説明

マイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイ

【課題】電子レンジ等のマイクロ波加熱装置による加熱処理により喫食可能であり、かつ、表面がパリパリして内側がサクサクとした良好な食感を有するマイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイの提供。
【解決手段】二粒系小麦の小麦粉が配合されていない第2層(内層)用生地の両面に、二粒系小麦の小麦粉を配合してなる第1層(表層)用生地が積層されたことを特徴とするマイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイ;及び二粒系小麦の小麦粉が配合されていない第2層(内層)用生地の片面に、二粒系小麦の小麦粉を配合してなる第1層(表層)用生地が積層され、前記第1層用生地が表層となるように成形されるものであることを特徴とするマイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波加熱装置による加熱処理により食することができるマイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイに関する。
【背景技術】
【0002】
電子レンジ等のマイクロ波加熱装置の技術進歩や一般家庭等への普及に伴い、マイクロ波加熱装置用食品の需要が急増している。特に、長期保存が可能であり、かつ電子レンジで加熱処理するだけで、手軽に喫食することができる調理済み冷凍食品や、半加工冷凍食品等が好まれている。
【0003】
マイクロ波加熱装置は、内部にある発振器から波長の極めて短いマイクロ波を発射する装置であり、該マイクロ波が食品中の水分子等の極性分子を激しく振動させ、摩擦熱を発生させる結果、短時間で食品を内部から加熱するものである。食品中には、マイクロ波を通しやすい分子と通しにくい分子が不均一に混在しており、マイクロ波により加熱されやすい部分と加熱されにくい部分がある。このために、マイクロ波加熱装置による加熱は、加熱ムラが生じやすいという問題がある。また、加熱により発生する水蒸気により、食品表面が湿気やすいという問題がある。
【0004】
このため、多層構造を有し、軽い食感が求められるパイ等の食品を冷凍し、これをマイクロ波加熱装置により加熱した場合には、食感や風味の良好な食品を得ることは困難である。例えば、フィリングなしの冷凍パイをマイクロ波装置により加熱した場合には、表面のパイ皮はふやけたりべたついたりする一方、内部が過加熱となり焦げが発生してしまう。冷凍パイにフィリングを包餡させることや、フィリングなしの冷凍パイとフィリングや水等を同時に加熱することにより、内部の焦げは防止することができるが、反対に表面の加熱が不十分となりやすく、パイ皮表面のふやけ等は改善することができず、パイ本来の表面はパリパリで内側はサクサクとした軽い食感を得ることは非常に困難であった。
【0005】
このようなマイクロ波加熱装置による加熱時の加熱ムラや食感・風味等の低下を防止するための方法として、種々の方法が開示されている。例えば、(1)被マイクロ波加熱体の表面の全部もしくは一部に、密着もしくは密着しないで被覆させて使用し、タンパク質及び/又は糖質系高分子を構成成分とし、水分を20重量%以上含んだことを特徴とする電子レンジ加熱用可食性熱制御素材が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。該電子レンジ加熱用可食性熱制御素材で食品を包むことにより、加熱ムラを防止し、風味等の低下を防止することができる。
【特許文献1】特開2002−300853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記(1)の方法では、加熱前の食品表面を該電子レンジ加熱用可食性熱制御素材で被覆するため、パイ等の加熱により膨化する食品の場合には膨化が不十分になりやすい上に、パイ皮表面のパリパリとした食感を得ることが困難であるという問題がある。また、膨化により新たに表層に現れた部分については効果を得ることができない、という問題もある。さらに、冷凍食品の製造工程として、該電子レンジ加熱用可食性熱制御素材で被覆する工程を要するため、作業が煩雑になり、製造コストも高くなるという問題もある。
【0007】
本発明は、電子レンジ等のマイクロ波加熱装置による加熱処理により喫食可能であり、かつ、表面がパリパリして内側がサクサクとした良好な食感を有するマイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、冷凍パイの積層する生地のうち、内側の生地は通常の強力粉や薄力粉を原料とする生地とし、表面の生地はデュラム小麦のセモリナ粉等の二粒系小麦の小麦粉を原料とする生地とすることにより、表面がパリパリして内側がサクサクとした良好な食感を有するマイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、二粒系小麦の小麦粉が配合されていない第2層(内層)用生地の両面に、二粒系小麦の小麦粉を配合してなる第1層(表層)用生地が積層されたことを特徴とするマイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイを提供するものである。
また、本発明は、二粒系小麦の小麦粉が配合されていない第2層(内層)用生地の片面に、二粒系小麦の小麦粉を配合してなる第1層(表層)用生地が積層され、前記第1層用生地が表層となるように成形されるものであることを特徴とするマイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイを提供するものである。
本発明においては、前記第1層用生地の二粒系小麦の小麦粉配合量が、全小麦粉配合量の60%以上であることが好ましい。また、前記第2層用生地が、折り畳みによる多層構造を有する生地であり、前記第1層用生地は単層の生地であることが好ましい。また、フィリングを包餡していることが好ましい。また、前記二粒系小麦の小麦粉がデュラム小麦のセモリナ粉であることが好ましい。また、本発明の冷凍パイは、未焼成の状態で冷凍されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のマイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイは、マイクロ波加熱装置を用いて加熱した場合に、パイ生地の内側と表層の加熱ムラが少なく、表層の加熱不足が解消され、かつ、膨化も充分に行われる。したがって、本発明のマイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイを、マイクロ波加熱装置を用いて加熱することにより、表面がパリパリして内側がサクサクとした良好な食感を有するパイを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、マイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイ(以下、冷凍パイと略記することもある。)とは、マイクロ波加熱装置を用いた加熱処理により喫食可能となるように加工された半加工冷凍食品である。また、パイとは、主原料として小麦と油脂を使用したパイ生地を、焙焼して得られる食品である。通常は、パイ生地を、小麦粉のグルテンの適当な活力と油脂の伸展性を利用して折り畳み操作により多層構造とした後、焙焼する。焙焼によりパイ生地が膨化し、各層が浮き上がるため、パリパリ、サクサクとした軽い食感が期待される食品である。
【0012】
パイは、形成方法の違いから、生地の間に油脂を入れて折り畳む折りパイと、生地の中へ練り込んだ油脂が片々の層をなす練りパイとに大別される。ここで、生地とは、小麦粉を練り上げたものをいう。以下、一般的な冷凍パイの作製工程を説明する。
【0013】
折りパイは以下のようにして作製される。まず、小麦粉と副原料である水や塩、卵等を練り上げ、小麦粉生地を作製し、シート状に形成する。このシート状に形成した小麦粉生地で、バターやショートニング等の油脂を包み、パイ生地とする。このパイ生地をのばして折り畳む操作を繰り返すことによって小麦粉生地と油脂とが交互に層をなすように積層してなる厚さ5〜7mm程度のパイ生地を成型する。このように成型したパイ生地を凍結処理することにより、冷凍パイが得られる。
【0014】
一方、練りパイは以下のようにして作製される。まず、小麦粉と刻んだ油脂を混ぜて、副原料である塩や卵等とともに練り上げ、パイ生地を作製し、シート状に形成する。このパイ生地をのばして折り畳む操作を繰り返すことによって、パイ生地が積層してなる厚さ5〜7mm程度のパイ生地を成型する。このように成型したパイ生地を凍結処理することにより、冷凍パイが得られる。なお、シート状に形成したパイ生地を折り畳む操作を省略し、成型した単層のパイ生地を凍結処理してもよい。
【0015】
小麦は、1小穂の稔実粒数、染色体数、ゲノム構成によって、主に一粒系小麦、二粒系小麦、普通系小麦に分類される。二粒系小麦として、デュラム小麦等がある。その一方で、小麦粉は、グルテンの量及び質、並びに二次加工適性により、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉に分類される。デュラム小麦等の二粒系小麦の小麦粉は、主にパスタ等に用いられており、通常、パイ生地の原料としては、普通系小麦の小麦粉が用いられている。
【0016】
本発明の冷凍パイは、二粒系小麦の小麦粉(以下、二粒系小麦粉ということがある。)が配合されていない内層用生地の両面に、二粒系小麦粉を配合してなる表層用生地が積層されたもの、あるいは、二粒系小麦粉が配合されていない内層用生地の片面に、二粒系小麦粉を配合してなる表層用生地が積層され、前記表層用生地が表層となるように成形されるものである。このように、冷凍パイの表層を、二粒系小麦粉を配合する生地からなる層とし、内層を通常のパイと同様に二粒系小麦粉を配合しない層とすることにより、マイクロ波加熱装置による加熱処理により、内層を十分に膨化させ、表層を十分に加熱することができるため、表面がパリパリして内側がサクサクとした良好な食感を有するパイを得ることができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、二粒系小麦粉であるデュラム小麦のセモリナ粉(デュラムセモリナ粉)とほぼ同等のグルテン量を有する強力粉ではこのような効果が得られないことから、灰分や澱粉質、タンパク質等の小麦粉の成分の性質や含有量等の違いにより、二粒系小麦粉は普通系小麦粉よりもマイクロ波加熱装置により加熱されやすく、パイ皮表面のふやけ等を改善することができるのではないかと推察される。
【0017】
表層用生地は、原料の小麦粉として二粒系小麦粉を配合する生地であれば、特に限定されるものではない。表層用生地の原料の小麦粉は、100%が二粒系小麦粉であってもよく、二粒系小麦粉以外の小麦粉と二粒系小麦粉とを混ぜたものであってもよい。表層用生地の原料として用いる二粒系小麦粉以外の小麦粉は、強力粉であってもよく、薄力粉であってもよく、強力粉と薄力粉の両者を混合したものであってもよい。
【0018】
表層用生地の原料の全小麦粉に占める二粒系小麦粉の割合は、本発明の効果を奏する量であれば、特に限定されるものではないが、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、100%であることがさらに好ましい。表層用生地の原料の小麦粉に占める二粒系小麦粉の割合が高いほど、マイクロ波加熱装置で加熱処理した際の表層の加熱不足が解消され、パイ皮表面がパリパリとした食感の良好なマイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイが得られる。なお、表層用生地の原料として用いられる二粒系小麦粉はデュラム小麦の小麦粉であることが好ましく、デュラムセモリナ粉(デュラム小麦を粗挽きした粉)であることがより好ましい。
【0019】
内層用生地は、原料の小麦粉として二粒系小麦粉を配合しない生地であれば、特に限定されるものではなく、パイを作製する場合に通常用いられている生地を用いることができる。内層用生地の原料中の強力粉や薄力粉の割合は、最終製品である冷凍パイの所望の食感や風味等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、強力粉の配合量の高い内層用生地を用いた場合には、マイクロ波加熱装置により加熱すると、各層の浮き上がりが良好で、若干硬質な食感の冷凍パイとなる。一方で、薄力粉の配合量を高くすると、軟質性が強くなり、ソフトな食味となるが、パイ層形成と浮き上がりが弱い冷凍パイとなる。一般的には、強力粉と薄力粉の配合割合(重量比)は、10:1〜1:10が好ましく、2:1〜1:2が特に好ましい。
【0020】
表層用生地と内層用生地を、それぞれシート状に形成した後に重ねることにより、表層用生地と内層用生地とを積層してなるパイ生地(以下、表層用/内層用パイ生地ということがある。)を得ることができる。シート状の表層用生地でシート状の内層用生地を挟むように積層してなるパイ生地(以下、表層用/内層用/表層用パイ生地ということがある。)としてもよい。
【0021】
積層する前のシート状の表層用生地やシート状の内層用生地は、それぞれ折り畳まれていない単層の生地であってもよく、折り畳みによる多層構造を有する生地であってもよいが、内層用生地が折り畳みによる多層構造を有する生地であり、表層用生地が単層の生地であることが好ましい。内層用生地を多層とすることにより、マイクロ波加熱装置加熱時の膨化が十分であり、各層の浮き上がりを良好にすることができる。一方、外層用生地を単層とすることにより、食感が堅くなりすぎず、パイ特有の軽い食感にすることができる。
【0022】
積層するシート状の表層用生地とシート状の内層用生地の重量比は特に限定されるものではないが、1:0.5〜1:5であることが好ましく、1:1〜1:3であることがより好ましい。
【0023】
このように、表層用生地と内層用生地を積層して得たパイ生地を、表層用生地が表層となるように成型した後、凍結処理することにより、本発明の冷凍パイを得ることができる。成型方法は、冷凍パイの表層が表層用生地となるように成型する方法であれば、特に限定されるものではなく、フィリングの有無や、最終製品である冷凍パイの所望の形状等を考慮して、パイ生地の切断、切り抜き、折り畳み等を行うことができる。例えば、表層用/内層用/表層用パイ生地を所望の形状に切断することにより、表層用生地が表層となるように成型することができる。また、表層用/内層用パイ生地を、内層用生地側が内側となるように折り畳んだものを、表層用/内層用/表層用パイ生地と同様に所望の形状に切断することによっても、表層用生地が表層となるように成型することができる。
【0024】
表層用生地と内層用生地の、いずれも、小麦や油脂以外の副原料を配合していてもよい。該副原料として、例えば、水、食塩、卵、糖類、穀粉類、澱粉類等がある。その他、ココアやハーブ類、フラワーシート類、フラワーペースト類等の風味や着色、香り等を付与するものを、生地に混入させてもよく、生地と共に折り畳んでもよい。
【0025】
本発明の冷凍パイは、折りパイであってもよく、練りパイであってもよい。例えば、練りパイの場合には、表層用生地と内層用生地をそれぞれ別個に常法により作製した後、積層、冷凍することにより、本発明の冷凍パイを得ることができる。一方、折りパイの場合には、常法により作製した内層用生地からなる積層したパイ生地の表面に単層の小麦粉生地である外層用生地を積層、冷凍してもよい。また、この場合に、内層用生地からなる積層したパイ生地と外層用生地の間に油脂を挟んでもよい。
【0026】
本発明の冷凍パイは、フィリングがなくてもよく、フィリングを包餡していてもよい。また、フィリングを別添したものであってもよい。フィリングは、通常パイに包餡させるものであれば、特に限定されるものではない。該フィリングとして、例えば、リンゴ、洋なし等の果物のシロップ漬け、クリーム類、カレー類、チョコレート類、餡類、ソース類、畜肉類、魚介類の加工品等がある。
【0027】
このようにして得られた本発明の冷凍パイは、未焼成の状態で冷凍することが好ましい。冷凍前の焼成を行わなくとも、冷凍後の加熱だけで表面がパリパリして内側がサクサクとした良好な食感を有するパイを得ることができ、製造工程を簡略化することができる。マイクロ波加熱装置の加熱条件は、冷凍パイの種類や大きさ等を考慮して適宜決定することができる。また、フィリングのない冷凍パイである場合には、別添のフィリングか、水等をマイクロ波加熱装置内に入れて、冷凍パイと同時に加熱することが好ましい。
【実施例】
【0028】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、冷凍パイの原料として、デュラムセモリナ粉(昭和産業社製)、強力粉「カメリア」(日清製粉社製)、薄力粉「バイオレット」(日清製粉社製)、油脂「パレッツ」(豊年リーバ社製)、凍結全卵(キューピー卵社製)を用いた。
【0029】
(実施例1)
表1記載の配合量からなる表層用生地(デュラムセモリナ粉100%)と、表2記載の配合量からなる内層用生地(デュラムセモリナ粉0%)からなる冷凍練りパイを作製し、膨化度、食感及びパイ表面温度を調べた。内層用生地のみからなる冷凍練りパイを対照とした。なお、表中、「対粉(%)」は、小麦粉総量に対する割合を示している。
【0030】
【表1】

*1昭和産業株式会社製
*2日清製粉株式会社製 カメリア
*3日清製粉株式会社製 バイオレット
*4豊年リーバ株式会社製 パレッツ
*5キューピータマゴ株式会社製
以下の表において同じ
【0031】
【表2】

【0032】
具体的には、まず、各生地の小麦粉と塩に水と全卵を添加し、ケンミックス(「アイコープロKM−230」、愛工舎製作所社製)を用いて、4.23回転/秒(256回転/分)で1分間混合後、油脂を加え、さらに2.93回転/秒(176回転/分)で1分間混合した。混合した生地を冷蔵庫にて15〜20分間休ませた。次いで、内層用生地のみをドゥシーター(日本シイベルヘグナー社製)を用いて6回折り畳みを行った。6回折り畳み後の内層用生地の両面を、表層用生地で挟み込み、ドゥシーターを用いて5mm厚までのばしたパイ生地を得た。表層用生地と内層用生地の重量比は1:2とした。得られた5mm厚のパイ生地を、冷蔵庫にて1時間休ませた後、さらに2.5mm厚までドゥシーターを用いてのばした(表層用/内層用/表層用パイ生地)。
2.5mm厚のパイ生地を、40gのスクエア型にカットし、38gのフィリング(シロップ漬けリンゴ:天狗缶詰エキストラライトダイスリンゴ)を包餡後、凍結することにより、冷凍パイを得、−18℃で保存した。
一方、フィリングなしの場合には、5mm厚のパイ生地を得られた時点で、40gのスクエア型にカットし、凍結することにより、冷凍パイを得、−18℃で保存した。38gのフィリングはポリプロピレン容器(PP容器)に入れて別途凍結した。
これらの冷凍パイを、フィリングを包餡したものは600W5分間、フィリングなしのものは600W4分間、それぞれ電子レンジ(「ナショナルNE−200」、松下電工社製)で加熱した後、膨化度と食感を確認した。なお、フィリングなしのものは、PP容器に入れたフィリングも同時に加熱した。また、対照として、表2記載の配合の内層用生地のみで調製したフィリング包餡対照冷凍パイ及びフィリング別添の対照冷凍パイを同様に加熱処理した。
また、電子レンジ加熱後30秒後の表面温度を、サーモグラフィー(「Thermo Tracer TH9100」、日本電気社製)を使用して測定した。測定した結果を図1に示す。図1(a)は本発明のフィリング包餡冷凍パイ、(b)は本発明のフィリング別添の冷凍パイ、(c)は対照のフィリング包餡冷凍パイ、(d)は対照のフィリング別添の冷凍パイの、それぞれの測定の結果得られた表面温度ヒストグラムを示した図である。
【0033】
この結果、本発明の冷凍パイは、充分に膨化しており、かつ、表面がパリパリして内側がサクサクとした良好な食感を有していた。一方、対照の冷凍パイは、膨化は十分であったが、表面がしっとりしており、しわがあり、サクサク感は全くなかった。
また、サーモグラフィーによる測定結果からも、対照の冷凍パイでは、表面の加熱が不十分であり、加熱ムラが酷いが、本発明の冷凍パイでは、フィリング包餡の有無にかかわらず、充分に表面温度が高く、加熱ムラもあまりないことが明らかであった。
【0034】
(参考例1)
表1記載の配合量からなる生地(デュラムセモリナ粉100%)、表3記載の配合量からなる生地(デュラムセモリナ粉60%)、表4記載の配合量からなる生地(デュラムセモリナ粉30%)、及び表2記載の配合量からなる生地(デュラムセモリナ粉0%)のみで、実施例1と同様にそれぞれ冷凍パイを作製し(氷別添、同時加熱)、得られたパイの膨化度等を調べた。
【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
具体的には、まず、小麦粉と塩に水と全卵を添加し、ケンミックス(「アイコープロKM−230」、愛工舎製作所社製)を用いて、4.23回転/秒(256回転/分)で1分間混合後、油脂を加え、さらに2.93回転/秒(176回転/分)で1分間混合した。混合した生地を冷蔵庫にて15〜20分間休ませた後、ドゥシーター(日本シイベルヘグナー社製)を用いて6回折り畳みを行った後、ドゥシーターを用いて5mm厚までのばしたパイ生地を得た。この5mm厚のパイ生地を、40gのスクエア型にカットし、凍結することにより、冷凍パイを得、−18℃で保存した。
これらの冷凍パイをそれぞれ、氷40gとともに600W3分間電子レンジで加熱した後、膨化度と硬さを確認した。この結果を表5に示す。表中、膨化度と硬さは、1〜5の5段階で評価した。この結果、セモリナ粉を配合しているパイでは、膨化度が小さく、膨化が不十分であり、硬い傾向が観察された。特に、デュラムセモリナ粉100%とデュラムセモリナ粉60%の冷凍パイは、ともに膨化度が2.0以下と小さく、また、硬さが4・0以上であり、硬くてひきが強く食べにくかった。一方、デュラムセモリナ粉0%の冷凍パイは、膨化度が3.0と十分であり、硬さも普通であったが、表面がしっとりしており、しわがあり、サクサク感は全くなかった。
【0038】
【表5】

【0039】
また、電子レンジ加熱後30秒後の表面温度を、実施例1と同様に測定した。測定した結果を図2に示す。図2(a)はデュラムセモリナ粉100%の冷凍パイ、(b)はデュラムセモリナ粉60%の冷凍パイ、(c)はデュラムセモリナ粉30%の冷凍パイ、(d)はデュラムセモリナ粉0%の冷凍パイの、それぞれの測定の結果得られた表面温度ヒストグラムを示した図である。デュラムセモリナ粉が配合されているパイ生地でも、デュラムセモリナ粉が配合されていないパイ生地の場合と同様に、表面の加熱が不十分であり、加熱ムラが酷かった。
これらの結果から、デュラムセモリナ粉等の二粒系小麦粉を配合したパイ生地のみでパイを作製した場合には、表面の加熱も膨化もともに不十分で、硬く、パイとして好ましい食感を得ることはできないことが明らかである。
【0040】
(実施例2)
様々なデュラムセモリナ粉配合量の表層用生地と、デュラムセモリナ粉を配合しない表2の配合による内層用生地を用いて冷凍パイを作製し、硬さや膨化度、表面温度等を調べた。内層用生地のみからなる冷凍練りパイを対照とした。具体的には、表層用生地として、表1記載の配合量からなる生地(デュラムセモリナ粉100%)と、表6記載の配合量からなる生地(デュラムセモリナ粉80%)と、表3記載の配合量からなる生地(デュラムセモリナ粉60%)と、表7記載の配合量からなる生地(デュラムセモリナ粉40%)、表8記載の配合量からなる生地(デュラムセモリナ粉20%)、表2記載の配合量からなる生地(デュラムセモリナ粉0%:対照)とを用いた。
【0041】
【表6】

【0042】
【表7】

【0043】
【表8】

【0044】
実施例1と同様にして作製した5mm厚のパイ生地を、40gのスクエア型にカットし、凍結することにより、冷凍パイを得、−18℃で保存した。
これらの冷凍パイをそれぞれ、氷40gとともに600W3分間電子レンジで加熱した後、膨化度と硬さを確認した。この結果を表9に示す。表中、膨化度と硬さは、1〜5の5段階で評価した。この結果、表層用生地のみをセモリナ粉配合生地にすることにより、膨化度と硬さがいずれも3前後と良好な値を示した。一方で、表層用生地のデュラムセモリナ粉配合量依存的に食感が改善された。特に、表層用生地のセモリナ粉配合量が60%以上の場合には、表面がパリパリして内側がサクサクとした良好な食感を有していた。
【0045】
【表9】

【0046】
また、電子レンジ加熱後30秒後の表面温度を、実施例1と同様に測定した。測定した結果を図1(b)、図1(d)及び図3に示す。図1(b)は表層用生地がデュラムセモリナ粉100%の冷凍パイ、図3(a)はデュラムセモリナ粉20%の冷凍パイ、図3(b)はセモリナ粉40%の冷凍パイ、図3(c)はデュラムセモリナ粉60%の冷凍パイ、図3(d)はセモリナ粉80%の冷凍パイ、図1(d)はデュラムセモリナ粉0%の冷凍パイの、それぞれの測定の結果得られた表面温度ヒストグラムを示した図である。表層用生地のデュラムセモリナ粉配合量依存的にパイ表面の温度が上昇していることが分かった。特に、デュラムセモリナ粉0%の冷凍パイでは生地にしぼみがあり、表面がぼこぼこであったのに対し、デュラムセモリナ粉配合量が高くなるほど表面の凹凸が少なくなり、デュラムセモリナ粉100%の冷凍パイでは表面は滑らかで、完全に加熱固化していた。
すなわち、実施例2の結果から、デュラムセモリナ粉等の二粒系小麦粉を配合する表層用生地と二粒系小麦粉を配合しない内層用生地とを積層してなるパイ生地を、該表層用生地が表層となるように成型することにより、充分に膨化させつつ、表面の加熱不足を解消し得ること、特に表層用生地の二粒系小麦粉配合量を60%以上とすることにより、表面がパリパリして内側がサクサクとした良好な食感を有するパイが得られることが明らかである。
【0047】
(実施例3)
表層用生地の原料として、デュラムセモリナ粉を用いた本発明の冷凍パイと、強力粉を用いた冷凍パイとを作製し、硬さや膨化度、表面温度等を調べた。内層用生地として、実施例1と同じ表2記載の配合量からなる内層用生地(デュラムセモリナ粉0%)を用い、内層用生地のみからなる冷凍練りパイを対照とした。具体的には、表層用生地として、表1記載の配合量からなる生地(デュラムセモリナ粉100%)と、表10記載の配合量からなる生地(強力粉100%)とを用いた。具体的には、実施例2と同様にして冷凍パイを作製した後、それぞれを氷40gとともに600W3分間電子レンジで加熱した後、膨化度と硬さ、サクサク感等を確認した。この結果を表11に示す。表中、膨化度と硬さ、サクサク感は、1〜5の5段階で評価した。この結果、膨化度はいずれも3.0であり、充分であった。一方、硬さとサクサク感は、強力粉100%の冷凍パイは、表面がふにゃふにゃであった対照の冷凍パイよりも若干改善されていたものの充分ではなく、ひきが強く、かつ内層と表層の食感差が小さく、パイとしての食感は不十分であった。これに対しデュラムセモリナ粉100%の本発明の冷凍パイは、硬さとサクサク感が十分であり、表面がパリパリして内側がサクサクとした良好な食感を有していた。
すなわち、実施例3の結果から、強力粉とデュラムセモリナ粉は、グルテン量はほぼ同程度であるが、デュラムセモリナ粉と異なり強力粉では冷凍パイの食感を改善することは困難であることが明らかである。
【0048】
【表10】

【0049】
【表11】

【0050】
(参考例2)
上記実施例等で用いた小麦粉のタンパク質量及びグルテン量を調べた。得られたデータを表12に示す。デュラムセモリナ粉(昭和産業社製)、強力粉「カメリア」(日清製粉社製)、薄力粉「バイオレット」(日清製粉社製)のタンパク質量等のデータは、各製造会社から入手した品質証明書に記載のデータである。また、強力粉(一般)のデータは、「食品成分表2005」に記載のデータである。表12中、「グルテン量(g)」は、100gの小麦粉からとれるグルテン量であり、グルテン量換算値(湿麩量){=タンパク質量(g)×2.7〜3.0}を意味する。グルテン量は、正確な量を測定できないため、小麦粉に水を加えて練ったものを、水中でもみほぐし、澱粉、灰分等を洗い流し、残ったもの、すなわち水和したグルテン量をグルテン量換算値として計量している。但し、デュラムセモリナ粉のグルテンのように水との結合力が強いグルテンは、他の小麦粉のグルテンより重量が大きくなる可能性があると考えられている。
【0051】
【表12】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の冷凍パイは、マイクロ波加熱装置を用いて加熱した場合に、表面がパリパリして内側がサクサクとした良好な食感を有するパイを得ることができるため、特に冷凍食品製造分野において利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施例1において作製した冷凍パイの、電子レンジ加熱後30秒後の表面温度の測定の結果得られた表面温度ヒストグラムを示した図である。図1(a)は本発明のフィリング包餡冷凍パイ、(b)は本発明のフィリング別添の冷凍パイ、(c)は対照のフィリング包餡冷凍パイ、(d)は対照のフィリング別添の冷凍パイの、それぞれの表面温度ヒストグラムである。
【図2】参考例1において作製した冷凍パイの、電子レンジ加熱後30秒後の表面温度の測定の結果得られた表面温度ヒストグラムを示した図である。図2(a)はデュラムセモリナ粉100%の冷凍パイ、(b)はデュラムセモリナ粉60%の冷凍パイ、(c)はデュラムセモリナ粉30%の冷凍パイ、(d)はデュラムセモリナ粉0%の冷凍パイの、それぞれの測定の表面温度ヒストグラムである。
【図3】実施例2において作製した冷凍パイの、電子レンジ加熱後30秒後の表面温度の測定の結果得られた表面温度ヒストグラムを示した図である。図1(b)は表層用生地がデュラムセモリナ粉100%の冷凍パイ、図3(a)はデュラムセモリナ粉20%の冷凍パイ、図3(b)はデュラムセモリナ粉40%の冷凍パイ、図3(c)はデュラムセモリナ粉60%の冷凍パイ、図3(d)はデュラムセモリナ粉80%の冷凍パイ、図1(d)はデュラムセモリナ粉0%の冷凍パイの、それぞれの測定の表面温度ヒストグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二粒系小麦の小麦粉が配合されていない第2層(内層)用生地の両面に、二粒系小麦の小麦粉を配合してなる第1層(表層)用生地が積層されたことを特徴とするマイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイ。
【請求項2】
二粒系小麦の小麦粉が配合されていない第2層(内層)用生地の片面に、二粒系小麦の小麦粉を配合してなる第1層(表層)用生地が積層され、前記第1層用生地が表層となるように成形されるものであることを特徴とするマイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイ。
【請求項3】
前記第1層用生地の二粒系小麦の小麦粉配合量が、全小麦粉配合量の60%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のマイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイ。
【請求項4】
前記第2層用生地が、折り畳みによる多層構造を有する生地であり、前記第1層用生地が単層の生地であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のマイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイ。
【請求項5】
フィリングを包餡していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のマイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイ。
【請求項6】
前記二粒系小麦の小麦粉がデュラム小麦のセモリナ粉であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載のマイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイ。
【請求項7】
未焼成で冷凍されている請求項1〜6のいずれか記載のマイクロ波加熱装置加熱用冷凍パイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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