説明

マイクロ流体装置においてDNAを単離する方法及びシステム

本発明は、マイクロ流体装置においてDNAを単離し、その後、そのマイクロ流体装置においてDNAを分析する方法及びシステムに関する。より詳細には、本発明の実施の形態は、マイクロ流体装置において患者試料からDNAを単離する方法及びシステム、並びにマイクロ流体装置においてPCR等の増幅反応及び熱融解分析等の検出を行うためのDNAの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体装置においてDNAを単離し、その後、マイクロ流体装置においてDNAを分析する方法及びシステムに関する。より詳細には、本発明の実施の形態は、マイクロ流体装置において患者試料からDNAを単離する方法及びシステム、並びにマイクロ流体装置においてPCR等の増幅反応及び熱融解分析等の検出を行うためのDNAの使用に関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、2009年7月17日に出願された、「METHODS AND SYSTEMS FOR MICROFLUIDIC DNA SAMPLE PREPARATION」と題する、発明者としてWeidong Cao、Hiroshi Inoue及びKevin Louderの名前が挙げられている米国特許出願第 (代理人整理番号第3400−172)(この参照により本明細書に援用される)に関連する。
【背景技術】
【0003】
核酸の検出は、医学、法医学、工業的処理、作物及び動物の育種、並びに多くの他の分野の中心である。疾患状態(例えばがん)、感染性生物(例えばHIV)、遺伝子系列、遺伝子マーカー等を検出する能力は、疾患診断及び予後診断、マーカー支援選抜、事件におけるの物証の正確な特定、産業用生物を繁殖させる能力及び多くの他の技法に幅広く用いられる技術である。対象となる核酸の完全性の判定は、感染又はがんの病理に関連するものとすることができる。少量の核酸を検出するための最も強力かつ基本的な技術の1つは、核酸配列の一部又は全てを何度も複製し、次いで増幅産物を分析することである。PCRは、おそらく、多くの異なる増幅技法のなかで最も良く知られている。
【0004】
DNA等の核酸を単離する基本的な工程は、細胞構造を破壊して溶解物を作ること、可溶性核酸を細胞残屑及び他の不溶性材料から分離すること、並びに対象となるDNAを可溶性タンパク質及び他の核酸から精製することである。歴史的に、DNAを単離するために、有機抽出(例えばフェノール:クロロホルム)と、それに続くエタノール沈殿とが行われてきた。たいていの細胞の破壊は、カオトロピック塩、界面活性剤又はアルカリ変性によって行われ、結果として生じる溶解物は、遠心分離、ろ過又は磁気による清浄によって清浄される。次いで、DNAを、溶解物の可溶性部分から精製することができる。シリカマトリックスを用いる場合、DNAを、Tris−EDTA(TE)又はヌクレアーゼ・フリー水等の水性緩衝液中で溶出させる。
【0005】
ゲノム、プラスミド及びPCR産物を精製するDNA単離システムは歴史的に、シリカによる精製に基づいている。清浄された溶解物を生成する方法とは関係なく、対象となるDNAは、その有する高濃度のカオトロピック塩の存在下でシリカと結合する能力によって単離することができる(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。これらの塩は次いで、アルコールベースの洗浄によって除去され、DNAは、TE緩衝液又は水等の低イオン強度溶液中で溶出される。DNAとシリカとの結合は、脱水及び水素結合形成によって誘導することができ、これは弱い静電反発力と競合する(非特許文献4)。したがって、高濃度の塩は、シリカに対するDNA吸着の誘導を助け、低濃度であればDNAが遊離される。
【0006】
最近では、DNAを精製する新たな方法が開発されており、この方法は、(特定のpH条件下で)負に帯電したDNA骨格が正に帯電した固体基質に結合することを利用し、溶剤pHの変化を用いてDNAを溶出させることを利用する(ChargeSwitch(登録商標)技術、Invitrogen, Corp.社(Carlsbad, CA)、例えば特許文献1及び特許文献2を参照のこと)。Whatman社は、細胞を溶解させ、タンパク質を不活性化させるが、DNAを捕捉し、DNAを下流用途において用いるために保持する溶解材料がセルロース繊維中に含浸されているセルロースベースの固体基質を用いる代替的な技術(FTA(登録商標)紙)を有している(例えば特許文献3を参照のこと)。
【0007】
核抽出物の使用は1983年に報告された(非特許文献5)。細胞膜を選択的に溶解させることが可能でありながらも核を含む細胞器官の精製を可能にする市販のキットが幾つか存在する。Sigma社及びPierce社は、市販のキットの供給業者である。これらのキットは核を回収するために遠心分離を利用する。細胞からの核の精製を記載している2つの特許がある。特許文献4は、様々な用途で核を捕捉するために、膜に無傷の細胞核を捕捉するようなDNAメッシュを用いることを記載している。膜は、ピペットチップデバイスの前端にわたって延在しており、残っている無傷の核を捕捉するために溶解核からのDNAが用いられる。特許文献5は、DNA又は細胞核を精製するためのCDデバイスの使用を記載している。この方法は、可動部品及び遠心力を用いて、チャネル内のバリアーによってDNA及び核の流れを妨げることでDNA及び/又は細胞核を単離する。いずれの特許も核及び/又はDNAを捕捉することを記載しており、これらのシステムには洗浄するという後続の工程も必要とされる。
【0008】
様々な論文に、PCR反応における下流使用のために核又は白血球を捕捉することが記載されている。白血球のみを単離する場合、PCR反応の主要な阻害因子であるヘモグロビンが除去されることで、PCRがより高効率となる(非特許文献6)。別の手法(非特許文献7)では、血液を、細胞を溶解させる塩溶液と混合する。この場合、溶解物は、電荷相互作用によってDNAが結合するガラス壁を含むチャンバー内に導入され、一方で試料の残りの部分は排出される。DNAは次いで洗浄されて別のチャンバーに溶出されなければならない。別の文献には、連続流システムで細胞を分離するために誘電泳動(DEP)力を用いて、細胞を分離し核を回収するためのマイクロ流体プラットフォームが記載されている。特定の細胞を捕捉した後、溶解緩衝液を加えることで、細胞核を回収し、核のタンパク質を調べることができる。単一の捕捉された核に対してPCRを行うことができる点は、Li他によって実証されている(非特許文献8)。特定の遺伝子配列を検出するために、マイクロピペットによって抽出した核をPCR反応に直接加える。この論文は、PCR反応に直接加えられた核からDNA鋳型を導出することができること、及び特定遺伝子標的のアッセイを細胞から単離された核を用いて行うことができることを実証している。
【0009】
これらの現在の技術に関連する最も重大な問題は、これらの技術が、DNAの結合及び洗浄に特定の緩衝液を必要とするが、これらの緩衝液の多くはPCR等の下流用途と適合しないこと、及び、精製されるDNAの全体的な量において広範な影響を有することである。このことは、試料がマイクロ流体工学において用いられることになる場合に重大な問題となる可能性がある。DNA精製に通常は必要とされる複数の試薬は、固相抽出において複数の試薬を導入するために、マイクロ流体装置に弁等の複数の可動部品を構成することを要求する。固相抽出又は複数の試薬の使用は複雑であり、マイクロ流体システムでは、システムの故障につながる可能性がある。Sigma社及びPierce社によって販売されている細胞器官の精製用の市販のアッセイは、核を捕捉するためのろ過プロセスを用いない。その代わりに、それらのアッセイは核を回収するために遠心分離力を用いる。
【0010】
加えて、マイクロ流体装置は、全血の細胞選別、並びに赤血球及び血漿からの白血球の分離を行うように設計されている。しかし、そのような装置は、タンパク質、脂質、及びマイクロ流体システムにおいてPCRを阻害する可能性のある他の細胞成分の除去を最大限に高めるものではない。
【0011】
下流用途において用いる核を捕捉したり試料集団から特定の細胞を分離するための様々な方法が存在するが、これらの方法はいずれも、細胞核の抽出及び抽出された核に対してPCRアッセイを行うことが同じ装置を用いて可能である装置を記載していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第6,914,137号
【特許文献2】国際公開出願第2006/004611号
【特許文献3】米国特許第6,322,983号
【特許文献4】米国特許第5,447,864号
【特許文献5】米国特許第6,992,181号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Chen and Thomas, Anal Biochem 101:339-341, 1980
【非特許文献2】Marko et al., Anal Biochem 121:382-387, 1982
【非特許文献3】Boom et al., J Clin Microbiol 28:495-503, 1990
【非特許文献4】Melzak et al., J Colloid and Interface Science 181:635-644, 1996
【非特許文献5】Dignani et al ., Nucl Acids Res 11:1475-1489, 1983
【非特許文献6】Cheng et al., Nucl Acids Res 24:380-385, 1996
【非特許文献7】Service, Science 282:399-401, 1998
【非特許文献8】Eukaryotic Cell 2:1091-1098, 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、マイクロ流体装置において核単離及びそれと一体化された遺伝子配列のPCR検出によってDNAを精製する改良されたシステム及び方法を開発することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、マイクロ流体装置においてDNAを単離し、その後、そのマイクロ流体装置においてDNAを分析する方法及びシステムに関する。より詳細には、本発明の実施の形態は、マイクロ流体装置において患者試料からDNAを単離する方法及びシステム、並びにマイクロ流体装置においてPCR等の増幅反応及び熱融解分析等の検出を行うためのDNAの使用に関する。
【0016】
一態様では、本発明は、試料中の細胞からDNAを単離する方法を提供する。この態様によると、本方法は、(a)試料中の細胞の核膜を溶解させることなく細胞の細胞膜を選択的に溶解させて、細胞から無傷の核を生成すること、(b)マイクロ流体装置の核分離領域において核サイズ排除バリアーによって試料から無傷の核を分離すること、(c)マイクロ流体装置の核分離領域において分離された核を溶出緩衝液中に再懸濁させること、(d)再懸濁された核をマイクロ流体装置の核溶解領域へ送達すること、及び(e)マイクロ流体装置の核溶解領域において、DNAを遊離させるために再懸濁された核を溶解させることを含む。
【0017】
幾つかの実施の形態では、試料は、例えば血液試料、尿試料、唾液試料、痰試料、脳脊髄液試料、体液試料又は組織試料などの患者試料である。他の実施の形態では、患者試料は白血球を含有する。付加的な実施の形態では、患者試料は、白血球を濃縮した後で細胞膜を選択的に溶解させた血液試料である。幾つかの実施の形態では、白血球の濃縮はろ過によって行われる。付加的な実施の形態では、白血球の濃縮は抗体を用いて行われる。幾つかの実施の形態では、抗体は、ビーズ、磁気ビーズ、粒子、ポリマービーズ、クロマトグラフィー樹脂、ろ紙、膜又はヒドロゲル等の固相に結合される。
【0018】
幾つかの実施の形態では、選択的な溶解は、白血球濃縮後の試料等の患者試料又は全血と、細胞核を無傷のままとしながらも細胞膜を選択的に透過処理する核単離緩衝液とを接触させることによって行われる。他の実施の形態では、選択的な溶解は、弱い界面活性剤を含有する低張溶解緩衝液を用いて行われる。更なる実施の形態では、患者試料及び低張溶解緩衝液は1:1の比で混合される。付加的な実施の形態では、細胞膜の選択的な溶解は赤血球を完全に溶解させる。幾つかの実施の形態では、患者試料及び核単離緩衝液はマイクロ流体装置の外で(off)混合されてからマイクロ流体装置の核分離領域に加えられる。他の実施の形態では、患者試料及び核単離緩衝液は、マイクロ流体装置の細胞溶解領域において混合される。
【0019】
幾つかの実施の形態では、マイクロ流体装置内の核分離領域は、核を、細胞残屑を含む患者試料の残りの部分から分離する核サイズ排除バリアーを有する。他の実施の形態では、核サイズ排除バリアーは、核分離領域の一方の側で核を遅らせるために核分離領域に組立てられているピラーのシステムである。他の実施の形態では、核サイズ排除バリアーは、核分離領域の一方の側で核を遅らせるように構成されているフィルターシステムである。付加的な実施の形態では、核サイズ排除バリアーは、核分離領域の一方の側で核を遅らせるように設計されている、核分離領域の底面に沿う孔を含む。幾つかの実施の形態では、核サイズ排除バリアーを通る流れは圧力差によって誘導される。
【0020】
幾つかの実施の形態では、溶出緩衝液は核が適合可能な緩衝液である。他の実施の形態では、溶出緩衝液は、非アッセイ特異的増幅試薬を含有することができる増幅反応緩衝液である。付加的な実施の形態では、増幅反応緩衝液は、非アッセイ特異的PCR試薬を含有することができるPCR緩衝液である。更なる実施の形態では、溶出緩衝液はDNAと結合する色素を含有する。付加的な実施の形態では、この色素はチャネル内のDNAの量を定量するのに有いられる。幾つかの実施の形態では、無傷の核は、核分離領域を通りかつ核サイズ排除バリアーを横切る、圧力差によって誘導される溶出緩衝液の流れによって溶出緩衝液中に再懸濁される。他の実施の形態では、再懸濁された核はマイクロ流体装置の核溶解領域へ誘導される。付加的な実施の形態では、核は、核溶解領域において熱によって溶解され、該核からDNAを遊離する。幾つかの実施の形態では、核は、増幅反応の前に核溶解領域において熱に晒される。他の実施の形態では、核は増幅反応中に熱に晒され、核溶解領域は、増幅反応が行われるマイクロ流体装置の最初の領域である。
【0021】
別の態様では、本発明は、患者試料中の核酸の存在の有無を判定する方法を提供する。この態様によると、本方法は、(a)患者試料中の細胞の核膜を溶解させることなく細胞の細胞膜を選択的に溶解させて、細胞から無傷の核を生成すること、(b)マイクロ流体装置の核分離領域において核サイズ排除バリアーによって患者試料から無傷の核を分離すること、(c)マイクロ流体装置の核分離領域において分離された核を溶出緩衝液中に再懸濁させること、(d)再懸濁された核をマイクロ流体装置の核溶解領域へ送達すること、(e)マイクロ流体装置において、分離された核を溶解させて核酸を遊離させること、(f)マイクロ流体装置内で核酸を増幅させること、及び(g)増幅産物の存在の有無を判定すること(該増幅産物の存在は、患者試料中に核酸が存在することを示す)を含む。
【0022】
幾つかの実施の形態では、患者試料は上述のようなものである。他の実施の形態では、患者試料は、上述のように細胞膜の選択的な溶解の前に最初に白血球が濃縮されている。他の実施の形態では、選択的な溶解は上述のように行われる。付加的な実施の形態では、マイクロ流体装置の核分離領域は、上述のように核を患者試料の残りの部分から分離する核サイズ排除バリアーを有する。更なる実施の形態では、溶出緩衝液は上述のような緩衝液である。他の実施の形態では、核は上述のように、熱によって溶解されて該核から核酸を遊離する。
【0023】
幾つかの実施の形態では、再懸濁された核又はマイクロ流体装置の核溶解領域からの単離された核酸は、増幅及び分析のためにマイクロ流体装置の単一の反応チャネルに導入される。他の実施の形態では、再懸濁された核又はマイクロ流体装置の核溶解領域からの単離された核酸は、増幅及び分析のためにマイクロ流体装置の2つ以上の反応チャネルに導入される。更なる実施の形態では、再懸濁された核又は単離された核酸は、圧力差の印加によって反応チャネルに導入される。幾つかの実施の形態では、非アッセイ特異的増幅試薬を含有することができる増幅反応緩衝液が、反応チャネルに導入される前に非増幅溶出緩衝液中の再懸濁された核又は単離された核酸に加えられる。付加的な実施の形態では、再懸濁された核又は単離されたDNAの量は、反応チャネルに導入される前に求められる。更なる実施の形態では、アッセイ特異的な試薬が再懸濁された核又は単離された核酸に加えられる。幾つかの実施の形態では、アッセイ特異的な試薬は、再懸濁された核又は単離された核酸が反応チャネルに導入される前に加えられる。他の実施の形態では、アッセイ特異的な試薬は、再懸濁された核又は単離された核酸が反応チャネルに導入された後に加えられる。付加的な実施の形態では、増幅反応はポリメラーゼ連鎖反応である。更なる実施の形態では、増幅産物の存在の有無が検出される。幾つかの実施の形態では、増幅産物の検出は熱融解分析によって行われる。他の実施の形態では、増幅産物の検出は、増幅産物が存在すると強度が変化する標識を用いて行われる。
【0024】
幾つかの実施の形態では、工程(b)〜(g)及び任意選択的には工程(a)は1つのマイクロ流体装置で行われる。他の実施の形態では、工程(b)及び(c)並びに任意選択的には工程(a)は1つのマイクロ流体装置で行われ、工程(e)〜(g)は第2のマイクロ流体装置で行われる。更なる実施の形態では、工程(b)〜(e)及び任意選択的には工程(a)は1つのマイクロ流体装置で行われ、工程(f)及び(g)は第2のマイクロ流体装置で行われる。
【0025】
付加的な態様では、本発明は、患者試料中の細胞からDNAを単離するマイクロ流体システムを提供する。この態様によると、マイクロ流体システムは、細胞の核膜を溶解させることなく細胞の細胞膜を選択的に溶解して患者試料中の細胞から無傷の核を生成するための、細胞溶解領域を備える。マイクロ流体システムはまた、無傷の核よりも小さい患者試料の成分を取り除くための、圧力差によって誘導される、無傷の核を阻止するが一方で患者試料の残りの部分を通過させる、マイクロ流体装置の核分離領域を含み、溶出緩衝液中に再懸濁された無傷の核は、圧力差によって誘導されて核サイズ排除領域から外へ運ばれる。マイクロ流体システムは、DNAを遊離させるように無傷の核の核膜が溶解される核溶解領域を更に含む。
【0026】
幾つかの実施の形態では、核分離領域は上述のような核サイズ排除バリアーを含む。他の実施の形態では、細胞溶解領域はマイクロ流体装置の外にある。付加的な実施の形態では、細胞溶解領域はマイクロ流体装置内のチャネル内にある。更なる実施の形態では、核溶解領域は、無傷の核の核膜を溶解させてDNAを遊離させるのに十分な熱源を含む。
【0027】
幾つかの実施の形態では、マイクロ流体システムは、核分離領域を通る患者試料の流れを制御するとともに核分離領域を通る溶出緩衝液の流れを制御する制御システムを更に備える。他の実施の形態では、制御システムは、真空圧力によって患者試料及び溶出緩衝液の流れを制御する。更なる実施の形態では、制御システムは、患者試料を第1の方向へ流し、溶出緩衝液を第2の方向へ流す。幾つかの実施の形態では、第1の方向は第2の方向に対して実質的に直交する。
【0028】
更なる態様では、本発明は、患者試料中の核酸の存在の有無を判定するマイクロ流体システムを提供する。この態様によると、マイクロ流体システムは、上述したような細胞溶解領域、核分離領域及び核溶解領域を備える。マイクロ流体システムはまた、核酸が増幅される増幅反応領域を備える。マイクロ流体システムは、増幅産物の存在の有無を判定するための検出領域を更に備える。マイクロ流体システムは上述したような制御システムを更に備えることができる。
【0029】
幾つかの実施の形態では、核分離領域は、上述したような核サイズ排除バリアーを含む。他の実施の形態では、細胞溶解領域はマイクロ流体装置の外にある。付加的な実施の形態では、細胞溶解領域はマイクロ流体装置内のチャネル内にある。更なる実施の形態では、核溶解領域は、無傷の核の核膜を溶解させて核酸を遊離させるのに十分な熱源を含む。他の実施の形態では、熱源は増幅反応領域にある。幾つかの実施の形態では、増幅反応領域はPCR領域である。他の実施の形態では、検出領域は熱融解分析領域である。付加的な実施の形態では、マイクロ流体システムは、増幅反応領域の前にチャネル内の核酸を定量するために、増幅反応領域の前の核酸定量領域を更に含む。幾つかの実施の形態では、増幅反応領域及び検出領域は複数のチャネルを含む。他の実施の形態では、増幅反応領域及び検出領域内の各チャネルは、核サイズ排除領域及び核溶解領域を含む単一のチャネルから核酸を受け取る。更なる実施の形態では、増幅反応領域及び検出領域内の2つ以上のチャネルが、核サイズ排除領域及び核溶解領域を含む単一のチャネルから核酸を受け取る。
【0030】
幾つかの実施の形態では、任意選択的に細胞溶解領域及び残りの領域の全ては単一のマイクロ流体装置にある。他の実施の形態では、核分離領域及び核溶解領域、並びに任意選択的には細胞溶解領域は、1つのマイクロ流体装置にあり、増幅反応領域及び検出領域は第2のマイクロ流体装置にある。更なる実施の形態では、核分離領域及び任意選択的には細胞溶解領域は1つのマイクロ流体装置にあり、細胞溶解領域、増幅反応領域及び検出領域は第2のマイクロ流体装置にある。
【0031】
本発明の上記及び他の実施形態は、添付の図面を参照して以下で説明する。
【0032】
本明細書に組み込まれるとともに本明細書の一部をなす添付の図面は、本発明の様々な実施形態を例示するものである。図面において、同様の参照符号は同一であるか又は機能的に同様の要素を指す。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態によるマイクロ流体装置において試料を調製するプロセスのフローチャートである。
【図2】本発明の実施形態によるマイクロ流体装置において試料を調製するシステムを示す図である。
【図3】本発明の他の実施形態によるマイクロ流体装置において試料を調製するシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は複数の実施形態を有し、当業者に既知である詳細に関して特許、特許出願及び他の引例に依拠している。したがって、特許、特許出願又は他の引例が本明細書において引用されるか又は繰り返される場合、あらゆる目的で、及び記載される提案のためにその全体が参照によって援用されることを理解されたい。
【0035】
本発明の実施は、別途示されない限り、当該技術分野の技能の範囲に含まれる有機化学、高分子技術、分子生物学(組換え技法を含む)、細胞生物学、生化学及び免疫学の従来の技法及び記述を使用することができる。そのような従来の技法には、ポリマーアレイ合成、ハイブリダイゼーション、ライゲーション及び標識を用いたハイブリダイゼーションの検出が含まれる。適当な技法の具体的な説明は、本明細書の以下の例を参照することによって得ることができる。しかし、当然ながら、従来の他の等価の手法を使用することもできる。このような従来の技法及び記述は、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に援用される、Genome Analysis: A Laboratory Manual Series(I巻〜IV巻)、Using Antibodies: A Laboratory Manual、Cells: A Laboratory Manual、PCR Primer: A Laboratory Manual及びMolecular Cloning: A Laboratory Manual(全てCold Spring Harbor Laboratory Press社刊)、Stryer, L. (1995) Biochemistry(第4版)Freeman, N. Y., Gait, Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, 1984, IRL Press, London, Nelson and Cox (2000)、Lehninger, Principles of Biochemistry第3版、W. H. Freeman Pub.社刊、New York, N. Y.及びBerg et al. (2002) Biochemistry第5版、W. H. Freeman Pub.社刊、New York, N. Y.等の標準的な実験室マニュアルに見出すことができる。
【0036】
本発明は、マイクロ流体装置において患者試料からDNAを単離し、その後、マイクロ流体装置においてDNAを分析する方法及びシステムを提供する。より詳細には、本発明は、マイクロ流体装置において患者試料からDNAを単離する方法及びシステム、並びにマイクロ流体装置においてPCR等の増幅反応及び熱融解分析等による検出を行うためのDNAの使用を提供する。
【0037】
したがって、第1の態様では、本発明は、患者試料中の細胞からDNAを単離する方法であって、(a)細胞の核膜を溶解させることなく細胞の細胞膜を選択的に溶解させ、患者試料中の細胞から無傷の核を生成すること、(b)マイクロ流体装置の核分離領域において核サイズ排除バリアーによって患者試料から無傷の核を分離すること、(c)マイクロ流体装置の核分離領域において分離された核を溶出緩衝液中に再懸濁させること、(d)再懸濁された核をマイクロ流体装置の核溶解領域へ送達すること、及び(e)マイクロ流体装置の核溶解領域において、再懸濁された核を溶解させてDNAを遊離させることを含む、方法を提供する。
【0038】
選択的な溶解は、患者試料中の細胞の核膜を溶解させることなく細胞の細胞膜を溶解させて、細胞から無傷の核を生成することを伴う。患者試料は、血液試料、尿試料、唾液試料、痰試料、脳脊髄液試料、体液試料又は組織試料とすることができる。幾つかの実施形態では、患者試料は白血球を含有する。好ましい実施形態では、患者試料は血液試料である。赤血球は細胞膜しか有せず、核を含まないため、選択的な溶解は患者の血液試料中の赤血球を完全に溶解させる。幾つかの実施形態では、患者試料は、細胞膜の選択的な溶解の前に最初に白血球が濃縮されている。白血球を濃縮する技法は当業者に既知である。幾つかの実施形態では、白血球の濃縮はろ過によって行われる。付加的な実施形態では、白血球の濃縮は抗体を用いて行われる。幾つかの実施形態では、抗体は、ビーズ、磁気ビーズ、粒子、ポリマービーズ、クロマトグラフィ樹脂、ろ紙、膜又はヒドロゲル等の固相に結合される。例えば、米国特許第4,752,564号、同第5,118,428号、同第5,482,829号及び同第5,736,033号、PCT国際公開第88/05331号、Boyum (Nature 204: 793-794, 1964)及びVanDelinder and Groisman (Anal Chem 79: 2023-2030, 2007)を参照されたい。白血球の濃縮用に市販されている製品としては、Ficoll−Paque(商標)PLUS(GE Healthcare社(Piscataway, NJ))、White Blood Cell Isolation(Leukasorb)Medium(Pall Corporation社(East Hills, NY))及びAccuspin(商標)System(Sigma Aldrich社(St. Louis, MO))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
選択的な溶解は、患者試料と、細胞核を無傷のままとしながらも細胞膜を選択的に透過化する緩衝液(本明細書では選択的溶解緩衝液、溶解緩衝液又は核単離緩衝液と称される)とを接触させることによって行われる。これらの特性を有する核単離緩衝液は当業者に既知である。細胞膜を選択的に溶解させるための核単離緩衝液を含む製品は市販されている。そのような緩衝液を含む好適な市販の製品としては、Nuclei EZ Prep Nuclei Isolation Kit(NUC−101)(Sigma社(St. Louis, MO, USA))、Nuclear/Cytosol Fractionation Kit(K266−100)(BioVision Research Products社(Mountain View, CA, USA))、NE−PER Nuclear and Cytoplasmic Extraction Reagents(Pierce社(Rockville, IL, USA))、Nuclear Extraction Kit(Imgenex, Corp.社(San Diego, CA, USA))、Nuclear Extract Kit(Active Motif社(Carlsbad, CA, USA))及びQproteome Nuclear Protein Kit(Qiagen社(Valencia, CA, USA))が挙げられるがこれらに限定されない。特許文献4、米国特許第6,852,851号及び同第7,262,283号も参照のこと。当該核のタイプによってどの核単離緩衝液が必要とされるかを判断することができることが知られている。異なる細胞のタイプに関して好適な選択的溶解緩衝液を調製するために最適化することができる因子の考察については特許文献4を参照のこと。
【0040】
一実施形態では、選択的溶解緩衝液は低張緩衝液である。例えば、市販の低張溶解緩衝液をSigma Aldrich社から購入することができる(Nuclei EZ溶解緩衝液(N 3408))。Sigma Aldrich社からキットも入手可能である(Nuclei EZ Prep Nuclei Isolation Kit(Nuc−101))。10×低張溶液の一般的な配合は、15mMのMgCl及び100mMのKClを含む100mMのHEPES(pH7.9)である。別の実施形態では、緩衝液は界面活性剤を含む低張緩衝液である。好適な界面活性剤としては、ラウリル硫酸リチウム、デオキシコール酸ナトリウム、及びChaps等のイオン性界面活性剤、又はTriton X−100、Tween 20、Np−40及びIGEPAL CA−630等の非イオン性界面活性剤が挙げられるがこれらに限定されない。別の実施形態では、緩衝液は等張緩衝液である。例えば、Sigma Aldrich社は、等張溶解緩衝液を含むキットであるCelLytic Nuclear Extraction kitを提供している。5×等張溶解緩衝液の一般的な配合は、10mMのMgCl、15mMのCaCl及び1.5Mのスクロースを含む50mMのTris HCl(pH7.5)である。付加的な実施形態では、緩衝液は、イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤とすることができる界面活性剤を含む等張緩衝液である。
【0041】
患者試料及び溶解緩衝液は、選択的な溶解を行うのに十分な時間接触させる。好適な時間は、1分〜10分、好ましくは2分〜8分、より好ましくは3分〜5分の範囲とすることができる。患者試料が血液試料である場合、この時間は赤血球を完全に溶解させるのに十分である。幾つかの実施形態では、患者試料及び溶解緩衝液は製造業者の推奨に従って混合することができる。幾つかの実施形態では、患者試料及び溶解緩衝液は1:1の比で混合される。他の実施形態では、患者試料及び溶解緩衝液は室温で接触させる。幾つかの実施形態では、患者試料及び溶解緩衝液は、マイクロ流体装置の外で例えば混合によって接触させる。この接触は、バイアル、管、マイクロタイタープレート等において生じさせることができる。
【0042】
幾つかの実施形態では、患者試料及び溶解緩衝液はマイクロ流体装置内で接触させる。一実施形態では、患者試料及び溶解緩衝液はマイクロ流体装置の細胞溶解領域に加えられる。この細胞溶解領域はチャンバー又はチャネルとすることができる。別の実施形態では、患者試料はマイクロ流体装置の1つのポートに加えることができ、溶解緩衝液は第2のポートに加えることができる。次いで、患者試料及び溶解緩衝液はともにマイクロ流体装置の細胞溶解領域に流される。患者試料、溶解緩衝液及び接触した混合物の流れは圧力差によって誘導することができる。マイクロ流体装置において患者試料及び溶解緩衝液を接触させる技法の例は、2009年7月17日に出願された、「METHODS AND SYSTEMS FOR MICROFLUIDIC DNA SAMPLE PREPARATION」と題する、発明者としてWeidong Cao、Hiroshi Inoue及びKevin Louderの名前が挙げられている米国特許出願第 (代理人整理番号第3400−172)(参照により本明細書に援用される)において開示されている。
【0043】
患者試料及び溶解緩衝液をマイクロ流体装置の外で接触させる実施形態では、選択的に溶解された試料がマイクロ流体装置の核分離領域に加えられる。患者試料及び溶解緩衝液をマイクロ流体装置内で接触させる実施形態では、選択的に溶解された試料がマイクロ流体装置の核分離領域へ誘導される。核分離領域はマイクロ流体装置内のチャンバー又はチャネルとすることができる。核分離領域は、細胞残屑を含む患者試料の残りの部分から無傷の核を分離することが可能な核サイズ排除バリアーを含む。幾つかの実施形態では、核サイズ排除バリアーは、核分離領域の一方の側で核を遅らせるために核分離領域に組立てられているピラーのシステムである。他の実施形態では、核サイズ排除バリアーは、核分離領域の一方の側で核を遅らせるように構成されているフィルターシステムである。付加的な実施形態では、核サイズ排除バリアーは、核分離領域の一方の側で核を遅らせるように設計されている、核分離領域の底面に沿う孔を含む。幾つかの実施形態では、核サイズ排除バリアーを通る流れは圧力差によって誘導される。
【0044】
幾つかの実施形態では、核排除バリアーは、2.7μm〜5.0μmの範囲の排除サイズを有する。他の実施形態では、核排除バリアーは、2.7μm〜4μmの範囲の排除サイズを有する。付加的な実施形態では、核排除バリアーは、2.7μm〜3μmの範囲の排除サイズを有する。更なる実施形態では、核排除バリアーは2.7μmの排除サイズを有する。
【0045】
無傷の核を、細胞残屑を含む患者試料の残りの部分から分離した後で、無傷の核を溶出緩衝液中に再懸濁させる。溶出緩衝液は、核が適合する緩衝液であり、また、核から単離されることになるDNAの任意の下流処理と適合する緩衝液である。DNAが増幅反応に付されることになる場合、溶出緩衝液は増幅反応緩衝液とすることができる。幾つかの実施形態では、増幅反応緩衝液は非アッセイ特異的増幅試薬を含有することができる。増幅反応がポリメラーゼ連鎖反応である場合、緩衝液は、非特異的PCR試薬を含有することができるPCR緩衝液とすることができる。幾つかの実施形態では、溶出緩衝液はDNAに結合する色素も含有する。DNA色素は、遊離DNAに結合する色素とすることができるか、又は染色体DNAに結合する色素(すなわち、この色素は核膜を横切って無傷の核中のDNAと結合することが可能である)とすることができる。DNA色素は当業者に既知である。DNA色素の例としては、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)、SYBR(登録商標)Green、SYBR(登録商標)GreenER(商標)及びPicoGreen(Invitrogen Corp.社(Carlsbad, CA))並びにLC Green(Idaho Technology社(Salt Lake City, UT))が挙げられるがこれらに限定されない。幾つかの実施形態では、DNA色素は、単離されているか又は下流処理に用いられることになるDNAの量を定量するのに有用である。
【0046】
幾つかの実施形態では、無傷の核は、核分離領域を通りかつ核サイズ排除バリアーを横切る、圧力差によって誘導される溶出緩衝液の流れによって溶出緩衝液中に再懸濁される。無傷の核が溶出緩衝液中に再懸濁されると、再懸濁された核はマイクロ流体装置の核溶解領域へ誘導される。一実施形態では、核は、該核からDNAを遊離するために核溶解領域において熱によって溶解される。幾つかの実施形態では、核は、増幅反応の前に核溶解領域において熱に晒される。他の実施形態では、核は増幅反応中に熱に晒され、核溶解領域は、増幅反応が行われるマイクロ流体装置の最初の部分である。幾つかの実施形態では、核溶解領域は核分離領域と同じマイクロ流体装置内にある。他の実施形態では、核溶解領域は核分離領域とは異なるマイクロ流体チップ内にある。
【0047】
第2の態様では、本発明は、患者試料中の核酸の存在の有無を判定する方法であって、(a)細胞の核膜を溶解させることなく細胞の細胞膜を選択的に溶解させ、患者試料中の細胞から無傷の核を生成すること、(b)マイクロ流体装置の核分離領域において核サイズ排除バリアーによって患者試料から無傷の核を分離すること、(c)マイクロ流体装置の核分離領域において分離された核を溶出緩衝液中に再懸濁させること、(d)再懸濁された核をマイクロ流体装置の核溶解領域へ送達すること、(e)マイクロ流体装置の核溶解領域において、再懸濁された核を溶解させて核酸を遊離させること、(f)マイクロ流体装置内で核酸を増幅させること、及び(g)増幅産物の存在の有無を判定することを含む、方法を提供する。
【0048】
幾つかの実施形態では、患者試料は上述のようなものである。他の実施形態では、患者試料は、上述のように細胞膜の選択的な溶解の前に最初に白血球が濃縮されている。幾つかの実施形態では、選択的な溶解は上述のように行われる。付加的な実施形態では、マイクロ流体装置の核分離領域は、上述のように核を患者試料の残りの部分から分離する核サイズ排除バリアーを有する。更なる実施形態では、溶出緩衝液は上述のような緩衝液である。他の実施形態では、核述のように核を熱によって溶解して核から核酸を遊離する。
【0049】
核酸を遊離させるために核を溶解させた後で、核酸を次いで増幅反応に付す。上述したように、この溶解は増幅反応の初期段階で行うことができる。幾つかの実施形態では、増幅反応はポリメラーゼ連鎖反応である。他の実施形態では、増幅反応はリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応である。これらのポリメラーゼ連鎖反応は(他の増幅反応も含めて)当業者に既知である。
【0050】
幾つかの実施形態では、再懸濁された核又はマイクロ流体装置の核溶解領域からの単離された核酸は、増幅及び分析のためにマイクロ流体装置の単一の反応チャネルに導入される。他の実施形態では、再懸濁された核又はマイクロ流体装置の核溶解領域からの単離された核酸は、増幅及び分析のためにマイクロ流体装置の2つ以上の反応チャネルに導入される。更なる実施形態では、再懸濁された核又は単離された核酸は、圧力差の印加によって反応チャネルに導入される。幾つかの実施形態では、反応チャネルに導入される前に、非アッセイ特異的増幅試薬を含有することができる増幅反応緩衝液が、非増幅溶出緩衝液中の再懸濁された核又は単離された核酸に加えられる。付加的な実施形態では、再懸濁された核又はDNA等の単離された核酸の量が、反応チャネルに導入される前に求められる。更なる実施形態では、アッセイ特異的な試薬が再懸濁された核又は単離された核酸に加えられる。幾つかの実施形態では、アッセイ特異的な試薬は、再懸濁された核又は単離された核酸が反応チャネルに導入される前に加えられる。他の実施形態では、アッセイ特異的な試薬は、再懸濁された核又は単離された核酸が反応チャネルに導入された後に加えられる。幾つかの実施形態では、核を再懸濁させるために、真空等の圧力差が反応チャネルの端から印加され、PCR反応緩衝液とすることができる溶出緩衝液を核分離チャンバー内へ引き込む。他の実施形態では、圧力差によってPCR反応緩衝液(溶出緩衝液ではない場合)及びアッセイ特異的な試薬も引き込まれて再懸濁された核と混合され、その後、反応混合物が反応チャネル内へ引き込まれる。付加的な実施形態では、増幅反応はポリメラーゼ連鎖反応である。
【0051】
幾つかの実施形態では、増幅産物の存在の有無が検出される。他の実施形態では、増幅産物の検出は熱融解分析によって行われる。更なる実施形態では、増幅産物の検出は、増幅産物が存在すると強度が変化する標識を用いて行われる。熱融解分析を含む、増幅産物の検出方法は当業者に既知である。
【0052】
幾つかの実施形態では、工程(b)〜(g)及び任意選択的には工程(a)は1つのマイクロ流体装置で行われる。他の実施形態では、工程(b)及び(c)並びに任意選択的には工程(a)は1つのマイクロ流体装置で行われ、工程(e)〜(g)は第2のマイクロ流体装置で行われる。更なる実施形態では、工程(b)〜(e)及び任意選択的には工程(a)は1つのマイクロ流体装置で行われ、工程(f)及び(g)は第2のマイクロ流体装置で行われる。核酸を増幅させて検出するマイクロ流体方法及びシステムは当該技術分野において既知である。例えば、米国特許出願公開第2005/0042639号、同第2008/0003588号、同第2008/0003593号、同第2008/0176230号、同第2009/0053726号及び同第2009/0111149号(それぞれ参照により本明細書に援用される)を参照されたい。
【0053】
図1は、本発明の一実施形態による、患者試料(例えば血液試料)からのDNAの単離、単離されたDNAの増幅、及び増幅産物の分析のプロセス100を示すフローチャートである。工程101において、患者から全血試料を得る。工程102において、低張溶解緩衝液を例えば1:1(v:v)の比で全血試料に加え、約3分間室温でインキュベートして無傷の核を含む溶解された全血試料を得る。工程103において、無傷の核を溶解した全血試料から分離する。一実施形態では、無傷の核を含む所定量の溶解した血液試料をマイクロ流体装置の核分離領域へ送達し、無傷の核以外の試料成分を全て核サイズ排除バリアーを通して廃棄物容器内へ除去することを可能にする方向へ圧力差(例えば真空)を印加する。
【0054】
工程104において、無傷の核を溶出緩衝液中に再懸濁させる。一実施形態では、溶出緩衝液を容器から核分離領域に引き込むように工程103における方向と交互の方向に圧力差を印加して、無傷の核を再懸濁させる。一実施形態では、溶出緩衝液はPCR反応緩衝液とすることができる。工程105において、再懸濁された無傷の核をマイクロ流体装置の核溶解領域へ送達し、核を溶解させてDNAを遊離させる。一実施形態では、工程103において用いられる圧力差によって再懸濁された核が核溶解領域へ送達される。別の実施形態では、PCRアッセイに特異的な試薬が、同じ圧力差(例えば真空)によって試薬容器から再懸濁された核/溶出緩衝液混合物中へ引き込まれる。遊離されたDNAは次いで、マイクロ流体装置の増幅領域に導入され、ポリメラーゼ連鎖反応等の増幅反応が工程106において行われる。工程107において、熱融解分析等によってPCR産物を分析する。
【0055】
第3の態様では、本発明は、患者試料中の細胞からDNAを単離するマイクロ流体システムを提供する。この態様によると、マイクロ流体システムは、細胞の核膜を溶解させることなく細胞の細胞膜を選択的に溶解して患者試料中の細胞から無傷の核を生成するための、細胞溶解領域を備える。マイクロ流体システムはまた、無傷の核よりも小さい患者試料の成分を取り除くための、圧力差によって誘導される、無傷の核を阻止するが一方で患者試料の残りの部分を通過させる、マイクロ流体装置の核分離領域を含み、溶出緩衝液中に再懸濁された無傷の核は、圧力差によって誘導されて核サイズ排除領域の外へ運ばれる。マイクロ流体システムは、DNAを遊離するように無傷の核の核膜が溶解される核溶解領域を更に含む。
【0056】
本発明の特定の態様に従って用いるのに好適なシステムの例を図2を用いて説明する。図2に示されているように、システムは、試料チャンバー201、溶解緩衝液チャンバー202及び細胞溶解チャンバー203を含む細胞溶解領域を含む。図2に示されているように、細胞溶解領域はマイクロ流体装置の外にあるものとすることができる。細胞溶解領域がマイクロ流体装置上にあるものとすることもできる。この実施形態では、試料チャンバー及び溶解緩衝液チャンバーはマイクロ流体装置内にあり、チャネルの細胞溶解部分において混合するために接続されているチャネルに流れ込む。マイクロ流体装置内の細胞溶解領域の例は、2009年7月17日に出願された、「METHODS AND SYSTEMS FOR MICROFLUIDIC DNA SAMPLE PREPARATION」と題する、発明者としてWeidong Cao、Hiroshi Inoue及びKevin Louderの名前が挙げられている米国特許出願第 (代理人整理番号第3400−172)(参照により本明細書に援用される)において開示されている。
【0057】
図2に示されているシステムに戻ると、溶解後、試料は、ポート204を通してマイクロ流体装置200の核分離領域205へ送達される。細胞溶解領域がマイクロ流体装置内にある場合、試料は核分離領域へ送達される。核分離領域205は、無傷の核206を廃棄物から分離する核サイズ排除バリアー207を含み、廃棄物は廃棄物容器208へ通過する。廃棄物は、無傷の核以外の試料の成分全てを含む。核サイズ排除バリアーは上述したようなものである。図2に示されているように、システムは、溶出緩衝液を核分離領域205へ提供するために核分離領域205と流体連通している溶出緩衝液ポート209も含む。例えば圧力差による溶出緩衝液の導入によって、単離された無傷の核が再懸濁され、再懸濁された核が核分離領域205から出て核溶解領域210内へ運ばれる。
【0058】
図2に示されているように、システムは、無傷の核の核膜を溶解してDNAを遊離させるための核溶解領域210を含む。核溶解領域210は核分離領域205と流体連通している。核溶解領域は、核膜を溶解させるのに十分なランプ212等の熱源を含むことができる。システムは、無傷の核又は遊離されたDNAを含有している溶出緩衝液中に増幅アッセイ特異的な試薬を導入するために、核溶解領域210と流体連通しているアッセイ特異的な試薬のポート211を更に含むことができる。アッセイ特異的な試薬のポート211は、熱源の上流又は下流に位置することができる。
【0059】
システムはまた、核分離領域を通る患者試料の流れ、核分離領域を通る溶出緩衝液の流れ、核溶解領域へのアッセイ特異的な試薬の流れ、及び核溶解領域へ供給される熱を制御する制御システムを含むことができる。幾つかの実施形態では、制御システムは、流れ制御システム214及び温度制御システム216と連通している主コントローラー210を含む。当業者であれば認識するように、主コントローラー210には多くの選択肢が存在し、1つの例は汎用コンピューターであり、別の例は専用コンピューターである。従来技術における他の専門的な制御機器も主コントローラー210の目的を果たすことができる。
【0060】
幾つかの実施形態では、流れ制御システム214は、ポート204を通って核分離領域205に入る患者試料の流れを制御する。流れ制御システム214は、核サイズ排除バリアー207を通って例えば真空ポート219によって廃棄物容器208に入る廃棄物質の流れも制御する。流れ制御システム214は、単離された無傷の核を再懸濁させ、再懸濁された核を核分離領域205から出して核溶解領域210内へ運ぶ、溶出緩衝液ポートを通る溶出緩衝液の流れを更に制御する。他の実施形態では、流れ制御システム214は、無傷の核又は遊離されたDNAを含有している溶出緩衝液中に増幅アッセイ特異的な試薬を導入するために、アッセイ特異的な試薬のポート211を通って核溶解領域210に入る流れを制御する。
【0061】
幾つかの実施形態では、流れ制御システム214は、真空圧力等の圧力差によって患者試料及び溶出緩衝液の流れを制御する。他の実施形態では、流れ制御システム214は、患者試料を第1の方向へ流し、溶出緩衝液を第2の方向へ流す。幾つかの実施形態では、第1の方向は第2の方向に対して実質的に直交する。他の実施形態では、図2に示されている弁213が、再懸濁された核及び溶出緩衝液を核分離領域205から核溶解領域210へ通過させることを可能にするように、流れ制御システム214によって制御されている核分離領域205と核溶解領域210とを分離する。
【0062】
幾つかの実施形態では、温度制御システム216は、溶解領域210において無傷の核の核膜を溶解させるのに十分な熱源212の温度を制御する。
【0063】
別の態様では、本発明は、患者試料中の核酸の存在の有無を判定するマイクロ流体システムを提供する。この態様によると、マイクロ流体システムは、上述したような細胞溶解領域、核分離領域及び核溶解領域を備える。マイクロ流体システムは上述したような制御システムを更に含むことができる。マイクロ流体システムはまた、核酸が増幅される増幅反応領域も含む。マイクロ流体システムは、増幅産物の存在の有無を判定するための検出領域を更に含む。
【0064】
本発明の特定の態様に従って用いるのに好適なシステムの例を図3と関連して説明する。図3に示されているように、システムは、試料チャンバー301、溶解緩衝液チャンバー302及び細胞溶解チャンバー303を含む細胞溶解領域を含む。図3に示されているように、細胞溶解領域はマイクロ流体装置の外にあってもよい。細胞溶解領域はマイクロ流体装置上又はマイクロ流体装置内に含まれていてもよい。一実施形態では、試料チャンバー及び溶解緩衝液チャンバーはマイクロ流体装置内にあり、接続されているチャネルに流れ込むことでチャネルの細胞溶解部分において混合する。マイクロ流体装置内の細胞溶解領域の例は、2009年7月17日に出願された、「METHODS AND SYSTEMS FOR MICROFLUIDIC DNA SAMPLE PREPARATION」と題する、発明者としてWeidong Cao、Hiroshi Inoue及びKevin Louderの名前が挙げられている米国特許出願第 (代理人整理番号第3400−172)(参照により本明細書に援用される)において開示されている。
【0065】
図3に示されているシステムに戻ると、細胞溶解後、試料は、ポート304を通してマイクロ流体装置の核分離領域305へ送達される。細胞溶解領域がマイクロ流体装置内にある場合、試料は核分離領域305へ送達される。核分離領域305は、核酸を含む無傷の核306を廃棄物から分離する核サイズ排除バリアー307を含み、廃棄物は廃棄物容器308へ通過する。好ましい実施形態では、廃棄物は、無傷の核以外の試料の成分全てを含む。核サイズ排除バリアーは上述したようなものである。図3に示されているように、システムは、溶出緩衝液を核分離領域505へ提供するために核分離領域305と流体連通している溶出緩衝液ポート309も含む。システムは、核分離領域305と流体連通している第2の溶出緩衝液ポート318を含むことができる。
【0066】
動作時に、試料を、ポート304を通してマイクロ流体装置の核分離領域305へ送達する。一実施形態では、次いで、例えば廃棄物容器308内に位置する真空ポート319からY方向に真空を印加する。これによって、全ての試料廃棄物が廃棄物容器内へ引き込まれるが、一方で無傷の核が廃棄物容器へ通過することは核サイズ排除バリアー307によって防止する。次いで、例えばマイクロ流体チャネル330aの端に位置する真空ポート325によってX方向に真空を印加する。これによって、図2に関連して上述したように、単離された無傷の核を再懸濁させるため、及び再懸濁された核を核分離領域305から出して運ぶために溶出緩衝液を溶出緩衝液ポート309から核分離領域305内に導入することが可能となる。
【0067】
別の実施形態では、核分離領域305は、溶解された試料が核分離領域へ送達される前に溶出緩衝液ポート309又は318のいずれかを通して溶出緩衝液で充填される。一実施形態では、核分離領域305は、気泡の生成を減らすためにX方向に圧力を印加することによって溶出緩衝液で予め充填される。次いで、溶解された試料混合物は、圧力又は真空によってY方向に核分離領域305へ送達され、廃棄物からの核の分離及び核分離領域305からの廃棄物の除去を可能にする。一実施形態では、溶出緩衝液ポート318は、溶解された試料を核分離領域305へ送達した後で気泡が形成されないことを確実にするために含まれる。図3に示されているように、真空ポート319を用いて真空をY方向に印加することができる。図2に関連して上述したように、核の分離後の溶出緩衝液ポート309からの例えば圧力差による溶出緩衝液の導入によって、単離された無傷の核が再懸濁され、再懸濁された核が核分離領域305から出て運ばれる。
【0068】
図3に戻ると、システムはまた、DNAを遊離させるために無傷の核の核膜が溶解される核溶解領域312を含む。核溶解領域312は、一実施形態では流れ制御システム(図示せず)によって制御される弁315を通じて核分離領域305と流体連通している。核溶解領域は、核膜を溶解させるのに十分なランプ等の熱源314を含むことができる。システムは、例えばアッセイ特異的なプライマー及びプローブ等の増幅アッセイ特異的な試薬311を、無傷の核又は遊離されたDNAを含有している溶出緩衝液中に導入するために、核溶解領域312と流体連通しているアッセイ特異的な試薬のポート又はシッパー(sipper)313を更に含むことができる。アッセイ特異的な試薬のポート又はシッパー313は、熱源314の上流又は下流に位置することができる。一実施形態では、熱源314からの熱は核を分解し、これは、DNAがチャネル330aに装填される前にPCR緩衝液及びアッセイ特異的な試薬と混合することを可能にする。
【0069】
図3に示されているように、マイクロ流体システムは、増幅反応領域の前にチャネル内の核酸を定量する核酸定量システムを更に備えることができる。一実施形態では、1つ又は複数のチャネル330aに方向付けられる核の数を計数するための検出器320が、核溶解領域312と位置合わせされており、増幅反応に含まれている鋳型の正確な濃度を知ることができる。図3は、核溶解領域312と位置合わせされている核酸定量システムを示すが、核酸定量システムは核溶解領域312の上流又は下流にあってもよい。一実施形態では、核酸は、遊離DNA又は染色体DNAに結合する色素(すなわち、この色素は核膜を横切って無傷の核中のDNAと結合することが可能である)を用いて定量される。核酸が定量される場合、色素は溶出緩衝液に加えられる。DNA色素は当業者に既知である。DNA色素の例としては、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)、SYBR(登録商標)Green、SYBR(登録商標)GreenER(商標)及びPicoGreen(Invitrogen Corp.社(Carlsbad, CA))並びにLC Green(Idaho Technology社(Salt Lake City, UT))が挙げられるがこれらに限定されない。
【0070】
図3に示されているように、核酸は下流処理のために複数のチャネル330a内へ送達される。しかし、核酸は下流処理のために単一のチャネル内へ送達することもできる。同様に図3に示されているように、核溶解領域はチャネル330aの上流にある。しかし、核溶解領域はチャネル330aの上流部分にも位置することもできる。本発明のこの態様によると、下流処理は、核酸の増幅及び増幅産物の検出を含むことができる。核酸の増幅は、マイクロ流体装置の増幅領域(図示せず)のチャネル330a内で行われる。増幅産物の検出は、マイクロ流体装置の検出領域(図示せず)のチャネル330a内で行われる。幾つかの実施形態では、増幅はPCR増幅であり、検出は熱融解分析である。核酸を増幅させて検出するマイクロ流体システムは当該技術分野において既知である。例えば、米国特許出願公開第2005/0042639号、同第2008/0003588号、同第2008/0003593号、同第2008/0176230号、同第2009/0053726号及び同第2009/0111149号(それぞれ参照により本明細書に援用される)を参照されたい。
【0071】
システムはまた、核分離領域を通る患者試料の流れ、核分離領域を通る溶出緩衝液の流れ、マイクロチャネルへの試料の流れ、及び熱源314の温度を制御する制御システム(図示せず)を含むことができる。幾つかの実施形態では、制御システムは、真空圧力によって患者試料及び溶出緩衝液の流れを制御する。他の実施形態では、制御システムは、患者試料を第1の方向へ流し、溶出緩衝液を第2の方向へ流す。幾つかの実施形態では、第1の方向は第2の方向に対して実質的に直交する。他の実施形態では、制御システムはまた、増幅領域及び検出領域を通る試料の流れを制御する。図3の実施形態とともに用いるのに好適な制御システムは、図2に関して実質的に上述したような主コントローラー、流れ制御システム及び温度制御システムを含むことができる。
【0072】
図3に示されているように、マイクロ流体システムは単一の装置を含むことができ、細胞溶解領域は該装置の外に位置する。しかし、上述したように、細胞溶解領域は、システムの領域が全て単一の装置にあるようにマイクロ流体装置内にあってもよい。本発明の特定の態様によるマイクロ流体システムは2つの装置を含み、細胞溶解領域が装置外にあるか又は装置上にあってもよい。これらの特定の態様によると、核分離領域、核溶解領域及び任意選択的には細胞溶解領域は1つの装置にあり、増幅領域及び検出領域は第2の装置にあってもよい。核分離領域、核溶解領域、核酸定量領域及び任意選択的には細胞溶解領域は1つの装置にあり、増幅領域及び検出領域は第2の装置にあってもよい。更には、核分離領域及び任意選択的には細胞溶解領域は1つの装置にあり、核溶解領域、増幅領域及び検出領域は第2の装置にあってもよい。加えて、核分離領域、核酸定量領域及び任意選択的には細胞溶解領域は1つの装置にあり、核溶解領域、増幅領域及び検出領域は第2の装置にあってもよい。
【0073】
本発明を記載する文脈における用語「a」及び「an」及び「the」並びに同様の指示詞の使用は、本明細書において別途指示されていない限り、又は文脈と明確に矛盾しない限り、単数及び複数の両方を包含すると解釈される。用語「〜を備える(comprising)」、「〜を有する(having)」、「〜を含む(including)」、及び「〜を含有する(containing)」は、別途記載されていない限り、オープンエンドの用語(すなわち、「〜を含むがこれに限定されない」を意味する)として解釈される。本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書において別途指示されていない限り、該範囲内に収まる各個別の値を個別に指す簡便法として用いられることを意図するに過ぎず、各個別の値は、本明細書において個別に列挙されるかのように本明細書に援用される。本明細書に記載の全ての方法は、本明細書において別途指示されていない限り、又は文脈と明確に矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書に提示される任意の例及び全ての例、又は例示的な語(例えば、「〜等」)の使用は、本発明をより明らかにすることを意図するに過ぎず、別段の主張がなされない限り、本発明の範囲に対して制限を付与するものではない。本明細書中のいかなる語も、特許請求の範囲に記載されていない要素が本発明の実施に必須であることを示すものとして解釈してはならない。
【0074】
本発明の様々な実施形態が本明細書において説明されている。それらの実施形態の変形形態は、前述の説明を読めば当業者に明らかとなるであろう。本発明者らは、当業者がそのような変形形態を必要に応じて採用することを期待しており、本発明を、本明細書において具体的に説明されている以外の方法でも実施することを意図する。したがって、本発明は、準拠法が許すように添付の特許請求の範囲に記載されている主題の全ての変更形態及び均等物を含む。さらに、上述の要素の、可能なあらゆる変形形態の任意の組み合わせが、本明細書において別途指示されていない限り、又は文脈と明確に矛盾しない限り、本発明によって包含される。
【0075】
加えて、上述され図面に示されているプロセスは一連の工程として示されているが、これは単に説明の目的でなされている。したがって、幾つかの工程を追加することができ、幾つかの工程を省くことができ、工程の順序を配置し直すことができ、幾つかの工程を並行して行ってもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の細胞からDNAを単離する方法であって、
(a)前記試料中の前記細胞の核膜を溶解させることなく前記細胞の細胞膜を選択的に溶解させて、無傷の核を生成する工程と、
(b)マイクロ流体装置の核分離領域において核サイズ排除バリアーによって前記試料から前記無傷の核を分離する工程と、
(c)前記マイクロ流体装置の前記核分離領域において前記分離された核を溶出緩衝液中に再懸濁させる工程と、
(d)前記再懸濁された核をマイクロ流体装置の核溶解領域へ送達する工程と、
(e)前記マイクロ流体装置の前記核溶解領域において前記再懸濁された核を溶解させて、前記DNAを遊離させる工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記試料は全血を含む患者試料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞膜の前記選択的な溶解は前記赤血球を完全に溶解させる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記患者試料は、前記細胞膜の前記選択的な溶解の前にまず白血球が濃縮される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)は前記マイクロ流体装置の外で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)は前記マイクロ流体装置内で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記核サイズ排除バリアーを通る流れは圧力差によって誘導される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記溶出緩衝液は増幅反応緩衝液である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記核を熱によって溶解させる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
患者試料中の核酸の存在の有無を判定する方法であって、
(a)前記患者試料中の細胞の核膜を溶解させることなく前記細胞の細胞膜を選択的に溶解させて、前記細胞から無傷の核を生成する工程と、
(b)マイクロ流体装置の核分離領域において核サイズ排除バリアーによって前記患者試料から前記無傷の核を分離する工程と、
(c)前記マイクロ流体装置の前記核分離領域において前記分離された核を溶出緩衝液中に再懸濁させる工程と、
(d)前記再懸濁された核をマイクロ流体装置の核溶解領域へ送達する工程と、
(e)前記マイクロ流体装置の前記核溶解領域において前記再懸濁された核を溶解させて、前記核酸を遊離させる工程と、
(f)マイクロ流体装置内で前記核酸を増幅させる工程と、
(g)増幅産物の存在の有無を判定する工程であって、該増幅産物の存在は、前記患者試料中に前記核酸が存在することを示す、工程と、
を含む、方法。
【請求項11】
前記患者試料は全血である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記患者試料は、前記細胞膜の前記選択的な溶解の前にまず白血球が濃縮される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程(a)は前記マイクロ流体装置の外で行う、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
工程(a)は前記マイクロ流体装置内で行う、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記核サイズ排除バリアーを通る流れは圧力差によって誘導される、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記溶出緩衝液は増幅反応緩衝液である、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記核を熱によって溶解させる、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記熱を、前記増幅反応の一部として印加する、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
工程(b)及び(c)を1つのマイクロ流体装置において行い、工程(f)及び(g)を第2のマイクロ流体装置において行う、請求項10に記載の方法。
【請求項20】
患者試料中の細胞からDNAを単離するマイクロ流体システムであって、
(a)前記患者試料中の該細胞の核膜を溶解させることなく前記細胞の細胞膜を選択的に溶解して、前記細胞から無傷の核を生成するための、細胞溶解領域と、
(b)前記患者試料の他の成分の廃棄物容器への通過を可能にするが、一方で無傷の核の通過を阻止する、核サイズ排除バリアーを含み、それによって該核サイズ排除バリアーによる無傷の核の単離を可能にする、マイクロ流体装置内の核分離領域と、
(c)前記核分離領域へ溶出緩衝液を提供するために前記核分離領域と流体連通しており、圧力差によって誘導される前記溶出緩衝液は、前記単離された無傷の核を再懸濁させるとともに単離された無傷の核を前記核分離領域から出して運ぶ、溶出緩衝液ポートと、
(d)前記DNAを遊離させるために前記無傷の核の前記核膜が溶解される領域であって、前記核分離領域と流体連通している、核溶解領域と、
を備える、マイクロ流体システム。
【請求項21】
前記細胞溶解領域は前記マイクロ流体装置の外にある、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記細胞溶解領域は前記マイクロ流体装置内にある、請求項20に記載のシステム。
【請求項23】
前記核溶解領域は、前記核膜を溶解させるのに十分な熱源を含む、請求項20に記載のシステム。
【請求項24】
前記核サイズ排除バリアーは、前記核分離領域に組立てられているピラーのアレイを含む、請求項20に記載のシステム。
【請求項25】
前記核分離領域は、前記核サイズ排除バリアーを通過する前記患者試料の前記他の成分の回収を可能にするように、該核分離領域の底面部分に1つ又は複数の孔を有する、請求項20に記載のシステム。
【請求項26】
前記核分離領域を通る前記患者試料の流れ、及び前記核分離領域を通る前記溶出緩衝液の流れを制御する制御システムを更に備える、請求項20に記載のシステム。
【請求項27】
前記制御システムは、真空圧力によって前記患者試料及び前記溶出緩衝液の流れを制御する、請求項26に記載のシステム。
【請求項28】
前記制御システムは、前記患者試料を第1の方向へ流し、前記溶出緩衝液を第2の方向へ流し、前記第1の方向は前記第2の方向に対して実質的に直交する、請求項26に記載のシステム。
【請求項29】
患者試料中の核酸の存在の有無を判定するマイクロ流体システムであって、
(a)前記患者試料中の細胞の核膜を溶解させることなく前記細胞の細胞膜を選択的に溶解して、前記細胞から無傷の核を生成する、細胞溶解領域と、
(b)前記患者試料の他の成分の廃棄物容器への通過を可能にするが、一方で無傷の核の通過を阻止する、核サイズ排除バリアーを含み、それによって該核サイズ排除バリアーによる無傷の核の単離を可能にする、マイクロ流体装置内の核分離領域と、
(c)前記核分離領域へ溶出緩衝液を提供するために前記核分離領域と流体連通しており、圧力差によって誘導される前記溶出緩衝液は、前記単離された無傷の核を再懸濁させるとともに単離された無傷の核を前記核分離領域から出して運ぶ、溶出緩衝液ポートと、
(d)前記核酸を遊離させるために前記無傷の核の前記核膜が溶解される核溶解領域と、
(e)前記核酸が増幅されるマイクロ流体装置内の増幅反応領域と、
(f)増幅産物の存在の有無を判定するためのマイクロ流体装置内の検出領域と、
を備える、マイクロ流体システム。
【請求項30】
前記細胞溶解領域は前記マイクロ流体装置の外にある、請求項29に記載のシステム。
【請求項31】
前記細胞溶解領域は前記マイクロ流体装置内にある、請求項29に記載のシステム。
【請求項32】
前記核溶解領域は前記増幅反応領域の一部である、請求項29に記載のシステム。
【請求項33】
前記増幅反応領域の前に、前記核酸を定量する核酸定量領域を更に備える、請求項29に記載のシステム。
【請求項34】
領域(b)は1つのマイクロ流体装置にあり、領域(e)及び(f)は第2のマイクロ流体装置にある、請求項29に記載のシステム。
【請求項35】
前記核サイズ排除バリアーは、前記核分離領域に組立てられているピラーのアレイを含む、請求項29に記載のシステム。
【請求項36】
前記核分離領域を通る前記患者試料の流れ、及び前記核分離領域を通る前記溶出緩衝液の流れを制御する制御システムを更に備える、請求項29に記載のシステム。
【請求項37】
前記制御システムは、真空圧力によって前記患者試料及び前記溶出緩衝液の流れを制御する、請求項36に記載のシステム。
【請求項38】
前記制御システムは、前記患者試料を第1の方向へ流し、前記溶出緩衝液を第2の方向へ流し、前記第1の方向は前記第2の方向に対して実質的に直交する、請求項36に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−533296(P2012−533296A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520580(P2012−520580)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【国際出願番号】PCT/US2009/051038
【国際公開番号】WO2011/008217
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(507028217)キヤノン ユー.エス. ライフ サイエンシズ, インコーポレイテッド (22)
【氏名又は名称原語表記】CANON U.S. LIFE SCIENCES, INC.
【住所又は居所原語表記】9800 Medical Center Drive Suite A−100 Rockville,Maryland 20850 U.S.A.
【Fターム(参考)】