マイクロRNA及びそれを阻害する方法
【課題】マイクロRNAのような膵島細胞の調節因子の機能を解明する一助となり得る材料及び方法の提供。更に標的mRNAの膵臓マイクロRNAによって誘発された裂開又は翻訳抑制を阻止する新規な分子の提供。
【解決手段】本発明は、単離されたDNA又はRNA膵島マイクロRNA分子、更に本発明は、修飾された一本鎖膵島マイクロRNA分子又は単離された一本鎖アンチ−膵島マイクロRNA分子に関する。また本発明は、細胞のマイクロRNP活性を阻害するための手段を提供する。
【解決手段】本発明は、単離されたDNA又はRNA膵島マイクロRNA分子、更に本発明は、修飾された一本鎖膵島マイクロRNA分子又は単離された一本鎖アンチ−膵島マイクロRNA分子に関する。また本発明は、細胞のマイクロRNP活性を阻害するための手段を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵島マイクロRNA及びそれを阻害する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロRNAは、典型的には小さいRNA分子、すなわち一般に長さ約19から25ヌクレオチド長のRNA分子である。これらのマイクロRNAは、ヘアピン前駆体が分裂して生じるノンコーディングRNAである。幾つかのマイクロRNAは、広範囲にわたる多細胞生物のゲノムにおいて同定されている。
【0003】
多くのマイクロRNAは、近縁でない生物種間でもその配列が保存されており、組織特異的又は発生の各段階において特徴的な発現を呈する。生物種間の配列の保存は、マイクロRNAが生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たすことを示唆する。
【0004】
マイクロRNAは、標的遺伝子のmRNAの3’側のノンコーディング領域に部分的にハイブリダイズした後に翻訳をブロックすることが報告されている。前記マイクロRNAの標的となる遺伝子は未だ解明すべき部分が残されている。
【0005】
しかしながら、マイクロRNAは多様な疾病や症状を発症させることを示唆する証拠が揃いつつある。例えば、ショウジョウバエのマイクロRNAは、アポトーシスに関連する遺伝子を標的としていることが明らかとされ、またB細胞慢性リンパ性白血病は、二つのマイクロRNAの欠失が関与していることが明らかとされている。
【0006】
膵島細胞(また、ランゲルハンス島とも称される)は、ホルモン類の産生、分泌に特化した細胞の群である。また、次の5種類の細胞:α、β、δ、PP及びD1細胞が存在すると報告されている。
【0007】
これらの細胞は、グルコースの調節に関与していると言われている。例えば、α細胞は、血液のグルコースのレベルを増やすことに関係するホルモン類であるグルカゴンを分泌する。またβ細胞は、生体がグルコースをエネルギー生成のために利用するのを補助するホルモンであるインスリンを分泌する。
【0008】
グルコース利用の調節の妨害は、特にインスリン分泌β細胞において、例えば糖尿病などの疾患につながり得る。したがって、グルコースホメオスタシスの調節において役割を果たす遺伝子の調節機構を解明することは重要である。例えば、仮にマイクロRNAがグルコース利用を調節するとしても、そのような事実は従来技術において公知でない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記に鑑み、例えばマイクロRNAのような膵島細胞の調節因子の機能を解明する一助となり得る材料及び方法が求められている。
【0010】
更に、マイクロRNAはRNA分解を誘発するか又は重要なタンパク質をコードするmRNAの翻訳を抑制する能力を有するため、標的mRNAの膵臓マイクロRNAによって誘発された裂開又は翻訳抑制を阻止する新規な分子が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一つの実施態様において、本発明は、単離されたDNA又はRNA分子に関する。前記分子は、配列番号:1−20に示される膵島マイクロRNAに含まれる塩基配列のうち、少なくとも10の隣接する塩基配列をを含む。但し、前記塩基の最高30%がゆらぎ塩基であり、また前記隣接する塩基の最高10%が非相補的でもよい。
【0012】
他の実施形態では、本発明は、修飾された一本鎖膵島マイクロRNA分子に関する。前記分子は、基本分子上に最低10の部分及び最高50の部分を含み、前記基本分子はから基本単位を含み、各々の部分は基本単位に結合した塩基を含み、少なくとも10の隣接する塩基が配列番号:1から20に示される膵島マイクロRNA分子の塩基の隣接する配列と同じ配列を含む。但し、前記塩基対の最高30%がゆらぎ塩基対であり、また隣接する塩基の最高10%がそれについて付加、欠失、変異又はその組合せであってもよい。また、隣接する部分の50%以上はデオキシリボ核酸の基本単位を含まず、少なくとも一つの部分が、未修飾のデオキシリボヌクレオチド部分若しくは未修飾のリボヌクレオチド部分でない。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、単離された一本鎖アンチ−膵島マイクロRNA分子に関する。前記分子は、基本分子上に最低10の部分及び最高50の部分を含み、基本分子が基本単位を含み、各々の部分が基本単位に結合した塩基を含み、各々の塩基が相補的な塩基との間でワトソン−クリック塩基対を形成しており、少なくとも10の隣接する塩基が、配列番号:1から20に示される膵島マイクロRNA分子のいずれか一つの隣接する塩基配列と相補的な配列を含む。ただし、その塩基対の最高30%がゆらぎ塩基対であり、また隣接する塩基の最高10%がそれについて付加、欠失、変異又はその組合せであってもよい。また、隣接する部分の50%以上はデオキシリボ核酸の基本単位を含まず、少なくとも一つの部分が、未修飾のデオキシリボヌクレオチド部分若しくは未修飾のリボヌクレオチド部分でない。また、前記分子は、マイクロRNP活性を阻害することができる。
【0014】
更に別の実施形態では、本発明は、細胞のマイクロRNP活性を阻害する方法に関する。マイクロRNPは、膵島マイクロRNA分子を含む。前記方法は、一本鎖アンチ−膵島マイクロRNA分子を細胞に導入することを含む。そこにおいて、前記アンチ−膵島マイクロRNAは、膵島マイクロRNA分子と相補的である。
【0015】
更なる実施態様において、本発明は、哺乳類の患者の糖尿病を治療する方法に関する。前記方法は、配列番号:41又は51に示す配列を有する少なくとも10の隣接する塩基を有するアンチ−膵島マイクロRNA分子の有効量を、哺乳類に導入することを含む。
【0016】
他の実施形態では、本発明は、本発明に従って単離されたDNA又はRNA分子からを含む単離されたマイクロRNPに関する。更に他の実施形態では、本発明は、本発明に従って単離された一本鎖膵島マイクロRNA分子を含む単離されたマイクロRNPに関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
膵島マイクロRNA分子
発明者は、新規な膵島マイクロRNA分子を発見した。これらの分子は、配列番号:1から20を有する。したがって、一つの実施態様において、本発明は、単離された一本鎖膵島マイクロRNA分子に関する。
【0018】
マイクロRNA分子は、従来技術において周知である(Bartel,Cell,2004,116,281−297)。BartelによるマイクロRNA分子に関する定義及び特徴は、本願明細書に援用される。この種の分子は、ゲノムの染色体位置に由来し、特定のマイクロRNA遺伝子から生じる。
【0019】
成熟したマイクロRNA分子は、部分的にヘアピン構造を形成する前駆体転写物からプロセシングされる。前記ヘアピン構造はDicerとして公知の酵素によって適当に切断される。それにより一つのマイクロRNAデュプレックスを生成する。Bartelの上記文献を参照のこと。
【0020】
通常、マイクロRNAデュプレックスの2本鎖のうちの1本は、マイクロRNAリボ核タンパク複合体(マイクロRNP)で包まれる。例えば、ヒトのマイクロRNPはタンパク質eIF2C2、ヘリカーゼGemin3及びGemin4を含む。
【0021】
一つの実施態様において、本発明は、配列番号:1から20に示される配列及びそれの均等物を有する少なくとも10の隣接する塩基から成る、単離されたDNA又はRNA分子に関する。望ましくは、前記の単離されたDNA又はRNA分子は、一連の塩基を有する少なくとも13、より好ましくは、少なくとも15及び更により好ましくは少なくとも20の隣接する塩基であり、配列番号:1−20に示される膵島マイクロRNA中の配列を有する。
【0022】
(表1及び2):膵島マイクロRNA及びヘアピン前駆体配列。接頭辞「hsa」を有するマイクロRNAの名前はヒトの配列、接頭辞「rnmu」はマウスの配列を示す。ヘアピン前駆体の膵島マイクロRNA配列部を太字で示す。
【表1】
【表2】
【0023】
本願明細書において、塩基とは、天然のDNA又はRNAで見られるヌクレオチドの塩基のいずれか一つのことを指す。前記塩基は、プリン又はピリミジンである。前記プリン塩基の例としては、アデニン(A)と、グアニン(G)が含まれる。前記ピリミジン塩基の例としては、チミン(T)、シトシン(C)及びウラシル(U)が含まれる。アデニンは、2,6−ジアミノプリンと置換されてもよい。
【0024】
本願明細書において開示される未修飾の核酸分子の配列は、ウラシル塩基を有して示される。ウラシル塩基は、未修飾のRNA分子中で生じる。本発明には、未修飾のDNA分子も含まれる。未修飾のDNA分子の塩基の配列は、未修飾のRNA分子と同様である。但し、未修飾のDNA分子では、ウラシル塩基はチミン塩基と交換される点で例外的である。
【0025】
配列中の各々の塩基は、ワトソン−クリック塩基対を相補的な塩基により形成することができる。本願明細書におけるワトソン−クリック塩基対は、例えば以下の塩基間の水素結合による相互作用である。すなわち:アデニン及びチミン(A−T)、アデニン及びウラシル(A−U)、シトシン及びグアニン(C−G)。
【0026】
均等物とは、少なくとも10の隣接する塩基のうち、最高30%がゆらぎ塩基であり、また最高10%、更に望ましくは最高5%までの隣接する塩基が非相補的である状態の分子を指す。
【0027】
本発明において、ゆらぎ塩基とは、分子の配列における
1)ウラシルによるシトシンの置換、又は
2)グアニンによるアデニンの置換
のいずれの場合も含まれる。これらのゆらぎ塩基置換は一般に、UG又はGUゆらぎと呼ばれる。表3は、隣接する塩基の数及び分子のゆらぎ塩基の最大数を示す。
【0028】
(表3):隣接する塩基の数及び分子のゆらぎ塩基の最大数を示す。
【表3】
【0029】
本願明細書において「非相補的である」とは、付加、欠失、変異又はそれらの組合せを指す。付加とは、何らかの塩基が上記隣接する配列に挿入されることを指す。欠失とは、隣接する配列に存在する何らかの部分が除去されることを指す。変異とは、隣接する配列の塩基のうちの一つが異なる塩基に置換されることを指す。
【0030】
付加、欠失又は変異は、例えば隣接する配列のいずれの端部又は分子中の隣接する配列の部分で生じてもよい。典型的には、例えば、隣接する配列が約10から約15の塩基長さのまでの比較的短い場合、付加、欠失又は変異は、隣接する配列の末端付近にて生じる。隣接する配列が比較的長い場合、例えば、最低16塩基の隣接する配列である場合は、付加、欠失又は変異は、隣接する配列のどこでも生じ得る。
【0031】
例えば、隣接する塩基数が10〜19であるときは、いずれも又は隣接する塩基のうちのゼロ又は一つにおいて付加、欠失又は変異が生じ、また隣接する塩基数が20〜23であるときは、最高一つか二つの塩基の付加、欠失又は変異が許容範囲である。
【0032】
膵島マイクロRNAの少なくとも10の隣接するヌクレオチドに加えて、単離されたDNA又はRNA分子はまた、一つ以上のヌクレオチドを付加することができる。なお、前記の付加するヌクレオチド数に、上限はない。典型的には、500のヌクレオチドまで、好ましくは300ヌクレオチドまでを、膵島マイクロRNAの少なくとも10の隣接する塩基に付加することができる。
【0033】
いかなるヌクレオチドも付加できる。前記のヌクレオチド付加は、上記のいずれの塩基も適用可能である。したがって、例えば付加的なヌクレオチドはA、G、C、T又はUのいずれか一つ又は二つ以上でもよい。
【0034】
一つの実施態様において、膵島マイクロRNAはヘアピン前駆体配列又はそのフラグメントの一部である。例えば、適切なヘアピン前駆体配列は、配列番号:21から40に示される。前記フラグメントは、その5’末端及び/又は3’末端にて、少なくとも10、好ましくは少なくとも15、より好ましくは最低20のヌクレオチド含む、ヘアピン前駆体配列のいかなるフラグメントが適用可能である。好ましくは、前記ヌクレオチドの配列は、膵島マイクロRNAが存在するヘアピン前駆体に存在する。
【0035】
膵島マイクロRNA又はヘアピン前駆体は、例えば組換えベクターなどに挿入することができる。典型的には、膵島マイクロRNAを含んでいる組換えベクターを構築するために、膵島マイクロRNA配列を含むヘアピン前駆体配列をベクターに組み込む。例えば、Chenら、Science 2004,303:83−86を参照。
【0036】
組換えベクターは、例えばプラスミド、コスミド又はファージ等のいかなる組換えベクターでもよい。組換えベクターは、一般に複製開始点を有する。ベクターは、例えばアデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)等のウイルスベクターが使用可能である。例えばLedley 1996,Pharmaceutical Research13:1595−1614、Vermaら、Nature 1997,387:239−242を参照。
【0037】
ベクターに、選択可能なマーカーを更に含めてもよい。適切な選択マーカーには、例えばテトラサイクリン又はゲンタマイシンなどの薬剤耐性マーカー、又は例えばβ−ガラクトシダーゼ又はルシフェラーゼのような検出可能な遺伝子マーカーが使用可能である。
【0038】
好ましい実施態様において、単離されたDNA又はRNA分子は、実質的に配列番号:1から40に示される膵島マイクロRNA配列又はヘアピン前駆体配列のいずれか一つからなる。
【0039】
本願明細書において、「単離された」とは、分子が他の核酸を本質的に含まないことを指す。他の核酸を本質的に含まない、とは、分子が少なくとも約90%、好ましくは少なくとも95%、更に好ましくは最低約98%の純度で、他の核酸を含まないことを指す。
【0040】
望ましくは、分子は実質的に純粋である。なお、それは前記分子が他の核酸を含まないという意味の他に、前記分子の合成及び単離において使用する他の材料を含まないという意味も含まれる。合成において使用する材料とは、例えば酵素である。単離において使用する材料とは、例えばゲル類(例えばSDS−PAGE用)である。前記分子は、少なくとも約90%、好ましくは少なくとも95%、更に好ましくは最低約98%の純度で、これらの材料を含まない。
【0041】
膵島細胞は、従来技術において当業者に公知のいかなる膵島細胞でもよい。膵島細胞の例としては、α細胞、β細胞、δ細胞、PP細胞及びD1細胞が挙げられる。望ましくは、前記細胞はβ細胞である。
【0042】
マイクロRNA又はヘアピン前駆体の塩基の配列は、非常に良く保存されている。そのため、いかなる哺乳類の膵臓細胞の配列でも使用可能である。哺乳類の例としては、イヌ及びネコなどのペットの動物、ウシ、ウマ及びヒツジなどの家畜、ネズミ、マウス及びウサギのような実験動物、サル及びヒトのような霊長類が挙げられる。望ましくは、前記哺乳類はヒト又はマウスである。
【0043】
修飾された一本鎖膵島マイクロRNA分子:
他の実施態様において、本発明は、修飾された一本鎖膵島マイクロRNA分子に関する。修飾された一本鎖マイクロRNA分子は、上記の膵臓マイクロRNA分子、ヘアピン前駆体分子又は、それの均等物のいずれかである。但し、修飾された分子が少なくとも一つの修飾された部分(すなわち、少なくとも一つの部分が修飾されていないデオキシリボヌクレオチド部分又は修飾されていないリボヌクレオチド部分でない)を含まない場合を除く。この実施態様において、前記の修飾された膵島マイクロRNA分子は、少なくとも10、好ましくは少なくとも13、より好ましくは少なくとも15、更により好ましくは少なくとも18、最も好ましくは少なくとも21の部分を含む。
【0044】
修飾された膵島マイクロRNA分子は、多くとも50、好ましくは多くとも40、より好ましくは多くとも30、更に好ましくは多くとも25、最も好ましくは多くとも23の部分を含む。前記部分の最小数及び最大数の適切な範囲は、上記のいずれかの最小数及びいずれかの最大数を結合することによって得ることができる。
【0045】
各々の修飾された部分は、基本単位に結合する塩基を含む。前記基本単位は、安定して塩基と結合して、オリゴマーの鎖を形成することが可能ないかなる分子単位でもあってもよい。本願明細書において、修飾された部分の基本単位には、天然のDNA又はRNA分子に通常存在する基本単位は含まれない。
【0046】
このように修飾された膵島マイクロRNA分子は、ヌクレアーゼ耐性を増加させる。したがって、前記分子のヌクレアーゼ耐性は、修飾されていないリボヌクレオチド部分のみ、修飾されていないデオキシリボヌクレオチド部分のみ又は両方を含んでいる配列と比較し、増加する。このような修飾された部分は、例えばKurreck,Eur.J.Biochem.270,1628−1644(2003)により公知技術である。
【0047】
耐性が得られるヌクレアーゼは、エキソヌクレアーゼ、エンドヌクレアーゼ又はその両方である。エキソヌクレアーゼは、3’→5’エキソヌクレアーゼ又は5’→3’エキソヌクレアーゼのいずれでもよい。3’→5’ヒトエキソヌクレアーゼの例としては、PNPT1、ワーナー症候群ヘリカーゼ、RRP40、RRP41、RRP42、RRP45、RRP46が挙げられる。5’→3’エキソヌクレアーゼの例としては、XRN2及びFEN1が挙げられる。エンドヌクレアーゼの例としては、Dicer、Drosha、RNAe4、Ribonuclease P、Ribonuclease H1、DHP1、ERCC−1及びOGG1が挙げられる。エキソヌクレアーゼ及びエンドヌクレアーゼとして機能するヌクレアーゼの例としては、APE1及びEXO1が挙げられる。
【0048】
修飾された部分は、膵島マイクロRNA分子のいかなる位置に設置することができる。例えば、膵島マイクロRNA分子を3’→5’エキソヌクレアーゼから保護するために、分子が、3’末端に少なくとも一つの修飾された部分を、好ましくは3’末端に少なくとも二つの修飾された部分を有することができる。分子を5’→3’エキソヌクレアーゼから保護するには、望ましくは、膵島マイクロRNA分子の5’末端で、少なくとも一つの修飾された部分、好ましくは少なくとも二つの修飾された部分で有することである。膵島マイクロRNA分子はまた、5’末端と3’末端の間にの少なくとも一つの好ましくは少なくとも二つの修飾された部分を有することができ、それによりエンドヌクレアーゼ耐性を増加させることができる。好ましくは、少なくとも約10%、より好ましくは少なくとも約25%、より好ましくは少なくとも約50%、更により好ましくは少なくとも約75%、最も好ましくは、少なくとも約95%の部分が修飾される。一つの実施態様において、部分の全てが修飾された(例えばヌクレアーゼ耐性)分子である。
【0049】
修飾された膵島マイクロRNA分子の一つの実施例において、前記分子は、少なくとも一つの修飾されたデオキシリボヌクレオチド部分を含む。適切な修飾されたデオキシリボヌクレオチド部分は、従来技術において公知である。この種の修飾されたデオキシリボヌクレオチド部分は、例えば、基本単位としてチオリン酸デオキシリボース基を含む(図1の構造式1を参照)。チオリン酸デオキシリボヌクレオチド部分を含む修飾された膵島マイクロRNA分子は、一般にホスホロチオネート(PS)DNAと呼ばれる(Eckstein,Antisense Nucleic Acids Drug Dev.10,117−121(2000)を参照)。
【0050】
修飾されたデオキシリボヌクレオチド部分の他の適用可能な例としては、N’3−N’5ホスホロアミダートデオキシリボヌクレオチド部分が挙げられる。そこにおいて、N’3−N’5ホスホロアミダートデオキシリボース基が基本単位に含まれる。図1中の構造式2を参照のこと。ホスホロアミダートデオキシリボヌクレオチド部分を含むオリゴヌクレオチド分子は、一般にホスホロアミダート(NP)DNAと呼ばれている。それに関しては、例えば、Gryaznovら、J.Am.Chem.Soc.116,3143−3144(1994)を参照のこと。
【0051】
修飾された膵島マイクロRNA分子の他の実施態様において、前記分子は一つ以上の修飾されたリボヌクレオチド部分を含む。修飾されたリボヌクレオチド部分の適用可能な例は、その2’位置で置換されたリボヌクレオチド部分である。前記2’位置における置換基は、例えば、炭素数C1からC4のアルキル基であってもよい。前記C1からC4のアルキル基は、飽和又は不飽和であっても良く、また直鎖状又は分岐型であってもよい。C1からC4のアルキル基の幾つかの例としては、エチル、イソプロピル及びアリール基が挙げられる。前記の望ましいC1のC4アルキル基は、メチル基である。図1中の構造式3を参照のこと。その2’位置をC1からC4のアルキル基で置換されたリボヌクレオチド部分を含むオリゴリボヌクレオチド分子は、一般には2’−O−(C1−C4アルキル)RNA例えば2’−O−メチルRNA(OMeRNA)と呼ばれる。
【0052】
修飾されたリボヌクレオチド部分の2’位置における置換基の他の適用可能な例は、(炭素数C1からC4のアルコキシ)−(炭素数C1からC4のアルキル基)である。前記C1からC4のアルコキシ(アルキルオキシ)及びC1からC4のアルキル基は、上記のアルキル基のいかなるものを含めてもよい。前記の望ましいC1からC4のアルコキシ−C1からC4のアルキル基は、メトキシエチル基である。図1中の構造式4を参照のこと。一つ以上のリボヌクレオチド部分を含むオリゴヌクレオチド分子であり、その2’位置をC1からC4のアルコキシ−C1からC4のアルキル基で置換された分子は、2’−O−(C1からC4のアルコキシ−C1からC4のアルキル基)RNA、例えば2’−O−メトキシエチルRNA(MOE RNA)と呼ばれる。
【0053】
修飾されたリボヌクレオチド部分の他の適用可能な例は、2’−酸素原子と4’−炭素原子との間でメチレン架橋を有するリボヌクレオチドである。図1中の構造式5を参照のこと。リボヌクレオチド部分を含むオリゴリボヌクレオチド分子であり、2’−酸素原子と4’−炭素原子との間でメチレン架橋を有する分子は、一般にロックされた核酸(LNA)と呼ばれる。それに関しては、例えば、Kurreckら、Nucleic Acid Res.30,1911−1918(2002);Elayadiら、Curr.Opinion Invest.Drugs 2,558−561(2001);Orumら、Curr.Opinion MoI.Ther.3,239−243(2001);Koshkinら、Tetrahedron 54,3607−3630(1998);Obikaら、Tetrahedron Lett.iP,5401−5404(1998)を参照のこと。ロックされた核酸は、Proligo社(Paris,France and Boulder,Colorado,USA)から購入可能である。
【0054】
修飾されたリボヌクレオチド部分の他の適用可能な例は、フルオロ基により2’位置を置換されたリボヌクレオチドである。そのような2’−フルオロリボヌクレオチド部分は、当業者に公知である。2’−フルオロリボヌクレオチド部分を含む分子は一般に、本発明において2’−フルオロリボ核酸(FANA)と呼ばれる。図1の構造式7、またDamhaら、J.Am.Chem.Soc.120,12976−12977(1998)を参照のこと。
【0055】
修飾された膵島マイクロRNA分子の他の実施態様において、前記分子は、アミノ酸残基に結合する一つ以上の塩基を含む。アミノ酸残基に結合する一つ以上の塩基を含む部分は、本発明において以下ペプチド核酸(PNA)部分と記す。そのような部分はヌクレアーゼ耐性であり、当業者に公知である。PNA部分を有する分子は一般にペプチド核酸と呼ばれる。図1中の構造式6、またNielson、Methods Enzymol.313,156−164(1999);Elayadiら、id.;Braaschら、Biochemistry 41,4503−4509(2002);Nielsenら、Science 254,1497−1500(1991)を参照のこと。
【0056】
アミノ酸はいかなるアミノ酸であってもよい。また、天然及び人工のアミノ酸を含む。天然アミノ酸はすなわち、通常タンパク質中に存在する20の一般のアミノ酸、例えばアラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)チロシン(Tyr)及びバリン(Val)を含む。
【0057】
上記の人工のアミノ酸としては、例えば、アルキル、アリール又はアルキルアリール基を含むアミノ酸である。アルキルアミノ酸の若干の実施例として、α−アミノブチル酸、β−アミノブチル酸、γ−アミノブチル酸、δ−アミノバレリン酸及びε−アミノカプロン酸が挙げられる。アリールアミノ酸の若干の実施例としては、オルト−、メタ−、パラ−アミノ安息香酸が挙げられる。アルキルアリールアミノ酸の若干の実施例としては、オルト−、メタ−、パラ−アミノフェニル酢酸及びγ−フェニルβ−アミノブチル酸が挙げられる。
【0058】
人工アミノ酸にはまた、天然アミノ酸の派生物も含まれる。前記天然アミノ酸の派生物には、例えば、一つ又は複数の化学基の付加した天然アミノ酸を含めることができる。
【0059】
例えば、一つ又は複数の化学基は、フェニルアラニン又はチロシン残基の芳香環の2’、3’、4’、5’若しくは6’の位置、又はトリプトファン残基のベンゼン環の4’、5’、6’若しくは7’の位置の一つ又は複数に付加させることができる。前記基は、芳香族環に付加することができるいかなる化学基も使用することができる。そのような基の例としては、ヒドロキシル、炭素数C1−C4のアルコキシ、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ニトロ、ハロ(すなわちフルオロ、クロロ、ブロモ又はヨード)又は分岐若しくは直鎖状の炭素数C1−C4のアルキル(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル又はt−ブチル)が挙げられる。
【0060】
人工アミノ酸の他の例としては、ノルバリン(Nva)、ノルロイシン(Nle)及びヒドロキシプロリン(Hyp)などを含む天然アミノ酸の派生物が挙げられる。
【0061】
前記アミノ酸は、同一であっても、又はそれぞれ異なる種類であってもよい。塩基は前記アミノ酸単位に、分子結合により付着する。前記分子結合の例としては、メチレンカルボニル、エチレンカルボニル及びエチル結合が挙げられる(Nielsenら、Peputide Nucleic Acid−Protocols and Applications,Horizon Scientific Press,pages 1−19;Nielsenら、Science 254:1497−1500)を参照。PNA部分のアミノ酸残基の一例としては、N−(2−アミノエチル)−グリシンが挙げられる。
【0062】
更に、PNA部分の例としては、シクロヘキシルPNA、レトロ−インベルソPNA、フォスフォンPNA、プロピオニルPNA及びアミノプロリンPNAが挙げられる。これらのPNA部分の詳細については、Nielsenら、Peputide Nucleic Acid −Protocols and Applications,Horizon Scientific Press,pages1−19の図5を参照のこと。前記Nielsenらの文献の7ページの図5は本発明において援用されている。
【0063】
PNAは、公知の方法、例えば修飾Fmoc又はtBocペプチド合成プロトコルにより化学的に合成することができる。前記PNAは多くの望ましい特性、例えば高い溶融温度(Tm)、核酸及び非荷電の基本分子との高い塩基対の特異性を有する。更に、前記PNAは前記標的RNAにRNAaseH感受性を与えず、また一般に良好な代謝安定性を有する。
【0064】
ペプチド核酸はまた、Applied Biosystems社(Foster City,California,USA)から購入可能である。
【0065】
修飾された膵島マイクロRNA分子の他の例において、前記分子は一つ以上のモルフォリノホスホロアミダートヌクレオチド部分を含む。モルフォリノホスホロアミダートヌクレオチド部分を含む分子は一般にモルフォリノ(MF)核酸と呼ばれている。図1中の構造式8、及びHeasman、Dev.Biol.243,209−214(2002)を参照のこと。モルフォリノオリゴヌクレオチドは、Gene Tools LLC(Corvallis,Oregon,USA)から購入可能である。
【0066】
修飾された膵島マイクロRNA分子の更なる例において、前記分子は、一つ以上のシクロヘキセンヌクレオチド部分を含む。シクロヘキセンヌクレオチド部分を含む分子は、シクロヘキセン核酸(CeNA)と呼ばれる。図1の構造式10、及びWangら、J.Am.Chem.Soc.122,8595−8602(2000)、Verbeureら、Nucleic Acid Res.29,4941−4947(2001)を参照のこと。
【0067】
修飾された膵島マイクロRNA分子の最終的な例において、前記DNAウイルスのマイクロRNA分子は一つ以上のトリシクロヌクレオチド部分を含む。トリシクロヌクレオチド部分を含む分子は一般的にトリシクロ核酸(tcDNA)と呼ばれる。図1中の構造式9、及びSteffensら、J.Am.Chem.Soc.119,11548−11549(1997)、Rennebergら、J.Am.Chem.Soc.124,5993−6002(2002)を参照のこと。
【0068】
分子は、キメラ修飾された膵島マイクロRNA分子であってもよい。前記部分のいずれかの混成物を含むキメラ分子はまた公知であり、公知の方法によって調製することができる。上記の文献及びWangら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA96,13989−13994(1999),Liangら、Eur.J.iochem. 269,5753−5758(2002),Lokら、Biochemistry41,3457−3467(2002)及びDamhaら、J.Am.Chem.Soc.120,12976−12977(2002)を参照のこと。
【0069】
本発明の修飾された膵島マイクロRNA分子は、配列番号:1から20に示される天然の膵島マイクロRNA分子の隣接する塩基配列のいずれかを有する、少なくとも10、好ましくは少なくとも13、より好ましくは、少なくとも15、更により好ましくは少なくとも20の隣接する塩基を含む。好ましい実施例において、前記修飾された膵島マイクロRNA分子は、配列番号:1から20に示される膵島マイクロRNA分子のいずれかの配列の完全な配列を含む。
【0070】
分子の部分の総数が50を上回らない限り、いかなる塩基配列も有するいかなる数の付加的な部分(最高40の部分)をも、隣接する塩基配列を含む部分に加えることができる。前記の付加的な部分は、隣接する配列の5’末端、3’末端又はその両方の端に付加することができる。前記の付加的な部分は、膵島マイクロRNAが誘導されるヘアピン前駆体又はそのフラグメントに存在する3’末端及び/又は5’末端の塩基配列を含むことができる。分子中の前記付加的な部分は、存在するときは、上記のいかなる修飾又は未修飾の部分であってもよい。
【0071】
前記の修飾された膵島マイクロRNA分子には、その均等物も含まれる。均等物には、上記のようなゆらぎ塩基及び非相補的な塩基が含まれる。
【0072】
更に、隣接する部分の中で、デオキシリボヌクレオチドの基本単位を含むものが50%、好ましくは30%を超えないのが望ましい。表4及び5は、各々の数の隣接する塩基におけるデオキシリボヌクレオチド基本単位の最大数を示す。
【0073】
もう一つの実施例では、上記のゆらぎ塩基対及び非相補的な塩基に加えて、天然の膵島マイクロRNA配列の位置11に対応する部分も付加、欠失又は変異であってよい。
【0074】
修飾された膵島マイクロRNA分子は、上記の通り単離、更には精製されているのが望ましい。
【0075】
(表4):デオキシリボヌクレオチド基本単位を含む隣接する部分の50%の数:
【表4】
(表5):デオキシリボヌクレオチド基本単位を含む隣接する部分の30%の数:
【表5】
【0076】
更に別の実施形態では、キャップは分子の一端に、両方の端に、及び/又は端との間に取り付けられ、それにより本発明に係る上記の修飾された膵島マイクロRNA分子又は修飾されていない単離されたDNA又はRNAのヌクレアーゼ耐性を増加させることができる。例えば、エキソヌクレアーゼ及び/又はエンドヌクレアーゼ耐性を増加させるのが望ましい。ヌクレアーゼ耐性を増加させるのに通常用いられる公知のいかなるキャップも使用することができる。
【0077】
この種のキャップの例としては、逆向きヌクレオチドキャップ及び化学修飾キャップが挙げられる。逆向きヌクレオチドキャップは、5’及び/又は3’端で取り付けることができる。化学修飾キャップは、分子の一端、両端及び/又は両末端の間に取り付けることができる。
【0078】
逆向きヌクレオチドキャップとは、修飾された膵島マイクロRNA分子又は修飾されていないDNA又はRNA分子の5’及び/又は3’末端に付着する、3’→5’の核酸配列を指す。その標的mRNAに膵島マイクロRNA分子又は単離されたDNA又はRNA分子の結合に干渉しない限り、前記逆向きキャップのヌクレオチドの数には特に上限がない。いかなるヌクレオチドも、逆向きヌクレオチドキャップに使用することができる。通常、前記ヌクレオチドキャップは、約40未満のヌクレオチド長、好ましくは約30未満のヌクレオチド長、より好ましくは約20未満のヌクレオチド長、更に好ましくは約10未満のヌクレオチド長である。典型的には、逆向きヌクレオチドキャップは、1ヌクレオチド長である。逆向きキャップ構造に用いられるヌクレオチドは通常チミンであるが、他のいかなるヌクレオチド(例えばアデニン、グアニン、ウラシル又はシトシン)でもよい。
【0079】
化学修飾キャップは、核酸のヌクレアーゼ耐性を増加させるための、いかなる公知の化学基のことを指す。そのような化学修飾キャップの例としては、ヒドロキシアルキル基(アルキルヒドロキシド)又はアミノアルキル基(アルキルアミン)が挙げられる。ヒドロキシアルキル基はしばしばアルキルグリコシル基(例えばエチレングリコール)と呼ばれる。アミノアルキル基はしばしばアミノリンカーと呼ばれる。
【0080】
ヒドロキシアルキル基又はアミノアルキル基中の前記アルキル鎖は直鎖型又は分岐型のいずれでもよい。前記アルキル鎖中に存在する最小の炭素原子数は、1であり、望ましくは少なくとも2であり、またより望ましくは少なくとも約3である。
【0081】
前記アルキル鎖に存在する最大炭素原子数は、約18、望ましくは約16、より望ましくは12である。典型的な前記アルキル基は、メチル、エチル及びプロピル基とを含む。前記アルキル基は、一つ以上の水酸基及び/又はアミノ基によって更に置換されることができる。
【0082】
アミノリンカーの幾つかを、表6に示す。表6にリストとして挙げられている前記アミノリンカーは、TriLink Biotechnologies社(San Diego,CA.)から購入可能である。
【0083】
単離されたマイクロRNP:
別の態様において、本発明は、上記の単離されたDNA又はRNA分子、又は上記の修飾された膵島マイクロRNA分子のいずれかを含む、単離されたマイクロRNPを提供する。
【0084】
アンチ−膵島マイクロRNA分子:
別の態様において、本発明は、アンチ−膵島マイクロRNA分子を提供する。アンチ−膵島マイクロRNA分子は、上記の単離されたDNA又はRNA分子、又は上記の修飾された膵島マイクロRNA分子のいずれかであってよい。ただし、アンチ−膵島マイクロRNA分子の塩基配列が、単離されたDNA若しくはRNA分子、又は修飾された膵島マイクロRNA分子の塩基配列と相補的である場合を除く。
【0085】
アンチ−膵島マイクロRNA分子の配列の実施例は、表7及び8に示される。
【0086】
(表6):TriLink Biotechnologies社のアミノリンカー
【表6】
【0087】
(表7及び8):アンチ−膵島マイクロRNA分子の塩基配列
【表7】
【表8】
【0088】
アンチ−膵島マイクロRNA分子は、修飾された膵島マイクロRNA分子への使用のために、上記のように修飾されてもよい。一つの例において、アンチ−膵島マイクロRNA分子の隣接する部分は、それに対応する膵島マイクロRNA分子と相補的である。前記アンチ−膵島マイクロRNAの相補性の程度は、付加、欠失及び変異に関する規定と同様に、ゆらぎ塩基対に関する規定を含め、上記の修飾した膵島マイクロRNA分子に対する規定と同じ規定に従う。
【0089】
好ましい実施態様において、アンチ−膵臓マイクロRNA分子が未修飾の部分のみを含む場合、アンチ−膵島マイクロRNA分子は少なくとも10の隣接する塩基中に少なくとも一つの塩基(それは膵島マイクロRNAと非相補的)及び/又は、化学キャップを含む。
【0090】
他の好ましい実施態様において、アンチ−膵島マイクロRNA分子に存在する隣接する少なくとも10の塩基が、膵島マイクロRNA分子と完全に相補的である(すなわち100%)場合は、アンチ−膵島マイクロRNA分子は、少なくとも10の隣接する塩基当たり少なくとも一つの修飾された部分、及び/又は、化学キャップを含む。
【0091】
更に別の実施態様では、天然の膵島マイクロRNAの位置11に対応する位置の、アンチ−膵島マイクロRNA分子における部分は、非相補的である。天然の膵島マイクロRNAの位置11に対応するアンチ−膵島マイクロRNA分子の部分は、上記の通り付加、欠失又は変異の導入によって非相補的にすることができる。
【0092】
用途:
本発明の膵島マイクロRNA分子及びアンチ−膵島マイクロRNA分子は、非常に多くのin vitro、in vivo、ex vivoの用途に使用可能である。
【0093】
例えば、本発明のマイクロRNA分子及び/又はアンチ−マイクロRNA分子は、マイクロRNAの機能を解析するために、細胞に導入することができる。前述のいかなる膵島マイクロRNA分子及び/又はアンチ−膵島マイクロRNAも、それらの機能を解明するために細胞に導入することができる。
【0094】
一つの実施態様において、細胞のマイクロRNAは、適切なアンチ−膵島マイクロRNA分子によって阻害される。あるいは、細胞の膵島マイクロRNA分子の活性は、一つ以上の添加されたマイクロRNA分子を細胞に導入することによって強化することもできる。マイクロRNAの機能は、細胞のマイクロRNAの活性の抑制及び/又は強化に関連する変化を観察することにより推定することができる。
【0095】
本発明の一態様において、本発明は、細胞のマイクロRNP活性を阻害する方法に関する。細胞のマイクロRNP活性を阻害する方法は、細胞内に一本鎖のアンチ−膵島マイクロRNA分子を導入する工程を含む。マイクロRNPは、膵臓マイクロRNA分子を含む。上記の規定を前提として、アンチ−膵島マイクロRNA分子が、マイクロRNPに存在する膵島マイクロRNAに相補的である限り、いかなるアンチ−膵島マイクロRNA分子も、細胞のマイクロRNP活性を阻害する方法に用いることができる。
【0096】
本発明のアンチ−膵島マイクロRNA分子は、宿主細胞のマイクロRNPの膵島マイクロRNAと結合することによって、マイクロRNP活性を阻害することができる。なお、マイクロRNP活性とは、標的配列の裂開又は翻訳の抑制を指す。前記標的配列は、膵島マイクロRNAの塩基配列と部分的に又は完全に相補的であるいかなる配列でもよい。前記標的配列は、例えばグルコース代謝を制御する遺伝子であってもよい。
【0097】
例えば、膵島細胞は、グルコースによって誘発されたインスリン分泌に関係する遺伝子と相補的であるマイクロRNAを生産することができる。マイクロRNPで包まれたマイクロRNA分子は、グルコースによって誘発されたインスリン分泌の効果を顕著に阻害する。したがって、アンチ−マイクロRNA分子の導入は、マイクロRNP活性を阻害し、その結果、遺伝子の機能を復元することによって、危害を減らす。
【0098】
あるいは、前述のアンチ−マイクロRNA分子を導入する代わりに、マイクロRNA分子を膵島細胞に添加してもよい。それにより、グルコースにより誘発されるインスリン分泌のための遺伝子の発現が阻害される。その結果、細胞がグルコースに反応してインスリンを分泌する能力を減少させることができる。マイクロRNA分子及び/又はアンチ−マイクロRNA分子は、いかなる公知の方法によっても細胞に導入することができる。例えば、マイクロインジェクションのような方法により、マイクロRNA分子及び/又はアンチ−マイクロRNA分子を直接細胞に注射注入することができる。あるいは、好ましくは輸送システムの補助を伴いながら、前記分子を細胞と接触させることができる。
【0099】
使用可能な輸送システムは、例えば、リポソーム及び荷電した脂質が挙げられる。リポソームは、典型的には、それらの中心の水相中にオリゴヌクレオチド分子を封じ込める。荷電した脂質は、反対の電荷を持つ結果として、一般に脂質−オリゴヌクレオチド分子複合体を形成する。
【0100】
これらのリポソーム−オリゴヌクレオチド分子複合体又は脂質−オリゴヌクレオチド分子複合体は、通常エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれる。リポソーム又は荷電した脂質は、一般に、エンドソームの膜を崩壊し、オリゴヌクレオチド分子を放出するヘルパー脂質を含む。
【0101】
マイクロRNA分子又はアンチ−マイクロRNAを細胞に導入する他の方法には、例えばデンドリマー、生分解性ポリマー、アミノ酸ポリマー、糖ポリマー及びオリゴヌクレオチド結合性ナノ粒子などの輸送手段の使用法が含まれる。加えて、貯蔵手段としてプルロニック(登録商標)のゲルを用い、長期間にわたるアンチ−マイクロRNAのオリゴヌクレオチド分子の輸送を可能にすることができる。上記方法は、例えば、Hughesら、Drug Discovery Today 6,303−315(2001);Liangら、Eur.J.Biochem.269 5753−5758(2002);Beckerら、In Antisense Technology in the Central Nervous System(Leslie,R.A.,Hunter,A.J.&Robertson,H.A.,eds),pp.147−157,Oxford University Pressに記載されている。
【0102】
特定の細胞に対するマイクロRNA分子又はアンチ−マイクロRNA分子のターゲティングは、いかなる公知の方法によっても行うことができる。例えば、マイクロRNA分子又はアンチ−マイクロRNA分子は、細胞上のレセプタによって特に認識される抗体又はリガンドとコンジュゲートことができる。例えば、リガンドを、膵臓ベータ細胞にて発現するGLP−レセプタと結合するGLP−I(グルカゴン様ペプチド)とすることができる。あるいは、GLP−Iに対する抗体も使用可能である。
【0103】
他の実施形態では、本発明は、哺乳類の患者の糖尿病を治療する方法を提供する。前記方法は、配列番号41又は51に示される配列を有する少なくとも10の隣接するベースを有するアンチ−膵島マイクロRNA分子の有効量を哺乳類に導入する工程を含む。前記有効量を、医師及び臨床医に公知の方法によって、臨床前及び臨床試験中に決定することができる。
【0104】
アンチ−膵島マイクロRNA分子は、当業者に公知のいかなる方法によっても、哺乳類に導入することができる。例えば、アンチ−膵島分子を細胞にもたらす上記の方法を、前記分子を哺乳類に導入するために用いることができる。
【0105】
分子は、いかなる公知の方法によっても哺乳類に投与することができる。適切な投与方法の若干の例としては、経口投与と全身投与とが挙げられる。全身投与としては、腸内又は非経口的な投与方法が可能である。液体又は固体状(例えば錠剤、ゼラチン・カプセル)の製剤を使用することができる。
【0106】
分子の非経口投与は、例えば静脈、筋肉、又は皮下への注射を含む。例えば、公知のように分子は、徐放出性投与によって哺乳類に投与されることができる。徐放出性投与は、一定期間にわたる薬の一定レベルを維持させる薬剤輸送の方法である。
【0107】
他の投与のルートとしては、口頭、局在、気管支内、又は鼻腔内への投与が含まれる。経口投与のために、液体又は固体状の製剤が使用可能である。経口投与に適している製剤の若干の例として、錠剤、ゼラチン・カプセル、ピル、トローチ、エリキシル、サスペンション、シロップ及びウェーハが挙げられる。気管支内投与では、吸入器スプレーを使用することができる。また、鼻腔内投与による本発明の分子の投与は、ネビュライザ又は液霧によっ行うことができる。
【0108】
本発明の分子は、適切な薬剤担体中に含有させることができる。本発明における薬剤担体とは、従来技術において当業者によって理解されているように、賦形剤(vehicle又はexcipient)と同義であると解される。担体の例としては、澱粉、牛乳、糖、特定の種類の粘土、ゼラチン、ステアリン酸若しくはその塩、ステアリン酸のマグネシウム又はカルシウムによる塩、タルク、植物性脂肪若しくは油、ガム及びグリコールが挙げられる。
【0109】
薬剤担体は、また、以下の一つ又は二つ以上を含むことができる:安定化剤、界面活性剤(好ましくは非イオン系界面活性剤)、また任意に塩及び/又はバッファー。安定化剤は、例えばグリシンなどのアミノ酸、例えば蔗糖、テトラロース、ラクトース又はデキストランなどのオリゴ糖類が使用可能である。あるいは、前記安定化剤は糖アルコールであっても良く、例えばマンニトール又はその組合せがよい。好ましくは、安定化剤の重量は、分子の重量に対して約0.1から約10重量%である。
【0110】
界面活性剤は、好ましくは非イオン系界面活性剤(例えばポリソルベート)である。適切な界面活性剤の若干の例としては、Tween20、Tween80;ポリエチレングリコール又はプルロニックF−68などのポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを約0.001%(w/v)から約10%(w/v)含有させるのが望ましい。
【0111】
塩又はバッファー試薬はそれぞれ、例えば塩化ナトリウム又はナトリウム/リン酸カリウムのようないかなる塩又はバッファー試薬も使用可能である。望ましくは、バッファー試薬は、本発明の分子のpHを約5.5から約7.5の範囲でを維持するものが望ましい。塩及び/又はバッファー試薬はまた、浸透圧のレベルを哺乳類への投与に適する形に保つのに役立つ。前記塩又はバッファー試薬は、約150mMから約300mMの範囲でほぼ等張である形で存在するのが望ましい。
【0112】
前記薬剤担体は、一つ又は二つ以上の従来公知の添加剤を追加的に含有させることができる。このような添加剤の若干の例としては、例えばグリセロールのような可溶化剤;例えば塩化ベンザルコニウム(第四アンモニウム化合物の混合物で、「クォート」として公知)、ベンジルアルコール、クロレトン又はクロロブタノールなどの酸化防止剤;例えばモルヒネ誘導体などの麻酔の薬品;又は上記のような等張な試薬が挙げられる。酸化又は他の損傷に対する更なる予防措置として、分子は、非浸透性のストッパーでシールしたバイアル中で、窒素ガス充填下で格納するのが望ましい。
【実施例1】
【0113】
材料及び方法
マイクロRNAのクローニング及びノーザンブロッティング分析:
MIN6細胞培養から600μgの全RNAを、TRIZOL試薬(Invitrogen社)を使用して抽出し、前述した方法(ラゴス−キンタナ(Current Biol.))によりmiRNAクローニングを行った。アンチセンスプローブを、クローニングされたmiRNA配列と相補的になるように設計し、前述(ラゴス−キンタナ(Current Biol.))のとおり、ノーザンブロット分析に使用した。
【0114】
細胞培養:
MIN6細胞を、25mMのグルコース、15%の胎児のウシ血清及び5.5のμM 2−メルカプトエタノールを含むDMEM培地で培養した。N2A細胞を、25mMのグルコース及び10%の胎児のウシ血清を含むDMEM培地で培養した。
【0115】
インスリン分泌の解析:
MIN6細胞を、2日間24−ウェルプレートで培養し、分析の前に修飾されたクレブス−リンゲル緩衝液(KRBH)(0.9mMのCaCl2、2.68mMのKCl、1.46mMのKH2PO4、0.5mMのMgCl2 6H2O、135mMのNaCl、8mMのNa2HPO4x7H2O、20mMのHepes及び0.2%のBSA)で洗浄した。5.5mMのグルコースを含むKRBHにて30分予備培養の後、細胞をリンスし、2.8mMのグルコース、25mMのグルコース、30mMのKCl、500mMのトルブタミド又は5mMのメチルピルビン酸塩を含有するKRBHにて60分間インキュベートした。上澄み中のインスリン濃度は、RIA(Linco Research)を用いて測定した。
【0116】
組換えアデノウイルスの生成:
miR−375の過剰発現に使用する組換えアデノウイルスを、次のプライマーを用いたmiRNA前駆体配列のPCRにより増幅した:5’−CCCCAAGGCTGATGCTGAGAAGCCGCCCC−3’及び5−GCCGCCCGGCCCCGGGTCTTC−3’。得られた断片をpcDNA3(Invitrogen社)にサブクローニングし、HindIII及びXbaI処理の後、Ad5CMV−K NpAシャトルベクターに挿入した。アデノウイルスの増幅は、Viraquest社(North Liberty、IA)にて行われた。トランス遺伝子を含まないAd−GFP(ViraQuest社)をコントロールとして使用した。
【0117】
電気生理学的特性及びCa2+測定:
エキソサイトーシス及び内部のCa2+電流の測定は、単層状に分散した、コントロールGFP−又はmiRNA208−GFPを含むアデノウイルスへの感染後24時間経過したB細胞を用い、標準のパッチクランプ法により行われた。エキソサイトーシスを、Pulse(Heka Electronics、Lamprecht/Pfalz(ドイツ))のソフトウェアに基づくlock−inの実施により、細胞静電容量の変化として検出した。印加正弦波は、500Hzの周波数及び20mVのピーク振幅であった。Ca2+電流は、p4のプロトコルに基づき、電流リーク及び容量過渡をデジタル的に除去した後の数値を測定した。細胞外溶液は、118mMのNaCl、20mMのテトラエチルアンモニウム塩酸塩(TEACl)、5.6mMのKCl、2.6mMのCaCl2、1.2mMのMgCl2、5mMのグルコースを有する5mMのHEPES(pH=7.4)を含有する溶液とした。電位固定脱分極によってエキソサイトーシスを生じさせる実験において、細胞内液は、125mMのCs−グルタミン酸塩、10mMの塩化セシウム、10mMのNaCl、1mMのMgCl2、5mMのHEPES(CsOHを有するpH=7.15)、0.05mMのEGTA、3mMのマグネシウム−ATP及び0.1mMのサイクリックAMPを含有する溶液とした。一連の実験において、エキソサイトーシスは、125mMのCs−グルタミン酸塩、10mMのKCl、10mMのNaCl、1mMのMgCl2、3mMのマグネシウム−ATP、0.1mMのcAMP、10mMのHEPES、10mMのEGTA及び9mMのCaCl2を含有する溶媒により細胞内部を透析して行った。細胞フリーな溶液のCa2+濃度を1.5μM.と推定した。機能的にα−及びβ−細胞と識別され多細胞にて実験を行った。その細胞の識別は、公知の方法により決定した。
【0118】
細胞内のフリーのCa2+の濃度([Ca2+])を、他で記載されている通り、二重励起波長による蛍光分光測定により測定した。トランスフェクションする膵島細胞は、37°Cで、40分の間、0.007%のw/vのプルロニック(pluronic)酸(分子プローブ)の存在下、3μMのfura−2と共に散布した。色素を350nm及び365nmで励起した。後者の波長が380nmでないのは、GFPの励起を回避するためである。発光を510nmにて集光した。実験中、膵島細胞は、保持ピペットによって適当な状態に保たれて、140mMのNaCl、3.6mMのKCl、2mMのNaHCO3、0.5mMのNaH2PO4、0.5mMのMgSO4、2.6mMのCaCl2、5mMのHEPES(NaOHによるpH=7.4mM)及び5mMのグルコースを含有する溶媒で、連続的に灌流した。グルコース濃度は15mMまで増加し、スルフォニル尿素トルブタミド濃度が0.1mMになるまで上記のように添加した。膵島細胞が高い細胞外K+(KClが加えた30mM)によって脱分極するときは、等浸透性を維持するため、NaClの濃度をそれ対応して減少させた。電子生理的実験及びCa2+測定は全て32から34℃にて行った。
【0119】
膵島細胞の感染及びCa2+インジケータを伴うローディングを、共焦顕微鏡検査により、fura−2ではなくfluo−3を使用して評価した。eGFP及びfluo−3の励起は、Zeiss LSM510顕微鏡(Carl Zeiss、イェナ、ドイツ)の488nmの種類の機器を使用して行った。共焦顕微鏡のMETA機能を用いて分光し、水浸にて40倍で顕微鏡観察した。
【0120】
ルシフェラーゼ活性の分析:
野生型マウスのミオトロフィンの3’UTR標的部位を、以下のプライマー:
5’TCCATCATTTCATATGCACTGTATC3’及び
5’TCATATCGTTAAGGACGTCTGGAAA3’
を使用してPCR増幅し、pCR2.1TOPO(Invitrogen社)にサブクローニングした。得られた断片をSpeI及びXbaI処理により単離し、pRL−TK(プロメガ社)の停止コドンのすぐ下流にサブクローニングした。このコンストラクトは、プロトコル(Stratagene)に従い、以下のプライマー:
5’AAGTTTCGTGTTGCAAGCCCCCCTGGAATAAACTTGAATTGTGC3’、及び
5’GCACAATTCAAGTTTATTCCAGGGGGGCTTGCAACACGAAACTT3’
を使用した、変異体マウスミオトロフィンプラスミドの調製に使用した。下線は、突然変異するヌクレオチドを示す。MIN6細胞を2日間、24ウェルプレートで培養し、Rr−hxcをコードしているpRL−TKリポーターベクター0.4μg、及び0.1μgのPp−luc(プロメガ社)をコードしているpGL3コントロールベクターによってトランスフェクションした。細胞をトランスフェクション後30−36時間にて回収し、試験に使用した。
【0121】
miR−375の標的の同定:
miR−375の標的を同定するために、最近開発されたアルゴリズム(N.Rajewsky及びN.D.Socci、Developmental Biology 267、529−535の(2004))を使用した。前記アルゴリズムは以下の二つのステップを含む。
(a)mRNAの3’UTRにおける、マイクロRNA及び推定の標的配列の間で保存されているGCリッチな連続的な相補的基礎配列(「核」)の検索、及び
(b)予測されたマイクロRNA:mRNAデュプレックスの自由エネルギーのin silicoによる評価。
アルゴリズムをRefseqデータセットに適用した。3’UTRは、Refseqアノテーションから抽出した。このデータセットは、18199のヒト、及び13371のマウスの3’UTRであり、少なくとも30のヌクレオチド長を有するものを含む。「Jackson lab orthology table of 9612 human/mouse orthologs」を使用し、一組のオルトログの3’UTRを構築した。Lewis BP,Shih IH,Jones−Rhoades MW,Barrel DP,Burge CB,Prediction of mammalian microRNA targets.Cell 787−98(2003)に従い、核の位置を、マイクロRNAの5’末端から2塩基内部に制限した。ヒットした上位8%を保持しながら、上記(a)による核スコアを決定した。これらのヒットは、その後MFOLD(Zuker,NAR 3406−15,2003、Rajewsky and Socci for details)を用い、予測されたmRNA:miRNAデュプレックスの自由エネルギーによって記録された。
【0122】
siRNA及び2’−O−メチルオリゴリボヌクレオチド:
合成マイクロRNA及びsiRNAは、Dharmacon Research(Lafayette社)によって合成された。siRNA SMARPOOLsは、マウスミオトロフィン(NM_008098)及びマウスVti1A(NM_016862)の配列から設計した。全ての2’−O−メチルオリゴリボヌクレオチドは、公知技術(Meisterら、RNA)の方法により合成した。全ての試薬は、200nMの濃度でLipofectamine 2000(Invitrogen社)を使用してMIN6細胞にトランスフェクションした。
【0123】
抗体:
ウエスタンブロット法のための抗体を、幾つかの異なる供給源から得た:α−myotrophin(マサト・タオカ氏による寄付)、α−Vti1(BD Transduction Laboratoriesより)、α−p38 MAPK(Cell Signalingより)、α−MCT8(Andrew Halestrapによる寄付)、α−TATAボックス結合タンパク質(R.Roeder氏による寄付)。
【0124】
ノーザンブロット法:
全RNAは、TRIZOL試薬(Invitrogen社)を使用して抽出され、15%のポリアクリルアミン又はアガロースゲルにローディングされた。電気泳動後、RNAをHybond膜(アマシャム社)に転写し、プローブと反応させた。マウスミオトロフィンと反応するDNAプローブは、以下のプライマー:
5’GTGGGCCCTGAAAAACGGAGACTTG3’、及び
5’CCCTTTGACAGAAGCAATTTCACGC3’
を使用して調製した。
【実施例2】
【0125】
膵島細胞マイクロRNA:
マイクロRNAを、MIN6細胞(グルコース応答性ネズミ膵臓β細胞系)からクローニングした。合計301のマイクロRNAクローンを得たが、そのうち55は異なるマイクロRNAであった。前記の55の異なるマイクロRNAの中で、既に公表されているマイクロRNAは92%を占め、残りの8%は未確認のマイクロRNAであった。公知の及び新規のmiRNAは、Blast配列分析によってさまざまなゲノム・データベースにおいて同定され、種間ホモロジー及び典型的ヘアピン前駆体構造を形成する能力によって確認された。
【0126】
合計9つの新規なマイクロRNAを同定した結果、単一のマイクロRNA(miR−375)が全ての新規なクローンの50%以上を占めていた(図2A)。次に、ノーザンブロット分析によって新規なマイクロRNAの発現を解析した。マイクロRNA375及び376のみ、MIN6細胞及び膵島のノーザンブロット分析によって検出された(図2B)。両方のマイクロRNAの発現は、MIN6細胞及び膵島に限定されており、肝臓、肺、腸、脳、腎臓及び精巣等の他の組織では検出されなかった。(図2B、C)これらのデータは、新規な膵島マイクロRNAの同定を示唆するものである。
【実施例3】
【0127】
miR−375による分泌阻害活性:
高い表現レベル及び膵臓β−細胞における組織特異性を有するマイクロRNAの機能を解析するため、マイクロRNA−375及び−376に相同な配列を有する合成siRNAを用いて、MIN6細胞をトランスフェクションした後の、グルコース誘導によるインスリン分泌を解析した。siRNAに加えて、CMVプロモータの制御下でヒト成長ホルモン(hGH)遺伝子を発現するベクター(CMV−hGH)をコトランスフェクションした。追加的に発現したhGHは、膵臓β−細胞系の分泌顆粒の標的とされ、エキソサイトーシスの起動後にインスリンと共放出されることが開示されている。この方法によって、一過性にトランスフェクションするMIN6細胞(トランスフェクション効率20−30%)から選択的にエキソサイトーシスをモニターすることが可能となる。ポジティブ及びネガティブのコントロールとして、グルコキナーゼ遺伝子(Gck)又はアポリポタンパク質M(apoM)(膵臓β−細胞において発現しない遺伝子)を標的とするsiRNAを、MIN6細胞にCMV−hGHによってコトランスフェクションした。
【0128】
25mMのグルコース刺激に応答する成長ホルモン分泌は、si−Gck及びsi−375によってトランスフェクションした細胞において顕著に減少した(図3)。apoM又はsiRNAに向けられた、miR−376、miR−124、−129、−130及び210等の幾つかの他のマイクロRNAに相同な合成siRNAのトランスフェクションによっては、基礎的、又はグルコース刺激によるインスリン分泌に影響を及ぼさなかった(図3、データ示さず)。
【0129】
アンチセンスベースの戦略は、特に培養細胞におけるmiRNA機能を阻害することが近年開示されている。ヌクレアーゼ耐性の、miR−375に対する2’−O−メチルアンチセンスオリゴリボヌクレオチドをCMV−hGHベクターとコトランスフェクションし、グルコースによる刺激に応答したインスリン分泌を解析した。コントロールのアンチ−GFP 2’−O−メチルオリゴリボヌクレオチド(図3B)と比較して、アンチ−miR−375によってトランスフェクションした細胞においてグルコースを刺激によるインスリン分泌の増加が見られた。以上のデータより、miR−375がインスリン分泌の抑制剤であることが示された。
【0130】
次に、CMV5プロモータの管理下で、前駆体配列を含む123bp断片のクローニングによって、miR−375を発現する組換えアデノウイルスを調製した。HEK細胞をコントロールのeGFP(Ad−GFP)を発現するアデノウイルスに感染させ、そこにおいてAd−375分子の濃度の増加による、miR−375の発現のドーズディペンデントな増加を示した。同様に、アデノウイルスによる感染技術を使用し、MIN6細胞にてmiR−375を発現させた。miR−375を発現しているMIN6細胞は、コントロールのアデノウイルスに感染した細胞と比較して、グルコースによって誘発されるインスリン分泌の40%の減少が見られた(図4)。このインスリン分泌の減少は、不完全なインスリン生産によるようには見られなかった。なぜなら、Ad−375及びAd−eGFPに感染したMIN6細胞、並びに膵島細胞におけるインスリン含有量が同じであったためである。
【実施例4】
【0131】
細胞内カルシウムシグナリング及び全細胞のカルシウム電流:
解糖系の流れ及びミトコンドリア酸化的リン酸化の増加は、サイトゾル中のATP/ADP比率の増加を経たATP−感受性カリウムチャネル(KATP)の遮断を誘導し、グルコース誘発によるインスリン分泌への第2のシグナルを発生させるために必要となる。これにより、膜脱分極及び電位依存的なCa2+チャネルを通したCa2+の流入が生じる。[Ca2+]の上昇が、インスリン顆粒エキソサイトーシスには必要である。グリベンクラミドのようなスルフォニルウレアは、直接KATPを遮断することによって、インスリン分泌を促進する。KClにより膵臓β−細胞の直接的な脱分極が生じ、インスリン顆粒の脱顆粒が最大となる。トルブタミド及びKClの刺激による、Ad−375感染MIN6細胞のインスリン分泌を測定した。これらの分泌促進物質を用いた膵臓β−細胞の刺激は、Ad−eGFP感染細胞と比較したAd−375感染細胞におけるインスリン分泌の障害を示した。更にAd−375の発現により、Ad−eGFP感染MIN6細胞と比較した、GLP−1(キャンプの起動によるインスリン分泌の強力なグルコースに依存する刺激)に応答したインスリン分泌が阻害されることが確認された。これらのデータは、miR−375の過剰発現がインスリン分泌の末梢部のステップを含む欠陥につながることを示唆するものである。そこにおいて、膵臓β−細胞の細胞質のCa2+濃度の上昇に影響を及ぼすか、エキソサイトーシスに対して干渉することが考えられる。
【0132】
miR−375がインスリンエキソサイトーシスを起動させるのに必要となる第2のシグナルの発生を阻害するか否かを解析するため、Ad−375又はコントロールのAd−eGFPに感染した膵島細胞の細胞内Ca2+濃度[Ca2+]iを測定した。各々の膵島細胞は刺激され、3つの異なる刺激によって細胞内Ca−濃度を増加させた。グルコース濃度を5mMから15mMまで増加させ、コントロール及びAd−375を発現する膵島細胞のCa2+濃度の変化を観察した。トルブタミドによる刺激において、同様の変動が観察された。静止状態での[Ca2+]iは、コントロール及びAd−375を発現している膵島細胞でそれぞれ0.13+0.01μM及び0.12±0.01μM(平均)であった。15mMのグルコースが存在する場合には、[Ca2+]iの時間平均は、コントロールの膵島細胞における0.42±0.12μMに対し、Ad−375を発現する膵島細胞では0.39+0.05μMに達した。トルブタミドが存在する場合には、対応する値は、コントロールの膵島細胞において0.53+0.11μM、及びAd−375感染膵島細胞において0.55±0.11μMであった。最後に、高い細胞外K+による脱分極は、コントロール及びAd−375感染膵島細胞において同様に増加し[Ca2+]iのピークの平均はそれぞれ0.85+0.24μM及び1.01+0.31μMであった(データ示さず)。質的に類似した結果が、非定量的な染料であるfluo−3を使用した実験により得られた(上記参照)。更に、eGFPを発現している単離された細胞を測定したときには、同様のグルコースに対する反応の違いが観察されなかった(感染していない下層の細胞層による数値は除外される(データ示さず))。膵島細胞周辺部は、非β−細胞において肥大していた。しかしながら、変動が5mMのグルコースで観察されず、15mMにて[Ca2+]iが増加したという事実は、δ−細胞が低い濃度で既に活性であり、またα−細胞は高い濃度で阻害されるゆえに、β−細胞の豊富なゾーンを選択するに至ったことを示唆するものである。
【0133】
MIN6細胞及び単離された膵島細胞からの調整されたインスリン分泌の制御は、miR−375の発現が[Ca+2]iシグナリングの下流(おそらくはエキソサイトーシスのレベル)におけるインスリン分泌に影響を及ぼすことを示唆する。この仮説を検討するために、機能が同定されたβ−細胞に静電容量測定を適用した。エキソサイトーシスは、0mVから−70mVまでの脱分極を1Hz、500msにて10回行った(図3A)。左記操作により、β細胞において、一定条件の下で837±244fF(n=9)の膜静電容量の増加を誘発した。Ad−375感染細胞においては、それに対応する増加は94±27fF(85%減少)に留まった(n=10;P<0.01)。同様の結果が、一旦エキソサイトーシスがその代わりに1.5のμM(図2DからE)のフリーなCa2+濃度を有するCa2+/EGTA−バッファーによって誘発された場合に得られた。また、これらの実験で、Ad−375感染細胞は、コントロールの細胞と比較し静電容量の増加率が63%減少した(P<0.001;n=15〜17)。
【実施例5】
【0134】
標的遺伝子の同定:
多数のゲノム全体に保存されているマイクロRNAの標的を予測するために、RNA:RNAデュプレックス相互作用の熱力学に基づくモデリングを、配列の比較分析と結合するアルゴリズムを適用した。miR−375標的遺伝子の64の推定のリストの中から、インスリン分泌/膵島分化におけるそれらの潜在的役割に基づいて6つの遺伝子を選択し、試験に用いた。
【0135】
それらの遺伝子は、frizzledホモログ−4(Fzd4)、t−SNAREs酵母ホモログIA(Vti−1a)と相互作用する小胞輸送に係るタンパク質、V−1/ミオトロフィン(V−1/Mtpn)、p38有糸分裂促進プロテインキナーゼ(Mapk11)、モノカルボン酸輸送体8(Slc16A2)及び対状のボックスタンパク質Pax−6の遺伝子であった。これらの遺伝子の発現を、Ad−375又はAd−eGFPに感染したMIN6及びN2A細胞において、イムノブロッティングにより解析した。内在性miR−375を発現しないN2A細胞におけるmiR−375の発現は、Mtpn及びVti−1aの発現レベルの減少につながった(図4A、B)。
【0136】
対照的に、Fzd4、Mapk11及びSlc16A2の遺伝子発現はAd−375及びAd−eGFPに感染した細胞において同様であった。組換えアデノウイルスAd−375によるMIN6細胞におけるmiR−375の過剰発現は、Mtpnのタンパク質レベルを低下させたが、Vti−1a、Fzd4、Mapk11及びSlc16A2の発現には影響を及ぼさなかった。
【0137】
Mtpn mRNAの3’UTRにおける予測されたmiR−375目的部位が、miR−375によるMtpn発現のサイレンシングに関与するか否かを解析するため、RenillaルシフェラーゼORF(pRL−Mtpn)の下流に推定3’UTR標的部位を含む289ntの3’UTR部分をクローニングし、このレポーターベクターを、コントロールのアンチセンス2’−O−メチルオリゴリボヌクレオチド、又はmiR−375のアンチセンスの2’−O−メチル・オリゴリボヌクレオチド(2’−O−miR−375)と共に、MIN6細胞へコトランスフェクションした。2’−O−miR−375によってトランスフェクションした細胞のルシフェラーゼ活性は、コントロールの2’−O−miRNA及びpRL−Mtpnによってコトランスフェクションした細胞と比較して2倍増加していた。更に、miR−375標的部位の中心に点変異を導入することにより、内在性miR−375及びV−1/ミオトロフィン標的部位間の相補性が減少し、2’−O−miR−375によるルシフェラーゼ活性の刺激効果が損なわれた(図5)。以上より、Mtpnは膵臓β−細胞miR−375の標的であり、Mtpn遺伝子発現の抑制は、Mtpn遺伝子の3’UTRの単一のmiR−375目的部位によって調節されることが明らかとなった。
【0138】
MIN6細胞のMtpnの発現減少が、Ad−375感染細胞において観察されるグルコース誘発によるインスリン分泌の減少に関与するか否かを解析するために、MIN6細胞をアポリポタンパク質M(コントロール)及びMtpnを標的とするsiRNAによりトランスフェクションし、タンパク質表現レベルをウェスタンブロッティングにより解析した。Mtpn及びVti1aを標的としているsiRNAは、これらの遺伝子の発現を50%以上減少させた(図4C)。グルコース誘発によるインスリン分泌におけるこれらの遺伝子のサイレンシングの効果を、それぞれのsiRNA及びプラスミドpCMV−hGHのコトランスフェクションにより解析した。25mMのグルコース添加に応答するインスリン分泌を、トランスフェクションの2日後に測定した。コントロールのsiRNAによってトランスフェクションした細胞と比較して、Mtpnを標的とするsiRNAによってトランスフェクションした細胞のインスリン分泌は、30%減少していた(図4D)。なお、Vti1aのRNAサイレンシングは、グルコース誘発によるインスリン分泌に影響を及ぼさなかった。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】図1は、本願明細書で言及する修飾されたヌクレオチド単位を示す。Bは、次の核酸塩基のいずれか一つを意味する:アデノシン、シチジン、グアノシン、チミン又はウリジン。
【図2A】図2は、マウスmiR−375の前駆体の構造予測及び組織発現を示す。RNAの二次構造予測は、Mfold version3.1を使用して行った。下線部はmiRNA配列である。完全なホモロジーが、マウス及びヒト配列の間に見られた。
【図2B】miR−375及び376の組織における発現を示す。マウス組織から全RNA(30μg)をノーザンブロットのために単離し、miRNAのプローブとした。
【図2C】膵島、MIN6細胞及び膵臓全体から全RNA(10μg)を精製し、ノーザンブロットを行った。マウス膵島において高い発現レベルが検出された。tRNAを、コントロールとしてローディングした。
【図3A】miR−375による分泌抑制作用を示すグラフ。MIN6細胞をトランジェントにコトランスフェクションした。CMV−hGH及びβ−galをコードする100ngのプラスミドDNA、miRNA 375に相応する配列を有する合成siRNA、グルコキナーゼ又はルシフェラーゼ(それぞれsi−375、siRNA−Gck及びsiRNA−lucと表記)を使用。
【図3B】miR−375(2’−O−メチル−375)と相補的な2’−O−メチル・オリゴリボヌクレオチド又はコントロールの2’−O−オリゴリボヌクレオチド(2’−O−メチルGFP)を使用した試験結果のグラフを示す。48時間後、細胞をグルコース濃度の低い(2.8mM)及び高い(25mM)条件下でインキュベートした。これらの条件下に分泌されるhGHの量をELISAで測定し、β−gal活性により標準化した(*:P<0.05,**:P<0.01)。
【図4A】miR−375の標的遺伝子の同定を示す。MIN6細胞は、48時間、Ad−miR−375の感染を受けた。溶解後、サンプルをSDS−PAGEによって分子し、α−Mtpn、α−Vti1a又はa−TATAボックス結合タンパク質(Tbp)(コントロール)によってイムノブロットした。
【図4B】miR−375の標的遺伝子の同定を示す。試験はN2A細胞を使用して再度行われた。
【図4C】MIN6細胞を48時間、Mtpn(siRNA−Mtpn)又はVti1a(siVti1a)に対して作用するよう設計したsiRNAによってトランジェントにトランスフェクションし、溶解させ、SDS−PAGEによる分析の後、サンプルをMtpn又はVti1aを用いてイムノブロッティングした。
【図4D】MIN6細胞を、si−375、si−Mtpn又はsi−Vti1aによってトランジェントにトランスフェクションし、48時間後、細胞をグルコース濃度の低い(2.8mM)及び高い(25mM)条件下でインキュベートした結果のグラフを示す。これらの条件下に分泌されるhGHの量をELISAで測定し、β−gal活性により標準化した(*:P<0.05,**:P<0.01)。
【図5A】Mtpnの3’UTRにおけるmiR−375標的部位は、miR−375によって遺伝子発現の抑制に重要であることを示す。Renillaルシフェラーゼの3’UTRの中に挿入される、ミオトロフィンの3’UTR中の標的部位の配列。変異体(Mtpn−MUT)の配列は、miR−375の5’末端の5つの点変異(太字)を除いて、野生型(Mtpn−WT)と同一である。
【図5B】MIN6細胞を、レポーターコンストラクトであるmiR−375(2’−O−メチル−375)と相補的な2’−O−メチルオリゴリボヌクレオチド、又はコントロールの2’−O−オリゴリボヌクレオチド(2’−O−メチルGFP)によってトランジェントにトランスフェクションした。
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵島マイクロRNA及びそれを阻害する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロRNAは、典型的には小さいRNA分子、すなわち一般に長さ約19から25ヌクレオチド長のRNA分子である。これらのマイクロRNAは、ヘアピン前駆体が分裂して生じるノンコーディングRNAである。幾つかのマイクロRNAは、広範囲にわたる多細胞生物のゲノムにおいて同定されている。
【0003】
多くのマイクロRNAは、近縁でない生物種間でもその配列が保存されており、組織特異的又は発生の各段階において特徴的な発現を呈する。生物種間の配列の保存は、マイクロRNAが生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たすことを示唆する。
【0004】
マイクロRNAは、標的遺伝子のmRNAの3’側のノンコーディング領域に部分的にハイブリダイズした後に翻訳をブロックすることが報告されている。前記マイクロRNAの標的となる遺伝子は未だ解明すべき部分が残されている。
【0005】
しかしながら、マイクロRNAは多様な疾病や症状を発症させることを示唆する証拠が揃いつつある。例えば、ショウジョウバエのマイクロRNAは、アポトーシスに関連する遺伝子を標的としていることが明らかとされ、またB細胞慢性リンパ性白血病は、二つのマイクロRNAの欠失が関与していることが明らかとされている。
【0006】
膵島細胞(また、ランゲルハンス島とも称される)は、ホルモン類の産生、分泌に特化した細胞の群である。また、次の5種類の細胞:α、β、δ、PP及びD1細胞が存在すると報告されている。
【0007】
これらの細胞は、グルコースの調節に関与していると言われている。例えば、α細胞は、血液のグルコースのレベルを増やすことに関係するホルモン類であるグルカゴンを分泌する。またβ細胞は、生体がグルコースをエネルギー生成のために利用するのを補助するホルモンであるインスリンを分泌する。
【0008】
グルコース利用の調節の妨害は、特にインスリン分泌β細胞において、例えば糖尿病などの疾患につながり得る。したがって、グルコースホメオスタシスの調節において役割を果たす遺伝子の調節機構を解明することは重要である。例えば、仮にマイクロRNAがグルコース利用を調節するとしても、そのような事実は従来技術において公知でない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記に鑑み、例えばマイクロRNAのような膵島細胞の調節因子の機能を解明する一助となり得る材料及び方法が求められている。
【0010】
更に、マイクロRNAはRNA分解を誘発するか又は重要なタンパク質をコードするmRNAの翻訳を抑制する能力を有するため、標的mRNAの膵臓マイクロRNAによって誘発された裂開又は翻訳抑制を阻止する新規な分子が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一つの実施態様において、本発明は、単離されたDNA又はRNA分子に関する。前記分子は、配列番号:1−20に示される膵島マイクロRNAに含まれる塩基配列のうち、少なくとも10の隣接する塩基配列をを含む。但し、前記塩基の最高30%がゆらぎ塩基であり、また前記隣接する塩基の最高10%が非相補的でもよい。
【0012】
他の実施形態では、本発明は、修飾された一本鎖膵島マイクロRNA分子に関する。前記分子は、基本分子上に最低10の部分及び最高50の部分を含み、前記基本分子はから基本単位を含み、各々の部分は基本単位に結合した塩基を含み、少なくとも10の隣接する塩基が配列番号:1から20に示される膵島マイクロRNA分子の塩基の隣接する配列と同じ配列を含む。但し、前記塩基対の最高30%がゆらぎ塩基対であり、また隣接する塩基の最高10%がそれについて付加、欠失、変異又はその組合せであってもよい。また、隣接する部分の50%以上はデオキシリボ核酸の基本単位を含まず、少なくとも一つの部分が、未修飾のデオキシリボヌクレオチド部分若しくは未修飾のリボヌクレオチド部分でない。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、単離された一本鎖アンチ−膵島マイクロRNA分子に関する。前記分子は、基本分子上に最低10の部分及び最高50の部分を含み、基本分子が基本単位を含み、各々の部分が基本単位に結合した塩基を含み、各々の塩基が相補的な塩基との間でワトソン−クリック塩基対を形成しており、少なくとも10の隣接する塩基が、配列番号:1から20に示される膵島マイクロRNA分子のいずれか一つの隣接する塩基配列と相補的な配列を含む。ただし、その塩基対の最高30%がゆらぎ塩基対であり、また隣接する塩基の最高10%がそれについて付加、欠失、変異又はその組合せであってもよい。また、隣接する部分の50%以上はデオキシリボ核酸の基本単位を含まず、少なくとも一つの部分が、未修飾のデオキシリボヌクレオチド部分若しくは未修飾のリボヌクレオチド部分でない。また、前記分子は、マイクロRNP活性を阻害することができる。
【0014】
更に別の実施形態では、本発明は、細胞のマイクロRNP活性を阻害する方法に関する。マイクロRNPは、膵島マイクロRNA分子を含む。前記方法は、一本鎖アンチ−膵島マイクロRNA分子を細胞に導入することを含む。そこにおいて、前記アンチ−膵島マイクロRNAは、膵島マイクロRNA分子と相補的である。
【0015】
更なる実施態様において、本発明は、哺乳類の患者の糖尿病を治療する方法に関する。前記方法は、配列番号:41又は51に示す配列を有する少なくとも10の隣接する塩基を有するアンチ−膵島マイクロRNA分子の有効量を、哺乳類に導入することを含む。
【0016】
他の実施形態では、本発明は、本発明に従って単離されたDNA又はRNA分子からを含む単離されたマイクロRNPに関する。更に他の実施形態では、本発明は、本発明に従って単離された一本鎖膵島マイクロRNA分子を含む単離されたマイクロRNPに関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
膵島マイクロRNA分子
発明者は、新規な膵島マイクロRNA分子を発見した。これらの分子は、配列番号:1から20を有する。したがって、一つの実施態様において、本発明は、単離された一本鎖膵島マイクロRNA分子に関する。
【0018】
マイクロRNA分子は、従来技術において周知である(Bartel,Cell,2004,116,281−297)。BartelによるマイクロRNA分子に関する定義及び特徴は、本願明細書に援用される。この種の分子は、ゲノムの染色体位置に由来し、特定のマイクロRNA遺伝子から生じる。
【0019】
成熟したマイクロRNA分子は、部分的にヘアピン構造を形成する前駆体転写物からプロセシングされる。前記ヘアピン構造はDicerとして公知の酵素によって適当に切断される。それにより一つのマイクロRNAデュプレックスを生成する。Bartelの上記文献を参照のこと。
【0020】
通常、マイクロRNAデュプレックスの2本鎖のうちの1本は、マイクロRNAリボ核タンパク複合体(マイクロRNP)で包まれる。例えば、ヒトのマイクロRNPはタンパク質eIF2C2、ヘリカーゼGemin3及びGemin4を含む。
【0021】
一つの実施態様において、本発明は、配列番号:1から20に示される配列及びそれの均等物を有する少なくとも10の隣接する塩基から成る、単離されたDNA又はRNA分子に関する。望ましくは、前記の単離されたDNA又はRNA分子は、一連の塩基を有する少なくとも13、より好ましくは、少なくとも15及び更により好ましくは少なくとも20の隣接する塩基であり、配列番号:1−20に示される膵島マイクロRNA中の配列を有する。
【0022】
(表1及び2):膵島マイクロRNA及びヘアピン前駆体配列。接頭辞「hsa」を有するマイクロRNAの名前はヒトの配列、接頭辞「rnmu」はマウスの配列を示す。ヘアピン前駆体の膵島マイクロRNA配列部を太字で示す。
【表1】
【表2】
【0023】
本願明細書において、塩基とは、天然のDNA又はRNAで見られるヌクレオチドの塩基のいずれか一つのことを指す。前記塩基は、プリン又はピリミジンである。前記プリン塩基の例としては、アデニン(A)と、グアニン(G)が含まれる。前記ピリミジン塩基の例としては、チミン(T)、シトシン(C)及びウラシル(U)が含まれる。アデニンは、2,6−ジアミノプリンと置換されてもよい。
【0024】
本願明細書において開示される未修飾の核酸分子の配列は、ウラシル塩基を有して示される。ウラシル塩基は、未修飾のRNA分子中で生じる。本発明には、未修飾のDNA分子も含まれる。未修飾のDNA分子の塩基の配列は、未修飾のRNA分子と同様である。但し、未修飾のDNA分子では、ウラシル塩基はチミン塩基と交換される点で例外的である。
【0025】
配列中の各々の塩基は、ワトソン−クリック塩基対を相補的な塩基により形成することができる。本願明細書におけるワトソン−クリック塩基対は、例えば以下の塩基間の水素結合による相互作用である。すなわち:アデニン及びチミン(A−T)、アデニン及びウラシル(A−U)、シトシン及びグアニン(C−G)。
【0026】
均等物とは、少なくとも10の隣接する塩基のうち、最高30%がゆらぎ塩基であり、また最高10%、更に望ましくは最高5%までの隣接する塩基が非相補的である状態の分子を指す。
【0027】
本発明において、ゆらぎ塩基とは、分子の配列における
1)ウラシルによるシトシンの置換、又は
2)グアニンによるアデニンの置換
のいずれの場合も含まれる。これらのゆらぎ塩基置換は一般に、UG又はGUゆらぎと呼ばれる。表3は、隣接する塩基の数及び分子のゆらぎ塩基の最大数を示す。
【0028】
(表3):隣接する塩基の数及び分子のゆらぎ塩基の最大数を示す。
【表3】
【0029】
本願明細書において「非相補的である」とは、付加、欠失、変異又はそれらの組合せを指す。付加とは、何らかの塩基が上記隣接する配列に挿入されることを指す。欠失とは、隣接する配列に存在する何らかの部分が除去されることを指す。変異とは、隣接する配列の塩基のうちの一つが異なる塩基に置換されることを指す。
【0030】
付加、欠失又は変異は、例えば隣接する配列のいずれの端部又は分子中の隣接する配列の部分で生じてもよい。典型的には、例えば、隣接する配列が約10から約15の塩基長さのまでの比較的短い場合、付加、欠失又は変異は、隣接する配列の末端付近にて生じる。隣接する配列が比較的長い場合、例えば、最低16塩基の隣接する配列である場合は、付加、欠失又は変異は、隣接する配列のどこでも生じ得る。
【0031】
例えば、隣接する塩基数が10〜19であるときは、いずれも又は隣接する塩基のうちのゼロ又は一つにおいて付加、欠失又は変異が生じ、また隣接する塩基数が20〜23であるときは、最高一つか二つの塩基の付加、欠失又は変異が許容範囲である。
【0032】
膵島マイクロRNAの少なくとも10の隣接するヌクレオチドに加えて、単離されたDNA又はRNA分子はまた、一つ以上のヌクレオチドを付加することができる。なお、前記の付加するヌクレオチド数に、上限はない。典型的には、500のヌクレオチドまで、好ましくは300ヌクレオチドまでを、膵島マイクロRNAの少なくとも10の隣接する塩基に付加することができる。
【0033】
いかなるヌクレオチドも付加できる。前記のヌクレオチド付加は、上記のいずれの塩基も適用可能である。したがって、例えば付加的なヌクレオチドはA、G、C、T又はUのいずれか一つ又は二つ以上でもよい。
【0034】
一つの実施態様において、膵島マイクロRNAはヘアピン前駆体配列又はそのフラグメントの一部である。例えば、適切なヘアピン前駆体配列は、配列番号:21から40に示される。前記フラグメントは、その5’末端及び/又は3’末端にて、少なくとも10、好ましくは少なくとも15、より好ましくは最低20のヌクレオチド含む、ヘアピン前駆体配列のいかなるフラグメントが適用可能である。好ましくは、前記ヌクレオチドの配列は、膵島マイクロRNAが存在するヘアピン前駆体に存在する。
【0035】
膵島マイクロRNA又はヘアピン前駆体は、例えば組換えベクターなどに挿入することができる。典型的には、膵島マイクロRNAを含んでいる組換えベクターを構築するために、膵島マイクロRNA配列を含むヘアピン前駆体配列をベクターに組み込む。例えば、Chenら、Science 2004,303:83−86を参照。
【0036】
組換えベクターは、例えばプラスミド、コスミド又はファージ等のいかなる組換えベクターでもよい。組換えベクターは、一般に複製開始点を有する。ベクターは、例えばアデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)等のウイルスベクターが使用可能である。例えばLedley 1996,Pharmaceutical Research13:1595−1614、Vermaら、Nature 1997,387:239−242を参照。
【0037】
ベクターに、選択可能なマーカーを更に含めてもよい。適切な選択マーカーには、例えばテトラサイクリン又はゲンタマイシンなどの薬剤耐性マーカー、又は例えばβ−ガラクトシダーゼ又はルシフェラーゼのような検出可能な遺伝子マーカーが使用可能である。
【0038】
好ましい実施態様において、単離されたDNA又はRNA分子は、実質的に配列番号:1から40に示される膵島マイクロRNA配列又はヘアピン前駆体配列のいずれか一つからなる。
【0039】
本願明細書において、「単離された」とは、分子が他の核酸を本質的に含まないことを指す。他の核酸を本質的に含まない、とは、分子が少なくとも約90%、好ましくは少なくとも95%、更に好ましくは最低約98%の純度で、他の核酸を含まないことを指す。
【0040】
望ましくは、分子は実質的に純粋である。なお、それは前記分子が他の核酸を含まないという意味の他に、前記分子の合成及び単離において使用する他の材料を含まないという意味も含まれる。合成において使用する材料とは、例えば酵素である。単離において使用する材料とは、例えばゲル類(例えばSDS−PAGE用)である。前記分子は、少なくとも約90%、好ましくは少なくとも95%、更に好ましくは最低約98%の純度で、これらの材料を含まない。
【0041】
膵島細胞は、従来技術において当業者に公知のいかなる膵島細胞でもよい。膵島細胞の例としては、α細胞、β細胞、δ細胞、PP細胞及びD1細胞が挙げられる。望ましくは、前記細胞はβ細胞である。
【0042】
マイクロRNA又はヘアピン前駆体の塩基の配列は、非常に良く保存されている。そのため、いかなる哺乳類の膵臓細胞の配列でも使用可能である。哺乳類の例としては、イヌ及びネコなどのペットの動物、ウシ、ウマ及びヒツジなどの家畜、ネズミ、マウス及びウサギのような実験動物、サル及びヒトのような霊長類が挙げられる。望ましくは、前記哺乳類はヒト又はマウスである。
【0043】
修飾された一本鎖膵島マイクロRNA分子:
他の実施態様において、本発明は、修飾された一本鎖膵島マイクロRNA分子に関する。修飾された一本鎖マイクロRNA分子は、上記の膵臓マイクロRNA分子、ヘアピン前駆体分子又は、それの均等物のいずれかである。但し、修飾された分子が少なくとも一つの修飾された部分(すなわち、少なくとも一つの部分が修飾されていないデオキシリボヌクレオチド部分又は修飾されていないリボヌクレオチド部分でない)を含まない場合を除く。この実施態様において、前記の修飾された膵島マイクロRNA分子は、少なくとも10、好ましくは少なくとも13、より好ましくは少なくとも15、更により好ましくは少なくとも18、最も好ましくは少なくとも21の部分を含む。
【0044】
修飾された膵島マイクロRNA分子は、多くとも50、好ましくは多くとも40、より好ましくは多くとも30、更に好ましくは多くとも25、最も好ましくは多くとも23の部分を含む。前記部分の最小数及び最大数の適切な範囲は、上記のいずれかの最小数及びいずれかの最大数を結合することによって得ることができる。
【0045】
各々の修飾された部分は、基本単位に結合する塩基を含む。前記基本単位は、安定して塩基と結合して、オリゴマーの鎖を形成することが可能ないかなる分子単位でもあってもよい。本願明細書において、修飾された部分の基本単位には、天然のDNA又はRNA分子に通常存在する基本単位は含まれない。
【0046】
このように修飾された膵島マイクロRNA分子は、ヌクレアーゼ耐性を増加させる。したがって、前記分子のヌクレアーゼ耐性は、修飾されていないリボヌクレオチド部分のみ、修飾されていないデオキシリボヌクレオチド部分のみ又は両方を含んでいる配列と比較し、増加する。このような修飾された部分は、例えばKurreck,Eur.J.Biochem.270,1628−1644(2003)により公知技術である。
【0047】
耐性が得られるヌクレアーゼは、エキソヌクレアーゼ、エンドヌクレアーゼ又はその両方である。エキソヌクレアーゼは、3’→5’エキソヌクレアーゼ又は5’→3’エキソヌクレアーゼのいずれでもよい。3’→5’ヒトエキソヌクレアーゼの例としては、PNPT1、ワーナー症候群ヘリカーゼ、RRP40、RRP41、RRP42、RRP45、RRP46が挙げられる。5’→3’エキソヌクレアーゼの例としては、XRN2及びFEN1が挙げられる。エンドヌクレアーゼの例としては、Dicer、Drosha、RNAe4、Ribonuclease P、Ribonuclease H1、DHP1、ERCC−1及びOGG1が挙げられる。エキソヌクレアーゼ及びエンドヌクレアーゼとして機能するヌクレアーゼの例としては、APE1及びEXO1が挙げられる。
【0048】
修飾された部分は、膵島マイクロRNA分子のいかなる位置に設置することができる。例えば、膵島マイクロRNA分子を3’→5’エキソヌクレアーゼから保護するために、分子が、3’末端に少なくとも一つの修飾された部分を、好ましくは3’末端に少なくとも二つの修飾された部分を有することができる。分子を5’→3’エキソヌクレアーゼから保護するには、望ましくは、膵島マイクロRNA分子の5’末端で、少なくとも一つの修飾された部分、好ましくは少なくとも二つの修飾された部分で有することである。膵島マイクロRNA分子はまた、5’末端と3’末端の間にの少なくとも一つの好ましくは少なくとも二つの修飾された部分を有することができ、それによりエンドヌクレアーゼ耐性を増加させることができる。好ましくは、少なくとも約10%、より好ましくは少なくとも約25%、より好ましくは少なくとも約50%、更により好ましくは少なくとも約75%、最も好ましくは、少なくとも約95%の部分が修飾される。一つの実施態様において、部分の全てが修飾された(例えばヌクレアーゼ耐性)分子である。
【0049】
修飾された膵島マイクロRNA分子の一つの実施例において、前記分子は、少なくとも一つの修飾されたデオキシリボヌクレオチド部分を含む。適切な修飾されたデオキシリボヌクレオチド部分は、従来技術において公知である。この種の修飾されたデオキシリボヌクレオチド部分は、例えば、基本単位としてチオリン酸デオキシリボース基を含む(図1の構造式1を参照)。チオリン酸デオキシリボヌクレオチド部分を含む修飾された膵島マイクロRNA分子は、一般にホスホロチオネート(PS)DNAと呼ばれる(Eckstein,Antisense Nucleic Acids Drug Dev.10,117−121(2000)を参照)。
【0050】
修飾されたデオキシリボヌクレオチド部分の他の適用可能な例としては、N’3−N’5ホスホロアミダートデオキシリボヌクレオチド部分が挙げられる。そこにおいて、N’3−N’5ホスホロアミダートデオキシリボース基が基本単位に含まれる。図1中の構造式2を参照のこと。ホスホロアミダートデオキシリボヌクレオチド部分を含むオリゴヌクレオチド分子は、一般にホスホロアミダート(NP)DNAと呼ばれている。それに関しては、例えば、Gryaznovら、J.Am.Chem.Soc.116,3143−3144(1994)を参照のこと。
【0051】
修飾された膵島マイクロRNA分子の他の実施態様において、前記分子は一つ以上の修飾されたリボヌクレオチド部分を含む。修飾されたリボヌクレオチド部分の適用可能な例は、その2’位置で置換されたリボヌクレオチド部分である。前記2’位置における置換基は、例えば、炭素数C1からC4のアルキル基であってもよい。前記C1からC4のアルキル基は、飽和又は不飽和であっても良く、また直鎖状又は分岐型であってもよい。C1からC4のアルキル基の幾つかの例としては、エチル、イソプロピル及びアリール基が挙げられる。前記の望ましいC1のC4アルキル基は、メチル基である。図1中の構造式3を参照のこと。その2’位置をC1からC4のアルキル基で置換されたリボヌクレオチド部分を含むオリゴリボヌクレオチド分子は、一般には2’−O−(C1−C4アルキル)RNA例えば2’−O−メチルRNA(OMeRNA)と呼ばれる。
【0052】
修飾されたリボヌクレオチド部分の2’位置における置換基の他の適用可能な例は、(炭素数C1からC4のアルコキシ)−(炭素数C1からC4のアルキル基)である。前記C1からC4のアルコキシ(アルキルオキシ)及びC1からC4のアルキル基は、上記のアルキル基のいかなるものを含めてもよい。前記の望ましいC1からC4のアルコキシ−C1からC4のアルキル基は、メトキシエチル基である。図1中の構造式4を参照のこと。一つ以上のリボヌクレオチド部分を含むオリゴヌクレオチド分子であり、その2’位置をC1からC4のアルコキシ−C1からC4のアルキル基で置換された分子は、2’−O−(C1からC4のアルコキシ−C1からC4のアルキル基)RNA、例えば2’−O−メトキシエチルRNA(MOE RNA)と呼ばれる。
【0053】
修飾されたリボヌクレオチド部分の他の適用可能な例は、2’−酸素原子と4’−炭素原子との間でメチレン架橋を有するリボヌクレオチドである。図1中の構造式5を参照のこと。リボヌクレオチド部分を含むオリゴリボヌクレオチド分子であり、2’−酸素原子と4’−炭素原子との間でメチレン架橋を有する分子は、一般にロックされた核酸(LNA)と呼ばれる。それに関しては、例えば、Kurreckら、Nucleic Acid Res.30,1911−1918(2002);Elayadiら、Curr.Opinion Invest.Drugs 2,558−561(2001);Orumら、Curr.Opinion MoI.Ther.3,239−243(2001);Koshkinら、Tetrahedron 54,3607−3630(1998);Obikaら、Tetrahedron Lett.iP,5401−5404(1998)を参照のこと。ロックされた核酸は、Proligo社(Paris,France and Boulder,Colorado,USA)から購入可能である。
【0054】
修飾されたリボヌクレオチド部分の他の適用可能な例は、フルオロ基により2’位置を置換されたリボヌクレオチドである。そのような2’−フルオロリボヌクレオチド部分は、当業者に公知である。2’−フルオロリボヌクレオチド部分を含む分子は一般に、本発明において2’−フルオロリボ核酸(FANA)と呼ばれる。図1の構造式7、またDamhaら、J.Am.Chem.Soc.120,12976−12977(1998)を参照のこと。
【0055】
修飾された膵島マイクロRNA分子の他の実施態様において、前記分子は、アミノ酸残基に結合する一つ以上の塩基を含む。アミノ酸残基に結合する一つ以上の塩基を含む部分は、本発明において以下ペプチド核酸(PNA)部分と記す。そのような部分はヌクレアーゼ耐性であり、当業者に公知である。PNA部分を有する分子は一般にペプチド核酸と呼ばれる。図1中の構造式6、またNielson、Methods Enzymol.313,156−164(1999);Elayadiら、id.;Braaschら、Biochemistry 41,4503−4509(2002);Nielsenら、Science 254,1497−1500(1991)を参照のこと。
【0056】
アミノ酸はいかなるアミノ酸であってもよい。また、天然及び人工のアミノ酸を含む。天然アミノ酸はすなわち、通常タンパク質中に存在する20の一般のアミノ酸、例えばアラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)チロシン(Tyr)及びバリン(Val)を含む。
【0057】
上記の人工のアミノ酸としては、例えば、アルキル、アリール又はアルキルアリール基を含むアミノ酸である。アルキルアミノ酸の若干の実施例として、α−アミノブチル酸、β−アミノブチル酸、γ−アミノブチル酸、δ−アミノバレリン酸及びε−アミノカプロン酸が挙げられる。アリールアミノ酸の若干の実施例としては、オルト−、メタ−、パラ−アミノ安息香酸が挙げられる。アルキルアリールアミノ酸の若干の実施例としては、オルト−、メタ−、パラ−アミノフェニル酢酸及びγ−フェニルβ−アミノブチル酸が挙げられる。
【0058】
人工アミノ酸にはまた、天然アミノ酸の派生物も含まれる。前記天然アミノ酸の派生物には、例えば、一つ又は複数の化学基の付加した天然アミノ酸を含めることができる。
【0059】
例えば、一つ又は複数の化学基は、フェニルアラニン又はチロシン残基の芳香環の2’、3’、4’、5’若しくは6’の位置、又はトリプトファン残基のベンゼン環の4’、5’、6’若しくは7’の位置の一つ又は複数に付加させることができる。前記基は、芳香族環に付加することができるいかなる化学基も使用することができる。そのような基の例としては、ヒドロキシル、炭素数C1−C4のアルコキシ、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ニトロ、ハロ(すなわちフルオロ、クロロ、ブロモ又はヨード)又は分岐若しくは直鎖状の炭素数C1−C4のアルキル(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル又はt−ブチル)が挙げられる。
【0060】
人工アミノ酸の他の例としては、ノルバリン(Nva)、ノルロイシン(Nle)及びヒドロキシプロリン(Hyp)などを含む天然アミノ酸の派生物が挙げられる。
【0061】
前記アミノ酸は、同一であっても、又はそれぞれ異なる種類であってもよい。塩基は前記アミノ酸単位に、分子結合により付着する。前記分子結合の例としては、メチレンカルボニル、エチレンカルボニル及びエチル結合が挙げられる(Nielsenら、Peputide Nucleic Acid−Protocols and Applications,Horizon Scientific Press,pages 1−19;Nielsenら、Science 254:1497−1500)を参照。PNA部分のアミノ酸残基の一例としては、N−(2−アミノエチル)−グリシンが挙げられる。
【0062】
更に、PNA部分の例としては、シクロヘキシルPNA、レトロ−インベルソPNA、フォスフォンPNA、プロピオニルPNA及びアミノプロリンPNAが挙げられる。これらのPNA部分の詳細については、Nielsenら、Peputide Nucleic Acid −Protocols and Applications,Horizon Scientific Press,pages1−19の図5を参照のこと。前記Nielsenらの文献の7ページの図5は本発明において援用されている。
【0063】
PNAは、公知の方法、例えば修飾Fmoc又はtBocペプチド合成プロトコルにより化学的に合成することができる。前記PNAは多くの望ましい特性、例えば高い溶融温度(Tm)、核酸及び非荷電の基本分子との高い塩基対の特異性を有する。更に、前記PNAは前記標的RNAにRNAaseH感受性を与えず、また一般に良好な代謝安定性を有する。
【0064】
ペプチド核酸はまた、Applied Biosystems社(Foster City,California,USA)から購入可能である。
【0065】
修飾された膵島マイクロRNA分子の他の例において、前記分子は一つ以上のモルフォリノホスホロアミダートヌクレオチド部分を含む。モルフォリノホスホロアミダートヌクレオチド部分を含む分子は一般にモルフォリノ(MF)核酸と呼ばれている。図1中の構造式8、及びHeasman、Dev.Biol.243,209−214(2002)を参照のこと。モルフォリノオリゴヌクレオチドは、Gene Tools LLC(Corvallis,Oregon,USA)から購入可能である。
【0066】
修飾された膵島マイクロRNA分子の更なる例において、前記分子は、一つ以上のシクロヘキセンヌクレオチド部分を含む。シクロヘキセンヌクレオチド部分を含む分子は、シクロヘキセン核酸(CeNA)と呼ばれる。図1の構造式10、及びWangら、J.Am.Chem.Soc.122,8595−8602(2000)、Verbeureら、Nucleic Acid Res.29,4941−4947(2001)を参照のこと。
【0067】
修飾された膵島マイクロRNA分子の最終的な例において、前記DNAウイルスのマイクロRNA分子は一つ以上のトリシクロヌクレオチド部分を含む。トリシクロヌクレオチド部分を含む分子は一般的にトリシクロ核酸(tcDNA)と呼ばれる。図1中の構造式9、及びSteffensら、J.Am.Chem.Soc.119,11548−11549(1997)、Rennebergら、J.Am.Chem.Soc.124,5993−6002(2002)を参照のこと。
【0068】
分子は、キメラ修飾された膵島マイクロRNA分子であってもよい。前記部分のいずれかの混成物を含むキメラ分子はまた公知であり、公知の方法によって調製することができる。上記の文献及びWangら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA96,13989−13994(1999),Liangら、Eur.J.iochem. 269,5753−5758(2002),Lokら、Biochemistry41,3457−3467(2002)及びDamhaら、J.Am.Chem.Soc.120,12976−12977(2002)を参照のこと。
【0069】
本発明の修飾された膵島マイクロRNA分子は、配列番号:1から20に示される天然の膵島マイクロRNA分子の隣接する塩基配列のいずれかを有する、少なくとも10、好ましくは少なくとも13、より好ましくは、少なくとも15、更により好ましくは少なくとも20の隣接する塩基を含む。好ましい実施例において、前記修飾された膵島マイクロRNA分子は、配列番号:1から20に示される膵島マイクロRNA分子のいずれかの配列の完全な配列を含む。
【0070】
分子の部分の総数が50を上回らない限り、いかなる塩基配列も有するいかなる数の付加的な部分(最高40の部分)をも、隣接する塩基配列を含む部分に加えることができる。前記の付加的な部分は、隣接する配列の5’末端、3’末端又はその両方の端に付加することができる。前記の付加的な部分は、膵島マイクロRNAが誘導されるヘアピン前駆体又はそのフラグメントに存在する3’末端及び/又は5’末端の塩基配列を含むことができる。分子中の前記付加的な部分は、存在するときは、上記のいかなる修飾又は未修飾の部分であってもよい。
【0071】
前記の修飾された膵島マイクロRNA分子には、その均等物も含まれる。均等物には、上記のようなゆらぎ塩基及び非相補的な塩基が含まれる。
【0072】
更に、隣接する部分の中で、デオキシリボヌクレオチドの基本単位を含むものが50%、好ましくは30%を超えないのが望ましい。表4及び5は、各々の数の隣接する塩基におけるデオキシリボヌクレオチド基本単位の最大数を示す。
【0073】
もう一つの実施例では、上記のゆらぎ塩基対及び非相補的な塩基に加えて、天然の膵島マイクロRNA配列の位置11に対応する部分も付加、欠失又は変異であってよい。
【0074】
修飾された膵島マイクロRNA分子は、上記の通り単離、更には精製されているのが望ましい。
【0075】
(表4):デオキシリボヌクレオチド基本単位を含む隣接する部分の50%の数:
【表4】
(表5):デオキシリボヌクレオチド基本単位を含む隣接する部分の30%の数:
【表5】
【0076】
更に別の実施形態では、キャップは分子の一端に、両方の端に、及び/又は端との間に取り付けられ、それにより本発明に係る上記の修飾された膵島マイクロRNA分子又は修飾されていない単離されたDNA又はRNAのヌクレアーゼ耐性を増加させることができる。例えば、エキソヌクレアーゼ及び/又はエンドヌクレアーゼ耐性を増加させるのが望ましい。ヌクレアーゼ耐性を増加させるのに通常用いられる公知のいかなるキャップも使用することができる。
【0077】
この種のキャップの例としては、逆向きヌクレオチドキャップ及び化学修飾キャップが挙げられる。逆向きヌクレオチドキャップは、5’及び/又は3’端で取り付けることができる。化学修飾キャップは、分子の一端、両端及び/又は両末端の間に取り付けることができる。
【0078】
逆向きヌクレオチドキャップとは、修飾された膵島マイクロRNA分子又は修飾されていないDNA又はRNA分子の5’及び/又は3’末端に付着する、3’→5’の核酸配列を指す。その標的mRNAに膵島マイクロRNA分子又は単離されたDNA又はRNA分子の結合に干渉しない限り、前記逆向きキャップのヌクレオチドの数には特に上限がない。いかなるヌクレオチドも、逆向きヌクレオチドキャップに使用することができる。通常、前記ヌクレオチドキャップは、約40未満のヌクレオチド長、好ましくは約30未満のヌクレオチド長、より好ましくは約20未満のヌクレオチド長、更に好ましくは約10未満のヌクレオチド長である。典型的には、逆向きヌクレオチドキャップは、1ヌクレオチド長である。逆向きキャップ構造に用いられるヌクレオチドは通常チミンであるが、他のいかなるヌクレオチド(例えばアデニン、グアニン、ウラシル又はシトシン)でもよい。
【0079】
化学修飾キャップは、核酸のヌクレアーゼ耐性を増加させるための、いかなる公知の化学基のことを指す。そのような化学修飾キャップの例としては、ヒドロキシアルキル基(アルキルヒドロキシド)又はアミノアルキル基(アルキルアミン)が挙げられる。ヒドロキシアルキル基はしばしばアルキルグリコシル基(例えばエチレングリコール)と呼ばれる。アミノアルキル基はしばしばアミノリンカーと呼ばれる。
【0080】
ヒドロキシアルキル基又はアミノアルキル基中の前記アルキル鎖は直鎖型又は分岐型のいずれでもよい。前記アルキル鎖中に存在する最小の炭素原子数は、1であり、望ましくは少なくとも2であり、またより望ましくは少なくとも約3である。
【0081】
前記アルキル鎖に存在する最大炭素原子数は、約18、望ましくは約16、より望ましくは12である。典型的な前記アルキル基は、メチル、エチル及びプロピル基とを含む。前記アルキル基は、一つ以上の水酸基及び/又はアミノ基によって更に置換されることができる。
【0082】
アミノリンカーの幾つかを、表6に示す。表6にリストとして挙げられている前記アミノリンカーは、TriLink Biotechnologies社(San Diego,CA.)から購入可能である。
【0083】
単離されたマイクロRNP:
別の態様において、本発明は、上記の単離されたDNA又はRNA分子、又は上記の修飾された膵島マイクロRNA分子のいずれかを含む、単離されたマイクロRNPを提供する。
【0084】
アンチ−膵島マイクロRNA分子:
別の態様において、本発明は、アンチ−膵島マイクロRNA分子を提供する。アンチ−膵島マイクロRNA分子は、上記の単離されたDNA又はRNA分子、又は上記の修飾された膵島マイクロRNA分子のいずれかであってよい。ただし、アンチ−膵島マイクロRNA分子の塩基配列が、単離されたDNA若しくはRNA分子、又は修飾された膵島マイクロRNA分子の塩基配列と相補的である場合を除く。
【0085】
アンチ−膵島マイクロRNA分子の配列の実施例は、表7及び8に示される。
【0086】
(表6):TriLink Biotechnologies社のアミノリンカー
【表6】
【0087】
(表7及び8):アンチ−膵島マイクロRNA分子の塩基配列
【表7】
【表8】
【0088】
アンチ−膵島マイクロRNA分子は、修飾された膵島マイクロRNA分子への使用のために、上記のように修飾されてもよい。一つの例において、アンチ−膵島マイクロRNA分子の隣接する部分は、それに対応する膵島マイクロRNA分子と相補的である。前記アンチ−膵島マイクロRNAの相補性の程度は、付加、欠失及び変異に関する規定と同様に、ゆらぎ塩基対に関する規定を含め、上記の修飾した膵島マイクロRNA分子に対する規定と同じ規定に従う。
【0089】
好ましい実施態様において、アンチ−膵臓マイクロRNA分子が未修飾の部分のみを含む場合、アンチ−膵島マイクロRNA分子は少なくとも10の隣接する塩基中に少なくとも一つの塩基(それは膵島マイクロRNAと非相補的)及び/又は、化学キャップを含む。
【0090】
他の好ましい実施態様において、アンチ−膵島マイクロRNA分子に存在する隣接する少なくとも10の塩基が、膵島マイクロRNA分子と完全に相補的である(すなわち100%)場合は、アンチ−膵島マイクロRNA分子は、少なくとも10の隣接する塩基当たり少なくとも一つの修飾された部分、及び/又は、化学キャップを含む。
【0091】
更に別の実施態様では、天然の膵島マイクロRNAの位置11に対応する位置の、アンチ−膵島マイクロRNA分子における部分は、非相補的である。天然の膵島マイクロRNAの位置11に対応するアンチ−膵島マイクロRNA分子の部分は、上記の通り付加、欠失又は変異の導入によって非相補的にすることができる。
【0092】
用途:
本発明の膵島マイクロRNA分子及びアンチ−膵島マイクロRNA分子は、非常に多くのin vitro、in vivo、ex vivoの用途に使用可能である。
【0093】
例えば、本発明のマイクロRNA分子及び/又はアンチ−マイクロRNA分子は、マイクロRNAの機能を解析するために、細胞に導入することができる。前述のいかなる膵島マイクロRNA分子及び/又はアンチ−膵島マイクロRNAも、それらの機能を解明するために細胞に導入することができる。
【0094】
一つの実施態様において、細胞のマイクロRNAは、適切なアンチ−膵島マイクロRNA分子によって阻害される。あるいは、細胞の膵島マイクロRNA分子の活性は、一つ以上の添加されたマイクロRNA分子を細胞に導入することによって強化することもできる。マイクロRNAの機能は、細胞のマイクロRNAの活性の抑制及び/又は強化に関連する変化を観察することにより推定することができる。
【0095】
本発明の一態様において、本発明は、細胞のマイクロRNP活性を阻害する方法に関する。細胞のマイクロRNP活性を阻害する方法は、細胞内に一本鎖のアンチ−膵島マイクロRNA分子を導入する工程を含む。マイクロRNPは、膵臓マイクロRNA分子を含む。上記の規定を前提として、アンチ−膵島マイクロRNA分子が、マイクロRNPに存在する膵島マイクロRNAに相補的である限り、いかなるアンチ−膵島マイクロRNA分子も、細胞のマイクロRNP活性を阻害する方法に用いることができる。
【0096】
本発明のアンチ−膵島マイクロRNA分子は、宿主細胞のマイクロRNPの膵島マイクロRNAと結合することによって、マイクロRNP活性を阻害することができる。なお、マイクロRNP活性とは、標的配列の裂開又は翻訳の抑制を指す。前記標的配列は、膵島マイクロRNAの塩基配列と部分的に又は完全に相補的であるいかなる配列でもよい。前記標的配列は、例えばグルコース代謝を制御する遺伝子であってもよい。
【0097】
例えば、膵島細胞は、グルコースによって誘発されたインスリン分泌に関係する遺伝子と相補的であるマイクロRNAを生産することができる。マイクロRNPで包まれたマイクロRNA分子は、グルコースによって誘発されたインスリン分泌の効果を顕著に阻害する。したがって、アンチ−マイクロRNA分子の導入は、マイクロRNP活性を阻害し、その結果、遺伝子の機能を復元することによって、危害を減らす。
【0098】
あるいは、前述のアンチ−マイクロRNA分子を導入する代わりに、マイクロRNA分子を膵島細胞に添加してもよい。それにより、グルコースにより誘発されるインスリン分泌のための遺伝子の発現が阻害される。その結果、細胞がグルコースに反応してインスリンを分泌する能力を減少させることができる。マイクロRNA分子及び/又はアンチ−マイクロRNA分子は、いかなる公知の方法によっても細胞に導入することができる。例えば、マイクロインジェクションのような方法により、マイクロRNA分子及び/又はアンチ−マイクロRNA分子を直接細胞に注射注入することができる。あるいは、好ましくは輸送システムの補助を伴いながら、前記分子を細胞と接触させることができる。
【0099】
使用可能な輸送システムは、例えば、リポソーム及び荷電した脂質が挙げられる。リポソームは、典型的には、それらの中心の水相中にオリゴヌクレオチド分子を封じ込める。荷電した脂質は、反対の電荷を持つ結果として、一般に脂質−オリゴヌクレオチド分子複合体を形成する。
【0100】
これらのリポソーム−オリゴヌクレオチド分子複合体又は脂質−オリゴヌクレオチド分子複合体は、通常エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれる。リポソーム又は荷電した脂質は、一般に、エンドソームの膜を崩壊し、オリゴヌクレオチド分子を放出するヘルパー脂質を含む。
【0101】
マイクロRNA分子又はアンチ−マイクロRNAを細胞に導入する他の方法には、例えばデンドリマー、生分解性ポリマー、アミノ酸ポリマー、糖ポリマー及びオリゴヌクレオチド結合性ナノ粒子などの輸送手段の使用法が含まれる。加えて、貯蔵手段としてプルロニック(登録商標)のゲルを用い、長期間にわたるアンチ−マイクロRNAのオリゴヌクレオチド分子の輸送を可能にすることができる。上記方法は、例えば、Hughesら、Drug Discovery Today 6,303−315(2001);Liangら、Eur.J.Biochem.269 5753−5758(2002);Beckerら、In Antisense Technology in the Central Nervous System(Leslie,R.A.,Hunter,A.J.&Robertson,H.A.,eds),pp.147−157,Oxford University Pressに記載されている。
【0102】
特定の細胞に対するマイクロRNA分子又はアンチ−マイクロRNA分子のターゲティングは、いかなる公知の方法によっても行うことができる。例えば、マイクロRNA分子又はアンチ−マイクロRNA分子は、細胞上のレセプタによって特に認識される抗体又はリガンドとコンジュゲートことができる。例えば、リガンドを、膵臓ベータ細胞にて発現するGLP−レセプタと結合するGLP−I(グルカゴン様ペプチド)とすることができる。あるいは、GLP−Iに対する抗体も使用可能である。
【0103】
他の実施形態では、本発明は、哺乳類の患者の糖尿病を治療する方法を提供する。前記方法は、配列番号41又は51に示される配列を有する少なくとも10の隣接するベースを有するアンチ−膵島マイクロRNA分子の有効量を哺乳類に導入する工程を含む。前記有効量を、医師及び臨床医に公知の方法によって、臨床前及び臨床試験中に決定することができる。
【0104】
アンチ−膵島マイクロRNA分子は、当業者に公知のいかなる方法によっても、哺乳類に導入することができる。例えば、アンチ−膵島分子を細胞にもたらす上記の方法を、前記分子を哺乳類に導入するために用いることができる。
【0105】
分子は、いかなる公知の方法によっても哺乳類に投与することができる。適切な投与方法の若干の例としては、経口投与と全身投与とが挙げられる。全身投与としては、腸内又は非経口的な投与方法が可能である。液体又は固体状(例えば錠剤、ゼラチン・カプセル)の製剤を使用することができる。
【0106】
分子の非経口投与は、例えば静脈、筋肉、又は皮下への注射を含む。例えば、公知のように分子は、徐放出性投与によって哺乳類に投与されることができる。徐放出性投与は、一定期間にわたる薬の一定レベルを維持させる薬剤輸送の方法である。
【0107】
他の投与のルートとしては、口頭、局在、気管支内、又は鼻腔内への投与が含まれる。経口投与のために、液体又は固体状の製剤が使用可能である。経口投与に適している製剤の若干の例として、錠剤、ゼラチン・カプセル、ピル、トローチ、エリキシル、サスペンション、シロップ及びウェーハが挙げられる。気管支内投与では、吸入器スプレーを使用することができる。また、鼻腔内投与による本発明の分子の投与は、ネビュライザ又は液霧によっ行うことができる。
【0108】
本発明の分子は、適切な薬剤担体中に含有させることができる。本発明における薬剤担体とは、従来技術において当業者によって理解されているように、賦形剤(vehicle又はexcipient)と同義であると解される。担体の例としては、澱粉、牛乳、糖、特定の種類の粘土、ゼラチン、ステアリン酸若しくはその塩、ステアリン酸のマグネシウム又はカルシウムによる塩、タルク、植物性脂肪若しくは油、ガム及びグリコールが挙げられる。
【0109】
薬剤担体は、また、以下の一つ又は二つ以上を含むことができる:安定化剤、界面活性剤(好ましくは非イオン系界面活性剤)、また任意に塩及び/又はバッファー。安定化剤は、例えばグリシンなどのアミノ酸、例えば蔗糖、テトラロース、ラクトース又はデキストランなどのオリゴ糖類が使用可能である。あるいは、前記安定化剤は糖アルコールであっても良く、例えばマンニトール又はその組合せがよい。好ましくは、安定化剤の重量は、分子の重量に対して約0.1から約10重量%である。
【0110】
界面活性剤は、好ましくは非イオン系界面活性剤(例えばポリソルベート)である。適切な界面活性剤の若干の例としては、Tween20、Tween80;ポリエチレングリコール又はプルロニックF−68などのポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを約0.001%(w/v)から約10%(w/v)含有させるのが望ましい。
【0111】
塩又はバッファー試薬はそれぞれ、例えば塩化ナトリウム又はナトリウム/リン酸カリウムのようないかなる塩又はバッファー試薬も使用可能である。望ましくは、バッファー試薬は、本発明の分子のpHを約5.5から約7.5の範囲でを維持するものが望ましい。塩及び/又はバッファー試薬はまた、浸透圧のレベルを哺乳類への投与に適する形に保つのに役立つ。前記塩又はバッファー試薬は、約150mMから約300mMの範囲でほぼ等張である形で存在するのが望ましい。
【0112】
前記薬剤担体は、一つ又は二つ以上の従来公知の添加剤を追加的に含有させることができる。このような添加剤の若干の例としては、例えばグリセロールのような可溶化剤;例えば塩化ベンザルコニウム(第四アンモニウム化合物の混合物で、「クォート」として公知)、ベンジルアルコール、クロレトン又はクロロブタノールなどの酸化防止剤;例えばモルヒネ誘導体などの麻酔の薬品;又は上記のような等張な試薬が挙げられる。酸化又は他の損傷に対する更なる予防措置として、分子は、非浸透性のストッパーでシールしたバイアル中で、窒素ガス充填下で格納するのが望ましい。
【実施例1】
【0113】
材料及び方法
マイクロRNAのクローニング及びノーザンブロッティング分析:
MIN6細胞培養から600μgの全RNAを、TRIZOL試薬(Invitrogen社)を使用して抽出し、前述した方法(ラゴス−キンタナ(Current Biol.))によりmiRNAクローニングを行った。アンチセンスプローブを、クローニングされたmiRNA配列と相補的になるように設計し、前述(ラゴス−キンタナ(Current Biol.))のとおり、ノーザンブロット分析に使用した。
【0114】
細胞培養:
MIN6細胞を、25mMのグルコース、15%の胎児のウシ血清及び5.5のμM 2−メルカプトエタノールを含むDMEM培地で培養した。N2A細胞を、25mMのグルコース及び10%の胎児のウシ血清を含むDMEM培地で培養した。
【0115】
インスリン分泌の解析:
MIN6細胞を、2日間24−ウェルプレートで培養し、分析の前に修飾されたクレブス−リンゲル緩衝液(KRBH)(0.9mMのCaCl2、2.68mMのKCl、1.46mMのKH2PO4、0.5mMのMgCl2 6H2O、135mMのNaCl、8mMのNa2HPO4x7H2O、20mMのHepes及び0.2%のBSA)で洗浄した。5.5mMのグルコースを含むKRBHにて30分予備培養の後、細胞をリンスし、2.8mMのグルコース、25mMのグルコース、30mMのKCl、500mMのトルブタミド又は5mMのメチルピルビン酸塩を含有するKRBHにて60分間インキュベートした。上澄み中のインスリン濃度は、RIA(Linco Research)を用いて測定した。
【0116】
組換えアデノウイルスの生成:
miR−375の過剰発現に使用する組換えアデノウイルスを、次のプライマーを用いたmiRNA前駆体配列のPCRにより増幅した:5’−CCCCAAGGCTGATGCTGAGAAGCCGCCCC−3’及び5−GCCGCCCGGCCCCGGGTCTTC−3’。得られた断片をpcDNA3(Invitrogen社)にサブクローニングし、HindIII及びXbaI処理の後、Ad5CMV−K NpAシャトルベクターに挿入した。アデノウイルスの増幅は、Viraquest社(North Liberty、IA)にて行われた。トランス遺伝子を含まないAd−GFP(ViraQuest社)をコントロールとして使用した。
【0117】
電気生理学的特性及びCa2+測定:
エキソサイトーシス及び内部のCa2+電流の測定は、単層状に分散した、コントロールGFP−又はmiRNA208−GFPを含むアデノウイルスへの感染後24時間経過したB細胞を用い、標準のパッチクランプ法により行われた。エキソサイトーシスを、Pulse(Heka Electronics、Lamprecht/Pfalz(ドイツ))のソフトウェアに基づくlock−inの実施により、細胞静電容量の変化として検出した。印加正弦波は、500Hzの周波数及び20mVのピーク振幅であった。Ca2+電流は、p4のプロトコルに基づき、電流リーク及び容量過渡をデジタル的に除去した後の数値を測定した。細胞外溶液は、118mMのNaCl、20mMのテトラエチルアンモニウム塩酸塩(TEACl)、5.6mMのKCl、2.6mMのCaCl2、1.2mMのMgCl2、5mMのグルコースを有する5mMのHEPES(pH=7.4)を含有する溶液とした。電位固定脱分極によってエキソサイトーシスを生じさせる実験において、細胞内液は、125mMのCs−グルタミン酸塩、10mMの塩化セシウム、10mMのNaCl、1mMのMgCl2、5mMのHEPES(CsOHを有するpH=7.15)、0.05mMのEGTA、3mMのマグネシウム−ATP及び0.1mMのサイクリックAMPを含有する溶液とした。一連の実験において、エキソサイトーシスは、125mMのCs−グルタミン酸塩、10mMのKCl、10mMのNaCl、1mMのMgCl2、3mMのマグネシウム−ATP、0.1mMのcAMP、10mMのHEPES、10mMのEGTA及び9mMのCaCl2を含有する溶媒により細胞内部を透析して行った。細胞フリーな溶液のCa2+濃度を1.5μM.と推定した。機能的にα−及びβ−細胞と識別され多細胞にて実験を行った。その細胞の識別は、公知の方法により決定した。
【0118】
細胞内のフリーのCa2+の濃度([Ca2+])を、他で記載されている通り、二重励起波長による蛍光分光測定により測定した。トランスフェクションする膵島細胞は、37°Cで、40分の間、0.007%のw/vのプルロニック(pluronic)酸(分子プローブ)の存在下、3μMのfura−2と共に散布した。色素を350nm及び365nmで励起した。後者の波長が380nmでないのは、GFPの励起を回避するためである。発光を510nmにて集光した。実験中、膵島細胞は、保持ピペットによって適当な状態に保たれて、140mMのNaCl、3.6mMのKCl、2mMのNaHCO3、0.5mMのNaH2PO4、0.5mMのMgSO4、2.6mMのCaCl2、5mMのHEPES(NaOHによるpH=7.4mM)及び5mMのグルコースを含有する溶媒で、連続的に灌流した。グルコース濃度は15mMまで増加し、スルフォニル尿素トルブタミド濃度が0.1mMになるまで上記のように添加した。膵島細胞が高い細胞外K+(KClが加えた30mM)によって脱分極するときは、等浸透性を維持するため、NaClの濃度をそれ対応して減少させた。電子生理的実験及びCa2+測定は全て32から34℃にて行った。
【0119】
膵島細胞の感染及びCa2+インジケータを伴うローディングを、共焦顕微鏡検査により、fura−2ではなくfluo−3を使用して評価した。eGFP及びfluo−3の励起は、Zeiss LSM510顕微鏡(Carl Zeiss、イェナ、ドイツ)の488nmの種類の機器を使用して行った。共焦顕微鏡のMETA機能を用いて分光し、水浸にて40倍で顕微鏡観察した。
【0120】
ルシフェラーゼ活性の分析:
野生型マウスのミオトロフィンの3’UTR標的部位を、以下のプライマー:
5’TCCATCATTTCATATGCACTGTATC3’及び
5’TCATATCGTTAAGGACGTCTGGAAA3’
を使用してPCR増幅し、pCR2.1TOPO(Invitrogen社)にサブクローニングした。得られた断片をSpeI及びXbaI処理により単離し、pRL−TK(プロメガ社)の停止コドンのすぐ下流にサブクローニングした。このコンストラクトは、プロトコル(Stratagene)に従い、以下のプライマー:
5’AAGTTTCGTGTTGCAAGCCCCCCTGGAATAAACTTGAATTGTGC3’、及び
5’GCACAATTCAAGTTTATTCCAGGGGGGCTTGCAACACGAAACTT3’
を使用した、変異体マウスミオトロフィンプラスミドの調製に使用した。下線は、突然変異するヌクレオチドを示す。MIN6細胞を2日間、24ウェルプレートで培養し、Rr−hxcをコードしているpRL−TKリポーターベクター0.4μg、及び0.1μgのPp−luc(プロメガ社)をコードしているpGL3コントロールベクターによってトランスフェクションした。細胞をトランスフェクション後30−36時間にて回収し、試験に使用した。
【0121】
miR−375の標的の同定:
miR−375の標的を同定するために、最近開発されたアルゴリズム(N.Rajewsky及びN.D.Socci、Developmental Biology 267、529−535の(2004))を使用した。前記アルゴリズムは以下の二つのステップを含む。
(a)mRNAの3’UTRにおける、マイクロRNA及び推定の標的配列の間で保存されているGCリッチな連続的な相補的基礎配列(「核」)の検索、及び
(b)予測されたマイクロRNA:mRNAデュプレックスの自由エネルギーのin silicoによる評価。
アルゴリズムをRefseqデータセットに適用した。3’UTRは、Refseqアノテーションから抽出した。このデータセットは、18199のヒト、及び13371のマウスの3’UTRであり、少なくとも30のヌクレオチド長を有するものを含む。「Jackson lab orthology table of 9612 human/mouse orthologs」を使用し、一組のオルトログの3’UTRを構築した。Lewis BP,Shih IH,Jones−Rhoades MW,Barrel DP,Burge CB,Prediction of mammalian microRNA targets.Cell 787−98(2003)に従い、核の位置を、マイクロRNAの5’末端から2塩基内部に制限した。ヒットした上位8%を保持しながら、上記(a)による核スコアを決定した。これらのヒットは、その後MFOLD(Zuker,NAR 3406−15,2003、Rajewsky and Socci for details)を用い、予測されたmRNA:miRNAデュプレックスの自由エネルギーによって記録された。
【0122】
siRNA及び2’−O−メチルオリゴリボヌクレオチド:
合成マイクロRNA及びsiRNAは、Dharmacon Research(Lafayette社)によって合成された。siRNA SMARPOOLsは、マウスミオトロフィン(NM_008098)及びマウスVti1A(NM_016862)の配列から設計した。全ての2’−O−メチルオリゴリボヌクレオチドは、公知技術(Meisterら、RNA)の方法により合成した。全ての試薬は、200nMの濃度でLipofectamine 2000(Invitrogen社)を使用してMIN6細胞にトランスフェクションした。
【0123】
抗体:
ウエスタンブロット法のための抗体を、幾つかの異なる供給源から得た:α−myotrophin(マサト・タオカ氏による寄付)、α−Vti1(BD Transduction Laboratoriesより)、α−p38 MAPK(Cell Signalingより)、α−MCT8(Andrew Halestrapによる寄付)、α−TATAボックス結合タンパク質(R.Roeder氏による寄付)。
【0124】
ノーザンブロット法:
全RNAは、TRIZOL試薬(Invitrogen社)を使用して抽出され、15%のポリアクリルアミン又はアガロースゲルにローディングされた。電気泳動後、RNAをHybond膜(アマシャム社)に転写し、プローブと反応させた。マウスミオトロフィンと反応するDNAプローブは、以下のプライマー:
5’GTGGGCCCTGAAAAACGGAGACTTG3’、及び
5’CCCTTTGACAGAAGCAATTTCACGC3’
を使用して調製した。
【実施例2】
【0125】
膵島細胞マイクロRNA:
マイクロRNAを、MIN6細胞(グルコース応答性ネズミ膵臓β細胞系)からクローニングした。合計301のマイクロRNAクローンを得たが、そのうち55は異なるマイクロRNAであった。前記の55の異なるマイクロRNAの中で、既に公表されているマイクロRNAは92%を占め、残りの8%は未確認のマイクロRNAであった。公知の及び新規のmiRNAは、Blast配列分析によってさまざまなゲノム・データベースにおいて同定され、種間ホモロジー及び典型的ヘアピン前駆体構造を形成する能力によって確認された。
【0126】
合計9つの新規なマイクロRNAを同定した結果、単一のマイクロRNA(miR−375)が全ての新規なクローンの50%以上を占めていた(図2A)。次に、ノーザンブロット分析によって新規なマイクロRNAの発現を解析した。マイクロRNA375及び376のみ、MIN6細胞及び膵島のノーザンブロット分析によって検出された(図2B)。両方のマイクロRNAの発現は、MIN6細胞及び膵島に限定されており、肝臓、肺、腸、脳、腎臓及び精巣等の他の組織では検出されなかった。(図2B、C)これらのデータは、新規な膵島マイクロRNAの同定を示唆するものである。
【実施例3】
【0127】
miR−375による分泌阻害活性:
高い表現レベル及び膵臓β−細胞における組織特異性を有するマイクロRNAの機能を解析するため、マイクロRNA−375及び−376に相同な配列を有する合成siRNAを用いて、MIN6細胞をトランスフェクションした後の、グルコース誘導によるインスリン分泌を解析した。siRNAに加えて、CMVプロモータの制御下でヒト成長ホルモン(hGH)遺伝子を発現するベクター(CMV−hGH)をコトランスフェクションした。追加的に発現したhGHは、膵臓β−細胞系の分泌顆粒の標的とされ、エキソサイトーシスの起動後にインスリンと共放出されることが開示されている。この方法によって、一過性にトランスフェクションするMIN6細胞(トランスフェクション効率20−30%)から選択的にエキソサイトーシスをモニターすることが可能となる。ポジティブ及びネガティブのコントロールとして、グルコキナーゼ遺伝子(Gck)又はアポリポタンパク質M(apoM)(膵臓β−細胞において発現しない遺伝子)を標的とするsiRNAを、MIN6細胞にCMV−hGHによってコトランスフェクションした。
【0128】
25mMのグルコース刺激に応答する成長ホルモン分泌は、si−Gck及びsi−375によってトランスフェクションした細胞において顕著に減少した(図3)。apoM又はsiRNAに向けられた、miR−376、miR−124、−129、−130及び210等の幾つかの他のマイクロRNAに相同な合成siRNAのトランスフェクションによっては、基礎的、又はグルコース刺激によるインスリン分泌に影響を及ぼさなかった(図3、データ示さず)。
【0129】
アンチセンスベースの戦略は、特に培養細胞におけるmiRNA機能を阻害することが近年開示されている。ヌクレアーゼ耐性の、miR−375に対する2’−O−メチルアンチセンスオリゴリボヌクレオチドをCMV−hGHベクターとコトランスフェクションし、グルコースによる刺激に応答したインスリン分泌を解析した。コントロールのアンチ−GFP 2’−O−メチルオリゴリボヌクレオチド(図3B)と比較して、アンチ−miR−375によってトランスフェクションした細胞においてグルコースを刺激によるインスリン分泌の増加が見られた。以上のデータより、miR−375がインスリン分泌の抑制剤であることが示された。
【0130】
次に、CMV5プロモータの管理下で、前駆体配列を含む123bp断片のクローニングによって、miR−375を発現する組換えアデノウイルスを調製した。HEK細胞をコントロールのeGFP(Ad−GFP)を発現するアデノウイルスに感染させ、そこにおいてAd−375分子の濃度の増加による、miR−375の発現のドーズディペンデントな増加を示した。同様に、アデノウイルスによる感染技術を使用し、MIN6細胞にてmiR−375を発現させた。miR−375を発現しているMIN6細胞は、コントロールのアデノウイルスに感染した細胞と比較して、グルコースによって誘発されるインスリン分泌の40%の減少が見られた(図4)。このインスリン分泌の減少は、不完全なインスリン生産によるようには見られなかった。なぜなら、Ad−375及びAd−eGFPに感染したMIN6細胞、並びに膵島細胞におけるインスリン含有量が同じであったためである。
【実施例4】
【0131】
細胞内カルシウムシグナリング及び全細胞のカルシウム電流:
解糖系の流れ及びミトコンドリア酸化的リン酸化の増加は、サイトゾル中のATP/ADP比率の増加を経たATP−感受性カリウムチャネル(KATP)の遮断を誘導し、グルコース誘発によるインスリン分泌への第2のシグナルを発生させるために必要となる。これにより、膜脱分極及び電位依存的なCa2+チャネルを通したCa2+の流入が生じる。[Ca2+]の上昇が、インスリン顆粒エキソサイトーシスには必要である。グリベンクラミドのようなスルフォニルウレアは、直接KATPを遮断することによって、インスリン分泌を促進する。KClにより膵臓β−細胞の直接的な脱分極が生じ、インスリン顆粒の脱顆粒が最大となる。トルブタミド及びKClの刺激による、Ad−375感染MIN6細胞のインスリン分泌を測定した。これらの分泌促進物質を用いた膵臓β−細胞の刺激は、Ad−eGFP感染細胞と比較したAd−375感染細胞におけるインスリン分泌の障害を示した。更にAd−375の発現により、Ad−eGFP感染MIN6細胞と比較した、GLP−1(キャンプの起動によるインスリン分泌の強力なグルコースに依存する刺激)に応答したインスリン分泌が阻害されることが確認された。これらのデータは、miR−375の過剰発現がインスリン分泌の末梢部のステップを含む欠陥につながることを示唆するものである。そこにおいて、膵臓β−細胞の細胞質のCa2+濃度の上昇に影響を及ぼすか、エキソサイトーシスに対して干渉することが考えられる。
【0132】
miR−375がインスリンエキソサイトーシスを起動させるのに必要となる第2のシグナルの発生を阻害するか否かを解析するため、Ad−375又はコントロールのAd−eGFPに感染した膵島細胞の細胞内Ca2+濃度[Ca2+]iを測定した。各々の膵島細胞は刺激され、3つの異なる刺激によって細胞内Ca−濃度を増加させた。グルコース濃度を5mMから15mMまで増加させ、コントロール及びAd−375を発現する膵島細胞のCa2+濃度の変化を観察した。トルブタミドによる刺激において、同様の変動が観察された。静止状態での[Ca2+]iは、コントロール及びAd−375を発現している膵島細胞でそれぞれ0.13+0.01μM及び0.12±0.01μM(平均)であった。15mMのグルコースが存在する場合には、[Ca2+]iの時間平均は、コントロールの膵島細胞における0.42±0.12μMに対し、Ad−375を発現する膵島細胞では0.39+0.05μMに達した。トルブタミドが存在する場合には、対応する値は、コントロールの膵島細胞において0.53+0.11μM、及びAd−375感染膵島細胞において0.55±0.11μMであった。最後に、高い細胞外K+による脱分極は、コントロール及びAd−375感染膵島細胞において同様に増加し[Ca2+]iのピークの平均はそれぞれ0.85+0.24μM及び1.01+0.31μMであった(データ示さず)。質的に類似した結果が、非定量的な染料であるfluo−3を使用した実験により得られた(上記参照)。更に、eGFPを発現している単離された細胞を測定したときには、同様のグルコースに対する反応の違いが観察されなかった(感染していない下層の細胞層による数値は除外される(データ示さず))。膵島細胞周辺部は、非β−細胞において肥大していた。しかしながら、変動が5mMのグルコースで観察されず、15mMにて[Ca2+]iが増加したという事実は、δ−細胞が低い濃度で既に活性であり、またα−細胞は高い濃度で阻害されるゆえに、β−細胞の豊富なゾーンを選択するに至ったことを示唆するものである。
【0133】
MIN6細胞及び単離された膵島細胞からの調整されたインスリン分泌の制御は、miR−375の発現が[Ca+2]iシグナリングの下流(おそらくはエキソサイトーシスのレベル)におけるインスリン分泌に影響を及ぼすことを示唆する。この仮説を検討するために、機能が同定されたβ−細胞に静電容量測定を適用した。エキソサイトーシスは、0mVから−70mVまでの脱分極を1Hz、500msにて10回行った(図3A)。左記操作により、β細胞において、一定条件の下で837±244fF(n=9)の膜静電容量の増加を誘発した。Ad−375感染細胞においては、それに対応する増加は94±27fF(85%減少)に留まった(n=10;P<0.01)。同様の結果が、一旦エキソサイトーシスがその代わりに1.5のμM(図2DからE)のフリーなCa2+濃度を有するCa2+/EGTA−バッファーによって誘発された場合に得られた。また、これらの実験で、Ad−375感染細胞は、コントロールの細胞と比較し静電容量の増加率が63%減少した(P<0.001;n=15〜17)。
【実施例5】
【0134】
標的遺伝子の同定:
多数のゲノム全体に保存されているマイクロRNAの標的を予測するために、RNA:RNAデュプレックス相互作用の熱力学に基づくモデリングを、配列の比較分析と結合するアルゴリズムを適用した。miR−375標的遺伝子の64の推定のリストの中から、インスリン分泌/膵島分化におけるそれらの潜在的役割に基づいて6つの遺伝子を選択し、試験に用いた。
【0135】
それらの遺伝子は、frizzledホモログ−4(Fzd4)、t−SNAREs酵母ホモログIA(Vti−1a)と相互作用する小胞輸送に係るタンパク質、V−1/ミオトロフィン(V−1/Mtpn)、p38有糸分裂促進プロテインキナーゼ(Mapk11)、モノカルボン酸輸送体8(Slc16A2)及び対状のボックスタンパク質Pax−6の遺伝子であった。これらの遺伝子の発現を、Ad−375又はAd−eGFPに感染したMIN6及びN2A細胞において、イムノブロッティングにより解析した。内在性miR−375を発現しないN2A細胞におけるmiR−375の発現は、Mtpn及びVti−1aの発現レベルの減少につながった(図4A、B)。
【0136】
対照的に、Fzd4、Mapk11及びSlc16A2の遺伝子発現はAd−375及びAd−eGFPに感染した細胞において同様であった。組換えアデノウイルスAd−375によるMIN6細胞におけるmiR−375の過剰発現は、Mtpnのタンパク質レベルを低下させたが、Vti−1a、Fzd4、Mapk11及びSlc16A2の発現には影響を及ぼさなかった。
【0137】
Mtpn mRNAの3’UTRにおける予測されたmiR−375目的部位が、miR−375によるMtpn発現のサイレンシングに関与するか否かを解析するため、RenillaルシフェラーゼORF(pRL−Mtpn)の下流に推定3’UTR標的部位を含む289ntの3’UTR部分をクローニングし、このレポーターベクターを、コントロールのアンチセンス2’−O−メチルオリゴリボヌクレオチド、又はmiR−375のアンチセンスの2’−O−メチル・オリゴリボヌクレオチド(2’−O−miR−375)と共に、MIN6細胞へコトランスフェクションした。2’−O−miR−375によってトランスフェクションした細胞のルシフェラーゼ活性は、コントロールの2’−O−miRNA及びpRL−Mtpnによってコトランスフェクションした細胞と比較して2倍増加していた。更に、miR−375標的部位の中心に点変異を導入することにより、内在性miR−375及びV−1/ミオトロフィン標的部位間の相補性が減少し、2’−O−miR−375によるルシフェラーゼ活性の刺激効果が損なわれた(図5)。以上より、Mtpnは膵臓β−細胞miR−375の標的であり、Mtpn遺伝子発現の抑制は、Mtpn遺伝子の3’UTRの単一のmiR−375目的部位によって調節されることが明らかとなった。
【0138】
MIN6細胞のMtpnの発現減少が、Ad−375感染細胞において観察されるグルコース誘発によるインスリン分泌の減少に関与するか否かを解析するために、MIN6細胞をアポリポタンパク質M(コントロール)及びMtpnを標的とするsiRNAによりトランスフェクションし、タンパク質表現レベルをウェスタンブロッティングにより解析した。Mtpn及びVti1aを標的としているsiRNAは、これらの遺伝子の発現を50%以上減少させた(図4C)。グルコース誘発によるインスリン分泌におけるこれらの遺伝子のサイレンシングの効果を、それぞれのsiRNA及びプラスミドpCMV−hGHのコトランスフェクションにより解析した。25mMのグルコース添加に応答するインスリン分泌を、トランスフェクションの2日後に測定した。コントロールのsiRNAによってトランスフェクションした細胞と比較して、Mtpnを標的とするsiRNAによってトランスフェクションした細胞のインスリン分泌は、30%減少していた(図4D)。なお、Vti1aのRNAサイレンシングは、グルコース誘発によるインスリン分泌に影響を及ぼさなかった。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】図1は、本願明細書で言及する修飾されたヌクレオチド単位を示す。Bは、次の核酸塩基のいずれか一つを意味する:アデノシン、シチジン、グアノシン、チミン又はウリジン。
【図2A】図2は、マウスmiR−375の前駆体の構造予測及び組織発現を示す。RNAの二次構造予測は、Mfold version3.1を使用して行った。下線部はmiRNA配列である。完全なホモロジーが、マウス及びヒト配列の間に見られた。
【図2B】miR−375及び376の組織における発現を示す。マウス組織から全RNA(30μg)をノーザンブロットのために単離し、miRNAのプローブとした。
【図2C】膵島、MIN6細胞及び膵臓全体から全RNA(10μg)を精製し、ノーザンブロットを行った。マウス膵島において高い発現レベルが検出された。tRNAを、コントロールとしてローディングした。
【図3A】miR−375による分泌抑制作用を示すグラフ。MIN6細胞をトランジェントにコトランスフェクションした。CMV−hGH及びβ−galをコードする100ngのプラスミドDNA、miRNA 375に相応する配列を有する合成siRNA、グルコキナーゼ又はルシフェラーゼ(それぞれsi−375、siRNA−Gck及びsiRNA−lucと表記)を使用。
【図3B】miR−375(2’−O−メチル−375)と相補的な2’−O−メチル・オリゴリボヌクレオチド又はコントロールの2’−O−オリゴリボヌクレオチド(2’−O−メチルGFP)を使用した試験結果のグラフを示す。48時間後、細胞をグルコース濃度の低い(2.8mM)及び高い(25mM)条件下でインキュベートした。これらの条件下に分泌されるhGHの量をELISAで測定し、β−gal活性により標準化した(*:P<0.05,**:P<0.01)。
【図4A】miR−375の標的遺伝子の同定を示す。MIN6細胞は、48時間、Ad−miR−375の感染を受けた。溶解後、サンプルをSDS−PAGEによって分子し、α−Mtpn、α−Vti1a又はa−TATAボックス結合タンパク質(Tbp)(コントロール)によってイムノブロットした。
【図4B】miR−375の標的遺伝子の同定を示す。試験はN2A細胞を使用して再度行われた。
【図4C】MIN6細胞を48時間、Mtpn(siRNA−Mtpn)又はVti1a(siVti1a)に対して作用するよう設計したsiRNAによってトランジェントにトランスフェクションし、溶解させ、SDS−PAGEによる分析の後、サンプルをMtpn又はVti1aを用いてイムノブロッティングした。
【図4D】MIN6細胞を、si−375、si−Mtpn又はsi−Vti1aによってトランジェントにトランスフェクションし、48時間後、細胞をグルコース濃度の低い(2.8mM)及び高い(25mM)条件下でインキュベートした結果のグラフを示す。これらの条件下に分泌されるhGHの量をELISAで測定し、β−gal活性により標準化した(*:P<0.05,**:P<0.01)。
【図5A】Mtpnの3’UTRにおけるmiR−375標的部位は、miR−375によって遺伝子発現の抑制に重要であることを示す。Renillaルシフェラーゼの3’UTRの中に挿入される、ミオトロフィンの3’UTR中の標的部位の配列。変異体(Mtpn−MUT)の配列は、miR−375の5’末端の5つの点変異(太字)を除いて、野生型(Mtpn−WT)と同一である。
【図5B】MIN6細胞を、レポーターコンストラクトであるmiR−375(2’−O−メチル−375)と相補的な2’−O−メチルオリゴリボヌクレオチド、又はコントロールの2’−O−オリゴリボヌクレオチド(2’−O−メチルGFP)によってトランジェントにトランスフェクションした。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:1から20のいずれかに示される膵島マイクロRNAの塩基配列(ただし、塩基の30%までがゆらぎ塩基であり、塩基の10%までが非相補的である場合を除く)を有する、少なくとも10の隣接する塩基を含む、単離されたDNA又はRNA分子。
【請求項2】
更に5’末端に及び/又は3’末端に、配列番号:21から40に示されるヘアピン前駆体配列のいずれか一つ又はそのフラグメントに存在する塩基配列を含む、請求項1に記載の単離された分子。
【請求項3】
ヘアピン前駆体の配列が、膵島マイクロRNAに存在する配列である、請求項2に記載の単離された分子。
【請求項4】
膵島マイクロRNAがベクターに組み込まれている、請求項3に記載の単離された分子。
【請求項5】
単離された分子がDNA分子である、請求項1に記載の単離された分子。
【請求項6】
単離された分子がRNA分子である、請求項1に記載の単離された分子。
【請求項7】
単離された分子が更にキャップを含む、請求項1に記載の単離された分子。
【請求項8】
キャップが逆向きのヌクレオチドキャップである請求項7に記載の単離された分子。
【請求項9】
キャップが化学キャップである請求項7に記載の単離された分子。
【請求項10】
単離された分子が実質的に、配列番号:1から20に示される膵島マイクロRNAの配列のいずれか一つを含む、請求項1に記載の単離された分子。
【請求項11】
単離された分子が実質的に、配列番号:21から40に示される膵島マイクロRNAの配列のいずれか一つを含む、請求項1に記載の単離された分子。
【請求項12】
修飾された一本鎖膵島マイクロRNA分子であり、その基本分子上に最低10の部分、最高50の部分が含まれ、前記基本分子が基本単位を含み、各々の部分が基本単位に結合した塩基を含み、そこにおいて:
少なくとも10の隣接する塩基は、配列番号:1から20に示される膵島マイクロRNA分子の塩基の隣接する配列と同じ配列(ただし塩基対の最高30%がゆらぎ塩基対で、また隣接する塩基の最高10%はそれについて付加、欠失、変異又はその組合せであってもよい)を有し、
デオキシリボヌクレオチド基本単位を含む部分が隣接する部分の50%を越えず、
少なくとも一つの部分が修飾されていないデオキシリボヌクレオチド部分又は修飾されていないリボヌクレオチド部分でない、
修飾された一本鎖膵島マイクロRNA分子。
【請求項13】
更に、配列番号:21から40に示されるヘアピン前駆体配列のいずれか一つ又はそのフラグメントに存在する塩基配列を、その5’末端及び/又は3’末端に含む、請求項12に記載の分子。
【請求項14】
ヘアピン前駆体配列が膵島マイクロRNAがある配列である、請求項13に記載の分子。
【請求項15】
膵島が哺乳類の膵島である、請求項12に記載の分子。
【請求項16】
哺乳類がヒトである、請求項15に記載の分子。
【請求項17】
ヌクレアーゼ耐性を増加させるために分子が修飾された、請求項12に記載の分子。
【請求項18】
修飾された一本鎖アンチ−膵島マイクロRNA分子であり、その基本分子上に最低10の部分、最高50の部分が含まれ、前記基本分子が基本単位を含み、各々の部分が基本単位に結合した塩基を含み、各塩基が相補的な塩基とワトソン−クリック塩基対を形成し、そこにおいて:
少なくとも10の隣接する塩基は、配列番号:1から20に示される膵島マイクロRNA分子の塩基の隣接する配列と相補的な配列(ただし塩基対の最高30%がゆらぎ塩基対で、また隣接する塩基の最高10%はそれについて付加、欠失、変異又はその組合せであってもよい)を有し、
デオキシリボヌクレオチド基本単位を含む部分が隣接する部分の50%を越えず、
マイクロRNP活性を阻害することができる、
修飾された一本鎖アンチ−膵島マイクロRNA分子。
【請求項19】
マイクロRNAの位置11に対応する位置の部分が非相補的である、請求項18に記載の分子。
【請求項20】
隣接する部分の最高5%が膵島マイクロRNAの塩基の隣接する配列と非相補的でもよい、請求項18に記載の分子。
【請求項21】
非相補的な部分が付加、欠失、変異又はそれらの組合せである、請求項20に記載の分子。
【請求項22】
配列番号:41から60に示されるアンチ−膵島マイクロRNA配列のいずれか一つを有する、請求項18に記載の分子。
【請求項23】
部分のうちの少なくとも一つが、修飾されたデオキシリボヌクレオチド部分である、請求項18に記載の分子。
【請求項24】
修飾されたデオキシリボヌクレオチドが、ホスホロチオネートデオキシリボヌクレオチド部分である、請求項23に記載の分子。
【請求項25】
修飾されたデオキシリボヌクレオチドが、N’3−N’5ホスホロアミダートデオキシリボヌクレオチド部分である、請求項23に記載の分子。
【請求項26】
部分のうちの少なくとも一つが、修飾されたリボヌクレオチド部分である、請求項18に記載の分子。
【請求項27】
前記修飾されたリボヌクレオチドが2’の位置で置換されている、請求項26に記載の分子。
【請求項28】
2’の位置の置換基が、炭素数1から4のアルキル基である、請求項27に記載の分子。
【請求項29】
アルキル基がメチル基である、請求項28に記載の分子。
【請求項30】
アルキル基がアリル基である、請求項28に記載の分子。
【請求項31】
2’の位置の置換基が、(炭素数1から4のアルコキシ基)−(炭素数1から4のアルキル)基である、請求項27に記載の分子。
【請求項32】
前記(炭素数1から4のアルコキシ基)−(炭素数1から4のアルキル)基が、メトキシエチル基である、請求項31に記載の分子。
【請求項33】
修飾されたリボヌクレオチドが、2’−酸素原子及び4’−炭素原子の間のメチレン架橋を有する、請求項26に記載の分子。
【請求項34】
部分のうちの少なくとも一つが、ペプチド核酸部分である、請求項18に記載の分子。
【請求項35】
部分のうちの少なくとも一つが、2’−フルオロリボヌクレオチド部分である、請求項18に記載の分子。
【請求項36】
部分のうちの少なくとも一つが、モルフォリノホスホロアミダートヌクレオチド部分である、請求項18に記載の分子。
【請求項37】
部分のうちの少なくとも一つが、トリシクロヌクレオチド部分である、請求項18に記載の分子。
【請求項38】
部分のうちの少なくとも一つが、シクロヘキセンヌクレオチド部分である、請求項18に記載の分子。
【請求項39】
分子がキメラ分子である、請求項18に記載の分子。
【請求項40】
分子が、ヌクレアーゼ耐性を増加させるために少なくとも一つの修飾された部分を含む、請求項18に記載の分子。
【請求項41】
ヌクレアーゼがエキソヌクレアーゼである、請求項40に記載の分子。
【請求項42】
分子が5’末端に少なくとも一つの修飾された部分を含む、請求項41に記載の分子。
【請求項43】
分子が5’末端に少なくとも二つの修飾された部分を含む、請求項41に記載の分子。
【請求項44】
分子が3’末端に少なくとも一つの修飾された部分を含む、請求項41に記載の分子。
【請求項45】
分子が3’末端に少なくとも二つの修飾された部分を含む、請求項41に記載の分子。
【請求項46】
分子が5’末端に少なくとも一つの修飾された部分、及び3’末端に少なくとも一つの修飾された部分を含む、請求項41に記載の分子。
【請求項47】
分子が5’末端に少なくとも二つの修飾された部分、及び3’末端に少なくとも二つの修飾された部分を含む、請求項41に記載の分子。
【請求項48】
分子が5’末端、3’末端又はその両末端にキャップを含む、請求項41に記載の分子。
【請求項49】
分子が化学キャップを含む、請求項48に記載の分子。
【請求項50】
分子が逆向きのヌクレオチドキャップを含む、請求項48に記載の分子。
【請求項51】
ヌクレアーゼがエンドヌクレアーゼである、請求項18に記載の分子。
【請求項52】
分子が5’末端と3’末端の間に少なくとも一つの修飾された部分を含む、請求項51に記載の分子。
【請求項53】
分子が5’末端と3’末端の間に化学キャップを含む、請求項51に記載の分子。
【請求項54】
部分の全てがヌクレアーゼ耐性である、請求項18に記載の分子。
【請求項55】
細胞内で膵島マイクロRNAの活性を阻害する方法であり、前記膵島マイクロRNAは膵島マイクロRNA分子を含み、前記方法は請求項18の一本鎖のアンチ−膵島マイクロRNA分子を細胞に導入する工程を含み、前記アンチ−膵島マイクロRNAが前記膵島マイクロRNAと相補的である、方法。
【請求項56】
マイクロRNAの位置11に対応する位置のアンチ−膵島マイクロRNA分子の部分が非相補的である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
膵島が哺乳類の膵島である、請求項55に記載の方法。
【請求項58】
哺乳類がヒトである、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
配列番号:41又は51に示される配列を有する、少なくとも10の隣接する塩基を有するアンチ−膵島マイクロRNA分子の有効量を、哺乳類に導入する工程を含む、哺乳類の患者の糖尿病を治療する方法。
【請求項60】
請求項1に記載の単離されたDNA又はRNA分子を含む、単離されたマイクロRNP。
【請求項61】
請求項12に記載の単離された一本鎖膵島マイクロRNA分子を含む、単離されたマイクロRNP。
【請求項1】
配列番号:1から20のいずれかに示される膵島マイクロRNAの塩基配列(ただし、塩基の30%までがゆらぎ塩基であり、塩基の10%までが非相補的である場合を除く)を有する、少なくとも10の隣接する塩基を含む、単離されたDNA又はRNA分子。
【請求項2】
更に5’末端に及び/又は3’末端に、配列番号:21から40に示されるヘアピン前駆体配列のいずれか一つ又はそのフラグメントに存在する塩基配列を含む、請求項1に記載の単離された分子。
【請求項3】
ヘアピン前駆体の配列が、膵島マイクロRNAに存在する配列である、請求項2に記載の単離された分子。
【請求項4】
膵島マイクロRNAがベクターに組み込まれている、請求項3に記載の単離された分子。
【請求項5】
単離された分子がDNA分子である、請求項1に記載の単離された分子。
【請求項6】
単離された分子がRNA分子である、請求項1に記載の単離された分子。
【請求項7】
単離された分子が更にキャップを含む、請求項1に記載の単離された分子。
【請求項8】
キャップが逆向きのヌクレオチドキャップである請求項7に記載の単離された分子。
【請求項9】
キャップが化学キャップである請求項7に記載の単離された分子。
【請求項10】
単離された分子が実質的に、配列番号:1から20に示される膵島マイクロRNAの配列のいずれか一つを含む、請求項1に記載の単離された分子。
【請求項11】
単離された分子が実質的に、配列番号:21から40に示される膵島マイクロRNAの配列のいずれか一つを含む、請求項1に記載の単離された分子。
【請求項12】
修飾された一本鎖膵島マイクロRNA分子であり、その基本分子上に最低10の部分、最高50の部分が含まれ、前記基本分子が基本単位を含み、各々の部分が基本単位に結合した塩基を含み、そこにおいて:
少なくとも10の隣接する塩基は、配列番号:1から20に示される膵島マイクロRNA分子の塩基の隣接する配列と同じ配列(ただし塩基対の最高30%がゆらぎ塩基対で、また隣接する塩基の最高10%はそれについて付加、欠失、変異又はその組合せであってもよい)を有し、
デオキシリボヌクレオチド基本単位を含む部分が隣接する部分の50%を越えず、
少なくとも一つの部分が修飾されていないデオキシリボヌクレオチド部分又は修飾されていないリボヌクレオチド部分でない、
修飾された一本鎖膵島マイクロRNA分子。
【請求項13】
更に、配列番号:21から40に示されるヘアピン前駆体配列のいずれか一つ又はそのフラグメントに存在する塩基配列を、その5’末端及び/又は3’末端に含む、請求項12に記載の分子。
【請求項14】
ヘアピン前駆体配列が膵島マイクロRNAがある配列である、請求項13に記載の分子。
【請求項15】
膵島が哺乳類の膵島である、請求項12に記載の分子。
【請求項16】
哺乳類がヒトである、請求項15に記載の分子。
【請求項17】
ヌクレアーゼ耐性を増加させるために分子が修飾された、請求項12に記載の分子。
【請求項18】
修飾された一本鎖アンチ−膵島マイクロRNA分子であり、その基本分子上に最低10の部分、最高50の部分が含まれ、前記基本分子が基本単位を含み、各々の部分が基本単位に結合した塩基を含み、各塩基が相補的な塩基とワトソン−クリック塩基対を形成し、そこにおいて:
少なくとも10の隣接する塩基は、配列番号:1から20に示される膵島マイクロRNA分子の塩基の隣接する配列と相補的な配列(ただし塩基対の最高30%がゆらぎ塩基対で、また隣接する塩基の最高10%はそれについて付加、欠失、変異又はその組合せであってもよい)を有し、
デオキシリボヌクレオチド基本単位を含む部分が隣接する部分の50%を越えず、
マイクロRNP活性を阻害することができる、
修飾された一本鎖アンチ−膵島マイクロRNA分子。
【請求項19】
マイクロRNAの位置11に対応する位置の部分が非相補的である、請求項18に記載の分子。
【請求項20】
隣接する部分の最高5%が膵島マイクロRNAの塩基の隣接する配列と非相補的でもよい、請求項18に記載の分子。
【請求項21】
非相補的な部分が付加、欠失、変異又はそれらの組合せである、請求項20に記載の分子。
【請求項22】
配列番号:41から60に示されるアンチ−膵島マイクロRNA配列のいずれか一つを有する、請求項18に記載の分子。
【請求項23】
部分のうちの少なくとも一つが、修飾されたデオキシリボヌクレオチド部分である、請求項18に記載の分子。
【請求項24】
修飾されたデオキシリボヌクレオチドが、ホスホロチオネートデオキシリボヌクレオチド部分である、請求項23に記載の分子。
【請求項25】
修飾されたデオキシリボヌクレオチドが、N’3−N’5ホスホロアミダートデオキシリボヌクレオチド部分である、請求項23に記載の分子。
【請求項26】
部分のうちの少なくとも一つが、修飾されたリボヌクレオチド部分である、請求項18に記載の分子。
【請求項27】
前記修飾されたリボヌクレオチドが2’の位置で置換されている、請求項26に記載の分子。
【請求項28】
2’の位置の置換基が、炭素数1から4のアルキル基である、請求項27に記載の分子。
【請求項29】
アルキル基がメチル基である、請求項28に記載の分子。
【請求項30】
アルキル基がアリル基である、請求項28に記載の分子。
【請求項31】
2’の位置の置換基が、(炭素数1から4のアルコキシ基)−(炭素数1から4のアルキル)基である、請求項27に記載の分子。
【請求項32】
前記(炭素数1から4のアルコキシ基)−(炭素数1から4のアルキル)基が、メトキシエチル基である、請求項31に記載の分子。
【請求項33】
修飾されたリボヌクレオチドが、2’−酸素原子及び4’−炭素原子の間のメチレン架橋を有する、請求項26に記載の分子。
【請求項34】
部分のうちの少なくとも一つが、ペプチド核酸部分である、請求項18に記載の分子。
【請求項35】
部分のうちの少なくとも一つが、2’−フルオロリボヌクレオチド部分である、請求項18に記載の分子。
【請求項36】
部分のうちの少なくとも一つが、モルフォリノホスホロアミダートヌクレオチド部分である、請求項18に記載の分子。
【請求項37】
部分のうちの少なくとも一つが、トリシクロヌクレオチド部分である、請求項18に記載の分子。
【請求項38】
部分のうちの少なくとも一つが、シクロヘキセンヌクレオチド部分である、請求項18に記載の分子。
【請求項39】
分子がキメラ分子である、請求項18に記載の分子。
【請求項40】
分子が、ヌクレアーゼ耐性を増加させるために少なくとも一つの修飾された部分を含む、請求項18に記載の分子。
【請求項41】
ヌクレアーゼがエキソヌクレアーゼである、請求項40に記載の分子。
【請求項42】
分子が5’末端に少なくとも一つの修飾された部分を含む、請求項41に記載の分子。
【請求項43】
分子が5’末端に少なくとも二つの修飾された部分を含む、請求項41に記載の分子。
【請求項44】
分子が3’末端に少なくとも一つの修飾された部分を含む、請求項41に記載の分子。
【請求項45】
分子が3’末端に少なくとも二つの修飾された部分を含む、請求項41に記載の分子。
【請求項46】
分子が5’末端に少なくとも一つの修飾された部分、及び3’末端に少なくとも一つの修飾された部分を含む、請求項41に記載の分子。
【請求項47】
分子が5’末端に少なくとも二つの修飾された部分、及び3’末端に少なくとも二つの修飾された部分を含む、請求項41に記載の分子。
【請求項48】
分子が5’末端、3’末端又はその両末端にキャップを含む、請求項41に記載の分子。
【請求項49】
分子が化学キャップを含む、請求項48に記載の分子。
【請求項50】
分子が逆向きのヌクレオチドキャップを含む、請求項48に記載の分子。
【請求項51】
ヌクレアーゼがエンドヌクレアーゼである、請求項18に記載の分子。
【請求項52】
分子が5’末端と3’末端の間に少なくとも一つの修飾された部分を含む、請求項51に記載の分子。
【請求項53】
分子が5’末端と3’末端の間に化学キャップを含む、請求項51に記載の分子。
【請求項54】
部分の全てがヌクレアーゼ耐性である、請求項18に記載の分子。
【請求項55】
細胞内で膵島マイクロRNAの活性を阻害する方法であり、前記膵島マイクロRNAは膵島マイクロRNA分子を含み、前記方法は請求項18の一本鎖のアンチ−膵島マイクロRNA分子を細胞に導入する工程を含み、前記アンチ−膵島マイクロRNAが前記膵島マイクロRNAと相補的である、方法。
【請求項56】
マイクロRNAの位置11に対応する位置のアンチ−膵島マイクロRNA分子の部分が非相補的である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
膵島が哺乳類の膵島である、請求項55に記載の方法。
【請求項58】
哺乳類がヒトである、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
配列番号:41又は51に示される配列を有する、少なくとも10の隣接する塩基を有するアンチ−膵島マイクロRNA分子の有効量を、哺乳類に導入する工程を含む、哺乳類の患者の糖尿病を治療する方法。
【請求項60】
請求項1に記載の単離されたDNA又はRNA分子を含む、単離されたマイクロRNP。
【請求項61】
請求項12に記載の単離された一本鎖膵島マイクロRNA分子を含む、単離されたマイクロRNP。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5A】
【図5B】
【公表番号】特表2007−532130(P2007−532130A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−508373(P2007−508373)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【国際出願番号】PCT/US2005/010667
【国際公開番号】WO2005/099770
【国際公開日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(591197334)ザ ロックフェラー ユニバーシティ (9)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【国際出願番号】PCT/US2005/010667
【国際公開番号】WO2005/099770
【国際公開日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(591197334)ザ ロックフェラー ユニバーシティ (9)
【Fターム(参考)】
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