説明

マグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法

【課題】マグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法を提供する。
【解決手段】マグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法として、マグネシウム系化合物とカーボンナノ材料とを不活性ガス雰囲気で混合磨砕して、ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料を形成し、前記ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料の直径を、100nm以下とするナノ化方法を採用する。また、必要に応じて、前記不活性ガス雰囲気で実施する混合磨砕は、硬質材料を加えて実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、マグネシウム系水素吸蔵材料に関し、特には、マグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵材料の分野では、ナノ化(nanotization)は、水素吸蔵機能を向上させ、水素の[固溶/放出]速度を速くし、[固溶/放出]温度を低くするための新規な手法である。しかし、水素吸蔵材料を磨砕するプロセスで使用する磨砕ボールがナノサイズではなく、被磨砕材と比べて大きすぎると、高延性材料、例えばマグネシウム系化合物や添加剤を多く含む硬質材料などにたいして、従来技術の機械処理によるナノ化を適用することは困難である。また、ナノサイズではない磨砕ボールは、被磨砕材にナノスケールでの応力を効果的に与えることができない。ナノサイズではない磨砕ボールは、高延性の材料を破砕し、粉砕できるが、粉砕された材料は再結晶し易く、大きな結晶サイズになることがある。このように、磨砕ボールを用いる方法では、結晶の大きさをナノレベルにまで小さくすることができない。そこで、従来技術では、マグネシウム系化合物の延性を小さくして再結晶を防ぐために、液体窒素を用いている。しかし、このような低温における磨砕プロセスはコスト高になる。
【0003】
このように、ナノサイズの水素吸蔵材料を形成するための、新規な磨砕方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−61313号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本件発明に係るマグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法: 本件発明に係るマグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法は、マグネシウム系化合物とカーボンナノ材料とを不活性ガス雰囲気で混合磨砕して、ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料を形成し、前記ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料の直径を、100nm以下とすることを特徴としている。
【0007】
本件発明に係るマグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法においては、前記マグネシウム系化合物は、マグネシウム及びマグネシウム合金から選択される1種又は2種以上であることも好ましい。
【0008】
本件発明に係るマグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法においては、前記カーボンナノ材料は、カーボンナノチューブ及びカーボンナノ粉末から選択される1種又は2種以上であることも好ましい。
【0009】
本件発明に係るマグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法においては、前記不活性ガスは、窒素及びヘリウムから選択される1種又は2種以上であることも好ましい。
【0010】
本件発明に係るマグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法においては、前記マグネシウム系化合物と前記カーボンナノ材料との質量比[(マグネシウム系化合物の質量):(カーボンナノ材料の質量)]を100:0.5〜100:1.0とすることも好ましい。
【0011】
本件発明に係るマグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法においては、前記磨砕は、温度27℃〜40℃、雰囲気圧力1気圧〜2気圧で6時間〜12時間行うことも好ましい。
【0012】
本件発明に係るマグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法においては、前記ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料は、100℃〜200℃における水素の[固溶/放出]速度が、0.0073L/sよりも大きいものであることも好ましい。
【0013】
本件発明に係るマグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法においては、前記ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料は、室温における水素の[固溶/放出]速度が、0.0051L/s〜0.0073L/sであることも好ましい。
【0014】
本件発明に係るマグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法においては、前記マグネシウム系化合物と前記カーボンナノ材料に硬質材料を加えて不活性ガス雰囲気で混合磨砕して、ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料を形成し、前記ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料の直径を、100nm以下とすることも好ましい。
【0015】
本件発明に係るマグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法においては、前記硬質材料は、V、Ti、Fe、Co、Nb、Ca、Cs、Mn、Ni、Ce、Y、La、Pd、Hf、K、Rb、Rh、Ru、Zr、Be、Cr、Ge、Si、Liから選択される1種又は2種以上、又はそれらの合金から選択される1種又は2種以上であることも好ましい。
【0016】
本件発明に係るマグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法においては、前記マグネシウム系化合物と前記硬質材料との質量比[(マグネシウム系化合物の質量):(硬質材料の質量)]を100:0.5〜100:30とすることも好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本件発明に係るマグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法は、マグネシウム系化合物とカーボンナノ材料とを不活性ガス雰囲気で混合磨砕して、ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料を形成し、ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料の直径を、100nm以下としている。その結果、形成されたマグネシウム系水素吸蔵材料は、結晶構造の[表面積/体積]比が大きく、水素の拡散経路が改善されたものとなる。また、このマグネシウム系水素吸蔵材料は、水素の固溶量が多く、水素の[固溶/放出]速度が速いため、低温でも水素の[固溶/放出]が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本件発明の実施例と比較例における水素固溶量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本件発明が一層明確に理解されるよう、実施例を示し、図面を参照しつつ実施形態を説明する。
【0020】
本件発明に係るマグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法の形態: 本件発明に係るマグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法は、マグネシウム系化合物とカーボンナノ材料とを不活性ガス雰囲気で混合磨砕して、ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料を形成し、前記ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料の直径を、100nm以下としている。従って、ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料とは、100nm以下の直径を有する材料を定義している。
【0021】
そして、前記マグネシウム系化合物は、マグネシウム及びマグネシウム合金から選択される1種又は2種以上であり、マグネシウム合金はMg(1−x)を用いるのが好ましい。ここで、具体的にはAとして、Li、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、O、Si、B、C、F、又はBeを用いることが好ましく、0<x≦0.3を満足するように調製する。
【0022】
また、前記カーボンナノ材料は、カーボンナノチューブ及びカーボンナノ粉末から選択される1種又は2種以上である。そして、カーボンナノチューブは、直径12nm〜15nmのものを用いるのが好ましい。具体的には、カーボンナノチューブは、Aldrich社の市販品を用いることができる。また、カーボンナノ粉末は、直径10〜30nmのものを用いるのが好ましい。具体的には、カーボンナノ粉末は、Aldrich社の市販品を用いることができる。
【0023】
さらに、前記マグネシウム系化合物と前記カーボンナノ材料との質量比[(マグネシウム系化合物の質量):(カーボンナノ材料の質量)]を100:0.5〜100:1.0とする。マグネシウム系化合物の比率が高くなると、水素吸蔵材料の粒界面積は大きくなるが、水素吸収温度は高くなる。一方、カーボンナノ材料の比率が高くなると、水素吸蔵材料の水素固溶能力は小さくなる。
【0024】
実際には、例えば、まずマグネシウム系化合物とカーボンナノ材料を混合した後、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気でボール磨砕を行う。ボール磨砕では、8mm〜10mmのタングステンスチールボールを用い、27℃〜40℃、雰囲気圧力1気圧〜2気圧で6〜12時間処理する。ボール磨砕の時間を12時間以上とすると、結晶粒子が過大に成長するため好ましくない。一方、ボール磨砕の時間が6時間以下では、結晶粒子をナノサイズにすることができないため好ましくない。
【0025】
上述の磨砕プロセスによって、いわゆるナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料が完成する。より小さくて硬い、剛体のカーボンナノチューブを磨砕スラリーとして用いるため、磨砕応力は、ナノスケールの範囲に集中する。大きな内部応力が存在すると、欠陥面がマグネシウム系材料内部内に急速に伝播するるため、ナノサイズに粉砕でき、マグネシウム系材料の内部には、大きな結晶格子内応力と広角度の粒界が生じる。その結果、マグネシウム系水素吸蔵材料は、水素を拡散させるチャンネルとなる粒界欠陥を多く備える構造を備えることになり、水素吸蔵材料の水素の[固溶/放出]速度が加速される。よって、有効水素固溶量は理論上の最高水素固溶量に近くなり、水素の[固溶/放出]速度が速くなり、水素の[固溶/放出]温度は低下する。例えば、ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料は、100℃〜200℃において、0.0073L/sよりも大きな水素の[固溶/放出]速度を備える。また、ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料は、室温(約25℃)でも、0.0051L/s〜0.0073L/sの水素の[固溶/放出]速度を備える。
【0026】
さらに、上述の方法では、磨砕プロセスに、高強度且つ非延性の大きな硬質材料を加えることもできる。そして、磨砕の順序は、本実施形態に限定されるものではなく、硬質材料とカーボンナノ材料との混合物を先に磨砕した後、マグネシウム系化合物を加えて磨砕してもかまわない。又は、マグネシウム系材料とカーボンナノ材料との混合物を先に磨砕した後、硬質材料を加えて磨砕を行うこともできる。また、マグネシウム系材料の混合物、カーボンナノ材料と、硬質材料とを、同時に磨砕することもできる。磨砕プロセスの後、硬質材料は、直径100nm以下にナノ化されており、ナノ化された硬質材料は、ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料内に均一に分散している。硬質材料を使用する目的は、水素吸蔵材料の機械的強度を増大させるためである。硬質材料は、V、Ti、Fe、Co、Nb、Ca、Cs、Mn、Ni、Ce、Y、La、Pd、Hf、K、Rb、Rh、Ru、Zr、Be、Cr、Ge、Si、Liから選択される1種又は2種以上、又はこれらの合金から選択される1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ここで、Fe、Ti、又はNiを選択すれば、硬質材料は、その触媒作用によって水素分子を水素原子に解離し、水素原子を固溶する。マグネシウム系化合物と硬質材料との質量比[(マグネシウム系化合物の質量):(硬質材料の質量)]は、100:5〜100:30とする。硬質材料が多すぎると、水素吸蔵材料は所期の性能を発揮できない。
【実施例】
【0027】
0.7gのMg(Well−Being Enterprise Co.,Taiwanが市販)、0.3gのFeTi(SUMMIT−TECH RESOURCE CORP.,Taiwanが市販)、0.01gのカーボンナノチューブ(Aldrichが市販)を、アルゴン雰囲気でボール磨砕した。ボール磨砕は、タングステンスチールボールを用い、27℃、雰囲気圧力1気圧で6時間行った。X線回折(XRD)と走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いた評価の結果、ボール磨砕後のMgの平均結晶粒子径は、100nmよりも小さかった。図1に示す、ボール磨砕後の水素吸蔵材料の水素固溶量は、測定した水素の圧力、濃度と、温度から求めた。
【比較例】
【0028】
比較例は、カーボンナノチューブを用いていないこと以外は、実施例と同様にして実施した。X線回折(XRD)と走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いた評価の結果、ボール磨砕後のMgの平均結晶粒子径は、100nmよりも大きかった。図1に示す、ボール磨砕後の水素吸蔵材料の水素固溶量は、測定した水素の圧力、濃度と、温度から求めた。
【0029】
図1に示す水素固溶量を比較するとわかるように、実施例のカーボンナノチューブを用いたボール磨砕プロセスで形成された水素吸蔵材料は、比較例のカーボンナノチューブを用いていないボール磨砕プロセスで形成された製品よりも優れている。
【0030】
以上、本件発明の好適な実施形態を例示したが、これは本件発明を限定するものではなく、本件発明の精神及び範囲を逸脱しない限りにおいては、当業者であれば行い得る少々の変更や修飾を付加することが可能である。従って、本件発明が請求する保護範囲は、特許請求の範囲を基準としている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム系水素吸蔵材料のナノ化方法であって、
マグネシウム系化合物とカーボンナノ材料とを不活性ガス雰囲気で混合磨砕して、ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料を形成し、
前記ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料の直径を、100nm以下とすることを特徴とするナノ化方法。
【請求項2】
前記マグネシウム系化合物は、マグネシウム及びマグネシウム合金から選択される1種又は2種以上である請求項1に記載のナノ化方法。
【請求項3】
前記カーボンナノ材料は、カーボンナノチューブ及びカーボンナノ粉末から選択される1種又は2種以上である請求項1又は請求項2に記載のナノ化方法。
【請求項4】
前記不活性ガスは、窒素及びヘリウムから選択される1種又は2種以上である請求項1〜請求項3のいずれかに記載のナノ化方法。
【請求項5】
前記マグネシウム系化合物と前記カーボンナノ材料との質量比[(マグネシウム系化合物の質量):(カーボンナノ材料の質量)]を100:0.5〜100:1.0とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のナノ化方法。
【請求項6】
前記磨砕は、温度27℃〜40℃、雰囲気圧力1気圧〜2気圧で6時間〜12時間行う請求項1〜請求項5のいずれかに記載のナノ化方法。
【請求項7】
前記ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料は、100℃〜200℃における水素の[固溶/放出]速度が、0.0073L/sよりも大きいものである請求項1〜請求項6のいずれかに記載のナノ化方法。
【請求項8】
前記ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料は、室温における水素の[固溶/放出]速度が、0.0051L/s〜0.0073L/sである請求項1〜請求項7のいずれかに記載のナノ化方法。
【請求項9】
前記マグネシウム系化合物と前記カーボンナノ材料に硬質材料を加えて不活性ガス雰囲気で混合磨砕して、ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料を形成し、
前記ナノサイズのマグネシウム系水素吸蔵材料の直径を、100nm以下とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載のナノ化方法。
【請求項10】
前記硬質材料は、V、Ti、Fe、Co、Nb、Ca、Cs、Mn、Ni、Ce、Y、La、Pd、Hf、K、Rb、Rh、Ru、Zr、Be、Cr、Ge、Si、Liから選択される1種又は2種以上、又はそれらの合金から選択される1種又は2種以上である請求項9に記載のナノ化方法。
【請求項11】
前記マグネシウム系化合物と前記硬質材料との質量比[(マグネシウム系化合物の質量):(硬質材料の質量)]を100:0.5〜100:30とする請求項9又は請求項10に記載のナノ化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−47833(P2010−47833A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152428(P2009−152428)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(390023582)財団法人工業技術研究院 (524)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【Fターム(参考)】