説明

マイクロチューブ

【課題】ICチップをチューブ本体に対して強固に装填でき、遠心分離が可能で、使用温度幅が大きい場合にも問題なく適用できる汎用性に優れたマイクロチューブを提供する。
【解決手段】チューブ本体1と、チューブ本体1の下部の下筒壁5に装着されるチップホルダー3と、チップホルダー3の内部に配置されるICチップ4とを備えている。チップホルダー3は、フランジ部8と、下筒壁5の内面に圧入される圧入栓部9とからなる。ICチップ4をフランジ部8で保持し、ICチップ4の外面を覆う状態で圧入栓部9を2次成形して、ICチップ4をフランジ部8と圧入栓部9との間にインサート固定する。圧入栓部9は、栓本体21とチップシール部22とで構成する。栓本体21の周面に形成した通気部23を介して、下筒壁5の内部で膨張する空気を下筒壁5の外部へ放出できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療、生化学、分子生物学などの分野において、分析、試験、実験などを行なう際に使用されるマイクロチューブに関し、なかでもチューブ内の試料の固有情報や関連情報を記録するための非接触式のICチップを備えているマイクロチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のマイクロチューブにおいて、チューブ本体に設けた2次元バーコードで、チューブ内の試料の固有情報や関連情報を表示することが公知である(特許文献1)。そこでは、2次元バーコードが印字されたラベルをチューブ本体の底面に貼り付けている。このように2次元バーコードを備えたマイクロチューブは、手軽に利用できるものの、情報の書き換えや新たな情報を追加できない点に不利がある。
【0003】
特許文献2の容器においては、容器本体の底部にICチップを封入している。ICチップは、容器本体を成形する際に肉壁内に埋設するか、ICチップが埋設されたプラスチック片(チップホルダー)を容器本体に貼着するなどにより、容器本体と一体化するとなっている。特許文献3の試料収納用ミニチューブにおいては、チューブ本体の下端にフランジ状の接続部を形成し、接続部の下面にICチップが組み込まれたICタグ収納部(チップホルダー)を接合している。ICタグ収納部の底面には、下向きに開口する収容凹部が形成してあり、この収容凹部の上壁にICチップやアンテナコイルなどが組み込んである。特許文献3には、ICタグ収納部を接続部に対して着脱する実施例も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−225895号公報(段落番号0017、図2)
【特許文献2】特開2001−340426号公報(段落番号0010、図1)
【特許文献3】特開2005−257573号公報(段落番号0031、図1、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
容器本体の底部にICチップが封入してある特許文献2の容器によれば、2次元バーコードを備えている特許文献1のマイクロチューブに比べて、より大量のデータをICチップに格納でき、さらに、データの書き換えや新たなデータの追記を簡便に行なえる。特許文献3の試料収納用ミニチューブにも同様の特長がある。しかし、特許文献2の容器では、容器本体を成形する際にICチップを底部の肉壁内に埋設するとなっているが、現状の成形技術ではICチップを肉壁内に埋設することはできない。ICチップを金型内の成形空間に宙釣り状に支持することができないからである。因みに、特許文献2の容器において、ICチップが埋設されたプラスチック片を容器本体に貼着することは、技術的になんら問題はない。
【0006】
同様に、特許文献3の試料収納用ミニチューブにおいては、チューブ本体とは別体のICタグ収納部を容器本体の接続部に接続するので、上記のような加工上の問題は解消される。しかし、ICチップやアンテナコイルをICタグ収納部の下向きに開口する収容凹部に組み付けるので、ICチップやアンテナコイルが露出するのを避けられず、使用時の耐久性に問題がある。収容凹部に溶融樹脂を流し込んで封止すると、ICチップやアンテナコイルが露出するのを解消できるが、余分な手間が掛かり、チューブ本体とは別体のICタグ収納部を設けることも相俟って、試料収納用ミニチューブの全体コストが嵩んでしまう。
【0007】
マイクロチューブのチューブ本体は、耐水性と耐薬品性に優れたポリプロピレンで形成することが多いが、結晶性プラスチックからなるポリプロピレンは接着性が悪く、先のような封止樹脂を強固に固定できない点にも問題がある。本発明者等は、ポリプロピレン製のマイクロチューブにおける封止樹脂の封止強度を実験により確認した。その結果、例えばマイナス40℃の低温で保存していた試料収納用ミニチューブを80℃前後にまで加熱するような場合に、ICチップの収容凹部内の空気の膨張によって、封止樹脂が収容凹部から押し出された。このように、少なくともマイクロチューブがポリプロピレンで形成してある場合であって、その使用温度幅が大きい場合には、封止作用が損なわれてしまうため実用上問題がある。
【0008】
マイクロチューブは遠心分離機に装填されて、チューブに収容した試料を遠心分離することがあり、その場合にはチューブ本体の下端に配置したICチップおよびチップホルダーに大きな遠心力がかかる。そのため、遠心分離を行なうマイクロチューブにおいては、大きな遠心力が作用する際に、ICチップおよびチップホルダーがチューブ本体から分離することがあってはならない。しかし、少なくとも特許文献2・3のマイクロチューブには、その点の配慮が見受けられない。
【0009】
本発明の目的は、ICチップをチューブ本体に対してより簡単な構造で強固に装填でき、さらに大きな遠心力にも充分に耐えてICチップの装填状態を常に適正に保持し続けることができるマイクロチューブを提供することにある。
本発明の目的は、使用温度幅が大きい場合であっても問題なく適用できる汎用性に優れたマイクロチューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るマイクロチューブは、図2に示すように、チューブ本体1と、チューブ本体1の下部の下筒壁5に装着されるチップホルダー3と、チップホルダー3の内部に配置されるICチップ4とを備えている。チップホルダー3は、フランジ部8と、下筒壁5の内面に圧入される圧入栓部9とを一体化して構成する。詳しくは、ICチップ4をフランジ部8で保持し、ICチップ4の外面を覆う状態で圧入栓部9を2次成形して、ICチップ4をフランジ部8と圧入栓部9との間にインサート固定する(図1参照)。
【0011】
圧入栓部9は、下筒壁5の内面に圧入される栓本体21と、栓本体21の下面に設けられるチップシール部22とで構成する。栓本体21の周面に形成した通気部23を介して、下筒壁5の内部で膨張する空気を下筒壁5の外部へ放出できるようにする。
【0012】
図3に示すように、フランジ部8の圧入栓部9との接合面に、ICチップ4を収容する装填部12を凹み形成する。装填部12の内周面に複数の保持突起18を形成する。ICチップ4を装填部12に装填した状態において、ICチップ4の周縁を保持突起18で挟持固定する。
【0013】
圧入栓部9を2次成形した状態において、装填部12の外面を圧入栓部9のチップシール部22で封止する。
【0014】
フランジ部8に、下筒壁5の筒端面で受け止められるストッパー面14を設ける。ストッパー面14の一部に、通気部23に連通する通気切欠15を形成する。
【0015】
下筒壁5の内部に下すぼまりテーパー状の集液部6を設ける。栓本体21の内部に、集液部6の外面を保持する下すぼまりテーパー状の保持穴24を形成する。フランジ部8の圧入栓部9との接合面に突設したリブ壁13を、圧入栓部9の2次成形時に栓本体21の肉壁内にインサートする。
【0016】
図8に示すように、下筒壁5と圧入栓部9との間に、互いに嵌係合してチップホルダー3の装着状態を保持する嵌合溝31と嵌合突起32とを設ける。
【0017】
下筒壁5の内面に嵌合溝31を形成し、圧入栓部9の栓本体21の周面に嵌合突起32を形成する。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、ICチップ4をチップホルダー3の内部に配置し、チップホルダー3をチューブ本体1の下筒壁5に圧入することにより、ICチップ4をチューブ本体1と一体化した。また、フランジ部8と圧入栓部9とでチップホルダー3を構成し、フランジ部8の外面側に圧入栓部9を2次成形して、両者8・9の間にICチップ4を固定するようにした。
【0019】
上記のように、ICチップ4をフランジ部8と圧入栓部9との間にインサート固定すると、ICチップの外面を樹脂封止する場合に比べて、形状および寸法精度に優れたチップホルダー3を形成することができる。また、形状や寸法精度に優れた圧入栓部9を下筒壁5に圧入して、これら両者5・9の間の摩擦力によってチップホルダー3の装着状態を保持するので、ICチップ4をチューブ本体1に対してより簡単な構造で強固に装填できる。圧入栓部9を下筒壁5に圧入した状態における摩擦力のばらつきもない。したがって、チューブ本体1に収容した試料を遠心分離する場合であっても、大きな遠心力にも充分に耐えてチップホルダー3の装填状態を常に適正に保持し続けることができ、ICチップ4を備えたマイクロチューブの汎用性を拡大できる。
【0020】
下筒壁5に圧入される栓本体21とチップシール部22とで圧入栓部9を構成し、栓本体21の周面に通気部23を設けると、下筒壁5の内部で膨張する空気を通気部23を介して下筒壁5の外部へ放出できる。したがって、マイクロチューブの使用温度幅が大きい場合であっても、下筒壁5の内部空気の膨張によって、チップホルダー3が下筒壁5から分離するのを確実に防止して、マイクロチューブの汎用性をさらに拡大できる。
【0021】
フランジ部8の装填部12に装填したICチップ4を、装填部12の内面に設けた保持突起18で挟持固定すると、ICチップ4を装填部12に対して適正に位置決めした状態で固定できる。また、2次成形を行なう過程で、装填部12に流入する溶融樹脂によってICチップ4が遊動するのを防止して、ICチップ4を適正な位置にインサート固定できる。したがって、ICチップ4とリーダライターとの間の通信を常に適正に確立できる信頼性に優れたマイクロチューブが得られる。
【0022】
圧入栓部9を2次成形した状態において、装填部12に入り込んだチップシール部22でICチップ4を封止すると、ICチップ4の外面全体をフランジ部8と圧入栓部9とで覆って周囲の環境からICチップ4を遮断し、水密状および気密状に封止固定できる。したがって、あらゆる使用環境下でマイクロチューブを使用できることとなり、その適用範囲をさらに拡大できる。また、ICチップ4をチップシール部22で水密状および気密状に封止固定するので、マイクロチューブを繰り返し使用するときのICチップ4の劣化や変質がなく、したがってICチップ4とリーダライターとの間の通信を、高い信頼性の許に行なえる。
【0023】
フランジ部8にストッパー面14を設けると、チップホルダー3を下筒壁5に圧入する際に、ストッパー面14を下筒壁5の筒端面で受け止めて、チップホルダー3が下筒壁5の内部に過剰に圧入されるのを防止できる。したがってチップホルダー3を下筒壁5に対して常に適正に装填できる。ストッパー面14の一部に、通気部23に連通する通気切欠15を形成すると、下筒壁5の内部で膨張する空気を、下筒壁5の外部へ向かって通気部23と通気切欠15を介してさらに確実に放出できる。チップホルダー3を再使用する場合には、通気切欠15に指先や爪を引っ掛けてチップホルダー3を下筒壁5から抜き外し操作することにより、より簡便にチップホルダー3を取り外すことができる。
【0024】
栓本体21の内部に保持穴24を形成し、フランジ部8に設けたリブ壁13を、圧入栓部9の2次成形時に栓本体21の肉壁内にインサートすると、栓本体21が過剰に弾性変形されるのをリブ壁13で規制して、栓本体21を下筒壁5に適正に密着できる。また、2次成形される圧入栓部9とフランジ部8との接合強度を、リブ壁13の表面積の分だけ増強して両者8・9を強固に一体化できる。
【0025】
下筒壁5と圧入栓部9との間に、互いに嵌係合する嵌合溝31と嵌合突起32を設けると、筒壁5と圧入栓部9との間の摩擦力に加えて、嵌合溝31と嵌合突起32との機械的な係合力によっても、チップホルダー3を分離不能に保持し固定できる。したがって、チップホルダー3をチューブ本体1に対してさらに強固に固定できる。とくに、マイナス80℃で保存したマイクロチューブを冷凍庫から取り出す際に、チューブ本体1に衝撃や、大きな外力が作用するような場合でも、チップホルダー3の装着状態を保持して、チップホルダー3の装填状態を適正に保持し続けることができる。
【0026】
弾性変形しやすい圧入栓部9の側に嵌合突起32を形成すると、圧入栓部9を2次成形したのち、嵌合突起32を弾性変形させながら支障なく離型することができる。したがって、圧入栓部9に比べて弾性変形しにくい下筒壁5に嵌合突起32を形成する場合に比べて成形用金型を簡素化して、チップホルダー3の製造に要するコストを削減できる。なお、チューブ本体1の側に嵌合突起32を形成する場合には、金型を無理抜きする際に嵌合突起32が変形するおそれがあり、これを避けるには金型を分割する必要があるため、成形用金型の構造が複雑になるのを避けられない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るICチップの装着構造を示す断面図である。
【図2】マイクロチューブの一部を破断した分解断面図である。
【図3】チップホルダーを構成するフランジ部の斜視図である。
【図4】チップホルダーの斜視図である。
【図5】図1におけるA−A線断面図である。
【図6】チップホルダーの別の実施例を示す斜視図である。
【図7】チップホルダーのさらに別の実施例を示す正面図である。
【図8】マイクロチューブの別の実施例を示す断面図である。
【図9】図8におけるチップホルダーの嵌合構造を示す断面図である。
【図10】マイクロチューブのさらに別の実施例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(実施例) 図1ないし図5は本発明に係るマイクロチューブの実施例を示す。図2においてマイクロチューブは、チューブ本体1と、チューブ本体1の開口を開閉するキャップ2と、チューブ本体1に装着されるチップホルダー3と、チップホルダー3の内部に配置されるICチップ4とで構成する。チューブ本体1の過半下部には円筒状の下筒壁5が設けてあり、下筒壁5の内部には下すぼまりテーパー状の集液部6が設けてある。集液部6より上側の筒内空間に試料液が収容される。
【0029】
下筒壁5の下端は、集液部6の下端の丸められた部分より下方に突設してあり、したがって、チューブ本体1は下筒壁5を脚体にして机上や台上に自立することができる。キャップ2はチューブ本体1の開口周囲壁にねじ込み装着されており、キャップ2をつかんで締緩操作することによりチューブ本体1に対して着脱できる。チューブ本体1およびキャップ2は、例えば透明なポリプロピレンを素材とする射出成形品からなり、チューブ本体1と下筒壁5と集液部6とは一体に成形してある。
【0030】
チップホルダー3は、フランジ部8と、フランジ部8より上側の圧入栓部9とを一体化して構成してあり、両者8・9の接合面の間にICチップ4が埋設固定してある。その詳細は後述する。ICチップ4は、正方形の基板の上面に微細なICモジュールとアンテナコイルなどを実装して構成した非接触式の近接型のRFIDであり、その一辺の長さは2.5mmである。
【0031】
図3に示すように、フランジ部8は、ポリアミドを素材とする円盤状の射出成形品からなり、圧入栓部9との接合面の側に、円形の接合座11が凹み形成され、接合座11の中央にICチップ4を収容する装填部12が凹み形成してある。接合座11の周囲4個所には、補強用のリブ壁13が上向きに突設してあり、これらのリブ壁13の基端を囲む平坦面は、下筒壁5の筒端面と接当するストッパー面14になっている。ストッパー面14の外直径寸法は、下筒壁5の内径寸法より大きく設定してあり、その対向する2個所には、通気切欠15と、圧入栓部9用のゲート凹部16とが凹み形成してある。
【0032】
図1に示すように、フランジ部8の下面側には、長円状の位置決め凹部17が形成してある。正方形の装填部12の辺部周面のそれぞれには、部分円弧状の保持突起18が突設してある。ICチップ4を装填部12に押し込むと、その周側面が保持突起18を弾性変形させながら、装填部12の底面で受け止められ、これにより、ICチップ4は4個の保持突起18で抜け外れ不能に挟持固定される。
【0033】
圧入栓部9はシリコーンゴム製の射出成形品からなり、上記のようにICチップ4が装填された状態のフランジ部8を成形金型に装填した状態で2次成形することにより、フランジ部8と一体化される。得られた、圧入栓部9は、下筒壁5の内面に圧入される丸軸状の栓本体21と、栓本体21の下面に設けられるチップシール部22を一体に備えている。図2に示すように、自由状態における丸軸状の栓本体21の直径寸法D1は、下筒壁5の内径寸法D2より大きく設定してあり、図1に示すように、圧入栓部9を下筒壁5に圧入した状態では、栓本体21が弾性変形した状態で下筒壁5に密着する。なお、この実施例における栓本体21の直径寸法D1は9.2mm、下筒壁5の内径寸法D2は8.8mmとした。
【0034】
栓本体21の周面の一個所には、平坦面からなる通気部23が形成してある。また、栓本体21の内部には、集液部6の下部外面を保持する下すぼまりテーパー状の保持穴24が、上向きに開口する状態で形成してある。圧入栓部9を下筒壁5に圧入した状態においては、栓本体21と同様に保持穴24も弾性変形した状態で集液部6に密着する。栓本体21の上端周縁には、上すぼまりテーパー状の圧入案内面25が形成してあり、栓本体21の下部周縁には、下すぼまりテーパー状の逃げ面26が形成してある。逃げ面26は、圧入栓部9を下筒壁5に圧入する際に、ストッパー面14を下筒壁5に確実に接当させるために設けてある。
【0035】
先に説明したように、圧入栓部9は2次成形によって形成するが、そのとき、通気部23の成形位置を、フランジ部8に設けた通気切欠15の位置と一致させるために、成形金型に装填したフランジ部8を位置決め凹部17で位置決めしている。2次成形時のシリコーンゴムは、フランジ部8に設けたゲート凹部16から成形空間に注入されて、栓本体21、およびチップシール部22を形成する。このとき、フランジ部8のリブ壁13が、栓本体21の肉壁の内部にインサートされて栓本体21を補強し、栓本体21が過剰に弾性変形するのを規制する。
【0036】
ゲート凹部16から成形空間に注入されたシリコーンゴムの一部は、ストッパー面14を介して接合座11に流動し、さらに装填部12に流入することによりチップシール部22を形成する。このように、装填部12に嵌め込んだICチップ4は、2次成形された圧入栓部9とフランジ部8との間にインサート固定されて、チップシール部22によって確実に封止される。したがって、マイクロチューブが、結露しやすい環境や、霜あるいは氷が付着しやすい環境で使用される場合であっても、ICチップ4を確実に封止し保護できる。
【0037】
以上のように構成したマイクロチューブは、図1に示すように、チップホルダー3をチューブ本体1の下筒壁5に下面側から圧入して、チューブ本体1と一体化する。このとき、チップホルダー3が過剰に押し込まれるのを防ぐために、ストッパー面14を下筒壁5の下端面で受け止めている。チップホルダー3を下筒壁5に装着した状態においては、栓本体21の周面が下筒壁5の内面に密着し、さらに保持穴24が集液部6に外接している。この状態のマイクロチューブは、フランジ部8および下筒壁5を脚体にして自立することができる。
【0038】
上記のように、栓本体21の周面が下筒壁5の内面に密着した状態において、図5に示すように、通気部23と下筒壁5との間には通気路28が確保されている。したがって、マイクロチューブの使用温度幅が大きい場合であっても、下筒壁5の内部の空気の膨張によって、チップホルダー3が抜け外れるのを確実に防止できる。たとえば、マイナス40℃の低温で保存していたマイクロチューブを80℃前後にまで加熱するような場合であっても、膨張した空気を通気路28と通気切欠15を介して下筒壁5の外へ放出して、下筒壁5の内圧が周辺空間の圧力より大きくなるのを防止できる。チップホルダー3は繰り返し使用することができ、その場合には、通気切欠15を指先や爪を引っ掛けるための取り外し部として利用することにより、チップホルダー3を下筒壁5から容易に取り外すことができる。
【0039】
以上のように構成したマイクロチューブで遠心分離を行なう場合に、チップホルダー3が大きな遠心力に耐えて、下筒壁5に対して装着状態を維持し続けることができるか否かの耐久試験を行なった。具体的には、卓上型の遠心分離機のローターに、上記の実施例で説明したチップホルダー3が圧入されたチューブ本体1を装填し、ローターを30秒間駆動して、チップホルダー3の下筒壁5に対する装着状態の変化を確認した。ローターに装填した状態におけるチューブ本体1の傾斜角度は水平面に対して45度であった。また、チップホルダー3の重量は0.44g、チップホルダー3の回転半径は48mmであった。ローターの駆動回転数は10000rpmとした。この試験条件でチップホルダー3に作用する抜出力(遠心力の傾斜方向の分力)は61gfとなる。耐久試験の結果、チップホルダー3の下筒壁5に対する装着状態に変化はなく、実施例で説明したマイクロチューブが、チューブ本体1に収容した試料を遠心分離する用途にも問題なく使用できることを確認した。
【0040】
チップホルダー3に内蔵したICチップ4に対する試料の固有情報や関連情報の書き込みは、たとえば、一群のチューブ本体1をチューブラックに立てた状態で、リーダライターをチップホルダー3のフランジ部8の下面に接近させて行なうことができる。また、データの書き換えや新たなデータの追記なども同様にして行なうことができる。
【0041】
図6および図7のそれぞれに、チップホルダー3の別の実施例を示す。図6においては、丸軸状の栓本体21の周面の一部に部分円弧状の溝からなる通気部23を形成した。他は先の実施例と同じであるので、同じ部材に同じ符号を付してその説明を省略する。図7以下においても同じとする。必要があれば、溝状の通気部23は栓本体21の周面の複数箇所に形成することができる。
【0042】
図7においては、丸軸状の栓本体21の周面に圧入リング30を多段状に形成し、各圧入リング30に平坦な通気部23を設けるようにした。この場合には、膨張した空気は各通気部23と、各圧入リング30の間の隙間を通過しながら放出される。
【0043】
図8および図9はマイクロチューブの別の実施例を示す。そこでは、下筒壁5と圧入栓部9の嵌合部分に、互いに嵌係合する嵌合溝31と嵌合突起32を設けて、チップホルダー3がチューブ本体1から抜け外れるのを防止できるようにした。詳しくは、下筒壁5の内面下部に嵌合溝31を周回状に形成し、圧入栓部9の栓本体21の周面に、嵌合溝31と嵌係合する嵌合突起32を周回状に形成した。嵌合溝31の凹み深さは0.1mmとし、筒軸方向の凹み長さは2.2mmとした。なお、この実施例におけるチューブ本体1の試料の容量は0.5mlであり、そのため集液部6の下端が下筒壁5の下端より高い位置に設けられ、集液部6の下端にゲート軸部33が下向きに突設してある。そのため、圧入栓部9に保持穴24に換えて、ゲート軸部33と係合する係合穴34を形成した。
【0044】
上記のように、圧入栓部9を下筒壁5に圧入したとき、嵌合突起32と嵌合溝31を嵌係合させると、下筒壁5と圧入栓部9との間の摩擦力に加えて、嵌合溝31と嵌合突起32との機械的な係合力によっても、チップホルダー3を分離不能に保持し固定できる。したがって、チップホルダー3をチューブ本体1に対してさらに強固に固定できる。例えば、マイナス80℃で保存したマイクロチューブを冷凍庫から取り出す際に、チューブ本体1に衝撃が作用するような場合でも、チップホルダー3の装着状態を保持することができる。また、チューブ本体1に収容した試料を遠心分離する場合であっても、大きな遠心力にも充分に耐えてチップホルダー3の装填状態を常に適正に保持し続けることができる。
【0045】
また、弾性変形しやすいシリコーンゴム製の圧入栓部9に嵌合突起32を形成すると、圧入栓部9を2次成形したのち、嵌合突起32を弾性変形させながら離型することができる。したがって、下筒壁5に嵌合突起32を形成する場合に比べて成形用金型を簡素化して、チップホルダー3の製造に要するコストを削減できる。因みに、ポリプロピレンを素材とするチューブ本体1の側に嵌合突起32を形成する場合には、金型を無理抜きする際に嵌合突起32が変形するおそれがあり、これを避けるには金型を分割する必要があるので成形用金型の構造が複雑になりやすい。
【0046】
図10はマイクロチューブのさらに別の実施例を示す断面図である。そこでは、図1から図5で説明したマイクロチューブと同様に、試料の容量が1.0mlであるチューブ本体1に、図8および図9で説明したチップホルダー3を装着している。そのため、圧入栓部9に下すぼまりテーパー状の保持穴24を設け、集液部6の下部外面を保持穴24で保持できるようにした。
【0047】
上記の実施例では、下筒壁5の直径がチューブ本体1の直径と同じである場合について説明したが、その必要はなく、下筒壁5の直径はチューブ本体1の直径とは無関係に大小に変更することができる。例えば、チューブ本体1の直径より大きな直径の筒体を別途形成しておき、筒体の上端内部にチューブ本体1を圧入して一体化し、筒体の下部を下筒壁5とすることができる。下筒壁5の断面は円形である必要はなく、多角形や楕円形などに変更することができる。その場合の栓本体21の断面は、下筒壁5の断面形状に対応して形成するとよい。
【0048】
圧入栓部9の形成素材はシリコーンゴムが好適ではあるが、必要があれば天然ゴム、あるいはウレタンゴム、ふっ素ゴム、その他の合成ゴムなどで形成することができる。フランジ部8の形成素材は、ポリアミドである必要はなく、ポリカーボネイトやポリブチレンテレフタレートなどを素材にして形成することができる。ICチップ4は、フランジ部8の大きさの範囲内でチップ基板を大きく形成し、より大きなアンテナコイルを備えている形態とすることができる。リブ壁13は筒壁状に形成することができる。
【0049】
チューブ本体1によっては、集液部6の下端が、下筒壁5の下端より充分に高い位置に設けてある場合があるが、こうした場合には、下すぼまりテーパー状の保持穴24に換えて、ストレート穴からなる逃げ穴を形成することができる。
【0050】
必要があれば、集液部6と保持穴24との間、あるいはゲート軸部33と係合穴34との間にも嵌合突起32および嵌合溝31を設けて、チップホルダー3のチューブ本体1に対する組付け強度を増強することができる。さらに必要があれば、圧入栓部9を下筒壁5に外嵌する状態で圧入して、チップホルダー3とチューブ本体1と一体化することができる。その場合にも、下筒壁5と圧入栓部9との間に、互いに嵌係合する嵌合溝31と嵌合突起32を設けることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 チューブ本体
3 チップホルダー
4 ICチップ
5 下筒壁
8 フランジ部
9 圧入栓部
12 装填部
21 栓本体
22 チップシール部
23 通気部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ本体(1)と、チューブ本体(1)の下部の下筒壁(5)に装着されるチップホルダー(3)と、チップホルダー(3)の内部に配置されるICチップ(4)とを備えているマイクロチューブであって、
チップホルダー(3)は、フランジ部(8)と、下筒壁(5)の内面に圧入される圧入栓部(9)とを一体化して構成されており、
ICチップ(4)をフランジ部(8)で保持し、ICチップ(4)の外面を覆う状態で圧入栓部(9)を2次成形して、ICチップ(4)がフランジ部(8)と圧入栓部(9)との間にインサート固定してあることを特徴とするマイクロチューブ。
【請求項2】
圧入栓部(9)が、下筒壁(5)の内面に圧入される栓本体(21)と、栓本体(21)の下面に設けられるチップシール部(22)とで構成されており、
栓本体(21)の周面に形成した通気部(23)を介して、下筒壁(5)の内部で膨張する空気を下筒壁(5)の外部へ放出できる請求項1に記載のマイクロチューブ。
【請求項3】
フランジ部(8)の圧入栓部(9)との接合面に、ICチップ(4)を収容する装填部(12)が凹み形成されており、
装填部(12)の内周面に複数の保持突起(18)が形成されており、
ICチップ(4)を装填部(12)に装填した状態において、ICチップ(4)の周縁が保持突起(18)で挟持固定してある請求項1または2に記載のマイクロチューブ。
【請求項4】
圧入栓部(9)を2次成形した状態において、装填部(12)の外面が圧入栓部(9)のチップシール部(22)で封止してある請求項2または3に記載のマイクロチューブ。
【請求項5】
フランジ部(8)に、下筒壁(5)の筒端面で受け止められるストッパー面(14)が設けられており、
ストッパー面(14)の一部に、通気部(23)に連通する通気切欠(15)が形成してある請求項2、3または4に記載のマイクロチューブ。
【請求項6】
下筒壁(5)の内部に下すぼまりテーパー状の集液部(6)が設けられており、
栓本体(21)の内部に、集液部(6)の外面を保持する下すぼまりテーパー状の保持穴(24)が形成されており、
フランジ部(8)の圧入栓部(9)との接合面に突設したリブ壁(13)が、圧入栓部(9)の2次成形時に栓本体(21)の肉壁内にインサートしてある請求項2から5のいずれかひとつに記載のマイクロチューブ。
【請求項7】
下筒壁(5)と圧入栓部(9)との間に、互いに嵌係合してチップホルダー(3)の装着状態を保持する嵌合溝(31)と嵌合突起(32)とが設けてある請求項1から6のいずれかひとつに記載のマイクロチューブ。
【請求項8】
下筒壁(5)の内面に嵌合溝(31)が形成され、圧入栓部(9)の栓本体(21)の周面に嵌合突起(32)が形成してある請求項7に記載のマイクロチューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−227067(P2011−227067A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72243(P2011−72243)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(591009093)マクセル精器株式会社 (30)
【Fターム(参考)】