説明

マイクロチップ

【課題】第1成分と第2成分とを含む流体から、第2成分が混入することなく、純粋な第1成分を取り出すことが可能であり、また、流体を、第1成分と第2成分とを分離するための分離部に導入する際における、流体の液幅を十分に狭くすることにより、当該分離部内を確実に流体で満たすことが可能なマイクロチップを提供する。
【解決手段】基板表面に設けられた溝を備える第1の基板と、第2の基板とを貼り合わせてなる、流体回路を内部に有するマイクロチップであり、該流体回路は、第1成分を分離するための分離部を有し、該分離部を構成する溝は、所定の流路壁によって囲まれた略V字形状の領域を含むマイクロチップである。分離部の上部には、好ましくは、流体の流量を制限する流量制限部が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA、タンパク質、細胞、免疫および血液等の生化学検査、化学合成ならびに、環境分析などに好適に使用されるμ−TAS(Micro Total Analysis System)などとして有用なマイクロチップに関し、特には、血液から血球成分を分離除去して、血漿成分を抽出するための血漿分離部を有する血液検査用マイクロチップなどとして好適に用いることができるマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。マイクロチップは、実験室で行なっている一連の実験・分析操作を、数cm〜10cm角で厚さ数mm〜数cm程度のチップ内で行なえることから、検体および試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査ができ、検体を採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有している。
【0003】
マイクロチップはその内部に流体回路を有しており、該流体回路は、たとえば検体(その一例として血液が挙げられる)と混合あるいは反応、または該検体を処理するための液体試薬を保持する液体試薬保持部、該検体や液体試薬を計量する計量部、検体と液体試薬とを混合する混合部、該混合液について分析および/または検査するための検出部などの各部と、これら各部を適切に接続する微細な流路(たとえば、数百μm程度の幅)とから主に構成される。マイクロチップは、典型的には、これに遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して使用される。マイクロチップに適切な方向の遠心力を印加することにより、検体および液体試薬の計量、混合、ならびに該混合液の検出部への導入等の流体処理を行なうことができる(たとえば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−17342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、たとえば血液検査等に用いられるマイクロチップにおいては、血液中の血漿成分が検査・分析の対象となることが多いことから、流体回路内に導入された血液から血球成分を分離除去し、血漿成分のみを抽出する血漿分離部を備えることが好ましい。しかし、従来の血液検査用マイクロチップにおいては、遠心分離により、血漿成分の層と血球成分の層とに分離できた場合であっても、血漿成分を血漿分離部から取り出す際に、血漿成分中に血球成分が一部混入する場合があった。このような血球成分の混入は、血漿成分と液体試薬との混合液についての正確な検査・分析を妨げ得る。
【0005】
また、従来の血液検査用マイクロチップにおいては、血液を血漿分離部に導入する際、血液の液幅が広いために、血液が血漿分離部の底部に達する前に、血漿分離部内の流路を満たし、血漿分離部内部の空気の排出を阻害して、血漿分離部に血液が充填されなくなる現象(詰まり現象)が生じやすいという問題もあった。かかる詰まり現象が生じると、必要量の血漿成分を抽出することができなくなるため、血漿成分と液体試薬との混合液についての正確な検査・分析を妨げ得る。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、第1成分(たとえば血漿成分)と第2成分(たとえば血球成分)とを含む流体(たとえば血液)から、第2成分が混入することなく、純粋な第1成分を取り出すことが可能であり、もって、取り出された第1成分について、正確かつ信頼性の高い検査・分析を行なうことができるマイクロチップ(たとえば血液検査用マイクロチップ)を提供することである。
【0007】
また、本発明の他の目的は、流体を、第1成分と第2成分とを分離するための分離部(たとえば血漿分離部)に導入する際における、流体の液幅を十分に狭くすることにより、当該分離部内を確実に流体で満たすことが可能な構造を有するマイクロチップ(たとえば血液検査用マイクロチップ)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、少なくとも、基板表面に設けられた溝を備える第1の基板と、第2の基板とを貼り合わせてなり、該溝と該第2の基板の前記第1の基板側表面とからなる流体回路を内部に有するマイクロチップであって、該流体回路は、少なくとも第1成分と第2成分とを含む流体から該第1成分を分離するための分離部を少なくとも有し、該分離部を構成する溝は、第1の基板の厚み方向からみたとき、時計回りに配置された点P1、P2、P3、P4、P5およびP6によって囲まれる略V字形状の領域を含み、該略V字形状の領域は、点P2および点P3を通る壁面を有する流路壁W2、点P3および点P4を通る壁面を有する流路壁W3、点P4および点P5を通る壁面を有する流路壁W4、点P5および点P6を通る壁面を有する流路壁W5、ならびに、点P6および点P1を通る壁面を有する流路壁W6によって形成された領域であり、流路壁W2における点P2および点P3を通る壁面と、流路壁W3における点P3および点P4を通る壁面とがなす角度、および、前記流路壁W5における点P5および点P6を通る壁面と、流路壁W6における点P6および点P1を通る壁面とがなす角度は、それぞれ180度未満であるマイクロチップを提供する。ここで、上記点P1から上記点P2に至る流路壁を有しない部分は、該流体を導入するための開口部となっている。
【0009】
上記開口部における溝の深さは、点P3、点P4、点P5および点P6によって囲まれる領域Bにおける溝の深さより浅く、かつ、点P1、点P2、点P3および点P6によって囲まれる領域Aの一部であって、点P3および点P6を通る直線を含む領域における溝底面は、開口部における溝の深さから領域Bにおける溝の深さまで変化する傾斜構造を有していることが好ましい。
【0010】
本発明のマイクロチップにおいて、流体回路は、第1の基板の厚み方向からみたとき、上記開口部の上部に、分離部に導入される流体の流量を制限するための流量制限部をさらに有していることが好ましい。この場合、該流量制限部を構成する溝は、直線状に延びる流路壁W7と、該流路壁W7と対向するように形成された流路壁W8とによって構成される。流量制限部を構成する溝は、流路壁W7が有する直線状の壁面と、流路壁W8が有する直線状の壁面によって形成されることが好ましく、該流路壁W7が有する直線状の壁面と、該流路壁W8が有する直線状の壁面とは略平行であることがより好ましい。また、流路壁W7は、上記分離部の開口部に位置する点P2まで延びていることが好ましい。
【0011】
上記流路壁W7が有する直線状の壁面と、上記流路壁W2における点P2および点P3を通る壁面とがなす角度は、180度より大きく、240度より小さいことが好ましい。
【0012】
また、上記点P1から前記点P2までの距離は、上記流路壁W7が有する直線状の壁面と、上記流路壁W8が有する直線状の壁面との間の距離の3〜10倍であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、少なくとも、基板表面に設けられた溝を備える第1の基板と、第2の基板とを貼り合わせてなり、該溝と該第2の基板の第1の基板側表面とからなる流体回路を内部に有するマイクロチップであって、該流体回路は、少なくとも第1成分と第2成分とを含む流体を導入するための開口部を有し、該流体から該第1成分を分離するための分離部と、該開口部の上部に配置され、分離部に導入される該流体の流量を制限するための流量制限部とを少なくとも有し、第1の基板における流量制限部を構成する溝は、直線状に延びる壁面aを有する流路壁W7と、該壁面aと略平行である直線状に延びる壁面bを有する流路壁W8とによって形成され、流路壁W8が有する上記開口部側の壁面cと壁面aとがなす角度θ4は、90度<θ4<180度を満たし、かつ、壁面aと壁面bとの間の距離をL1、開口部の幅をL2、壁面bと壁面cによって形成される流路壁W8の角部の曲率半径をRとしたとき、下記式(1)を満たすマイクロチップを提供する。
2×(L1+R)<L2 (1)
曲率半径Rは、0<R≦0.25mmを満たすことが好ましい。また、角度θ4は、130度≦θ4<180度を満たすことが好ましい。
【0014】
流量制限部は、分離部の開口部の直上に配置されることが好ましく、開口部の一方端は、上記流路壁W7が有する壁面a上に配置されることがより好ましい。
【0015】
第1の基板において、流量制限部を構成する溝の深さは、流量制限部の下部を構成する溝の深さより浅いことが好ましい。
【0016】
また、第1成分の比重は、第2成分の比重より小さいことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、第1成分(たとえば血漿成分)と第2成分(たとえば血球成分)とを含む流体(たとえば血液)から、第2成分が混入することなく、純粋な第1成分を取り出すことが可能であり、もって、取り出された第1成分について、正確かつ信頼性の高い検査・分析を行なうことができるマイクロチップ(たとえば血液検査用マイクロチップ)が提供される。
【0018】
また、本発明によれば、流体を、第1成分と第2成分とを分離するための分離部(たとえば血漿分離部)に導入する際における、流体の液幅を十分に狭くすることが可能となる。これにより、当該分離部内を確実に流体で満たすことができるようになるため、正確かつ信頼性の高い検査・分析を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のマイクロチップは、少なくとも、基板表面に溝を備える第1の基板の溝形成側表面上に、第2の基板を貼り合わせてなる内部に流体回路を有するマイクロチップに関するものである。該流体回路は、第1の基板表面に形成された溝と第2の基板の貼り合わせ面とによって構成されており、より具体的には、第1の基板表面に形成された溝と第2の基板の貼り合わせ面とによって構成される空洞部からなる。マイクロチップの大きさは、特に限定されないが、たとえば縦横数cm程度、厚さ数mm〜1cm程度とすることができる。
【0020】
本発明においては、第1の基板の両面に溝を設けてもよく、この場合、第1の基板を挟持するように第2の基板、第3の基板を貼り合わせることにより、マイクロチップを作製する。このような3枚の基板を用いたマイクロチップは、第1の基板における第2の基板側に形成された溝と第2の基板の貼り合わせ面とにより構成される流体回路と、第1の基板における第3の基板側に形成された溝と第3の基板の貼り合わせ面とにより構成される流体回路との2層の流体回路を有する。かかる2層の流体回路は、第1の基板を厚み方向に貫通する貫通穴によって接続することができる。
【0021】
本発明のマイクロチップにおいて流体回路は、少なくとも分離部を備えている。分離部は、第1成分とこれとは異なる第2成分とを含む流体(たとえば液体)から、第2成分を分離除去し、第1成分を取り出すための部位である。本発明のマイクロチップにより分離される第1成分および第2成分の種類は特に制限されず、本発明のマイクロチップによれば、種々の成分を効率的に分離することが可能であるが、取り出したい第1成分の比重は、除去される第2成分の比重より小さいことが好ましい。
【0022】
このような本発明のマイクロチップは、たとえば血液検査用マイクロチップとして好適に用いることができ、この場合、上記分離部を、流体回路内に導入された血液から、血球成分(第2成分)を分離除去し、血漿成分(第1成分)を抽出するための血漿分離部として利用することができる。取り出された血漿成分は、流体回路内で必要な処理が施され、検査・分析に供される。
【0023】
また、本発明のマイクロチップにおいて流体回路は、好ましくは、分離部の開口部の上部に配置され、分離部に導入される流体(たとえば血液)の流量および液幅を制限するための流量制限部を備える。かかる流量制限部を設けることにより、分離部に導入される流体の液幅を十分狭くすることができるようになるため、上記したような詰まり現象を解消することができ、分離部内を確実に流体で満たすことができるようになる。
【0024】
上記流体回路は、分離部(たとえば血漿分離部)および流量制限部の他に、他の部位を有していてもよい。他の部位としては、特に限定されるものではないが、液体試薬を保持するための液体試薬保持部、取り出された第1成分(たとえば血漿成分)を計量するための検体計量部、液体試薬を計量するための液体試薬計量部、計量された液体試薬と第1成分とを混合するための混合部、該混合液についての検査・分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出)を行なうための検出部などを挙げることができる。必要に応じてさらに別の部位が設けられてもよい。当該検査・分析は、特に限定されないが、たとえば検出部に光を照射して透過する光の強度(透過率)を検出する方法;検出部に保持された混合液についての吸収スペクトルを測定する方法等の光学測定により行なうことができる。なお、液体試薬とは、マイクロチップを用いて行なわれる検査・分析の対象となる検体(第1成分)を処理する、または該検体と混合あるいは反応される試薬であり、通常、マイクロチップ使用前にあらかじめ流体回路の液体試薬保持部に内蔵されている。
【0025】
上記流体回路内の各部位は、外部からの遠心力の印加により、たとえば、第1成分や液体試薬の計量、第1成分と液体試薬との混合、得られた混合液の検出部への導入および該混合液の検査・分析等を順次行なうことができるように、適切な位置に配置され、かつ微細な流路を介して接続されている。マイクロチップへの遠心力の印加は、典型的には、マイクロチップを、これに遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して行なわれる。以下、本発明をより詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明のマイクロチップの一例であるマイクロチップ100を構成する第1の基板101の上面図である。ここでいう「上面」とは、流体回路を形成する溝が刻まれている側の面を意味している。また、「下面」とは、流体回路を形成する溝が刻まれていない側の面を意味するものとする。マイクロチップ100は、図1に示されるような、基板表面に形成された溝および基板の厚み方向に貫通する貫通穴を有する、透明基板である第1の基板101の溝形成側表面(上面)上に、第2の基板(図示せず)を貼り合わせてなる。第1の基板101表面(上面)に形成された溝と第2の基板の貼り合わせ面とによって流体回路が構成されている。マイクロチップ100は、血液から血球成分を除去して血漿成分を取り出し、該血漿成分について検査・分析を行なうマイクロチップとして好適に適用され得る流体回路構造を有している。
【0027】
図1を参照して、マイクロチップ100が有する流体回路は、被験者から採取された血液を含むキャピラリー等のサンプル管を組み込むためのサンプル管載置部102、サンプル管より導出された血液の流量および液幅を調整する流量制限部202、血液から血球成分を除去して血漿成分を抽出するための血漿分離部103、分離された血漿成分を計量するための検体計量部104、液体試薬を保持するための2つの液体試薬保持部105aおよび105b、液体試薬を計量するための液体試薬計量部106aおよび106b、血漿成分と液体試薬とを混合するための混合部107a〜107d、ならびに、得られた混合液についての検査・分析が行なわれる検出部108から主に構成される。マイクロチップ100は、あらかじめ流体回路内に液体試薬が内蔵された「液体試薬内蔵型マイクロチップ」であり、該液体試薬は、液体試薬保持部105aおよび105bに形成された、第1の基板101の厚み方向に貫通する貫通穴である液体試薬導入口170a、170bを介して、第1の基板101の下面(マイクロチップ100における第1の基板101側表面)側から注入される。これら液体試薬導入口の開口部は、第1の基板101の下面(マイクロチップ100における第1の基板101側表面)に封止用ラベルなどを貼合することによって封止される。
【0028】
<分離部>
本発明に係る分離部である血漿分離部103について詳細に説明する。図2は、図1に示される血漿分離部103周辺領域を示す拡大図であり、第1の基板101の下面(マイクロチップ100における第1の基板101側表面)側からみた図である。マイクロチップ100は、流体回路内に導入された血液から血球成分を除去し、血漿成分を抽出するための血漿分離部103を有している。本発明においては、血漿分離部103が、第1の基板101の厚み方向からみたときに、図2に示されるように、時計回りに配置された点P1、P2、P3、P4、P5およびP6によって囲まれる略V字形状の領域を含むことを特徴としている。点P1〜P6によって形成される当該略V字形状の領域は、点P2および点P3を通る壁面を有する流路壁W2、点P3および点P4を通る壁面を有する流路壁W3、点P4および点P5を通る壁面を有する流路壁W4、点P5および点P6を通る壁面を有する流路壁W5、ならびに、点P6および点P1を通る壁面を有する流路壁W6によって囲まれた領域であり、流路壁が形成されていない点P1から点P2に至る領域は、血漿分離部103の開口部201となっている。
【0029】
図3は、血漿分離部103に血液が導入され、遠心分離により血漿成分の層と血球成分の層とに分離された状態を示す概略図である。図3においては、点P3と点P6を結ぶ直線上に血漿成分の層と血球成分の層との界面が位置する例を示している。なお、当該界面は、点P3と点P6を結ぶ直線より下にあってもよい。比重がより大きい血球成分は、遠心分離により、点P3、P4、P5およびP6によって形成される領域B(すなわち、血漿分離部103の下部領域)を占めることとなる。また、血漿成分は、血漿分離部103の上部領域を占め、その液面は、図3に示される液面Zである。
【0030】
このように、血漿成分の層と血球成分の層とに層分離した血液から、血漿成分のみを取り出すために、たとえば、図3における遠心中心Mを中心としてマイクロチップ100を回転させ、図3における左向きの遠心力を印加する。ここで、マイクロチップ100においては、血漿分離部103の形状が略V字状となっているために、層分離された血漿成分のうち、図3における領域Iの血漿成分のみが、血漿分離部103から排出され、領域IIおよびIIIの血漿成分は、血漿分離部103内に残存する。このとき、残存した血漿成分の下部に位置する領域Bの血球成分は、当該左向きの遠心力の印加によっても排出されることはない。すなわち、血漿分離部の形状を略V字状の形状にすることによって、層分離された血漿成分を取り出す際、分離された血球成分が混入することがなく、したがって純粋な血漿成分を取り出すことが可能となる。
【0031】
図4は、血漿分離部103に血液を導入する工程から、血漿成分を取り出す工程までの流れを示す概略フロー図である。まず、図4(a)および図4(b)を参照して、マイクロチップに対し、図示される方向に遠心力Gを印加することにより、血液を、流量制限部202(これについては後述する。)を通して、血漿分離部103内に導入する。血漿分離部103から溢れ出た過剰の血液は、血漿分離部103に接続された流路を通って廃液溜め部(図4において図示せず。図1における廃液溜め部109a。)に収容される。次に、図4(c)を参照して、マイクロチップに対し、図示される方向に遠心力Gをさらに印加することにより、遠心分離を行ない、血漿成分と血球成分とに分離する。最後に、図4(d)を参照して、マイクロチップに対し、図示される方向に遠心力Gを印加することにより、層分離された血漿成分の一部を血漿分離部103から排出させ、血球成分が混入していない純粋な血漿成分を取り出す。なお、図4(a)〜(c)に図示される方向の遠心力は、たとえば、図1における遠心中心Nを中心としてマイクロチップを回転させることにより得ることができる。
【0032】
次に、血漿分離部の好ましい構成について、図2を参照しながら、さらに詳細に説明する。本発明において血漿分離部は、上記したように、略V字状の形状を有しており、より具体的には、流路壁W2における点P2および点P3を通る壁面と、流路壁W3における点P3および点P4を通る壁面とがなす角度θ1、および、流路壁W5における点P5および点P6を通る壁面と、流路壁W6における点P6および点P1を通る壁面とがなす角度θ2が、それぞれ180度未満である。θ1は、空気の押し出しを阻害しないよう、流路壁W3を伝って血液を導入させることが好ましいことから、好ましくは、120度程度<θ1を満たす。また、θ2は、領域Bの幅が点P3−点P6間の距離よりも狭くなると詰まりが生じやすくなることから、θ2≧θ1を満たすことが好ましい。なお、下記する円弧C2の半径をR’とすると、θ1と下記するθ3とは、次式の関係を満たすことが好ましい。
cosθ1=(R’−L2)×cosθ3/R
ここで、図2における円弧C2は、血漿成分の一部を血漿分離部103から排出する際に印加する遠心力(図2における左向き方向の遠心力)を付与するための遠心中心(第2遠心中心)を中心とし、点P1を通る円の円弧であるが、上記点P3は、当該円弧C2上もしくはその近傍、または円弧C2よりも遠心中心から遠い側に(図2に示されるx座標を用いた場合、円弧C2上のいずれかの点のx座標よりも小さいx座標を有するように)位置することが好ましい。点P3が円弧C2よりも、第2遠心中心に大幅により近い側に位置する場合、層分離された血球成分が、血漿成分取り出し時に混入する可能性がある。
【0033】
点P2の位置は特に制限されるものではないが、点P1のy座標と同じか、またはそれより小さいy座標を有することが好ましい。
【0034】
血漿分離部103には、図2に示されるように、点P9を先端とする流路壁W9が設けられてもよい。流路壁W9を設けることにより、点P9の位置に応じて取り出す血漿成分の量を調整することができる。点P9の位置は、好ましくは、点P1のx座標とおなじか、またはこれよりも小さくなるように設定される。点P9のx座標が点P1のx座標より大きいと、血漿成分取り出し時に、血漿分離部103に残存する血漿成分が多くなることとなる。
【0035】
点P6の位置は、特に制限されるものではなく、たとえば、点P3と点P6を結ぶ直線が血漿分離部103に導入された血液が形成する液面と略平行となるように配置することができる。血漿分離部103に導入された血液が形成する液面とは、血液を血漿分離部103に導入する際に印加する遠心力を付与するための遠心中心(第1遠心中心)を中心とし、点P9を通る円の円弧C1上にあり、具体的には、図2における点P9から点P10に至る円弧である。
【0036】
流路壁W3は、空気の押し出しを阻害しないよう、流路壁W3を伝って血液を導入させることが好ましいことから、点P3および点P4を通る壁面がおよそ円弧C2上もしくは円弧C2よりも左側(−x側)に位置するように配置されることが好ましいが、これに限定されるものではない。また、流路壁W5は、点P3および点P4を通る壁面と、点P5および点P6を通る壁面との距離が、点P3−点P6間の距離と同じか、またはそれより長くなるように配置されることが好ましい。また、流路壁W3、W4およびW5の位置は、血漿分離部103に収容される血球成分の量(すなわち、血漿分離部103に導入される血液のヘマトクリット値)を考慮して決定されることが好ましい。たとえば、ヘマトクリット値が60%以下まで対応可能な血漿分離部を構成する場合には、流路壁W3、W4およびW5によって形成される空間の容積が、血漿分離部103に導入される血液量の60%となるように、流路壁W3、W4およびW5が配置される。
【0037】
また、開口部201における溝の深さ(たとえば、点P2、P7、P8およびP1によって囲まれる領域における溝の深さ)は、点P3、P4、P5およびP6によって囲まれる領域Bにおける溝の深さより浅くすることが好ましく、この場合、点P7、P3、P6およびP8によって囲まれる領域における溝底面は、上記開口部における溝の深さから上記領域Bにおける溝の深さまで変化する傾斜構造を有していることが好ましい。このように、血漿分離部103の溝底面を傾斜構造によって連結された段差構造とし、血球成分が収容される領域である領域Bにおける溝をより深くすることにより、層分離された一部の血漿成分を取り出す際、血球成分が混入するのをより効果的に防止することが可能となる。なお、点P7およびP8の位置、すなわち、点P1、P2、P3およびP6によって囲まれる領域Aに占める傾斜構造を有する領域(点P7、P3、P6およびP8によって囲まれる領域)の面積は特に限定されるものではなく、点P3および点P6を通る直線を含む、領域Aの一部が傾斜構造を有していればよい。
【0038】
<流量制限部>
本発明のマイクロチップにおいては、図2に示されるように、血漿分離部103の上部に(好ましくは血漿分離部の直上に)、血漿分離部103に導入される血液の流量を制限するための流量制限部を設けることが好ましい。流量制限部の構造は、たとえば図2に示される流量制限部202のような構造とすることができる。すなわち、流量制限部202を構成する溝は、直線状に延びる壁面を有する流路壁W7と、流路壁W7と対向するように形成された、直線状に延びる壁面を有する流路壁W8とによって構成することができる。流路壁W7が有する直線状の壁面と、流路壁W8が有する直線状の壁面とは略平行であることが好ましい。
【0039】
流路壁W7が有する直線状の壁面と、流路壁W8が有する直線状の壁面との間の距離(流路制限部202の幅)L1は、特に制限されるものではないが、たとえば、0.1〜0.4mm程度とすることができ、より具体的には、たとえば0.2mm程度である。流路制限部202の幅L1は、血漿分離部103の開口部201の幅(点P1と点P2との距離)L2の約1/10〜約1/3とすることが好ましく、約1/8〜約1/3とすることがより好ましく、さらに好ましくは、約1/8あるいは約1/5である。開口部の幅L2が流路制限部202の幅L1の約3倍未満であると、血液が血漿分離部103の底部に達する前に、血漿分離部103内の溝を満たし、血漿分離部103内部の空気の排出を阻害して、血漿分離部103に血液が充填されなくなる現象(詰まり現象)が生じやすい。また、開口部の幅L2が流路制限部202の幅L1の約10倍を超えると、血漿分離部103の容積が増えるため、血漿分離部103を満たすために、より多くの血液量が必要となる。
【0040】
流路制限部202の長さL3も特に制限されるものではなく、たとえば、0.8〜2.0mm程度とすることができる。
【0041】
ここで、流路壁W7は、血漿分離部103の開口部201の右端である点P2まで延びていることが好ましい。すなわち、この場合、流路壁W7は、点P2において流路壁W2と連結しており、流路壁W7が有する直線状の壁面と、流路壁W8が有する直線状の壁面とによって形成された流量制限部202の直下に、血漿分離部103の右端が位置することとなる。かかる構成により、流量制限部202を通過した血液は、その流量および液幅が低減されるため、効率よく、かつ上記した詰まり現象を生じさせることなく、血液を血漿分離部103に導入することが可能となる。
【0042】
流路壁W7が、血漿分離部103の開口部201の右端である点P2まで延びている場合において、流路壁W7が有する直線状の壁面と、流路壁W2における点P2および点P3を通る壁面とがなす角度θ3(図2参照)は、180度より大きく、240度より小さいことが好ましい。より好ましくは、190度以上、210度以下である。θ3が240度以上であると、点P2および点P3を通る壁面に衝突した血液の速度が急激に低下し、これにより液先端が膨らんで、詰まり現象が生じやすくなる。また、180度以下であると、血漿成分を取り出す際、血球成分が混入する可能性がある。
【0043】
血漿分離部103および流量制限部202を構成する溝の第1の基板101における位置は、特に限定されないが、図1に示されるように、第1の基板101周縁部の側壁に沿うように配置することが好ましい。これにより、血液を流量制限部202を通過させて血漿分離部103に導入させるための方向(図1における下向き)に遠心力を印加した場合、血液には図1における下向きの力とともに、側壁に押し付けられる方向の力が働くため、血液を当該側壁に伝わせながら流すことができ、したがって、血液の液幅が過度に広がることなく、流体回路内に導入された血液の全量を確実に血漿分離部103の開口部201内に誘導させることができる。なお、上記のように、血漿分離部103および流量制限部202を配置する場合、流量制限部202を構成する流路壁W7、血漿分離部103を構成する流路壁W2およびW3は、側壁自体となる。
【0044】
次に、流量制限部のより好ましい構成について、図2を参照して説明する。図2に示される流量制限部202は、第1の基板101周縁部の側壁である流路壁W7が有する直線状に延びる壁面aと、流路壁W7と対向するように配置された流路壁W8における直線状に延びる壁面bとによって形成される流路である。すなわち、第1の基板101における流量制限部202を構成する溝は、直線状に延びる壁面aを有する流路壁W7と、壁面aと平行である直線状に延びる壁面bを有する流路壁W8とによって形成されている。図2に示される流量制限部202において壁面bは、流路壁W7の壁面aと平行に配置されているが、これに限定されるものではない。流路壁W8は、血漿分離部103の開口部201側壁面である壁面cを有している。
【0045】
本発明において、流路壁W8が有する開口部201側の壁面cと壁面aとがなす角度θ4は、好ましくは90度<θ4<180度を満たす。壁面cと壁面aとがなす角度θ4をこの範囲内に設定することは、流量制限部202を通過した血液の液幅を狭くすることに寄与する。図5は、壁面cと壁面aとがなす角度θ4と、流量制限部を通過した血液の液幅との関係を示す模式図である。図5に示されるように、θ4が90度であるか(図5(b))、または0度<θ4<90度(図5(c))である場合には、流量制限部を通過した血液は、流路壁W8の壁面cに沿って流れ出すため、血液の液幅が広がってしまう。一方、θ4を90度<θ4<180度とすることにより(図5(a))、図5(b)および(c)の場合と比較して液幅を小さくすることが可能となる。血液の流れ方向と壁面cとをより平行に近づけた方が、血液が壁面cを伝うのをより効果的に抑制することができることから、θ4は、130度≦θ4<180度を満たすことが好ましい。ただし、θ4を90度<θ4<180度とした場合においても、壁面bと壁面cによって形成される流路壁W8の角部の曲率半径Rに依存して、壁面aと壁面bとの間の距離(流量制限部の幅)L1と比較して液幅の広がりが生じ得る。
【0046】
図6は、壁面bと壁面cによって形成される流路壁W8の角部の曲率半径Rと流量制限部を通過した血液の液幅との関係を示す模式図である。図6(a)は、曲率半径Rを500μm、流量制限部の幅L1を300μmとしたときの計算結果を示す図であり、図6(b)は、曲率半径Rを250μm、流量制限部の幅L1を300μmとしたときの計算結果を示す図である。図6(a)および(b)において、壁面cと壁面aとがなす角度θ4は、ともに130度としている。当該計算結果から、曲率半径Rを小さくすることにより、流量制限部を通過した血液の液幅L’(壁面aから剥離点までの距離。ここで、剥離点とは、血液が流路壁W8の壁面を伝って壁面aから離れる方向に広がる場合において、該血液の、流路壁W8の壁面上における壁面aから最も遠い点を意味する。)をより狭くできることがわかる。
【0047】
本発明者らは、血漿分離部における上記詰まり現象を解消すべく、流量制限部を通過した血液の液幅L’と血漿分離部の開口部の幅L2との関係について鋭意研究したところ、下記式(1)を満足するように流量制限部および血漿分離部を設計することにより、上記詰まり現象が解消されることがわかった。
2×(L1+R)<L2 (1)
ここで、L1は壁面aと壁面bとの間の距離(流量制限部の幅)、L2は血漿分離部の開口部の幅、Rは壁面bと壁面cによって形成される流路壁W8の角部の曲率半径である。
【0048】
上記式(1)の左辺における(L1+R)は、流量制限部を通過した血液の液幅L’によく相関する数値である。たとえば、図6(a)および(b)において、(L1+R)はそれぞれ、800μm、550μmと算出され、一方、液幅L’の計算結果はそれぞれ、660μm、480μmである。このように、液幅L’は、(L1+R)より若干小さい値をとるが、(L1+R)は、液幅L’をよく反映しているといえる。
【0049】
したがって、上記式(1)は、血漿分離部の開口部の幅L2を、液幅L’のおよそ2倍より大きい値とすべきことを意味する。上記式(1)の条件を満たすことにより、詰まり現象を解消することができるため、血漿分離部内を確実に血液で満たすことができるようになる。なお、開口部の幅L2を(L1+R)に対して極端に大きくした場合、詰まり現象は解消することはできるが、流体回路における血漿分離部が占める面積が大きくなってしまうため、開口部の幅L2は、L2<5×(L1+R)を満足することが好ましい。
【0050】
また、上記式(1)は、L1および/またはRをより小さくすることにより、L2をより小さくできることを示しており、したがって、L1およびRはできるだけ小さいことが好ましい。具体的には、流量制限部の幅L1は0.1〜0.4mm程度とすることができ、好ましくは0.1〜0.2mm程度である。曲率半径Rは、好ましくは0.25mm以下である。壁面bと壁面cによって形成される流路壁W8の角部は、尖った形状(曲率半径が0である形状)が理想的であるが、金型を用いて第1基板の溝を形成する場合には、このような尖った形状を形成することは困難である。したがって、現実的には、曲率半径Rは0より大きくなる。なお、流量制限部202の長さL3は、特に制限されるものではなく、たとえば、0.8〜2.0mm程度とすることができる。
【0051】
流量制限部202は、血漿分離部103の上部に配置され、好ましくは、図2に示されるように、血漿分離部の直上に配置される。流路壁W7は、血漿分離部103の開口部201の右端である点P2まで延び、血漿分離部の開口部の一方端(点P2)が、流路壁W7が有する壁面a上に配置されるように、流量制限部と血漿分離部とを配置することがより好ましい。かかる構成によれば、流量制限部202を通過した血液を、壁面aに沿わせながら血漿分離部103に導入することが可能となる。
【0052】
図2を参照して、流量制限部202(領域S1)を構成する溝の深さは、流量制限部202の下部領域(領域S2)構成する溝、特には、流量制限部202の出口近傍の溝の深さより浅くすることが好ましい。このような段差構造を設けることにより、流量制限部202を通過した直後から、血漿分離部に至るまでの間に起こり得る血液の液幅の広がりを基板の深さ方向に吸収させることができるため、液幅の広がりをより効果的に抑制することが可能となる。
【0053】
本発明のマイクロチップを構成する第1の基板および第2の基板の材質は特に制限されないが、加工性を考慮すると、樹脂を用いることが好ましい。樹脂のなかでも、ポリスチレン系樹脂、シクロオレフィンポリマー(COP)、アクリル樹脂などが好ましく用いられ、なかでも、耐湿性、加工性(射出成形のし易さなど)が良好であることから、ポリスチレン系樹脂がより好ましい。
【0054】
第1の基板は、上記したように、表面に流体回路を構成する溝が形成される基板である。このような第1の基板は、光学測定の際、検出光が照射される部位を含んでいることから、透明基板とすることが好ましく、少なくとも検出部における検出光が通過する領域は透明樹脂等の透明材料から構成する必要がある。また、第2の基板は、透明基板であっても不透明基板であってもよい。第1の基板と第2の基板との貼合は、たとえばレーザ溶着、熱溶着、超音波溶着等の溶着法;接着剤による接着などにより行なうことができ、溶着法が好ましく用いられる。たとえばレーザ溶着法においては、第1の基板、第2の基板の少なくとも一方の貼り合わせ面にレーザを照射し、該貼り合わせ面を融解させることにより接着を行なうが、この際、基板に不透明基板(好ましくは黒色基板)を用いることにより、光吸収率が増大し、効率的にレーザ溶着を行なうことができる。したがって、第1の基板を透明基板とする場合には、第2の基板を不透明基板とすることが好ましく、黒色基板とすることがより好ましい。一方、第1の基板の両面に溝を設け、第1の基板を挟持するように第2の基板、第3の基板を貼り合わせることによりマイクロチップを作製する場合には、第1の基板を不透明基板(好ましくは黒色基板)とし、第2および第3の基板を透明基板とすることができる。
【0055】
最後に、マイクロチップ100の動作方法の一例について、図1を参照して説明する。なお、以下に説明する動作方法は一例を示したものであり、この方法に限定されるものではない。まず、被験者から採取された血液を含むサンプル管をサンプル管載置部102に搭載する。次に、マイクロチップ100に対して、図1における左向き方向(以下、単に左向きという。他の方向についても以下同様。)に遠心力を印加し、サンプル管内の血液を取り出した後、下向きの遠心力(たとえば、遠心中心Nを中心としてマイクロチップ100を回転させる。)により、血液を、流量制限部202を通して、血漿分離部103に導入し、引き続き下向きの遠心力を印加して遠心分離を行ない、血漿成分(上層)と血球成分(下層)とに分離する。この際、過剰の血液は、廃液溜め109aに収容される。また、この下向き遠心力により、液体試薬保持部105a内の液体試薬Xは、液体試薬計量部106aに導入され計量される。液体試薬計量部106aから溢れ出た液体試薬Xは、液体試薬計量部106aの出口側端部に接続された流路181を通って、廃液溜め109aに収容される。
【0056】
ついで、分離された、血漿分離部103内の血漿成分を、右向き遠心力により検体計量部104に導入し、計量する。検体計量部104から溢れ出た血漿成分は、検体計量部104の出口側端部に接続された流路180を通って、廃液溜め109bに収容される。また、計量された液体試薬Xは、混合部107bに移動するとともに、液体試薬保持部105b内の液体試薬Yは、液体試薬保持部105bから排出される。
【0057】
次に、下向き遠心力により、計量された血漿成分および計量された液体試薬Xは、混合部107aに移動するとともに、混合される。また、液体試薬Yは、液体試薬計量部106bに導入され、計量される。液体試薬計量部106bから溢れ出た液体試薬Yは、液体試薬計量部106bの出口側端部に接続された流路182を通って、廃液溜め109cに収容される。ついで、右向き、下向き、右向き遠心力を順次印加して、血漿成分と液体試薬Xとの混合液を混合部107aおよび107b間で行き来させることにより、混合液の十分な混合を行なう。次に、上向き遠心力により、血漿成分と液体試薬Xとの混合液と計量された液体試薬Yとを混合部107cにて混合させる。ついで、左向き、上向き、左向き、上向き遠心力を順次印加して、混合液を混合部107cおよび107d間で行き来させることにより、混合液の十分な混合を行なう。最後に、右向き遠心力により、混合部107c内の混合液を検出部108に導入する。検出部108内に収容された混合液は、たとえば上記したような光学測定に供され、検査・分析が行なわれる。
【0058】
以上、本発明に係る分離部および流量制限部を、図1および図2に示されるマイクロチップを例に挙げて説明したが、本発明のマイクロチップは、本発明に係る分離部または流量制限部の一方のみを有するものであってもよい。本発明のマイクロチップが本発明に係る分離部のみを有する場合、流量制限部はなくてもよいし、本発明によらない流量制限部を有していてもよい。また、本発明のマイクロチップが本発明に係る流量制限部のみを有する場合、分離部の形状は、図2に示されるような形状に限定されない。ただし、分離部に導入される流体の液幅を十分に狭くすることにより、詰まり現象を効果的に解消するとともに、多成分を含む流体から、ある特定成分を高純度に抽出できるようにするためには、本発明に係る分離部および流量制限部の両方(たとえば図2に示される血漿分離部および流量制限部)を有していることが好ましい。
【0059】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明のマイクロチップを構成する第1の基板の一例を示す上面図である。
【図2】図1に示される血漿分離部の周辺領域を示す拡大図である。
【図3】図1に示される血漿分離部に血液が導入され、遠心分離により血漿成分の層と血球成分の層とに分離された状態を示す概略図である。
【図4】血漿分離部に血液を導入する工程から、血漿成分を取り出す工程までの流れを示す概略フロー図である。
【図5】壁面cと壁面aとがなす角度θ4と、流量制限部を通過した血液の液幅との関係を示す模式図である。
【図6】壁面bと壁面cによって形成される流路壁W8の角部の曲率半径Rと流量制限部を通過した血液の液幅との関係を示す模式図である。
【符号の説明】
【0061】
100 マイクロチップ、101 第1の基板、102 サンプル管載置部、103 血漿分離部、104 検体計量部、105a,105b 液体試薬保持部、106a,306,106b 液体試薬計量部、107a,107b,107c,107d 混合部、108 検出部、109a,109b,109c 廃液溜め部、170a,170b 液体試薬導入口、180,181,182 流路、201 開口部、202 流量制限部、W2,W3,W4,W5,W6,W7,W8,W9 流路壁、M,N 遠心中心、Z 液面、C1,C2 円弧、a,b,c 壁面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、基板表面に設けられた溝を備える第1の基板と、第2の基板とを貼り合わせてなり、前記溝と前記第2の基板の前記第1の基板側表面とからなる流体回路を内部に有するマイクロチップであって、
前記流体回路は、少なくとも第1成分と第2成分とを含む流体から前記第1成分を分離するための分離部を少なくとも有し、
前記分離部を構成する溝は、前記第1の基板の厚み方向からみたとき、時計回りに配置された点P1、P2、P3、P4、P5およびP6によって囲まれる略V字形状の領域を含み、
前記略V字形状の領域は、点P2および点P3を通る壁面を有する流路壁W2、点P3および点P4を通る壁面を有する流路壁W3、点P4および点P5を通る壁面を有する流路壁W4、点P5および点P6を通る壁面を有する流路壁W5、ならびに、点P6および点P1を通る壁面を有する流路壁W6によって形成された領域であり、
前記流路壁W2における点P2および点P3を通る壁面と、流路壁W3における点P3および点P4を通る壁面とがなす角度、および、前記流路壁W5における点P5および点P6を通る壁面と、流路壁W6における点P6および点P1を通る壁面とがなす角度は、それぞれ180度未満であるマイクロチップ。
【請求項2】
前記点P1から前記点P2に至る流路壁を有しない部分は、前記流体を導入するための開口部である請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記開口部における溝の深さは、前記点P3、点P4、点P5および点P6によって囲まれる領域Bにおける溝の深さより浅く、かつ、
前記点P1、点P2、点P3および点P6によって囲まれる領域Aの一部であって、前記点P3および点P6を通る直線を含む領域における溝底面は、前記開口部における溝の深さから前記領域Bにおける溝の深さまで変化する傾斜構造を有する請求項2に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記流体回路は、前記第1の基板の厚み方向からみたとき、前記開口部の上部に、前記分離部に導入される前記流体の流量を制限するための流量制限部をさらに有し、
前記流量制限部を構成する溝は、直線状に延びる流路壁W7と、前記流路壁W7と対向するように形成された流路壁W8とによって構成される請求項2または3に記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記流量制限部を構成する溝は、前記流路壁W7が有する直線状の壁面と、前記流路壁W8が有する直線状の壁面によって形成されており、
前記流路壁W7が有する直線状の壁面と、前記流路壁W8が有する直線状の壁面とは略平行である請求項4に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記流路壁W7は、前記点P2まで延びている請求項4または5に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記流路壁W7が有する直線状の壁面と、前記流路壁W2における点P2および点P3を通る壁面とがなす角度は、180度より大きく、240度より小さい請求項6に記載のマイクロチップ。
【請求項8】
前記点P1から前記点P2までの距離は、前記流路壁W7が有する直線状の壁面と、前記流路壁W8が有する直線状の壁面との間の距離の3〜10倍である請求項5〜7のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項9】
少なくとも、基板表面に設けられた溝を備える第1の基板と、第2の基板とを貼り合わせてなり、前記溝と前記第2の基板の前記第1の基板側表面とからなる流体回路を内部に有するマイクロチップであって、
前記流体回路は、少なくとも第1成分と第2成分とを含む流体を導入するための開口部を有し、前記流体から前記第1成分を分離するための分離部と、前記開口部の上部に配置され、前記分離部に導入される前記流体の流量を制限するための流量制限部とを少なくとも有し、
前記第1の基板における前記流量制限部を構成する溝は、直線状に延びる壁面aを有する流路壁W7と、前記壁面aと略平行である直線状に延びる壁面bを有する流路壁W8とによって形成され、
前記流路壁W8が有する前記開口部側の壁面cと前記壁面aとがなす角度θ4は、90度<θ4<180度を満たし、かつ、
前記壁面aと前記壁面bとの間の距離をL1、前記開口部の幅をL2、前記壁面bと前記壁面cによって形成される前記流路壁W8の角部の曲率半径をRとしたとき、下記式(1)を満たすマイクロチップ。
2×(L1+R)<L2 (1)
【請求項10】
前記曲率半径Rは、0<R≦0.25mmを満たす請求項9に記載のマイクロチップ。
【請求項11】
前記角度θ4は、130度≦θ4<180度を満たす請求項9または10に記載のマイクロチップ。
【請求項12】
前記流量制限部は、前記分離部の開口部の直上に配置される請求項9〜11のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項13】
前記開口部の一方端は、前記流路壁W7が有する壁面a上に配置される請求項12に記載のマイクロチップ。
【請求項14】
前記第1の基板において、前記流量制限部を構成する溝の深さは、前記流量制限部の下部を構成する溝の深さより浅い請求項12または13に記載のマイクロチップ。
【請求項15】
前記第1成分の比重は、前記第2成分の比重より小さい請求項1〜14のいずれかに記載のマイクロチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−139369(P2009−139369A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288633(P2008−288633)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】