マイクロRNA応答要素を含む弱毒化生インフルエンザウイルスワクチン
本発明は、一以上のマイクロRNA(miRNA)応答要素(MRE)をインフルエンザウイルスゲノム内に含む新規な弱毒化生インフルエンザウイルス(LAIV)ワクチンに関する。本発明に有用なMREは、ワクチン接種を必要とする動物のインフルエンザ標的細胞では高度に発現するが、大規模なワクチン作出に用いる種(例えば、発育鶏卵)や細胞株では発現しないか又は発現が非常に低レベルである如何なるmiRNAにも由来することができる。これによって、効率的なワクチン作出が可能となるが、ワクチンウイルスは同族miRNAを発現するワクチン接種した動物のインフルエンザ標的細胞において弱毒化の影響を受けやすくなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府支援の研究又は開発
本発明は、若手研究者プログラム(Young Investigator Program)(YIP)の一環として陸軍研究事務所(ARO)の助成(Award#54677LSYIP)を受けた研究の過程で一部なされたものである。従って、米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
発明の技術分野
本発明は、一般にはインフルエンザウイルス感染症の予防に関し、詳細には、季節性インフルエンザウイルス株及び大流行の可能性があるインフルエンザウイルス株による感染症の予防に関する。より詳細には、一以上のマイクロRNA応答要素(MRE)を含む新規の弱毒化生インフルエンザウイルス(LAIV)ワクチンを本明細書に開示する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ヒトにおけるインフルエンザウイルス感染症は、重症度の範囲が無症状感染から死に至る可能性のある原発性ウイルス肺炎までに及ぶ呼吸器疾患である。インフルエンザ関連の合併症としては、特に、ライエ症候群や心筋炎、心膜炎、筋炎、脳症、横断性脊髄炎が挙げられる。インフルエンザウイルスはしつこく、束縛がないので、毎年の流行がもたらされると共に、壊滅的な人命の損失を引き起こす可能性のある散発的な大流行がもたらされる。Palese et al., Nature Medicine 8(9):927 (2002)。季節性インフルエンザは、米国では死亡原因の第7位であり、1〜4歳の子供の死亡原因の第1位である。65歳以上の死者の90%は肺炎を伴うインフルエンザウイルス感染症によるものである。米国では毎年、約36,000人が死亡し、114,000人が入院し、10億ドルを超える直接の経済的損害を被る。
【0004】
3種類のインフルエンザウイルス(A、B及びC)はその内部抗原の抗原反応性によって区別することができる。インフルエンザA、B及びCは、オルトミクソウイルス科に属し、感染細胞の核で複製する分割型マイナス鎖RNAゲノムを有し、10種のポリペプチド、即ち、RNA指向性RNAポリメラーゼタンパク質(PB2、PB1及びPA)、核タンパク質(NP)、ノイラミニダーゼ(NA)、血球凝集素(HA、これは酵素切断後、サブユニットHA1及びHA2の結合によって構成される)、マトリックスタンパク質(M1及びM2)、及び非構造タンパク質(NS1及びNS2、核外輸送タンパク質(NEP)とも称する)をコードする8種のマイナスセンスRNA(nsRNA)遺伝子セグメントから成る。Krug et al., In The Influenza Viruses, R.M. Krug, ed., Plenum Press, New York, 1989, pp. 89-152。ウイルスエンベロープに埋め込まれたHA及びNAタンパク質は、インフルエンザウイルスの主要な抗原決定基である(Air et al., Structure, Function, and Genetics, 1989, 6:341-356; Wharton et al., In The Influenza Viruses, R. M. Krug, ed., Plenum Press, New York, 1989, pp. 153-174)。インフルエンザウイルスのセグメントゲノムの可能な再集合(抗原シフト)及びゲノム多型の蓄積(抗原ドリフト)に起因して新しいHA及びNA変異体が常に産生するが、これに対して、新たに感染した生物は既往免疫応答を有しない。このように数多くの循環している株から新しい抗原変異体が常に産生することによって、新たな高病原性株(例えば、トリやブタ種からヒトへ直接伝染するH5N1及びH1N1インフルエンザAウイルス等)の出現の危険性が高まり、毎年のワクチン接種や多くの株又は全ての株に対して有効な抗ウイルス剤の開発が必要となる。Palese, Nature Medicine 10(12 Suppl):S82 (2004); Garcia-Sastre and Biron, Science 312(5775):879 (2006); Li et al., Nature 2004, 430:209; Kuiken et al., Science 2004, 306:241。こうして、世界保健機関は最新の株をモニターし、毎年のワクチンの組成を常に更新しなければならない。安全で有効なワクチンを作出するためには、選択したワクチン株が流行している株に密接に関係しており、それによって、確実にワクチン接種集団における抗体が抗原的に類似したウイルスを中和できるようにすることが重要である。
【0005】
3種類のインフルエンザウイルスの内、インフルエンザA及びBウイルスはヒトにおいて高い罹患率や死亡率の原因となる。Fields et al., Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, PA, 2007。従って、インフルエンザウイルス感染に対抗するのに用いる毎年のワクチンには2種のインフルエンザA株と単一のインフルエンザB株との組み合わせが含まれる。Palese, Nature Medicine 10(12 Suppl):S82 (2004)。
【0006】
このようなウイルス株の増殖は通常、発育鶏卵で行われるが、そこではウイルスは非常に高い力価まで増殖される。卵内で産生したウイルス粒子を次いで精製し、ワクチン製剤用ストックとして用いる。最近、大規模なインフルエンザワクチン作出用の哺乳動物細胞培養システムも確立されている。例えば、Genzel and Reichl, Expert Review of Vaccines, 2009, 8(12):1681 -1692.を参照。現在、3種の異なる哺乳動物細胞株(メイディン・ダービー・イヌ腎臓[MDCK]細胞、ベロ細胞及びPER.C6細胞)で作出したワクチンが治験中である。
【0007】
近年開発されたリーバースジェネティックスシステムによってインフルエンザウイルスゲノムの操作が可能になった(Palese et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1996, 93:11354; Neumann and Kawaoka, Adv. Virus Res. 1999, 53:265; Neumann et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1999, 96:9345; Fodor et al., J. Virol. 1999, 73:9679; 米国特許公開第20040029251号)。例えば、polIプロモーター由来の8種のインフルエンザvRNAとpolIIプロモーター由来の全mRNAのプラスミド駆動発現によって感染性インフルエンザAウイルスの生成がもたらされることが示された(Hoffmann et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2000, 97:6108; Hoffmann et al., Vaccine 2002, 20:3165; 米国特許第6,951,754号)。
【0008】
米国及びヨーロッパで公衆衛生当局から現在使用が認可されているインフルエンザワクチンは、不活化インフルエンザワクチンと米国の弱毒化生FLUMISTワクチンである。
【0009】
不活化ワクチンは、細胞培養又は発育鶏卵で増殖したウイルスを化学的に不活化することによって作出する。化学的不活化は通常、洗浄剤介在の断片化に続けて行う。通常の不活化/断片化処理では、ホルマリン+トリトンやホルムアルデヒド、β−プロピオラクトン、エーテル、エーテル+ツイーン80、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)+トリトンN101、デオキシコール酸ナトリウム、リン酸トリ(n−ブチル)等の剤を用いる。Nicholson, Webster and May (eds.), Textbook of Influenza, Chapters 23, 24, 27, pp. 317-332 and 358-372。卵内で産生したウイルスの場合、不活化は尿膜液の清澄化の後又は清澄化の前に行うことができる。不活化によってワクチンの安全性は劇的に高まるが、ワクチンの効力は低下する。また、複製活性の損失を確実にするためのワクチン試験は時間が掛かると共に労働集約的であり、これによってワクチンの費用が増加し、急速に蔓延する季節性感染や大流行時にワクチンの有用性が低下する。
【0010】
現在のワクチン戦略は、温度感受性変異体の開発やNS1タンパク質等の病原性因子の除去による弱毒化生インフルエンザウイルス(LAIV)株に着目している。Talon, J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97:4309-4314 (2000); Nichol, Vaccine, 19:4373-4377 (2001); Palese et al., J. Infect. Dis., 1997, 176 Suppl l :S45-9。例えば、FLUMIST(生インフルエンザウイルスワクチン、鼻腔内)には、(a)低温に適応し(即ち、25℃(多くの野生型インフルエンザウイルスの複製を制限する温度)で効率的に複製する)、(b)温度感受性であり(即ち、B型株は37℃、A型株は39℃で複製が制限される(多くの野生型インフルエンザウイルスはこのような温度で効率的に増殖する))、(c)弱毒化された(ヒトインフルエンザ感染のフェレットモデルで古典的なインフルエンザ様疾病を引き起こさない)インフルエンザウイルス株が含まれる。
【0011】
伝統的な不活化ワクチンに比べて、LAIVワクチンは粘膜(例えば、鼻腔内)投与に良く適しており、局所的な粘膜の細胞介在による体液性免疫を誘導することによってより強い免疫応答が生じる。Treanor et al., New England J. Med. 354(13): 1343 (2006)。それでも、現在のLAIVワクチンは弱毒化され過ぎており、高齢者(即ち、インフルエンザ感染によって毎年米国で死亡する20,000〜40,000人のグループ)において強い免疫応答を刺激することができない。最も重要なのは、現在のLAIVワクチンは、適切な卵発生に必要な次善の温度での増殖に適応させたため、発育鶏卵において複製障害を被っており、これによってその後のワクチン作出の規模が制限されることである。高病原性の流行株が出現する場合には、世界的規模でのワクチン作出におけるこのような障害を克服する必要がある。Li et al., Nature 430(6996):209 (2004) and Krug, Science 311(5767):1562 (2006)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、当該技術分野においては、防御免疫を生じさせる上で安全、効率的であり、鶏卵及び/又は細胞培養において迅速で大規模な作出に適した新しいインフルエンザワクチンに対する要求が大きい。特に、当該技術分野においては、新しくより効率的なLAIVワクチンに対する要求が大きい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の概要
本発明は、一以上の種特異的及び/又は組織/細胞特異的マイクロRNA(miRNA)応答要素(MRE)を含む新規の弱毒化生インフルエンザウイルス(LAIV)ワクチンを提供することによって当該技術分野における上述の要求や他の要求に対処するものである。本発明のLAIVワクチンに有用な組織/細胞特異的MRE及び種特異的MREは、ワクチン接種対象の動物においてインフルエンザウイルスの標的となる特定の細胞型や組織型(例えば、上皮細胞や分泌細胞[クララ]、繊毛細胞、頂端細胞、杯細胞[粘膜]、造血細胞[例えば、樹状細胞やマクロファージ、リンパ球]、気管支細胞、インフルエンザウイルスの標的となる肺や上気道の他の細胞)で高レベルで発現するmiRNA、及び/又はワクチン接種対象の選択種(例えば、ヒトやマウス、イヌ、ニワトリ)では高レベルで発現するが、大規模なワクチン作出に用いる細胞株や種(例えば、発育鶏卵[ニワトリ])では発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAと結合し、それによって転写後に阻害される。インフルエンザゲノムのコード領域へのMRE挿入は、エスケープ変異体の出現を防止してワクチンの安全性を高めるために好ましいが、本発明は、インフルエンザゲノムの他の部分、及び人工的に作出したインフルエンザウイルスの3’UTRへのMREの組み込みも包含する。本発明のMREを利用した弱毒化生ワクチン戦略によって、新たに出現する季節性及び流行性インフルエンザ株に対する大量のワクチンを迅速に作出するのに必要な汎用性、安全性及び有効性がもたらされる。
【0014】
本発明は、そのより一般的な一様相において、組換え作出に適した如何なるウイルスにも適用することができる。本発明によると、ウイルスゲノムに種特異的MRE及び/又は組織/細胞特異的MREを挿入することによって、弱毒化生ワクチンとして用いることができると共に、このようなウイルスの標的とならない組織/細胞由来の他の種や細胞株で効率的に増殖することができる組換えウイルスの作出が可能となる。
【0015】
具体的には、本発明は、その第1の様相において、一以上のMRE配列を含む組換えインフルエンザウイルスを含む組成物を提供する。好ましい一実施形態においては、インフルエンザウイルスは二以上のMRE配列を含む。このような二以上のMREは、同一の配列を有する場合もあり、同一のMREシード配列(即ち、miRNA配列の5’位置1〜7又は2〜8)を維持しながら幾つかのヌクレオチド位置が異なる場合もあり、二以上の異なるmiRNAに対応する場合もある。
【0016】
好ましい一実施形態においては、このような一以上のMRE配列を一以上のインフルエンザウイルス遺伝子のコード領域内に挿入する。このような一以上のMREは、アミノ酸変化の数が最小限に維持されてウイルスタンパク質機能が保存される限り、リーディングフレームに関わらず挿入することができる。MREは、如何なるインフルエンザウイルスタンパク質(例えば、HAやNA、PB1、PB2、PA、M1、M2、NP、NS1、NEP)のコード領域にも挿入することができる。異なるインフルエンザ株間で保存されているインフルエンザウイルスタンパク質(例えば、PB1やPB2、PA、M1、M2、NP、NS1、NEP)のコード領域にMREを挿入することが好ましい。
【0017】
他の具体的な実施形態においては、人工的に作出したインフルエンザウイルスの3’UTRへMRE配列を挿入する。
【0018】
具体的な一実施形態においては、インフルエンザウイルスゲノムに挿入されるMREは、種特異的及び/又は組織/細胞特異的に発現するmiRNAに対応する。一実施形態においては、インフルエンザウイルスゲノムに挿入されるMREは、哺乳動物細胞では高度に発現するが、発育鶏卵内でインフルエンザウイルス増殖が生じる領域では発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAに対応する。具体的な一実施形態においては、MREは、miR−16、miR−17、miR−19、miR−25、miR−34、miR−92及びmiR−93から成る群から選択されるmiRNAに対応する。例えば、このようなMREは、配列5’−UAGCAGCACGUAAAUAUUGGCG−3’(配列番号1)を有するmiR−16、配列5’−CAAAGUGCUUACAGUGCAGGUAG−3’(配列番号2)を有するmiR−17、配列5’−UGUGCAAAUCUAUGCAAAACUGA−3’(配列番号3)を有するmiR−19、配列5’−CAUUGCACUUGUCUCGGUCUGA−3’(配列番号4)を有するmiR−25、配列5’−UGGCAGUGUCUUAGCUGGUUGU−3’(配列番号5)を有するmiR−34、配列5’−UAUUGCACUUGUCCCGGCCUG−3’(配列番号6)を有するmiR−92、及び配列5’−CAAAGUGCUGUUCGUGCAGGUAG−3’(配列番号7)を有するmiR−93から成る群から選択されるmiRNAに対応することができる。
【0019】
他の実施形態においては、インフルエンザウイルスゲノムに挿入されるMREは、ワクチン接種対象の動物においてインフルエンザウイルスの標的となる組織では高度に発現するが、インフルエンザウイルスの増殖や大規模な作出に用いる細胞株では発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAに対応する。具体的な一実施形態においては、MREは、miR−142、miR−222、miR−149、miR−1977、miR−181b−2、miR−1259及びmiR−1978から成る群から選択されるmiRNAに対応する。例えば、このようなMREは、配列5’−UGUAGUGUUUCCUACUUUAUGGA−3’(配列番号141)を有するmiR−142、配列5’−AGCUACAUCUGGCUACUGGU−3’(配列番号142)を有するmiR−222、配列5’−UCUGGUCCGUGUCUUCACUCCC−3’(配列番号143)を有するmiR−149、配列5’−GAUUAGGGUGCUUAGCUGUUAA−3’(配列番号144)を有するmiR−1977、配列5’−AACAUUCAUUGCUGUCGGUGGGU−3’(配列番号145)を有するmiR−181b−2、配列5’−AUAUAUGAUGACUUAGCUUUU−3’(配列番号146)を有するmiR−1259、及び配列5’−GGUUUGGUCCUAGCCUUUCUA−3’(配列番号147)を有するmiR−1978から成る群から選択されるmiRNAに対応することができる。
【0020】
本発明の組換え弱毒インフルエンザウイルスは、その具体的な一実施形態において、H5N1、H1N1、H2N2及びH3N2から成る群から選択されるインフルエンザサブタイプに由来する。本発明の組換え弱毒インフルエンザウイルスは、その一実施形態において、A/Vietnam/1203/04、A/chicken/Scotland/59、A/duck/Hong Kong/308/78、A/PuertoRico/8/1934、A/NewYork/616/1995、A/California/04/2009、A/HongKong/16/68、A/USSR/039/68、A/Yokohama/C5/85、A/Leningrad/134/17/57、A/Leningrad/134/47/57、及びA/Ann Arbor/6/60から成る群から選択される分離株に由来する。
【0021】
ウイルス含有組成物と共に、本発明は、MRE含有インフルエンザウイルスの作出に用いることができる組換え核酸も提供する。従って、本発明は、その別の一実施形態において、一以上のMRE配列が内部に挿入されたインフルエンザウイルス配列を含む単離核酸分子を提供する。本発明の核酸は、その具体的な一実施形態において、MREとその対応するmiRNAとの相互作用の平均自由エネルギー(MFE)が−20kcal/mol未満である。本発明の核酸は、その他の実施形態において、MREとその対応するmiRNAとの相互作用の平均自由エネルギー(MFE)が−35kcal/mol未満である。以下に本発明の核酸分子の具体的な非限定的例について更に記載する。
【0022】
1.miR−93に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質NPのコード配列に挿入されている2種のMREを含む核酸分子であって、第1のMRE配列はNPアミノ酸62〜69をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はNPアミノ酸258〜265をコードするヌクレオチド配列にある核酸分子。例えば、第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−ACAATTGAACGAATGGTACTTTCT−3’(配列番号107)を含むことができ、第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTCCTTGCACGGTCAGCACTTATA−3’(配列番号111)を含むことができる。
【0023】
2.miR−92に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質NS1のコード配列に挿入されている2種のMREを含む核酸分子であって、第1のMRE配列はNS1アミノ酸131〜137をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はNS1アミノ酸150〜156をコードするヌクレオチド配列にある核酸分子。例えば、第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−AAGGCCAACTTCAGTGTAATA−3’(配列番号97)を含むことができ、第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTCACCGAGGAAGGTGCAATA−3’(配列番号101)を含むことができる。
【0024】
3.miR−92に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質HAのコード配列に挿入されている3種のMREを含む核酸分子であって、第1のMRE配列はHAアミノ酸68〜74をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はHAアミノ酸195〜201をコードするヌクレオチド配列にあり、第3のMRE配列はHAアミノ酸526〜532をコードするヌクレオチド配列にある核酸分子。例えば、第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−CTACAGTTGGGGAAGTGCAAT−3’(配列番号83)を含むことができ、第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−AACGCCTATGTAAGTGTAGTA−3’(配列番号87)を含むことができ、第3のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTGGTCAGTTTAGGTGCAATA−3’(配列番号91)を含むことができる。
【0025】
4.miR−19に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質HAのコード配列に挿入されている3種のMREを含む核酸分子であって、第1のMRE配列はHAアミノ酸15〜22をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はHAアミノ酸561〜568をコードするヌクレオチド配列にあり、第3のMRE配列はHAアミノ酸327〜334をコードするヌクレオチド配列にある核酸分子。例えば、第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GCCAGTGCTGACACAATTTGCATA−3’(配列番号45)を含むことができ、第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TCTTTGCAGTGCAGGATTTGCATA−3’(配列番号49)を含むことができ、第3のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTGCGUATGGTCACAGGTTTGCGC−3’(配列番号53)を含むことができる。
【0026】
5.miR−16に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質HAのコード配列に挿入されている2種のMREを含む核酸分子であって、第1のMRE配列はHAアミノ酸2〜9をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はHAアミノ酸439〜445をコードするヌクレオチド配列にある核酸分子。例えば、第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−AAGGCCAACCTATTAGTGCTGCTA−3’(配列番号21)を含むことができ、第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−AACGCCGAACTATTAGTGCTGCTA−3’(配列番号25)を含むことができる。
【0027】
6.miR−34に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質PAのコード配列に挿入されている3種のMREを含む核酸分子であって、第1のMRE配列はPAアミノ酸426〜433をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はPAアミノ酸634〜641をコードするヌクレオチド配列にあり、第3のMRE配列はPAアミノ酸709〜716をコードするヌクレオチド配列にある核酸分子。例えば、第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GATGAGATCGGTGAAGACGTTGCC−3’(配列番号69)を含むことができ、第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GGCAAGGTATGTAGGACACTGTTA−3’(配列番号73)を含むことができ、第3のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTCTTCCTGACTCATGCACTGTCA−3’(配列番号77)を含むことができる。
【0028】
7.miR−25に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質M1のコード配列に挿入されている2種のMREを含む核酸分子であって、第1のMRE配列はM1アミノ酸111〜118をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はM1アミノ酸127〜134をコードするヌクレオチド配列にある核酸分子。例えば、第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GGTGCCAAAGAGATAAGTGCAAGT−3’(配列番号59)を含むことができ、第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−ATATACAACAGGATGGGTGCAGTG−3’(配列番号63)を含むことができる。
【0029】
8.miR−17に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質PB1のコード配列に挿入されている3種のMREを含む核酸分子であって、第1のMRE配列はPB1アミノ酸374〜381をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はPB1アミノ酸418〜424をコードするヌクレオチド配列にあり、第3のMRE配列はPB1アミノ酸677〜683をコードするヌクレオチド配列にある核酸分子。例えば、第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GCCAGCATTGATCTTAAGTACTTT−3’(配列番号31)を含むことができ、第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GTGTTGGGTGTAAGCATTTTG−3’(配列番号35)を含むことができ、第3のMRE配列はヌクレオチド配列5’−ACCAGCCAAAGAGGCGTTTTG−3’(配列番号39)を含むことができる。
【0030】
9.miR−142に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質NPの人工3’UTRに挿入されている4種のMREを含む核酸分子であって、MRE配列はウイルス終止コドンとポリAテール配列との間に存在する核酸分子。例えば、4種の反復MREはヌクレオチド配列5’−TCCATAAAGTAGGAAACACTACA−3’(配列番号159)を含むことができる。
【0031】
10.miR−142に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質NS1の人工3’UTRに挿入されている4種のMREを含む核酸分子であって、MRE配列はウイルス終止コドンとポリAテール配列との間ではあるが、複製NS2/NEPのORFの前に存在する核酸分子。例えば、4種の反復MREはヌクレオチド配列5’−TCCATAAAGTAGGAAACACTACA−3’(配列番号159)を含むことができる。
【0032】
上述の具体例に記載のインフルエンザヌクレオチドとアミノ酸の位置はインフルエンザAウイルス株であるA/Puerto Rico/8/34/Mount Sinai(H1N1)に相当する。具体的には、これらの位置は次のGenBank登録番号に相当する。
【0033】
【表1】
【0034】
本発明の組換えウイルスは、その具体的な一実施形態において、更なる弱毒化変異を含む。一実施形態においては、このような変異によって温度感受性ウイルス増殖(例えば、FLUMISTに用いる変異)がもたらされる。他の実施形態においては、このような変異は病原性因子の除去(例えば、NS1タンパク質の除去)である。
【0035】
本発明の組成物は、その好ましい一実施形態においてワクチン組成物である。このようなワクチン組成物はアジュバントを更に含むことができる。
【0036】
ワクチン組成物と共に、本発明は、動物においてインフルエンザ感染に対する防御免疫応答を誘導する方法であって、本発明のMRE含有組換えインフルエンザワクチン組成物を前記動物に投与することを含む方法も提供する。好ましい一実施形態においては、動物はヒトである。他の実施形態においては、動物はトリ(例えば、水鳥やニワトリ)である。更に他の実施形態においては、動物はブタである。具体的な一実施形態においては、ワクチン組成物は粘膜投与する。他の具体的な実施形態においては、ワクチン組成物はアジュバントと共に投与する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1A】図1(A)上:miRNA(miR−93又はmiR−124)の外因性送達に用いる単一イントロン(pRFP)を含む赤色蛍光タンパク質(RFP)ミニ遺伝子の概略図。図1(A)下:pRFPトランスフェクトHEK−293細胞の蛍光顕微鏡法。
【図1B】図1(B):HEK−293細胞の偽感染又はインフルエンザウイルス感染後のmiR−93、miR−124及びU6snRNAのノーザンブロット。
【図1C】図1(C):miR−124と、SV40又はmiR−124標的3’UTRを含むルシフェラーゼレポーター構築物とをコトランスフェクトしたHEK−293細胞。トランスフェクション6時間後、細胞をインフルエンザウイルス(A/Puerto Rico/8/34(H1N1))に1.0のMOIで感染させ、感染18時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。
【図1D】図1(D):インフルエンザウイルスNS1と、miR−124と、図1(C)に記載のSV40又はmiR−124標的3’UTRを含むルシフェラーゼレポーター構築物とをコトランスフェクトしたHEK−293細胞。ルシフェラーゼ活性はトランスフェクション24時間後に測定した。図1(C)及び(D)において、ルシフェラーゼ活性はウミシイタケ対照ベクターに対して標準化した。データは3種類の独立したトランスフェクション(各々3回実施)の平均であり、エラーバーは+/−SDを示す。各グラフ下のウェスタンブロットは、A/Puerto Rico/8/34(H1N1)に対するポリクローナル抗体によって測定したインフルエンザマトリックス及びNS1タンパク質の発現を示す。
【図2A】図2(A)上:10日齢の発育鶏卵膜及び初代マウス肺組織のノーザンブロット。miR−93及びU6snRNA負荷対照用プローブを示す。下のグラフは、CCDカメラで化学発光を検出して行い、任意単位(a.u.)で表した対応するバンド強度の定量化を示す。
【図2B】図2(B):miR−93応答要素組み込み用インフルエンザウイルスヌクレオカプシド(NP)のmRNA部位とインフルエンザウイルス株の全体保存の概略図。単一の同義変異を「*」で示す。
【図2C】図2(C):部位1及び部位2を非応答性親(PRNTL)部位又はmiR−93応答性(93NP1/2)部位に形質転換させるためのRNA塩基置換の概略図(「*」はアミノ酸置換を示す)。
【図2D】図2(D):ヌクレオカプシド無し(−)、野生型NP(WT)又はPRNTL NP(PRNTL)のコンテクストにおけるインフルエンザウイルスポリメラーゼを利用したルシフェラーゼレポーターアッセイ。ルシフェラーゼ活性はトランスフェクション24時間後に測定し、ウミシイタケ対照ベクターに対して標準化した。データは3種類の独立したトランスフェクション(各々3回実施)の平均であり、エラーバーは+/−SDを示す。
【図2E】図2(E):10日齢の発育卵のPRNTL及びMRE含有インフルエンザウイルス感染によるウイルス力価。力価は、感染2日後に尿膜液の血球凝集及びプラークアッセイによって求め、プラーク形成単位/mL(pfu/mL)で表した。データは2種類の独立した感染の平均である。
【図3A】図3(A):インフルエンザA/Puerto Rico/8/1934(A/PR/8/34)PRNTL、93NP2及び93NP1/2に感染させ、感染12時間後、24時間後及び48時間後(hpi)に回収した野生型(WT)線維芽細胞及びダイサー−/−マウス線維芽細胞のウェスタンブロット。血球凝集素(HA)及びアクチンタンパク質のレベルのイムノブロットを示す。
【図3B】図3(B):非刺激のWT及びダイサー−/−線維芽細胞のノーザンブロット。miR−93及びU6snRNA用プローブを示す。下のグラフは、対照U6snRNAの強度に対するmiR−93の測定値を任意単位(a.u.)で表した対応するバンド強度の定量化を示す。
【図3C】図3(C):感染5日後(dpi)の感染マウス肺のRT−PCR解析。ウイルスはPRNTL、93NP1、93NP2及び93NP1/2である。インターフェロン調節因子7(IRF7)、インターフェロンβ(IFNβ)、インターロイキン6(IL6)及びヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)に特異的なプライマーを示す。
【図3D】図3(D):図3(C)に記載のマウス感染のIRF1、STAT1、インターフェロン刺激遺伝子54(ISG54)及びアクチンタンパク質のレベルを示すウェスタンブロット。
【図3E】図3(E):エクスビボでの複数の継代後又はインビボでの感染5日後に単離したインフルエンザウイルスNPクローンの代表的な配列。
【図4A】図4(A):PRNTL又はMRE含有(93NP1/2)H5N1キメラウイルスによる鼻腔内チャレンジ後の10日間経過における生存率を示すグラフ。データは、各接種量の平均とウイルス処理(n=4/コホート)を示す。
【図4B】図4(B):接種量を1×104プラーク形成単位(pfu)/感染とした時の図4(A)に記載のマウスの最初の重量からの平均重量減少によって表される罹患。
【図4C】図4(C):ワクチン接種及びキメラH5N1インフルエンザウイルスによる第2の致死的チャレンジ後の生存率を示すグラフ。非チャレンジコホート(n=2/処理)及びH5N1チャレンジ(n=7/処理)から得たデータを平均生存率で示す。
【図4D】図4(D):PBS又は93NP1/2でワクチン接種した後、PRNTL H5N1(1×106pfu/マウス)で再チャレンジしたマウスの最初の重量からの平均重量減少によって表される罹患。データは、図4(C)に記載のコホートにおける平均重量減少で示す。エラーバーは平均の+/−SDを示す。
【図5】図5:ヒトmiRNA含有転写物のRT−PCR。胎児腎臓細胞株(HEK−293)、肺上皮細胞株(A549)、Tリンパ球細胞株(ジャーカット)、星状細胞株(U373)及び初代樹状細胞(DC)に由来する非刺激の全細胞RNA。miRNAの発現はPCR増幅によって確認。チューブリンはRNA負荷対照として示す。
【図6】図6:野生型(WT)線維芽細胞及びダイサー−/−マウス線維芽細胞におけるインフルエンザA/Puerto Rico/8/1934(93NP1)感染のウェスタンブロット。イムノブロットは血球凝集素(HA)及びアクチンタンパク質のレベルを示す。
【図7】図7:インフルエンザウイルスヌクレオカプシド(NP)及びA549肺上皮細胞由来チューブリン転写物のRT−PCR。A/Puerto Rico/8/1934(PRNTL)、(93NP2)及び(93NP1/2)を用いて低MOIで感染させ、図示のように継代した。回収時の感染細胞由来の全RNAを高忠実度ポリメラーゼを用いたRT−PCRで増幅し、2%アガロースにて分割した。
【図8A】図8A〜D:弱毒化生ワクチンとしてのMREシードインフルエンザAウイルス。図8(A):10e3PFUのPRNTL又はMREシード93NP1/2H1N1ウイルスで鼻腔内にワクチン接種し、感染21日後(dpi)に5×10e3PFUのWT A/PR8/34でチャレンジしたマウスの最初の体重からの平均重量減少を示すグラフ。データは各コホート(n=4)の平均を示し、エラーバーは+/−SDを示す。右のパネルは、正の血球凝集阻害を得るために最低血清希釈によって求めたチャレンジ後の抗体応答、及びELISAによって測定した免疫グロブリン応答を示す。
【図8B】図8A〜D:弱毒化生ワクチンとしてのMREシードインフルエンザAウイルス。図8(B):図示のH5N1リアソータントウイルスについてのセグメント分布を示す表。
【図8C】図8A〜D:弱毒化生ワクチンとしてのMREシードインフルエンザAウイルス。図8(C):10日齢の発育卵のPRNTL及びMREシードH5N1インフルエンザAウイルスリアソータント感染によるウイルス力価を示す棒図表。力価は、感染2日後に尿膜液の血球凝集及びプラークアッセイによって求め、pfu/mLで表した。データは4種類の独立した感染の平均である。
【図8D】図8A〜D:弱毒化生ワクチンとしてのMREシードインフルエンザAウイルス。図8(D):図8(A)と同様、H5N1リアソータントPRNTL又はMREシード93NP1/2によるワクチン接種。
【図9】図9:種特異的弱毒化のための設計戦略。部位1、部位2及び部位3をmiR−34標的PAに形質転換させるためのRNA塩基置換の概略図。miR−34は哺乳動物特異的miRNAである。各部位において平均自由エネルギーをkcal/molで示す。ウイルスは卵内でレスキューし、図示の時点(HPI:感染後時間)でDF1ニワトリ線維芽細胞又はマウス初代肺線維芽細胞の感染に用いた。PA_PRNTはmiR−34の標的とはならない野生型ウイルスであり、PA_miR34はPAが図示の3部位で標的となるウイルスである。
【図10A】図10(A):組織培養におけるインフルエンザAウイルス非翻訳領域(UTR)ターゲティングを示す概略図。パッケージング配列(vRNA画像上に一定の縮尺で表示)を破壊することなくmRNAの3’UTRを拡大するため、最後の80〜120塩基対を複製して、終止コドン(STOP)とポリAテール(UUUUUU)との間にスクランブル要素(scrbl)又はmiRNA標的要素(MRE)が挿入できるようにした。NCRはウイルスRNAの非コード領域を示す。
【図10B】図10(B):miRNAの外因性送達に用いる単一イントロン(pRFP)を含む赤色発光タンパク質ミニ遺伝子の概略図。
【図10C】図10(C):線維芽細胞(MDCK細胞)由来miR−142、トランスフェクト線維芽細胞(pRFP−miR−142をトランスフェクトしたMDCK細胞)及び初代マウスマクロファージのノーザンブロット。
【図10D】図10(D):MDCK細胞内miR−142のノーザンブロット。
【図10E】図10(E):偽感染、スクランブル3’UTRを有するNPをコードするウイルス(NP_UTR)又はmiR−142応答要素をコードするUTR(NP_142)からのインフルエンザA/PR/8/34NP、M1及びアクチンの発現を示すウェスタンブロット。タンパク質抽出物は、MDCK対照細胞又はmiR−142を発現するMDCK細胞(MDCK_142)から感染(MOI=1)12時間後に回収した。
【図10F】図10(F):対照ウイルス(NS1_UTR)又はmiR−93標的NS1ウイルスに図示の時点で感染させた初代肺線維芽細胞又はマクロファージ(Zhu et al., Nature Protocols, 2010, 5(3):550に記載のものに適応されたプロトコルを用いて作出)由来のマトリックス(M1)、NS1及びアクチンのウェスタンブロット。用いたウイルスはNS1_UTR及びmiR−142標的NS1(NS1_142)である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
発明の詳細な説明
本発明は、細胞のマイクロRNA(miRNA)プロセシング機構を利用して種特異的及び/又は組織/細胞特異的にウイルス弱毒化を誘導して有効且つ安全な弱毒化生ウイルスワクチンを作出することができるという予期せぬ発見に基づく。具体的には、本発明は、一以上のインフルエンザウイルス遺伝子のコード領域及び/又は人工3’UTR内に挿入された一以上のmiRNA応答要素(MRE)を含む新規の弱毒化生インフルエンザウイルス(LAIV)ワクチンを提供する。
【0039】
miRNAとは、mRNA切断、翻訳抑制/阻害又は異質染色質サイレンシングによって標的mRNAの発現を調節して全体的なタンパク質産生に影響を及ぼす、小さい19〜25塩基対(bp)の内在性一本鎖RNAである。Baek et al., Nature 455(7209):64 (2008); Selbach et al., Nature 455(7209):58 (2008); Ambros, 2004, Nature, 431 , 350-355; Bartel, 2004, Cell, 116, 281-297; Cullen, 2004, Virus Research., 102, 3-9; He et al., 2004, Nat. Rev. Genet., 5, 522-531 ; and Ying et al., 2004, Gene, 342, 25-28。miRNAは7bpの「シード」配列(即ち、miRNAの5’位置1〜7又は2〜8の配列)によって標的mRNAを調節する。「シード」に対するmRNA配列の相補性は通常、3’非翻訳領域(3’UTR)に存在する。Bartel, Cell 116(2):281 (2004)。
【0040】
組織制限miRNAに対応するMREは、レンチウイルス、ピコルナウイルス及びラブドウイルスの既存の非翻訳領域(UTR)に挿入されて組織特異的ウイルス弱毒化を達成している。Brown et al., Nature Medicine 12(5):585 (2006); Barnes et al., Cell Host & Microbe 4(3):239 (2008); and Kelly et al., Nature Medicine 14(11):1278 (2008)。
【0041】
このような戦略によって特定の組織におけるウイルス弱毒化がもたらされるが、そのインフルエンザワクチン作出に対する適用は、MRE挿入(即ち、MREが最も有効であり、インフルエンザウイルスゲノムセグメントのRNA末端に対する如何なる付加や変化も複製欠損やパッケージング欠損をもたらす)に十分な長さの3’UTRをインフルエンザウイルスが産生しないという事実によって妨げられる。Muramoto et al., J. Virol. 80(5):2318 (2006)。更に、非翻訳配列はタンパク質コード配列に比べて選択圧をあまり受けないため、タンパク質コード配列の進化的保存の程度がより大きいことからも明らかなように、非コード領域へのMREの挿入によって「エスケープ」変異体が出現する可能性が高くなるが、このような組換えウイルスはワクチン作出において安全ではない。
【0042】
本発明は、上述の弱毒化戦略のいずれかをインフルエンザAウイルスワクチン作出に適用するうえでの不足を克服する新規なアプローチを構成する。このアプローチは、一以上の種特異的及び/又は組織/細胞特異的MREをインフルエンザウイルスゲノム内の戦略的位置(好ましくは、ウイルスタンパク質コード配列内、又は人工3’UTR内[例えば、ウイルスパッケージング配列の複製及び終止コドンとポリAテールとの間への遺伝的挿入によって作出])に組み込み、種特異的及び/又は組織/細胞特異的ウイルス弱毒化をもたらすことに基づく。ワクチン接種対象の動物においてインフルエンザウイルスの標的となる細胞や組織では高度に発現するが、大規模なワクチン作出に用いる細胞株や発育鶏卵では発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAに対応するMREを用いることによって、ワクチン作出時に高いウイルス力価を達成しながら、同族miRNAを発現する細胞でウイルス弱毒化を保持することができる。インフルエンザコード領域内にMREを挿入することによって、エスケープ変異体の産生が妨げられ、ワクチンの安全性が高まる。
【0043】
本発明に有用なMREは、ワクチン接種を必要とする動物(例えば、ヒト)のインフルエンザ標的細胞(例えば、上皮細胞や分泌細胞[クララ]、繊毛細胞、頂端細胞、杯細胞[粘膜]、気管支細胞、造血細胞[例えば、樹状細胞やマクロファージ、リンパ球]、インフルエンザウイルスの標的となる肺や上気道の他の細胞)では高度に発現するが、大規模なワクチン作出に用いる細胞株や種(例えば、発育鶏卵[ニワトリ])では発現しないか又は発現が非常に低レベルである如何なるmiRNAにも由来することができる。
【0044】
有用なヒトmiRNAの例としては、miR−16やmiR−17、miR−19、miR−25、miR−34、miR−92、miR−93、miR−142、miR−222、miR−149、miR−1977、miR−181b−2、miR−1259、miR−1978が挙げられ、例えば、配列5’−UAGCAGCACGUAAAUAUUGGCG−3’(配列番号1)を有するmiR−16や、配列5’−CAAAGUGCUUACAGUGCAGGUAG−3’(配列番号2)を有するmiR−17、配列5’−UGUGCAAAUCUAUGCAAAACUGA−3’(配列番号3)を有するmiR−19、配列5’−CAUUGCACUUGUCUCGGUCUGA−3’(配列番号4)を有するmiR−25、配列5’−UGGCAGUGUCUUAGCUGGUUGU−3’(配列番号5)を有するmiR−34、配列5’−UAUUGCACUUGUCCCGGCCUG−3’(配列番号6)を有するmiR−92、配列5’−CAAAGUGCUGUUCGUGCAGGUAG−3’(配列番号7)を有するmiR−93、配列5’−UGUAGUGUUUCCUACUUUAUGGA−3’(配列番号141)を有するmiR−142、配列5’−AGCUACAUCUGGCUACUGGU−3’(配列番号142)を有するmiR−222、配列5’−UCUGGUCCGUGUCUUCACUCCC−3’(配列番号143)を有するmiR−149、配列5’−GAUUAGGGUGCUUAGCUGUUAA−3’(配列番号144)を有するmiR−1977、配列5’−AACAUUCAUUGCUGUCGGUGGGU−3’(配列番号145)有するmiR−181b−2、配列5’−AUAUAUGAUGACUUAGCUUUU−3’(配列番号146)を有するmiR−1259、配列5’−GGUUUGGUCCUAGCCUUUCUA−3’(配列番号147)を有するmiR−1978が挙げられるが、これらに限定されない。更なる有用なmiRNAは、並行配列決定及び2個の種間又は組織/細胞間での相対発現レベルを確認することによって同定することができる。miRNA配列の最新データベース(miRBase)(http://www.mirbase.org/(miRBase))及びBurside et al., BMC Genomics 9:185 (2008); Williams et al., BMC Genomics 8:172 (2007); Landgraf et al., Cell 129:1401 (2007)を参照。
【0045】
好ましい一実施形態においては、少なくとも2種のMREをインフルエンザゲノムセグメントに挿入する。このような二以上のMREは、同一の配列を有する場合もあり、同一のMREシード配列(即ち、miRNA配列の5’位置1〜7又は2〜8)を維持しながら幾つかのヌクレオチド位置が異なる場合もあり、二以上の異なるmiRNAに対応する場合もあるが、各miRNAは、ワクチン接種を必要とする動物のインフルエンザ標的細胞では高度に発現するが、大規模なワクチン作出に用いる細胞株や発育鶏卵内のウイルス増殖が生じる領域では発現しないか又は発現が非常に低レベルである。このような二以上のMREは、アミノ酸変化の数が最小限に維持されてウイルスタンパク質機能が保存される限り、リーディングフレームに関わらず挿入することができる。
【0046】
本発明においては、MREをインフルエンザウイルス遺伝子のタンパク質コード領域内に挿入することが好ましい。(5’又は3’非翻訳領域(UTR)等の非コード領域とは対照的に)コード領域内にMREを挿入することによって、エスケープ変異体の産生が妨げられ、ワクチンの安全性が高まる。全てのインフルエンザ遺伝子をMRE挿入に用いることができるが、より保存されたインフルエンザタンパク質のオープンリーディングフレームを用いると、エスケープ変異体が出現しにくくなり、ワクチンの安全性が高まるため好ましい。従って、MRE挿入に好ましいインフルエンザ遺伝子はPB1、PB2、PA、M1、M2、NP、NS1及びNEPである。
【0047】
また、本発明は、インフルエンザゲノムの他の部分へのMRE挿入も包含する。本発明は、その具体的な一実施形態において、人工3’UTRへのMRE挿入を提供するが、これによって、得られるウイルスmRNAの終止コドンとポリAテール配列との間にMREを挿入する。一実施形態においては、終止コドンとポリAテール配列との間へのこのようなMRE挿入は、ビリオン内への効率的なウイルス鎖パッケージングに必要な配列を更に追加することを伴う。
【0048】
本発明のMREは好ましくは19〜25ヌクレオチド長であり、少なくとも対応するmiRNAの「シード」配列(即ち、miRNA配列の5’位置1〜7又は2〜8)の完全な補体を含む。更なる相補性のいずれかを用いて弱毒化を更に高めることができる。或いは(又は更に)、挿入するMREの数を増加させて弱毒化を高めることができる。
【0049】
本発明に係るMREは、例えば、対象となるmiRNAの部分的又は完全に逆位で相補的な配列を用いて設計することができ、これによって、miRNAは、標準的なワトソン−クリック塩基対形成によりMREを含むヌクレオチドに結合することができる。相補性のあるより短い領域を用いることによって、潜在的な部位の数は増加し、必要なヌクレオチド変更の数は減少する。MREの3’末端(シード配列)における相補性は、少なくとも位置1〜7又は2〜8から維持する必要がある。
【0050】
本発明のMRE含有弱毒化生ウイルスは、培養細胞中(例えば、ヒト胎児腎臓HEK−293細胞[ATCCカタログ番号:CRL−1573]やニワトリ線維芽細胞DF1[ATCCカタログ番号:CRL−12203]、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MCK)細胞[ATCCカタログ番号:CCL−34、CRL−2285、CRL−2286、CRL−2935又はCRL−2936]、アフリカミドリザル腎臓細胞(ベロ)[ATCCカタログ番号:CCL−81、CRL−1586、CRL−1587又はCRL−2783]、ヒトPER−C6細胞[Pau et al., Vaccine, 2001, 19(17-19):2716]中)で組換えによって作出することができ、その後(必要に応じて)、発育鶏卵中で増殖させてより高い力価を得ることができる。
【0051】
実施例の項で後述するように、NPオープンリーディングフレームに挿入されたmiR−93に対応する2種のMREを含む本発明のH1N1及びH5N1を利用した弱毒インフルエンザウイルスワクチンは、細胞培養で増殖する際には高い安定性を示し(復帰変異体無し)、マウスに投与した際にはそれぞれH1N1及びH5N1の致死量からの防御がもたらされる。
【0052】
総合すれば、本発明の新規なMREを利用した弱毒化生ワクチン戦略によって、新たに出現するインフルエンザ株に対する大量のワクチンを迅速に作出するのに必要な汎用性、安全性及び有効性がもたらされる。
【0053】
本発明は、そのより一般的な一様相において、組換え作出に適した如何なるウイルスにも適用することができる。本発明によると、ウイルスゲノムに種特異的MRE及び/又は組織/細胞特異的MREを挿入することによって、ある種及び/又は組織/細胞においては弱毒化生ワクチンとして用いることができると共に、他の種及び/又は組織/細胞では効率的に増殖することができるウイルスの作出が可能となる。
【0054】
定義
本明細書において「インフルエンザウイルス」は、インフルエンザ又は流感として知られる疾患を引き起こすウイルス種の病原株を定義するのに用いる。「インフルエンザ」は、インフルエンザウイルスの如何なる株や血清型(HA(例えば、H1やH2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15、H16)とNA(例えば、N1、N2、N3、N4、N5、N6、N7、N8又はN9遺伝子)との如何なる組み合わせも含む)をも包含することを意味する。一実施形態においては、インフルエンザとはH5N1インフルエンザ(トリ流感又は流行性インフルエンザ)を意味する。一実施形態においては、インフルエンザとはインフルエンザウイルスの他の株又はサブタイプ(H1N1やH2N2、H3N2が挙げられるが、これらに限定されない)を意味する。
【0055】
インフルエンザウイルス生物学のコンテクストにおいては、「コード領域」とは、成熟ウイルスタンパク質内で示されるアミノ酸をコードするウイルスRNAの領域を意味する。
【0056】
本明細書において、「マイクロRNA」又は「miRNA」とは、7bpの「シード」配列(即ち、miRNAの5’位置1〜7又は2〜8の配列)によって標的mRNAの発現を調節する、小さい19〜25bpの内在性一本鎖RNAを意味する。「シード」に対するmRNA配列の相補性は通常、3’非翻訳領域(3’UTR)内に存在する。Bartel, Cell 116(2):281 (2004)。miRNA調節は全体的なタンパク質産生に適度に影響を及ぼし、細胞トランスクリプトームの「微調整」をもたらす。Baek et al., Nature 455(7209):64 (2008) and Selbach et al., Nature 455(7209):58 (2008)。
【0057】
「相補性」とは、伝統的なワトソン−クリック相互作用又は他の非伝統的相互作用(例えば、グアニンとウラシルの結合を可能にするウォッブル塩基対形成)によってある核酸が他の核酸配列と水素結合を形成し得ることを意味する。相補性率は、第2の核酸配列と水素結合を形成し得る核酸分子内の残基の割合(%)を示す。
【0058】
本発明の核酸分子に関して、ある核酸分子のその相補的配列に対する結合自由エネルギーは、該核酸の関連機能(例えば、miRNA活性)が進行可能な程度に十分である。核酸分子の結合自由エネルギーの決定については当該技術分野ではよく知られている(例えば、Turner et al., 1987, CSH Symp. Quant. Biol. LII pp.123-133; Frier et al., 1986, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 83:9373-9377; Turner et al., 1987, J Am. Chem. Soc. 109:3783-3785参照)。「完全に相補的」とは、ある核酸配列の全ての近接残基が第2の核酸配列の同じ数の近接残基と水素結合することを意味する。一実施形態においては、ヒトmiRNAは、対応する標的インフルエンザ核酸分子に対して部分的相補性(即ち、100%未満の相補性)を有する。
【0059】
本明細書において「マイクロRNA(miRNA)応答要素」又は「MRE」とは、特定のmiRNAと結合することができ、その転写後サイレンシングの量が測定可能な(例えば、mRNA量及び/又はタンパク質量の低下によって求める)mRNA内のヌクレオチド配列を意味する。転写後サイレンシングが生じるためには、MRE−miRNA配列相補性は、少なくとも、ヌクレオチド1〜7又は2〜8から成るmiRNAのシード配列とMREの3’末端を含む必要がある。
【0060】
本明細書に記載のように、本発明の組換え弱毒ウイルスに有用な種特異的及び/又は組織/細胞特異的MREは、ワクチン接種を必要とする動物のインフルエンザ標的細胞では高度に発現するが、大規模なワクチン作出に用いる細胞株や種(例えば、発育鶏卵[ニワトリ])では発現しないか又は発現が非常に低レベルである如何なるmiRNAにも由来することができる。本発明の意味において、「組織/細胞特異的MRE及び種特異的MRE」は、ワクチン接種対象の動物において関連ウイルスの標的となる特定の細胞型や組織型で高レベルで発現するmiRNA、及び/又はワクチン接種対象の選択種では高レベルで発現するが、大規模なワクチン作出に用いる細胞株や種では発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAと結合し、それによって転写後に阻害されるMREとして定義される。
【0061】
本明細書において、miRNA発現に関して「高度に発現する」及び「高レベルで発現する」とは、標準的なノーザンブロット解析(Pall et al., Nature Protocols 3(6) 1077 (2008))によって検出可能なmiRNAを意味する。このような高度に発現するmiRNAは、RNAディープ配列決定(Hafner et al., Methods 44(1)3 (2008))によって測定される、対象となる組織又は細胞に存在する全細胞miRNAの0.1%以上であることが好ましい。
【0062】
本明細書において、「発現が非常に低レベルである」とは、標準的なノーザンブロット解析によって検出不能なmiRNAを意味する。発現が非常に低レベルであるこのようなmiRNAは、RNAディープ配列決定によって測定される、対象となる組織又は細胞に存在する全細胞miRNAの0.01%以下であることが好ましい。
【0063】
本明細書において、組換え弱毒インフルエンザウイルスに関して用いられる「人工3’UTR」及び「人工3’非コード領域(NCR)」とは、成熟RNA転写物においてコードされるが、如何なるタンパク質情報もコードしない遺伝要素の挿入を意味する。「人工」とは、インフルエンザウイルスがMRE挿入を可能とする内在性3’UTRをコードせず、従って、MRE挿入のためにこの標的位置を利用する唯一の手段が新規な3’UTR/NCRを作出することであるという事実を意味する。本発明の組換え弱毒インフルエンザウイルスにおける人工3’UTR/NCRは、終止コドンとポリAテールとの間に遺伝物質を導入することによって作出することができる。また、全てのインフルエンザウイルスセグメントはvRNAの5’末端内にコードされるパッケージング情報(終止コドンとポリAテールをコードする遺伝情報と重複する)を有するため、人工3’UTRは5’vRNA末端の複製も必要とする。この場合、必要な物質(通常、セグメントに応じて80nt〜200nt)を複製し、ポリAテール配列を超えて挿入することができる。
【0064】
本明細書において、「感染性」とは、ウイルスが細胞内で複製し、ウイルス粒子を産生できることを意味する。感染力の評価は、ウイルス(即ち、ウイルス負荷)を検出するか、又は動物において疾患の進行を観察することによって行うことができる。
【0065】
本明細書において、「個体」又は「被験体」又は「動物」とは、マイナス鎖RNAウイルス感染、特に、インフルエンザウイルス感染をサポートする脊椎動物(トリ類(例えば、水鳥やニワトリ)や哺乳動物種のメンバー(例えば、イヌやネコ、オオカミ、イタチ、齧歯動物(ラシーヌ(racine)やマウス等)、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ種、霊長類)(後者はヒトを含む)が挙げられるが、これらに限定されない)を意味する。具体的な一実施形態においては、被験体はフェレットであるが、これはインフルエンザを研究するのに適した動物モデルである。他の実施形態においては、被験体はヒトである。
【0066】
本明細書において、「免疫原性」とは、ある剤が体液性免疫応答又は細胞性免疫応答(好ましくはその両方)を誘発することができることを意味する。免疫原性実体は抗原性でもある。免疫原性組成物とは、免疫系を有する動物に投与した際に、体液性免疫応答又は細胞性免疫応答、又はその両方を誘発する組成物である。
【0067】
「ワクチン」とは、レシピエント内で防御免疫を誘発するのに用いることのできる組成物(例えば、アジュバントの存在下又は非存在下での弱毒化生インフルエンザウイルス)を意味する。注目すべき点は、本発明のワクチンが有効であるためには、ある個体においては、強い免疫応答や防御免疫応答を開始させることができず、ある場合には如何なる免疫応答も開始させることができないが、免疫化した集団の一部において免疫を誘発することができることである。このような免疫応答の開始不能は、個体の遺伝的背景に由来するか、又は免疫不全状態(後天性又は先天性)や免疫抑制(例えば、化学療法を用いた治療や免疫抑制剤の使用に起因する)のためである。ワクチンの有効性は動物モデルで確立することができる。
【0068】
「アジュバント」とは、宿主の他の抗原(例えば、弱毒化生インフルエンザウイルス)に対する免疫応答を該抗原と共に投与した際に増強する化合物又は組成物を意味する。本発明のワクチン組成物に有用なアジュバントとしては、フロイント完全アジュバントやフロイント不完全アジュバント、サポニン、水酸化アルミニウム等の鉱物ゲル、リゾレシチン等の界面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、オイル又は炭化水素エマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニン、N−アセチル−ムラミル−L−スレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノル−ムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリロキシ)−エチルアミン、カルメット・ゲラン桿菌(BCG)、コリネバクテリウム・パルバムが挙げられるが、これらに限定されない。アジュバントは薬学的に許容し得るのが好ましい。
【0069】
本発明の意味において用いられる「共投与」とは、免疫アジュバントと抗原を一組成物にて同時に投与するか、異なる組成物にて同時に投与するか、又は特定の期間内(例えば、24時間)で逐次的に投与することを意味する。
【0070】
本明細書において、「防御」とは、被験体における疾患(例えば、流感)の発症や持続の予防又は治療、又は必要に応じてその両方を意味する。
【0071】
「防御免疫応答」又は「防御免疫」は、例えば、病原体(例えば、インフルエンザウイルス)や感染細胞の負荷を除去又は低下させるか、又は免疫化(ワクチン接種)した被験体における感染の測定可能な軽減をもたらすのに有効な体液性(抗体)免疫又は細胞性免疫、又はその両方を包含する。
【0072】
本明細書において、「治療有効量/用量」は「免疫原性有効量/用量」と交換可能に用いられ、弱毒化生インフルエンザウイルス又は該ウイルスを含む医薬組成物やワクチンを哺乳動物に投与した際に防御免疫応答をもたらすのに十分な量を意味する。
【0073】
「薬学的に許容し得る」とは、生理学的に容認することができ、ヒトに投与した際に通常はアレルギー反応や類似の不都合な反応(例えば、胃の不調やめまい等)をもたらさない分子体や組成物を意味する。好ましくは、本明細書で用いる「薬学的に許容し得る」とは、動物(より具体的にはヒト)における使用のために、連邦政府又は州政府の監督官庁によって認可されているか、又は米国薬局方か、他の一般に承認された薬局方に記載されていることを意味する。
【0074】
本発明の医薬組成物又はワクチン組成物に適用される「担体」とは、化合物(例えば、弱毒化生インフルエンザウイルス)と共に投与する希釈剤、賦形剤又は媒体を意味する。このような薬学的担体としては、水や、ピーナッツ油や大豆油、鉱油、ゴマ油等の石油、動物、植物又は合成に由来するものを含む油状物等の無菌液体を用いることができる。水又は水溶液、生理食塩水溶液、ブドウ糖水溶液及びグリセロール水溶液を担体として用いることが好ましく、特に注射用液剤に用いることが好ましい。適切な薬学的担体は「Remington's Pharmaceutical Sciences" by E.W. Martin, 18th Edition」に記載されている。
【0075】
本明細書において、「単離」とは、関連物質(例えば、細胞やウイルス)をその天然環境から取り除くことを意味する。従って、単離した生物学的物質は、細胞成分(即ち、天然物質が自然に生じる細胞の成分(例えば、細胞質成分や膜成分))の一部又はその全てを含まない場合がある。ある物質が細胞抽出物や上清に存在する場合には、該物質は単離されたものと考える。核酸分子の場合、単離核酸としては、PCR産物や単離RNA(例えば、mRNAやmiRNA)、DNA(例えば、cDNA)、制限断片が挙げられるが、これらに限定されない。他の実施形態においては、単離核酸は、それが存在し得る細胞ゲノムやウイルスゲノムから切除することが好ましく、例えば、この核酸の上流又は下流に位置する他の遺伝子や調節配列に連結したり近接することはない。更に他の実施形態においては、単離核酸は一以上のイントロンを欠いている。単離核酸分子には、プラスミドやコスミド、人工染色体等に挿入された(即ち、キメラ組換え核酸構築物の一部を形成する際に)配列が含まれる。従って、具体的な一実施形態においては、組換え核酸は単離核酸である。単離タンパク質は他のタンパク質又は核酸、又はその両方と細胞内で結合することができ、該タンパク質が膜結合性タンパク質の場合には細胞膜と結合することができる。単離オルガネラ、細胞又は組織は、それが生物内に存在する解剖学的部位から除去する。単離物質は精製してもよいが、その必要はない。
【0076】
本明細書において、「精製」とは、無関係な物質(即ち、夾雑物)(例えば、単離物質の由来源である天然物質)の存在を抑制又は排除する条件下で単離された物質を意味する。例えば、精製ウイルスは、宿主細胞や培養成分(例えば、組織培養物や卵タンパク質、非特異的病原体等)を実質的に含まないことが好ましい。本明細書において、「実質的に含まない」とは、物質の分析試験のコンテクストにおいて操作上用いられる。夾雑物を実質的に含まない精製物質は少なくとも50%ピュアであることが好ましく、少なくとも90%ピュアであることがより好ましく、少なくとも99%ピュアであることが更に好ましい。純度の評価は、クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、イムノアッセイ、組成分析、生物学的アッセイ、及び当該技術分野で公知の他の方法によって行うことができる。
【0077】
精製方法は当該技術分野でよく知られている。ウイルス粒子の精製は、スクロースクッションによる限外濾過、又は超遠心分離(好ましくは、連続遠心分離)によって行うことができる(Furminger, In: Nicholson, Webster and May (eds.), Textbook of Influenza, Chapter 24, pp. 324-332 参照)。他の精製方法も可能であり、本明細書で意図されている。精製物質は、それが本来は伴っていた細胞成分や媒体、タンパク質、他の望ましくない成分や不純物(状況に応じて)の約50%未満、好ましくは約75%未満、最も好ましくは約90%未満含んでもよい。「実質的に純粋」とは、当該技術分野で公知の従来の精製技法を用いて達成することができる最も高い純度を示す。
【0078】
「約」又は「およそ」とは、ある値の統計的に有意な範囲内であることを意味する。このような範囲は、所定の値又は範囲に対して好ましくは50%以内、より好ましくは20%以内、更に好ましくは10%以内、更に好ましくは5%以内のオーダーとすることができる。「約」又は「およそ」によって包含される許容偏差は研究中の特定の系によって決まるが、当業者には容易に理解され得る。
【0079】
本発明においては、従来の分子生物学、微生物学及び組換DNA技法を、当業者の技能範囲内で利用できる。このような技法は文献において十分に説明されている。例えば、Sambrook, Fritsch & Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition. Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989 (herein "Sambrook et al., 1989"); DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes I and II (D.N. Glover ed. 1985); Oligonucleotide Synthesis (MJ. Gait ed. 1984); Nucleic Acid Hybridization [B.D. Hames & SJ. Higgins eds. (1985)]; Transcription And Translation [B.D. Hames & SJ. Higgins, eds. (1984)]; Animal Cell Culture [R.I. Freshney, ed. (1986)]; Immobilized Cells And Enzymes [IRL Press, (1986)]; B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning (1984); Ausubel, F. M. et al. (eds.). Current Protocols in Molecular Biology. John Wiley & Sons, Inc., 1994 を参照。このような技法には、Kunkel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488- 492 (1985), 米国特許第5,071,743号, Fukuoka et al. , Biochem. Biophys. Res. Commun. 263: 357-360 (1999); Kim and Maas, BioTech. 28: 196-198 (2000); Parikh and Guengerich, BioTech. 24: 4 28-431 (1998); Ray and Nickoloff, BioTech. 13: 342-346 (1992); Wang et al., BioTech. 19: 556-559 (1995); Wang and Malcolm, BioTech. 26: 680-682 (1999); Xu and Gong, BioTech. 26: 639-641 (1999), 米国特許第5,789,166号及び第5,932,419号、 Hogrefe, Strategies 14. 3: 74-75 (2001), 米国特許第5,702,931号、第5,780,270号及び第6,242,222号, Angag and Schutz, Biotech. 30: 486-488 (2001), Wang and Wilkinson, Biotech. 29: 976-978 (2000), Kang et al., Biotech. 20: 44-46 (1996), Ogel and McPherson, Protein Engineer. 5: 467-468 (1992), Kirsch and JoIy, Nuc. Acids. Res. 26: 1848-1850 (1998), Rhem and Hancock, J. Bacterid. 178: 3346-3349 (1996), Boles and Miogsa, Curr. Genet. 28: 197-198 (1995), Barrenttino et al., Nuc. Acids. Res. 22: 541-542 (1993), Tessier and Thomas, Meths. Molec. Biol. 57: 229-237, and Pons et al., Meth. Molec. Biol. 67: 209-218 に記載の部位特異的突然変異誘発が含まれる。
【0080】
ウイルスゲノムに組み込むマイクロRNA応答要素(MRE)の選択
本発明は、miR−93の2種の遍在性MREを保存インフルエンザヌクレオカプシド(NP)タンパク質のオープンリーディングフレーム(ORF)に組み込んで高度に弱毒化されたインフルエンザウイルスワクチン株を得ることによって例示される。後述するように、NP遺伝子は、株間での遺伝的ドリフトが殆どなく、エスケープ変異体が出現しにくいことによって特徴付けられる。しかし、他のインフルエンザmRNAのコード領域又は非コード(例えば、人工3’UTR)領域内にMREを組み込むことができることは理解されよう。全てのインフルエンザ遺伝子をMRE挿入に用いることができるが、より保存されたインフルエンザタンパク質のORFを用いると、エスケープ変異体が出現しにくくなり、ワクチンの安全性が高まるため好ましい。従って、MRE挿入に好ましいインフルエンザ遺伝子はPB1、PB2、PA、M1、M2、NP、NS1及びNEPである。
【0081】
有効なLAIVワクチンを作出するには1種のMREでも十分であるが、ワクチン接種した動物において効率的な弱毒化を確実にし、エスケープ変異体の可能性を低下させるためには少なくとも2種のMREを用いることが好ましい。このような二以上のMREは、同一の配列を有する場合もあり、幾つかのヌクレオチド位置が異なる場合もあり、二以上の異なるmiRNAに対応する場合もあるが、各miRNAは、ワクチン接種対象の動物においてインフルエンザウイルスの標的となる組織/細胞では高度に発現するが、大規模なワクチン作出に用いる種及び/又は組織/細胞(例えば、発育鶏卵内でウイルス増殖が生じる領域[例えば、絨毛尿膜]や適切な細胞株[例えば、MDCK細胞])では発現しないか又は発現が非常に低レベルである。このような二以上のMREは、インフルエンザウイルスゲノムの一以上の位置に挿入することができる。
【0082】
コード領域内へのMRE配列の組み込みは、ヌクレオチド配列の変化、特に、アミノ酸置換をもたらすヌクレオチド配列の変化を最小限に抑えることを目的として、インフルエンザウイルス遺伝子のコード領域を変化させることによって行うことができる。従って、アミノ酸の元来の同一性は通常保持されるが、アミノ酸置換が必要な場合には、同一の階層的クラスタリング(例えば、非極性(G、A、V、L、M、I)や極性(S、T、C、P、N、E)、芳香族(F、Y、W)、正電荷(K、R、H)、負電荷(D、E))に従うことが好ましい。
【0083】
ヌクレオチドの変更は、当該技術分野で公知の部位特異的突然変異誘発方法のいずれかを用いて導入することができる。例えば、Kunkel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488- 492 (1985), 米国特許第5,071,743号, Fukuoka et al. , Biochem. Biophys. Res. Commun. 263: 357-360 (1999); Kim and Maas, BioTech. 28: 196-198 (2000); Parikh and Guengerich, BioTech. 24: 4 28-431 (1998); Ray and Nickoloff, BioTech. 13: 342-346 (1992); Wang et al., BioTech. 19: 556-559 (1995); Wang and Malcolm, BioTech. 26: 680-682 (1999); Xu and Gong, BioTech. 26: 639-641 (1999), 米国特許第5,789,166号及び第5,932,419号, Hogrefe, Strategies 14. 3: 74-75 (2001)、 米国特許第5,702,931号、第5,780,270号及び第6,242,222号, Angag and Schutz, Biotech. 30: 486-488 (2001), Wang and Wilkinson, Biotech. 29: 976-978 (2000), Kang et al., Biotech. 20: 44-46 (1996), Ogel and McPherson, Protein Engineer. 5: 467-468 (1992), Kirsch and JoIy, Nuc. Acids. Res. 26: 1848-1850 (1998), Rhem and Hancock, J. Bacterid. 178: 3346-3349 (1996), Boles and Miogsa, Curr. Genet. 28: 197-198 (1995), Barrenttino et al., Nuc. Acids. Res. 22: 541-542 (1993), Tessier and Thomas, Meths. Molec. Biol. 57: 229-237, and Pons et al., Meth. Molec. Biol. 67: 209-218.を参照。
【0084】
効率的に弱毒化を行うためには、MRE配列は、少なくともmiRNA「シード」配列(即ち、miRNAの5’及びMREの3’ヌクレオチド1〜7又は2〜8)と完全に相補的である必要がある。更なる相補性はウイルスの弱毒化を更に高めるのに役立つ。本発明に係るMREは、例えば、対象となるmiRNAの部分的又は完全に逆位で相補的な配列を用いて設計することができる。相補性のあるより短い領域を用いることによって、潜在的な部位の数は増加し、必要なヌクレオチド変更の数は減少する。
【0085】
RNA結合によって、シトシン(C)をウラシル(U)で置換し、アデノシン(A)をグアニン(G)で置換することができ、更には良好な平均自由エネルギー(MFE)を維持することもできる。Crick, J MoI Biol 19(2):548-555 (1966)。その結果、5’−UCU−3’(これはセリン(S)をコードする)や5’−UUU−3’(これはフェニルアラニン(F)をコードする)等のコドンはいずれも5’−AGA−3’とハイブリダイズすることができる。従って、miRNAの5’−AGA−3’配列を標的とするMREは、S又はFをコードするインフルエンザ配列に挿入することができる。この例を表1に更に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
例えば、miR−16配列:5’−UAGCAGCACGUAAAUAUUGGCG−3’(配列番号1)の場合、最小「シード」配列は、5’−UAGCAGCAC−3’(配列番号8)又は5’−AGCAGCAGC−3’(配列番号9)、即ち、相補的なMRE配列5’−GTGCTGCTA−3’(配列番号10)又は5’−CGTGCTGCTA−3’(配列番号11)を形成する配列と見なすことができる。これらの推定MRE配列の各々においてシトシン(C)をウラシル(U)で置換、及び/又はアデノシン(A)をグアニン(G)で置換することによって、VLL、RAA、RVV、RAV、RVA、CAA、CVV、CAV又はCVAをコードする如何なるオープンリーディングフレームも操作してmiR−16に応答するようになる。
【0088】
本明細書に記載の具体例においては、ウイルス配列は、インフルエンザAウイルス株であるA/Puerto Rico/8/34/Mount Sinai(H1N1)に由来する。具体的には、特定のヌクレオチドとアミノ酸の位置は次のGenBank登録番号に相当する。
【0089】
【表3】
【0090】
各例において、平均自由エネルギー(MFE)は、非階層的アミノ酸置換(例えば、miR−93に関して後述するような置換)によって更に低下させることができる。理想的には、MRE/miRNA相互作用のMFEは−20kcal/モル未満、−25kcal/モル未満、−30kcal/モル未満、又は−35kcal/モル未満である。MFE計算方法については、Dawson and Yamamoto, J. Theor. Biol., 1999, 201(2): 1 13-140.を参照。
【0091】
しかし、ACGやUCG、CGU、CGA等のまれなコドントリプレットをもたらすヌクレオチド置換(Larner et al. Gene 345:127-138 (2005))は、このようなトリプレットがMRE挿入に用いるウイルス領域に既に存在していない場合には回避すべきであることは理解されよう。
【0092】
本明細書で例示のように、インフルエンザNPの場合には、セグメント5の位置225(部位1)及び位置818(部位2)は、miR−93のMRE配列に対して高い配列類似度を示すことが分かった。従って、部位1の配列5’−ACAAUAGAGAGAAUGGUGCUCUCU−3’(配列番号12)を5’−ACACUUGAACGAAUGGUACUUUCU−3(配列番号13)で置換してインフルエンザ93NP1を作出し、部位2の配列5’−UUUCUAGCACGGUCUGCACUCAUA−3’(配列番号14)を5’−UUCCUUGCACGGACAGCACUUUUA−3’(配列番号15)で置換してインフルエンザ93NP2を作出した。
【0093】
以下の表2〜9においては、ヌクレオチド配列レベルで改変して(標的インフルエンザのアミノ酸配列には如何なる変更も引き起こさずに)二以上のMREを組み込むことができるインフルエンザAコード領域の例を示す。開示したMRE対又はトリプレットの各々は、ヌクレオチド配列の変更を最小限にし、上の表1に記載のパラメータに従ってアミノ酸置換を制限することによって得られる。
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
【0096】
【表6】
【0097】
【表7】
【0098】
【表8】
【0099】
【表9】
【0100】
【表10】
【0101】
【表11】
【0102】
本発明に有用なMREは、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト)細胞(例えば、上皮細胞や分泌細胞[クララ]、繊毛細胞、頂端細胞、杯細胞[粘膜]、造血細胞[例えば、樹状細胞やマクロファージ、リンパ球]、気管支細胞、インフルエンザウイルスの標的となる肺や上気道の他の細胞)では高度に発現するが、ワクチン作出に用いる細胞株(例えば、MDCK細胞[例えば、ATCCカタログ番号:CCL−34])や発育鶏卵(ニワトリ)内でウイルス増殖が生じる領域では発現しないか又は発現が非常に低レベルである如何なるmiRNAにも由来することができる。これによって、インオボ又はインビトロで効率的にワクチンを作出することができるが、ワクチンウイルスは同族miRNAを発現する哺乳動物(例えば、ヒト)細胞において弱毒化の影響を受けやすくなる。
【0103】
表10は、10日齢の鶏(ニワトリ)卵の尿膜とヒトA549肺上皮細胞におけるmiRNA発現の相対データを示す。これは、RNAアダプタを精製細胞RNAに連結させて生成した300万超の構築配列(「リード」)のハイスループット並行配列決定に基づく。得られた割合(%)は、miRNA特異的リードの総数をmiRNAリードの総数で割ったものである。
【0104】
【表12】
【0105】
上述のデータに基づき、miR−16、miR−17、miR−19、miR−25、miR−34、miR−92及びmiR−93は、哺乳動物に特異的なMRE含有LAIVワクチン作出の有力な候補となる。
【0106】
更なる有用なmiRNAは、並行配列決定及び対象となる2個の種間、組織間又は細胞株間での相対発現レベルを確認することによって同定することができる。miRNA配列の最新データベースを参照(http://www.mirbase.org/(miRBase))。
【0107】
本発明の組換えLAIVは、更なる弱毒化変異(例えば、温度感受性ウイルス増殖をもたらす変異(例えば、FLUMISTに用いる変異)や病原性因子の除去(例えば、NS1タンパク質の除去))を含むことができる。
【0108】
組換え弱毒化生インフルエンザウイルスの作出
MRE含有組換え構築物を作出した後、本発明のMRE含有弱毒化生ウイルスは、培養細胞中(例えば、ヒト胎児腎臓HEK−293細胞[ATCCカタログ番号:CRL−1573]やニワトリ線維芽細胞DF1[ATCCカタログ番号:CRL−12203]、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MCK)細胞[ATCCカタログ番号:CCL−34、CRL−2285、CRL−2286、CRL−2935又はCRL−2936]、アフリカミドリザル腎臓細胞(ベロ)[ATCCカタログ番号:CCL−81、CRL−1586、CRL−1587又はCRL−2783]、ヒトPER−C6細胞(Pau et al., Vaccine, 19(17-19) 2716, (2001))、ニワトリ線維芽細胞DF1[ATCCカタログ番号:CRL−12203]中)で組換えによって作出することができる。細胞株中での作出後、発育鶏卵中で増殖させてより高い力価を得ることができる。
【0109】
各段階において、ウイルス粒子の精製は、例えば、限外濾過や超遠心分離(好ましくは、連続遠心分離)によって行うことができる(Furminger, In: Nicholson, Webster and May (eds.), Textbook of Influenza, Chapter 24, pp. 324-332 参照)。ウイルス力価は、プラークアッセイ、組織培養感染量、卵感染量、血球凝集抑制又は抗体依存蛍光によって求めることができる。Huprikar et al., J Virol Methods, 1980, 1(2): 1 17-120, Rimmelzwaan et al., J Virol Methods. 1998, 74(1): 57-66。
【0110】
本発明の組換え弱毒インフルエンザウイルスは、種々のインフルエンザの遺伝的背景(例えば、H5N1ウイルス(例えば、A/Vietnam/1203/04やA/chicken/Scotland/59、A/duck/Hong Kong/308/78)、H1N1ウイルス(例えば、A/PuertoRico/8/1934やA/NewYork/616/1995、A/California/04/2009)、H3N2ウイルス(例えば、A/HongKong/16/68やA/USSR/039/68、A/Yokohama/C5/85)、他のインフルエンザAウイルス(例えば、低温適応株A/Leningrad/134/17/57やA/Leningrad/134/47/57、A/Ann Arbor/6/60)が挙げられるが、これらに限定されない)に由来することができる。
【0111】
本発明の組換え弱毒インフルエンザウイルスの培養細胞中での作出は、当業者に公知の如何なる手段によっても行うことができ、例えば、polIプロモーター由来の8種のインフルエンザvRNAとpolIIプロモーター由来の全mRNAのプラスミド駆動発現によって感染性インフルエンザウイルスの生成をもたらす「プラスミドオンリー」システム(Hoffmann et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2000, 97:6108; Hoffmann et al., Vaccine 2002, 20:3165; 米国特許第6,951,754号; Quinlivan et al, J. Virol. 79(13):8431 (2005))等の遺伝子工学方法によって行うことができる。哺乳動物細胞中でのウイルス増殖時の弱毒化を回避するため、MRE含有プラスミドをRNAPolIによってのみ駆動してMREを含むvRNAを逆の(即ち、無効の)配向で作出し、他のプラスミド(MREを含まず)をRNApolIIプロモーターによってのみ駆動して野生型mRNAを作出する。例えば、後述の実施例11に記載のように、NPオープンリーディングフレームにMREを含む組換え弱毒インフルエンザウイルスを作出するため、本発明者らは、RNApolIIプロモーターによってのみ駆動するプラスミド(pCAGGs NP)を用いて野生型NPmRNAを作出し、RNApolIによってのみ駆動する他のプラスミド(pPolIMREコードNP)を用いてNPオープンリーディングフレームにMREを含むvRNAを作出した。
【0112】
代替方法においては、対象となるMRE含有vRNAセグメントを過剰発現させた後、細胞を対象となるウイルス株に非常に低い感染多重度(MOI)(例えば、ウイルス1個/細胞100個)で感染させることができる。対象となるウイルスセグメントは過剰発現によって組み込まれる。卵内での接種後、異質ウイルスはプラーク精製することができ、培養細胞中でプラークサイズによって野生型ウイルスと区別することができる。或いは、野生型未改変株のみを標的とする短い妨害RNA(siRNA)をトランスフェクトすることによってレスキュー時に更なる選択圧を加えることができる。これによって、組換え体のみを選択する。
【0113】
大規模なウイルス作出を達成するため、最初のウイルス作出に用いた上清及び/又は培養細胞を10日齢の発育鶏卵に注入することができる。或いは、MDCK細胞の操作によるMRE含有ウイルスの増殖は、(i)レンチウイルス組み込みによる対応するmiRNAの安定ノックダウン(Gentner et al., Nature Methods (2009) 63-66)、(ii)ダイサー又はドローシャに特異的なジンクフィンガーヌクレアーゼの発現(Miller et al, Nature Biotechnology (2007); 778-85)、又は(iii)MDCK細胞において発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAに対応するMREを組み込むことによって行うことができる。
【0114】
本発明の組換え弱毒化生インフルエンザウイルスに存在するMREに対応するmiRNAはワクチン作出に用いる細胞株やニワトリの尿膜には存在しないか又は発現が非常に低レベルであるが、哺乳動物組織(例えば、インフルエンザウイルスの標的となる肺組織や他の組織)には豊富にあるため、このようなワクチンは哺乳動物細胞中では選択的に弱毒化されるが、ニワトリ尿膜や選択された細胞株(例えば、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MCK)細胞[ATCCカタログ番号:CCL−34、CRL−2285、CRL−2286、CRL−2935又はCRL−2936]やアフリカミドリザル腎臓細胞(ベロ)[ATCCカタログ番号:CCL−81、CRL−1586、CRL−1587又はCRL−2783]、ヒトPER−C6細胞(Pau et al., Vaccine, 19(17-19) 2716, (2001))、ニワトリ線維芽細胞DF1[ATCCカタログ番号:CRL−12203])では非常に高い力価まで増殖することができる。従って、本発明のMRE含有インフルエンザウイルスワクチンは1×107プラーク形成単位/mL(pfu/mL)を超えるウイルス力価を得ることができ、標準的な細胞培養又は高密度細胞発酵技術(Meghrou et al, Vaccine 28(2) 309 (2009))を用いてワクチン増殖が可能である。
【0115】
本発明のワクチン組成物
また、本発明は、MRE含有弱毒化生インフルエンザウイルスと薬学的に許容し得る担体又は希釈剤とを含む新規な改良LAIVワクチン組成物も提供する。インフルエンザウイルスに起因する病態を予防する方法に該ワクチンを用いることができ、その際、該ワクチンの治療有効量をそれを必要とする被験体に投与することができる。
【0116】
インフルエンザワクチンの有効性を更に高めるための戦略としては、例えば、アジュバントとの共投与(上述参照)や、サイトカインやリンホカイン、ケモカイン等の免疫賦活分子(例えば、インターロイキンIL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−12、IL−13や顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)及び他のコロニー刺激因子、マクロファージ炎症因子、Flt3リガンド、B7.1、B7.2等)との共投与が挙げられる。Salgaller and Lodge, J. Surg. Oncol. 1998, 68: 122; Lyman, Curr. Opin. Hematol., 5: 192, 1998。アジュバントや免疫賦活分子は全身的に又は局所的に(例えば、タンパク質として直接、又はベクターからの発現によって)送達することができる。Wood and Williams, In: Nicholson, Webster and May (eds.), Textbook of Influenza, Chapter 23, pp. 317-323; Salgaller and Lodge, J. Surg. Oncol. 1998, 68:122. 参照。
【0117】
本発明のLAIVワクチンの治療有効な防御用量は、当該技術分野で公知の種々の投与経路によって投与することができる。インフルエンザ感染は粘膜経由で生じ、粘膜は免疫療法の重要な標的である樹状細胞を有しているため、弱毒化生ワクチンの場合、粘膜投与が特に好ましい。有用な粘膜ワクチン接種戦略の例としては、特に、ウイルスをマイクロカプセル内に封入すること(米国特許第5,075,109号、5,820,883号、5,853,763号)や免疫強化膜状担体を用いること(PCT公開番号:WO98/0558)が挙げられる。具体的な一実施形態においては、本発明のワクチンは、コレラ毒素(CT)との混合物、又はCTとの複合タンパク質やキメラ融合タンパク質(例えば、CT BやCT A/Bキメラ)として粘膜投与することができる(Hajishengallis, J Immunol., 154: 4322-32, 1995; Jobling and Holmes, Infect Immun., 60: 4915-24, 1992)。CT Bサブユニットの使用に基づく粘膜ワクチンについては既に説明されている(Lebens and Holmgren, Dev Biol Stand 82: 215-27, 1994)。他の実施形態においては、熱不安定性エンテロトキシン(LT)との混合物を粘膜ワクチン接種用に調製することができる。吸入によって投与するワクチンの免疫原性は、赤血球(rbc)やrbcゴースト(米国特許第5,643,577号)を用いるか、又はブルータング抗原(米国特許第5,690,938号)を用いることによっても高めることができる。
【0118】
上述のアプローチは将来のワクチン接種戦略の改善に有望であるが、それらを特定の状況で用いるには、ワクチンの有効性を確実にする検証や調査が必要である。
【0119】
ワクチンの効力を評価するため、一元放射免疫拡散(SRD)試験を用いることができる。Schild et al., Bull. World Health Organ. 1975, 52: 43-50 and 223-31 Mostow et al., J. Clin. Microbiol. 1975, 2: 531。十分な免疫応答に必要な用量は標準化されており、SRD又は最小限の中和活性に対して15μgHA/株/投与である。
【実施例】
【0120】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。しかし、これらの例や本明細書のどの箇所における他の例も説明の目的にのみ用いられ、決して本発明や如何なる例示用語の範囲や意味をも限定するものではない。同様に、本発明は、本明細書に記載の如何なる特定の好ましい実施形態にも限定されない。実際、本明細書を読む際、当業者には本発明の多くの改変や変更が明らかとなるであろうし、このような変更は、本発明の精神や範囲を逸脱することなく行うことができる。従って、本発明は、添付する特許請求の範囲の用語、及びこれらの特許請求の範囲によって与えられる均等の全範囲によってのみ限定されるものである。
【0121】
実施例1
ウイルス感染
動物の感染はNIH基準に従って行った。5週齢のBalb/cマウスをタコニックファームズ社(ニューヨーク州アルバニー)から購入した。イソフルランの吸入によってマウスを約5分間通常の麻酔下におき、意識を取り戻した際に50μLのウイルス(PBSに再懸濁)をマウスのトラップに置いた。ウイルスの力価は標準的なプラークアッセイによって測定し、病原性の研究は3〜5匹のマウス/接種用量のコホートに対して行った。マウスは毎日計量し、最初の体重の20%が失われた場合には殺した。1×103プラーク形成単位(pfu)のMRE含有H5N1ウイルス又は偽PBS感染を用いたワクチン接種研究は鼻腔内で行った(PBS、n=2;MRE含有H5N1、n=7)。感染21日後、マウスを1×106PRNTL H5N1で再チャレンジ(鼻腔内)し、罹患及び死亡の徴候について毎日モニターした。
【0122】
実施例2
ウイルスNPの継代及び配列決定
TPCKトリプシンの存在下、ヒト肺上皮細胞をPRNTL又はMRE含有H5N1に0.01のMOIで感染させた。感染24時間後、上清を未処理細胞に移し、次の日に計10回の継代を繰り返した。感染10日後、全RNAに対してRT−PCRを行い、NPのPCR産物を配列決定目的のためにクローン化した。インビボ研究においては、5週齢のBalb/cマウスを上述のウイルスで処理した。感染5日後、全RNAを回収し、配列決定のためにNPのクローン化に用いた。記載の配列はコホート当たり25を超えるコロニーを示す。
【0123】
実施例3
miRNA発現及び標的ルシフェラーゼベクター
miR−124を発現する赤色蛍光タンパク質のミニ遺伝子はE.マケイエフ(Makeyev)によって作出された。Makeyev et al, Molecular Cell 27(3):435 (2007)。pRFP−miR−93を作出するため、順方向プライマー5’−TAGTGGTCCTCTCTGTGCTACCG−3’(配列番号112)及び逆方向プライマー5’−ATTGAACAAAAATGGGGACTCCT−3’(配列番号113)を用い、提供されたプロトコルにより高忠実度PCRマスターキット(ロシュ・アプライド・サイエンス、インディアナ州インディアナポリス)を用いたPCR増幅によって、pri−miR−93遺伝子座を含む500bpのゲノム断片をマウスゲノムDNAから単離した。得られたPCR産物をpCR(登録商標)2.1−TOPO(インビトロジェン社、カリフォルニア州カールズバッド)に製造業者の指示に従ってサブクローン化した後、PmeI−SpeI部位によってpRFPミニ遺伝子にクローン化した。miR−124のMRE及び対照SV40の3’UTRを含むホタルルシフェラーゼ構築物はE.マケイエフから入手した。Makeyev et al, Molecular Cell 27(3):435 (2007)。
【0124】
実施例4
組織培養及びエクスビボ感染
特に明記しない限り、ヒト胎児腎臓HEK−293細胞、ヒト肺上皮A549細胞、ヒト星状腫U373細胞、及びマウス線維芽細胞は、10%ウシ胎仔血清(JMバイオサイエンス、カリフォルニア州サンディエゴ)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(メディアテック社)を添加したダルベッコ最小必須培地(DMEM、メディアテック社、バージニア州マナッサス)中で増殖させた。ダイサー−/−マウス線維芽細胞はA.タラーコフシー(Tarahkovsy)(ロックフェラー大学、ニューヨーク州ニューヨークシティ)から贈られたもので、15%FBS、1%非必須アミノ酸(ギブコ、インビトロジェン)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM中で増殖させた。ジャーカット細胞は、10%ウシ胎仔血清及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したα最小必須培地で増殖させた。初代ヒト樹状細胞RNAはA.フェルナンデス−セスマ(Fernendez-Sesma)(マウントサイナイ医学校、ニューヨーク州ニューヨークシティ)から提供された。線維芽細胞のエクスビボ感染は完全培地中、トリプシンの非存在下で行い(野生型線維芽細胞の場合にはMOIを1、ダイサー−/−線維芽細胞の場合には5とした)、指示された時点で回収した。
【0125】
実施例5
RT−PCR及びウェスタンブロット
RT−PCR及びイムノブロットは最近記載されたように行った。tenOever et al, Science 315(5816):1274 (2007)。アクチン(カタログ番号8226、アブカム社、マサチューセッツ州ケンブリッジ)、ポリクローナルPR8(A.ガルシア−サストル(Garcia-Sastre)(マウントサイナイ医学校、ニューヨーク州ニューヨークシティ)より入手)、IRF1(sc−640、サンタクルーズバイオテクノロジー社、カリフォルニア州サンタクルーズ)、STAT1(sc−417、サンタクルーズバイオテクノロジー社)及びISG54(G.セン(Sen)(クリーブランドクリニック、オハイオ州クリーブランド)より入手)抗体は全て、1μg/μLの濃度で用い、4℃で一晩インキュベートした。二次マウス及びウサギ抗体(GEヘルスケア、英国、ジャイルズ、チャルフォントストリート)は室温で1時間、1:1000希釈にて用いた。miRNAのRT−PCRプライマーを表1に示す。
【0126】
【表13】
【0127】
実施例6
pRFP及びルシフェラーゼレポータートランスフェクション
pRFP構築物の蛍光確認のためのトランスフェクションは、10%FBS添加DMEM中で増殖させたHEK293を用い、更に4μgの適切なpRFPベクター及びリポフェクタミン2000(インビトロジェン)を用い、提供されたプロトコルに従って行った。トランスフェクション24時間後に蛍光を画像化した。続いて行うWTインフルエンザA/Puerto Rico/8/34感染のため、100ngの適切なホタルルシフェラーゼ3’UTR構築物、10ngの構成的ホタルウミシイタケ(firefly Renilla)及び700ngの適切なpRFP構築物を含む混合物とリポフェクタミン2000(インビトロジェン)を用いてHEK293をトランスフェクトした。トランスフェクション6時間後にMOI=1で細胞を感染させ、感染18時間後に細胞を回収してDual−LuciferaseRレポーターアッセイ(プロメガ、ウィスコンシン州マディソン)を行った。pBluescript SK+(ストラタジーン、アジレントテクノロジーズ、カリフォルニア州ラホーラ)又はpDZ−NS1(全てのpDZ構築物はP.パレセ(Palese)(マウントサイナイ医学校、ニューヨーク州ニューヨークシティ)より入手した)を用いたコトランスフェクションのため、50ngの適切なホタルルシフェラーゼ3’UTR、10ngの構成的ホタルウミシイタケ、350ngの適切なpRFP構築物及び350ngのpBluescript SK+(ストラタジーン)又はpDZ−NS1(後述のベクター)を含む混合物とリポフェクタミン2000(インビトロジェン)を用いてHEK293をトランスフェクトした。トランスフェクション24時間後に細胞を回収し、Dual−LuciferaseRレポーターアッセイ(プロメガ)を製造業者のプロトコルによって行った。全てのホタルルシフェラーゼの測定値はサンプル当たりのホタルウミシイタケ発現に対する割合で表し、その後3個の複製物について平均値を求めた。
【0128】
実施例7
統計的解析
統計的解析は両側スチューデントT検定(n=3〜8)を用いて行った。p値<0.05を有意と見なした。エラーバーは+/−標準偏差を反映する。
【0129】
実施例8
miRNAノーザンブロット解析
トリゾール試薬(インビトロジェン)用い、供給されたプロトコルによって全RNAを抽出し、7.5Mの尿素及び1×TBEを含む15%変性ポリアクリルアミドゲルを用いたポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)によって分離した。Makeyev et al., Molecular Cell 27(3):435 (2007)。次いで、RNAをハイボンドN+膜(アマシャム、GEヘルスケアライフサイエンス)に移し(0.5×TBE中、360mA、60分間)、UV照射(200,000マイクロジュール/cm2)によって該膜に架橋させ、該膜を6×SSC、7%SDS中、65℃で一晩ブロックした。ハイブリダイゼーションプローブを表2に示す。
【0130】
【表14】
【0131】
T4ポリヌクレオチドキナーゼ(インビトロジェン)及び[γ32P]ATP(パーキンエルマー、マサチューセッツ州ウォルサム)を用いて表2に記載のオリゴヌクレオチドを放射標識し、セファデックスG−25カラム(GEヘルスケア)によって精製した。ブロッキング溶液にプローブを約1000万カウント/分で添加し、42℃で一晩インキュベートした。次いで、ブロットを42℃にて3×SSC、0.1%SDSで4回洗浄し、オートラジオグラムで一晩画像化した。
【0132】
実施例9
インフルエンザA/Puerto Rico/8/34ヌクレオカプシドへの
MREの組み込み
miR−93に対して部分相補性を有するインフルエンザA/Puerto Rico/8/34ヌクレオカプシド内の部位を、Bibiserv's RNAhybridアルゴリズム(ビーレフェルト大学、バイオインフォマティクスサービス、Centrum fur Biotechnologie−CeBiTec、ドイツ、ビーレフェルト)を用いて同定した。ウイルスRNA発現用pPol−I駆動NPベクターにおけるQuickChangeRキット及びプロトコル(ストラタジーン)を用いた3〜5段階の部位特異的突然変異誘発によってほぼ完全な相補性が得られた。
【0133】
実施例10
変異NPのRNA依存RNAポリメラーゼ活性
PRNTL1/2部位をpPol−Iベクターからインビトロタンパク質発現用pDZバックボーンにクローン化した。RdRp駆動ルシフェラーゼ発現のために、250ngのpDZ−NP−PRNTL1/2又はWTpDZ−NPを、100ngのpPol−Iベースプラスミド駆動のホタルルシフェラーゼ、10ngの構成的ホタルウミシイタケ、及び残りのインフルエンザウイルスポリメラーゼセグメント(62.5ngのPB1、62.5ngのPA及び25ngのPB2)と共にHEK293にトランスフェクトした。Hoffmann et al., Antiviral Research 80(2): 124 (2008)。ホタルルシフェラーゼ活性はDual−LuciferaseRレポーターアッセイ(プロメガ)を用いて測定し、サンプル当たりのホタルウミシイタケ発現に対する割合で表し、3個の複製物について平均値を計算した。
【0134】
実施例11
組換えインフルエンザAウイルスのレスキュー
本明細書に記載のpPol−INP変異体を用いて生ウイルスをレスキューした。リポフェクタミン2000(インビトロジェン)を用いてHEK293細胞に、変異pPol−INP構築物と共に、WTのpCAGGSNPと、上述の残りの7個のインフルエンザセグメントに対応する7個のpDZ構築物をトランスフェクトした。Park et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 103(21):8203 (2006)。トランスフェクション24時間後に細胞を回収し、受精鶏卵の絨毛尿膜液に注入した。注入48時間後に生ウイルスを単離し、血球凝集アッセイ及びプラークアッセイの両方によって定量した。上述の構築物を用い、H5N1組換えインフルエンザAウイルスを同様に作出した。
【0135】
実施例12
外因性miRNAヘアピン発現及び転写後の遺伝子サイレンシング
miRNAを外因的に発現させるため、そのゲノムコンテクスト内のmiRNAヘアピンを赤色蛍光タンパク質(RFP)のイントロンとしてクローン化することによって、その切除後に処理することができ、RFP発現との関連が得られた(図1A)。これらの研究においては、miR−93(即ち、内在性標的がまだ確認されていない高遍在性のmiRNA)とmiR−124(即ち、神経細胞分化の促進に伴う組織特異的miRNA)を選択した。Makeyev et al., Molecular Cell 27(3):435 (2007)。
【0136】
pRFP−miR−93又はpRFP−miR−124の発現によって、両方のプレmiRNA産物が出現すると共に、その成熟体が増加した(図1B)。これらの結果から、インビボインフルエンザウイルス感染時にはmiRNAプロセシングは有意に影響を受けないことが示唆された。miRNA介在の転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)がインフルエンザウイルス感染時に影響を受けるかどうか調べるため、公知のmiR−124標的配列を含むルシフェラーゼレポーターのmiR−124介在PTGSをモニターした。Makeyev et al., Molecular Cell 27(3):435 (2007)。miR−124は対照SV40の3’UTRを含むmRNA由来のルシフェラーゼ活性を抑制できなかったが、miR−124のMREを含むmRNA由来のルシフェラーゼ活性の90%を阻害した(図1C)。また、この活性は、インフルエンザウイルス(A/Puerto Rico/8/34)の存在下やNS1発現(即ち、宿主防御遮断に関与する非構造的RNA結合タンパク質)によっては阻害されなかった(図1C/D)。Lu et al., Genes & Development 8(15): 1817 (1994); Talon et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 97(8):4309 (2000); and Jackson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 105(11):4381 (2008)。これらのデータから、インフルエンザウイルス感染がmiRNA生合成及びPTGSを可能とし、それによってMRE組み込みが弱毒化誘導のツールとして用いることができたことが示唆された。
【0137】
実施例13
インフルエンザNPコード領域へのmiRNA標的配列の組み込み
インフルエンザウイルスは伝統的に発育鶏卵の絨毛尿膜内で高力価まで増殖する。従って、本発明の目的のために、この膜では発現しないが、マウス肺組織及びヒト肺組織の両方に遍在するmiRNA種を同定した。公的に入手可能なmiRNAプロファイルのインシリコスクリーン、及びニワトリ内で発現するmiRNAの公表レポートを用い、miR−93を有力な候補として同定した(図5及びBurnside et al., BMC Genomics 9:185 (2008))。これらのデータはノーザンブロット解析によって裏付けられた(図2A)。
【0138】
インフルエンザウイルスにmiR−93部位を組み込むため、循環している株間で高い保存性を維持しているウイルスゲノム内の領域を同定した。インフルエンザウイルス転写物は十分な3’UTRをコードせず、外因性RNAを伴ってパッケージング欠陥を示すため、miRNA標的はNPのコード領域に直接組み込んだ。NPのコード領域を選択したのは、このセグメントが1918年から今日まで株間での遺伝的ドリフトを殆ど示さず、エスケープ変異体が出現しにくいためである(図2B)。
【0139】
RNAフォールディングアルゴリズムを用いてmiR−93様部位の配列スキャニングを行ったが、これによって、タンパク質全体に対する構造的置換を行う必要なく、miR−93標的部位に形質転換し得る2個のRNA配列が同定された。効率的で効果的なターゲティングを確実に行うと共に、エスケープ変異体の可能性を低下させるため、セグメント5の位置225(部位1)及び位置818(部位2)において2種のほぼ完全な相補的MREを設計した。部位1では配列5’−ACAAUAGAGAGAAUGGUGCUCUCU−3’(配列番号12)を5’−ACACUUGAACGAAUGGUACUUUCU−3(配列番号13)(本明細書では93NP1と称する)又は5’−ACCUUAGAGAGGAUGGUCCUAUCU−3’(配列番号139)(本明細書ではPRNTL1と称する)に置換した。部位2では配列5’−UUUCUAGCACGGUCUGCACUCAUA−3’(配列番号14)を5’−UUCCUUGCACGGACAGCACUUUUA−3’(配列番号15)(本明細書では93NP2と称する)又は5’−UUUCUAGCCAGAACUGCACUCUUA−3’(配列番号140)(本明細書ではPRNTL2と称する)に置換した。
【0140】
部位1及び部位2の算出した平均自由エネルギー(MFE)はそれぞれ−28kcal/モル及び−37.1kcal/モルであった(図2C)。miR−93部位の作出によって3個のアミノ酸置換がもたらされたが、その全てが階層的順序内に留まった。こうして、NP機能が損なわれたかどうかが初めて確認された。このため、インフルエンザウイルスポリメラーゼ部位をコードするアンチセンスレポーター構築物に、必要なRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)成分PB1、PB2、PA、及び野生型NP構築物又は親NP構築物の一方をトランスフェクトした。Pleschka et al., J. Virol. 70(6):4188 (1996) and Hoffmann et al., Antiviral Research 80(2):124 (2008)。これらのデータから、I63L、S262T及び/又はI265LをNPに組み込んでもタンパク質の機能全体には影響を及ぼさないが、それによってポリメラーゼ活性が約20%低下した(図2D)ことが分かった。
【0141】
NP機能性の検証後、ヒト胎児腎臓細胞に種々のMRE含有NPセグメントをトランスフェクトすると共に、RNAポリメラーゼI及びIIで双方向に転写した残り7個のインフルエンザウイルスセグメント(A/Puerto Rico/8/34)をコードするプラスミドをトランスフェクトして、ウイルスRNA(vRNA)とmRNAを同時に作出した。Quinlivan et al., J. Virol. 79(13):8431 (2005) and Park et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 103(21):8203 (2006)。トランスフェクション24時間後に細胞を回収し、10日齢の発育鶏卵に注入した。全てのインフルエンザウイルス株(PRNTL、miR−93NP1、miR−93NP2及びmiR−93NP1/2)を同等の効率でレスキューしたが、インオボでは弱毒化は生じず、力価は1×107プラーク形成単位/mL(pfu/mL)を超えることが分かった(図2E)。
【0142】
実施例14
MRE含有NPセグメントを含むインフルエンザAウイルスのエクスビボ及びインビボ弱毒化
MRE含有NPセグメントの組み込みがmiR−93介在の弱毒化をもたらすかどうか確認するため、野生型及びダイサー−/−マウス線維芽細胞に親A/Puerto Rico/8/34(PRNTL)、A/Puerto Rico/8/34/93NP1(93NP1)、93NP2又は93NP1/2を感染させた(図3A及びS2)。1.0の感染多重度(MOI)において、PRNTLウイルスの場合、野生型線維芽細胞では感染12時間後(hpi)に十分なレベルの血球凝集素(HA)が産生した。このウイルス転写速度から、単一MREの組み込みによる弱毒化の程度が低いことが分かったが、93NP1/2の場合、タンパク質産生が完全に失われたことが分かった(図3A)。これらの同じウイルス株がmiRNAプロセシングを妨げるダイサーの非存在下で高力価まで複製した(図3A及びB)ため、この弱毒化は組み込まれたMRE部位に起因すると考えられる。これらのデータから、インフルエンザウイルス転写物へのMREの組み込みによってエクスビボでmiRNA介在の弱毒化が誘導されたことが分かった。
【0143】
インビボでMRE含有インフルエンザ株の特徴付けを行うため、マウスに104pfuで鼻腔内感染させ、感染5日後(dpi)に全肺抽出物を回収した。心葉のRT−PCR解析から、PRNTL含有株に対する免疫応答とMRE含有株に対する免疫応答には認識可能な差は無いことが分かった。各株に対して、インターフェロン調節因子7(IRF7)mRNAの強いアップレギュレーションがあり、主要な抗ウイルスサイトカイン(インターフェロンβ(IFNβ)やインターロイキン6(IL6)等)が誘導された(図3C)。また、左葉のタンパク質解析から、IFNβ調節遺伝子及びIFNγ調節遺伝子の両方(例えば、STAT1やIRF1、IFN刺激遺伝子54(ISG54))が強く誘導されることも分かった(図3D)。更に、インフルエンザウイルスは変異する傾向が強い(tenOever et al, Science 315(5816):1274 (2007))ため、複数回の感染をヒト肺上皮細胞A549(ATCCカタログ番号:CCL−185)ではエクスビボで、マウスではインビボで行って、それぞれ数回の連続継代後又は感染5日後にRNAを回収した(図3E及び7)。驚くべきことに、インビボ感染及びエクスビボ感染の両方において復帰変異体が産生しなかったが、これは、miRNAターゲティングの柔軟性と共に、これに対するNPの強固な保存性によってエスケープ変異体の産生が妨げられることを示唆する。
【0144】
実施例15
MRE含有インフルエンザAウイルスワクチンによるインビボ防御
エクスビボでのmiRNA介在弱毒化がインビボで実証され、良好なワクチンとして用いることができるかどうか確認するため、病原性研究をマウスで行った。この潜在的なワクチン戦略の汎用性を説明するため、A/Puerto Rico/8/34(H1N1)のMRE含有セグメント5を用いてトリ血球凝集素(H5)及びノイラミニダーゼ(N1)を含むキメラ株をA/Vietnam/1203/04から標準的な逆遺伝学によってレスキューした。Park et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 103(21):8203 (2006) and Tumpey et al., Science 310(5745):77 (2005)。
【0145】
本発明者らのH5N1のMRE含有ウイルス株がインビボで弱毒化されるかどうか解明するため、マウスをH5N1のPRNTL又はH5N1の93NP1/2に濃度を上昇させて感染させた。105のウイルス力価において、PRNTLインフルエンザ株の場合、3匹中3匹が死亡したが、これに対し、MRE含有株の場合には、1匹の死亡のみであった(図4A)。また、死亡はPRNTL株の104及び103(n=8/コホート)の鼻腔内接種による感染の場合に限られ、算出した50%致死量はMRE含有株に比べて約3ログ高かった(図4A)。MRE含有H5N1に対しては、親株と同様に重量減少が生じたが、miR−93NP1/2ウイルスはその後中和され、マウスは完全な回復を示した(図4B)。
【0146】
これらのデータから、MRE含有インフルエンザウイルスのインビボ弱毒化はまだ低レベルの複製を許容するため、適応免疫応答を必要とすることが示唆される。これは、MRE含有インフルエンザウイルス株が非常に高レベルの中和抗体を産生し、よって、優れたワクチン候補となり得ることを示す。この仮説を試験するため、感染21日後にマウスを親H5N1株を用い致死量の10倍(106pfu/マウス)で再チャレンジし、生存について再度モニターした(図4C)。偽ワクチン接種の場合(即ち、死亡率100%で、急速な重量減少が観察された(図4C及び4D))と比べて、MRE含有H5N1接種マウスでは罹患の徴候が見られなかったが、これは完全な防御と中和抗体の存在を示す(図4C及び4D)。
【0147】
実施例16
組換えウイルスの免疫学的評価
miR−93標的株が強い中和免疫応答を誘導するかどうか確認するため、A/PR/8/34H1N1のPRNTL及び93NP1/2組換え体を用いてマウスにおける研究を行った(図8A)。PRNTL株の接種によって、93NP1/2やPBS投与の場合と比べて10%を超える重量減少が生じた。また、ワクチン接種21日後、これらのマウスに対して致死的チャレンジを行った結果、100%生存し、IgM、IgG1、IgG2a及びIgG2bを含む強い中和抗体レパートリーがもたらされた(図8A)。種特異的miRNA介在ワクチン開発の利用について詳細に説明するため、miR−93標的H5N1リアソータントウイルスを更に試験した。このために、MREシードNPセグメント(Perez et al. Nature Biotechnology 27(6) 572 (2009)に記載)及びA/PR/8/34の野生型セグメント1〜3及び7〜8(登録番号:AF389115.1、AF389116.1、AF389117.1、AF389121.1、AF389122.1)を用いてH5N1の6:2リアソータントをレスキューし、HA及びNA遺伝子発現によって抗原的にA/Vietnam/1203/04/H5N1として認識されるウイルス(Perez et al. Nature Biotechnology 27(6) 572 (2009)に記載)を作出した(図8B)。これらのウイルスの遺伝的レスキュー及び増殖によってはインオボでの弱毒化は示されなかった(図8C)。H1N1ワクチン接種の場合とは異なり、H5N1のPRNTLの投与の場合には、死亡率が50%となり、平均20%の体重減少が生じた。これに対し、MREシードH5N1の場合には完全な生存を示したが、僅かな体重減少が誘発された(図8D)。ワクチン接種後、感染21日後にマウスを致死量のH5N1でチャレンジした。偽ワクチン接種の場合(即ち、死亡率100%で、急速な重量減少が観察された)と比べて、MREシードH5N1接種マウスでは罹患の徴候が見られなかったが、これは完全な防御を示す(図8D)。また、これらのマウスの血清は野生型H5N1ウイルスに対する中和活性に関しても陽性であり、H1N1ワクチン接種の場合と同様に、高い力価のIgM、IgG1、IgG2a及びIgG2bが得られた(図8D)。
【0148】
実施例17
更なる組換えウイルスの作出
セグメント5(NPをコードする)が哺乳動物特異的miR−93の標的となり得るという上述の知見について詳細に説明するため、異なる哺乳動物特異的miRNAを用い、異なるインフルエンザAセグメントを標的とする第2の種特異的MRE標的インフルエンザAウイルス株を設計した。具体的には、上述の通常の鋳型及びアプローチを用い、3個のほぼ完全なmiR−34標的部位をPAのオープンリーディングフレーム(セグメント3でコードされる)に組み込んだ。miR−34標的部位の組み込みは標準的な部位特異的突然変異誘発(Kunkel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488-492 (1985), 米国特許第5,071,743号に記載)によって行った。部位特異的突然変異誘発のプライマーとしては、次の相補的なセット、即ち、部位1には5−GATTGGAGAAGAcGTtGCcCCAATTGAACAC−3’(配列番号148)と5’−AGCTTGATGAGATcGGtGAAGACGTTGCC−3’(配列番号149)、部位2には5’−GGAAGGTCTGCAGGACacTgTTAGCAAAGT−3’(配列番号150)と5’−GAAAGTTCCATTGGcAAGGTaTGtAGGACACT−3’(配列番号151)、部位3には5’−CCTTACACATGCATTGtcaTAGTTGTGGCAG−3’(配列番号152)と5’−ACTCCTTCCTgACtCATGCAcTGTCATAGTT−3’(配列番号153)を用いた(小文字で書かれた塩基は、miR−34MREを作出する各段階における塩基の変更を表す)。miR−93の場合と同様に、miR−34はニワトリ細胞に存在しないため(表10)、このウイルスをDF1ニワトリ線維芽細胞で増殖した際には、該ウイルスのレスキューによっては弱毒化が示されなかった(図9)。これに対し、この同じウイルスをマウス肺由来細胞中で継代した際には、感染12時間後及び24時間後(hpi)のいずれにおいても強い弱毒化が示された。
【0149】
実施例18
組織/細胞特異的組換えウイルスの作出
ターゲティング戦略(オープンリーディングフレーム(ORF)対非翻訳領域(UTR))の両方について詳細に説明し、MRE介在の弱毒化が大規模なインフルエンザ作出用の組織/細胞培養システムに適応し得るかどうか確認するため、NS1又はNPインフルエンザ遺伝子を、スクランブル配列(Scrb1)又は造血細胞に特有なMRE(miR−142[5’−UGUAGUGUUUCCUACUUUAUGGA−3’(配列番号141)]、Landgraf et al., Cell 129:1401 (2007)参照)のタンデム反復で標的化した。これを行うために、5’パッケージング配列をウイルスRNAで複製し、この遺伝情報を終止コドンとポリAテール配列との間に挿入した(図10A)。人工3’UTRによってmiRNAの標的となるウイルス転写物を操作するため、ウイルスセグメントの通常の構造を操作して、3’UTRをコードし、複製RNAパッケージング配列を含むようにした。標準的な部位特異的突然変異誘発によって、特有のSal1制限部位をvRNAの終止コドンとポリアデニル化部位との間に導入した。人工NP3’UTR作出用プライマーとしては、5’−GTACGACAATTAAAGtcgAcTACCCTTGTTTCTAC−3’(配列番号154)の相補的なセットを用いた(小文字の塩基は変更されたヌクレオチドであり、下線部の配列はSal1部位である)。ウイルスパッケージング配列(先に確立されたNP用の120塩基対(Fields et al., Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, PA, 2007))は生成した時点で挿入した。NPパッケージング配列プライマーとしては、5’−CgTCGAcCTCTCGGACGAAAAGG−3(配列番号155)及び5’−CTCGAGTAGAAACAAGGGTATTTTTCTTTAATTG−3’(配列番号156)(Sal1及びXho1リンカー(下線部)を含む)を用いた。PCRによる産物をXho1及びSal1で切断し、Sal1部位内に連結させて3’UTRを作出した。Xho1及びSal1連結によって回文構造配列が破壊されるため、終止コドンとポリUトラクト(ポリAテールの生成に役立つ)との間に位置する単一の残存Sal1部位によって、次にスクランブル配列又は特定のmiRNA応答要素(MRE)を連結するための挿入ポイントが得られる(図10)。上述のものと同じ戦略を用いてNS1を標的化したが、この場合には、複製領域としてvRNAの5’末端に対するスプライスアクセプター部位で開始する全NS2(NEP)ORFを用いた(5’−GTCGACCTCTTCCAGGACATACTGCTG−3’(配列番号157)及び5’−CTCGAGAGAAACAAGGGTGTTTTTTATTA−3’(配列番号158))。miR−142のMRE挿入オリゴは、インサート5’−TCCATAAAGTAGGAAACACTACA−3’(配列番号159)の4コピー又はスクランブル非標的配列5’−GATCGGTAGCTACGTAGCTAGC−3’(配列番号160)の4コピーであった。このターゲティング戦略が細胞培養に適用し得るかどうか試験するため、図1に概略を示し、Perez et al. Nature Biotechnology 27(6) 572 (2009)に記載の同じ戦略を用いて外因性miR−142を発現するようにプラスミドを適応させた(図10B)。miR−142を作出するため、miR−142遺伝子座をコードする次の配列:5’−CCAGTGCTGTTAGTAGTGCTTTCTACTTTATGGGTGACTGCACTGTCTGTCTGTCCGTCGGCGTGTACTCTTCAGGCTGCCCAGGCCTCCTGACTCCTGCTCCAAGAGCCCCCCAGCCCTCCTTGTGGCTTCCTAAGATCCCCCCAACCCTGCCAGGGCCCCCCGAGGGCCCGCCCTGGGCCTTGTGGGCGGTGACTCAGCATGGCGCCAGACTTGCCTCCTCTACCTCCCTCCCCCACTTCCTCTTCAGTTCCCTCTTCCCTTCCCCCTAAAGGCTCCACCCCATCCCCCCAGTTTCAGAGACACTCAGGTAGAGAC−3’(配列番号163)を有するヒトゲノム318bp断片をプライマー5’−CCAGTGCTGTTAGTAGTGCTTTC−3’(配列番号161)及び5’−GTCTCTACCTGAGTGTCTCTGAAAC−3’(配列番号162)を用いて増幅した。このプラスミドは、マクロファージで発現する内在性miR−142と比べて、MDCK細胞にトランスフェクトした際に強い発現を示した(図10C)。MDCK細胞(ATCCカタログ番号:CCL−34)は、赤色蛍光用細胞選別によって安定なプラスミド発現のために選択した。ベクターのみ又はmiR−142を発現する選別されたMDCK細胞を維持し、新しい細胞株として拡張した(図10D)。miR−142標的NP(図10E)のウイルス複製を、ベクターを発現するMDCK細胞とmiR−142を発現するMDCK細胞とで比較した際、miR−142標的NPウイルス株は、スクランブルUTR対照カウンターパートとは対照的に、miRNA特異的に劇的な弱毒化を示した。これらの結果は、miR−142標的NS1を比較した結果(即ち、MREコードウイルスは、miR−142を発現する初代マクロファージで選択的に弱毒化された(図10C)が、miR−142が存在しない初代肺線維芽細胞では弱毒化されなかった(図10F))と同様であった。これらの結果から、このMREを利用した技術を細胞培養に適応させる可能性が示されると共に、インフルエンザウイルスセグメントの人工3’UTR又はコード領域に対してMREターゲティングを行うことができることが分かる。更に、これらの結果から、MDCK細胞や他の細胞培養系は、通常このような細胞では発現しないmiRNAを組み込むことによって、ウイルス増殖に用いることができることが分かる。
【0150】
本発明は、本明細書に記載の具体的な実施形態によってその範囲が限定されるものではない。実際、上述の説明により、本明細書に記載の改変に加えて本発明の種々の改変が当業者には明らかとなるであろう。このような改変は添付された特許請求の範囲内に入るものである。
【0151】
本明細書で引用した全ての特許、出願、刊行物、試験方法、文献、その他の資料は、それらが本明細書に物理的に存在するかのように、その全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【技術分野】
【0001】
政府支援の研究又は開発
本発明は、若手研究者プログラム(Young Investigator Program)(YIP)の一環として陸軍研究事務所(ARO)の助成(Award#54677LSYIP)を受けた研究の過程で一部なされたものである。従って、米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
発明の技術分野
本発明は、一般にはインフルエンザウイルス感染症の予防に関し、詳細には、季節性インフルエンザウイルス株及び大流行の可能性があるインフルエンザウイルス株による感染症の予防に関する。より詳細には、一以上のマイクロRNA応答要素(MRE)を含む新規の弱毒化生インフルエンザウイルス(LAIV)ワクチンを本明細書に開示する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ヒトにおけるインフルエンザウイルス感染症は、重症度の範囲が無症状感染から死に至る可能性のある原発性ウイルス肺炎までに及ぶ呼吸器疾患である。インフルエンザ関連の合併症としては、特に、ライエ症候群や心筋炎、心膜炎、筋炎、脳症、横断性脊髄炎が挙げられる。インフルエンザウイルスはしつこく、束縛がないので、毎年の流行がもたらされると共に、壊滅的な人命の損失を引き起こす可能性のある散発的な大流行がもたらされる。Palese et al., Nature Medicine 8(9):927 (2002)。季節性インフルエンザは、米国では死亡原因の第7位であり、1〜4歳の子供の死亡原因の第1位である。65歳以上の死者の90%は肺炎を伴うインフルエンザウイルス感染症によるものである。米国では毎年、約36,000人が死亡し、114,000人が入院し、10億ドルを超える直接の経済的損害を被る。
【0004】
3種類のインフルエンザウイルス(A、B及びC)はその内部抗原の抗原反応性によって区別することができる。インフルエンザA、B及びCは、オルトミクソウイルス科に属し、感染細胞の核で複製する分割型マイナス鎖RNAゲノムを有し、10種のポリペプチド、即ち、RNA指向性RNAポリメラーゼタンパク質(PB2、PB1及びPA)、核タンパク質(NP)、ノイラミニダーゼ(NA)、血球凝集素(HA、これは酵素切断後、サブユニットHA1及びHA2の結合によって構成される)、マトリックスタンパク質(M1及びM2)、及び非構造タンパク質(NS1及びNS2、核外輸送タンパク質(NEP)とも称する)をコードする8種のマイナスセンスRNA(nsRNA)遺伝子セグメントから成る。Krug et al., In The Influenza Viruses, R.M. Krug, ed., Plenum Press, New York, 1989, pp. 89-152。ウイルスエンベロープに埋め込まれたHA及びNAタンパク質は、インフルエンザウイルスの主要な抗原決定基である(Air et al., Structure, Function, and Genetics, 1989, 6:341-356; Wharton et al., In The Influenza Viruses, R. M. Krug, ed., Plenum Press, New York, 1989, pp. 153-174)。インフルエンザウイルスのセグメントゲノムの可能な再集合(抗原シフト)及びゲノム多型の蓄積(抗原ドリフト)に起因して新しいHA及びNA変異体が常に産生するが、これに対して、新たに感染した生物は既往免疫応答を有しない。このように数多くの循環している株から新しい抗原変異体が常に産生することによって、新たな高病原性株(例えば、トリやブタ種からヒトへ直接伝染するH5N1及びH1N1インフルエンザAウイルス等)の出現の危険性が高まり、毎年のワクチン接種や多くの株又は全ての株に対して有効な抗ウイルス剤の開発が必要となる。Palese, Nature Medicine 10(12 Suppl):S82 (2004); Garcia-Sastre and Biron, Science 312(5775):879 (2006); Li et al., Nature 2004, 430:209; Kuiken et al., Science 2004, 306:241。こうして、世界保健機関は最新の株をモニターし、毎年のワクチンの組成を常に更新しなければならない。安全で有効なワクチンを作出するためには、選択したワクチン株が流行している株に密接に関係しており、それによって、確実にワクチン接種集団における抗体が抗原的に類似したウイルスを中和できるようにすることが重要である。
【0005】
3種類のインフルエンザウイルスの内、インフルエンザA及びBウイルスはヒトにおいて高い罹患率や死亡率の原因となる。Fields et al., Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, PA, 2007。従って、インフルエンザウイルス感染に対抗するのに用いる毎年のワクチンには2種のインフルエンザA株と単一のインフルエンザB株との組み合わせが含まれる。Palese, Nature Medicine 10(12 Suppl):S82 (2004)。
【0006】
このようなウイルス株の増殖は通常、発育鶏卵で行われるが、そこではウイルスは非常に高い力価まで増殖される。卵内で産生したウイルス粒子を次いで精製し、ワクチン製剤用ストックとして用いる。最近、大規模なインフルエンザワクチン作出用の哺乳動物細胞培養システムも確立されている。例えば、Genzel and Reichl, Expert Review of Vaccines, 2009, 8(12):1681 -1692.を参照。現在、3種の異なる哺乳動物細胞株(メイディン・ダービー・イヌ腎臓[MDCK]細胞、ベロ細胞及びPER.C6細胞)で作出したワクチンが治験中である。
【0007】
近年開発されたリーバースジェネティックスシステムによってインフルエンザウイルスゲノムの操作が可能になった(Palese et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1996, 93:11354; Neumann and Kawaoka, Adv. Virus Res. 1999, 53:265; Neumann et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1999, 96:9345; Fodor et al., J. Virol. 1999, 73:9679; 米国特許公開第20040029251号)。例えば、polIプロモーター由来の8種のインフルエンザvRNAとpolIIプロモーター由来の全mRNAのプラスミド駆動発現によって感染性インフルエンザAウイルスの生成がもたらされることが示された(Hoffmann et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2000, 97:6108; Hoffmann et al., Vaccine 2002, 20:3165; 米国特許第6,951,754号)。
【0008】
米国及びヨーロッパで公衆衛生当局から現在使用が認可されているインフルエンザワクチンは、不活化インフルエンザワクチンと米国の弱毒化生FLUMISTワクチンである。
【0009】
不活化ワクチンは、細胞培養又は発育鶏卵で増殖したウイルスを化学的に不活化することによって作出する。化学的不活化は通常、洗浄剤介在の断片化に続けて行う。通常の不活化/断片化処理では、ホルマリン+トリトンやホルムアルデヒド、β−プロピオラクトン、エーテル、エーテル+ツイーン80、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)+トリトンN101、デオキシコール酸ナトリウム、リン酸トリ(n−ブチル)等の剤を用いる。Nicholson, Webster and May (eds.), Textbook of Influenza, Chapters 23, 24, 27, pp. 317-332 and 358-372。卵内で産生したウイルスの場合、不活化は尿膜液の清澄化の後又は清澄化の前に行うことができる。不活化によってワクチンの安全性は劇的に高まるが、ワクチンの効力は低下する。また、複製活性の損失を確実にするためのワクチン試験は時間が掛かると共に労働集約的であり、これによってワクチンの費用が増加し、急速に蔓延する季節性感染や大流行時にワクチンの有用性が低下する。
【0010】
現在のワクチン戦略は、温度感受性変異体の開発やNS1タンパク質等の病原性因子の除去による弱毒化生インフルエンザウイルス(LAIV)株に着目している。Talon, J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97:4309-4314 (2000); Nichol, Vaccine, 19:4373-4377 (2001); Palese et al., J. Infect. Dis., 1997, 176 Suppl l :S45-9。例えば、FLUMIST(生インフルエンザウイルスワクチン、鼻腔内)には、(a)低温に適応し(即ち、25℃(多くの野生型インフルエンザウイルスの複製を制限する温度)で効率的に複製する)、(b)温度感受性であり(即ち、B型株は37℃、A型株は39℃で複製が制限される(多くの野生型インフルエンザウイルスはこのような温度で効率的に増殖する))、(c)弱毒化された(ヒトインフルエンザ感染のフェレットモデルで古典的なインフルエンザ様疾病を引き起こさない)インフルエンザウイルス株が含まれる。
【0011】
伝統的な不活化ワクチンに比べて、LAIVワクチンは粘膜(例えば、鼻腔内)投与に良く適しており、局所的な粘膜の細胞介在による体液性免疫を誘導することによってより強い免疫応答が生じる。Treanor et al., New England J. Med. 354(13): 1343 (2006)。それでも、現在のLAIVワクチンは弱毒化され過ぎており、高齢者(即ち、インフルエンザ感染によって毎年米国で死亡する20,000〜40,000人のグループ)において強い免疫応答を刺激することができない。最も重要なのは、現在のLAIVワクチンは、適切な卵発生に必要な次善の温度での増殖に適応させたため、発育鶏卵において複製障害を被っており、これによってその後のワクチン作出の規模が制限されることである。高病原性の流行株が出現する場合には、世界的規模でのワクチン作出におけるこのような障害を克服する必要がある。Li et al., Nature 430(6996):209 (2004) and Krug, Science 311(5767):1562 (2006)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、当該技術分野においては、防御免疫を生じさせる上で安全、効率的であり、鶏卵及び/又は細胞培養において迅速で大規模な作出に適した新しいインフルエンザワクチンに対する要求が大きい。特に、当該技術分野においては、新しくより効率的なLAIVワクチンに対する要求が大きい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の概要
本発明は、一以上の種特異的及び/又は組織/細胞特異的マイクロRNA(miRNA)応答要素(MRE)を含む新規の弱毒化生インフルエンザウイルス(LAIV)ワクチンを提供することによって当該技術分野における上述の要求や他の要求に対処するものである。本発明のLAIVワクチンに有用な組織/細胞特異的MRE及び種特異的MREは、ワクチン接種対象の動物においてインフルエンザウイルスの標的となる特定の細胞型や組織型(例えば、上皮細胞や分泌細胞[クララ]、繊毛細胞、頂端細胞、杯細胞[粘膜]、造血細胞[例えば、樹状細胞やマクロファージ、リンパ球]、気管支細胞、インフルエンザウイルスの標的となる肺や上気道の他の細胞)で高レベルで発現するmiRNA、及び/又はワクチン接種対象の選択種(例えば、ヒトやマウス、イヌ、ニワトリ)では高レベルで発現するが、大規模なワクチン作出に用いる細胞株や種(例えば、発育鶏卵[ニワトリ])では発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAと結合し、それによって転写後に阻害される。インフルエンザゲノムのコード領域へのMRE挿入は、エスケープ変異体の出現を防止してワクチンの安全性を高めるために好ましいが、本発明は、インフルエンザゲノムの他の部分、及び人工的に作出したインフルエンザウイルスの3’UTRへのMREの組み込みも包含する。本発明のMREを利用した弱毒化生ワクチン戦略によって、新たに出現する季節性及び流行性インフルエンザ株に対する大量のワクチンを迅速に作出するのに必要な汎用性、安全性及び有効性がもたらされる。
【0014】
本発明は、そのより一般的な一様相において、組換え作出に適した如何なるウイルスにも適用することができる。本発明によると、ウイルスゲノムに種特異的MRE及び/又は組織/細胞特異的MREを挿入することによって、弱毒化生ワクチンとして用いることができると共に、このようなウイルスの標的とならない組織/細胞由来の他の種や細胞株で効率的に増殖することができる組換えウイルスの作出が可能となる。
【0015】
具体的には、本発明は、その第1の様相において、一以上のMRE配列を含む組換えインフルエンザウイルスを含む組成物を提供する。好ましい一実施形態においては、インフルエンザウイルスは二以上のMRE配列を含む。このような二以上のMREは、同一の配列を有する場合もあり、同一のMREシード配列(即ち、miRNA配列の5’位置1〜7又は2〜8)を維持しながら幾つかのヌクレオチド位置が異なる場合もあり、二以上の異なるmiRNAに対応する場合もある。
【0016】
好ましい一実施形態においては、このような一以上のMRE配列を一以上のインフルエンザウイルス遺伝子のコード領域内に挿入する。このような一以上のMREは、アミノ酸変化の数が最小限に維持されてウイルスタンパク質機能が保存される限り、リーディングフレームに関わらず挿入することができる。MREは、如何なるインフルエンザウイルスタンパク質(例えば、HAやNA、PB1、PB2、PA、M1、M2、NP、NS1、NEP)のコード領域にも挿入することができる。異なるインフルエンザ株間で保存されているインフルエンザウイルスタンパク質(例えば、PB1やPB2、PA、M1、M2、NP、NS1、NEP)のコード領域にMREを挿入することが好ましい。
【0017】
他の具体的な実施形態においては、人工的に作出したインフルエンザウイルスの3’UTRへMRE配列を挿入する。
【0018】
具体的な一実施形態においては、インフルエンザウイルスゲノムに挿入されるMREは、種特異的及び/又は組織/細胞特異的に発現するmiRNAに対応する。一実施形態においては、インフルエンザウイルスゲノムに挿入されるMREは、哺乳動物細胞では高度に発現するが、発育鶏卵内でインフルエンザウイルス増殖が生じる領域では発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAに対応する。具体的な一実施形態においては、MREは、miR−16、miR−17、miR−19、miR−25、miR−34、miR−92及びmiR−93から成る群から選択されるmiRNAに対応する。例えば、このようなMREは、配列5’−UAGCAGCACGUAAAUAUUGGCG−3’(配列番号1)を有するmiR−16、配列5’−CAAAGUGCUUACAGUGCAGGUAG−3’(配列番号2)を有するmiR−17、配列5’−UGUGCAAAUCUAUGCAAAACUGA−3’(配列番号3)を有するmiR−19、配列5’−CAUUGCACUUGUCUCGGUCUGA−3’(配列番号4)を有するmiR−25、配列5’−UGGCAGUGUCUUAGCUGGUUGU−3’(配列番号5)を有するmiR−34、配列5’−UAUUGCACUUGUCCCGGCCUG−3’(配列番号6)を有するmiR−92、及び配列5’−CAAAGUGCUGUUCGUGCAGGUAG−3’(配列番号7)を有するmiR−93から成る群から選択されるmiRNAに対応することができる。
【0019】
他の実施形態においては、インフルエンザウイルスゲノムに挿入されるMREは、ワクチン接種対象の動物においてインフルエンザウイルスの標的となる組織では高度に発現するが、インフルエンザウイルスの増殖や大規模な作出に用いる細胞株では発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAに対応する。具体的な一実施形態においては、MREは、miR−142、miR−222、miR−149、miR−1977、miR−181b−2、miR−1259及びmiR−1978から成る群から選択されるmiRNAに対応する。例えば、このようなMREは、配列5’−UGUAGUGUUUCCUACUUUAUGGA−3’(配列番号141)を有するmiR−142、配列5’−AGCUACAUCUGGCUACUGGU−3’(配列番号142)を有するmiR−222、配列5’−UCUGGUCCGUGUCUUCACUCCC−3’(配列番号143)を有するmiR−149、配列5’−GAUUAGGGUGCUUAGCUGUUAA−3’(配列番号144)を有するmiR−1977、配列5’−AACAUUCAUUGCUGUCGGUGGGU−3’(配列番号145)を有するmiR−181b−2、配列5’−AUAUAUGAUGACUUAGCUUUU−3’(配列番号146)を有するmiR−1259、及び配列5’−GGUUUGGUCCUAGCCUUUCUA−3’(配列番号147)を有するmiR−1978から成る群から選択されるmiRNAに対応することができる。
【0020】
本発明の組換え弱毒インフルエンザウイルスは、その具体的な一実施形態において、H5N1、H1N1、H2N2及びH3N2から成る群から選択されるインフルエンザサブタイプに由来する。本発明の組換え弱毒インフルエンザウイルスは、その一実施形態において、A/Vietnam/1203/04、A/chicken/Scotland/59、A/duck/Hong Kong/308/78、A/PuertoRico/8/1934、A/NewYork/616/1995、A/California/04/2009、A/HongKong/16/68、A/USSR/039/68、A/Yokohama/C5/85、A/Leningrad/134/17/57、A/Leningrad/134/47/57、及びA/Ann Arbor/6/60から成る群から選択される分離株に由来する。
【0021】
ウイルス含有組成物と共に、本発明は、MRE含有インフルエンザウイルスの作出に用いることができる組換え核酸も提供する。従って、本発明は、その別の一実施形態において、一以上のMRE配列が内部に挿入されたインフルエンザウイルス配列を含む単離核酸分子を提供する。本発明の核酸は、その具体的な一実施形態において、MREとその対応するmiRNAとの相互作用の平均自由エネルギー(MFE)が−20kcal/mol未満である。本発明の核酸は、その他の実施形態において、MREとその対応するmiRNAとの相互作用の平均自由エネルギー(MFE)が−35kcal/mol未満である。以下に本発明の核酸分子の具体的な非限定的例について更に記載する。
【0022】
1.miR−93に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質NPのコード配列に挿入されている2種のMREを含む核酸分子であって、第1のMRE配列はNPアミノ酸62〜69をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はNPアミノ酸258〜265をコードするヌクレオチド配列にある核酸分子。例えば、第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−ACAATTGAACGAATGGTACTTTCT−3’(配列番号107)を含むことができ、第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTCCTTGCACGGTCAGCACTTATA−3’(配列番号111)を含むことができる。
【0023】
2.miR−92に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質NS1のコード配列に挿入されている2種のMREを含む核酸分子であって、第1のMRE配列はNS1アミノ酸131〜137をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はNS1アミノ酸150〜156をコードするヌクレオチド配列にある核酸分子。例えば、第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−AAGGCCAACTTCAGTGTAATA−3’(配列番号97)を含むことができ、第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTCACCGAGGAAGGTGCAATA−3’(配列番号101)を含むことができる。
【0024】
3.miR−92に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質HAのコード配列に挿入されている3種のMREを含む核酸分子であって、第1のMRE配列はHAアミノ酸68〜74をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はHAアミノ酸195〜201をコードするヌクレオチド配列にあり、第3のMRE配列はHAアミノ酸526〜532をコードするヌクレオチド配列にある核酸分子。例えば、第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−CTACAGTTGGGGAAGTGCAAT−3’(配列番号83)を含むことができ、第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−AACGCCTATGTAAGTGTAGTA−3’(配列番号87)を含むことができ、第3のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTGGTCAGTTTAGGTGCAATA−3’(配列番号91)を含むことができる。
【0025】
4.miR−19に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質HAのコード配列に挿入されている3種のMREを含む核酸分子であって、第1のMRE配列はHAアミノ酸15〜22をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はHAアミノ酸561〜568をコードするヌクレオチド配列にあり、第3のMRE配列はHAアミノ酸327〜334をコードするヌクレオチド配列にある核酸分子。例えば、第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GCCAGTGCTGACACAATTTGCATA−3’(配列番号45)を含むことができ、第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TCTTTGCAGTGCAGGATTTGCATA−3’(配列番号49)を含むことができ、第3のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTGCGUATGGTCACAGGTTTGCGC−3’(配列番号53)を含むことができる。
【0026】
5.miR−16に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質HAのコード配列に挿入されている2種のMREを含む核酸分子であって、第1のMRE配列はHAアミノ酸2〜9をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はHAアミノ酸439〜445をコードするヌクレオチド配列にある核酸分子。例えば、第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−AAGGCCAACCTATTAGTGCTGCTA−3’(配列番号21)を含むことができ、第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−AACGCCGAACTATTAGTGCTGCTA−3’(配列番号25)を含むことができる。
【0027】
6.miR−34に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質PAのコード配列に挿入されている3種のMREを含む核酸分子であって、第1のMRE配列はPAアミノ酸426〜433をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はPAアミノ酸634〜641をコードするヌクレオチド配列にあり、第3のMRE配列はPAアミノ酸709〜716をコードするヌクレオチド配列にある核酸分子。例えば、第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GATGAGATCGGTGAAGACGTTGCC−3’(配列番号69)を含むことができ、第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GGCAAGGTATGTAGGACACTGTTA−3’(配列番号73)を含むことができ、第3のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTCTTCCTGACTCATGCACTGTCA−3’(配列番号77)を含むことができる。
【0028】
7.miR−25に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質M1のコード配列に挿入されている2種のMREを含む核酸分子であって、第1のMRE配列はM1アミノ酸111〜118をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はM1アミノ酸127〜134をコードするヌクレオチド配列にある核酸分子。例えば、第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GGTGCCAAAGAGATAAGTGCAAGT−3’(配列番号59)を含むことができ、第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−ATATACAACAGGATGGGTGCAGTG−3’(配列番号63)を含むことができる。
【0029】
8.miR−17に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質PB1のコード配列に挿入されている3種のMREを含む核酸分子であって、第1のMRE配列はPB1アミノ酸374〜381をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はPB1アミノ酸418〜424をコードするヌクレオチド配列にあり、第3のMRE配列はPB1アミノ酸677〜683をコードするヌクレオチド配列にある核酸分子。例えば、第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GCCAGCATTGATCTTAAGTACTTT−3’(配列番号31)を含むことができ、第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GTGTTGGGTGTAAGCATTTTG−3’(配列番号35)を含むことができ、第3のMRE配列はヌクレオチド配列5’−ACCAGCCAAAGAGGCGTTTTG−3’(配列番号39)を含むことができる。
【0030】
9.miR−142に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質NPの人工3’UTRに挿入されている4種のMREを含む核酸分子であって、MRE配列はウイルス終止コドンとポリAテール配列との間に存在する核酸分子。例えば、4種の反復MREはヌクレオチド配列5’−TCCATAAAGTAGGAAACACTACA−3’(配列番号159)を含むことができる。
【0031】
10.miR−142に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質NS1の人工3’UTRに挿入されている4種のMREを含む核酸分子であって、MRE配列はウイルス終止コドンとポリAテール配列との間ではあるが、複製NS2/NEPのORFの前に存在する核酸分子。例えば、4種の反復MREはヌクレオチド配列5’−TCCATAAAGTAGGAAACACTACA−3’(配列番号159)を含むことができる。
【0032】
上述の具体例に記載のインフルエンザヌクレオチドとアミノ酸の位置はインフルエンザAウイルス株であるA/Puerto Rico/8/34/Mount Sinai(H1N1)に相当する。具体的には、これらの位置は次のGenBank登録番号に相当する。
【0033】
【表1】
【0034】
本発明の組換えウイルスは、その具体的な一実施形態において、更なる弱毒化変異を含む。一実施形態においては、このような変異によって温度感受性ウイルス増殖(例えば、FLUMISTに用いる変異)がもたらされる。他の実施形態においては、このような変異は病原性因子の除去(例えば、NS1タンパク質の除去)である。
【0035】
本発明の組成物は、その好ましい一実施形態においてワクチン組成物である。このようなワクチン組成物はアジュバントを更に含むことができる。
【0036】
ワクチン組成物と共に、本発明は、動物においてインフルエンザ感染に対する防御免疫応答を誘導する方法であって、本発明のMRE含有組換えインフルエンザワクチン組成物を前記動物に投与することを含む方法も提供する。好ましい一実施形態においては、動物はヒトである。他の実施形態においては、動物はトリ(例えば、水鳥やニワトリ)である。更に他の実施形態においては、動物はブタである。具体的な一実施形態においては、ワクチン組成物は粘膜投与する。他の具体的な実施形態においては、ワクチン組成物はアジュバントと共に投与する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1A】図1(A)上:miRNA(miR−93又はmiR−124)の外因性送達に用いる単一イントロン(pRFP)を含む赤色蛍光タンパク質(RFP)ミニ遺伝子の概略図。図1(A)下:pRFPトランスフェクトHEK−293細胞の蛍光顕微鏡法。
【図1B】図1(B):HEK−293細胞の偽感染又はインフルエンザウイルス感染後のmiR−93、miR−124及びU6snRNAのノーザンブロット。
【図1C】図1(C):miR−124と、SV40又はmiR−124標的3’UTRを含むルシフェラーゼレポーター構築物とをコトランスフェクトしたHEK−293細胞。トランスフェクション6時間後、細胞をインフルエンザウイルス(A/Puerto Rico/8/34(H1N1))に1.0のMOIで感染させ、感染18時間後にルシフェラーゼ活性を測定した。
【図1D】図1(D):インフルエンザウイルスNS1と、miR−124と、図1(C)に記載のSV40又はmiR−124標的3’UTRを含むルシフェラーゼレポーター構築物とをコトランスフェクトしたHEK−293細胞。ルシフェラーゼ活性はトランスフェクション24時間後に測定した。図1(C)及び(D)において、ルシフェラーゼ活性はウミシイタケ対照ベクターに対して標準化した。データは3種類の独立したトランスフェクション(各々3回実施)の平均であり、エラーバーは+/−SDを示す。各グラフ下のウェスタンブロットは、A/Puerto Rico/8/34(H1N1)に対するポリクローナル抗体によって測定したインフルエンザマトリックス及びNS1タンパク質の発現を示す。
【図2A】図2(A)上:10日齢の発育鶏卵膜及び初代マウス肺組織のノーザンブロット。miR−93及びU6snRNA負荷対照用プローブを示す。下のグラフは、CCDカメラで化学発光を検出して行い、任意単位(a.u.)で表した対応するバンド強度の定量化を示す。
【図2B】図2(B):miR−93応答要素組み込み用インフルエンザウイルスヌクレオカプシド(NP)のmRNA部位とインフルエンザウイルス株の全体保存の概略図。単一の同義変異を「*」で示す。
【図2C】図2(C):部位1及び部位2を非応答性親(PRNTL)部位又はmiR−93応答性(93NP1/2)部位に形質転換させるためのRNA塩基置換の概略図(「*」はアミノ酸置換を示す)。
【図2D】図2(D):ヌクレオカプシド無し(−)、野生型NP(WT)又はPRNTL NP(PRNTL)のコンテクストにおけるインフルエンザウイルスポリメラーゼを利用したルシフェラーゼレポーターアッセイ。ルシフェラーゼ活性はトランスフェクション24時間後に測定し、ウミシイタケ対照ベクターに対して標準化した。データは3種類の独立したトランスフェクション(各々3回実施)の平均であり、エラーバーは+/−SDを示す。
【図2E】図2(E):10日齢の発育卵のPRNTL及びMRE含有インフルエンザウイルス感染によるウイルス力価。力価は、感染2日後に尿膜液の血球凝集及びプラークアッセイによって求め、プラーク形成単位/mL(pfu/mL)で表した。データは2種類の独立した感染の平均である。
【図3A】図3(A):インフルエンザA/Puerto Rico/8/1934(A/PR/8/34)PRNTL、93NP2及び93NP1/2に感染させ、感染12時間後、24時間後及び48時間後(hpi)に回収した野生型(WT)線維芽細胞及びダイサー−/−マウス線維芽細胞のウェスタンブロット。血球凝集素(HA)及びアクチンタンパク質のレベルのイムノブロットを示す。
【図3B】図3(B):非刺激のWT及びダイサー−/−線維芽細胞のノーザンブロット。miR−93及びU6snRNA用プローブを示す。下のグラフは、対照U6snRNAの強度に対するmiR−93の測定値を任意単位(a.u.)で表した対応するバンド強度の定量化を示す。
【図3C】図3(C):感染5日後(dpi)の感染マウス肺のRT−PCR解析。ウイルスはPRNTL、93NP1、93NP2及び93NP1/2である。インターフェロン調節因子7(IRF7)、インターフェロンβ(IFNβ)、インターロイキン6(IL6)及びヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)に特異的なプライマーを示す。
【図3D】図3(D):図3(C)に記載のマウス感染のIRF1、STAT1、インターフェロン刺激遺伝子54(ISG54)及びアクチンタンパク質のレベルを示すウェスタンブロット。
【図3E】図3(E):エクスビボでの複数の継代後又はインビボでの感染5日後に単離したインフルエンザウイルスNPクローンの代表的な配列。
【図4A】図4(A):PRNTL又はMRE含有(93NP1/2)H5N1キメラウイルスによる鼻腔内チャレンジ後の10日間経過における生存率を示すグラフ。データは、各接種量の平均とウイルス処理(n=4/コホート)を示す。
【図4B】図4(B):接種量を1×104プラーク形成単位(pfu)/感染とした時の図4(A)に記載のマウスの最初の重量からの平均重量減少によって表される罹患。
【図4C】図4(C):ワクチン接種及びキメラH5N1インフルエンザウイルスによる第2の致死的チャレンジ後の生存率を示すグラフ。非チャレンジコホート(n=2/処理)及びH5N1チャレンジ(n=7/処理)から得たデータを平均生存率で示す。
【図4D】図4(D):PBS又は93NP1/2でワクチン接種した後、PRNTL H5N1(1×106pfu/マウス)で再チャレンジしたマウスの最初の重量からの平均重量減少によって表される罹患。データは、図4(C)に記載のコホートにおける平均重量減少で示す。エラーバーは平均の+/−SDを示す。
【図5】図5:ヒトmiRNA含有転写物のRT−PCR。胎児腎臓細胞株(HEK−293)、肺上皮細胞株(A549)、Tリンパ球細胞株(ジャーカット)、星状細胞株(U373)及び初代樹状細胞(DC)に由来する非刺激の全細胞RNA。miRNAの発現はPCR増幅によって確認。チューブリンはRNA負荷対照として示す。
【図6】図6:野生型(WT)線維芽細胞及びダイサー−/−マウス線維芽細胞におけるインフルエンザA/Puerto Rico/8/1934(93NP1)感染のウェスタンブロット。イムノブロットは血球凝集素(HA)及びアクチンタンパク質のレベルを示す。
【図7】図7:インフルエンザウイルスヌクレオカプシド(NP)及びA549肺上皮細胞由来チューブリン転写物のRT−PCR。A/Puerto Rico/8/1934(PRNTL)、(93NP2)及び(93NP1/2)を用いて低MOIで感染させ、図示のように継代した。回収時の感染細胞由来の全RNAを高忠実度ポリメラーゼを用いたRT−PCRで増幅し、2%アガロースにて分割した。
【図8A】図8A〜D:弱毒化生ワクチンとしてのMREシードインフルエンザAウイルス。図8(A):10e3PFUのPRNTL又はMREシード93NP1/2H1N1ウイルスで鼻腔内にワクチン接種し、感染21日後(dpi)に5×10e3PFUのWT A/PR8/34でチャレンジしたマウスの最初の体重からの平均重量減少を示すグラフ。データは各コホート(n=4)の平均を示し、エラーバーは+/−SDを示す。右のパネルは、正の血球凝集阻害を得るために最低血清希釈によって求めたチャレンジ後の抗体応答、及びELISAによって測定した免疫グロブリン応答を示す。
【図8B】図8A〜D:弱毒化生ワクチンとしてのMREシードインフルエンザAウイルス。図8(B):図示のH5N1リアソータントウイルスについてのセグメント分布を示す表。
【図8C】図8A〜D:弱毒化生ワクチンとしてのMREシードインフルエンザAウイルス。図8(C):10日齢の発育卵のPRNTL及びMREシードH5N1インフルエンザAウイルスリアソータント感染によるウイルス力価を示す棒図表。力価は、感染2日後に尿膜液の血球凝集及びプラークアッセイによって求め、pfu/mLで表した。データは4種類の独立した感染の平均である。
【図8D】図8A〜D:弱毒化生ワクチンとしてのMREシードインフルエンザAウイルス。図8(D):図8(A)と同様、H5N1リアソータントPRNTL又はMREシード93NP1/2によるワクチン接種。
【図9】図9:種特異的弱毒化のための設計戦略。部位1、部位2及び部位3をmiR−34標的PAに形質転換させるためのRNA塩基置換の概略図。miR−34は哺乳動物特異的miRNAである。各部位において平均自由エネルギーをkcal/molで示す。ウイルスは卵内でレスキューし、図示の時点(HPI:感染後時間)でDF1ニワトリ線維芽細胞又はマウス初代肺線維芽細胞の感染に用いた。PA_PRNTはmiR−34の標的とはならない野生型ウイルスであり、PA_miR34はPAが図示の3部位で標的となるウイルスである。
【図10A】図10(A):組織培養におけるインフルエンザAウイルス非翻訳領域(UTR)ターゲティングを示す概略図。パッケージング配列(vRNA画像上に一定の縮尺で表示)を破壊することなくmRNAの3’UTRを拡大するため、最後の80〜120塩基対を複製して、終止コドン(STOP)とポリAテール(UUUUUU)との間にスクランブル要素(scrbl)又はmiRNA標的要素(MRE)が挿入できるようにした。NCRはウイルスRNAの非コード領域を示す。
【図10B】図10(B):miRNAの外因性送達に用いる単一イントロン(pRFP)を含む赤色発光タンパク質ミニ遺伝子の概略図。
【図10C】図10(C):線維芽細胞(MDCK細胞)由来miR−142、トランスフェクト線維芽細胞(pRFP−miR−142をトランスフェクトしたMDCK細胞)及び初代マウスマクロファージのノーザンブロット。
【図10D】図10(D):MDCK細胞内miR−142のノーザンブロット。
【図10E】図10(E):偽感染、スクランブル3’UTRを有するNPをコードするウイルス(NP_UTR)又はmiR−142応答要素をコードするUTR(NP_142)からのインフルエンザA/PR/8/34NP、M1及びアクチンの発現を示すウェスタンブロット。タンパク質抽出物は、MDCK対照細胞又はmiR−142を発現するMDCK細胞(MDCK_142)から感染(MOI=1)12時間後に回収した。
【図10F】図10(F):対照ウイルス(NS1_UTR)又はmiR−93標的NS1ウイルスに図示の時点で感染させた初代肺線維芽細胞又はマクロファージ(Zhu et al., Nature Protocols, 2010, 5(3):550に記載のものに適応されたプロトコルを用いて作出)由来のマトリックス(M1)、NS1及びアクチンのウェスタンブロット。用いたウイルスはNS1_UTR及びmiR−142標的NS1(NS1_142)である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
発明の詳細な説明
本発明は、細胞のマイクロRNA(miRNA)プロセシング機構を利用して種特異的及び/又は組織/細胞特異的にウイルス弱毒化を誘導して有効且つ安全な弱毒化生ウイルスワクチンを作出することができるという予期せぬ発見に基づく。具体的には、本発明は、一以上のインフルエンザウイルス遺伝子のコード領域及び/又は人工3’UTR内に挿入された一以上のmiRNA応答要素(MRE)を含む新規の弱毒化生インフルエンザウイルス(LAIV)ワクチンを提供する。
【0039】
miRNAとは、mRNA切断、翻訳抑制/阻害又は異質染色質サイレンシングによって標的mRNAの発現を調節して全体的なタンパク質産生に影響を及ぼす、小さい19〜25塩基対(bp)の内在性一本鎖RNAである。Baek et al., Nature 455(7209):64 (2008); Selbach et al., Nature 455(7209):58 (2008); Ambros, 2004, Nature, 431 , 350-355; Bartel, 2004, Cell, 116, 281-297; Cullen, 2004, Virus Research., 102, 3-9; He et al., 2004, Nat. Rev. Genet., 5, 522-531 ; and Ying et al., 2004, Gene, 342, 25-28。miRNAは7bpの「シード」配列(即ち、miRNAの5’位置1〜7又は2〜8の配列)によって標的mRNAを調節する。「シード」に対するmRNA配列の相補性は通常、3’非翻訳領域(3’UTR)に存在する。Bartel, Cell 116(2):281 (2004)。
【0040】
組織制限miRNAに対応するMREは、レンチウイルス、ピコルナウイルス及びラブドウイルスの既存の非翻訳領域(UTR)に挿入されて組織特異的ウイルス弱毒化を達成している。Brown et al., Nature Medicine 12(5):585 (2006); Barnes et al., Cell Host & Microbe 4(3):239 (2008); and Kelly et al., Nature Medicine 14(11):1278 (2008)。
【0041】
このような戦略によって特定の組織におけるウイルス弱毒化がもたらされるが、そのインフルエンザワクチン作出に対する適用は、MRE挿入(即ち、MREが最も有効であり、インフルエンザウイルスゲノムセグメントのRNA末端に対する如何なる付加や変化も複製欠損やパッケージング欠損をもたらす)に十分な長さの3’UTRをインフルエンザウイルスが産生しないという事実によって妨げられる。Muramoto et al., J. Virol. 80(5):2318 (2006)。更に、非翻訳配列はタンパク質コード配列に比べて選択圧をあまり受けないため、タンパク質コード配列の進化的保存の程度がより大きいことからも明らかなように、非コード領域へのMREの挿入によって「エスケープ」変異体が出現する可能性が高くなるが、このような組換えウイルスはワクチン作出において安全ではない。
【0042】
本発明は、上述の弱毒化戦略のいずれかをインフルエンザAウイルスワクチン作出に適用するうえでの不足を克服する新規なアプローチを構成する。このアプローチは、一以上の種特異的及び/又は組織/細胞特異的MREをインフルエンザウイルスゲノム内の戦略的位置(好ましくは、ウイルスタンパク質コード配列内、又は人工3’UTR内[例えば、ウイルスパッケージング配列の複製及び終止コドンとポリAテールとの間への遺伝的挿入によって作出])に組み込み、種特異的及び/又は組織/細胞特異的ウイルス弱毒化をもたらすことに基づく。ワクチン接種対象の動物においてインフルエンザウイルスの標的となる細胞や組織では高度に発現するが、大規模なワクチン作出に用いる細胞株や発育鶏卵では発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAに対応するMREを用いることによって、ワクチン作出時に高いウイルス力価を達成しながら、同族miRNAを発現する細胞でウイルス弱毒化を保持することができる。インフルエンザコード領域内にMREを挿入することによって、エスケープ変異体の産生が妨げられ、ワクチンの安全性が高まる。
【0043】
本発明に有用なMREは、ワクチン接種を必要とする動物(例えば、ヒト)のインフルエンザ標的細胞(例えば、上皮細胞や分泌細胞[クララ]、繊毛細胞、頂端細胞、杯細胞[粘膜]、気管支細胞、造血細胞[例えば、樹状細胞やマクロファージ、リンパ球]、インフルエンザウイルスの標的となる肺や上気道の他の細胞)では高度に発現するが、大規模なワクチン作出に用いる細胞株や種(例えば、発育鶏卵[ニワトリ])では発現しないか又は発現が非常に低レベルである如何なるmiRNAにも由来することができる。
【0044】
有用なヒトmiRNAの例としては、miR−16やmiR−17、miR−19、miR−25、miR−34、miR−92、miR−93、miR−142、miR−222、miR−149、miR−1977、miR−181b−2、miR−1259、miR−1978が挙げられ、例えば、配列5’−UAGCAGCACGUAAAUAUUGGCG−3’(配列番号1)を有するmiR−16や、配列5’−CAAAGUGCUUACAGUGCAGGUAG−3’(配列番号2)を有するmiR−17、配列5’−UGUGCAAAUCUAUGCAAAACUGA−3’(配列番号3)を有するmiR−19、配列5’−CAUUGCACUUGUCUCGGUCUGA−3’(配列番号4)を有するmiR−25、配列5’−UGGCAGUGUCUUAGCUGGUUGU−3’(配列番号5)を有するmiR−34、配列5’−UAUUGCACUUGUCCCGGCCUG−3’(配列番号6)を有するmiR−92、配列5’−CAAAGUGCUGUUCGUGCAGGUAG−3’(配列番号7)を有するmiR−93、配列5’−UGUAGUGUUUCCUACUUUAUGGA−3’(配列番号141)を有するmiR−142、配列5’−AGCUACAUCUGGCUACUGGU−3’(配列番号142)を有するmiR−222、配列5’−UCUGGUCCGUGUCUUCACUCCC−3’(配列番号143)を有するmiR−149、配列5’−GAUUAGGGUGCUUAGCUGUUAA−3’(配列番号144)を有するmiR−1977、配列5’−AACAUUCAUUGCUGUCGGUGGGU−3’(配列番号145)有するmiR−181b−2、配列5’−AUAUAUGAUGACUUAGCUUUU−3’(配列番号146)を有するmiR−1259、配列5’−GGUUUGGUCCUAGCCUUUCUA−3’(配列番号147)を有するmiR−1978が挙げられるが、これらに限定されない。更なる有用なmiRNAは、並行配列決定及び2個の種間又は組織/細胞間での相対発現レベルを確認することによって同定することができる。miRNA配列の最新データベース(miRBase)(http://www.mirbase.org/(miRBase))及びBurside et al., BMC Genomics 9:185 (2008); Williams et al., BMC Genomics 8:172 (2007); Landgraf et al., Cell 129:1401 (2007)を参照。
【0045】
好ましい一実施形態においては、少なくとも2種のMREをインフルエンザゲノムセグメントに挿入する。このような二以上のMREは、同一の配列を有する場合もあり、同一のMREシード配列(即ち、miRNA配列の5’位置1〜7又は2〜8)を維持しながら幾つかのヌクレオチド位置が異なる場合もあり、二以上の異なるmiRNAに対応する場合もあるが、各miRNAは、ワクチン接種を必要とする動物のインフルエンザ標的細胞では高度に発現するが、大規模なワクチン作出に用いる細胞株や発育鶏卵内のウイルス増殖が生じる領域では発現しないか又は発現が非常に低レベルである。このような二以上のMREは、アミノ酸変化の数が最小限に維持されてウイルスタンパク質機能が保存される限り、リーディングフレームに関わらず挿入することができる。
【0046】
本発明においては、MREをインフルエンザウイルス遺伝子のタンパク質コード領域内に挿入することが好ましい。(5’又は3’非翻訳領域(UTR)等の非コード領域とは対照的に)コード領域内にMREを挿入することによって、エスケープ変異体の産生が妨げられ、ワクチンの安全性が高まる。全てのインフルエンザ遺伝子をMRE挿入に用いることができるが、より保存されたインフルエンザタンパク質のオープンリーディングフレームを用いると、エスケープ変異体が出現しにくくなり、ワクチンの安全性が高まるため好ましい。従って、MRE挿入に好ましいインフルエンザ遺伝子はPB1、PB2、PA、M1、M2、NP、NS1及びNEPである。
【0047】
また、本発明は、インフルエンザゲノムの他の部分へのMRE挿入も包含する。本発明は、その具体的な一実施形態において、人工3’UTRへのMRE挿入を提供するが、これによって、得られるウイルスmRNAの終止コドンとポリAテール配列との間にMREを挿入する。一実施形態においては、終止コドンとポリAテール配列との間へのこのようなMRE挿入は、ビリオン内への効率的なウイルス鎖パッケージングに必要な配列を更に追加することを伴う。
【0048】
本発明のMREは好ましくは19〜25ヌクレオチド長であり、少なくとも対応するmiRNAの「シード」配列(即ち、miRNA配列の5’位置1〜7又は2〜8)の完全な補体を含む。更なる相補性のいずれかを用いて弱毒化を更に高めることができる。或いは(又は更に)、挿入するMREの数を増加させて弱毒化を高めることができる。
【0049】
本発明に係るMREは、例えば、対象となるmiRNAの部分的又は完全に逆位で相補的な配列を用いて設計することができ、これによって、miRNAは、標準的なワトソン−クリック塩基対形成によりMREを含むヌクレオチドに結合することができる。相補性のあるより短い領域を用いることによって、潜在的な部位の数は増加し、必要なヌクレオチド変更の数は減少する。MREの3’末端(シード配列)における相補性は、少なくとも位置1〜7又は2〜8から維持する必要がある。
【0050】
本発明のMRE含有弱毒化生ウイルスは、培養細胞中(例えば、ヒト胎児腎臓HEK−293細胞[ATCCカタログ番号:CRL−1573]やニワトリ線維芽細胞DF1[ATCCカタログ番号:CRL−12203]、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MCK)細胞[ATCCカタログ番号:CCL−34、CRL−2285、CRL−2286、CRL−2935又はCRL−2936]、アフリカミドリザル腎臓細胞(ベロ)[ATCCカタログ番号:CCL−81、CRL−1586、CRL−1587又はCRL−2783]、ヒトPER−C6細胞[Pau et al., Vaccine, 2001, 19(17-19):2716]中)で組換えによって作出することができ、その後(必要に応じて)、発育鶏卵中で増殖させてより高い力価を得ることができる。
【0051】
実施例の項で後述するように、NPオープンリーディングフレームに挿入されたmiR−93に対応する2種のMREを含む本発明のH1N1及びH5N1を利用した弱毒インフルエンザウイルスワクチンは、細胞培養で増殖する際には高い安定性を示し(復帰変異体無し)、マウスに投与した際にはそれぞれH1N1及びH5N1の致死量からの防御がもたらされる。
【0052】
総合すれば、本発明の新規なMREを利用した弱毒化生ワクチン戦略によって、新たに出現するインフルエンザ株に対する大量のワクチンを迅速に作出するのに必要な汎用性、安全性及び有効性がもたらされる。
【0053】
本発明は、そのより一般的な一様相において、組換え作出に適した如何なるウイルスにも適用することができる。本発明によると、ウイルスゲノムに種特異的MRE及び/又は組織/細胞特異的MREを挿入することによって、ある種及び/又は組織/細胞においては弱毒化生ワクチンとして用いることができると共に、他の種及び/又は組織/細胞では効率的に増殖することができるウイルスの作出が可能となる。
【0054】
定義
本明細書において「インフルエンザウイルス」は、インフルエンザ又は流感として知られる疾患を引き起こすウイルス種の病原株を定義するのに用いる。「インフルエンザ」は、インフルエンザウイルスの如何なる株や血清型(HA(例えば、H1やH2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15、H16)とNA(例えば、N1、N2、N3、N4、N5、N6、N7、N8又はN9遺伝子)との如何なる組み合わせも含む)をも包含することを意味する。一実施形態においては、インフルエンザとはH5N1インフルエンザ(トリ流感又は流行性インフルエンザ)を意味する。一実施形態においては、インフルエンザとはインフルエンザウイルスの他の株又はサブタイプ(H1N1やH2N2、H3N2が挙げられるが、これらに限定されない)を意味する。
【0055】
インフルエンザウイルス生物学のコンテクストにおいては、「コード領域」とは、成熟ウイルスタンパク質内で示されるアミノ酸をコードするウイルスRNAの領域を意味する。
【0056】
本明細書において、「マイクロRNA」又は「miRNA」とは、7bpの「シード」配列(即ち、miRNAの5’位置1〜7又は2〜8の配列)によって標的mRNAの発現を調節する、小さい19〜25bpの内在性一本鎖RNAを意味する。「シード」に対するmRNA配列の相補性は通常、3’非翻訳領域(3’UTR)内に存在する。Bartel, Cell 116(2):281 (2004)。miRNA調節は全体的なタンパク質産生に適度に影響を及ぼし、細胞トランスクリプトームの「微調整」をもたらす。Baek et al., Nature 455(7209):64 (2008) and Selbach et al., Nature 455(7209):58 (2008)。
【0057】
「相補性」とは、伝統的なワトソン−クリック相互作用又は他の非伝統的相互作用(例えば、グアニンとウラシルの結合を可能にするウォッブル塩基対形成)によってある核酸が他の核酸配列と水素結合を形成し得ることを意味する。相補性率は、第2の核酸配列と水素結合を形成し得る核酸分子内の残基の割合(%)を示す。
【0058】
本発明の核酸分子に関して、ある核酸分子のその相補的配列に対する結合自由エネルギーは、該核酸の関連機能(例えば、miRNA活性)が進行可能な程度に十分である。核酸分子の結合自由エネルギーの決定については当該技術分野ではよく知られている(例えば、Turner et al., 1987, CSH Symp. Quant. Biol. LII pp.123-133; Frier et al., 1986, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 83:9373-9377; Turner et al., 1987, J Am. Chem. Soc. 109:3783-3785参照)。「完全に相補的」とは、ある核酸配列の全ての近接残基が第2の核酸配列の同じ数の近接残基と水素結合することを意味する。一実施形態においては、ヒトmiRNAは、対応する標的インフルエンザ核酸分子に対して部分的相補性(即ち、100%未満の相補性)を有する。
【0059】
本明細書において「マイクロRNA(miRNA)応答要素」又は「MRE」とは、特定のmiRNAと結合することができ、その転写後サイレンシングの量が測定可能な(例えば、mRNA量及び/又はタンパク質量の低下によって求める)mRNA内のヌクレオチド配列を意味する。転写後サイレンシングが生じるためには、MRE−miRNA配列相補性は、少なくとも、ヌクレオチド1〜7又は2〜8から成るmiRNAのシード配列とMREの3’末端を含む必要がある。
【0060】
本明細書に記載のように、本発明の組換え弱毒ウイルスに有用な種特異的及び/又は組織/細胞特異的MREは、ワクチン接種を必要とする動物のインフルエンザ標的細胞では高度に発現するが、大規模なワクチン作出に用いる細胞株や種(例えば、発育鶏卵[ニワトリ])では発現しないか又は発現が非常に低レベルである如何なるmiRNAにも由来することができる。本発明の意味において、「組織/細胞特異的MRE及び種特異的MRE」は、ワクチン接種対象の動物において関連ウイルスの標的となる特定の細胞型や組織型で高レベルで発現するmiRNA、及び/又はワクチン接種対象の選択種では高レベルで発現するが、大規模なワクチン作出に用いる細胞株や種では発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAと結合し、それによって転写後に阻害されるMREとして定義される。
【0061】
本明細書において、miRNA発現に関して「高度に発現する」及び「高レベルで発現する」とは、標準的なノーザンブロット解析(Pall et al., Nature Protocols 3(6) 1077 (2008))によって検出可能なmiRNAを意味する。このような高度に発現するmiRNAは、RNAディープ配列決定(Hafner et al., Methods 44(1)3 (2008))によって測定される、対象となる組織又は細胞に存在する全細胞miRNAの0.1%以上であることが好ましい。
【0062】
本明細書において、「発現が非常に低レベルである」とは、標準的なノーザンブロット解析によって検出不能なmiRNAを意味する。発現が非常に低レベルであるこのようなmiRNAは、RNAディープ配列決定によって測定される、対象となる組織又は細胞に存在する全細胞miRNAの0.01%以下であることが好ましい。
【0063】
本明細書において、組換え弱毒インフルエンザウイルスに関して用いられる「人工3’UTR」及び「人工3’非コード領域(NCR)」とは、成熟RNA転写物においてコードされるが、如何なるタンパク質情報もコードしない遺伝要素の挿入を意味する。「人工」とは、インフルエンザウイルスがMRE挿入を可能とする内在性3’UTRをコードせず、従って、MRE挿入のためにこの標的位置を利用する唯一の手段が新規な3’UTR/NCRを作出することであるという事実を意味する。本発明の組換え弱毒インフルエンザウイルスにおける人工3’UTR/NCRは、終止コドンとポリAテールとの間に遺伝物質を導入することによって作出することができる。また、全てのインフルエンザウイルスセグメントはvRNAの5’末端内にコードされるパッケージング情報(終止コドンとポリAテールをコードする遺伝情報と重複する)を有するため、人工3’UTRは5’vRNA末端の複製も必要とする。この場合、必要な物質(通常、セグメントに応じて80nt〜200nt)を複製し、ポリAテール配列を超えて挿入することができる。
【0064】
本明細書において、「感染性」とは、ウイルスが細胞内で複製し、ウイルス粒子を産生できることを意味する。感染力の評価は、ウイルス(即ち、ウイルス負荷)を検出するか、又は動物において疾患の進行を観察することによって行うことができる。
【0065】
本明細書において、「個体」又は「被験体」又は「動物」とは、マイナス鎖RNAウイルス感染、特に、インフルエンザウイルス感染をサポートする脊椎動物(トリ類(例えば、水鳥やニワトリ)や哺乳動物種のメンバー(例えば、イヌやネコ、オオカミ、イタチ、齧歯動物(ラシーヌ(racine)やマウス等)、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ種、霊長類)(後者はヒトを含む)が挙げられるが、これらに限定されない)を意味する。具体的な一実施形態においては、被験体はフェレットであるが、これはインフルエンザを研究するのに適した動物モデルである。他の実施形態においては、被験体はヒトである。
【0066】
本明細書において、「免疫原性」とは、ある剤が体液性免疫応答又は細胞性免疫応答(好ましくはその両方)を誘発することができることを意味する。免疫原性実体は抗原性でもある。免疫原性組成物とは、免疫系を有する動物に投与した際に、体液性免疫応答又は細胞性免疫応答、又はその両方を誘発する組成物である。
【0067】
「ワクチン」とは、レシピエント内で防御免疫を誘発するのに用いることのできる組成物(例えば、アジュバントの存在下又は非存在下での弱毒化生インフルエンザウイルス)を意味する。注目すべき点は、本発明のワクチンが有効であるためには、ある個体においては、強い免疫応答や防御免疫応答を開始させることができず、ある場合には如何なる免疫応答も開始させることができないが、免疫化した集団の一部において免疫を誘発することができることである。このような免疫応答の開始不能は、個体の遺伝的背景に由来するか、又は免疫不全状態(後天性又は先天性)や免疫抑制(例えば、化学療法を用いた治療や免疫抑制剤の使用に起因する)のためである。ワクチンの有効性は動物モデルで確立することができる。
【0068】
「アジュバント」とは、宿主の他の抗原(例えば、弱毒化生インフルエンザウイルス)に対する免疫応答を該抗原と共に投与した際に増強する化合物又は組成物を意味する。本発明のワクチン組成物に有用なアジュバントとしては、フロイント完全アジュバントやフロイント不完全アジュバント、サポニン、水酸化アルミニウム等の鉱物ゲル、リゾレシチン等の界面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、オイル又は炭化水素エマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニン、N−アセチル−ムラミル−L−スレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノル−ムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリロキシ)−エチルアミン、カルメット・ゲラン桿菌(BCG)、コリネバクテリウム・パルバムが挙げられるが、これらに限定されない。アジュバントは薬学的に許容し得るのが好ましい。
【0069】
本発明の意味において用いられる「共投与」とは、免疫アジュバントと抗原を一組成物にて同時に投与するか、異なる組成物にて同時に投与するか、又は特定の期間内(例えば、24時間)で逐次的に投与することを意味する。
【0070】
本明細書において、「防御」とは、被験体における疾患(例えば、流感)の発症や持続の予防又は治療、又は必要に応じてその両方を意味する。
【0071】
「防御免疫応答」又は「防御免疫」は、例えば、病原体(例えば、インフルエンザウイルス)や感染細胞の負荷を除去又は低下させるか、又は免疫化(ワクチン接種)した被験体における感染の測定可能な軽減をもたらすのに有効な体液性(抗体)免疫又は細胞性免疫、又はその両方を包含する。
【0072】
本明細書において、「治療有効量/用量」は「免疫原性有効量/用量」と交換可能に用いられ、弱毒化生インフルエンザウイルス又は該ウイルスを含む医薬組成物やワクチンを哺乳動物に投与した際に防御免疫応答をもたらすのに十分な量を意味する。
【0073】
「薬学的に許容し得る」とは、生理学的に容認することができ、ヒトに投与した際に通常はアレルギー反応や類似の不都合な反応(例えば、胃の不調やめまい等)をもたらさない分子体や組成物を意味する。好ましくは、本明細書で用いる「薬学的に許容し得る」とは、動物(より具体的にはヒト)における使用のために、連邦政府又は州政府の監督官庁によって認可されているか、又は米国薬局方か、他の一般に承認された薬局方に記載されていることを意味する。
【0074】
本発明の医薬組成物又はワクチン組成物に適用される「担体」とは、化合物(例えば、弱毒化生インフルエンザウイルス)と共に投与する希釈剤、賦形剤又は媒体を意味する。このような薬学的担体としては、水や、ピーナッツ油や大豆油、鉱油、ゴマ油等の石油、動物、植物又は合成に由来するものを含む油状物等の無菌液体を用いることができる。水又は水溶液、生理食塩水溶液、ブドウ糖水溶液及びグリセロール水溶液を担体として用いることが好ましく、特に注射用液剤に用いることが好ましい。適切な薬学的担体は「Remington's Pharmaceutical Sciences" by E.W. Martin, 18th Edition」に記載されている。
【0075】
本明細書において、「単離」とは、関連物質(例えば、細胞やウイルス)をその天然環境から取り除くことを意味する。従って、単離した生物学的物質は、細胞成分(即ち、天然物質が自然に生じる細胞の成分(例えば、細胞質成分や膜成分))の一部又はその全てを含まない場合がある。ある物質が細胞抽出物や上清に存在する場合には、該物質は単離されたものと考える。核酸分子の場合、単離核酸としては、PCR産物や単離RNA(例えば、mRNAやmiRNA)、DNA(例えば、cDNA)、制限断片が挙げられるが、これらに限定されない。他の実施形態においては、単離核酸は、それが存在し得る細胞ゲノムやウイルスゲノムから切除することが好ましく、例えば、この核酸の上流又は下流に位置する他の遺伝子や調節配列に連結したり近接することはない。更に他の実施形態においては、単離核酸は一以上のイントロンを欠いている。単離核酸分子には、プラスミドやコスミド、人工染色体等に挿入された(即ち、キメラ組換え核酸構築物の一部を形成する際に)配列が含まれる。従って、具体的な一実施形態においては、組換え核酸は単離核酸である。単離タンパク質は他のタンパク質又は核酸、又はその両方と細胞内で結合することができ、該タンパク質が膜結合性タンパク質の場合には細胞膜と結合することができる。単離オルガネラ、細胞又は組織は、それが生物内に存在する解剖学的部位から除去する。単離物質は精製してもよいが、その必要はない。
【0076】
本明細書において、「精製」とは、無関係な物質(即ち、夾雑物)(例えば、単離物質の由来源である天然物質)の存在を抑制又は排除する条件下で単離された物質を意味する。例えば、精製ウイルスは、宿主細胞や培養成分(例えば、組織培養物や卵タンパク質、非特異的病原体等)を実質的に含まないことが好ましい。本明細書において、「実質的に含まない」とは、物質の分析試験のコンテクストにおいて操作上用いられる。夾雑物を実質的に含まない精製物質は少なくとも50%ピュアであることが好ましく、少なくとも90%ピュアであることがより好ましく、少なくとも99%ピュアであることが更に好ましい。純度の評価は、クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、イムノアッセイ、組成分析、生物学的アッセイ、及び当該技術分野で公知の他の方法によって行うことができる。
【0077】
精製方法は当該技術分野でよく知られている。ウイルス粒子の精製は、スクロースクッションによる限外濾過、又は超遠心分離(好ましくは、連続遠心分離)によって行うことができる(Furminger, In: Nicholson, Webster and May (eds.), Textbook of Influenza, Chapter 24, pp. 324-332 参照)。他の精製方法も可能であり、本明細書で意図されている。精製物質は、それが本来は伴っていた細胞成分や媒体、タンパク質、他の望ましくない成分や不純物(状況に応じて)の約50%未満、好ましくは約75%未満、最も好ましくは約90%未満含んでもよい。「実質的に純粋」とは、当該技術分野で公知の従来の精製技法を用いて達成することができる最も高い純度を示す。
【0078】
「約」又は「およそ」とは、ある値の統計的に有意な範囲内であることを意味する。このような範囲は、所定の値又は範囲に対して好ましくは50%以内、より好ましくは20%以内、更に好ましくは10%以内、更に好ましくは5%以内のオーダーとすることができる。「約」又は「およそ」によって包含される許容偏差は研究中の特定の系によって決まるが、当業者には容易に理解され得る。
【0079】
本発明においては、従来の分子生物学、微生物学及び組換DNA技法を、当業者の技能範囲内で利用できる。このような技法は文献において十分に説明されている。例えば、Sambrook, Fritsch & Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition. Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989 (herein "Sambrook et al., 1989"); DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes I and II (D.N. Glover ed. 1985); Oligonucleotide Synthesis (MJ. Gait ed. 1984); Nucleic Acid Hybridization [B.D. Hames & SJ. Higgins eds. (1985)]; Transcription And Translation [B.D. Hames & SJ. Higgins, eds. (1984)]; Animal Cell Culture [R.I. Freshney, ed. (1986)]; Immobilized Cells And Enzymes [IRL Press, (1986)]; B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning (1984); Ausubel, F. M. et al. (eds.). Current Protocols in Molecular Biology. John Wiley & Sons, Inc., 1994 を参照。このような技法には、Kunkel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488- 492 (1985), 米国特許第5,071,743号, Fukuoka et al. , Biochem. Biophys. Res. Commun. 263: 357-360 (1999); Kim and Maas, BioTech. 28: 196-198 (2000); Parikh and Guengerich, BioTech. 24: 4 28-431 (1998); Ray and Nickoloff, BioTech. 13: 342-346 (1992); Wang et al., BioTech. 19: 556-559 (1995); Wang and Malcolm, BioTech. 26: 680-682 (1999); Xu and Gong, BioTech. 26: 639-641 (1999), 米国特許第5,789,166号及び第5,932,419号、 Hogrefe, Strategies 14. 3: 74-75 (2001), 米国特許第5,702,931号、第5,780,270号及び第6,242,222号, Angag and Schutz, Biotech. 30: 486-488 (2001), Wang and Wilkinson, Biotech. 29: 976-978 (2000), Kang et al., Biotech. 20: 44-46 (1996), Ogel and McPherson, Protein Engineer. 5: 467-468 (1992), Kirsch and JoIy, Nuc. Acids. Res. 26: 1848-1850 (1998), Rhem and Hancock, J. Bacterid. 178: 3346-3349 (1996), Boles and Miogsa, Curr. Genet. 28: 197-198 (1995), Barrenttino et al., Nuc. Acids. Res. 22: 541-542 (1993), Tessier and Thomas, Meths. Molec. Biol. 57: 229-237, and Pons et al., Meth. Molec. Biol. 67: 209-218 に記載の部位特異的突然変異誘発が含まれる。
【0080】
ウイルスゲノムに組み込むマイクロRNA応答要素(MRE)の選択
本発明は、miR−93の2種の遍在性MREを保存インフルエンザヌクレオカプシド(NP)タンパク質のオープンリーディングフレーム(ORF)に組み込んで高度に弱毒化されたインフルエンザウイルスワクチン株を得ることによって例示される。後述するように、NP遺伝子は、株間での遺伝的ドリフトが殆どなく、エスケープ変異体が出現しにくいことによって特徴付けられる。しかし、他のインフルエンザmRNAのコード領域又は非コード(例えば、人工3’UTR)領域内にMREを組み込むことができることは理解されよう。全てのインフルエンザ遺伝子をMRE挿入に用いることができるが、より保存されたインフルエンザタンパク質のORFを用いると、エスケープ変異体が出現しにくくなり、ワクチンの安全性が高まるため好ましい。従って、MRE挿入に好ましいインフルエンザ遺伝子はPB1、PB2、PA、M1、M2、NP、NS1及びNEPである。
【0081】
有効なLAIVワクチンを作出するには1種のMREでも十分であるが、ワクチン接種した動物において効率的な弱毒化を確実にし、エスケープ変異体の可能性を低下させるためには少なくとも2種のMREを用いることが好ましい。このような二以上のMREは、同一の配列を有する場合もあり、幾つかのヌクレオチド位置が異なる場合もあり、二以上の異なるmiRNAに対応する場合もあるが、各miRNAは、ワクチン接種対象の動物においてインフルエンザウイルスの標的となる組織/細胞では高度に発現するが、大規模なワクチン作出に用いる種及び/又は組織/細胞(例えば、発育鶏卵内でウイルス増殖が生じる領域[例えば、絨毛尿膜]や適切な細胞株[例えば、MDCK細胞])では発現しないか又は発現が非常に低レベルである。このような二以上のMREは、インフルエンザウイルスゲノムの一以上の位置に挿入することができる。
【0082】
コード領域内へのMRE配列の組み込みは、ヌクレオチド配列の変化、特に、アミノ酸置換をもたらすヌクレオチド配列の変化を最小限に抑えることを目的として、インフルエンザウイルス遺伝子のコード領域を変化させることによって行うことができる。従って、アミノ酸の元来の同一性は通常保持されるが、アミノ酸置換が必要な場合には、同一の階層的クラスタリング(例えば、非極性(G、A、V、L、M、I)や極性(S、T、C、P、N、E)、芳香族(F、Y、W)、正電荷(K、R、H)、負電荷(D、E))に従うことが好ましい。
【0083】
ヌクレオチドの変更は、当該技術分野で公知の部位特異的突然変異誘発方法のいずれかを用いて導入することができる。例えば、Kunkel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488- 492 (1985), 米国特許第5,071,743号, Fukuoka et al. , Biochem. Biophys. Res. Commun. 263: 357-360 (1999); Kim and Maas, BioTech. 28: 196-198 (2000); Parikh and Guengerich, BioTech. 24: 4 28-431 (1998); Ray and Nickoloff, BioTech. 13: 342-346 (1992); Wang et al., BioTech. 19: 556-559 (1995); Wang and Malcolm, BioTech. 26: 680-682 (1999); Xu and Gong, BioTech. 26: 639-641 (1999), 米国特許第5,789,166号及び第5,932,419号, Hogrefe, Strategies 14. 3: 74-75 (2001)、 米国特許第5,702,931号、第5,780,270号及び第6,242,222号, Angag and Schutz, Biotech. 30: 486-488 (2001), Wang and Wilkinson, Biotech. 29: 976-978 (2000), Kang et al., Biotech. 20: 44-46 (1996), Ogel and McPherson, Protein Engineer. 5: 467-468 (1992), Kirsch and JoIy, Nuc. Acids. Res. 26: 1848-1850 (1998), Rhem and Hancock, J. Bacterid. 178: 3346-3349 (1996), Boles and Miogsa, Curr. Genet. 28: 197-198 (1995), Barrenttino et al., Nuc. Acids. Res. 22: 541-542 (1993), Tessier and Thomas, Meths. Molec. Biol. 57: 229-237, and Pons et al., Meth. Molec. Biol. 67: 209-218.を参照。
【0084】
効率的に弱毒化を行うためには、MRE配列は、少なくともmiRNA「シード」配列(即ち、miRNAの5’及びMREの3’ヌクレオチド1〜7又は2〜8)と完全に相補的である必要がある。更なる相補性はウイルスの弱毒化を更に高めるのに役立つ。本発明に係るMREは、例えば、対象となるmiRNAの部分的又は完全に逆位で相補的な配列を用いて設計することができる。相補性のあるより短い領域を用いることによって、潜在的な部位の数は増加し、必要なヌクレオチド変更の数は減少する。
【0085】
RNA結合によって、シトシン(C)をウラシル(U)で置換し、アデノシン(A)をグアニン(G)で置換することができ、更には良好な平均自由エネルギー(MFE)を維持することもできる。Crick, J MoI Biol 19(2):548-555 (1966)。その結果、5’−UCU−3’(これはセリン(S)をコードする)や5’−UUU−3’(これはフェニルアラニン(F)をコードする)等のコドンはいずれも5’−AGA−3’とハイブリダイズすることができる。従って、miRNAの5’−AGA−3’配列を標的とするMREは、S又はFをコードするインフルエンザ配列に挿入することができる。この例を表1に更に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
例えば、miR−16配列:5’−UAGCAGCACGUAAAUAUUGGCG−3’(配列番号1)の場合、最小「シード」配列は、5’−UAGCAGCAC−3’(配列番号8)又は5’−AGCAGCAGC−3’(配列番号9)、即ち、相補的なMRE配列5’−GTGCTGCTA−3’(配列番号10)又は5’−CGTGCTGCTA−3’(配列番号11)を形成する配列と見なすことができる。これらの推定MRE配列の各々においてシトシン(C)をウラシル(U)で置換、及び/又はアデノシン(A)をグアニン(G)で置換することによって、VLL、RAA、RVV、RAV、RVA、CAA、CVV、CAV又はCVAをコードする如何なるオープンリーディングフレームも操作してmiR−16に応答するようになる。
【0088】
本明細書に記載の具体例においては、ウイルス配列は、インフルエンザAウイルス株であるA/Puerto Rico/8/34/Mount Sinai(H1N1)に由来する。具体的には、特定のヌクレオチドとアミノ酸の位置は次のGenBank登録番号に相当する。
【0089】
【表3】
【0090】
各例において、平均自由エネルギー(MFE)は、非階層的アミノ酸置換(例えば、miR−93に関して後述するような置換)によって更に低下させることができる。理想的には、MRE/miRNA相互作用のMFEは−20kcal/モル未満、−25kcal/モル未満、−30kcal/モル未満、又は−35kcal/モル未満である。MFE計算方法については、Dawson and Yamamoto, J. Theor. Biol., 1999, 201(2): 1 13-140.を参照。
【0091】
しかし、ACGやUCG、CGU、CGA等のまれなコドントリプレットをもたらすヌクレオチド置換(Larner et al. Gene 345:127-138 (2005))は、このようなトリプレットがMRE挿入に用いるウイルス領域に既に存在していない場合には回避すべきであることは理解されよう。
【0092】
本明細書で例示のように、インフルエンザNPの場合には、セグメント5の位置225(部位1)及び位置818(部位2)は、miR−93のMRE配列に対して高い配列類似度を示すことが分かった。従って、部位1の配列5’−ACAAUAGAGAGAAUGGUGCUCUCU−3’(配列番号12)を5’−ACACUUGAACGAAUGGUACUUUCU−3(配列番号13)で置換してインフルエンザ93NP1を作出し、部位2の配列5’−UUUCUAGCACGGUCUGCACUCAUA−3’(配列番号14)を5’−UUCCUUGCACGGACAGCACUUUUA−3’(配列番号15)で置換してインフルエンザ93NP2を作出した。
【0093】
以下の表2〜9においては、ヌクレオチド配列レベルで改変して(標的インフルエンザのアミノ酸配列には如何なる変更も引き起こさずに)二以上のMREを組み込むことができるインフルエンザAコード領域の例を示す。開示したMRE対又はトリプレットの各々は、ヌクレオチド配列の変更を最小限にし、上の表1に記載のパラメータに従ってアミノ酸置換を制限することによって得られる。
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
【0096】
【表6】
【0097】
【表7】
【0098】
【表8】
【0099】
【表9】
【0100】
【表10】
【0101】
【表11】
【0102】
本発明に有用なMREは、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト)細胞(例えば、上皮細胞や分泌細胞[クララ]、繊毛細胞、頂端細胞、杯細胞[粘膜]、造血細胞[例えば、樹状細胞やマクロファージ、リンパ球]、気管支細胞、インフルエンザウイルスの標的となる肺や上気道の他の細胞)では高度に発現するが、ワクチン作出に用いる細胞株(例えば、MDCK細胞[例えば、ATCCカタログ番号:CCL−34])や発育鶏卵(ニワトリ)内でウイルス増殖が生じる領域では発現しないか又は発現が非常に低レベルである如何なるmiRNAにも由来することができる。これによって、インオボ又はインビトロで効率的にワクチンを作出することができるが、ワクチンウイルスは同族miRNAを発現する哺乳動物(例えば、ヒト)細胞において弱毒化の影響を受けやすくなる。
【0103】
表10は、10日齢の鶏(ニワトリ)卵の尿膜とヒトA549肺上皮細胞におけるmiRNA発現の相対データを示す。これは、RNAアダプタを精製細胞RNAに連結させて生成した300万超の構築配列(「リード」)のハイスループット並行配列決定に基づく。得られた割合(%)は、miRNA特異的リードの総数をmiRNAリードの総数で割ったものである。
【0104】
【表12】
【0105】
上述のデータに基づき、miR−16、miR−17、miR−19、miR−25、miR−34、miR−92及びmiR−93は、哺乳動物に特異的なMRE含有LAIVワクチン作出の有力な候補となる。
【0106】
更なる有用なmiRNAは、並行配列決定及び対象となる2個の種間、組織間又は細胞株間での相対発現レベルを確認することによって同定することができる。miRNA配列の最新データベースを参照(http://www.mirbase.org/(miRBase))。
【0107】
本発明の組換えLAIVは、更なる弱毒化変異(例えば、温度感受性ウイルス増殖をもたらす変異(例えば、FLUMISTに用いる変異)や病原性因子の除去(例えば、NS1タンパク質の除去))を含むことができる。
【0108】
組換え弱毒化生インフルエンザウイルスの作出
MRE含有組換え構築物を作出した後、本発明のMRE含有弱毒化生ウイルスは、培養細胞中(例えば、ヒト胎児腎臓HEK−293細胞[ATCCカタログ番号:CRL−1573]やニワトリ線維芽細胞DF1[ATCCカタログ番号:CRL−12203]、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MCK)細胞[ATCCカタログ番号:CCL−34、CRL−2285、CRL−2286、CRL−2935又はCRL−2936]、アフリカミドリザル腎臓細胞(ベロ)[ATCCカタログ番号:CCL−81、CRL−1586、CRL−1587又はCRL−2783]、ヒトPER−C6細胞(Pau et al., Vaccine, 19(17-19) 2716, (2001))、ニワトリ線維芽細胞DF1[ATCCカタログ番号:CRL−12203]中)で組換えによって作出することができる。細胞株中での作出後、発育鶏卵中で増殖させてより高い力価を得ることができる。
【0109】
各段階において、ウイルス粒子の精製は、例えば、限外濾過や超遠心分離(好ましくは、連続遠心分離)によって行うことができる(Furminger, In: Nicholson, Webster and May (eds.), Textbook of Influenza, Chapter 24, pp. 324-332 参照)。ウイルス力価は、プラークアッセイ、組織培養感染量、卵感染量、血球凝集抑制又は抗体依存蛍光によって求めることができる。Huprikar et al., J Virol Methods, 1980, 1(2): 1 17-120, Rimmelzwaan et al., J Virol Methods. 1998, 74(1): 57-66。
【0110】
本発明の組換え弱毒インフルエンザウイルスは、種々のインフルエンザの遺伝的背景(例えば、H5N1ウイルス(例えば、A/Vietnam/1203/04やA/chicken/Scotland/59、A/duck/Hong Kong/308/78)、H1N1ウイルス(例えば、A/PuertoRico/8/1934やA/NewYork/616/1995、A/California/04/2009)、H3N2ウイルス(例えば、A/HongKong/16/68やA/USSR/039/68、A/Yokohama/C5/85)、他のインフルエンザAウイルス(例えば、低温適応株A/Leningrad/134/17/57やA/Leningrad/134/47/57、A/Ann Arbor/6/60)が挙げられるが、これらに限定されない)に由来することができる。
【0111】
本発明の組換え弱毒インフルエンザウイルスの培養細胞中での作出は、当業者に公知の如何なる手段によっても行うことができ、例えば、polIプロモーター由来の8種のインフルエンザvRNAとpolIIプロモーター由来の全mRNAのプラスミド駆動発現によって感染性インフルエンザウイルスの生成をもたらす「プラスミドオンリー」システム(Hoffmann et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2000, 97:6108; Hoffmann et al., Vaccine 2002, 20:3165; 米国特許第6,951,754号; Quinlivan et al, J. Virol. 79(13):8431 (2005))等の遺伝子工学方法によって行うことができる。哺乳動物細胞中でのウイルス増殖時の弱毒化を回避するため、MRE含有プラスミドをRNAPolIによってのみ駆動してMREを含むvRNAを逆の(即ち、無効の)配向で作出し、他のプラスミド(MREを含まず)をRNApolIIプロモーターによってのみ駆動して野生型mRNAを作出する。例えば、後述の実施例11に記載のように、NPオープンリーディングフレームにMREを含む組換え弱毒インフルエンザウイルスを作出するため、本発明者らは、RNApolIIプロモーターによってのみ駆動するプラスミド(pCAGGs NP)を用いて野生型NPmRNAを作出し、RNApolIによってのみ駆動する他のプラスミド(pPolIMREコードNP)を用いてNPオープンリーディングフレームにMREを含むvRNAを作出した。
【0112】
代替方法においては、対象となるMRE含有vRNAセグメントを過剰発現させた後、細胞を対象となるウイルス株に非常に低い感染多重度(MOI)(例えば、ウイルス1個/細胞100個)で感染させることができる。対象となるウイルスセグメントは過剰発現によって組み込まれる。卵内での接種後、異質ウイルスはプラーク精製することができ、培養細胞中でプラークサイズによって野生型ウイルスと区別することができる。或いは、野生型未改変株のみを標的とする短い妨害RNA(siRNA)をトランスフェクトすることによってレスキュー時に更なる選択圧を加えることができる。これによって、組換え体のみを選択する。
【0113】
大規模なウイルス作出を達成するため、最初のウイルス作出に用いた上清及び/又は培養細胞を10日齢の発育鶏卵に注入することができる。或いは、MDCK細胞の操作によるMRE含有ウイルスの増殖は、(i)レンチウイルス組み込みによる対応するmiRNAの安定ノックダウン(Gentner et al., Nature Methods (2009) 63-66)、(ii)ダイサー又はドローシャに特異的なジンクフィンガーヌクレアーゼの発現(Miller et al, Nature Biotechnology (2007); 778-85)、又は(iii)MDCK細胞において発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAに対応するMREを組み込むことによって行うことができる。
【0114】
本発明の組換え弱毒化生インフルエンザウイルスに存在するMREに対応するmiRNAはワクチン作出に用いる細胞株やニワトリの尿膜には存在しないか又は発現が非常に低レベルであるが、哺乳動物組織(例えば、インフルエンザウイルスの標的となる肺組織や他の組織)には豊富にあるため、このようなワクチンは哺乳動物細胞中では選択的に弱毒化されるが、ニワトリ尿膜や選択された細胞株(例えば、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MCK)細胞[ATCCカタログ番号:CCL−34、CRL−2285、CRL−2286、CRL−2935又はCRL−2936]やアフリカミドリザル腎臓細胞(ベロ)[ATCCカタログ番号:CCL−81、CRL−1586、CRL−1587又はCRL−2783]、ヒトPER−C6細胞(Pau et al., Vaccine, 19(17-19) 2716, (2001))、ニワトリ線維芽細胞DF1[ATCCカタログ番号:CRL−12203])では非常に高い力価まで増殖することができる。従って、本発明のMRE含有インフルエンザウイルスワクチンは1×107プラーク形成単位/mL(pfu/mL)を超えるウイルス力価を得ることができ、標準的な細胞培養又は高密度細胞発酵技術(Meghrou et al, Vaccine 28(2) 309 (2009))を用いてワクチン増殖が可能である。
【0115】
本発明のワクチン組成物
また、本発明は、MRE含有弱毒化生インフルエンザウイルスと薬学的に許容し得る担体又は希釈剤とを含む新規な改良LAIVワクチン組成物も提供する。インフルエンザウイルスに起因する病態を予防する方法に該ワクチンを用いることができ、その際、該ワクチンの治療有効量をそれを必要とする被験体に投与することができる。
【0116】
インフルエンザワクチンの有効性を更に高めるための戦略としては、例えば、アジュバントとの共投与(上述参照)や、サイトカインやリンホカイン、ケモカイン等の免疫賦活分子(例えば、インターロイキンIL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−12、IL−13や顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)及び他のコロニー刺激因子、マクロファージ炎症因子、Flt3リガンド、B7.1、B7.2等)との共投与が挙げられる。Salgaller and Lodge, J. Surg. Oncol. 1998, 68: 122; Lyman, Curr. Opin. Hematol., 5: 192, 1998。アジュバントや免疫賦活分子は全身的に又は局所的に(例えば、タンパク質として直接、又はベクターからの発現によって)送達することができる。Wood and Williams, In: Nicholson, Webster and May (eds.), Textbook of Influenza, Chapter 23, pp. 317-323; Salgaller and Lodge, J. Surg. Oncol. 1998, 68:122. 参照。
【0117】
本発明のLAIVワクチンの治療有効な防御用量は、当該技術分野で公知の種々の投与経路によって投与することができる。インフルエンザ感染は粘膜経由で生じ、粘膜は免疫療法の重要な標的である樹状細胞を有しているため、弱毒化生ワクチンの場合、粘膜投与が特に好ましい。有用な粘膜ワクチン接種戦略の例としては、特に、ウイルスをマイクロカプセル内に封入すること(米国特許第5,075,109号、5,820,883号、5,853,763号)や免疫強化膜状担体を用いること(PCT公開番号:WO98/0558)が挙げられる。具体的な一実施形態においては、本発明のワクチンは、コレラ毒素(CT)との混合物、又はCTとの複合タンパク質やキメラ融合タンパク質(例えば、CT BやCT A/Bキメラ)として粘膜投与することができる(Hajishengallis, J Immunol., 154: 4322-32, 1995; Jobling and Holmes, Infect Immun., 60: 4915-24, 1992)。CT Bサブユニットの使用に基づく粘膜ワクチンについては既に説明されている(Lebens and Holmgren, Dev Biol Stand 82: 215-27, 1994)。他の実施形態においては、熱不安定性エンテロトキシン(LT)との混合物を粘膜ワクチン接種用に調製することができる。吸入によって投与するワクチンの免疫原性は、赤血球(rbc)やrbcゴースト(米国特許第5,643,577号)を用いるか、又はブルータング抗原(米国特許第5,690,938号)を用いることによっても高めることができる。
【0118】
上述のアプローチは将来のワクチン接種戦略の改善に有望であるが、それらを特定の状況で用いるには、ワクチンの有効性を確実にする検証や調査が必要である。
【0119】
ワクチンの効力を評価するため、一元放射免疫拡散(SRD)試験を用いることができる。Schild et al., Bull. World Health Organ. 1975, 52: 43-50 and 223-31 Mostow et al., J. Clin. Microbiol. 1975, 2: 531。十分な免疫応答に必要な用量は標準化されており、SRD又は最小限の中和活性に対して15μgHA/株/投与である。
【実施例】
【0120】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。しかし、これらの例や本明細書のどの箇所における他の例も説明の目的にのみ用いられ、決して本発明や如何なる例示用語の範囲や意味をも限定するものではない。同様に、本発明は、本明細書に記載の如何なる特定の好ましい実施形態にも限定されない。実際、本明細書を読む際、当業者には本発明の多くの改変や変更が明らかとなるであろうし、このような変更は、本発明の精神や範囲を逸脱することなく行うことができる。従って、本発明は、添付する特許請求の範囲の用語、及びこれらの特許請求の範囲によって与えられる均等の全範囲によってのみ限定されるものである。
【0121】
実施例1
ウイルス感染
動物の感染はNIH基準に従って行った。5週齢のBalb/cマウスをタコニックファームズ社(ニューヨーク州アルバニー)から購入した。イソフルランの吸入によってマウスを約5分間通常の麻酔下におき、意識を取り戻した際に50μLのウイルス(PBSに再懸濁)をマウスのトラップに置いた。ウイルスの力価は標準的なプラークアッセイによって測定し、病原性の研究は3〜5匹のマウス/接種用量のコホートに対して行った。マウスは毎日計量し、最初の体重の20%が失われた場合には殺した。1×103プラーク形成単位(pfu)のMRE含有H5N1ウイルス又は偽PBS感染を用いたワクチン接種研究は鼻腔内で行った(PBS、n=2;MRE含有H5N1、n=7)。感染21日後、マウスを1×106PRNTL H5N1で再チャレンジ(鼻腔内)し、罹患及び死亡の徴候について毎日モニターした。
【0122】
実施例2
ウイルスNPの継代及び配列決定
TPCKトリプシンの存在下、ヒト肺上皮細胞をPRNTL又はMRE含有H5N1に0.01のMOIで感染させた。感染24時間後、上清を未処理細胞に移し、次の日に計10回の継代を繰り返した。感染10日後、全RNAに対してRT−PCRを行い、NPのPCR産物を配列決定目的のためにクローン化した。インビボ研究においては、5週齢のBalb/cマウスを上述のウイルスで処理した。感染5日後、全RNAを回収し、配列決定のためにNPのクローン化に用いた。記載の配列はコホート当たり25を超えるコロニーを示す。
【0123】
実施例3
miRNA発現及び標的ルシフェラーゼベクター
miR−124を発現する赤色蛍光タンパク質のミニ遺伝子はE.マケイエフ(Makeyev)によって作出された。Makeyev et al, Molecular Cell 27(3):435 (2007)。pRFP−miR−93を作出するため、順方向プライマー5’−TAGTGGTCCTCTCTGTGCTACCG−3’(配列番号112)及び逆方向プライマー5’−ATTGAACAAAAATGGGGACTCCT−3’(配列番号113)を用い、提供されたプロトコルにより高忠実度PCRマスターキット(ロシュ・アプライド・サイエンス、インディアナ州インディアナポリス)を用いたPCR増幅によって、pri−miR−93遺伝子座を含む500bpのゲノム断片をマウスゲノムDNAから単離した。得られたPCR産物をpCR(登録商標)2.1−TOPO(インビトロジェン社、カリフォルニア州カールズバッド)に製造業者の指示に従ってサブクローン化した後、PmeI−SpeI部位によってpRFPミニ遺伝子にクローン化した。miR−124のMRE及び対照SV40の3’UTRを含むホタルルシフェラーゼ構築物はE.マケイエフから入手した。Makeyev et al, Molecular Cell 27(3):435 (2007)。
【0124】
実施例4
組織培養及びエクスビボ感染
特に明記しない限り、ヒト胎児腎臓HEK−293細胞、ヒト肺上皮A549細胞、ヒト星状腫U373細胞、及びマウス線維芽細胞は、10%ウシ胎仔血清(JMバイオサイエンス、カリフォルニア州サンディエゴ)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(メディアテック社)を添加したダルベッコ最小必須培地(DMEM、メディアテック社、バージニア州マナッサス)中で増殖させた。ダイサー−/−マウス線維芽細胞はA.タラーコフシー(Tarahkovsy)(ロックフェラー大学、ニューヨーク州ニューヨークシティ)から贈られたもので、15%FBS、1%非必須アミノ酸(ギブコ、インビトロジェン)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したDMEM中で増殖させた。ジャーカット細胞は、10%ウシ胎仔血清及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したα最小必須培地で増殖させた。初代ヒト樹状細胞RNAはA.フェルナンデス−セスマ(Fernendez-Sesma)(マウントサイナイ医学校、ニューヨーク州ニューヨークシティ)から提供された。線維芽細胞のエクスビボ感染は完全培地中、トリプシンの非存在下で行い(野生型線維芽細胞の場合にはMOIを1、ダイサー−/−線維芽細胞の場合には5とした)、指示された時点で回収した。
【0125】
実施例5
RT−PCR及びウェスタンブロット
RT−PCR及びイムノブロットは最近記載されたように行った。tenOever et al, Science 315(5816):1274 (2007)。アクチン(カタログ番号8226、アブカム社、マサチューセッツ州ケンブリッジ)、ポリクローナルPR8(A.ガルシア−サストル(Garcia-Sastre)(マウントサイナイ医学校、ニューヨーク州ニューヨークシティ)より入手)、IRF1(sc−640、サンタクルーズバイオテクノロジー社、カリフォルニア州サンタクルーズ)、STAT1(sc−417、サンタクルーズバイオテクノロジー社)及びISG54(G.セン(Sen)(クリーブランドクリニック、オハイオ州クリーブランド)より入手)抗体は全て、1μg/μLの濃度で用い、4℃で一晩インキュベートした。二次マウス及びウサギ抗体(GEヘルスケア、英国、ジャイルズ、チャルフォントストリート)は室温で1時間、1:1000希釈にて用いた。miRNAのRT−PCRプライマーを表1に示す。
【0126】
【表13】
【0127】
実施例6
pRFP及びルシフェラーゼレポータートランスフェクション
pRFP構築物の蛍光確認のためのトランスフェクションは、10%FBS添加DMEM中で増殖させたHEK293を用い、更に4μgの適切なpRFPベクター及びリポフェクタミン2000(インビトロジェン)を用い、提供されたプロトコルに従って行った。トランスフェクション24時間後に蛍光を画像化した。続いて行うWTインフルエンザA/Puerto Rico/8/34感染のため、100ngの適切なホタルルシフェラーゼ3’UTR構築物、10ngの構成的ホタルウミシイタケ(firefly Renilla)及び700ngの適切なpRFP構築物を含む混合物とリポフェクタミン2000(インビトロジェン)を用いてHEK293をトランスフェクトした。トランスフェクション6時間後にMOI=1で細胞を感染させ、感染18時間後に細胞を回収してDual−LuciferaseRレポーターアッセイ(プロメガ、ウィスコンシン州マディソン)を行った。pBluescript SK+(ストラタジーン、アジレントテクノロジーズ、カリフォルニア州ラホーラ)又はpDZ−NS1(全てのpDZ構築物はP.パレセ(Palese)(マウントサイナイ医学校、ニューヨーク州ニューヨークシティ)より入手した)を用いたコトランスフェクションのため、50ngの適切なホタルルシフェラーゼ3’UTR、10ngの構成的ホタルウミシイタケ、350ngの適切なpRFP構築物及び350ngのpBluescript SK+(ストラタジーン)又はpDZ−NS1(後述のベクター)を含む混合物とリポフェクタミン2000(インビトロジェン)を用いてHEK293をトランスフェクトした。トランスフェクション24時間後に細胞を回収し、Dual−LuciferaseRレポーターアッセイ(プロメガ)を製造業者のプロトコルによって行った。全てのホタルルシフェラーゼの測定値はサンプル当たりのホタルウミシイタケ発現に対する割合で表し、その後3個の複製物について平均値を求めた。
【0128】
実施例7
統計的解析
統計的解析は両側スチューデントT検定(n=3〜8)を用いて行った。p値<0.05を有意と見なした。エラーバーは+/−標準偏差を反映する。
【0129】
実施例8
miRNAノーザンブロット解析
トリゾール試薬(インビトロジェン)用い、供給されたプロトコルによって全RNAを抽出し、7.5Mの尿素及び1×TBEを含む15%変性ポリアクリルアミドゲルを用いたポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)によって分離した。Makeyev et al., Molecular Cell 27(3):435 (2007)。次いで、RNAをハイボンドN+膜(アマシャム、GEヘルスケアライフサイエンス)に移し(0.5×TBE中、360mA、60分間)、UV照射(200,000マイクロジュール/cm2)によって該膜に架橋させ、該膜を6×SSC、7%SDS中、65℃で一晩ブロックした。ハイブリダイゼーションプローブを表2に示す。
【0130】
【表14】
【0131】
T4ポリヌクレオチドキナーゼ(インビトロジェン)及び[γ32P]ATP(パーキンエルマー、マサチューセッツ州ウォルサム)を用いて表2に記載のオリゴヌクレオチドを放射標識し、セファデックスG−25カラム(GEヘルスケア)によって精製した。ブロッキング溶液にプローブを約1000万カウント/分で添加し、42℃で一晩インキュベートした。次いで、ブロットを42℃にて3×SSC、0.1%SDSで4回洗浄し、オートラジオグラムで一晩画像化した。
【0132】
実施例9
インフルエンザA/Puerto Rico/8/34ヌクレオカプシドへの
MREの組み込み
miR−93に対して部分相補性を有するインフルエンザA/Puerto Rico/8/34ヌクレオカプシド内の部位を、Bibiserv's RNAhybridアルゴリズム(ビーレフェルト大学、バイオインフォマティクスサービス、Centrum fur Biotechnologie−CeBiTec、ドイツ、ビーレフェルト)を用いて同定した。ウイルスRNA発現用pPol−I駆動NPベクターにおけるQuickChangeRキット及びプロトコル(ストラタジーン)を用いた3〜5段階の部位特異的突然変異誘発によってほぼ完全な相補性が得られた。
【0133】
実施例10
変異NPのRNA依存RNAポリメラーゼ活性
PRNTL1/2部位をpPol−Iベクターからインビトロタンパク質発現用pDZバックボーンにクローン化した。RdRp駆動ルシフェラーゼ発現のために、250ngのpDZ−NP−PRNTL1/2又はWTpDZ−NPを、100ngのpPol−Iベースプラスミド駆動のホタルルシフェラーゼ、10ngの構成的ホタルウミシイタケ、及び残りのインフルエンザウイルスポリメラーゼセグメント(62.5ngのPB1、62.5ngのPA及び25ngのPB2)と共にHEK293にトランスフェクトした。Hoffmann et al., Antiviral Research 80(2): 124 (2008)。ホタルルシフェラーゼ活性はDual−LuciferaseRレポーターアッセイ(プロメガ)を用いて測定し、サンプル当たりのホタルウミシイタケ発現に対する割合で表し、3個の複製物について平均値を計算した。
【0134】
実施例11
組換えインフルエンザAウイルスのレスキュー
本明細書に記載のpPol−INP変異体を用いて生ウイルスをレスキューした。リポフェクタミン2000(インビトロジェン)を用いてHEK293細胞に、変異pPol−INP構築物と共に、WTのpCAGGSNPと、上述の残りの7個のインフルエンザセグメントに対応する7個のpDZ構築物をトランスフェクトした。Park et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 103(21):8203 (2006)。トランスフェクション24時間後に細胞を回収し、受精鶏卵の絨毛尿膜液に注入した。注入48時間後に生ウイルスを単離し、血球凝集アッセイ及びプラークアッセイの両方によって定量した。上述の構築物を用い、H5N1組換えインフルエンザAウイルスを同様に作出した。
【0135】
実施例12
外因性miRNAヘアピン発現及び転写後の遺伝子サイレンシング
miRNAを外因的に発現させるため、そのゲノムコンテクスト内のmiRNAヘアピンを赤色蛍光タンパク質(RFP)のイントロンとしてクローン化することによって、その切除後に処理することができ、RFP発現との関連が得られた(図1A)。これらの研究においては、miR−93(即ち、内在性標的がまだ確認されていない高遍在性のmiRNA)とmiR−124(即ち、神経細胞分化の促進に伴う組織特異的miRNA)を選択した。Makeyev et al., Molecular Cell 27(3):435 (2007)。
【0136】
pRFP−miR−93又はpRFP−miR−124の発現によって、両方のプレmiRNA産物が出現すると共に、その成熟体が増加した(図1B)。これらの結果から、インビボインフルエンザウイルス感染時にはmiRNAプロセシングは有意に影響を受けないことが示唆された。miRNA介在の転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)がインフルエンザウイルス感染時に影響を受けるかどうか調べるため、公知のmiR−124標的配列を含むルシフェラーゼレポーターのmiR−124介在PTGSをモニターした。Makeyev et al., Molecular Cell 27(3):435 (2007)。miR−124は対照SV40の3’UTRを含むmRNA由来のルシフェラーゼ活性を抑制できなかったが、miR−124のMREを含むmRNA由来のルシフェラーゼ活性の90%を阻害した(図1C)。また、この活性は、インフルエンザウイルス(A/Puerto Rico/8/34)の存在下やNS1発現(即ち、宿主防御遮断に関与する非構造的RNA結合タンパク質)によっては阻害されなかった(図1C/D)。Lu et al., Genes & Development 8(15): 1817 (1994); Talon et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 97(8):4309 (2000); and Jackson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 105(11):4381 (2008)。これらのデータから、インフルエンザウイルス感染がmiRNA生合成及びPTGSを可能とし、それによってMRE組み込みが弱毒化誘導のツールとして用いることができたことが示唆された。
【0137】
実施例13
インフルエンザNPコード領域へのmiRNA標的配列の組み込み
インフルエンザウイルスは伝統的に発育鶏卵の絨毛尿膜内で高力価まで増殖する。従って、本発明の目的のために、この膜では発現しないが、マウス肺組織及びヒト肺組織の両方に遍在するmiRNA種を同定した。公的に入手可能なmiRNAプロファイルのインシリコスクリーン、及びニワトリ内で発現するmiRNAの公表レポートを用い、miR−93を有力な候補として同定した(図5及びBurnside et al., BMC Genomics 9:185 (2008))。これらのデータはノーザンブロット解析によって裏付けられた(図2A)。
【0138】
インフルエンザウイルスにmiR−93部位を組み込むため、循環している株間で高い保存性を維持しているウイルスゲノム内の領域を同定した。インフルエンザウイルス転写物は十分な3’UTRをコードせず、外因性RNAを伴ってパッケージング欠陥を示すため、miRNA標的はNPのコード領域に直接組み込んだ。NPのコード領域を選択したのは、このセグメントが1918年から今日まで株間での遺伝的ドリフトを殆ど示さず、エスケープ変異体が出現しにくいためである(図2B)。
【0139】
RNAフォールディングアルゴリズムを用いてmiR−93様部位の配列スキャニングを行ったが、これによって、タンパク質全体に対する構造的置換を行う必要なく、miR−93標的部位に形質転換し得る2個のRNA配列が同定された。効率的で効果的なターゲティングを確実に行うと共に、エスケープ変異体の可能性を低下させるため、セグメント5の位置225(部位1)及び位置818(部位2)において2種のほぼ完全な相補的MREを設計した。部位1では配列5’−ACAAUAGAGAGAAUGGUGCUCUCU−3’(配列番号12)を5’−ACACUUGAACGAAUGGUACUUUCU−3(配列番号13)(本明細書では93NP1と称する)又は5’−ACCUUAGAGAGGAUGGUCCUAUCU−3’(配列番号139)(本明細書ではPRNTL1と称する)に置換した。部位2では配列5’−UUUCUAGCACGGUCUGCACUCAUA−3’(配列番号14)を5’−UUCCUUGCACGGACAGCACUUUUA−3’(配列番号15)(本明細書では93NP2と称する)又は5’−UUUCUAGCCAGAACUGCACUCUUA−3’(配列番号140)(本明細書ではPRNTL2と称する)に置換した。
【0140】
部位1及び部位2の算出した平均自由エネルギー(MFE)はそれぞれ−28kcal/モル及び−37.1kcal/モルであった(図2C)。miR−93部位の作出によって3個のアミノ酸置換がもたらされたが、その全てが階層的順序内に留まった。こうして、NP機能が損なわれたかどうかが初めて確認された。このため、インフルエンザウイルスポリメラーゼ部位をコードするアンチセンスレポーター構築物に、必要なRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)成分PB1、PB2、PA、及び野生型NP構築物又は親NP構築物の一方をトランスフェクトした。Pleschka et al., J. Virol. 70(6):4188 (1996) and Hoffmann et al., Antiviral Research 80(2):124 (2008)。これらのデータから、I63L、S262T及び/又はI265LをNPに組み込んでもタンパク質の機能全体には影響を及ぼさないが、それによってポリメラーゼ活性が約20%低下した(図2D)ことが分かった。
【0141】
NP機能性の検証後、ヒト胎児腎臓細胞に種々のMRE含有NPセグメントをトランスフェクトすると共に、RNAポリメラーゼI及びIIで双方向に転写した残り7個のインフルエンザウイルスセグメント(A/Puerto Rico/8/34)をコードするプラスミドをトランスフェクトして、ウイルスRNA(vRNA)とmRNAを同時に作出した。Quinlivan et al., J. Virol. 79(13):8431 (2005) and Park et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 103(21):8203 (2006)。トランスフェクション24時間後に細胞を回収し、10日齢の発育鶏卵に注入した。全てのインフルエンザウイルス株(PRNTL、miR−93NP1、miR−93NP2及びmiR−93NP1/2)を同等の効率でレスキューしたが、インオボでは弱毒化は生じず、力価は1×107プラーク形成単位/mL(pfu/mL)を超えることが分かった(図2E)。
【0142】
実施例14
MRE含有NPセグメントを含むインフルエンザAウイルスのエクスビボ及びインビボ弱毒化
MRE含有NPセグメントの組み込みがmiR−93介在の弱毒化をもたらすかどうか確認するため、野生型及びダイサー−/−マウス線維芽細胞に親A/Puerto Rico/8/34(PRNTL)、A/Puerto Rico/8/34/93NP1(93NP1)、93NP2又は93NP1/2を感染させた(図3A及びS2)。1.0の感染多重度(MOI)において、PRNTLウイルスの場合、野生型線維芽細胞では感染12時間後(hpi)に十分なレベルの血球凝集素(HA)が産生した。このウイルス転写速度から、単一MREの組み込みによる弱毒化の程度が低いことが分かったが、93NP1/2の場合、タンパク質産生が完全に失われたことが分かった(図3A)。これらの同じウイルス株がmiRNAプロセシングを妨げるダイサーの非存在下で高力価まで複製した(図3A及びB)ため、この弱毒化は組み込まれたMRE部位に起因すると考えられる。これらのデータから、インフルエンザウイルス転写物へのMREの組み込みによってエクスビボでmiRNA介在の弱毒化が誘導されたことが分かった。
【0143】
インビボでMRE含有インフルエンザ株の特徴付けを行うため、マウスに104pfuで鼻腔内感染させ、感染5日後(dpi)に全肺抽出物を回収した。心葉のRT−PCR解析から、PRNTL含有株に対する免疫応答とMRE含有株に対する免疫応答には認識可能な差は無いことが分かった。各株に対して、インターフェロン調節因子7(IRF7)mRNAの強いアップレギュレーションがあり、主要な抗ウイルスサイトカイン(インターフェロンβ(IFNβ)やインターロイキン6(IL6)等)が誘導された(図3C)。また、左葉のタンパク質解析から、IFNβ調節遺伝子及びIFNγ調節遺伝子の両方(例えば、STAT1やIRF1、IFN刺激遺伝子54(ISG54))が強く誘導されることも分かった(図3D)。更に、インフルエンザウイルスは変異する傾向が強い(tenOever et al, Science 315(5816):1274 (2007))ため、複数回の感染をヒト肺上皮細胞A549(ATCCカタログ番号:CCL−185)ではエクスビボで、マウスではインビボで行って、それぞれ数回の連続継代後又は感染5日後にRNAを回収した(図3E及び7)。驚くべきことに、インビボ感染及びエクスビボ感染の両方において復帰変異体が産生しなかったが、これは、miRNAターゲティングの柔軟性と共に、これに対するNPの強固な保存性によってエスケープ変異体の産生が妨げられることを示唆する。
【0144】
実施例15
MRE含有インフルエンザAウイルスワクチンによるインビボ防御
エクスビボでのmiRNA介在弱毒化がインビボで実証され、良好なワクチンとして用いることができるかどうか確認するため、病原性研究をマウスで行った。この潜在的なワクチン戦略の汎用性を説明するため、A/Puerto Rico/8/34(H1N1)のMRE含有セグメント5を用いてトリ血球凝集素(H5)及びノイラミニダーゼ(N1)を含むキメラ株をA/Vietnam/1203/04から標準的な逆遺伝学によってレスキューした。Park et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 103(21):8203 (2006) and Tumpey et al., Science 310(5745):77 (2005)。
【0145】
本発明者らのH5N1のMRE含有ウイルス株がインビボで弱毒化されるかどうか解明するため、マウスをH5N1のPRNTL又はH5N1の93NP1/2に濃度を上昇させて感染させた。105のウイルス力価において、PRNTLインフルエンザ株の場合、3匹中3匹が死亡したが、これに対し、MRE含有株の場合には、1匹の死亡のみであった(図4A)。また、死亡はPRNTL株の104及び103(n=8/コホート)の鼻腔内接種による感染の場合に限られ、算出した50%致死量はMRE含有株に比べて約3ログ高かった(図4A)。MRE含有H5N1に対しては、親株と同様に重量減少が生じたが、miR−93NP1/2ウイルスはその後中和され、マウスは完全な回復を示した(図4B)。
【0146】
これらのデータから、MRE含有インフルエンザウイルスのインビボ弱毒化はまだ低レベルの複製を許容するため、適応免疫応答を必要とすることが示唆される。これは、MRE含有インフルエンザウイルス株が非常に高レベルの中和抗体を産生し、よって、優れたワクチン候補となり得ることを示す。この仮説を試験するため、感染21日後にマウスを親H5N1株を用い致死量の10倍(106pfu/マウス)で再チャレンジし、生存について再度モニターした(図4C)。偽ワクチン接種の場合(即ち、死亡率100%で、急速な重量減少が観察された(図4C及び4D))と比べて、MRE含有H5N1接種マウスでは罹患の徴候が見られなかったが、これは完全な防御と中和抗体の存在を示す(図4C及び4D)。
【0147】
実施例16
組換えウイルスの免疫学的評価
miR−93標的株が強い中和免疫応答を誘導するかどうか確認するため、A/PR/8/34H1N1のPRNTL及び93NP1/2組換え体を用いてマウスにおける研究を行った(図8A)。PRNTL株の接種によって、93NP1/2やPBS投与の場合と比べて10%を超える重量減少が生じた。また、ワクチン接種21日後、これらのマウスに対して致死的チャレンジを行った結果、100%生存し、IgM、IgG1、IgG2a及びIgG2bを含む強い中和抗体レパートリーがもたらされた(図8A)。種特異的miRNA介在ワクチン開発の利用について詳細に説明するため、miR−93標的H5N1リアソータントウイルスを更に試験した。このために、MREシードNPセグメント(Perez et al. Nature Biotechnology 27(6) 572 (2009)に記載)及びA/PR/8/34の野生型セグメント1〜3及び7〜8(登録番号:AF389115.1、AF389116.1、AF389117.1、AF389121.1、AF389122.1)を用いてH5N1の6:2リアソータントをレスキューし、HA及びNA遺伝子発現によって抗原的にA/Vietnam/1203/04/H5N1として認識されるウイルス(Perez et al. Nature Biotechnology 27(6) 572 (2009)に記載)を作出した(図8B)。これらのウイルスの遺伝的レスキュー及び増殖によってはインオボでの弱毒化は示されなかった(図8C)。H1N1ワクチン接種の場合とは異なり、H5N1のPRNTLの投与の場合には、死亡率が50%となり、平均20%の体重減少が生じた。これに対し、MREシードH5N1の場合には完全な生存を示したが、僅かな体重減少が誘発された(図8D)。ワクチン接種後、感染21日後にマウスを致死量のH5N1でチャレンジした。偽ワクチン接種の場合(即ち、死亡率100%で、急速な重量減少が観察された)と比べて、MREシードH5N1接種マウスでは罹患の徴候が見られなかったが、これは完全な防御を示す(図8D)。また、これらのマウスの血清は野生型H5N1ウイルスに対する中和活性に関しても陽性であり、H1N1ワクチン接種の場合と同様に、高い力価のIgM、IgG1、IgG2a及びIgG2bが得られた(図8D)。
【0148】
実施例17
更なる組換えウイルスの作出
セグメント5(NPをコードする)が哺乳動物特異的miR−93の標的となり得るという上述の知見について詳細に説明するため、異なる哺乳動物特異的miRNAを用い、異なるインフルエンザAセグメントを標的とする第2の種特異的MRE標的インフルエンザAウイルス株を設計した。具体的には、上述の通常の鋳型及びアプローチを用い、3個のほぼ完全なmiR−34標的部位をPAのオープンリーディングフレーム(セグメント3でコードされる)に組み込んだ。miR−34標的部位の組み込みは標準的な部位特異的突然変異誘発(Kunkel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488-492 (1985), 米国特許第5,071,743号に記載)によって行った。部位特異的突然変異誘発のプライマーとしては、次の相補的なセット、即ち、部位1には5−GATTGGAGAAGAcGTtGCcCCAATTGAACAC−3’(配列番号148)と5’−AGCTTGATGAGATcGGtGAAGACGTTGCC−3’(配列番号149)、部位2には5’−GGAAGGTCTGCAGGACacTgTTAGCAAAGT−3’(配列番号150)と5’−GAAAGTTCCATTGGcAAGGTaTGtAGGACACT−3’(配列番号151)、部位3には5’−CCTTACACATGCATTGtcaTAGTTGTGGCAG−3’(配列番号152)と5’−ACTCCTTCCTgACtCATGCAcTGTCATAGTT−3’(配列番号153)を用いた(小文字で書かれた塩基は、miR−34MREを作出する各段階における塩基の変更を表す)。miR−93の場合と同様に、miR−34はニワトリ細胞に存在しないため(表10)、このウイルスをDF1ニワトリ線維芽細胞で増殖した際には、該ウイルスのレスキューによっては弱毒化が示されなかった(図9)。これに対し、この同じウイルスをマウス肺由来細胞中で継代した際には、感染12時間後及び24時間後(hpi)のいずれにおいても強い弱毒化が示された。
【0149】
実施例18
組織/細胞特異的組換えウイルスの作出
ターゲティング戦略(オープンリーディングフレーム(ORF)対非翻訳領域(UTR))の両方について詳細に説明し、MRE介在の弱毒化が大規模なインフルエンザ作出用の組織/細胞培養システムに適応し得るかどうか確認するため、NS1又はNPインフルエンザ遺伝子を、スクランブル配列(Scrb1)又は造血細胞に特有なMRE(miR−142[5’−UGUAGUGUUUCCUACUUUAUGGA−3’(配列番号141)]、Landgraf et al., Cell 129:1401 (2007)参照)のタンデム反復で標的化した。これを行うために、5’パッケージング配列をウイルスRNAで複製し、この遺伝情報を終止コドンとポリAテール配列との間に挿入した(図10A)。人工3’UTRによってmiRNAの標的となるウイルス転写物を操作するため、ウイルスセグメントの通常の構造を操作して、3’UTRをコードし、複製RNAパッケージング配列を含むようにした。標準的な部位特異的突然変異誘発によって、特有のSal1制限部位をvRNAの終止コドンとポリアデニル化部位との間に導入した。人工NP3’UTR作出用プライマーとしては、5’−GTACGACAATTAAAGtcgAcTACCCTTGTTTCTAC−3’(配列番号154)の相補的なセットを用いた(小文字の塩基は変更されたヌクレオチドであり、下線部の配列はSal1部位である)。ウイルスパッケージング配列(先に確立されたNP用の120塩基対(Fields et al., Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, PA, 2007))は生成した時点で挿入した。NPパッケージング配列プライマーとしては、5’−CgTCGAcCTCTCGGACGAAAAGG−3(配列番号155)及び5’−CTCGAGTAGAAACAAGGGTATTTTTCTTTAATTG−3’(配列番号156)(Sal1及びXho1リンカー(下線部)を含む)を用いた。PCRによる産物をXho1及びSal1で切断し、Sal1部位内に連結させて3’UTRを作出した。Xho1及びSal1連結によって回文構造配列が破壊されるため、終止コドンとポリUトラクト(ポリAテールの生成に役立つ)との間に位置する単一の残存Sal1部位によって、次にスクランブル配列又は特定のmiRNA応答要素(MRE)を連結するための挿入ポイントが得られる(図10)。上述のものと同じ戦略を用いてNS1を標的化したが、この場合には、複製領域としてvRNAの5’末端に対するスプライスアクセプター部位で開始する全NS2(NEP)ORFを用いた(5’−GTCGACCTCTTCCAGGACATACTGCTG−3’(配列番号157)及び5’−CTCGAGAGAAACAAGGGTGTTTTTTATTA−3’(配列番号158))。miR−142のMRE挿入オリゴは、インサート5’−TCCATAAAGTAGGAAACACTACA−3’(配列番号159)の4コピー又はスクランブル非標的配列5’−GATCGGTAGCTACGTAGCTAGC−3’(配列番号160)の4コピーであった。このターゲティング戦略が細胞培養に適用し得るかどうか試験するため、図1に概略を示し、Perez et al. Nature Biotechnology 27(6) 572 (2009)に記載の同じ戦略を用いて外因性miR−142を発現するようにプラスミドを適応させた(図10B)。miR−142を作出するため、miR−142遺伝子座をコードする次の配列:5’−CCAGTGCTGTTAGTAGTGCTTTCTACTTTATGGGTGACTGCACTGTCTGTCTGTCCGTCGGCGTGTACTCTTCAGGCTGCCCAGGCCTCCTGACTCCTGCTCCAAGAGCCCCCCAGCCCTCCTTGTGGCTTCCTAAGATCCCCCCAACCCTGCCAGGGCCCCCCGAGGGCCCGCCCTGGGCCTTGTGGGCGGTGACTCAGCATGGCGCCAGACTTGCCTCCTCTACCTCCCTCCCCCACTTCCTCTTCAGTTCCCTCTTCCCTTCCCCCTAAAGGCTCCACCCCATCCCCCCAGTTTCAGAGACACTCAGGTAGAGAC−3’(配列番号163)を有するヒトゲノム318bp断片をプライマー5’−CCAGTGCTGTTAGTAGTGCTTTC−3’(配列番号161)及び5’−GTCTCTACCTGAGTGTCTCTGAAAC−3’(配列番号162)を用いて増幅した。このプラスミドは、マクロファージで発現する内在性miR−142と比べて、MDCK細胞にトランスフェクトした際に強い発現を示した(図10C)。MDCK細胞(ATCCカタログ番号:CCL−34)は、赤色蛍光用細胞選別によって安定なプラスミド発現のために選択した。ベクターのみ又はmiR−142を発現する選別されたMDCK細胞を維持し、新しい細胞株として拡張した(図10D)。miR−142標的NP(図10E)のウイルス複製を、ベクターを発現するMDCK細胞とmiR−142を発現するMDCK細胞とで比較した際、miR−142標的NPウイルス株は、スクランブルUTR対照カウンターパートとは対照的に、miRNA特異的に劇的な弱毒化を示した。これらの結果は、miR−142標的NS1を比較した結果(即ち、MREコードウイルスは、miR−142を発現する初代マクロファージで選択的に弱毒化された(図10C)が、miR−142が存在しない初代肺線維芽細胞では弱毒化されなかった(図10F))と同様であった。これらの結果から、このMREを利用した技術を細胞培養に適応させる可能性が示されると共に、インフルエンザウイルスセグメントの人工3’UTR又はコード領域に対してMREターゲティングを行うことができることが分かる。更に、これらの結果から、MDCK細胞や他の細胞培養系は、通常このような細胞では発現しないmiRNAを組み込むことによって、ウイルス増殖に用いることができることが分かる。
【0150】
本発明は、本明細書に記載の具体的な実施形態によってその範囲が限定されるものではない。実際、上述の説明により、本明細書に記載の改変に加えて本発明の種々の改変が当業者には明らかとなるであろう。このような改変は添付された特許請求の範囲内に入るものである。
【0151】
本明細書で引用した全ての特許、出願、刊行物、試験方法、文献、その他の資料は、それらが本明細書に物理的に存在するかのように、その全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一以上のマイクロRNA応答要素(MRE)配列を含む組換えインフルエンザウイルスを含む組成物。
【請求項2】
インフルエンザウイルスは二以上のMRE配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
一以上のMRE配列は、一以上のインフルエンザウイルス遺伝子のコード領域内に挿入されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
インフルエンザウイルス遺伝子は、HA、NA、PB1、PB2、PA、M1、M2、NP、NS1及びNS2/NEPから成る群から選択されるインフルエンザウイルスタンパク質をコードする、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
インフルエンザウイルス遺伝子は、PB1、PB2、PA、M1、M2、NP、NS1及びNS2/NEPから成る群から選択されるインフルエンザウイルスタンパク質をコードする、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
一以上のMRE配列は、人工的に作出されたインフルエンザウイルスの3’UTR内に挿入されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
MREは、種特異的発現によって特徴付けられるmiRNAに対応する、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
MREは、ワクチン接種を必要とする動物のインフルエンザ標的細胞では高度に発現するが、発育鶏卵内でインフルエンザウイルス増殖が生じる領域では発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAに対応する、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
MREは、組織特異的発現又は細胞特異的発現によって特徴付けられるmiRNAに対応する、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
MREは、ワクチン接種を必要とする動物のインフルエンザ標的細胞では高度に発現するが、ワクチン作出に用いる細胞株では発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAに対応する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
ワクチン作出に用いる細胞株は、ニワトリ線維芽細胞DF1、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MCK)細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞(ベロ)及びヒトPER−C6細胞から成る群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
MREは、miR−16、miR−17、miR−19、miR−25、miR−34、miR−92、miR−93、miR−142、miR−222、miR−149、miR−1977、miR−181b−2、miR−1259及びmiR−1978から成る群から選択されるmiRNAに対応する、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
MREは、配列5’−UAGCAGCACGUAAAUAUUGGCG−3’(配列番号1)を有するmiR−16、配列5’−CAAAGUGCUUACAGUGCAGGUAG−3’(配列番号2)を有するmiR−17、配列5’−UGUGCAAAUCUAUGCAAAACUGA−3’(配列番号3)を有するmiR−19、配列5’−CAUUGCACUUGUCUCGGUCUGA−3’(配列番号4)を有するmiR−25、配列5’−UGGCAGUGUCUUAGCUGGUUGU−3’(配列番号5)を有するmiR−34、配列5’−UAUUGCACUUGUCCCGGCCUG−3’(配列番号6)を有するmiR−92、配列5’−CAAAGUGCUGUUCGUGCAGGUAG−3’(配列番号7)を有するmiR−93、配列5’−UGUAGUGUUUCCUACUUUAUGGA−3’(配列番号141)を有するmiR−142、配列5’−AGCUACAUCUGGCUACUGGU−3’(配列番号142)を有するmiR−222、配列5’−UCUGGUCCGUGUCUUCACUCCC−3’(配列番号143)を有するmiR−149、配列5’−GAUUAGGGUGCUUAGCUGUUAA−3’(配列番号144)を有するmiR−1977、配列5’−AACAUUCAUUGCUGUCGGUGGGU−3’(配列番号145)を有するmiR−181b−2、配列5’−AUAUAUGAUGACUUAGCUUUU−3’(配列番号146)を有するmiR−1259、及び配列5’−GGUUUGGUCCUAGCCUUUCUA−3’(配列番号147)を有するmiR−1978から成る群から選択されるmiRNAに対応する、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
組換えインフルエンザウイルスは、H5N1、H1N1、H2N2及びH3N2から成る群から選択されるインフルエンザサブタイプに由来する、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
組換えインフルエンザウイルスは、A/Vietnam/1203/04、A/chicken/Scotland/59、A/duck/Hong Kong/308/78、A/PuertoRico/8/1934、A/NewYork/616/1995、A/California/04/2009、A/HongKong/16/68、A/USSR/039/68、A/Yokohama/C5/85、A/Leningrad/134/17/57、A/Leningrad/134/47/57、及びA/Ann Arbor/6/60から成る群から選択される分離株に由来する、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
ワクチン組成物である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
アジュバントを更に含む、請求項16に記載のワクチン組成物。
【請求項18】
動物においてインフルエンザ感染に対する防御免疫応答を誘導する方法であって、請求項16に記載のワクチン組成物を前記動物に投与することを含む方法。
【請求項19】
前記動物はヒトである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ワクチン組成物は粘膜投与する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記ワクチン組成物はアジュバントと共に投与する、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
インフルエンザウイルスコード配列と、前記コード配列内に挿入された一以上のマイクロRNA応答要素(MRE)配列とを含む単離核酸分子。
【請求項23】
インフルエンザウイルスコード配列は、HA、NA、PB1、PB2、PA、M1、M2、NP、NS1及びNS2/NEPから成る群から選択されるインフルエンザウイルスタンパク質をコードする、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項24】
インフルエンザウイルスコード配列は、PB1、PB2、PA、M1、M2、NP、NS1及びNS2/NEPから成る群から選択されるインフルエンザウイルスタンパク質をコードする、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項25】
インフルエンザウイルスコード配列と、転写物の終止コドンとポリアデニル化部位との間に挿入された一以上のマイクロRNA応答要素(MRE)配列を含む人工3’非翻訳領域(3’UTR)とを含む単離核酸分子。
【請求項26】
MREは、種特異的発現によって特徴付けられるmiRNAに対応する、請求項22又は25に記載の核酸分子。
【請求項27】
MREは、ワクチン接種を必要とする動物のインフルエンザ標的細胞では高度に発現するが、発育鶏卵内でインフルエンザウイルス増殖が生じる領域では発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAに対応する、請求項26に記載の核酸分子。
【請求項28】
MREは、組織特異的発現又は細胞特異的発現によって特徴付けられるmiRNAに対応する、請求項22又は25に記載の核酸分子。
【請求項29】
MREは、ワクチン接種を必要とする動物のインフルエンザ標的細胞では高度に発現するが、ワクチン作出に用いる細胞株では発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAに対応する、請求項28に記載の核酸分子。
【請求項30】
ワクチン作出に用いる細胞株は、ニワトリ線維芽細胞DF1、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MCK)細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞(ベロ)及びヒトPER−C6細胞から成る群から選択される、請求項29に記載の核酸分子。
【請求項31】
MREは、miR−16、miR−17、miR−19、miR−25、miR−34、miR−92、miR−93、miR−222、miR−149、miR−1977、miR−181b−2、miR−1259及びmiR−1978から成る群から選択されるmiRNAに対応する、請求項22又は25に記載の核酸分子。
【請求項32】
MREは、配列5’−UAGCAGCACGUAAAUAUUGGCG−3’(配列番号1)を有するmiR−16、配列5’−CAAAGUGCUUACAGUGCAGGUAG−3’(配列番号2)を有するmiR−17、配列5’−UGUGCAAAUCUAUGCAAAACUGA−3’(配列番号3)を有するmiR−19、配列5’−CAUUGCACUUGUCUCGGUCUGA−3’(配列番号4)を有するmiR−25、配列5’−UGGCAGUGUCUUAGCUGGUUGU−3’(配列番号5)を有するmiR−34、配列5’−UAUUGCACUUGUCCCGGCCUG−3’(配列番号6)を有するmiR−92、及び配列5’−CAAAGUGCUGUUCGUGCAGGUAG−3’(配列番号7)を有するmiR−93、配列5’−UGUAGUGUUUCCUACUUUAUGGA−3’(配列番号141)を有するmiR−142、配列5’−AGCUACAUCUGGCUACUGGU−3’(配列番号142)を有するmiR−222、配列5’−UCUGGUCCGUGUCUUCACUCCC−3’(配列番号143)を有するmiR−149、配列5’−GAUUAGGGUGCUUAGCUGUUAA−3’(配列番号144)を有するmiR−1977、配列5’−AACAUUCAUUGCUGUCGGUGGGU−3’(配列番号145)を有するmiR−181b−2、配列5’−AUAUAUGAUGACUUAGCUUUU−3’(配列番号146)を有するmiR−1259、及び配列5’−GGUUUGGUCCUAGCCUUUCUA−3’(配列番号147)を有するmiR−1978から成る群から選択されるmiRNAに対応する、請求項31に記載の核酸分子。
【請求項33】
二以上のMREを含む、請求項22又は25に記載の核酸分子。
【請求項34】
MREとその対応するmiRNAとの相互作用の平均自由エネルギー(MFE)は−20kcal/mol未満である、請求項22又は25に記載の核酸分子。
【請求項35】
MREとその対応するmiRNAとの相互作用の平均自由エネルギー(MFE)は−35kcal/mol未満である、請求項22又は25に記載の核酸分子。
【請求項36】
miR−93に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質NPのコード配列に挿入されている2種のMREを含み、第1のMRE配列はNPアミノ酸62〜69をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はNPアミノ酸258〜265をコードするヌクレオチド配列にある、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項37】
第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−ACAATTGAACGAATGGTACTTTCT−3’(配列番号107)を含む、請求項36に記載の核酸分子。
【請求項38】
第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTCCTTGCACGGTCAGCACTTATA−3’(配列番号111)を含む、請求項36に記載の核酸分子。
【請求項39】
miR−92に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質NS1のコード配列に挿入されている2種のMREを含み、第1のMRE配列はNS1アミノ酸131〜137をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はNS1アミノ酸150〜156をコードするヌクレオチド配列にある、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項40】
第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−AAGGCCAACTTCAGTGTAATA−3’(配列番号97)を含む、請求項39に記載の核酸分子。
【請求項41】
第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTCACCGAGGAAGGTGCAATA−3’(配列番号101)を含む、請求項39に記載の核酸分子。
【請求項42】
miR−92に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質HAのコード配列に挿入されている3種のMREを含み、第1のMRE配列はHAアミノ酸68〜74をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はHAアミノ酸195〜201をコードするヌクレオチド配列にあり、第3のMRE配列はHAアミノ酸526〜532をコードするヌクレオチド配列にある、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項43】
第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−CTACAGTTGGGGAAGTGCAAT−3’(配列番号83)を含む、請求項42に記載の核酸分子。
【請求項44】
第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−AACGCCTATGTAAGTGTAGTA−3’(配列番号87)を含む、請求項42に記載の核酸分子。
【請求項45】
第3のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTGGTCAGTTTAGGTGCAATA−3’(配列番号91)を含む、請求項42に記載の核酸分子。
【請求項46】
miR−19に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質HAのコード配列に挿入されている3種のMREを含み、第1のMRE配列はHAアミノ酸15〜22をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はHAアミノ酸561〜568をコードするヌクレオチド配列にあり、第3のMRE配列はHAアミノ酸327〜334をコードするヌクレオチド配列にある、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項47】
第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GCCAGTGCTGACACAATTTGCATA−3’(配列番号45)を含む、請求項46に記載の核酸分子。
【請求項48】
第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TCTTTGCAGTGCAGGATTTGCATA−3’(配列番号49)を含む、請求項46に記載の核酸分子。
【請求項49】
第3のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTGCGUATGGTCACAGGTTTGCGC−3’(配列番号53)を含む、請求項46に記載の核酸分子。
【請求項50】
miR−16に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質HAのコード配列に挿入されている2種のMREを含み、第1のMRE配列はHAアミノ酸2〜9をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はHAアミノ酸439〜445をコードするヌクレオチド配列にある、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項51】
第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−AAGGCCAACCTATTAGTGCTGCTA−3’(配列番号21)を含む、請求項50に記載の核酸分子。
【請求項52】
第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−AACGCCGAACTATTAGTGCTGCTA−3’(配列番号25)を含む、請求項50に記載の核酸分子。
【請求項53】
miR−34に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質PAのコード配列に挿入されている3種のMREを含み、第1のMRE配列はPAアミノ酸426〜433をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はPAアミノ酸634〜641をコードするヌクレオチド配列にあり、第3のMRE配列はPAアミノ酸709〜716をコードするヌクレオチド配列にある、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項54】
第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GATGAGATCGGTGAAGACGTTGCC−3’(配列番号69)を含む、請求項53に記載の核酸分子。
【請求項55】
第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GGCAAGGTATGTAGGACACTGTTA−3’(配列番号73)を含む、請求項53に記載の核酸分子。
【請求項56】
第3のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTCTTCCTGACTCATGCACTGTCA−3’(配列番号77)を含む、請求項53に記載の核酸分子。
【請求項57】
miR−25に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質M1のコード配列に挿入されている2種のMREを含み、第1のMRE配列はM1アミノ酸111〜118をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はM1アミノ酸127〜134をコードするヌクレオチド配列にある、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項58】
第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GGTGCCAAAGAGATAAGTGCAAGT−3’(配列番号59)を含む、請求項57に記載の核酸分子。
【請求項59】
第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−ATATACAACAGGATGGGTGCAGTG−3’(配列番号63)を含む、請求項57に記載の核酸分子。
【請求項60】
miR−17に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質PB1のコード配列に挿入されている3種のMREを含み、第1のMRE配列はPB1アミノ酸374〜381をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はPB1アミノ酸418〜424をコードするヌクレオチド配列にあり、第3のMRE配列はPB1アミノ酸677〜683をコードするヌクレオチド配列にある、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項61】
第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GCCAGCATTGATCTTAAGTACTTT−3’(配列番号31)を含む、請求項60に記載の核酸分子。
【請求項62】
第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GTGTTGGGTGTAAGCATTTTG−3’(配列番号35)を含む、請求項60に記載の核酸分子。
【請求項63】
第3のMRE配列はヌクレオチド配列5’−ACCAGCCAAAGAGGCGTTTTG−3’(配列番号39)を含む、請求項60に記載の核酸分子。
【請求項64】
miR−142に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質NPの人工3’UTRに挿入されている4種のMREを含み、MRE配列はウイルス終止コドンとポリAテール配列との間に存在する、請求項25に記載の核酸分子。
【請求項65】
4種のMREの各々はヌクレオチド配列5’−TCCATAAAGTAGGAAACACTACA−3’(配列番号159)を含む、請求項64に記載の核酸分子。
【請求項66】
miR−142に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質NS1の人工3’UTRに挿入されている4種のMREを含み、MRE配列はウイルス終止コドンとポリAテール配列との間ではあるが、複製NS2/NEPのORFの前に存在する、請求項25に記載の核酸分子。
【請求項67】
4種のMREの各々はヌクレオチド配列5’−TCCATAAAGTAGGAAACACTACA−3’(配列番号159)を含む、請求項66に記載の核酸分子。
【請求項1】
一以上のマイクロRNA応答要素(MRE)配列を含む組換えインフルエンザウイルスを含む組成物。
【請求項2】
インフルエンザウイルスは二以上のMRE配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
一以上のMRE配列は、一以上のインフルエンザウイルス遺伝子のコード領域内に挿入されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
インフルエンザウイルス遺伝子は、HA、NA、PB1、PB2、PA、M1、M2、NP、NS1及びNS2/NEPから成る群から選択されるインフルエンザウイルスタンパク質をコードする、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
インフルエンザウイルス遺伝子は、PB1、PB2、PA、M1、M2、NP、NS1及びNS2/NEPから成る群から選択されるインフルエンザウイルスタンパク質をコードする、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
一以上のMRE配列は、人工的に作出されたインフルエンザウイルスの3’UTR内に挿入されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
MREは、種特異的発現によって特徴付けられるmiRNAに対応する、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
MREは、ワクチン接種を必要とする動物のインフルエンザ標的細胞では高度に発現するが、発育鶏卵内でインフルエンザウイルス増殖が生じる領域では発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAに対応する、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
MREは、組織特異的発現又は細胞特異的発現によって特徴付けられるmiRNAに対応する、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
MREは、ワクチン接種を必要とする動物のインフルエンザ標的細胞では高度に発現するが、ワクチン作出に用いる細胞株では発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAに対応する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
ワクチン作出に用いる細胞株は、ニワトリ線維芽細胞DF1、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MCK)細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞(ベロ)及びヒトPER−C6細胞から成る群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
MREは、miR−16、miR−17、miR−19、miR−25、miR−34、miR−92、miR−93、miR−142、miR−222、miR−149、miR−1977、miR−181b−2、miR−1259及びmiR−1978から成る群から選択されるmiRNAに対応する、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
MREは、配列5’−UAGCAGCACGUAAAUAUUGGCG−3’(配列番号1)を有するmiR−16、配列5’−CAAAGUGCUUACAGUGCAGGUAG−3’(配列番号2)を有するmiR−17、配列5’−UGUGCAAAUCUAUGCAAAACUGA−3’(配列番号3)を有するmiR−19、配列5’−CAUUGCACUUGUCUCGGUCUGA−3’(配列番号4)を有するmiR−25、配列5’−UGGCAGUGUCUUAGCUGGUUGU−3’(配列番号5)を有するmiR−34、配列5’−UAUUGCACUUGUCCCGGCCUG−3’(配列番号6)を有するmiR−92、配列5’−CAAAGUGCUGUUCGUGCAGGUAG−3’(配列番号7)を有するmiR−93、配列5’−UGUAGUGUUUCCUACUUUAUGGA−3’(配列番号141)を有するmiR−142、配列5’−AGCUACAUCUGGCUACUGGU−3’(配列番号142)を有するmiR−222、配列5’−UCUGGUCCGUGUCUUCACUCCC−3’(配列番号143)を有するmiR−149、配列5’−GAUUAGGGUGCUUAGCUGUUAA−3’(配列番号144)を有するmiR−1977、配列5’−AACAUUCAUUGCUGUCGGUGGGU−3’(配列番号145)を有するmiR−181b−2、配列5’−AUAUAUGAUGACUUAGCUUUU−3’(配列番号146)を有するmiR−1259、及び配列5’−GGUUUGGUCCUAGCCUUUCUA−3’(配列番号147)を有するmiR−1978から成る群から選択されるmiRNAに対応する、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
組換えインフルエンザウイルスは、H5N1、H1N1、H2N2及びH3N2から成る群から選択されるインフルエンザサブタイプに由来する、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
組換えインフルエンザウイルスは、A/Vietnam/1203/04、A/chicken/Scotland/59、A/duck/Hong Kong/308/78、A/PuertoRico/8/1934、A/NewYork/616/1995、A/California/04/2009、A/HongKong/16/68、A/USSR/039/68、A/Yokohama/C5/85、A/Leningrad/134/17/57、A/Leningrad/134/47/57、及びA/Ann Arbor/6/60から成る群から選択される分離株に由来する、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
ワクチン組成物である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
アジュバントを更に含む、請求項16に記載のワクチン組成物。
【請求項18】
動物においてインフルエンザ感染に対する防御免疫応答を誘導する方法であって、請求項16に記載のワクチン組成物を前記動物に投与することを含む方法。
【請求項19】
前記動物はヒトである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ワクチン組成物は粘膜投与する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記ワクチン組成物はアジュバントと共に投与する、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
インフルエンザウイルスコード配列と、前記コード配列内に挿入された一以上のマイクロRNA応答要素(MRE)配列とを含む単離核酸分子。
【請求項23】
インフルエンザウイルスコード配列は、HA、NA、PB1、PB2、PA、M1、M2、NP、NS1及びNS2/NEPから成る群から選択されるインフルエンザウイルスタンパク質をコードする、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項24】
インフルエンザウイルスコード配列は、PB1、PB2、PA、M1、M2、NP、NS1及びNS2/NEPから成る群から選択されるインフルエンザウイルスタンパク質をコードする、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項25】
インフルエンザウイルスコード配列と、転写物の終止コドンとポリアデニル化部位との間に挿入された一以上のマイクロRNA応答要素(MRE)配列を含む人工3’非翻訳領域(3’UTR)とを含む単離核酸分子。
【請求項26】
MREは、種特異的発現によって特徴付けられるmiRNAに対応する、請求項22又は25に記載の核酸分子。
【請求項27】
MREは、ワクチン接種を必要とする動物のインフルエンザ標的細胞では高度に発現するが、発育鶏卵内でインフルエンザウイルス増殖が生じる領域では発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAに対応する、請求項26に記載の核酸分子。
【請求項28】
MREは、組織特異的発現又は細胞特異的発現によって特徴付けられるmiRNAに対応する、請求項22又は25に記載の核酸分子。
【請求項29】
MREは、ワクチン接種を必要とする動物のインフルエンザ標的細胞では高度に発現するが、ワクチン作出に用いる細胞株では発現しないか又は発現が非常に低レベルであるmiRNAに対応する、請求項28に記載の核酸分子。
【請求項30】
ワクチン作出に用いる細胞株は、ニワトリ線維芽細胞DF1、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MCK)細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞(ベロ)及びヒトPER−C6細胞から成る群から選択される、請求項29に記載の核酸分子。
【請求項31】
MREは、miR−16、miR−17、miR−19、miR−25、miR−34、miR−92、miR−93、miR−222、miR−149、miR−1977、miR−181b−2、miR−1259及びmiR−1978から成る群から選択されるmiRNAに対応する、請求項22又は25に記載の核酸分子。
【請求項32】
MREは、配列5’−UAGCAGCACGUAAAUAUUGGCG−3’(配列番号1)を有するmiR−16、配列5’−CAAAGUGCUUACAGUGCAGGUAG−3’(配列番号2)を有するmiR−17、配列5’−UGUGCAAAUCUAUGCAAAACUGA−3’(配列番号3)を有するmiR−19、配列5’−CAUUGCACUUGUCUCGGUCUGA−3’(配列番号4)を有するmiR−25、配列5’−UGGCAGUGUCUUAGCUGGUUGU−3’(配列番号5)を有するmiR−34、配列5’−UAUUGCACUUGUCCCGGCCUG−3’(配列番号6)を有するmiR−92、及び配列5’−CAAAGUGCUGUUCGUGCAGGUAG−3’(配列番号7)を有するmiR−93、配列5’−UGUAGUGUUUCCUACUUUAUGGA−3’(配列番号141)を有するmiR−142、配列5’−AGCUACAUCUGGCUACUGGU−3’(配列番号142)を有するmiR−222、配列5’−UCUGGUCCGUGUCUUCACUCCC−3’(配列番号143)を有するmiR−149、配列5’−GAUUAGGGUGCUUAGCUGUUAA−3’(配列番号144)を有するmiR−1977、配列5’−AACAUUCAUUGCUGUCGGUGGGU−3’(配列番号145)を有するmiR−181b−2、配列5’−AUAUAUGAUGACUUAGCUUUU−3’(配列番号146)を有するmiR−1259、及び配列5’−GGUUUGGUCCUAGCCUUUCUA−3’(配列番号147)を有するmiR−1978から成る群から選択されるmiRNAに対応する、請求項31に記載の核酸分子。
【請求項33】
二以上のMREを含む、請求項22又は25に記載の核酸分子。
【請求項34】
MREとその対応するmiRNAとの相互作用の平均自由エネルギー(MFE)は−20kcal/mol未満である、請求項22又は25に記載の核酸分子。
【請求項35】
MREとその対応するmiRNAとの相互作用の平均自由エネルギー(MFE)は−35kcal/mol未満である、請求項22又は25に記載の核酸分子。
【請求項36】
miR−93に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質NPのコード配列に挿入されている2種のMREを含み、第1のMRE配列はNPアミノ酸62〜69をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はNPアミノ酸258〜265をコードするヌクレオチド配列にある、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項37】
第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−ACAATTGAACGAATGGTACTTTCT−3’(配列番号107)を含む、請求項36に記載の核酸分子。
【請求項38】
第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTCCTTGCACGGTCAGCACTTATA−3’(配列番号111)を含む、請求項36に記載の核酸分子。
【請求項39】
miR−92に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質NS1のコード配列に挿入されている2種のMREを含み、第1のMRE配列はNS1アミノ酸131〜137をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はNS1アミノ酸150〜156をコードするヌクレオチド配列にある、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項40】
第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−AAGGCCAACTTCAGTGTAATA−3’(配列番号97)を含む、請求項39に記載の核酸分子。
【請求項41】
第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTCACCGAGGAAGGTGCAATA−3’(配列番号101)を含む、請求項39に記載の核酸分子。
【請求項42】
miR−92に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質HAのコード配列に挿入されている3種のMREを含み、第1のMRE配列はHAアミノ酸68〜74をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はHAアミノ酸195〜201をコードするヌクレオチド配列にあり、第3のMRE配列はHAアミノ酸526〜532をコードするヌクレオチド配列にある、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項43】
第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−CTACAGTTGGGGAAGTGCAAT−3’(配列番号83)を含む、請求項42に記載の核酸分子。
【請求項44】
第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−AACGCCTATGTAAGTGTAGTA−3’(配列番号87)を含む、請求項42に記載の核酸分子。
【請求項45】
第3のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTGGTCAGTTTAGGTGCAATA−3’(配列番号91)を含む、請求項42に記載の核酸分子。
【請求項46】
miR−19に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質HAのコード配列に挿入されている3種のMREを含み、第1のMRE配列はHAアミノ酸15〜22をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はHAアミノ酸561〜568をコードするヌクレオチド配列にあり、第3のMRE配列はHAアミノ酸327〜334をコードするヌクレオチド配列にある、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項47】
第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GCCAGTGCTGACACAATTTGCATA−3’(配列番号45)を含む、請求項46に記載の核酸分子。
【請求項48】
第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TCTTTGCAGTGCAGGATTTGCATA−3’(配列番号49)を含む、請求項46に記載の核酸分子。
【請求項49】
第3のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTGCGUATGGTCACAGGTTTGCGC−3’(配列番号53)を含む、請求項46に記載の核酸分子。
【請求項50】
miR−16に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質HAのコード配列に挿入されている2種のMREを含み、第1のMRE配列はHAアミノ酸2〜9をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はHAアミノ酸439〜445をコードするヌクレオチド配列にある、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項51】
第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−AAGGCCAACCTATTAGTGCTGCTA−3’(配列番号21)を含む、請求項50に記載の核酸分子。
【請求項52】
第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−AACGCCGAACTATTAGTGCTGCTA−3’(配列番号25)を含む、請求項50に記載の核酸分子。
【請求項53】
miR−34に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質PAのコード配列に挿入されている3種のMREを含み、第1のMRE配列はPAアミノ酸426〜433をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はPAアミノ酸634〜641をコードするヌクレオチド配列にあり、第3のMRE配列はPAアミノ酸709〜716をコードするヌクレオチド配列にある、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項54】
第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GATGAGATCGGTGAAGACGTTGCC−3’(配列番号69)を含む、請求項53に記載の核酸分子。
【請求項55】
第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GGCAAGGTATGTAGGACACTGTTA−3’(配列番号73)を含む、請求項53に記載の核酸分子。
【請求項56】
第3のMRE配列はヌクレオチド配列5’−TTCTTCCTGACTCATGCACTGTCA−3’(配列番号77)を含む、請求項53に記載の核酸分子。
【請求項57】
miR−25に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質M1のコード配列に挿入されている2種のMREを含み、第1のMRE配列はM1アミノ酸111〜118をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はM1アミノ酸127〜134をコードするヌクレオチド配列にある、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項58】
第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GGTGCCAAAGAGATAAGTGCAAGT−3’(配列番号59)を含む、請求項57に記載の核酸分子。
【請求項59】
第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−ATATACAACAGGATGGGTGCAGTG−3’(配列番号63)を含む、請求項57に記載の核酸分子。
【請求項60】
miR−17に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質PB1のコード配列に挿入されている3種のMREを含み、第1のMRE配列はPB1アミノ酸374〜381をコードするヌクレオチド配列にあり、第2のMRE配列はPB1アミノ酸418〜424をコードするヌクレオチド配列にあり、第3のMRE配列はPB1アミノ酸677〜683をコードするヌクレオチド配列にある、請求項22に記載の核酸分子。
【請求項61】
第1のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GCCAGCATTGATCTTAAGTACTTT−3’(配列番号31)を含む、請求項60に記載の核酸分子。
【請求項62】
第2のMRE配列はヌクレオチド配列5’−GTGTTGGGTGTAAGCATTTTG−3’(配列番号35)を含む、請求項60に記載の核酸分子。
【請求項63】
第3のMRE配列はヌクレオチド配列5’−ACCAGCCAAAGAGGCGTTTTG−3’(配列番号39)を含む、請求項60に記載の核酸分子。
【請求項64】
miR−142に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質NPの人工3’UTRに挿入されている4種のMREを含み、MRE配列はウイルス終止コドンとポリAテール配列との間に存在する、請求項25に記載の核酸分子。
【請求項65】
4種のMREの各々はヌクレオチド配列5’−TCCATAAAGTAGGAAACACTACA−3’(配列番号159)を含む、請求項64に記載の核酸分子。
【請求項66】
miR−142に対応し、インフルエンザウイルスタンパク質NS1の人工3’UTRに挿入されている4種のMREを含み、MRE配列はウイルス終止コドンとポリAテール配列との間ではあるが、複製NS2/NEPのORFの前に存在する、請求項25に記載の核酸分子。
【請求項67】
4種のMREの各々はヌクレオチド配列5’−TCCATAAAGTAGGAAACACTACA−3’(配列番号159)を含む、請求項66に記載の核酸分子。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図10F】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図10F】
【公表番号】特表2012−519484(P2012−519484A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552950(P2011−552950)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/000709
【国際公開番号】WO2010/101663
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(511216374)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/000709
【国際公開番号】WO2010/101663
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(511216374)
【Fターム(参考)】
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