説明

マイクロチャンネルチップ

【課題】基板と蓋板を低温で接合でき、接合強度が充分であって、しかも、接合材料が試料溶液に対して安定であるマイクロチャンネルチップを提供する。
【解決手段】このマイクロチャンネルチップ10は、反応流路21が表面に形成された基板20と、基板表面に接合され、試料溶液を注入するための注入孔31、32と、反応溶液を取り出すための取出孔33とが設けられた蓋板30とから構成され、基板20と蓋板30とが、接合層40を介して接合されている。接合層40は、ふっ素系樹脂を主として含有する溶液を加熱処理して形成したふっ素系樹脂層、又は、有機金属化合物の加水分解・脱水縮合生成物を加熱処理して形成した金属酸化物層である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、マイクロミキサーやマイクロリアクタ等として好適に用いられ、基板上に微小な溝を形成し、その微小空間を各種の反応場として利用するマイクロチャンネルチップに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、マイクロマシニング技術を用いてシリコンやガラス、プラスチック等の基板上に微小流路を形成し、その微小空間を各種の化学反応や分析の場として利用する試みが注目を浴びている。
特に、数センチ角のチップ上に微細加工を施して、上記の微小流路を多数形成し、前処理、分離、検出、廃棄などの各工程を同時並行的に行なうように集積したものはマイクロチャンネルチップと呼ばれ、バイオ、医療、農業、環境などの各種分野において、分析技術や新規物質の合成手段等として期待されている。
【0003】
マイクロチャンネルチップの構造は、シリコンやガラス等からなる基板と、同じくシリコンやガラス等からなる蓋板とから主に構成され、基板上には反応流路が微細加工によって形成されている。一方、蓋板には、反応流路上に対応する位置に、試料溶液を注入するための注入孔と、反応後の反応溶液を取出すための取出孔が設けられており、この基板と蓋板とが接合されて一体化することにより、マイクロチャンネルチップが構成されている。
【0004】
このようなマイクロチャンネルチップの構造に関する従来技術として、例えば、特開平10−337173号公報には、1000以上の多数の生化学反応を同時に並列的に行うことができ、かつ、単なる分析だけではなく、蛋白質合成などの物質合成反応をもセル上で行うことができる生化学反応用マイクロリアクタとして、シリコン基板の表面に異方性エッチングにより形成された複数の独立した反応チャンバと、該シリコン基板の表面に陽極接合され前記反応チャンバを密閉する平板とからなるマイクロリアクタが開示されており、シリコン基板と平板とを陽極接合(静電接合)により接合することが記載されている。
【0005】
このように、従来のマイクロチャンネルチップにおける基板と蓋板の接合においては、基板がシリコン、蓋板がガラスの場合には主として静電接合が用いられていた。また、基板と蓋板とが共にガラスの場合には、主として熱圧着が用いられ、特にガラスが石英ガラスの場合には、熱圧着又はふっ酸による接合が用いられていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
通常、マイクロチャンネルチップの反応流路内では、溶液との反応、分離、抽出、分析等が行なわれるので、基板と蓋板との接合においては、反応流路内への不純物等のコンタミネーションを防止して、化学的に安定な状態を維持すること、及び、基板と蓋板とが強固に接合し、試料溶液や反応溶液のリークが発生しないことなどが必要とされる。このため、基板と蓋板との接合においては、可能な限り低温で、電場などのない条件で接合することが好ましい。
【0007】
しかしながら、上記の従来の接合方法のうち、静電接合においては、300〜500℃に加熱し、加えて数百〜数千ボルトの電界が必要となる。また、熱圧着の場合においては、ガラス同士の接合においては、500〜1000℃の高温に加熱する必要があり、更に、石英ガラス同士を接合する場合には、1100〜1300℃程度の高温加熱が必要となるという問題があった。
【0008】
一方、石英ガラス同士の場合は、その界面にふっ酸水溶液を介在させ、ガラス表面を溶かして接合することも可能であるが、この方法では、接合面の平滑性が厳しく要求されるため、その研磨加工などに時間と経費を必要とし、かつ、その接合強度も低いという問題があった。
また、接合剤として、エポキシ樹脂などの有機系接着剤を使用することも考えられるが、エポキシ樹脂のような有機物は、試料溶液への溶解や反応のおそれがあり、反応流路内における有機物質のコンタミネーションが起こりやすいという問題があった。
【0009】
本発明は、以上の問題点を鑑みなされたもので、シリコン、ガラス等で構成される基板と蓋板を低温で接合でき、また、接合強度が充分であって、しかも、接合材が試料溶液に対して安定であるマイクロチャンネルチップを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明のマイクロチャンネルチップの1つは、試料溶液を反応させるための溝状の反応流路が表面に形成された基板と、前記反応流路を覆うように前記基板表面に接合され、前記反応流路に対応する位置に、前記試料溶液を注入するための注入孔と、反応後の反応溶液を取リ出すための取出孔とが設けられた蓋板とから構成されるマイクロチャンネルチップであって、
前記基板と前記蓋板とが接合層を介して接合されており、前記接合層が、ふっ素系樹脂を主として含有する溶液を加熱処理して形成したふっ素系樹脂層であることを特徴とする。
【0011】
これによれば、接合層として、ふっ素系樹脂を主として含有する溶液を加熱処理して形成したふっ素系樹脂層を用いたので、150〜200℃という低温での接合が可能となる。また、ふっ素系樹脂層は耐薬品性に優れて安定であるので、試料溶液との化学的反応やコンタミネーション等を有効に防止できる。
【0012】
また、本発明のマイクロチャンネルチップの他の1つは、試料溶液を反応させるための溝状の反応流路が表面に形成された基板と、前記反応流路を覆うように前記基板表面に接合され、前記反応流路に対応する位置に、前記試料溶液を注入するための注入孔と、反応後の反応溶液を取リ出すための取出孔とが設けられた蓋板とから構成されるマイクロチャンネルチップであって、
前記基板と前記蓋板とが接合層を介して接合されており、前記接合層が、有機金属化合物の加水分解・脱水縮合生成物を加熱処理して形成した金属酸化物層であることを特徴とする。
【0013】
これによれば、接合層として、有機金属化合物の加水分解・脱水縮合生成物を加熱処理して形成した金属酸化物層を用いたので、135〜200℃という低温での接合が可能となる。また、金属酸化物層は無機物のため、耐薬品性に優れて安定であるので、試料溶液との化学的反応やコンタミネーション等を有効に防止できる。
【0014】
本発明においては、前記接合層の厚さが、0.1〜3.0μmであることが好ましい。これによれば、接合層が均一な薄膜であるので接合界面での強度が向上し、充分な強度で基板と蓋板とを接合することができる。
また、本発明においては、前記基板及び/又は前記蓋板の材質が、シリコン又はガラスであることが好ましい。これによれば、シリコン又はガラスは無機物で安定であり、また、本発明の接合層の材料との接着性も高いので、特に本発明のマイクロチャンネルチップに好適に用いることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を更に詳細に説明する。図1、2には、本発明のマイクロチャンネルチップの一実施形態が示されている。図1は本発明のマイクロチャンネルチップの一実施形態を示す分解斜視図、図2は図1の基板と蓋板の接合後におけるA−A’矢示線に沿った断面図である。
【0016】
図1に示すように、このマイクロチャンネルチップ10は、シリコンやガラス等からなる基板20と、同じくシリコンやガラス等からなる蓋板30とから主に構成されている。以下、マイクロチャンネルチップ10の製造工程に沿って順に説明する。
【0017】
まず、基板20上に、Y字状の反応流路21を形成する。基板20としては、シリコン、ガラス、プラスチック等からなる従来公知の基板材料が使用できるが、微細な反応流路を形成できる点、及び、化学的安定性に優れる点等から、シリコン又はガラスが好ましく、シリコンであることが特に好ましい。基板20の厚さは特に限定されないが、250〜1000μmのものが好ましく用いられる。
【0018】
反応流路21の形成方法としては、従来公知のドライプラズマエッチングや、ふっ酸溶液による湿式エッチング等の微細加工方法によって形成することができる。反応流路21の大きさは適宜設定可能であり限定されないが、通常は幅が500μm以下、深さ数十μm程度であることが好ましい。また、反応流路21の形状は特にY字状に限定されず、対象となる試料溶液の種類、量、反応形態によって適宜選択できる。更に、反応流路21は、同一基板20上に複数設けられていてもよい。
【0019】
一方、蓋板30には、Y字状の反応流路の各末端上に対応する位置に、試料溶液を注入するための注入孔31、32、及び、反応後の反応溶液を取出すための取出孔33が設けられている。
蓋板30としては、シリコン、ガラス、プラスチック等からなる従来公知の材料が使用できるが、マイクロチャンネルチップの上部より反応状態を監視、測定できるように透明材料であることが好ましく、また、試料溶液に対して安定であることが好ましいことから、ガラスであることが好ましい。
【0020】
ガラスとしては、硼珪酸ガラスや石英ガラス等が使用でき特に限定されない。また、蓋板30の厚さは特に限定されないが、200〜500μmのものが好ましく用いられる。
注入孔31、32、取出孔33の形成方法としては、反応流路21の形状に合わせて所定の位置に適宜形成される。この孔は、例えば、ふっ酸溶液による湿式エッチング等によって形成することができる。
【0021】
次に、蓋板30の裏面側に接合層40を形成する。ここで、本発明の1つは、この接合層40が、ふっ素系樹脂を主として含有する溶液である。
ここで、ふっ素系樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)等の各種ふっ素系樹脂が使用可能であるが、なかでも、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)ポリテトラフルオロエチレン等のパーフルオロ基を有するふっ素系樹脂が好ましい。また、変性等によって結晶化度が調整されていてもよい。この場合、結晶性が低下して非晶性の樹脂であるほうが、接合層40の透明性が向上するのでより好ましい。
【0022】
また、ふっ素系樹脂を主として含有する溶液には、上記のふっ素系樹脂以外に、プライマー成分が含有されていることが好ましい。このようなプライマーとしては、シランカップリング剤が例示できる。これにより、シランカップリング剤のシラノール基と、ガラスやシリコン基板表面の水酸基とが結合してシロキサン結合を形成するので、基板と蓋板との接合力を向上させることができる。
【0023】
シランカップリング剤としては、例えば、メトキシ基及びエトキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種のアルコキシ基と、アミノ基、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、イソシアネート基よりなる群から選択される少なくとも一種の反応性官能基を有するシランカップリング剤等が例示でき、特に限定されない。
【0024】
上記のようなふっ素系樹脂を主として含有する溶液としては、例えば、市販のふっ素樹脂系撥水コーティング剤を用いることができ、旭硝子株式会社製の商品名サイトップ等が例示できる。なお、上記のふっ素系樹脂を主として含有する溶液は、例えば、低沸点ふっ素化合物系の分散溶媒等を用いて希釈することにより粘度を低下させて塗布形成することができる。
【0025】
一方、本発明の他の1つは、上記の接合層40が、有機金属化合物の加水分解・脱水縮合生成物である。
ここで、有機金属化合物の加水分解・脱水縮合生成物とは、いわゆるゾルゲル法による薄膜形成が可能な化合物であり、金属の有機化合物溶液を出発原料とし、これを加水分解・脱水縮合することによって、溶液を金属の酸化物あるいは、水酸化物の微粒子が溶解したゾルとし、更に反応を進ませてゲル化した生成される非晶質物質である。
【0026】
有機金属化合物としては、金属アルコキシドが好ましく用いられ、例えば、シリコン酸化物を形成するテトラエトキシシラン、ジルコニウム酸化物を形成するジルコニウムプロポキシド、チタン酸化物を形成するチタンインプロポキシド等が例示でき特に限定されないが、入手の容易さやコストの点から、テトラエトキシシラン等のシリコン酸化物を形成する金属アルコキシドを用いることが好ましい。
【0027】
また、上記の有機金属化合物を加水分解・脱水縮合するための溶媒としては、例えば、水とアルコールとの混合物等の、従来公知の混合溶媒が好ましく用いられる。具体的には、水+メタノール+エタノール+イソプロピルアルコール=1:1:1:4(質量比)の割合の混合溶剤等が挙げられる。この混合溶剤と上記の有機金属化合物とを所定の割合で撹拌混合し、pH調整後、所定の時間熟成させて加水分解・脱水縮合反応を進め、粘度を低下させてゲル化させることによって塗布形成が可能となる。
【0028】
このとき、混合溶剤と有機金属化合物との混合割合は、質量比で混合溶剤1に対して1〜10であることが好ましい。また、pH調整は、アンモニア水等の添加によってpHが3〜7となるように調整することが好ましい。また、加水分解・脱水縮合反応を進める時間としては、3〜5時間が好ましい。これによって、反応生成物の粘度が1.5〜5cps前後まで低下してゲル状態となる。
【0029】
次に、上記のふっ素系樹脂を主として含有する溶液、又は有機金属化合物の加水分解・脱水縮合生成物を、接合層40として、蓋板30の裏面側に形成する方法としては、例えば、浸漬、スピンコート、ハケ塗り、スポンジ塗布等の、従来公知のコーディング方法が適用可能であり、特に限定されない。
【0030】
また、本発明においては、あらかじめ、蓋材30の接合層40が形成される表面が、プライマー処理されていてもよい。これにより、接合層40と、蓋板30との接合力を、更に向上させることができる。プライマーとしてはシランカップリング剤等が例示でき、具体的なシランカップリング剤としては、上記のふっ素系樹脂を主として含有する溶液に用いられるシランカップリング剤と同様の、メトキシ基及びエトキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種のアルコキシ基と、アミノ基、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、イソシアネート基よりなる群から選択される少なくとも一種の反応性官能基を有するシランカップリング剤等が例示でき、特に限定されない。
【0031】
なお、本発明においては、この実施形態のように、接合層40を蓋板30側のみに形成してもよく、基板20側に形成してもよく、また、蓋板30側と基板20側の両側に形成してもよいが、通常マイクロチャンネルチップでは基板20の反応流路21、及び試料溶液へのコンタミネーション等を極力防止するため、蓋板30側のみに形成することが好ましい。
【0032】
次に、図1、2に示すように、基板20と蓋板30を密着させ、加熱処理によって接合層40を硬化させ、これによって基板20と蓋板30とを接合して、マイクロチャンネルチップ10が完成する。
加熱条件としては、接合層40がふっ素系樹脂層の場合には、80〜120℃で0.5〜1時間の予備加熱後、150〜200℃で1.5〜3時間処理することが好ましい。また、接合層40が金属酸化物層の場合には、135〜200℃で0.5〜1時間処理することが好ましい。
【0033】
また、更に、上記の加熱処理は加圧状態で行なうことが好ましい。加圧条件としては、接合層40がふっ素系樹脂層の場合には、10〜50g/cmであることが好ましく、接合層40が金属酸化物層の場合には、5〜30g/cmであることが好ましい。
また、硬化後の接合層40の厚みとしては、0.1〜3.0μmであることが好ましい。0.1μm未満では、基板と蓋板の表面平滑性が厳密に要求されるので好ましくなく、3.0μmを越えると、膜の均質性が悪化して接合強度が低下しやすくなるので好ましくない。なお、本発明における、接合層40の厚みとは、熱処理、硬化後の接合状態における膜厚を意味する。
【0034】
以上の方法によって製造された、本発明のマイクロチャンネルチップ10は、シリコン、ガラス等で構成される基板と蓋板を低温で接合でき、充分な接合強度を有している。この場合、基板20と蓋板30との接合強度としては、引っ張り試験による剥離強さで0.3kg/mm以上であることが好ましい。
【0035】
また、接合層の材料が試料溶液に対して安定であるので、試料溶液との反応やコンタミネーションを生じることがない。更に、接合層を公知の塗布方法で簡便に設けることができ、また、あらかじめ低温で接合可能な接合層を設けたので、接合に際して静電接合装置のような大型設備が不要であり、マイクロチャンネルチップを低コストで大量に生産することができる。
【0036】
このマイクロチャンネルチップ10は、例えば、以下のように使用される。
まず、図示しない試料溶液供給手段により、試料溶液の注入孔31と32より、それぞれの試料溶液が注入される。そして、それぞれの試料溶液が反応流路21a、21bを経て合流して反応流路21cへ到達して反応が行われる。その後、取出孔33より外部に反応後の溶液が排出されて、一連の処理が終了する。
この場合、反応流路21中での各種の状態変化を検出するため、反応流路21に対応する蓋板30上に、分析・検出装置が装着されていてもよく、更に、反応条件を制御するために、目的に応じてヒータ装置等が装着されていてもよい。
【0037】
また、上記の説明では、試料溶液の注入孔31、32を複数とし、反応液の取出孔33を1つとしたが、これとは逆に、反応液の取出孔33から試料溶液を注入し、反応流路中で、例えば、電気泳動等によって試料溶液を分離し、分離されたそれぞれの液を、注入孔31と32から取り出すようにすることもできる。
【0038】
【実施例】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。
【0039】
実施例1
<基板及び蓋板の形成>
図1に示すように、まず、厚さ760μmのシリコンからなる基板20上に、幅150μm、深さ25μmのY字状の反応流路21をドライプラズマエッチングによって形成した。
【0040】
また、厚さ200μmの硼珪酸ガラスからなる蓋板30に、ふっ酸水溶液のエッチングによって、直径100μmの貫通穴からなる試料溶液を注入するための注入孔31、32、及び、反応溶液の取り出すための取出孔33を設けた。
<接合層の形成>
ふっ素を含むコーティング剤(旭硝子株式会社製、商品名:サイトップCTL−809MD)を、低沸点ふっ素化合物系の分散溶媒(旭硝子株式会社製、商品名CT−SOLV1820)を用いて0.5質量%となるように希釈した。この希釈されたコーティング剤中に、上記の蓋板30を30秒間浸漬した後に引き上げて、蓋板30の表面に、厚さ0.8μmの膜を接合層として形成した。
<基板及び蓋板の接合>
基板20と蓋板30とを重ね合わせ、30g/cmの重しを載せて、恒温槽に挿入し、85℃×2時間のブリベークを行なった後、185℃×1時間の条件で熱処理し、実施例1のマイクロチャンネルチップを製造した。
【0041】
このマイクロチャンネルチップに、検査用として粘度が2.3cpsの水性シアンインクを充填して接合界面でのリーク有無を調べたが、とくに欠陥はなかった。また、基板20と蓋板30に金属棒を接着して引っ張り試験を行った。その結果、剥離強さは0.8〜1.3kg/mmの範囲であり、実用上問題のない強度が得られた。
【0042】
実施例2
<基板及び蓋板の形成>
実施例1と同様の基板20及び蓋板30を形成した。
<接合層の形成>
水:メタノール:エタノール:イソプロピルアルコール=1:1:1:4(質量比)の割合の混合溶剤を作り、この混合溶剤と、有機金属化合物であるテトラエトキシシランを1:5(質量比)の割合で10分間攪拌混合し、更に、アンモニア水を添加してpH5になるように調整し、4時間熟成させて加水分解・脱水縮合反応を進め、粘度が2cps前後の反応生成物を得た。
【0043】
この反応生成物を蓋板30の片面に、乾燥状態で1μmの厚さとなるとうにスピンコート法により塗布して乾燥し、接合層を形成した。
<基板及び蓋板の接合>
上記の接合層を内側にして基板20と蓋板30を重ね合わせ、10g/cmの重しを載せて恒温槽に挿入し、175℃×1時間の熱処理を行ない、テトラエトキシシランの反応生成物をシリコン酸化物として金属酸化物層を形成し、実施例2のマイクロチャンネルチップを製造した。
【0044】
このマイクロチャンネルチップに、検査用として粘度が2.3cpsの水性シアンインクを充填して接合界面でのリーク有無を調べたが、とくに欠陥はなかった。また、基板20と蓋板30に金属棒を接着して引っ張り試験を行った。その結果、剥離強さは0.5〜0.9kg/mmの範囲であり、実用上問題のない強度が得られた。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、シリコン、ガラス等で構成される基板と蓋板を低温で接合でき、また、接合強度が充分であって、しかも、接合材が試料溶液に対して安定であるマイクロチャンネルチップを低コストで提供することができるので、マイクロミキサーやマイクロリアクタ等の微小反応装置として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のマイクロチャンネルチップの一実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】図1の基板と蓋板の接合後におけるA−A’矢示線に沿った断面図である。
【符号の説明】
10:マイクロチャンネルチップ
20:基板
21、21a、21b、21c:反応流路
30:蓋板
31、32:注入孔
33:取出孔
40:接合層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液を反応させるための溝状の反応流路が表面に形成された基板と、前記反応流路を覆うように前記基板表面に接合され、前記反応流路に対応する位置に、前記試料溶液を注入するための注入孔と、反応後の反応溶液を取リ出すための取出孔とが設けられた蓋板とから構成されるマイクロチャンネルチップであって、
前記基板と前記蓋板とが接合層を介して接合されており、前記接合層が、ふっ素系樹脂を主として含有する溶液を加熱処理して形成したふっ素系樹脂層であることを特徴とするマイクロチャンネルチップ。
【請求項2】
試料溶液を反応させるための溝状の反応流路が表面に形成された基板と、前記反応流路を覆うように前記基板表面に接合され、前記反応流路に対応する位置に、前記試料溶液を注入するための注入孔と、反応後の反応溶液を取リ出すための取出孔とが設けられた蓋板とから構成されるマイクロチャンネルチップであって、
前記基板と前記蓋板とが接合層を介して接合されており、前記接合層が、有機金属化合物の加水分解・脱水縮合生成物を加熱処理して形成した金属酸化物層であることを特徴とするマイクロチャンネルチップ。
【請求項3】
前記接合層の厚さが、0.1〜3.0μmである請求項1又は2に記載のマイクロチャンネルチップ。
【請求項4】
前記基板及び/又は前記蓋板の材質が、シリコン又はガラスである請求項1〜3のいずれか1つに記載のマイクロチャンネルチップ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2004−74339(P2004−74339A)
【公開日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−236844(P2002−236844)
【出願日】平成14年8月15日(2002.8.15)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】