説明

マイクロ波帯磁気駆動機能付の薄膜磁気ヘッド及び磁気記録再生装置

【課題】加熱によることなく大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書込みを行うことができ、しかも周波数のより高いマイクロ波帯においても磁気記録媒体にマイクロ波共鳴用磁界を印加することのできるマイクロ波帯磁気駆動機能付の薄膜磁気ヘッド及びこの薄膜磁気ヘッドを備えた磁気記録再生装置を提供する。
【解決手段】書込み信号に応じて磁気記録媒体への書込み磁界を発生する書込み磁界発生手段と、書込み磁界発生手段とは独立して設けられており、マイクロ波励振電流を流すことによって磁気記録媒体の強磁性共鳴周波数F又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯共鳴用磁界を放射させると共に、流れるマイクロ波励振電流に互いに位相差が生じるように構成された偶数個の線路導体を有するコプレーナ型マイクロ波放射体とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁化を熱的に安定させるために大きな保磁力を有する磁気記録媒体に、データ信号を書込むためのマイクロ波帯磁気駆動機能付の薄膜磁気ヘッド及びこの薄膜磁気ヘッドを備えた磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク駆動装置に代表される磁気記録再生装置の高記録密度化に伴い、磁気記録媒体に記録されるディジタル情報のビットセルが微細化され、その結果、いわゆる熱揺らぎによって薄膜磁気ヘッドの読出しヘッド素子から検出される信号が揺らいでS/N(信号対雑音比)が劣化し、最悪の場合、信号が消失することが起こり得る。
【0003】
このため、近年実用化されている垂直磁気記録方式を用いた磁気記録媒体においては、これを構成する記録膜の垂直磁気異方性エネルギーKuを高めることが有効となる。一方、熱揺らぎに対応する熱安定性指数Sは次式で表され、通常50以上が必要といわれている。
【0004】
S=Ku・V/k・T (1)
ここで、Ku:垂直磁気異方性エネルギー、V:記録膜を構成する結晶粒の体積、k:ボルツマン常数、T:絶対温度である。
【0005】
いわゆるStoner−Wohlfarthモデルによれば、記録膜の異方性磁界Hkと保磁力Hcは次式で示され、Kuの増加と共に、保磁力Hcは増加する(ただし、通常の記録膜ではHk>Hc)。
【0006】
H=Hc=2Ku/Ms (2)
ただし、Ms:記録膜の飽和磁化である。
【0007】
所期のデータ系列に対応した記録膜の磁化反転を行うには、薄膜磁気ヘッドの書込みヘッド素子は、最大でその記録膜の異方性磁界Hk程度の急峻な記録磁界を印加しなければならない。垂直磁気記録方式を用いて実用化された磁気ディスクドライブ(HDD)装置では、いわゆる単磁極を用いた書込みヘッド素子が用いられ、その浮上面(ABS)の表面からから記録膜に垂直方向に記録磁界が印加される。この垂直記録磁界の強度は、単磁極を形成する軟磁性材料の飽和磁束密度Bsに比例するため、この飽和磁束密度Bsのできるだけ高い材料が開発され実用化されている。しかし、飽和磁束密度Bsは、いわゆるSlater−Pauling曲線から、Bs=2.4T(テスラ)が実用的な上限であり、現状は実用的限界に迫っている。また、現用の単磁極の厚さや幅は100〜200nm程度であるが、記録密度を高める場合には、厚さや幅をさらに小さくする必要があり、それに伴って、発生する垂直磁界はより低下してしまう。
【0008】
このように、書込みヘッド素子の記録能力限界から、高密度記録が難しくなっているのが現状である。このため、記録膜をレーザ光などで照射・昇温させ、記録膜の保磁力Hcを下げた状態で信号を記録するいわゆる熱アシスト磁気記録(TAMR:Thermal
Assisted Magnetic Recording)方式が提案されている。
【0009】
例えば、特許文献1においては、電子放出源を用いて磁気記録媒体に電子を照射し、磁気記録媒体の記録部を加熱昇温させて保磁力を低下させた上で、磁気記録ヘッドによる磁気的情報の記録を可能としている。また、特許文献2においては、垂直磁気記録用ヘッドの主磁極に接して設けられた近接場光プローブを構成する散乱体に、ヘッド内に設けられた半導体レーザ素子を用いてレーザ光を照射して近接場光を発生させ、この近接場光を磁気記録媒体に及ぼして磁気記録媒体の加熱昇温を図る技術が開示されている。
【0010】
しかしながら、これらの熱アシスト磁気記録方式にも、技術上、種々の困難な点が生じており、問題となっている。
【0011】
例えば、1)磁気素子と光素子とを搭載した薄膜磁気ヘッドが必須となるが、これは、構造が極めて複雑であり、製造コストも高価となってしまう、2)保磁力Hcの温度特性変化の大きい記録膜の開発が必要となる、3)記録過程における熱減磁により、隣接トラック消去や記録状態の不安定性が生じるなど、大きな課題を有している。
【0012】
一方、近年、巨大磁気抵抗効果(GMR)読出しヘッド素子やトンネル磁気抵抗効果(TMR)読出しヘッド素子の高感度化を狙いに、電子伝導におけるスピンの挙動(Spin Transfer)に関する研究が活発になってきており、これを、磁気記録媒体の記録膜の磁化反転に応用し、磁化反転に必要な垂直磁界を低減させようという研究が開始されている(非特許文献1、特許文献3及び4)。
【0013】
この技術は、磁気記録媒体の面内方向に高周波の交流磁界を垂直記録磁界と同時に印加するものであり、面内方向に印加する交流磁界の周波数は、記録膜の強磁性共鳴周波数に対応するマイクロ波帯の超高周波(数GHz〜10GHz)である。面内方向の交流磁界と垂直記録磁界との同時印加により、垂直方向の所要反転磁界を記録膜の異方性磁界Hkの60%程度に低下させることが可能であるとの解析結果が報告されている。この技術が実用化されれば、構成が複雑なTAMR方式を用いる必要もなく、さらに、記録膜の異方性磁界Hkを高めることが可能になるので、記録密度の大幅な向上が期待される。
【0014】
【特許文献1】特開2001−250201号公報
【特許文献2】特開2004−158067号公報
【特許文献3】特開2007−299460号公報
【特許文献4】特開2008−159105号公報
【非特許文献1】J. Zhu,“RecordingWell Below Medium Coercivity Assisted by Localized Microwave Utilizing SpinTransfer”, Digest of MMM, 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、従来のマイクロ波磁界放射手段は、磁性体に巻回された書込みコイル又は書込みコイルとは別個に設けられた副コイルであるため、印加すべきマイクロ波の周波数がより高くなるとその部分で放射してしまい、たとえ供給電力を増大させても磁気記録媒体面に対して垂直方向にマイクロ波磁界を放射することができなくなる。このため、マイクロ波の周波数がより高くなると、記録膜の異方性磁界Hkを高めることが極めて困難となる。
【0016】
従って、本発明の目的は、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書込みを行うことができるマイクロ波帯磁気駆動機能付の薄膜磁気ヘッド及びこの薄膜磁気ヘッドを備えた磁気記録再生装置を提供することにある。
【0017】
本発明の他の目的は、周波数のより高いマイクロ波帯においても磁気記録媒体にマイクロ波共鳴用磁界を印加することのできるマイクロ波帯磁気駆動機能付の薄膜磁気ヘッド及びこの薄膜磁気ヘッドを備えた磁気記録再生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によれば、書込み信号に応じて磁気記録媒体への書込み磁界を発生する書込み磁界発生手段と、書込み磁界発生手段とは独立して設けられており、マイクロ波励振電流を流すことによって磁気記録媒体の強磁性共鳴周波数F又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯共鳴用磁界を放射させると共に、流れるマイクロ波励振電流に互いに位相差が生じるように構成された偶数個の線路導体を有するコプレーナ型マイクロ波放射体とを備えたマイクロ波帯磁気駆動機能付の薄膜磁気ヘッドが提供される。
【0019】
磁性体に巻回されたコイルではなく、偶数個の線路導体を有するコプレーナ型マイクロ波放射体を薄膜磁気ヘッド内に設けるようにしたので、より高い周波数のマイクロ波帯においても、電界及び磁界を磁気記録媒体面に対して垂直方向に放射することができる。なお、コプレーナ型マイクロ波放射体は、平面構造型の導波路の一種であるコプレーナ導波路(CPW)にマイクロ波励振電流を流すことによって電磁界を放射するようにした放射体である。
【0020】
特に、本発明では、流れるマイクロ波励振電流に互いに位相差が生じるように構成された偶数個の線路導体を有するコプレーナ型マイクロ波放射体を用いているため、放射パターンの中央部に電気力線が凸状に生じることから、その部分に電界及び磁界が発生し、その結果、マイクロ波帯共鳴用磁界をより効果的に磁気記録媒体に印加することができる。もちろん、本発明によれば、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書込みを行うことができる。なお、共鳴用磁界とは、磁気記録媒体の磁気記録層の強磁性共鳴周波数F又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯域の高周波磁界である。書込み時にこの長手方向の共鳴用磁界を磁気記録層に印加することによって、その磁気記録層の保磁力を効率良く低減させることができ、書込みに必要となる垂直方向(磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向)の書込み磁界強度を大幅に低減することができる。つまり、保磁力を低減させることによって、磁化反転し易くなるため、小さい記録磁界で効率よく記録を行うことができることとなる。
【0021】
なお、本明細書において用いられる用語は以下のごとく定義される。基板の素子形成面に形成された構成要素の層構造において、基準となる層よりも基板側にある構成要素を、基準となる層の「下」又は「下方」にあるとし、基準となる層よりも積層される方向側にある構成要素を、基準となる層の「上」又は「上方」にあるとする。例えば、「絶縁層上に下部磁極層がある」とは、下部磁極層が、絶縁層よりも積層される方向側にあることを意味する。
【0022】
主磁極と補助磁極と主磁極及び補助磁極の間を通って巻回されたコイル手段とを有する垂直磁気記録型書込みヘッド素子を備えており、書込み磁界発生手段が上述のコイル手段であり、コプレーナ型マイクロ波放射体の偶数個の線路導体が主磁極及び補助磁極間に配置されていることが好ましい。垂直磁気記録型書込みヘッド素子においては、主磁極の先端の補助磁極側における端縁に最も強い書込み磁界が発生するので、マイクロ波放射体の少なくとも線路導体をこの位置に配置することにより、マイクロ波帯共鳴用磁界をより効果的に磁気記録媒体に印加することができる。この場合、コプレーナ型マイクロ波放射体の2つの接地導体が、主磁極及び補助磁極によってそれぞれ構成されていることがより好ましい。
【0023】
偶数個の線路導体のうち、隣接する2つの線路導体を流れるマイクロ波励振電流の位相を互いに180°異ならせる移相手段を備えることが好ましい。この場合、移相手段が、2つの線路導体にそれぞれ接続されており、互いの線路長がマイクロ波励振電流の1/2波長異なる2つの伝送線路からなることがより好ましい。
【0024】
コプレーナ型マイクロ波放射体が、2つの線路導体を有していることも好ましい。
【0025】
本発明によれば、さらに、磁気記録層を有する磁気記録媒体と、書込み信号に応じて磁気記録媒体への書込み磁界を発生する書込み磁界発生手段、及び書込み磁界発生手段とは独立して設けられておりマイクロ波励振電流を流すことによって磁気記録媒体の強磁性共鳴周波数F又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯共鳴用磁界を放射させると共に、流れるマイクロ波励振電流に互いに位相差が生じるように構成された偶数個の線路導体を有するコプレーナ型マイクロ波放射体を含む薄膜磁気ヘッドと、書込み信号を生成して書込み磁界発生手段へ印加する書込み信号供給手段と、マイクロ波励振電流を生成してコプレーナ型マイクロ波放射体へ印加するマイクロ波励振電流供給手段とを備えたマイクロ波帯磁気駆動機能付の薄膜磁気ヘッドを備えた磁気記録再生装置が提供される。
【0026】
磁性体に巻回されたコイルではなく、偶数個の線路導体を有するコプレーナ型マイクロ波放射体を薄膜磁気ヘッド内に設けるようにしたので、より高い周波数のマイクロ波帯においても、電界及び磁界を磁気記録媒体面に対して垂直方向に放射することができる。前述したように、コプレーナ型マイクロ波放射体は、平面構造型の導波路の一種であるコプレーナ導波路(CPW)にマイクロ波励振電流を流すことによって電磁界を放射するようにした放射体である。
【0027】
特に、本発明では、流れるマイクロ波励振電流に互いに位相差が生じるように構成された偶数個の線路導体を有するコプレーナ型マイクロ波放射体を用いているため、放射パターンの中央部に電気力線が凸状に生じることから、その部分に電界及び磁界が発生し、その結果、マイクロ波帯共鳴用磁界をより効果的に磁気記録媒体に印加することができる。もちろん、本発明によれば、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書込みを行うことができる。前述したように、共鳴用磁界とは、磁気記録媒体の磁気記録層の強磁性共鳴周波数F又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯域の高周波磁界である。書込み時にこの長手方向の共鳴用磁界を磁気記録層に印加することによって、その磁気記録層の保磁力を効率良く低減させることができ、書込みに必要となる垂直方向(磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向)の書込み磁界強度を大幅に低減することができる。つまり、保磁力を低減させることによって、磁化反転し易くなるため、小さい記録磁界で効率よく記録を行うことができることとなる。
【0028】
主磁極と補助磁極と主磁極及び補助磁極の間を通って巻回されたコイル手段とを有する垂直磁気記録型書込みヘッド素子を備えており、書込み磁界発生手段が上述のコイル手段であり、コプレーナ型マイクロ波放射体の偶数個の線路導体が主磁極及び補助磁極間に配置されていることが好ましい。垂直磁気記録型書込みヘッド素子においては、主磁極の先端の補助磁極側における端縁に最も強い書込み磁界が発生するので、マイクロ波放射体の少なくとも線路導体をこの位置に配置することにより、マイクロ波帯共鳴用磁界をより効果的に磁気記録媒体に印加することができる。この場合、コプレーナ型マイクロ波放射体の2つの接地導体が、主磁極及び補助磁極によってそれぞれ構成されていることがより好ましい。
【0029】
偶数個の線路導体のうち、隣接する2つの線路導体を流れるマイクロ波励振電流の位相を互いに180°異ならせる移相手段を備えることが好ましい。この場合、移相手段が、2つの線路導体にそれぞれ接続されており、互いの線路長がマイクロ波励振電流の1/2波長異なる2つの伝送線路からなることがより好ましい。
【0030】
コプレーナ型マイクロ波放射体が、2つの線路導体を有していることも好ましい。
【0031】
マイクロ波励振電流供給手段の一方の出力端子がコプレーナ型マイクロ波放射体の移相手段を介して2つの線路導体に接続されており、コプレーナ型マイクロ波励振電流供給手段の他方の出力端子が接地導体に抵抗を介して接続されていることも好ましい。
【0032】
直流励振電流を生成してコプレーナ型マイクロ波放射体へ印加する直流励振電流供給回路をさらに備えたことも好ましい。
【0033】
磁気記録媒体の磁気記録層の位置において、書込み磁界がこの磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向を有し、共鳴用磁界が磁気記録層の表層面の面内又は略面内の方向を有するように設定されていることも好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、より高い周波数のマイクロ波帯においても、電界及び磁界を磁気記録媒体面に対して垂直方向に放射することができる。特に、本発明では、流れるマイクロ波励振電流に互いに位相差が生じるように構成された偶数個の線路導体を有するコプレーナ型マイクロ波放射体を用いているため、放射パターンの中央部に電気力線が凸状に生じることから、その部分に電界及び磁界が発生し、その結果、マイクロ波帯共鳴用磁界をより効果的に磁気記録媒体に印加することができる。もちろん、本発明によれば、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気記録媒体に高精度でデータ信号の書込みを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、同一の構成要素は、同一の参照番号を用いて示されている。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0036】
図1は本発明による磁気記録再生装置の一実施形態における要部の構成を概略的に示す斜視図であり、図2は図1の磁気記録再生装置におけるヘッドジンバルアセンブリ(HGA)の部分の断面図である。
【0037】
図1には磁気記録再生装置として磁気ディスクドライブ装置が示されており、同図において、10はスピンドルモータ11によってその回転軸11aの回りを回転する複数の磁気ディスク、12は磁気ディスク10に対してデータ信号の書込み及び読出しを行うための薄膜磁気ヘッド(スライダ)13を各磁気ディスク10の表面に適切に対向させるためのHGA、14は磁気ヘッドスライダ13を磁気ディスク10のトラック上に位置決めするためのアセンブリキャリッジ装置をそれぞれ示している。
【0038】
アセンブリキャリッジ装置14は、ピボットベアリング軸15を中心にして角揺動可能なキャリッジ16と、このキャリッジ16を角揺動駆動する例えばボイスコイルモータ(VCM)17とから主として構成されている。キャリッジ16には、ピボットベアリング軸15の方向にスタックされた複数の駆動アーム18の基部が取り付けられており、各駆動アーム18の先端部にはHGA12が固着されている。なお、単数の磁気ディスク10、単数の駆動アーム18及び単数のHGA12が磁気記録再生装置に設けられていても良い。
【0039】
図1において、さらに、19は薄膜磁気ヘッド13の書込み及び読出し動作を制御すると共に、後述する強磁性共鳴用のマイクロ波励振電流を制御するための記録再生及び共鳴制御回路を示している。
【0040】
図2に示すように、HGA12は、薄膜磁気ヘッド13と、この薄膜磁気ヘッド13を支持するための金属導電材料によるロードビーム20及びフレクシャ21と、マイクロ波励振電流及び直流励振電流を流すための伝送線路である励振電流用配線部材22とを備えている。なお、図示されていないが、HGA12には、薄膜磁気ヘッド13の書込みヘッド素子に印加される書込み信号を流すため、及び読出しヘッド素子に定電流を印加して読出し出力電圧を取り出すためのヘッド素子用配線部材も設けられている。
【0041】
薄膜磁気ヘッド13は、弾性を有するフレクシャ21の一端に取り付けられており、このフレクシャ21とその他端が取り付けられたロードビーム20とによって、薄膜磁気ヘッド13を支持するサスペンションが構成されている。
【0042】
励振電流用配線部材22は、その全長の大部分が上下に接地導体を有するストリップ線路で構成されている。即ち、図2に示すように、下側接地導体を構成するロードビーム20と上側接地導体22aとの間に、例えばポリイミド等の誘電体材料による誘電体層22b及び22cを介して銅(Cu)等による導体線路22dを挟んだ構成となっている。励振電流用配線部材22としては、このストリップ線路がロードビーム表面と平行に1本形成されている(マイクロ波回路が不平衡構造の場合)。ストリップ線路の磁気ヘッド側の先端は、本実施形態では、ワイヤ23を用いたワイヤボンディングによって端子電極に接続されている。一方、図示されていないが、書込みヘッド素子及び読出しヘッド素子用の配線部材は、通常のリード導体から形成されており、その先端は本実施形態ではワイヤボンディングによって書込みヘッド素子及び読出しヘッド素子の端子電極に接続されている。ワイヤボンディングを用いることなくボールボンディングによって配線部材と端子電極とを接続するように構成しても良い。
【0043】
図3は本実施形態における薄膜磁気ヘッド13の全体を概略的に示す斜視図である。
【0044】
同図に示すように、薄膜磁気ヘッド13は、適切な浮上量を得るように加工されたABS30aを有するスライダ基板30と、ABS30aを底面とした際の1つの側面に相当しておりこのABS30aと垂直な素子形成面30bに設けられた磁気ヘッド素子31と、磁気ヘッド素子31を覆うように素子形成面30b上に設けられた保護部32と、保護部32の層面から露出している5つの端子電極33、34、35、36及び37とを備えている。
【0045】
ここで、磁気ヘッド素子31は、磁気ディスクからデータ信号を読出すための磁気抵抗効果(MR)読出しヘッド素子31aと、磁気ディスクにデータ信号を書込むためのインダクティブ書込みヘッド素子31bとから主に構成されており、端子電極33及び34はMR読出しヘッド素子31aに電気的に接続されており、端子電極35及び36はインダクティブ書込みヘッド素子31bに電気的に接続されており、端子電極37は後述するコプレーナ導波路(CPW)の2つの線路導体38a及び38b(図4)の一端に電気的に接続されている。線路導体38の他端は接地されている(不平衡構造の場合)。
【0046】
なお、端子電極33、34、35、36及び37は、図3に示された位置に限定されるものではなく、この素子形成面30bのどの位置にどのような配列で設けても良いし、また、例えば、ABS30aとは反対側の面におけるスライダ端面30cに設けられていても良い。さらに、浮上量を調整するためのヒータを備えている場合は、そのヒータに電気的に接続される端子電極が設けられる。
【0047】
MR読出しヘッド素子31a及びインダクティブ書込みヘッド素子31bにおいては、各素子の一端がABS30a側の面におけるスライダ端面30dに達している。ここでスライダ端面30dとは、薄膜磁気ヘッド13の磁気ディスクに対向する媒体対向面のうちABS30a以外の面であって主に保護部32の端面からなる面である。これらMR読出しヘッド素子31a及びインダクティブ書込みヘッド素子31bの一端が磁気ディスクと対向することによって、信号磁界の感受によるデータ信号の読出しと信号磁界の印加によるデータ信号の書込みとが行われる。なお、スライダ端面30dに達した各素子の一端及びその近傍には、保護のために極めて薄いダイヤモンドライクカーボン(DLC)等のコーティングが施されていてもよい。
【0048】
図4は本実施形態における薄膜磁気ヘッド13の全体を概略的に示すと共に図3のA−A線断面図であり、図5は本実施形態における薄膜磁気ヘッド13をABS側から見た構成を概略的に示す断面図であり、図6は本実施形態における薄膜磁気ヘッド13の一部の構成を基板に対して上面側から見た図であり、図7は図6の下側の層の構成を基板に対して上面側から見た図である。
【0049】
図4及び図5において、30はアルティック(Al−TiC)等からなるスライダ基板であり、磁気ディスク表面に対向するABS30aを有している。このスライダ基板30の素子形成面30b上に、MR読出しヘッド素子31aと、インダクティブ書込みヘッド素子31bと、インダクティブ書込みヘッド素子31b内に形成された、後述するCPWの2つの線路導体38a及び38bと、これらの素子を保護する保護部32とが主に形成されている。
【0050】
MR読出しヘッド素子31aは、MR積層体31aと、この積層体を挟む位置に配置されている下部シールド層31a及び上部シールド層31aとを含んでいる。MR積層体31aは、面内通電型(CIP)GMR多層膜、垂直通電型(CPP)GMR多層膜、又はTMR多層膜からなっており、非常に高い感度で磁気ディスクからの信号磁界を感受する。下部シールド層31a及び上部シールド層31aは、MR積層体31aが雑音となる外部磁界の影響を受けることを防止する。
【0051】
このMR積層体31aがCIP−GMR多層膜からなる場合、下部シールド層31a及び上部シールド層31aの各々とMR積層体31aとの間に絶縁用の下部シールドギャップ層及び上部シールドギャップ層がそれぞれ設けられる。さらに、MR積層体31aにセンス電流を供給して再生出力を取り出すためのMRリード導体層が形成される。一方、MR積層体31aがCPP-GMR多層膜又はTMR多層膜からなる場合、下部シールド層31a及び上部シールド層31aはそれぞれ上部及び下部の電極層としても機能する。この場合、下部シールドギャップ層、上部シールドギャップ層及びMRリード導体層は不要である。なお、図示されていないが、MR積層体31aのトラック幅方向の両側には、絶縁層か、又は磁区構造を安定させる縦バイアス磁界を印加するためのバイアス絶縁層及びハードバイアス層が形成される。
【0052】
MR積層体31aは、例えば、TMR多層膜を含む場合、イリジウムマンガン(IrMn)、プラチナマンガン(PtMn)、ニッケルマンガン(NiMn)又はルテニウムロジウムマンガン(RuRhMn)等からなる厚さ5〜15nm程度の反強磁性層と、例えば2つのコバルト鉄(CoFe)等の強磁性膜がルテニウム(Ru)等の非磁性金属膜を挟んだ3層膜から構成されており、反強磁性層によって磁化方向が固定されている磁化固定層と、例えばアルミニウム(Al)、アルミニウム銅(AlCu)又はマグネシウム(Mg)等からなる厚さ0.5〜1nm程度の金属膜が真空装置内に導入された酸素によって又は自然酸化によって酸化された非磁性誘電膜からなるトンネルバリア層と、例えばCoFe等からなる厚さ1nm程度の強磁性膜とニッケル鉄(NiFe)等からなる厚さ3〜4nm程度の強磁性膜との2層膜から構成されており、トンネルバリア層を介して磁化固定層との間でトンネル交換結合をなす磁化自由層とが、順次積層された構造を有している。
【0053】
また、下部シールド層31a及び上部シールド層31aは、例えば、フレームめっき法を含むパターンめっき法等を用いて形成された厚さ0.1〜3μm程度のNiFe(パーマロイ等)、コバルト鉄ニッケル(CoFeNi)、CoFe、窒化鉄(FeN)又は窒化鉄ジルコニウム(FeZrN)膜等から構成される。
【0054】
インダクティブ書込みヘッド素子31bは、垂直磁気記録用であり、データ信号の書込み時に自身のABS30a(スライダ端面30d)側の端部から書込み磁界の発生する主磁極としての主磁極層31bと、トレーリングギャップ層31bと、渦巻き形状を有しており、少なくとも1ターンの間に主磁極層及び補助磁極層の間を通過するように形成された書込みコイル31bと、書込みコイル絶縁層31bと、ABS30a(スライダ端面30d)側の端部とは離隔した部分が主磁極層31bと磁気的に接続された補助磁極としての補助磁極層31bと、補助シールドとしての補助シールド層31bと、リーディングギャップ層31bとを備えている。
【0055】
主磁極層31bは、書込みコイル31bに書込み電流が印加されることによって発生した磁束を、書込みがなされる磁気ディスクの磁気記録層まで収束させながら導くための導磁路であり、主磁極ヨーク層31b11及び主磁極主要層31b12から構成されている。ここで、主磁極層31bのABS30a(スライダ端面30d)側の端部における層厚方向の長さ(厚さ)は、この主磁極主要層31b12のみの層厚に相当しており小さくなっている。その結果、データ信号の書込み時には、この端部から高記録密度化に対応した微細な書込み磁界を発生させることができる。主磁極ヨーク層31b11及び主磁極主要層31b12は、例えば、スパッタリング法、フレームめっき法を含むパターンめっき法等を用いて形成された、それぞれ厚さ0.5〜3.5μm程度及び厚さ0.1〜1μm程度のNiFe、CoFeNi、CoFe、FeN又はFeZrN膜等から構成される。
【0056】
補助磁極層31b及び補助シールド層31bは、それぞれ、主磁極層31bのトレーリング側及びリーディング側に配置されている。補助磁極層31bは、上述したように、ABS30a(スライダ端面30d)側の端部とは離隔した部分が主磁極層31bと磁気的に接続されているが、補助シールド層31bは、本実施形態においては主磁極層31bと磁気的に接続されていない。
【0057】
補助磁極層31b及び補助シールド層31bのスライダ端面30d側の端部は、それぞれ、他の部分よりも層断面が広いトレーリングシールド部31b51及びリーディングシールド部31b61となっている。トレーリングシールド部31b51は、主磁極層31bのスライダ端面30d側の端部とトレーリングギャップ層31bを介して対向している。また、リーディングシールド部31b61は、主磁極層31bのスライダ端面30d側の端部とリーディングギャップ層31bを介して対向している。このようなトレーリングシールド部31b51及びリーディングシールド部31b61を設けることにより、磁束のシャント効果によって、トレーリングシールド部31b51と主磁極層31bの端部との間、及びリーディングシールド部31b61の端部と主磁極層31bの端部との間における書込み磁界の磁界勾配がより急峻になる。この結果、信号出力のジッタが小さくなって読出し時のエラーレートを小さくすることができる。
【0058】
なお、補助磁極層31b又は補助シールド層31bを適切に加工して、補助磁極層31b又は補助シールド層31bの一部を、主磁極層31bのトラック幅方向の両側近傍に配置して、いわゆる側面シールドを付与することも可能である。この場合、磁束のシャント効果が増強される。
【0059】
なお、トレーリングシールド部31b51及びリーディングシールド部31b61の層厚方向の長さ(厚さ)は、主磁極層31bの同方向の厚さの数十〜数百倍程度に設定されることが好ましい。また、トレーリングギャップ層31bのギャップ長は、10〜100nm程度であることが好ましく、20〜50nm程度であれば、より好ましい。また、リーディングギャップ層31bのギャップ長は、0.1μm以上であることが好ましい。
【0060】
補助磁極層31b及び補助シールド層31bは、例えば、フレームめっき法を含むパターンめっき法等を用いて形成された厚さ0.5〜4μm程度のNiFe、CoFeNi、CoFe、FeN又はFeZrN膜等から構成されている。また、トレーリングギャップ層31b又はリーディングギャップ層31bは、例えば、スパッタリング法、CVD法等を用いて形成された厚さ0.1〜3μm程度のアルミナ(Al)、酸化シリコン(SiO)、窒化アルミニウム(AlN)又はDLC膜等から構成されている。
【0061】
図6に示すように、書込みコイル31bには、リード導体31b31並びにビアホール導体31b32、31b33及び31b34等を介して書込み信号が流される。書込みコイル絶縁層31bは、書込みコイル31bを取り囲んでおり、書込みコイル31bを周囲の磁性層等から電気的に絶縁するために設けられている。書込みコイル31bは、例えば、フレームめっき法、スパッタリング法等を用いて形成された厚さ0.1〜5μm程度のCu膜等から構成されている。リード導体31b31並びにビアホール導体31b32、31b33及び31b34も、例えば、フレームめっき法、スパッタリング法等を用いて形成されたCu膜等から構成されている。また、書込みコイル絶縁層31bは、例えば、フォトリソグラフィ法等を用いて形成された厚さ0.5〜7μm程度の加熱キュアされたフォトレジスト等で構成されている。
【0062】
図4〜図7に示すように、本実施形態では、主磁極層31bの主磁極主要層31b12と、補助磁極層31bのトレーリングシールド部31b51との間に、CPWの互いに平行に伸長する2つの線路導体38a及び38bが形成されている。さらに、本実施形態では、主磁極層31b(主磁極主要層31b12)及び補助磁極層31b(トレーリングシールド部31b51)が、CPWの2つの接地導体を構成している。従って、主磁極層31b及び補助磁極層31bは、抵抗等を介して接地されている。
【0063】
線路導体38aの一端はリード導体38a及びビアホール導体38a及び38bを介して接地されており、その他端はリード導体38a及びビアホール導体38a及び38bを介して、さらに励振電流用配線部材22(図2)を介して励振電流供給回路の出力端子に接続されている。また、線路導体38bの一端はリード導体38b及びビアホール導体38bを介して接地されており、その他端はリード導体38b及びビアホール導体38bを介して、さらに励振電流用配線部材22(図2)を介して励振電流供給回路の出力端子に接続されている。
【0064】
これにより、マイクロ波放射器である線路導体38aには、励振電流供給回路のマイクロ波発振器から、ビアホール導体38b及び38a、リード導体38a及び38a並びにビアホール導体38a及び38bを介して互いに位相差が与えられたマイクロ波励振電流が流される。また、マイクロ波放射器である線路導体38bには、励振電流供給回路のマイクロ波発振器から、ビアホール導体38b、リード導体38b及び38b並びにビアホール導体38bを介して互いに位相差が与えられたマイクロ波励振電流が流される。
【0065】
線路導体38bの他端に接続されているリード導体38bの途中には、マイクロ波励振電流の1/2波長分の長さを有する移相部38bが形成されており、これにより、線路導体38bへの伝送線路が線路導体38aへの伝送線路より1/2波長だけ長くなり、マイクロ波励振電流の位相を互いに180°異ならせることが可能となる。移相部38bは、図6及び図8に示した例では角形状の線路となっているが、その形状はどのようなものであっても良い。部分円形状線路とすれば、スペースを多少節約することが可能である。
【0066】
なお、本実施形態では、線路導体38a及び38bのトラック幅方向の長さが、主磁極層31bの主磁極主要層31b12のトラック幅方向の長さにほぼ等しくなっている。線路導体38a及び38b、リード導体38a、38a、38b及び38b、移相部38b並びにビアホール導体38a、38a、38b及び38bは例えばスパッタリング法等を用いて形成されたCu膜等から構成されている。
【0067】
以上述べたように、本実施形態では、主磁極層31b及び補助磁極層31bをCPWの接地導体として構成し、この主磁極層31b及び補助磁極層31b間にCPWの2つの線路導体38a及び38bを設けている。この場合、トレーリングギャップ層31bが誘電体基板に対応する。主磁極層31b及び補助磁極層31b間の距離は、例えば30〜40nm程度であり、薄膜磁気ヘッドの線路導体38及び磁気ディスク10の表面との間隙は例えば3nm程度であるから、本実施形態のように、2つの線路導体38a及び38bを主磁極層及び補助磁極層間に設けても、マイクロ波的にCPWが構成可能となる。
【0068】
これら線路導体38a及び38bにマイクロ波励振電流を流すことによって、主磁極層31bの端部とトレーリングシールド部31b51との間に、磁気ディスク10の表面に向かって電気力線が生じ、この電気力線と直角の方向である、長手方向(磁気ディスク表面の面内又は略面内方向であってトラック方向)の共鳴用磁界が放射される。この共鳴用磁界は、磁気ディスク10の磁気記録層の強磁性共鳴周波数F又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯域の高周波磁界である。書込み時にこの長手方向の共鳴用磁界を磁気記録層に印加することによって、書込みに必要となる垂直方向(磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向)の書込み磁界強度を大幅に低減することができる。
【0069】
このようにマイクロ波のみで共鳴用磁界を放射させると、大きな高周波電流を必要とするため、磁気ディスク10の磁気保磁力の80%程度の静磁界を放射する直流励振電流をこれら線路導体38a及び38bに重畳して流すことによって、印加すべきマイクロ波電力を低減化することができる。
【0070】
次に、2つの線路導体38a及び38bを有する本実施形態によるCPWの作用効果を従来の一般的なCPWと比較して説明する。
【0071】
従来の一般的なCPWは、図9(A)に示すように、誘電体基板90上の2つの接地導体91a及び91b間に1つの線路導体92を形成してなる構造を有しており、この信号線路に高周波電流を流すように構成されている。CPWでは、図9(B)及び(C)に示すように、信号導体92の図にて上方に接地導体が存在しないため、信号導体92から出た電気力線は、横方向にある接地導体91a及び91bへそのまま入ってしまい、従って従来の単相駆動方式によると、信号導体92の上方へは電気力線が生じなから、信号導体92の真上には、電界も磁界も発生しないこととなる。
【0072】
図10はこの特性を表わすために、単信号導体駆動による従来の一般的なCPWにおける角度対放射電力のシミュレーション特性を表わしており、同図から明らかのように、放射電界又は磁界の中央に窪み(放射の弱い部分)ができてしまう。信号導体92の中央真上に窪みができることは、この部分のマイクロ波電力の減少となるため、好ましくない。
【0073】
これに対して、本実施形態のCPWは、図11に示すように、誘電体基板110上の2つの接地導体111a及び111b間に2つの線路導体112a及び112bを形成してなる構造を有しており、これら2つの信号線路に互いに位相差を与えられた高周波電流を流すように構成されている。前述した通り、CPWでは信号導体の上方に接地導体が存在しないが、本実施形態では、信号導体を2つ設け、両者間に位相差を持たせて、真上方向に電気力線を出させるように工夫している。即ち、図11に示すように、位相差を与えておくことにより、2つの線路導体112a及び112b間で電気力線が発生し、これが、線路導体112a及び112bの中央にも電界及び磁界を発生させることとなる。
【0074】
図12はこの特性を表わすために、2つの信号線差動駆動による本実施形態のCPWにおける角度対放射電力のシミュレーション特性を表わしており、同図から明らかのように、中央部分にも充分な放射電界又は磁界が生じ、充分なマイクロ波電力を磁気記録媒体に印加することが可能となるのである。
【0075】
特に本実施形態では、CPWの2つの線路導体を流れるマイクロ波励振電流の位相が180°異なると、両線路間で最大の電位差が発生するから両者間に電気力線が走り、線路導体112a及び112b(38a及び38b)の中央により大きな電界及び磁界が発生し、その結果、マイクロ波帯共鳴用磁界をより効果的に磁気記録媒体に印加することができる。
【0076】
図13は本発明による強磁性共鳴用の磁界を用いた磁気記録方法の原理を説明すると共に上述した実施形態のヘッドモデルを示すための断面図である。
【0077】
まず、同図を用いて磁気ディスク10の構造について説明する。磁気ディスク10は、垂直磁気記録用であり、ディスク基板10a上に、磁化配向層10bと、磁束ループ回路の一部として働く軟磁性裏打ち層10cと、中間層10dと、磁気記録層10eと、導電性の保護層10fとを順次積層した多層構造となっており、ディスク基板10aも含めて全ての層が導電性材料で形成されている。
【0078】
磁化配向層10bは、軟磁性裏打ち層10cにトラック幅方向の磁気異方性を付与することによって、軟磁性裏打ち層10cの磁区構造を安定させて、再生出力波形におけるスパイク状ノイズの抑制を図っている。また、中間層10dは、磁気記録層10eの磁化の配向及び粒径を制御する下地層の役割を果たしている。
【0079】
ここで、ディスク基板10aは、ニッケルリン(NiP)被覆Al合金、シリコン(Si)等から形成されている。磁化配向層10bは、反強磁性材料であるPtMn等から形成されている。軟磁性裏打ち層10cは、軟磁性材料であるコバルトジルコニウムニオブ(CoZrNb)等のコバルト(Co)系アモルファス合金、鉄(Fe)合金、軟磁性フェライト等、又は軟磁性膜/非磁性膜の多層膜等から形成されている。中間層10dは、非磁性材料であるRu合金等から形成されている。ここで、中間層10dは、磁気記録層10eの垂直磁気異方性を制御可能であれば、その他の非磁性金属若しくは合金、又は低透磁率の合金等でもよい。保護層10fは、化学的蒸着(CVD)法等によるカーボン(C)材料等から形成されている。
【0080】
磁気記録層10eは、例えば、コバルトクロムプラチナ(CoCrPt)系合金、CoCrPt−SiO、鉄プラチナ(FePt)系合金、又はCoPt/パラジウム(Pd)系の人工格子多層膜等から形成されている。また、この磁気記録層10eにおいては、磁化の熱揺らぎを抑制するため、垂直磁気異方性エネルギーが、例えば1×10erg/cc(0.1J/m)以上に調整されていることが好ましい。この場合、磁気記録層10eの保磁力の値は、例えば、5kOe(400kA/m)程度又はそれ以上となる。さらに、この磁気記録層10eの強磁性共鳴周波数Fは、磁気記録層10eを構成する磁性粒子の形状、サイズ、構成元素等により決定される固有の値であるが、概ね1〜15GHz程度となっている。この強磁性共鳴周波数Fは、1つだけ存在する場合もあれば、スピン波共鳴が生じた際のように、複数存在する場合もある。
【0081】
次いで、図13を用いて、本発明による磁気記録方法の原理を説明する。CPWにマイクロ波励振電流を流すことによって、磁気ディスク10の表面に向かって電気力線が生じ、この電気力線と直角の方向である磁気ディスク表面の面内又は略面内方向であってトラック方向に共鳴用磁界130が放射される。この共鳴用磁界130は、磁気ディスク10の磁気記録層10eの強磁性共鳴周波数F又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯域の高周波磁界であることから、磁気記録層10eの保磁力を効率良く低減させることができ、その結果、書込みに必要となる垂直方向(磁気記録層10eの表層面に垂直又は略垂直な方向)の書込み磁界強度を大幅に低減することができる。つまり、保磁力を低減させることによって、磁化反転し易くなるため、小さい記録磁界で効率よく記録を行うことができるのである。
【0082】
実際、磁気記録層の強磁性共鳴周波数Fを有する共鳴用磁界を印加することによって、例えば、磁気記録層10eの磁化を反転させることができる垂直方向の書込み磁界を40%程度低減し、60%程度とすることが可能となる。即ち、共鳴用磁界を印加する前における磁気記録層10eの保磁力が
5kOe(400kA/m)程度であっても、磁気記録層の面内方向の共鳴用磁界を印加することにより、この保磁力を実効的に2.4kOe(192kA/m)程度にまで低減することが可能となる。
【0083】
なお、共鳴用磁界の強度は、磁気記録層の異方性磁界をHとして、0.1H〜0.2H程度であることがより好ましく、その周波数は、磁気記録層10eの構成材料及び層厚等によるが、1〜15GHz程度であることが好ましい。
【0084】
図14は本実施形態における磁気ディスクドライブ装置の電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【0085】
同図において、11は磁気ディスク10を回転駆動するスピンドルモータ、140はこのスピンドルモータ11のドライバであるモータドライバ、141はVCM17のドライバであるVCMドライバ、142はコンピュータ143の制御に従ってモータドライバ140を及びVCMドライバ141を制御するハードディスクコントローラ(HDC)、144は薄膜磁気ヘッド13のヘッドアンプ144a及びリードライトチャネル144bを含むリードライトIC回路、145はマイクロ波励振電流及び直流励振電流を供給する励振電流供給回路、146は書込みヘッド素子に印加される書込み信号を流すため、及び読出しヘッド素子に定電流を印加して読出し出力電圧を取り出すためのヘッド素子用配線部材をそれぞれ示している。励振電流供給回路145の一方の出力端子は励振電流用配線部材22等を介して薄膜磁気ヘッド13の2つの信号導体38a及び38bの一端に接続されており、他方の出力端子は接地されている。
【0086】
図1に示した記録再生及び共鳴制御回路19は、上述したHDC142、コンピュータ143、リードライトIC回路144、及び励振電流供給回路145等から構成されている。
【0087】
以上説明したように本実施形態でによれば、磁性体に巻回されたコイルではなく、平面構造形のマイクロ波放射体の一例であるCPWを利用し、その2つの線路導体38aおよび38bを薄膜磁気ヘッド内に設けるようにしたので、より高い周波数のマイクロ波帯においても、電界及び磁界を磁気ディスク方向に放射することができる。もちろん、本実施形態によれば、加熱によることなく、大きな保磁力を有する磁気ディスクに高精度でデータ信号の書込みを行うことができる。
【0088】
本実施形態では、特に、マイクロ波放射体が2つの線路導体38a及び38bを有するCPWで構成されており、線路導体38a及び38b間を流れるマイクロ波励振電流に互いに位相差が生じるように構成されていることから、単一の線路導体によるCPWの場合のように中央の線路導体から出た電気力線のリターンが横方向に存在するの接地導体で終端することなく、2つの線路導体38a及び38b間で電気力線の入射及び出射が行われるので、放射電界従って放射磁界の中央に放射の弱い部分が生じることなく、強い放射を磁気ディスク10に印加することができる。さらに、電気力線のリターンが磁気ディスクの表面と平行にはならずほぼ垂直に印加されるため、磁界の方向が磁気ディスク表面と平行(長手方向)となるから、書込みに必要な垂直方向(磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向)の書込み磁界強度を大幅に低減することができる。しかも、本実施形態では、CPWの2つの線路導体を流れるマイクロ波励振電流の位相を180°異ならせ、両線路間で最大の電位差を発生させているので、線路導体38a及び38bの中央により大きな電界及び磁界を発生させることができる。
【0089】
また、本実施形態のような垂直磁気記録構造の書込みヘッド素子では主磁極の先端の補助磁極側に近い端縁に最も強い書込み磁界が発生するので、線路導体38a及び38bを主磁極層及び補助磁極層間に位置に配置することにより、マイクロ波帯共鳴用磁界をより効果的に磁気ディスク10に印加することができる。
【0090】
このようにいわゆる熱アシスト(加熱)によることなく、大きな保磁力を有する磁気ディスクに高精度でデータ信号の書込みを行うことができることが理解される。さらに、電子放出源、レーザ光源等の大きな負担となる特別の素子を用いることなく、このような磁気記録方法を実現することができ、コンパクト化及び低コスト化が可能となる。
【0091】
本実施形態の変更態様として、2つの線路導体を主磁極について補助磁極とは反対側に配置しても良い。ただし、この場合、線路導体の位置が最も強い書込み磁界が発生する位置からずれるため、マイクロ波帯共鳴用磁界の印加効果が上述の実施形態の場合に比して多少低下する。
【0092】
以上、薄膜磁気ヘッド13の構成について詳細に説明したが、本発明の薄膜磁気ヘッドは上述した構成に限定されるものではなく、他の種々の構成をとり得ることは明らかである。
【0093】
また、上述した実施形態では、マイクロ波放射体として、2つの線路導体を有するCPWを用いているが、4つ又はそれ以上の偶数個の線路導体を有するCPWであっても良いことは明らかである。
【0094】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明による磁気記録再生装置の一実施形態における要部の構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】図1の磁気記録再生装置におけるHGAの部分の断面図である。
【図3】図1の実施形態における薄膜磁気ヘッドの全体を概略的に示す斜視図である。
【図4】図1の実施形態における薄膜磁気ヘッドの全体を概略的に示すと共に図3のA−A線断面図である。
【図5】図1の実施形態における薄膜磁気ヘッドをABS側から見た構成を概略的に示す断面図である。
【図6】図1の実施形態における薄膜磁気ヘッドの一部の構成を基板に対して上面方向から見た図である。
【図7】図1の実施形態における薄膜磁気ヘッドの一部の構成を基板に対して上面方向から見た図である。
【図8】図1の実施形態におけるCPWの構成を概略的に説明するブロック図である。
【図9】従来の一般的なCPWの構成を示す図である。
【図10】従来の一般的なCPWにおける角度対放射電力のシミュレーション特性を表わす特性図である。
【図11】図1の実施形態におけるCPWの構成を示す図である。
【図12】図1の実施形態におけるCPWにおける角度対放射電力のシミュレーション特性を表わす特性図である。
【図13】本発明による磁気記録方法の原理を説明すると共に図1の実施形態のヘッドモデルを示す断面図である。
【図14】図1の実施形態における磁気ディスクドライブ装置の電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【符号の説明】
【0096】
10 磁気ディスク
10a ディスク基板
10b 磁化配向層
10c 軟磁性裏打ち層
10d 中間層
10e 磁気記録層
10f 保護層
11 スピンドルモータ
12 HGA
13 薄膜磁気ヘッド
14 アセンブリキャリッジ装置
15 ピボットベアリング軸
16 キャリッジ
17 VCM
18 駆動アーム
19 記録再生及び共鳴制御回路
20 ロードビーム
21 フレクシャ
22 励振電流用配線部材
22a 上側接地導体
22b、22c 誘電体層
22d 導体線路
23 ワイヤ
30 スライダ基板
30a ABS
30b 素子形成面
30c、30d スライダ端面
31 磁気ヘッド素子
31a MR読出しヘッド素子
31a MR積層体
31a 下部シールド層
31a 上部シールド層
31b インダクティブ書込みヘッド素子
31b 主磁極層
31b11 主磁極ヨーク層
31b12 主磁極主要層
31b トレーリングギャップ層
31b 書込みコイル
31b 書込みコイル絶縁層
31b 補助磁極層
31b51 トレーリングシールド部
31b 補助シールド層
31b61 リーディングシールド部
31b リーディングギャップ層
32 保護部
33、34、35、36、37 端子電極
38a、38b、92、112a、112b 信号導体
90、110 誘電体基板
91a、91b、111a、111b 接地導体
130、131 磁束
140 モータドライバ
141 VCMドライバ
142 HDC
143 コンピュータ
144 リードライトIC回路
144a ヘッドアンプ
144b リードライトチャネル
145 励振電流供給回路
146 ヘッド素子用配線部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
書込み信号に応じて磁気記録媒体への書込み磁界を発生する書込み磁界発生手段と、該書込み磁界発生手段とは独立して設けられており、マイクロ波励振電流を流すことによって前記磁気記録媒体の強磁性共鳴周波数F又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯共鳴用磁界を放射させると共に、流れるマイクロ波励振電流に互いに位相差が生じるように構成された偶数個の線路導体を有するコプレーナ型マイクロ波放射体とを備えたことを特徴とするマイクロ波帯磁気駆動機能付の薄膜磁気ヘッド。
【請求項2】
主磁極と補助磁極と該主磁極及び該補助磁極の間を通って巻回されたコイル手段とを有する垂直磁気記録型書込みヘッド素子を備えており、前記書込み磁界発生手段が前記コイル手段であり、前記コプレーナ型マイクロ波放射体の前記偶数個の線路導体が前記主磁極及び前記補助磁極間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項3】
前記コプレーナ型マイクロ波放射体の2つの接地導体が、前記主磁極及び前記補助磁極によってそれぞれ構成されていることを特徴とする請求項2に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項4】
前記偶数個の線路導体のうち、隣接する2つの線路導体を流れるマイクロ波励振電流の位相を互いに180°異ならせる移相手段を備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項5】
前記移相手段が、前記2つの線路導体にそれぞれ接続されており、互いの線路長がマイクロ波励振電流の1/2波長異なる2つの伝送線路からなることを特徴とする請求項4に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項6】
前記コプレーナ型マイクロ波放射体が、2つの線路導体を有していることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項7】
磁気記録層を有する磁気記録媒体と、書込み信号に応じて磁気記録媒体への書込み磁界を発生する書込み磁界発生手段、及び該書込み磁界発生手段とは独立して設けられておりマイクロ波励振電流を流すことによって前記磁気記録媒体の強磁性共鳴周波数F又はその近傍の周波数を有するマイクロ波帯共鳴用磁界を放射させると共に、流れるマイクロ波励振電流に互いに位相差が生じるように構成された偶数個の線路導体を有するコプレーナ型マイクロ波放射体を含む薄膜磁気ヘッドと、前記書込み信号を生成して前記書込み磁界発生手段へ印加する書込み信号供給手段と、前記マイクロ波励振電流を生成して前記コプレーナ型マイクロ波放射体へ印加するマイクロ波励振電流供給手段とを備えたことを特徴とするマイクロ波帯磁気駆動機能付の薄膜磁気ヘッドを備えた磁気記録再生装置。
【請求項8】
主磁極と補助磁極と該主磁極及び該補助磁極の間を通って巻回されたコイル手段とを有する垂直磁気記録型書込みヘッド素子を備えており、前記書込み磁界発生手段が前記コイル手段であり、前記コプレーナ型マイクロ波放射体の前記偶数個の線路導体が前記主磁極及び前記補助磁極間に配置されていることを特徴とする請求項7に記載の磁気記録再生装置。
【請求項9】
前記コプレーナ型マイクロ波放射体の2つの接地導体が、前記主磁極及び前記補助磁極によってそれぞれ構成されていることを特徴とする請求項8に記載の磁気記録再生装置。
【請求項10】
前記偶数個の線路導体のうち、隣接する2つの線路導体を流れるマイクロ波励振電流の位相を互いに180°異ならせる移相手段を備えたことを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。
【請求項11】
前記移相手段が、前記2つの線路導体にそれぞれ接続されており、互いの線路長がマイクロ波励振電流の1/2波長異なる2つの伝送線路からなることを特徴とする請求項10に記載の磁気記録再生装置。
【請求項12】
前記コプレーナ型マイクロ波放射体が、2つの線路導体を有していることを特徴とする請求項7から11のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。
【請求項13】
前記マイクロ波励振電流供給手段の一方の出力端子が前記コプレーナ型マイクロ波放射体の前記移相手段を介して前記2つの線路導体に接続されており、該コプレーナ型マイクロ波励振電流供給手段の他方の出力端子が前記接地導体に抵抗を介して接続されていることを特徴とする請求項11又は12に記載の磁気記録再生装置。
【請求項14】
直流励振電流を生成して前記コプレーナ型マイクロ波放射体へ印加する直流励振電流供給回路をさらに備えたことを特徴とする請求項7から13のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。
【請求項15】
前記磁気記録媒体の前記磁気記録層の位置において、前記書込み磁界が該磁気記録層の表層面に垂直又は略垂直な方向を有し、前記共鳴用磁界が該磁気記録層の表層面の面内又は略面内の方向を有するように設定されていることを特徴とする請求項7から14のいずれか1項に記載の磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−97628(P2010−97628A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264935(P2008−264935)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】