説明

マグネシウム系金属の表面処理方法

【課題】環境に優しい電解液を用いながらも、金属質感を実現する良質の透明陽極酸化膜をマグネシウム系金属の表面に形成することができる、マグネシウム系金属の表面処理方法を提供する。
【解決手段】硝酸ナトリウムとクエン酸ナトリウムを含む化学研磨液を用いてマグネシウム系金属の表面を化学研磨する光沢研磨ステップと、光沢研磨ステップを経たマグネシウム系金属をpH10以上の強塩基性電解液内に浸漬させるステップと、強塩基性電解液内でマグネシウム系金属に電流密度0.01〜1A/dmの電流を印加することによって、マグネシウム系金属の表面に透明な陽極酸化膜を形成する陽極酸化処理ステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム系金属の表面処理方法に関し、より詳しくは、環境に優しく、金属質感を実現するマグネシウム系金属の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム系金属は、重量的な側面からアルミニウム系金属に代えて将来最も有望なエンジニアリング材料となるものと予想されている。
【0003】
現在、マグネシウムとアルミニウムの価格が殆ど同じであるが、マグネシウムは、アルミニウムよりも質量が軽いということで、軽量化に大きな比重を置いた自動車、飛行機、ラップトップコンピュータまたは携帯電話等においてさらに有利な位置を占めている。例えば、自動車分野では、燃費の向上を目的とする車両軽量化のために、鉄鋼やアルミニウム合金を用いていた部材にマグネシウム合金を適用し始めている。
【0004】
最近、環境的な側面からも、リサイクル性に優れたマグネシウム合金を構造用金属材料として積極的に用いる傾向にある。例えば、家電分野では、ノート型コンピュータ、パーソナルコンピュータ、携帯電話のケースを中心として、従来のプラスチックからリサイクル性に優れたマグネシウム合金に移る傾向にある。
【0005】
このようなマグネシウム合金は、常用金属のうち、最も化学的活性度が大きな金属であり、一般に、表面処理されない場合、大気中や溶液中で極めて速く腐食する特徴を示すので、鉄鋼やアルミニウム合金の場合よりも、表面処理工程で緻密かつ均一な皮膜を形成させることが重要である。しかし、マグネシウム合金は、緻密かつ均一な皮膜を形成させることが極めて難しい材料でもある。これは、マグネシウム合金の表面が、化学的に均一でないからである。マクロ偏析とミクロ偏析により、マグネシウム合金表面が化学的に不均一になり、これにより、緻密かつ均一な皮膜を形成させ難くしている。また、表面に生成する酸化膜は、Mg(OH)からなる不透過性酸化膜(不透明酸化膜)であるため、マグネシウム特有の金属質感を実現することができなかった。
【0006】
マグネシウム合金の表面処理方法のうち、最も多く用いられている方法は、化成処理方法または陽極酸化処理方法である。両方法共に、脱脂、酸洗等の前処理工程を経てから実施されるが、マグネシウム合金の表面に機能性を加えることができるのは陽極酸化方法に限られる。
【0007】
従来のマグネシウム合金の表面処理方法のうち、陽極酸化方法としてはHAE法、DOW17法、ガルバノ法等が広く知られているが、これらの方法は、重金属であるマンガン、クロム等を含有する電解液を用いるので、重金属を含有する廃水の発生及び製品の有害性を引き起こすという問題点があった。
【0008】
また、従来の陽極酸化処理方法では、特許文献1に開示されたように、強塩基性電解液において100V以上の高電圧を印加して酸化皮膜を形成するか、または、特許文献2に開示されたように、弱塩基性電解液において−200〜400Vの交流電圧をパルス方式で印加して不透過性の酸化皮膜を形成している。
【0009】
しかしながら、上述した従来技術は、白色、褐色等に着色された不透過性膜を生成するので、マグネシウム系金属本来の質感を表現し難い。したがって、マグネシウム合金の表面に透明な陽極酸化膜を形成し、マグネシウム合金の金属質感を実現する技術の必要性が当該技術の分野に存在する。また、マグネシウム合金の表面に良質の陽極酸化膜を形成するに当たって、マグネシウム合金の表面を陽極酸化膜の形成に適した表面に変える作業が要求される。陽極酸化処理方法の前処理用研磨技術として、クロム酸とHF等を含む化学研磨液を用いる化学研磨技術が知られている。しかし、この技術は、化学研磨液の危険性が高くかつ高価であるという重大な問題点が指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】韓国公開特許第10‐2004‐94105号公報
【特許文献2】韓国公開特許第10‐2003‐40824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、環境に優しい電解液を用いながらも、金属質感を実現する良質の透明陽極酸化膜をマグネシウム系金属の表面に形成することができる、マグネシウム系金属の表面処理方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、陽極酸化膜の形成前に、安価で安全な化学研磨を通じて、より良質の陽極酸化膜を実現することができるマグネシウム系金属の表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の一側面によると、硝酸ナトリウムとクエン酸ナトリウムを含む化学研磨液を用いてマグネシウム系金属の表面を化学研磨する光沢研磨ステップと、前記光沢研磨ステップを経たマグネシウム系金属をpH11以上の強塩基性電解液内に浸漬させるステップと、前記強塩基性電解液内で前記マグネシウム系金属に電流密度0.01〜1A/dmの電流を印加することによって、前記マグネシウム系金属の表面に透明な陽極酸化膜を形成する陽極酸化処理ステップと、を含むマグネシウム系金属の表面処理方法が提供される。
【0013】
前記陽極酸化処理ステップにおいて、前記電流の電流密度が0.01〜1A/dmであることが好ましく、電流密度が1A/dmを超過する場合、マグネシウム系金属の表面に不規則な酸化膜が生成し、このような不規則な酸化膜は、金属質感を実現し難くする。また、電流密度が0.01A/dm未満である場合は、透明な陽極酸化膜の形成が難しい。より好ましくは、前記電流密度は、0.2〜0.7A/dmであり、この際、酸化処理ステップは約3分で行われる。また、前記陽極酸化処理ステップにおいて印加される電圧を10V以下に制限することが好ましい。
【0014】
前記光沢研磨ステップにおいて、前記化学研磨液は、硫酸、硝酸、硝酸ナトリウム、及びクエン酸ナトリウムを含むことが好ましい。
【0015】
前記電解液は、水酸化カリウム100〜300重量部と、KF0.5〜50重量部と、NaSiO5〜50重量部と、Al0.1〜0.5重量部とを含むことが好ましく、前記電解液の温度は、20〜70℃に維持されることが好ましい。前記陽極酸化処理ステップ後に得られる酸化膜は、下部構造(下部組織)であるマグネシウム合金の金属質感を実現可能な程度に透明であるが、この酸化膜に染料を浸透させると、マグネシウム系金属の金属質感を有する表面にカラー(着色)を施したように見える。染料は、酢酸コバルト、過マンガン酸カリウム、硫化アンモニウム、硫酸第二鉄、フェロシアン化カリウム、硫酸ニッケル、硫酸銅、硫酸第一スズから選ばれた少なくとも一つであってもよい。マグネシウム系金属は、マグネシウムまたはマグネシウム合金のいずれかであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安価で安全な化学研磨液を用いた化学研磨によって、マグネシウム系金属の表面を陽極酸化処理に適した表面とすることができ、その表面上に重金属を含まない環境に優しい電解液を用いた最適の陽極酸化処理を行うことにより、マグネシウム合金の金属質感を実現する透明な陽極酸化膜を表面に有する高級化したマグネシウム系金属製品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来のマグネシウム系金属の表面処理方法を示すフローチャートである。
【図2】(a)及び(b)は本発明によるマグネシウム系金属の表面処理方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明で用いられるマグネシウム系金属の表面処理装置を示す概略図である。
【図4】化学研磨及び表面調整(またはアルカリ脱脂)を経た後、透明な陽極酸化膜が形成されたマグネシウム系金属の表面を示す光学顕微鏡写真である。
【図5】図4の写真と質感を比較するためのものであり、陽極酸化膜が形成されていないマグネシウム系金属の表面を示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付した図面に基づき、本発明の好適な実施例について詳述する。
【0019】
図1は、マグネシウム合金の一般的な陽極酸化処理方法を説明するための図であり、図2は、本発明の実施例によるマグネシウム系金属の表面処理方法のフローチャートである。
【0020】
図2に示すように、本実施例によるマグネシウム系金属の表面処理方法は、光沢研磨ステップ21、脱脂または表面調整ステップ22、陽極酸化処理ステップ23及び水洗ステップ24を含む。
【0021】
光沢研磨ステップ21は、化学研磨方式を用いる。前記光沢研磨ステップ21と前記脱脂または表面調整ステップ22を経たマグネシウム系金属は、陽極酸化処理用の強アルカリ電解液内に浸漬された後、その電解液内で陽極酸化処理ステップ23が行われる。陽極酸化処理により透明な陽極酸化膜が形成されたマグネシウム系金属製品に対して、水洗ステップ24を含む後処理ステップが行われる。
【0022】
以下、上記したステップのうち、光沢研磨ステップ21と陽極酸化処理ステップ23についてさらに具体的に説明する。
【0023】
(光沢研磨ステップ)
硫酸100g/L、硝酸15g/L、硝酸ナトリウム130g/L、クエン酸ナトリウム150g/Lを含む化学研磨液が調整される。室温で調整された化学研磨液にマグネシウム合金を約5秒〜30秒間浸漬し、マグネシウム合金の表面を化学研磨する。化学研磨液の組成比は、上述したものに限られず、化学研磨液の成分範囲が硫酸50〜500重量部、硝酸10〜100重量部、硝酸ナトリウム100〜300重量部、クエン酸ナトリウム100〜300重量部であるとき、良質の研磨が行われることが判った。
【0024】
化学研磨後、光学顕微鏡で観察すると、マグネシウム合金の金属質感を確認することができ、また、表面に孔が多く発生したことを確認することができる。この孔は、化学研磨の後に続く陽極酸化処理ステップにより形成される透明陽極酸化膜との付着力を高めるのに寄与する。
【0025】
光沢研磨ステップの前に、アルカリ脱脂ステップを行ってもよい。アルカリ脱脂ステップでは、蒸留水に水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムを7:1の比率で投入することで得られた温度が80℃の脱脂液内に、光沢研磨ステップ前のマグネシウム合金を約5分間浸漬する。
【0026】
前記光沢研磨ステップの後に、表面調整ステップを行ってもよい。表面調整ステップでは、クロム酸100g/L、硝酸鉄20g/L及びフッ酸1g/Lを含む表面調整液内に、光沢研磨ステップ後のマグネシウム合金を約15秒間浸漬する。この際、表面調整ステップにおいて攪拌を伴うことがよい。
【0027】
(陽極酸化処理ステップ)
陽極酸化処理ステップは強塩基性電解液内で行われるが、皮膜の特性に影響を及ぼす処理条件としては、電解液の組成、電流密度、温度、作業時間等があり、この中でも、最も重要なものは、電解液の組成及び電流密度である。本実施例において用いられる強塩基性電解液は、pH11以上の強塩基性とするために、全体の水溶液1L当たり、水酸化カリウム50〜300gが必ず含まれる。水酸化カリウムは、重金属ではないので、環境に優しい。より具体的には、前記電解液としては、全体の水溶液1L当たり、水酸化カリウム100〜300gと、KF0.5〜50g/Lと、NaSiO5〜50g/Lと、Al0.1〜0.5g/Lとを含むものが用いられる。
【0028】
このように調整したpH11以上の強塩基性電解液にマグネシウムまたはマグネシウム合金を浸漬させると、10V以下の電圧にて良質の酸化皮膜が形成される。
【0029】
一方、電解液中に着色剤(染料)を加えると、多様な質感効果をもたらす(図2(b)参照)。添加される染料は、所望の色相により異なり、本発明では、酢酸コバルト、過マンガン酸カリウム、硫化アンモニウム、硫酸第二鉄、フェロシアン化カリウム、硫酸ニッケル、硫酸銅、硫酸第一スズ等のうちの一つ以上の染料を加えると、赤、オレンジ、黄、青緑、青、黒等の様々な色の酸化皮膜層が形成される。
【0030】
また、金属質感を実現するためにこのような陽極酸化処理ステップを行うと、別途の塗装処理を行う場合に生じる作業環境の問題点も避けることができる。
【0031】
図3に示すように、電解槽1内に貯留された電解液2に、マグネシウムまたはマグネシウム合金3及び陰極基板4を浸漬させた状態で、マグネシウム合金3に整流電源5の陽極を連結し、陰極基板4に整流電源5の陰極を連結して電圧を印加することにより、透明な陽極酸化皮膜が形成されるようにする。このとき、用いられた電流密度は、0.01〜1A/dmであり、より好ましくは0.2〜0.7A/dmに調整され、電圧は10V以下に制限した。これにより、マグネシウムまたはマグネシウム合金3の表面に均一かつ緻密な膜が形成された。電解液の温度は、20℃〜70℃に維持する。
【0032】
本実施例における表面調整は、マグネシウム系金属の表面を調整する必要に応じて行い、これは、研磨ステップ後の表面調整の目的で行われるが、表面処理に対する要求性能及びこの表面の汚染程度により適切に分けて用いる。
【0033】
図4は、本発明の実施例によって、陽極酸化処理により陽極酸化膜が形成されたマグネシウム合金表面の微細組織を示す写真であり、図5は、表面処理前のマグネシウム合金(元素材)表面の微細組織を示す写真である。
【0034】
図4と図5を比較してみると、図4に示した表面は、陽極酸化膜が形成されたにもかかわらず、陽極酸化膜が形成されていない図5に示したマグネシウム合金表面とほぼ類似した質感を示す。但し、線と線間の幅が狭まるが、これは、透明な陽極酸化膜の形成による光屈折に起因する。
【0035】
以上、本発明が特定の実施例を中心として説明されたが、本発明の趣旨及び添付の特許請求の範囲を逸脱しない範囲内で、様々な変形、変更、または修正が当該技術の分野において可能であり、したがって、上述した説明及び図面は、本発明の技術思想を限定するものではなく、本発明を例示するものと解釈されなければならない。
【符号の説明】
【0036】
21 光沢研磨ステップ
22 表面調整(または脱脂)ステップ
23 陽極酸化処理ステップ
24 水洗ステップ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム系金属の表面を化学研磨する光沢研磨ステップと、
前記光沢研磨ステップを経たマグネシウム系金属をpH11以上の強塩基性電解液内に浸漬させる浸漬ステップと、
前記強塩基性電解液内で前記マグネシウム系金属に電流密度0.01〜1A/dmの電流を印加することによって、前記マグネシウム系金属の表面に透明な陽極酸化膜を形成する陽極酸化処理ステップと、を含むことを特徴とするマグネシウム系金属の表面処理方法。
【請求項2】
前記光沢研磨ステップにおいて、硝酸ナトリウムとクエン酸ナトリウムを含む化学研磨液を用いて前記マグネシウム系金属の表面を化学研磨することを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム系金属の表面処理方法。
【請求項3】
前記陽極酸化処理ステップにおいて、10V以下の電圧を印加することを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム系金属の表面処理方法。
【請求項4】
前記陽極酸化処理ステップにおいて、前記電解液は、水酸化カリウム100〜300重量部と、KF0.5〜50重量部と、NaSiO5〜50重量部と、Al0.1〜0.5重量部とを含み、前記電解液は、20〜70℃の温度に維持されることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム系金属の表面処理方法。
【請求項5】
前記陽極酸化処理ステップにおいて、前記電解液が、酢酸コバルト、過マンガン酸カリウム、硫化アンモニウム、硫酸第二鉄、フェロシアン化カリウム、硫酸ニッケル及び硫酸銅、硫酸第一スズのうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム系金属の表面処理方法。
【請求項6】
前記光沢研磨ステップにおいて、前記化学研磨液は、硫酸、硝酸、硝酸ナトリウム、及びクエン酸ナトリウムを含むことを特徴とする請求項2に記載のマグネシウム系金属の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−256458(P2011−256458A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163225(P2010−163225)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(507395393)エヌユーシー エレクトロニクス カンパニー リミテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】NUC ELECTRONICS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】679 Chimsan3−dong,Buk−gu,Daegu,702−053 Republic of Korea
【Fターム(参考)】