説明

マイクロチップ

【課題】2種類以上の流体を取り扱うマイクロチャネルを有するマイクロチップにおいて、流体を効率的に混合できるマイクロミキサーを実装したマイクロチップを提供する。
【解決手段】2本以上の支流マイクロチャネルと、これら支流マイクロチャネルが合流するマイクロチャネルを有するマイクロチップにおいて、合流マイクロチャネルの適所に1本以上のマイクロミキサーが挿入されており、該マイクロミキサーは厚さの異なる2枚のシート部材からなり、厚さの厚いシート部材には1個以上の凹部と、凹部に連通する空気流路が配設され、厚さの薄いシート部材は前記厚さの厚いシート部材の前記溝及び凹部を遮蔽するように前記厚さの厚いシート部材の表面に接着されており、薄いシート部材の厚さ対前記凹部の底部厚さの比が1:2〜1:10の範囲内であり、前記凹部の深さ(D)は前記凹部の底部厚さの1.3倍〜5倍の範囲内であることを特徴とするマイクロチップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝子解析などの化学/生化学分析などに広く使用されるマイクロ流体制御機構付マイクロチップに関する。更に詳細には、本発明は2種類の流体を取り扱うマイクロチャネル内で流体を混合するためのマイクロミキサーを実装したマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、マイクロ・トータル・アナリシス・システムズ(μTAS)又はラブ・オン・チップ(Lab-on-Chip)などの名称で知られるように、基板内にマイクロチャネルや反応容器及びポートなどの微細構造を設け、該微細構造内で物質の化学反応、合成、精製、抽出、生成及び/又は分析など各種の操作を行うように構成されたマイクロデバイスが提案され、一部実用化されている。このような目的のために製作された、基板内にマイクロチャネル、ポート及び反応容器などの微細構造を有する構造物は総称して「マイクロチップ」又は「マイクロ流体デバイス」と呼ばれる。マイクロチップは遺伝子解析、臨床診断、薬物スクリーニングなどの化学、生化学、薬学、医学、獣医学分野のみならず、化学工業、環境計測などの幅広い用途に使用できる。常用サイズの同種の装置に比べて、マイクロチップは(1)サンプル及び試薬の使用量が著しく少ない、(2)分析時間が短い、(3)感度が高い、(4)現場に携帯し、その場で分析できる、及び(5)使い捨てできるなどの利点を有する。
【0003】
従来のマイクロチップの一例として、2種類の流体を取り扱うマイクロチップが使用されている。このようなマイクロチップ100は例えば、図9に示されるように、Y字形の個別マイクロチャネル102と104の他、合流するマイクロチャネル106を有する。個別マイクロチャネル102の端部には大気に向かって開口するポート110が配設され、個別マイクロチャネル104の端部には大気に向かって開口するポート112が配設され、合流マイクロチャネル106の端部には大気に向かって開口するポート114が配設されている。ポート110〜114の主な用途は、(a)試薬や検体サンプルの注入(分注)、(b)廃液や生成物の取り出し、(c)気体圧力の供給(主に、送液のための正圧や負圧の印加)、(d)大気開放(送液時に発生する内圧の分散や、反応で生じたガスの解放)及び(e)密閉(液体の蒸発防止や故意に内圧を発生させる目的のため)などである。
【0004】
図10は、図9に示されるようなY字形のマイクロチャネルに2種類の流体を流した状態を示す概念図である。ポート110から液体Aを注入しマイクロチャネル102から合流マイクロチャネル106に流し、一方、ポート112から液体Bを注入しマイクロチャネル104から合流マイクロチャネル106に流す。しかし、Y字形のマイクロチャネルなどの微細構造内で発生させた流体の流れは、乱流や剥離が発生せず層流となることが一般的である。従って、2種類の流体をそれぞれのマイクロチャネルから流して別のマイクロチャネル内で合流させても、それぞれの層流の間に界面108が形成される。一般的に、界面間の混合は分子拡散により行われる。合流マイクロチャネル106の距離が短いと2種類の流体は殆ど混合されることなくポート114に至ってしまう。従って、2種類の流体をこの界面108を通して混合させようとしても、分子拡散はなかなか進行せず、十分に混合されるには長い距離の合流マイクロチャネル106が必要となり、実用性に欠ける。従って、Y字形のマイクロチャネルを有するマイクロチップにおいては、何らかの効果的なマイクロミキサーが必要となる。
【0005】
このようなマイクロミキサーの一例として、図11に示されるように、Y字形のマイクロチャネルのうち、マイクロチャネル102とマイクロチャネル104の途中にアクティブバルブ116及び118を配設して2液を混合するマイクロミキサーが非特許文献1の297頁に記載されている。このマイクロミキサーでは、一方のアクティブバルブ(例えば、116)を開き、他方のアクティブバルブ(例えば、118)を閉じ、2種類の流体の流量を交互に変化させ、平面的に2種類の流体の界面108’を増加させるようにして混合する。しかし、このマイクロミキサーでは界面は増加するが明確な乱流は発生しないので、混合効率はさほど高くない。このような目的のために申し分なく使用できるマイクロミキサーの開発が強く求められている。
【0006】
【非特許文献1】化学とマイクロ・ナノシステム研究会監修,北森武彦ほか編,「マイクロ化学チップの技術と応用」,丸善株式会社(2004年9月発行),293頁〜297頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、2種類以上の流体を取り扱うマイクロチャネルを有するマイクロチップにおいて、各流体を効率的に混合することができるマイクロミキサーを実装したマイクロチップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としての請求項1の発明は、上面基板と下面基板とからなり、両基板の間に配設された2本以上の支流マイクロチャネルと、これら支流マイクロチャネルが合流する合流マイクロチャネルを有するマイクロチップにおいて、
前記合流マイクロチャネルの適所に1本以上のマイクロミキサーが挿入されており、
該マイクロミキサーは厚さの異なる2枚以上のシート部材からなり、厚さの厚いシート部材には1個以上の凹部と、該凹部に連通する空気流路が配設されており、厚さの薄いシート部材は、前記厚さの厚いシート部材の前記溝及び凹部を遮蔽するように前記厚さの厚いシート部材の表面に接着されており、
前記薄いシート部材の厚さ(T)対前記凹部の底部厚さ(T)の比(T:T)が1:2〜1:10の範囲内であり、
前記凹部の深さ(D)は前記凹部の底部厚さ(T)の1.3倍〜5倍の範囲内であることを特徴とするマイクロチップである。
【0009】
この発明によれば、空気流路を介して凹部に加圧空気を送り込むと、薄いシート部材が風船のように大きく膨隆し、次いで、厚いシート部材も若干膨隆するように変形する。このようにして発生した変形応力差により、凹部の先端部分が厚いシート部材側に向かって屈曲する。この屈曲現象を利用することによりマイクロミキサーの混合動作を行わせることができる。
【0010】
前記課題を解決するための手段としての請求項2の発明は、前記厚いシート部材及び薄いシート部材がいずれもポリジメチルシロキサン(PDMS)からなるシリコーンゴム製であることを特徴とする請求項1のマイクロチップである。
【0011】
この発明によれば、厚いシート部材及び薄いシート部材は空気流路及び凹部以外の箇所では相互に恒久接着することができる。その結果、加圧空気を凹部に送入した際、凹部部分の薄いシート部材だけが選択的に風船様に膨張することができる。
【0012】
前記課題を解決するための手段としての請求項3の発明は、前記マイクロミキサーが前記空気流路に連通する貫通孔を有するアダプタを更に有することを特徴とする請求項1のマイクロチップである。
【0013】
この発明によれば、アダプタの貫通孔を介して空気流路に加圧空気を容易に送入することができる。
【0014】
前記課題を解決するための手段としての請求項4の発明は、前記マイクロミキサーは厚さの厚い1枚のシート部材と2枚の厚さの薄いシート部材とからなり、前記厚い1枚のシート部材の両側に、1個以上の凹部と、該凹部に連通する空気流路がそれぞれ配設されており、前記2枚の厚さの薄いシート部材は、前記厚さの厚いシート部材の前記溝及び凹部を遮蔽するように前記厚さの厚いシート部材の両側表面に接着されていることを特徴とする請求項1のマイクロチップである。
【0015】
この発明によれば、1個のマイクロミキサーで左右(又は前後)の両方向に屈曲することができ、2種類の流体の混合効率が飛躍的に向上する。
【0016】
前記課題を解決するための手段としての請求項5の発明は、各支流マイクロチャネルの合流点下流側に、合流マイクロチャネルの幅よりも広い幅を有する所定の容積の拡大混合室を有し、前記マイクロミキサーが該拡大混合室に配設されていることを特徴とする請求項1のマイクロチップである。
【0017】
この発明によれば、マイクロミキサーにより合流マイクロチャネルが塞がれたりすることなく効率的に混合を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のマイクロミキサーは空気圧で屈曲動作を行わせることにより2種類の流体に乱流を起こさせて両流体を混合することができる。本発明のマイクロミキサーの操作は簡便であるばかりか、空気圧を調整することにより屈曲角度を変化させ、混合度合いを制御することもできる。更に、マイクロチップとは別体として作製できるので、製造が容易であり、その結果、低コストを実現することができる。使用後はマイクロチップから取り外して、別の新たなマイクロチップに実装することにより再利用することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は本発明のマイクロミキサーの一例の概要平面図であり、図2は図1におけるII-II線に沿った断面図であり、図3は図1に示されるマイクロミキサーの駆動状態を示す概要断面図であり、図4は図1に示されるマイクロミキサーを実装したマイクロチップの一例の部分概要断面図であり、図5A及び図5Bは該マイクロチップにおけるマイクロミキサーの駆動状態を示す部分概要断面図である。
【0020】
図1及び図2に示されるように、本発明のマイクロミキサー1は厚さの厚い第1のシート部材3と厚さの薄い第2のシート部材5とが貼り合わせた2枚構造を有する。厚さの厚い第1のシート部材3には、所定の容積の凹部7と、この凹部7に連通する空気流路9が形成されている。更に、この空気流路9を介して凹部7に加圧空気を送り込むためのアダプタ11が厚さの薄い第2のシート部材5の上面に定着されている。アダプタ11には空気流路9に連通する貫通孔13が配設されている。貫通孔13には、加圧ポンプ(図示されていない)からのチューブ(図示されていない)などを接続できる。
【0021】
図3に示されるように、アダプタ11の貫通孔13から空気流路9を介して凹部7に加圧空気を送り込むと、薄い第2のシート部材5が風船のように大きく膨隆し、次いで、厚い第1のシート部材3も若干膨隆するように変形する。このようにして発生した変形応力差により、凹部7の先端部分が厚い第1のシート部材3側に向かって屈曲する。この屈曲現象を利用することによりマイクロミキサーの混合動作を行わせることができる。屈曲の大きさは印加される圧力に応じて変化する。印加する圧力は40kPa〜300kPa程度である。印加する圧力が40kPa未満では屈曲は殆ど起こらない。300kPa超の圧力では、屈曲角度が180゜付近で飽和し、むしろマイクロミキサー自体が破壊損傷する危険性が生じる。
【0022】
本発明のマイクロミキサー1において、第1のシート部材3及び第2のシート部材5は、可撓性で伸縮性のある素材から形成されている。このような素材は例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのようなシリコーンゴムが好ましい。特に、PDMSは表面改質することによりシート同士が恒久接着し、剥離を起こさないので特に好ましい。
【0023】
本発明のマイクロミキサー1において重要なことは、凹部7における第1のシート部材3の厚さと第2のシート部材5の厚さの比率である。一般的に、凹部7における第2のシート部材5の厚さTと第1のシート部材3の厚さTの比率は、T:T=1:2〜1:10の範囲内であることが好ましい。T:Tが1:2未満の場合、例えば、1:1の場合、第1のシート部材3と第2のシート部材5の伸縮率や変形応力が均等になり、凹部7が真円形の風船のように膨張するだけで屈曲は起こらない。一方、T:Tが1:10超の場合、例えば、1:11の場合、第2のシート部材5は膨張しても、第1のシート部材3は殆ど伸縮しないので変形応力は第1のシート部材3には発生せず、寧ろ、第2のシート部材5が破裂する危険性が生じる。
【0024】
また、凹部7の底部から第2のシート部材5の下面までの深さD(以下「凹部7の深さD」という)は、第1のシート部材3の厚さTよりも大きいことが必要である。凹部7の深さDは第1のシート部材3の厚さTよりも1.3倍〜5倍程度大きいことが好ましい。凹部7の深さDが第1のシート部材3の厚さTよりも1.3倍未満では、屈曲度合いを精密に制御することが困難になる。一方、凹部7の深さDが第1のシート部材3の厚さTよりも5倍超では、凹部7の容積が大きくなりすぎ、屈曲応答性が低下する。
【0025】
空気流路9の幅及び高さは適宜選択することができる。例えば、空気流路9の幅は10μm〜500μm程度で、高さは10μm〜300μm程度であることができる。
【0026】
第1のシート部材3に空気流路9及び凹部7を形成する方法としては、当業者に公知慣用の任意の方法を使用できる。例えば、光リソグラフィー法により作製されたシリコーン鋳型にPDMSプレポリマーを流し込んで、重合させる方法、又は機械的に刻設する方法などが使用できる。
【0027】
アダプタ11を使用する場合、この部材もPDMSから構成されていることが好ましい。アダプタ11がPDMSから構成されている場合、PDMS製の第2のシート部材5の上面にアダプタ11を恒久接着させることができるからである。しかし、アダプタ11は他の素材(例えば、熱可塑性合成樹脂など)から構成することもできる。アダプタ11がPDMS以外の素材から構成されている場合、アダプタ11を第2のシート部材5の上面に固着させるために、必要に応じて接着剤(例えば、エポキシ樹脂)などを使用することもできる。
【0028】
図4は本発明のマイクロミキサー1を実装したマイクロチップ20の一例の概要平面図である。マイクロチップ20は公知慣用のY字形のマイクロチャネルを有するマイクロチップと同様に、支流マイクロチャネル22と24及び合流マイクロチャネル26を有し、支流マイクロチャネル22の端部には大気に向かって開口したポート28が配設され、支流マイクロチャネル24の端部には大気に向かって開口したポート30が配設され、合流マイクロチャネル26の端部には大気に向かって開口したポート32がそれぞれ配設されている。本発明のマイクロミキサー1は支流マイクロチャネルの合流点よりも下流側の合流マイクロチャネル26の途中に実装することが好ましい。図4ではマイクロミキサー1は1個しか実装されていないが、2個以上実装することもできる。
【0029】
図5Aは、図4に示されたV−V線に沿った部分概要断面図である。マイクロチップ20は公知慣用のY字形のマイクロチャネルを有するマイクロチップと同様に、上面基板34と下面基板36を有し、該基板間に支流マイクロチャネル22,24及び合流マイクロチャネル26を有する。一方の基板側(図5Aでは上面基板34側)から合流マイクロチャネル26の幅方向の略中央付近にマイクロミキサー1を垂直に挿入する。上面基板34に開設された挿入孔の上部を封止するため、適当な接着剤又はシーラント38を使用することができる。
【0030】
図5Bは、マイクロミキサー1の作動状態を示す部分概要断面図である。アダプター11の貫通孔13から空気流路9を介して凹部7に加圧空気を送り込むと、薄い第2のシート部材5が風船のように大きく膨隆し、次いで、厚い第1のシート部材3も若干膨隆するように変形する。この膨隆により生じた第2のシート部材5と第1のシート部材3との間の変形応力差により屈曲が生じる。加圧空気の送入を止め、大気圧に戻すと元の真っ直ぐな状態に復元する。従って、マイクロミキサー1の屈曲と復元を利用することにより、合流マイクロチャネル26内を層流状態で流れてくる2種類の流体界面を壊して乱流を発生させ、混合を行うことができる。屈曲方向の異なるマイクロミキサーを併用することにより一層優れた混合操作を達成することができる。
【0031】
図5Aでは、マイクロミキサー1は上面基板34側から合流マイクロチャネル26に垂直に挿入されているが、下面基板36側から合流マイクロチャネル26に垂直に挿入することもできる。別法として、マイクロミキサー1は合流マイクロチャネル26に水平に挿入することもできる。
【0032】
図6は本発明のマイクロミキサーの別の実施態様の概要平面図である。凹部が矩形状ではなく、円形であり、しかも、複数個の円形凹部7−1,7−2が空気流路9で連結されている。このようなマイクロミキサー1Aは複数個の円形凹部7−1,7−2周辺の変形応力差が錯綜することにより、指の関節のように部分的に異なる屈曲を起こすことができる。これにより、乱流発生効率を高めることができる。
【0033】
図7は本発明のマイクロミキサーの更に別の実施態様の概要断面図である。図7に示されたマイクロミキサー1Bでは、第1のシート部材3’の両側に、第2のシート部材5a、凹部7a、凹部7aに連通する空気流路9aと、第2のシート部材5b、凹部7b、凹部7bに連通する空気流路9bが存在し、空気流路9aを介して凹部7aに加圧空気を送り込むためのアダプタ11aと、空気流路9bを介して凹部7bに加圧空気を送り込むためのアダプタ11bがそれぞれの第2のシート部材5a、5bの上面に定着されている。アダプタ11a,11bにはそれぞれの空気流路9a,9bに連通する貫通孔13a,13bが配設されている。このマイクロミキサー1Bの特徴は、例えば、アダプタ11aの貫通孔13aから空気流路9aを介して凹部7aに加圧空気を送り込むと、(A)方向に屈曲させることができ、アダプタ11bの貫通孔13bから空気流路9bを介して凹部7bに加圧空気を送り込むと、(B)方向に屈曲させることができることである。従って、1個のマイクロミキサーでありながら、図1に示されたマイクロミキサーの2個分の機能を果たすことができる。
【0034】
図8は本発明のマイクロチップの別の実施態様の概要平面図である。図8に示されるマイクロチップ20Aでは、支流マイクロチャネル22と24の合流点の下流側に、合流マイクロチャネル26の横幅よりも大きな横幅を有する、所定の容積の混合室40が配設されている。マイクロミキサー1は横幅があるので、合流マイクロチャネル26内に挿入すると、流体の流れを阻害し、「管詰まり」を起こしかねない。拡大された混合室40を設け、混合室の壁面寄りに屈曲方向の異なるマイクロミキサー1−1とマイクロミキサー1−2を向かい合わせに配置し、両方を同時に又は間欠的に作動、屈曲させることにより2種類の流体に効果的に乱流を発生させることができるばかりか、「管詰まり」の発生を抑制することができる。拡大された混合室40の略中央部に、図7に示されるようなマイクロミキサー1Bを1個配置しても、図8に示されるようなマイクロミキサー1−1とマイクロミキサー1−2を2個配置した場合と同じ混合効果及び「管詰まり」抑制効果が得られる。また、2本以上の屈曲方向の異なるマイクロミキサーを用い、2種類の流体を静止させた状態で各マイクロミキサーを駆動させると、マイクロチャネル又は拡大混合室を「容器」とした撹拌効果又は撹拌作用も期待できる。
【0035】
合流マイクロチャネルに合流する支流マイクロチャネルの本数は図示された2本に限定されない。3本以上の支流マイクロチャネルが合流する合流マイクロチャネルにおいても本発明のマイクロミサーを使用することができる。同様に、図8に示された拡大混合室40に合流する支流マイクロチャネルの本数は図示された2本に限定されない。3本以上の支流マイクロチャネルが合流することもできる。要するに、2種類以上の流体を混合する目的であれば、マイクロチャネルの形状に囚われることなく、あらゆるマイクロチップにおいて本発明のマイクロミキサーを使用することができる。
【実施例1】
【0036】
(1)マイクロミキサーの作製
常用の光リソグラフィー法に従って、表面に幅約20μm、高さ約20μm、長さ約300μmの空気流路用突起と、横幅約200μm、縦幅約100μm、高さ約70μmの凹部用突起を有する4インチサイズの鋳型を作製した。この鋳型の表面をフルオロカーボン(CHF)の存在下で反応性イオンエッチングシステムにより処理し、表面にCHF剥離膜を形成した。マスターの剥離膜形成面上に、PDMSプレポリマー混合液として、米国のダウ・コーニング社製のSYLGARD 184 SILICONE ELASTOMERを厚さ鋳型にモールドし、Nスプレーで0.5mm厚付近になるまで引きのばし、加温(65℃、4時間)した。4時間経過後、オーブンから取り出し、厚さ約140μmのPDMS製の第1のシート部材を鋳型から剥離した。凹部の底面厚さは約50μmであった。厚さ約20μmのPDMS製の第2のシート部材を準備した。第2のシート部材の適所には予め貫通孔を穿設しておいた。常法に従って両シートを表面改質した後、第2のシート部材の貫通孔を第1のシート部材の空気流路の端部と位置合わせしてから、第1のシート部材の上面に第2のシート部材を恒久接着させた。その後、予め作製しておいたアダプタを、アダプタの貫通孔と第2のシート部材の貫通孔を位置合わせした両部材を恒久接着させた。
(2)マイクロミキサー実装マイクロチップの作製
Y字形状マイクロチャネルを有するマイクロチップを常法に従って作製した。各支流マイクロチャネルの幅は400μm、高さは400μmであった。各支流マイクロチャネルの端部のポートの内径は2mmであった。各支流マイクロチャネルの合流点よりも下流側に横幅が800μm、高さ400μm、長さ600μmの拡大混合室を形成した。拡大混合室より出口側に幅400μm、高さ400μmの合流マイクロチャネルを形成した。合流マイクロチャネルの端部には内径2mmのポートを形成した。拡大混合室の位置に対応する上面基板の外表面側から、拡大混合室の両側の壁面寄りにそれぞれ貫通孔を穿設し、この各貫通孔から前記(1)で作製されたマイクロミキサーを屈曲方向が対向するようにそれぞれ挿入し、図8に示されるようなマイクロミキサー実装マイクロチップを作製した。
(3)混合確認試験
前記(2)で作製されたマイクロチップの各マイクロミキサーのアダプタに空気圧印加用のチューブを接続した。一方の支流マイクロチャネルのポートから赤色の着色液を注入し、他方の支流マイクロチャネルのポートから無色の水を注入した。各マイクロミキサーのアダプタに接続されたチューブから加圧空気を送入すると、マイクロミキサーが徐々に屈曲を始め、約100kPaの印加圧力でマイクロミキサーが約40゜屈曲した。各マイクロミキサーに、この屈曲と復元を続けさせることにより、各支流マイクロチャネルから流れてくる2種類の液体が混合され、単一の薄い赤色の液体として合流マイクロチャネル端部のポートから回収できた。
(4)比較試験
前記(3)の試験において、各マイクロミキサーを全く作動させず、2種類の液体をただ流し続けたところ、両方の液体は層流状態のまま合流マイクロチャネル端部のポートに出てきた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のマイクロミキサーを利用したマイクロチップは医学、獣医学、歯科学、薬学、生命科学、食品、農業、水産など様々な分野で活用できる。特に、蛍光抗体法、in situ Hibridization等に最適なマイクロチップとして、免疫疾患検査、細胞培養、ウィルス固定、病理検査、細胞診、生検組織診、血液検査、細菌検査、タンパク質分析、DNA分析、RNA分析などの広範な領域で使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のマイクロミキサーの一例の概要平面図である。
【図2】図1におけるII-II線に沿った断面図である。
【図3】図1に示されるマイクロミキサーの駆動状態を示す概要断面図である。
【図4】本発明のマイクロミキサーを実装したマイクロチップの一例の概要平面図である。
【図5A】図4におけるV−V線に沿った部分概要断面図である。
【図5B】図5Aに示されたマイクロミキサーの作動状態を示す部分概要断面図である。
【図6】本発明のマイクロミキサーの別の実施態様の概要平面図である。
【図7】本発明のマイクロミキサーの更に別の実施態様の概要断面図である。
【図8】本発明のマイクロミキサーを実装したマイクロチップの別の実施態様の概要平面図である。
【図9】従来のY字形状マイクロチャネルを有するマイクロチップの一例の概要平面図である。
【図10】図9に示されるY字形状マイクロチャネルにおける2種類の流体の流動状態を示す模式図である。
【図11】従来のY字形状マイクロチャネルで使用されるマイクロミキサーの一例による2種類の流体の流動状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0039】
1 本発明のマイクロミキサー
3 第1のシート部材
5 第2のシート部材
7 凹部
9 空気流路
11 アダプタ
13 貫通孔
20 マイクロチップ
22,24 支流マイクロチャネル
26 合流マイクロチャネル
28,30,32 ポート
34 上面基板
36 下面基板
38 接着剤
40 拡大混合室
26 マイクロチャネル
100 従来のY字形状マイクロチャネルを有するマイクロチップ
102,104 支流マイクロチャネル
106 合流マイクロチャネル
108 層流界面
110,112,114 ポート
116,118 アクティブバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面基板と下面基板とからなり、両基板の間に配設された2本以上の支流マイクロチャネルと、これら支流マイクロチャネルが合流する合流マイクロチャネルを有するマイクロチップにおいて、
前記合流マイクロチャネルの適所に1本以上のマイクロミキサーが挿入されており、
該マイクロミキサーは厚さの異なる2枚以上のシート部材からなり、厚さの厚いシート部材には1個以上の凹部と、該凹部に連通する空気流路が配設されており、厚さの薄いシート部材は、前記厚さの厚いシート部材の前記溝及び凹部を遮蔽するように前記厚さの厚いシート部材の表面に接着されており、
前記薄いシート部材の厚さ(T)対前記凹部の底部厚さ(T)の比(T:T)が1:2〜1:10の範囲内であり、
前記凹部の深さ(D)は前記凹部の底部厚さ(T)の1.3倍〜5倍の範囲内であることを特徴とするマイクロチップ。
【請求項2】
前記厚いシート部材及び薄いシート部材がいずれもポリジメチルシロキサン(PDMS)からなるシリコーンゴム製であることを特徴とする請求項1のマイクロチップ。
【請求項3】
前記マイクロミキサーが前記空気流路に連通する貫通孔を有するアダプタを更に有することを特徴とする請求項1のマイクロチップ。
【請求項4】
前記マイクロミキサーは厚さの厚い1枚のシート部材と2枚の厚さの薄いシート部材とからなり、前記厚い1枚のシート部材の両側に、1個以上の凹部と、該凹部に連通する空気流路がそれぞれ配設されており、前記2枚の厚さの薄いシート部材は、前記厚さの厚いシート部材の前記溝及び凹部を遮蔽するように前記厚さの厚いシート部材の両側表面に接着されていることを特徴とする請求項1のマイクロチップ。
【請求項5】
各支流マイクロチャネルの合流点下流側に、合流マイクロチャネルの幅よりも広い幅を有する所定の容積の拡大混合室を有し、前記マイクロミキサーが該拡大混合室に配設されていることを特徴とする請求項1のマイクロチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−248233(P2007−248233A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71301(P2006−71301)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】