説明

マイクロ検査チップおよび送液システム

【課題】安価な空気ポンプを用いても、検体や試薬等の液体を正確に送液することのできるマイクロ検査チップおよび送液システムを提供すること。
【解決手段】液体を貯留する液体貯留部に連通する流路の一部に、前記液体の送液速度を減じるための減速手段を備えることにより、安価なポンプを用いても、検体や試薬等の液体を正確に送液することのできるマイクロ検査チップおよび送液システムを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ検査チップおよび送液システムに関し、特に、遺伝子増幅反応、抗原抗体反応等による生体物質の検査・分析、その他の化学物質の検査・分析、有機合成等による目的化合物の化学合成等に用いられるマイクロ検査チップおよび送液システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロマシン技術および超微細加工技術を駆使することにより、従来の試料調製、化学分析、化学合成等を行うための装置、手段(例えばポンプ、バルブ、流路、センサー等)を微細化して1チップ上に集積化した分析用チップ(以下、マイクロ検査チップと言う)が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これは、μ−TAS(Micro Total Analysis System)、バイオリアクタ、ラブ・オン・チップ(Lab−on−chips)、バイオチップとも呼ばれ、医療検査・診断分野、環境測定分野、農産製造分野でその応用が期待されている。特に、遺伝子検査に見られるように煩雑な工程、熟練した手技、機器類の操作が必要とされる場合には、自動化、高速化および簡便化に優れたマイクロ検査チップは、コスト、必要試料量、所要時間のみならず、時間および場所を選ばない分析を可能とするので、その恩恵は多大と言える。
【0004】
上記のようなマイクロ検査チップでは、検体や試薬等の液体を正確に送液することが求められる。検体や試薬等の液体の送液は、マイクロ検査チップの外部に設けられたポンプを用いて、マイクロ検査チップに駆動液や空気等を注入することで行われる。ところが、一般的な空気ポンプでは、注入される空気の圧力が高いために、送液速度が速すぎて、検体や試薬の混合、送液、送液停止といった送液動作が不安定になる。一方で、ゆっくりと送液できるようなシリンジ方式のポンプを用いると、ポンプのコストが高いという問題がある。
【0005】
そこで、例えば特許文献2には、マイクロ検査チップの外部に設けられたポンプから、ポートを介してマイクロ検査チップ内の流路に流体を送り込むことによって、マイクロ検査チップ内の液体を移動させる方法が提示されている。
【0006】
また、例えば特許文献3には、マイクロ検査チップの外部からエネルギーポテンシャルを与えることによって、マイクロ検査チップ内の液体を移動させる方法が提示されており、そのなかで、「理想的には、流動媒体、例えば圧縮ガス、または印加した真空によって輸送は達成される」ことが提示されている。
【特許文献1】特開2004−28589号公報
【特許文献2】特開2005−65607号公報
【特許文献3】特表2003−502655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法では、マイクロ検査チップ内の液体の移動速度はポンプの送液速度に支配されるため、微小流量で安定して送液を行うためには、一般的な空気ポンプは使用できず、高価なポンプが必要になる。
【0008】
また、特許文献2の方法でも、圧縮ガス、または印加した真空の圧力によって輸送する場合、液体の輸送開始から終了に至るまで所望の速度範囲を逸脱しないように送液するには、下記に記すような課題があって容易に達成できるものではない。
【0009】
液体の送液速度は、送液圧力を液体が流れる流路の流路抵抗値と流路断面積で割った値で決まる。従って、送液速度を所望の速度範囲に収めようとすると、流路抵抗値が常にほぼ一定な場合を除けば、複雑な送液圧力の制御が必要になる。
【0010】
液体に対する流路抵抗値を常にほぼ一定にしようとすると、流路幅が一定の流路にする等、単純な形状の流路しか作れなくなり、流路構成の自由度が低くなる。また、仮に流路抵抗値が常にほぼ一定の流路だとしても、送液圧力をほぼ一定に保ち続ける必要があるという課題がある。ところが、圧縮空気の圧力は、送液によって液体が移動することで、圧力開放されて圧力が低下する。
【0011】
そこで、常に一定の圧力を保つためには、送液中に常に外部から圧力を加え続けるか、あるいは、圧力開放による圧力低下が充分に小さくなるように、容積が大きな圧縮ガスリザーバを設ける等の工夫が必要になる。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、安価なポンプを用いても、検体や試薬等の液体を正確に送液することのできるマイクロ検査チップおよび送液システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、下記構成により達成することができる。
【0014】
1.液体を貯留する液体貯留部を備え、
外部から注入される流体の圧力によって前記液体を送液するマイクロ検査チップにおいて、
前記液体貯留部に連通する流路の一部に、前記液体の送液速度を減じるための減速手段を備えたことを特徴とするマイクロ検査チップ。
【0015】
2.前記減速手段は、前記液体貯留部に連通する流路に、前記液体と気体を介して離間されて収納された減速液であることを特徴とする1に記載のマイクロ検査チップ。
【0016】
3.前記減速手段は、前記液体貯留部に連通する流路に、前記液体と気体を介して離間されて収納された減速液と、前記減速液が収納された前記流路の下流に設けられた狭小流路とであり、
前記狭小流路は、前記液体が送液される流路の平均的な断面積よりも断面積が狭い流路であることを特徴とする2に記載のマイクロ検査チップ。
【0017】
4.前記減速液が下流に送液される時の流路抵抗値は、前記液体が下流に送液される時の流路抵抗値よりも高いことを特徴とする2または3に記載のマイクロ検査チップ。
【0018】
5.前記液体が送液される下流の流路には、流路の断面積が一定ではない断面積変動領域を有し、
前記減速液が下流に送液される時の流路抵抗値は、前記液体が前記断面積変動領域を送液される時の最大の流路抵抗値よりも大きいことを特徴とする2乃至4の何れか1項に記載のマイクロ検査チップ。
【0019】
6.前記流体は気体であることを特徴とする1乃至5の何れか1項に記載のマイクロ検査チップ。
【0020】
7.前記流体は気体であり、
前記減速手段は、外部から注入される前記気体の流量を減じる高流路抵抗部であることを特徴とする1に記載のマイクロ検査チップ。
【0021】
8.前記高流路抵抗部は、多孔質体、網目状フィルムあるいは細管流路の何れか1つあるいはその組合せであることを特徴とする7に記載のマイクロ検査チップ。
【0022】
9.前記高流路抵抗部の流路抵抗値は、前記液体が下流に送液される時の流路抵抗値よりも高いことを特徴とする7または8に記載のマイクロ検査チップ。
【0023】
10.前記液体が送液される下流の流路には、流路の断面積が一定ではない断面積変動領域を有し、
前記高流路抵抗部の流路抵抗値は、前記液体が前記断面積変動領域を送液される時の最大の流路抵抗値よりも大きいことを特徴とする7乃至9の何れか1項に記載のマイクロ検査チップ。
【0024】
11.液体を貯留する液体貯留部を備え、外部から注入される気体の圧力によって前記液体を送液するマイクロ検査チップと、
前記マイクロ検査チップに前記気体を注入する気体注入手段とを備えた送液システムにおいて、
外部から注入される前記気体の流量を減じる高流路抵抗部を備えたことを特徴とする送液システム。
【0025】
12.前記高流路抵抗部は、多孔質体、穴あきフィルムあるいは細管流路の何れか1つあるいはその組合せであることを特徴とする11に記載の送液システム。
【0026】
13.前記高流路抵抗部は、前記マイクロ検査チップと前記気体注入手段とを接続する流路に設けられたことを特徴とする11または12に記載の送液システム。
【0027】
14.前記高流路抵抗部は、前記マイクロ検査チップおよび前記気体注入手段と着脱可能であることを特徴とする13に記載の送液システム。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、液体を貯留する液体貯留部に連通する流路の一部に、前記液体の送液速度を減じるための減速手段を備えることにより、安価なポンプを用いても、検体や試薬等の液体を正確に送液することのできるマイクロ検査チップおよび送液システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。なお、図中、同一あるいは同等の部分には同一の番号を付与し、重複する説明は省略する。
【0030】
まず、本発明のマイクロ検査チップおよび送液システムを備えた検査装置について、図1を用いて説明する。図1は、検査装置の1例を示す模式図である。
【0031】
図1において、検査装置1は、マイクロ検査チップ100、ポンプユニット210、加熱冷却ユニット230、検出部250および駆動制御部270等で構成される。また、送液システム10は、マイクロ検査チップ100とポンプユニット210とで構成される。
【0032】
ポンプユニット210は、マイクロ検査チップ100内に流体を送り込み、その圧力によって、マイクロ検査チップ100内の送液を行う。ポンプユニット210上には1個または複数個のポンプが形成されており、複数個の場合は、各々独立にあるいは連動して駆動可能である。
【0033】
マイクロ検査チップ100とポンプユニット210とはチップ接続部213で接続されて連通され、ポンプユニット210が駆動されることにより、マイクロ検査チップ100内の複数の収容部に収容されている各種試薬や検体が、ポンプユニット210からチップ接続部213を介してマイクロ検査チップ100に送り込まれる流体216の圧力により送液される。
【0034】
加熱冷却ユニット230は、マイクロ検査チップ100内の反応の促進および抑制のために、検体、試薬およびその混合液等の加熱および冷却を行うもので、冷却部231および加熱部233等で構成される。冷却部231はペルチエ素子等で構成される。加熱部233は、ヒータ等で構成される。もちろん、加熱部もペルチエ素子で構成してもよい。
【0035】
検出部250は、マイクロ検査チップ100内の反応によって得られる生成液に含まれる標的物質を検出するもので、発光ダイオード(LED)やレーザ等の光源251と、フォトダイオード(PD)等の受光素子253等で構成される。これによって、マイクロ検査チップ内の反応によって得られる生成液に含まれる標的物質を、マイクロ検査チップ100上の検出領域255の位置で光学的に検出する。
【0036】
駆動制御部270は、検査装置1内の各部の駆動、制御、検出等を行う。
【0037】
マイクロ検査チップ100は、一般に分析チップ、マイクロリアクタチップ等とも称されるものと同等であり、例えば、樹脂、ガラス、シリコン、セラミックス等を材料とし、その上に、微細加工技術により、その幅および高さが数μm〜数百μmのレベルの微細な流路を形成したものである。マイクロ検査チップ100のサイズおよび形状は、通常、縦横が数十mm、厚さが数mm程度の板状である。
【0038】
次に、本発明におけるマイクロ検査チップの第1の実施の形態について、図2を用いて説明する。図2は、マイクロ検査チップ100の第1の実施の形態を示す模式図である。
【0039】
図2において、マイクロ検査チップ100は、チップ接続部213を介してポンプユニット211に連通しており、ポンプユニット211からチップ接続部213を介して、マイクロ検査チップ100内に流体216が送り込まれることで、マイクロ検査チップ100内の液体151が送液される。
【0040】
マイクロ検査チップ100の上には、上述したように、微細加工技術により微細な流路110が形成されている。以下、流路110を構成する各部について説明する。
【0041】
マイクロ検査チップ100には、複数(ここでは4個)の液体貯留部101が直列に連通されており、各々の液体貯留部101には予め試薬や検体等の液体151が貯留されている。上流側から順に、液体貯留部101dに貯留された液体151d、液体貯留部101cに貯留された液体151c、液体貯留部101bに貯留された液体151b、液体貯留部101aに貯留された液体151aである。
【0042】
各々の液体貯留部101の上流側には、枝管109と空気抜き穴111とが設けられ、下流側には液体注入口107と注入枝管125とが設けられている。これらは液体151a乃至151dの注入時に使用されるもので、液体151の注入完了後は、空気抜き穴111および液体注入口107が封止部材119および117で封止される。
【0043】
液体貯留部101aの下流には、液体151a乃至151dを混合するための混合部131と、混合された液体151a乃至151dを反応させて検出するための、反応・検出部133とが設けられている。反応・検出部133の下流は、流路135を介して大気開放穴137に連通されている。
【0044】
混合部131は、混合部131を流れる液体151a乃至151d同士が攪拌混合されやすいように、流路断面積が広い部分と狭い部分とが交互に配置された断面積変動領域を有している。
【0045】
液体151a乃至151dの間には、微量な空気が挟まっていて、送液が開始されるまでは液体151a乃至151d同士が混じりあわないが、送液が開始されて、液体151a乃至151dが下流の混合部131の流路断面積が広い部分に達した時には、液体151a乃至151dの界面が接して、互いに混ざり合うような構成になっている。
【0046】
混合される液体151a乃至151dの総液量はおよそ10mm程度であり、混合部131の流路断面積が広い部分は幅2mm、深さ1.5mm程度、流路断面積が狭い部分は幅0.6mm、深さ0.6mm程度である。また、液体151a乃至151dが流路中を送液される移動量は46mm程度であり、この量を30秒から90秒程度かけて送液されて混合される。従って、液体151a乃至151dが送液される時の流量は、常に23〜69mm/分の範囲内にあることが望まれる。
【0047】
第1の実施の形態においては、さらに、液体貯留部101dとチップ接続部213との間に、空気室167を介して減速液163aが収納された減速液室161aが設けられている。また、減速液室161aと空気室167との間には、液体151が送液される流路の平均的な断面積よりも断面積が狭い狭小流路165aが配置されている。この狭小流路165aは、減速液163aが通過する時には高流路抵抗部として働く。
【0048】
また、第1の実施の形態においては、反応・検出部133の下流にも、同様に、減速液163bが収納された減速液室161bとその下流の狭小流路(高流路抵抗部)165bとが設けられている。減速液163aおよび163b、または、減速液163aおよび163bとその下流の狭小流路165aおよび165bとは、本発明における減速手段として機能する。
【0049】
ここで、減速液163aおよび163bと、その下流の狭小流路(高流路抵抗部)165aおよび165bの役割について説明する。
【0050】
ポンプユニット211から送り込まれる流体216は気体でも液体でもよいが、液体を用いる場合は、液体を供給するためのタンクが必要になるというデメリットがある。また、タンク内の液体の長期保存性の問題や、ポンプ内の液体に気泡が混入した時のポンプの出力低下の問題があるため、メンテナンスのし易さを考慮すると、流体216は気体の方が好ましい。
【0051】
しかし、気体を送出するポンプの場合、市販品では、無負荷状態で上述した23〜69mm/分程度の微小な流量を安定して送出できるものがなく、2〜3桁以上流量が大きいものが一般的である。そこで、気体を送出するポンプとマイクロ検査チップ100との組合せで、上述した微小流量での安定した送液を達成するためには、マイクロ検査チップ100内を液体151が流れる時の流路抵抗と、ポンプから送出される気体の圧力のバランスをとって流量を制御する必要がある。
【0052】
しかしながら、上述したように混合部131の断面積変動領域を液体151が流れる時は、流路断面積が一定でないために流路抵抗値が一定ではないので、一定のポンプ圧力で送液すると送液速度が不安定になるという問題が生じる。
【0053】
また、上述した程度の狭い流路断面積(混合部131の流路断面積が狭い部分で、幅0.6mm、深さ0.6mm程度)では送液速度を充分に減速させるほどの高い流路抵抗値が得られないため、送液速度を上述した23〜69mm/分程度の所望の範囲まで下げるのが困難である。
【0054】
そこで、これを解決するために、流路の上流側と下流側とに減速液163aよび163bが収納された減速液室161aおよび161bと、その下流の狭小流路(高流路抵抗部)165aおよび165bとを設けることによって、送液速度を上述した23〜69mm/分程度の所望の範囲に抑えられるようにした。
【0055】
さらに、流路抵抗の変動による送液速度の変動量を減らすために、減速液163aおよび163bと狭小流路(高流路抵抗部)165aおよび165bとによって得られる流路抵抗値が、液体151が混合部131の断面積変動領域を流れる時の流路抵抗値の最大値よりも充分高くなるようにした。
【0056】
減速液163aおよび163bの粘度ηは、液体151と同程度か、それ以上が望ましい。組成は特に問わないが、水、または水にポリエチレングリコール等を混ぜて粘度を上げた溶液等が考えられる。
【0057】
高流路抵抗部となる幅狭流路165aおよび165bは、例えば幅0.1mm、深さ0.1mm、長さ10mm程度のものを用い、気体を送出するポンプユニット211の気体送出圧力は、例えば10kPa程度のものを用いることで、上記の所望の送液速度を達成することが可能となる。
【0058】
断面が長方形の流路における流路抵抗値の計算式は、以下の(1式)で求められる。
【0059】
R=8×η×L×(W+H)/(W×H) ・・・(1式)
ここで、R:流路抵抗値、η:液体の粘度、W:流路幅、H:流路深さである。
【0060】
第1の実施の形態では、減速液163aおよび163bと幅狭流路165aおよび165bとによる流路抵抗値Rは、(1式)から約1×1013(Pa・sec/m)程度である。それに対して、液体151が混合部131の断面積変動領域を通る時の流路抵抗値Rは、(1式)から高々1×10(Pa・sec/m)程度である。
【0061】
従って、液体151が混合部131の断面積変動領域を通ることによる流路抵抗値Rの最大値よりも、減速液163aおよび163bと幅狭流路165aおよび165bとによる流路抵抗値Rの方が常に大きくなるので、送液速度の変動も抑制され、安定した送液が可能になる。
【0062】
なお、第1の実施の形態では、減速液163と狭小流路(高流路抵抗部)165の組合せを、流路の上流側と下流側の両方に設けたが、どちらか一方にだけ設ければ充分であり、上流側だけであっても下流側だけであっても構わない。
【0063】
上述したように、本第1の実施の形態によれば、液体151を貯留する液体貯留部101に連通する流路の一部に、減速液163と狭小流路(高流路抵抗部)165とで構成される減速手段を備えることにより、安価なポンプを用いても、検体や試薬等の液体を正確に送液することのできるマイクロ検査チップを提供することができる。
【0064】
次に、本発明におけるマイクロ検査チップの第2の実施の形態について、図3を用いて説明する。図3は、マイクロ検査チップ100の第2の実施の形態を示す模式図である。
【0065】
図3において、第2の実施の形態のマイクロ検査チップ100では、液体貯留部101dとチップ接続部213との間に、気体の流量を減じる高流路抵抗部173aが設けられている。さらに、反応・検出部133の下流にも、同様に、高流路抵抗部173bが設けられている。高流路抵抗部173aおよび173bは、本発明における減速手段として機能する。その他の部分は、図2の第1の実施の形態と同じである。
【0066】
この気体に対する高流路抵抗部173aおよび173bとしては、マイクロ検査チップ100の内部に作り込まれた多孔質体、網目状フィルム、あるいは細管流路等が考えられる。
【0067】
多孔質体としては、ウレタンフォーム材が代表的である。マイクロ検査チップ100に多孔質体を埋め込むための窪み171aおよび171bを設けておき、その窪み171aおよび171bと同等の大きさに細分割したウレタンフォームの細片を、窪み171aおよび171bに埋め込んで蓋をすることで、高流路抵抗部173を形成することができる。または、集塵フィルター等に用いられる不織布タイプの素材を埋め込んでもよい。
【0068】
網目状フィルムとしては、樹脂の細線や繊維等を網目状に織ったシート等が考えられる。これらのフィルムを、マイクロ検査チップ100のチップ接続部213との接続用の開口部に貼り付けてもよい。
【0069】
細管流路としては、マイクロ検査チップ100に細い溝を掘り、その上から蓋をすることで作ることができる。細い溝の大きさとしては、例えば、幅30μm、深さ30μm、長さ7.5mm程度が適当である。なお、断面が長方形の流路における流路抵抗値は、上述した(1式)で得られる。但し、ここでいう流体粘度ηは気体の粘度であり、例えば20℃の空気であれば、約0.018(mPa・s)である。
【0070】
第1の実施の形態と同様に、気体を送出するポンプの場合、市販品では微小な流量を安定して送出できるものがなく、2〜3桁以上流量が大きいものが一般的である。しかも、混合部131の断面積変動領域を液体151が流れる時は、流路断面積が一定でないために流路抵抗値が一定ではないので、一定のポンプ圧力で送液すると送液速度が不安定になる。
【0071】
そこで、これを解決するために、流路の上流側と下流側とに高流路抵抗部173aおよび173bを設けることによって、送液速度を所望の範囲に抑えられるようにした。
【0072】
さらに、流路抵抗の変動による送液速度の変動量を減らすために、高流路抵抗部173aおよび173bによって得られる流路抵抗値が、液体151が混合部131の断面積変動領域を流れる時の流路抵抗値の最大値よりも充分高くなるようにした。
【0073】
ここでは、高流路抵抗部173aよび173bの流路抵抗値Rが約1×1013(Pa・sec/m)程度とし、気体を送出するポンプの流体圧力が10kPa程度のものを用いることで、送液速度を達成することが可能となる。
【0074】
液体151が混合部131を通る時の流路抵抗値Rは、高々1×10(Pa・sec/m)程度である。よって、液体151が混合部131を通ることによる流路抵抗値の最大値よりも、高流路抵抗部173aおよび173bの流路抵抗値の方が常に大きくなるので、送液速度の変動も抑制され、安定した送液が可能になる。
【0075】
なお、第2の実施の形態では、高流路抵抗部173を、流路の上流側と下流側の両方に設けたが、どちらか一方にだけ設ければ充分であり、上流側だけであっても下流側だけであっても構わない。
【0076】
上述したように、本第2の実施の形態によれば、液体151を貯留する液体貯留部101に連通する流路の一部に、多孔質体、網目状フィルム、あるいは細管流路等で構成され、減速手段として機能する高流路抵抗部173を備えることにより、安価な空気ポンプを用いても、検体や試薬等の液体を正確に送液することのできるマイクロ検査チップを提供することができる。
【0077】
次に、本発明における送液システムの例を、図4および図5を用いて説明する。図4および図5は、送液システム10の第1および第2の例を示す模式図である。
【0078】
第1および第2の実施の形態では、減速液163、または減速液163とその下流の狭小流路165、あるいは高流路抵抗部173等の減速手段を、マイクロ検査チップ100の流路110の内部に組み込んでいた。しかし、これに限るものではなく、例えばマイクロ検査チップ100とポンプユニット211の間に設けられてもよい。
【0079】
図4において、送液システム10の第1の例は、複数(例えば3個)のポンプ211aを有するポンプユニット211と、複数(例えば3個)の流路110を有するマイクロ検査チップ100とで構成される。
【0080】
流路110は、図2の第1の実施の形態に示した流路110から、流路の上流側と下流側とに設けられた、減速液163が収納された減速液室161とその下流の狭小流路(高流路抵抗部)165とを除いた部分と同じ構成である。
【0081】
各ポンプ211aとチップ接続部213との間には、気体の流量を減じる高流路抵抗部273がそれぞれ設けられ、各ポンプ211aから高流路抵抗部273を介して、マイクロ検査チップ100内の各流路110に気体が注入される。
【0082】
図5において、送液システム10の第2の例は、1個のポンプ211aを有するポンプユニット211と、複数(例えば3個)の流路110を有するマイクロ検査チップ100とで構成される。流路110の構成は、図4の例と同じである。
【0083】
ポンプ211aからの配管217は、複数(例えば3本)に分岐し、各配管217毎に気体の流量を減じる高流路抵抗部273が設けられている。この構成の場合は、分岐した各配管217を個別に駆動できるように、各配管217毎にバルブ215が設けられているとよい。
【0084】
送液システム10の第1および第2の例において、ポンプユニット210は本発明における気体注入手段として機能し、高流路抵抗部273は本発明における減速手段として機能する。
【0085】
送液システム10の第1および第2の例の高流路抵抗部273の構成、材料、作り方等は、図2および図3に示したマイクロ検査チップ100の第1および第2の実施の形態と同様でよい。
【0086】
あるいは、高流路抵抗部273を円筒状の配管の途中に作り込めるため、例えば円筒配管内に多孔質材を直接押し込んで構成する等の方法も考えられる。
【0087】
また、この高流路抵抗部273を含む抵抗部材を配管とは別個に作り、それらの抵抗部材を配管の間に挟みこむようにしてもよい。その際、抵抗部材を着脱可能にしておくと、高流路抵抗部273を随時取り替え可能にすることができる。これによって、高流路抵抗部273が劣化したり目詰まりした場合に、個別に取り替え可能になる。
【0088】
さらに、マイクロ検査チップ100の種類や使用目的に合わせて、流路抵抗値が異なる高流路抵抗部273を取り替えて、送液速度を任意に変えることも可能である。また、ポンプ211aの特性劣化やばらつきを補正するために、流路抵抗値が異なる高流路抵抗部273を取り替えて、流量特性の微調整に用いることも可能になる。
【0089】
上述したように、送液システム10の例によれば、マイクロ検査チップ100とポンプユニット211の間に高流路抵抗部273で構成される減速手段を備えることにより、安価な空気ポンプを用いても、検体や試薬等の液体を正確に送液することのできる送液システムを提供することができる。
【0090】
以上に述べたように、本発明によれば、液体を貯留する液体貯留部に連通する流路の一部に、前記液体の送液速度を減じるための減速手段を備えることにより、安価なポンプを用いても、検体や試薬等の液体を正確に送液することのできるマイクロ検査チップおよび送液システムを提供することができる。
【0091】
なお、本発明に係るマイクロ検査チップおよび送液システムを構成する各構成の細部構成および細部動作に関しては、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】検査装置の1例を示す模式図である。
【図2】マイクロ検査チップの第1の実施の形態を示す模式図である。
【図3】マイクロ検査チップの第2の実施の形態を示す模式図である。
【図4】送液システムの第1の例を示す模式図である。
【図5】送液システムの第2の例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0093】
1 検査装置
10 送液システム
100 マイクロ検査チップ
101 液体貯留部
110 流路
131 混合部
133 反応・検出部
135 流路
137 大気開放穴
151 (試薬や検体等の)液体
161、161a、161b 減速液室
163、163a、163b 減速液
165、165a、165b 狭小流路
167 空気室
169 空気
171、171a、171b 窪み
173、173a、173b 高流路抵抗部
211 ポンプユニット
211a ポンプ
213 チップ接続部
215 バルブ
216 流体
273 高流路抵抗部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留する液体貯留部を備え、
外部から注入される流体の圧力によって前記液体を送液するマイクロ検査チップにおいて、
前記液体貯留部に連通する流路の一部に、前記液体の送液速度を減じるための減速手段を備えたことを特徴とするマイクロ検査チップ。
【請求項2】
前記減速手段は、前記液体貯留部に連通する流路に、前記液体と気体を介して離間されて収納された減速液であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ検査チップ。
【請求項3】
前記減速手段は、前記液体貯留部に連通する流路に、前記液体と気体を介して離間されて収納された減速液と、前記減速液が収納された前記流路の下流に設けられた狭小流路とであり、
前記狭小流路は、前記液体が送液される流路の平均的な断面積よりも断面積が狭い流路であることを特徴とする請求項2に記載のマイクロ検査チップ。
【請求項4】
前記減速液が下流に送液される時の流路抵抗値は、前記液体が下流に送液される時の流路抵抗値よりも高いことを特徴とする請求項2または3に記載のマイクロ検査チップ。
【請求項5】
前記液体が送液される下流の流路には、流路の断面積が一定ではない断面積変動領域を有し、
前記減速液が下流に送液される時の流路抵抗値は、前記液体が前記断面積変動領域を送液される時の最大の流路抵抗値よりも大きいことを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項に記載のマイクロ検査チップ。
【請求項6】
前記流体は気体であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のマイクロ検査チップ。
【請求項7】
前記流体は気体であり、
前記減速手段は、外部から注入される前記気体の流量を減じる高流路抵抗部であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ検査チップ。
【請求項8】
前記高流路抵抗部は、多孔質体、網目状フィルムあるいは細管流路の何れか1つあるいはその組合せであることを特徴とする請求項7に記載のマイクロ検査チップ。
【請求項9】
前記高流路抵抗部の流路抵抗値は、前記液体が下流に送液される時の流路抵抗値よりも高いことを特徴とする請求項7または8に記載のマイクロ検査チップ。
【請求項10】
前記液体が送液される下流の流路には、流路の断面積が一定ではない断面積変動領域を有し、
前記高流路抵抗部の流路抵抗値は、前記液体が前記断面積変動領域を送液される時の最大の流路抵抗値よりも大きいことを特徴とする請求項7乃至9の何れか1項に記載のマイクロ検査チップ。
【請求項11】
液体を貯留する液体貯留部を備え、外部から注入される気体の圧力によって前記液体を送液するマイクロ検査チップと、
前記マイクロ検査チップに前記気体を注入する気体注入手段とを備えた送液システムにおいて、
外部から注入される前記気体の流量を減じる高流路抵抗部を備えたことを特徴とする送液システム。
【請求項12】
前記高流路抵抗部は、多孔質体、穴あきフィルムあるいは細管流路の何れか1つあるいはその組み合わせであることを特徴とする請求項11に記載の送液システム。
【請求項13】
前記高流路抵抗部は、前記マイクロ検査チップと前記気体注入手段とを接続する流路に設けられたことを特徴とする請求項11または12に記載の送液システム。
【請求項14】
前記高流路抵抗部は、前記マイクロ検査チップおよび前記気体注入手段と着脱可能であることを特徴とする請求項13に記載の送液システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−250961(P2009−250961A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103451(P2008−103451)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】