説明

マグネシウム及びマグネシウム合金構造体及びその製造方法

【課題】製造コストが低く、電子機器等の技術分野の要望を満たす1mm程度の板厚であっても歩留まりが高く、かつ要望される高強度をもち、さらに、一般的なプレス成形では成形不可能なボス、リブ、ヒンジ等が板材上に容易に成形可能であり、ボス・リブの品質が高いマグネシウム及びマグネシウム合金構造体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】マグネシウム及びマグネシウム合金薄板部材と、これに射出成形されたマグネシウム及びマグネシウム合金の溶融または半溶融の金属から成形された突出部を有することを特徴とするマグネシウム及びマグネシウム合金構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム及びマグネシウム合金構造体及びその製造方法、さらに詳しくは、板状部材にボス、リブ、ヒンジ等の突出部を高密度にかつ高精度な位置・寸法で設けたマグネシウム及びマグネシウム合金構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、例えば、携帯用端末等の電子機器において多機能化が進み、これに伴い電子機器は、内部回路部品、操作部材、表示部材等が高密度化されて装着されている。一方、需要者は、電子機器に軽量・小型・優れた意匠性に関する強い要望を持っている。また、電子機器は、当然に、高密度化した内部部品が本体部材に強固に保持され、内部回路等が外部の衝撃から保護されることが要求されている。
【0003】
[従来技術]
これらの要望を満たす従来技術として、電子機器の外装部品やフレームは、複雑な形状の成形の容易さから、エンジニアリングプラスチック(PPS、ABS、PC、PC/ABS)を代表とする樹脂の射出成形品が使用されている。さらに、アルミニウムおよびその合金、ステンレス鋼、チタンおよびその合金、マグネシウム合金のプレス成形品、もしくはアルミニウムおよびその合金やマグネシウム合金をダイカストやチキソキャステイングの鋳造により成形されたものが使われている。
【0004】
上述した樹脂材料による電子機器用部品については、強度が低い問題がある。ノートPC等は、満員電車の中など天板を圧迫するような場面があり、強度が低いと、筐体がたわみ、ディスプレイ部を破壊することがある。携帯電話などでは落下することがあり、強度が低いと筐体そのものが破損することがある。また、電子機器では装置内部で熱が発生し、ファンやフィンなどにより放熱しているが、樹脂筐体では熱が放散しにくいため、高集積化の妨げとなっている。
【0005】
さらに、電子機器は電磁波を発生するが、これが遮断できないと、人体に有害となる。樹脂では電磁波を遮断できないため、筐体内面に金属めっきなどを施しているが、その分コスト高である。一方、金属筐体では樹脂に比べ強度が高く、熱伝導がよいため放熱性にも優れる。また、金属筐体は、導電率が高いため電磁波遮蔽性もよくなる。すなわち、金属筐体では筐体そのものがアースの役割を果たし、電磁波を吸収する。
【0006】
以上の観点から近年は、樹脂材料に替えて、ステンレスやアルミニウムなどが筐体用の材料として用いられている。しかし、近年、携帯用電子機器では、小型化、軽量化の要求が高まっており、ステンレスは比重が大きく大幅な軽量化は不可能であり、アルミニウムは強度が低くリサイクル性も劣っている。
【0007】
ステンレスやアルミニウムに替わる材料として、マグネシウムが注目され始めた。マグネシウムは、比重が鉄の1/4、アルミの2/3と非常に軽量である上、比強度、比剛性が非常に高い。比強度、比剛性が高い材料では、等重量の他の部材と比較した場合、強度、剛性が最も高くなる。また、同じ強度、剛性を持つ他の部材と比較した場合、最も軽量になる。この後者の特性を生かして、マグネシウム合金を電子機器筐体に適用し、軽量化を達成している。マグネシウム及びマグネシウム合金を使用した当初は、ダイカストやチキソキャスティングなどの鋳造法に依っており、板厚も1mm程度と厚く、歩留まりもよくなかった。
【0008】
一方、最近になって軽量化の要求がさらに厳しくなり、材料板厚も1mmより薄くする必要が出てきた。鋳造法ではそのような薄板を歩留まりよく生産することは産業上不可能であり、圧延による薄板材料が注目されるようになった。しかし,この場合,薄いことによる剛性不足が問題となるため、補強板や表面にプレス成形で凹凸を付けることで剛性を確保している.しかしながら,補強板の使用は、そのものの部品代がかかる上に、重量も重くなる。さらに、その加工と組み付けの工程を要するため、生産性とコストの面からも好ましくない。プレス成形による凹凸の付与は,成形時には曲げ及び張出の部位にてクラック等の欠陥を生ずることがある。
【0009】
金属構造体及び金属を主構造材料とする構造体の特に製造に係る従来技術として、以下のものがある。磁気記録再生装置に関するが、金属板のプレス成形を用い、金属板に対して樹脂を射出成形することによって、ボスやリブを成形するアウトサート成形が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0010】
これらは、樹脂の射出成形を複合したもので複雑形状の成形が可能である。しかし、基本的に低強度の樹脂を局所的に成形するために、樹脂部が大型化する可能性がある。また、異種材料による成形であることから、リサイクル性に劣るといった欠点を有する。
【0011】
さらに他の従来技術として、貫通孔を有したアルミ板と樹脂部を一体成形することによって、樹脂部の反対側に貫通孔で一体的に連結したリブ及びボスを同時に成形し、アルミ板の端部に沿ってアルミ板が根本に所定寸法くい込むように外枠も同時に一体成形した構造を構成する。樹脂部品の一部に金属板を用いるインサート成形法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
アウトサート成形と同様に、大型化や低リサイクル性などの欠点を有する。
【0012】
さらに他の従来技術として、マグネシウム合金製鍛造薄肉筐体の製造方法であって、マグネシウム合金素材を粗鍛造及び仕上鍛造の複数工程で高温鍛造することにより主要部の肉厚がほぼ1.0mm以下の筐体に成形し、前記筐体にトリミング及び機械加工を施し、その後前記筐体の全面に特殊複合陽極酸化皮膜処理を行う、プレスフォージングすなわち板鍛造の応用技術が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
さらにまた、マグネシウム合金製薄板素材を鍛造で成形してなることを特徴とするマグネシウム合金製薄肉成形体が開示されている(例えば、特許文献5参照)。
さらにまた、マグネシウム合金製鍛造薄肉成形体の製造方法として、マグネシウム合金薄板素材を好ましくは荒鍛造及び仕上鍛造の複数工程で高温鍛造することにより主要部の肉厚がほぼ1.5mm以下の成形体に成形し、この成形体の必要部分にトリミング及び機械加工を施し、打ち抜き穴を有する成形体を得る方法が開示されている(例えば、特許文献6参照)。
【0013】
これらの従来技術は、プレスフォージングといった鍛造の応用技術を用いて、プレス成形と同時にボスやリブの成形を同時に行うものである。すなわち、これは、ボスやリブを素材をプレス成形することによって形成するから、重量増をもたらさず、さらに、リサイクル性にも優れている。
しかし、薄板の鍛造を行う場合には、板厚が薄くなるに従い鍛造圧力が高くなることが一般的に知られており、小型の成形品を成形するにも大型プレスが必要となる。このことから、大型の部材を鍛造により成形することは、産業上実用性がない。また、マグネシウム合金に限定した場合、350℃以上の高温で成形する必要があることから、離型や潤滑も特殊となり、金型寿命も短くなる欠点を有する。さらに、生産コストが非常に高くなる。
プレスフォージングは、特に、潤滑のために二硫化モリブデンの焼き付け塗装を行い、成形後にダイカストやチキソキャステイングと同様にショットによる剥離を行わなければならない。プレスフォージングはさらに、ボスやリブを成形した部分の裏面に、引けが生じるおそれがある。
【0014】
さらに他の従来技術として、インサート部品は、化粧面を兼ねた圧延材を所望の形状にプレス成形したものであり、鋳造体は上記インサート部品を用いて、インサート成形により形成される。鋳造体は、構造体のリブやボスとなり、インサート部品と鋳造体とは前記インサート成形の際に溶着される(例えば、特許文献7参照)。
【0015】
この特許文献7に記載された技術は、マグネシウム合金板材の表面に、同種金属を鋳造によりボスやリブを溶着により成形する技術である。また、一般的な重力鋳造を用いていることから、溶湯の湯流れ性や金型温度に鋳造条件が大きく制限される。すなわち、ボスを多数成形する場合や、小径ボス、薄肉で長いリブの成形は、湯回り不足により成形不可となる可能性が高く、できたとしても低歩留まりとなる可能性が高い。
さらに,溶着により成形することから、必然的に基材の一部は溶融し、製品形状や外観を著しく損なう恐れが高い。また、溶着界面の酸化を防ぐためにアルゴンなどの不活性ガスを用いているが、鋳造中の脱ガスルートがなく、ブローホール、引け巣などの内在欠陥の残留は不可避である。
【0016】
【特許文献1】特開平7−65332号
【特許文献2】特開平5−220761号
【特許文献3】特開平5−124060号
【特許文献4】特開平11−277173号
【特許文献5】特開2001−170734号
【特許文献6】特開2001−170735号
【特許文献7】特開平11−245015号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、前記従来技術の上述した問題点に鑑みてなされたものであって、アースの役割を果たし、電磁波を吸収し、さらにリサイクル性に優れたマグネシウム及びマグネシウム合金構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明はまた、製造コストが低く、電子機器等の技術分野の要望を満たす1mm程度の板厚であっても歩留まりが高く、かつ要望される高強度をもつマグネシウム及びマグネシウム合金構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0018】
本発明はさらに、一般的なプレス成形では成形不可能なボス、リブ、ヒンジ等が板材上に容易に成形可能であり、プレス応用技術である板鍛造よりも安価で容易に製造でき、さらに、複雑形状が成形できるダイカスト法やチキソキャスティング法での成形体よりも薄く軽く、プレス加工と鋳造で成形する技術よりも外観品質およびボス・リブの品質が高いマグネシウム及びマグネシウム合金構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明はさらに、他の技術に比較して製造のために大型プレスを必要とせず、大型部材の製造も容易であり、また、従来のマグネシウム合金の350℃以上の成形温度より低い200℃ないし300℃で成形可能であり、離型や潤滑も従来技術で通常使用する油潤滑を使用でき、金型寿命も長く、量産化に適したマグネシウム及びマグネシウム合金構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0019】
本発明はさらに、ボスを多数成形する場合や、小径ボス、薄肉で長いリブの成形の場合でも、湯回り不足のおそれがなく、また金属材料の溶融による外観美の損ないや、ブローホール、引け巣等の内在のおそれのないマグネシウム及びマグネシウム合金構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
第1発明は、マグネシウム及びマグネシウム合金薄板部材に対して、マグネシウム及びマグネシウム合金の溶融または半溶融の金属を射出成形して、前記マグネシウム及びマグネシウム合金薄板に突出部を形成することを特徴とするマグネシウム及びマグネシウム合金構造体の製造方法である。マグネシウム合金は、例えば、Mg−Al−Zn系のAZ91やMg−Al−Mn系のAM60である。
【0021】
第1発明の実施態様は、以下のとおりである。
前記マグネシウム及びマグネシウム合金薄板部材が、プレス成形体、圧延体、押出し体、鍛造体、切削体の何れかであることを特徴とする。このように構成することによって、第1発明は、携帯電話等で使用する薄く軽量で、複雑な形状を有し、位置・寸法等高精度の加工も要求されるものを、効率的に製造することができる効果を有する。
【0022】
前記射出成形の湯道の中間部が、前記マグネシウム及びマグネシウム合金薄板部材と接合していないことを特徴とする。このように構成することによって、第1発明は、ボス及びリブのみをマグネシウム合金薄板部材に残留させることができ、他方不要な湯道の中間部等を容易に排除することが可能である。
【0023】
前記突出部が、ボス又はリブであって、前記射出成形の湯道の中間部が前記マグネシウム及びマグネシウム合金薄板部材と接合していないことを特徴とする。このように構成することによって、第1発明は、不要な湯道の中間部等を容易に排除することが可能である。
【0024】
前記マグネシウム及びマグネシウム合金薄板部材が、孔を有し、該孔を通過した前記溶融または半溶融金属が突出部を形成することを特徴とする。このように構成することによって、第1発明は、マグネシウム合金薄板部材とボスやリブの接合面積を大きくすることができ、製造されるマグネシウム及びマグネシウム合金構造体の強度を高めることができる。
【0025】
第2発明は、マグネシウム及びマグネシウム合金薄板部材と、これに射出成形されたマグネシウム及びマグネシウム合金の溶融または半溶融の金属からなる突出部を有することを特徴とするマグネシウム及びマグネシウム合金構造体である。
【0026】
第2発明の実施態様は、以下のとおりである。
前記マグネシウム及びマグネシウム合金薄板部材と、これに射出成形された前記溶融または半溶融金属からなる突出部とが、拡散結合していることを特徴とする。このように構成することによって、第2発明は、前記マグネシウム及びマグネシウム合金薄板部材と、これに射出成形された前記溶融または半溶融金属からなる突出部との結合が強固になり、引け巣・肌荒等のない高品質で高精度の成形体を製造することができる。前記マグネシウム及びマグネシウム合金薄板部材と前記溶融または半溶融金属からなる突出部とが溶融接合の場合、製品の形状や外観を著しく損ない、ユーザーの要求を満たすことができない恐れがある。
【0027】
前記マグネシウム及びマグネシウム合金薄板部材と、これに射出成形された前記溶融または半溶融金属からなる突出部とが、機械的結合していることを特徴とする。このように構成することによって、第2発明は、投錨効果により、補助的にマグネシウム合金薄板部材と突出部との接合強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のマグネシウム及びマグネシウム合金構造体及びその製造方法によれば、アースの役割を果たし、電磁波を吸収し、さらにリサイクル性に優れたマグネシウム及びマグネシウム合金構造体を構成できる効果を有する。
【0029】
本発明のマグネシウム及びマグネシウム合金構造体及びその製造方法によればまた、製造コストが低く、電子機器等の技術分野の要望を満たす0.1mmから5.0mm程度の板厚であって歩留まりが高く、かつ要望される高強度をもつマグネシウム及びマグネシウム合金構造体及びその製造方法を提供することができる。
【0030】
本発明のマグネシウム及びマグネシウム合金構造体及びその製造方法によればさらに、他の技術に比較して製造のために大型プレスを必要とせず、大型部材の製造も容易であり、また、ダイカスト温度は350℃以上になるが、プレス成形温度は従来技術より低くなり、金型寿命も長く、量産化に適したマグネシウム及びマグネシウム合金構造体及びその製造方法を提供することができる。
【0031】
本発明のマグネシウム及びマグネシウム合金構造体及びその製造方法によればさらに、ボスを多数成形する場合や、小径ボス、薄肉で長いリブの成形の場合でも、湯回り不足のおそれがなく、また金属材料の溶融による外観美の損ないや、ブローホール、引け巣等の内在のおそれがなく,高い生産性で寸法精度の高いマグネシウム及びマグネシウム合金構造体及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に、本発明の実施形態のマグネシウム及びマグネシウム合金構造体及びその製造方法を図に基づいて説明する。
(第1実施形態)
第1実施形態は、マグネシウム合金薄板にボスを形成する形態である。図1は、本発明によるマグネシウム及びマグネシウム合金構造体の成形方法を説明するためのものであって、マグネシウム及びマグネシウム合金構造体の成形装置の要部の断面を示す。成形装置1は、ダイカスト金型の可動型11と、同じく固定型12を有する。成形装置1は、さらに、溶湯の通り道であるランナーすなわち湯道14を有する。湯道14は、一端部が湯口15に連通し、他端部はボス16を形成するためのボスキャビテイ17に連通している。成形に使用される被成形材であるマグネシウム合金薄板10は、湯道14とボスキャビテイ17を連通する孔18が形成されている。溶湯は、ダイカストマシン(図示せず)より矢印19方向に圧入される。可動型11及び固定型12は、ヒーター(図示せず)や液体貫流加熱によって温度制御される。
【0033】
製造工程は、以下のとおりである。可動型11を開き、マグネシウム合金薄板10を固定型12にセットする。固定型12には、マグネシウム合金薄板10と同形状の凹みが成形されており、手動もしくはロボット等を用いて自動でセットされる。次に、可動型11を閉じ、ダイカストマシン(図示せず)を所定の圧力まで加圧する。融点以上に加熱され溶融したマグネシウム合金を、湯口15を介して湯道14に圧入する。湯道14内の気体は、溶融したマグネシウム合金が圧入されるから、脱気や不活性ガスなどの置換は不要である。
溶融したマグネシウム合金の圧入後、温度制御されている可動型11及び固定型12は直ちに冷却され、マグネシウム合金薄板10にボス16が形成された成形体が得られる。
【0034】
図2は、上述した第1実施形態のダイカスト法を用いて、マグネシウム合金薄板20に溶融マグネシウム合金を圧入して成形した構造体における直交する2面の断面を模式的に示す。マグネシウム合金薄板20は、3個の丸い孔22を有する。成形されたボス24は、孔22の直径よりも1mm大きい直径を有し、成形されたボス26は、孔22の直径と等しい直径を有し、成形されたボス28は、孔22の直径よりも1mm小さい直径を有する。
【0035】
可動型11及び固定型12は、予め290℃の設定温度にした加熱媒体によって加熱される。溶融マグネシウム合金は、Alが9mass%、Znが1mass%添加されたマグネシウム合金であり,あらかじめ620℃に加熱溶解させられている。
製造工程は、注湯時間は1秒以下であった。湯道14内のマグネシウム合金は、成形直後はボス24,26,28の背面に着いた状態であるが、湯道14の中間部はマグネシウム合金薄板20とは接合していない。湯道14内のマグネシウム合金は、ボス24,26,28との連続部分を切断することによってボス24,26,28のみを残留させた構造体を得ることができる。
マグネシウム合金薄板20とボス24,26,28は、相互の接触面において拡散接合もしくは物理的な接合もしくはそれらの複合形態で接合される。ここで、マグネシウム合金薄板20には、成形の影響による形状や表面の著しい変化は見られず、金属光沢を保ったままであった。
【0036】
上述と同様の構成を使って,異なる合金組成の溶融マグネシウム合金で同様の実験を行った.溶融マグネシウム合金は,Alが6mass%,Mnが0.15mass%添加されたマグネシウム合金であり,あらかじめ640℃に加熱溶解させられている。可動型11及び固定型12は同様に290℃の設定温度にした加熱媒体によって加熱される。
Alが6mass%,Mnが0.15mass%添加されたマグネシウム合金であっても,マグネシウム合金薄板20とボス24,26,28は、相互の接触面において拡散接合もしくは物理的な接合もしくはそれらの複合形態で接合された。ここで、合金組成が変化した場合でも,マグネシウム合金薄板20には、成形の影響による形状や表面の著しい変化は見られず、金属光沢を保ったままであった。
【0037】
(第2実施形態)
第1実施形態の構成を使って、ダイカストマシンの射出速度の成形に与える影響を調べるために、ダイカストマシンの射出速度を変化させて成形性の確認を行った。射出速度の変化は、ダイカストマシンの調整ダイヤルによって行った。調整の範囲は、基準速度をベースとして、+10%、+20%とした。
基準速度においては、問題なく成形可能であった。基準速度+10%の射出速度においては、成形体の表面に光沢が生じ、良好であった。基準速度+20%の速度で成形を行った結果は、成形体の光沢が減衰し、一部湯回り不良も見られた。
【0038】
(第3実施形態)
第3実施形態は、マグネシウム合金薄板にリブを形成する形態であって、図3は、形成されたマグネシウム合金構造体の要部の直交する2面における断面を模式的に示す。第3実施形態では、マグネシウム合金薄板30に対して、リブ状成形体32を成形したものである。リブ状成形体32の厚さは1mm、幅は30mmである。マグネシウム合金薄板30に、リブ状成形体32と同じ断面形状の溝孔34を予め成形しておき、溶融マグネシウム合金を溝孔34を通して圧入した。マグネシウム合金薄板部材の設置からダイカストまでの基本的な射出工程は、第1実施形態と同一である。マグネシウム合金薄板30とリブ状成形体32の成形体は、相互の接触面において拡散接合もしくは物理的な接合もしくはそれらの複合形態で接合されていた。ここで、マグネシウム合金薄板30には、成形の影響による形状や表面の著しい変化は見られず、金属光沢を保ったままであった。
【0039】
(第4実施形態)
第4実施形態は、マグネシウム合金薄板にリブ状成形体を形成するが、第3実施形態のマグネシウム合金薄板に予め溝を形成することに替えて、複数の丸孔を形成し、この丸孔を通じて溶融金属を圧入してリブ状成形体を成形する形態である。図4は、マグネシウム合金薄板40にダイカスト法を用いて成形を行った構造体の直交する二面における断面を模式的に示す。第4実施形態では、マグネシウム合金薄板40に予め4個のリブ状成形体厚さと同一直径である1mmの丸孔44を形成する。リブ状成形体42は、厚さ1mm,幅30mmである。溶融マグネシウム合金が丸孔44を通してリブ状成形体42に対応する部分に圧入した。マグネシウム合金薄板部材の設置からダイカストまでの基本的な射出工程は、第1実施形態と同一である。マグネシウム合金薄板40とリブ状成形体42の成形体は、相互の接触面において拡散接合もしくは物理的な接合もしくはそれらの複合形態で接合されていた。ここで、マグネシウム合金薄板40には、成形の影響による形状や表面の著しい変化は見られず、金属光沢を保ったままであった。
【0040】
(第5実施形態)
第5実施形態は、マグネシウム合金薄板にボスを形成するが、第1実施形態のマグネシウム合金薄板に予め複数の丸孔を形成し、この丸孔を通じて溶融金属を圧入してボスを成形し、該ボスがフランジを有する形態である。図5は、上述したようにダイカスト法を用いてマグネシウム合金薄板50に溶融マグネシウム合金を圧入して成形した構造体の直交する2面における断面を模式的に示す。マグネシウム合金薄板50は、3個の丸い孔52を有する。マグネシウム合金薄板50の上側に成形されたボス53は、孔52の直径よりも1mm大きい直径を有し、下側に孔52の直径よりも1mm大きいフランジ54が形成される。マグネシウム合金薄板50の上側に成形されたボス55は、孔52の直径よりも1mm大きい直径を有し、下側に孔52の直径よりも1mm大きいフランジ56が形成される。マグネシウム合金薄板50の上側に成形されたボス57は、孔52の直径よりも1mm大きい直径を有し、下側に孔52の直径よりも1mm大きいフランジ58が形成される。
マグネシウム合金薄板50とボス53,55,57は、相互の接触面において拡散接合もしくは物理的な接合もしくはそれらの複合形態で接合されていた。ここで、マグネシウム合金薄板50は、成形の影響による形状や表面の著しい変化は見られず、金属光沢を保ったままであった。マグネシウム合金薄板50とボス53,55,57は、相互の接触面において拡散接合もしくは物理的な接合もしくはそれらの複合形態で接合されていた。さらに、フランジ52,54,56を有することによって、接合力がさらに補強され、成形したボス53,55,57のマグネシウム合金薄板50からの引き抜き荷重および剪断荷重に対する抗力が大きくなっている。
【0041】
(第6実施形態)
第6実施形態は、マグネシウム合金薄板の上側にリブを形成し、さらに下側に裏板を形成する形態であって、図6は、形成されたマグネシウム合金構造体の要部の直交する2面における断面を模式的に示す。第6実施形態では、マグネシウム合金薄板60に対して、上側にリブ状成形体62を成形し、下側に裏板64を設けたものである。リブ状成形体62の厚さは1mm、幅は30mmである。マグネシウム合金薄板60に、リブ状成形体62と同じ断面形状の溝孔64を予め成形しておき、可動型11にリブ状成形体キャビテイ(図示せず)を設けておき、固定型12に裏板キャビテイ(図示せず)を設けておく。溶融マグネシウム合金を、裏板キャビテイ(図示せず)、溝孔64及びリブ状成形体キャビテイ(図示せず)に圧入する。マグネシウム合金薄板60と裏板64及びこれらを結合するマグネシウム合金は、相互の接触面において拡散接合もしくは物理的な接合もしくはそれらの複合形態で接合されていた。さらに、フランジ64を有することによって、第2実施形態のマグネシウム合金構造体に比較して接合力がさらに補強され、成形したリブ状成形体62のマグネシウム合金薄板60からの引き抜き荷重および剪断荷重に対する抗力が大きくなっている。
【0042】
(第7実施形態)
第7実施形態は、マグネシウム合金薄板の上側にリブを形成し、さらに下側に裏板も形成する形態であって、図7は、形成されたマグネシウム合金構造体の要部の直交する2面における断面を模式的に示す。第7実施形態では、図7に示すように、マグネシウム合金薄板70に対して、上側にリブ状成形体72を成形し、下側に裏板74を設け、両者を複数の丸孔76内のマグネシウム合金で連結する。マグネシウム合金薄板70、裏板74及び丸孔76内のマグネシウム合金は、相互の接触面において拡散接合もしくは物理的な接合もしくはそれらの複合形態で接合されている。さらに、裏板74を有することによって、第2実施形態のマグネシウム合金構造体に比較して接合力がさらに補強され、成形したリブ状成形体72のマグネシウム合金薄板70からの引き抜き荷重および剪断荷重に対する抗力が大きくなっている。
【0043】
(第8実施形態)
第8実施形態は、マグネシウム合金薄板にヒンジを形成する形態であって、図8は、形成されたマグネシウム合金構造体の要部の直交する2面における断面を模式的に示す。第8実施形態では、図8に示すように、マグネシウム合金薄板80の端部近傍に成形した矩形の孔82及び円形の孔84の周囲を側面からダイカストにより鋳ぐるみ、ヒンジ86を成形した。矩形の孔82及び円形の孔84の周囲をダイカストによって鋳ぐるむ領域は、それ以外の領域よりも幅が広くても狭くても良く、さらには鍛造などにより板厚を減少させても同様の結果が得られる。比較的体積の大きいヒンジ86を成形しても、被成形材の形状変化は軽微であった。
【0044】
第8実施形態の変形として、図9に示すように、ヒンジ86による鋳ぐるみが、マグネシウム合金薄板80の端部近傍の両面を鋳ぐるむ。
【0045】
(第9実施形態)
第9実施形態は、マグネシウム合金薄板にヒンジを形成する形態であって、図10は、形成されたマグネシウム合金構造体の要部の直交する2面における断面を模式的に示す。第9実施形態では、図10に示すように、マグネシウム合金薄板90の端部近傍に成形した鍵状の突出鍵部92の周囲を側面からダイカストにより鋳ぐるみ、ヒンジ94を成形したものである。この突出鍵部92の形状は、成形するヒンジの形状に合わせて形状を変化させても良く、数を増すことで接合強度を上げることができる。また、第9実施形態と同様に板面両面を鋳ぐるんでも同様の結果が得られる。
【0046】
(比較例)
比較例として、第5実施形態図と同様の金型を使用し,被成形材としてマグネシウム合金薄板に替えて鉄板を用いて同様の成形を行った。ボスを成形する溶融金属として、マグネシウム合金を用いた。各ボスの成形性は、第5実施形態と同様であり、各成形体は外観上は良好に成形できた。成形体53に対応するものは、引き抜き、押し込みの荷重において強く、良好な機械的特性を示した。しかし、成形体55,57に対応するもののボス成形方向への引き抜きについては、フランジに対応するものの作用があり強固であったが、ねじりや裏面への押し込みについては、同種合金の場合と比較して弱かった。このことから、鉄やチタンといった高融点金属に低融点金属でボスを成形する場合は、拡散相が形成されることはない。
【0047】
以上に示した,実施例により得られた成形体の評価をまとめて表1に示した。なお、表1には比較のため、実際に生産実績のあるプレスフォージングにより得られた成形体(比較例2)も示した。
【0048】
表1より,本発明によるマグネシウム及びマグネシウム合金構造体及びその製造方法によれば、接合性や生産性が高く外観の良い成形体が得ることが理解できる。また、接合性と外観の観点から成形体形状を選択することができる。比較例1の異種金属の場合,重量増が避けられないことと,リサイクル性において問題が生じる。比較例2のプレスフォージングは,重量増こそ無いが,外観の確保および生産性すなわち大型設備の必要性・金型のコスト高に課題がある。
【0049】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、本発明による成形体の成形方法を説明するための成形装置の概略断面図である。
【図2】図2は、本発明の第2実施態様のマグネシウム合金構造体の直交する2面の断面説明図である。
【図3】図3は、本発明の第3実施態様のマグネシウム合金構造体の直交する2面の断面説明図である。
【図4】図4は、本発明の第4実施態様のマグネシウム合金構造体の直交する2面の断面説明図である。
【図5】図5は、本発明の第5実施態様のマグネシウム合金構造体の直交する2面の断面説明図である。
【図6】図6は、本発明の第6実施態様のマグネシウム合金構造体の直交する2面の断面説明図である。
【図7】図7は、本発明の第7実施態様のマグネシウム合金構造体の直交する2面の断面説明図である。
【図8】図8は、本発明の第8実施態様のマグネシウム合金構造体の平面説明図と、平面説明図の線A−A’に沿った断面説明図である。
【図9】図9は、本発明の第9実施態様のマグネシウム合金構造体の平面説明図と、平面説明図の線B−B’に沿った断面説明図である。
【図10】図10は、本発明の第10実施態様のマグネシウム合金構造体の平面説明図と、平面説明図の線C−C’に沿った断面説明図である。
【符号の説明】
【0051】
1 成形装置
11 可動型
12 固定型
14 湯道
15 湯口
16 ボス
17 ボスキャビテイ
18 孔
32 リブ状成形体(フランジ付き)
34 溝孔
52,54,56 フランジ
64 裏板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム及びマグネシウム合金薄板部材に対して、マグネシウム及びマグネシウム合金の溶融または半溶融の金属を射出成形して、前記マグネシウム及びマグネシウム合金薄板に突出部を形成することを特徴とするマグネシウム及びマグネシウム合金構造体の製造方法。
【請求項2】
前記マグネシウム及びマグネシウム合金薄板部材が、プレス成形体、圧延体、押出し体、鍛造体、切削体の何れかであることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム及びマグネシウム合金構造体の製造方法。
【請求項3】
前記射出成形の湯道の中間部が、前記マグネシウム及びマグネシウム合金薄板部材と接合していないことを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム及びマグネシウム合金構造体の製造方法。
【請求項4】
前記突出部が、ボス又はリブであって、前記射出成形の湯道の中間部が前記マグネシウム及びマグネシウム合金薄板部材と接合していないことを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム及びマグネシウム合金構造体の製造方法。
【請求項5】
前記マグネシウム及びマグネシウム合金薄板部材が、孔を有し、該孔を通過した前記溶融または半溶融金属が突出部を形成することを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム及びマグネシウム合金構造体の製造方法。
【請求項6】
マグネシウム及びマグネシウム合金薄板部材と、これに射出成形されたマグネシウム及びマグネシウム合金の溶融または半溶融の金属から成形された突出部を有することを特徴とするマグネシウム及びマグネシウム合金構造体。
【請求項7】
前記マグネシウム及びマグネシウム合金薄板部材と、これに射出成形された前記溶融または半溶融金属から成形された突出部とが、拡散結合していることを特徴とする請求項6に記載のマグネシウム及びマグネシウム合金構造体。
【請求項8】
前記マグネシウム及びマグネシウム合金薄板部材と、これに射出成形された前記溶融または半溶融金属から成形された突出部とが、機械的結合していることを特徴とする請求項6に記載のマグネシウム及びマグネシウム合金構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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