説明

マイクロ検査チップおよび検査装置

【課題】複数種類の液体を効率よく混合して反応させ、反応によって得られた生成液から標的物質を検出することができ、小型化やコストダウンに適したマイクロ検査チップおよび検査装置を提供すること。
【解決手段】複数種類の液体の混合液を、増幅部内にくちばし状に飛び出した突起部の先端から増幅部内に流入させることで、複数種類の液体を効率よく混合することができる。また、混合液の表面が増幅部の壁面に接しないようにすることで、複数種類の液体を効率よく混合することができる。さらに、増幅部で加熱することにより反応を増幅して生成液を得、増幅部で生液内の標的物質を検出するので、複数種類の液体を効率よく反応させ、得られた生成液から標的物質を検出することができ、小型化やコストダウンに適したマイクロ検査チップおよび検査装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ検査チップおよび検査装置に関し、特に、遺伝子増幅反応、抗原抗体反応などによる生体物質の検査・分析、その他の化学物質の検査・分析、有機合成等による目的化合物の化学合成などに用いられるマイクロ検査チップおよび検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロマシン技術および超微細加工技術を駆使することにより、従来の試料調製、化学分析、化学合成などを行うための装置、手段(例えばポンプ、バルブ、流路、センサーなど)を微細化して1チップ上に集積化した分析用チップが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これは、μ−TAS(Micro Total Analysis System)、バイオリアクタ、ラブ・オン・チップ(Lab−on−chips)、バイオチップとも呼ばれ、医療検査・診断分野、環境測定分野、農産製造分野でその応用が期待されている。特に、遺伝子検査に見られるように煩雑な工程、熟練した手技、機器類の操作が必要とされる場合には、自動化、高速化および簡便化に優れた分析用チップは、コスト、必要試料量、所要時間のみならず、時間および場所を選ばない分析を可能とするので、その恩恵は多大と言える。
【0004】
各種の分析、検査では、これらの分析用チップにおける分析の定量性、解析の精度、経済性などが重要視される。そのためにはシンプルな構成で、高い信頼性の送液システムを確立することが課題であり、精度が高く信頼性に優れるマイクロ流体制御素子が求められている。これに好適なマイクロポンプシステムおよびその制御方法を本発明の発明者らはすでに提案している(例えば、特許文献2〜4参照)。
【0005】
上記のような分析用チップ(以下、マイクロ検査チップと言う)では、複数の試薬を混合した混合試薬と試料との反応を行うことができることが望ましい。そのために、マイクロ検査チップでは、一つのチップ内で試薬同士の混合、試薬と試料との混合など、各種の混合操作が必要となる。そこで、2つの液体貯留部から2種類の液体をY字型の流路を介して折れ曲がった長い混合流路に流し込んで混合し、検出部において標的物質を検出する方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0006】
また、試薬と試料との混合液を反応チャンバ内に流し込んで、反応チャンバ内で温度循環させて反応させた後に、検出チャンバに送液して、検出チャンバに設けられた窓を通して標的物質の存在テストを行う方法が提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【特許文献1】特開2004−28589号公報
【特許文献2】特開2001−322099号公報
【特許文献3】特開2004−108285号公報
【特許文献4】特開2004−270537号公報
【特許文献5】米国特許第6743399号明細書
【特許文献6】特許第3558294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献5で提案された方法では、Y字型流路を介して混合流路に流れ込んだ2種類の液体は、混合流路内を層流となって流れるために容易には混合しないので、混合流路の長さを非常に長くしないと混合されない。そのために、混合流路がマイクロ検査チップ上に大きな面積を占め、マイクロ検査チップの小型化やコストダウンの阻害要因となる。また、液体を長い距離送液する必要があるので、送液用のマイクロポンプへの負荷も大きい。
【0008】
さらに、特許文献6で提案された方法でも、反応チャンバと検出チャンバとが別設されているのでマイクロ検査チップ上に大きなスペースが必要で、マイクロ検査チップの小型化やコストダウンの阻害要因となる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、複数種類の液体を効率よく混合して反応させ、反応によって得られた生成液から標的物質を検出することができ、小型化やコストダウンに適したマイクロ検査チップおよび検査装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、下記構成により達成することができる。
【0011】
1.複数種類の液体の混合液を下流に送液するための混合液流路と、
前記混合液流路の下流に連通し、加熱により前記混合液の反応を増幅して生成液を得る増幅部とを備えたマイクロ検査チップにおいて、
前記混合液流路と前記増幅部との連通部は、流路幅が前記混合液流路よりも狭い細流路であり、
前記細流路の最下流部は、前記増幅部の内壁からくちばし状に突出した突起部の先端部に開口していることを特徴とするマイクロ検査チップ。
【0012】
2.前記増幅部は、前記混合液が全量送液されても、その内壁の側面および上面と前記混合液との間に隙間を有することを特徴とする1に記載のマイクロ検査チップ。
【0013】
3.前記増幅部の内壁は疎水性であることを特徴とする1または2に記載のマイクロ検査チップ。
【0014】
4.前記増幅部は、前記生成液に含まれる標的物質を検出するための検出領域を有することを特徴とする1乃至3の何れか1項に記載のマイクロ検査チップ。
【0015】
5.前記混合液流路の上流に、複数の前記液体を定量して貯留する複数の液体貯留部を備えたことを特徴とする1乃至4の何れか1項に記載のマイクロ検査チップ。
【0016】
6.1乃至5の何れか1項に記載のマイクロ検査チップと、
前記混合液を送液するマイクロポンプと、
前記混合液を加熱する加熱部と、
前記生成液に含まれる標的物質を検出する検出部とを備えたことを特徴とする検査装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数種類の液体の混合液を、増幅部内にくちばし状に飛び出した突起部の先端から増幅部内に流入させることで、複数種類の液体を効率よく混合することができる。また、混合液の表面が増幅部の壁面に接しないようにすることで、複数種類の液体を効率よく混合することができる。さらに、増幅部で加熱することにより反応を増幅して生成液を得、増幅部で生液内の標的物質を検出するので、複数種類の液体を効率よく反応させ、得られた生成液から標的物質を検出することができ、小型化やコストダウンに適したマイクロ検査チップおよび検査装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。なお、図中、同一あるいは同等の部分には同一の番号を付与し、重複する説明は省略する。
【0019】
まず、本発明における検査装置について、図1を用いて説明する。図1は、本発明における検査装置の1例を示す模式図である。
【0020】
図1において、検査装置1は、マイクロ検査チップ100、マイクロポンプユニット210、加熱冷却ユニット230、検出部250および駆動制御部270等で構成される。マイクロポンプユニット210は、マイクロ検査チップ100内の送液を行う。加熱冷却ユニット230は、マイクロ検査チップ100内の反応の促進および抑制のために、検体、試薬およびその混合液等の加熱および冷却を行う。検出部250は、マイクロ検査チップ100内の反応によって得られる生成液に含まれる標的物質を検出する。駆動制御部270は、検査装置1内の各部の駆動、制御、検出等を行う。
【0021】
マイクロポンプユニット210は、マイクロポンプ211、チップ接続部213、駆動液タンク215および駆動液供給部217等で構成される。マイクロポンプ211は、駆動液216の送液を行う。チップ接続部213は、マイクロポンプ211とマイクロ検査チップ100とを接続する。駆動液タンク215は、送液のための駆動液216を供給する。駆動液供給部217は、駆動液タンク215からマイクロポンプ211に駆動液216を供給する。駆動液タンク215は、駆動液216の補充のために駆動液供給部217から取り外して交換可能である。マイクロポンプ211上には1個または複数個のポンプが形成されており、複数個の場合は、各々独立にあるいは連動して駆動可能である。
【0022】
加熱冷却ユニット230は、冷却部231および加熱部233等で構成される。冷却部231はペルチエ素子等で構成される。加熱部233は、ヒータ等で構成される。もちろん、加熱部233もペルチエ素子で構成してもよい。検出部250は、発光ダイオード(LED)やレーザ等の光源251と、フォトダイオード(PD)等の受光素子253等で構成され、マイクロ検査チップ100内の反応によって得られる生成液に含まれる標的物質を、マイクロ検査チップ100上の検出領域255の位置で光学的に検出する。
【0023】
マイクロ検査チップ100は、一般に分析チップ、マイクロリアクタチップなどとも称されるものと同等であり、例えば、樹脂、ガラス、シリコン、セラミックスなどを材料とし、その上に、微細加工技術により、幅および高さが数μm〜数百μmのレベルの微細な流路を形成したものである。マイクロ検査チップ100のサイズおよび形状は、通常、縦横が数十mm、厚さが数mm程度の板状である。
【0024】
マイクロ検査チップ100とマイクロポンプ211とはチップ接続部213で接続されて連通され、マイクロポンプ211が駆動されることにより、マイクロ検査チップ100内の複数の収容部に収容されている各種試薬や検体が、マイクロポンプ211からチップ接続部213を介してマイクロ検査チップ100に流入する駆動液216により送液される。
【0025】
次に、本発明におけるマイクロ検査チップ100の主要部の構成について、図2を用いて説明する。図2は、本発明におけるマイクロ検査チップ100の主要部の構成を示す模式図である。ここでは、本発明における複数種類の液体が1種類の試薬と1種類の検体との場合を例示するが、それには限らず、試薬と試薬、あるいは複数種類の試薬と検体であってもよい。
【0026】
図2において、マイクロ検査チップ100は、試薬貯留部121、検体貯留部131、混合液流路141、増幅部111および排気バルブ151等の流路で構成される。各流路は、プラスチック等の疎水性材料で形成されるか、流路内面に疎水性コーティングを施すことで疎水性とされることが望ましい。
【0027】
試薬貯留部121には、その上流側および下流側にそれぞれ撥水バルブ125aおよび125bが設けられている。また、試薬貯留部121には試薬注入口127が設けられている。試薬注入口127から試薬123が適量注入されることで、試薬123が撥水バルブ125aから125bまで定量されて満充填される。試薬123充填完了後、試薬注入口127は、粘着シート等で構成される封止部材129により封止される。
【0028】
検体貯留部131についても同様に、検体注入口137から検体133が適量注入されることで、検体133が撥水バルブ135aから135bまで定量されて満充填される。検体133充填完了後、検体注入口137は粘着シート等で構成される封止部材139により封止される。
【0029】
試薬貯留部121および検体貯留部131に貯留された試薬123および検体133は、試薬貯留部121および検体貯留部131の上流に位置するマイクロポンプ211から送液される駆動液216によって、下流へと送液される。試薬貯留部121および検体貯留部131は、本発明における複数の液体貯留部として機能する。
【0030】
図2には、試薬123および検体133が混合液流路141の途中まで送液された状態を示している。試薬123と検体133とは層流として送液されるので、混合液流路141内ではあまり混合されない。試薬123および検体133は、この後、混合液流路141から増幅部111に送液され、増幅部111内で混合、加熱されて反応が促進され、生成液となる。
【0031】
混合液流路141の下流には、細流路113が連通しており、細流路113の先端は増幅部111の内壁111aから増幅部111の内側にくちばし状に飛び出した突起部115の先端に開口している。試薬123および検体133は、混合液流路141から細流路113を経由して突起部115の先端から増幅部111内に流入する。
【0032】
次に、本発明の実施の形態について、図3乃至図5を用いて説明する。図3は、増幅部111を中心とした本発明の実施の形態の主要な流路の構成を示す模式図で、図3(a)はマイクロ検査チップ100の流路が形成されている面(以下、流路面と言う)側から見た図、図3(b)は図3(a)のA−A’断面を流路面を下にして示した図である。なお、断面図を併用して説明する都合上、図3以降の流路面側から見た図は、図2の混合液流路141より下流の部分を、図2に対して反時計回りに90度回転して図示する。
【0033】
図3(a)において、上述したように、混合液流路141の下流に連通した細流路113の先端が、増幅部111の内壁111aから増幅部111の内側にくちばし状に飛び出した突起部115の先端に開口している。増幅部111は、角が丸められた概略四角形状であり、突起部115と対向する壁面111bには排気バルブ151が設けられている。
【0034】
増幅部111の中央付近には、増幅部111での反応によって得られる生成液に含まれる標的物質を光学的に検出するための検出領域255が設けられている。増幅部111および後述する封止シート191の少なくとも検出領域255の部分は、光が透過できるようになされている。さらに、増幅部111の流路面側には、検出領域255を避けて、ヒータ等で構成される加熱部233が設けられている。
【0035】
図3(b)において、増幅部111のA−A’断面は、角が丸められた概略四角形状であり、細流路113の先端が突起部115の先端に開口している。一方、突起部115と対向する壁面111bには排気バルブ151が設けられている。マイクロ検査チップ100上に形成された各流路は、封止シート191によってマイクロ検査チップ100の流路面側から封止されている。
【0036】
図3(a)で上述したように、増幅部111の中央付近には検出領域255が設けられ、検出領域255を挟んでマイクロ検査チップ100の両面には、増幅部111内での反応によって得られる生成液に含まれる標的物質を光学的に検出するための検出部250が設けられている。検出部250は、例えばマイクロ検査チップ100の裏面側に配置された光源251と、流路面側に配置された受光素子253とで構成されている。所謂透過型の構成である。もちろん、光源251と受光素子253とがマイクロ検査チップ100の同一側に配置された所謂反射型の構成でもよい。
【0037】
さらに、増幅部111の流路面側には、検出領域255を避けて、ヒータ等で構成される加熱部233が設けられている。検出部250での検出に影響のない透明なヒータであれば、増幅部111の流路面側全面に配置してもよい。加熱部233は、図1に示した駆動制御部270によって駆動され、制御される。
【0038】
続いて、試薬123と検体133とが、細流路113から増幅部111に流入した状態について、図4および図5を用いて説明する。図4は、試薬123と検体133とが細流路113から増幅部111に流入した状態を示す模式図で、図4(a)はマイクロ検査チップ100の流路面側から見た図、図4(b)は図4(a)のA−A’断面を流路面を下にして示した図である。
【0039】
図4(a)および(b)において、混合液流路141および細流路113内を層流として送液されてきた試薬123と検体133とは、増幅部111内の空気を排気バルブ151から排出しながら、突起部115の先端に開口した細流路113から増幅部111内に流入する。増幅部111の内壁面は疎水性であり、突起部115の先端も疎水性のため、混合液161は、試薬123と検体133との混合液161の表面張力によって、突起部115の先端から半球状に広がっていく。
【0040】
増幅部111は、試薬貯留部121および検体貯留部131で定量された試薬123と検体133との混合液161が増幅部111内に全量送液されても、混合液161の表面が増幅部111の内壁面111aおよび111bや、増幅部111の天面111cに触れないだけの容積を持っている。これによって、混合液161の表面張力により混合液161に対流が発生して、混合が促進される。
【0041】
図5は、混合液161が増幅部111内に全量送液された状態を示す模式図で、図5(a)はマイクロ検査チップ100の流路面側から見た図、図5(b)は図5(a)のA−A’断面を流路面を下にして示した図である。
【0042】
図5(a)および(b)において、混合液161は、定量されたその全量が増幅部111内に送液され、半球状の形状を保ったまま、加熱部233によって加熱されて反応が増幅され、生成液161が得られる。反応によって生成された生成液161中の標的物質は、検出部250によって光学的に検出される。
【0043】
上述したように、増幅部111は、混合液161が全量送液されても、混合液161の表面が増幅部111の内壁面111aおよび111bや、増幅部111の天面111cに触れないだけの容積を持っているので、加熱部233による加熱により混合液161内の反応が増幅される際にも、混合液161の表面張力によって混合液161の反応が促進される。
【0044】
なお、本実施の形態においては、マイクロポンプにより駆動液を送液することで、検体や試薬を送液しているが、必ずしもマイクロポンプのような液体用ポンプを用いる必要はなく、空気用ポンプを用いて検体や試薬を直接送液してもよい。
【0045】
以上に述べたように、本発明の実施の形態によれば、試薬123と検体133との混合液161を、増幅部111の内壁111aから増幅部111の内側にくちばし状に飛び出した突起部115の先端に開口している細流路113から増幅部111に流入させ、混合液161が増幅部の壁面に触れないようにすることで、混合液161を素早く混合することができる。
【0046】
また、増幅部111内で加熱部233を用いて混合液161を加熱することで、混合液161を効率よく反応させて生成液161を得ることができる。さらに、増幅部111内で検出部250を用いて生成液161内の標的物質を検出するので、反応によって得られた生成液161から効率よく標的物質を検出することができる。加えて、以上に述べた混合、加熱、反応、検出の全てを増幅部111内で行うので、省スペース化に優れ、マイクロ検査チップの小型化やコストダウンに適している。
【0047】
次に、上述した実施の形態に用いられるマイクロポンプ211の1例について、図6を用いて説明する。マイクロポンプ211は、アクチュエータを設けた弁室の流出入孔に逆止弁を設けた逆止弁型のポンプなど各種のものが使用できるが、圧電素子を駆動源とするピエゾポンプを用いることが好適である。図6は、マイクロポンプ211の構成の1例を示す模式図で、図6(a)はピエゾポンプの1例を示した断面図、図6(b)はその上面図、図6(c)はピエゾポンプの他の例を示した断面図である。
【0048】
図6(a)および(b)において、マイクロポンプ211は、第1液室408、第1流路406、加圧室405、第2流路407および第2液室409が形成された基板402、基板402上に積層された上側基板401、上側基板401上に積層された振動板403、振動板403の加圧室405と対向する側に積層された圧電素子404と、圧電素子404を駆動するための図示しない駆動部とが設けられている。駆動部と圧電素子404の両面上の2つの電極とは、フレキシブルケーブル等による配線で接続されており、該配線を通じて駆動部の駆動回路により圧電素子404に駆動電圧を印加する構成となっている。
【0049】
1例として、基板402として、厚さ500μmの感光性ガラス基板を用い、深さ100μmに達するまでエッチングを行なうことにより、第1液室408、第1流路406、加圧室405、第2流路407および第2液室409を形成している。第1流路406は幅を25μm、長さを20μmとしている。また、第2流路407は幅を25μm、長さを150μmとしている。
【0050】
ガラス基板である上側基板401を基板402上に積層することにより、第1液室408、第1流路406、第2液室409および第2流路407の上面が形成される。上側基板401の加圧室405の上面に当たる部分は、エッチングなどにより加工されて貫通している。
【0051】
上側基板401の上面には、厚さ50μmの薄板ガラスからなる振動板403が積層され、その上に、例えば厚さ50μmのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)セラミックス等からなる圧電素子404が積層され貼付されている。駆動部からの駆動電圧により、圧電素子404とこれに貼付された振動板403が振動し、これにより加圧室405の体積が増減する。
【0052】
第1流路406と第2流路407とは、幅および深さが同じで、長さが第1流路406よりも第2流路407の方が長くなっており、第1流路406では、差圧が大きくなると流路の出入り口およびその周辺で乱流が発生し、流路抵抗が増加する。一方、第2流路407では流路の長さが長いので差圧が大きくなっても層流になり易く、第1流路406に比べて差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合が小さくなる。すなわち、差圧の大小によって第1流路406と第2流路407との液体の流れ易さの関係が変化する。これを利用して、圧電素子404に対する駆動電圧波形を制御して送液を行っている。
【0053】
例えば、圧電素子404に対する駆動電圧により、加圧室405の内方向へ素早く振動板403を変位させて、大きい差圧を与えながら加圧室405の体積を減少させ、次いで加圧室405から外方向へゆっくり振動板403を変位させて、小さい差圧を与えながら加圧室405の体積を増加させると、流体は加圧室405から第2液室409の方向(図6(a)のB方向)へ送液される。
【0054】
逆に、加圧室405の外方向へ素早く振動板403を変位させて、大きい差圧を与えながら加圧室405の体積を増加させ、次いで加圧室405から内方向へゆっくり振動板403を変位させて、小さい差圧を与えながら加圧室405の体積を減少させると、流体は加圧室405から第1液室408の方向(図6(a)のA方向)へ送液される。
【0055】
なお、第1流路406と第2流路407における差圧の変化に対する流路抵抗の変化割合の相違は、必ずしも流路の長さの違いによる必要はなく、他の形状的な相違に基づくものであってもよい。
【0056】
上記のように構成されたマイクロポンプ211によれば、ポンプの駆動電圧および周波数を変えることによって、所望する流体の送液方向、送液速度を制御できるようになっている。図6(a)(b)には図示されていないが、第1液室408には駆動液タンク215につながるポートが設けられており、第1液室408は「リザーバ」の役割を演じ、ポートで駆動液タンク215から駆動液の供給を受けている。第2液室409はマイクロポンプユニット210の流路を形成し、その先にチップ接続部213があり、マイクロ検査チップと繋がる。
【0057】
図6(c)において、マイクロポンプ211は、シリコン基板471、圧電素子404、基板474および図示しないフレキシブル配線で構成される。シリコン基板471は、シリコンウエハをフォトリソグラフィ技術により所定の形状に加工したものであり、エッチングにより加圧室405、ダイヤフラム403、第1流路406、第1液室408、第2流路407、および第2液室409が形成されている。
【0058】
基板474には、第1液室408の上部にポート472が、第2液室409の上部にポート473がそれぞれ設けられており、例えばこのマイクロポンプ211をマイクロ検査チップ100と別体とする場合には、ポート473を介してマイクロ検査チップ100のポンプ接続部と連通させることができる。例えば、ポート472、473が穿孔された基板474と、マイクロ検査チップ100のポンプ接続部近傍とを上下に重ね合わせることによって、マイクロポンプ211をマイクロ検査チップ100に接続することができる。
【0059】
また、上述したように、マイクロポンプ211は、シリコンウエハをフォトリソグラフィ技術により所定の形状に加工したものであるため、1枚のシリコン基板上に複数のマイクロポンプ211を形成することも可能である。この場合、マイクロ検査チップ100と接続するポート473の反対側のポート472には、駆動液タンク215が接続されていることが望ましい。マイクロポンプ211が複数個ある場合、それらのポート472は、共通の駆動液タンク215に接続されていてもよい。
【0060】
上述したマイクロポンプ211は、小型で、マイクロポンプ211からマイクロ検査チップ100までの配管等によるデッドボリュームが小さく、圧力変動が少ないうえに瞬時に正確な吐出圧力制御が可能なことから、駆動制御部270での正確な送液制御が可能である。
【0061】
本発明の実施の形態におけるマイクロ検査チップ100では、試薬貯留部121および検体貯留部131の上流と下流とに撥水バルブを設けている。また、細流路113についても撥水バルブと同様の構造である。ここで、撥水バルブの構造と動作について、図7を用いて説明する。図7は、撥水バルブの構造と動作について説明するための模式図で、図7(a)は液体の送液が撥水バルブで遮断されている状態を、図7(b)は撥水バルブを越えて送液されている状態を示す。
【0062】
図7(a)において、撥水バルブ501は、細径の送液制御通路511で構成されている。送液制御通路511とは、その断面積S1(送液方向に対して垂直な断面の断面積)が、上流側流路521の断面積S2および下流側流路523の断面積S3よりも小さい細流路である。
【0063】
流路壁531がプラスチック樹脂などの疎水性の材質で形成されている場合には、上流側流路521内に充填された液体541は送液制御通路511内に流入し、送液制御通路511と下流側流路523との境界部の流路壁531との表面張力の差によって、下流側流路523へ通過することが規制される。
【0064】
図7(b)において、下流側流路523へ液体541を流出させる際には、マイクロポンプ(図示せず)によって所定圧力以上の送液圧力Pを加え、これによって表面張力に抗して液体541を送液制御通路511から下流側流路523へ押し出す。液体541が下流側流路523へ流出した後は、液体541の先端部を下流側流路523へ押し出すのに要した送液圧力Pを維持せずとも、液体541が下流側流路523へ流れていく。
【0065】
すなわち、上流側流路521から下流側流路523への正方向への送液圧力が、所定圧力Pに達するまでは送液制御通路511から先への液体541の通過が遮断され、所定圧力P以上の送液圧力が加わることにより、液体541は送液制御通路511を通過する。
【0066】
流路壁531がガラスなどの親水性の材質で形成されている場合には、少なくとも送液制御通路511の内面に撥水性のコーティング、例えばフッ素系のコーティングを施す必要がある。
【0067】
上述したように、上流側流路521および下流側流路523と送液制御通路511のサイズとは、上流側流路521および下流側流路523への液体541の通過を規制できれば特に限定されないが、一例として、縦横が150μm×300μmの上流側流路521および下流側流路523に対して、縦横が25μm×25μm程度となるように送液制御通路511が形成される。
【0068】
以上に述べたように、本発明によれば、複数種類の液体の混合液を、増幅部内にくちばし状に飛び出した突起部の先端から増幅部内に流入させることで、複数種類の液体を効率よく混合することができる。また、混合液の表面が増幅部の壁面に接しないようにすることで、複数種類の液体を効率よく混合することができる。さらに、増幅部で加熱することにより反応を増幅して生成液を得、増幅部で生液内の標的物質を検出するので、複数種類の液体を効率よく反応させ、得られた生成液から標的物質を検出することができ、小型化やコストダウンに適したマイクロ検査チップおよび検査装置を提供することができる。
【0069】
尚、本発明に係るマイクロ検査チップおよび検査装置を構成する各構成の細部構成および細部動作に関しては、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明における検査装置の1例を示す模式図である。
【図2】本発明におけるマイクロ検査チップの主要部の構成を示す模式図である。
【図3】増幅部を中心とした本発明の実施の形態の主要な流路の構成を示す模式図である。
【図4】試薬と検体とが細流路から増幅部に流入した状態を示す模式図である。
【図5】混合液が増幅部内に全量送液された状態を示す模式図である。
【図6】マイクロポンプの構成の1例を示す模式図である。
【図7】撥水バルブの構造と動作について説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0071】
1 検査装置
100 マイクロ検査チップ
111 増幅部
111a 増幅部壁面
111b 増幅部壁面
111c 増幅部天面
113 細流路
115 突起部
121 試薬貯留部
123 試薬
125a 撥水バルブ
125b 撥水バルブ
127 試薬注入口
129 封止部材
131 検体貯留部
133 検体
135a 撥水バルブ
135b 撥水バルブ
137 検体注入口
139 封止部材
141 混合液流路
151 排気バルブ
161 混合液または生成液
191 封止シート
210 マイクロポンプユニット
211 マイクロポンプ
213 チップ接続部
215 駆動液タンク
216 駆動液
217 駆動液供給部
230 加熱冷却ユニット
231 冷却部
233 加熱部
250 検出部
251 光源
253 受光素子
255 検出領域
270 駆動制御部
401 上側基板
402 基板
403 振動板
404 圧電素子
405 加圧室
406 第1流路
407 第2流路
408 第1液室
409 第2液室
471 シリコン基板
472 ポート
473 ポート
474 基板
501 撥水バルブ
511 送液制御通路
521 上流側流路
523 下流側流路
531 流路壁
541 液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の液体の混合液を下流に送液するための混合液流路と、
前記混合液流路の下流に連通し、加熱により前記混合液の反応を増幅して生成液を得る増幅部とを備えたマイクロ検査チップにおいて、
前記混合液流路と前記増幅部との連通部は、流路幅が前記混合液流路よりも狭い細流路であり、
前記細流路の最下流部は、前記増幅部の内壁からくちばし状に突出した突起部の先端部に開口していることを特徴とするマイクロ検査チップ。
【請求項2】
前記増幅部は、前記混合液が全量送液されても、その内壁の側面および上面と前記混合液との間に隙間を有することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ検査チップ。
【請求項3】
前記増幅部の内壁は疎水性であることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロ検査チップ。
【請求項4】
前記増幅部は、前記生成液に含まれる標的物質を検出するための検出領域を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のマイクロ検査チップ。
【請求項5】
前記混合液流路の上流に、複数の前記液体を定量して貯留する複数の液体貯留部を備えたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のマイクロ検査チップ。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載のマイクロ検査チップと、
前記混合液を送液するマイクロポンプと、
前記混合液を加熱する加熱部と、
前記生成液に含まれる標的物質を検出する検出部とを備えたことを特徴とする検査装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate