説明

マグネタイト微粒子の制御方法

【課題】マグネタイト微粒子の形成過程において、当該微粒子の結晶構造及びサイズを制御する方法の提供。
【解決手段】2価の鉄イオンを含有する溶液を、アルカリ存在下に酸化して、マグネタイト微粒子を製造する際に、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質若しくはその部分ペプチド、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ金属イオンと相互間力を有するタンパク質を添加することを特徴とするマグネタイト微粒子の形態制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネタイト微粒子の形態を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネタイト(Fe3O4)、マグヘマイト(γ-Fe2O3)等の酸化鉄は古くからテープなどの材料として広く利用されてきたが、近年では、磁気微粒子を用いた生体内における磁気イメージング、細胞分離、バイオセンシング、ハイパーサーミアなどの医療・診断分野(バイオテクノロジー関連分野)での応用技術が開発されており、粒子の磁気的な性質やサイズ・形態などにおけるバラエティー化が求められている。
【0003】
磁気微粒子の磁気的な性質は、粒子のサイズと形態に大きく依存する。マグネタイトは一般的にフェリ磁性体(自発的な磁化を持つ磁石のこと)とされるが、粒径が10nm以下の微小なサイズになると自発磁化を持たない超常磁性体となる。また、100nm以上のマグネタイト粒子では内部に磁区が形成されることにより、粒子全体の持つ磁力(保磁力)は単磁区の磁気微粒子に比べて小さくなる。このような粒子は水溶液中における分散性に優れる一方で、磁力が弱いため磁気的に回収したり、イメージングすることが困難であるという欠点を持つ。一般的に、マグネタイトは数十〜100nmの粒径(サイズ)において単磁区構造を有することが知られており、30nm付近の粒径において最大の保磁力を持つとされている(非特許文献1)。従って、この領域におけるマグネタイト粒子サイズの精密な制御は、その応用において非常に重要である。
【0004】
マグネタイト粒子の合成は、主に乾式法と湿式法に大別される。乾式法は有機物質等の不純物が含まない高純度なマグネタイトが生成可能であるという利点を持つが、一般的に200℃以上の高温処理が必要であり、大量の熱エネルギーが必要なこと、また生成されるマグネタイトの粒径は前駆体の粒径に強く依存し、粒径の制御が困難であることから、一般的に湿式法が広く用いられている。
【0005】
湿式法は、鉄イオン溶液中から作られる水酸化鉄などの前駆体を強アルカリ添加による加水分解反応、又は熱分解による脱水反応を行うことにより行われる。中でも二価の鉄イオンと三価の鉄イオンを適切な割合に混合し、強アルカリを加えることにより室温でマグネタイト合成が可能な共沈法は、その簡便性から広く用いられている。湿式法において作製されるマグネタイトの粒径は、用いる鉄イオン濃度、鉄イオン種、及びその割合、滴定するアルカリ量、及びその濃度、反応温度、溶存酸素濃度、等様々なパラメータによって変化し、均一な粒径のマグネタイト粒子の合成にはこれらパラメータの厳密な制御が必要である。
【0006】
一般的に粒径のそろった単分散金属粒子を作製する条件として、(i)結晶核形成反応と結晶成長反応を分離して行うこと、(ii)結晶成長時に生じる粒子の凝集を抑えること、(iii)結晶成長に必要な金属カチオンなどの前駆体モノマーのリザーバーの存在、が挙げられている。
(i)の条件は溶液中の金属イオン濃度を下げ、結晶核形成後の結晶成長を抑制することにより達成されるが、このような条件下におけるマグネタイト合成は結晶性が低く、超常磁性体の極小粒子が合成される例が多い。(ii)の条件を満たす手段としては、添加物の使用が挙げられる。例えば、SDS(sodium dodecyl sulfate)のような陰イオン性界面活性剤、オレイン酸ナトリウムやオレオイルサルコシン、リン脂質などの脂質分子を用いることで粒子表面をコーティングすることにより、分散性を高め、結晶成長の抑制が行える。また、反応pHをマグネタイトの等電点(7付近)より極端に離すことで、静電的相互作用によりマグネタイト粒子の凝集を抑える効果がある。(iii)を満たす手段として、キレート剤の使用が挙げられ、例えば、EDTA(N,N,N',N'-tetraacetic acid)やNTA(nitrilotriacetic acid)、クエン酸は多量のカチオンをキレートすることで溶液中のカチオンの過飽和度を著しく減少させ、これにより、結晶核形成が制限され、さらに前駆体となる金属イオンは錯体よりゆっくり供給されることで、結晶成長時の粒子の凝集を抑制することできる。
【0007】
近年、これら3つの条件を満たす金属粒子の合成法として、"ゲルーゾル法"が開発され、ゲルとして水酸化第二鉄を用い、90℃、無酸素条件で第一鉄イオンと反応させることによって均一な粒径のマグネタイト粒子が合成できることが報告されている(特許文献1)。また、当該ゲルーゾル法に類似した方法により、ナノメートルレベルで均一なマグネタイト粒子が合成できることも報告されている(非特許文献2)。
【0008】
このように、湿式法においては、各種パラメータの厳密な制御により、粒径分布の狭いマグネタイト微粒子の製造が可能となっている。
しかしながら、マグネタイト微粒子の結晶構造を制御すような方法はこれまでに知られていない。
【0009】
【特許文献1】特開平6−340426号公報
【非特許文献1】Journal of Magnetism and Magnetic Materials, 268, 33-39, 2004
【非特許文献2】Nature Materials, 3, 891-895, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、マグネタイト微粒子の形成過程において、当該微粒子の結晶構造及びサイズを制御する方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、湿式法によってマグネタイト微粒子を製造する場合の形態制御に関して検討したところ、2価の鉄イオンを含有する溶液を酸化してマグネタイト微粒子を製造する際に、特定の磁性細菌由来の磁気微粒子膜特異的タンパク質又はその部分ペプチドを共存させると、当該タンパク質が粒子結晶面を特異的に認識して特定の面形成を行い、結晶構造及びサイズを制御できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は以下の1)〜4)に係るものである。
1)2価の鉄イオンを含有する溶液を、アルカリ存在下に酸化して、マグネタイト微粒子を製造する際に、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質若しくはその部分ペプチド、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ金属イオンと相互間力を有するタンパク質を添加することを特徴とするマグネタイト微粒子の形態制御方法。
2)8面体粒子を14面体粒子に構造制御するものである前記1)記載の制御方法。
3)平均粒径を20〜40nmに制御するものである前記1)又は2)記載の制御方法。
4)2価の鉄イオンを含有する溶液を、アルカリ存在下に酸化して、マグネタイト微粒子を製造する方法であって、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質若しくはその部分ペプチド、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ金属イオンと相互間力を有するタンパク質を添加することを特徴とする14面体マグネタイト微粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、有機溶媒や界面活性剤を使用せず、且つ比較的温和な条件で、マグネタイト微粒子の結晶構造とサイズの制御を行うことができる。そして、本発明の方法によれば、14面体粒子を均一に製造することができることから、磁気イメージング、細胞分離、バイオセンシング、ハイパーサーミアなどに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の形態制御方法は、2価の鉄イオンを含有する溶液を、アルカリ存在下に酸化して、マグネタイト微粒子を製造する際においてなされるものであり、斯かるマグネタイト微粒子の製造法は、いわゆる部分酸化法(例えば、American Mineralogist, 83, 1387-1398, 1998)として知られているものである。
【0015】
本発明において、2価の鉄イオンを生じさせる化合物としては、例えば、ハロゲン化第一鉄(例えば、塩化第一鉄)、硫酸第一鉄、硝酸第一鉄、臭化鉄、よう化鉄等が挙げられ、このうち、硫酸第一鉄が好ましい。
【0016】
2価の鉄イオンを含有する溶液としては、水溶液や、アルコール、アセトン、ヘキサン、エーテル等の有機溶媒溶液、あるいはこれらの混合溶液が挙げられ、好ましくは水溶液である。
【0017】
2価の鉄イオンを含有する溶液中の鉄イオン濃度は、特に限定されないが、1M〜1μMの濃度が好ましく、より好ましくは10μM〜100mMである。
【0018】
本発明において用いられるアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が挙げられる。アルカリは、2価の鉄イオンに対して当量以上が必要である。
【0019】
2価の鉄イオンを含有する溶液を酸化する方法としては、例えば、1)空気や酸素、オゾンなどの酸素を含む気体を2価の鉄イオンを含有する溶液に通気又はバブリングさせる方法、2)2価の鉄イオンを含有する溶液を空気中で流出させて空気と接触させる方法、3)過酸化水素、硝酸、塩酸、硫酸、酢酸、ギ酸、乳酸、ピルビン酸等の液体状酸化剤を2価の鉄イオンを含有する溶液に添加する方法、4)二酸化マンガン、酸化銀等の固体状酸化剤を2価の鉄イオンを含有する溶液に添加する方法等が挙げられる。
このうち、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム等の硝酸塩水溶液を2価の鉄イオンを含有する溶液に添加するのが好ましく、この際に窒素ガスによって溶液をバブリングすることがより好ましい。
【0020】
本発明おいては、上記マグネタイト微粒子の製造反応系において、特定のタンパク質又はその部分ペプチドの添加が為されるものである。
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、磁性細菌であるMagnetospirillum sp.AMB-1(FERM BP-5458)株によって生産される磁気微粒子の表面膜特異的タンパク質であり、本発明者らによって見出され、Mms6と命名されたものである(特開2004−261169号公報)。当該Mms6タンパク質は、翻訳後修飾を受け、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質となり、磁性細菌の合成する磁気微粒子表面において、金属イオンとの相互間力を示すといった機能を発現すると考えられている。
当該タンパク質の部分ペプチドとしては、Mms6の金属イオン結合領域を含むペプチド断片が挙げられ、具体的には、配列番号2において39〜56番のアミノ酸配列からなるペプチド(KSRDIESAQSDEEVELRD)、好ましくは42〜53番のアミノ酸配列からなるペプチド(DIESAQSDEEVE)が挙げられる。
また、配列番号2に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列とは、配列番号2のアミノ酸配列と等価のアミノ酸配列を意味し、1若しくは数個、好ましくは1〜10個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列であって、依然として金属イオンとの相互間力を保持する配列をいい、付加には、両末端への1〜数個のアミノ酸の付加が含まれる。
なお、当該等価のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、自然界から取得すること以外にも部位特異的突然変異誘発法等の公知の手法を利用して調製することができる。例えば、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット等を用いて変異を導入し調製することができる。
【0021】
本発明のタンパク質は、その遺伝子を例えばMagnetospirillum sp.AMB-1(FERM BP-5458)株から、ショットガン法、PCR法を用いクローニングし、適当なベクターを用いて大腸菌、酵母、昆虫等の宿主を形質転換し、得られた形質転換体を培養し、当該培養液から採取することにより大量に生産することができる。
また、斯かるタンパク質の部分ペプチドは、公知の手段、例えば遺伝子工学的手法又はペプチド合成において通常用いられている方法、例えば固相合成法又は液相合成法を用いて製造することができる。
【0022】
上記タンパク質又はその部分ペプチドの添加は、前記反応系の何れかの段階で為されればよいが、例えば、アルカリ溶液中に溶解すること等により行えばよい。
尚、本発明のタンパク質又はその部分ペプチドは、水溶液中において、単量体のみならず、複数が会合して多量体を形成していてもよい。多量体の形成においては、上記タンパク質のN末端側から中間部分に存在する疎水性領域の関与が考えられている。
【0023】
反応温度は、60〜120℃が好ましく、80〜100℃がさらに好ましい。すなわち、本発明の形態制御は、前述のナノマグネタイト合成法(非特許文献2)のように、数百度以上に加熱する必要は無い。
【0024】
斯くして本発明のタンパク質を添加して得られるマグネタイト微粒子は、その平均粒径が20.2±4.0nmであり、当該タンパク質非存在下に製造された微粒子(平均粒径35.0±7.5nm)に対して粒径又は粒径分布が減少する(図1)。また、当該マグネタイト微粒子の結晶構造はcubo-octahedral型(14面体)であり(図2、図3)、本発明のタンパク質又はその部分ペプチド非存在下で合成される粒子構造(8面体)から変化している(図2)。そして、本発明のタンパク質又はその部分ペプチドは、磁気微粒子表面に強固に結合していることが示唆されたことから、マグネタイト微粒子の形成過程において本発明のタンパク質が粒子表面に吸着することで、磁気微粒子形態・サイズの制御を行っていると考えられる。
すなわち、本発明によれば、マグネタイト微粒子の平均粒径を20nm以下の超常磁性から、単磁区を形成する20〜40nmに制御することができ、保磁力の増大を図ることができる。また、マグネタイト微粒子の結晶構造を14面体へ制御することができ、これにより、磁気イメージング、細胞分離、バイオセンシング、ハイパーサーミアなどの医療・診断分野(バイオテクノロジー関連分野)への応用が可能となる。
【実施例】
【0025】
実施例1 Mms6タンパク質の調製
mms6遺伝子(配列番号1)はAMB-1ゲノムからPCRによって増幅し(特開2004-261169号公報参照)、GST (Glutathione S-transferase)遺伝子を有するベクターpGEX-4T-1にクローニングし、大腸菌BL21株に形質転換した。形質転換体は50 μg/ml ampicilin、25 μg/ml chroramfenicolを含む5 mlのLB培地にてオーバーナイト、振揺培養し、プレカルチャーとした。続いて同様の50 μg/ml ampicilin、25 μg/ml chroramfenicolを含む200 mlの LB培地中にプレカルチャー5 ml を添加し、本培養を行った。培養液のODが0.4−0.6に達した時点において、IPTG(終濃度: 1 mM)を添加し、ODが1.0を超えるまで続けて培養を行った。菌体は遠心回収後、STEバッファー(10 mM Tris、150 mM NaCl、1 mM EDTA、pH 8.0)5 mlに懸濁し、-80℃にて保存した。
【0026】
凍結した菌体液は解凍後、氷上でリゾチーム処理(100 μg/ml、15 min)を行い、5 mMDTT、及び0.75 % N-laurylsarcosine (Sarkosyl)存在下で超音波処理による破砕を行った。破砕液を遠心後、得られた上清をシリンジフィルター(pore size: 0.20 μm)により濾過した。得られたタンパク質溶液にTriton X-100 (終濃度: 1.5%)、及びglutathioneagarose (GA) ビーズ (GE Healthcare Biosciences, Piscataway, NJ)を加え、4 oCで1時間、振揺させながら反応を行った。反応後、GAビーズを遠心回収し、PBSを用いて洗浄を行った。洗浄後のビーズをPBSに際懸濁しThrombin (GE Healthcare Biosciences, Piscataway, NJ) 消化を行った(室温、16時間以上)。ビーズを遠心回収し、denature buffer (6 M guanidine HCl (GnHCl), 50 mM Tris, pH 10)中に懸濁することによりビーズ上に吸着したタンパク質の溶出を行った。ビーズ懸濁液を遠心し、得られた上清をスピンカラム(Centricon YM-3, Milipore Corporation, Bedford, MA)により濃縮し、ゲル濾過クロマトグラフィーにより分画した。ゲル濾過クロマトグラフィーにはsuperdex 75 10/300GL column (GE Healthcare Biosciences, Piscataway, NJ)、及び fast protein liquidchromatography (FPLC) system (AKTAexplorer 10S, GE Healthcare Biosciences Biosciences, Piscataway, NJ)を用い、溶出バッファーとして前述のdenature bufferを用いることでMms6を含む画分を得た。得られた画分はMicrocon YM-3 (Milipore Corporation, Bedford, MA)を用いて濃縮し、等量のrefolding buffer (50 mM Tris, 1 mM ETA, 0.1 M L-arginine and 10 % (V/V) glycerol, pH 8.0)を加え、透析を行った。透析はbuffer A (50 mM Tris, 1 mM EDTA, 1 M guanidine hydrochloride, 10% glycerol, pH 8.0)、buffer B (50 M Tris, 1 mM EDTA, 10% glycerol, pH 8.0) 、buffer C (10 mM Tris and 10% glycerol, pH 8.0)に対しそれぞれ順番に行い、最後に0.1% NH4OH溶液に対し2回行った。透析は全て4oCにおいて6時間以上行った。得られたサンプル、及び各精製ステップにおいて得られたサンプルはTricine-SDS-PAGEにより分析した。ゲルの染色にはCoomassie brilliant blue G-250 (Bio-rad, Hercules, CA)を用いた。
【0027】
実施例2 磁気微粒子の合成
磁気微粒子合成には、partial oxidation法を用いた(American Mineralogist, 83, 1387-1398, 1998)。遠心チューブ中において、窒素ガスをバブリングしながら終濃度5.6 μg/ml となるようにMms6を0.5 M KOHと2 M KNO3 との混合液200 μlを加え、終濃度30 mMとなるようにFeSO4・7H2O 溶液800 μl を加えた。溶液は5分間静置後、遠心チューブを90℃の高温槽に移し、窒素ガスによるバブリングを行いながら、さらに5分間静置した。遠心チューブのふたを閉め、90℃で4時間反応を行った。この間、30分毎にチューブを振り、生成物を分散させた。2つの方法により得られた生成物はネオジウムボロン磁石により磁気回収し、PBSで2回洗浄後、超純水で1回洗浄し、最終的に超純水中に分散させた。全ての実験に用いた超純水は、窒素ガスにより2時間以上バブリングを行うことで脱酸素処理を行った後、使用した。
【0028】
実施例3 磁気微粒子形態の解析
合成された磁気微粒子の観察には、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた。低倍率での観察にはTEM、H-700 (Hitachi, Japan)を用い、加速電圧150 kVで行い、制限視野電子線回折はカメラ長51 cmで行った。TEM像より合成された磁気微粒子の粒度分布を測定した。粒径は粒子のTEM像を楕円に近似し、それらの長径と短径の平均値とし、180粒子以上計測した。高倍率での観察には、field emission TEM (FE-TEM)、HF2000 (Hitachi, Japan)を用いた。観察は200 kVで行い、制限視野電子線回折はカメラ長82 cmで行った。制限視野電子線回折測定後、結晶の[110]方向から観察を行い、結晶形を決定した。
【0029】
<結果と考察>
図1に合成された磁気微粒子のTEM像、及び粒径分布を示す。Mms6非存在下において合成された磁気微粒子の形態は四角形であるのに対し、Mms6存在下においてはより角の取れた形態をとった。また、Mms6非存在下において、磁気微粒子の平均粒径は35.0±7.5 nmであったのに対し、Mms6存在下においては20.2±4.0 nmであり、粒径、及び粒径分布の減少が確認された。Mms6存在下において粒子の形態が変化したこと、また結晶の粒径が減少したことより、Mms6が磁気微粒子表面に吸着することで磁気微粒子の形態制御を行い、同時に結晶成長を阻害していることが考えられた。また、電子線回折よりこれら合成された磁気微粒子はマグネタイト(Fe3O4)であることが示された。磁気微粒子形態のさらに詳しい解析のために、HRTEMによる観察、及び分析を行った(図2)。磁気微粒子には格子縞が確認され、合成された磁気微粒子単結晶であることが確認された。Mms6存在下において合成された磁気微粒子は六角形であり、[111]面と[100]面を有した。二つの[111]面の角度は110°であり、[111]面と[100]面がなす角度は125°であることから、立体構造としてcubo-octahedral型(14面体)であることが示された(図2)。この構造は磁性細菌が合成するマグネタイト結晶と同様の構造である。一方で、Mms6非存在下において合成された磁気微粒子は四角形であり、[111]面のみを有した。[111]面間の角度は110°、もしくは70°であり、立体構造としては8面体であることが示された。Mms6存在下において合成された粒子にのみ[100]面が確認されたことより、Mms6がマグネタイトの結晶面を認識して吸着することで、結晶形態を制御していることが考えられた。
【0030】
実施例4 タンパク質の局在性の検討
Mms6存在下において作製された磁気微粒子と結合したMms6の定量を行った。磁気微粒子を磁気的に分離し、上清を分取し、フラクションS1とした。分離された磁気微粒子は脱酸素したPBSを用いて2回、続いて脱酸素した超純水を用いて1回洗浄した。磁気微粒子を遠心回収後(10000g, 10 min)、1% SDS溶液100 μl中に懸濁し、10 分間煮沸処理を行った。粒子を遠心回収後、上清を分取し、フラクションS2とした。残った磁気微粒子を上記と同様にPBSと超純水を用いて洗浄後、粒子を0.1 M oxalic acid 、0.175 M ammonium oxalate溶液1 mlに懸濁し、30分間ロータリーシェーカーを用いて攪拌させることにより、磁気微粒子を溶解させた。この溶解液をフラクションS3とした。得られたフラクションS1とS3をそれぞれ蒸留水に対して透析を行い、遠心エバポレーターを用いて50 μlに濃縮した。濃縮したS1、S3に2% SDSを等量加えて、SDS濃度を1%にした。フラクションS1、S2、S3に含まれるタンパク質をBCA assay kitを用いて定量した。1% SDS溶液を用いて各濃度に希釈したBSAを標準サンプルとして、検量線の作製を行った。BCA assayのブランク(バックグラウンド)として、Mms6非存在下において磁気微粒子を合成し、同様の抽出操作を行うことにより得られた各フラクションを用いた。
【0031】
<結果と考察>
Mms6存在下(240 μg)において磁気微粒子を合成後の上清S1、磁気微粒子表面を界面活性剤処理し、得られた画分S2、磁気微粒子を0.1 M oxalic acid、0.175 M ammonium oxalate処理により溶解し得られた画分S3について、タンパク質定量を行った結果、S1画分からはタンパク質は検出されず、S2、S3からはそれぞれ33.8 μg、15.1 μg検出された。検出されたタンパク質は電気泳動によりMms6であることが確認された。検出されたタンパク質のうち、約70%がS2画分に含まれていたことから、Mms6が磁気微粒子表面に強固に結合していることが示唆された。この結果から、磁気微粒子の形成過程においてMms6が粒子表面に吸着することで、磁気微粒子形態・サイズの制御を行っていることが考えられた。
【0032】
実施例5 Mms6タンパク質の部分配列を持つ合成ペプチドを用いた磁気微粒子の合成と形態解析
(1)配列番号2において42〜53番のアミノ酸配列からなるペプチドM6A(DIESAQSDEEVE)及び配列番号2において9〜18番及び42〜53番のアミノ酸配列からなるペプチドGLM6A(GLGLGLGLGLDIESAQSDEEVE)を、固相ペプチド合成法に基づいて調製した。
(2)磁気微粒子合成には、partial oxidation法を用いた(American Mineralogist, 83, 1387-1398, 1998)。遠心チューブ中において、窒素ガスをバブリングしながら終濃度60 μg/mlとなるようにM6AペプチドもしくはGLM6Aペプチドを0.5 M KOHと2 M KNO3 との混合液200 μlを加え、終濃度30 mMとなるようにFeSO4・7H2O 溶液800 μl を加えた。溶液は5分間静置後、遠心チューブを90℃の高温槽に移し、窒素ガスによるバブリングを行いながら、さらに5分間静置した。遠心チューブのふたを閉め、90℃で4時間反応を行った。定期的にチューブを振とうし、生成物を分散させた。2つの方法により得られた生成物はネオジウムボロン磁石により磁気回収し、PBSで2回洗浄後、超純水で1回洗浄し、最終的に超純水中に分散させた。全ての実験に用いた超純水は、アルゴンガスにより2時間以上バブリングを行うことで脱酸素処理を行った後、使用した。
合成された磁気微粒子の観察には、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた。低倍率での観察にはTEM、H-700 (Hitachi, Japan)、もしくは1200EX (JEOL, Japan)、もしくはJED 2110 (JEOL, Japan)を用い、加速電圧100 - 150 kVで行った。TEM像より、無作為に選択した100粒子以上の円形度係数を測定した。円形度係数を指標とした粒子形態の解析については、Adobe Photoshop (Adobe Systems Inc., USA)、及び粒子解析ソフトウェアMac-View (Mountech Co., Ltd., Japan)を用いて解析した。
【0033】
<結果と考察>
M6Aペプチド、及びGLM6Aペプチドを用いて磁気微粒子を合成した結果、Mms6存在下において合成された磁気微粒子と同様に角の取れた形態(球形)を示し(図3)、立体構造として[111]面と[100]面を有するcubo-octahedral型(14面体)であることが考えられた。次に、得られた粒子形態の統計的な評価の指標として、TEM像から円形係数を求めた。モデル図から、cubo-octahedral型の球形粒子の円形度係数はおよそ0.85であり、直方体粒子の円形度係数は0.79となることが概算される。解析の結果、球形の粒子が観察されたMms6タンパク質、M6Aペプチド、GLM6Aペプチドを用いて合成した磁気微粒子の円形度係数は、0.825 - 0.875に多くの粒子が分布することが示された(図4)。一方で、直方体の形態を持つ粒子が観察されたタンパク質非存在下で合成された粒子では、ブロードな分布を示し、0.775 - 0.825に最も多くの粒子の分布が認められた。以上の結果から、Mms6タンパク質、及びその部分配列を持つペプチドを用いて合成した粒子の形態は球形に近い形態を持ち、タンパク質及びペプチドの非存在下で合成した粒子の形態と明らかに異なることが、統計的にも示された。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】合成されたマグネタイト微粒子のTEM像と粒度分布。(a)タンパク質存在下(5μg/ml)、(b) タンパク質非存在下で合成したマグネタイト微粒子
【図2】合成されたマグネタイト微粒子のHRTEM像(a-c)タンパク質存在下(5 μg/ml)、(d-f) タンパク質非存在下で合成したマグネタイト微粒子
【図3】合成されたマグネタイト微粒子のTEM像。 (a)M6Aペプチド存在下、(b) GLM6Aペプチド存在下で合成したマグネタイト微粒子。右肩はそれぞれの粒子の拡大写真。合成に使用したペプチド濃度は、60 μg/mlとした。
【図4】合成されたマグネタイト微粒子の円形度係数分布。 (a) Mms6タンパク質存在下、(b) M6Aペプチド存在下、(c) GLM6Aペプチド存在下、(d) タンパク質及びペプチド非存在下で合成したマグネタイト微粒子。合成に使用したタンパク質及びペプチドの濃度は、60 μg/mlとした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2価の鉄イオンを含有する溶液を、アルカリ存在下に酸化して、マグネタイト微粒子を製造する際に、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質若しくはその部分ペプチド、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ金属イオンと相互間力を有するタンパク質を添加することを特徴とするマグネタイト微粒子の形態制御方法。
【請求項2】
8面体粒子を14面体粒子に構造制御するものである請求項1記載の制御方法。
【請求項3】
平均粒径を20〜40nmに制御するものである請求項1又は2記載の制御方法。
【請求項4】
2価の鉄イオンを含有する溶液を、アルカリ存在下に酸化して、マグネタイト微粒子を製造する方法であって、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質若しくはその部分ペプチド、又は配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ金属イオンと相互間力を有するタンパク質を添加することを特徴とする14面体マグネタイト微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−266128(P2008−266128A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75495(P2008−75495)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】