説明

マイクロバルブ

【課題】弁体部が複数本のビームを介してフレーム部に支持されて弁体部のみに可動電極が形成されている従来構成に比べて、弁体部が傾くのを抑制できて動作安定性を向上でき、しかも、応答速度の高速化を図れるとともに、弁体部が弁孔を開放した状態における弁体部と弁孔の周辺部との間の流路での圧力損失を低減できるマイクロバルブを提供する。
【解決手段】弁体形成基板20は、フレーム部21の内側でフレーム部21と連続一体に形成され厚み方向に撓み可能なダイヤフラム部23を有し、ダイヤフラム部23の中央部に弁体部22が連続一体に設けられている。ダイヤフラム部23には、流入口50と弁孔12との間の流体の流路となる複数の流路孔26が厚み方向に貫設されている。可動電極24は、ダイヤフラム部23の全域に形成され、固定電極34は固定電極形成基板30においてダイヤフラム部23に対向する部位に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の流れを制御するマイクロバルブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、産業機器や医療機器などに用いて微量な流体の流れを制御する流体制御装置として、シリコン基板のような半導体基板をマイクロマシンニング技術により加工して形成した構造体を用いたマイクロバルブが各所で研究開発されており、例えば、構造体に一体に設けた弁体部を、静電引力を利用して駆動する静電型アクチュエータが一体化されたものが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
ここにおいて、上記特許文献1に開示されたマイクロバルブは、例えば、図7(a),(b)に示すように、弁孔12’が厚み方向に貫設された矩形板状の弁座基板10’と、半導体基板を用いて形成されて弁座基板10’の一表面側(図7(a)の上面側)に固着される矩形枠状のフレーム部21’およびフレーム部21’の内側に配置され弁孔12’を開閉する弁体部22’を有し弁体部22’における弁座基板10’とは反対側に可動電極24’が形成された弁体形成基板20’と、弁体形成基板20’における弁座基板10’とは反対側に固着され弁体形成基板20’との間に弁体部22’の変位を可能とする空間を形成するとともに可動電極24’に対向する固定電極34’が形成された細長の固定電極形成基板30’とを備えており、可動電極24’の表面には当該可動電極24’と固定電極34’との導通を防止する絶縁層25’が形成されている。ここにおいて、弁体形成基板20’は、外周形状が矩形状の弁体部22’が当該弁体部22’の4辺それぞれに沿って配置された4本のビーム27’を介してフレーム部21’に支持されている。
【0004】
上述のマイクロバルブでは、弁体形成基板20’と固定電極形成基板30’との間に接合層40’を介在させることにより、可動電極24’と固定電極34’との間に電圧が印加されていない状態で絶縁層25’と固定電極34’との間に弁体部22’の変位空間が確保されるようにしてある。
【0005】
以上説明した図7(a),(b)に示す構成のマイクロバルブでは、可動電極24’に電気的に接続されたパッド(図示せず)と固定電極34’に電気的に接続されたパッド(図示せず)との間に電圧を印加したときに可動電極24’と固定電極34’との間に発生する静電力によって弁孔12’を開放する向きに弁体部22’を変位させるようになっている。すなわち、上述のマイクロバルブは、可動電極24’と固定電極34’との間に電圧を印加していない状態では、図7(a)に示すように弁体部22’により弁孔12’が閉止されており、可動電極24’と固定電極34’との間に駆動電圧源から規定電圧以上の電圧を印加すると、弁体部22’が弁孔12’から離れる向きに変位して弁孔12’が開放される。要するに、上述のマイクロバルブは、ノーマリクローズ型のマイクロバルブを構成している。
【特許文献1】特開2005−180530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図7(a),(b)に示した構成のマイクロバルブでは、上述のように弁体部22’が4本のビーム27’を介してフレーム部21’に支持されており、可動電極24’の面積を大きくすることで駆動電圧の低減を図っているので、弁体部22’における弁座基板10’との対向面の面積が弁孔12’の開口面積に比べて大きくなり過ぎ、弁体部22’が弁孔12’を開放した状態において弁体部22’と弁孔12’の周辺部との間の流路での圧力損失が大きくなってしまうという不具合があった。また、上記マイクロバルブでは、弁体部22’の質量が大きくなるので、応答速度が遅くなってしまうという不具合があった。また、上記マイクロバルブでは、上述のように弁体部22’が4本のビーム27’を介してフレーム部21’に支持されているので、各ビーム27’の反りなどに起因して弁体部22’が傾いて動作が不安定になってしまうことがあった。
【0007】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、弁体部が複数本のビームを介してフレーム部に支持されて弁体部のみに可動電極が形成されている従来構成に比べて、弁体部が傾くのを抑制できて動作安定性を向上でき、しかも、応答速度の高速化を図れるとともに、弁体部が弁孔を開放した状態における弁体部と弁孔の周辺部との間の流路での圧力損失を低減できるマイクロバルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、弁孔が厚み方向に貫設された弁座基板と、半導体基板を用いて形成されて弁座基板の一表面側に固着されるフレーム部およびフレーム部の内側に配置され弁孔を開閉する弁体部を有し弁体部における弁座基板とは反対側に可動電極が形成された弁体形成基板と、弁体形成基板における弁座基板とは反対側に固着され弁体形成基板との間に弁体部の変位を可能とする空間であり流体の流入口に連通する空間を形成するとともに可動電極に対向する固定電極が形成された固定電極形成基板とを備え、可動電極と固定電極との間に電圧を印加したときに可動電極と固定電極との間に発生する静電力によって弁孔を開放する向きに弁体部を変位させるマイクロバルブであって、可動電極と固定電極との少なくとも一方の表面に両者の導通を防止する絶縁層が形成され、弁体形成基板は、フレーム部の内側でフレーム部と連続一体に形成されるとともに流入口と弁孔との間の流体の流路となる流路孔を有し厚み方向に撓み可能なダイヤフラム部に前記弁体部が連続一体に設けられ、前記可動電極は、ダイヤフラム部において弁体部が設けられている領域よりも広い範囲に亘って形成され、前記固定電極は、固定電極形成基板においてダイヤフラム部に対向する部位に形成されてなることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、弁体形成基板の弁体部が、フレーム部の内側でフレーム部と連続一体に形成されるとともに流入口と弁孔との間の流体の流路となる流路孔を有し厚み方向に撓み可能なダイヤフラム部に連続一体に設けられているので、弁体部がフレーム部に複数本のビームを介してフレーム部に支持されて弁体部のみに可動電極が形成されている従来構成に比べて、弁体部が傾くのを抑制できて動作安定性を向上でき、しかも、可動電極が、ダイヤフラム部において弁体部が設けられている領域よりも広い範囲に亘って形成され、固定電極が、固定電極形成基板においてダイヤフラム部に対向する部位に形成されているので、従来構成に比べて駆動電圧を高くすることなく弁体部の小型化を図れ、応答速度の高速化を図れるとともに、弁体部が弁孔を開放した状態における弁体部と弁孔の周辺部との間の流路での圧力損失を低減できる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記弁体形成基板は、前記可動電極と前記固定電極との間に電圧が印加されていない状態で前記弁体部が前記弁孔を閉止する閉止力が作用するように前記ダイヤフラム部に応力が付与されてなることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、前記可動電極と前記固定電極との間に電圧が印加されていない状態での前記弁体部による前記弁孔の閉止力を高めることができ、流体が漏れるのを防止することができる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記弁体形成基板は、前記可動電極と前記固定電極との間に電圧が印加されていない状態で前記弁体部が前記弁孔を閉止する閉止力が作用するように前記ダイヤフラム部を中央部が周部に比べて前記弁座基板に近くなる形状に形成してなることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、前記可動電極と前記固定電極との間に電圧が印加されていない状態での前記弁体部による前記弁孔の閉止力を高めることができ、流体が漏れるのを防止することができる。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1の発明において、前記弁体部は、前記可動電極と前記固定電極との間に電圧が印加されていない状態では、前記流入口を通して前記空間に流入した流体の圧力により前記ダイヤフラム部が撓むことによって前記弁孔を閉止した状態を保持することを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、前記可動電極と前記固定電極との間に電圧が印加されていない状態においては流体の圧力を利用して前記弁孔を閉止することができる一方で、前記ダイヤフラム部には当該ダイヤフラム部が流体の圧力がかかっていないときの平衡状態へ戻ろうとする反力(復元力)が働いているので、より低い駆動電圧で前記弁体部を前記弁孔から離れる向きに変位させることができ、低消費電力化を図れる。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4の発明において、前記可動電極と前記固定電極との間に電圧が印加されていない状態では、前記ダイヤフラム部の周部に比べて中央部の方が前記可動電極と前記固定電極との間の間隔が大きいことを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、前記弁体部の変位量を大きくすることができ、前記弁孔を開放した状態で前記弁孔を流れる流体の流量を多くすることが可能となる。
【0018】
請求項6の発明は、請求項1ないし請求項5の発明において、前記流入口は、前記固定電極形成基板において前記流路孔と重なる部位で厚み方向に貫設されてなることを特徴とする。
【0019】
この発明によれば、前記流入口と前記流路孔との間での圧力損失を低減できる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明では、弁体部が複数本のビームを介してフレーム部に支持されて弁体部のみに可動電極が形成されている従来構成に比べて、弁体部が傾くのを抑制できて動作安定性を向上でき、しかも、応答速度の高速化を図れるとともに、弁体部が弁孔を開放した状態における弁体部と弁孔の周辺部との間の流路での圧力損失を低減できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(実施形態1)
以下、本実施形態のマイクロバルブについて図1〜図4を参照しながら説明する。 本実施形態のマイクロバルブは、弁孔12が厚み方向に貫設された矩形板状の弁座基板10と、弁座基板10の一表面側(図1の上面側)に固着される矩形枠状のフレーム部21およびフレーム部21の内側に配置され弁孔12を開閉する弁体部22を有し弁体部22における弁座基板10とは反対側に可動電極24が形成された弁体形成基板20と、弁体形成基板20における弁座基板10とは反対側に固着され弁体形成基板20との間に弁体部22の変位を可能とする空間であり流体の流入口50に連通する空間36を形成するとともに可動電極24に対向する固定電極34が形成された固定電極形成基板30とを備えている。
【0022】
本実施形態では、弁体形成基板20が半導体基板であるシリコン基板を用いて形成されるとともに、弁座基板10および固定電極形成基板30が両方ともパイレックス(登録商標)からなるガラス基板を用いて形成されており、弁体形成基板20と弁座基板10とが陽極接合により固着され、弁体形成基板20と固定電極形成基板30とが例えばアルミニウム膜からなる接合層40を介して陽極接合により固着されている。なお、弁体形成基板20に用いるシリコン基板としては、主表面が(100)面で低不純物濃度のp形シリコン基板を採用している。また、弁座基板10および固定電極形成基板30は、ガラス基板に限らず、半導体基板を用いて形成してもよい。
【0023】
弁体形成基板20は、上述のシリコン基板をマイクロマシンニング技術により加工することで形成してあり、具体的には、リソグラフィ技術、エッチング技術などを利用して形成してあり、フレーム部21の内側でフレーム部21と連続一体に形成され厚み方向に撓み可能なダイヤフラム部23を有し、ダイヤフラム部23の中央部に弁体部22が連続一体に設けられている。ここにおいて、ダイヤフラム部23は、アルカリ系溶液(例えば、EPW、KOH、TMAHなどの水溶液)を用いた異方性エッチング技術を利用して形成されており、弁体部22は、ダイヤフラム部23から離れる(弁座基板10に近づく)につれて断面積が徐々に小さくなる形状に形成されている。また、ダイヤフラム部23には、流入口50と弁孔12との間の流体の流路となる複数(図示例では、2つ)の流路孔26が厚み方向に貫設されている。
【0024】
また、弁体形成基板20は、弁座基板10側とは反対の一表面側に高濃度(例えば、1020cm-3程度)の不純物拡散層(例えば、ボロンを高濃度に拡散した不純物拡散層)204が形成されており、当該不純物拡散層204のうちダイヤフラム部23に形成された部位が可動電極24を構成している。なお、本実施形態では、例えばEPWの水溶液を用いた異方性エッチング技術を利用してダイヤフラム部23を形成する際に、不純物拡散層204をエッチングストッパ層として利用することができるので、ダイヤフラム部23の肉厚を精度良く制御することができる。
【0025】
また、弁体形成基板20は、上記一表面側において不純物拡散層204の表面に絶縁膜(例えば、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜など)205が形成されており、フレーム部21において絶縁膜205に設けたコンタクトホール206に一部が埋め込まれて可動電極24と電気的に接続された通電用電極28が形成されている。また、弁体形成基板20には、フレーム部21において絶縁膜205上に、固定電極34と電気的に接続される通電用電極29が形成されている。ここで、絶縁膜205のうちダイヤフラム部23に積層されている部位が、可動電極24と固定電極34との導通を防止する絶縁層25を構成している。なお、本実施形態では、可動電極24の表面に可動電極24と固定電極34との導通を防止する絶縁層25を設けてあるが、両者の導通を防止する絶縁層は、可動電極24の表面ではなく固定電極34の表面に設けるようにしてもよいし、可動電極24および固定電極34それぞれの表面に設けるようにしてもよい。
【0026】
固定電極形成基板30は、弁体形成基板20との対向面と一側面とが開放されている流路用凹部33が形成されており、固定電極形成用基板30の上記一側面側において流路用凹部33の内面と接合層40の露出表面とで囲まれた空間が流体の流入口50を構成している。
【0027】
また、固定電極形成基板30は、弁体形成基板20との上記対向面のうちダイヤフラム部23に対向する部位に上述の固定電極34が形成されている。固定電極34は、所定膜厚(例えば、0.2μm)の金属膜(例えば、アルミニウム膜など)により構成されており、例えば、スパッタ法などにより形成すればよい。ここにおいて、固定電極34は、固定電極形成基板30において弁体形成基板20の通電用電極29の一部に重なる部位まで延長されており、当該通電用電極29と電気的に接続されている。なお、固定電極34を構成する金属膜の材料はアルミニウムに限らず、例えば、白金、クロム、ニッケル、チタン、タングステン、金などを採用してもよい。
【0028】
上述の接合層40の厚み寸法は、可動電極24と固定電極34との間に電圧が印加されていない状態で固定電極34と絶縁層25との間に所定ギャップ長(例えば、2〜3μm)の上記空間36が形成されるように設定してある。
【0029】
また、固定電極形成基板30には、弁体形成基板20の各通電用電極28,29それぞれと電気的に接続される貫通配線38,39が形成されており、弁体形成基板20との上記対向面とは反対側の表面に、各貫通配線38,39それぞれと電気的に接続された2つのパッド(図示せず)が形成されている。しかして、弁体形成基板20の可動電極24は上述の通電用電極28および貫通配線38を介して一方のパッドと電気的に接続され、固定電極形成基板30の固定電極34は上述の通電用電極29および貫通配線39を介して他方のパッドと電気的に接続されている。
【0030】
ここで、貫通配線38,39は、固定電極形成基板30における貫通配線38,39のそれぞれの形成予定部位に貫通孔を形成した後、各貫通孔それぞれの内面に貫通配線38,39それぞれの一部となる金属層をスパッタ法により成膜してから、当該金属層をシード層として電解メッキ法により各貫通孔の内側を埋め込む金属部を析出させることにより形成してある。なお、本実施形態における貫通配線38,39は、必ずしも各貫通孔を完全に埋め込む形で形成する必要はなく、貫通配線38,39を形成する前の固定電極形成基板30と弁体形成基板20とを固着した後で、スパッタ法などにより各貫通孔の内面に金属層を成膜し、当該金属層を貫通配線38,39として利用するようにしてもよい。
【0031】
ところで、本実施形態のマイクロバルブでは、上述の絶縁膜205が、可動電極24と固定電極34との間に電圧が印加されていない状態において、弁体部22が弁孔12を閉止する閉止力が作用するようにダイヤフラム部23に応力を付与する応力付与膜を構成しており、当該応力付与膜を設けていない場合に引張応力が働いているダイヤフラム部23に圧縮応力が働くようになっている。なお、本実施形態では、応力付与膜を兼ねる絶縁膜205を、TEOS(Si(OC))とOとを原料ガスとしたプラズマCVD法により堆積させたシリコン酸化膜により構成してあるが、シリコン酸化膜に限らず、例えば、CVD法により堆積させたシリコン窒化膜により構成してもよい。
【0032】
しかして、本実施形態のマイクロバルブは、可動電極24と固定電極34との間に電圧が印加されていない状態では、図4に示すように弁体部22により弁孔21が閉止されており、可動電極24に電気的に接続されたパッドと固定電極34に電気的に接続されたパッドとの間に電圧を印加したときに可動電極24と固定電極34との間に発生する静電引力によって弁孔12を開放する向きに弁体部22を変位させるようになっている。すなわち、本実施形態のマイクロバルブの基本的な動作原理は図7に示した従来構成と略同じであり、可動電極24と固定電極34との間に電圧を印加していない状態では、弁体部22により弁孔12が閉止されている。これに対して、可動電極24と固定電極34との間に駆動電圧源(図示せず)から規定電圧以上の電圧を印加すると、弁体部22が弁孔12から離れる向きに変位して弁孔12が開放されるので、流入口50−上記空間36−ダイヤフラム部23の流路孔26−弁孔12の経路で流体が流れることとなる。要するに、本実施形態のマイクロバルブは、ノーマリクローズ型のマイクロバルブを構成している。
【0033】
以上説明した本実施形態のマイクロバルブでは、弁体形成基板20の弁体部22が、フレーム部21の内側でフレーム部21と連続一体に形成されるとともに流入口50と弁孔12との間の流体の流路となる流路孔26を有し厚み方向に撓み可能なダイヤフラム部23に連続一体に設けられているので、図7に示したように弁体部22’がフレーム部21’に複数本のビーム27’を介してフレーム部21’に支持されて弁体部22’のみに可動電極24’が形成されている従来構成に比べて、弁体部22が傾くのを抑制できて動作安定性を向上できる。しかも、本実施形態のマイクロバルブでは、可動電極24がダイヤフラム部23の全域に形成され(つまり、可動電極24がダイヤフラム部23において弁体部22が設けられている領域よりも広い範囲に亘って形成され)、固定電極34が固定電極形成基板30においてダイヤフラム部23に対向する部位に形成されているので、従来構成に比べて駆動電圧を高くすることなく弁体部22の小型化を図れ、応答速度の高速化を図れるとともに、弁体部22が弁孔12を開放した状態における弁体部22と弁孔12の周辺部との間の流路での圧力損失を低減できる。
【0034】
また、本実施形態のマイクロバルブでは、可動電極24と固定電極34との間に電圧が印加されていない状態では、図4のようにダイヤフラム部23の周部に比べて中央部の方が可動電極24と固定電極34との間の間隔が大きくなる(ここで、絶縁層25と固定電極34との間のギャップ長は5μm程度)ので、弁体部22の変位量(ストローク)を大きくすることができ、弁孔12を開放した状態で弁孔12を流れる流体の流量を多くすることが可能となる。ここにおいて、可動電極24と固定電極34との間に電圧を印加したときには、可動電極24と固定電極34との間隔が狭いほど静電引力が大きくなるので、ダイヤフラム部23の周部が中央部に比べて先に固定電極34に近づく向きに引き上げられるので、低電圧で大きなストロークを得ることができる。
【0035】
また、本実施形態のマイクロバルブでは、可動電極24と固定電極34との間に電圧が印加されていない状態で弁体部22が弁孔12を閉止する閉止力が作用するようにダイヤフラム部23に応力が付与されているので、可動電極24と固定電極34との間に電圧が印加されていない状態での弁体部22による弁孔12の閉止力を高めることができ、流体が漏れるのを防止することができる。
【0036】
ここにおいて、本実施形態のマイクロバルブでは、上述のように絶縁膜205が応力付与膜を構成しており、可動電極24と固定電極34との間に電圧が印加されていない状態で弁体部22が弁孔12を閉止する閉止力が作用するようにダイヤフラム部23に応力が付与されているが、ダイヤフラム部23に応力を付与する代わりに、可動電極24と固定電極34との間に電圧が印加されていない状態で弁体部22が弁孔12を閉止する閉止力が作用するようにダイヤフラム部23を図4のように中央部が周部に比べて弁座基板10に近くなるような形状に加工してもよい。
【0037】
また、図5(a)に示すように弁体部22が弁孔12を開放した状態に製造しておき、可動電極24と固定電極34との間に電圧が印加されていない状態では、流入口50を通して上記空間36に流入した流体の圧力によりダイヤフラム部23が図5(b)に示すように撓むことによって弁孔12を閉止した状態を保持するようにしてもよく、このような構成では、可動電極24と固定電極34との間に電圧が印加されていない状態においては流体の圧力を利用して弁孔12を閉止することができる一方で、ダイヤフラム部23には当該ダイヤフラム部23が流体の圧力がかかっていないときの平衡状態(つまり、図5(a)の状態)へ戻ろうとする反力(復元力)が働いているので、より低い駆動電圧で弁体部22を弁孔12から離れる向きに変位させることができ、低消費電力化を図れる。ただし、上記復元力が大き過ぎると上記閉止力が弱くなるので、流体の圧力などに応じてダイヤフラム部23の厚みや大きさを設計する必要がある。
【0038】
なお、本実施形態では、弁座基板10に1つの弁孔12を設けるとともに弁体形成基板20のダイヤフラム部23に1つの弁体部22を設けてあるが、弁座基板10に複数の弁孔12を設けるとともにダイヤフラム部23に複数の弁体部22を設けるようにすれば、各基板10,20,30のサイズを変更することなく流量を増加させることが可能となる。
【0039】
(実施形態2)
本実施形態のマイクロバルブの基本構成は実施形態1と略同じであって、図6に示すように、固定電極形成基板30の構造が相違するだけである。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0040】
ところで、実施形態1では、固定電極形成基板30における弁体形成基板20との対向面に流路用凹部33を形成してあり、固定電極形成用基板30の上記一側面側において流路用凹部33の内面と接合層40の露出表面とで囲まれた空間が流体の流入口50を構成している。
【0041】
これに対して、本実施形態では、固定電極形成基板30に流路用凹部33を形成せず、固定電極形成基板30に厚み方向に貫通する複数(図示例では、2つ)の流入口50を形成してある。ここで、固定電極形成基板30における各流入口50は、可動電極24と固定電極34との間に電圧が印加され図6に示すように弁孔12が開放されて絶縁層25と固定電極34とが接した状態で各流路孔26と重なる部位に貫設されている。
【0042】
しかして、本実施形態のマイクロバルブでは、流入口50が固定電極形成基板30において流路孔26と重なる部位で厚み方向に貫設されているので、流入口50と流路孔26との間での圧力損失を低減できる。なお、図6中の矢印は流体の流れる向きを示している。
【0043】
なお、本実施形態では、流入口50が固定電極形成基板30において流路孔26と重なる部位で厚み方向に貫設されているが、流入口50が流路孔26と重ならない部位に形成されている構成でも、弁体部22が弁孔12を開放し且つ絶縁層25が固定電極34に接しない位置にある場合や、絶縁層25と固定電極34との互いの対向面の一方に突起が設けられている場合や、弁座基板10に流入口50が設けられている場合には、流体を流すことは可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施形態1の基本構成を示し、一部破断した概略斜視図である。
【図2】同上の基本構成を示し、一部破断した概略分解斜視図である。
【図3】同上の基本構成を示す概略断面図である。
【図4】同上の概略断面図である。
【図5】同上の他の構成例の説明図である。
【図6】実施形態2の動作説明図である。
【図7】従来例を示し、(a)は概略断面図、(b)は概略斜視図、(c)は弁体形成基板の概略平面図である。
【符号の説明】
【0045】
10 弁座基板
12 弁孔
20 弁体形成基板
21 フレーム部
22 弁体部
23 ダイヤフラム部
24 可動電極
25 絶縁層
26 流路孔
30 固定電極形成基板
31 固定電極
36 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁孔が厚み方向に貫設された弁座基板と、半導体基板を用いて形成されて弁座基板の一表面側に固着されるフレーム部およびフレーム部の内側に配置され弁孔を開閉する弁体部を有し弁体部における弁座基板とは反対側に可動電極が形成された弁体形成基板と、弁体形成基板における弁座基板とは反対側に固着され弁体形成基板との間に弁体部の変位を可能とする空間であり流体の流入口に連通する空間を形成するとともに可動電極に対向する固定電極が形成された固定電極形成基板とを備え、可動電極と固定電極との間に電圧を印加したときに可動電極と固定電極との間に発生する静電力によって弁孔を開放する向きに弁体部を変位させるマイクロバルブであって、可動電極と固定電極との少なくとも一方の表面に両者の導通を防止する絶縁層が形成され、弁体形成基板は、フレーム部の内側でフレーム部と連続一体に形成されるとともに流入口と弁孔との間の流体の流路となる流路孔を有し厚み方向に撓み可能なダイヤフラム部に前記弁体部が連続一体に設けられ、前記可動電極は、ダイヤフラム部において弁体部が設けられている領域よりも広い範囲に亘って形成され、前記固定電極は、固定電極形成基板においてダイヤフラム部に対向する部位に形成されてなることを特徴とするマイクロバルブ。
【請求項2】
前記弁体形成基板は、前記可動電極と前記固定電極との間に電圧が印加されていない状態で前記弁体部が前記弁孔を閉止する閉止力が作用するように前記ダイヤフラム部に応力が付与されてなることを特徴とする請求項1記載のマイクロバルブ。
【請求項3】
前記弁体形成基板は、前記可動電極と前記固定電極との間に電圧が印加されていない状態で前記弁体部が前記弁孔を閉止する閉止力が作用するように前記ダイヤフラム部を中央部が周部に比べて前記弁座基板に近くなる形状に形成してなることを特徴とする請求項1記載のマイクロバルブ。
【請求項4】
前記弁体部は、前記可動電極と前記固定電極との間に電圧が印加されていない状態では、前記流入口を通して前記空間に流入した流体の圧力により前記ダイヤフラム部が撓むことによって前記弁孔を閉止した状態を保持することを特徴とする請求項1記載のマイクロバルブ。
【請求項5】
前記可動電極と前記固定電極との間に電圧が印加されていない状態では、前記ダイヤフラム部の周部に比べて中央部の方が前記可動電極と前記固定電極との間の間隔が大きいことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のマイクロバルブ。
【請求項6】
前記流入口は、前記固定電極形成基板において前記流路孔と重なる部位で厚み方向に貫設されてなることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のマイクロバルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−71257(P2007−71257A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256836(P2005−256836)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月1日 社団法人精密工学会発行の「2005年度 精密工学会秋季大会 学術講演会講演論文集」に発表
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】