説明

マイクロリアクター用樹脂基板

【課題】極めて高い精度の溝や孔が形成されており、分析に用いる検体や流体が詰まったり漏れたりすることがないマイクロリアクター用樹脂基板を提供する。
【解決手段】樹脂−充填材複合材料からなるマイクロリアクター用樹脂基板であって、前記充填材は、アスペクト比が10以上の無機材料若しくは高分子材料、又は、2.5×104以上の複屈折率を有する高分子材料であり、前記樹脂100重量部に対して、前記充填材を0.01〜200重量部含有するマイクロリアクター用樹脂基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極めて高い精度の溝や孔が形成されたマイクロリアクター用樹脂基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微小領域において検体の分離・濃縮、化学反応及び分析を行う研究が盛んに行われている。検体の分離・濃縮や化学反応を微小領域にて行えば、反応器との熱交換効率を大幅に向上し、大幅にエネルギーコストを節約することが可能となる。また、多種類の反応工程を微小領域に集積化することができれば、コンビナトリアル合成を容易に実現することができる。更に、分析システムを微小化することにより、分析時間を大幅に短縮し、試料量・廃棄量を大幅に低減することができる等、非常に多くの利点を有している。
【0003】
近年の社会情勢変化の中にあって、医療診断を患者近傍で行うベッドサイド診断、大気・水・土壌中の環境汚染物質のモニタリング、食品の安全性の検査等、安価でかつ短時間に行う必要のある診断/分析技術に関するニーズは、益々高まっている。例えば、高齢者の増加の著しい近年にあって、患者近傍にて患者家族が診断した健康指標数値が在宅管理され、更には採取データを病院に定期的に送信することができれば、在宅医療環境を更に高めることが可能となる。また、例えば、重金属やダイオキシン、環境ホルモン等の環境汚染物質を、高価かつ大掛かりな装置を使用せずに簡易測定することができれば、よりきめの細かい安全環境を供出することが可能となる。水、大気、土壌における膨大量の汚染の生態系への危険が明らかにされてきた昨今において、一つ一つの汚染要因を安価かつ簡便
に知ることは、極めて重要な事柄である。このような簡易測定の概念は、「Point Of Care(POC)」と呼ばれ、今後の社会において非常に重要な概念である。
【0004】
このような測定を簡易に行うためには、微量の試料を用いて測定を行えることが必要であるが、微量試料の分析・検出には、高い感度が求められる。従来、微量・高感度にて分析できる方法としては、キャピラリーガスクロマトグラフィー(CGC)、キャピラリー液体クロマトグラフィー(CLC)等で分離し、質量分析計(MS)で検出するGC−MS、LC−MS等が広く用いられてきた。しかし、高価で大掛かりなGC−MS、LC−MSを簡単に持ち運ぶことはできないという問題があった。従って、測定が必要な現場で簡易に分析することができる、「オンサイト分析」に対応した、分析・検出手法の開発ニーズは極めて高い。
【0005】
これに対して、数cm〜10cm角程度以下のチップの表面に溝や孔を刻んで、その溝や孔における分離、濃縮又は反応等を利用して、微小領域中で微量試料の分析をおこなう手法が提案されている。この手法は、μTAS(micro又はminiaturized total analysis system)又はマイクロリアクターと総称されている。このようなマイクロリアクターについては、1990年には非特許文献1に既に概念が紹介されている。
【0006】
マイクロリアクターに用いるチップの基板には、その加工性や精度の点から、主としてガラスや石英、シリコン等の無機材料が用いられてきた。例えば、半導体微細加工技術において広く用いられている光リソグラフィー技術を利用すれば、ガラス基板やシリコン基板上にミクロンオーダーの溝を自在に形成することができる。しかしながら、膨大な汚染サイトに関する分析を行うに際しては、測定チップを大量に生産し、簡単・安価に廃棄できることが重要であり、ガラスやシリコンは高価であるという問題があった。また、医療の現場においても、ガラス基板を使う場合には、廃棄の際に適切な処理費用を支払うことが義務付けられている。
【0007】
そこで、樹脂からなるマイクロリアクター用基板が検討されている。マイクロリアクター用樹脂基板は、コスト、廃棄物としての処理等の点でガラス等よりも優れていることに加え、軽い、割れない等の特徴を備えている。更に、転写金型を利用した射出成形やホットプレス成形を行うことにより、非常に高い生産性にて表面に溝や孔を形成することが可能である。
しかし、マイクロリアクター用樹脂基板の表面の溝や孔には、分析に用いる検体や流体が詰まったり漏れたりすることがないよう、極めて高い精度が要求される。
【0008】
射出成形又はホットプレス成形により形成する溝や孔の金型に対する転写精度は、一般に転写する形状が微小になればなるほど、形成された溝や孔部にヒケ・ダレといった問題が生じる可能性が高い。これは、樹脂の収縮や応力緩和によるものであり、樹脂の収縮特性や応力緩和特性を制御することは、マイクロリアクター用樹脂基板の製造に際して、極めて重要な課題である。
【0009】
【非特許文献1】A.Manz,N.Graber,H.M.Widmer:Sens.Actuators,B,1,244(1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、極めて高い精度の溝や孔が形成されたマイクロリアクター用樹脂基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明1は、樹脂−充填材複合材料からなるマイクロリアクター用樹脂基板であって、前記充填材は、アスペクト比が10以上の無機材料若しくは高分子材料、又は、2.5×104以上の複屈折率を有する高分子材料であり、前記樹脂100重量部に対して、前記充填材を0.01〜200重量部含有するマイクロリアクター用樹脂基板である。
【0012】
本発明2は、樹脂−充填材複合材料からなるマイクロリアクター用樹脂基板であって、平面で切断した切断面における樹脂と充填材との界面を観察したときに、100μm2あたりの界面長が2mm以上であるマイクロリアクター用樹脂基板である。
【0013】
なお、本明細書においてマイクロリアクター用樹脂基板とは、主として、1)樹脂基板表面に流動可能な微量試料が流動するための微細な溝を有し、微量検体が樹脂基板上で反応することにより検体中の目的物質を検出する構造を有するもの、2)微細孔を有する樹脂基板であり、微量検体が孔中で反応することにより検体中の目的物質を検出する構造を有するもの、3)樹脂基板表面に流動可能な微量試料が流動するための微細な溝を有し、微量試料が樹脂基板上で反応することにより目的物質を合成・製造する構造を有するもの、4)樹脂基板表面に流動可能な微量試料が流動するための微細な溝を有し、微量試料が樹脂基板上で吸着・脱着工程を経ることにより、目的物質を精製又は抽出する構造を有するものを意味する。
以下に本発明を詳述する。
【0014】
本発明1のマイクロリアクター用樹脂基板は、樹脂−充填材複合材料からなる。上記樹脂としては特に限定されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれも用いることができる。なかでも、熱可塑性樹脂は、加熱により簡単に表面加工できることから好適である。また、熱硬化性樹脂の場合には、加熱により可塑化して表面加工することはできないが、予め硬化剤等を混合した前駆体液を転写金型に導入しておき、その場で硬化させることにより、樹脂表面を附形することは可能である。この場合、前駆体液が液状のため、転写金型の形状をより忠実に転写することができる。また一般に、静的に硬化された樹脂は、低い線膨張率、低い成形収縮率を示す。上記熱硬化樹脂として特に限定されないが、コストや取扱い性の点からエポキシ樹脂が好適である。
【0015】
上記樹脂としては特に限定されないが、安価なマイクロリアクター用樹脂基板を提供するという目的に鑑みれば、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等の安価な樹脂が好適である。マイクロリアクター用樹脂基板を化学分析用途に用いる場合には、吸光光度測定や蛍光分析等、光学的に目的物質を検出することが多いことから、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂等の光透過性に優れた樹脂が好適である。また、マイクロリアクター用樹脂基板を化学分析用途に用いる場合には、目的物質を検出するための反応物質として酸性物質やアルカリ性物質を用いることが多いことから、例えば、ポリオレフィン系樹脂等の耐酸・耐アルカリ性に優れる樹脂が好適である。ポリオレフィン系樹脂は、蛍光をほとんど発しないという点でも化学分析用途に適している。
【0016】
また、本発明1のマイクロリアクター用樹脂基板を生体に埋め込んだり、微生物、タンパク質、酵素、抗体等を載せたりする用途に用いる場合には、上記樹脂は、変異原性を有しないものが好ましい。なお、本明細書において変異原性を有するとは、厚生労働省の有害性調査の結果、微生物を用いる変異原性試験及び哺乳類培養細胞を用いる染色体異常試験の2種類の変異原性試験で所定の基準を越える変異原性が認められ、健康障害を生じ
る可能性があることをいう。
【0017】
上記充填材は、アスペクト比が10以上の無機材料若しくは高分子材料、又は、2.5×104以上の複屈折率を有する高分子材料である。上記充填材としてアスペクト比が10以上の無機材料又は高分子材料を用いる場合には、射出成形やホットプレス成形後の微小領域の変形を極めて効率的に抑制することができる。アスペクト比が10未満である充填材を用いた場合には、このような効果は得られない。
【0018】
アスペクト比の高い充填材は、図1に示すように、転写金型を溶融樹脂に押し当てる際に、容易に溝や孔の周りに配向する。アスペクト比を有する物質を充填材として用いる場合、充填材の長平面と樹脂材料の間により高い相互作用が発生する。即ち、充填材の配向方向に樹脂寸法変形率が小さくなるため、溝や孔の周囲の樹脂変形をより効果的に低減せしめることができる。また、溶融成形時に樹脂と充填材との間にすべりが起こるため、せん断速度に対するせん断応力が低くなる。このことも樹脂変形率の低減に繋がる副次効果である。
【0019】
上記アスペクト比が10以上の無機材料若しくは高分子材料は、長辺が500nm以下でありかつ短辺が50nm以下であることが好ましい。充填材がナノオーダーの大きさであれば、樹脂と充填材との界面長が飛躍的に増大し、微小領域の変形をより効率的に抑制することができる。また、本発明のマイクロリアクター用樹脂基板上の微細流路に微量液体を送液にするに際し、流路壁面の形状はスムーズな流れを形成する上で、極めて重要である。本発明1のマイクロリアクター用樹脂基板上に形成する流路幅が通常1μm程度であることに鑑みると、充填材が上述の大きさであれば充填材が流路の壁から突き出すといった問題を回避することができる。
また、上記アスペクト比が10以上の無機材料若しくは高分子材料の長辺が300nm以下であれば、得られるマイクロリアクター用樹脂基板は、可視光線波長領域である400〜800nmにおける光透過性に優れた材料となることからより好ましい。
【0020】
一方、充填材として2.5×104以上の複屈折率を有する高分子材料を用いる場合には、射出成形やホットプレス成形後の微小領域の変形を極めて効率的に抑制することができる。このような配向構造を有する高分子材料は、一般に延伸成形といった手法により形成することができる。延伸高分子は、延伸により発現した異方性のために、配向方向に無機材料並みの低い低い線膨張率、成形収縮率を示す。このような材料を充填すれば、配向部分とマトリックス材料の相互作用力により、射出成形やホットプレス成形後の微小領域の変形を極めて効率的に抑制することができる。また、2.5×104以上の複屈折率を有する高分子材料を充填材とすれば、そのアスペクト比が10未満であっても、溶融成形時に樹脂と充填材との間にすべりが起こるため、せん断速度に対するせん断応力が低くなる
。このことも、樹脂変形率の低減に繋がる副次効果である。
【0021】
上記2.5×104以上の複屈折率を有する高分子材料としては特に限定されず、例えば、延伸成形された繊維等が挙げられる。また、上記2.5×104以上の複屈折率を有する高分子材料としては、液晶ポリマーも挙げられる。液晶ポリマーは、溶融状態において液晶構造を示すため、容易に分子配向せしめることができ、発現した異方性のために、配向方向に低い線膨張率、成形収縮率を示す。
【0022】
上記2.5×104以上の複屈折率を有する高分子材料の長径が300nm以下であれば、得られるマイクロリアクター用樹脂基板は、可視光線波長領域である400〜800nmにおける光透過性に優れた材料となることからより好ましい。
【0023】
上記充填材が無機材料からなる場合にはは、適当な表面処理が施されていてもよい。一般に、一次粒子径が500nmよりも小さくなると、粒子表面エネルギーの増大により、粒子同士が凝集しやすくなる。樹脂は、無機材料に比べて疎水的な性質を有することが殆どであり、異種材料間の親水−疎水度が異なる場合には、無機材料からなる充填材の凝集を生じ易い。従って、無機材料からなる充填材の表面を、適当な表面処理剤にて修飾することにより、充填材の凝集を効果的に抑制することができる。上記表面処理剤としては特に限定されないが、例えば、ステアリン酸等の油脂酸;シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤等のカップリング剤;アミノドデカン酸等の長鎖アルキルアミノ酸等が好適である。
【0024】
また、無機材料からなる充填材の凝集の防止のためには、上記樹脂に酸成分を配合してもよい。上記酸成分としては特に限定されないが、例えば、マレイン酸、アクリル酸、カルボン酸等が好適である。上記酸成分の配合方法としては特に限定されず、例えば、酸成分を多く含有する高分子材料をブレンドする方法、樹脂に酸成分をグラフトする方法等が挙げられる。
【0025】
上記充填材としては特に限定されず、例えば、ガラス繊維、炭素繊維等の繊維状物質;ワラストナイト、カーボンピッチ、シリカピッチ等のウィスカー状物質;層状珪酸塩等が挙げられる。なかでも、天然に採掘することが可能であり、また合成によっても安価な製造が可能であることから層状珪酸塩が好適である。上記層状珪酸塩とは、層間に交換性陽イオンを有する珪酸塩鉱物を意味し、通常、厚さが約1nm、平均アスペクト比が約20〜200程度の微細な薄片状結晶がイオン結合により凝集してなるものをいう。
【0026】
上記層状珪酸塩としては特に限定されず、例えば、モンモリロナイト,サポナイト,ヘクトライト,バイデライト,スティブンサイト,ノントロナイト等のスメクタイト系粘土鉱物、バーミキュライト,ハロイサイト等の天然雲母、膨潤性雲母(膨潤性マイカ)等の合成雲母等が挙げられ、天然のものでも合成されたものでも用いることができる。なかでも、膨潤性スメクタイト系粘度鉱物及び/又は膨潤性雲母が好適である。
【0027】
一般に、層状珪酸塩の結晶薄片は、例えば、図2に示したモンモリロナイトのように、珪素等のイオンの回りに4つの酸素イオンが配位した4面体、アルミニウム等のイオンの回りに6つの酸素イオンが配位した8面体、及び、OH基から構成され、各々の結晶薄片は、結晶表面(B)上にナトリウムやカルシウム等のカチオンが配列することによりイオン結合力により結びつけられている。このように、層間結合力よりも層内結合力の方が強い構造を有するため、適当なせん断力等を印加することにより、高アスペクト比を有する構造を容易に形成することができる。
【0028】
上記層状珪酸塩は、結晶表面(B)上のナトリウムやカルシウム等のイオンがカチオン性界面活性剤とイオン交換されたものであることが好ましい。これにより、層状結晶表面(B)は非極性化され、非極性樹脂中における層状珪酸塩の分散性が向上する。
【0029】
上記層状珪酸塩は、X線回折測定により検出される層状珪酸塩の平均層間距離が6nm以上あるように樹脂中に分散していることが好ましい。層状珪酸塩を樹脂中に高分散させれば、層状珪酸塩と樹脂との比界面積が飛躍的に増大し、層状珪酸塩と樹脂との間の相互摩擦力により、更に寸法安定性に優れた射出成形品又はホットプレス成形品を提供することができる。一般に、層状珪酸塩の層間引力は、層間距離が6nm以上になった場合に極めて小さくなるため、樹脂中により微細に分散する。従って、平均層間距離を6nm以上とすることで、射出成形やホットプレス成形後の樹脂−充填材複合材料の微小領域の変形を極めて効率的に抑制することができる。層状珪酸塩がイオン結合力により互いに凝集した状態、即ち層間距離が6nm未満であると、層状珪酸塩の添加による改質効果は非常に小
さいものとなる。
なお、上記層状珪酸塩の平均層間距離とは、層状珪酸塩の薄片状結晶の001面間の距離、即ち図2における2枚の薄片状結晶の中心間距離をいうものとする。図3に、平均層間距離が6nm以上の場合のX線回折プロファイルを、図4に、平均層間距離が6nm未満の場合のX線回折プロファイルを示した。図3では、層間距離2nmの位置に小さな回折ピークが現れるものの6nm以上のブロードな回折線により、層間距離の大部分が6nm以上であることがわかる。
【0030】
上記充填材の配合量の下限は、樹脂100重量部に対して0.01重量部、上限は200重量部である。0.01重量部未満であると、寸法安定性に対する効果を発揮できず、200重量部を超えると、得られるマイクロリアクター用樹脂基板の透明性が充填材による散乱により低下する。好ましい下限は1重量部、好ましい上限は20重量部である。
【0031】
本発明2は、樹脂−充填材複合材料からなるマイクロリアクター用樹脂基板であって、平面で切断した切断面における樹脂と充填材との界面を観察したときに、100μm2あたりの界面長が2mm以上であるマイクロリアクター用樹脂基板である。ここで界面長とは、上記切断面に観察される樹脂と充填材の単位面積あたりの総長を意味する。
図5に、本発明2のマイクロリアクター用樹脂基板を平面で切断した切断面を、図6に平均粒子径と界面長との関係を示した。図6より、特に平均粒子径が150nm以下となったときに界面長が飛躍的に増大することがわかる。平均粒子径150nmのときの界面長は、100μm2あたり2mmであり、界面長が2mmを超えると、樹脂と充填材との界面の面積が飛躍的に増大する。樹脂と充填材の界面の面積が増大すれば、樹脂と充填材との相互作用が高まり、樹脂−充填材複合材料の線熱膨張係数や熱寸法変化率を低減せしめることができる。なお、本発明2のマイクロリアクター用樹脂基板に用いる樹脂及び充填材としては、本発明1のマイクロリアクター用樹脂基板と同様のものを用いることができる。
【0032】
本発明1及び本発明2のマイクロリアクター用樹脂基板は、波長領域400〜800nmにおける光線透過率の最小値が50%以上であることが好ましい。50%未満であると、可視光線波長領域における光透過性に劣るものとなる。本発明1及び本発明2のマイクロリアクター用樹脂基板を物質の分析・検出に用いる場合、吸光光度測定や蛍光光度測定等の光学的検出法を用いることができることは、検出機構が簡便であるという点で好ましい。可視光線波長領域における光透過性を有することはマイクロリアクターを分析システムとして用いる場合、重要な特性である。また、本発明のマイクロリアクター用樹脂基板が透明性を有することにより、光学顕微鏡等を用い、微小流体の流れ状態や発色等を直接観察することも可能となる。
【0033】
本発明1及び本発明2のマイクロリアクター用樹脂基板の溝の断面形状としては特に限定されず、三角形、正方形、長方形等の多角形の形状;半円形、半楕円形等の円形形状が挙げられる。また、異なった形状の溝を組み合わせたものであってもよい。
上記溝の幅の好ましい下限は1μm、好ましい上限は3000μmであり、深さの好ましい下限は0.1μm、好ましい上限は2000μmであり、断面積の好ましい下限は0.1μm2、好ましい上限は600万μm2である。溝が小さいと、検体中の侠雑物によりキャピラリーが詰まる原因となったり、流れが乱されたりする。溝が大きいと、必要な試料量が多くなる。
【0034】
本発明1及び本発明2のマイクロリアクター用樹脂基板を用いてなるμTAS又はマイクロリアクターでは、10pL〜100μL程度の微量の試料を用いる。このような極微量成分の分析や定量分析等を行う上では、形成した溝の上をより均一に流れることが必要であり、その点で溝の寸法精度が優れていることが求められる。一般に、μTAS又はマイクロリアクターを用いて微量成分の分析を行う場合には、溝体積の大きさは目的化学物質の検出量に比例する。更に、溝体積のばらつきは、溝中に流れる流体の流れ均一性を乱すため、目的化学物質の検出量のばらつきを更に増大する。一般に、目的化学物質の定量分析を行う場合には、たとえ簡易的な分析であっても、分析精度は高いことが望まれる。従って、凸形状を有する金型を利用して溝を転写しようとする場合、意味のある検出結果を得る上で、凸形状を忠実に転写している必要がある。
【0035】
本発明1及び本発明2のマイクロリアクター用樹脂基板を作製する方法としては特に限定されず、上記樹脂と充填材とを従来公知の方法により混練したものを、射出形成又はホットプレス成形する方法等が挙げられる。
【0036】
本発明1のマイクロリアクター用樹脂基板は、樹脂に特定の性質を有する充填材を配合した樹脂−充填材複合材料からなることにより、また、本発明2のマイクロリアクター用樹脂基板は、樹脂に一定以上の界面長で充填材を配合した樹脂−充填材複合材料からなることにより、樹脂の収縮特性や応力緩和特性を効果的に制御することができることから、射出成形やホットプレス成形後の微小領域の変形を極めて効率的に抑制することができ、極めて高い精度の溝や孔が形成することができる。また、成形収縮率が低いことから、直線やカーブ等を含む複雑な図形の流路同士を異なるマイクロリアクター用樹脂基板同士で接合しても、流路間のズレを極小化することができる。
【0037】
本発明1及び本発明2のマイクロリアクター用樹脂基板は、表面に流動可能な微量試料が流動する微細な溝を有する基板、又は、所定の目的物質を検出するための微細反応孔を有する基板として好適に使用することができる。マイクロリアクター用樹脂基板の溝に、液体試料のサンプリング部、成分の異なる液体の合流部、希釈部、濃縮部、反応部、分離部、検出部を適宜設計・配置し、適当な素材にて蓋又はシールをして液漏れを防ぐことにより、マイクロリアクター又はμTASチップとすることができる。
【0038】
更に、液体を送液する手段として、例えば、ポンプ送液や電気浸透流による送液手段を付加することができる。上記電気浸透流を送液手段として用いる場合には、電気泳動分離を主な目的とした流路部分を作ることもできる。ポンプ送液や電気浸透流等のいずれの送液手段で送液する場合にも、1つの流路部分が複数の目的を兼ね備えていても良い。また、マイクロリアクター用樹脂基板は、流路が、1つの操作を主な目的とした流路部分のみからなっていてもよいが、複数の各々異なった操作を主な目的とした流路部分を組み合わせた流路となっていることにより、単なる定性分析ではなく、定量分析や反応等を伴うような高度な分析が可能な装置とする事ができる。
【0039】
一方、マイクロリアクター又はμTASチップの生産性の観点からは、少なくとも一方の板状部材は表面に液体が流れる溝を有する平板であって、この平板と他方の板又はフィルム状部材を、該平板の溝を内側にして張り合わせて作製されるキャピラリー構造をとることが好ましい。また、弾性フィルムを樹脂基板の上に貼ることにより、キャピラリーを形成する構造をとることも可能である。また、表面に液体が流れる溝を有する平板(板状部材)のみからなり、溝の上面が開放されたままの構造をとることも可能である。
【0040】
得られたマイクロリアクター又はμTASチップは、医療現場でのベッドサイド診断や環境汚染物質のオンサイト分析等に使用することができる。上記ベッドサイド診断としては、例えば、血液成分等の検査結果を外来患者が受診当日にその日の検査結果を知らさせ、その結果に基づく治療薬や治療方法の選択が行えるといったこと等が挙げられる。また、環境汚染物質のオンサイト分析としては、例えば、河川の汚濁、廃棄物中の有害物質の定量定性分析等が挙げられる。この利点として、従来には持ち帰ってGC−MS等の大掛かりな測定機器を用いることが必要であった分析を、持ち帰らずに汚染現場で行えるといったことが挙げられる。
【0041】
マイクロリアクター又はμTASチップの検出対象物質としては特に限定されないが、例えば、環境ホルモン物質、VOC、重金属、ダイオキシン等の環境汚染化学物質;血液、髄液、唾液、尿中等に含まれる生体成分;臓器、組織、粘膜由来の生体成分;感染源となる菌やウィルス等のタンパク質;DNA、RNA等の核酸;アレルゲン、種々の抗原等が挙げられる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、極めて高い精度の溝や孔が形成されたマイクロリアクター用樹脂基板を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
日本製鋼所社製小型押出機TEX30中に、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)とガラス繊維(ユニチカ社製、ユニチカグラスファイバー)とを重量比率で100/10となるようにフィードし、設定温度200℃にて溶融混練し、押し出されたストランドをペレタイザーにてペレット化した。得られたペレットを、1.5mm厚の板状にプレス成形し、樹脂基板作製用板とした。
【0045】
プレス金型を、手動プレス機にて180℃で予熱した。この金型コア部に、得られた樹脂基板作製用板約4gを置き、プレス金型を180℃まで加熱した。プレス金型の温度が180℃になったのを確認したところで、圧力980N/cm2にて30秒間加圧し、材料に矩形の溝を転写成形した。プレス金型を冷却プレス機に移し、圧力980N/cm2にて加圧し、金型温度が室温まで低下したことを確認し、プレス金型を冷却プレス機から取り出した。金型コア部から、溝が転写された樹脂基板を取り出した。
【0046】
なお、用いたプレス金型を図7に示した。プレス金型のクリアランスは、1mmであり、成形された樹脂基板の厚みは1mmとなる。プレス金型には、図8に示す流路が描かれている評価用入れ子型が取り付けられており、その表面には、図9に示すように切削加工によって高さ50μm、幅50μmの矩形突起が彫り出されており、プレスにより図9に示した断面形状を有する樹脂基板が得られる。
【0047】
(実施例2)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)100重量部とタルク(日本タルク社製、汎用タルク)10重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0048】
(実施例3)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)と酸変性ポリメチルメタクリレート(油脂製品社製、グレード:モデイパーA8200)を95:5の割合で配合した樹脂100重量部とモンモリロナイト(サザンクレイ社製、Cloisite20A)10重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0049】
(実施例4)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)と酸変性ポリメチルメタクリレート(油脂製品社製、グレード:モデイパーA8200)を95:5の割合で配合した樹脂100重量部と合成雲母(コープケミカル社製、MAE)10重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0050】
(実施例5)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)と酸変性ポリメチルメタクリレート(油脂製品社製、グレード:モデイパーA8200)を95:5の割合で配合した樹脂100重量部と合成雲母(コープケミカル社製、MAE)50重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0051】
(実施例6)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)と酸変性ポリメチルメタクリレート(油脂製品社製、グレード:モデイパーA8200)を95:5の割合で配合した樹脂100重量部と合成雲母(コープケミカル社製、MAE)5重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0052】
(実施例7)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)100重量部と、微細粉末PETフィラー10重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
微細粉末PETフィラーは、膜厚100μmのPETフィルム(東レ合成フィルム社製、PET−G)を、縦方向に10倍、横方向に8倍、延伸温度200℃にて2軸延伸し、張力を保持しながら220℃にてアニール処理を行ったものを、フィルム裁断機により微細に裁断して得た。
なお、微細粉末PETフィラーのレーザー回折測定による平均径は5μm、アスペクト比は12程度、複屈折率は5×105であった。
【0053】
(実施例8)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)と酸変性ポリメチルメタクリレート(油脂製品社製、グレード:モデイパーA8200)を95:5の割合で配合した樹脂100重量部とシリカ(日本アエロジル社製、グレード:R972)10重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0054】
(実施例9)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)と酸変性ポリメチルメタクリレート(油脂製品社製、グレード:モデイパーA8200)を95:5の割合で配合した樹脂100重量部とシリカ(日本アエロジル社製、グレード:R972)10重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0055】
(実施例10)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)100重量部と高延伸ポリエチレンテレフタレート10重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。高延伸ポリエチレンテレフタレートは、膜厚10μmの2軸延伸PETフィルム(東レ社製、ルミラー)を、フィルム裁断機により微細に裁断たものを用いた。
高延伸ポリエチレンテレフタレートのレーザー回折測定による平均径は80μm、アスペクト比は10程度、複屈折率は5.0×104であった。
【0056】
(実施例11)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)100重量部と高延伸ポリエチレンテレフタレート10重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。高延伸ポリエチレンテレフタレートは、膜厚20μmの2軸延伸PETフィルム(東レ社製、ルミラー)を、フィルム裁断機により微細に裁断したものを用いた。高延伸ポリエチレンテレフタレートのレーザー回折測定による平均径は60μm、アスペクト比は3程度、複屈折率は、2.8×104であった。
【0057】
(実施例12)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)100重量部と液晶高分子10重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
液晶高分子は、日本製綱社製押出機TEX30の先端に紡糸用ノズルを装着し、押出成形した液晶高分子(ポリプラスチックス社製、グレード:ベクトラA410)を毎分500mの線速にて製糸を行うことにより予め配向させ、これを微細形状に裁断したものを用いた。
液晶高分子のレーザー回折測定による平均径は70μm、アスペクト比は9程度、複屈折率は3.3×104であった。
【0058】
(実施例13)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)と酸変性ポリメチルメタクリレート(油脂製品社製、グレード:モデイパーA8200)を80:20の割合で配合した樹脂100重量部と、合成雲母(コープケミカル社製、MAE)10重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0059】
(実施例14)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)と酸変性ポリメチルメタクリレート(油脂製品社製、グレード:モデイパーA8200)を70:30の割合で配合した樹脂100重量部と、合成雲母(コープケミカル社製、MAE)10重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0060】
(実施例15)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)と酸変性ポリメチルメタクリレート(油脂製品社製、グレード:モデイパーA8200)を70:30の割合で配合した樹脂100重量部と、合成雲母(コープケミカル社製、MAE)150重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0061】
(実施例16)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)と酸変性ポリメチルメタクリレート(油脂製品社製、グレード:モデイパーA8200)を70:30の割合で配合した樹脂100重量部と、モンモリロナイト(サザンクレイ社製、Cloisite20A)10重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0062】
(実施例17)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)と酸変性ポリメチルメタクリレート(油脂製品社製、グレード:モデイパーA8200)を70:30の割合で配合した樹脂100重量部と、合成スメクタイト(コープケミカル社製、SAN)10重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0063】
(実施例18)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリプロピレン樹脂(日本ポリケム社製、グレード:EA9)と酸変性ポリプロピレン(三洋化成社製、グレード:ユーメックス1001)を80:20の割合で配合した樹脂100重量部と、合成雲母(コープケミカル社製、MAE)10重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0064】
(実施例19)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリスチレン樹脂(旭化成社製、グレード:G8259)と酸変性ポリスチレン(油脂製品社製、グレード:モデイパーA8100)を80:20の割合で配合した樹脂100重量部と、合成雲母(コープケミカル社製、MAE)10重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0065】
(実施例20)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリ乳酸樹脂(島津社製、グレード:Lacty9030、MFR=5.5)と酸変性ポリスチレン(油脂製品社製、グレード:モデイパーA8100)を80:20の割合で配合した樹脂100重量部と、合成雲母(コープケミカル社製、MAE)10重量部とを用い、転写成形温度210℃としたこと以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0066】
(実施例21)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリカーボネート樹脂(帝人化成社製、グレード:L−1250Z100、MFR=5.5)と酸変性ポリスチレン(油脂製品社製、グレード:モデイパーA8100)を80:20の割合で配合した樹脂100重量部と、合成雲母(コープケミカル社製、MAE)10重量部とを用い、転写成形温度270℃としたこと以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0067】
(実施例22)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリエチレンテレフタラート樹脂(ユニチカ社製、ユニチカポリエステル)と酸変性ポリスチレン(油脂製品社製、グレード:モデイパーA8100)を80:20の割合で配合した樹脂100重量部と、合成雲母(コープケミカル社製、MAE)10重量部とを用い、転写成形温度270℃としたこと以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0068】
(実施例23)
ビスフェノールAのグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂(旭電化工業社製、アデカレジンEP−4100)と、硬化剤ポリオキシプロピレンジアミン(旭電化工業社製、EH260)と、モンモリロナイト(サザンクレイ社製、Cloisite20A)とを重量比率で10/3/1となるように容器中にて均質になるまで攪拌・混合し、液状前駆体を調製した。
【0069】
実施例1で用いたプレス金型を、手動プレス機にて75℃に予熱した。金型コア部に、調製した液状前駆体約4gを置き、金型を75℃まで加熱した。金型温度が75℃になったのを確認してから、材料を圧力980N/cm2にて3時間加圧し、その後、金型温度を125℃に上げ、更に3時間加圧を行い、矩形の溝を転写成形した。プレス金型を冷却プレス機に移し、圧力980N/cm2にて加圧し、金型温度が室温まで低下したことを確認してから、プレス金型を冷却プレス機から取り出した。金型コア部から、溝が転写された樹脂基板を取り出した。
【0070】
(比較例1)
樹脂として、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)を用い、充填材を用いなかった以外は、実験例1と同様の方法で樹脂基板を作製した。
【0071】
(比較例2)
樹脂として、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)と酸変性ポリメチルメタクリレート(油脂製品社製、グレード:モデイパーA8200)を70:30の割合で配合したものを用い、充填材を用いなかった以外は、実験例1と同様の方法で樹脂基板を作製した。
【0072】
(比較例3)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)10重量部と、シリカ(日本アエロジル製、グレード:R972)10重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0073】
(比較例4)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)と酸変性ポリメチルメタクリレート(油脂製品社製、グレード:モデイパーA8200)を95:5の割合で配合した樹脂300重量部と、合成雲母(コープケミカル社製、MAE)10重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0074】
(比較例5)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)と酸変性ポリメチルメタクリレート(油脂製品社製、グレード:モデイパーA8200)を70:30の割合で配合した樹脂10重量部と、合成雲母(コープケミカル社製、MAE)300重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0075】
(比較例6)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)100重量部と、シリカ(日本アエロジル社製、グレード:R972)10重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0076】
(比較例7)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)100重量部と、モンモリロナイト(サザンクレイ社製、Cloisite20A)10重量部とを用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
【0077】
(比較例8)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)100重量部と、PETフィラー10重量部を用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。
フィラーは、膜厚100μmのPETフィルム(東レ合成フィルム社製、PET−G)を、フィルム裁断機により微細に裁断し、フィラーとしたものを用いた。
フィラーのレーザー回折測定による平均径は200μm、アスペクト比は2程度、複屈折率は5×10であった。
【0078】
(比較例9)
樹脂と充填材の組み合わせとして、ポリメチルメタクリレート(住友化学工業社製、グレード:LG)100重量部と、低延伸ポリエチレンテレフタレート10重量部を用いた以外は実験例1と同様の方法により樹脂基板を作製した。低延伸ポリエチレンテレフタレートは、膜厚100μmのPETフィルム(東レ合成フィルム製、PET−G)を、延伸温度200℃にて、縦方向に1.5倍、横方向に1.2倍2軸延伸し、張力を保持しながら220℃にてアニール処理を行って得たフィルムを、フィルム裁断機により微細に裁断したものを用いた。
低延伸ポリエチレンテレフタレートのレーザー回折測定による平均径は50μm、アスペクト比は1.2程度、複屈折率は5×102であった。
【0079】
実施例1〜23お比較例1〜9で作製した樹脂基板について、以下の方法により評価を行った。
結果を表1に示した。
【0080】
(転写性評価)
樹脂基板を、図10に示した1、2及び3の部分で切断し、溝の11、12、13、14、21、22、31、32部の断面形状をキーエンス社製光学顕微鏡(VHP40)にて観測し、金型表面の凸形状を忠実に転写しているかどうかを以下の基準により評価した。
◎:特に忠実に転写したもの
〇:目的物質の分析に問題の無い範囲で忠実に転写したもの
×:目的物質の分析に明らかに問題があるもの
【0081】
(透明性評価)
波長範囲400〜800nmの可視光の光線透過率を日立社製可視光スペクトロフォトメーター(U−3500)にて測定を行い、以下の基準により評価した。
◎:全光線透過率が90%以上だったもの
〇:全光線透過率が50以上90%未満だったもの
×:全光線透過率が50%未満であったもの
【0082】
【表1】

【0083】
表1、2より、実施例1〜23で作製した樹脂基板はいずれも分析に問題の無い転写性を示したが、比較例1〜4、6〜9で作製した樹脂基板は分析に明らかな問題があった。また、比較例5で作製した樹脂基板は、転写性は優れているものの、透明性は得られていない。この場合、マイクロリアクター基板としての機能は有するものの、検出部として光学系を用いることはできない。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】転写金型を溶融樹脂に押し当てた場合の充填材の状態を示す模式図である。
【図2】層状珪酸塩の結晶薄片の状態を説明するための模式図である。
【図3】層状珪酸塩の結晶薄片の平均層間距離が6nm以上の場合のX線回折プロファイルである。
【図4】層状珪酸塩の結晶薄片の平均層間距離が6nm未満の場合のX線回折プロファイルである。
【図5】本発明のマイクロリアクター用樹脂基板を平面で切断した切断面を示す模式図である。
【図6】平均粒子径と界面長との関係を示す図である。
【図7】実施例で用いたプレス金型を示す模式図である。
【図8】実施例で用いたプレス金型の入れ子型を示す模式図である。
【図9】実施例で作製した樹脂基板の凸形状を示す断面図である。
【図10】実施例の転写性評価において樹脂基板の切断方法を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂−充填材複合材料からなるマイクロリアクター用樹脂基板であって、前記充填材は、アスペクト比が10以上の無機材料若しくは高分子材料、又は、2.5×104以上の複屈折率を有する高分子材料であり、
前記樹脂100重量部に対して、前記充填材を0.01〜200重量部含有することを特徴とするマイクロリアクター用樹脂基板。
【請求項2】
アスペクト比が10以上の無機材料若しくは高分子材料は、長辺が500nm以下でありかつ短辺が50nm以下であることを特徴とする請求項1記載のマイクロリアクター用樹脂基板。
【請求項3】
樹脂−充填材複合材料からなるマイクロリアクター用樹脂基板であって、平面で切断した切断面における樹脂と充填材との界面を観察したときに、100μm2あたりの界面長が2mm以上であることを特徴とするマイクロリアクター用樹脂基板。
【請求項4】
波長領域400〜800nmにおける光線透過率の最小値が50%以上であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のマイクロリアクター用樹脂基板。
【請求項5】
充填材は、層状珪酸塩であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のマイクロリアクター用樹脂基板。
【請求項6】
層状珪酸塩は、膨潤性スメクタイト系粘度鉱物及び/又は膨潤性雲母であることを特徴とする請求項5記載のマイクロリアクター用樹脂基板。
【請求項7】
層状珪酸塩は、樹脂中にX線回折測定により検出される平均層間距離が6nm以上であるように分散していることを特徴とする請求項5又は6記載のマイクロリアクター用樹脂基板。
【請求項8】
充填材は、長辺又は長径が300nm以下であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載のマイクロリアクター用樹脂基板。
【請求項9】
樹脂は、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載のマイクロリアクター用樹脂基板。
【請求項10】
樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載のマイクロリアクター用樹脂基板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−231427(P2008−231427A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91831(P2008−91831)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【分割の表示】特願2002−356921(P2002−356921)の分割
【原出願日】平成14年12月9日(2002.12.9)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】