子15と未反応物を含む溶液とを分離可能であるが、未反応物を含む溶液ととともに微粒子内に浸透した液体(以下、浸透液という)が流出する可能性がある。ここで、浸透液中には未反応物は含まれていない。つまり、特許文献1のマイクロチップにおいて、マイクロチップを回転して生じる遠心力により送液する場合には、反応槽6内の固体微粒子5及び未反応物を含む溶液を遠心分離すると、固体微粒子5は分離部7aの入口でせき止められるが、未反応物を含む溶液が分離部7aに分離されるとともに固体微粒子5内の浸透液までもが遠心力により流出してしまう。同様に、特許文献2のマイクロチップにおいて、反応流路部13内の微粒子15及び未反応物を含む溶液を遠心分離すると、微粒子15はせき止め部13Bによりせき止められるが、未反応物を含む溶液が検出流路部14に分離されるとともに微粒子15内の浸透液までもが遠心力により流出してしまう。
【0007】
浸透液は未反応物を含まないため、浸透液の流出により未反応物の濃度が変化してしまう。また、微粒子内から流出する浸透液の量は測定毎に一定ではないため、測定誤差の要因となる。さらに、微粒子内の浸透液は、微粒子内の表面張力や毛細管力等により微粒子内部にとどまろうとする。そのため、微粒子の浸透液は、未反応物を含む溶液が遠心分離により送出された後に、微粒子から流出されることとなる。よって、送出の最初と最後とで未反応物を含む溶液の濃度が異なるなど、送出の時間経過とともに未反応物を含む溶液の濃度が不均一となり測定結果のバラツキの原因となる。
【0008】
そこで、本発明は、対象物質の濃度を正確に測定可能なマイクロチップを提供することを目的とする。
また、本発明は、対象物質の濃度を正確に測定可能なマイクロチップの使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願第1発明は、上記の課題を解決するために、試料中のターゲットを認識する第1認識物質または前記第1認識物質を認識する第2認識物質を担持する、液体が浸透可能な微粒子と、前記試料とを混合して反応させた混合試料を処理するマイクロチップであって、前記微粒子に担持された第1認識物質又は第2認識物質との未反応物を含む溶液(以下、単に未反応物を含む溶液という)を前記混合試料から遠心分離する際に、前記未反応物を含む溶液の一部と前記微粒子とを収容する収容部を有する分離槽を含む、マイクロチップを提供する。
【0010】
第1又は第2認識物質の微粒子への固定化は、第1又は第2認識物質を含む溶液に微粒子を浸漬する等して、認識物質と微粒子とを接触させることで行う。この接触により、微粒子の内部又は表面に第1又は第2認識物質が固定化され、微粒子には溶液中の溶媒が浸透する。例えば、微粒子がキトパール等の多孔質ビーズである場合、微粒子の中央部にいくほど孔の大きさが小さくなり抗原や抗体などの認識物質は中央部には入り込めない。よって、認識物質は微粒子の表面近くに固定化され、微粒子の中央部には径の小さな溶媒のみが入り込み保持される。以下、微粒子に保持されている溶媒を浸透液という。このように調製された微粒子と、ターゲットを含む試料とを混合して反応させる。そして、微粒子に担持された第1又は第2認識物質と反応しなかった未反応物を含む溶液(以下、単に未反応物を含む溶液という)を、混合試料から遠心分離し、試料中のターゲット量を定量する。ここで、本発明に係るマイクロチップの分離槽は収容部を有しており、混合試料から未反応物を含む溶液を遠心分離する際に、未反応物を含む溶液の一部と微粒子とが収容部に収容される。このとき、収容部内の微粒子は未反応物を含む溶液の一部に浸漬されているため、微粒子に浸透した浸透液は微粒子から流出しない。よって、未反応物を含む溶液の濃度が浸透液により薄まらず、最終的にターゲットの濃度を正確に定量することができる。このとき収容部に収容される微粒子としては、微粒子に担持された第1又は第2認識物質と反応した反応生成物を担持する微粒子及び反応生成物を担持しない微粒子を含む全ての微粒子である。例えば第1認識物質と第2認識物質との反応物質を担持している微粒子、第1認識物質とターゲットとの反応物質を担持している微粒子、反応が行われなかった第1又は第2認識物質を担持している微粒子等が挙げられる。また、浸透液は、微粒子の調製に用いる第1又は第2認識物質を含む溶液の溶媒、及び/又は混合試料の溶媒などであり、例えば水などである。
【0011】
また、微粒子の浸透液は、微粒子の孔の表面張力や毛細管力等により微粒子内部にとどまろうとする。そのため、微粒子の浸透液は、微粒子の外表面近傍の未反応物を含む溶液が遠心分離により抽出された後に、分離槽から送出されることとなる。しかし、本発明の収容部により浸透液が微粒子に保持されるので、分離抽出の時間経過とともに、未反応物を含む溶液の濃度が浸透液の流出により不均一になるのを抑制することができる。これにより、全ての未反応物を含む溶液を抽出して均一になるまで待機することなく、最初に抽出された未反応物を含む溶液を用いて早期に濃度を測定可能である。
【0012】
また、収容部に微粒子が収容されるため、分離槽に接続される分離管に微粒子が流出しない。よって、分離管の管径よりも小さな径の微粒子を用いても、微粒子の流出の心配が無い。このように小さな径の微粒子を用いると微粒子の表面積が大きくなるため、少ない量の微粒子により効率よく反応を行わせ、分離効率を高めることができる。また、分離管の管径を微粒子径よりも小さく設計する必要が無いため、チップの設計の自由度が向上する。ただし、分離管の管径が粒子径よりも大きい場合は、分離管の入口に微粒子の流出を阻む流出止め柱を形成すると、微粒子を分離槽に確実にとどめることができるので好ましい。
【0013】
また、微粒子が収容部に収容されることで、分離管の入口に微粒子が位置して分離槽から分離管への未反応物を含む溶液の送出を阻むなどの妨害が無く、分離効率が向上する。
本願第2発明は、第1発明において、前記微粒子は多孔性の微粒子である、マイクロチップを提供する。
多孔性の微粒子としては、例えば多孔質ビーズなどが挙げられる。多孔性の微粒子は、その内部及び/又表面の孔により表面積が大きく、より多くの抗原や抗体などの認識物質を固定化することが可能である。よって、反応効率を高めることができる。なお、多孔性の微粒子は、微粒子の内部に行くほど孔が狭まっていくため、抗原や抗体など認識物質は狭まった孔の奥には入り込めず、浸透液のみが内部に浸透して保持される。
【0014】
本願第3発明は、第1発明において、前記収容部の容積は、前記微粒子を最密充填した体積よりも大きい、マイクロチップを提供する。
収容部の大きさが微粒子を最密充填した場合よりも大きいため、微粒子を未反応物を含む溶液に浸漬させて収容することができる。よって、混合試料の遠心分離の際に、微粒子内の浸透液が流出するのを防止することができる。
【0015】
本願第4発明は、第1発明において、前記収容部は、前記微粒子が導入される開口と、前記遠心分離の中心からの距離が前記開口よりも遠くなる方向に形成された底部とを有する、マイクロチップを提供する。
遠心分離による遠心力は、収容部の開口から底部に沿う方向に働く。よって、微粒子及び混合試料は収容部に導入される。
【0016】
本願第5発明は、第1発明において、分離槽に連結されており、前記未反応物を含む溶液を送出する分離管をさらに含み、前記分離管は、前記遠心分離による遠心力方向に概ね沿って形成されている、マイクロチップを提供する。
微粒子は未反応物を含む溶液の一部に浸漬されて収容部に収容されるが、未反応物を含む溶液の残りは収容部からあふれ出て分離管から送出される。ここで、分離管が遠心力方向に概ね沿って形成されているため、未反応物を含む溶液を効率よく送出することができる。なお、分離管の入口に流出止め柱が形成されていると、マイクロチップの運搬時等に微粒子が分離槽から送出されるのを防止することができ好ましい。
【0017】
本願第6発明は、第1発明において、前記分離槽と同一槽内に一体形成された混合部をさらに含む、マイクロチップを提供する。
混合及び分離を同一槽内で効率よく行うことができる。例えば、混合試料の混合及び反応は第1回転方向にマイクロチップを回転させることで行い、分離は第1回転方向とは異なる第2回転方向にマイクロチップを回転させることで行うなど、混合反応と分離とを異なる回転方向で行う。
【0018】
本願第7発明は、前記本願第1発明に記載のマイクロチップの使用方法であって、第2回転方向に前記マイクロチップを回転させ、前記未反応物を含む溶液の一部と前記微粒子とを前記収容部に収容し、前記未反応物を含む溶液を前記混合試料から遠心分離する遠心分離ステップを含む、マイクロチップの使用方法を提供する。
第2回転方向の遠心力により、未反応物を含む溶液の一部と微粒子とが収容部に収容される。このとき、収容部内の微粒子は反応物を含む溶液の一部に浸漬されているため、微粒子に浸透した浸透液は微粒子から流出しない。よって、未反応物を含む溶液の濃度が浸透液により薄まらず、最終的にターゲットの濃度を正確に定量することができる。
【0019】
本願第8発明は、前記本願第6発明に記載のマイクロチップの使用方法であって、第1回転方向に前記マイクロチップを回転させ、前記混合部で前記混合試料を混合し反応させる混合ステップと、前記第1回転方向とは異なる第2回転方向に前記マイクロチップを回転させ、前記未反応物を含む溶液の一部と微粒子とを前記収容部に収容し、前記未反応物を含む溶液を前記混合試料から遠心分離する遠心分離ステップと、を含むマイクロチップの使用方法を提供する。
【0020】
異なる回転方向の遠心力を用いて、混合試料の混合及び反応と、混合試料からの未反応物を含む溶液の分離とを同一槽内で効率よく行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のマイクロチップを用いれば、測定対象の溶液が微粒子内の浸透液により薄まらず、最終的にターゲットの濃度を正確に定量することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<第1実施形態>
(1)マイクロチップの全体構成
図1は、第1実施形態に係るマイクロチップの平面図である。本発明が対象とするマイクロチップは、ターゲットを含む試料と認識物質が固定化された粒状担体(以下、微粒子という)との混合試料から未反応物を含む溶液を分離する工程において、遠心力を用いることを前提としている。
【0023】
第1実施形態に係るマイクロチップ20では、中心1及び中心2を中心とする回転により試料等の混合を行い、中心3を中心とする回転により混合試料から測定対象の溶液を取り出す。このマイクロチップ20は、次の構成要素を含む。
(a)導入口、導入流路
導入口21は、測定対象であるターゲットを含む試料をマイクロチップ20内に導入するための導入口である。その他、標識ターゲットが導入口21から導入されても良い。標識ターゲットとは、標識ターゲットの定量結果に基づいてターゲット量を定量するための標識物質であり、例えば発色物質との反応により発色する。
【0024】
ここで、ターゲットとは測定対象であり、ターゲットを含む試料としては生物学的サンプルがあり、例えば、全血、赤血球、白血球、血小板、血清、プラスマ、尿、脳脊髄液、腹水、その他の生物学的試料等が挙げられる。
導入流路21aは、中心1を中心としてマイクロチップ20を回転することにより、導入口21から導入された試料等を混合分離槽23に送出する。よって、導入流路21aは、中心1を中心とする回転により試料を混合分離槽23に導入可能なように形成されており、例えば導入口21から混合分離槽23に向かう方向が中心1を中心とする遠心力方向に概ね沿って形成されている。また、導入口21は導入流路21aよりも中心1側に配置され、後述の混合分離槽23は導入流路21aよりも中心1から離れるように配置される。
【0025】
なお、「遠心力方向に概ね沿って」とは、遠心力方向に平行な方向を含み、また遠心力方向に対して+90°〜−90°までの方向を含むものとする。
(b)混合分離槽
混合分離槽23は、導入流路21aに連結されており、混合部23aと収容部23bとを含む。混合分離槽23は、微粒子を含む溶液を予め保持している。混合部23aは、少なくとも微粒子を含む溶液と試料との混合試料を混合するための空間を提供する。また、収容部23bは、混合試料から測定対象の溶液を分離するための空間を提供する。図1の混合分離槽23では、混合部23aと収容部23bとが同一槽内に一体に形成されている。
【0026】
ここで、試料中のターゲットの定量方法としては、例えば、次に示す第1の定量方法と第2の定量方法とが挙げられる。第1の定量方法では、試料中のターゲットと反応する認識物質Aと、試料とを混合して反応させて、この認識物質Aにより標識されたターゲットを取り出して定量する。具体的に、第1の定量方法の場合には、混合分離槽23は、認識物質Aを認識する認識物質Bが固定化された微粒子を含む溶液を保持している。そして、予めターゲットを含む試料に過剰の認識物質Aを投入し、ターゲットと認識物質Aとを混合反応させておく。混合分離槽23には、この試料と過剰の認識物質Aとを含む溶液が導入され、中心1及び中心2と中心としてマイクロチップ20を回転することにより微粒子と混合反応される。このとき、ターゲットと反応しなかった認識物質Aは微粒子に捕捉されるが、認識物質Aとターゲットとの反応物質αは微粒子に捕捉されずに混合試料中に存在している。そして、後述の収容部23bにより反応物質αを含む溶液と微粒子とを分離する。ここで、第1の定量方法における混合試料とは、ターゲットを含む試料と、認識物質Aと、認識物質Bが固定化された微粒子とを含む溶液とを混合溶液である。
【0027】
一方、第2の定量方法では、ターゲット及び標識ターゲットを認識する認識物質Cを微粒子に固定化しておく。そして、ターゲットを含む試料中と、標識ターゲットを混合した溶液と、認識物質Cを担持する微粒子とを混合反応させると、ターゲット及び標識ターゲットの一部が微粒子に捕捉される。捕捉されなかった標識ターゲットを検出し、標識ターゲットの減少量からターゲットを定量する。具体的に、第2の定量方法の場合には、混合分離槽23は、認識物質Cが固定化された微粒子を含む溶液を保持している。そして、混合分離槽23には、ターゲットを含む試料と標識ターゲットとが導入され、微粒子と混合反応される。ここで、第2の定量方法における混合試料とは、ターゲットを含む試料と、標識ターゲットと、認識物質Cが固定化された微粒子とを含む溶液とを混合溶液である。
【0028】
なお、特許請求の範囲の第1認識物質は、ターゲットと反応する認識物質Aに相当するとともに、ターゲット及び標識ターゲットと反応する認識物質Cに相当する。また、特許請求の範囲の第2認識物質は、第1認識物質である認識物質Aを認識する認識物質Bに相当する。
また、混合分離槽23、特に混合分離槽23の混合部23aは、混合試料が流動可能な程度の大きさであれば良く、その形状は特に限定されない。ただし、図1に示すマイクロチップ20では、中心1及び中心2を中心とする回転により混合試料を混合するため、これらの回転により混合試料を十分に混合可能な形状であると好ましい。例えば、中心1を中心とする回転方向に沿って湾曲する底部と、中心2を中心とする回転方向に沿って湾曲する底部とを有するように形成されていると、混合試料を十分に混合できる。
【0029】
また、混合分離槽23の収容部23bは、混合試料中から微粒子との未反応物を遠心分離する際に、微粒子との未反応物を含む溶液の一部と微粒子とを収容する。ここで、遠心分離の際に収容部23bに収容された微粒子は、微粒子との未反応物を含む溶液に浸漬されている。収容部23bの容積は、全ての微粒子が収容部に収容可能な大きさに形成されており、例えば微粒子を最密充填した体積よりも大きく形成される。これにより、微粒子は、収容部23b内に収容されつつ未反応物を含む溶液の一部に浸漬される。なお、微粒子は収容部23b内に収容されつつ未反応物を含む溶液の一部に浸漬され、かつ未反応物を含む溶液の残りは分離管25から送出されるため、未反応物を含む溶液の溶液量は収容部の容積よりも多くなるように調整する必要がある。
【0030】
ここで、微粒子との未反応物の遠心分離は、中心3を中心としてマイクロチップ20を回転することにより行われる。よって、収容部23bは、中心3を中心とした回転により、微粒子及び未反応物を含む溶液の一部を収容しつつ、未反応物を含む溶液の残りを後述の分離管25から送出する形状となっている。例えば、混合部23aから混合試料が導入される開口Aよりも、中心3を中心とする回転の遠心力方向の外側に底部Bが形成されている。つまり、収容部23bの底部Bから中心3までの距離は、開口Aから中心3までの距離よりも長い。
【0031】
なお、混合部23aと収容部23bとは明確に区別出来なくても良く、混合部23a及び収容部23bを両方用いて混合試料の混合を行っても良い。
また、混合分離槽23はさらに試薬を保持し、試薬と混合試料とを混合しても良い。
(c)分離管
分離管25は、混合分離槽23に連結されており、混合分離槽23から微粒子との未反応物を含む溶液を送出する。上述の通り、微粒子及び未反応物を含む溶液の一部は収容部23bに収容され、未反応物を含む溶液の残りが収容部23bからあふれ出て分離管25から送出される。ここで、微粒子との未反応物の遠心分離は、中心3を中心とした回転により行われるため、分離管25は、中心3を中心とした回転による遠心力方向に概ね沿って形成されている。よって、未反応物を含む溶液を効率よく送出することができる。
【0032】
なお、混合分離槽23に連結されている導入流路21a及び分離管25の流路径は、微粒子の径よりも小さい径であると、マイクロチップ20の運搬時等に混合分離槽23に保持された微粒子が導入流路21a及び分離管25から送出されるのを防止することができ好ましい。さらに、導入流路21a及び分離管25の入口に流出止め柱を形成し、微粒子が混合分離槽23から流出されるのを防止しても良い。なお、導入流路21a及び分離管25と流出止め柱との間隔は、微粒子の径よりも小さくなるように調整されている。このように流出止め柱を形成する場合には、導入流路21a及び分離管25の流路径を微粒子の径よりも小さくする必要はない。
【0033】
(d)検出部
検出部27は、分離管25から送出された未反応物を含む溶液を検出するための空間であり、分離管25に連結されている。検出部27への未反応物を含む溶液の導入は、中心3を中心とする回転による遠心分離とともに行われる。検出部27の大きさ及び形状は特に限定されず、検出方法、試料、認識物質及び/又は試薬等の種類及び量等に応じて適宜設定することができる。このように、微粒子との未反応物を含む溶液を分離管25から直接、検出部27に導入することで、他の物質に干渉されることなく、バックグラウンドを低減することができる。よって、より精度の高い分析を行うことが可能となる。また、マイクロチップ20内に検出部27を一体に形成することで、混合・分離・検出を一連に行うことができ操作性が向上する。
【0034】
検出部27での検出方法としては、色素の発色強度を測定する光学的方法(比色法、蛍光法、散乱光法等)、電子の授受による電流値又は電圧値用を測定する電気化学的方法、電気的方法、放射性同位元素の強度を測定するラジオイムノアッセイ法、磁気による方法(例えば、標識に磁気ビーズを用いた場合)等の当該分野で公知のいずれの方法によっても行うことができる。
【0035】
光学的方法を用いる場合は、検出部27において、導入された測定対象に光を照射し、その光の通過、反射及び散乱光等を検出し得るように、光の入出射が可能な所定長さの光路を確保することができる形状及び大きさであることが好ましい。検出部27は、例えば、長さ1〜50mm程度で、断面積が0.1〜100mm2程度の一定形状を有しているものが利用される。
【0036】
また、検出部27に一対の電極を形成することで、電流又は電圧等の検出という簡便な方法によって、被検物質の分析を行うこともできる。従って、分析にかかる費用を低減させることができるとともに、より小型のバイオチップ及びより小型で安価な分析装置の使用を実現することができる。
(e)排出口
排出口29は、検出部27から測定対象の溶液、又は検出部27に未反応物を含む溶液を送出する際の空気を排出する。
【0037】
(2)微粒子
微粒子は、認識物質B又は認識物質Cなどの認識物質を担持する固定手段である。また、固定手段は、その内部に液体が浸透可能な微粒子であっても良いし、液体が浸透不可能な微粒子であっても良い。ただし、内部に浸透した浸透液を保持している固定手段であっても、本願を適用すればターゲットを正確に定量できる。ここでは、固定手段として微粒子を例に挙げているが、固定手段は微粒子に限定されない。また、固定手段は、認識物質を固定可能であり、認識物質の反応に影響を与えないものであれば特に限定されるものではなく、その形状、材質、量等は、ターゲットや標識ターゲットの種類等によって適宜調整することができる。例えば、固定の方法は、認識物質の反応に影響を与えないものであれば、物理的吸着、共有結合、イオン結合、架橋、静電相互作用等公知の方法のいずれかを利用することができる。
【0038】
また、固定手段の形状は、フィルター状、微粒子状等の形状の、多孔質体等、表面積を増大させ得る種々のもの、一般にバイオリアクター及びクロマトグラフィー等用の担体として使用されているもの等が挙げられる。微粒子状のものとしては、ガラスビーズ、ポリスチレン等のポリマービーズ、アガロース、デキストラン、キトサン、タンパク等の高分子化合物(ゲル)の微粒子、シリカ、金属等のビーズ、磁性ビーズ、さらに市販されている微粒子状の固体担体等のいずれかを用いることができる。その直径は、1mm程度以下のもの、10〜1mm程度のもの、100〜800μm程度のもの、200〜600μm程度のもの、200〜1mm程度のもの等が挙げられる。このように、固定手段として多孔性の微粒子等を用いると、その内部及び/又表面の孔により表面積が大きくなるため、より多くの抗原や抗体などの認識物質を固定化することが可能である。よって、反応効率を高めることができる。なお、多孔性の微粒子は、微粒子の内部に行くほど孔が狭まっていくため、抗原や抗体など認識物質は狭まった孔の奥には入り込めず、浸透液のみが内部に浸透して保持される。
【0039】
固定手段に固定化される、認識物質B及び認識物質Cなどの認識物質としは、抗原や抗体が挙げられる。ここで、認識物質Bは、認識物質Aと反応するが、ターゲットと反応しない物質であり、またターゲットと認識物質Aとの反応物質αとも反応しない物質である。なお、認識物質Bと反応する認識物質Aは、ターゲットと反応するとともに認識物質Bとも反応する。また、認識物質Cは、ターゲット及び標識ターゲットと反応する物質である。なお、標識ターゲットとターゲットとは反応しない。
【0040】
以下では、固定手段として多孔質の微粒子を例に挙げて説明する。
図2(a)は微粒子への認識物質の固定方法の一例を示す模式図、図2(b)は認識物質を担持しつつ、内部に浸透液を保持している微粒子を示す模式図である。図2(a)に示すように、認識物質を含む溶液中に微粒子31を浸漬して認識物質と微粒子とを接触させ、微粒子31に認識物質を固定化する。ここで、キトパール(富士紡績株式会社製:登録商標)などの多孔質の微粒子は、図2(b)に示すように、微粒子の中央部にいくほど孔31aの大きさが小さくなり認識物質は中央部には入り込めない。よって、認識物質は微粒子の表面近くに固定化され、微粒子の中央部には径の小さな水などの溶媒のみ、つまり浸透液のみが入り込み保持される。
【0041】
なお、認識物質が固定化された微粒子を混合分離槽23に予め保持していても良いが、認識物質が固定化されていない微粒子を混合分離槽23に保持しておいても良い。認識物質が固定化されていない微粒子が保持されている場合は、認識物質を混合分離槽23内に導入して微粒子に認識物質を固定化する処理を行う。ただし、微粒子の固定化の調整が困難な場合には、予め認識物質が固定化された微粒子を混合分離槽23内に保持しているのが好ましい。
【0042】
(3)マイクロチップの使用方法及び反応プロセス
次に、マイクロチップの使用方法及び反応プロセスについて説明する。
(3−1)第1の定量方法
図3(a)〜(e)はマイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例であり、図4(a)〜(c)は第1の定量方法での反応プロセスを示す模式図である。以下に、第1の定量方法を例に挙げてマイクロチップの使用方法及び反応プロセスについて説明する。
【0043】
まず、図4(a)に示すように、ターゲットを含む試料と、過剰の認識物質Aとを混合して反応させた溶液を準備する。認識物質Aはターゲットと反応して反応物質αが生成されるが、過剰に投入されているため溶液中には未反応の認識物質Aが存在している。この溶液を導入口21に導入する。認識物質Aは、ターゲットと反応するとともに認識物質Bとも反応するため、試料と認識物質Aとは混合分離槽23に導入する前に予め混合して反応させておくのが好ましい。
【0044】
ここで、混合分離槽23には、認識物質Bが固定化された微粒子を含む溶液が保持されている。
次に、図3(a)に示すように、中心1と中心としてマイクロチップ20を回転し、導入口21から導入流路21aを介して、試料と認識物質Aとを混合して反応させた溶液を混合分離槽23に導入する。このとき、中心1とする回転によりg1方向の遠心力が溶液に印加されている。さらに、図3(b)に示すように、引き続き中心1を中心とする回転により、認識物質Bが固定化された微粒子と、試料及び認識物質Aを混合反応させた溶液と、の混合試料を混合して混合分離槽23内で反応させる。そして、図3(c)及び図3(d)に示すように、中心2及び中心1を中心としてマイクロチップ20に異なる方向の遠心力を働かせることで、混合試料をさらに混合して反応させる。中心2を中心とする回転では、g1方向とは異なるg2方向に遠心力が働く。混合分離槽23は中心2を中心とする回転方向に沿って湾曲した底部を有しており、この底部に混合試料が移動することで混合試料のさらなる混合反応が促進される。このような図3(a)〜図3(d)の操作により、図4(b)に示すように、ターゲットと反応しなかった未反応の認識物質Aと、微粒子に固定化された認識物質Bと、が反応する。つまり、認識物質Aは、認識物質Bとの反応により微粒子に捕捉される。よって、混合反応後の混合分離槽23内には、微粒子と、微粒子とは未反応の反応物質αと、を含む溶液が存在している。なお、混合反応後の微粒子は、認識物質Bとの反応により認識物質Aを捕捉しているか、及び/又は認識物質Aを捕捉せず認識物質Bのみを担持している。
【0045】
次に、図3(e)に示すように、中心3を中心とする回転により、未反応の反応物質αを含む溶液を混合試料から遠心分離する。中心3を中心とする回転により、g3方向に遠心力が働き、未反応物を含む溶液の一部と微粒子とが収容部23bに収容される。このとき、収容部23bには、認識物質Bとの反応により認識物質Aを捕捉している微粒子、認識物質Bのみを担持している微粒子を含む全ての微粒子が収容される。よって、図3(e)の遠心分離により、微粒子との未反応物質、つまりターゲットと認識物質Aとの反応物質αを含む溶液が分離管25を介して検出部27に導入される。
【0046】
最後に、図4(c)に示すように、例えば反応物質αを含む溶液と発色物質とを混合し、吸光度測定により得られた結果を換算することで、試料中のターゲットの定量を行う。
(3−2)第2の定量方法
次に、第2の定量方法を例に用いた反応プロセスについて、図5及び図3を用いて説明する。図5(a)〜(c)は第2の定量方法での反応プロセスを示す模式図である。
【0047】
まず、図5(a)に示すように、ターゲットを含む試料と、標識ターゲットとを混合した溶液を準備する。そして、図3(a)に示すように、この溶液を導入口21に導入する。ここで、標識ターゲットとは、標識ターゲットの定量結果に基づいてターゲット量を定量するための標識物質であり、ターゲットとは反応せず、認識物質Cと反応する。また、ここで、混合分離槽23には、認識物質Cが固定化された微粒子を含む溶液が保持されている。認識物質Cは、ターゲット及び標識ターゲットと反応する。
【0048】
そして、図3(a)〜図3(d)の工程により、ターゲットと、標識ターゲットと、微粒子とを含む混合試料を混合反応させる。その結果、図5(b)に示すように、認識物質Cにより、ターゲット及び標識ターゲットの一部が微粒子に捕捉される。このとき、混合試料中には、微粒子に捕捉されなかったターゲット及び標識ターゲットが存在している。
次に、図3(e)の工程により、微粒子との未反応物、つまりターゲット及び標識ターゲットを混合試料から遠心分離し、検出部27に導入する。
【0049】
最後に、図5(c)に示すように、例えばターゲット及び標識ターゲットを含む溶液と発色物質とを混合し、吸光度測定により溶液中の標識ターゲットの量を定量する。そして、標識ターゲットの減少量から、試料中のターゲットの定量を行う。
(4)浸透液の流出による影響
次に、微粒子内に保持されている浸透液が流出した場合の影響について、図4及び図6を用いて説明する。図6(a)は微粒子が浸透液を保持している場合の混合試料の量を示す説明図、図6(b)は微粒子が浸透液を保持していない場合の混合試料の量を示す説明図である。
【0050】
図4(a)及び図4(b)に示すように、認識物質Bが固定化され、浸透液を保持している微粒子を含む溶液の溶液量がXmlで、試料と認識物質Aとを含む溶液の溶液量がYmlであるので、これらの混合試料の溶液量は(X+Y)mlとなる。よって、図6(a)に示すように、微粒子が浸透液を保持したままであると、混合試料の溶液量は(X+Y)mlのままである。しかし、図6(b)に示すように、微粒子内から浸透液が流出すると、混合試料の溶液量は(X+Y)mlよりも多くなる。ここで、微粒子内の浸透液の液量をΔVmlとすると、混合試料の溶液量は{(X+Y)+ΔV}mlとなる。このように溶液量が増加すると、反応物質αを含む溶液の濃度が薄まり、結果として試料中のターゲットの定量を正確に行うことができなくなる。
【0051】
しかし、本発明の上記の構成を用いれば、微粒子及び反応物質αを含む溶液の一部は収容部23bに収容される。このとき、収容部23b内の微粒子は、反応物質αを含む溶液の一部、つまり微粒子との未反応物を含む溶液の一部に浸漬されているため、微粒子に浸透した浸透液は微粒子から流出しない。なお、微粒子内部から浸透液が流出することはあるが、未反応物を含む溶液から常に補充され、微粒子内の浸透液が無くなることはない。よって、未反応物を含む溶液の溶液量は見かけ上一定となる。そのため、未反応物を含む溶液の濃度が浸透液により薄まらず、最終的にターゲットの濃度を正確に定量することができる。
【0052】
ここで、浸透液は、微粒子の調製に用いる認識物質Aを含む溶液の溶媒及び/又は混合試料の溶媒などであり、例えば水などである。
(5)比較結果
次に、微粒子内部の浸透液が流出する場合と流出しない場合との比較を行う。図7(a)は微粒子が収容部23bに収まりきっていない場合を示す模式図、図7(b)は微粒子が収容部23bに収まりきっている場合を示す模式図である。
【0053】
図7(a)及び図7(b)のそれぞれの場合について、収容部23bを用いて遠心分離する前の溶液濃度と、収容部23bを用いて遠心分離した後の溶液濃度とを測定した。遠心分離前と遠心分離後との比較結果を表1に示す。なお、溶液濃度は、溶液の酵素反応速度で評価した。
【0054】
【表1】
図7(a)の場合、微粒子が収容部23bに収容しきれておらず、一部の微粒子は未反応物を含む溶液に浸漬していない。そのため、中心3を中心とする遠心分離により、未反応物を含む溶液に浸漬していない微粒子内部から浸透液が流出する。よって、図7(a)の場合には、表1に示すように遠心分離後の溶液の濃度は、遠心分離前の溶液の濃度よりも薄くなる。一方、図7(b)の場合、微粒子が収容部23bに収容され、未反応物を含む溶液に浸漬している。そのため、中心3を中心とする回転によっても浸透液は流出しない。よって、図7(b)の場合には、表1に示すように遠心分離後の溶液の濃度は、遠心分離前の溶液の濃度とほぼ同じとなる。
【0055】
(6)作用効果
本発明に係るマイクロチップの混合分離槽23は収容部23bを有しており、混合試料から未反応物を含む溶液を遠心分離する際に、未反応物を含む溶液の一部と微粒子とが収容部23bに収容される。このとき、収容部23b内の微粒子は未反応物を含む溶液の一部に浸漬されているため、微粒子に浸透した浸透液は微粒子から流出しない。よって、未反応物を含む溶液の濃度が浸透液により薄まらず、最終的にターゲットの濃度を正確に定量することができる。
【0056】
また、微粒子の浸透液は、微粒子の孔の表面張力や毛細管力等により微粒子内部にとどまろうとする。そのため、微粒子の浸透液は、微粒子の外表面近傍の未反応物を含む溶液が遠心分離により抽出された後に、混合分離槽23から送出されることとなる。しかし、本発明の収容部23bにより浸透液が微粒子に保持されるので、分離抽出の時間経過とともに、未反応物を含む溶液の濃度が浸透液の流出により不均一になるのを防止することができる。これにより、全ての未反応物を含む溶液を抽出して均一になるまで待機することなく、最初に抽出された未反応物を含む溶液を用いて早期に濃度を測定可能である。
【0057】
また、収容部23bに微粒子が収容されるため、混合分離槽23に接続される分離管25に微粒子が流出しない。よって、分離管25の管径よりも小さな径の微粒子を用いても、微粒子の流出の心配が無い。このように小さな径の微粒子を用いると微粒子の表面積が大きくなるため、少ない量の微粒子により効率よく反応を行わせ、分離効率を高めることができる。また、分離管25の管径を微粒子径よりも小さく設計する必要が無いため、チップの設計の自由度が向上する。
【0058】
また、微粒子が収容部23bに収容されることで、分離管25の入口に微粒子が位置して分離槽から分離管への未反応物を含む溶液の送出を阻むなどの妨害が無く、分離効率が向上する。
<第2実施形態>
図8は第2実施形態に係るマイクロチップの平面図、図9(a)〜(c)はマイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例である。第2実施形態に係るマイクロチップ40は、第1実施形態に係るマイクロチップ20に、遠心分離管及び試薬保持部をさらに設けている。
【0059】
第2実施形態に係るマイクロチップ40では、例えば、中心1によりターゲットを含む試料を遠心分離し、中心2及び中心3を中心とする回転により混合試料の混合を行い、中心1と中心とする回転により混合試料から測定対象の溶液を取り出す。このマイクロチップ40は、次の構成要素を含む。
(a)導入口、遠心分離管、溜部
導入口41は、測定対象であるターゲットを含む試料をマイクロチップ40内に導入するための導入口であり、遠心分離管43の一端に形成されている。その他、標識ターゲットが導入口21から導入されても良い。
【0060】
遠心分離管43及び溜部45は、導入口41から導入された試料から、測定を阻害するような不要な物質を取り除く。遠心分離管43はV字状に形成されており、V字の底部に溜部45が連結されている。ここで、遠心分離管43及び溜部45での遠心分離は、中心1を中心とする回転により行われる(図9(a)参照)。よって、V字状の遠心分離管43は中心1側に開きを有し、中心1から離れる側にV字の底部が位置するように配置される。
【0061】
例えば、図9(a)に示すように、導入口41から血液を導入し、中心1を中心とする回転により、血球成分を溜部45に導入させると、遠心分離管43には血漿成分が分離される。
(b)導入流路
導入流路47は、遠心分離管の他端に連結されている。中心1を中心とする回転により遠心分離管43内に遠心分離された試料は、中心2を中心とする回転により、導入流路47を介して混合分離槽53に導入される(図9(b)参照)。ここで、導入流路47は、中心2を中心とする回転の遠心力方向に概ね沿って形成されると、遠心分離管43内の試料を効率よく混合分離槽53に導入することができる。
【0062】
(c)試薬保持部、試薬導入路
試薬保持部49は混合分離槽53に導入される試薬を保持しており、試薬導入路49aは試薬保持部49と混合分離槽53とを連結しており、試薬を混合分離槽53に導入する。試薬保持部49内の試薬は、図9(a)の中心1を中心とする回転の場合には試薬保持部49内に保持される。そして、中心2を中心とする回転により、ターゲットを含む試料が導入流路47を介して混合分離槽53に導入されるのと同時に、試薬保持部49から混合分離槽53に導入される(図9(b)参照)。よって、中心1を中心とする回転により試薬が流出しないように、試薬導入路49aと試薬保持部49との連結部分は、混合分離槽53と試薬導入路49aとの連結部分よりも中心1側になるように形成されている。また、試薬保持部49は、中心1を中心とする回転により試薬が流出しないように、試薬導入路49aとの連結部分よりも中心1から離隔した部分で試薬を保持可能なように形成されている。さらに、試薬保持部49は、中心2を中心とする回転により試薬が流出可能なように、試薬導入路49aよりも中心2側に形成される。
【0063】
(d)混合分離槽、分離管、検出部、排出口
混合部53a及び収容部53bを有する混合分離槽53、分離管55、検出部57及び排出口59は、第1実施形態の混合分離槽23、分離管25、検出部27及び排出口29と以下の点を除いて同様の構成である。
中心2を中心とする回転により試薬及び試料が導入された後、さらに中心3と中心として回転することにより、混合分離槽53内の混合試料が混合反応される(図9(b)参照)。混合分離槽53は、中心2を中心とする回転方向に沿って湾曲する底部を有するように形成されていると、混合試料を十分に混合できる。
【0064】
また、微粒子との未反応物の混合試料からの遠心分離は、中心1を中心としてマイクロチップ40を回転することにより行われる(図9(c)参照)。よって、収容部53bは、中心1を中心とした回転により、微粒子及び未反応物を含む溶液の一部を収容しつつ、未反応物を含む溶液の残りを後述の分離管55から送出する形状となっている。収容部53bは、例えば、混合部53aから混合試料が導入される開口Cよりも、中心1を中心とする回転の遠心力方向の外側に底部Dが形成されている。つまり、収容部53bの底部Dから中心1までの距離は、開口Cから中心1までの距離よりも長い。
【0065】
分離管55から微粒子との未反応物を送出する工程は、中心1を中心とした回転により行われるため、分離管55は、中心1を中心とした回転による遠心力方向に概ね沿って形成されている。よって、未反応物を含む溶液を効率よく送出することができる。
検出部57への未反応物を含む溶液の導入は、中心1を中心とする回転により行われる。
【0066】
混合分離槽53、分離管55、検出部57及び排出口59のその他の構成は、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
この第2実施形態のマイクロチップ40は、第1実施形態のマイクロチップ20と同様の作用効果を奏する。
<第3実施形態>
図10は第3実施形態に係るマイクロチップの平面図、図11(a)〜(d)はマイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例である。第3実施形態に係るマイクロチップ40は、第1実施形態に係るマイクロチップ20に、計量部、試薬保持部及び混合槽をさらに設けている。
【0067】
第3実施形態に係るマイクロチップ60では、例えば、中心1を中心とする回転により混合試料の混合を行い、中心2と中心とする回転により混合試料から測定対象の溶液を分離して計量し、中心3と中心とする回転により試薬と測定対象の溶液との混合を行う。このマイクロチップ60は、次の構成要素を含む。
(a)導入口、混合分離槽
導入口61は、測定対象であるターゲットを含む試料をマイクロチップ60内に導入するための導入口である。混合部63a及び収容部63bを含む混合分離槽63は、第1実施形態の混合分離槽23と次の点を除いて同様の構成である。
【0068】
導入口61に導入された試料は、中心1を中心とする回転により混合分離槽63に導入される。そして、さらに中心1を中心とする回転により、予め混合分離槽63内に保持されている微粒子を含む溶液と、試料と、を含む混合試料が混合される(図11(a)参照)。混合分離槽63は、中心1を中心とする回転方向に沿って湾曲する底部を有するように形成されていると、混合試料を十分に混合できる。
【0069】
また、微粒子との未反応物の混合試料からの遠心分離は、中心2を中心としてマイクロチップ60を回転することにより行われる(図11(b)参照)。よって、収容部63bは、中心2を中心とした回転により、微粒子及び未反応物を含む溶液の一部を収容しつつ、未反応物を含む溶液の残りを後述の導入路65から送出する形状となっている。例えば、混合部63aから混合試料が導入される開口Eよりも、中心2を中心とする回転の遠心力方向の外側に底部Fが形成されている。つまり、収容部63bの底部Fから中心1までの距離は、開口Eから中心1までの距離よりも長い。
【0070】
混合分離槽63のその他の構成は、第1実施形態の混合分離槽23と同様であるので説明を省略する。
(b)導入路、計量部、廃液溜
導入路65は、中心2を中心とする回転により混合試料から分離された、微粒子との未反応物を含む溶液を計量部67に導入する(図11(b)参照)。導入路65から未反応物を含む溶液を送出する工程は、中心2を中心とした回転により行われるため、導入路65は、中心2を中心とした回転による遠心力方向に概ね沿って形成されている。よって、未反応物を含む溶液を効率よく送出することができる。
【0071】
計量部67は、導入路65と連結されており、中心2を中心とする回転により微粒子との未反応物を含む溶液が導入される。このとき、計量部67からあふれ出た溶液は、廃液溜69に導入され保持される。よって、計量部67により、所定量の溶液を計量することができる。ここで、計量部67の導入路65に連結された端部は、計量部67の底部Gよりも中心2側に位置する。同様に、計量部67の廃液溜69に連結される端部は、底部Gよりも中心2側に位置する。また、廃液溜69は、計量部67が連結される端部よりも中心2から離れた位置に配置される。なお、計量部67内の溶液が廃液溜69に流出されすぎないようにするために、空気孔67aを設けても良い。
【0072】
(c)導入路
導入路71は、計量部67と混合槽77とを連結している。そして、計量部67で計量された、微粒子との未反応物を含む溶液を、中心3を中心とする回転により計量部67から混合槽77に導入する(図11(c)参照)。導入路71は、中心3を中心とする回転の遠心力方向に概ね沿って形成されていると、効率よく計量部67から混合槽77に未反応物を含む溶液を導入できる。また、中心2を中心とする回転により、混合分離槽63から導入路71を介して混合槽77に未反応物を含む溶液が導入されないように、導入路71と混合槽77との連結部分は、導入路71と導入路65との連結部分よりも中心2側に形成されている。
【0073】
(d)試薬保持部、試薬導入路
試薬保持部73a、73bは試薬を保持しており、試薬導入路75は試薬保持部73bと混合槽77とを連結しており、試薬を混合槽77に導入する。試薬保持部73a内の試薬は、図11(a)の中心1を中心とする回転の場合には試薬保持部73a内に保持される。そして、図11(b)の中心2を中心とする回転により、試薬保持部73aから試薬保持部73bに導入される。そして、中心3を中心とする回転により、計量部67から未反応物を含む溶液が混合槽77に導入されるのと同時に、試薬保持部73bから混合分離槽63に導入される(図11(c)参照)。よって、試薬導入路75と試薬保持部73bとの連結部分は、試薬導入路75と混合槽77との連結部分よりも中心3側になるように形成されている。また、試薬保持部73bは、中心2を中心とする回転により試薬が流出しないように、試薬導入路75との連結部分よりも中心2から離隔した部分で試薬を保持可能なように形成されている。さらに、試薬保持部73bは、中心3を中心とする回転により試薬が流出可能なように、試薬導入路75よりも中心3側に形成される。
【0074】
(e)混合槽、導入路、検出部
混合槽77には、中心3を中心とする回転により、計量された未反応物を含む溶液及び試薬が導入される。そして、混合槽77は、中心3を中心とするさらなる回転により、未反応物を含む溶液及び試薬を混合する(図11(c)参照)。
導入路79は、混合槽77及び検出部81に連結されており、混合槽77で混合された溶液を、中心2を中心とする回転により検出部81に導入する(図11(d)参照)。
【0075】
検出部81及び排出口83のその他の構成は、第1実施形態例の検出部27及び排出口29と同様であるので説明を省略する。
この第3実施形態のマイクロチップ60は、第1実施形態のマイクロチップ20と同様の作用効果を奏する。
<その他の実施形態例>
(1)
上記実施形態では、混合分離槽内に収容部と混合部とが一体に形成されているが、微粒子を含む溶液とターゲットを含む試料との混合試料の混合を行う混合槽と、混合試料から未反応物を含む溶液を分離する分離槽とが別々に形成されていても良い。例えば、混合槽と分離槽とがマイクロ流路により連結されており、混合槽で混合された混合試料をマイクロ流路を介して分離槽に導入するようにしても良い。
【0076】
(2)
上記実施形態では、微粒子を含む溶液が予め混合分離槽に保持されており、この混合分離槽23内に試料等を導入する。しかし、分析・定量の際に混合分離槽内に微粒子を含む溶液を導入し、その後試料等を導入するようにしても良い。また、微粒子を含む溶液と試料との混合試料を混合分離槽に導入しても良い。また、第2の定量方法の場合には、試料と標識ターゲットとを別々に混合分離槽に導入しても良いし、混合した後に混合分離槽内に導入しても良い。
【0077】
(3)
上記の微粒子には、認識物質B又は認識物質Cを固定化することにより、第1又は第2の定量方法によりターゲットの定量を行っている。しかし、ターゲットの定量方法は、浸透液を保持させたまま微粒子を混合試料から取り除き、残りの溶液からターゲットを定量できる定量方法であれば良く、上記方法に限定されない。
【0078】
(4)
試薬保持部、混合分離槽、分離管、検出部及び排出口等の形状及び配置は、混合・分離等の工程が適切に行われれば上記実施形態に限定されない。また、その他の構成を本発明の混合分離槽に適用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のマイクロチップは、医療、食品、創薬などの分野で使用される臨床分析チップ、環境分析チップ、遺伝子分析チップ、タンパク質分析チップ、糖鎖チップ、クロマトグラフチップ、細胞解析チップ、製薬スクリーニングチップ、バイオセンサなどに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】第1実施形態に係るマイクロチップの平面図。
【図2】(a)微粒子への認識物質の固定方法の一例を示す模式図。 (b)認識物質を担持しつつ、内部に浸透液を保持している微粒子を示す模式図。
【図3】(a)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(1)。
【0081】
(b)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(2)。
(c)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(3)。
【図4】(a)第1の定量方法での反応プロセスを示す模式図(1)。 (b)第1の定量方法での反応プロセスを示す模式図(2)。
【0082】
(c)第1の定量方法での反応プロセスを示す模式図(3)。
【図5】(a)第1の定量方法での反応プロセスを示す模式図(1)。 (b)第1の定量方法での反応プロセスを示す模式図(2)。 (c)第1の定量方法での反応プロセスを示す模式図(3)。
【図6】(a)浸透液が保持されている場合の混合試料の量を示す説明図。
【0083】
(b)浸透液が保持されていない場合の混合試料の量を示す説明図で。
【図7】(a)微粒子が収容部23bに収まりきっていない場合を示す模式図。 (b)微粒子が収容部23bに収まりきっている場合を示す模式図。
【図8】第2実施形態に係るマイクロチップの平面図。
【図9】(a)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(1)。
【0084】
(b)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(2)。
(c)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(3)。
【図10】第3実施形態に係るマイクロチップの平面図。
【図11】(a)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(1)。
【0085】
(b)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(2)。
(c)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(3)。
(d)マイクロチップの使用方法を順に示すフローチャートの一例(4)。
【図12】特許文献1のマイクロチップを示す平面図。
【図13】特許文献2のマイクロチップを示す平面図。
【符号の説明】
【0086】
20、40、60:マイクロチップ
21、41、61:導入口
21a:導入流路
23、53、63:混合分離槽
23a、53a、63a:混合部
23b、53b、63b:収容部
25:分離管
27、57:検出部
29、59:排出口
43:遠心分離管
45:溜部
47:導入流路
49、73a、73b:試薬保持部
67:計量部
69:廃液溜
77:混合槽
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のターゲットを認識する第1認識物質または前記第1認識物質を認識する第2認識物質を担持する、液体が浸透可能な微粒子と、前記試料とを混合して反応させた混合試料を処理するマイクロチップであって、
前記微粒子に担持された第1認識物質又は第2認識物質との未反応物を含む溶液(以下、単に未反応物を含む溶液という)を前記混合試料から遠心分離する際に、前記未反応物を含む溶液の一部と前記微粒子とを収容する収容部を有する分離槽を含む、マイクロチップ。
【請求項2】
前記微粒子は多孔性の微粒子である、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記収容部の容積は、前記微粒子を最密充填した体積よりも大きい、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記収容部は、前記微粒子が導入される開口と、前記遠心分離の中心からの距離が前記開口よりも遠くなる方向に形成された底部とを有する、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項5】
分離槽に連結されており、前記未反応物を含む溶液を送出する分離管をさらに含み、
前記分離管は、前記遠心分離による遠心力方向に概ね沿って形成されている、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記分離槽と同一槽内に一体形成された混合部をさらに含む、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記請求項1に記載のマイクロチップの使用方法であって、
第2回転方向に前記マイクロチップを回転させ、前記未反応物を含む溶液の一部と前記微粒子とを前記収容部に収容し、前記未反応物を含む溶液を前記混合試料から遠心分離する遠心分離ステップを含む、マイクロチップの使用方法。
【請求項8】
前記請求項6に記載のマイクロチップの使用方法であって、
第1回転方向に前記マイクロチップを回転させ、前記混合部で前記混合試料を混合し反応させる混合ステップと、
前記第1回転方向とは異なる第2回転方向に前記マイクロチップを回転させ、前記未反応物を含む溶液の一部と微粒子とを前記収容部に収容し、前記未反応物を含む溶液を前記混合試料から遠心分離する遠心分離ステップと、
を含む、マイクロチップの使用方法。
【請求項1】
試料中のターゲットを認識する第1認識物質または前記第1認識物質を認識する第2認識物質を担持する、液体が浸透可能な微粒子と、前記試料とを混合して反応させた混合試料を処理するマイクロチップであって、
前記微粒子に担持された第1認識物質又は第2認識物質との未反応物を含む溶液(以下、単に未反応物を含む溶液という)を前記混合試料から遠心分離する際に、前記未反応物を含む溶液の一部と前記微粒子とを収容する収容部を有する分離槽を含む、マイクロチップ。
【請求項2】
前記微粒子は多孔性の微粒子である、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記収容部の容積は、前記微粒子を最密充填した体積よりも大きい、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記収容部は、前記微粒子が導入される開口と、前記遠心分離の中心からの距離が前記開口よりも遠くなる方向に形成された底部とを有する、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項5】
分離槽に連結されており、前記未反応物を含む溶液を送出する分離管をさらに含み、
前記分離管は、前記遠心分離による遠心力方向に概ね沿って形成されている、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記分離槽と同一槽内に一体形成された混合部をさらに含む、請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記請求項1に記載のマイクロチップの使用方法であって、
第2回転方向に前記マイクロチップを回転させ、前記未反応物を含む溶液の一部と前記微粒子とを前記収容部に収容し、前記未反応物を含む溶液を前記混合試料から遠心分離する遠心分離ステップを含む、マイクロチップの使用方法。
【請求項8】
前記請求項6に記載のマイクロチップの使用方法であって、
第1回転方向に前記マイクロチップを回転させ、前記混合部で前記混合試料を混合し反応させる混合ステップと、
前記第1回転方向とは異なる第2回転方向に前記マイクロチップを回転させ、前記未反応物を含む溶液の一部と微粒子とを前記収容部に収容し、前記未反応物を含む溶液を前記混合試料から遠心分離する遠心分離ステップと、
を含む、マイクロチップの使用方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−212263(P2007−212263A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31836(P2006−31836)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
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