説明

マガキの炭酸脱水酵素遺伝子

【課題】卵の生存確率に関係する母性遺伝子由来の転写産物を検出することによって、生存確率の高い貝の卵を選別する貝の選別方法を提供すること、ならびにそれに使用するプローブやプライマー、そして母性遺伝子の一つである炭酸脱水酵素遺伝子及びその遺伝子産物である炭酸脱水酵素を提供することを課題とする。
【解決手段】マガキの外套膜に由来し、2つの炭酸脱水酵素ドメインを重複して備えている炭酸脱水酵素の遺伝子を単離し、この遺伝子のDNAの塩基配列を決定した。この塩基配列に基づいてDNAプローブを作製し、各種細胞の転写産物に対してノーザンハイブリダイゼーションを行ったところ、この遺伝子が外套膜(レーン3)よりも卵(レーン4)の細胞中でより発現していることが確認できた。すなわち、この遺伝子は母性遺伝子の一つであり、この遺伝子の発現を検出することによって、生存確率の高い貝の卵を選別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マガキの炭酸脱水酵素遺伝子、その遺伝子から作られるプローブやプライマー、これらを利用した貝の選別方法、及び炭酸脱水酵素に関する。
【背景技術】
【0002】
養殖水産資源として重要なマガキやアコヤ貝は、軟体動物に属し、その初期発生は軟体動物特有の過程を経る。具体的には、初期胚発生が非常に速い、胚由来遺伝子の発現が脊椎動物などに比べて遅く胞胚期以降である、受精後6時間頃のトロコフォア幼生から24時間ぐらいまでのベリジャー幼生の段階での生残率が著しく低下しやすい、などの特徴がある。
【0003】
さて、商業的な観点からは、初期胚発生を順調に進行させ、幼生の段階で生存率を高めることによって、効率的に貝の種苗生産を行うことが重要であり、従来から、なるべく早期に健常な個体(健常貝)を選別する方法が求められている。
【0004】
また、貝類を含む多くの生物において、卵に当初から存在する母性遺伝子由来の転写産物が初期胚発生の順調な進行に重要な役割を果たしていることはすでに示されている(非特許文献1を参照。)。
【0005】
そこで、これを利用して健常貝を選別する方法が考えられてはいるものの、どの遺伝子が前記母性遺伝子に含まれるのかは特定されていない。そのため、卵に当初から存在する母性遺伝子由来の転写産物を指標にして、健常貝を選別することは未だできていない。
【0006】
ところで、貝は貝殻をつけて卵から出てくるが、この貝殻の主成分は炭酸カルシウムであり、この炭酸カルシウムは卵や海水に含まれる炭酸水素イオン及びカルシウムイオンから、炭酸脱水酵素によって作られることが知られている。また、成長段階にある貝の外套膜が、貝殻の形成を制御するとともに、貝殻成分を分泌することも知られている。なお、貝類の炭酸脱水酵素としては、アコヤ貝外套膜の単離された炭酸脱水酵素遺伝子nacreinがある(特許文献1を参照。)
【特許文献1】国際公開第96/35786号パンフレット
【非特許文献1】宮本 裕史(Hiroshi MIYAMOTO)ら、「カキ外套膜で発現している 遺伝子の分析(Analysis of genes expressed in the mantle of oyster Crassostre a gigas)、フィッシャリーズサイエンス(fisheries Science)、オーストラリア 、ブラックウェル パブリッシング(Blackwell Publishing)、 第68巻、2002年、 p.651−658
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明は、貝の卵に含まれる転写産物の元になる母性遺伝子を単離して、この遺伝子の塩基配列を決定したのち、この遺伝子のDNAからプライマーやプローブを作製し、これらを使用して貝の卵に含まれる前記遺伝子の転写産物を指標に生存確率の高い貝の卵を選別する方法を確立することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、マガキ卵中で行われる貝殻の形成には炭酸脱水酵素が関係しているので、マガキの母性遺伝子には炭酸脱水酵素遺伝子も含まれていると考え、この酵素がマガキの外套膜に由来する炭酸脱水酵素と同一の反応を触媒することから、両者をコードする遺伝子の塩基配列は同一又は類似であると予測した。そして、この予測に基づいて貝の外套膜で発現する炭酸脱水酵素遺伝子のDNAを単離し、その塩基配列及びその構造を決定した。なお、このDNAがマガキの卵で発現していること、及びこのDNAがコードする蛋白質の構造について確認した。
【0009】
すなわち、この発明の炭酸脱水酵素遺伝子は、マガキの外套膜に由来するとともに、2つの炭酸脱水酵素ドメインを重複して備えており、この遺伝子のDNAは配列表1に示す塩基配列を備えている。
【0010】
そして、この発明のプローブやプライマーは前記DNAの塩基配列に基づいて作製されたものであり、この発明の貝の選別方法は、これらのプローブやプライマーを使用して生存確率の高い貝の卵を選別するものである。また、この発明の炭酸脱水酵素は、前記炭酸脱水酵素遺伝子にコードされたものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明によって、マガキの卵に存在する母性遺伝子として新規の炭酸脱水酵素遺伝子を特定することができ、この遺伝子を検出することにより生存確率の高い卵を効率的に選別することが可能となった。そして、この遺伝子を指標にすることにより、貝類の養殖において効率的な種苗生産が可能となり、生産コストを低減化することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明は、マガキの外套膜で特異的に発現する炭酸脱水酵素遺伝子、前記遺伝子のDNA、それから作られるプローブやプライマー、それを利用した貝の選別方法、及び前記DNAにコードされた炭酸脱水酵素である。そこで、これらについて以下に詳説する。
【0013】
(炭酸脱水酵素遺伝子)
この発明のマガキの炭酸脱水酵素は、マガキの外套膜に由来するものであり、現在までに単離されそのアミノ酸配列が確認された炭酸脱水酵素の炭酸脱水酵素ドメインと類似するアミノ酸配列を、2つ重複して備えている。
【0014】
このマガキの炭酸脱水酵素として、具体的には、配列番号1に示す塩基配列からなるDNAが例示できる。また、配列番号1に記載のDNAおいて、1又数個の塩基が欠失、置換、挿入された塩基配列からなるDNAであって、炭酸脱水酵素活性を有する蛋白質をコードするDNAもこの発明のDNAに含まれる。
【0015】
(遺伝子の単離)
この遺伝子及びDNAは、例えば次のようにして単離することができる。
【0016】
炭酸脱水酵素は、そのアミノ酸配列が種を越えて類似していることが知られており、その一部は種の違いにもかかわらず保存されている。そこで、この保存されたアミノ酸配列に対応した塩基配列を参考に複数のプライマーを作製する。
【0017】
一方、マガキ外套膜から単離したtotal RNAを鋳型として、逆転写酵素により逆転写反応を行なえば、1本鎖cDNAが得られる。そして、この1本鎖cDNAを鋳型として使用し、前記複数のプライマーの中から選択したプライマーを組み合わせてPCR反応を行えば、マガキ外套膜の転写産物に由来し、かつ前記保存されたアミノ酸配列に対応した塩基配列を含むDNAが得られる。
【0018】
このDNAは、使用したプライマー間の塩基配列しか含んでおらず、言い換えるならば、目的とする炭酸脱水酵素の一部の塩基配列を含む部分DNAでしかない。そこで、この部分の塩基配列をDNAシーケンサーによって決定し、その塩基配列を利用して5′ RACE法及び3′RACE法により、5′末端側及び3′末端側の塩基配列を決定する。
【0019】
そして、前記部分DNA配列、及びその5′末端側及び3′末端側の塩基配列を適当なコンピュータソフトウエアにより連結すれば、完全長の塩基配列を得ることができる。なお、蛋白質の発現などのため、完全長のDNAが必要な場合には、例えば、DNA中にある制限酵素部位でDNAの切断と結合を行うことなどによって、完全長のDNAを得ることができる。また、完全長DNAの上流及び下流にある塩基配列をプライマーとして使用し、前記total RNAを鋳型として使用としてPCR反応を行うことによっても、完全長のDNAを得ることができる。
【0020】
(プローブ及びプライマー)
また、この発明のDNAは、その全部又は一部及びそれらの転写産物をプローブとして使用することができ、その一部をプライマーとして使用することができる。ここで、一部とは、プライマー又はプローブとして使用するDNAが、この発明のDNA(例えば、配列番号1に記載のDNA)に含まれる少なくとも10個、好ましくは15個、さらに好ましくは約20〜30個の塩基配列に対応するヌクレオチドからなることを意味する。なお、プローブとして使用する場合には、さらに高分子のもの、例えばこの発明のDNAそのものやその転写産物であっても使用することができる。
【0021】
これらのプローブ及びプライマーは、例えば、DNA合成装置によって合成したDNA、この発明のDNAを制限酵素により部分消化したDNA、この発明のDNAやその部分配列を組み換えたベクターからT7 RNA polymerase等のRNA polymeraseを使用して作製したRNAプローブなどである。また、プローブやプライマーについては標識物質により標識してあるほうがよい。
【0022】
ここで、標識物質としては、例えばジゴキシゲニン(DIGシステム、Boehringer Mannheim)、蛍光物質、放射性同位体などの検出可能なものが挙げることができ、標識は、例えば標識物質を化学的にDNAに結合させる、DNAを合成する際にすでに標識したヌクレヲチドを使用してDNAを合成するなどによって行うことができる。
【0023】
(貝の選別方法)
この発明の貝類の選別方法は、前記DNAプローブ、又はDNAプライマーの少なくとも何れか一方を使用して、前記炭酸脱水酵素遺伝子の転写産物を検出することにより、生存確率の高い貝の卵を選別するものである。
【0024】
具体的には、この発明のプローブを使用して、この発明の炭酸脱水酵素遺伝子の転写産物を検出するには、被検体からtotal RNAを抽出し、抽出したtotal RNAとこの発明のプローブとのハイブリダイゼーションを行い、ハイブリッド形成の有無を検出すればよい。なお、プローブとRNAとのハイブリダイゼーションは、通常の方法により、例えば、ノーザンハイブリダイゼーション、ドットブロットハイブリダイゼーション、in situ ハイブリダイゼーション等の方法により行うことができる。そして、形成したハイブリッドの有無は、目視よって直接検出してもよく、X線フィルムや蛍光顕微鏡などを介して間接的に検出する。
【0025】
また、この発明のプライマーを使用する場合には、被検体からtotal RNAを抽出し、これに対してRT-PCRを行い、このRT-PCR産物を電気泳動して、適切なバンドの形成を検出すればよい。
【0026】
(炭酸脱水酵素)
この発明の炭酸脱水酵素は、この発明の炭酸脱水酵素遺伝子にコードされており、例えば配列番号2に示すアミノ酸配列を有する蛋白質である。また、この炭酸脱水酵素は前記遺伝子を組み替えた発現ベクターが形質転換された形質転換体を培養したのち、この形質転換体から分離・精製することによって作製できる。
【0027】
ここで、前記発現ベクターは、炭酸脱水酵素遺伝子を発現に適したベクターのプロモーター下流に制限酵素とDNAリガーゼを使用して組換えることにより作製することができる。なお、このベクターは宿主内で複製、増幅可能であれば特に限定されない。プロモーターおよびターミネーターに関しても、炭酸脱水酵素遺伝子の発現に使用する宿主に対応したものであれば特に限定せずに使用でき、宿主に応じて適切に組み合わせて使用できる。
【0028】
このようにして得られた発現ベクターは、宿主に応じてコンピテントセル法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法等により宿主に形質転換し、形質転換体を作製する。ここで、宿主としては大腸菌等の細菌、貝類の培養細胞をはじめとする動物細胞などが挙げられる。
【0029】
このようにして作製した形質転換体をその宿主に応じた適切な培地中で培養したのち、産生した炭酸脱水酵素を分離、精製する。より具体的には、培養は温度が通常20℃〜45℃、pHが通常pH5〜8の範囲で行ない、必要に応じて通気、攪拌を行なう。また形質転換体からの炭酸脱水酵素の分離、精製は、公知の分離、精製法、例えば、塩析法、溶媒沈殿法、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなどを組み合わせて行う。
【0030】
なお、この炭酸脱水酵素の全部または一部(部分)をエピトープとして使用して抗体を作製し、この抗体によってこの発明の炭酸脱水酵素を検出することにより、貝の卵の選別を行うこともできる。ここで、エピトープとは、ポリペプチドの抗原決定基を意味し、一般に少なくとも6個のアミノ酸で構成されるものである。
【実施例1】
【0031】
以下、この発明を実施に例によってより詳細に説明するが、以下の実施例によりこの発明の特許請求の範囲はいかなる意味でも限定的に解釈されるものではない。
【0032】
(1)nacrein遺伝子を基にしたdegenerateプライマーの合成
アコヤ貝外套膜のcDNAライブラリーから単離された炭酸脱水酵素遺伝子nacreinは、ヒトをはじめとする哺乳類の様々な炭酸脱水酵素(ヒト:CA2)と相同性がある。なかでも、図1に示すようにN末端領域において四角で囲んだRQSPとGSEH配列は高度に保存されている。そこでこの2つのアミノ酸配列に相当する以下のdegenerateプライマーを合成した。なお、degenerateプライマーの塩基配列を表1に示す。また、下記プライマー配列は定法に従って右側が5′末端、左側が3′である。
【0033】
【表1】

【0034】
(2)マガキ外套膜由来RNAを用いたRT-PCR
まず、マガキ外套膜1 gに対してTrizol試薬(インビトロジェン社、アメリカ)10倍量を加えポリトロンホモジナイザーにて破砕した。遠心後、上清を回収し、1/5量のクロロホルムを加え攪拌した。遠心後、上清を回収し、イソプロパノール沈殿を行った。沈殿を乾燥後、滅菌水に溶解させた。なお、その濃度はO.D.260 nmの値から推定した。
【0035】
つぎに、このようにして抽出したtotal RNAを使用して、RT-PCR反応をおこなった。具体的には、まず、total RNA5μg, オリゴdTプライマー1μgに対して、逆転写酵素(Superscript II、インビトロジェン社、アメリカ)を加えて、40℃で2時間おくことにより1本鎖cDNAを得た。そして、この1本鎖cDNAを使用して、上記のプライマーの組み合わせ32通りに対してPCR反応を行った。その結果、5′端側プライマーに NacU5-1: 5′-MRMCARTCICCAAT-3′(配列番号3)、3′末端側プライマーにNacU3-4: 5′-TRTGYTCITGNCC-3′(配列番号4)を用いた場合に、PCR反応において明確なバンドが形成された。なお、配列中のIはイノシンを意味している。
【0036】
なお、前記PCR反応には、DNAポリメラーゼとしてAmpliTaq Gold (アプライドバイオシステムズ社、アメリカ)を使用し、反応装置としてGeneAmp PCR system 9700(アプライドバイオシステムズ社)を使用した。また、PCR反応は、95℃、30秒の変性工程、55度、30秒のアーニリング工程、68℃、30秒の伸張工程からなる反応サイクルを30サイクル行った。
【0037】
つぎに、前記反応において確認されたcDNA断片をアガロースゲル電気泳動により分離し、当該cDNA断片をGFX gel band purification kit (アマシャムバイオサイエンス社、アメリカ)により精製した。精製したcDNA断片は、pGEM T-easy vector(プロメガ社、アメリカ)EcoRIの部位に挿入したのち、大量に増幅した。そして、cDNA断片の塩基配列をアプライドバイオシステムズ社のABI PRISM 377 DNA シークエンサーにより決定した。
【0038】
(3)マガキ新規炭酸脱水酵素遺伝子の完全長cDNAの単離
前記塩基配列をもとにして、クロンテック社のSMART RACE cDNA Amplification kitによって5′ RACE及び3′RACE法を行い、5′端および3′端のcDNAを得た。なお、5′RACE法及び3′RACE法は、添付のマニュアルに沿って行った。また、5′ RACE法用のプライマーとして5′-CATTGAGGGTGGGGTCATAGATGGC-3′(配列番号5)を、3′RACE法用のプライマーとしては5′-CTGCAGTATATAGCACCGCCCAGTT-3′(配列番号6)を使用した。
【0039】
このようにして単離したcDNA断片は、前記(2)と同様の方法にて塩基配列を決定した。そして、決定した塩基配列を遺伝子解析ソフトウェアGenetyx Mac(ゼネティックス社)により連結し、アミノ酸への翻訳操作を行った。予想されるアミノ酸配列に関しては、Genetyx Macを用いて、哺乳類の炭酸脱水酵素の配列と比較することにより機能ドメインを特定した。なお、決定した炭酸脱水酵素遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号1に、それがコードする炭酸脱水酵素のアミノ酸配列を配列表の配列番号2に示す。
【0040】
その結果、この発明により特定した遺伝子は、通常の炭酸脱水酵素遺伝子とは異なり、図2に示すように、2つの炭酸脱水酵素(CA)ドメインからなる非常に特異なタンパク質をコードしていることが明らかとなった。
【0041】
(4)マガキ新規炭酸脱水酵素遺伝子のノーザンハイブリダイゼーション
この発明で単離したマガキ新規炭酸脱水酵素遺伝子の発現領域を明らかにするために、マガキの各種組織を用いたノーザンハイブリダイゼーションを行った。
【0042】
具体的には、まず、マガキの外套膜、鰓、中腸、未受精卵から単離したtotal RNAを、定法に沿って、電気泳動してその大きさごとに分離し、メンブレンにブロッティングした。なお、ブロッティング用のメンブレンとしてはHybond-N+(アマシャムバイオサイエンス社、アメリカ)を使用した。
【0043】
つぎに、(3)で特定したマガキ新規炭酸脱水酵素遺伝子(配列番号1)の5'末領域約500塩基をRediprime II DNA labeling system (アマシャムバイオサイエンス社、アメリカ)によりα-32P-dCTPで標識して、プローブを作製した。
【0044】
そして、前記メンブレン及びプローブを使用して60℃で一晩ハイブリダイゼーションを、行い、65℃の0.5X SSC中にて30分間、2回洗浄したのち、BAS2500(フジフイルム)によりシグナルを検出した。その結果を図3に示す。なお、図3において、レーン1は中腸、レーン2は鰓、レーン3は外套膜、レーン4は卵に由来するtotal RNAを泳動した結果である。
【0045】
この図からも明らかなように、ノーザンハイブリダイゼーションの結果、レーン3の外套膜由来のtotal RNAとの間にはごく僅かなシグナルしか確認できなかったのに対して、レーン4の卵由来のtotal RNAとの間には強いシグナルが確認できた。このことは、この発明の炭酸脱水酵素遺伝子(配列番号1)が、外套膜よりはむしろ卵で多く発現しており、この遺伝子が母性遺伝子の一つであることを示している。そのため、この発明の炭酸脱水酵素遺伝子(配列番号1)を検出することによって、健常個体を効率よく選別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】ヒト(CA2)及びアコヤ貝の炭酸脱水酵素(nacrein)のアミノ酸配列を比較した図である。なお、図中の四角で囲んだアミノ酸配列が種の違いにもかかわらず保存されている領域である。
【図2】この発明の炭酸脱水酵素の構造を模式的に示す図である。
【図3】ノーザンハイブリダイゼーションの結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マガキの外套膜に由来するとともに、2つの炭酸脱水酵素ドメインを重複して備えている炭酸脱水酵素遺伝子。
【請求項2】
以下の(a)又は(b)の何れかのDNAからなる炭酸脱水酵素遺伝子、
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号1に示す塩基配列において1個又は数個の塩基が欠失、置換、挿入された塩基配列からなり、炭酸脱水酵素活性を有する蛋白質をコードするDNA。
【請求項3】
請求項2に記載のDNAの全部又は一部からなるDNAを含むDNAプローブ。
【請求項4】
請求項2に記載のDNAの全部又は一部からなるDNAの転写産物を含むRNAプローブ。
【請求項5】
請求項2に記載のDNAの一部からなるDNAを含むDNAプライマー。
【請求項6】
請求項3に記載のDNAプローブ、請求項4に記載のRNAプローブ、請求項5に記載のDNAプライマーの少なくとも何れか一つを使用して、貝の卵に含まれる請求項2に記載のDNAの転写産物を検出することによって、生存確率の高い貝の卵を選別する貝の選別方法。
【請求項7】
請求項2に記載のDNAにコードされる炭酸脱水酵素。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−262726(P2006−262726A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−82068(P2005−82068)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】