説明

マウス腸内菌叢の推測方法

【課題】マウスの腸内菌叢の推測方法を提供する。
【解決手段】サンプル中のrRNA遺伝子又は当該rRNA遺伝子を逆転写することによって得られる相補的DNAを鋳型としてDNAを増幅させ、増幅されたDNAを制限酵素処理することによって5’及び3’末端断片を生成させ、生成された5’及び3’末端断片を電気泳動により分離させ、分離された5’及び3’末端断片の塩基数を測定し、T−RFLP法によって測定されたサンプル由来の5’及び3’末端断片の塩基数に基づいて、マウスの腸内菌叢の推測に適したデータベースを用いてサンプル中に存在する菌種及びフィロタイプを推測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、腸内菌叢の推定方法、及び当該方法に用いるデータベースに関する。
【背景技術】
【0002】
Terminal−restriction fragment length polymorphism(T−RFLP)法は、目的とする環境中の菌叢から遺伝子を取得し、当該遺伝子を鋳型とするポリメラーゼチェイン反応(PCR)により遺伝子断片を増幅させ、当該増幅された遺伝子断片を制限酵素により断片化した後、キャピラリー電気泳動に供し、菌種に特異的な長さの遺伝子断片を検出することによって、上記環境中の菌叢を解析する方法である。
【0003】
T−RFLP法によれば、複雑な微生物菌叢を網羅的に解析することが可能であり、菌叢の変遷や菌叢パターンの比較を簡便に行うことができる。これに加えて、菌叢パターンに特徴的な遺伝子断片(ピーク)、及び変化した遺伝子断片(ピーク)に対応する菌種を推測することができれば、より詳細なデータ解釈が可能となる。このような菌叢パターンにおける特定の遺伝子断片に対応する菌種を推測するために、Microbial Community Analysis III(MiCA3)等のソフトウエアが開発されている。しかし、当該ソフトウエアに含有されているデータベースは、リボソームデータプロジェクト(Ribosomal Data Project (RDP))に登録された遺伝子配列をそのまま用いて構築されたデータベースが殆どであり、かつ土壌中の菌叢やヒト口腔内の菌叢に存在する菌種に由来する遺伝子配列から構築されたデータベースも含まれている。
【0004】
T−RFLP法を用いる微生物群集構造の解析方法としては、GenBank(米国)、EMBL(欧州)、及びDDBJ(日本)に登録されている遺伝子配列をデータベースとして用いる、環境微生物の群集構造を分析する方法が知られている(特許文献1)。また、ヒトの腸内菌叢に適したデータベースを用いてヒトの腸内菌叢を分析した報告も存在する(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−94803
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Mitsuharu Matsumoto, Mitsuo Sakamoto, Hidenori Hayashi, and Yoshimi Benno, Journal of Microbiological Methods 61 (2005) 305-319
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、MiCA3等の既存のデータベースを用いてマウスの腸内環境における菌叢を解析した場合、別環境中(例えば、土壌や海洋など)の膨大な数の菌種が候補として挙げられてしまうため、正しい菌種を精度よく推測することができない。本発明は、マウスの腸内環境における菌叢の推測を簡便、迅速、かつ高い精度で行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の事情に鑑み、本願の発明者は、推測に用いるデータベースに着目して鋭意検討を行った結果、マウスの腸内菌叢の推測に適したデータベースを独自に構築することに成功した。本発明はこのような知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
本発明は、限定されないが、以下の(1)〜(7)の推測方法を提供する。
(1)サンプル中のrRNA遺伝子又は当該rRNA遺伝子を逆転写することによって得られる相補的DNAを鋳型としてDNAを増幅させ、
増幅されたDNAを制限酵素処理することによって5’及び3’末端断片を生成させ、
生成された5’及び3’末端断片を電気泳動により分離させ、
分離された5’及び3’末端断片の塩基数を測定し、
増幅されたDNAを制限酵素処理することによって生成される5’及び3’末端断片の推定塩基数及び当該5’及び3’末端断片が由来する菌種を情報として含有するデータベースの中から、測定された塩基数に対応する5’及び3’末端断片を選択し、
選択された5’及び3’末端断片が由来する菌種を前記データベースの中から選択し、
選択された菌種をサンプルに存在する菌種と推測する、
ことを含む、マウスの腸内菌叢の推測方法。
【0010】
(2)増幅されたDNAの制限酵素処理は、AccII、AfaI、AfIII、AluI、BamHI、BcuI、BfaI、Bme1580I、BseGI、Bsh1236I、Bsp106I、BspTI、BstUI、Bsu36I、BsuRI、CfoI、CviRI、DdeI、DpnI(methA)、DpnII、EcoRI、FneDII、HaeIII、HapII、HhaI、Hinp1I、HinfI、HpaII、Hpy1881、Hpy188III、HpyCH4IV、HpyCH4V、HpyAV、Hsp92II、MaeI、MaeII、MboI、MIyI、MseI、MsII、MspI、MvnI、NdeII、NlaIII、PalI、RsaI、Sau3AI、Sau96I、ScrFI、StuI、TaqI、ThaI、Tru9I、TsoI、Tsp509I、及びTthHB8Iからなる群から選択される1種又は2種以上を用いて行う、(1)に記載の方法。
【0011】
(3)増幅されたDNAの制限酵素処理は、HhaI、MspI、HaeIII、及びAluIを用いて行う、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)データベースが、以下:
Lactobasillus sp. ASF360
Lactobacillus murinus
Uncultured bacterium clone LKMC043
Akkermansia muciniphila ATCC BAA−835
Parabacteroides goldsteinii
の菌種、及び
当該菌種に由来するrRNA遺伝子を鋳型として増幅させたDNAをそれぞれHhaI、MspI、HaeIII、及びAluIを用いて制限酵素処理することによって生成する以下:
Lactobasillus sp. ASF360
HhaI 5’末端断片 596 bp、3’末端断片 407 bp、
MspI 5’末端断片 181 bp、3’末端断片 80 bp、
HaeIII 5’末端断片 325 bp、3’末端断片 74 bp、
AluI 5’末端断片 63 bp、3’末端断片 182 bp
Lactobacillus murinus
HhaI 5’末端断片 256 bp、3’末端断片 403 bp、
MspI 5’末端断片 571 bp、3’末端断片 76 bp、
HaeIII 5’末端断片 247bp、3’末端断片 125 bp、
AluI 5’末端断片 262 bp、3’末端断片 178 bp、
Uncultured bacterium clone LKMC043
HhaI 5’末端断片 100 bp、3’末端断片 49 bp、
MspI 5’末端断片 88 bp、3’末端断片 35 bp、
HaeIII 5’末端断片 458 bp、3’末端断片 116 bp、
AluI 5’末端断片 247 bp、3’末端断片 170 bp、
Akkermansia muciniphila ATCC BAA−835
HhaI 5’末端断片 98 bp、3’末端断片 145 bp、
MspI 5’末端断片 270 bp、3’末端断 130 bp、
HaeIII 5’末端断片 219 bp、3’末端断片 219 bp、
AluI 5’末端断片 74 bp、3’末端断片 94 bp、
Parabacteroides goldsteinii
HhaI 5’末端断片 98 bp、3’末端断片 135 bp、
MspI 5’末端断片 93 bp、3’末端断片 120 bp、
HaeIII 5’末端断片 915 bp、3’末端断片 48 bp、
AluI 5’末端断片 724 bp、3’末端断片 170 bp
の5’及び3’末端断片の推定塩基数、
を情報として含有する、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0012】
(5)サンプルが、マウスの糞便から調製される、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)rRNA遺伝子が16S rRNA遺伝子である、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0013】
(7)16S rRNA遺伝子を逆転写することによって得られる相補的DNAを鋳型として用いる、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)電気泳動がキャピラリー電気泳動である、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、マウス腸内の菌種及びフィロタイプ(phylotype、培養は出来ないが16S rRNA遺伝子の配列は分かっている菌)を迅速、簡便、かつ高い精度で推測することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、データベースを用いるマウスの腸内菌叢を構成している菌種の推測方法を提供する。当該方法は、サンプル中のrRNA遺伝子を鋳型としてDNAを増幅させ、増幅されたDNAを制限酵素処理することによって5’及び3’末端断片を生成させ、当該5’及び3’末端断片を分離して塩基数を測定し、データベースの中から測定された塩基数に対応する5’及び3’末端断片を選択し、当該5’及び3’末端断片が由来する菌種を選択し、当該菌種をサンプルに存在する菌種と推測することを含んでいる。
【0016】
本発明において使用するデータベース(PAD−MCMということもある)とは、マウスの腸内菌叢の菌種及びフィロタイプの推測に適しており、マウス腸内に存在する菌種及びフィロタイプ、及びこれらに由来する5’及び3’末端断片の推定された長さ(本明細書においては塩基数ともいう)を情報として含有する。このような情報は、例えば、GenBank、EMBL、及びDDBJ等の既存データベースから必要な情報を抽出することによって取得してもよいが、マウスの腸内菌叢を精度よく推測する観点から、マウスの腸内菌叢をよく反映する試料から新たに情報を取得することが好ましい。
【0017】
PAD−MCMを新たに構築するためには、まずマウスの腸内菌叢をよく反映する試料から腸内菌に由来する遺伝子を取得する。ここでいう遺伝子とは、ポリヌクレオチド、具体的にはポリデオキシリボヌクレオチド又はポリリボヌクレオチド、好ましくはポリリボヌクレオチドを含有する。ポリリボヌクレオチドとしては、リボソーム(r)RNA、メッセンジャー(m)RNA、トランスファー(t)RNA等を挙げることができるが、好ましくはrRNA遺伝子である。そして、rRNA遺伝子としては、原核細胞に存在する16S rRNA遺伝子、23S rRNA遺伝子、及び5S rRNA遺伝子が挙げられ、好ましくは16S rRNA遺伝子である。さらに、これらrRNA遺伝子を逆転写することによって生成される相補的DNAを遺伝子として用いてもよい。
【0018】
取得した遺伝子を鋳型としてDNAを増幅させる。DNAの増幅にはPCR法を用いる。PCR法における鋳型、プライマー、及びその他の成分の濃度、反応時間、及び反応温度等の諸条件は、当業者が適宜選択し、設定することができる。
【0019】
増幅されたDNAをプラスミド等の適切なベクターに組み込み、大腸菌等の宿主に導入することによってクローニングし、各クローンに組み込まれたDNAの塩基配列を決定する。
塩基配列が決定されたDNAが新規なものか、或いはGenBank、EMBL、及びDDBJ等の既存のデータベースに登録されたものかについて判断する。その判断は、既存のデータベースに登録されているDNAとの相同性に基づいて行うことができる。より詳細には、上記の塩基配列が決定されたDNAと98%以上の相同性を有するDNAが既存のデータベースに登録されていなければ、上記の塩基配列が決定されたDNAは新規の菌種に由来するものと判断することができる。一方、上記の塩基配列が決定されたDNAと98%以上の相同性を有するDNAが既存のデータベースに登録されていれば、上記の塩基配列が決定されたDNAは既存の配列に由来するものと判断することができる。
【0020】
次に、DNAの塩基配列に基づいて系統樹を作成し、本発明のデータベースに登録する菌種、及びフィロタイプを選択する。ここで、塩基配列が決定されたDNA間で相同性検索行い、相同性が高い関係にあるDNAに由来する菌種及びフィロタイプは近縁種又は近縁であると判断し、重複してデータベースに登録しないこととする。ここで、相同性が高いとは、塩基配列の相同性が98%以上であることを意味する。
【0021】
さらに、上記で選択される菌種及びフィロタイプに由来する5’及び3’末端断片(本明細書においては制限酵素断片又はT−RFsということもある)の塩基数を推定し、PAD−MCMに情報として登録する。当該5’及び3’末端断片の塩基数は、菌種及びフィロタイプごとに相違するため、その相違に基づいてマウス腸内菌叢の菌種及びフィロタイプを推測することができる。上記のように塩基配列が決定された各クローンのDNAに対して、認識部位がわかっている制限酵素を作用させることによって生成される5’及び3’末端断片の塩基配列及びその塩基数を推定することが可能である。そのような推定は、例えば、NEBcutter V2.0等を用いてコンピューター上で行うことができる。
【0022】
ここでいう制限酵素としては、当業者間で知られているいずれの制限酵素を用いることができ、具体的には、AccII、AfaI、AfIII、AluI、BamHI、BcuI、BfaI、Bme1580I、BseGI、Bsh1236I、Bsp106I、BspTI、BstUI、Bsu36I、BsuRI、CfoI、CviRI、DdeI、DpnI(methA)、DpnII、EcoRI、FneDII、HaeIII、HapII、HhaI、Hinp1I、HinfI、HpaII、Hpy1881、Hpy188III、HpyCH4IV、HpyCH4V、HpyAV、Hsp92II、MaeI、MaeII、MboI、MIyI、MseI、MsII、MspI、MvnI、NdeII、NlaIII、PalI、RsaI、Sau3AI、Sau96I、ScrFI、StuI、TaqI、ThaI、Tru9I、TsoI、Tsp509I、及びTthHB8Iを用いる。これらの制限酵素は、いずれも市販されており入手可能である。これらの制限酵素は、以下のような認識部位を有している(表1)。
【0023】
【表1】

【0024】
適用する制限酵素は、1種類でもよいが、マウス腸内菌の菌種及びフィロタイプの推測の精度を高める観点から、2種類以上、好ましくは4種類以上を用いることが好ましい。例えば、HhaI、MspI、HaeIII、及びAluIを用いる。
【0025】
PAD−MCMの構築方法の一態様を説明する。
マウスの糞便を水、緩衝液、又は生理食塩水等で洗浄する。洗浄された糞便を、破砕用のビーズ、界面活性剤、及びフェノールを含有する緩衝液中に懸濁させ、熱処理を行う。熱処理後の懸濁液をホモジナイズすることによって細胞を破砕する。当該破砕液を遠心分離に供し、上清を回収する。当該上清にフェノール/クロロホルム溶液を添加し、良く混合させた後、遠心分離に供し、上清を回収する。当該上清に含まれる遺伝子をエタノール沈殿させることによって回収する。回収された遺伝子を水に懸濁させ、目的の濃度とする。
【0026】
上記のように回収された遺伝子を鋳型として、16S rRNA遺伝子の増幅に適したプライマーを用いるPCRによって、16S rRNA遺伝子を増幅させる。PCRの反応温度は、当業者が適宜設定することが可能である。PCRによって増幅されたDNAをプラスミドベクターにライゲーションし、当該プラスミドを宿主に導入することによって宿主を形質転換させる。
【0027】
上記の形質転換体のコロニーからプラスミドを抽出し、これを鋳型遺伝子として用いるPCRを行う。PCRのプライマーは使用するプラスミドに応じて適宜選択することができ、PCRの温度条件及びPCR産物の精製条件も適宜設定することができる。
【0028】
上記において精製されたPCR産物の塩基配列を当業者によく知られた方法によって解析し、16S rRNA遺伝子のほぼ全長の配列を決定する。当該遺伝子と既存のデータベースに登録されている遺伝子の相同性を検索し、98%以上の相同性を有する場合は、当該遺伝子は既存の菌種及びフィロタイプに由来するものと判断する。一方、相同性が98%より低い場合は、当該遺伝子が既存のデータベースに存在しない新規の菌種及びフィロタイプに由来するものと判断する。
【0029】
上記のように決定された16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づいて系統樹を作成し、PAD−MCMの構築に使用する菌種及びフィロタイプを選別する。ここで、取得した16S rRNA遺伝子の塩基配列間で相同性検索を行い、相同性が98%以上のものは、近縁種又は近縁であると判断し、重複してPAD−MCMに登録しないようにする。また、既存の遺伝子配列と98%以上の相同性を有する16S rRNA遺伝子の塩基配列を有する菌種は、既存種としてPAD−MCMに登録する。
【0030】
さらに、PAD−MCMに登録される上記の菌種及びフィロタイプに由来する16S rRNA遺伝子を鋳型として増幅されるDNAをHhaI、MspI、HaeIII、及びAluIでそれぞれ処理することにより生成される5’及び3’末端断片の塩基数をNEBcutter V2.0等を用いて推定し、PAD−MCMに登録する。
【0031】
このようにして構築されたPAD−MCMを用いることにより、サンプルに存在するマウス腸内に由来する菌種及びフィロタイプの推測を高い精度で行うことが可能となる。ここでいう高い精度とは、クローンライブラリー法によって得られるマウス腸内菌の50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上が推測されることをいう。
【0032】
ここで、クローンライブラリー法によれば、例えば、以下の32種類のマウス腸内に由来する菌種及びフィロタイプを取得することができ、それらに由来する16S rRNA遺伝子の塩基配列はDDBJに登録されている(表2)。即ち、PAD−MCMが、これらの菌種及びフィロタイプ、及びそれらに由来する5’及び3’末端断片の推定塩基数を情報として有していれば、マウス腸内の菌種及びフィロタイプを推測することが可能となる。
【0033】
【表2−1】

【0034】
【表2−2】

【0035】
また、上記32種の菌種及びフィロタイプのうち、5つの菌種及びフィロタイプ:Uncultured bacterium clone LKMC043、Lactobasillus sp. ASF360、Lactobacillus murinus、Akkermansia muciniphila ATCC BAA−835、及びParabacteroides goldsteiniiが全体の56.3%を占めている。即ち、PAD−MCMがこれら5種の菌種及びフィロタイプ、及びこれらに由来する5’及び3’末端断片の推定塩基数を情報として有していれば、十分に高い精度でマウス腸内菌の推測を行うことができる。
【0036】
5’及び3’末端断片の推定塩基数の具体例として、上記表の16S rRNA遺伝子を鋳型として増幅されたDNA断片をMsp I、Hha I、Alu I、及びHae IIIそれぞれで処理することによって得られる5’及び3’末端断片の推定塩基数を以下に示す(表3)。推定塩基数の情報は、NEBcutter V2.0等を用いてコンピューター上で行うことができる。
【0037】
【表3−1】

【0038】
【表3−2】

【0039】
【表3−3】

【0040】
本明細書でいうサンプルとは、本発明の方法によってマウス腸内の菌種及びフィロタイプを推測するために用いるものであって、マウスの腸内菌叢に由来する遺伝子を含有するものをいう。当該サンプルの調製においては、好ましくはマウスの糞便を用いる。糞便を水、緩衝液、及び有機溶媒等に溶解又は懸濁してもよく、また、遠心分離やろ過等によりサンプルから不溶性の成分を除去してもよい。さらに、凍結乾燥や真空乾燥等により、サンプル中の遺伝子を濃縮又は希釈して適切な濃度に調整してもよい。当該サンプルは、不純物を除去するための精製を行わずにその後のステップにそのまま用いてもよいが、必要に応じて精製を行ってもよい。
【0041】
ここでいう遺伝子とは、マウス腸内菌の菌種の推測に利用できるいずれのポリヌクレオチドをいい、ポリリボヌクレオチド及びポリデオキシヌクレオチドを含む。ポリリボヌクレオチドとしては、リボソーム(r)RNA、メッセンジャー(m)RNA、トランスファー(t)RNA等を挙げることができるが、好ましくはrRNA遺伝子である。そして、rRNA遺伝子としては、原核細胞に存在する16S rRNA遺伝子、23S rRNA遺伝子、及び5S rRNA遺伝子が挙げられ、好ましくは16S rRNA遺伝子である。さらに、これらrRNA遺伝子を逆転写することによって生成される相補的DNAを遺伝子として用いてもよい
上記遺伝子を鋳型としてDNAを増幅させる方法としては、PCRが好ましい。PCRの諸条件、例えば鋳型となる遺伝子の使用濃度、プライマーの設計、入手方法、及び使用濃度、そして変性、アニーリング、及び伸張反応の温度条件は、当業者が適宜設定することができる。
【0042】
増幅されたDNAの断片化は、制限酵素を用いて行うことが好ましい。本発明において使用する制限酵素は、AccII、AfaI、AfIII、AluI、BamHI、BcuI、BfaI、Bme1580I、BseGI、Bsh1236I、Bsp106I、BspTI、BstUI、Bsu36I、BsuRI、CfoI、CviRI、DdeI、DpnI(methA)、DpnII、EcoRI、FneDII、HaeIII、HapII、HhaI、Hinp1I、HinfI、HpaII、Hpy1881、Hpy188III、HpyCH4IV、HpyCH4V、HpyAV、Hsp92II、MaeI、MaeII、MboI、MIyI、MseI、MsII、MspI、MvnI、NdeII、NlaIII、PalI、RsaI、Sau3AI、Sau96I、ScrFI、StuI、TaqI、ThaI、Tru9I、TsoI、Tsp509I、及びTthHB8Iから選択され、かつPAD−MCMの構築において使用した制限酵素と同じものを用いる。
【0043】
上記の制限酵素処理により得られる5’及び3’末端断片は複数の菌種に由来する混合物であるため、個々の5’及び3’末端断片の塩基数を測定するには、それらを分離させる必要がある。このような分離を行う手段としては、当業者間で知られているいずれの手段も用いることができるが、好ましくは電気泳動、さらにいえば、キャピラリー電気泳動である。このように分離された個々の5’及び3’末端断片の塩基数は、DNAシークエンサーによって測定することができる。このようにして測定された5’及び3’末端断片の塩基数に基づいて、PAD−MCMの中から当該5’及び3’末端断片が由来する菌種及びフィロタイプを推測することができる。
【実施例】
【0044】
本願発明の理解をより容易にするために、具体例を挙げて説明するが、本願発明の範囲はこれに限定されるものではない。
[試験例1]糞便由来のDNAの抽出
ICRマウス6匹から糞便を採取した。糞便(100 mg)を生理食塩水(Phosphate buffered saline(PBS)(pH7.4))(1 ml)で2回洗浄した後、DNAの抽出に使用するまで−80℃にて凍結保管した。使用時に糞便を解凍し、超純水(200μl)中に懸濁させ、さらに0.1 mmビーズ(300 mg)、100 mMトリス塩酸−50 mM EDTA緩衝液(pH8.0)(350μl)、10%SDS(50μl)、及びフェノール(500μl)を加えた。当該懸濁液を70℃で10分間熱処理した後、Micro Smash MS−100(TOMY)で4000 rpm,60秒間処理することによって細胞を破砕した。当該処理液を13000×gで5分間、室温にて遠心分離にかけ、上清(500μl)を回収した。当該上清にフェノール/クロロホルム溶液(500μl)を添加し、良く混合させた後、13000×gで5分間、室温にて遠心分離に供し、上清(350μl)を回収した。エタ沈メイト(株式会社ニッポンジーン)を使用説明書に記載された条件で使用することにより、当該上清に存在する遺伝子をエタノール沈殿させ、回収した。回収した遺伝子を超純水(350μl)に懸濁させた。これをサンプルとして以降の試験に用いた。
【0045】
[試験例2] 16S rRNA遺伝子クローンライブラリーの作成
(2−1)16S rRNA遺伝子の増幅
以下のプライマーを用いるPCR法により、試験例1において調製したサンプルから16S rRNA遺伝子を鋳型とするDNAを増幅させた。
【0046】
27Fプライマー: 5’−AGAGTTTGATCCTGGCTCAG−3’(配列番号1)
1492Rプライマー: 5’−GGTTACCTTGTTACGACTT−3’(配列番号2)
鋳型となるサンプル(500 ng)(1μl)、1.25U TaKaRa Ex Taq、10×Ex Taq buffer(5μl)、dNTPmiture(4μl)、及び上記プライマー(各10 pmol)を混合し、超純水(37.75μl)で全量50μlに調整することにより、PCRの反応液を調製した。以下の温度条件に設定されたサーマルサイクラー(thermal cycler (RTC−200,MJ Research))を用いて、PCRを行った。
【0047】
【化1】

反応終了後、GenElute(商標)PCR Clean−Up(SIGMA)を用い、製品説明書に記載された条件に従ってPCR産物を精製した。精製されたPCR産物をTA Cloning(登録商標)Kits(invitorogen)を用いて、pCR2.1プラスミドベクターにライゲーションし、INVαF’に形質転換した。PCR産物が挿入されたプラスミドを持つ形質転換体からランダムに96コロニーを選択し、プラスミドを抽出した。
【0048】
プラスミドの抽出は、以下に示す直接ボイリング法により行った。コロニーのごく少量を爪楊枝で掻きとり、TE buffer(100μl)中に懸濁し、100℃で10分間煮沸させた。煮沸後の懸濁液を500×gで5分間遠心分離に供し、上清を回収した。当該上清を鋳型遺伝子として、以下のプライマーを用いるPCRを行った。
【0049】
M13F: 5’−GTAAAACGACGGCCAGT−3’(配列番号3)
M13R: 5’−CAGGAAACAGCTATGAC−3’(配列番号4)
PCRの温度条件は、[98℃、10秒→50℃、30秒→72℃、90秒]の処理を30サイクルに設定したこと以外は、上記に記載の温度条件と同様とした。PCRが終了した後、上記と同様にGenElute(商標)PCR Clean−Up(SIGMA)を用いてPCR産物を精製した。
【0050】
(2−2)遺伝子配列の解析
上記(2−1)において精製したPCR産物を、遺伝子配列の解析における鋳型遺伝子として用いた。以下の4つのプライマーを用いることにより、16S rRNA遺伝子のほぼ全長の配列を決定した。
【0051】
M13F(配列番号3);
M13R(配列番号4);
787F: 5’−ATTAGATACCCTGGTAGTCC−3’(配列番号5);
920R: 5’−GTCAATTCCTTTGAGTTT−3’(配列番号6)。
【0052】
BigDye(登録商標)Terminator v1.1 Cycle Sequencing Kit (Applied Biosystems)を用い、製品の説明書に記載された使用方法に従ってシークエンス反応を行った。3130 Genetic Analyzer (Applied Biosystems)を用いて塩基配列を決定した。
【0053】
上記において塩基配列が決定されたPCR産物と、DDBJ、EMBL、及びGenBankに登録されている遺伝子の相同性検索を行い、98%以上の相同性を有するものを既存種に由来する遺伝子判断し、98%より低い相同性を有するものを新規の菌種に由来するものと判断した。相同性検索はBLASTを用いて行った。
【0054】
[試験例3] マウス腸内菌叢用データベース(PAD−MCM)の構築
(3−1)菌種の登録
試験例2において決定された16S rRNA遺伝子の配列に基づいて系統樹を作成し、PAD−MCMの構築に使用する菌種及びフィロタイプ(phylotype:培養は出来ないが16S rRNA遺伝子の配列は分かっている菌)を選別した。
【0055】
ここでClustalWを用いて16S rRNA遺伝子の相同性検索を行い、98%以上の相同性を有する遺伝子が由来するフィロタイプ同士を近縁種又は近縁であると判断し、重複してPAD−MCMに登録しないようにした。
【0056】
また、次世代型シークエンサー(FLXシステム)を用いて決定された16S rRNA遺伝子の遺伝子配列をBLAST検索にかけ、既存の遺伝子と98%以上の相同性を有する遺伝子が由来する菌種を既存種としてPAD−MCMに登録した(表4)。
【0057】
【表4−1】

【0058】
【表4−2】

【0059】
【表4−3】

【0060】
【表4−4】

【0061】
【表4−5】

【0062】
【表4−6】

【0063】
【表4−7】

【0064】
【表4−8】

【0065】
【表4−9】

【0066】
【表4−10】

【0067】
【表4−11】

【0068】
【表4−12】

【0069】
【表4−13】

【0070】
【表4−14】

【0071】
【表4−15】

【0072】
【表4−16】

【0073】
(3−2)5’及び3’末端断片の登録
上記表4に示された16S rRNA遺伝子を鋳型とする、27Fプライマーと1492Rプライマーを用いるPCRにより増幅させたDNAを、制限酵素HhaI、MspI、HaeIII、及びAluIそれぞれで処理することによって生成する5’末端断片及び3’末端断片の塩基数を、NEBcutter V2.0(New England Biolabs)により推定した。推定された末端断片の塩基数をデータベースに登録した(表5)。
【0074】
【表5−1】

【0075】
【表5−2】

【0076】
【表5−3】

【0077】
【表5−4】

【0078】
【表5−5】

【0079】
【表5−6】

【0080】
【表5−7】

【0081】
【表5−8】

【0082】
【表5−9】

【0083】
【表5−10】

【0084】
【表5−11】

【0085】
【表5−12】

【0086】
【表5−13】

【0087】
【表5−14】

【0088】
【表5−15】

【0089】
【表5−16】

【0090】
【表5−17】

【0091】
【表5−18】

【0092】
【表5−19】

【0093】
【表5−20】

【0094】
【表5−21】

【0095】
【表5−22】

【0096】
【表5−23】

【0097】
【表5−24】

【0098】
【表5−25】

【0099】
(3−3)PAD−MCMに登録された情報
上記(3−1)及び(3−2)のようにして構築されたPAD−MCMには、表4の情報に加え、マウスの腸内菌叢に由来する268種類の菌種から取得した16S rRNA遺伝子の制限酵素断片の推定塩基数に関する表5の情報が含まれている。268種類の菌種のうち236種類がフィロタイプであり、31種類が既存種である。具体的には、49種類がクロストリジウムクラスターIVに属し、119種類がクロストリジウムクラスターXIVに属、63種類がその他のクロストリジウム(Clostridium)属に属し、1種類がアッケルマンシア(Akkermansia)属に属し、7種類がラクトバチルス(Lactobacillus)属に属し、1種類がセグメント細菌(segmented filamentous bacteria, SFB)に属し、21種類がバクテロイデス(Bacteroides)属に属し、そして7種類がその他の属に属する。
【0100】
[試験例4] T−RFLP解析
(4−1)プライマーの蛍光標識
ユニバーサルプライマー、27F及び1492Rの5’末端を、それぞれ6’−カルボキシフルオレセイン(carboxyfluorescein(6−FAM))及び2’−クロロ−7’−フェニル−1,4’−ジクロロ−6−カルボキシフルオレセイン(2’−chloro−7′−phenyl−1,4−dichloro−6−carboxyfluorescein(VIC))で標識した。標識は、当業者に周知の方法により行った。これらの標識プライマーを以下のPCRにおいて使用した。
【0101】
(4−2)PCR
試験例1において調製したサンプルを鋳型として用いるPCRを行った。上記(4−1)において調製した標識プライマーを使用する以外は、上記(2−1)に記載の方法に従って、PCRを行った後、PCR産物を精製した。
【0102】
(4−3)PCR産物の制限酵素処理
上記(4−2)において精製されたPCR産物(2μl(50 ng))を、20UのHhaI、MspI、HaeIII、及びAluI(タカラバイオ株式会社)とそれぞれ混合し、反応液量を10μlに調整した。当該反応液を37℃で3時間処理し、1μlをGeneScanTM−1200LIZ(登録商標)Size standard (Applied Biosystems)(0.5μl)、Hi−DiTMFormamide (9μl)と混合し、95℃で3分間処理した後、急冷した。これを末端断片長(Terminal−length fragments(T−RFs))の解析用の試料として使用した。
【0103】
(4−4)T−RFsの解析
上記(4−3)において調製した解析用の試料を3130 Genetic Analyzer (Applied Biosystems)にアプライすることにより、末端断片のピークを検出した。検出された末端断片の塩基数をGene Mapperを用いて計算した。なお、総ピーク面積に占める割合が1%未満のピーク面積に対応する末端断片は、解析の対象から除外した。
【0104】
[試験例5] PAD−MCMを用いる腸内菌叢の推測
上記試験例4において測定された5’及び3’末端断片の塩基数に基づいて、マウス糞便に存在する菌種及びフィロタイプを、試験例3において構築したPAD−MCMを用いて推測した。コンピューターシュミレーションによって推定される末端断片の塩基数は、実測値とずれが生じることが報告されている(Kitts,C.L.,2001. Terminal Restriction Fragment Patterns: A Tool for Comparing Microbial Communities and Assessing. Curr. Issues Intest Microbiol. 2,17−25; Sakamoto,M., Takeuchi,Y., Umeda,M., Ishikawa,I., Benno,Y., 2003; Application of terminal RFLP analysis to characterize oral bacterial flora in saliva of healthy subjects and patients with periodontitis. J. Med. Microbiol. 52, 79−89)。
【0105】
我々は、実測値100〜1000 bpの塩基数を有する末端断片は、コンピューターシュミレーションによっては0〜8 bp長い断片として推定されることを予備実験で確認している。従って、実測値300 bpの塩基数を有する末端断片は、コンピューターシュミレーションよっては300〜308 bpと推定した。
【0106】
そして、実測値100 bp未満及び実測値1000 bp以上の塩基数を有する末端断片は、コンピューターシュミレーションによっては、それぞれ5〜25 bp及び8〜161 bpの範囲でずれが生じることを予備試験によって確認している。また、このような末端断片の塩基数の推測値が実測値からずれる程度は、個々の末端断片ごとに大きく異なることも確認している。
【0107】
以上のことから、実測値100 bp未満及び実測値1000 bp以上の塩基数を有する末端断片を検索の対象から除外し、実測値100〜1000 bpの塩基数を有する末端断片を検索の対象とした。
【0108】
Alu I処理によって生成した3’末端断片の塩基数に対応する菌種及びフィロタイプの推測をPAD−MCMを用いて行った(表6)。
【0109】
【表6】

【0110】
既存データベースMiCA−DBを用いて菌種及びフィロタイプを推測した結果を比較として示した。MiCA−DBを用いた推測においては、多数の菌種が候補として挙げられており、菌種及びフィロタイプの絞込みが困難であることが明らかとなった。また、Maribacter sp. w−8やFlexithrix dorotheae BSs20185(共に海水中由来)等、マウス腸内菌叢とは関係のない多数の菌種が候補として挙げられていることも明らかとなった。これらのことより、既存のデータベースによっては、マウス腸内菌叢の菌種を推測するのは困難であることが確認された。一方、PAD−MCMを用いて菌種及びフィロタイプを推測した場合、菌種の絞込みが効果的に行われていることが示された。
【0111】
次に、4種の制限酵素HhaI、MspI、AluI、及びHaeIIIそれぞれの処理によって生成された5’及び3’末端断片の塩基数をPAD−MCMと照合した(表7)。
【0112】
【表7−1】

【0113】
【表7−2】

【0114】
【表7−3】

【0115】
その結果、表6で挙げられた20種類の菌種及びフィロタイプは、表8のように推測された(表8)。
【0116】
【表8】

【0117】
[試験例6] クローンライブラリー法によって得られた菌種及びフィロタイプとの比較
試験例2に記載の方法に従ってクローンライブラリーを作成し、得られた菌種及びフィロタイプをPAD−MCMを用いた推測結果と比較した。(表9)
【0118】
【表9−1】

【0119】
【表9−2】

【0120】
クローンライブラリー法によって31の菌種及びフィロタイプが検出された。このうちの9種:Uncultured bacterium clone LKMC043 (18.4%), Lactobasillus sp. ASF360 (17.2%), Lactobacillus murinus (8.0%), Akkermansia muciniphila ATCC BAA−835 (6.9%), Parabacteroides goldsteinii (5.7%), Bacteroides caccae (2.3%), Uncultured bacterium clone LKMC16 (2.3%), Uncultured bacterium clone LKMC162 (2.3%), 及びBacteroides sp. SF519 (1.1%)、がPAD−MCMを用いて推測された菌種及びフィロタイプと共通していた。これらは、クローン全体の64.1%を占めていた。そして、クローン全体の56.3%を占める上位5つの菌種及びフィロタイプがPAD−MCMを用いる方法において検出されていた(表9)。
【0121】
クローンライブラリーで得られた菌種及びフィロタイプは、マウスの糞便から取得されたものであるため、その全てがマウスの個体に存在していたものである。このため、PAD−MCMを用いて推測された菌種及びフィロタイプが、クローンライブラリーで得られたものと一致しているほど、高い精度で推測ができていると考えることができる。以上の結果は、PAD−MCMを用いることによって、マウスの腸内細菌の優勢菌種及びフィロタイプを迅速かつ高い精度で推測できることを示している。
【0122】
さらに、表9に示された5つの菌種及びフィロタイプ:Lactobasillus sp. ASF360、Lactobacillus murinus、Uncultured bacterium clone LKMC043、Akkermansia muciniphila ATCC BAA−835、及びParabacteroides goldsteiniiがマウス腸内菌叢の半数以上を占めることが示された。即ち、本研究試料の場合、表4に示された268種の菌種及びフィロタイプの情報のうち、上記5つの菌種及びフィロタイプについての制限酵素末端断片の情報がPAD−MCMに含まれていれば、マウス腸内菌叢の菌種及びフィロタイプを十分に高い精度で推測可能なことが示された。
【0123】
[比較例1] 既存のデータベースを用いる菌種及びフィロタイプの推測
現在、T−RFLP法を用いる菌種の推測においては、MiCA3(Shyu,C., Soule,T., Bent,S.J., Foster,J.A., Forney,L.J., 2007, MiCA: a web−based tool for the analysis of microbial communities based on terminal−restriction fragment length polymorphisms of 16S and 18S rRNA genes. Microbial Ecology 53, 562−570)が推測用のデータベースとして広く用いられている。
【0124】
このMiCA3のVirtual Digest (ISPaR)を以下の条件:
選択データ RDP(R10,U22)606,188 Good Quality (>1200) 16S rRNA遺伝子;
プライマー Eub−8f (5’−AGAGTTTGATCCTGGCTCAG−3’) (27Fプライマーと同じ配列)、及び1492r (5’−GGTTACCTTGTTACGACTT−3’) (1492Rプライマーと同じ配列);
制限酵素 HhaI、MspI、HaeIII、及びAluI
に設定し、1200 bp以上の配列が決定されている16S rRNA遺伝子から構成されるRibosome database project (RDP)データベースを作成し、これを既存のデータベース(MiCA−DB)とした。
【0125】
上記試験例4において測定された5’及び3’末端断片の塩基数に基づいて、マウス糞便に存在する菌種及びフィロタイプを、MiCA−DBを用いて推測した。コンピューターシュミレーションによって推定される末端断片の塩基数は、実測値とずれが生じることを試験例5で説明した。従って、実測値100 bp未満及び実測値1000 bp以上の塩基数を有する末端断片を検索の対象から除外し、実測値100〜1000 bpの塩基数を有する末端断片を検索の対象とした。
【0126】
Alu I処理によって生成した3’末端断片の塩基数に対応する菌種及びフィロタイプの推測をMiCA−DBを用いて行った(表6)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中のrRNA遺伝子又は当該rRNA遺伝子を逆転写することによって得られる相補的DNAを鋳型としてDNAを増幅させ、
増幅されたDNAを制限酵素処理することによって5’及び3’末端断片を生成させ、
生成された5’及び3’末端断片を電気泳動により分離させ、
分離された5’及び3’末端断片の塩基数を測定し、
増幅されたDNAを制限酵素処理することによって生成される5’及び3’末端断片の推定塩基数及び当該5’及び3’末端断片が由来する菌種を情報として含有するデータベースの中から、測定された塩基数に対応する5’及び3’末端断片を選択し、
選択された5’及び3’末端断片が由来する菌種を前記データベースの中から選択し、
選択された菌種をサンプルに存在する菌種と推測する、
ことを含む、マウスの腸内菌叢の推測方法。
【請求項2】
増幅されたDNA断片の制限酵素処理は、AccII、AfaI、AfIII、AluI、BamHI、BcuI、BfaI、Bme1580I、BseGI、Bsh1236I、Bsp106I、BspTI、BstUI、Bsu36I、BsuRI、CfoI、CviRI、DdeI、DpnI(methA)、DpnII、EcoRI、FneDII、HaeIII、HapII、HhaI、Hinp1I、HinfI、HpaII、Hpy1881、Hpy188III、HpyCH4IV、HpyCH4V、HpyAV、Hsp92II、MaeI、MaeII、MboI、MIyI、MseI、MsII、MspI、MvnI、NdeII、NlaIII、PalI、RsaI、Sau3AI、Sau96I、ScrFI、StuI、TaqI、ThaI、Tru9I、TsoI、Tsp509I、及びTthHB8I及びTthHB8Iからなる群から選択される1種又は2種以上を用いて行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
増幅されたDNA断片の制限酵素処理は、HhaI、MspI、HaeIII、及びAluIを用いて行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
データベースが、以下:
Lactobasillus sp. ASF360
Lactobacillus murinus
Uncultured bacterium clone LKMC043
Akkermansia muciniphila ATCC BAA−835
Parabacteroides goldsteinii
の菌種、及び
当該菌種に由来するrRNA遺伝子を鋳型として増幅させたDNAをそれぞれHhaI、MspI、HaeIII、及びAluIを用いて制限酵素処理することによって生成する以下:
Lactobasillus sp. ASF360
HhaI 5’末端断片 596 bp、3’末端断片 407 bp、
MspI 5’末端断片 181 bp、3’末端断片 80 bp、
HaeIII 5’末端断片 325 bp、3’末端断片 74 bp、
AluI 5’末端断片 63 bp、3’末端断片 182 bp、
Lactobacillus murinus
HhaI 5’末端断片 256 bp、3’末端断片 403 bp、
MspI 5’末端断片 571 bp、3’末端断片 76 bp、
HaeIII 5’末端断片 247bp、3’末端断片 125 bp、
AluI 5’末端断片 262 bp、3’末端断片 178 bp、
Uncultured bacterium clone LKMC043
HhaI 5’末端断片 100 bp、3’末端断片 49 bp、
MspI 5’末端断片 88 bp、3’末端断片 35 bp、
HaeIII 5’末端断片 458 bp、3’末端断片 116 bp、
AluI 5’末端断片 247 bp、3’末端断片 170 bp、
Akkermansia muciniphila ATCC BAA−835
HhaI 5’末端断片 98 bp、3’末端断片 145 bp、
MspI 5’末端断片 270 bp、3’末端断片 130 bp、
HaeIII 5’末端断片 219 bp、3’末端断片 219 bp、
AluI 5’末端断片 74 bp、3’末端断片 94 bp、
Parabacteroides goldsteinii
HhaI 5’末端断片 98 bp、3’末端断片 135 bp、
MspI 5’末端断片 93 bp、3’末端断片 120 bp、
HaeIII 5’末端断片 915 bp、3’末端断片 48 bp、
AluI 5’末端断片 724 bp、3’末端断片 170 bp、
の5’及び3’末端断片の推定塩基数、
を情報として含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
サンプルが、マウスの糞便から調製される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
rRNA遺伝子が16S rRNA遺伝子である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
16S rRNA遺伝子を逆転写することによって得られる相補的DNAを鋳型として用いる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
電気泳動がキャピラリー電気泳動である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2013−5759(P2013−5759A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140768(P2011−140768)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.平成22年12月27日 http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome−j.htmlを通じて発表 2.平成23年 4月20日 http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome−j.htmlを通じて発表 3.平成23年 2月25日 社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会2011年度大会 大会プログラム集」にて発表
【出願人】(305018395)協同乳業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】