説明

マイクロ流体チップ

【課題】ウェルごとの反応ばらつきを抑制しつつ、ウェルへの熱伝達効率を高められるマイクロ流体チップを提供すること。
【解決手段】第1面11及び第1面11に対向する第2面12を有し、少なくとも第1面側11に開口20aを有する複数のウェル20が設けられた基板10を含み、第1面11に垂直な方向から見て、ウェル20の周囲の一部に不連続となる不連続領域40を有してウェル20を囲むように形成され、基板10を第1面11から第2面12まで貫通する貫通溝30を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体チップに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板等に液体の微細な流路が設けられたマイクロ流体チップを使用して、化学分析や化学合成、あるいはバイオ関連の分析を行う方法が注目されている。マイクロ流体チップは、Micro Total Analytical System(マイクロTAS)あるいはラボオンチップ(Lab−on−a−chip)などの名称で呼ばれることもある。
【0003】
マイクロ流体チップの中には、一般に、ウェルと称される複数の微小な反応容器を備えており、当該複数の反応容器の各々において、互いに異なる反応を行うことができるものがある。マイクロ流体チップは、従来の分析装置、分析器具、反応容器などに比較して試料や試薬の量を非常に少なくすることができ、また、操作にともなう廃棄物を少なくすることができるなどの利点がある。そのため、医療診断、環境や食品のオンサイト分析、医薬品や化学品等の生産等、広い分野での利用が期待される。例えば、特許文献1には、リザーバーとウェルとがチャネルと称する流路によって連絡され、リザーバーに導入されたサンプルをウェルに分注するマイクロカード(チップ)が記載されている。
【0004】
マイクロ流体チップは、試薬が少量で足りることから、各種の検査のコストを下げることが可能となり、また、検体の必要量も少量でよいため、反応時間を大幅に短縮することができる。特に医療分野の検査等にマイクロ流体チップを適用する場合には、血液などの検体の必要量が小さいため、例えば患者の負担を軽減できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−509199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のマイクロ流体チップを、ヒートブロックに接触させることによりサーマルサイクルを施す場合には、マイクロ流体チップ自体の反りや異物のかみこみ等によって、ウェル(反応容器)ごとにヒートブロックとの接触面積や接触位置が異なる場合が発生し、これがウェルごとの反応ばらつきの原因の1つになっていた。
【0007】
また、基板にウェルを設ける構成のマイクロ流体チップは、熱伝達効率を高めるために薄肉の容器として構成されたPCRチップ等に比べて、ヒートブロックからウェルへの熱伝達効率が低い。そのため、基板にウェルを設ける構成のマイクロ流体チップを用いると、反応時間が長くなるという問題があった。
【0008】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、ウェルごとの反応ばらつきを抑制しつつ、ウェルへの熱伝達効率を高められるマイクロ流体チップを提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係るマイクロ流体チップは、
第1面及び前記第1面に対向する第2面を有し、少なくとも前記第1面側に開口を有する複数のウェルが設けられた基板を含み、
前記第1面に垂直な方向から見て、前記ウェルの周囲の一部に不連続となる不連続領域を有して前記ウェルを囲むように形成され、前記基板を前記第1面から前記第2面まで貫通する貫通溝を有する。
【0010】
本発明によれば、ウェルの周囲の一部に不連続となる不連続領域を有してウェルを囲むように形成された貫通溝を有しているため、不連続領域内を支点として、個々のウェルが移動できるようになる。すなわち、ウェルごとに位置調整が可能になる。このため、個々のウェルのヒートブロックとの接触面積や接触位置のばらつきを抑制することができる。したがって、ウェルごとの反応ばらつきを抑制できるマイクロ流体チップを実現できる。
【0011】
また、本発明によれば、ウェルを囲むように形成された貫通溝を有しているため、ウェルと基板との間の熱移動が少なくなる。したがって、ウェルへの熱伝達効率を高められるマイクロ流体チップを実現できる。
【0012】
(2)このマイクロ流体チップは、
前記ウェルは、
前記基板を前記第1面から前記第2面まで貫通する貫通穴と、
前記貫通穴ごとに、前記貫通穴の前記第2面側の開口を塞ぎ、前記基板の前記第2面に固着されたシールと、
を含んで構成されていてもよい。
【0013】
本発明によれば、基板の第2面にシールが固着されてウェルが形成されているので、基板の第2面側において、ウェル部分は基板の他の部分に比べて凸となる。このため、基板の第2面側にヒートブロックを接触させる場合には、シールが固着されたウェル部分が優先的に接触される。したがって、ウェルごとの反応ばらつきをさらに抑制できる。
【0014】
(3)このマイクロ流体チップは、
前記基板の前記第1面側に敷設されたカバーを含み、
前記基板は、前記第1面に、
前記複数のウェルの開口が設けられているウェル領域と、
前記ウェル領域に隣接し、リザーバーの開口が設けられているリザーバー領域と、を有し、
前記不連続領域は、前記第1面に垂直な方向から見て、前記ウェルの前記リザーバー側に設けられ、
前記カバーは、
前記第1面に垂直な方向から見て、前記ウェル領域及び前記リザーバー領域を囲むように前記第1面に固着されているとともに、
前記ウェルと前記リザーバーとが前記基板の前記第1面側と前記カバーとの隙間を介して連通可能にしつつ、前記貫通溝の前記第1面側の開口を塞ぐように前記第1面に固着されていてもよい。
【0015】
本発明によれば、被検液(検体を含む液体)をウェルに分注する際に、精度よく簡単に分注ができ、ウェル内に導入された被検液の逆流を抑制できる。したがって、近隣のウェル内の被検液同士の混合を抑制できる。
【0016】
なお、本発明において、「敷設」とは、基板の第1面にカバーが敷かれた状態のことを指し、「固着」とは、基板の第1面に固定されている状態を指す。
【0017】
(4)このマイクロ流体チップは、
前記ウェルは、前記第1面に垂直な方向から見て、前記第1面側の開口の輪郭が前記不連続領域側に突出する突出部を有していてもよい。
【0018】
本発明によれば、不連続領域側に突出する突出部を有していることにより、ウェルへの被検液の導入が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1(A)は、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ1を模式的に示す平面図、図1(B)は、図1(A)のA−A線における断面を模式的に表した図、図1(C)は、図1(A)に示すマイクロ流体チップ1のウェル20の近傍を模式的に表す拡大図。
【図2】第1実施形態に係るマイクロ流体チップ1をヒートブロック110に押し当てる様子を模式的に表す、図1(A)のB−B線における断面図。
【図3】図3(A)は、第2実施形態に係るマイクロ流体チップ2を模式的に示す平面図、図3(B)は、図3(A)のA−A線における断面を模式的に表した図、図3(C)は、図3(A)に示すマイクロ流体チップ2のウェル20の近傍を模式的に表す拡大図。
【図4】第2実施形態に係るマイクロ流体チップ2をヒートブロック110に押し当てる様子を模式的に表す、図3(A)のB−B線における断面図。
【図5】図5(A)は、第3実施形態に係るマイクロ流体チップ3を模式的に示す平面図、図5(B)は、図5(A)のA−A線における断面を模式的に表した図、図5(C)は、図5(A)に示すマイクロ流体チップ3のウェル20の近傍を模式的に表す拡大図。
【図6】図6(A)は、マイクロ流体チップ3のリザーバー60に被検液300を入れた状態で、慣性力を印加した様子を模式的に示す図、図6(B)は、ローラー500によって、マイクロ流体チップ3のウェル20を密閉する様子を模式的に示した図、図6(C)は、マイクロ流体チップ3のウェル20が密閉された状態を模式的に示す平面図。
【図7】図7(A)は、変形例1に係るウェル20の近傍を模式的に表す拡大平面図、図7(B)は、図7(A)のA−A線における断面を模式的に表す図。
【図8】変形例2に係るウェル20の近傍を模式的に表す拡大平面図。
【図9】図9(A)は、変形例3に係るウェル20の近傍を模式的に表す拡大平面図、図9(B)は、図9(A)のA−A線における断面を模式的に表す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0021】
1.第1実施形態に係るマイクロ流体チップ
図1(A)は、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ1を模式的に示す平面図、図1(B)は、図1(A)のA−A線における断面を模式的に表した図、図1(C)は、図1(A)に示すマイクロ流体チップ1のウェル20の近傍を模式的に表す拡大図である。
【0022】
第1実施形態に係るマイクロ流体チップ1は、第1面11及び第1面11に対向する第2面12を有し、少なくとも第1面側11に開口20aを有する複数のウェル20が設けられた基板10を含み、第1面11に垂直な方向から見て、ウェル20の周囲の一部に不連続となる不連続領域40を有してウェル20を囲むように形成され、基板10を第1面11から第2面12まで貫通する貫通溝30を有する。
【0023】
基板10は、マイクロ流体チップ1の基体となる板状の部材である。基板10は、図1(B)に示すように、互いに表裏の関係を有する(互いに対向する)第1面11及び第2面12を有する。基板10の形状は、平板状であれば特に限定されない。基板10の厚み(第1面11及び第2面12の間の距離)も特に限定されないが、取り扱いの容易さや、破損しにくさの点で、0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。基板10の平面的な外形形状については、特に限定されず、矩形、円形などとすることができる。本実施形態では、基板10の平面的な形状が長方形である例を示す。
【0024】
基板10の材質としては、特に限定されず、無機材料(例えば単結晶シリコン、パイレックス(登録商標)ガラス)、及び有機材料(例えばポリカーボネート、ポリプロピレン等の樹脂)を挙げることができ、これらの複合材料であってもよい。マイクロ流体チップ1を、PCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)の反応容器(反応チップ)として使用する場合など、蛍光測定を伴う用途に使用する場合には、基板10は、自発蛍光の小さい材質で形成されることが望ましい。このような自発蛍光の小さい材質としては、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン等が挙げられる。なお、マイクロ流体チップ1をPCRに用いる場合、基板10はPCRにおける加熱に耐えられる材質であることが好ましい。
【0025】
さらに、基板10の材質には、カーボンブラック、グラファイト、チタンブラック、アニリンブラック、若しくは、Ru、Mn、Ni、Cr、Fe、Co又はCuの酸化物、Si、Ti、Ta、Zr又はCrの炭化物などの黒色物質等を配合することができる。基板10の材質に、このような黒色物質が配合されることにより、樹脂等の有する自発蛍光をさらに抑制することができる。また、ウェル20等をマイクロ流体チップ1の外部から観察するような用途(例えば、リアルタイムPCRなど)にマイクロ流体チップ1を用いる場合には、必要に応じて、基板10の材質を透明なものとすることができる。またなお、マイクロ流体チップ1をPCRの反応チップとして使用する場合には、基板10の材質は、核酸やタンパク質の吸着が少なく、ポリメラーゼ等の酵素反応を阻害しない材質であることが好ましい。
【0026】
基板10が無機材料で形成される場合には、フォトリソグラフィー法を用いたドライエッチングなどを行って、成形、加工することができる。また、基板10が樹脂を主成分として形成される場合には、鋳型成形、射出成形又はホットエンボス加工などの方法によって、成形、加工することができる。
【0027】
図1(A)及び図1(B)に示すように、基板10には、少なくとも第1面11側に開口20aを有する複数のウェル20が形成される。ウェル20の配置は、その機能を損なわない限り任意である。ウェル20は、基板10の第1面11側に開口20aを有した容器状の形状を有する。ウェル20は、内部に被検液(検体を含む液体)等の液体を保持することができる。また、ウェル20内において、被検液等の液体の反応を行うことができる。すなわち、ウェル20は、反応容器として機能してもよい。
【0028】
ウェル20の形状は、容器状であれば、特に限定されず、多様な形態を採ることができる。例えば、ウェル20の形状は、円柱、角柱、円錐台及び角錐台、これらが傾いたような形状、並びにこれらを組み合わせた形状のいずれでもよい。また、ウェル20の形状は、第1面11に垂直な方向から見て、開口20aよりも大きい輪郭を有してもよく、このような形状としては、例えば、開口20aから基板10に厚み方向に延びる第1のウェルと、該第1のウェルに基板10内部で接続して、所与の方向に延びる第2のウェルとを有する、断面がアルファベットの「L」型の形状等であってもよい。本実施形態ではウェル20の形状として、図1(A)及び図1(B)に示すような円柱状(平面視において円形であって、断面視において矩形である形状)の形状を有する場合について説明する。ウェル20が採りうる他の形状については、「4.第1〜第3実施形態に係るマイクロ流体チップの変形例」の項でさらに説明する。
【0029】
ウェル20内には、あらかじめ、反応又は検査のための試薬を配置しておくことができる。配置される試薬の状態は、固体あるいは液体であることが好ましい。例えば、マイクロ流体チップ1をPCRの反応チップとして用いる場合には、試薬としては、標的核酸を増幅するためのプライマー(核酸)、増幅産物量を測定するための蛍光試薬(例えば蛍光プローブDNA)、及び、必要な場合には他の核酸などを配置することができる。試薬として、前記例示のもののような、乾燥等に対して安定性の高いものを用いる場合には、ウェル20内で乾燥されてもよく、例えば、ウェル20の内壁面に塗布されて乾燥された状態で配置されてもよい。このように試薬をウェル20の内壁面に塗布する方法としては、例えば、インクジェット方式の印刷に用いられる液体噴射ヘッド等により、試薬を塗布する方法が挙げられる。
【0030】
また、試薬をウェル20内に配置する場合は、複数のウェル20に互いに同じ試薬が配置されてもよいし、互いに異なる試薬が配置されてもよい。ウェル20ごとにどのように試薬を配置するかについては、所望の反応や検査の態様にしたがって任意に設計することができる。
【0031】
ウェル20内において試薬が配置される位置は、特に限定されないが、開口20aから遠い位置であるほど、試薬が、導入された被検液とともにウェル20の外に流出する可能性が小さくなる点でより好ましい。
【0032】
貫通溝30は、図1(B)に示すように、基板10を第1面11から第2面12まで貫通する。また、貫通溝30は、図1(A)に示すように、第1面11に垂直な方向から見て、ウェル20の周囲の一部に不連続となる不連続領域40を有してウェル20を囲むように形成されている。
【0033】
不連続領域40は、例えば、第1面11に垂直な方向から見て、開口20a内の代表点を基準として、不連続領域の両端をそれぞれ通る2本の直線を引いた場合に、両直線のなす角が180度以下となる範囲に設けられていてもよい。開口20a内の代表点は、例えば、開口20aの中心点や重心点であってもよく、開口20a内の任意の点を代表点として選択してもよい。図1(A)及び図1(C)に示す例では、開口20aの中心点を基準として、不連続領域の両端をそれぞれ通る2本の直線を引いた場合に、両直線のなす角が180度以下となる範囲に不連続領域40が設けられている。この範囲に不連続領域40が設けられると、不連続領域40内を支点として、個々のウェル20が移動しやすくなる。
【0034】
図2は、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ1をヒートブロック110に押し当てる様子を模式的に表す、図1(A)のB−B線における断面図である。
【0035】
ヒートブロック110は、平面部分を有し、当該平面部分に加熱対象物を接触させることにより加熱対象物を加熱するヒーターとして構成されている。図2に示す例では、加熱対象物は、マイクロ流体チップ1である。
【0036】
押さえ板120は、ウェル20をヒートブロック110に接触させるために、マイクロ流体チップ1を押さえるための板である。すなわち、ヒートブロック110と押さえ板120とでマイクロ流体チップ1を挟むことにより、ウェル20はヒートブロック110と接触される。図2に示す例では、押さえ板120には、ウェル20の位置や大きさに合わせた凸部が設けられている。これにより、ウェル20は、基板10の他の部分よりも優先的にヒートブロック110と接触される。なお、押さえ板120の構成はこれに限らず、例えば、押さえ板120は、平板として構成されていてもよい。
【0037】
押さえ板120の材質としては、基板10の変形などに合わせて撓むことができる程度の弾性を有するものが挙げられ、例えば、有機材料(ポリカーボネート、ポリプロピレン等の樹脂及び各種のゴム)や、有機材料と無機材料の複合材料を挙げることができる。
【0038】
図2に示す例では、基板10には反り210が生じている。しかしながら、個々のウェル20が形成されている部分は、図1(C)に示す不連続領域40内を支点として移動できるため、ヒートブロック110と押さえ板120とに挟まれることにより、ヒートブロック110と接触することができる。
【0039】
また、図2に示す例では、異物220が、ウェル20とヒートブロック110との間に挟まっている。しかしながら、個々のウェル20が形成されている部分は、図1(C)に示す不連続領域40内を支点として移動できるため、異物220が挟まっていない他のウェル20は、異物220の影響を受けることなく、ヒートブロック110と押さえ板120とに挟まれることにより、ヒートブロック110と接触することができる。
【0040】
このように、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ1によれば、ウェル20の周囲の一部に不連続となる不連続領域40を有してウェル20を囲むように形成された貫通溝30を有しているため、不連続領域40内を支点として、個々のウェル20が移動できるようになる。すなわち、ウェル20ごとに位置調整が可能になる。このため、個々のウェル20のヒートブロック110との接触面積や接触位置のばらつきを抑制することができる。したがって、ウェルごとの反応ばらつきを抑制できるマイクロ流体チップを実現できる。
【0041】
また、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ1によれば、ウェル20を囲むように形成された貫通溝30を有しているため、ウェル20と基板10との間の熱移動が少なくなる。したがって、ウェルへの熱伝達効率を高められるマイクロ流体チップを実現できる。
【0042】
2.第2実施形態に係るマイクロ流体チップ
図3(A)は、第2実施形態に係るマイクロ流体チップ2を模式的に示す平面図、図3(B)は、図3(A)のA−A線における断面を模式的に表した図、図3(C)は、図3(A)に示すマイクロ流体チップ2のウェル20の近傍を模式的に表す拡大図である。
【0043】
第2実施形態に係るマイクロ流体チップ2は、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ1と比べて、ウェル20の構成のみが異なる。そのため、以下では第1実施形態に係るマイクロ流体チップ1との相違点を中心に説明し、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ1と同様の構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0044】
第2実施形態に係るマイクロ流体チップ2のウェル20は、基板10を第1面11から第2面12まで貫通する貫通穴21と、貫通穴21ごとに、貫通穴21の第2面12側の開口を塞ぎ、基板10の第2面12に固着されたシール22と、を含んで構成されている。
【0045】
貫通穴21は、図3(B)に示すように、基板10を第1面11から第2面12まで貫通する。貫通穴21の形状は、特に限定されず、多様な形態を採ることができる。例えば、貫通穴21の形状は、円柱、角柱、円錐台及び角錐台、これらが傾いたような形状、並びにこれらを組み合わせた形状のいずれでもよい。また、貫通穴21の形状は、第1面11に垂直な方向から見て、開口20aよりも大きい輪郭を有してもよく、このような形状としては、例えば、開口20aから基板10に厚み方向に延びる第1のウェルと、該第1のウェルに基板10内部で接続して、所与の方向に延びる第2のウェルとを有する、断面がアルファベットの「L」型の形状等であってもよい。本実施形態では貫通穴21の形状として、図3(A)及び図3(B)に示すような円柱状(平面視において円形であって、断面視において矩形である形状)の形状を有する場合について説明する。貫通穴21が採りうる他の形状については、「4.第1〜第3実施形態に係るマイクロ流体チップの変形例」の項でさらに説明する。
【0046】
シール22は、図3(B)に示すように、貫通穴21ごとに、貫通穴21の第2面12側の開口を塞ぎ、基板10の第2面12に固着されている。シール22は、フィルム又はシート状の形状を有する。シール22の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.01mm以上5mm以下とすることができる。シール22と第2面12とを固着させるためには、例えば、接着剤を利用したり、熱融着又は圧着を行ったりすることにより固着させてもよい。
【0047】
シール22の材質としては、例えば、有機材料(ポリカーボネート、ポリプロピレン等の樹脂及び各種のゴム)や、有機材料と無機材料の複合材料を挙げることができる。マイクロ流体チップ2を、PCRの反応チップとして使用する場合など、蛍光測定を伴う用途に使用する場合には、シール22は、自発蛍光の小さい材質で形成されることが望ましい。このような自発蛍光の小さい材質としては、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン等が挙げられる。マイクロ流体チップ3をPCRの反応チップとして使用する場合には、シール22の材質は、核酸やタンパク質の吸着が少なく、ポリメラーゼ等の酵素反応を阻害しない材質であることが好ましい。またなお、マイクロ流体チップ3をPCRのチップとして用いる場合は、シール22はPCRにおける加熱に耐えられる材質であることが好ましい。
【0048】
図3(B)に示すように、第2実施形態に係るマイクロ流体チップ2は、基板10の第2面12にシール22が固着されてウェル20が形成されているので、基板10の第2面12側において、ウェル20部分は基板10の他の部分に比べて凸となる。
【0049】
図4は、第2実施形態に係るマイクロ流体チップ2をヒートブロック110に押し当てる様子を模式的に表す、図3(A)のB−B線における断面図である。
【0050】
図4に示す例では、基板10には反り210が生じている。しかしながら、個々のウェル20が形成されている部分は、図3(C)に示す不連続領域40内を支点として移動できるため、ヒートブロック110と押さえ板120とに挟まれることにより、ヒートブロック110と接触することができる。
【0051】
また、図4に示す例では、異物220が、ウェル20とヒートブロック110との間に挟まっている。しかしながら、個々のウェル20が形成されている部分は、図4(C)に示す不連続領域40内を支点として移動できるため、異物220が挟まっていない他のウェル20は、異物220の影響を受けることなく、ヒートブロック110と押さえ板120とに挟まれることにより、ヒートブロック110と接触することができる。
【0052】
さらに、図4に示すように、ウェル20部分が基板10の他の部分に比べて凸となるため、基板10の第2面12側にヒートブロック110を接触させる場合には、シール22が固着されたウェル20部分が優先的に接触される。
【0053】
したがって、第2実施形態に係るマイクロ流体チップ2によれば、ウェルごとの反応ばらつきをさらに抑制できる。
【0054】
加えて、第2実施形態に係るマイクロ流体チップ2によれば、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ1と同様の効果も奏することができる。
【0055】
3.第3実施形態に係るマイクロ流体チップ
3−1.第3実施形態に係るマイクロ流体チップの構成
図5(A)は、第3実施形態に係るマイクロ流体チップ3を模式的に示す平面図、図5(B)は、図5(A)のA−A線における断面を模式的に表した図、図5(C)は、図5(A)に示すマイクロ流体チップ3のウェル20の近傍を模式的に表す拡大図である。
【0056】
第3実施形態に係るマイクロ流体チップ3は、第2実施形態に係るマイクロ流体チップ2の構成に加えて、基板10の第1面11側に敷設されたカバー50を含み、基板10は、第1面11に、複数のウェル20の開口20aが設けられているウェル領域25と、ウェル領域25に隣接し、リザーバー60の開口60aが設けられているリザーバー領域65と、を有し、不連続領域40は、第1面11に垂直な方向から見て、ウェル20のリザーバー60側に設けられ、カバー50は、第1面11に垂直な方向から見て、ウェル領域25及びリザーバー領域65を囲むように第1面11に固着されているとともに、ウェル20とリザーバー60とが基板10の第1面11側とカバー50との隙間を介して連通可能にしつつ、貫通溝30の第1面11側の開口を塞ぐように第1面11に固着されている。
【0057】
図5(A)に示すように、基板10の第1面11には、ウェル領域25とリザーバー領域65とが隣接して設けられている。ウェル領域25及びリザーバー領域65は、複数設けられてもよい。ウェル領域25及びリザーバー領域65は、第1面11に垂直な方向から見て、後述するカバー50の第1固着領域70の内側に設けられる。基板10におけるウェル領域25及びリザーバー領域65の設けられる位置は、基板10に遠心力等の慣性力が印加された際に、リザーバー領域65からウェル領域25に向かう方向に当該慣性力が作用することができる限り特に限定されない。第1面11に垂直な方向から見たウェル領域25及びリザーバー領域65の形状は、特に限定されず、矩形、円形等とすることができる。
【0058】
図5(A)及び図5(B)に示すようにウェル領域25には、複数のウェル20の開口20aが設けられている。リザーバー領域65には、リザーバー60の開口60aが設けられている。
【0059】
リザーバー60は、マイクロ流体チップ3を使用する際に、少なくとも慣性力が印加される前に、被検液を貯留するための空間である。リザーバー60は、基板10の第1面11に開口60aを有して形成される。リザーバー60の平面的な形状は限定されず、円形、矩形などとすることができる。リザーバー60の容積の大きさは、例えば、ウェル20の合計の容積と同じかそれよりも大きくすることが好ましい。
【0060】
図5(A)及び図5(B)に示す例では、リザーバー60は、第1面11側に開口する窪み状に形成されているが、リザーバー60の構成はこれに限定されず、例えば、リザーバー60は、第2面12側に貫通していてもよいし、第2面12側にリザーバー60と連通する他の容器を取り付け可能な取り付け部を有していてもよい。マイクロ流体チップ3を使用する際には、リザーバー60には、外部から被検液が供給されるが、図5(A)及び図5(B)に示す例では、例えば、カバー50を装着する前に供給されてもよいし、カバー50が装着された後にあっては、カバー50のリザーバー60に対応する領域に孔を形成して該孔から供給されてもよい。さらに、リザーバー60に対応する領域の少なくとも一部についてカバー50を剥離して供給されてもよい。
【0061】
カバー50は、基板10の第1面11側に敷設される。本明細書では「敷設」との文言は、カバー50と基板10の第1面11とが、固着(固定)されている場合と固着されていない場合とを含む意味で用いている。カバー50は、フィルム又はシート状の形状を有する。カバー50の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.01mm以上5mm以下とすることができる。
【0062】
第1面11から垂直な方向から見たカバー50の外形形状は、第1面11から垂直な方向から見た基板10の外形形状と一致していてもいなくてもよい。図5(A)及び図5(B)に示す例では、第1面11から垂直な方向から見たカバー50の外形形状は、第1面11から垂直な方向から見た基板10の外形形状と一致している。カバー50は、静的な状態では基板10に接しているが、マイクロ流体チップ3に遠心力などの慣性力が印加された場合には、後述する第1固着領域70及び第2固着領域80以外の領域で、基板10とカバー50との間に間隙が形成される程度の可撓性ないしは弾性を有する。
【0063】
カバー50の材質としては、遠心力等の慣性力によって撓むことができる程度の弾性を有するものが挙げられ、例えば、有機材料(ポリカーボネート、ポリプロピレン等の樹脂及び各種のゴム)や、有機材料と無機材料の複合材料を挙げることができる。マイクロ流体チップ3を、PCRの反応チップとして使用する場合など、蛍光測定を伴う用途に使用する場合には、カバー50は、自発蛍光の小さい材質で形成されることが望ましい。このような自発蛍光の小さい材質としては、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン等が挙げられる。マイクロ流体チップ3をPCRの反応チップとして使用する場合には、カバー50の材質は、核酸やタンパク質の吸着が少なく、ポリメラーゼ等の酵素反応を阻害しない材質であることが好ましい。またなお、マイクロ流体チップ3をPCRのチップとして用いる場合は、カバー50はPCRにおける加熱に耐えられる材質であることが好ましい。
【0064】
また、カバー50の材質には、基板10と同様に、カーボンブラック、グラファイト、チタンブラック、アニリンブラック、若しくは、Ru、Mn、Ni、Cr、Fe、Co又はCuの酸化物、Si、Ti、Ta、Zr又はCrの炭化物などの黒色物質を配合することができる。カバー50の材質に、このような黒色物質が配合されることにより、樹脂等の有する自発蛍光をさらに抑制することができる。さらに、ウェル20をマイクロ流体チップ3の外部から観察するような用途にマイクロ流体チップ3を用いる場合には、必要に応じて、カバー50の材質を透明なものとすることができる。カバー50は、例えば、フィルム成形、シート成形、射出成形、プレス成形などの方法によって、成形、加工することができる。
【0065】
カバー50は、一方の表面50aが基板10の第1面11に面するように敷設される。カバー50の表面50aは、接着性を有してもよい。表面50aが接着性を有する場合には、マイクロ流体チップ13に遠心力等の慣性力が印加されるときに、表面50aと第1面11とが剥離できる程度の接着力とすることが好ましい。ただし、マイクロ流体チップ3に遠心力等の慣性力を印加し終えた後はこの限りではなく、表面50aと第1面11とが離れにくいように接着(固着)する程度の接着力を有してもよい。
【0066】
カバー50の表面50aは、接着力を有さなくてもよい。このような場合には、第1面11に表面50aを固着させるために、接着剤を利用することや、熱融着を行うことができる。また、表面50aは、カバー50を基板10に対して加圧しない状態では接着力を発揮せずに、加圧により接着力を発揮する性質を有してもよい。このような表面50aとしては、多孔質となっているものを例示することができる。このような方法であれば、基板10及びカバー50を固着させる際に、加圧させるだけなので熱が発生することがなく、マイクロ流体チップ3の温度の上昇を抑制することができ、被検液等に与える熱の影響を抑制することができる。このような表面50aを有するカバー50の具体例としては、商品名:LightCycler 480 Sealing Foil・型名:04 729 757 001
・ロシュ・ダイアグノスティクス社製、商品名:ポリオレフィン マイクロプレートシー
リングテープ・型名:9793・3M社製、商品名:アンプリフィケーションテープ96・型名:232702・Nunc社製などを例示することができる。
【0067】
さらに、表面50aは、潜在的な接着力を有してもよい。すなわち、表面50aは、マイクロ流体チップ3に遠心力等の慣性力が印加される前までは接着力を有さず、慣性力が印加された後の所望の時点で、エネルギー線(例えば、紫外線、電子線など)を照射することによって接着力を発揮できるものであってもよい。
【0068】
また、表面50aと基板10の第1面11とを固着させる方法としては、超音波溶着法を利用してもよい。例えば、固着させたい領域の形状に対応する形状の治具をカバー50の基板10に対して固着させたい部分に押しつけて超音波振動させ、カバー50と基板10とを溶着(固着)させてもよい。このようにすれば、基板10とカバー50とを超音波照射によって溶着(固着)させるため、例えば被検液が、生化学的な試料である場合などにおいて、試料に対する加熱を抑えることができるため、試料に与えるダメージを少なくすることができる。また、例えば、ウェル20に含まれる試薬の活性を低下させることも抑制できる。さらに、第1固着領域70を超音波溶着法によって形成した場合は、溶着による基板10とカバー50との接合力は比較的強いため、ウェル領域25及びリザーバー領域65からの被検液の漏れをより確実に防止することができる。以下に述べる第1固着領域70及び第2固着領域80は、上述のような方法により形成することができる。
【0069】
カバー50は、基板10と固着された第1固着領域70及び第2固着領域80を有する。
【0070】
第1固着領域70は、第1面11に垂直な方向から見て、基板10のウェル領域25及びリザーバー領域65を囲むように配置される。すなわち、第1面11に垂直な方向から見て、第1固着領域70の内側に、ウェル領域25及びリザーバー領域65が配置される。第1固着領域70は、マイクロ流体チップ3に遠心力等の慣性力が印加されても、敷設されたカバー50と基板10とが剥離しにくい領域である。敷設されているカバー50の第1固着領域70及び第2固着領域80以外の領域は、マイクロ流体チップ3に遠心力等の慣性力が印加されると、表面50aと第1面11とが剥離することができる。第1固着領域70では、カバー50の表面50aの性質に合わせて、例えば、カバー50と基板10とが溶着されてもよく、粘着剤、接着剤等で接着されてもよい。
【0071】
第1固着領域70の機能の一つとしては、マイクロ流体チップ3に遠心力等の慣性力が印加されてカバー50と基板10との間に間隙が形成されるときに、当該間隙を内部に形成する袋(ポケット)状の構造を形成させることが挙げられる。これにより、ウェル20とリザーバー60とが基板10の第1面11側とカバー50との隙間を介して連通可能にし、被検液をウェル20とリザーバー60との間で流通させることができる。
【0072】
既に述べたように、慣性力は、リザーバー領域65側からウェル領域25側へ向かうようにマイクロ流体チップ3に印加される。そのため、第1固着領域70は、少なくともウェル領域25を囲む位置では連続して設けられる。したがって、カバー50と基板10との間の間隙に被検液が導入された際に、慣性力により、被検液が第1固着領域70の外側に、ウェル領域25側から漏れ出さないようになっている。また、第1固着領域70は、第1面11に垂直な方向から見て、基板10のウェル領域25及びリザーバー領域65の両者を取り囲んで環状に連続していることができる。このようにすれば、カバー50と基板10との間の間隙に被検液が導入された際に、被検液が第1固着領域70の外側に漏れ出さないようにすることができる。なお、第1固着領域70は、リザーバー領域65側においては、連続していない部分を有してもよい。
【0073】
第1固着領域70の形成は、例えば、基板10の第1面11に、接着剤を第1固着領域70の形状に塗布して、カバー50を敷設することによって形成することができる。また、例えば、第1固着領域70は、カバー50の表面50aがカバー50を基板10に対して加圧しない状態では接着力を発揮せずに、加圧により接着力を発揮する性質を有する場合には、第1固着領域70の形状に対応する治具等を用意して、当該治具によって、カバー50を基板10に対して圧力を印加して形成されることができる。また、例えば、第1固着領域70は、第1固着領域70の形状に対応する形状の治具を用いた超音波溶着によって形成することもできる。
【0074】
第2固着領域80は、ウェル20とリザーバー60とが基板10の第1面11側とカバー50との隙間を介して連通可能にしつつ、貫通溝30の第1面11側の開口を塞ぐように配置される。第2固着領域80は、マイクロ流体チップ3に遠心力等の慣性力が印加されても、カバー50と基板10とが剥離しにくい領域である。図5(C)に示す例では、第2固着領域80は、貫通溝30の第1面11側の開口を連続して囲むように配置されるとともに、ウェル20の開口20aを完全には囲まないように配置されている。第2固着領域80では、カバー50の表面20aの性質に合わせて、例えば、カバー50と基板10とが溶着されてもよく、粘着剤、接着剤等で接着されてもよい。
【0075】
第2固着領域80の機能の一つとしては、マイクロ流体チップ3に遠心力等の慣性力が印加されてカバー50と基板10との間に間隙が形成されるときに、不連続部分40の一部において、当該間隙と、ウェル20の内部とを連通させるようにすることが挙げられる。また、第2固着領域80の機能の一つとしては、マイクロ流体チップ3に遠心力等の慣性力が印加されて、被検液がウェル20に導入される(ウェル20内の気体が被検液と置き換わる)ときに、過剰となった被検液がウェル20のリザーバー領域65とは反対側の方向に漏れ出しにくくする袋(ポケット)状の構造を形成させることが挙げられる。この機能は、不連続領域40が、第1面11に垂直な方向から見て、ウェル20のリザーバー60側に設けられることにより、第2固着領域80が、少なくともウェル20の開口20aの周囲において、リザーバー領域65側と反対側の位置では連続して設けられることにより発現する。これにより、カバー50と基板10との間の間隙に被検液が導入された際に、慣性力により、ウェル20の容積に対して過剰量の被検液が、第2固着領域80のリザーバー領域65とは反対側の方向に漏れ出しにくくなっている。
【0076】
また、第2固着領域80の機能の一つとしては、マイクロ流体チップ3に遠心力等の慣性力が印加されてカバー50と基板10との間に形成される間隙及びウェル20の内部の間の被検液の移動する経路を狭窄することが挙げられる。第2固着領域80が、このような形状を有することによって、ウェル20に一旦導入された試料等が、再びウェル20の外へ漏出しにくくすることができる。これにより、ウェルに導入された試料と、近接するウェルに導入された試料との間の混合や、混合によるコンタミネーションを防止する効果を高めることができる。
【0077】
第2固着領域80の形成は、例えば、基板10の第1面11に、接着剤を第2固着領域80の形状に塗布して、カバー50を敷設することによって形成することができる。また、例えば、第2固着領域80は、カバー50の表面50aがカバー50を基板10に対して加圧しない状態では接着力を発揮せずに、加圧により接着力を発揮する性質を有する場合には、第2固着領域80の形状に対応する治具等を用意して、当該治具によって、カバー50を基板10に対して加圧力を印加して形成されることができる。また、例えば、第2固着領域80は、第2固着領域80の形状に対応する形状の治具を用いた超音波溶着によって形成することもできる。
【0078】
3−2.第3実施形態に係るマイクロ流体チップの使用方法
以上説明したマイクロ流体チップ3は、広範な用途に使用することができるが、以下、マイクロ流体チップ3をPCRのためのチップとして用いる場合を例として、その使用方法を説明する。
【0079】
図6(A)は、マイクロ流体チップ3のリザーバー60に被検液300を入れた状態で、慣性力を印加した様子を模式的に示す図、図6(B)は、ローラー500によって、マイクロ流体チップ3のウェル20を密閉する様子を模式的に示した図、図6(C)は、マイクロ流体チップ3のウェル20が密閉された状態を模式的に示す平面図である。
【0080】
以下の例では、カバー50の表面20aが、カバー50を基板10に対して加圧しない状態では接着力を発揮せずに、加圧により接着力を発揮する性質を有しているものとする。また、以下の例では、カバー50の第1固着領域70は、第1面11に垂直な方向から見て、基板10のウェル領域25及びリザーバー領域65の両者を取り囲んで環状に連続しているものとする。また、以下の例では、カバー50は、透明な材質で形成されているものとする。なお、この例では、ウェル20の形状は円柱形であって、底面の直径がおよそ1mm、深さがおよそ1mmであるものを例示する。さらに、この例では、基板10及びカバー50の平面的な外形形状は、長方形であって、長辺が約4.8cm、短辺が約2.5cmであるものを例示する。
【0081】
まず、標的核酸を含む被検液300を調製する。PCRの被検液300としては、標的核酸、プライマーDNA、PCRマスターミックス(例えば、ポリメラーゼ、ヌクレオチド、及び塩化マグネシウム等の補酵素を含む)を含む水溶液を例示することができる。被検液300において、測定対象となる標的核酸としては、例えば、血液、尿、唾液、髄液等から抽出されたDNA又はRNAから逆転写したcDNA等が挙げられる。被検液300の量は、ウェル20の全体の容積に応じて適宜決定されるが、例えば複数のウェル20の総容積と同じか又は前記総容積より多いことが好ましく、複数のウェル20により確実に被検液300を充填できる点で、複数のウェル20の総容積より多いことがより好ましい。
【0082】
次に、被検液300をマイクロ流体チップ3のリザーバー60に収容する。この時点では、マイクロ流体チップ3のウェル20内には、被検液300は導入されておらず、試薬等が各ウェル20に配置されている。試薬等としては、プライマーDNAや蛍光プローブDNAを例示することができる。また、リザーバー60に被検液300を入れる方法は、特に限定されず、既に述べたように、例えば、カバー50を装着する前に行ってもよいし、カバー50が装着された後にあっては、カバー50のリザーバー60に対応する領域に孔を形成して該孔から供給してもよい、さらに、カバー50をリザーバー60に対応する領域の少なくとも一部を剥離して供給されてもよい。
【0083】
次に、マイクロ流体チップ3に、リザーバー領域65側からウェル領域25側に向かう慣性力を作用させる。本実施形態では、慣性力は遠心機によって印加される。遠心機の回転軸Rは、マイクロ流体チップ3のリザーバー領域65から見て、ウェル領域25と反対側に配置される。遠心機を運転して、マイクロ流体チップ3に慣性力(遠心力)が発生すると、図6(A)に示すように、リザーバー60の中の被検液300が、回転軸Rから遠ざかる方向、すなわちウェル領域25に向かう方向に加速度G(図中矢印)を受ける。そして加速度を受けている状態では、基板10とカバー50との間に間隙が生じ、被検液300は、ウェル領域25に向かって該間隙内を移送される。なお、このときの間隙の大きさ(厚み)は、特に制限はないが、図6(A)では、間隙の大きさが非常に小さい例を示している。そして、図5(C)に示す基板10の不連続部分40とカバー50との隙間を介して、基板10のウェル領域25に形成されたウェル20の開口20aから、慣性力でウェル20内の空気と入れ替わることによって被検液300がウェル20に導入される。ウェル20に導入された被検液300は、ウェル20内にあらかじめ配置された試薬等と混合される。
【0084】
なお、図6(A)に示す例では、遠心機の回転軸Rに対して、垂直な方向に沿ってマイクロ流体チップ3の平面(例えば基板10の第1面11)が配置されて回転されている様子を示しているが、マイクロ流体チップ3の遠心機の回転軸Rに対する配置は、リザーバー60の内部の被検液300が、遠心力によって、ウェル20へ向かって移動することができる範囲で任意である。このような配置は、基板10のウェル20の配置などによって、適宜に設定することができる。
【0085】
次に、遠心機を停止し、慣性力の印加を止める。この状態では、被検液300がウェル20内に充填されている。また、例えば、被検液300の体積が、ウェル20の合計の容積よりも大きい場合などには、被検液300は、ウェル20内、並びに、基板10及びカバー50の間の間隙に存在している。いずれの場合であっても、カバー50の外側から、ローラー、スキージ、ブレード等の治具によって、カバー50を基板10に押さえつけることによって、カバー50をマイクロ流体チップ3に密着させてウェル20を密閉することができ、ウェル20内に正確な容量の被検液300を封入することができる。
【0086】
すなわち、被検液300が基板10及びカバー50の間の間隙に存在していない状態では、カバー50を基板10に押さえつけることによってカバー50と基板10とが圧着されて、ウェル20が密閉され、被検液300が基板10及びカバー50の間の間隙に存在している状態では、余分の被検液300をリザーバー領域65側に押し戻しつつ、ウェル20が密閉されることができる。これにより、ウェル20は、所定の容積の密閉された反応容器とされることができる。図6(B)に示す例では、ローラー500によって、基板10及びカバー50の間の間隙に存在する過剰の被検液300を貫通孔15からリザーバー60に戻しつつ、ウェル20を密閉する様子を示している。
【0087】
また、図6(C)に示すように、ローラー500によって、カバー50が押しつけられた後は、基板10とカバー50の接触する面は、少なくともウェル20の周囲(図示の例では基板10とカバー50の接触する全面(ウェル20、貫通溝30及びリザーバー60を除いたグレー表示の領域))において固着される。
【0088】
以上のようにして、図6(C)に示すように、マイクロ流体チップ3のウェル20内に、正確な容量の被検液300を導入することができる。マイクロ流体チップ3に複数のウェル20が形成されている場合も同様であり、該複数のウェル20は、上記操作の結果、それぞれ独立した密閉空間となり、所望の量の被検液300を精密に分注することができる。また、図5(C)に示す第2固着領域80により、被検液300をウェル20に分注する際に、ウェル20内に導入された被検液300の逆流を抑制できる。したがって、近隣のウェル内の被検液同士の混合を抑制できる。
【0089】
その後、マイクロ流体チップ3をサーマルサイクラーなどの温度制御装置に導入して、PCRの反応をウェル20内で行う。PCR反応の温度制御の一例としては、55℃、74℃、95℃の3段階の温度変化を数分の周期で繰り返す方法が挙げられる。このような温度サイクルにより、1サイクル当たり標的核酸を2倍に増幅することができる。さらに、ここではカバー50が透明な材質であるため、必要に応じて、カバー50の外側から、カバー50を介してウェル20の内部を観察できる。そのため、標的核酸の定量(リアルタイムPCR)が可能であり、PCR反応の途中でも反応の進行状況等を確認することができる。また、マイクロ流体チップ3を用いて、SNPなどの遺伝子の変異やDNAのメチル化等、PCRの原理を用いた様々な核酸(DNA、RNA)の解析を行うことができる。
【0090】
なお、第2固着領域80の他の効果としては、マイクロ流体チップ3を使用するときに、基板10とカバー50との間の間隙が大きくなりすぎないようにすることが挙げられる。例えば、マイクロ流体チップ3の使用時に印加される慣性力が大きすぎると、リザーバー領域65と反対側の端付近において、基板10とカバー50との間隙が大きくなりすぎる場合がある。本実施形態のマイクロ流体チップ3では、第2固着領域80が形成されるため、少なくともウェル20の近傍において、基板10とカバー50との間隙を大きくなりすぎないようにすることができる。したがって、例えば、被検液の無駄を小さく抑えることができる。
【0091】
このように、第3実施形態に係るマイクロ流体チップ3によれば、被検液300をウェル20に分注する際に、精度よく簡単に分注ができ、ウェル20内に導入された被検液300の逆流を抑制できる。したがって、近隣のウェル内の被検液同士の混合を抑制できる。
【0092】
加えて、第3実施形態に係るマイクロ流体チップ3によれば、第2実施形態に係るマイクロ流体チップ2と同様の効果も奏することができる。
【0093】
なお、上述の例では、第2実施形態に係るマイクロ流体チップ2と同様のウェル20の構成を採用した例について説明したが、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ1と同様のウェル20の構成を採用してもよい。この場合にも、被検液300をウェル20に分注する際に、ウェル20内に導入された被検液300の逆流を抑制できる。したがって、近隣のウェル内の被検液同士の混合を抑制できる。加えて、第1実施形態に係るマイクロ流体チップ1と同様の効果も奏することができる。
【0094】
4.第1〜第3実施形態に係るマイクロ流体チップの変形例
第1〜第3実施形態に係るマイクロ流体チップ1〜3は、上述の他にも種々の変形が可能である。以下、第1〜第3実施形態に係るマイクロ流体チップ1〜3の変形例について説明する。なお、変形例1〜3を適宜組み合わせることも可能である。
【0095】
4−1.変形例1
図7(A)は、変形例1に係るウェル20の近傍を模式的に表す拡大平面図、図7(B)は、図7(A)のA−A線における断面を模式的に表す図である。
【0096】
図7(A)に示すように、ウェル20は、第1面11に垂直な方向から見て、第1面11側の開口20aの輪郭が不連続領域40側に突出する突出部23を有していてもよい。本変形例を第3実施形態に係るマイクロ流体チップ3に適用する場合には、ウェル20は、第1面11に垂直な方向から見て、開口20aの輪郭がリザーバー領域65側に突出するように形成された突出部23となる。
【0097】
突出部23の深さは、特に限定されず、ウェル20の他の部分の深さと同じでも、これより浅くてもよい。また、突出部23の深さは、一様でなくてもよく、底面が傾斜するなどしていてもよい。さらに、ウェル20が貫通穴21を有して構成され、突出部23においても基板10の第1面11から第2面12まで貫通していてもよい。図7(B)に示す例では、突出部23の深さは、ウェル20の他の部分よりも浅く一様な深さに構成されている。
【0098】
本変形例を第3実施形態に係るマイクロ流体チップ3に適用した場合には、突出部23がウェル20のリザーバー領域65側に形成されることにより、マイクロ流体チップ3を使用する際に、被検液が突出部23を介してウェル20に導入されやすくなる。また、ウェル20に突出部23が形成されると、突出部23の形状によってこれを流通する試料の流量を調節することができる。
【0099】
また、図7に示す例では、突出部23は、第1面11に垂直な方向から見て、第1面11側の開口20aの中心部側から不連続領域40側に向かって、貫通溝30を囲む固着領域80よりも外側まで延出している。これにより、例えば、円筒や円柱のような単純な形状の冶具でカバー50を圧着することにより、固着領域80を容易に形成することができる。
【0100】
4−2.変形例2
図8は、変形例2に係るウェル20の近傍を模式的に表す拡大平面図である。
【0101】
図8に示すように、第1〜第3実施形態に係るマイクロ流体チップ1〜3において、貫通溝30は、ウェル20から遠くなる側に延出する延出部32を有していてもよい。特に、第3実施形態に係るマイクロ流体チップ3においては、延出部32は、リザーバー60側に延出していてもよい。
【0102】
延出部32を有することによって、不連続領域40内となる支点がウェル20から遠くなる。このため、個々のウェルがさらに容易に移動できるようになる。これにより、基板10がより大きく反った場合や、より大きな異物が基板10とヒートブロック110との間に挟まった場合にも、個々のウェル20のヒートブロック110との接触面積や接触位置のばらつきを抑制することができる。したがって、ウェルごとの反応ばらつきをさらに抑制できるマイクロ流体チップを実現できる。
【0103】
4−3.変形例3
図9(A)は、変形例3に係るウェル20の近傍を模式的に表す拡大平面図、図9(B)は、図9(A)のA−A線における断面を模式的に表す図である。
【0104】
図9(A)及び図9(B)に示すように、第1〜第3実施形態に係るマイクロ流体チップ1〜3において、第1面11に垂直な方向から見て、不連続領域40と重なる第2面12側の領域の少なくとも一部において、第2面12側から凹部として構成された切り欠き部42を有していてもよい。
【0105】
切り欠き部42を有することによって、不連続領域40内で支点となる位置の基板10が薄くなる。このため、個々のウェルがさらに容易に移動できるようになる。これにより、基板10がより大きく反った場合や、より大きな異物が基板10とヒートブロック110との間に挟まった場合にも、個々のウェル20のヒートブロック110との接触面積や接触位置のばらつきを抑制することができる。したがって、ウェルごとの反応ばらつきをさらに抑制できるマイクロ流体チップを実現できる。
【0106】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、複数を適宜組み合わせることが可能である。
【0107】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0108】
1,2,3 マイクロ流体チップ、10 基板、11 第1面、12 第2面、20 ウェル、20a 開口、21 貫通穴、22 シール、23 突出部、25 ウェル領域、30 貫通溝、32 延出部、40 不連続領域、42 切り欠き部、50 カバー、50a 表面、60 リザーバー、60a 開口、65 リザーバー領域、70 第1固着領域、80 第2固着領域、110 ヒートブロック、120 押さえ板、210 反り、220 異物、300 被検液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面及び前記第1面に対向する第2面を有し、少なくとも前記第1面側に開口を有する複数のウェルが設けられた基板を含み、
前記第1面に垂直な方向から見て、前記ウェルの周囲の一部に不連続となる不連続領域を有して前記ウェルを囲むように形成され、前記基板を前記第1面から前記第2面まで貫通する貫通溝を有する、マイクロ流体チップ。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロ流体チップにおいて、
前記ウェルは、
前記基板を前記第1面から前記第2面まで貫通する貫通穴と、
前記貫通穴ごとに、前記貫通穴の前記第2面側の開口を塞ぎ、前記基板の前記第2面に固着されたシールと、
を含んで構成されている、マイクロ流体チップ。
【請求項3】
請求項1及び請求項2のいずれか1項に記載のマイクロ流体チップにおいて、
前記基板の前記第1面側に敷設されたカバーを含み、
前記基板は、前記第1面に、
前記複数のウェルの開口が設けられているウェル領域と、
前記ウェル領域に隣接し、リザーバーの開口が設けられているリザーバー領域と、を有し、
前記不連続領域は、前記第1面に垂直な方向から見て、前記ウェルの前記リザーバー側に設けられ、
前記カバーは、
前記第1面に垂直な方向から見て、前記ウェル領域及び前記リザーバー領域を囲むように前記第1面に固着されているとともに、
前記ウェルと前記リザーバーとが前記基板の前記第1面側と前記カバーとの隙間を介して連通可能にしつつ、前記貫通溝の前記第1面側の開口を塞ぐように前記第1面に固着されている、マイクロ流体チップ。
【請求項4】
請求項3に記載のマイクロ流体チップにおいて、
前記ウェルは、前記第1面に垂直な方向から見て、前記第1面側の開口の輪郭が前記不連続領域側に突出する突出部を有する、マイクロ流体チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−203181(P2011−203181A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72417(P2010−72417)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】