説明

マイクロ波アシストヘッドを用いた磁気記録方法

【課題】周波数が記録層を構成する磁性微粒子の強磁性共鳴(FMR)周波数よりも低い領域も高い領域も略一様に、高いアシスト効果を発現させることができる磁気記録方法。
【解決手段】書込磁極部および補助磁極との間に配置され磁気記録媒体の面内方向にマイクロ波帯域の磁界を発生させるための副コイル(Sub-coil)などを有する薄膜磁気ヘッドを用い、薄膜磁気ヘッドと対向配置される磁気記録媒体の記録層へ磁気記録する磁気記録方法であり、副コイル(Sub-coil)などに搬送波としての前記記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数を帯域内に含んだマイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)を印加させて発生する面内高周波磁界によって前記記録層の磁化反転磁界Hswを低下させつつ、磁気記録を行うように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁化を安定させるために大きな保磁力を有する磁気記録媒体に、データ信号を書き込むためのマイクロ波アシストヘッドを用いた磁気記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高密度記録の進展とともに、磁気記録媒体に記録されるディジタル情報のビットセルが微細化されている。その結果、いわゆる熱揺らぎによって磁気ヘッドの再生素子から検出される信号が揺らいでS/N(信号対雑音比)が劣化したり、あるいは最悪の場合には信号が消失したりすることがある。
【0003】
このため、近年、実用化されている垂直記録方式を用いた磁気記録媒体においては、記録層を構成する磁性微粒子を微細化し、同時に磁性微粒子の磁化の方向を固定する磁気異方性エネルギーKuを高めることが上記の問題を解決するために有効とされる。熱揺らぎに対応する熱安定性指標Sは、S=Ku・V/kB・Tで表され、通常、このSの値は50以上が必要であると言われている。ここに、Ku:磁気異方性エネルギー、V:記録層を構成する磁性微粒子の体積、kB:ボルツマン定数、T:絶対温度である。
【0004】
ところが、情報を記録するために必要な磁界(磁化反転磁界)HswはKuに比例するため、Kuを高めることはHswの増大を招く。
【0005】
所期のデータ系列に対応した記録層の磁化反転を形成するためには、急峻に変化するHswを超える強度の記録磁界を印加する必要がある。近年、垂直記録方式を用いて実用になった磁気ディスク装置(HDD)では、いわゆる単磁極を用いた記録素子が用いられ、そのABS(Air Bearing Surface)表面から記録層に垂直方向の記録磁界が印加される。
【0006】
垂直記録磁界の強度は、単磁極を形成する軟磁性材料の飽和磁束密度Bsに比例する。そのため、できるだけ飽和磁束密度Bsの高い材料が開発されかつ実用化されている。しかしながら、飽和磁束密度Bsは、いわゆる Slater-Pauling 曲線からBs=2.4T(テスラ)が実用な上限であり、現状は実用限界に迫っているといえる。また、現行の単磁極の厚さや幅は、約100〜200nm程度である。記録密度を上げる場合には更に厚さや幅を小さくする必要があり、それに伴って発生する垂直磁界はより低下する傾向にある。
【0007】
このような理由から、通常のデータ書き込み素子の記録能力には限界が来ていると言え、高密度記録が難しくなっているのが現状である。
【0008】
このため、記録層をレーザー光などで照射・昇温させ、記録層の保磁力を下げた状態で信号を記録する、いわゆる熱アシスト記録(TAMR:Thermal Assisted Magnetic Recording)が提案されている。
【0009】
しかしながら、熱アシスト記録においても、以下のような問題がある。すなわち、
(1)磁気素子と光素子を搭載した磁気ヘッドが必須となるが、構造が極めて複雑で高価であること、(2)保磁力の温度特性の変化が大きい記録層の開発が必要であること、(3)記録過程における熱減磁により、隣接トラック消去や記録状態が不安定性になること、などである。
【0010】
この一方で、読み取り素子としてのGMRヘッドやTMRヘッドの高感度化を狙いに、電子伝導におけるスピンの挙動(Spin Transfer)に関する研究が活発になってきている。これを磁気ディスク媒体の記録層の磁化反転に応用し、磁化反転に必要な垂直磁界を低減させようという研究が開始されている。
【0011】
これは記録媒体の面内方向に高周波の交流磁界を、記録のための垂直磁界と同時に印加するものであり、面内方向に印加する交流磁界の周波数は、磁気記録媒体の磁気記録層(以下単に「記録層」、あるいは「磁性層」と称す)を構成する磁性微粒子の強磁性共鳴周波数に対応するマイクロ波帯の超高周波(数〜40GHz)とされる。
【0012】
そして、面内方向の交流磁界の同時印加により、記録層の磁化反転磁界Hswを60%程度に低下させることが可能、との解析結果が報告されている。本方式が実用になれば構成が複雑なTAMRを用いる必要もなく、更に記録層のKuを上げることが可能になり、大幅な記録密度の向上が期待される。
【0013】
この磁化反転磁界を低下させる現象は、記録層を構成する磁性微粒子のスピンの強磁性共鳴(ferromagnetic resonance;以下、『FMR』と称す場合がある)周波数に近い周波数の交流磁界を印加することにより、磁性微粒子のスピンの歳差運動が励起されることにより得られる。
【0014】
しかしながら、スピンのFMR周波数は、スピンの磁化容易軸からの角度により順次変化するので、単一周波数の正弦波を与えただけでは、磁化反転に至る過程においてスピンが特定の角度となったときのみ歳差運動を励起する効果があり、スピンの他の角度ではFMR周波数と交流磁界の周波数が一致せずに歳差運動を励起する効果が得られない。
【0015】
理想的なことを言えば、歳差運動中のスピンの角度によってアシストするマイクロ波の周波数を順次変化させて追従させるのが、最適な方法と言えるが、歳差運動の一周期は1ns以下の短い周期なので、この周期の中で同期を取り追従させる事は現実的ではない。
【0016】
このような欠点を取り除くために、周波数変調波(以下、FM波と称す場合がある)を印加させる方法も提案されているが(特開2010−3339:東北大学)、単一周波数による変調なので、FM波のスペクトラムは、図32に示されるようにエネルギーが一様でなく間隔が空いた状態となる。このようないわゆる歯抜け状態の変調周波数の間隔の中に、記録層を構成する磁性微粒子のFMR周波数が入った場合はアシスト効果が極めて小さいといえる。
【0017】
また、単一周波数信号によるFM波では、中心周波数より離れるとスペクトラム強度が弱くなること、および、ある変調指数においては、中心周波数のエネルギーがゼロになる点があること、等があり、これらの観点からも単一周波数信号によるFM波を使うのは、望ましくないといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2007−299460号公報
【特許文献2】特開2010−073286号公報
【特許文献3】特開2010−182347号公報
【特許文献4】U.S.P. 6785092号公報
【特許文献5】特開2010−003399号公報
【特許文献6】特開2001−268163号公報
【特許文献7】特開2000−269899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
このような実状のもとに本発明は創案されたものであって、その目的は、周波数が強磁性共鳴(FMR)周波数よりも低い領域も高い領域も略一様に、磁気記録媒体の記録層を構成する磁性微粒子のスピンの歳差運動が励起されて磁化反転が効率良く行われて、高いアシスト効果を発現させることができる磁気記録方法の提案が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
このような課題を解決するために、本発明の磁気記録方法は、書込磁極部(Main Pole)と、補助磁極と、前記書込磁極部に書き込み磁界を発生させるための書き込み用コイルと、前記書込磁極部および補助磁極との間に配置され磁気記録媒体の面内方向にマイクロ波帯域の磁界を発生させるための副コイル(Sub-coil)、あるいは前記書込磁極部に近接して設けられマイクロ波を放射するためのマイクロ波放射器(Radiator)を、を有する薄膜磁気ヘッドを用い、当該薄膜磁気ヘッドと対向配置される磁気記録媒体の記録層へ磁気記録する磁気記録方法であり、当該磁気記録方法は、前記副コイル(Sub-coil)または前記マイクロ波放射器(Radiator)に、搬送波としての前記記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数を帯域内に含んだマイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)を印加させて発生する面内高周波磁界によって前記記録層の磁化反転磁界Hswを低下させつつ、磁気記録を行うように構成される。
【0021】
また、本発明の磁気記録方法の好ましい態様として、前記マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)の周波数スペクトラムは、磁気記録媒体の記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数より下側の周波数域では、3dB±1dB/Octで信号強度を増加させるように構成され、磁気記録媒体の記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数より上側の周波数域では、12dB±2dB/Octで信号強度を増加させるように構成される。
【0022】
また、本発明の磁気記録方法の好ましい態様として、前記マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)の周波数スペクトラムは、磁気記録媒体の記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数より下側の周波数域で3dB±1dB/Octで信号強度を増加させるために、遮断周波数が強磁性共鳴周波数(FMR)であって、強磁性共鳴(FMR)周波数の低域側では3dB±1dB/Octの周波数特性を持つローパスフィルターで調整され、強磁性共鳴(FMR)周波数より上側の周波数域で12dB±2dB/Octで信号強度を増加させるために、周波数の高域側で12dB±2dB/Octの周波数特性を持つハイパスフィルターで調整されるように構成される。
【0023】
また、本発明の磁気記録方法の好ましい態様として、前記マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)の周波数スペクトラムは、強磁性共鳴(FMR)周波数より下側の周波数域で3dB±1dB/Octで信号強度が増加し、強磁性共鳴(FMR)周波数より上側の周波数域で12dB±2dB/Octで信号強度が増加するような周波数特性を持ち、中心周波数が強磁性共鳴(FMR)周波数となるバンドエリミネーションフィルターで調整されるように構成される。
【0024】
また、本発明の磁気記録方法の好ましい態様として、前記マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)は、白色雑音による変調信号により、磁気記録媒体の記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数である搬送波を、位相変調したものであり、その変調度は、0(0を含まない)〜2π(2πを含まない)ラジアンであるように構成される。
【0025】
また、本発明の磁気記録方法の好ましい態様として、前記マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)は、疑似ランダム信号(Pseudo Noise)による変調信号により、磁気記録媒体の記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数である搬送波を、位相変調したものであり、その変調度は、0(0を含まない)〜2π(2πを含まない)ラジアンであるように構成される。
【0026】
また、本発明の磁気記録方法の好ましい態様として、前記書込磁極部(Main Pole)から、磁気記録媒体の記録層の膜面の垂直方向に記録磁界を印加すると同時に、前記副コイル(Sub-coil)または前記マイクロ波放射器(Radiator)に、搬送波としての前記記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数を帯域内に含んだマイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)を印加させて、磁気記録媒体の記録層の面内方向に高周波磁界を加えて磁化反転による記録動作を行なうように構成される。
【0027】
また、本発明の磁気記録方法の好ましい態様として、搬送波として選定される前記記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数は、10〜20GHzの範囲であるように構成される。
【0028】
また、本発明の磁気記録方法の好ましい態様として、前記副コイル(Sub-coil)または前記マイクロ波放射器(Radiator)に連結される一方の端子は、マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)源に接続されており、反対側の他方の端子は、接地電位とされるように構成される。
【0029】
また、本発明の磁気記録方法の好ましい態様として、前記副コイル(Sub-coil)または前記マイクロ波放射器(Radiator)に連結される一方の端子は、マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)源に接続されており、反対側の他方の端子は、マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)源とは位相が180度異なる相似の信号源に接続されるように構成される。
【0030】
また、本発明の磁気記録方法の好ましい態様として、前記書き込み用コイルによる励磁され記録層に印加される垂直磁界の強度Hpと、前記副コイル(Sub-coil)または前記マイクロ波放射器(Radiator)により励磁され記録層に印加される面内磁界の強度Hhとの比、Hh/Hpが0.1〜0.4であるように構成される。
【発明の効果】
【0031】
周波数が記録層を構成する磁性微粒子の強磁性共鳴(FMR)周波数よりも低い領域も高い領域も略一様に、磁気記録媒体の記録層を構成する磁性微粒子のスピンの歳差運動が励起されて磁化反転が効率良く行われて、高いアシスト効果を発現させることができる。換言すれば、本発明によれば、磁化反転確率と交流磁界の周波数の関係は平坦に近くなり、印加させるマイクロ波中心周波数の変化ないしバラツキや、磁気記録媒体の記録層を構成する磁性微粒子の強磁性共鳴(FMR)周波数の変化ないしバラツキに対して、非常に柔軟に対応出来ることになる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、磁気記録媒体の記録層を構成する磁性微粒子の強磁性共鳴(FMR)周波数である搬送波を、白色雑音による変調信号によって、位相変調することにより本願所望のマイクロ波スペクトラム拡散信号が形成される模式的状態を示す図面である。
【図2】図2は、さらにより好ましい態様のマイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)の周波数スペクトラムを模式的に示した図面である。
【図3】図3は、マイクロ波アシストを行うことによって、磁化反転の指標となる磁化反転確率と、マイクロ波アシスト周波数(横軸)との関係を示したグラフである。記録層の異方性磁界Hkは9kOeのものである。
【図4】図4は、図3で示した磁化反転確率vs周波数の各グラフで最も磁化反転確率の高い周波数における磁化反転確率を基準として、各周波数における基準からの低下量を垂直磁場毎に描いたグラフである。記録層の異方性磁界Hkは9kOeのものである。
【図5】図5は、所定のフィルターを用いて、スペクトラム補正した信号による周波数特性を示した図面である。記録層の異方性磁界Hkは9kOeのものである。
【図6】図6は、マイクロ波アシストを行うことによって、磁化反転の指標となる磁化反転確率と、マイクロ波アシスト周波数(横軸)との関係を示したグラフである。記録層の異方性磁界Hkは10kOeのものである。
【図7】図7は、図6で示した磁化反転確率vs周波数の各グラフで最も磁化反転確率の高い周波数における磁化反転確率を基準として、各周波数における基準からの低下量を垂直磁場毎に描いたグラフである。記録層の異方性磁界Hkは10kOeのものである。
【図8】図8は、所定のフィルターを用いて、スペクトラム補正した信号による周波数特性を示した図面である。記録層の異方性磁界Hkは10kOeのものである。
【図9】図9は、マイクロ波アシストを行うことによって、磁化反転の指標となる磁化反転確率と、マイクロ波アシスト周波数(横軸)との関係を示したグラフである。記録層の異方性磁界Hkは11kOeのものである。
【図10】図10は、図9で示した磁化反転確率vs周波数の各グラフで最も磁化反転確率の高い周波数における磁化反転確率を基準として、各周波数における基準からの低下量を垂直磁場毎に描いたグラフである。記録層の異方性磁界Hkは11kOeのものである。
【図11】図11は、所定のフィルターを用いて、スペクトラム補正した信号による周波数特性を示した図面である。記録層の異方性磁界Hkは11kOeのものである。
【図12】図12は、具体的な電子回路の例を示した図面である。
【図13】図13は、磁気記録媒体の積層断面図である。
【図14】図14は、磁気ヘッドの全体構造を模式的に示した斜視図である。
【図15】図15は、磁気ヘッドの記録ヘッド部の平面図(積層方向)である。
【図16】図16は、図15のα−α断面矢視図である。
【図17】図17は、図15のβーβ断面矢視図である。
【図18】図18は、Wrap-Around構造の別の形態例であり、図16相当図である。
【図19】図19は、Wrap-Around構造の磁気ヘッドの要部を示した概略構成図(ほぼY−Z平面図に近い斜視図)である。
【図20】図20は、図19からトレーリングシールド200を取り除いて、ヘッドの内部を立体的に見やすくした斜視図である。
【図21】図21は、磁気ヘッドの主磁極膜と、補助磁極に相当するトレーリングシールドとの間に副コイルを備え、副コイルに本発明の記録方法を実施すべく所望の変調されたマイクロ波帯域の交流電流を駆動して面内交流磁界を発生させるタイプの薄膜磁気ヘッドであって、略Y−Z平面図に近い概略図である。
【図22】図22は、図21に示される状態からトレーリングシールドを取り除いて、ヘッドの内部、特に、副コイルの存在を立体的に見やすくした斜視図である。
【図23】図23は、主磁極膜と、補助磁極に相当するトレーリングシールドの前部近傍、かつABSに配置されたマイクロ波放射器(Radiator)を備えた磁気ヘッドの図面であって、略Y−Z平面図を示す概略図である。
【図24】図24は、図23に示される状態から、記録ヘッド部を取り除いて、取り除かれた記録ヘッド部側からヘッド内部の要部構造を見て、マイクロ波放射器(Radiator)に接続される配線構造を分かりやすく示した斜視図である。
【図25】図25は、マイクロ波を放射するためのマイクロ波放射器(Radiator)を備える薄膜磁気ヘッドのABS側を見た斜視図である。
【図26】図26は、マイクロ波放射器(Radiator)の近傍をさらに拡大して示した斜視図である。
【図27】図27は、マイクロ波を放射するためのマイクロ波放射器(Radiator)を備える薄膜磁気ヘッドのABS側を見た斜視図であり、Wrap-Around構造を形成するトレーリングシールドは存在する。
【図28】図28は、インバーテッドマイクロストリップライン(I−MLIN)の構成をモデル的に示した断面図である。
【図29】図29は、ストリップラインの構成をモデル的に示した断面図である。
【図30】図30は、マイクロストリップラインの構成をモデル的に示した断面図である。
【図31】図31は、CPW(コプレーナ:Co-Planer-Waveguide)の構成をモデル的に示した断面図である。
【図32】図32は、従来の変調方式によるスペクトラムを模式的に示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0034】
本発明の磁気記録方法は、書込磁極部(Main Pole)と、補助磁極と、書込磁極部に書き込み磁界を発生させるための書き込み用コイルと、書込磁極部および補助磁極との間に配置され磁気記録媒体の面内方向にマイクロ波帯域の磁界を発生させるための副コイル(Sub-coil)、あるいは前記書込磁極部に近接して設けられマイクロ波を放射するためのマイクロ波放射器(Radiator)、を有する薄膜磁気ヘッド(マイクロ波アシストヘッド)を用いて、当該薄膜磁気ヘッドと対向配置される磁気記録媒体の記録層へ磁気記録する磁気記録方法である。
【0035】
まず最初に、本発明の磁気記録方法の要部について説明する。本発明で用いられる薄膜磁気ヘッド(マイクロ波アシストヘッド)の構成については、その後に、説明する。
【0036】
本発明の磁気記録方法の要部についての説明
本発明の磁気記録方法は、薄膜磁気ヘッドに備えられたマイクロ波放射器(Radiator)又は、副コイル(Sub-coil)に、搬送波として記録対象である磁気記録媒体の記録層を構成する磁性微粒子の強磁性共鳴(FMR)周波数を帯域内に含んだマイクロ波スペクトラム拡散信号(SS(Spectrum Spread)信号)を印加させることにある。そして、発生する面内高周波磁界によって、磁気記録媒体の磁性記録層(以下、単に『記録層』と称す)を構成する磁性微粒子の磁化反転磁界Hswを低下させつつ、磁気記録が行なわれる。
【0037】
つまり、書込磁極部(Main Pole;主磁極という場合もある)から、磁気記録媒体の記録層の膜面の垂直方向に記録磁界を印加すると同時に、マイクロ波放射器(Radiator)又は、副コイル(Sub-coil)に、搬送波としての前記記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数を帯域内に含んだマイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)を印加させて、磁気記録媒体の記録層の面内方向に高周波磁界を加えて磁化反転による記録動作を行なうのである。
【0038】
本発明におけるマイクロ波スペクトラム拡散信号は、白色雑音による変調信号によって、磁気記録媒体の記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数である搬送波を、位相変調することにより形成される。その際、位相の変調度は、0(0を含まない)〜2π(2πを含まない)ラジアン、より好ましくは、π〜2πラジアンとされる。
【0039】
なお、磁気記録媒体の記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数は、使用される記録層の磁気物性等により特定されるものであって、通常、強磁性共鳴(FMR)周波数は、10〜40GHzの範囲、特に、10〜20GHzの範囲に存在する。
【0040】
磁気記録媒体の記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数である搬送波を、白色雑音による変調信号によって、位相変調することにより本願所望のマイクロ波スペクトラム拡散信号が形成される模式的状態を、図1を参照しつつ説明する。
【0041】
図1において、いま仮に、搬送波である強磁性共鳴(FMR)周波数を10GHzとする。そして、仮に、周波数帯幅1GHz(0〜1GHz)の白色雑音を変調信号として、搬送波を位相変調する。すると、図1のモデル図に示されるように、10GHzの搬送波の両サイドに、それぞれ、周波数帯幅1GHz(0〜1GHz)の白色雑音が配置された状態の周波数スペクトラムが得られる。つまり、図1に示されるように、被変調波の瞬時における周波数軸のエネルギー分布が幅広く(この例の場合、2GHzの幅)、かつ平坦な周波数スペクトラムが得られる。
【0042】
白色雑音は、瞬時における周波数軸のエネルギー分布が幅広いという特性を備え、かつ、位相変調は、瞬時における周波数軸のエネルギー分布が平坦であるという特性を備えている。なお、周波数変調(FM)で白色雑音を変調波にした場合には、搬送波から周波数が離れるにつれてエネルギー分布が減少し、いわゆる山形のかたちをしたスペクトラムとなるので不適である。
【0043】
マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)の形成に際し、変調信号として用いた白色雑音に変えて、疑似ランダム信号(Pseudo Noise)を用いるようにしてもよい。すなわち、マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)は、疑似ランダム信号(Pseudo Noise)による変調信号によって、磁気記録媒体の記録層の強磁性共鳴周波数(FMR)である搬送波を、位相変調することにより形成させてもよい。その際、位相の変調度は、0(0を含まない)〜2π(2πを含まない)ラジアン、より好ましくは、π〜2πラジアンとされる。
【0044】
この場合においても、図1と同様に、被変調波の瞬時における周波数軸のエネルギー分布が幅広く(この例の場合、2GHzの幅)、かつ平坦な周波数スペクトラムが得られる。
白色雑音については、例えば、英文の文献 “Low-Noise Electric Design” A Willy-Interscience Publicationsにその詳細な説明が開示されている。
【0045】
また、疑似ランダム信号(Pseudo Noise)については、例えば英文の文献“ DIGITAL COMMUNICATIONS John Prokis ISBN 07-066490-0 Mc Graw Hill”にその詳細な説明が開示されている。
【0046】
また、本願発明者らが、さらに鋭意研究を行った結果、さらにより好ましい態様のマイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)の周波数スペクトラムは、磁気記録媒体の記録層を構成する磁性微粒子の強磁性共鳴(FMR)周波数より下側の低い周波数域では、低周波側に行くにつれて3dB±1dB/Oct(オクターブ(Octave))で信号強度を増加させるように構成し、磁気記録媒体の記録層を構成する磁性微粒子の強磁性共鳴(FMR)周波数より上側の高い周波数域では、高周波側に行くにつれて12dB±2dB/Oct(オクターブ)で信号強度を増加させるように構成することであることが判明した。この状態を示す図面が図2に示される。なお、dB/Octは、周波数が2倍変わった時に、どの程度、信号の大きさが変化するかを示す指標である。例えば、6dB/Octとは、周波数が2倍変化すると6dB信号は大きくなることを示す。
【0047】
上記図2に示されるような結論に至る過程を、(1)図3〜図5に示されるグループ、(2)図6〜図8に示されるグループ、および(3)図9〜図11に示されるグループを参照して、以下に説明する。なお、上記の各グループ毎の相違は、記録層の材料が異なっており、(1)図3〜図5のグループはグラフ化に際して用いた記録対象である記録層の異方性磁界Hk=9kOeのものであり、(2)図6〜図8のグループはグラフ化に際して用いた記録対象である記録層の異方性磁界Hk=10kOeのものであり、(3)図9〜図11のグループはグラフ化に際して用いた記録対象である記録層の異方性磁界Hk=11kOeのものである。ちなみに、グラフ化に際して用いた記録層の材料は、CoCrPt−SiO2グラニュラー記録層である。その他、(Co/Pd)を交互に例えば20層積層した超格子膜や、FePdやCoPtCrO、CoPt-TiO2等の記録層材料についても、同様な傾向のグラフとなることが確認されている。
【0048】
(1)図3〜図5に示されるグループの説明
図3は、マイクロ波アシストを行うことによって、磁化反転の容易性の指標となる磁化反転確率(縦軸)と、マイクロ波アシスト周波数(横軸)との関係を示したグラフである。記録対象である記録層の異方性磁界Hkは9kOeのものである。
【0049】
磁化反転確率は、媒体の全ての磁性粒子が同一の方向に磁化した状態で磁性粒子の磁化方向と逆向きの垂直磁界(この場合磁界の向きはマイナスとした)を面内方向のマイクロ波磁界と同時に印加し、磁界の印加によって反転した磁性粒子の個数を全ての磁性粒子の個数で割った値である。すなわち磁化反転確率0は磁性粒子が1個も反転しないことを表し、0.5は半数の磁性粒子が反転し、1は全ての磁性粒子が反転したことを表す。また、グラフにおける各パラメータは、単磁極ヘッドが発生する磁界に相当する垂直磁界(Hdc)である。図3のグラフに示されるように、歳差運動を励起させるためのマイクロ波周波数については、適切な周波数特性があり、エネルギー分布は、各グラフの最上点であるFMR周波数を中心として、低域の周波数はなだらかに広がっており(ブロードであり)、高域の周波数領域では急峻に感度が悪くなることがわかる。
【0050】
すなわち、図3のグラフに示されるように、FMR周波数付近(図3では、約13GHz)が、最も小さいマイクロ波のエネルギーで歳差運動を励起させることができる。しかしながら、FMR周波数(約13GHz)から下側(低い周波数)および上側(高い周波数)の周波数へと、それぞれ離れると、磁化反転確率が低下するために、それを補うマイクロ波のエネルギーが必要となる。従って、FMR周波数(約13GHz)から離れるに従ってエネルギーを大きくしてやれば、周波数がFMR周波数より低い領域、及び高い領域も一様に歳差運動が励起されて磁化反転を起こすためのより高いアシスト効果が得られると考察することができる。
【0051】
図3で示した磁化反転確率vs周波数の各グラフで、最も磁化反転確率の高い周波数は、Hdc=−4kOeにおいては約13GHzであり、他の垂直磁界強度では多少シフトし、必ずしも一致していない。図4では、周波数f=約13GHz、Hdc=−4kOeを基準とし、Hdc=−1kOe、Hdc=−2kOe、Hdc=−3kOeに関しては、Hdc=−4kOeで最も磁化反転確率が高い周波数である約13GHzを基準として、図4のVカーブの最下点を略一致させるようにしている。
【0052】
図4のグラフは、各周波数における基準からの低下量(Δ磁化反転確率)であり、値としては正の数値となり、各垂直磁界強度について描いたグラフである。すなわち、図4の縦軸は、最適条件に比較した磁化反転の困難さを表しており、数値が大きいほど磁化反転が起こりにくいことを示している。また、図4の横軸は対数表示に変更されている。
【0053】
図4に示されるように、グラフの傾きの平均値を取って外挿すると、周波数の低域側では約3dB/Octになり、高域側では約12dB/Octとなる。すなわち、FMR周波数を基点にして、低周波側では、約3dB/Octで、また高周波側では、約12dB/Octで、それぞれ特性が変わっていることがわかる。これは磁化反転確率の周波数特性そのものなので、磁化反転確率が低下するなら、大きいマイクロ波エネルギーを与えてやれば低下を抑えることができるという思想に基づくものである。そのために、図2のようなFMR共鳴点から、低域側には約3dB/Octで高域側には約12dB/Octでエネルギの大きな信号を与えれば、効率良く磁化反転が行える。従って、FMR周波数よりも低い周波数帯では3dB±1dB/Octで信号強度を増加させるように、および、高い周波数帯では12dB±2dB/Octで信号強度を増加させるように周波数特性を持たせた信号源を作ればよいことがわかる。なお、FMR周波数よりも低周波数帯では±1dB/Octの変動幅を持たせ、さらに高周波数帯では±2dB/Octの変動幅を持たせているのは、実際の変動幅をデータ等で確認して実情に沿わせるようにしたためである。
【0054】
なお、図4に示されるグラフの特性は、後述するように磁性記録層の材質を種々変更させた場合であっても、その膜に合う中心となるFMR周波数がシフトするのみで、低周波側では、3dB±1dB/Oct、高周波側では、12dB±2dB/Octの勾配は変わらない傾向であることがシミュレーションにより確認されている。
【0055】
このような信号源、すなわち、磁気記録媒体の記録層を構成する磁性微粒子の強磁性共鳴(FMR)周波数より下側の周波数域では、3dB±1dB/Oct(オクターブ)で信号強度を増加させるように構成し、磁気記録媒体の記録層の強磁性共鳴周波数(FMR)より上側の周波数域では、12dB±2dB/Oct(オクターブ)で信号強度を増加させるように構成する周波数スペクトラムは、例えば、ローパスフィルターおよびハイパスフィルターを併用することにより形成される。すなわち、マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)の周波数スペクトラムは、磁気記録媒体の記録層を構成する磁性微粒子の強磁性共鳴(FMR)周波数より下側の周波数域で3dB±1dB/Octで信号強度を増加させるために、遮断周波数が強磁性共鳴(FMR)周波数であって、強磁性共鳴(FMR)周波数の低域側では3dB±1dB/Octの周波数特性を持つローパスフィルターで調整するようにし、この一方で、強磁性共鳴(FMR)周波数より上側の周波数域で12dB±2dB/Octで信号強度を増加させるために、周波数の高域側で12dB±2dB/Octの周波数特性を持つハイパスフィルターで調整するようにすればよい。
【0056】
また、上記の信号源は、例えば、バンドエリミネーションフィルターを用いることにより形成することもできる。すなわち、マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)の周波数スペクトラムは、強磁性共鳴(FMR)周波数より下側の周波数域で3dB±1dB/Octで信号強度が増加し、強磁性共鳴(FMR)周波数より上側の周波数域で12dB±2dB/Octで信号強度が増加するような周波数特性を持ち、中心周波数が強磁性共鳴(FMR)周波数となるバンドエリミネーションフィルターで調整するようにすればよい。
【0057】
具体的な電子回路の例が図12に示される。図12において、符号1001は、搬送波の発振器、符号1002が位相変調器、符号1003が拡散信号(白色雑音又は疑似ランダム信号)、符号1004がフィルター、符号1005が増幅器、そして符号1006が放出されるマイクロ波信号である。
【0058】
実際に、これらのフィルターを用いて、スペクトラム補正したマイクロ波磁界による磁化反転確率の周波数特性が図5に示される。図5の縦軸は磁化反転確率が最大となる周波数での磁化反転確率からの変化量であり、ここでは、特に、Hdc=−4kOe、周波数f=約13GHzが基準の0となる。図5に示されるグラフより、磁化反転確率の周波数特性はほぼ平坦となることがわかる。強磁性共鳴(FMR)周波数を基準にして、低周波側では3dB±1dB/Octで、高周波側では12dB±2dB/Octでエネルギーを変化させたマイクロ波磁界を媒体に印加してやれば、磁化反転確率と周波数の関係は平坦に近くなる。印加させるアシスト中心周波数および磁気記録媒体の記録層を構成する磁性微粒子のFMR周波数、ここでは約13GHzであるが、ばらついたとしても、図5のように安定した磁化反転確率を維持することが出来るという極めて優れた効果が奏される。
【0059】
(2)図6〜図8に示されるグループの説明
図6は、上記図3に相当する図面であって、マイクロ波アシストを行うことによって、磁化反転の容易性の指標となる磁化反転確率(縦軸)と、マイクロ波アシスト周波数(横軸)との関係を示したグラフである。図6において、記録対象である記録層の異方性磁界Hkは10kOeのものである。
【0060】
磁化反転確率は、全ての磁性粒子が同一の方向に磁化した状態で磁性粒子の磁化方向と逆向きの垂直磁界を面内方向のマイクロ波磁界と同時に印加し、磁界の印加によって反転した磁性粒子の個数を全ての磁性粒子の個数で割った値である。すなわち磁化反転確率0は磁性粒子が1個も反転しないことを表し、0.5は半数の磁性粒子が反転し、1は全ての磁性粒子が反転したことを表す。また、グラフにおける各パラメータは、単磁極ヘッドが発生する磁界に相当する垂直磁界である。図6のグラフに示されるように、歳差運動を励起させるためのマイクロ波周波数については、適切な周波数特性があり、エネルギー分布は、各グラフの最上点であるFMR周波数を中心として、低域の周波数はブロードであり、高域の周波数領域では急峻に感度が悪くなることがわかる。
【0061】
すなわち、図6のグラフに示されるように、FMR周波数付近(図6では、約15GHz)が、最も小さいマイクロ波のエネルギーで歳差運動を励起させることができる。しかしながら、FMR周波数(約15GHz)から下側(低い周波数)および上側(高い周波数)の周波数へと、それぞれ離れると、磁化反転確率が低下するために、それを補うマイクロ波のエネルギーが必要となる。従って、FMR周波数(約15GHz)から離れるに従ってエネルギーを大きくしてやれば、周波数がFMR周波数より低い領域、及び高い領域も一様に歳差運動が励起されて磁化反転を起こすためのより高いアシスト効果が得られると考察することができる。
【0062】
図6で示した磁化反転確率vs周波数の各グラフで、最も磁化反転確率の高い周波数は、Hdc=−4kOeにおいては約15GHzであり、他の垂直磁界強度では多少シフトし、必ずしも一致していない。図7では、周波数f=約15GHz、Hdc=−4kOeを基準とし、Hdc=−1kOe、Hdc=−2kOe、Hdc=−3kOeに関しては、Hdc=−4kOeで最も磁化反転確率が高い周波数である約15GHzを基準として、図7のVカーブの最下点を略一致させるようにしている。
【0063】
図7のグラフは、各周波数における基準からの低下量(Δ磁化反転確率)であり、値としては正の数値となり、各垂直磁界強度について描いたグラフである。すなわち、図7の縦軸は、最適条件に比較した磁化反転の困難さを表しており、数値が大きいほど磁化反転が起こりにくいことを示している。また、図7の横軸は対数表示に変更されている。
【0064】
図7に示されるように、FMR周波数を基点にして、低周波側では、約3dB/Octで、また高周波側では、約12dB/Octで、それぞれ特性が変わっていることがわかる。従って、FMR周波数よりも低い周波数帯では3dB±1dB/Octで信号強度を増加させるように、および、高い周波数帯では12dB±2dB/Octで信号強度を増加させるように周波数特性を持たせた信号源を作ればよいことがわかる。なお、FMR周波数よりも低周波数帯では±1dB/Octの変動幅を持たせ、さらに高周波数帯では±2dB/Octの変動幅を持たせているのは、実際の変動幅をデータ等で確認して実情に沿わせるようにしたためである。
【0065】
実際に、図12に示される各フィルターを用いて、スペクトラム補正したマイクロ波磁界による磁化反転確率の周波数特性が図8に示される。図8の縦軸は磁化反転確率が最大となる周波数での磁化反転確率からの変化量であり、ここでは、特に、Hdc=−4kOe、周波数f=約15GHzが基準の0となる。図8に示されるグラフより、磁化反転確率の周波数特性はほぼ平坦となることがわかる。強磁性共鳴(FMR)周波数を基準にして、低周波側では3dB±1dB/Octで、高周波側では12dB±2dB/Octでエネルギーを変化させたマイクロ波磁界を媒体に印加してやれば、磁化反転確率と周波数の関係は平坦に近くなる。印加させるアシスト中心周波数および磁気記録媒体の記録層を構成する磁性微粒子のFMR周波数がばらついたとしても、図8のように安定した磁化反転確率を維持することが出来るという極めて優れた効果が奏される。
【0066】
(3)図9〜図11に示されるグループの説明
図9は、上記図3や図6に相当する図面であって、マイクロ波アシストを行うことによって、磁化反転の容易性の指標となる磁化反転確率(縦軸)と、マイクロ波アシスト周波数(横軸)との関係を示したグラフである。図9において、記録対象である記録層の異方性磁界Hkは11kOeのものである。
【0067】
磁化反転確率は、全ての磁性粒子が同一の方向に磁化した状態で磁性粒子の磁化方向と逆向きの垂直磁界を面内方向のマイクロ波磁界と同時に印加し、磁界の印加によって反転した磁性粒子の個数を全ての磁性粒子の個数で割った値である。すなわち磁化反転確率0は磁性粒子が1個も反転しないことを表し、0.5は半数の磁性粒子が反転し、1は全ての磁性粒子が反転したことを表す。また、グラフにおける各パラメータは、単磁極ヘッドが発生する磁界に相当する垂直磁界である。図9のグラフに示されるように、歳差運動を励起させるためのマイクロ波周波数については、適切な周波数特性があり、エネルギー分布は、各グラフの最上点であるFMR周波数を中心として、低域の周波数はブロードであり、高域の周波数領域では急峻に感度が悪くなることがわかる。
【0068】
すなわち、図9のグラフに示されるように、FMR周波数付近(図9では、約15GHz)が、最も小さいマイクロ波のエネルギーで歳差運動を励起させることができる。しかしながら、FMR周波数(約15GHz)から下側(低い周波数)および上側(高い周波数)の周波数へと、それぞれ離れると、磁化反転確率が低下するために、それを補うマイクロ波のエネルギーが必要となる。従って、FMR周波数(約15GHz)から離れるに従ってエネルギーを大きくしてやれば、周波数がFMR周波数より低い領域、及び高い領域も一様に歳差運動が励起されて磁化反転を起こすためのより高いアシスト効果が得られると考察することができる。
【0069】
図9で示した磁化反転確率vs周波数の各グラフで、最も磁化反転確率の高い周波数は、Hdc=−4kOeにおいては約15GHzであり、他の垂直磁界強度では多少シフトし、必ずしも一致していない。図10では、周波数f=約15GHz、Hdc=−4kOeを基準とし、Hdc=−1kOe、Hdc=−2kOe、Hdc=−3kOeに関しは、Hdc=−4kOeで最も磁化反転確率が高い周波数である約15GHzを基準として、図10のVカーブの最下点を略一致させるようにしている。
【0070】
図10のグラフは、各周波数における基準からの低下量(Δ磁化反転確率)であり、値としては正の数値となり、各垂直磁界強度について描いたグラフである。すなわち、図10の縦軸は、最適条件に比較した磁化反転の困難さを表しており、数値が大きいほど磁化反転が起こりにくいことを示している。また、図10の横軸は対数表示に変更されている。
【0071】
図10に示されるように、FMR周波数を基点にして、低周波側では、約3dB/Octで、また高周波側では、約12dB/Octで、それぞれ特性が変わっていることがわかる。従って、FMR周波数よりも低い周波数帯では3dB±1dB/Octで信号強度を増加させるように、および、高い周波数帯では12dB±2dB/Octで信号強度を増加させるように周波数特性を持たせた信号源を作ればよいことがわかる。なお、FMR周波数よりも低周波数帯では±1dB/Octの変動幅を持たせ、さらに高周波数帯では±2dB/Octの変動幅を持たせているのは、実際の変動幅をデータ等で確認して実情に沿わせるようにしたためである。
【0072】
実際に、図12に示される各フィルターを用いて、スペクトラム補正したマイクロ波磁界による磁化反転確率の周波数特性が図11に示される。図11の縦軸は磁化反転確率が最大となる周波数での磁化反転確率からの変化量であり、ここでは、特に、Hdc=−4kOe、周波数f=約15GHzが基準の0となる。図11に示されるグラフより、磁化反転確率の周波数特性はほぼ平坦となることがわかる。強磁性共鳴(FMR)周波数を基準にして、低周波側では3dB±1dB/Octで、高周波側では12dB±2dB/Octでエネルギーを変化させたマイクロ波磁界を媒体に印加してやれば、磁化反転確率と周波数の関係は平坦に近くなる。印加させるアシスト中心周波数および磁気記録媒体の記録層を構成する磁性微粒子のFMR周波数がバラツいたとしても、図11のように安定した磁化反転確率を維持することが出来るという極めて優れた効果が奏される。
【0073】
上記の記録膜特性の異なる3つのグループにおける図3〜図11に示される結果より、磁性記録層の材質を種々変更させた場合であっても、その膜に合う中心となるFMR周波数がシフトするのみで、低周波側では、3dB±1dB/Oct、高周波側では、12dB±2dB/Octの勾配は変わらない傾向であることが確認される。
【0074】
(磁気記録媒体の好適な構成例についての説明)
磁気記録媒体の好適な構成例について、図13に基づいて簡単に説明しておく。図13において積層断面として示される磁気記録媒体200は、例えば、基板201の上に軟磁性裏打ち層202、中間層203、記録層204、保護層205、および潤滑層206が順次積層された積層構造を備えている。
【0075】
基板201としては、例えば、ガラス基板あるいはAl合金層の上にNi-P層を積層した積層基板等が好適に用いられる。
【0076】
軟磁性裏打ち層202としては、例えば、FeCoTaZr層、FeCoB層、CoTaZr層等が好適に用いられる。その厚さは50〜200nm程度とされる。
【0077】
中間層203としては、例えば、Ru、PdPt、MgO等が用いられる。その厚さは10〜25nm程度とされる。
【0078】
記録層204としては、例えば、上述したように、CoCrPt−SiO2グラニュラー記録層や、(Co/Pd)を交互に例えば20層積層した超格子膜や、FePdや、CoPtCrO、CoPt-TiO2等の材料が好適に用いられる。その厚さは10〜25nm程度とされる。
【0079】
保護層205としては、例えば、カーボン、特にDLCが好適に用いられる。その厚さは2〜5nm程度とされる。
【0080】
潤滑層206としては、例えば、パーフロオロポリエーテル等が好適に用いられる。その厚さは1〜3nm程度とされる。
【0081】
(薄膜磁気ヘッドの構造の説明)
上述してきた本発明の磁気記録方法を実施するに際して、用いられる薄膜磁気ヘッド(マイクロ波アシストヘッド)の説明をする前に、マイクロ波アシスト機構を備えていない一般のヘッド構造について図14〜図20を参照しつつ説明しておく。このような一般的なヘッド構造を説明しておくことにより、本発明の磁気記録方法を実施するに際して、用いられるマイクロ波アシストヘッドの構造の理解が容易となるからである。
【0082】
<マイクロ波アシスト機構を備えていない一般のヘッド構造についての説明>
マイクロ波アシスト機構を備えていない一般のヘッド構造について説明する。
【0083】
以下の本発明の説明において、図面に示されるX軸方向の寸法を「幅」、Y軸方向の寸法を「長さ」、Z軸方向の寸法を「厚さまたは高さ」とそれぞれ表記する。また、Y軸方向のうちのエアベアリング面(記録媒体と対向する薄膜磁気ヘッドの面)に近い側を「前方」、その反対側(奥域側)を「後方」と表記する。また、積層膜を積み上げる方向を「上方」または「上側」、その反対方向を「下方」または「下側」と称する。
【0084】
図14は磁気ヘッドの全体構造を模式的に示した斜視図である。図15は、磁気ヘッドの記録ヘッド部の平面図であり、図16は図15のα−α断面矢視図であり、図17は図15のβーβ断面矢視図である。
【0085】
図14に示されるように、磁気ヘッドは、略直方体構造のスライダ基体1を有する。スライダ基体1は、浮上特性に直接関与するエアベアリング面70を有しており、空気の流れ方向M(ディスク形状の磁気記録媒体の実質的な線移動方向と同じ)に対して空気流出端側(トレーリングエッジ側)に存在する側端面に、記録ヘッド部100B、再生ヘッド部100Aを備えている。
【0086】
記録ヘッド部100Bおよび再生ヘッド部100Aの詳細が、図15〜図17に示される。
【0087】
図14〜図17に示される磁気ヘッドは、記録および再生の双方を実行可能な複合型ヘッドとして構成されている。当該磁気ヘッドは、スライダ基体1上に、絶縁膜2と、磁気抵抗効果(MR:magneto-resistive effect)を利用した再生ヘッド部100Aと、分離膜9と、垂直記録方式の記録処理を実行する記録ヘッド部100Bと、オーバーコート膜となる非磁性膜21とが、この順に積層された状態で構成されている。
【0088】
再生ヘッド部100Aの説明
再生ヘッド部100Aは、例えば、下部リードシールド膜3と、シールドギャップ膜4と、上部リードシールド膜30とがこの順に積層されて構成される。シールドギャップ膜4には、エアベアリング面70に露出するように再生ヘッド素子(MR素子8)が埋設されている(図16参照)。
【0089】
下部リードシールド膜3および上部リードシールド膜30は、いずれもMR素子8を周辺から磁気的に分離するものであり、エアベアリング面70から後方に向かって延びて構成されている。下部リードシールド膜3は、例えば、ニッケル鉄合金(NiFe)などの磁性材料により構成されている。上部リードシールド膜30は、例えば、非磁性膜6を挟んで2つの上部リードシールド膜部分5、7が積層されて構成されている。上部リードシールド膜部分5、7は、例えば、いずれもニッケル鉄合金などの磁性材料により構成されている。非磁性膜6は、例えば、ルテニウム(Ru)またはアルミナなどの非磁性材料により構成されている。なお、上部リードシールド膜30は、上記の3層構造に限定されることなく、例えば、ニッケル鉄合金(NiFe)などの磁性材料により構成された1層からなる構造のものであってもよい。
【0090】
シールドギャップ膜4は、MR素子8を周辺から電気的に分離するものであり、例えばアルミナなどの非磁性絶縁材料により構成される。MR素子8は、例えば、巨大磁気抵抗効果(GMR:giant magneto-resistive effect)またはトンネル磁気抵抗効果(TMR:tunneling magneto-resistive effect)などの素子から構成される。
【0091】
記録ヘッド部100Bの説明
記録ヘッド部100Bは、非磁性膜11と、磁極膜50と、磁気連結用の開口部(バックギャップ16BG)が設けられた磁気ギャップ膜16と、絶縁膜19の内部に埋設されたコイル膜18と、磁性膜60と、第1のライトシールド膜15と、第2のライトシールド膜17とを含んでいる。
【0092】
非磁性膜11は、補助磁極膜10を周囲から電気的および磁気的に分離するものであり、例えば、アルミナなどの非磁性材料により構成されている。
【0093】
磁極膜50は、エアベアリング面70から後方に向かって延びており、補助磁極膜10および主磁極膜40を含んでいる。補助磁極膜10および主磁極膜40は設計仕様によっては、上下(Z方向)逆に配置することもできる。また、磁気連結用の開口部(バックギャップ16BG)に形成された連結用の磁性層は、連結ヨーク20aと称することもある。
【0094】
補助磁極膜10は、エアベアリング面70よりも後退した位置からバックギャップ16BGまで延びている。この補助磁極膜10は、例えば、主磁極膜40に対してリーディング側に配置されていると共に、図15に示されるように、矩形型の平面形状(幅寸法W2)を有している。補助磁極膜10は、前述したように主磁極膜40のトレーリング側に配置されていてもよい。
【0095】
主磁極膜40は、エアベアリング面70からバックギャップ16BGまで延びている。この主磁極膜40は、例えば、図15に示されるように、エアベアリング面70から後方に向かって延びる幅の狭い書込磁極部40Aと、その書込磁極部40Aの後方に連なる幅の広いボディ部40Bとを含んでいる。
【0096】
書込磁極部40Aは、実質的な磁束の放出部分(いわゆる磁極膜)であり、記録トラック幅を規定する一定幅寸法W1を有している。ボディ部40Bは、書込磁極部40Aに磁束を供給する部分であり、幅寸法W1よりも大きな幅寸法W2を有している。このボディ部40Bの幅は、前方において書込磁極部40Aへ近づくにしたがって次第に狭まっている。この主磁極膜40の幅寸法が、幅寸法W1から幅寸法W2へ拡がり始める位置は、いわゆるフレアポイントFPである。
【0097】
主磁極膜40は、エアベアリング面70に近い側における端面40Mが、トレーリング側に位置する長辺およびリーディング側に位置する短辺をそれぞれ上底および下底とする逆台形形状である。この台形形状の上端縁が、実質的な記録箇所である。
【0098】
磁気ギャップ膜16は、磁極膜50と磁性膜60とを磁気的に分離するためのギャップであり、例えば、アルミナなどの非磁性絶縁材料またはルテニウムなどの非磁性導電性材料により構成されている。
【0099】
記録コイル膜18は、媒体への磁気記録のための磁束を発生させるものであり、例えば、銅(Cu)などの高導電性材料により構成されている。この記録コイル膜18は、図15に示されるように、バックギャップ16BG(連結ヨーク20a)を中心として巻回された巻回構造(スパイラル構造)を有している。
【0100】
絶縁膜19は、記録コイル膜18を周辺から電気的に分離するものであり、例えば、加熱時に流動性を示すフォトレジストまたはスピンオングラス(SOG:Spin On Glass )などの非磁性絶縁材料により構成されている。この絶縁膜19の最前端位置はスロートハイトゼロ位置TPであり、そのスロートハイトゼロ位置TPとエアベアリング面70との間の距離はいわゆるスロートハイトTHである。図15では、スロートハイトゼロ位置TPがフレアポイントFPに一致している場合を示している。
【0101】
磁性膜60は、磁極膜50から放出される磁束のうち、その広がり成分を取り込むことにより垂直磁界の勾配を急峻化させると共に、記録媒体から戻る磁束を取り込むことにより、記録ヘッド100Bと記録媒体との間において磁束を循環させるものである。磁性膜60は、磁極膜50のトレーリング側においてエアベアリング面70から後方に向かって延びることにより、前方において磁気ギャップ膜16により磁極膜50から隔てられていると共に、後方においてバックギャップ16BGを通じて磁極膜50に連結されている。エアベアリング面70に近い側における磁性膜60の端面60Mは、例えば、図15に示したように、幅寸法W1よりも大きな幅寸法W3を有する矩形形状である。この磁性膜60は、例えば、互いに別体をなす第2のライトシールド膜17およびリターンヨーク膜20を含んでいる。
【0102】
第1及び第2のライトシールド膜15、17は、主に、垂直磁界勾配の増大機能を担うものであり、例えば、ニッケル鉄合金または鉄系合金などの高飽和磁束密度磁性材料により構成されている。第1及び第2のライトシールド膜15、17は、いわゆるWrap-Around構造を構成する。そして、これらの膜は、磁性膜20も含めて本願においてトレーリングシールド200と称されることがある。
【0103】
図16に示されるWrap-Around構造は、主磁極膜40を構成する書込磁極部40Aの媒体対向面側の両側面に、磁気ギャップ膜41を介して、第1のライトシールド膜15が隣接する。したがって、書込磁極部40Aの両側部には、ライトシールド膜15によるサイドシールド膜が形成される。
【0104】
また、書込磁極部40Aの媒体対向面側の上面に、磁気ギャップ膜16を介して、第2のライトシールド膜17が隣接する。第2のライトシールド膜17は、ペデスタル・ヨーク(Pedestal Yoke)とも称されるもので、第2のライトシールド膜17と、書込磁極部40Aの上面との間に挟まれた磁気ギャップ膜16が、書込ギャップとなる。
【0105】
第1及び第2のライトシールド膜15、17は、上述した配置により、磁極膜50から放出された磁束の広がり成分を取り込み、垂直磁界の磁界勾配を増大させ、記録幅を狭める。
【0106】
第2のライトシールド膜17は、磁気ギャップ膜16に隣接しながらエアベアリング面70から後方に向かって延びており、その後端において絶縁膜19に隣接している。これにより、ライトシールド膜17は、絶縁膜19の最前端位置(スロートハイトゼロ位置TP)を規定する役割を担っている。
【0107】
リターンヨーク膜20は、磁束の循環機能を担うものであり、例えば、ライトシールド膜17と同様の磁性材料により構成されている。このリターンヨーク膜20は、図17に示されるように、ライトシールド膜17のトレーリング側において、エアベアリング面70から絶縁膜19上を経由してバックギャップ16BGまで延びており、前方においてライトシールド膜17に連結されていると共に後方においてバックギャップ16BGを通じて磁極膜50に連結されている。
【0108】
非磁性膜21は、磁気ヘッドを保護するものであり、例えば、アルミナなどの非磁性絶縁材料により構成されている。
【0109】
図18には、Wrap-Around構造の別の形態例が示されている。この例では、書込磁極部40Aの全周を、連続する磁気ギャップ膜41及び上部磁気ギャップ膜16によって覆い、その周辺に第1及び第2のライトシールド(15、17)に相当するライトシールド膜15が配置されている。即ち、書込磁極部40Aを、ライトシールド膜15の内部に埋設した構造であり、書込磁極部40Aの両側に位置するシールド膜がサイドシールド膜として機能し、上側に位置するシールド膜が、図14〜図17における第2のライトシールド膜として機能する。
【0110】
Wrap-Around構造については、上記の形態に限定されることなく種々の形態が採択され得る。
【0111】
図19には、Wrap-Around構造の磁気ヘッドの要部を示した概略構成図(ほぼY−Z平面図に近い斜視図)が示される。図20には図19からトレーリングシールド200を取り除いて、ヘッドの内部を立体的に見やすくした斜視図が示される。これらの図面には、要部の構造のみが示されている。前述と同一の符号は、実質的に同じ機能を有する部材であって、これらの図面においては、補助磁極膜10が主磁極膜40のトレーリング側に配置された例が記載されている。符号18a,18bは、記録コイル用のボンディングパッドである。また、図19においては、記録コイル用のボンディングパッドおよびコイルが重なった状態となっており、それらの構成分かりにくいが、図20を見ることによって、その内容は明確になるであろう。なお、図20に示される主磁極膜40の先端である書込磁極部40AがABSに露出できるように、その箇所に該当するトレーリングシールド200のABSには切り欠き部が形成されている。書込磁極部40Aから磁気記録媒体に向けて書き込み磁界を放出できるようにするためである。
【0112】
次いで、本発明の磁気記録方法を実施するに際して、用いられる薄膜磁気ヘッド(マイクロ波アシストヘッド)構成例について説明する。副コイル(Sub-coil)を備える薄膜磁気ヘッドの構成と、マイクロ波放射器(Radiator)を備える薄膜磁気ヘッドの構成の2タイプが存在する。
【0113】
マイクロ波帯域の磁界を発生させるための副コイル(Sub-coil)を備える薄膜磁気ヘッドの構成について
図21および図22に示される磁気ヘッドは、マイクロ波アシスト手法として、副コイル150を備えた磁気ヘッドである。
【0114】
図21は、磁気ヘッドの主磁極膜40と、補助磁極に相当するトレーリングシールド200との間に副コイル150を備え、副コイル150に本発明の記録方法を実施すべく所望の変調されたマイクロ波帯域の交流電流を駆動して面内交流磁界を発生させるタイプの薄膜磁気ヘッドであって、略Y−Z平面図に近い概略図である。
【0115】
図22は、図21に示される状態からトレーリングシールド200を取り除いて、ヘッドの内部、特に、副コイル150の存在を立体的に見やすくした斜視図である。これらの図面には、要部の構造のみを示している。また、前述と同一の符号は、実質的に同じ機能を有する部材であって、これらの図面においては、補助磁極膜10が主磁極膜40のトレーリング側に配置された例が記載されている。図22に示されるように、符号18a,18bは、記録コイル用のボンディングパッドである。符号150a,150bは、それぞれ、副コイル用ボンディングパッドである。符号150は略リング状の副コイルであり、連結ヨーク20aを略一周取り囲んで、副コイル用ボンディングパッド150a,150bへ繋がるように配線されている。
【0116】
副コイル用ボンディングパッド150a,150bを介して、発明の記録方法を実施すべく所望の変調されたマイクロ波帯域の交流電流が副コイル150に印加される。なお、図22に示される主磁極膜40の先端である書込磁極部40AがABSに露出できるように、その箇所に該当するトレーリングシールド200のABSには切り欠き部が形成されている。書込磁極部40Aから磁気記録媒体に向けて書き込み磁界を放出できるようにするためである。
【0117】
なお、磁気ヘッドは、面内交流磁界の最大値が垂直記録磁界の最大値よりも小さくなるように構成されている。すなわち、前記記録コイル膜18による励磁され記録層に印加される垂直磁界の強度Hpと、副コイル150(Sub-coil)により励磁され記録層に印加される面内磁界の強度Hhとの比、Hh/Hpは、0.1〜0.4であるように構成されることが望ましい。この比の関係は、後述するマイクロ波放射器(Radiator)を用いた場合も同様な比とされる。
【0118】
垂直記録磁界とは、磁気記録媒体の記録層の積層面にほぼ垂直な方向に印加される磁界をいう。また、面内交流磁界とは、記録層の積層面である表面に対してほぼ平行な方向に印加される磁界をいう。
【0119】
副コイル126の厚さは、例えば、10〜50nmであることが好ましい。
【0120】
一般に、ヘッドの製造工程において主磁極層40の磁気記録媒体対向面である先端40Aは研磨される。従って、副コイル150が研磨されることを回避するためには、副コイル150の先端は、主磁極層40の先端よりも10nm程度、あるいはそれ以上、磁気記録媒体から離れる方向に引き込んでいることが好ましい。
【0121】
図22において、副コイル150は単巻きであるが、副コイルの巻数は特に限定されない。2巻き以上でもよい。また、図22において、副コイル150は単層であるが、これに限定されることなく、2層以上を段積みした多層としてもよい。副コイル150の巻数や層数を増やすことによって、副コイル150に供給する電流を抑制しつつ、面内交流磁界を増大させることができる。
【0122】
このようなマイクロ波帯域の磁界を発生させるための副コイル(Sub-coil)150を備える薄膜磁気ヘッドの作用は以下のとおり。
【0123】
すなわち、記録ヘッドの記録コイル膜18に直流電流を供給することにより当該コイルが直流磁界を発生する。この直流磁界は主磁極膜40の先端である書込磁極部40Aから磁気記録媒体に印加され、記録層、軟磁性裏打ち層を通過して、トレーリングシールド200へと還流される。
【0124】
この一方で、副コイル150に、本願所望の変調されたマイクロアシスト波帯の交流電流が印加されると、交流磁界が発生する。この交流磁界は高周波であるので表皮効果により、主磁極膜40の先端である書込磁極部40Aから磁気記録媒体の表層を通過(磁気記録媒体の表面にほぼ平行な方向でつまり媒体記録層に面内方向に還流)して、トレーリングシールド200へと還流される。
【0125】
マイクロ波帯域の周波数の面内交流磁界が記録層に印加されることにより、垂直磁気記録に要する垂直方向の記録磁界を大幅に低減することができる。例えば、面内交流磁界を印加しない場合との比較において、面内交流磁界を印加することで記録層の磁化を反転させることができる垂直磁界を40%程度以上低減することが可能となり、さらには60%程度まで低減することが可能となる。
【0126】
マイクロ波を放射するためのマイクロ波放射器(Radiator)を備える薄膜磁気ヘッドの構成について
図23〜図27に示される磁気ヘッドは、マイクロ波アシスト手法として、マイクロ波放射器(Radiator)175を備える磁気ヘッドである。
【0127】
図23は、主磁極膜40と、補助磁極に相当するトレーリングシールド200の前部近傍(−Z方向)、かつABSに配置されたマイクロ波放射器(Radiator)175(拡大された詳細図は図26を参照)を備えた磁気ヘッドの図面であって、略Y−Z平面図を示す概略図である。当該マイクロ波放射器(Radiator)175に、本発明の記録方法を実施すべく所望の変調されたマイクロ波帯域の交流電流を駆動して、磁気記録媒体の記録層に対して面内交流磁界が発生させられる。当該図面を含めて以下の図面には、要部の構造のみが示されている。
【0128】
図24は、図23に示される状態から、記録ヘッド部100Aを取り除いて、当該取り除かれた記録ヘッド部100A側からヘッド内部の要部構造を見て(リーディング側からトレーリング側を見ている、つまり基板側から見た図である)、マイクロ波放射器(Radiator)175に接続される配線構造を分かりやすく示した斜視図である。前述と同一の符号は、実質的に同じ機能を有する部材であって、これらの図面においては、補助磁極膜10が主磁極膜40のトレーリング側に配置された例が記載されている。
【0129】
マイクロ波放射器(Radiator)175は、インバーテッドマイクロストリップライン(I−MLIN)を構成し、記録媒体に対向するようにして記録ヘッド部のABSに配置されている。図24に示されるように、マイクロ波放射器175には、線路導体171、172が接続され、これらの線路導体171、172は、マイクロ波放射体用のボンディングパッド170a,170bが接続される。そして、マイクロ波放射体用のボンディングパッド170a,170bに本発明の記録方法を実施すべく所望の変調されたマイクロ波帯域の交流電流が印加されるようになっている。
【0130】
図25は、マイクロ波を放射するためのマイクロ波放射器175(Radiator)を備える薄膜磁気ヘッドのABS側を見た斜視図である。ただし、内部構造を見やすくするために、Wrap-Around構造を形成するトレーリングシールド200は除いた状態で記載されている。マイクロ波放射器175は、書込磁極部40Aを囲むようにコの字形状をなして構成されている。コの字状の連結された直線箇所175aが磁気記録媒体側に最も接近するように、コの字体を傾斜させるようにしてもよい。書込磁極部40Aの実質的な記録部分に最も近い部分においてマイクロ波放強度を高めるためである。
【0131】
図26は、図25におけるマイクロ波放射器(Radiator)175の近傍をさらに拡大して示した斜視図である。図27は、マイクロ波を放射するためのマイクロ波放射器(Radiator)を備える薄膜磁気ヘッドのABS側を見た斜視図であり、Wrap-Around構造を形成するトレーリングシールド200はそのまま存在している。図27から分かるように、トレーリングシールド200のABS側であって、シールドの端面200aには、書込磁極部40Aおよびその周辺に配置されマイクロ波放射器(Radiator)175がそれぞれABSに露出できるように、例えば四角形状の切り欠き部201が形成されている。
【0132】
なお、マイクロ波放射器(Radiator)175は、磁気記録媒体に対してマイクロ波を放射する機能を実際に発現する部分である。すなわち、磁気記録媒体が空気からなる空間を介して接地導体となり、対向するマイクロ波放射器(Radiator)175から磁気記録媒体に向けて電気力線が形成され、これに伴い、磁気記録媒体の面内高周波磁界が発生する。
そして、このマイクロ波放射器175に本発明の記録方法が実現できるように所望のマイクロ波変調信号が印加されるようになっている。
【0133】
マイクロ波放射器(Radiator)175はCu等の導電性材料から構成される。
【0134】
なお、ここで本発明で使用されるインバーテッドマイクロストリップライン(I−MLIN)と、本願発明では使用され難いストリップラインと、マイクロストリップラインと、CPW(コプレーナ)との構造の差異について簡単に説明しておく。
【0135】
(1)インバーテッドマイクロストリップライン(I−MLIN)
インバーテッドマイクロストリップライン(I−MLIN)は、簡略的にモデル図で示すと、図28のように示され、マイクロ波放射体である放射器の伝送線路3800が、誘電体層3900の片面の上に埋設されるとともに、その端部面3801が、空気中に出ており、その端部に対向するように、磁気記録媒体4000が対向配置される。磁気記録媒体がいわゆるグランド導体の役目を果たし、マイクロ波放射体である線路の放射器から磁気記録媒体に向けて電気力線(矢印で示す)が印加され、その電気力線の垂直方向に高周波磁界が発生する。いわゆる磁気記録媒体への面内高周波磁界が印加される。なお、伝送線路3800は、部分的に埋設されていなくてもよく、誘電体層3900の上に形成されていてもよい。
【0136】
(2)ストリップライン
図29に示されるように伝送線路3810は誘電体層3900の中に完全に埋設されており、伝送線路3810の上下には誘電体層3900を介してグランド導体4010がそれぞれ、配置される。マイクロ波放射体である伝送線路3810の放射器から上下のグランド導体4010に向けて、それぞれ、電気力線(矢印で示す)が印加され、その電気力線の垂直方向に磁界が発生する。
【0137】
(3)マイクロストリップライン
図30に示されるように、グランド導体4020の上に、誘電体層3900が形成され、その上に、マイクロ波放射体である伝送線路3820が形成される。この場合、伝送線路3820からの電気力線(矢印で示す)は、誘電体層3900を介して、グランド導体4020に向けて印加され、その電気力線の垂直方向に磁界が発生する。
【0138】
(4)CPW(コプレーナ:Co-Planer-Waveguide)
図31に示されるように、グランド導体4030の上に、誘電体層3900が形成され、その上に、端部が露出するようにマイクロ波放射体である伝送線路3820が形成される。さらに、伝送線路3820の図面の左右の両端部の誘電体層の上にも、1対のグランド導体4031,4032が設置される。この場合、線路3820からの電気力線(矢印で示す)は、誘電体層3900を介して、グランド導体4030に向けて印加されるもの、および、伝送線路3820の両端部から左右の1対のグランド導体4031,4032にそれぞれ向けて印加され、これらの各電気力線の垂直方向に磁界が発生する。
【0139】
なお、図31に示されるタイプのものは、下面グラウンド付きのコプレーナと言われており、下面のグランド導体4030が存在しないものもある(一般的なコプレーナ)。
【0140】
上述してきたようなマイクロ波アシストヘッドを用いて、上記の本発明の磁気記録方法を実施することによって、周波数が強磁性共鳴(FMR)周波数よりも低い領域も高い領域も略一様に、磁気記録媒体の記録層中を構成する磁性微粒子のスピンの歳差運動が励起されて磁化反転が効率良く行われて、高いアシスト効果を発現させることができる。換言すれば、本発明によれば、磁化反転確率と周波数の関係は平坦に近くなり、印加させるマイクロ波中心周波数の変化ないしバラツキや、磁気記録媒体の記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数の変化ないしバラツキに対して、非常に柔軟に対応出来ることになる。
【0141】
前記副コイル(Sub-coil)や前記マイクロ波放射器(Radiator)に接続される端子の内の一方の端子は、マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)源に接続され、反対側の他方の端子は、接地電位とするように構成される。あるいは、前記副コイル(Sub-coil)や前記マイクロ波放射器(Radiator)に接続される端子の内の一方の端子は、マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)源に接続され、反対側の他方の端子は、マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)源とは位相が180度異なる相似の信号源に接続される接地電位とするように構成してもよい。
【符号の説明】
【0142】
150…副コイル
175…マイクロ波放射器(Radiator)
200…磁気記録媒体
204…記録層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
書込磁極部(Main Pole)と、
補助磁極と、
前記書込磁極部に書き込み磁界を発生させるための書き込み用コイルと、
前記書込磁極部および補助磁極との間に配置され磁気記録媒体の面内方向にマイクロ波帯域の磁界を発生させるための副コイル(Sub-coil)、あるいは前記書込磁極部に近接して設けられマイクロ波を放射するためのマイクロ波放射器(Radiator)を、を有する薄膜磁気ヘッドを用い、当該薄膜磁気ヘッドと対向配置される磁気記録媒体の記録層へ磁気記録する磁気記録方法であり、
当該磁気記録方法は、前記副コイル(Sub-coil)または前記マイクロ波放射器(Radiator)に、搬送波としての前記記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数を帯域内に含んだマイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)を印加させて発生する面内高周波磁界によって前記記録層の磁化反転磁界Hswを低下させつつ、磁気記録を行うことを特徴とする磁気記録方法。
【請求項2】
前記マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)の周波数スペクトラムは、
磁気記録媒体の記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数より下側の周波数域では、3dB±1dB/Octで信号強度を増加させるように構成され、磁気記録媒体の記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数より上側の周波数域では、12dB±2dB/Octで信号強度を増加させるように構成される、請求項1に記載の磁気記録方法。
【請求項3】
前記マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)の周波数スペクトラムは、
磁気記録媒体の記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数より下側の周波数域で3dB±1dB/Octで信号強度を増加させるために、遮断周波数が強磁性共鳴周波数(FMR)であって、強磁性共鳴(FMR)周波数の低域側では3dB±1dB/Octの周波数特性を持つローパスフィルターで調整され、
強磁性共鳴(FMR)周波数より上側の周波数域で12dB±2dB/Octで信号強度を増加させるために、周波数の高域側で12dB±2dB/Octの周波数特性を持つハイパスフィルターで調整される、請求項1または請求項2に記載の磁気記録方法。
【請求項4】
前記マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)の周波数スペクトラムは、
強磁性共鳴(FMR)周波数より下側の周波数域で3dB±1dB/Octで信号強度が増加し、強磁性共鳴(FMR)周波数より上側の周波数域で12dB±2dB/Octで信号強度が増加するような周波数特性を持ち、中心周波数が強磁性共鳴(FMR)周波数となるバンドエリミネーションフィルターで調整される、請求項1または請求項2に記載の磁気記録方法。
【請求項5】
前記マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)は、白色雑音による変調信号により、磁気記録媒体の記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数である搬送波を、位相変調したものであり、その変調度は、0(0を含まない)〜2π(2πを含まない)ラジアンである、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の磁気記録方法。
【請求項6】
前記マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)は、疑似ランダム信号(Pseudo Noise)による変調信号により、磁気記録媒体の記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数である搬送波を、位相変調したものであり、その変調度は、0(0を含まない)〜2π(2πを含まない)ラジアンである、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の磁気記録方法。
【請求項7】
前記書込磁極部(Main Pole)から、磁気記録媒体の記録層の膜面の垂直方向に記録磁界を印加すると同時に、前記副コイル(Sub-coil)または前記マイクロ波放射器(Radiator)に、搬送波としての前記記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数を帯域内に含んだマイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)を印加させて、磁気記録媒体の記録層の面内方向に高周波磁界を加えて磁化反転による記録動作を行なう請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の磁気記録方法。
【請求項8】
搬送波として選定される前記記録層の強磁性共鳴(FMR)周波数は、10〜20GHzの範囲である請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の磁気記録方法。
【請求項9】
前記副コイル(Sub-coil)または前記マイクロ波放射器(Radiator)に連結される一方の端子は、マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)源に接続されており、反対側の他方の端子は、接地電位とされる請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の磁気記録方法。
【請求項10】
前記副コイル(Sub-coil)または前記マイクロ波放射器(Radiator)に連結される一方の端子は、マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)源に接続されており、反対側の他方の端子は、マイクロ波スペクトラム拡散信号(SS信号)源とは位相が180度異なる相似の信号源に接続される請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の磁気記録方法。
【請求項11】
前記書き込み用コイルによる励磁され記録層に印加される垂直磁界の強度Hpと、前記副コイル(Sub-coil)または前記マイクロ波放射器(Radiator)により励磁され記録層に印加される面内磁界の強度Hhとの比、Hh/Hpが0.1〜0.4である請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の磁気記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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