説明

マイクロ波領域の光子検出器および検出方法

検出を行ういくつかの双安定吸収体素子(2)に結合された一次元導波路(1)に基づく光子検出/計数装置の設計であって、前記装置はマイクロ波放射(3)の検出および特性化に応用される。前記検出は、誘起された放射から生じる吸収された光子の通過時に、その状態が不可逆的に変化されるキュービットを用いて行われる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
量子回路およびその可能な応用例の分野は、近年では著しい進歩を経験している。量子回路は基本的には、中でも、量子縮退領域で動作する超電導素子によって形成される素子である。現在これらのタイプの素子は、ジョセフソン接合、SQUID、クーパ対のアイランド、導波路および空洞として知られており、すべて極低温(20mK)に冷却され、量子縮退領域で動作する。
【0002】
これらの回路の数多くの応用例の中でも、離散的エネルギー準位および量子化されたローディング、フロー、または位相の程度を有する回路である人工原子の生成に注目しなければならない。これらの要素回路は、量子情報処理のために量子ビット(キュービット)を記憶するのに用いられる。多くの変形の中でも、ローディングキュービット、フローキュービット、および位相キュービットが見出される。
【0003】
より最近であるが非常に有意義な第2の応用例は、量子領域の下でのマイクロ波放射の操作であり、そこでは電磁界を構成するエネルギーの量子が分解される。最も有意義な実験の中でも、共振空洞の定常電磁界と超電導キュービットの間でのマイクロ波光子の交換、オンデマンドの光子発生、および共振器と伝送線路内にキュービットを配置することで生じる非線形効果は強調するのに値する。これらすべての応用例は、量子光学およびメゾスコピック物理の分野の統合から生じる。
【0004】
現在のところ、量子情報およびマイクロ波技術の応用の両方の場合における主要な障害の1つは、現在は1〜100GHzの範囲の光子検出器が存在しないことである。
このような装置を組み立てる主な難しさは次の通りである。
・極低温線形増幅器は、非常に弱い信号における個々の光子間または光子の数を区別することができない。
・マイクロ波電磁界と材料素子さらにはキュービットとの間の相互作用の実効断面積は小さい。
・放射−物質間の結合を増加させるための空洞の使用は、高い共振器品質(およびしたがって十分な結合)と、共振器ミラーの反射率(これは光子の入射を妨げる)との間の要求を達成することなどの新たな難しさを生じる。
・少数の光子を有し、したがって量子領域にあるマイクロ波信号を調べることが目的であることを考えれば、信号を変化させずに連続的な測定を実行することは不可能である。連続的な計測を避けるためには、同様に難しい、信号の到来と検出器の活動化との同期メカニズムが必要になる。
【0005】
現在のところ、マイクロ波光子検出の問題に取り組んでいる数多くの実験および理論グループが存在する。
【0006】
到来信号を増幅し得る分散非線形効果またはブランチ型の効果を用いた、コヒーレントな形でキュービット光子システムに取り組む提案に努力が向けられている。
【0007】
しかしこれまでは、先に挙げた問題のすべてを解決する特許文献における実験的または理論的実施形態はない。
【0008】
制御または非線形効果に基づくコヒーレントシステムが成果をもたらしていないことを考えれば、光子が回路内にメゾスコピックな変化を生じ、後の段階にて検出することができる、非コヒーレントおよび不可逆的なプロセスが提案される。超電導回路を用いた現在の実験は、情報の量子処理における応用を追求しており、非コヒーレントな効果は有害であると見なされる。重要な例外はボロメータ計測の分野であり、そこでは非常に正確に温度を測定するための準安定超電導回路の応用例がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の主な目的は、マイクロ波の検出および特性化に応用される、検出を行ういくつかの双安定吸収体素子に結合された一次元導波路に基づく光子検出/計数装置の設計である。
【0010】
本発明のもう1つの目的は、上述の素子を用いたマイクロ波光子検出および定量化方法である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、可視光領域で用いられる光検出器と同様に前記機能を行う検出装置を開発することであり、これは光子の個々の検出を意味し、容易にかつ正確に検出できる材料の状態における不可逆的なプロセスまたは変化を生じる。マイクロ波光子検出/計数装置は、光子を捕捉する働きをする1組の吸収体素子の内部に沿ってマイクロ波放射を伝送する一次元導波路から構成される。前記吸収体素子は、量子情報において用いられるキュービットと同様の双安定量子回路である。
【0012】
キュービットは、量子計算において2進数字に対応するものであるが、この場合は量子計算のものであり、情報の単位としてのキュービットは、0または1、あるいは0および1の両方を表すことが可能である。初めに準安定状態|0>にある前記素子は、マイクロ波放射の通過時に光子が吸収されると、安定状態|g>への不可逆的な遷移を行うことができ、この不可逆的なプロセスは設計された装置によって試みられる測定からなる。この誘起された変化は不可逆的であり、双安定素子の最終状態は後の段階にて検証できることを考えれば、連続的な計測によって誘起される逆方向の動きの影響は避けられ、それにより装置設計の難しさは、光子吸収でのできるだけ大きな効率をもたらす前記素子の構成および特性を見出すこととなる。
【0013】
前記の光子吸収効率を達成するために、マイクロ波光子検出/計数装置は、光子の輸送の働きをする導波路から構成され、そのために2つの接地された導電体平面の間に挿入された同軸導波路が用いられる。
【0014】
前記導電体平面は、伝送される放射の波長λよりずっと小さな距離だけ互いに分離され、電磁界は、ほぼ一次元の形にてロード密度電磁波によって伝搬される。導波路(1)は、光子周波数をその波長と運動量とに関係付けるω(k)の分散関係を有する。
【数1】

検出器は主周波数ωを使用し、この関係は直線ω≒νk(ω≒ω)によって近似することができ、その傾きはマイクロ波群速度となる。導電性材料は極低温にあり、この理由などから損失および歪みは重要でないと仮定する。
【0015】
第2の素子は、検出を受け持つ吸収体素子すなわちキュービットによって構成される。これらは、大きさがマイクロ波放射波長よりずっと小さな回路とすべきであり、したがって特定の素子として扱うことができる。各回路は、2つのエネルギー準位のみを考えるのに十分な低い温度にて量子領域で動作する。
【0016】
第1の準位は|0>であり、検出を実行する前にすべてのキュービットが準備される準安定状態である。これは検出プロセスよりもずっと長い平均寿命を有する状態であり、励起された準位|1>からエネルギー
【数2】

だけ分離される。この準位|1>はずっと短い平均寿命を有し、Γ≪ωの速度で、巨視的に他から区別可能な別の準位|g>に低下する。
【0017】
検出器の動作は次の通りであり、最初にすべてのキュービットは状態|0>に準備される。次に、測定すべき信号が伝送線路の一端に注入される。一定の期間の後に、キュービットの状態が測定される。キュービットすなわち吸収体素子(2)のいずれかが状態|g>にあれば、検出器の効率以上の確率で、確かに導波路(1)は少なくとも1つの光子を輸送したということが言える。
【0018】
状態|g>に見出されたキュービットの数がNg個である場合は、効率
【数3】

に比例する信頼度にて信号は少なくともNg個を輸送したことが確認できる。
【0019】
検出器効率の計算は、問題の数学的モデル化を必要とし、これは先に述べた要件を単に知ることによって実行することができる。このモデル化は、非保存シュレーディンガー方程式を用いて実行することができる。
【0020】
検出効率は、予め設定されたN個の数の検出素子を有する装置に対して最適化することができる。共振キュービット(δ=0またはω=ωである)の最大の検出は、隣り合う1つ以上のキュービットに対して検出効率を50%に制限するようにして得られる。2つの別々のキュービットが半波長λ/2だけ分離されたときは80%の効率が得られ、これはより多くの検出素子が追加されるのに従って任意に増加させることができる。
【0021】
説明を補足するためにおよび本発明の特徴のより良い理解の助けとするために、この説明の一体部分として、本発明の実用的な実施形態の好ましい実施例による1組の図面が含まれ、以下は例示としてかつ非限定的に示される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1a】それに結合されたいくつかの同一平面上の吸収体素子を有する同軸の平面導波路、および導波路を通るマイクロ波放射を示す概略図である。
【図1b】等価量子回路を示す図である。
【図1c】どのように各キュービット素子が2つの準安定準位|0>および|1>を有するかを示し、それに従って吸収体素子(2)すなわちキュービットが、光子を吸収し不可逆的な遷移0→1→gを実行することができることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この項では設計の典型的な実装形態を、現在利用可能な素子および回路を用いて説明する。同一平面上の同軸導波路(1)は、吸収体素子(2)が最近の実験により検出器として働く状態で、マイクロ波放射(3)を輸送するために用いられる。これらの実験と対照的に導波路(1)は、共振器を形成するように端部で切断されるのではなく、光子がそれを通って自由に伝搬されるように自由のままとすることが強調されなければならない。
【0024】
導波路(1)は、2つの示強量、すなわち単位長さ当たりのインダクタンスlと、単位長さ当たりのキャパシタンスcとによって特性化される。これら2つの量に基づいて通常のLCモデルにより、分散関係式ω=ν|k|が得られ、群速度は周波数に無関係に、
【数4】

となる。
【0025】
いわゆる位相または「電流ベースのジョセフソン接合」キュービット、すなわち接合の臨界電流Iの値に非常に近い値の電流Iによって駆動されたジョセフソン接合が検出吸収体素子(2)として用いられる。この回路素子は、2つの量によって特性化される。第1にはジョセフソンのエネルギーE=Iφであり、臨界電流と、フロー単位
【数5】

の積である。第2にはローディングエネルギー
【数6】

であり、接合のキャパシタンスCの関数である。
【0026】
吸収体素子(2)すなわち位相キュービットと、導波路(1)の間の結合は、静電容量的に行うことができる。この場合は設計の結合定数Vは、数式
【数7】

によって与えられる。
【0027】
ここで、キャパシタンスCは位相キュービットと伝送線路の間に現れ、数
【数8】

はローディングエネルギーと、我々の位相キュービットの、より少ないエネルギーを有する2つの準安定準位|0>と|1>の間のエネルギーの差とに依存する。
【0028】
検出器の効率を決定する無次元のパラメータは、数式
【数9】

に従い、ただし、
【数10】

は伝送線路のインピーダンスであり、
【数11】

である。この数式には、最大効率の領域に対する近似を達成するのに十分な自由なパラメータZ、Γ、C12、E、ωがあることが明らかである。
【0029】
たとえば、単一のキュービットすなわち検出素子に対しては、バークレーらによって実施された実験のパラメータを直接用いることができ、C=4.8pF、C12=0.13、α=0.02が得られる。単一のキュービットに対してはγ≒1の必要があることを考えれば、現実的なインピーダンスZ=10〜100Ωを用いることによって、キュービット低下速度はΓ=10〜100MHzの範囲内になければならないことが分かる。導波路とキュービットの間の結合をC12=0.26に増加させることは、この速度を30〜300MHzに増加させることに相当する。
【0030】
これらの値および要件のすべては、実験的に使用し得る範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波領域の光子検出器であって、
マイクロ波放射を伝送する導波路(1)と、
吸収体素子(2)と
を備えることを特徴とするマイクロ波領域の光子検出器。
【請求項2】
放射を伝送する前記導波路(1)が、2つの接地された導電性平面の間に挿入された同軸平面型である、請求項1に記載のマイクロ波領域の光子検出器。
【請求項3】
検出の働きをする前記双安定吸収体素子(2)の大きさが、波長λよりずっと小さい、請求項1に記載のマイクロ波領域の光子検出器。
【請求項4】
前記平面導波路(1)が、直流電流駆動型ジョセフソン接合から構築された埋め込み吸収体素子(2)を含む、請求項1に記載のマイクロ波領域の光子検出器。
【請求項5】
マイクロ波光子の検出が、マイクロ波放射(3)の通過により前記双安定吸収体素子(2)において発生される不可逆的な変化によって行われることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の検出装置を用いたマイクロ波光子検出方法。
【請求項6】
前記双安定吸収体素子(2)においてマイクロ波放射(3)の通過によって引き起こされる不可逆的な変化は、電磁波誘起が完了するとすぐに定量化することができることを特徴とする、請求項5に記載のマイクロ波光子検出方法。
【請求項7】
光子吸収能力を有し、光子検出器として働くことを特徴とする、双安定吸収体素子(2)。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【公表番号】特表2012−506138(P2012−506138A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531522(P2011−531522)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【国際出願番号】PCT/ES2009/070428
【国際公開番号】WO2010/043742
【国際公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(511095724)
【出願人】(511095735)ユニヴェルシダッド デル パイス ヴァスコ (1)
【出願人】(511095746)ユニヴェルシダッド デ サンティアーゴ デ チリ (1)
【Fターム(参考)】